(SS注意)恋の媚薬

  • 1二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 13:01:22

    「バレンタインディナー、楽しかったですね♪」
    「うん、バレンタインといえばチョコって印象だったけど、これは認識を改めないと」

     2月14日、トレーナー寮の自室。
     テーブルの上に広がるたくさんの空き皿を、俺はソファーに座りながら眺めていた。
     心地良い満腹感に浸りながら、隣に座る彼女を見やる。
     青毛の前下がりボブ、透明感のある薄紫の瞳、白毛の編み込みカチューシャ。
     担当ウマ娘のシーザリオは満足気な微笑みを浮かべながら、耳をぴょこぴょこと動かしている。

     この日────俺達はバレンタインディナーを楽しんでいた。
     
     お互いの感謝の気持ちを込めて、一緒に色んな料理を作り、一緒に食事を摂る。
     食事はともかく、一緒に料理をすることはあまりなかったので、なかなか新鮮な体験であった。
     また、彼女が特別に用意してくれていたゼリーも、絶品の一言。
     今年のバレンタインは人生で最高のバレンタインだったかもしれない、そう思った矢先。

    「でもトレーナー、やっぱりチョコは欲しくありませんか?」

     ふと、シーザリオがじっと上目遣いで見つめながら、そう問いかけて来た。
     確かに彼女の言う通り、今日はバレンタインだというのにチョコを食べていない。
     けれど、それ以上に素晴らしいものを頂いているのだから、別に構わないのだけれども。

    「……欲しく、ありませんか?」

     念押しをするように、シーザリオは再び質問を口にした。
     どうやら、欲しくないと答えてはいけない場面のようである。
     俺は心の中で苦笑いをしながら、彼女の望むまま、道化師を演じてみることにした。

  • 2二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 13:01:37

    「確かに、欲しいかもしれないね」
    「……ふふ、そう言うと思いまして、実は少しだけチョコを用意していたんです」

     シーザリオは悪戯っぽい笑みを見せると、どこからともなく小さな箱を取り出した。
     俺でもロゴを見たことがあるような、有名メーカーのアソートチョコレート。
     この時期になると良く目にする商品ではあるが、彼女から貰えるとなると特別なものに見えてくる。
     年甲斐もなくワクワクとしていると────彼女はおもむろに、その封を開けてしまった。

    「えっ」
    「私も食べたくなってしまったので、一緒に食べましょう?」
    「……あっ、ああ、そうだね、うん、そうだよね」

     ……どうも、先走ってしまったようである。
     バレンタインの贈り物はすでに貰っているわけだし、一緒に食べる方向になってもおかしくはない。
     頬の熱さを誤魔化すように指で掻きながら、シーザリオの手の中にあるチョコを見た。
     それぞれ違う種類のチョコレートが6個、箱の中で綺麗に鎮座している。
     彼女はその中から一番を選ぶように人差し指を動かして、突然、ぴたりと停止した。

    「トレーナー、ご存知でしょうか?」

     シーザリオの優しい目つきが、鋭いものへと変わった。
     声色が低く凛々しいものになり、彼女の周りの空気がピンと張り詰めていく。
     まるで朝から夜へと移り行くような在り方に、思わず見惚れてしまいそうになりながら、何とか声を出す。

  • 3二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 13:01:52

    「……何を、かな?」
    「古来より、チョコレートは『媚薬』として信仰されていたそうですよ」
    「それは聞いたことがあるな、実際には迷信だったらしいけど」
    「ただ近年の研究において、心拍数を上昇させ、脳の動きを活性化する効果があることを示したらしく」

     そう言いながら、シーザリオは一つのチョコを摘まみ上げた。
     ある種の定番ともいえる、小さなハート型の可愛らしいチョコ。
     そして、彼女はどこか妖艶な笑みを浮かべながら、言葉を続ける。
     
    「チョコを摂取する時の心拍数はキスの2倍、脳の活性化は4倍以上持続するとか」
    「へえ……えっ?」
    「それでは、チョコを摂取しながらキスをすれば、どういう結果になるでしょうか」

     実験、してみませんか?
     シーザリオは摘まんだチョコを小さな口元に加えると、正面から向き直った。
     そして尻尾をぱたぱたと動かしながら、そっと俺の両肩へと手を置き、ゆっくりと迫って来る。
     真っ直ぐに向けられた双眸は挑戦的で、その瞳は期待に満ち溢れていた。

     口角が吊り上がり、微かに歪んでいる彼女の唇が────どうしてこんなに美しく見えるのだろう。

     女神様の唇も、彼女ほどにはすべらかで、赤みがかかっていない。
     俺は完全に目を奪われてしまい、避けることも、拒むことも、完全に忘れ去ってしまった。
     むしろ、自ら吸い込まれてしまうような心地。
     もうこうなっては仕方がない、とりわけ、己自身には正直であれ、だ。

  • 4二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 13:02:10

    「……おいで、シーザリオ」

     そう告げながら、俺は両手を軽く開いて、彼女を迎え入れる。
     シーザリオは少しだけ目を細めると、待っていたと言わんばかりにしなだれかかってきた。
     マシュマロのような柔らかな感触が押し付けられて、じんわりとした温もりが伝わってくる。
     眼前には凛とした紫の瞳と、黒い小さなチョコと、柔らかそうな真っ赤な唇と
     そして一瞬だけ間を置いてから、彼女の唇が近づき、重なった。

    「ちゅ……ん……っ」

     瑞々しくも柔らかく、そして、とても熱くて甘い。
     チョコの味が分からなくなるほどの濃厚な味わいに、脳が弾けるように刺激される。
     鼻先をくすぐるはカカオの香りと、シーザリオの爽やかで芳しい乙女の匂い。
     お互いの呼吸が乱れて来た頃、彼女の小さい舌がチロチロとたどたどしく動き始めた。

    「ふっ……んちゅ………あむ……ちゅう…………」

     軽く唇を舐めてみたり、少しだけ入り込んできては、すぐに引っ込んでしまったり。
     リードするように強気でキスをしてきた割には、その動きはどこか拙く初々しい。
     そんなシーザリオの姿が妙に可愛らしく感じられる────意地悪を、したくなってしまうくらいには。

    「ふあ……っ!?」

     俺は唐突に、シーザリオの舌先をチョコごと強引に絡めとった。
     彼女の目が大きく見開き、全身がぴくんと跳ね上がり、動きの全てが硬直する。
     その隙に、彼女の咥内へと舌を侵入させて、チョコを転がしながら彼女を味わっていく。
     唇を、舌の裏側を、歯茎を、丁寧に丹念に優しくゆっくりと、唾液を混ぜ合わせながら、蹂躙していく。

  • 5二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 13:02:25

    「ん、んん……っ!」

     シーザリオは嬌声を上げながら、悩ましげに身体をくねらせていった。
     その手は俺の服をきゅっと掴み、耳はぴくぴくと震えて、眉尻は徐々に下がっていく。
     責めるようにもたれていた肢体は、いつの間にか、俺を受け入れるように仰け反っていた。

    「……れろ……あむ……ちゅう…………れる……ん……ちゅ……っ」

     やがて、シーザリオは自ら舌を絡ませ始める。
     唾液と呼吸と熱が絡み合って、チョコはどんどんとその形を失っていった。。
     零れそうになるのがもったいなくて、掬い取るように、舌をお互いの口元へと這わせていく。
     口の中からチョコがなくなっても、その残り香を追い求めるように、お互いの唇や舌を貪り続けた。
     ぴちゃぴちゃと、淫靡な粘着音と荒い呼吸だけが、部屋へと響いていく。

     そして、チョコの香りすら融けてしまった後には────すっかり蕩けた顔の、シーザリオがいた。

     真っ赤な頬、熱っぽく潤んだ瞳、てらてらと輝いている唇。
     彼女は熱い息を吐きながら、少し困ったように、じっとりとした目つきで俺を見つめる。

    「……トレーナーは、まるで悪魔のように好き放題するんですね?」
    「……それはキミもそうだったでしょ」
    「ふふっ、そうだったでしょうか? ああ、そういえば、実験はどうでしたか?」

     シーザリオは誤魔化すようにくすりと笑みを浮かべると、そっと俺の胸元へと顔を埋めた。
     そして、彼女の耳がぺたんと心臓の辺りにくっつく。
     胸の中では、どくんどくんと、破裂してしまいそうな音が鳴り響いていた。
     彼女は嬉しそうに尻尾を揺らめかせると、両腕を俺の背中へと回し、抱き締めるように身体を押し付ける。
     汗でしっとりとした感触、蠱惑的な柔らかな、薫り高い匂い、燃えるような体温、そして激しい鼓動。

  • 6二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 13:02:40

    「えへへ、私も、すごいことになっています」
    「そう、だね」
    「頭がふわふわして、身体はぽかぽかして、心はどきどきして、とっても幸せで」
    「うん、俺も」
    「……絶対に、また来年も、その先も、バレンタインディナー、やりましょうね?」
    「……ああ」

     血が燃え立つ時は、心もデタラメに、様々な誓いを口で言わせるもの。
     だとしても、その心に嘘偽りがないとすれば、何ら問題はない。
     そもそも俺はとっくの昔に、彼女との未来を、誓っているのだから。

    「────ところで♪」

     突然、シーザリオは弾むような声を響かせて、テーブルの上をちらりと見た。
     そこには、彼女が持っていたチョコレートの箱が置かれている。
     中には小さなチョコレートが、残り五つ。
     彼女は視線をこちらに戻すと、全ての判断を俺へと委ねるように、妖艶な微笑みを浮かべるのであった。

  • 7二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 13:03:34

    お わ り
    バレンタイン 二日目──

  • 8二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 13:03:55

    えっち!(小並感)

  • 9二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 13:10:58

    ねぇ、これ流石にR18した方が良いって!
    叡智すぎるって!
    やばいよやばいよ

  • 10二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 14:25:46

    ふぅ

    ありがとう

  • 11二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 00:14:52

    すげえ…
    ありがとう

  • 12二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 00:17:47

    おわりの人か…

    やっと会えたな。乙
    俺のキス描写よりねっとりしたものを書きやがる…めちゃくちゃ尊敬(しっと)するぜ…!!!

  • 13二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 00:36:34

    おいおいおいおいこれは警察の出番ですよしかもこれ絶対もう5ラウンドする気でしょう?

    それにしてもすげぇ詳細なキス描写…なんか具体性のない描写で済ませる(というか一身上の都合()で済ませざるを得ない)からこれはちょっとヤベェですよチョコ食ってないのに心拍も脳もどえりゃーことになってますよ

  • 14二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 00:37:11

    すげーなぶっ込んできやがった

  • 15二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 00:39:13

    ねっとりしたキス描写って下手すりゃ直接的な性描写よりえっちだよな

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