お兄ちゃん♡今度どこかでお食事しない？

「ふんふふーん♪きょーおーはーばーれんたいーん♪」
まるでレースの前のような、高揚した気分で廊下を歩く。すれ違うウマ娘たちも自分と同じようどこか浮ついた雰囲気を隠しきれないようだ。
年に一度、恋する乙女にとっては一世一代の大勝負、チョコレートに想いを込めて贈り物をする日だ。
少し前、それとなくお兄ちゃんに戦歴を尋ねたところ「チョコが安売りされる前日だろ？」と一周回って哀れになる返答を思い出し、くすりと笑みをこぼす。
さて、生まれて初めての勝ち鞍を受け取ったらお兄ちゃんはどんな顔をするだろうか？
そんなことを考えながらドアノブを捻り、トレーナー室の扉を開ける。
「お兄ちゃん！あなたのカレンが来ちゃいました〜！」
ふわりと、鼻腔をくすぐる匂いがした。甘く、どこか香ばしいそれを感じると同時に、部屋の主人は奇妙な反応をした。
「カ、カレン！？急にどうしたんだ！？」
明らかに挙動不審な様子でこちらを見つめてくるお兄ちゃん。ただ部屋に入っただけで何をそんなに慌てているのだろうか？
ふと、机の上を見ると皿の上に食べかけのチョコケーキを見つけた。
不恰好な形をしているところを見ると手作りなのだろう。だが、それよりも強く目に入るのはその隣にある箱だった。
かつて包装紙とリボンに包まれていたであろう残骸を眺めていると、お兄ちゃんはなお慌てているようだった。
「い、いや、これは…その…」
特に何を問われているわけでもなく弁解をしようとする姿から、カレンチャンは即座にとある答えに行き着いた。

>>86

84二次元好きの匿名さん22/03/22(火) 11:57:51

「…そっか、お兄ちゃん。チョコレート貰えたんだね。…ふーん」
随分と冷淡な声がでるものだ。どこか冷めた思考をしている自分がいることに気がついた。
「ち、違うんだ。これはそういうアレじゃ…」
「普段から女の子と縁がないって言ってるけど、お兄ちゃんは自分が思ってるほど魅力がないわけじゃないもんね」
どうにも女性慣れしていないがそんな初心なところがカワイイし、普段からジャージ姿と寝癖の付いた野暮ったい髪型をしているが、整えたら容姿端麗と言ってもいいほどだ。
「だからおかしいことじゃないよ。そんな本命のチョコレートを貰っても、カレンは納得できちゃうな」
努めて冷静になろうとしていたが内心ではさまざまな激情が流れていた。
「それ、手作りでしょ。そんな手間のかかるものを普通の女友達が渡すわけないよ」
今まで一度も貰ったことがないチョコレートを贈ったらきっと喜んでくれる。そう思って用意したのがバカみたいに思えた。
「カレン、知らなかったよ。そんないい人がいるなら先に教えて欲しかったな」
視界がほんの少し滲む。少しだけ顔を背ける。胸に強い痛みが走る。お兄ちゃんはなお何かを呟いているがカレンチャンには何も聞こえない。
「チョコレート、お兄ちゃんのために持ってきたけど、そんな人がいるなら邪魔になっちゃうね」
ダメだ。これ以上ここにいるとカレンはカワイくなくなってしまう…急いで立ち去ろうと背を向けた時、とても大きな声が響いた。

>>86

85二次元好きの匿名さん22/03/22(火) 11:58:40

「カレン！！聞いてくれ！！！」
「は、ひゃい！？」
反射的に振り返る。その声と真剣な眼差しに気圧されて、固まっていると、意を結したようにお兄ちゃんの口が開いた。
「実はこれ…俺の手作りなんだ…」
…空いた口がふさがらないとはこういうことだろうか。ぽかんと、お兄ちゃんの目を見つめ返すが、その真っ直ぐな目を見ると嘘を言っているようには見えなかった。
「そのな、俺だってチョコレートが欲しいんだよ。でも、誰にも貰えないからせめて気分だけでも味わおうと作ったんだよ」
まるで倍速で再生された動画のように恐ろしく早口で捲し立てるお兄ちゃん。呆気に取られているとさらに続いた。
「そしたら割と綺麗にできてな、もしこれが女の子から貰った物だと思えたら…って思った時には包装紙とリボンに包まれてて…」

大きなショックを受けたことで一周回って冷静になったカレンチャンは、先程の激情を思い出し、真っ赤になった。
「〜〜〜〜なんでそんな変なことしてるんですかっ！カレン、すっごくびっくりしたんだからっ！！」
半ば八つ当たりのようにお兄ちゃんの胸を叩く。いつものカレンチャンからすれば信じられない姿だ。
「い，痛い…あ、あー！と、ところでさっき、チョコレートを用意したとか言ってたような…」
気まずい空気を打ち消そうとしたのか、どこか間の抜けた言葉を聞こえた時、はっとしてカレンチャンは手に持っていたそれを思い出す。
「…この流れでそーいうこと言っちゃうの？」
ジト目でお兄ちゃんを見つめるカレンチャン。勘違いとはいえ複雑な乙女心を弄んだ仕返しをしたいとは思ったが、そんな顔をされたら仕方ない。
「…しょうがないな〜。そんな寂しいことしてるお兄ちゃんに、プレゼントしちゃいましょう」
その時のカレンチャンは、何よりも晴れやかで、カワイかった。

>>86

86二次元好きの匿名さん22/03/22(火) 11:59:53

>>83 >>84 >>85

>>82が書けと言ったから書いた。解釈違いがあると言うなら正しいカレンチャンを書いてください

>>87 >>88

87二次元好きの匿名さん22/03/22(火) 12:19:46

>>86

貴方が神か…

ありがとうございます…

88122/03/22(火) 14:20:11

>>86

良いSSをありがとう…

はぁー甘い…チョコレートより甘い…

89二次元好きの匿名さん22/03/23(水) 01:42:20

いい概念…守護らねば…