- 1二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 13:32:56
- 2二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 13:34:15
- 3二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 13:35:05
ほあああああああああああああああ
- 4二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 13:35:46
(本物の魔王到達後から本編前までのスレのつもりで立てました)
- 5二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 13:37:28
- 6二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 13:39:14
“彼方”から“客人”が出現する瞬間を目にした者はいない。
故に、いつ彼女がそこに現れたのかを知る者はいない。
とある家の一室に“それ”は居た。
綺麗な声だと思った。
それは寝室の中で、ごく普通に椅子に座って、ごく普通の人間の学士がするように、小さな書を読んでいた。
さあ、と風が吹き込んだ。
外の世界に吹くのと同じ……この絶大な恐怖のない世界と、同じ風であるはずだった。
黒く長い髪がさらさらと揺れて、そして真っ黒な瞳が僕らを見た。
彼女は微笑んだ。 - 7二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 13:43:19
(前スレ名乗りでミスっちまったよ……パルニク(Parnich)ですパルニク。名前の通り客人ではあっても日本人ではありません)
【機械はただ内部を低温に保っている……】 - 8二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 13:50:05
あっ、あああっあっ
- 9二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 13:52:38
何か最近変なんだよ、何がって言われても伝えにくいんだけどよ
例えばあそこの角からドラゴンが飛び出して来る気がしたり
お前が急に俺に襲いかかってくる気がしてりするんだ、気の所為のはずなんだけどなんか怖いんだ - 10二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 13:53:35
(前スレ最後のヴィジャヤの最期、無情でめちゃくちゃ良かった……やっぱ異修羅の旨味の芯のひとつはあり得たかもしれない希望の可能性が摘み取られることだと思った)
- 11二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 13:54:00
異常な死体が、理由の分からない殺人が、行方不明者が増えた
初めは誰もが不安がって原因を推測した
流行病か、不安症の類か、“魔王”によるものか
やがて高名な学者や医師が原因を探し始めた
彼らが姿を消し始めた頃、1人の子供が呟いた
「__怖い」
1つの国が滅び、やがてそこには史上最も弱く恐ろしい軍勢だけが残された - 12二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 14:31:30
(前スレの落燕のイランダ、二つ目の名に“燕”が入ってる人が先代トロアと一時共闘をするのめっちゃいいなって思いました……その命を狙っていたけど彼女の最期にせめて痛みを和らげようとする先代トロアもめっちゃいい……)
- 13二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 14:31:49
(※
それはおよそ存在し得る一切の高度に適応する肉体を持つ。→山ではなく人里に“降りて”死ぬ
それはおよそ存在し得る一切の経路を見抜く観察眼を持つ。→技術関係なく生まれ持った暴の力だけで人を殺す
それはおよそ存在し得る一切の獣と人の長所を兼ね備える。→獣のように自身の命を最優先にすることも、人のように後に託すこともできずに死ぬ)
(※……みたいに、最初の構文を逆転させた形での死に様にしたのでそう言って頂けて幸いです!
折角他の方に名前を出して貰えたので恐怖の伝染源はヴィジャヤが観測したイガニアに向かう鳥竜になりました!)
(※しかし異修羅二次創作に飢えて立てたスレが他の方に次スレを立てて頂けるようになるとは驚きの極みですね……)
- 14二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 14:37:57
なにが、なっ、なにが魔王だ……!
“本物の魔王”に比べたら、あんな連中……!魔王と呼べるわけがない……! - 15二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 15:10:48
「…………"ショアニスより再練玉鋼へ。溢れる腑。収穫の折。それは軈て形為す。鋳込め"」
鞴のショアニスが有する再練玉鋼は、金属を吸収し同化、体積を増加させる事が出来る。また、逆に成形物を切り離すことも可能。
売りに出し、日銭を稼ぐ為、彼は今槍の穂先を作っていた。
こんな筈では無かった。
哨のモリオの下、戦争経済の到来を待ち望んでいた。だが『魔王』が来た。誰も巻き込めず、どころか戦争は起こらず、武器商人の真似事をしている。
「…………恐ろしい」
何故恐ろしいのかが全く分からない。なのに恐ろしい。誰もが今そんな調子だ。
ふと、荷物の中の再練玉鋼が脳裏を過った。
それは恐ろしい、とても恐ろしい考えだ。
「"ショアニスより────ダメだ。何を考えている。俺は」
気の迷いで自殺しようなどと。思い留まれて居なければ本当にその先を詠唱していた。
「いつまで続くんだ。これは」
(提案です。100前後で『最初の一行』、200で『魔王』の死というのはどうでしょう) - 16二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 15:14:56
(あんまり段階とか時系列を決めておかないほうが自由にできていい気もしますね……!)
- 17二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 15:19:54
(前スレのキャラだけど補足解説していいのかな…?)
・嵐火のリリアス
竜なのに詞術をオールマイティに使える凄いドラゴン。
ちなみに心術にも適正アリなので理論を知ってたら機魔や屍魔を従えて国を作った竜魔王になってたかも。
詞術で火災旋風を起こして都市を滅ぼした事が二つ名の由来。
・影喰みのシュカ
光を対象にした詞術しか使えないがソレ一本で無双できちゃう準修羅。
光の透過性を操作して障害物を無視して攻撃等ができるため逃れる事はほぼ不可能。
光ならば可視光線以外でも知覚できる感覚が共感覚で全感覚に繋がってるため死角が無い。
二つ名は「相手が影にいようと逃さない」ということからきてる。
本物の魔王登場の動乱の中でキヤズナと街中で戦闘。
光子に質量を与えることで光速の物理砲撃を実現する光子衝撃砲(フォトンショックキャノン)で街を消しとばしたことで魔王認定される。が、本物の魔王による政治の混乱を利用して魔王認定を解除させる。 - 18二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 15:33:29
(私も腐らせるのもったいないから出すか……)
・藪望のノルト
森人の魔剣使い。傭兵。
苔じみた色の髪を長く伸ばし、枯れ草色の旅人帽と外套に見を包んだ痩身の森人。広い鍔と高襟に隠された顔には補正レンズのついた防毒面(逆理のヒロトが売り出していた品)を装着する。
かつて惨夢の境のエスウィルダが率いた人族の国家に対する森人の抵抗運動にも参加していた経歴を持つ、腕利きの傭兵であった。
得物は「ザイロルトの滲みの魔剣」。純粋な剣技の技量もさることながら、剣身に滲む樹液を風の詞術によって撒き散らして敵対者を昏睡させる、吸入させた樹液を生術によって転換して致死毒へと変じさせる、などの技を用いた。
"本物の魔王"の時代よりも以前に、おぞましきトロア(初代)によって死亡している。 - 19二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 15:58:01
世界が恐怖に震えてもなお、世に争乱は絶えない。
『ガシン東西戦争』とは“本物の魔王”の時代、最初の大規模な戦争だった。
『東方聖王国』と『西連合王国』の貿易摩擦に端を発するその戦争は、小規模な戦闘から次第に狂気的なまでに苛烈さを増していった。
数多くの魔具と魔剣が使用され、中でも『ボルディークの竜砲』と『ネル・ツェウの炎の魔剣』は双方に甚大な被害を与え、もはや停戦の交渉すらも困難であった。
殺戮兵器の保有による相互破壊確証によって成り立っていた両国の平穏。
それは同時に、一度でも使用されてしまえば、相手が使用を止めない限りは自身が止めることができない。
もはや相互破壊の証明こそが戦争の目的と化していた。
だが、その結末は唐突に訪れた。
“おぞましき”怪談が、始まる__ - 20二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 17:23:52
天穿のルドンという巨人(ギガント)がいた。
かつて王領辺境に自らの工術で創り出した無数の塔で構成される城を築き、魔王と呼ばれた男だった。王領になんの前触れもなく城を構えたために魔王と呼称されたが、けしてその威躯を以て民を脅かすことはなく、ただ塔を高く高く積み上げることに腐心する、変わり者の巨人だった。
"本物の魔王"の時代になって、人の王国がルドンを呼ぶ称号が魔王から魔王自称者になったとしても、その巨人には関係がなかった。強迫観念に取り憑かれたかのように、まるで地上を離れでもしたいように、構造物がその安定よりも高さそのものを重視するように変わっただけのことだった。 - 21二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 17:26:24
おぞましき処にはおぞましき者きたる、アハ、アハ、アハ!
- 22二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 17:27:32
(…前スレ主だったのか書いてたの)
- 23二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 19:52:42
「その依頼、引き受けよう。」
「本当ですか‼︎ありがとうございます!」
「差し当たって一つ、手伝って欲しい事がある。」
「王都までの移動手段ですね。既に手配しております。ここからならば二週間ほどかかりますが…」
「不要だ。」
「は?」
「【シュカよりオウトの光へ。満ちる水面。対岸の月。翳せ。】」
「遠隔詞術で今の王都の光景を持ってきた。玉座に座っているこの男が第二皇子ザイヴで間違いないか?」
「は、はい。この方が第二皇子ザイヴ様で間違いありません。」
「そうか。」
「【シュカよりオウトの光へ。激る星屑。鳴り響く熱。満ちよ。】」
「仕留めた。」
「はぁっ⁉︎」
「依頼は完了した。ではな。」 - 24二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 20:08:33
クタ白銀街。形を変える街、とも呼ばれたその地の、いままさに形を変えゆくはずだった建設途中の塔の屋根の上に、一つの影がある。
「八後より一後、五前、五後へ。一前が追い込まれています。予想外の事態。応援を。座標は一八六二/三五九〇。八前……天眼からの情報です。速やかに」
全身にラヂオ鉱石を加工した通信機を無数に括り付けた、小柄な人間(ミニア)である。多数の情報処理に長けた通信手であるその男は、作戦の指揮官を任されていた。名を噬指のクカルスと言う。本物の魔王の時代に在った最悪の諜報ギルド、"黒曜の瞳"の七陣後衛である。 - 25二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 20:29:05
(メレに次ぐ射程距離の攻撃を無音無余波でやれるのはすごいな)
- 26二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 20:33:20
(八陣後衛のつもりでした、ミスった)
かちり、と腰の後ろに取り付けた調整器の摘みを操作しながら、噬指のクカルスは思案する。
(――"駒柱"の情報は今のところ確かだ。ティークス殿が追い込まれてはいるが、あれもなんとかなるだろう。レハート様の御心配は杞憂で済むとよいのだが――)
――と、思案する彼をよそに。
幾人かの人間(ミニア)が、彼の潜む塔に近づきつつあった。目立たぬよう統一された服に、片手で隠せるほどの大きさの、小さな暗殺用クロスボウを皆が携えた、明らかに一般人でない一隊。
それらは息のあった連携で速やかに塔内へ侵入し、警戒しながら階段へと歩を進めて――そして同時に擱れる。
「『『『クカルスよりハルマの礫へ。軸は第三左指。傾きの軌。光が貫くごとく。抉れ』』』」
――塔のあちこちに仕込まれていた、鏃の如き短い鉄片が突き刺さっている。クカルスの仕込みである。塔のそこかしこには無数のラヂオ鉱石が吊るされていた。これも、仕込みだ。
噬指のクカルスは、"黒曜の瞳"である。
- 27二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 20:48:59
『正統北方王国』の国王であるディエトは、突如出現した謎の軍勢への対応を検討していた。
情報は少ない。
なにしろ通信手が尽く狂乱しているのだから。
それでも得られた情報を纏めると、こうだ。
“敵”は一切の統制も作戦もなく、闇雲に前進している。
“敵”の数は不明。その数は常に増減していると思われる。
そして“敵”のほとんどは『正統北方王国』の善良なる“国民”だった。
比較的、前進の速かった“敵”を火砲で焼き払ったが、対処に当たった兵士の精神状況は芳しくない。
そしてその兵士が抱くような感情は、ごく僅かではあるがディエトを含む全国民に蔓延しつつあるように思えた。
ディエトは思う。
いずれ、罪無き国民すらをも処分せねばならないのかもしれない。
“敵”になる前に、殺さねばならないのかもしれない。
苛烈な手段を以て、この絶望的な現象に対処し続けなければならないのかもしれない。
その果てに国かあるいは自分か、何かが限界を向かえる時が来る。
時間稼ぎでしかないのかもしれない。
だが、いつかきっと、全てを解決する者が現れたかもしれない。
それまでは、戦い続けるしかない。
__正統北方王国
“本物の魔王”出現後の最初の六年、魔王軍の侵攻を食い止め続けたものの国に蔓延する恐怖と犠牲の中で革命と称する民の狂乱によって王族が尽く処刑され、滅亡した。 - 28二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 22:20:22
何が『教団』だ。
何も救っちゃくれねえじゃねえか。 - 29二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 23:02:57
(くそが、なんなんだ、この病は…)
足元まできた赤い水に追い詰められた広い鏡のケーウは毒づくしかなかった。
彼は電子顕微鏡並みの視力という魔眼と彼方の医療知識を掛け合わせた生術を振るう薬剤師だ。人が爆散するという恐るべき流行り病への対処を教団より依頼されやってきた。自信家の彼はあっという間にその病の、混獣のように破裂で胞子を飛ばす新種の粘菌という正体を暴き薬の材料まで考案してのけた。
どうだ私の医術はと村人の称賛を浴びようと外に出たところで、絶望した。患者の血液が粘獣のようにじりじりと人々に向かって流れてきたのだ。その赤い水は濁流よりは遅いが子供の足よりは速い速度で人に近寄り破裂しては赤い霧を吹きかける。
「ヒッ?助けて!」「おい!近寄るな!」「せ、先生助け」ボン!
当然水をかぶった人間は破裂し赤い水の一部と化す。
工術や生術を使える混獣や粘獣がいるのだから骸魔のように無意識の力術で自分の体のように感染者の血液を動かすのは可能なのかもしれないが…
(進化が速過ぎる!こんなの他でもないこいつら自身が持たないだろ!?)
血鬼のような無茶な進化は当然寿命の劣化を招く。そうでなくとも寄生生物にとって母体への殺傷力など繁栄の邪魔でしかない、ましてやこんなに肉体を拡散させては乾き死に飢え死にのリスクは指数関数的に跳ね上がる。
「諦めるな!」「!」
ケーウは虚勢を張る。
「私の不完全な薬で時間を稼ぐ。群烏のファネル君、君だけなら逃げられる、どうにかして隣の村から燃料と人手をかき集めるんだ。残念だが村ごと焼き払う!幸か不幸かこいつらは燃えないからこそ火の巡りは我々が脱出するのにちょうどよくなるはずだ。不燃性の液体を被って君の飛剣で目印のロープを張れば脱出できる!」
「はい!ご武運を!」
そうして数分後ケーウたちは壁まで追い立てられていた。
「何かないか何かないか!?く、早く来てくれファネル……あ…」
「せ、先生…?」
村人が怯えた目でみるがケーウは気づかない。 - 30二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 23:03:07
なぜ、自分は「隣の村に」助けを求めるように言ったのだろう。なぜより近い「教団」に助けを求めるよう言わなかったのだろう。何も知らぬ隣の村より仲介者のいる教団のほうが事情を知っている分早く話が進むはずだ。いいやそもそもなぜ自分は1人できた!?なぜ村人たちは行き止まりに向かった!?なぜ私はファネル君についていかなかった!?
今回の病気は偶然だったのか…?その疑問に答えが出たのは彼らが赤い霧に飲まれた数年後だった。
「さぞや無念だったでしょう、先生。」
群烏のファネルは黄都によって封鎖が解除された故郷で見つけた遺書を読んで泣き崩れることになる。
それは生物学の常識を超えた、あり得ざる繫殖力を得ている。
それは微小なる粘菌でありながら、洪水のごとく人体を侵食し破壊する。
それは血肉を喰らう限り限界なく、爆発的速度で拡散し外界を鮮血に染め上げる。
自分すらも破滅へ導くことが確定されたあり得てならない新種である。
爆弾魔(ボマー) 病鬼(シックネス)
血湖病パパウバウ - 31二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 23:14:29
(魔王の恐怖によって、自分の生存より他者を殺傷する事を優先した進化を遂げた粘菌でした。ケーウが言うように単体では意外と脆弱なのですが恐怖によって人々が悪手を取り続けたせいでこんなことに。魔王の恐怖は魔王を傷つけずに自他を害するというなら無自覚の行動の連鎖で運命操作じみた不運も発生するかな、と。
この後ファネルが教団に助けを求め忘れたせいで村の生き残りや関係者に『教団』は救ってくれなかった、頼りにならないという意識が根付いてしまうことになります。ファネルの言うケーウの無念とは不自然なミスで自分たちが死ぬことだけでなくこの疑念を発生させてしまうことも含みます。
メタ話:広い鏡のケーウという名は顕微鏡から、群烏のファネルはガンダムのファンネルのように飛ばす黒い苦無から、血湖病パパウバウはジョジョのワインカッターの擬音から来ています) - 32二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 00:34:57
「大鬼…………ははっ。怖く無い。怖くないけど、お前は怖いなぁ……ああ、けど、なんか、安心した────」
人間が、大鬼に不用意に近付いて、殺された。
よくある話だ。 - 33二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 06:44:10
周りの村から人が消えてしまった…
外では一体何が起きているのか…
もう子供が一人も確保出来ない…
微塵嵐様への生贄はどうすれば… - 34二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 07:27:19
(前スレ完走&新スレ乙です!! 広域規制でずっと書き込めなかった…)
俺も…いや、なんだろう…俺の場合は、もっとぼんやりしてる。
これまでは…商いの途中で野盗に目をつけられたらどうしようとか、大鬼に食われるかもしれねえとか、はっきりしたもんで…特に、はは、笑われるかもしれないがな、その…おぞましきトロアが怖かったんだ。山からやってくる、死神……子どもの頃に、クタから来た行商から聞いちまった、噂話を…何度も思い出してたからな。寝小便だってしたさ。
でも、今は…そうじゃない。
怖いのに…何が怖いんだか、よくわからない。うまく言葉にできない。なのに、怖さだけが少しずつ、体に積もっていくんだ。わらべ歌の…行商の歌ってた、「野凍み畑凍み」に出てくる、冷たいとげみたいに……
- 35二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 07:39:16
鞴のショアニス好きだからそれでもぎりぎり踏み止まってるだけで安心してしまったが希死念慮がすげぇ生々しい…ってのと竜斧戦役と並んで後年ヤコンから名前の出てた戦争の掘り下げが来るの熱いな
トロア周り充実しすぎ - 36二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 07:44:50
(いつもの無差別規制で書き込めず歯噛みしてたの俺だけじゃなかったか
>>20の傲慢じゃなく恐怖からバベルめいたものを建て続ける巨人も味があるし
意外と出てなかったオリジナル黒曜とシンジへの言及もいい 噬指って指を噛むって意味か(凄い原作にもありそうな二つ名)
個人的にケーウ先生の下りが医療関係の仕事の端くれについてる身として一番胸に来るわ…パパウバウの「恐怖で自殺的な方向へ進化してしまった病魔」ってコンセプトめっちゃいいな)
- 37二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 07:45:50
- 38二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 08:43:56
ナヴィキ第二漁業区の漁師、青影のヤサリは、いつものように沿岸の魚を獲りに出て、いつものように熱術を纏わせた銛を構え、いつものようにそれを狩ろうとして──水面を覗き込んだあと、銛を捨て、青い澱みの中へと飛び込んだ。そして二度と浮かんでこなかった。
遠目にそれを見ていた仲間によれば、魚群が何かの輪郭──女のような影を形作っていたというが、彼らもまた錯乱していたため、真偽の程は定かではない。 - 39二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 08:54:58
ケーウ・ファネルと病鬼の語りが教団迫害の背景補強にもなってるのいいね
- 40二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 09:15:04
…あの軸のキヤズナが、魔王と呼ばれなくなったらしい
まさか…あの邪悪にして不遜の極みの機魔創造主が、か…?
少なくとも、王国のお偉方はそういう方向へと進んでいる、ということだ
これまでの魔王たちが遍く過去と化す、本当の恐怖── - 41二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 18:32:52
(こんな時でも、アルスは自由だな……)
- 42二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 21:39:48
不瞳のアントスが死んだ。
死因は肺炎だった。
彼はありふれた紅果売りの老人であり、そして“客人”であった。
生来、盲目だった彼は大層耳が良く、むしろ目が見える者よりも周りを把握できていた。
そして遂に、誰も_彼自身も真の“逸脱”を知らぬまま不瞳のアントスは死んだ。
不瞳のアントスは実の所、目も耳も鼻も舌も皮膚も、なに一つとして正常に機能してはいなかった。
初めから彼は無明、無音、無臭、無味、無感覚の闇の中に居たのだ。
だが、誰一人として、彼自身ですらその事実を知らなかった。
どのような原理によって彼は世界を知覚していたのか
あるいはなにも感じぬまま、心無きままに生活を営んでいたのか。
答えを知る者は誰もいない。 - 43二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 21:59:38
かつてここには漁村があった。
『暗き光』を神が如くに崇め、テリトリーを棲み分けることで共存してきた。
それが数ヶ月前までの事である。
今となっては、当の漁村に住む者は存在しない。『魔王軍』の被害に遭い、その果てにここは放棄された。惨状の痕跡が広がっている。
「酷いもんだな」
漂う羅針のオルクトは、そんな場所に立ち寄る自身を物好きと嘲った。
ただまあ、気になったのだ。
噂に聞く『暗き光』がどのようなものか。
「もしかしたら、『魔王軍』になっちまってたりして」
そうであるなら彼は恐らく死ぬ。
そうして遂に浜辺に着いた。
「おぉ。綺麗だ。そりゃ二つ目の名前も『暗き光』になるもんか」
発光性プランクトンが浜辺で煌めき、ここら一帯の浅瀬は幻想的な光景を見せている。『暗き光』の影響か、ここらではよく見られた現象だ。だからこれ自体が今近くに『暗き光』が居る証左とはならない。
「よいしょっと」
背負う木箱から弦楽器を取り出し、波打ち際に胡座をかいて座り込んだ。慣れた調子で鳴らし出す。合わせて歌詞の無い歌を歌った。
静かな夜だ。だからオルクトの奏でるそれらは、とてもよく響き渡った。
「……………お」
海面が割れた。巨大な影だ。ゆっくりと、然し着実にこちらへと近づいている。
「人か。人だな。お前は」
「…………驚いたな。まさか『暗き光』は本当に竜だったとは」
海面から、一体の竜が首を擡げた。浅瀬にて座礁し、その巨躯を砂の上に置いている。
その巨躯でも特に目立つのは、胸部の深い傷と、中途で絶たれた鰭である。そうなる以前はさぞや壮麗であったのだろう。そう思わせる偉容をしている。
「お前さんが『暗き光』で間違いないな?」
「いかにも。己れ(おれ)は暗き光のメストゥーツァ。そして一つ問おう。此処らの塒に住もうていた者ら、居らぬが何処に」
「へえ。竜が人の心配するんだな」
「理由知れぬ変化を、お前は疑問も持たぬのか?」
「道理だね。えっとだな」
オルクトが知る限りの事情を話すと、竜は特に感嘆らしいものは見せなかった。ただ合点はいったらしい。
「そうか。そうなったか」 - 44二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 22:01:30
「もしかして悲しいのかい?」
「………?いや?それよりだ。お前、先は何をしていた」
「歌だよ。歌」
「ウタ、とな」
「そ」
オルクトは好みの歌の一節のみを演奏してみせた。すると竜は相槌を打つような声を出す。
「こういうのだよ。俺はこういうのを皆に聞かせてさ、駄賃を貰って生きてる」
「続けろ」
「は?」
「途中だろう。続けろ」
「おぅ?もしかして気に入ったのか?」
「続けろと言っている」
どうやら気に入ったらしい。随分不遜な観客だ。どうせ金も払わんだろうに。だがオルクトは機嫌をよくし、要望通りに続けた。
暫く続けていると、オルクトの弦楽器の音を真似したかのような音が何処からか聞こえて来る。澄んだ、グラスハープのような音だ。それが何処から鳴っているのかオルクトは分からない。だが鳴らしているのが眼前の竜であろうことは明確だった。
「────随分筋がいいな。お前さん」
「そうか。他は無いか」
「他だと……………」
奏者はふたつ、誰も知らない演奏会が始まり、夜が深くなるまで続いた。
「────またいつか来い。他を教えろ」
「…………あぁ。お前さん随分奇特な奴だな」
「ほう?」
「悪かった悪かった。鰭振り上げんのやめてくれ。あぁ。お前さんきっと上手くなる。続けてくれると俺も嬉しいよ」
然し漂う羅針のオルクトが、廃棄されたこの漁村を訪れることは二度と無かった。
- 45二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 23:09:49
“端弓のクレック”は固唾を呑んで、目の前に広がる光景を眺めていた。
正統北方王国の兵である。貧しい農村に生まれたが、幸運なことに“本物の魔王”とは遠い地方の村に生を受けた。
……だが、そういった幸運の意味も一日を経る度に潰えつつある。狂乱する“魔王軍”の増加は止まらずに加速し続け、世界はゆっくりと断末魔を上げつつある。
クレックの家族も、押し寄せた“魔王軍”から逃れるために代々受け継いだ土地を捨てて難民になった。狂乱に飲まれて自殺してしまった村の友人たちよりはマシな未来だ。
正統北方王国が耕作地を捨てた難民を全て養うのは至難の業で、だからクレックは家族を養うべく兵士になった……そして今、進攻する“魔王軍”との最前線に立っている。
(……悪夢だ)
“魔王軍”は一切の統制も作戦もなく、闇雲に前進している。
文字通りの意味だ。彼らは互いに殺し合って、自らが犯した罪に嘆きさえして、しかし何かから逃げるように進んでいる。
──鋭い警報が鳴り響いた。
耳を劈く甲高い音に、“魔王軍”の或る者は怯えて、或る者は立ち止まって耳を澄まし、また或る者は何も聴こえないかのように踏み出した。
降り注ぐ砲撃の嵐が全てを平等に焼き払った。
土煙が舞い上がり、地面に無数の陥穽が刻まれた。クレックの立つ大地は“魔王軍”と比べて10mも上であったが、大地を揺らす震動と大気を軋ませる轟音はクレックの元まで伝わっている。
砲撃によって壊滅状態となった“魔王軍”に突っ込む一団が存在する。
辛うじて命を払ったにも関わらず狂乱し互いに殺し合う“魔王軍”に平然と突撃し、分厚い全身鎧で一切の奇襲を封殺して槍の一薙ぎで屍山血河を築く異形の戦士。
……大鬼(オーガ)の遊撃隊。人を食らう彼らは、人を殺すことに"慣れている"。
その姿は確かにおぞましくはあるが、しかし理由もなく狂奔する“魔王軍”とは比べるべくもない。
再び、鋭い警報が鳴り響く。
防御陣地に配備された砲撃機魔(カノンゴーレム)の砲撃予告に大鬼(オーガ)たちは直ぐに駆け出して退避し、吹き付ける豪雨の如き砲弾が“魔王軍”を蹂躙していった。 - 46二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 23:21:49
“銃”が未だ広く知られざる時代に、歩兵を焼き払う砲撃機魔(カノンゴーレム)の大量生産を実現してみせた元“魔王自称者”。
人間(ミニア)。砲手(ガンナー)。
燎原披瀝テムズレート。
北の島嶼と海岸に領地を構え、並ぶ者なきカリスマによって異種の国を一代にして築き上げた大鬼(オーガ)の元“魔王自称者”。
大鬼(オーガ)。総帥(ジェネラル)。
境の涯のルクルグス。
正統北方王国の中枢に純粋な知識と社会性によって登り詰め、正当なる王から排斥されずに疫学を普及させ技術医療を進展させた“客人”。
人間(ミニア)。医師(メディック)。
黎明なるエアリス。
三名の傑物によって構成される"連合国軍国防研究院"は、正統北方王国に迫りつつあった“魔王軍”を一年もの間堰き止めた末に滅亡する。 - 47二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 23:37:41
助けを呼んでも、きっと誰も気づかないだろう。また一段と高い波が小舟を打つ。
岩礁に阻まれた小舟の少し上を飛竜(ワイバーン)の幼体が旋回している。ヨコトキ湾村唯一の礼拝堂、その裏手にある崖の下。もうすぐ満潮になるかという波と、ギシギシと舟の分解を伝える絶望の音だけが聞こえる全てだった。
もっとも、そのような苦境に立たされている子供にとって、それは些細な絶望だったのかもしれない。ヤワイトは現在ではなく、未来にこそ絶望していた。
今朝突き止めた事実だ。ヤワイトの両親が七歳になる自分を遺して死んだ。大鬼(オーガ)に喰われたのだと言う。他に親戚がいないから、これからは孤児として生きて行かなければならない。
同じ人喰いの飛竜(ワイバーン)ならば両親と同じ天国へと連れて行ってくれるだろうか。天国の話は、さすらいの客人から聞いた話であったが、よっぽど救いがあるように思えた。村の小舟を盗んで逃げた上で、こんな目に遭うよりかはよっぽど。
「助けを求めましょう。詞神様は乞い願う心を余さず伝える奇跡を与えて下さったのだから。教典第三章、十九節」
神官のように、落ち着いた、穏やかな声がした。決して助けが来たわけではない。ヤワイトは助けを求めはしなかったから。その声は海から来た。現れたのは"溶け日のチェグスター"、深獣(クラーケン)、村ができた時から生きる、沖の怪物。
海から泡のごとく響いたのは、女の声であった。"粒泡のカリッタ"。村の女神官。明日からヤワイトの親代わりになる人である。友達のサイナの保護者でもある。
「驚かせてしまったかな」
怪物が喋る。今度はしわがれた老人のような声だ。恐るべきことだ。この怪物は、村のことを常に観察していて、ついには声の模倣までしてのけている。
「助けてくれるの?」
「ああ、よかった。私はおしゃべりしない人間(ミニア)が嫌いなんだ。無論、助けるとも」
「そっか。ありがとう」
- 48二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 23:39:08
瞬間、怪物の腕が風めいて突撃した何かを掴んだ。飛竜(ワイバーン)だ。
「こいつが統率個体だ。群れの皆に、幼い子から老いた子まで、自分の優れた飛行技術を教育しててね。翼膜や筋肉をかじって形を整えたりね。名前は"飛雲跡のジュラミー"」
巨大な触腕が断末魔を海の闇に引きずり込んですぐ、海が染まった。血のような赤色だ。飛竜の血だろうか。違う。飛竜の血は青い。深獣の胃液だ。深獣の胃液は骨格も血すらも溶かす。そうでなければ、このように食べはしない。
「なんで助けるの?」
「なんでって……そうだね。ここにはね。君の村の前にも村があったんだ。小鬼(ゴブリン)の村だ。その前には別の村。そのさらに前には別の村。」
深獣は語る。永い永い、歴史の話だ。
「けれどね。どんな村も、海が揺れて、私にも止められない高い波が立つと、全部なくなってしまうんだ。何度も何度も。いろんな村が建って、いろんな村が滅びた。私はあることに気がついた。人間の村には決まって彼らがいることに」
「誰のこと?」
「神官さ。彼らは教えに従って、私としゃべってくれる。それが老いた私には意外と楽しくてね、そうしたら愛着が湧いた。それが理由だよ」
日が傾いている。小舟は村へと続く海流に乗っていた。
「ヤワイト。人間の子。君が私に何かお礼でもしたいと思ったら、神官になってくれ。いつか、私のおしゃべりの相手に」
日の半分が海に浸かる。海に散った胃液が日の全てを反射するかのように海を赤く照らした。それはまるで日が溶け出したような。
「溶け日のチェグスター……」
- 49二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 00:04:06
◇
"溶け日の上のヤワイト"は自分の家で震えていた。思い出の詰まったヨコトキ湾村に構えた家だ。外からは村の喧騒が聞こえる。悪夢だ。
数日前、溶け日のチェグスターが打ち上がった。村を代表して、粒泡のカリッタが様子を見に行ったことを覚えている。自分が彼女の護衛を務めたことも。
彼女は数瞬もせぬうちにその形を壊されて死んだ。自分は逃げ帰った。
外からは村の喧騒が聞こえる。悪夢だ。自分は知っている。溶け日のチェグスターはあらゆる音を模倣する。外に聞こえるのはチェグスターが作り出した、死への手招きだ。
ズルズルと、何かが引きずられるような音がする。チェグスターが村の家を海に引きずり込む音……最悪の妄想だ。しかし、そう遠くはないだろう。いずれ、ヤワイトの家も引きずり込まれる。逃げる腹を決めなくてはならない。
恐ろしい。恐ろしい。恐ろしい。恐ろしい。
それでも、覚悟は決まった。
目を瞑ったまま、走り出す。あらゆる声は無視して、自分だけを信じて。村のことは熟知している。目を瞑れば、悪夢を見ずにすむ。
「ヤワイト君、神官になれたかい?」
向かう先から、どこか心のない声が聞こえた。誰だろう。昔に聞いた声だ。懐かしい。思い出した。忙しい村でただ一人、長椅子に座って。憧れの神官だった。
「助けてください!チェグスターが!あの怪物が!ノフトクさん!」
ヤワイトはついに目を見開いた。たくさんの触腕が見えた。海岸である。ヤワイトは膝から崩れ落ちた。
(続きます)
- 50二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 00:09:44
- 51二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 00:13:11
悲しかったり熱かったりエモかったり恐ろしかったりのエピソードの中で異質な手触りだな不瞳のアントスの話…
- 52二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 00:15:52
連合国軍国防研究院のトリオもこれ結末は辛いけど戦果見たらめちゃくちゃ優秀では…?
燎原披瀝テムズレートの名前の響きすごく好き - 53二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 00:45:45
- 54二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 00:46:05
英雄は奇襲を躱している。もはや目前には姿はなく、村の怪物へと戦いを挑みに行ったようだ。
ヤワイトは駆け出していた。振り返らない。なぜなら、心底恥じ入る事実があるからだ。
マッシュオネは自分を殺さなかった。未だに救おうとしている。刃を向けた自分を。あの時、奇襲を仕掛けたのはヤワイトであった。祈るように握り込まれた両手にはナイフがある。
救助が来た。誰かが通報したのだ。きっとサイナだろう。神官見習いとして、先の恥を取り返す働きをしなければならない。生きている残りの村人を逃がすのだ。
礼拝堂に向かう。そこにはあるはずだ。最近に復活した階級、聖騎士を護るための、不屈の盾が。
保管庫の錠を外し、装備を切り替える。悪邪の短刀から正義の盾へと。
そこまでだった。誰かがヤワイトの背を刺した。
「勇気があれば……怖い。怖くない……君にも勇気をあげよう」
きっと怪物を撃破したのだろう。英雄の腕は、片方が根元から捩じ切れて、もう片方はヤワイトを魔剣で刺し貫いていた。英雄が勝った。表情は恐怖に満ちている。
神官になりたい。神官になるにはどうすればいいのだろうか。
「神官とは……あらゆるものの……呪いを解くこと……」
(告解だ。今になって理解できる。呪いとは、恐怖だ。)
魔剣の効果であろうか。ヤワイトの心に一つ勇気が灯った。
(きっと英雄は自分と同じ、狂気と正気の狭間にいる。心が死ぬ前に、告解を……)
村を救った英雄の肩を抱き、穏やかに努めて語りかける。
「ジュジュジャジュ……ジュクジュ……」
(口に何かが挟まっている。上手く発音できない……これは?)
ヤワイトは英雄の喉笛を噛み切っていた。
喉から空気が漏れる。血が泡立つ音で心が洗われる。
(チェグスター、カリッタ先生、ノフトクさん。神官になれました。)
- 55二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 00:53:37
じ…地獄…!!地獄や…ヨコトキ湾村…
- 56二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 06:15:04
- 57二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 08:40:22
「星図のロムゾ氏とは親交があった」
統合作戦本部。白い髪と碧の瞳の少女が扉を開いて会議室に踏み入ると同時に、そう口にしている。
切迫した状況下では一秒でも惜しい。その思いは席に座る二人の元“魔王自称者”も同じだった。
黎明なるエアリス。正当なる王によって排斥されて討伐される“客人”も多い中で、医師としての貢献と逸脱の片鱗たる心理学によって国家中枢にまで登り詰めた逸脱の医師。
“魔王自称者”認定を覆す代わりに協力を得るという政策は彼女によって立案され、そして堅実な根回しによって賛成を得て実行に移された。
“客人”には寿命がない。そして逸脱の医師たる彼女が不注意で死ぬようなことも有り得ず、数十年もの間に築き上げた人脈がある。
「死体とは不潔なものだ。互いに殺し合う“魔王軍”は常に感染症と隣り合わせでもある。
“本物の魔王”がロムゾ氏の証言通り人間(ミニア)だとすれば、病原菌に囲まれた環境は奴にとっても脅威となる筈だが……」
「“本物の魔王”が自然死するまで待て、と?
“最初の一行”には"色彩のイジック"もいた。疫病で殺せる手合いなら、最悪の“魔王自称者”が既に手を下しているだろう」
口を開いたのは、大鬼(オーガ)の中でも突出して巨大な個体である。
境の涯のルクルグス。北方の大鬼(オーガ)の部族を束ねる元“魔王自称者”は、無軌道な残虐とは裏腹のイジックの群を抜いた発想と理論を知っていた。
エアリスは頷いた。
「私も同意見だ。感染症とは生物によって引き起こされるものだ。ならば、脳機能を持たぬ病原菌すらも恐怖するのかもしれない……そうだろう、テムズレート。この中では貴殿が最も実感している筈だ」 - 58二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 08:56:44
「行か……な……きゃ」
ワイテの山脈にて、その嗄れた声と引き摺られた足の音はおぞましきトロアを無理矢理にでも振り向かせた。
しかし、そこに立っていたのはたった一人の少女だった。
手はあらぬ方向へと曲がり、骨が見えるほどまで擦り切れた足を引き摺り、顔は醜く歪んでしまっている少女だった。
(イズノック王立高等学舎の制服。いや、しかしもはや魔王軍と成り果ててしまったか)
本物の魔王が生まれてたから全てが変わった。
あの日から自分など問題にならないほどのおぞましき怪物が、地平を跋扈するようになってしまったのだ。 - 59二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 08:57:37
「み、見えるんだ。いい、行かなきゃ」
少女は今なお壊れたように呟き続ける。
(しかし恐ろしい。こんなひ弱な少女がワイテの山頂まで登ってくるとは。それほどまでに本物の魔王の恐怖は……)
トロアはせめて一息で殺してやる為にと足元の魔剣を抜いた。彼が最も得意とする無音の魔剣——インテーレの安息の鎌だ。
しかし、それを振るう前に少女は全く別の方向へと走り出していた。
「み、みみみ、見えるんだ。い、行かなきゃ。こ、この、この世界、世界とも別の、別の、どこかへ。どこかへ。どこかへ。どこかへ。」
少女の走った先には一つの魔剣があった。
天劫糾殺——おぞましきトロアが持つ、斬った表面に次元の裂け目を生み出す魔剣。
トロアがその姿に呆気に取られている間に少女は天劫糾殺を掴み、その魔剣を自らに突き立てた。
鮮血が溢れ、その先から歪んで消える。
少女は、ほんの数秒もしないうちに発生した裂け目へと飲み込まれ、そして死んだ。
「行かなきゃ……どこかへ……」
最後に少女が放ったその言葉が、トロアは耳から離れなかった。
- 60二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 08:58:48
- 61二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 10:14:36
「邪竜よ! 邪竜よ! 天を穢す大敵の翼よ。その口で我が名を問うたな! なれば時の勝敗、既に見えた!
………どうだ?ロスクレイ。かっこいいだろ?」
「う〜?」
幼い少年ナルタはさらに幼いロスクレイに自分の演技を見せていた。ロスクレイは幼いながらにこう思った。
ーーーへんなひとだな、と。 - 62二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 10:31:30
「そうね☆」
硝煙の匂いを色濃く纏いながら、煤けた煙草を手にする豪奢な服装の美女が円卓に長く伸びた白い脚を乗せている。
正統北方王国との資源戦争で数々の都市を攻め滅ぼした彼女の国は、既に“本物の魔王”の脅威によって攻め滅ぼされていた。
「粘獣(ウーズ)や根獣(マンドレイク)と言った種族も発狂死してたもの。じゃあ病原菌が恐怖しても何も不思議ではないわね☆」
砲撃機構を指先一つで制御し、今正に前線にて狂奔する“魔王軍”を千単位で虐殺しながら一切の呵責を感じない。そういった感性の元“魔王自称者”ですらも、恐怖に対抗するために団結していた。
傍らに立つ大鬼(オーガ)の男、ルクルグスは深い思索の海に潜りながら重低音の唸りを漏らした。
今、彼が腕を振るうだけでこの部屋の一つや二つは砕けるだろう。
だがこの場に立っている二人の人間(ミニア)の女は彼がそのような暴挙は犯さないと理解して、一人は寛ぎ一人は耳を澄ました。
「……“魔王軍”の"処理"は今までと変わらず我々が対応しよう。人間(ミニア)よりも人間(ミニア)を殺すのには慣れている。精神的負荷の許容限界は同胞でない分まだマシだ。
だが、“本物の魔王”の恐怖は我々の戦士すら刻一刻と冒しつつある。現在のローテーションではいずれ限界が訪れるだろう。エアリス殿の医療支援の頻度向上を頼みたい」
「問題ない。正統北方王国からの人員供給は続いている。防御陣地と野戦病院が充実すれば純粋な負傷の医療効率は私が介入せずともよくなるだろう。
その分の時間を、心理カウンセリングに充てる」
遊撃隊が着用する全身鎧の目的は傷を防ぐことよりも、“魔王軍”との接触を絶つことだ。それだけ強烈な恐怖であった。
だが、黎明なるエアリスは逸脱の"医師"である。
外科内科の区分は彼女を前にして隔てなく、精神科もまた同様に。
__心の傷すら、癒せる。
「耐えるぞ。種族関係なく、我々全ての未来のために」
全ての敵、魔王(アークエネミー)との戦いはまだ終わらない。
- 63二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 11:22:35
「それから、テムズレート」
「なあに?」
会議が終わった後。柔らかな微笑みを向ける美女に、黎明なるエアリスは無表情で告げた。
「私がいる限りは禁煙だ。身体を壊すぞ」
「……もしかしてぇ、わたくしを心配してくれてるのかにゃ?え〜、ちょっと困っちゃうかも☆」
「黙れ。今後のために必要不可欠なだけだ……」 - 64二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 12:45:08
(うわあああああああああ誰かと思ったらその子かよおおおお…確かに本編世界だととっくに死んでるって言われてたけど…うわあ…うわあ…)
- 65二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 12:50:52
このメンツなら本当に1年持ちこたえるだろうなって説得力とこいつらでも押し切られたのかって絶望凄いな…
- 66二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 12:54:35
“魔王軍”との交戦開始から既に小三ヶ月と312時間が経過している。
防御陣地は日に日にその厚みを増していた。当然である。長くいれば土地への親しみは増し、より増築は容易となってゆく。監視塔は二十を超え、城壁も高く聳えて侵入を防いだ。
……そのような要塞にも、“魔王軍”が入り込むことはある。砲撃を潜り抜けて、互いに噛み千切り合いながらも死体の山を登って城壁を超えるものが。
だからこそ、今日も境の涯のルクルグスは誰よりも最前線で槍を振るっている。
「我々は耐える」
黎明なるエアリスによって正統北方王国の難民から兵となる者が増えた。
彼らの役割は単純だ。“魔王軍”の動向を監視して、その動きに応じて大鬼(オーガ)の遊撃隊に連絡を取り、スムーズな戦力移動を実現する。
兵士たちの心理的負担を考慮した消耗抑制戦略だ。黎明なるエアリスの統制下にある限り、有形無形を問わずに病の全ては根絶される。
──ルクルグスによって投げられた大槍が、城壁の如き鱗の蛇竜(ワーム)に風穴を開けた。
人型種族の中でも屈指の怪力を誇る大鬼(オーガ)の中でも怪力無双の英雄である。狂乱した獣のような“魔王軍”では彼を殺せない。
大鬼よりも強大な種族さえも“本物の魔王”の恐怖に狂う姿を目の当たりにして怖気付いた同胞を励ますために、ルクルグスは声を張り上げた。
「我々は決して、決して、決して敗けない」
燎原披瀝テムズレートの都市防衛砲の警報が鳴る。
城壁の上に無数の長大なる砲身を構える一匹の砲撃機魔(カノンゴーレム)が一斉に詞術の詠唱を開始する。
砲撃の誤射が恐れられる範囲から“魔王軍”を掃討し尽くした遊撃隊は食糧の分の死体だけ確保して撤退を始めている。 - 67二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 12:56:33
「我々は勝利する!」
正統北方王国は、大鬼(オーガ)の“魔王自称者”が提示した条件を受け入れてくれた。
彼らの幼い息子と娘は王国に保護されていて、彼らが奮戦すればこのおぞましい恐怖に晒されずに済むのだ。
帰れなくなった故郷に帰る。種族の紡いだ歴史を次に繋げる。そのために彼らは戦っている。
そう思えば、それだけで無限の勇気がルクルグスの背中を支えた。
例え彼が死んだとしても、同胞が生き永える限りは敗北ではない。
「勝利するのだ!」 - 68二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 13:49:51
「ロムゾさん、いい加減お金返せよ! もう八小月も待っているのに少しも返さないって…前まではそんな人じゃなかったろう!?」
- 69二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 16:27:22
冷たい雨が、戦場を濡らしている。泥濘は足を絡め取り、熟練の兵士すらも行軍を躊躇する惨状だったが。
聳える黒鉄の塔群は変わらずに砲撃を行い続けて、同じく変わらず殺到する“魔王軍”を無機質に火砲で虐殺している。
「【シルグの砲へ。織り成す積重鋼殼。始原復成。宝極の転換──形成せよ】」
──“シルグ要塞戦線”という名の砲撃機魔(カノンゴーレム)であった。
自律思考は不可能だが、高度な工術の機能を生まれつき具えている。司令部からの指令に応じて詞術を行使している。
自己を復元し続ける詞術を。
防御陣地の奥深く、地下に潜む元“魔王自称者”が音を響かせた。
「【テムズレートよりクレゼレンの白灰炉へ。燎原啓発。火の光輪。戴きの杞憂。鋼に滴る涙を沸かせ──満ちよ】」
怪物的規模の詞術である。都市間の砲撃すら可能とする魔具によって彼女自身の熱術を増幅させ、閉鎖された砲身の内部の空気を加熱する。
……本来ならば瞬く間に鋼を蒸発させる熱量だが、砲撃機魔(カノンゴーレム)の自己復元の詞術が熱を砲身に閉じ込めた。
「【テムズレートよりクレゼレンの白灰炉へ。燎原啓発。火の光輪。戴きの杞憂。鋼に滴る涙を沸かせ──満ちよ】」
続く詞術に砲身が軋みを上げる。詞術の行使限界は集中力の限界であり、一度は“魔王自称者”となった熱術士である燎原披瀝テムズレートにとっては二度重ねる程度は容易い。
“シルグ要塞戦線”は砲口部を閉鎖していた鋼鉄への工術の行使を停止した。
轟音が響き渡る。熱術による空気膨張の圧力が鋼鉄の砲弾を超音速突破の速度で撃ち出す音と、地面に衝突した砲弾が“魔王軍”を焼き払って大地から天空に雨が逆流する音が同時に届いた。
・・・
四十七の砲塔がある。“シルグ要塞戦線”は自らへの理解によって自己の構造を復元する詞術を扱うのみならず、自己と同一の構造の砲塔を複製することで自己拡張をも可能とする機魔(ゴーレム)だった。
「アハッ」
燎原披瀝テムズレートは笑った。人が消し炭になる瞬間に、どうしようもない愉悦を感じる人族社会の異端者である。
そんな異端でさえ、“本物の魔王”の脅威を前にして国防研究院に参加していた。 - 70二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 18:25:55
「十七分の仮眠を取るか、私の薬を飲むか選べ」
砲撃機魔(カノンゴーレム)によって灰と化しつつある“魔王軍”の先鋒を観察しながら、無表情を保つ続けるエアリスがテムズレートの卓上に硝子の容器を一瓶置いた。
中に詰められた透明な液体を躊躇わずに美女は飲み干し、両手を組んで背中に回しながら伸びをした。
連合国軍が設立されてから小五ヶ月、国防研究院の三人の英雄は一睡もしていない。
そうせずともコンディションを万全に保つ多くの術を黎明なるエアリスは知悉していた。
「エアリスちゃんはさぁ、どうして“魔王軍”の侵攻を止めようって思ったの?
わたくしは人を合法的に消し炭にデキソウだからで、ルクルグスは人族からの排斥から逃れるためだけどぉ……エアリスちゃんは別に“魔王自称者”じゃなかったでしょ☆」
「仇討ちと治療のためだ」
「へ〜ぇ?」
然程の逡巡もなく世界逸脱の医者はそう口にした。享楽的破綻者が口許を愉しげに歪め、ちょいちょいとエアリスを小突いた。
「なに、恋人でも殺されちゃったの?でも実年齢的には恋人って線は薄いかにゃ?」
「おい、“客人”は不老だぞ。いや、そうではなくてだな……謂わば同志とでも呼ぶべきものだった、というだけだ。
私も彼も、民衆により良い暮らしをさせたいという点では共通していた」
「【テムズレートよりクレゼレンの白灰炉へ。燎原啓発。火の光輪。戴きの杞憂。鋼に滴る涙を沸かせ──満ちよ】
……ふうん?じゃあ"治療"ってのはなんなのかな☆
わたくしたちが現在進行形でやってるのって、大量虐殺じゃないのぉ〜?」
再び熱術の詠唱をして、テムズレートは可愛らしく首を傾げてニヤニヤと笑った。
遠方に見える“魔王軍”は雨も夜も関係なく、何かに追い立てられるかのように進み続けている。休息はまだ当分取れそうになく、奔放な元“魔王自称者”は愉しみに飢えている。
「待て」 - 71二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 18:31:57
最近夜眠れないんだよなぁ…
漠然となんかなぁ…不安…違うこれは… - 72二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 18:39:42
冬のルクノカに挑もうと思ってる同じ警邏隊のみんなには悪いけど抜け駆けで数年前イガニアで実際に大きな影を見たから隊を抜け出してそこで戦う
もう本物の魔王に意味もなく無惨に殺されるのは耐えられないから - 73二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 18:44:31
続く熱術の詠唱を実行しようとしたテムズレートをエアリスが制止した。視線が一箇所に固まっているが、それは“魔王軍”の最中である。
鋭い手術刀を手にしながら、エアリスは傍らに座るテムズレートに頼み込んだ。
「一旦、砲撃座標を逸らしてくれ。まだ治癒の余地が残っている患者が見えた……ルクルグス。私は、彼らを救いに行きたい。だが私の行動によって最も危険に晒され得る君に是非を訪ねたいが、如何に」
「我はエアリス殿に賛成する。……我々は既に数え切れない数を殺戮しているが、それは同胞を、未来を守るためだ。可能な限りは助けよう」
「……しょうがないにゃあ☆
シルグ。第五砲台の仰角を4°上げて加害半径を後退させなさい」
「助かる。それで、その答えだが」
黎明なるエアリスが手術刀を投擲した。
如何なる生命をも斬り裂ける切断が、遍く経路を見透かす観察眼によって邪魔な蜘獣を八つ裂きに斬殺した。兵器魔具の類いと比較しても僅かに上回る腕前である。
「……私が技術医療を広めるよりも、ここで“魔王軍”を虐殺し続ける方がもっと多くの人々を救えると理解したからだ」
こんなのは初めてだった。そう付け加えてから黎明なるエアリスは駆け出した。
世界逸脱の医師の医療能力すら超える暴力と惨劇が存在していた──テムズレートは空を見上げた。
自らの夢を、悲願を、“本物の魔王”によって潰され壊されたものは多かった。彼女もまた、その一人である。
(……元気にしてるかなぁ、"方舟")
戦略爆撃構想を実現するために航空機を作成しようとしたテムズレートは彼には嫌われていたけれども、単に“彼方”の技術を模倣するのみならず、詞術法則も機体に組み込もうとするその発想だけは評価されていた覚えがある。
方舟のシンディカーも、黎明なるエアリスも、境の涯のルクルグスも。その燃えるような熱意がテムズレートは好きだった。 - 74二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 19:41:57
「ひ、ひひ、ひ」
浮雲のホワシュエという運送屋がいた。彼はベクトルを発生させる力術を反転させ運動を停止させる止術を扱うことができた異才であった。ただ止めるだけでなく重力の影響のみを止めることで、意識あるかぎり物体を浮かせることができた。速度こそいずれリチアにできる鳥竜空軍に劣るものの馬力が桁違いだった。彼は基本的にはその技を平和利用していたが、いざという時は大砲を空中から撃つことすら可能だった。
「消えろ、消えろ、皆消えろ。」
その異才が魔王軍と化した。それでも正気を無くしている以上地面を狙い撃てないので生前ほどの脅威では無くなるはずであった、が。
「『地走り』」
持ち主から奪ったのか渡されたのか無限の炎を吐ける魔具を振るっていた。さらに飢えや睡魔で意識が途切れれば落ちるはずが、火事場のバカ力で命尽きる限界まで暴れ続けるようになっていた。天国と地獄を逆さにしたがごとき不条理
「消え?煙?」
それを撃つべく罠が仕掛けられた。大量の煙がホワシュエを覆う。
「【空と湖の殻。氷のごとく流れ、霧のごとく阻む。吹き飛べ】
ホワシュエは止術で空気と水分を固め力術で飛ばした。あるいはこの異才にとって両者に違いはなかったのかもしれない。
「キヲの手」
その防御壁を破ったのは星馳せアルスの絶対捻断の魔具。しかし - 75二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 22:09:18
近頃、黎明なるエアリスは常に手帳を持ち歩くようになった。僅かな暇を見つけては手帳に何かしらの記述をするのを繰り返している。
エアリスに付き従う正統北方王国従軍医の“囁く灯りのティーア”は、その様子をずっと見ていた。
「何を書いてらっしゃるのですか?」
「……あぁ、ティーアか」
エアリスは眉間を揉んで、副官からの疑問に対する答えを探した。
大鬼(オーガ)の遊撃隊の心理カウンセリング業務を終了させた後に、宿舎まで向かう道の途上で世界逸脱の医師は一心不乱に手帳に字を刻んでいた。
何処か恥じるように、或いは何かを後悔するような色を見せてからエアリスは手帳を開いてティーアに見せてくれた。
「脳外科手術だ。"恐怖"を感受する神経を截断し、物理的に“本物の魔王”を克服するための手術の術式だよ」
前頭葉白質切截術よりも遥かに先進的で健康的な術である。
世界逸脱の医師は知性を損なわずに思考回路を改造する技術医療さえも確立してみせたが、彼女の良心がそれは人倫に反するものと確信していた。
確信しながらも刻み続けた理由は、エアリス自身にも分からなかった。
「先生は、まだ力を尽くそうとしているのですか?もう一年も経ったじゃありませんか。“魔王軍”では竜でも出張らない限り私達の戦線を突破できないのでは?」
「……そうだな」
蒸気機関車が白煙を吐きながらエアリスとティーアの前に停まった。
連合国軍による一年にも及ぶ抵抗と要塞の建設は、遊撃隊の宿舎から各拠点への1時間以内の遊撃隊の高速輸送を可能としている。
度重なる改修で防御陣地は益々複雑化して、要塞砲も充実した。一人の“客人”と二人の元“魔王自称者”が作り上げた国防研究院は、その名の通り国防に多大な貢献を果たした。
雨が降り始めていた。
“シルグ要塞戦線”が砲塔を上げた。 - 76二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 22:19:17
ホワシュエの殻は物質ではない。一部が破壊されようと全体は残る。横から力が加わることでアルスの魔手は僅かに逸れる。
「……知ってたよ。『ボボガルワの投網』」
だが常に先を読み手段を選ばない頭脳こそがアルスを最強の冒険者たらしめる。独力に拘ることなく協力者を用意していた。ボボガルワの投網、金属の網を高速で射出する大砲なのだがその強度と重量は常識を逸脱していた。ホワシュエの狂った脳を殻越しに揺さぶり失神させた。
「魔王軍を利用しようとは恐ろしいことを考えるな。星馳せアルス。」
魔王軍ホワシュエ討伐の依頼者にして、アルスより狙撃協力の要請を受けた男は呟く
「……逆だよ、あいつらほど分かりやすい奴らもいないよ…」
アルスの今回の目的は地走りだけではない。ホワシュエの異才も狙いだった。でなくば休みに降りてきたところや換気に殻を解いたところを罠に嵌めて終わりにしていた。
「魔王軍は自他を傷つけようとする。…なら終わったら殺すと痛めつければある程度言いなりになるさ…」
「…あまり苦しめないでやってくれ…恩人、いや友人なんだ…」
宝には持ち歩けないような重さや大きさのものもある。アルスの場合、そういう宝はそもそも欲さないことが多いがその問題を解決してでも欲する宝もある。
ボボガルワの投網。空中最速の生命体をその攻撃速度と範囲で捕えうる脅威、あるいは空の成功者たる鳥竜の群れを狩るのに便利なプレゼント。しかし馬車よりも大きく重いそれをいつか来ると信じているときまで誰にも知られぬ場所に保管する手段が欲しかったのだ。
「ともだちは大切だよね…」
アルスは飛び立たない、それは単に男とホワシュエの確保と治療に向かうために過ぎないがそれでも1人になった男にはありがたかった
- 77二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 22:20:16
仮定
人は対処するために『勇気』の獲得を試みる
→『恐怖』に抗うには『勇気』が必要である
勇気を正値、恐怖を負値とする
魔王軍は正値から負値への極端な落差によって発生する?
落差、落差は人の体機能的に常に起き得る
PTSD 若干違うか
↑のキャリアの有無?
↑ならキャリアを持たないこと
『勇気』が無いこと
『恐怖』が無いこと
・広範囲攻撃←『勇気』を獲得している→×
・精神性の操作
・精神疾患患者を利用する
・
────ある走り書きより - 78二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 22:33:38
「つ〜ま〜ら〜な〜い☆もぉ〜、エアリスちゃんかルクルグス君でも呼んでよ!体制も整ったし、もうわたくしが管制する必要とかなくない!?」
「そんなこと言わずに……ほら、シルグの砲撃角度調整だったテムズレートさんがいなければ出来ないのですから」
「えぇ〜?」
燎原披瀝テムズレートは喚いた。
“シルグ要塞戦線”の砲は既に百三十九基まで達しており、増設に従ってテムズレート個人の熱術だけでなく正統北方王国の詞術兵も起爆のために入るようになっていった。
百人も熱術を使える詞術兵がいればテムズレートの扱う熱術に匹敵するだけの出力が出せる。それならテムズレートとしてはとっとと機魔(ゴーレム)の開発に戻りたかったのだが、それにはまだもう少しの時間が必要なようだった。
テムズレートは口を尖らせた。
あの日、エアリスが言った通りにして“魔王軍”の中からまだ後戻りできそうな者を連れ帰るのを許したせいで余計な仕事が増えていた。
別に後悔はしていないけれど、テムズレートよりも拙い腕前の詞術兵にすら謂わゆる"ツンデレ"として扱われるのは不本意だった。
軽く嘆息して、“シルグ要塞戦線”の百三十九基の砲の仰角を調整する。
味方への誤射を防ぐために、テムズレートは自らの手で毎回仰角を微調整していた。それは或いは戦術における柔軟性の重要度を正確に理解していたからでもあるが、同時に人格の破綻した“魔王自称者”に残った良心でもあった。
「は?」
そして、彼女は自らが代入した数値に目を疑った。連合国軍の重要拠点を尽く狙い撃ちにする数値が、そこに刻まれている。
「待っ」
超音速で降り注いだ鋼鉄の砲弾が、一瞬にして恐るべき“魔王自称者”を消し炭に変えてしまった。
血潮が蒸発して、吹き飛ばされた遺骨がパラパラと塵となって舞い上がった。
燎原披瀝テムズレートは自らの良心によって凄惨な死を迎えた。それさえも最も安らかな死であった。 - 79二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 22:53:09
同時刻。降り注いだ超音速の砲弾を境の涯のルクルグスは咄嗟に投げ放った大槍によって弾いていた。
僅かに軌道が逸れた砲撃は城壁の一角を木っ端微塵に粉砕し、破片の嵐が精強極まる大鬼(オーガ)の遊撃隊を裂いていった。
全ての戦士が夥しく血を流している。ルクルグスも例外ではない。
破片の嵐に巻き込まれて四肢がバラバラになった者の死体を抱えて、一人の大鬼(オーガ)が叫んだ。
「裏切りだ!人族どもは俺達を裏切ったんだ!」
「馬鹿を言うんじゃあないッ!誰が好き好んだ“魔王軍”を招こうとする!?何かの間違いだ!」
崩れた城壁の隙間から、狂気に駆られた“魔王軍”が内側に入り込みつつある。
混乱した大鬼(オーガ)たちがルクルグスに視線を集中させた。彼らの王は一度も判断を間違えたことはない。指示を仰ぐべきだと考えていた。
境の涯のルクルグスは"槍"を掲げた。
「我々は、決して、決して、決して、決して、敗けない!」
ルクルグスは咆哮したが、大鬼(オーガ)たちは瞳に困惑の色を混ぜて後退りした。
死を恐れているのだろうか?無理もないことだ。今正に凄惨なる死を前にしているのだから……だが、だからこそ声を張り上げねばならない。
自分と、戦士たちに無限の勇気を与えるために。ルクルグスは吼えた。
「未来のために!未来のために!未来のために!」
“魔王軍”が侵攻しつつある。境の涯のルクルグスは目の前に立つ“敵”を縦に引き裂きながら絶叫した。
「未来のために未来のために未来のために未来のために未来のために未来のために未来のために未来のために未来のために未来のために」
大鬼(オーガ)の未来を護り抜くために。例え彼が死を迎えたとしても、信念は受け継がれる。次へと託される。 - 80二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 22:54:01
「我々は勝利する!」
正統北方王国は、大鬼(オーガ)の“魔王自称者”が提示した条件を受け入れてくれた。
彼らの幼い息子と娘は王国に保護されていて、彼らが奮戦すればこのおぞましい恐怖に晒されずに済むのだ。
帰れなくなった故郷に帰る。種族の紡いだ歴史を次に繋げる。そのために彼らは戦っている。
そう思えば、それだけで無限の勇気がルクルグスの背中を支えた。
例え彼が死んだとしても、同胞が生き永える限りは敗北ではない。
「勝利するのだ!」
新たな“魔王軍”は、怪力によって縦に引き裂かれた大鬼(オーガ)を投げ捨てた。 - 81二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:02:22
- 82二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:11:57
「何が起こった……!ルクルグス、聞こえるか!ルクルグス!テムズレートは何処だ!?」
黎明なるエアリスは歯噛みした。
星深瀝鋼徹甲弾を切り裂き、傍らに立つ囁く灯りのティーアを掴んで破片の軌道から避難させている。逸脱の医師は災害救助の遂行においても最高の救助を行える。
ラヂオを通して呼びかけているが、応えるものは誰もいない。
砲撃によって壊されてしまったのか、或いはもっと別の……恐ろしい何かが起こってしまったのだろうか?
──気付いた。ずっと太腿の骨を齧られている。歯を突き立てて、顎が壊れるまで噛み締めているのはエアリスが助けた囁く灯りのティーアだ。
黎明なるエアリスが動揺と共に視線を上げる。
さあ、と一陣の風が吹いた。
黒く長い髪がさらさらと揺れて、そして真っ黒な瞳がエアリスを見た。
彼女は微笑んだ。
「───」
言葉が止まった。
逸脱の医師は、まるで詞術の疎通せぬ獣のように突っ立っていた。
そんな愚かな真似をどうしてしているのか。
何故だ。鳴り止まぬ動悸に怯えながら、エアリスは習慣化した観察でその理由を探そうとした。
探すまでもなく明白すぎる理由を。
──恐ろしい。 - 83二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:30:45
黎明なるエアリスは、無意識に手術刀を掴んだ。
違う。自分が何をしようとしているのかエアリスは理解していた。
恐怖に涙が溢れた。如何なる形であろうと人を救い続けてきた無私の逸脱の医師は、たった一つの想いに突き動かされて自分独りのためだけに命を奪おうとしていた。
「あッ、あああぁぁ……」
そして自身の喉笛を引き裂いた。
何もかも切り裂く筈の手術刀は、鈍らのように痛みを引き延ばした。激痛がエアリスを苛んだ。
絶叫は掠れた呼気になった。彼女は微笑んでいる。
裂かれた血管から溢れた鮮血が刃を滴って気管から肺に落ちてゆく。ゆっくりと自らの血で窒息しながら、黎明なるエアリスは走馬灯を垣間見た。
病すら何かに恐怖することがあるのかもしれない。
──では、死者は?
脳機能を持たぬ細菌すらも恐怖するのなら。神経の通わぬ死者ならば絶対に恐れずにいられるのだろうか?
(いやだ)
“本物の魔王”の恐怖は持続し続けていた。神経信号が弱まり、薄れゆく意識の中でも鮮明に。それだけが変わらない。今も。
──原因の存在しない恐怖を、打ち消せるはずなどない。
(いや。いや、いや、いや!助けて!助けて!)
死んだ後も、この理由のない恐怖に蝕まれ続けるのだろうか?
何もできずに、暗闇の中で、恐怖だけが存在する。死んでいるのか生きているのかも分からない。涙が頬を伝った。拭ってくれる人はもういない。
(ザイヴ) - 84二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:31:03
“魔王軍”を一年間堰き止め続けた連合国軍国防研究院は、“本物の魔王”の前に一日で滅んだ。
- 85二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 01:10:02
好き…。全員いいキャラしてるわ…。
- 86二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 02:34:57
「あっ!シュカいた‼︎」
「…ん?なんだエジンか。何か用?」
「シュカの話もっと聞きたくてさ。シュカはイータの外じゃ魔王って呼ばれてたんだろ。何してたんだよ?」
「別に…。それに魔王と呼ばれてたのは昔の事で今は撤回されてるよ。」
「それじゃあさ、イータの外ってどんな感じなんだ?俺外に出た事がなかってさ。教えてくれよ!」
「…あんまりいいものじゃないよ。皆何かに怯えてばっかりだし…」
「それって… シュカは逃げてきたのか?」
「…そうだな。何かに怯えるのも誰かに怯えられるのももうたくさんだった。」
「…だったら安心しろよ!」
「?」
「ここにはシュカを怖がるヤツも怖がらせるヤツもいないからさ!」 - 87二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 07:42:26
「――以上が不明存在、仮称、銀閃竜フファイの報告となります」
「そうか、ご苦労だった。下がってよし」
報告に訪れた兵士を執務室から下げると、硯面のカルハという名の文官は顎に手を当てた。
今しがた報告されたのは、中央王国北方戦線――魔王軍の襲来を未だ留めている戦線の一つで目撃された「戦場伝説」の一つである。
銀閃竜フファイ。そう仮称されるその存在に寄せられた目撃談はいずれも信じがたい。曰く「竜ほどの巨体で、竜よりも早く飛ぶ」「尾はなく、代わりに熱術と思しき火炎が長く伸びている」「羽搏きもしないままに飛ぶ」「背中から撃ち出した熱閃が空中で折れ曲がって魔王軍を焼き払った」「王国側の人的被害は皆無」――。
それらをただ、魔王軍の狂気にあてられ狂奔した兵士の戯言に過ぎぬと片付けるのは容易いように思われた。事実、"本物の魔王"が現れてから、そのような報告は無数に上がっている。
「――だが」
そう言いながらカルハは机上に置かれた数枚の紙を持ち上げる。銀板写真(ダゲレオタイプ)。風景をそのまま紙面に収める、"彼方"より伝来した技術。"黄昏潜り"という"客人"の記者が撮ったというそれには、戦線の風景が映されている。
地面を這うように長く伸びる、焦げて結晶化した跡。ばらばらと倒れ伏す、焼けた骸。
・・・・・・・・・・・
事実として、魔王軍は殲滅されている。 - 88二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 12:29:17
聞いたか?魔王ぶっ殺そうって集まりがあるらしい。
すげえ面子だよ。もしかしたら………… - 89二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 14:53:02
(事象地平戦線アーデティヤみたく死後まで捕らわれる可能性は思いつかなかった。あとここで第二王子ザイヴがでるか。あとまともな交通手段もないはずの魔王が普通にウロチョロしてんの最悪すぎる。)
- 90二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 14:58:04
(表面張力ぎりぎりでコップ一杯の水が保たれてたのが、ふとした瞬間にこぼれてそこから一気に全部ぐちゃぐちゃになっちゃった感)
- 91二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 15:48:37
拷積のヤガバ・ジルという異形の小鬼が居た。
大鬼をも越す巨体を持ち、尋常の小鬼では持ち上げることすら叶わぬ大斧を片腕だけで軽々と振るう、異形の戦士。
国に襲来した鯢竜(ハンザキ)を逆理のヒロトに託された魔剣、ドリガルセフの巡りの斧を用いて討伐した戦闘は、今でも新大陸の民に記憶されている。
正しく、小鬼の英雄と言える存在だった。
今、英雄は倒れている。
彼の最後の戦いは、国を護る戦いではなく、国を滅ぼさんとする戦いだった。
逆理のヒロトを小鬼の自由を奪った最悪の外敵だとし、2万の兵を率い、大規模な革命を起こした。
──そして、その革命は若き戦術家、千一匹目のジギタ・ゾギの戦略によって大一ヶ月も立たぬ間に失敗した。
「なぜ……なぜ、こんなことを。答えてください、ヤガバさん!」
目の前には逆理のヒロトと、数匹の小鬼兵が居る。小鬼兵はヤガバに銃口を向けており、少しでも不審な動きをしたならすぐにでも引き金がひかれるのだろう
「……俺は小二ヶ月前、狂った波人の群れを殺した。鬼族でもないのに共喰いを繰り返して……恐ろしかった。そして、それを見た時、分かったんだよ。こいつらをこんな風にした奴が、この世界のどこかに居るって!」
異形の小鬼は目を見開いた。
「恐ろしいんだ。そんな化け物がいると言うだけで、この恐ろしさは晴れないんだ!だから……お前を殺して、俺は、俺達はそいつを殺さなきゃ、いけないんだ!」
必殺の魔剣であるドリガルセフの巡りの斧は既に破壊されている。
ヤガバの腹には痛々しい弾丸の後が幾つも付けられ、もはや左手はちぎれ欠けている。
それでも、残る力の全てを吐ききりヤガバはヒロトに飛びかかり……
「総員。撃て」
そして、銃弾の雨がヤガバの体を貫いた。
ヤガバの狂乱は、ただ単純な国家反逆として片付けられた。
反逆の動機の調査及び、『恐ろしいもの』の調査は小鬼議会の決定により、永久に凍結されることとなる - 92二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 17:24:30
「知識というのはあればあるほどよい」
「そうなの? 知っているだけで使えないなら役に立たないんじゃないの?」
「確かにそうだね。でも、必要になったときに知らなければ何もできない。知っていれば訓練でできるようになるかもしれないだろう?」
食堂でのたわいない雑談。
だが、その話は今、彼の核を支えている。
これから向かう先は砂の海。
その場は彼の生命を削る。削り続ける。
だが、そんなことはどうでもいい。
知っていれば訓練でできるようになる。
知識を、闘うための知識を、みんなと共に闘えるだけの知識と訓練を……それが強さに繋がるならば……大量の知識を……‼︎!
ただその思いを胸に一匹の粘獣は砂を這う。
その先に待っているものが地獄だとしても。 - 93二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 17:46:50
「なんでも、次の第三卿は十七卿の息子らしい」
「うっひゃあ。あの不良中年の息子?とんだ七光りがあったもんだ」
「まあ情報局の風紀は最悪だからな……全く。この非常時に何考えてんだか。オスロー将軍を見習って欲しいもんだぜ」 - 94二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 18:24:18
・黎明なるエアリス
竜(ドラゴン)も含めた全種の生命を切開するソウジロウ未満の切断能力
肉体の構造を知り尽くすが故に最効率での運動方法を弁えるツー未満の持久力
遍く病状を見透かして治療方法を立案できるクウロ未満の観察眼とソウジロウ未満の直感
脳外科手術と薬学によって脳神経を"処置"してしまえるリナリス未満の精神支配術
そして確立した医療法を滞りなく普及させるヒロト未満の社会性を持ち合わせた“客人”。
常人離れした戦闘能力を有しているものの、本質的には支援に適性を持つ逸脱の医師。
事実として、彼女が常駐していた連合国軍は“本物の魔王”が訪れるまで一人の脱落者も生まなかった。
正統北方王国の第二皇子ザイヴとは民衆の平均寿命向上と疫学の普及という観点でビジネスパートナーのような関係であったが、彼女自身としても異界に放逐された彼女の話を真摯に聞いてくれたザイヴに好感を抱いていた。
その気持ちが何であるか知る前に、“本物の魔王”が訪れた。
(※コンセプトは「長く生きた不老の“客人”が呆気なく事故によって死ぬ事例があるが、では事故でも戦闘でも滅多に死なない“客人”ならばどうか?」
虚実侵界線分岐世界での名は“白夜のエアリス”。
“客人”として二百年程の時間を与えられれば三王国に広範な人脈を築き上げ、無謬にして無私なる医療の徒として社会からの全種の病の根絶を推進した末に“極夜”の名を冠する血鬼(ヴァンパイア)の手で滅ぼされると思われる) - 95二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 18:46:30
・境の涯のルクルグス
大鬼(オーガ)の沖合部族。北方の略奪者(ヴァイキング)たちの王にして総帥。
分裂して争っていた大鬼の諸部族をたったの一代にしてを束ね上げ、海岸と島嶼部に跨る巨大な版図を実現した英雄。
未分類の怪物種を巧みに避けて航海する技術と、生半可な怪物なら返り討ちにしてしまえる戦闘能力を誇る元“魔王自称者”。
生術による自己強化を得意としており、具体的には生身で"地平咆"の星の一矢を受けても即死はしない程度の耐久力を有している。
だがその真価は将兵を鼓舞する手腕と戦術規模での作戦立案能力であり、“本物の魔王”が訪れるまでは正統北方王国を脅かす大きな脅威の一つであった。
彼の治世下で大鬼の国家はその総人口を著しく増加させたが、それも“本物の魔王”の脅威を前では塵のように死んでいった。
(※コンセプトは「“魔王自称者”に認定される正統な理由を有していたもの」
本編では力を持ち過ぎた個人や、正統なる王の権威を脅かして社会を変革する“客人”を排斥する口実として使われる“魔王自称者”が文字通りの異種の王を称するものとして使われることもあったのでは?という妄想。
瘴癘のジズマのように鬼族差別に苦しむものとは別の、排斥しようとする社会を逆に排斥しようとした人食いを躊躇わず押し通そうとした鬼族。
虚実侵界線の分岐世界【B-15】での名は“涯越えのルクルグス”。) - 96二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 19:10:00
・燎原披瀝テムズレート
恐るべき“魔王自称者”にして機魔の生成者。
人が消し炭になる瞬間に堪らなく興奮する破綻した性格の狂人である一方で、燃え盛るような熱意を心から愛するロマンチストでもある。
奔放に大量殺戮兵器を製造しては性能の実証実験を繰り返し、当たり前に“魔王自称者”認定を受けた。
"クレゼレンの白灰炉"という魔具を所持しており、コレは周囲に存在している灰炉内に投入した鉱石と同じ鉱石を炉内の温度にする魔具である。
鉄を入れて加熱するだけで大量虐殺を可能とする程の魔具を文字通りの"炉"として“シルグ要塞戦線”を構築した。
砲撃の最終到達点として"空爆"の実現を求めたが、しかしその夢は実現せずに散り果てた。
──“シルグ要塞戦線”は、今も自己拡張と自己復元を続けている。
(※コンセプトは「詞術を利用して現代兵器以上の兵器を作ろうとした技術者」
詞術が明らかにエネルギー保存の法則を無視できるという部分から、優れた“魔王自称者”なら未来兵器の類いも作れてしまうのでは?という妄想。
工術による復元作用で合金技術の不足を補う、熱術と魔具によって本来ならば用意できない程の莫大なエネルギー量を準備する。というような文明レベルの踏み倒しを追求した“魔王自称者”。
虚実侵界線では分岐世界【B-6】にて工術と熱術によって燃料による航空限界を持たない重爆撃機型のジェットエンジンを有する機魔(ゴーレム)を作成していると思われる。
強いには強いが、遠距離攻撃が可能かの相性に左右され易い性能で、名は“天塵のジルナ”) - 97二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 19:12:21
- 98二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 19:36:45
銀閃竜フファイ
中央王国北方戦線にて進撃を続ける魔王軍を突如焼き払って飛び去ったという「怪異」。王国の資料に残る「鉄鳥竜サキュア」と同じく撃墜・捕獲されていない戦場伝説のひとつ。この事例以降は確認されていない。
その正体は"彼方"に相原四季が居た時代に米軍が試作した無人攻撃機「XMQ-18 オーバーカマー」。起源不明の発動機による無制限の滞空と自由自在の超高速飛行。人工知能による発狂者の選別と自動排除。背部に設置されたレーザー砲と反射ドローンによる全方位攻撃を可能とするような設計が施されているが、本格的な運用開始よりも前に所在不明となった。
(名前の由来はフーファイターのもじり。"彼方"でも四季に対応するために兵器開発されてるだろうな、が発想元。もとは>>97 さんの言うようにそののずばりサキュアを出そうとしてたんですが、サキュアの機体は第一次世界大戦期のものだったらしいので…)
- 99二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 20:43:22
鳴動のダァトという傭兵がいた。
肌見放さず巨大な袋を持ち歩く、巨躯の山人(ドワーフ)である。背中の袋には実はおぞましきトロアから奪った魔剣がどっさり入っているだとか、昔々に仕留めた竜の首が入っているだとか。常々真面目な顔をしてそんな大法螺を吹いては人を笑わせる、そんな陽気な男であった。
そんな男が、魔王の恐怖にくずおれた。
「あ、あはははは……『ダ……ダァ卜より、サ……サリガの……、あは、油へ……!燎原を広がる朱!あは、あはは……断崖を……あ、あはははは……塞ぐ……!……あは、あはは、あははは……あはははははははは……暗きを湧かす…………焼け!』」
背に負った巨大な包みは、銃のような装置に繋げられている。銃爪を引いて溢れ出した黒い油に熱術で着火、凄まじい勢いで噴出させる。火炎放射器、という兵器が袋の中身である。
「あ、あはは。……みんな、燃えろ、燃えろ……恐怖の前に……俺が焼いてやる……あは、あはは!」
人々が逃げ惑う。そこに火を放てば、皆が奇怪に踊るようにして倒れ、焼け死んでいく。
ダァ卜は哄笑した。
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ、は、は……?」
それが突然止んだのは、自らの視界がぐるりと回ったのを知覚したからだ。次いで、狂気の中でなお感じる、右脚の激痛。見開かれた目がぎょろり、と下に動いて。ダァトは自らの右足が根本からなくなっていることに気づいた。
「あは……お、俺の、あし……なんで……カロー、ク……あ、あは、は」
疑問に答えるように飛来した弾丸がダァトの鎖骨に吸い込まれて、上半身を丸ごと抉った。 - 100二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 20:43:55
「……チッ。死んだか、ダァト……」
物陰からゆっくりと身を起こす影がある。
狙描のカロークという小人(レプラコーン)の狙撃手であった。左目に嵌めた望遠レンズをかちり、と動かして定位置に戻し、手にしていた長い杖のような武器を背中の携帯袋に仕舞う。
鉄筒の片端に装填装置を取り付け木の台座の上に据え付けた、まるで歩兵銃(マスケット)が歪に進化を果たしたようなそれは、魔具である。ヒツェド・イリスの火筒という。鉄筒の内側に触れた物体を、尋常ならざる速度で射出する。
弾丸もまた尋常のそれではない。イロ黄鉱と
名付けられた、黄金を上回る展性と高い比重を有する特殊金属の弾頭。あらゆる非装甲目標に命中した瞬間に大きく変形して、そのほとんどを容易く抉り去るだけの威力があった。
カロークはダァトの旧友であった。初仕事の時からの、彼の一番の友人だった。
(――あのダァトが。ああなっちまうなんて。"魔王"ってやつは、どれほどまでに――)
魔王の時代であった。
カロークもまた、それから一年のうちに死んだ。 - 101二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 21:01:59
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- 102二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 21:02:57
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- 103二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 21:03:57
『最初の一行』より以前、最も“本物の魔王”に近付いた個人が『渦のディアマストル』である。
“魔王自称者”であり、優れた詞術使いだった彼は自身に詞術の備えをして“本物の魔王”の元へと向かった。
彼の編み出した方策はシンプルなもの。
まず自身の肉体を元に“造人”となった。
必要な知識のみが潜在的に残り、自我の同一性を絶つ。
その後、一定時間で自動的に死亡し、自動的に発動する詞術によって自らを“屍魔”に換えた。
その時点で自我の同一性はまた消える。
そして即座に“屍魔”の状態から“造人”へと自らを換える。
死体から生成すれば屍魔となるが、命を持つ屍魔からならば造人になるという、渦のディアマストルのみが知る、秘された世界の法則だった。
命も記憶も恐怖も全てを消去、再起動して前進する。
ディアマトルスにもそれができた。
誰かに託すということ。
自分ではなく……誰かが魔王を倒してくれるのだと、ただ信じるということ。
数ヶ月後、魔王の住まう家の寸前で“屍魔”として生まれ変わった瞬間に自害した。
保険として用意していた詞術によって“骸魔”として再々起動したが、即座に自害し、全ては無駄に終わった。
人間→造人→屍魔→骸魔
(ミニア→ホムンクルス→レヴナント→スケルトン)
納棺師(アンダーテイカー)
渦のディアマストル - 104二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 21:18:35
「ああダメだな。こいつは助からん」
容症状のアルバートという"客人"は、昨晩ベッドに寝かせた一人の男へ、ひどく冷淡な視線を向けた。
「君。バルビツールを持ってきてくれ」
「…………またですか」
「まただ。確かに君のうんざりする気持ちも分かる。だがどうしようもないだろう。そら、頼んだよ」
「……………」
アルバートは相手を一目見るだけで容態と病状、精神的健康性を概ね把握可能な、逸脱の診察の才を有する。"彼方"に於いてはその才を活かすべく、軍医をしていた。
「…………エアリス。死んだか」
北方正統王国の滅亡の知らせを聞いて、色々伝手を紹介してくれた女のことを思い出した。
その伝手で今診療所を開いている。だからその知らせには、多少なりとも思うところはある。けれども、だからといってどうかするという訳でもないし、特段悲しむ訳でもない。
「恐怖、恐怖か」
診療所は酷いものだ。肉体的にも精神的にも参った奴らばかりだ。
特に精神面が酷い。
魔王軍になりかけた奴を戦線に放ったらそのまま魔王軍になったとか、そんなふざけた話を聞いた。けれど事実起こったことだ。そういう奴は事前に処分することになった。
彼の診察はそれが最適だと、残酷に示してしまう。
「さて」
彼はこの『恐怖』を、ある種の特殊な病理と解釈している。
影響範囲に入った者は強制的に発症する。そういう病。その影響度合いの大小が魔王軍とそれ以外だと。
そして『恐怖』の対義語に『勇気』を挙げた。
「私は生憎と、開頭手術は出来ない。外科医ではないしな。完全な受容体の切除、か。診察医に無理を言う」
だが幸い『サンプル』は大量に居る。
「────先生。先生!次の患者だ!」
「もう?はぁ。おちおち実験も出来そうにないな。分かった今行くよオルクト君」
「先生、俺のこともうちょっと頼ってくれても良いんだぜ?」
「大事な大事なバルビツールを床にぶち撒けたの忘れてないからな」
「………………」
「下働きに使ってやってるだけ有り難く思え」
「みんな余裕が無えよ。こういう時こそ娯楽だろうに」
「分からんでもない。君の歌、私は好きだよ。他の観客も本心から言っていた」 - 105二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 21:32:26
- 106二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 23:36:51
おいおい……あの色彩のイジックですら駄目だったのかよ!……あいつだけなら死んでもよかったのに
- 107二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 23:48:35
そんな……あのフラリクさんが…!?
- 108二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 00:06:39
「あぁ、全く持って恐ろしい。なれば、なれば、なればこそ…。」
杞憂のラデンカという人間(ミニア)がいた。
鷲鼻に瘦身、身には常にぼろきれをまとったやせぎす。町の外れ、城壁の向こうに住んで、いつも詞術を用いた実験ばかりしている変わり者。常に空が落ちることを恐れ、寝ている間に埋められることを恐れ、見えぬ人の心の中を恐れ続け、それゆえに人々の輪の中から外れた狂人。
それゆえに、彼は人よりもわずかに―――ほんの一匙ほどの差だが、本物の魔王の恐怖による「病状」の進行が遅かった。
故に、彼は、血と臓物と戦火に濡れる、狂乱の町のただなかで、わずかに思考を保っていた。
大鬼(オーガ)が人間(ミニア)に襲いかかっていた。ラデンカはかつて、夜に彼らが酒を飲み交わしているのを見たことがあった。兵士たちが、高所から転落し、そのまま死んで土嚢のように積み重なっていた。ラデンカは、町の城壁を遠目から眺め、彼らの顔を覚えていた。少女が自身の頭を、何度も何度もぶつけていた。頭蓋が砕けようと、眼球がつぶれようと何度も。ラデンカは、少女が度々、薬草を取りに町の外れに来る、その足音を毎月、同じ時刻に待っていた。
「あぁ、全く。どうしようもないものだ、これは。あぁ…。なれば、なれば…。」
ラデンカに大した力はない。彼らを正常に戻すことも、そして彼らを一人ひとり介錯させてやる逸脱の力もない。彼にできるのは、慣れ親しんだこの町の風を詞術で操ることと、多少の薬の調合程度。精神を和らげる薬を作れはするが、それはまだ生き残る彼らの恐怖のどれほどを癒せるだろうか?彼らをもとに戻せるだろうか?
おそらく不可能だろう。ラデンカは知っていた。一度心に根を張った恐怖は、どれほどの時をかけても、容易に取り除けるものではないと。故に、ラデンカは。
「・・・・・・・・・”ラデンカよりレリトミスの風へ。伝う導。夜の遠吠。残響は沈み、蒼白い月天は煌々と燃える。広がれ。”」 - 109二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 00:07:43
ラデンカの体から、爆発的に灰にくすんだ靄が広がる。
それは、町の中を駆け、通りを包み、空へと昇っていく。人々の鼻孔から吸い込まれ、肺臓を通して血に乗って全身に拡散される。
「ぁあ、本当に…。恐ろしい。今も、昔も。だから…。」
それは、ラデンカが長年研究してきた詞術と薬学の結晶だった。本来は、彼の狂気を抑えるために研究していた技術。それを応用し産み出した、真逆の効果を持つ薬物。
壁に頭を打ち付けていた少女は、それをやめていた。そして、ふと、自身の潰れた目に、指を入れた。
ぶちり。と音を立て、彼女の指が脳を貫く音がした。
それらが、そこら中で起きる。恐怖は増幅される。自らの手で喉を掻き毟り、心臓を自身の刃で貫き、もしくはその刃で隣人を引き裂く。恐怖が、狂気が、はるかに蒸留される。
「これ…で良い。これで、全てが僅かに早く終わる」
ラデンカは静かに呟いた。彼らを放置すれば、このまま魔王軍として、城壁の向こうへと「逃げ」始めるだろう。それは、恐ろしかった。かつて遠目から眺めたあの町の光が、人を焼く戦火となり、人を滅ぼし始めるのが。これはただの恐怖の発露なのか、それともわずかに残った理性なのか。もはや誰も知らぬだろう。
だが―――。
「ーーーぁあ、やっと、同じになれた。」
ラデンカは静かに目を閉じた。そして、霧は彼も飲み込んだ。