- 1Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 17:03:30
前回までのあらすじ
短期交流生として、初星学園へと赴いた藍井撫子。
初日、自身のことに異様に詳しい変態ストーカー(?)である学Pと出会い、短期ではあるがプロデュースの契約を結んだ。
変態プロデューサーにメスガキアイドルになれと言われたり、千奈お嬢様を始めとする2組の皆にもみくちゃにされたり、初星学園で様々なことを経て少しずつ、けれど着実にアイドルとして成長する。
しかし、中間試験後、撫子の前に白草四音が現れ、共に極月へ帰ろうと打診されてしまった。
初星の温かさに触れ、初星にいたい願いと、極月で四音と共にアイドルをやりたいという願い。そんな板挟みで苦しむ中、撫子は極月へ戻る誘いを断ってしまう。
最愛の四音を裏切り、もう何も見えないという撫子に、プロデューサーが撫子をデビューから追っている古参ファンであることを告白し、撫子の道標……羅針盤になると宣言。
撫子は迷いながらも、プロデューサーの手を取り、四音と共にアイドルをやり続ける為に、最終試験へと挑む────
お久しぶりです。覚えている方がいるかは分かりませんが、最終試験編開幕です。
投下は18時以降を想定しています。
前回まではこちらのスレをどうぞ
【SS】藍井撫子「私が初星学園に交流生として!?!?」|あにまん掲示板学P(先日行われたNIA……誰もが素晴らしいパフォーマンスをし、その比類なき原石の輝きを知らしめた……。今思い出しても、胸が熱くなる。……俺もいつか、あんなアイドルを育てあげることができるのだろうか)…bbs.animanch.com稚拙な物ですが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
- 2二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 17:04:27
待ってました!
- 3二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 17:30:06
めちゃくちゃ好きだったから続編嬉しい……
- 4二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 17:45:20
とりあえずは10まで伸ばした方がいいのではないかとも思えてきたぞ、続き待ってた
- 5二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 17:52:19
待ってたぜ!
- 6二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 18:10:09
このレスは削除されています
- 7二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 19:21:00
待ってる
- 8Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 20:11:58
撫子「────そうして練習するうちに、もう、とうとう来てしまいましたね、この日が」
学P「はい。いよいよ、最終試験です。……調子はどうですか?」
撫子「問題ない……と、言いたいところですが、流石に震えがありますわね……」
学P「無理もありません。このライブに、全てがかかっています。あまりプレッシャーになるようなことは言いたくありませんが、俺達のプロジェクトが成功するかは、この試験の合否にかかっています」
撫子「分かっていますわ。貴方達のプロジェクトが成功すれば、わたくしはお姉様とアイドルをすることができ、わたくしは初星の皆さんとも一緒にいることができる……そうですわね」
学P「はい。保証します」
撫子「……それと、一つ聞いても?」
学P「なんでしょう」
撫子「…………お姉様は、わたくしのことを、許してくださるでしょうか」
学P「……それは」
撫子「……分かっていますの。貴方達のやっているプロジェクトは、きっとお姉様とアイドルができるように図らわれたもの。……けれど、それはお姉様への裏切りが許されたことにはならない」
撫子「…………怖いのです。この震えは、緊張だけじゃない。仮に合格して、お姉様とアイドルができるようになったとしても、それはお姉様にわたくしを強いること。お姉様は、もう二度とわたくしのことを見てくれないかもしれない。そんな恐怖……無様ですわね。一度裏切ったわたくしが、こんなことを怖がるなど……虫がいいにも程があります」
学P「……撫子さん。きっと、きっと大丈夫です。貴女は極月を、四音さんを裏切ってなんていない。……大丈夫、きっと四音さんは分かっていますよ。なんてったって、あの人は俺と同類なんですから」
撫子「同類って……流石にそれは無いですわ。貴方失礼すぎではありませんか?」
学P「……それを言う撫子さんも失礼ですよ」
────せーかーいでーいちーばんおーひーめーさーまー♩(着信音)
学P「失礼。……はい、もしもし。……はい。はい……はい。ありがとうございます、伝えておきます。それでは(Pi)」
撫子「……貴方の着メロ変な歌詞ですわね」
学P「貴女をイメージしてるんですよ。それより撫子さん、貴女に朗報ですよ」
撫子「?」
学P「四音さんが、この最終試験を見に来ました。今、外部閲覧席にいるそうです」 - 9Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 20:12:24
撫子「え、えぇ!? お、おお姉様が!? 何故!?」
学P「決まっていますよ。貴女を見に来たんです。……やはり彼女は、俺と同類みたいです」
なで「だからそれはどういう────」
千奈「────藍井さんっ!!」バンッ!!
撫子「ピエっ!?!? 何ごとって千奈お嬢様!!?? 驚かせないでくださいませ!!」
千奈「も、申し訳ありません!! 藍井さんの最終試験で、いても立ってもいられなくなって……」
広「ふふ、千奈が一番乗りって珍しいね」
佑芽「悔しぃー! いつもは私が一番なのに!」
撫子「み、皆さん……何故ここに……」
佑芽「なんでって! 皆撫子ちゃんの応援に来たんだよ!」
広「そう。撫子、今日は頑張ってね。きっと合格できるから」
千奈「藍井さん! わたくし達は精一杯応援してますから!! 必ず合格できますわ!!」
撫子「…………あ……う……う、ううぅぅう……!!」
千奈「あ、藍井さん!? どうして泣いてますの!?」
佑芽「な、なな泣かないで撫子ちゃん!! メイク落ちちゃうよ!?!?」
広「……ビックリ。もしかして、プレッシャーになっちゃった?」
撫子「違います……!! 違うんです……!! ううぅうううう!!!」
千奈「あわわわわわ!!! ど、どうしましょうプロデューサーさん!!?? こ、こここ、このままでは最終試験出ることができませんわぁ!! わ、わたくし達、凄くいけないことをしてしまったのでは!?!?」
学P「倉本さん落ち着いてください。大丈夫です。最終試験まで時間もありますし、撫子さんは倉本さん達の応援を受けて、感激のあまり泣いてるだけですので」
撫子「(詳細に説明するなという蹴り)」
学P「ほらね? 大丈夫そうでしょう? あっ、痛い、痛いです。やめてください」
佑芽「…………大丈夫かなぁ」
広「うん。きっと大丈夫」
千奈「そ、それならいいのですが……」
⏱ ̖́-
撫子「…………ようやく落ち着いてきましたわ」
学P「……足が」
撫子「自業自得ですわっ! この変態!! ……後で千奈お嬢様達に謝らないといけませんわね」
学P「良かったですね、激励に来てくれて」
撫子「…………まぁ、嬉しくは、ありましたけど。本当にこの学園はお人好ししかいませんんね」 - 10Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 20:12:51
学P「…………撫子さん。この半年と少し、本当に、ありがとうございました」
撫子「…………どうしましたの、らしくない。そんなに深々と頭を下げて」
学P「あの日、客席越しでしか見た事の無い憧れの貴女と出会って、プロデュースさせてくれて、果てには俺の事を信じてくれた。……本当に、この短期交流の期間、俺は、世界一幸せだったと、胸を張って言えます」
撫子「…………貴方」
学P「…………そして、これから先、貴女がどんな選択をしようと、俺はそれを受け入れ、どこにいようと全力でサポートしますよ」スッ
撫子「……これは、初星学園の封筒……? 中に何が入ってますの?」
学P「……初星学園への、転校を手続きが出来る書類です」
撫子「っ!! 初星学園への……転校……!」
学P「一つ、準備が整いました。貴女が、初星学園にいられるようにと、篠澤さんと花海さんのプロデューサーが根回しをしてくれたんです。俺がやったのは極月と初星の最終調整位ですが……転校すれば、初星で、倉本さんや皆さんともアイドルを続けられます」
撫子「それ……は……」
学P「…………分かっています。撫子さん、貴女は極月で、アイドルをやりたい気持ちもあるんでしょう?」
撫子「…………(コクリ)」
学P「勿論、これまで通り、極月で四音さんと一緒に過ごすこともできます。これは、あくまで手段の一つ。必ず初星に来てもらう、なんてことは考えてませんよ。……極論、どちらにいても、初星の皆さんとアイドルができますし、四音さんともアイドルができます」
学P「大丈夫です、今はまだ決めなくていい。ゆっくり、ゆっくり決めましょう。その為に俺がいるんですから」
撫子「…………ごめんなさい、プロデューサー。わたくしの為に、ずっと動いてもらっているのに、わたくしは……本当に我儘ですわね」
学P「良いんですよ。そんな貴女も、どんな貴女も、全部全部、俺が惚れた藍井撫子に変わりないんですから」
撫子「……本当に、貴方って人は。最後の最後まで、恥ずかしい変態ですわね」
学P「貴女のことになると、歯止めが効きませんから」
スタッフ生徒「────失礼します。藍井撫子さん、そろそろ出番です。スタンバイお願いします」 - 11Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 20:13:13
撫子「分かりましたわ、ありがとうございます。…………出番、来てしまいましたわ」
学P「撫子さん。ずっと、応援してますから」
撫子「…………ねぇ、プロデューサー」
学P「なんでしょう」
撫子「あの歌の歌詞。貴方が書いたんですよね?」
学P「……拙いなりに、頑張りましたよ」
撫子「そんな責めようとしてるわけじゃありませんの。……ただ、わたくしらあの歌詞にあるように、強くなんてありません」
撫子「迷い。怯え。四音お姉様の後ろだけを追いかけてきて……自分で考えたことなど無かった。途端に月の光が消えれば、すぐに自分の場所なんて分からなくなる、小さな小さな帆船。それがわたくしです」
撫子「…………それでも、それでも貴方は、わたくしが、星の光になって、自分自身で未来を照らせると、そう思ってますの? この、真っ暗闇の大海原を」
学P「えぇ。勿論」
撫子「…………即答じゃないの」
学P「当たり前です。何度だって言いますよ。貴方は、自ら輝ける強く美しい光。それは、俺が保証します」
学P「それに、何度迷っても何度道が見えなくなっても、必ず貴方の傍に行きますよ。俺は貴方の信じた羅針盤ですから」
撫子「ふふ、変態ストーカーの間違いじゃないんですの?」
学P「……まぁ、今の言い回しは誤解を招きますね」
撫子「まぁ、試験前にこれを話せて良かったですわ。ようやくスッキリしましたので。……それじゃあ、行ってきますわ」
学P「…………はい。行ってらっしゃい、俺のスター」
撫子「えぇ。とくとご覧なさい」
撫子「─────貴方の一番星が、輝く様を!!」 - 12Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 20:15:47
────喧騒も、騒音も、不思議と撫子は気にならなかった。呼吸は安定していて、心臓の音も穏やか。思考はどこまでもクリアで、手足どころか全身の細胞一つ一つに至るまで、自分の思うままに操作できるような、そんな気さえしていた。
こんなにもコンディションが良い時は、過去四年間、どの時期を探しても無かったと、自信を持ちながら、舞台への階段を一段ずつ、噛み締めるように上っていき、ステージの地面を踏んだその時、世界から音が消える。
ツインアップの髪を下ろし、普段よりも大人びた様相の彼女が、藍色のスカートに散りばめた星の煌めきをたくし上げると、観客から疎らな拍手が送られる。
「─────極月学園交流生、藍井撫子です。宜しくお願い致します」
この時、観客は少し辟易としてた。
撫子の順番は四番目。パフォーマンスをするとは言え、基本的には応援の類は禁止されており、本番中、観客には手拍子しか許されていない。大した反応もできず、手拍子しかできない状況で、同じようなパフォーマンスを見させられていれば、飽きがくるのは当然のこと。
故に、撫子の順番は、中途半端で最も観客が疲れ、飽きがきている時、というジョーカーに他ならなかった。
……せめて、NIAを勝ち残った人が出ていれば。
……大体同じようなパフォーマンスで飽きてきた。
……凄いのは分かるけど、アイドルである以上毛色は同じなのがちょっと。
観客のほぼ全員が、大なり小なりこのような思考がチラつき始めていた。
(……撫子さんのコンディションは最高。恐らく、これまでの四年間で類を見ない程に。しかし、観客のノリが悪い。……流石に分が悪いか)
撫子を想うプロデューサーでさえ、悪い思考に侵食され始めた────
「────ボサっと見てるんじゃありません」
キィィイイイイイイイイイ────!!!!
「「「っ!?!?!?」」」
突如として、耳を劈く金切り音が、会場を支配する。あまりの大きさと突然の出来事に会場の全員が一瞬困惑し、現状を把握した者から、その音の原因────撫子の元へと視線を向ける。だが、撫子は既にステージの中央で、曲の始まりを待っている。
会場のほぼ全員が、ただの事故だと思う中、一握りのアイドル達は、その撫子の真意を見抜いていた。 - 13Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 20:16:18
「………今あの子、わざとハウリングさせたわね」
「はぁ? 何言っちゃってんの咲希。ありゃどー見ても事故でしょ」
「はぁ……これだから三流アイドルは」
「おうおうおー、喧嘩なら買うぞー?? ていうか、あんな気持ち悪い音わざと出してもしょうがないだろ。なんになるってんだよ」
「違うわ。今この場面だけにおいて、効果は絶大よ。あの子、視線を強制的に自分に向けさせたの」
「はぁ??」
「まだ分かんないかなぁ……特別枠を含めた七人での最終試験。中間での出番は、一番観客と審査員がダレるタイミング。どんなに見よう見ようって思っても、無意識に疲れと飽きが出てくる。そうすれば、もちろん審査にも悪影響。でも、それをわざとハウリングさせて、空気の全てをリセットしたことで、強制的に視線を集めたってこと」
「い、いやいや、そんなこと狙うって無理だろ……それに、仮にそうだとして、結局疲れは出てくるっしょ?? 一過性の物なら意味ねーんじゃ……」
「えぇ、その通りよ。……でも、見なさい」
始まりは穏やかで、優雅だった。ハウリングで少し遅れた曲の始まりすら狙い通り。バイオリンとピアノが、優しい高音と心地よい音色を奏でる中、彼女は静かに踊る。つま先から指先まで、一寸の狂いも無いその美しさに、その場にいた全員例外なく、息を飲む。
「……アイドルとして、正直褒められたものでは無いわ。でも、自分を魅せる為にあらゆる物を使う胆力と、不快感すら一瞬で忘れさせる実力……あの美しい輝きから、どうやって目を逸らせと言うの」
掴みは上々、どころか最高。観客の全てを引き込んだまま、彼女は喉を開く。
「…………すぅ」
高性能なマイクすら拾えない小さな呼吸をして、広く、深く、全ての人の心へと染みるように歌い始める。
バイオリンだけのAメロから始まり、曲調を殺さないように、それでいて、強く、優しく。
『────撫子さん。貴女の歌声は、少し癖こそあれど、その奥底には誰よりも強い魅力があります。貴女は思うがまま、自分らしく歌いなさい』
(…………あぁ、お姉様。中等部一年の夏、歌声が伸びずに悩んでいた時、始めて声をかけてくださって、それから、わたくしはどこまでも貴女に着いていましたわ)
脳裏に瞬く間に過ぎるのは、誰よりも尊敬して、誰よりも大切な人との思い出。その思い出を噛み締めるように、舞いのしなやかさは上がっていく。 - 14Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 20:16:45
AメロからBメロへと切り替わるその少し前から、BPMは彼女の心臓の鼓動に比例するように上がっていき、ドラム、シンセ、数え切れない程の多量のエフェクトを乗りこなし、Bメロに差し替かる頃には、振りもイントロの時とは打って代わり、荒波が激しく岩肌にぶつかるような、美しく優雅な流麗さとは程遠い物へと変化していく。
『────もう少し指先に力を込めなさい。貴女は力を疎かにする印象があります。少しお手本を見せましょうか。…………こうするのです、分かりましたか?』
(中等部二年の秋。お姉様に教えてもらった心構えを、見せてもらったあの姿を忘れた事など、一度たりともない。常に見て、お姉様のようになりたいと、ずっと練習を重ねてきた。今、その全てが実を結んでいると、自分自身で感じている)
思い出と、自分の体がリンクするのを感じている。あの人のように、貴女のようにと、彼女は理想を追い求め、その理想は今現実の物として昇華した。全身の全てがあの人と同じように、それでも自分らしさは失わず、何よりも尊かったあの時間が、彼女の才能を限界以上に引き出す。
「あの子……NIAのquartetで清夏ちゃんと一緒だった子だよね? 凄いパフォーマンス……なんでこんなに、目を離せないんだろう……」
「…………正直、quartetでのあの子は、ここまで上手じゃなかった。でも今仮に競ったとしたら、ちょーっと厳しいかも……あれから半年で、どうやって……」
「きっと、心の奥底に届けたい人がいるんだよ……!! 誰かを想って強くなるのは、王道展開だから……!!」
「……リーリヤ、なんかテンション高くない?」
「…………本当に、撫子さんは凄いアイドルです」
会場にいるほぼ全員が、撫子のパフォーマンスに心を奪われ、身動き一つ取れない中、この二人だけは違った。
白草四音とプロデューサーは、瞼の裏にまで焼き付けようと撫子のことを見ているが、その意識の数割は互いに向けられている。
「…………あの子が踊っています。黙りなさい」
「それはその通りです。……ですが、今貴女を捕まえておかなければ、貴女はまた、撫子さんの元から去ろうとしてしまう」
「…………私が、あの子の元から去ったわけではありません。あの子が、私から離れたのです」
「えぇ。最初こそ、俺もそう思っていました。……けれど、逆では無いのですか?」 - 15Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 20:17:15
「…………」
躍動する波涛のように、けれども、美しさは忘れず。苛烈に、可憐に、思い出のあの人を重ねて。壮大なドラムロールを乗り越えて、サビの爆発的なインパクトに負けぬよう、いや、それすらも凌駕して。
息切れなんてしていない。無限に何時間でも、歌って踊れるような程、呼吸が安定している。
『────サビは変化させることを意識させなさい。イントロからこれまでの全部を火種にして、大きな篝火として燃え上がらせるのです。世界で最も輝いているのは自分だと、誰にも負けぬ輝きを知らしめるように』
(中等部三年の冬、Bランクに上がることが出来ても、貴女はいつまでもわたくしの前にいて、わたくしの導となってくださっていた)
空気が震え、観客は心の底から何かが込み上げてくるのを感じる。スピーカーからの音だけじゃない、完成度の高い楽曲だからじゃない。彼女の歌声が、踊りが、視線が、手が、足が、瞬きが、彼女を構成する全てが、眩い輝きを放ち、今ここに本物の星が降りてるような、そんな錯覚さえしてくる。
三十秒から一分程の短くも永い、荒れ狂う嵐の海を越えた先で、彼女は唐突に静止する。スカートの星をはためかせ、甲高いバイオリンの音をより一層響かせた後、カーテシーを審査員の方に向けて。
初め、審査員はこのカーテシーが自分達へと送られたものだと思っていた。しかし、そのすぐ後に気が付く。これは"私達では無い誰か"へ向けられたものだと。
静かにピアノの音が鳴り響く中、彼女はゆっくりと両手を上げた。
「……短期交流生に撫子さんが選ばれた理由、俺は最初、貴女がスケープゴートに選んだからだと思いました」
「貴様っ!!」
反射的に、四音は立ち上がり感情を露わにする。
しかし、彼女がまだ歌い踊っているのを思い出すと、眉間に皺を寄せたままステージの方へ向き直る。
「NIAでの初星への妨害行為で損なった信用を回復しつつ、自らは地位を保持する。その為に、撫子さんは送られてきた。そう、思っていたんです」
「……その通り、だと言ったら?」
「まさか」
四音の挑発を、プロデューサーは軽く笑って受け流す。
「よく考えれば簡単な事でした。でも俺は、撫子さんをプロデュースできた嬉しさと、貴女への怒りで思考が単調になっていた」
「────貴女は撫子さんを守る為に、この交流期間を無理矢理設定したんですね」 - 16Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 20:17:40
サビの終わり、静寂に包まれる中で、彼女はゆるやかにワルツを踊り始めた。
パートナーのいないワルツ。しかし彼女の手には、確かにもう一つの手が握られている。
恍惚とした表情で、何よりも愛しいその人を見つめながら、彼女は誰よりも楽しそうに、愛おしそうに踊り続ける。
(…………四音お姉様。誰よりも尊敬し、何よりも尊かったわたくしの月)
右へ、左へ、上へ、そして下へ。まるで満ちる月を描くように、彼女はそこにいないパートナーの手を取り続ける。
「…………いつから、気付いていたのです」
「…………最初から、と言いたいところですが、俺もまだまだ未熟者。この交流の意味を探ろうとしたのは、貴女が中間試験に見に来る少し前です」
四音は何も言わず、ただプロデューサーの言葉に耳を傾ける。
「貴女は、撫子さんがデビューした夏のあの時から、既に共にステージに立っていた。そして、それから時が経ったNIAでも、貴女達はプロモーションやイベントでも一緒でした。そんな貴女が、いくら何でも彼女を捨て駒にするわけがないんですよ」
「……私の悪評は知っているのでしょう? 手段を選ばず、ただ相手を蹴落とし、自分が上に行こうすとする野心家……それが私です。ならば、あの子すらも切り捨てる冷酷さがあると考えないのですか?」
「始めこそ、そう考えていました。けれども、貴女が中間試験に来たことで、考えが変わった。いや、目が覚めました。何故なら、貴女は俺と同類だと確信したから」
「同類……? 貴方のようなおぞましいプロデューサーと、この私が?」
「いいえ、同類ですよ。────俺達は二人揃って、藍井撫子というアイドルを愛している。……違いますか?」
「…………」
四音の手に、力が込められる。怒りでは無い、悔しさでは無い。ただ、このプロデューサーに自分の心を見透かされた、自分の真意を悟られた。自分の失敗を隠し続けた幼子が、親にそれを暴かれた時の、焦燥感に似た感情。
「そんな貴女が、撫子さんを切り捨てるわけがない。できるわけが無い。……そして、極月学園に赴いた際、黒井理事長とお会い出来るタイミングがありました」
「黒井理事長……まさかあの人……!!」
「えぇ、教えてくれましたよ。この短期交流を申し出たのは、白草四音であると。そして強く自分を非難し、撫子さんを短期交流生として推薦したと。……そして、その意図も」 - 17Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 20:18:10
「…………ここから先は、貴女の言葉で伝えて欲しい。俺ではなく、撫子さんに。あの人は、今も貴女の想いと思い出に、板挟みになっている。貴女の真意を知らず、ただ裏切った貴女に、罪悪感と迷いで苦しんでいる」
「…………あの子に……あの子に言えるとでも……思うのか……!!」
四音の両肩が震える。二の腕に爪がくい込み、制服の繊維が切れる。けれども、それに気が付く余裕も、もう彼女には無かった。
「…………四音さん」
「そうだ……そうだ……!! お前の言う通りだプロデューサー!! NIAでボクは醜態を晒した……!!そして すぐに分かった……このまま極月に居続ければ、必ず皺寄せが来ることも……!!」
静かに、それでいて強く、新月の少女は独白を始めた。
「ボクだけならいい……あの人の輝きに目を潰され、歪んだ道を進むしか無くなったボクは、もうとうの昔に全部終わっている……!! でも!! けれどあの子は……!! 撫子だけは……!! ボクが、ボクでしか守れなかったんだ……!!」
「……だから、この短期交流に撫子さんを推薦したんですね」
「あの子が極月の冷たさに、いつまでも慣れていないことは分かっていた……心優しく、他人を慮ることが出来るあの子が、ボクのせいで歪み、NIAで本当は苦しんでいたことも……!!全部!! 全部知っていた!!」
「…………」
プロデューサーは何も言わず、四音の慟哭に耳を傾ける。
「極月にあのまま居ては、ボクだけじゃなく加担した撫子まで非難を浴びる……どうにかそれを抑え込められても、あの冷たさに、いつか心優しい撫子は壊れてしまう……!! だから逃がさなきゃいけない……あの子が、本当にのびのびと成長できる、暖かい星の光の元へ!! ……極月は、月の光は……あの子には冷たすぎる……」
「…………」
「…………そして、黒井理事長に進言したんだ……『私の失態で起きた極月の悪評を、払拭する方法がある』と……そして連絡を断ち、あの子ともう会わないと決めたんだ……きっとあの子は、初星を気に入る。極月よりも、初星にいたいと願うだろうと思ったから。……こう見えて、人の機微には聡い方なんだよ」
「……けれど、貴女は会ってしまった。いえ、会いたくなったんですね、撫子さんに」
「……えぇ、そうです。本当は、一目見てそれで帰ろうとした。……けど、我慢できなくなっていた……」 - 18Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 20:18:59
「……それもそうだ。四年間……四年間苦楽を共にしてきたんだ……今更ポイと連絡絶って、あとはさよならなんて……できるわけがない……そしてあの子が、初星の子と一緒にいて、酷く苦しかった。本当なら、あの子は今もボクの隣で、アイドルをやれているはずなのに」
そう自嘲する四音の目に、薄らと涙が溜まる。
「何よりも大切な人の手を手放した。……そう悩んでいたのは、貴女も同じだったんですね」
「…………ボクだけだ。ボクだけが、前に進めていない。……あの子は選択した。迷い、苛まれながらも、極月から、ボクから離れる選択をしたというのに」
「…………そうです、撫子さんは選択をした。苦しみながら、迷いながら。そして今も悩みながら、けれども、彼女は自分の輝きを信じ始めた。────貴女にも、同じように生きて欲しくて」
「…………え?」
間奏は佳境を迎え、もう残り少し。壮大な海の物語は、終わりを迎えようとしていた。
(…………わたくしは、お姉様の手を離す選択をした。誰よりも敬愛する貴女を、裏切る選択をした。……それに対して、何も言い訳するつもりはありません)
ゆっくり、ゆっくりと手を離し、誰もいないワルツを終わらせる。名残惜しそうに、それでも、その眼には焔を灯して。
(けれど、プロデューサーは言っていた。四音お姉様は、自分と同類であると。……あのプロデューサーが、わたくしのこと以外で中身の無いことを言うとは思えない)
徐々に曲の速度が上がる。最後の見せ場、ラストにある極大のそれに向かうように、彼女の思考も加速する。
(プロデューサーがわたくしのことを好いているように、お姉様もわたくしのことを好いてくれている。プロデューサーが初星にいて欲しいと願っているように、お姉様も極月に残って欲しいと願ってくれた。……もし、お姉様も、わたくしのことを想って悩んでくださっているのならば、お姉様も、わたくしと同じように悩んでいるのならば、証明してみせる!)
徐々に、徐々に、それでも確実に加速する曲に合わせるように、彼女の才能は荒れ狂う波涛となって世界へと向かう。
(迷いながらも、道を間違えても、わたくし達は歩み続けられる。もう背中を追うだけでなく、貴女と共に歩めると! 例え、波が荒れ狂い、嵐が吹き荒び、光などなく、先の見えない大海原だとしても────!!)
「────月と星は、今ここに!!」 - 19Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 20:19:46
これまでの時間が、想いが、全てが、撫子の才能を完全に開花させる。トキメキと、わくわくが止まらない。止められない想いが、あふれる思い出と共に力になる。
もう何も恐れることはない。ただ前に進むだけ。
歌声は軽やかに、それでいて重く、白昼の月へと届かんばかりの光を放つ。踊りは流れる波のように、凪のように静かに、それでいて荒々しく、星すらも飲み込まんとする。
ラストのサビ、そして終幕へと、彼女は高らかに歌いあげる。
暗闇でもがき、苦しみ、光無き大海原をそれでも勇みよく進む旅人の歌を。己と敬愛する貴女に、どうか届いて欲しいと。
「なで…………しこ……あな……た…………は……!」
新月の少女が、涙を流す。今までずっと独りで、誰にも話せず、誰にも頼らず、孤高たれと苦しみ抱えていたのを、今始めて吐き出した。
「あ……あぁ……!! 私が……ボクが……!! 守らなくても……!! 貴女はこんなにも輝いていたのか……!! ボクは……ボクは……!! 貴女のことが……!! 何も見えていなかったのか……!!」
少女の苦しみは大粒の雫となって、彼女の大海原の一つとして交わる。それは、少女が課した己の呪いとの決別を意味していた。
「くっ……!! う、うぅ……!! 撫子……!! 撫子……!!」
それでも、少女は目を離さない。霞んだ視界でも、彼女のパフォーマンスを、全てを、目に焼き付けなければいけなかったから。
(あの時の約束を、トップアイドルに共になるという約束を、わたくしは覚えている。弱くても構わない。何も見えなくても構わない。月が見えなくとも、星が見えなくとも、嵐が吹き荒ぼうが、何があっても進み続ける!!)
『────行ってらっしゃい。俺のスター』
(信じてくれる貴方がいる。見てくれている人がいる。わたくしを想ってくれている貴女が、約束した貴女がいる!! だからこそ、わたくしこそがスターだと、胸を張って進み続けられる!!)
「撫子…………私の、スター……!!」
(果てなき闇の中でも、手を伸ばせば、伸ばし続ければ、いつか光となることを信じて!! だから!! これで最後!! 幾万の思い出を、全てを力に変えて!! 貴女の心へ、わたくしの全て────」
「──────届いて!!!!」 - 20Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 20:20:18
「────はあっ!! はぁっ!! はぁっ!! はぁっ!! ぜーぇっ!! ぜぇーっ!! はぁっ!!」
静寂。
曲が終わり、踊りも、歌も、全てが終わったその先で、撫子を待っていたのは静寂だった。
撫子の激しい息切れと、黄昏れの光が照らすステージの輝きだけが、世界の全てであった。
「あり……がとう……!! ございましたっ!!」
それでも、全てを出し尽くした彼女が勢いよく頭を下げると、少し、ほんの少しずつ、拍手の音が出始める。
小さく、疎らであり、万雷とは言い難い拍手を背に受け。彼女はステージの上から去る。
この時、観客はただ義務感から拍手をしていた。
しかしそれは、撫子のパフォーマンスが決して劣っていたからでは無い。ただ、観客は目の前のステージを、藍井撫子というアイドルを信じることが出来なかった。
あまりにも完成されすぎたパフォーマンス。これが、学園の試験程度で出されていいはずが無い。……あまりにも、現実離れした、全てのアイドルが、いや、ステージという物に立つ全ての人間が、目指すべき最高到達点。
あの瞬間においては、一番星すらも優に超えていると、誰もが感じていた。
────撫子が立ち去った後のステージを、しばらくは誰も目を離すことが出来なかった。
「────撫子さんっ!!」
プロデューサーが控え室に戻ったのは、撫子が戻ってから少し後のことだった。撫子の魅力を全て知り尽くしているプロデューサーですら、あの場からしばらく動けず、ただ余韻に浸ることしかできず、撫子を迎えに行かなければという義務感が、プロデューサーを動かした。
「…………騒々しいですわね。わたくし今疲れてますの。賛辞なら後で沢山────」
その続きが、喉から出ることは無かった。椅子に座り、優雅にお茶を飲む撫子のことを、プロデューサーが強く抱き締めたからだ。 - 21Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 20:26:46
「────ピエッ!? ちょ、ちょっと貴方!! 何をしてますの一体!! とうとう抑えきれなくなってわたくしを襲おうとしてますの!?!?」
「……いいえっ……!! 違います……!! 撫子さん……本当に、本っ当に素晴らしいステージだった……!!」
「え? ま、まさか貴方……泣いてますの? え? え? 何故? なんで??」
「貴女を、ずっと見ていて本当に良かった……!! あの日、あの場所で、貴女を見つけられて、本当に良かった……!! ありがとう……!! 本当に、ありがとう……!!」
「え? へ?? あ、え?? えぇ?? な、何を言ってますの?? こ、こういう時は取り敢えず頭を撫でればいいんですの……??」
恐る恐る、撫子の手がプロデューサーの髪に触れようとしたその時、芯の通った美しい声が制止する。
「────初星のプロデューサーは、担当に手を出す下衆野郎だったんですか?」
「お、お姉様!?!?」
「おわっ!!」
突如吹き飛ばされるプロデューサー。それを意にも止めず、撫子は立ち上がり、四音の元へと駆け寄る。
「…………撫子」
「…………あの、お姉様……その……見ていて、くださったんですね……」
二人の間に、気まずい沈黙が流れる。彼女達にとって、この半年間は唐突な展開の連続であったが故に、いざ面と向かって話そうとするのは、些か気恥しいものがあった。
「…………お姉様。わたくしは……貴女に許されようとは思っていません……貴女のことを、極月のことを、裏切ったのは確かなのですから……でも、わたくしは……その……」
「…………撫子。まずは、謝らないといけません」
「え?」
「…………私が、この短期交流を設定したのです。でもそれは、貴女を守ろうとしたから……NIAで、貴女が批判の矢面に立たされるのが……極月で、苦しんでいるところを、見たくなかったから……」
「そんな……!! 極月が苦しいところなど、わたくしは一度たりとも思ったことはありません!! わたくしは、お姉様と共にあの学園で学び続けていたのです!!」
「…………いいえ。貴女は、私がいたから、あの学園にいたのでしょう?」
「……そ、それ……は……」
「……大丈夫。貴女の優しさは、本当によく知っています。そして、ごめんなさい。貴女のその優しさを、私が歪み、壊してしまいそうになった」 - 22Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 20:30:01
「お姉……様……」
「貴女はもう、極月に、私に縛られる必要は無い。撫子、私は、貴女と対等であり続けたい。貴女と一緒に、この世界の頂点を見たい。……そしてそれは、貴女がどこにいても、共にできること。そうでしょう? 変態なプロデューサーさん」
「…………えぇ、その通りです。そしてその手筈も、もう整えてありますよ」
プロデューサーは、少しむっとしながらも、自身の鞄から封筒を取り出す。机に置かれたのは、二つの封筒。
「これって……961プロと、100プロの封筒!? 学園じゃなく、事務所のものですわよ!?」
「はい。撫子さんと四音さんを中心とした、961プロ、100プロの業務提携に関する資料、並びに条件等が書かれた書類です」
「……つまり、どういうことですの? 端的に説明しなさい」
「今回の短期交流で、撫子さんは素晴らしい結果を残しました。結果発表こそ後ですが、貴女が大差でトップなのは間違いは無い。そしてこれは、初星と極月の異なる環境において、さらにアイドルとしてのステップアップが出来ることの証左に他なりません。故に、100プロと961プロの業務提携を行い、合同でのアイドル養成プロジェクトを行うよう、我々は働きかけることができた」
「それって……!!」
「はい。撫子さん、貴女が頑張ってくれたことで、その養成プロジェクトの中心に、撫子さんと四音さんが選ばれますよ」
「ほ、本当なんですの!? まだそれは草案なのですよね!? 本当に、お姉様とわたくしが選ばれるのですか!?」
「えぇ。このプロジェクトは、貴女がアイドルとしてステップアップできると証明したからこそ、成り立つプロジェクトです。そしてその撫子さんに欠かせないのは、四音さんだけであり、パートナーとして必要不可欠です。十王社長、黒井社長からも、お墨付きを頂いていますから」
「…………十王社長はともかくとして、あの黒井理事長は約束を履き違えることは無いでしょう」
「じゃあ……!! じゃあ!! お姉様!!」
「えぇ、これからも、共にアイドルができます。……会う頻度こそ少なくなりますが……それでも、貴女とアイドルができる」
「お姉様……!! お姉様!!」
感極まり、撫子は四音へと飛びつく。汗ばんだ体も気にせず、ただ喜びと幸せに身を任せて。四音もそっと、優しく抱き返す。 - 23Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 20:30:31
「これからも、ずっとアイドルができますわ!! お姉様と一緒に!! トップアイドルを目指すことができますわ!!」
「……これからも、共にトップを目指せる。ごめんなさい、撫子。貴女の手を一度離したボクを、許してくれる?」
「わたくしも、貴女の手を一度離してしまった! あまつさえ裏切ったわたくしを、許してくれますか!?」
「もう一度、ゼロから始めよう。今度は追う追われる関係ではなく、2人で、肩を並べて。あの日の約束を、果たす時まで」
「はい……はいっ!! 勿論ですわ!! 一緒に!! これからも共に、トップアイドルを目指しましょう!!」
────二人はいつまでも喜びを分かち合う。
暗闇の大海原ではなく、満天の星の元、月と星はようやく出会うことが出来た。
そしてその感動の再会に水を差す、空気の読めない変人は、それでも話さなければいけないことを話し始めた。
プロデューサーも、この二人の間に挟まりたくは無かった。けれど、それでもと、唇を噛み締めて言葉を話す。
「…………撫子さん、そして、貴女はもう一つ選択をしてもらわなければいけません」
この言葉に、撫子は急速に冷静になる。
そう、今まで先送りにしていた問題を、彼女は決めなくてはいけない。
「……これを、どうするかです」
プロデューサーが取り出したのは、もう一つの、今度は初星学園と書かれた封筒。
撫子が、転校することのできる、初星にいられる、その書類が入っている封筒だった。
「完全にこれは俺のお節介でもあります。……けれど、貴女がこれを望むとも望まなくとも、俺は今まで通り、貴女の事を全力でサポートします」
けれど、撫子の心はもう決まっていた。
自身の最高のパフォーマンスをする中で、四音と改めて話した中で、撫子は自分の心とも正直に対話していた。
「……お姉様」
けれども、ただ一つの懸念を振り払うように、四音の方へと向く。
「……撫子。ボクは貴女の選択を、最大限尊重する。だから、心のままに選んでいい」
そして今の言葉で、決心はより一層強くなった。
撫子は大きく息を吸って、プロデューサーの目を強く見つめる。
その目には、今までとは違う、強い決意が漲っていた。
「わたくしは初星学園に────」 - 24Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 20:48:37
そして時が経ち────
あさり「────分かりました。……そう、藍井さんは選んだんですね」
学P「はい、先生」
あさり「…………本当に、良かったんでしょうか」
学P「……えぇ、彼女が決めたことです。俺は最大限、それを尊重しますよ」
あさり「これから大変になります。何かあったら、先生に遠慮なく相談してください」
学P「ありがとうございます。それでは」
プロデューサーは職員室から外に出て、校門へと歩いてきた。
初星学園の校門の桜並木は、既に満開に咲き誇っており、まるで初星学園の全てを包み込むように、優しくその花弁を散らしている。
学P「…………撫子さんと出会ったのも、この校門でだったな」
プロデューサーは、もう隣にいない懐かしい人を想いながら、懐かしさに浸る。
彼にとって、あの半年間は何よりも変え難いものであり、
夢のような時間だった。けれども、その相手は今プロデューサーの隣にいない。
撫子が極月へと戻ってから今まで、プロデューサーは全てが無くなったような喪失感に苛まれていた。
学P「…………」
プロデューサー達が起こしたプロジェクトは、講堂でのライブが終わった次の週にはすぐさま始まり、プロダクション同士の連携も相まってか、比較的早く軌道に乗った。
連絡は取り続けている。けれども、二人はそれぞれやるべき事があり、プロデューサーはプロジェクトにおけるアイドルの日程調整や、その審査に。撫子は、中心人物故に、プロモーションや極月での活動、それに並行してライブ等もこなしている為、二人が会える時間などそうそう無かった。
その会えない時間は、プロデューサーにとっては苦しいものに他ならなかった。
いくらグッズを持っていようと、本物に会ってしまえば、愛でるだけ、見てるだけでは物足りなくなってしまうというものだ。
学P「…………会いたい」
プロデューサーがボソリと呟く。その言葉は、静かに上へと上がり、ただ青空に消えていく。
そして、初星学園は新学期を迎え、撫子とプロデューサーは、互いに別々への道へと進むことになった──── - 25二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 20:52:15
熱い
- 26二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 21:30:16
これで終わりか……? まだあるよな……?? 撫子が初星に来ないエンドとかあるか……??
- 27Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 22:25:10
「────だーれに会いたいって言ってますの。この浮気者!」
声のした方に振り向くと、そこには桜吹雪の合間から、光を放つ少女の姿が。
月夜のように漆黒の制服ではなく、白く気高い制服を身にまとって、彼女は靴音を鳴らしながらプロデューサーの元へと歩き始める。
サイドアップの髪は辞め、巻かれたピンクの可愛らしい髪を揺らしながらプロデューサーの眼前に立つと、ほんの少しだけ伸びた背をさらに少し伸ばして、ネクタイを掴んで強制的に自分に近づける。
撫子「貴方! あんなにわたくしに首ったけだのぞっこんだの言っておいて、わたくしとすこーし会えなくなったら浮気しようとしてるとか! さいっていですわよ!?」
学P「初星の制服も似合ってて可愛いですよ。あ、髪少し伸ばしたんですね」
撫子「話を逸らさないでくれます!? このわたくしがいながら浮気したいだの言って……!! わたくしの羅針盤になりたいと言ったのは嘘でしたの!?」
学P「……貴女に会いたいと言ったんですよ。最後にあったのは2月じゃないですか。2ヶ月も会えてないんですから」
撫子「本当ですのー??」
学P「本当ですよ。今更俺が、貴女以外の女性に現を抜かせると思っていますか?」
撫子「…………ま、それもそうですわね。わたくしを大好きな変態さんが、他の人なんて見れるわけありませんもの」
学P「それにしても、まさか撫子さんが本当に転校するとは思いませんでしたよ」
撫子「結構悩みましたけども。……やっぱりわたくしは、初星が心地よいと思いましたし。そ、れ、に、変態で気持ちの悪いプロデューサーが、他の子に粉かけないか、わたくしが監視する必要がありますし??」
学P「……ずっと思ってたんですけど、その変態っていうのどうにかなりませんか? 流石に延々と言われるのはちょっと……」
撫子「い、や! ですわ! 貴方はずぅーっと変態でいいのです!! …………それに、変態じゃなくなれば、絶対他の子が寄ってきますし(ボソッ)」
学P「貴女以外眼中に無いですよ」
撫子「このっ!! このっ!! そこは聞こえないふりをするべきでしょう!! 朴念仁を演じていなさい!!」
学P「痛い。痛いです蹴らないで。本当に痛いです」
撫子「はぁー…………本当に、なんでこんな人を……まぁいいですわ」 - 28Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 22:25:37
撫子「……そうだ、貴方、わたくしをエスコートしてくださる? この学園を、改めて見ようと思っていましたの」
学P「えぇ、是非そうしましょう。貴女はすぐに迷子になりますから」
撫子「なりませんっ!!」
学P「クリスマスのイルミネーションで人混みに流され泣きながら電話してきて、さらには初詣に行きたいと言って、着くやいなや神社で迷っていたのはどこの誰ですか?」
撫子「あれらは人が多すぎたからですわ!! 人がわたくしを迷わせていましたの!!」
学P「それを迷子というのでは?」
撫子「ぐぬぬぬぬ……!! 本っ当に貴方のこと嫌いですわ!!」
学P「俺は好きですよ」
撫子「知ってます!!ってあぁもう!! こういうことをやりたいんじゃないですの!!」
学P「奇遇ですね。俺もそろそろ、本題に入りたいとおもっていましたから」
撫子「…………互いに考えていることは、一緒みたいですわね」
学P「えぇ。それじゃあ、改めて」
撫子「────極月学園から転校してきました、初星学園高等部二年、藍井撫子ですわ。以後お見知り置きくださいませ」
学P「初星学園プロデューサー科三年の────」
撫子「結構ですわ! 変態ロリコンストーカーの名前など、覚えたくもありません!!」プイッ
学P「…………」
撫子「────なーんて。もう貴方の名前も、好みも、趣味も、好きなアイドルも、だーいすきな人も、全部ぜーんぶ、知ってますわ」
学P「………正直本当に傷つきそうになったんですが」
撫子「今更こんなことで狼狽えないでくださる? それより……わたくしは、今も道を決めることができません。どう進めばいいのか、どこを進めばいいのかも、分かりません」
学P「はい」
撫子「貴方は、わたくしの道を導いてくれますの? わたくしが、進む道を見失わないように」
学P「絶対に。貴女の最善の道へ、俺が導きます」
撫子「今も海を漂うわたくしに、貴方が羅針盤となってくれますの?」
学P「はい。貴女に誓って、必ず」
撫子P「────だから、俺を貴女の、羅針盤にしてください。俺が、貴女をプロデュースします」 - 29Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 22:26:54
「…………変態で、ロリコンで、ストーカーで、気持ちの悪いプロデューサーですけど。……貴方は、いつでもわたくしを見てくださっていた」
「これからも、いつまでも、わたくしの傍で、わたくしと四音お姉様がトップアイドルになるその時まで、ずっと見ていてください。そして、わたくしが道を見失わないよう、しっかりと導を示してください」
「────わたくしだけの、ただ一人の大切な羅針盤さん!」 - 30Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 22:35:20
ここまで見てくださって、大変長くお付き合いいただきまして、本当にありがとうございます。
これにて完結になります。
文なんて書いたことない人間が、見切り発車で気の向くまま初めて、まさかの8万字書くことになるとは思いませんでしたし、1月から始めて2月に突入するなんて……改めて、ここまでお付き合いくださった皆様に感謝しかありません。
個人的には、もう少し詰められたなーとか、もう少し表現できたなーとか、色々思うところはありますが、一先ず完結できただけ良しとしています。
ただ、これだけで終わるのは少し味気ないと思うので、ちょっと質問コーナー的か、外伝的なものはやっていいかなって考えています。
撫子と学Pに質問すると、お二人から返事があるかもしれません。日常やこれから、二人の関係などなど、なんでもOKです。
勿論、自分への質問もOKです。寧ろしてくれると嬉しいです。
最後になりますが、ここまで書けたのは、見てくれた皆さんのおかげに他なりません。本当にありがとうございました。
またいつか、何か書く時にお会い出来るかもしれません。
その時は、宜しくお願いします。Pドルに幸あれ - 31二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 22:38:07
最高だった!
君才能溢れるよ。 - 32Pドル絶対信仰者25/02/18(火) 22:41:53
- 33二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:03:28
そういえば中間試験って、こんなに長くやるものだっけ? 半年だったらNIAから夏のHIFって間に合わないんじゃ……
- 34二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:12:07
すみません、完全に自分のミスです……自分も気が付いたのは結構最初の方なんですけど、その時からもう修正できなかったので、この時空はちょっと不思議空間というか、大まかな時間軸は気にしない方向でお願いします。
- 35二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:16:19
完結待ってた!素晴らしい作品でした!
スレ主さんがまた別作品を作ってくれることを楽しみにしてます! - 36二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:19:54
あんたのせいで撫子をプロデュースしたくなったよ!!
どうしてくれる!ありがとよ!!!
なでPに幸あれ!! - 37二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:21:41
最終試験での撫子のパフォーマンスと四音の独白に、読んでて目頭が熱くなりました。
こんなに素敵な作品をありがとうございます。
質問していいとのことだったのでお伺いしたいのですが、
四音が撫子を守るために交流生に推薦したという構図はいつからの構想だったのでしょうか?
スレ立ての時点でも、話が進んでく中ででもどちらでも凄いなと思いつつ、気になったので。 - 38二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:28:44
- 39二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:29:38
- 40二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:35:50
これはスレ立てした後ですね。
撫子をどうやってプロデュースしようか考えた時に、まず短期交流生としてやってくる、というのはすぐに考えついたのですが、何故短期交流が生まれたのか?というのを考えた時に、真っ先に思いついたのが四音を絡ませることでした。
でも選ばれた理由として尻尾切りは流石にヘイトありすぎるし、取り敢えずそういうことにして本当は撫子を守るためにしたことにしよう。そう考えた感じです。
撫子はコミュ見る限り根は優しい子ではあるし、四音も四音でなんやかんや撫子を大切に思っているだろうしと、そんな感じで決まりました。
- 41二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:51:43
撫Pは撫子に劣情は抱いてないよな!?
推しに捧げる清純な愛だよな!? - 42Pドル絶対信仰者25/02/19(水) 00:02:25
撫子P「……………………………………勿論です」
- 43二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 00:09:42
身長差、学Pと撫子の身長差を教えてくれ
なんなら本人たちから聞きたい - 44二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 00:12:41
今後この物語が続くのであれば撫子ちゃんは四音さんとユニットを組んだりするのでしょうか?
あと未来の学Pと撫子の進展状況をざっくりでいいので教えてください
具体的に言うならはみだせ(豹変) - 45Pドル絶対信仰者25/02/19(水) 00:24:49
撫子「そういえば、貴方って結構身長高いですわね」
撫P「それくらいしか取り柄がありませんから」
撫子「わたくしが大体千奈お嬢様と同じで……貴方は見積もっても175、どころか結構超えてるので大体……えっ、身長差が30cm以上ありますの??」
撫P「みたいですね。正確な数値は忘れましたが」
撫子「…………どうりで貴方といると首が疲れるわけですわ」
- 46Pドル絶対信仰者25/02/19(水) 00:31:12
学園が違うので、今すぐにデュエットを組むわけではありませんが、961、もしくは100などに所属すれば組むかもしれません。しかしそれもあくまで一つの可能性ではあるので、彼女たちの選択次第です。ただ、四音も撫子もそれぞれ大切な羅針盤に出会うことは確定しているので、最善の道を辿ることは間違いないでしょう。
二人はそんな遠くない未来ではみ出します。初星に来ちゃった運命だからね、しょうがないね。
- 47二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 00:45:07
このレスは削除されています
- 48Pドル絶対信仰者25/02/19(水) 00:47:46
需要あるか分かりませんが、それぞれの簡単なプロフィールを載せておきます。
撫子P(学P)
撫子曰く『変態ロリコンストーカー』。普段は澄ましているが、好きな物のことになると早口になるし、周りが見えなくなるタイプのオタク。布教も多い。
撫子のデビューライブを高校2年生の時に見て、そこから撫子が大好きになり、生粋のオタクに。初日非公式ファンクラブを作り、グッズは勿論、撫子のライブは全て現地参加。NIAにおいても、拝見したと言っていたが、その実撫子一点でずっと応援していた文句無しのTO。
二年生で撫子の仮のプロデューサーとなり、三年生に上がるタイミングで、とうとう念願の撫子の正式なプロデューサーとして契約をした。
撫子ちゃん応援隊(非公式ファンクラブ)のリーダーで、ゆくゆくは公式ファンクラブにしようと密かに目論む。(せめて名前は変えろと言われた)。
藍井撫子
元極月学園Bランクのアイドル。
類まれなる才能と可愛らしさでファンを魅了するアイドルだが、そのパフォーマンスは可愛らしさとは裏腹に、正確無比な美しさが特徴。
定期公演後極月学園へと戻ったが、それは両親の説得、転入の手続き、アイドル養成プロジェクトのブラッシュアップなど、やるべき事をやるため。全てを終わらせた高等部二年の春、初星学園へと転入し、撫Pと契約を交わした。
最近は私生活がかなり酷く、自分のグッズにすぐお金を溶かすプロデューサーの面倒を見るため、寮に入り浸っているとかいないとか……? - 49二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 01:10:46
藍井撫子SSR、ロジックのやる気型じゃん!届いて以外も仕込んでるのすごすぎ…
ぜひガチャを引きたいので曲名を教えてください!!(切実)
未定やあえての非公表なら大丈夫です - 50Pドル絶対信仰者25/02/19(水) 01:18:26
これ気が付いてくれたの本当に嬉しいです。
そうです、撫子がもしゲームに出たら補習組と同じようにやる気型だよなーって思いながら書きました。8 枚程仕込みました。是非探してみてください。
実際の曲があるわけではありませんが、この曲名は『月海の旅人(つきみのたびびと)』です。
- 51二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 01:56:51
- 52二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 08:21:00
- 53二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 10:36:14
このレスは削除されています
- 54二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 12:16:05
主はこの撫子の性能とか考えてたりするのだろうか。もし考えてたら教えて欲しい
- 55Pドル絶対信仰者25/02/19(水) 12:42:07
- 56Pドル絶対信仰者25/02/19(水) 12:46:25
詳細には考えてはいませんが、ロジックのやる気型で、Pアイテムはあふれる思い出で起動。固有は開幕手札、使用回数+1、使用後やる気が1ずつ増えていく……みたいなのを考えていました
- 57二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 16:02:48
このSSをどこか別のサイトに投稿する予定はありますか?(pixivなど
心突き動かされる凄い素敵なSSだったので、過去ログに埋もれてしまうのは悲しいです
あと個人的には撫子ちゃんと学Pの年末年始~初詣が見たいです - 58二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 17:45:25
あまりに良いSSで感動してしまった。二人の未来に光あれ!
- 59二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 20:04:05
Pなで来るぞ
- 60二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 21:06:14
- 61二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 22:14:35
>>60ありがとうございます
- 62Pドル絶対信仰者25/02/20(木) 00:41:41
────極月学園 学生寮前
学P「明けましておめでとうございます、撫子さん」
撫子「はい、明けましておめでとうございます。プロデューサー、いつから待っていましたの?」
学P「……そんなに待っていませんよ。いって10分位でしょうか?」
撫子「嘘ですわね。貴方気付いてます? 嘘をつく時、妙な間と視線が右に動きますのよ」
学P「よく見てくれていますね。嬉しいです」
撫子「…………相も変わらず、堪え性の無い被虐趣味してますわね」
学P「貴女にだけですよ」
撫子「はいはい。変態なワンちゃんを飼っていると苦労しますわ。今年こそ、まともなプロデューサーになってくださる?」
学P「それは無理な相談です。貴女に俺の全部奪われてしまいましたから」
撫子「はぁ……もうっ! こんなの聞かされるわたくしの気持ちを考えてほしいですわっ」
学P「永遠に分からないかもしれません。それじゃあ、早速行きましょうか」
撫子「ここから歩いて15分程の場所ですわね。今は7時ですけど……人は多そうですわ」
学P「まぁ、元日ですししょうがないですね。割り切っていきましょう。……こっちの方向ですね、行きましょう」
学P「……撫子さん? 立ち止まってどうしたんですか?」
撫子「…………プロデューサー、わたくし、今日手袋忘れてしまいましたの」
学P「えっ? あぁ、そうなんですね。なら待ってますよ。取ってきてください」
撫子「…………大っ嫌い!!!! べーっ!!!!」
学P「…………えぇ??」
⏱ ̖́-
撫子「─────これ、は…………」
学P「流石に……人が多すぎますね……」
~右も左も前も人でごった返し賑わう神社~
撫子「……初詣って、こんなに混んでいるものなのですか?」
学P「いや、流石に今日は多すぎますね。元日とは言え、まさかここまでとは……撫子さん、はぐれてはいけないので手を繋いでおきましょうか」
撫子「っ! 結構ですわ!! 貴方はわたくしのこと子供だと思ってますの!?」
学P「そんなこと思ってはいませんが、流石にこの人の量は……」
撫子「問題ありません!! 貴方こそ、わたくしからはぐれて迷子になっても知りませんから!!」
学P「あっ、ちょっと撫子さん! そんなに進もうとしては────」 - 63Pドル絶対信仰者25/02/20(木) 00:42:02
撫子「全く……貴方は本当にデリカシーというものがありませんわね」
撫子「わたくしは立派なレディです。そんな淑女にはぐれると危ないから等、失礼ではありませんか?」
撫子「前々から思っていたのですが、貴方はわたくしのことを少々幼く見すぎです。それに……乙女心というか……その……なんというか……つまりはお姉様のようにもっと察する力を育みなさいと言ってるのです!!」
撫子「…………聞いてますの? ちょっと! 少しは返事をしたら────」
────ザワザワザワ……
撫子「……………………プ、プロデューサー……??」
撫子「…………あ、あなた!? ちょっと!! どこにいますの貴方!! 返事をしなさい!! 変態っ!!」
撫子「……まさか……は、はぐれてしまった……??」
撫子(嘘っ……ちょっと……!! なんであの変態は近くにいませんの!? あんなに離れるなと言ったのに!! ばかっ!! ばかっ!! 変態ロリコンストーカー!!)
撫子「プロデューサー!! どこにいますのプロデューサー!!」
撫子「あっ! そ、そうだ電話!! 電話をすれば────って充電切れ!?」
撫子(そ、そういえば、昨日プロデューサーと日付変わるまで電話していて……そのまま寝落ちしたまま充電してませんでしたわ……!!)
撫子「ど、どうしよう…………あ……う……」
撫子(人が……人が多い……戻ろうにも、この人混みから抜けようにも、あまりにも多すぎて動きづらい……探そうにも……探せない!!)
撫子「──きゃっ!! あ、ご、ごめんなさい!! あっ……う……あうっ!! す、すみません!! う……うぅ……だ、だめ……人が多すぎて前も見えない……!!」
撫子(────怖い。怖い、怖い、怖い! 動けないし、人の声はあちこちからして自分の声も聞こえずらいし、隣に誰もいない……!! プロデューサー……お姉様……!! なんで近くにいませんの……!!) - 64Pドル絶対信仰者25/02/20(木) 00:43:00
撫子「う……うぅ……!! うう……!! プロデューサー……!!」
「────見つけたっ!!!!」
撫子「ピエエエッ!!??」
「やっと見つけた…………すみません、大丈夫でしたか────」
撫子「へ、変態!!?? 離しなさい!! プロデューサーっ!! 助けてぇっ!!!」
「な、撫子さんっ!?」
撫子「やだっ!! やだ!! やだぁっ!! プロデューサー!! プロデューサー!!」
学P「お、落ち着いてください!! 俺ですよ!! 撫子さん、俺です!! プロデューサーです!!」
撫子「…………へ? あ、プ、プロ……デュー……サー……??」
学P「……はぁー……本当に、見つかって良かった……すみません、俺が目を離したばっかりに……大丈夫でしたか?」
撫子「…………ば」
撫子「このばかあああああああああああ!!!!」
学P「な、撫子さん!?!?」
撫子「ばかっ!! ばかっ!! ばかっ!! この変態っ!! わたくしのストーカーの癖に!! どうしてすぐ傍に来ませんの!! 本当に怖かったんですわよ!!??」
学P「ちょ、ちょっと撫子さん!?」
撫子「ばかばかばかばかばか!!!! 肝心なところはちゃんとしてくれる人だと思ってましたのに!!」
学P「と、取り敢えずこの人混みから抜けましょう!! ここじゃあ悪目立ちしてしまいますから!!」
撫子「ばかっ!! ばかっ!! ばかっ!!」
学P「いたっ、ちょっ、いたっ。ま、まずは抜けないと!!」
⏱ ̖́-
学P「…………落ち着きましたか?」
撫子「ぐずっ……ずびっ……えぇ。落ち着いてきましたわ……ぐすっ……」
学P「…………すみません。貴女の手を、しっかりと握っていれば良かった」
撫子「…………本当ですわ。わたくしの羅針盤失格です。何がプロデューサーですか。プロデューサーなら、わたくしの傍にずっといるべきです」
学P「返す言葉もありません」
撫子「…………怖かったんですから」
学P「すみません、俺のせいです。……初詣、仕切り直しでもいいですか? ちゃんと、貴女の手を握っていますから」
撫子「…………なら、許してあげます。二度と、わたくしの手を離さないように」
学P「はい、ありがとうございます」 - 65Pドル絶対信仰者25/02/20(木) 00:45:03
撫子「…………」ムスーッ
学P「…………ようやく、順番回ってきましたね。……取り敢えず、お祈りしましょうか」
撫子「…………5円、ください。小銭ありませんの」
学P「はい……どうぞ」
撫子「…………(ペコッペコッ)(パンッパンッ)(ペコッ)」
学P「…………(ペコッペコッ)(パンッパンッ)(ペコッ)」
⏱ ̖́-
学P「…………取り敢えず、お参りは終わりましたね」
撫子「…………」ブスーッ
学P「……そんなにむくれていては、可愛い顔が台無しですよ」
撫子「…………別に、むくれてなんていませんわ。それより貴方、何をお願いしましたの」
学P「えっ?」
撫子「何をお願いしたのか聞いていますの。……まさか、言えないような何かですの?」
学P「違いますよ。ただ……その……言っていいのか……」
撫子「別にいいですわ。貴方の願い事など、たかが知れていますし」
学P「……分かりました。…………撫子さんと四音さんが、いつまでもステージに立てるように、と」
撫子「…………トップアイドルになりますようにとは、願わなかったのですか」
学P「まさか。貴女と四音さんは、必ずトップアイドルになります。そんな確定事項は、今更祈るようなものでもないでしょう。撫子さんは、何を願いましたか?」
撫子「わたくしは…………いいえ、絶対に教えません」
学P「まぁ、そう言うと思いました」
撫子「…………少し、疲れました。肩を貸しなさい」
学P「…………えっと、ここでですか? 人の目があるのでちょっと……」
撫子「…………マスクでも着けておけばいいでしょう。いいから、貴方は動いてはいけませんよ」
学P「……はい、分かりました」
撫子「…………ん」
撫子(…………言えるわけがありません。"プロデューサーが、わたくしから離れることが無いように"なんてこんな願い)
撫子(…………はぐれた時、本当に怖かったんですから。もう二度と、わたくしから離れないように……しない…………と……)
撫子「…………すぅ」 - 66Pドル絶対信仰者25/02/20(木) 00:55:24
ちょっと短すぎるかもですが、初詣編です。
- 67二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 02:02:03
かわい過ぎる、撫子抱きしめてぇ……
感無量です。ありがとうございます! - 68二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 02:23:34
令和の文豪ですねこれは
一気に読んじゃったぜ……
キャラの解像度が凄まじかったのと話の構成がめっっっっちゃよくて才能の塊じゃんね。すごい凄かったです。
濃厚な撫子が感じられてよかった…
叶うなら、また別のお話でお目にかかれる事を心より願っております…! - 69二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 08:17:18
もう実装しろよ
- 70二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 14:06:10
Pなでてえてえ
- 71二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 15:10:41
- 72二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 19:07:15
>>71本当や
- 73Pドル絶対信仰者25/02/20(木) 19:41:44
このまま色々と番外編を書こうと思ったのですが、やっぱり完結したのにダラっと続けるのもどうかと思ったので、ここでキッパリ終わりにしようと思います。
改めまして、ここまで見てくださってありがとうございました。
またお会いできたら嬉しいです。