- 1二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:21:36
深夜の時間帯に食べると太りやすい、という話がある。
寝る前に食べるとエネルギーが消費されていない状態で休眠状態に入るので、そのせいで太るのだとか。羽川ハスミ自身もどういう理屈かは知らないが、食べた直後に寝ると太りやすくなるよう人間は設計されているらしい。
まったく余計な事を……自らを設計した神を恨みながら、ハスミは深夜にパフェを食べていた。
せめてもの涙ぐましい抵抗か、寮からそれなりに離れたお店。そこそこ歩くからちょっと食べ過ぎても多少はマシになる筈と信じて、正義実現委員会の活動での疲れとストレスを癒す為と自らに言い訳をして、二杯も食べちゃっていたのだ。
正直、問題児を相手にする分ならゲヘナの方が直接的に行動する分まだやりやすい、下手に手を出せない分ストレスはマッハ。そしてパフェの消費量もマッハとなってしまったのだった。
二杯もパフェが収まったお腹をさすりながらの帰路。脳裏に浮かぶ、同僚にして友人であるツルギのあきれ顔に対し目を逸らす。週に一度だけだからダイエットできてるもん、と。誰にともなく言い訳をしながら、建物の光が消え街頭だけが照らす、暗い夜道を歩いていた。
調子乗って二杯とも大を選んだのは失敗だったかも、というかなんでパフェにサイズ指定があるんだと色々と考えていると、ふと、道の真ん中に見かけたことのある人の姿があった。
「あれは……ゲヘナの風紀委員長?」 - 2二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:22:07
白い髪に、ゲヘナ特有の暗い色をした制服。そして蝙蝠のような羽根……風紀委員長、空崎ヒナ。
ゲヘナに対する嫌悪以上に、なぜこのような深夜のトリニティの、それもこんな木々に囲まれた薄暗い不気味なところにいるのか。疑問の方が僅かに勝った。
ゲヘナの中では穏健派、裏も無くエデン条約を結ぼうとした……かなりマシな存在ではあるが、相手はゲヘナ。油断はできない。誰かを拉致しに来たか、破壊工作か、それとも──
念のため構えようと銃に視線をやり、銃口を向けた瞬間、ヒナの姿は消えていた。
「……見間違い、だったのでしょうか」
ストレスで変な物が見えてしまっただけか、と自嘲する。思えばあの風紀委員長が、態々小細工をする必要なんてない。ゲヘナと戦争を、騒動を起こすとしても正面から来るだろう。
ふう、と息を吐き、空を見上げると……空崎ヒナが、月夜の空の中にいた。飛んでいる? いや、浮いて……咄嗟に銃を向け、発砲。マズルフラッシュが視界を遮る。
だがそこに空崎ヒナの姿は無く、そして落ちた音もない。途端に不気味さが身を包み、鳥肌が立つ。
疲れすぎているだけ、ただ疲れすぎているだけだと自分に言い聞かせ、目を閉じ額を叩く。深呼吸を数回、気持ちを落ち着かせる。
もう大丈夫だ、何かの見間違いだったのだろう。帰って寝よう、と思い目を開けると──
目の前に、見たことのないような笑顔の空崎ヒナの姿があった。
ハスミは、もうたまらず悲鳴を上げた。 - 3二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:25:47
◇
今日この日、空崎ヒナは時間を持て余していた。
突然マコトに命じられた「風紀委員会は空崎ヒナに依存しすぎている! もし病気や怪我で動けなくなった際、お前らはどう動くというのだ? ということで空崎ヒナ、今日一日お前が仕事をするのを禁ずる!! キキキッ、お前が倒れて動けなくなった際の予行演習という訳だ!!」とかいう思い付きの指令に、どういう訳か普段ならマコトの命令に反発する風紀委員会の面々が、それはもうものすっごい協力的になり仕事を取り上げられてしまった。家に残しておいた仕事も含めて、全部。
ふって湧いた休みではあるが、厚意はありがたいが、風紀委員会の面々はヒナの目線から見れば、頑張ってこそいるが残念ながらまだ実力不足。どうせ明日になったらあの子達じゃ解決できない問題や溜まりまくった書類を解決しなければならないんだろうな、と言うのは目に見えている。それに、みんなが働いているのに自分だけ休むというのは気が引けてしまい、どうも休みづらい。
かといって、いつものように勝手に風紀委員の仕事をしてしまう訳にもいかない。マコトはあれでも上司であり生徒会にあたる組織。万魔殿のボス。命令違反を犯したとなれば、またしても風紀委員会の予算が削られてしまう。
なのでシャーレに来て先生の仕事でも手伝おうと思ったら、ミレニアムのセミナー達やヴェリタスの人達が詰め寄せて絶賛仕事中。年末調整やら何やらで、今日ばかりは問題が起こっても動けなさそうな状態だ。何より早瀬ユウカが許さないだろう。
この状況で手伝ったとしてもあまり力になれないどころか、彼女たちの邪魔をしてしまう。そもそも先生の処理能力が追い付いてない。一度エンジェル24に戻ってエナドリを人数分買い直して差し入れし、シャーレを後にした。 - 4二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:27:21
仕事をことごとく潰され何をすべきか分からなくなっている状態。素直に休めばいいものなのだが、いざ休みをポンと渡されたらどうも休めないのが彼女の悲しい性分であった。
だがもう観念してゆっくりしよう。折角シャーレに来たのだし、カフェでコーヒーでも飲もう、飲みながら今後の予定を考えよう。
そう思いカフェに立ち寄ったのだが……
「……榴弾?」
「うわーん……暑いです。アリス、このままだと人工CPUがオーバーヒートします……不明なユニットが接続されてます……」
黒い何か……羽根?に包まれ、榴弾のようになっている天童アリスの姿を見かけたのだった。
アリスを包んでいるのは誰か。というかなんでこんな状況になっているのか。さっぱり背景が見えてこない。
「一体どうしたのよ、アリス」
「わ、わかりません……バーサーカー状態の人が放り投げたこの人が、突然何も言わずアリスをバインド状態にしてきました……ゲヘナの風紀委員長、助けてください……HPがジリジリ削られていきます……」
よくわからないが、アリスとしては不本意な状況にいることはわかった。であれば後は……銃は持ち込み不可能なので、説得をするしかない。
よくよく見ればアリスを包んでいるのは羽根で、そして羽根に包まれたアリスの後ろに見えるのはトリニティの、正義実現委員会の制服。
「貴女に何があったかは分からないけど、いったんアリスを離して上げなさい」
「そっ、その声は……風紀委員長……! 深夜に私を驚かせただけでなく、こうして無様に震える私を笑いに来たというのですか……おのれゲヘナァ……」
その声は、羽川ハスミ。いつぞやの調印式で共に戦ったトリニティの副官だ。
隠そうともしないゲヘナ嫌いであり、調印式襲撃の際もおのれゲヘナと言われたが……ヒナの記憶にあるおのゲヘに比べて、勢いがない。
よくよく見ればハスハスブルブルと震えている。もっさもっさと羽根が音を立て、アリスが「あがががががが」と震えた声を出す。 - 5二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:30:48
「深夜? 何の事かしら?」
「とっ、とぼけないでください! 深夜のトリニティの歩道で、どこからともなく現れ私を脅かしたでしょう!?」
「ぐえっ、締め付けが強くなりました。アリスのHPバーが黄色に突入しそうです……バインド攻撃です、しかも初代の」
「……昨晩はアリス達と一緒にゲームやってたから、トリニティには行ってないわよ?」
「そっ、そんなの……! ……本当ですか、アリスさん?」
ヒナの言葉に、ハスミは羽根のカーテンからスポッと顔を出し、アリスを見下ろし問いかけた。
「はい。風紀委員長の言うように、アリスはユズ・風紀委員長と一緒にオンラインゲームをやっていました! 出現率0.1%のレアエネミーからドロップ率2%のアイテムを一発で手に入れているのを見て、風紀委員長の幸運さにアリス達は引いてました……」
「……それは何時から何時くらいまで、だったでしょうか」
「確か……22時~1時くらいだったとアリスは記憶しています。ハスミの言う深夜の時間帯がどれくらいなのかは分かりませんが、風紀委員長にはアリバイがあるとアリスは意義あり! します!」
「羽川ハスミのこと、呼び捨てなのね……」
ゲヘナとトリニティはそれなりに距離がある。いくら走行中の列車に追いつくレベルで高速移動ができるヒナとはいえ、その時間帯に家からトリニティへと移動しハスミを驚かせるのは不可能だ。
疑いが晴れた。だが問題はまだ解決していない、というより事はより深刻に恐ろしくなっている。ならばあの時見た姿は誰なのか……ハスミの表情が青ざめ、よりハスハスブルブルと震えはじめた。
そしてその振動は自然と、抱きしめられているアリスにも──
「うわーん! ゲヘナの風紀委員長! 助けてください!! アリスの視界がスタックした時のFPSみたいに震えてます!! あとすっごい暑いです!! この羽根饅頭の中ものすごい熱がこもってます!! アリス、クーラードリンクが必要です!!」 - 6二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:33:16
アリスがヒナへ助けの手を伸ばす。わっさわっさ楽器のような音を奏でる羽根に包まれ、おまけにシパリングによりハスミの体温が上昇。ただでさえ一人熱殺蜂球のようなものだ、今ハスミに包まれているアリスの体温はさながらサウナ! 先生であればムラムラでたまらんとなっただろうが、お子様であり女の子であるアリスにはただしんどいだけの空間だ。
「羽川ハスミ、これでも飲んで少し落ち着きなさい。あなたの嫌いなゲヘナの前で、それ以上醜態をさらし続けていいの?」
ハスハスブルブルと震えるハスミにコーヒーを差し出しながら、活を入れる。
嫌いなゲヘナの生徒に恐怖で震える自分を見せたという醜態、そして対抗心からキュッと唇を噛み震えを止め、ヒナの手からコーヒーをひったくり、睨みつけた。
「……癪に触りますが、貴女のお陰で冷静さを取り戻せました。礼は言いませんよ」
「礼はともかく謝罪しておきなさい、アリスに」
「アリスさんに? それはどういう……あっ」
「うぅっ、甘いコーヒーでアリス、びしょびしょでべとべとです……4Pカラーになりかけてます……」
コーヒーを強引に受け取れば当然零れる。ハスミの羽根にもだが、大部分がアリスの顔にかかってしまったようだ。
一から十までハスミの落ち度である。プンプン怒りながら、カフェに設置されているシャワーブースでコーヒーを落とすアリスに、ハスミは唯々謝り続けた。 - 7二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:34:33
□
「ぱんぱかぱーん! アリスは正義実現委員会の服を手に入れた!!」
「すみません、コーヒーをかけてしまい本当に申し訳ありませんアリスさん……」
「それ以前にずっと捕まえていたことを謝るべきだと思うけど……というか、なぜアリスにぴったりのサイズの服を……?」
「コハル……ウチの後輩の服です。何かと無茶をしがちな子ですので、替えの服は毎日持ち歩いているのですよ」
「……あぁ、あの子の。いやなぜあの子の服を……?」
いつもと違い(なぜかハスミが持っていた)少しぶかぶかな正義実現委員会の服に身を包んだアリスに、ひたすら申し訳なさそうに頭を下げるハスミ。そしてあきれ顔のヒナという、ダイスで決めた? と言いたげな面々で囲まれたテーブル。
ヒナは慣れた手つきで淹れなおしたコーヒーを二人の前に置く。香り豊かな良い豆を、ミレニアム製のセミナー御用達コーヒーメーカーで淹れたもの……なのだが、アリスは角砂糖を二つ、ハスミに至っては三つほど溶かしている。
折角の風味が……と言いたくなる気持ちを抑えるように、ヒナは無糖のコーヒーを飲んだ。
「……貴女の話を整理すると、深夜1~2時頃、パフェを食べた帰りの夜道で私と出会ったと」
「はい。偽物かとも思いましたが、あの身のこなし……あきらかに本物の貴女以外あり得ません。……ですがあなたのやるような行動ではない、という矛盾から色々と恐ろしい妄想をしてしまい……」
「それで治安維持の使い物にならず後輩にも示しがつかないからと、恐怖心が消えるまでシャーレのカフェにいることになったと……大変ね、貴女も」
しょんぼりしながら語った内容を、ヒナが要約する。
治安維持という仕事は、ある程度の威圧感も必要となる。普段の彼女ならばともかく、幽霊に怯えている状態では逆に嘗められる危険性がある。その判断は間違いではないだろう。
だがアリスは別の事が気になったようで、質問に手を上げた。 - 8二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:36:02
「あのっ、アリス質問があります! ハスミはそんな時間に、なぜパフェを食べていたのでしょう? 夜ご飯の代わりですか?」
「……そこは、あまり触れないでいただけると……」
「色々あるのよ、アリス。治安維持に努めているとストレスが溜まるものだから」
「そう、そうなんですよ! わかってくれますか!! そうなんですよ、ウチの自治区で問題を起こすゲヘナの生徒も当然いるのですが、トリニティの生徒は表立って咎められるような問題行動というより我々が動けないようなルールスレスレの嫌がらせを行ったり我々の目に見えないところで問題行動を起こしたりと……こと治安維持に関してはゲヘナの方がやりやすいとも思え──」
「わかった、わかったわ羽川ハスミ。貴女も色々と苦労しているのね」
このまま長々とした愚痴に移行しそうになったので、ヒナは途中で中断させる。今回の本題は日常光景である問題児に対するものではなく、怪奇現象の方なのだから。
どこからともなく現れ、ハスミを脅かせるだけで姿を消した、空崎ヒナにそっくりな何者か……それを解決しない事には、ハスミの不安が消えることはない。不満と不安は抱えすぎだ、片方だけにすべきである。
「……とりあえず、羽川ハスミの目撃情報を整理すると……私そっくりの何かがトリニティに出没し、貴女を脅かした。……ということらしいけれども、同じような被害に遭った人は他にいたのかしら?」
そう、現状トリニティの空崎ヒナの目撃証言は羽川ハスミのみ。他にも被害者がいるのであればその場所に”なにか”がいると確信できるのだが、現状ではハスミの幻覚や思い込みというのを否定できない。
故にそういった聞き取り調査が、治安維持には必要なのだが……ヒナの問いに、ハスミはすっと視線を逸らした。
「……ゆ、幽霊みたいに消えたので怖くてつい、その場には再度迎えず……聞き込みもその、思い出すのが怖くて……」
「……ユスティナ信徒みたいなものでしょ」
「あれとはまた違います! ユスティナ信徒はその、確かにどこからともなく幽霊のように現れますが……あれは銃で倒せますし……」
「怖がる基準が銃が効くかどうかなの貴女……」 - 9二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:37:49
ハスハスプンプンと怒るハスミに、ヒナはため息をつく。
怖いという感情は仕方のないものだが、これではどうしようもない。現地で聞き取り調査をしなければならないが……ヒナは自分の頭に生えている角に触れる。
隠しきれないゲヘナ生徒の特長。角と羽を隠してトリニティに調査に赴かねばならないというのは……正直、かなり面倒だ。何より蒸れる。
先生に相談するのが一番良いのだが、今先生は絶賛修羅場の真っただ中。このような出来事で頼るのは気が引ける。正直投げ出したい気持ちが一割くらいある。
とはいえ乗り掛かった舟、今更降りるのもなんだかなあ……なんて悩んでいると、アリスが元気に「はい!」と手を上げた。
何か妙案があるのか、ヒナとハスミの視線がアリスに集中する。アリスはその視線に気をよくしたのか、胸を張ってどん、とテーブルにスマホを置いた。
「ストーリーをどう進めばいいか分からない時は、占い師に頼ると相場が決まっています!」
「占い師……」
「ですか……?」
アリスの提案に、ハスミとヒナが同時に首を傾げた。
ゲヘナやトリニティといった、伝統ある学園であれば占いという非科学的な存在も重視されることがあり、選択科目に入っていることもあるのだが……科学の最先端であるミレニアムと占いは、どうも結びつかないように感じたのだ。
だがアリスはそんな二人を気にせず、占い師と呼ぶ者に電話をかける。
しばらく着信音が鳴った後、スマホから、車いすに乗った厚着の女性の立体映像が浮かび上がった。 - 10二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:39:20
『はい、こちら手の平に舞い降りた雪の結晶のように白く儚く美しい超天才成祖計病弱美少女ハッカーの明星ヒマリです。どうしましたか、アリス……あら、これまた珍しい組み合わせの肩と一緒にいらっしゃいますね』
「こんにちは、ヒマリさん。……アリスさんに、占い師と呼ばれているのですね?」
『様々なニュースサイトで今日の運勢を確認して伝えるのを日課にしているだけなのですが、どういう訳かアリスに占い師だと勘違いされちゃいまして……慕ってくださるのは悪い気はしませんのでいいんですけれどね。それでアリス、今日はどういった御用でしょうか?』
「はい! アリス、ヒマリ先輩に聞きたいことがあります! アリスが風紀委員長とゲームをしている時間帯に、ハスミがトリニティで風紀委員長を見かけたと言ってとても怖がってます! ドッペルゲンガーか幽霊か、はたまた人間か……いったいどう動けばいいか分かりません! 次の目的地が分からぬ迷い人を導き給え、特異現象捜査部の占い師よ……!!」
アリスの言葉に、浮かび上がった映像のヒマリは顎に手を当てしばし考える。
そしてものすっごく申し訳なさそうな渋い顔をしながら、口を開いた。
『アリスがゲームをやっている時間帯、と言いますと……ふむ、その仮称ドッペルゲンガーと出会ったのはハスミさんだけですか?』
「えっ、あぁ、はい。多分、私だけです……正義実現委員会のみんなに聞いても、誰も見たことも聞いたこともないと』
『……であれば、申し訳ありませんが、力になるのは少々難しいかもしれません。現状目撃証言はハスミさんのみ、少し調べてみましたが現状、怪談程度の噂話すら出回っていない……疲れから幻覚を見たか、もしくはなんらかの物を見間違えた可能性が高い、と言わざるを得ませんね』
「幽霊の正体見たり枯れ尾花、ってことね。暗がりで見ればただの柳の木さえも幽霊のように見えてしまう。ましてや深夜の時間帯、治安維持や書類仕事といった業務を終え疲労の溜まった状態であればありふれたものも幽霊に見間違えてしまう可能性は高い。そういうことね、手の平に舞い降りた雪の結晶のように白く儚く美しい超天才成祖計病弱美少女ハッカーの明星ヒマリ」
『そういうことです、ヒナさん。あと前口上の部分は律儀に全部言わなくてもいいですよヒナさん』 - 11二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:40:56
ヒナの解釈に笑顔で頷くヒマリ。
正義実現委員会、風紀委員会と同じ学園を代表する治安維持組織である。ヒナは自分の所属する組織を当てはめて考え、ヒマリの言葉に納得した。
実際のところはヒナの所属している風紀委員会ほど業務が多忙という訳ではなく、基本的に定時にはまず帰ることができるような組織なのだが……。
しかし、これでは結局ただの見間違いだった、幻覚だったで終わってしまう。それでは当然ハスミの恐怖が薄れる訳もなく、アリスを抱きしめまたしてもハスハスブルブルと震え出した。
その様子に少しばかり責任を感じたのか、おもむろにヒマリはハスミに口を開いた。
『とはいえ、折角頼りにしてくださったのですし、なにより幻覚で終わらせるのも特異現象捜査部としての浪漫もありませんね……そうですね、少々お待ちください。……軽く調べたところ、トリニティでヘイローの無い生徒──幽霊も、ゲヘナの風紀委委員長を見かけたという直近の噂もSNSでは流れていないようですし……まずはハスミさんの動向を知らなければなりません。少々、ハスミさんのクレジットカードの購入履歴をハッキングさせていただいてもよろしいでしょうか? そこからハスミさんが被害に遭われた地点のカメラを導き出しますので。もしかしたら、何かヒントが映っているかもしれません』
「ハッキング、ですか……? それは構いませんが……」
ハスミの同意を受け取り、ヒマリは即座に立体投影コンソールを叩く。
許可を出したとはいえ、ハスミの扱うクレジットカードはキヴォトツ一のセキュリティシステムを誇る企業のもの。いくらミレニアムとはいえそうハッキングできるような代物では……と思っていると、今までヒマリを映していた立体映像が、深夜のトリニティの歩道を映した映像に切り替わる。 - 12二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:42:33
『はい。ハスミさんのいた地点周辺のお店・自動販売機・家宅の監視カメラからハスミさんが仮称ドッペルゲンガーのヒナさんに遭われた時刻の映像を抜き出しました。残念ながらハスミさんが事件当時いた地点にはカメラがありませんでしたが、犯人を特定する分には支障はありません』
「……さらっととんでもないこと言ってますし、私が許可したの以外のものをハッキングしている気がするのですが、これ糾弾しなければならない案件では……?」
「……正義は時に清濁併せ吞む必要もあるわ。私欲ではなく貴女の悩み解決の為だし……糾弾するのは、幽霊の正体特定してからでも問題は無い」
「幽霊言わないでください! 怖いんですから!!」
「さらっとアリスの端末もハッキングされました!?」
正義を掲げている以上これ見逃していいのかと悩むハスミに、ひとまずは問題解決優先と落としどころを提供するヒナ。
ヒマリはウィンクしながら人差し指を口元にかざし”しーっ”と黙っていてほしいとジェスチャーする。
普段使用していたらまず出ないような熱量を発しながら、アリスのスマホに投影されたハッキング動画が再生される。とはいえ深夜のトリニティ、その画面に映る者はほとんどいない。
ただ静かに、植木が揺れるだけだ。
時折ロボットや獣系の住人の姿が見られるが、どれも空崎ヒナに変装するには背が高すぎるし、何よりゲヘナの制服やヒナの羽根、といった変装セットらしきものを持ち歩いている人は皆無。 - 13二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:42:54
しばらくは何も動きが無いように思えたが、しばらくしてハスミの「にゃああああああ!!!!」という悲鳴が聞こえてきた。
「にゃあ言ったわね……」
「猫みたいな悲鳴です!」
「ぜっ、絶対口外しないでくださいね!? 絶対ですよ風紀委員長!!」
「わかった、わかったわ羽川ハスミ。そんなことしないから、そんな迫らないで」
肩を掴んで勢いよく揺さぶるハスミを、ヒナはなんとか落ち着かせる。
ハスミは肩で息をし、顔を真っ赤にしながらもヒナの肩から手を離し、胸に手を当て深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着かせた。そしてすっと、アリスの座っている席へ移動し、またしてもアリスを抱きしめた。
『現状力になれるのはこのくらいです。お詫びに、ハスミさんがいたと思われる場所をアリスのスマホでマーキングしておきますね。……原因究明ならず、申し訳ありません』
「いえ、こうして映像で当時の状況をある程度確かめられただけでも十分ありがたいです。ありがとうございます、ヒマリさん」
『助けになれたのなら全知の冥利につきます。それと最後に……あまり引きずりすぎないように。そうでないと、今度こそ確実に存在しないものを視てしまいますからね。それでは』
ハスミの言葉を聞き、少し残念そうに笑いながらヒマリは通信を切る。
当時の状況をうかがい知ることはできたが、映像には怪しい人物は一切写っていなかった。結局振り出しに戻った形と言える。それも、アリスがハスミに拘束されているという振出しに。ヒナは心の中でアリスに合掌した。
とはいえ、この状態をこのままにしておくわけにはいかない。トリニティの治安維持の戦力が落ちるということは、即ちゲヘナの不良が更にトリニティの治安を荒らしかねないということ。そうなるとゲヘナ風紀委員長である空崎ヒナの仕事も当然増える。折角ゲームという趣味を見つけたというのに、これ以上趣味か睡眠の時間を削る訳にはいかない。
「行くわよ、羽川ハスミ」
「行くって……いったいどちらに」
「決まっているでしょ。情報は足で稼ぐのよ」 - 14二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:46:05
- 15二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:47:58
- 16二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 09:07:27
- 17二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 10:19:34
ホラーなのかトンチキ騒ぎなのか、待ってるよ
- 18二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 18:48:10
期待の保守
- 19二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 21:36:08
◇
「アリスたちはいま! トリニティじちくへの だいいっぽをふみだした!!」
「私の場合戻ってきただけですけどね……アリスさんあまり遠く行かないでください」
トリニティ自治区、件の空崎ヒナのような何かという怪奇現象をハスミが目撃したという遊歩道にやってきた。
形式上今日は休みになっているハスミと、風紀委員会の制服ではあまりにも目立ちすぎるヒナは制服ではなく、シャーレ隣接のエンジェル24で購入した無地のシャツを着ている。
何の問題も無くすとんと着れているヒナに比べ、ハスミはもう胸のところがぱっつんぱっつん。それを横目見るヒナの視線に含まれた感情はいかほどのものか……。
「ところでアリスさん、その背中のものはいったい……?」
ハスミの指摘するように、アリスの背中には小型の掃除機がバッグのように装備されていた。
よくぞ聞いてくれました、とばかりに掃除機のホースを掲げ、キラキラとした目で叫ぶ。
「アリス知ってます! お化け退治には掃除機です!!」
「……羽川ハスミ、聞いたことある?」
「いえ、私も聞いたことは……」
自信満々に答えるものだからつい信じてしまいそうになったが、ヒナもハスミも聞いたことは無かった。
二人の反応にアリスは「あれー?」と首をかしげる。
しばらく微妙な空気が流れる中、流れを変える為ハスミがパンと手を叩いた。
「それで、どのようにして調べるというのですか風紀委員長。御覧のように証拠も何も見当たりませんが」
「聞き込みよ。もし本当に幽霊だったとしたら、目撃者は他にいる筈。明星ヒマリはああ言ってはいたけれど、SNSに呟いていないだけの可能性もある。……それでももし、もし誰もいないのであれば──」
「私の見間違いとでも言うのですか!?」
「その可能性もあるけれど、貴女個人を狙った犯行ということになるわ。……私たちみたいな治安維持をする側ってのは、何かと恨まれやすいものね」
「……そういうところは、ゲヘナもトリニティも変わらないのですね」 - 20二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 21:39:39
うんざりするようにヒナはため息を吐く。そのため息の内容に親近感を覚えたのか、ハスミは苦笑いを浮かべながら返した。
あんなに嫌っていたゲヘナの生徒だというのに、かなり打ち解けたように見えた。その様子を虫メガネ越しに見たアリスはにっこりと笑った。
ハスミとヒナがある程度打ち解けたところで、さて誰から話を聞こうかと悩んでいると、突如公園の植木ががさりと鳴り、何者かが飛び出した。
ハスミは咄嗟にヒナの後ろに隠れ、ヒナも彼女を庇うように羽を広げる。
「怪しい人影を発見! 神妙にしてください! トリニティ最高の自警団! 宇沢レイサの見参で…す……?」
「トリニティ自警団……」
「ぱんぱかぱーん! 第一村人発見です!」
「げっ、ゲヘナの風紀委員長!? なぜここに……後ろにいるのは正義実現委員会副委員長!? どっ、どどどどういう組み合わせですか!?」
植木から飛び出てきたのはトリニティ自警団兼放課後スイーツ部名誉部員、宇沢レイサ。
トリニティでは見かけない顔ぶれの生徒がいたので、こうして自警団としての職務を全うしに来たのだろう。だが空崎ヒナというゲヘナどころかキヴォトスではまず知らぬ者はいない大物と、ゲヘナ嫌いで名の通っている羽川ハスミという異色にも程があるコンビに、ただでさえ人見知りなところがあるレイサはかなり戸惑っているようだ。
だがそんなものは知らぬヒナは、努めて柔らかい、ゲヘナ第二校舎にいる生徒に話しかけるような声色で訊ねた。
「少し聞きたいことがあってここまで来たのだけれど……私を見なかったかしら」
「うぇっ? どっ、どういうことですか……これ、なにか試されてます? ドッキリですか!? それともゲヘナの風紀委員長さんに変装した怪盗や不良が!?」
「はい! ハスミがここで幽霊を見たともがもが」
「アリスさん! それは秘密にしてくださいアリスさん!!」
「……私の恰好をして通り魔的に通行人を驚かせるイタズラをしている生徒がいる、と羽川ハスミから通告があったの。それを調べにこのトリニティへ来たのよ。もしゲヘナの生徒だったら、ちょっと面倒なことになるから……それで、何か心当たりは無いかしら」
「なるほど!」 - 21二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 21:41:45
ハスミの事を伏せながらも、ヒナは何も間違ったことは言っていない説明を簡潔にした。
レイサはヒナの背後の二人のやり取りが少し気になったようだが、学園違えど同じ治安維持の仲間! ということでその言葉を信じることにした。単純である。
「この植木から飛び出してきてハスミさんを驚かせた人物ですね!! そういうイタズラをしそうな人は……あれっ、もしかして、私……? 変装はしてませんけど、髪の色とか暗がりで見たらヒナさんと同じように見えますし……もしかして、やっ、やらかしちゃいました……? あのっ、驚かせるつもりはなくてですね……その、不良の人たちへの奇襲をするうちにこういう癖が付いてしまって」
「いえ、少なくともレイサさんではありません。私を驚かせた生徒は無言でしたから」
「あっ、そうですか……よかったぁ。……でしたらすみません! 心当たり無いです!!」
元気にパキパキと敬礼をするレイサ。元気のいい大声を出しながら答える姿に、ヒナは微笑む。
こういった元気のある生徒は、寝不足というのもあるが常時ダウナー状態であるヒナからしたら微笑ましげに写るのだ。こんな元気があったらなあ、とちょっと年寄り臭いことも同時に感じてしまうのだが。
「スズミさんや他の人にも聞いてみますね! では!」
「あっ、ちょっと……!!」
レイサはヒナに敬礼し、呼び止める暇もなく風のように去って行った。
まだ連絡先交換していないのに。
ハスミがアリスの影に隠れながら、ヒナを睨みつけ口を開く。
「……やはり、聞き込みをしても無駄なのではないですか?」
「……そうでもないわ。あの子が現れたことである程度の収穫は得られた」
「あの人は何も知らないようでしたが、どういうことですか? アリス、気になります!!」
「そうね。あの子、宇沢レイサと言ったかしら。身長はアリスと同じくらいのあの子が、植木から飛び出て来た。さも突然現れたように」
ヒナの言葉にアリスは首をかしげるが、ハスミは何かに気付いたのか目を丸くし、口元に手を当てた。
そう、宇沢レイサは誰にも気取られることなく突然現れたように見えた。まるで、ハスミの出会った幽霊のように。
つまり、そこから導き出される予測は── - 22二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 21:42:31
「これで確定するのは早計だけれども、少なくとも人間なら犯行は、生垣に隠れながらこの道まで移動し、羽川ハスミを驚かせることが可能。つまり、犯人が小柄な生徒・もしくは住人な可能性が高い。……少なくとも、非現実的な幽霊よりは」
それはハスミの気持ちを少し安心させるような仮説。
とはいえ、幽霊の仕業というよりはそちらの方が現実味がある様に思える。現にハスミの震えが少しだけマシになったように見えた。
「とはいえまだ聞き込みは始まったばかり、頑張るわよ。羽川ハスミ」
「そっ、そうですね……生きた人間がやったという可能性が出てきただけ、少し希望が見えてきましたし……」
「はい! ハスミ、アリスと一緒にいるから大丈夫です!! 仮に幽霊が出てきても、この掃除機でスポッと吸い取っちゃいます!! アリスは勇者で、ゴーストハンターなので!!」
ヒナの言葉で少し安心したとはいえ、まだ恐怖が見られるハスミ。その彼女を安心させるように、アリスが自信満々に掃除機を振る。
アリスの底抜けない明るさに少し安心したのか、ハスミはアリスを抱き寄せるもカフェの時のような饅頭形態ではなくなっていた。
ひとまずハスミの様子はある程度安定した。この調子なら、ハスミの世話はアリスに任せて自分は聞き込みに専念した方が良いだろう。
一応今日は休みなのだが、空崎ヒナの思考に『今日は休日』と頭によぎることは一切なかった。 - 23二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 21:46:25
□
「ゲヘナ生徒の恰好をした生徒、ですか……? トリニティで人を脅かしてる? すみません、ちょっと聞いたことがありませんね……自警団の方でも少し聞いてみます。判明したら連絡しますので、モモトークの交換いたしませんか?」
「えっトリニティの生徒に見える? ふふふっ、そっか……そっかぁ……!! っとと、ごめん。えっと、ヒナさんそっくりな人……幽霊? をここらで見るかだよね。私はちょっと見たことないなー……ちょっと待ってね、ウチの部の子にも聞いてみる。……うん、やっぱりみんな見たことないって。……よくわかんないけど、これでも食べて頑張って。っても、ただの甘食だけど。んじゃ、頑張ってね」
「ゲヘナの風紀委員長を見たことがあるか……? 質問の意図がわからない。……なるほど、あなたの恰好をした誰かがここで通行人を脅かしていると。……見たこともないかな。補習授業部のみんなからも、そういった話は聞いたこと無いし……夜間に巡回している時も、貴女のような人を見たことはない」
「あっ、ヒナさん! あの後、お加減は如何ですか? 光輪大祭の後も、ちゃんと休めまてますか? ……そうですか、相変わらずお忙しいみたいですね。それでもちゃんと休まないと、また楽しい行事があってもセナさんに出させてもらえなくなりますよ? えっ、今日はお休み? それはよかったです! ……へ? ヒナさんと同じ格好をした人、ですか? いえ、トリニティでは見かけたことはありませんが……うぅん、そういうイタズラをする人がいるんですね。分かりました、見かけたら連絡します! あと体調が悪くなりましたら、いつでも私に連絡してくださいね! あんまり働きすぎるとミネ団長を向かわせますから! ゲヘナだろうと関係なく!!」
「……収穫無しね」
「そうですね……」
「甘食おいしいです!!」
トリニティの生徒から貰った甘食を三人で分けながら、途方に暮れていた。
思っていた以上に、この場合は以下というべきか。情報が無い。もはやシャーレのカフェでヒマリから聞いた幻覚説が現実味を帯びてきたくらいだ。
太陽は真上に差し掛かっており、少量の甘食をお腹に入れたせいでかえってお腹の虫が抗議の声を出しはじめている。 - 24二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 21:48:48
「アリス、喉が渇きました! あとお腹も少し空きました……アリス知ってます、喉の渇きと空腹は死へのカウントダウンと! ゲームで学びました!! なので飲み物を買ってきます!! 風紀委員長とハスミは何が良いですか?」
「それでは、いちごぎゅう……いえ、ミネラルウォーターをお願いします」
「コーヒー、無糖でお願い。あとついでにこれ捨ててきて」
アリスはヒナとハスミの注文に敬礼し、甘食の袋を受け取り自販機への冒険へ出発した。
三人の潤滑油であり場を和ませる存在であったアリスがいなくなったことで、気まずい空気が二人に流れる。
「あっ、あのっ……風紀委員長……」
「……どうしたの、羽川ハスミ? 幽霊らしき痕跡でも見つけた?」
「いっ、いえ……そうではなくて、ですね。その、何故ここまで付き合ってくれるのかと疑問に思いまして。……今日は休みだったんですよね? 良いのですか、私に時間を費やしてしまって」
唯一のゲヘナ生徒の友人である火宮チナツから、ある程度の近状は愚痴混じりにではあるが教えられている。
曰く『委員長が休憩を取らない』だとか『今日は休みだった筈なのに委員長が普通にいる』だとか『寝て無さ過ぎて化粧でも誤魔化せないくらい隈が凄い』だとか……時折送られてくる、救急医療部の生徒に引きずられている写真等を見るたびに好き嫌い関係なくゲヘナの生徒でなくてよかったと安堵する程だ。
それほど多忙な風紀委員長を、貴重な休日を過ごしているだろう風紀委員長を、こうして連れ回している。別に頼んだ訳でもなく、そうしてもらう義理も無いというのに。
だがヒナは、きょとんとした様子で首を傾げて、まるで当然の事のように言った。
「貴女、困ってるんでしょう?」
「それは、そうなのですが……」
「だからよ」
当然のように、何とでもない事のようにそう言ってのけた。
正義実現委員会という、常に正しくあれを心に掲げている自分がかすむような、真っすぐな瞳。
こういった、良くも悪くも真っすぐで、自分が心に掲げるものを信じ続けられるのもまた、ハスミがゲヘナを苦手に思う理由であった。
……自分は、時折正義を見失うのに。時折、正義を疑うのに。
「……そう、ですか」 - 25二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 21:50:18
ハスミはそこで会話を打ち切ってしまい、またしても沈黙が流れる。
正直なところ、ハスミの中で空崎ヒナの評価はチナツと同じ枠組みになっている。
故にこの気まずさゲヘナ嫌いとして通しているが故の……というのもあるが、ハスミは今になって調印式を襲撃された時の事を思い出してしまった。
あの時とんでもなく無礼な態度を取っていたのでは? ヒナに先生を任せられた際、自分はなんと言った?
と疑問に思ったところで記憶が掘り起こされる。不快であると、言っていた。もしかしたら聞こえていなかったかもしれない、忘れているかもしれない。……しかし、だからといって、それをそのまま黙っていたのでは……決して正義とは言えない。
謝罪すらしていないのに、このように付き合わせてるのは……どうあがいても正義では無いのではないだろうか。
いや、それとも……態々ここでこれを引き出すことこそ、相手を不快にさせる正義に欠ける行動なのではないか。
ハスミがもはや堂々巡りに頭を悩ませていると、不意にヒナが口を開く。
「……貴女への贖罪も兼ねているし」
「……贖罪、ですか?」
ヒナがふと零した言葉に、ハスミは思わず聞き返す。
他のゲヘナ生徒ならばいざ知らず、風紀委員会は立場こそ違えど同じ治安維持を目的とした組織。ゲヘナとトリニティという水と油の関係であるが故多少の衝突はあるとはいえ、謝罪されるようなことをされた覚えはない。
だがヒナは、心底悔いているように言葉を紡いだ。
「……ピーマンを無理やり食べさせても、決して好きになることはない」
「……はい?」
「ゴールデンマグロ強奪事件のあの時、黒館ハルナ……美食研究会の子に言われた言葉よ」
「それは、どういう……?」
「嫌いな食べ物を強制的に食べさせてもさらに嫌いになるだけ、相手の嫌がるものを押し付けたところでそれが好きになる事は無い……私は、それと同じことを、貴女たちに、ゲヘナとトリニティにやっていた。貴女たちの嫌いなものを、無理やり押し付けていた」 - 26二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 21:52:13
そこで言葉を区切り、ヒナはおもむろに足元の小石を蹴った。
その顔に浮かぶは後悔。少しでも楽になりたい、風紀委員会を辞めて普通の学生になりたいという軽率な願い、それが産んだ悲劇への贖罪。
確かに、ヒナの語る後悔にハスミも思い当たるところがある。ただでさえ気が進まなかったゲヘナへと赴き、マコト議長に自らのコンプレックスである大きさを揶揄されたことで途轍もない不快感を与えられ、ゲヘナ嫌悪が深まった。それもエデン条約というものが無ければ本来感じることのなかったものだ。
もしかしたら、エデン条約が動かなければ、ここまでのゲヘナ嫌いにはならなかったかもしれない。チナツとの繋がりで、ゲヘナの友人が増えた可能性は、その可能性をエデン条約が潰した可能性は、否定できない。
だが、しかし。
「……確かに、私が今持ち合わせているゲヘナへの嫌悪は、エデン条約というものが無かったらもっとマシであった可能性は否定できません。もしかしたら、チナツさん以外にゲヘナの友人が出来ていたかもしれません」
「……やっぱり。私のやっていたことは間違い──」
「聞いてください、風紀委員長──いいえ、ヒナさん」
思いつめるように顔を伏せ、自分を責め立てるヒナの手を、ハスミは握った。
伏せていた顔が上がり、ヒナとハスミの目が合う。
「エデン条約の際マコト議長に不快な事を言われました。もしエデン条約が無ければ、ここまでのゲヘナ嫌いとはなっていなかったでしょう。──ですが、私はエデン条約のあり方自体を否定はしません」
「……どうして? エデン条約が無ければ、貴女は不快な思いをしなかったのに」
「それは結果論です。結果、そうなってしまっただけ。……私個人としては受け入れがたいものですが、ゲヘナとトリニティ、双方で仲良くなろうと手を取り合うこと自体は正しいです。間違っていません。……私が、正義実現委員会であるこの私が言わせません」
『正義実現』委員会副委員長として、ハスミはエデン条約そのものの存在を否定しない。否定させない。過去の確執を消し去り、互いに手を取り合うのは紛れもない『正義』なのだから。『正義実現委員会の副委員長』としての在り方として、間違っていると言うわけにはいかない。 - 27二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 21:54:02
……ハスミ自身、自分でもゲヘナの生徒を励ますなどという柄にもないことを言っている自覚を抱きながら、ヒナが進めていたエデン条約を、過去のヒナを肯定する。
ヒナは思いがけない相手の口から出た思いがけない発言に目を丸くするも、すぐにくしゃりと笑った。
「なっ、なんで笑うんですかヒナさん!?」
「ごめんなさい、その……貴女からそんな言葉が出るなんて思わなくて」
ヒナの返答に、自分でもらしくないことを言ったためか何も言い返せないハスミ。
恥ずかしさからか羽がバッサバッサと羽ばたき、風が二人の服を揺らした。
「……やはりゲヘナは嫌いです」
「ごめんなさい。からかうつもりはなかったのよ? ……そう言ってくれて、とても嬉しかったから」
「……最初からそう言えばよかったんですよにゃっ!?」
「にゃ……?」
嗤われたことに拗ねてそっぽを向いていたハスミだったが、突如猫のように飛び上がり、座っていたのとは反対側、ヒナの影に飛び込み隠れる。
悲鳴がいちいち猫なのが気にかかったが、ヒナは愛銃をいつでも相手に向けられるよう手に取り、ハスミが向いていた方向に視線をやった。
黒い前髪にヒナと同じ白い髪、そして黒い後ろ髪をポニーテールにまとめた赤い目をした、目つきの鋭い少女がそこにはいた。
「……えっと、怒ってない……んだけど……そんなに怯えなくても……」
「……カヨコ? 何その恰好」
「でっ、でででで出ましたよ……ひっ、ひひひヒナさんのドッペルゲンガー……!!」
「……ドッペル……えっと、何?」
いつもの怒っていると勘違いされたのとは、また別の理由で怯えられているのに少し困惑を浮かべながら、カヨコはハスミの言葉を聞き返した。
ヒナはハスミの視界を羽で隠してやりながら、ため息交じりに口を開く。 - 28二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 21:55:39
天然ボケとノリノリだが顔には出にくいので若干真実味を出してしまうボケとの波状攻撃に、ヒナは肩で息をしながらツッコミ疲れた。
とはいえこのボケの連鎖のお陰か、恐怖心が無くなったらしいハスミがヒナの羽からハスッと出てくる。
「……そうですか、ヒナさんの姉ではないと」
「騙せなかったかー」
「なんで残念そうなのよ、カヨコ……」
「……ところで、なぜ便利屋68がトリニティにいるのですか? それも体操服姿で」
「ちょっと仕事で頼まれてね、池にびっしりと生えている水草を除去してたとこ。まあ、今は休憩中だけど」
「アウトローはどうしたのよ」
「背に腹は代えられないんだよ、ヒナ」
はぁ、とため息をつきながら遠くを見つめるカヨコ。
だからゲヘナからの独立なんてしなければよかったのに……という言葉をヒナは飲み込んだ。それを指摘するのは流石に可哀想だったからである。
「まあ私の事は良いとして……ヒナの偽物……ドッペル、だっけ? かはわかんないけど、似たようなのなら見たことあるよ」
「ほっ、本当ですか!?」
「ほら」
食い気味にヒナの羽から顔を出して来たハスミに、カヨコはスマホから一枚の写真を表示させた。
ヒナもハスミと一緒に、その画面を見る。
スマホから音が鳴り、アル社長から電話が来たと通知が画面に表示される。
「っと、ごめん。もう行かなきゃ。それじゃ頑張ってね、ヒナと……えっと、正義実現委員会の人」
手を振って小走りで去っていくカヨコと入れ替わるように、飲み物だけでなくなぜか大量のお菓子を抱えたアリスが満面の笑みで帰ってきた。
「ぱんぱかぱーん! 村人たちからお菓子を貰えました!!」
「お帰り、アリス」
「凄い量ですね……うぅ、体重が……しかしこれを食べないというのも……」 - 29二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 21:55:59
ヒナの隣に大量のクッキーや梱包されたタルト、チョコレート等を缶コーヒーやミネラルウォーターと一緒に置く。
そしていい汗かいたぜと言わんばかりに額を拭い、パックのイチゴ牛乳にストローを刺し一口飲んだ。
「どうですか風紀委員長! 何かイベント更新のフラグは立ちましたか!?」
「ええ、一気に解決できそうなフラグが立ったわ」
「なんと!? ではクリア目前ですね!!」
「そうね。その前に……」
暗雲立ち込めていたハスミからのクエストに、最強キャラから解決しそうとの言葉を聞き、アリスはぴょんぴょん撥ねて喜んだ。
だがヒナはお菓子の山から袋詰めにされたチョコドーナツを取り出し、ウィンクしながら言う。
「少し食べてから行きましょう。この量を持ち運ぶのは流石に、ね」
「ですね。折角貰った物を無駄にするのも悪いですし、食べましょう」
「……はい! 休憩は大事です!! 動き続けていてはHPバーが赤くなってしまいますので!!」 - 30二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 21:58:32
◇
ミレニアムサイエンススクール。天童アリスの通うキヴォトス三大校の一つであり、その技術力の高さはキヴォトス一と言っても過言ではない。
そしてキヴォトス三大校の中でも治安の良さはかなりのものであり、少し前まで病状に伏していた百合園セイアが外交として訪れることができたくらいだ。……一応、表向きはそういう形となっている。
そんな学園のある、ただの部活にあてがうには異様に広い部室に、ヒナたちはいた。
「おや、風紀委員さんに正義実現委員会さん……これまた随分とラフな格好だね」
「おやじゃないわよ、白石ウタハ……」
「よくも……よくも私を驚かせてくれましたね! エンジニア部!!」
こともなげに、ごく普通に出迎えたウタハにヒナが呆れた言葉を吐く。
ハスミもまたヒナの後ろでハスハスプンプンとしているが、ウタハはさも心当たりがないかのように首を傾げた。
ウタハの視線が、ヒナの横にいるアリスの方に向く。
「うぅん、これはどういう状況かな?」
「はい! ハスミが幽霊を見て怖がったので問題解決のクエストをしていたら、とあるゲヘナの生徒がミレニアムで風紀委員長の姿を見た──という話を聞いたらしいです!!」
「ふむ、なるほど……風紀委員長さんの姿というと、あれのことかな」
そう言ってウタハが取り出したのは、円盤型の立体映像を投影するというだけのシンプルな機械だった。
スイッチを入れると、内部に記録されていた映像が投影されていく。その姿は──
「風紀委員長です!!」
「……何故私の姿を投影する装置なんて作ったのかしら」
「説明しましょう! それはですね、ゲヘナの議長さんから温泉開発部への対策に依頼されたからです!」
「……マコトが? というか、温泉開発部対策ってどういう……?」 - 31二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 22:00:14
「はい! マコト議長さん曰く、温泉開発部の部長さんは空崎ヒナさんの姿を見ると正常な判断が下せなくなる、なのでこの習性を利用した温泉開発部対策の代物を作ってくれ! と我々エンジニア部に依頼されましたので、空崎ヒナさんの姿を完全に再現した3Dホログラムを低燃費・低コストでどこでも投影できるよう作り上げた次第です! 自由に電力を扱える店舗だけでなく屋台やその周辺道路でも問題なく設置できるよう太陽光発電を採用しておりまた強度を上げるため新素材開発部から譲り受けた──」
「そこまでは聞いてないから、一緒にアリスの光の剣整備しようねコトリ」
「ああっまだ説明が~」と名残惜し気な声を残して、アリスが背負っていたレールガンの整備に引きずるヒビキ。
いつもの事のようにウタハは気にせず「と、言う訳なのだけれど」とコトリの言葉を紡いだ。
「一応ゲヘナから許可は取ったと聞いて作成したんだけど……もしかして、風紀委員長さんに話通ってなかった?」
「……全く通ってなかったわね」
「アリス知ってます! 無断使用です! 著作権法違反で訴えることができます!!」
「惜しいですね。どちらかというと肖像権の侵害ですよ、アリスさん」
ウタハの問いにヒナが頷く。
これは明らかに肖像権を侵害している……マコトとしては「そもそも風紀委員長は我々万魔殿の下部組織に当たるもの。つまり奴らをどう扱おうと我々の自由な訳だ! キキキッ!!」というつもりだったのだろうが、残念ここは権利に煩いミレニアム。流石にそうは話が通らない。
「すまない……君の権利を侵害しているものとは思ってなかった。てっきり許可を取っているものだと……そうとなれば即座に回収し破棄することにしよう」
「……まあ、普通生徒会に当たる組織が、系列組織に許可を取らずその姿を悪用しようなんて思いませんよね」
ウタハはヒナに頭を下げる。
ハスミの言うように、まさか再現するようお願いしてきた側が許可を取っていなかったなどとは露ほども思う筈がない。普通は話を通していると思い込んでしまうものだ。
だが相手はヒナを異様に敵視するマコト議長、道理なんてものはそう簡単に通らない。故に悪いのはマコト議長である。 - 32二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 22:01:28
だがヒナは、そんなウタハに回収を促すわけでも、更に謝罪を求める訳でもない言葉をかけた。
「それで、効果はどのくらい出るの?」
「……へ? あっ、ああ……実際のところ、そこまで効果はないみたいだね。ただ風紀委員長の姿を見た瞬間、温泉開発部部長が一時温泉開発の動きを止めて、投影装置を破壊しにかかる。比較的に、だけどね。……一応、簡単に壊れるようには作っていないから壊している間に風紀委員が到着し被害を防げたという例はあるが……」
「そう。それなら回収は不要、そのまま増産してちょうだい」
ヒナからの提案にウタハは頭を上げ、目を丸くした。
無許可で自分の姿を使われたというのに咎めることもなく、むしろもっと量産しても良いと許可まで出してくれた……良くて量産取り止めて出してしまった利益全てを献上、最悪の場合賠償金を払う覚悟もしていただけに……この瞬間、ウタハの目には、ヒナの背後に後光が差していたように感じたという。
実際のところは、ヒナの背後でハスミが驚きに羽を膨らませただけなのだが。
「いっ、良いんですかヒナさん!? あの議長に、勝手に使われていたんですよ!!」
「正直制圧しやすくなるならそのくらいは別に……ちょっとでも休憩増えるなら……」
「風紀委員長が骨の髄まで風紀ぎっしりです! アリス知ってます、ワーカーホリックっていう奴です!!」
「ちゃんと毎日5分休憩してるし3時間寝てるから大丈夫よ、ワーカーホリックじゃないわ」
「言いつくろう事が出来ないくらいワーカーホリックです!! もしかしてずっとHPバー赤い状態なのですか……!? 風紀委員長、寝てください!!」
もうなんか肖像権とかどうでもいい、少しでも休めるならと諦めたように言うヒナに、ハスミとアリスが狼狽える。
噂には聞いていたがこれほどまで治安維持に身をささげていたとは……ハスミは己以上に正義を実現している姿を見たが、正直奉仕精神すぎて恐怖した。私は空崎ヒナにはなれない、と。 - 33二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 22:02:51
そしてウタハは、ヒナ本人から許可を取れたことに心の底から安堵していた。
これからも定期的に消耗品の注文が来る。これでより趣味の方に資金をつぎ込める、と。
「ありがとう。少しでも君たち風紀委員の人たちが到着できるよう、より丈夫さを高めるよ。ついでに迅速に君たちへ異常の報告が入るよう改良も続けさせてもらう」
「期待しているわ」
「そうだ、これ……どこでも空崎ヒナ量産の許可をくれたお礼に、受け取ってくれ」
そう言ってウタハが取り出したのは、一冊の本だった。
ヒナも困惑しながら受け取るが、ウタハの意図が読めない。それはハスミもそうだったようで、頭に疑問符を浮かべてヒナの背後から覗き込んでいた。
「これは……?」
「よく眠れるお呪いさ。夜、ベッドの上でこれを読んだらすやすや夢の世界に旅立てることを保証するよ」
「そう、ありがとう。早速今夜にでも試してみるわ」
ヒナはお礼を言い、手を差し伸べた。ウタハもヒナの手を取り、握手をした。
□
シャーレを出たのは朝だったというのに、既に空は赤く染まっていた。
ミレニアムサイエンススクール駅の改札、ヒナとハスミ、そしてリスの三人がいた。 - 34二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 22:03:47
「ぱんぱかぱーん! アリスの受注したクエストをクリアしました! これにて一件落着です!!」
「ええ、明日からはいつも通りの業務に戻れそうです。アリスさん、そして……ヒナさん、ご協力くださり、ありがとうございました」
「ええ。色々なところに連れ回してしまったけど……無事解決できてよかったわね。明日からお互い、頑張りましょうね。ハスミ」
腰に手を当て飛鳥馬トキ譲りのピースをするアリスに、ハスミとヒナがお互いを労う。
アリスだけ治安維持組織に所属していないので少し仲間外れだが、そのことは気にしない。勇者としては悩みを達成できた、それ以上の事は求めないからだ。
「……キヴォトスを色々と巡り回った仲も、これで終わりと思うと寂しいわね」
「……アリスさん」
「……はい!」
ヒナがぽつりと零した呟きに、ハスミとアリスがアイコンタクトをする。
そしてヒナが動くより先に、ハスミとアリスはヒナの手を取った。
「終わりじゃありません、始まりですよ。これから私たちは普通の友達として、普通の生徒としての時間を過ごせばいいじゃないですか。……それに、学園は違えど同じ志を持った組織ですから、同じ組織でないと吐き出せない愚痴を聞けます」
「一度パーティーに入ったら解散しても仲間です! 風紀委員長もハスミも、また一緒にパーティーを組んで、アリスと一緒にクエストを攻略しましょう!」
ハスミとアリスの言葉に、ヒナの目は少し涙で潤んだ。
だがここで涙は似合わない。お別れするとはいえ、また遊べる友達なのだから。
ヒナは自分の羽で目の涙を拭い、二人の言葉に笑って頷いた。
こうして、キヴォトスの片隅でひっそりと繰り広げられていたエデン条約は、これまたひっそりと幕を下ろした。
ハスミとヒナ、そしてアリスという学園の垣根を超えた友達。この友情はきっと、これからも緩く繋がっていくことだろう。 - 35二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 22:04:59
◇
「……と言う訳で、今回の騒動も全部、全部あのゲヘナバカマコト議長の仕業だったということでした。全く、人騒がせな! これだからゲヘナは!!」
正義実現委員会の部室、ハスハスプンプンといった様子で紅茶を片手に今日の出来事を語るハスミ。
ヒナへの印象はかなり良くはなったが、それはそれ。これはこれ。そもそもがゲヘナ嫌いを悪化させた原因が、またしても同じ悩みごとの原因だったと分かればお冠も当然だ。
そして、無事解決したと聞いていた仲正イチカと剣先ツルギがお互いに顔を見合わせる。
疑問に思ったことは同じだったようでアイコンタクトで通じ合う二人。
二人の様子を首を傾げながら、何を話し合ってるのか不思議に思いながら見つめるハスミに、二人が口を開く。
「……ゲヘナの議長、マコトだったか。その人、とんでもないトリニティ嫌い……だったよな?」
「ええ、そうだとチナツさんから聞きましたが……」
「……だったら、おかしくないっすか? その人からしたら、トリニティを温泉開発部が滅茶苦茶にする分はどうでもいい、むしろ都合がいいと考えると思うっす。流石に外交面を考えたら推奨はしないだろうっすけど、トリニティの為にわざわざ温泉開発部対策の道具を与えるような、トリニティの利益になるような行いをするとはちょっと思えないっすね」
「……それって、つまり……」
「ああ。……ハスミが見たのは、多分だがミレニアムのとは別件だ」
ツルギの言葉に、ハスミは顔を真っ青にしてカップを落とした。
トリニティ生徒愛飲のお高い紅茶が床に飛び散ったが、そのような事を気にする様子もなく……ハスミはハスハスブルブルと震えながら、ツルギににじり寄り、抱き着いた。
「きょっ、今日も一緒に寝てくれませんか……ツルギ……」
「……そうだな。それと明日、一緒にお祓いに行くか。百鬼夜行に」 - 36二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 22:10:54
- 37二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 22:13:25
良いSS…というより短編小説でした、結構なお点前でした
- 38二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 22:16:46
投下おつかれでした、色々各生徒らしいとこ出てて良かったです
所でウタハパイセン、そのお土産ってもしかしてあの……著者泣いちゃいませんか - 39二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 22:17:40
良質なSSで一気読みしました
次も期待しちゃいます - 40二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 22:27:49
- 41二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 22:31:59
楽しんでいただけたんでしたら手前嬉しいですよぉ…!!
次はこうしてスレ立てて書くか辻SS投げつけるかは分かりませんが、次回作をこうご期待…ですねぇ
らしさ出せてたら何よりですねぇ…「このキャラはこういう口調で合ってるか? こういう考え方するか?」を半月~1か月ほど脳内でねりねりした甲斐がありましたねぇ…
ウタハ「困っている人を助けられるなら、手を差し伸べない理由はないよ。それに読んで眠れたならその人によし、眠れず読み切ったらノ…著者の子に良し、眠ってしまっても全部読み切れたらそれでよしじゃないか」
原作のあれを掃除機としてデザインに落とし込んだ某ゲーム会社の手腕はとんでもないですよねぇ…手前だったら掃除機にするなんて思いつきもしませんよぉ