【閲覧注意】ブルロで走れメロス

  • 1二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 20:32:43

    dice1d32=29 (29) は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王dice1d32=28 (28) を除かなければならぬと決意した。

  • 2二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 20:33:10

    ちょっとそれっぽくてウケる

  • 3二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 20:34:10

    何したんだよボーダーライナー

  • 4125/02/21(金) 20:35:37

    ナナセには政治がわからぬ。ナナセは、村の牧人である。笛を吹き、dice1d32=25 (25) と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明ナナセは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此のフランスの市にやって来た。

  • 5二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 20:37:17

    ナナセとニコが遊んでるの可愛いな

  • 6125/02/21(金) 20:37:39

    ナナセには父も、母も無い。女房も無い。十六の、内気な妹dice1d32=1 (1) と二人暮しだ。

    この妹は、村の或る律気な一牧人を、近々、花婿として迎える事になっていた。結婚式も間近かなのである。

    ナナセは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。

  • 7二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 20:38:37

    妹イサギ!妹イサギだ!
    妹(♂)ですか?妹(♀)ですか?

  • 8125/02/21(金) 20:39:29

    先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。ナナセには竹馬の友があった。

    dice1d32=29 (29) である。今は此のフランスの市で、石工をしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。

    久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

  • 9125/02/21(金) 20:40:14

    かぶると右にずれていきます

  • 10二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 20:41:25

    斬鉄だ!今のところ平和だな

  • 11125/02/21(金) 20:42:20

    歩いているうちにナナセは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。

    もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。のんきなナナセも、だんだん不安になって来た。

    路で逢ったdice1d32=30 (30) をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈だべ、と質問した。

  • 12二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 20:42:58

    やたら後半に偏るダイス
    シャルルか

  • 13125/02/21(金) 20:43:30

    シャルルは、首を振って答えなかった。

    しばらく歩いてdice1d32=6 (6) に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。

  • 14125/02/21(金) 20:46:01

    リンは答えなかった。
    ナナセは両手でリンのからだをゆすぶって質問を重ねた。
    リンは、ドスの効いた低声で、わずか答えた。

  • 15二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 20:54:40

    >>14

    ちょっとキレとるやんけ そらそう

  • 16125/02/21(金) 20:54:58

    「王は、人を殺す。」

    「どうして殺すんですか。」

    「悪心を抱いている、とはいうが、誰もそんな、悪心を持ってるやつはいない。」

    「たくさん殺したんですか!」

    「はじめは王の妹婿。それから、世嗣を。それから、妹を。それから、妹の子を。それから、皇后を。それから、賢臣のdice1d32=1 (1) を。」

    「おどろいたっぺ。国王は乱心したんだべか。」

    「いや、人を、信ずる事が出来ぬ、という。このごろは、だれでも彼でも疑い、少しく派手な暮しをしている輩には、人質ひとりずつ差し出すことを命じている。拒めば十字架にかけられて、殺される。きょうは、dice1d100=28 (28) 人殺された。」

  • 17二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 20:56:10

    右だから賢臣は蜂楽か
    少し泣く

  • 18125/02/21(金) 20:58:51

    聞いて、ナナセは激怒した。「呆れた王だべ。生かして置けねぇ!」

    ナナセは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。

    たちまち彼は、巡邏の警吏dice1d32=5 (5) に捕縛された。調べられて、ナナセの懐中からは短剣が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。

    ナナセは、王の前に引き出された。

  • 19125/02/21(金) 21:12:21

    「この短刀で何をする気だった。言え!」暴君キヨラは静かに、けれども威厳を以もって問いつめた。
    その顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。
    「市を暴君の手から救うんだべ。」とナナセは悪びれずに答えた。
    「おまえがか?」キヨラは、憫笑した。
    「あきれたやつ。おまえには、俺の孤独はわからねぇよ。」
    「それだべ!」とナナセは、いきり立って反駁した。
    「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。王は、民の忠誠を疑っちゃいけない!」

  • 20125/02/21(金) 21:18:19

    「疑うのが、正当の心構えだと、俺に教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりだ。信じられるか。」
    暴君は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。「俺だって、平和を望んでいるんだが。」
    「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為だべか。」こんどはナナセが嘲笑した。
    「罪の無い人を殺して、何が平和だ。」
    「だまれよ、下賤の者。」キヨラは、さっと顔を挙げて報いた。
    「口では、どんな綺麗事でも言える。俺には、人の腹綿の奥底が見え透いている。おまえだって、いまに、磔になってから、泣いて詫びたって聞かねぇぞ。」

  • 21二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 21:22:55

    七星正義の主人公似合うなー

  • 22125/02/21(金) 21:25:33

    「王様はかしこいっすね。自惚れてろ。俺は、ちゃんと死ぬ覚悟で居る。命乞いなんて決してしない。ただ、――」と言いかけて、ナナセは足もとに視線を落し瞬時ためらい、
    「ただ、俺に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、俺は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」
    「ばか言え。」と暴君は、嗄れた声で低く笑った。
    「とんでもない嘘を言う。逃がした小鳥が帰って来るってか。」

  • 23二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 21:26:45

    啖呵切る七星かっこよすぎて笑う 清羅王の言い回しもいいわ

  • 24125/02/21(金) 21:28:34

    「そうです。帰って来ます。」ナナセは必死で言い張った。
    「俺は約束を守ります。俺を、三日間だけ許して下さい。妹が、俺の帰りを待ってるんだべ。そんなに俺を信じられないならば、よろしい、この市にザンテツという石工がいます。俺の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行く。俺が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」

  • 25二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 21:30:22

    突然の巻き込まれ斬鉄

  • 26二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 21:30:43

    ざ、残鉄ー!

  • 27125/02/21(金) 21:37:59

    それを聞いてキヨラは、残虐な気持で、そっと北叟笑んだ。生意気なことを言う。友の命を天秤に乗せやがった。こいつの言い訳を聞いて、放してやるのも面白い。そうして身代りの男を、三日目に殺してやるのも気味がいい。人は、これだから信じられぬと、俺は悲しい顔して、その身代りの男を磔刑に処してやるのだ。世の中の、正直者とかいう奴輩にうんと見せつけてやろう。
    「願いを、聞いた。その身代りを呼べ。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、処刑する。ちょっとおくれて来い。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろう。」
    「なに、何をいうんだべか。」
    「はは。境界線に乗ったのはおまえだ。いのちが大事だったら、おくれて来い。どちらを選ぶかおまえの心は、わかってるぞ。」
    ナナセは口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。

  • 28125/02/21(金) 21:40:58

    竹馬の友、ザンテツは、深夜、王城に召された。暴君キヨラの面前で、佳き友と佳き友は、二年ぶりで相逢うた。
    ナナセは、友に一切の事情を語った。ザンテツは無言で何度も首肯き、ナナセをひしと抱きしめた。
    友と友の間は、それでよかった。
    ザンテツは、縄打たれた。ナナセは、すぐに出発した。初夏、満天の星である。

  • 29125/02/21(金) 21:47:56

    ナナセはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到着したのは、翌る日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。
    イサギも、きょうは兄の代りにニコの番をしていた。よろめいて歩いて来るナナセの、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさくナナセに質問を浴びせた。
    「なんでも無いっす。」ナナセは無理に笑おうと努めた。「市に用事を残して来たんでまたすぐ戻らなきゃいけないんす。あした結婚式を挙げます。早いほうがいいべ。」
    イサギは目をまるくした。「綺麗な衣裳も買って来ました。さあ、これから行って、村の人たちに知らせてください。結婚式は、あすだと。」

  • 30125/02/21(金) 21:49:09

    ナナセは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。

    眼が覚めたのは夜だった。ナナセは起きてすぐ、dice1d32=18 (18) の家を訪れた。そうして、少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。

  • 31二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 21:51:19

    このレスは削除されています

  • 32二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 21:52:30

    奇跡的に男女CPになった…

  • 33125/02/21(金) 21:54:13

    婿のアンリは驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、葡萄の季節まで待ってほしい、と答えた。
    ナナセは、待てない、どうか明日にしてくれ、と更に押してたのんだ。アンリも頑強であった。なかなか承諾してくれない。夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにかアンリをなだめ、すかして、説き伏せた。
    結婚式は、真昼に行われた。新郎新婦の、神々への宣誓が済んだころ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。祝宴に列席していた村人たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い家の中で、むんむん蒸し暑いのも怺え、陽気に歌をうたい、手を拍った。

  • 34125/02/21(金) 21:58:08

    ナナセも、満面に喜色を湛え、しばらくは、キヨラとのあの約束をさえ忘れていた。
    祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。
    ナナセは、一生このままここにいたい、と思った。この佳い人たちと生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。ままならぬ事である。
    ナナセは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。あすの日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。その頃には、雨も小降りになっていよう。少しでも永くこの家に愚図愚図とどまっていたかった。ナナセほどの男にも、やはり未練の情というものは在る。

  • 35125/02/21(金) 22:07:21

    今宵呆然、歓喜に酔っているらしいイサギに近寄り、
    「おめでとう。俺は疲れてしまったんで、ちょっとご免こうむって眠ります。眼が覚めたら、すぐに市に出かけます。大切な用事があるんだべ。もう俺がいなくても、優しい亭主がいるんですから、決して寂しい事は無いっす。おまえの兄の、一ばんきらいなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だべ。それは、知ってるっすね。亭主との間に、どんな秘密でも作っちゃだめです。言いたいのは、それだけ。おまえの兄は、たぶん偉い男だから、誇りを持ってください。」

  • 36125/02/21(金) 22:12:52

    イサギは、夢見心地で首肯いた。ナナセは、それからアンリの肩をたたいて、
    「仕度の無いのはお互さまっす。俺の家にも、宝といっては、イサギとニコだけです。他には、何も無い。全部あげます。もう一つ、ナナセの弟になったことを誇ってください。」
    アンリは揉もみ手して、てれていた。
    ナナセは笑って村人たちにも会釈して、宴席から立ち去り、ニコ小屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。

  • 37125/02/21(金) 22:15:22

    眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。
    ナナセは跳ね起き、南無三(CVイガグリ)、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。
    きょうは是非とも、あの王に、人の信実の存するところを見せてやろう。そうして笑って磔の台に上ってやる。
    ナナセは、悠々と身仕度をはじめた。雨も、いくぶん小降りになっている様子である。身仕度は出来た。
    さて、ナナセは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。

  • 38二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 22:16:35

    そういえば二子=ヒツジだった まあ可愛いからええか

  • 39二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 22:19:38

    ニコ小屋とかいうパワーワードが生まれてしまった

  • 40125/02/21(金) 22:22:38

    俺は、今宵、殺される。殺される為に走っている。身代りの友を救う為に走る。
    王の奸佞邪智を打ち破る為に走る。走らなきゃならねぇ。
    そうして、俺は殺される。若い時から名誉を守れ。さらば、ふるさと。若いナナセは、つらかった。
    幾度か、立ちどまりそうになった。えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。
    村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、雨も止やみ、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。
    ナナセは額の汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。
    イサギたちは、きっと佳い夫婦になるだろう。俺には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。
    まっすぐに王城に行き着けば、それでいい。そんなに急ぐ必要も無い。
    ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気さを取り返し、リライトをいい声で歌い出した。

  • 41125/02/21(金) 22:28:51

    ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧いた災難、ナナセの足は、はたと、とまった。
    見よ、前方の川を。きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。
    彼は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟は残らず浪に浚われて影なく、渡守りの姿も見えない。
    流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。ナナセは川岸にうずくまり、男泣きに泣きながらゼウスに手を挙げて哀願しようとして辞めた。祈れば手が塞がる。

  • 42125/02/21(金) 22:34:01

    今はナナセも覚悟した。泳ぎ切るより他に無い。ああ、神々も照覧あれ!

    濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。

    ナナセは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。

    満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻きわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、神dice1d32=14 (14) も哀れと思ったか、ついに憐愍を垂れてくれた。

    押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。ありがてぇ。

    ナナセは馬のように大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。一刻といえども、むだには出来ない。陽は既に西に傾きかけている。

    ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に一隊の山賊dice3d32=30 17 4 (51) が躍り出た。

  • 43二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 22:43:29

    山賊の兄ちゃ草

  • 44125/02/21(金) 22:45:56

    「待て。」
    「何すんだべ。俺は陽の沈まないうちに王城へ行かなくちゃいけない。放すっぺ。」
    「どっこい放さねぇ!持ちもの全部置いてけ!」
    「俺にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから王にくれてやるんだ。」
    「その、いのちをもらい受ける。」
    「さては、王の命令で、ここで俺を待ち伏せしてたな!」

  • 45125/02/21(金) 22:48:38

    山賊たちは、ものも言わず一斉に棍棒を振り挙げた。
    ナナセはひょいと、からだを折り曲げ、飛鳥の如く身近かの一人に襲いかかり、その棍棒を奪い取って、
    「南無三!」と猛然一撃、たちまち、一人を殴り倒し、残る者のひるむ隙に、さっさと走って峠を下った。

  • 46125/02/21(金) 22:52:33

    一気に峠を駈け降りたが、流石に疲労し、折から午後の灼熱の太陽がまともに、かっと照って来て、ナナセは幾度となく眩暈を感じ、これじゃだめだ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。
    立ち上る事が出来ない。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。
    ああ、あ、濁流を泳ぎ切り、山賊をも撃ち倒し韋駄天、ここまで突破して来たナナセよ。真の勇者、ナナセよ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。
    愛する友は、おまえを信じたばかりに、やがて殺されなければならぬ。
    おまえは、稀代の不信の人間、まさしくキヨラの思う壺だぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身萎えて、もはや芋虫ほどにも前進かなわない。

  • 47125/02/21(金) 23:00:38

    路傍の草原にごろりと寝ころがった。身体疲労すれば、精神も共にやられる。
    もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな不貞腐れた根性が、心の隅に巣喰った。
    俺は、これほど努力した。約束を破る心は、みじんも無かった。神も照覧、俺は精一ぱいに頑張った。
    動けなくなるまで走って来た。俺は不信の徒じゃない。
    ああ、できる事なら俺の胸を截ち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。
    愛と信実の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。

  • 48125/02/21(金) 23:10:33

    でも俺は、この大事な時に、精も根も尽きたんだ。俺は、きっと笑われる。俺の一家も笑われる。俺は友を欺いた。
    中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。
    ああ、もう、どうでもいい。これが、俺の定った運命なのかも知れない。
    ザンテツ、ゆるしてほしい。あんたは、いつでも俺を信じた。俺もあんたを、欺かなかった。
    俺たちは、本当に佳い友と友だった。いちどだって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。
    いまだって、あんたは俺を無心に待っているだろう。
    ああ、待っているだろう。ありがとう、ザンテツ。よくも俺を信じてくれた。それを思えば、たまらない。
    友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝。
    ザンテツ、俺は走ったんすよ。あんたを欺くつもりは、みじんも無かった。信じてくれ!
    俺は急ぎに急いでここまで来たんだ。濁流を突破した。山賊の囲みからも、するりと抜けて一気に峠を駈け降りて来た。
    ああ、これ以上、俺に望み給うな。放って置いてくれ。どうでも、いいんだ。俺は負けたんだ。だらしが無い。笑ってくれ。
    王は俺に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした。おくれたら、身代りを殺して、俺を助けてくれると約束した。俺は王の卑劣を憎んだ。けれども、今になってみると、俺は王の言うままになっている。

  • 49125/02/21(金) 23:16:13

    俺は、おくれて行くだろう。キヨラは、ひとり合点して俺を笑い、そうして事も無く俺を放免するだろう。
    そうなったら、俺は、死ぬよりつらい。俺は、永遠に裏切者だ。地上で最も、不名誉の人種だ。
    ザンテツ、俺も死ぬべ。一緒に死なせてくれ。あんただけは俺を信じてくれるにちがい無い。いや、それも俺の、ひとりよがりか?
    ああ、もういっそ、悪党として生き伸びてやろうか。村には俺の家が在る。ニコも居る。イサギ夫婦は、まさか俺を村から追い出したりはしないんじゃないか。
    正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらねぇ。人を殺して自分が生きる。弱肉強食ってやつだべ。
    俺は、醜い裏切り者だ。どうとも、勝手にしてくれ。――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。

  • 50125/02/21(金) 23:25:00

    ふと耳に、潺々、水の流れる音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。
    すぐ足もとで、水が流れているらしい。よろよろ起き上って、見ると、岩の裂目から滾々と、何か小さく囁きながら清水が湧き出ているのである。その泉に吸い込まれるようにナナセは身をかがめた。水を両手で掬って、一くち飲んだ。ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。
    歩ける。行こう。肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。義務を遂行せよ。わが身を殺して、名誉を守れ。斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。日没までには、まだ間がある。
    俺を、待っている人がいる。少しも疑わず、静かに期待してくれている人がいる。俺は、信じられている。俺の命なんぞ問題じゃない。
    死んでお詫び、なんて気のいい事を言うな。俺は、信頼に報いなきゃならない。
    いまはただその一事だ。走れ! ナナセ。

  • 51125/02/21(金) 23:27:58

    俺は信頼されている。俺は信頼されている。
    先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れろ忘れろ。
    五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るもんだ。
    ナナセ、おまえの恥じゃない。やはり、おまえは真の勇者だ。再び立って走れるようになったじゃないか。ありがてぇ!
    俺は、正義の士として死ぬ事が出来る。ああ、陽が沈む。ずんずん沈む。待ってくれ、ゼウスよ。
    俺は生れた時から正直な男だった。正直な男のまま死なせて下さい。

  • 52125/02/21(金) 23:30:10

    路行く人を押しのけ、跳ねとばし、ナナセは黒い風のように走った。

    野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬と戯れ、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。

    一団の旅人dice1d32=19 (19) と颯っとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。

  • 53125/02/21(金) 23:33:05

    「いまごろは、あの男も、磔にかかっているだろうよ。」
    ああ、その男、その男のために俺は、いまこんなに走っているんだ。
    その男を死なせてはならない。急げ、ナナセ。おくれちゃならねぇ。
    愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるんだ。
    風態なんかは、どうでもいい。ナナセは、いまは、ほとんど全裸体であった。
    呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。見える。はるか向うに小さく、フランスの市の塔楼が見える。塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている。

  • 54125/02/21(金) 23:35:10

    「ああ、ナナセ様。」うめくような声が、風と共に聞えた。

    「誰だっぺ。」ナナセは走りながら尋ねた。

    「dice1d32=22 (22) でございます。貴方のお友達ザンテツ様の弟子でございます。」

  • 55125/02/21(金) 23:41:18

    その若い石工も、ナナセの後について走りながら叫んだ。
    「もう、駄目でございます。むだでございます。走るのは、やめてございます。もう、ザンテツ様をお助けになることは出来ないでございます。」
    「いや、まだ陽は沈まないべ。」
    「ちょうど今、あの方が死刑になるところでございます。ああ、ナナセ様は遅かったでございます。おうらみ申しますでございます。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったらなあ!」
    「いや、まだ陽は沈まないべ。」
    ナナセは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。走るより他は無い。

  • 56125/02/21(金) 23:49:37

    「もう走るのはやめた方がいい。いまはご自分のお命が大事でございます。あの方は、あなたを信じて居りましたでございます。刑場に引き出されても、平気でいましたでございます。王が、さんざんからかっても、ナナセは来る、とだけ答えてた。」
    「それだから、走るんだべ。信じられているから走るんだ。間に合う、間に合わないは問題じゃない。人の命も問題じゃないっぺ。俺は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走ってる。走るべ! ガガマル!」
    「おお、気が狂ったか。それじゃあ、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合うかも。」

  • 57125/02/21(金) 23:52:38

    言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。
    最後の死力を尽して、ナナセは走った。ナナセの頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。
    ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、ナナセは疾風の如く刑場に突入した。
    間に合った。

  • 58二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 23:54:00

    語尾にございますつけて精一杯敬語使ってる我牙丸さん…

  • 59二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 23:57:27

    神が乙夜なのウケる

  • 60二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 00:00:17

    女好きのゼウスに乙夜が当たったの凄くね

  • 61125/02/22(土) 00:01:02

    「待ってください。その人を殺しちゃだめだ。ナナセが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれて嗄れた声が幽かに出たばかり、群衆は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。
    すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたザンテツは、徐々に釣り上げられてゆく。ナナセはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、
    「俺だ、刑吏!殺されるのは、俺だ!ナナセだ!ザンテツを人質にした俺は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、齧りついた。
    群衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。ザンテツの縄は、ほどかれたのである。

  • 62125/02/22(土) 00:11:25

    「ザンテツ。」ナナセは眼に涙を浮べて言った。
    「俺を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴ってください。俺は、途中で一度、悪い夢を見た。あんたが若し俺を殴ってくれなかったら、俺は抱擁する資格も無いんだ。殴るべ。」
    ザンテツは、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くナナセの右頬を殴った。殴ってから優しく微笑み、
    「ナナセ、俺を殴れ。同じくらい腹一ぱい俺の頬を殴れ。俺はこの三日の間、たった一度だけ、ちらとナナセを疑った。生れて、はじめてナナセを疑った。ナナセが俺を殴ってくれなければ、俺はナナセと抱擁できない。」
    ナナセは腕に唸りをつけてザンテツの頬を殴った。
    「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。

  • 63125/02/22(土) 00:16:55

    群衆の中からも、歔欷の声が聞えた。暴君キヨラは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。
    「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、俺とのかけに勝った。信実とは、決して空虚な妄想じゃあなかった。頼む、俺をも仲間に入れてくれないか。どうか、俺の願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
    どっと群衆の間に、歓声が起った。
    「万歳、王様万歳。」

  • 64125/02/22(土) 00:21:13

    ひとりの少女dice1d32=6 (6) が、緋のマントをメロスに捧げた。ナナセは、まごついた。

    佳き友は、気をきかせて教えてやった。

    「ナナセは、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るといい。この娘さんは、ナナセが風邪をひかないように布をきかせてくれたんだろう。」

    勇者は、ひどく赤面した。

  • 65125/02/22(土) 00:23:14

    メロスにアンリちゃんが出たら全裸シーンどうしようかと思っていましたが何とかなりました。

    お付き合いありがとうございました。


    太宰治 走れメロスwww.aozora.gr.jp
  • 66二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 00:27:13

    面白かった!乙

オススメ

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