【SS】真の頂へ

  • 1二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:18:13

    (あと27日…あと27日…)

    他の子の練習風景を上の空で見つめ続けてなお、時の流れが鈍重に感じられる。私はアーモンドアイ。ウマ娘を知る者でその名を知らない者はいない、現役で最も注目を集めるウマ娘……のはずだった。

    『内でアーモンドアイ!苦しい!』

    悪夢のような有マ記念の惨敗、今までにない筋肉痛に襲われ1ヶ月の休養を余儀なくされた。そればかりでない。私が望む頂の座……年度代表の座も届かなかった。
    こんな屈辱は二度と味わいたくない。それなのに…練習できない、いつかまた届かずに終わるかもしれない、そんな歯痒さと恐怖に苛まれるばかりだ。

    (私はこんなところで…終わりたくないのに…!)

    「随分退屈そうにしていらっしゃるのね、アーモンドアイさん」

    「…!」

    淑やかな口調ながら身震いするような声、ジェンティルドンナである。トリプルティアラとしては私の偉大なる先達にして、そしてティアラどころかウマ娘の中でも頂点に近い存在である。

    「当然ですわね。あんな走りであれば自らの肉体を痛め、そして無様を晒すのも目に見えていましたわ」

    「人を笑うくらいならさっさと練習すれば?」

    何度か話したこともあるし何より仲が悪いわけではない。それでも今は動転した気持ちを抑え切れず、失礼にも突っぱねてしまう。

    「笑う?何に対して?どうして?」

    「は?」

    「ああ、挨拶くらいは笑顔でするのがマナーでしょう?私が人の敗北を笑うほど下品だと思って?むしろ…全てにおいて痛ましい」

    痛ましい…私が恥ずべき惨敗をしたことだろうか。それとも今練習できないこの身体を見てだろうか。

  • 2二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:20:22

    「貴女は強者として相応しい選択をしなかった。無理を通して有マ記念出走だなんて」

    「!」

    「聞きましたわよ。香港カップを熱発で回避…準備も対策も不完全なまま、未踏の戦場である有マ記念に踏み入ったとか。目先の勲章に目が眩むだなんて…それが強者としての振る舞いなのかしら?」

    彼女は笑うどころかつまらなそうな表情だった。私は何も言い返せずに俯いた。嘲笑ではない、事実だ。文武においても究極に至る、それはレースで頂点に立つため。そんな私からすれば自らの姿勢が愚かだったのは誤魔化しようがなかった。

    「ふふ…勘のいい貴女ならすぐ反省できると分かっていましたわ。私も今も古傷として残るほどの経験だもの」

    「どういう意味?」

    「私が前人未到のJC連覇を果たしても、年度代表の座は届かなかった…否、手放さざるを得なかったという方が正しいかしら」

    彼女の言う通り、当時の年度代表は彼女でも…ましてやオルフェーヴルでもゴールドシップでもない、私が焦がれた短距離の王者である。

    「けれど“彼女”は私を打ち破ったわけではない…あくまで自らの領域で強さを見せつけた。そして私も今後歩むべき覇道の先を見据え…その当時は有マ記念を回避した」

    「はあ、そういうことね」

    私だって何も考えないわけではない。ジェンティルもそれを分かっているはず。彼女がここまで明確に説くことが珍しく感じられ、理解と共に驚きすらあった。

    「ここまで言えば確と記憶に残るでしょう?そう…大切なのは自らの強みでもって戦うこと、そして目先の一勝に縛られないこと…焼きつけて頂戴ね?」

    「…ええ」

    まさかこんな親身な一面があるとは思わなかった。ふわっとした感覚のままの私にジェンティルは「よろしい」と何やら満足したようにコースへ向かっていった。

  • 3二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:22:00

    「私の…強みで…!」

    ジェンティルの言う通り忘れられるわけがなかった。そして私は一歩、また一歩と先だけを見つめて足を進めた。

    『皇帝ルドルフの壁を超えた!G18勝目!』

    『アーモンドアイ!アーモンドアイです!見事に有終の美!』

    そして私は誰も踏み入ったことのない偉業を達成した。私の輝きはもはや誰の目で見ても分かるものだった。私は…ただただ嬉しかった。気持ち良く走れて、そして1着で駆け抜ける…単純だけれど、心の底からレースへの喜びが感じられた。

    「おめでとうございますわ。ほほほ…お可愛いこと」

    「ジェンティル…改めて、ありがとう」

    ラストランの翌日になろうとも嬉しさを、感謝を、隠すことはできない。ジェンティルどころか誰が見ても分かるような顔で彼女に礼を伝えた。

    「しかし…多大なる訓示の返礼が一言の謝辞では物足りませんわ」

    「…もしかしてそれが目的?」

    私は察した。彼女とてドリームトロフィーリーグに移籍して尚“最強”を目指す者。私から何を求めているのか勘づくのは容易だった。

    「一戦一戦がまさに伝説の走り…そんな貴女の首を獲ってこそ私の伝説は神話となる。これほど素晴らしい返礼はないでしょう?」

    恐ろしいまでの自信、そして覇気、柔和な笑みと声色に確かに宿っていた。けれど、驚きはすぐに期待へと変わった。

  • 4二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:22:49

    「でしょうね。貴女が1番欲しいものと言えば、それしかない。それでも私には見える…」

    レースが大好きだ。共に競い合う学園のみんなも大好きだ。そんな喜びを抱き私も同じく、いや…それ以上の自信を持って続けた。

    「勝つのは…私よ」

    さあ行こう、真の頂点へ。

  • 5二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:24:37

    お わ り

    この2人の絡みが見たくて書きました

  • 6二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:26:20

    ええやん(ええやん)

  • 7二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:26:27

    お つ で す

    "頂点"は常に一人…冷静沈着なやりとりに見えてもお互いの譲れぬ想いがバチバチ熱く火花を散らしているレース前…いいですね

  • 8二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:30:02

    別スレでこの2人の勝負服がハートの女王とアリスっぽいと言われてたので、是非バッチバチにやり合うのを見たいなって

  • 9二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:31:01

    >>6

    ありがとう…それしか言葉が見つからない…

    >>7

    2人とも超負けず嫌いで頂点の景色は譲りたくないのは一致してると思うんですよね

  • 10二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:32:23

    >>8

    た…確かに…!

    目からウロコの観点ですね

    いつか公式でもこの2人の絡みが見たいものですな…

  • 11二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:32:30

    >>9

    あとライバルに恵まれてるのも共通点か

  • 12二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:33:03

    はやいよ!乙!
    (無粋だけどラストランの勝利はGI9勝目なような?)

    ジェンティルのこういうある種師匠キャラ的な一面が彼女の育成で摂取して以来大好きだから、
    それがアイちゃん最大のつまづきに効いて化学反応してたらそれはもうおいしいよね……

    アイも最後の締めくくりが今わかってる彼女の「好き・楽しい、ゆえにガチx9」な感じがよく出てて本当に好きだし、
    だからこそワクワクを忘れている冒頭がマジでらしくないな……ってわかるのもいい

  • 13二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:38:52

    >>11

    ライバル故にずっとずっと圧倒的最強ってわけでもない…それでも最後には輝きを取り戻したという共通点があるからこそ尚更輝かしいんですよね

    >>12

    描写分かりづらくてすみません!『壁を超えた!』の部分は秋天の実況で『見事に有終の美!』がJCのです!

    ジェンティルさんって先輩としても絶対いい人だし強者大好きだから遠回しな助言であれ期待してる子がスランプなら見逃さないと思うんですよねぇ

  • 14二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:53:52

    >>13

    こちらこそ申し訳ない!誤読を大変失礼致しました

    気に入った相手を踏み込み過ぎないけど結構気にかけてるジェンティルの距離感いいよね


    距離感で言えば地味に描かれている「相手が誰であろうと呼び捨てなアモアイ概念」も好きです

    なんかそういう気安いけど不快じゃなくむしろ惹きつけるようなものがありそうだよね

    誰もが初めは持っている純粋に楽しむ心を未だ強め続けているのがアイちゃんの強者たる所以だと感じるからかなあ

  • 15二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 09:59:31

    >>14

    まだアイちゃんの口調が分かりませんが、紹介文の台詞見るに恐らくタメ口が多い子じゃないかと考えました

    史実のJCを見てもレースジャ…ゲフンゲフン、楽しそうに走ってるように見えたのでこの子も他者との競い合いを楽しむタイプだと思います

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