- 1二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 20:37:43
────あっ、会見が始まるよ。
その言葉を境に、熱狂冷め止まぬ談話室の中に、一時の静寂が満ちる。
すでに時間は深夜、とっくに寮の消灯時間は過ぎているけれど、たくさんの生徒達がテレビに耳を傾けていた。
今日は、サウジカップデー。
学園内の、いや、世界中のウマ娘達にとっても注目の一日。
このような日の場合のみ、例外的に寮の消灯時間は延長されることになっているのだ。
実際、フジ寮長も真剣な眼差しで会見の様子を注目している。
……とはいえ、特別な空気を求めて起きているだけ、という生徒も少なくはない。
現に、私の後ろではラウズが配信実況を敢行したりしている、部屋でやって欲しい。
じゃあ私はどういう目的で起きているかというと────この会見の主役が、目的であった。
『サウジカップ優勝おめでとうございます、この喜びを誰に伝えたいですか?』
『はい、家族や学園のみんな、そして応援してくれているファンの皆さんに─────』
英語の質問が、リアルタイムで日本語へと翻訳される。
そして、その回答は日本語によってなされて、その言葉はリアルタイムで英語に翻訳された。
G1サウジカップ、まさしく激戦といえるレースを制したのは────日本のウマ娘だったのである。
私は彼女とちょっとした縁があり、入学時から色々と世話を焼いていた。
正直にいうと最初はあまりぱっとしない印象で、こんな大舞台で活躍するとは思っていなかった。
そんな娘がここまで立派になるだなんて、と晴れ姿を見ていると少しだけ目頭が熱くなってしまう。 - 2二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 20:38:09
『それと、あたしの心の師匠ともいえる、たくさんお世話になった先輩ウマ娘にも!』
────その言葉を聞いた瞬間、耳がぴょこんと反応してしまう。
彼女は、同期やチームメイト以外との交流はそこまで広くなかったはず。
たくさん世話になった先輩、ということであれば、恐らく、それは私のことなのではなかろうか。
いやいやいや、そんな心の師匠だなんて、照れてしまう気持ち。
それと、彼女からそう思ってもらえているという、嬉しい気持ち。
複雑な二つの心境が混ざり合って、口元が緩み、ついつい立ち上がりそうになってしまう。
『なるほど、もしよろしければ、そのウマ娘の名前を聞いても良いですか?』
ええ、記者さんそんなところまで聞いちゃう?
まあいいけど、ちょっと恥ずかしいというか、嫌だな、もう。
頬が熱くなるのを感じながら、画面の中の彼女は満面の、そして誇らしげな笑みを浮かべた。
『もちろん! その先輩は、誰もが良く知る伝説のウマ娘────』
…………ほな、私ちゃうかな。
すっと口元の緩みが消滅し、ぽすんと椅子にお尻が落ちて、別の意味で恥ずかしくなってくる。
いやまあ、私だってクラシックでキタサンやドゥラメンテと鎬を削り、海外のG1を手にしたという自負はある。
しかし、伝説かといわれると、それに関しては首を横に振るほかない。
伝説というのは、ほら、ハイセイコー先輩やセントライト先輩、スピードシンボリ先輩みたいなことをいうのだろう。
いやあ、あの子にそんな人達との繋がりがあっただなんて。
ちょっぴり寂しい気持ちを感じながら、一体誰のことなのだろうと、彼女の言葉に耳を澄ます。 - 3二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 20:38:42
『────ゲンジツスチールさんですっ!』
一瞬、誰の事かな、と思った。
背後でラウズが盛大に吹き出した瞬間、それが自分の名前であることに気づいた。
テレビ画面でもわかるくらいに騒めく会見会場。
そして、それと同じ状況がこの談話室でも、見事なまでに再現されていた。
『……えっと、ゲンジツスチールさん、ですか?』
現地の記者さんの困惑の声が胸に痛いほど響く。
そりゃあ、私は中東では走っているけど、サウジでは一度も走ってないし、言われてもピンと来ないだろう。
しかし、私の後輩はそんなのを気にする素振りを全く見せず、言葉を続けていた。
『はい! デビュー前のあたしに、大地がキミのキャンパスになる、と言ってくれた人なんですっ!』
────そんなことを言った覚えはない、冤罪だ。
デビュー前に路線の相談を受けた時、ダートが向いているんじゃない、と何気なしに言った覚えはあるけれども。
何かの聞き間違いかと思いたかったが、笑いを必死に堪えながらトークを続けるラウズのプロ根性に現実を直視させられる、炎上すれば良いのに。
ひそひそと噂する声に聞こえてない振りをしながら、逃げたい気持ちを抑えつつ、その場で留まり続ける。
『……きっと、今もあの夜空に煌めく星座のように、あたしのことを見守ってくれていると思います』
刹那、背後から激しい音と嬌声が響き渡る。
ついに限界に達したラウズが椅子ごと笑い転げる音だった、そのまま高い機材の二、三個壊して欲しい。
というか人を死んだみたいに言わないでくれる!?
なんか記者の人もちょっとしんみりした空気になってるじゃん!
そんなツッコミは口には出さない、遠くサウジの地には、届くはずもないと知っているから。 - 4二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 20:39:07
『今日のレースを制してなお、あの人の影が、優雅なる栄光が、重くのしかかっています─────でもっ!』
ダンッ、と画面の中のあの子は、机を思いきり叩きながら立ち上がる。
凛としたその双眸は、まるで画面越しの私を見つめているかのようだった。
『あの人を讃えるためでなく、あの人を越えるため、あたしの伝説を築くため、あたしは挑戦し続けます!』
しんと静まり返る会見会場。
直後、小さな拍手が聞こえて来て、それは徐々に大きく広がっていく。
やがて拍手は喝采へと変わり、永遠に若き挑戦者を貫こうとする彼女への称賛へと変わった。
私の背後もやたら騒めいているが、笑い過ぎて過呼吸になりかけているラウズが救護されているだけだから気にしなくて良いだろう。
それよりも気になるのは、周囲からの視線。
奇異、尊敬、困惑、同情。
様々な思惑や感情が、ちくちくと全身を突き刺すかのようだった。
人の噂も七十五日。
その日よりも彼女の次走の方が早いと考えると、もはや何の気休めにもならない。
私は引きつった笑みを浮かべながら、ヤケクソ気味に手を叩きながら、画面の中の彼女へ拍手を送るのであった。 - 5二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 20:39:45
📞&🍞「「いつの間に伝説になったんですかwww」」
- 6二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 20:39:46
お わ り
本編が強すぎる - 7二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 20:40:23
ついにSSまで出ちまったよリアルスティールさん・・・
- 8二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 20:40:59
書き乙、誰かがssを作ってしまう程に人の脳を焼くリアステ
- 9二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 20:41:55
事実は小説より奇なりねぇ
- 10二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 20:43:26
- 11二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 20:43:56
(あの娘インタビューでテンパってるからって記憶バグりすぎでしょ!?何なの太陽が照り輝く下桜舞う富士山麓を駆け抜けた東京大賞典の思い出って!!?)
- 12二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 20:46:02
同チームと身内ヒデェ
- 13二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 20:46:49
キタドゥラは間違いなく嫌味もなし無邪気に褒めたり感心しそうなのがこの状況をエスカレートさせそうで酷い
- 14二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 20:49:23
同門のみんなの反応
ラヴズ→実馬でもウマ娘でめっちゃ笑ってそう
コント→普通に爆笑するし揶揄う
パンサ→普通に爆笑するし揶揄う
マルシュ→ちょっと笑いながら励ます
リス→微笑みながら静観
ブリランテ→苦笑いしながら励ます - 15二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 20:58:56
- 16二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 22:10:35
背景で大変なことになってるラウズでダメだった
- 17二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 22:17:30
ラヴズに対する恨み言すき
- 18二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 23:38:20
見た目と台詞がしっくり来すぎた
- 19二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 01:16:55
ラヴズに辛辣なのすこ
- 20二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 01:20:43
>> 人の噂も七十五日。
その日よりも彼女の次走の方が早いと考えると、もはや何の気休めにもならない
ここで笑った
ドバイも面白いPV頼むぞ
- 21二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 04:07:04
創作物のポエム台詞並みのセンスだったんだなあサウジ
- 22125/02/24(月) 07:26:07
感想ありがとうございました
ドバイも期待したいですねえ 色んな意味で - 23二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 08:43:09
- 24二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 08:47:37
シンエンペラー:会見を近くで見ながら、発言にツッコミたいけど普通に感動する内容なのでモヤモヤしている
- 25二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 08:55:50
矢作厩舎組ウマ娘増えて欲しいな…
- 26二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 09:02:21
見て、ゲンジツスティールさんよ…(ヒソヒソ…)
後輩を熱烈な言葉で魅了したそうね…(ヒソヒソ…)
中山重賞を複数勝ったトウカイテイオーさん似のあの娘もゲンジツスティールさんの後輩らしいわ…(ヒソヒソ…)
道理で…。テイオーさん似の顔とゲンジツスティールさんの口説きセンスで後輩を落とすんだわ…(ヒソヒソ…)
恐るべしゲンジツスティール…(ヒソヒソ…) - 27二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 09:04:28
面白いSSあざます
伝説の名バ、ゲンジツスティールさんの明日はどっちだ