【SS】二月の苦痛(ビター百合注意)

  • 1二次元好きの匿名さん25/02/25(火) 21:10:21

     例年に増して寒さの沁みる二月半ば、トレセン学園は気温に反してある種の熱気に包まれていた。
     ――恋に恋する乙女の胸中はさて置いても、こってりと甘いカロリーに惹かれる季節である。
     アタシとウインディは大きなレースを控えて調整に余念がなく、さりとてこの一大イベントを黙殺できる程ストイックにもなり切れず。
    『心の栄養』という名目で選びに選び抜いてお迎えしたチョコレート様が、今か今かと出番を待ち構え、トレーナー室に鎮座おわしますのです。

    ※ウインディちゃんは子分と二人の時だけ『ネーサン』呼びしています

  • 2二次元好きの匿名さん25/02/25(火) 21:11:40

    「……もう食べちゃダメなのだ?」
    「明日や明日、今はこれまで」

     菓子盆のチ□ルをいくつか掴み取ってウインディの前に転がし、アタシも一つ開いて口に運んだ。
     カロリーと運動量を綿密に計算し、ウエイトを増やさず負担をかけすぎず、万全を期して臨む。なお且つその中でモチベーションを保たせる。両方やらなアカンのがトレーナーの辛いところやわな。
     トレーニング後の休息タイム、ウインディは何度も見返したカタログを再び開いとった。

    「飽きん事っちゃなぁ」
    「□イズにモ□ゾフ、ゴンチャ□フ……来年が楽しみなのだ」
    「その前に今年の、やな。アタシもこれだけ楽しみになった事ないで」

     量を控えなアカンぶん、普段なら選ばんような上物を、二人して悩み尽くして決めた。これで意気が上がってくれれば言う事なし、さにあらずとも単純に“甘いは美味い”や。
     アタシらかて競技者であり女の子やもんな――と、ウインディが突如カバンを開いた。

    「そうそう、お母さんが歯ブラシを送ってくれたの、忘れるとこだったのだ」
    「あ、せやった。アレ安うなってた?」
    「バッチリなのだ!」

     地元の個人店でたまに大幅値引きされる事があると聞いて、便乗させてもらったのが昨日届いたんやった。

    「レシートも入れてくれてるか?後で精算するわな」
    「このくらいお気になさらず、って言ってたのだ」
    「そうもいかんやろ。前と同じ値段やろか……今度何か送ろかな」

     歯ブラシ買うだけなら近場で済むけども、使い心地が気に入った品というのは他に代えがたい。

    「これ具合エエよなぁ。口の中が生まれ変わったみたいやわ……歯磨きって習慣は」
    「うわぁあ?バッチィのだ!」
    「冗談や」

  • 3二次元好きの匿名さん25/02/25(火) 21:12:43

     バ鹿話で騒いでいるところに、やや大きなノックが来客を知らせた。

    「お邪魔するヨ」
    「邪魔すんなら帰ってや〜」
    「じゃあまたナ〜」
    「いや待ったらんかい」

     おおかた予想通りの時間、中堅のチームトレーナーが訪ねて来た。コイツはネーサンとやたら距離が近いと言うか、まあ、そういう仲だって事くらいは理解している。
     正直あんまり面白くはない。しかし、合同練習やら何やら色々と世話になっている手前、無碍にも出来ない。今日だってそうだ。

    「ほい、ウチの子ん時のノートと録画。役に立つと良いがネ」
    「ありがとさん。いつも助かるわ」

     コイツが過去に専属契約していたウマ娘、グランドグリズリー。通称『グラとグリ』の記録。
     170cm半ばの長身に出る所の出た巨躯でありながら、適正がかなり近かったため、何かと参考にさせてもらっている。
     卒業後の現在は覆面ウマレスラー『ナルカミ』として活動中。一度だけ試合に連れられて対面したが、よくよくレース適正以外は全てが別物のド迫力だった。
     縁あってその唯一の共通項の恩恵にあずかり、コイツの今のチームとも何かと関わっている身としては、上辺を取り繕うくらいは仕方ない。
     仕方ないが、やっぱり限度はあるのだ。

    「……今、見てもいいのか?」
    「おう。昔のは色々と勝手が違うかも知れねェが、とっくと見てくれ」

     デッキにセットさせるように仕向け、その間にさり気なくネーサンの隣を詰めてソファの反対側を空けた。
     ――我ながらつまらない事をする。大の大人が二人きりの時はどう過ごしているかを思えば、何の意味もありはしないのに。

  • 4二次元好きの匿名さん25/02/25(火) 21:14:11

    「……この脚力、レース運び、グリちゃんが現役の時に直接観たかったなぁ……」

     モニターの中で砂を蹴り上げるその姿は圧巻の一言。自分に同じ事は出来ないが、しかし同じ事をする訳でもない。
     唯一にして全員共通の目的である一着を取るために、必要な事を取捨選択するのみなのだが――

    「ちょうどグリの卒業と入れ替わりだッけか、キミが学園入りしたのは」
    「せやね。その時まではダートにそんなに目を向けてなかったから、よう知らんかったわ」
    「当時のレース格からしても皆そこまで注目はしてなかったンじゃねェかな?……今の、ウインディちゃンと違ってヨ」

     さっきから雑念が止められない。来たるレースに勝つためだけに動いているハズなのに。自分も、ネーサンも、コイツだってわざわざ協力してくれているのに。
     自分だけが集中出来ていない事がイラつきを更に加速させる。
     いや、そもそも自分に協力する理由は何だと言えば――ソレがまた雑念の元なのだ。
     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
     再生が一通り終わり、レコーダーにも録画完了の表示が出ている。

    「コレはダビングした奴だから、このまま置いてくヨ。寮でも見るだろ?」
    「……あんがと、なのだ」
    「ほな休憩しよか。お茶入れるわ」
    「そう言えばさっきから気になってたンだけど、この甘い香り……」
    「あっ!」

     言いつつコイツが顔を向けた先には、明日のために用意されたお宝があった。急いで菓子盆のチ□ルを一つ剥いてねじ込む。

    「それは女の子だけのナイショなのだ!引っ込んでるのだ!」
    「……お手ずからどうも。アーモンドか、好きなヤツだヨ」
    「ふふん、お前にはコレくらいがお似合いなのだ」

     背中から視線を感じる。ネーサンは今どんな顔をしているのだろう。
     ソレを見ているコイツの顔から推し量るのは、少々難しい事だった。

  • 5二次元好きの匿名さん25/02/25(火) 21:15:54

    「そー言や、そこの歯ブラシの山はどしたン?」
    「おか……実家から送ってくれたのだ」
    「アタシの分もな。お気に入りがあるから一緒に頼んでん」
    「ふーン、そんなに良いなら俺もやってみるか。……歯磨きッてヤツを」
    「うげっ?」
    「ソレはさっきやったわ!」

     他愛もないやり取りの中に何と言うか――通じ合ってる、と言おうか。
     隠しようもなく滲み出すモノが、毎度チクチクとこちらを苛んで来る。

    「おや、プリファイにキャロットマンに……まさかこの小さいヤツもかい?」
    「ソレは奥歯用や。この可愛らしいお口に大人ブラシじゃ、横側が磨き辛いんよ」
    「そっか、俺ァまた近々入り用になるのか……と……」
    「なんでやねん!……ッ、……」
     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
     黙って出て来たのはさすがに拙かったかも知れない。しかしトレーナー室に流れた妙な空気に耐えられなかった。
     気が付けばグリさんの資料を掴んで立ち上がり、こうして足早に寮に向かっている。ズレ始めた資料の束を直すと小さな塊が転がり出た。
     急いだせいで一つ紛れていたらしいソレを、苛立ちを抑えるように荒々しく噛み砕く。

    「……甘くない……。
     苦っ……痛ぅ……二月……いや面白くはないのだ。会長だってこんな事言わないだろ、シッカリしろ。
     胸に穴が開いたみたいだ……なんで辛いのだ?どうしてこんな思いをしなきゃならないのだ?
     許さない……絶対に許さない……!
     獲ってやるぞフェブラリーS」

  • 6二次元好きの匿名さん25/02/25(火) 21:16:27

     終了 バレンタイン12日目――
     どうしてこうなった

  • 7二次元好きの匿名さん25/02/25(火) 21:43:44
  • 8二次元好きの匿名さん25/02/25(火) 22:31:07

    密かな想いにちょいちょいネタが入って…w
    グリちゃんには元ネタがあるんですか?

  • 9125/02/25(火) 23:44:18

    >>8

    何かしらギャグを入れたい性分なモノでして

    グラングリズリーの元ネタは某レゲーのキャラです 実馬とは被ってない……ハズ

  • 10二次元好きの匿名さん25/02/26(水) 01:13:23

    おかしい……伏せ字なのに読めてしまう……

スレッドは2/26 11:13頃に落ちます

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