うちの探偵とミステリーを解いてほしい(解決編)【屁理屈推理合戦】

  • 1馳河 御影25/02/27(木) 19:10:45

    《ねぇねぇ。オジさん》

    《おう? 誰かと思えば……御影ちゃんじゃないか》

    《オジさんはいつも、何してるの?》

    《そらまた。藪から棒だねぇ……》

  • 2馳河 御影25/02/27(木) 19:11:21
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  • 3馳河 御影25/02/27(木) 19:14:15
  • 4馳河 御影25/02/27(木) 19:25:31

    《オジさん、お父さんの何なの? 友達なの?》

    《今更何言ってんだ、御影。オッサンは助手だろ、お前の父さんの》

    《そうなの?》

    《うんにゃ……ちょっくら違ぇなぁ。あの人にゃ助手とか要らねんだ》

    《要らないことはなくないか。そりゃアンタ、怠け者だけどさ》

    《その怠け者に禄を払ってる異常者なのさ、あの人は》

    《……探偵には相棒がいるんでしょ? オジさんは相棒じゃないの?》

    《言ってるじゃんか。あの人ぁ1人で十分なの。どんな難事件でもね。
    僕の助けが必要だったことなんか一度もないの》

    《中年のルサンチマンは見てられねーな。行こうぜ御影》

    《このガキどもはよぉ……》

  • 5馳河 御影25/02/27(木) 19:34:16

    《お父さんね、昨日も事件を解いたんだよ。
    オジさんはその時何してたの?》

    《僕ぁその時公園のベンチで寝てたよ》

    《……なんで?》

    《御影ちゃんは知らないのさ。つまらんよ、イサさんの推理なんて》

    《そんなことない! お父さん、スゴいんだよ。
    わたしが見てきたどんな謎も、未解決の事件も、一瞬で解いちゃうんだよ?》

    《だからつまらんのじゃないか。なぁヨーちゃん》

    《俺に振るんじゃねーよ……でも何でだ?
    どんな問題でも立ちどころに解けちまう探偵の助手だろ。
    その態度に劣等感以外の理由があるならお聞かせ願いたいぜ》

    《事件の起きた1分後に解いたことだってあるぞ?
    犯人しか知らんはずのことも何故か知ってんだよあの人。
    実はあの人が全ての黒幕だったら面白いのにな》

    《オジさん、嫌い……》

  • 6馳河 御影25/02/27(木) 19:45:40

    《別に悪く言いてぇワケじゃねんだ。
    真面目にやるのがバカバカしくなるってだけだよ、単純に。
    別の世界の住人なのさ……あの人は》

    《じゃ、辞めなよ。探偵事務所》

    《やだよ。辞めたら食えないじゃないか》

    《ほんとサイテー……! ねぇお兄さん。
    わたし、大きくなったら名前変えたい》

    《だってよ。オッサン》

    《ハハハ、構わんよ。変えちまえ変えちまえ》

    《……どうしてこんな名前つけたの……!?
    学校でいつも、"おかげ""おかげ"って言われるんだよ!》

    《おう。もう漢字が読める歳かい、御影ちゃんも》

    《バカにしないでっ! オジさんのせいなんだから!
    大きくなったら名誉棄損で訴えるからね……!》

    《ハッハッハッ! どこで覚えたんだぁそんな言葉っ!》

    《こいつ、仄かに将来が不安だな……》

  • 7馳河 御影25/02/27(木) 19:58:49

    〈おいおい、どうしたよ。こんなとこで何泣いてんだ、御影ちゃん〉

    〈泣いてない。目に……塩か何か入っただけ〉

    〈そりゃ参ったな。御影石に塩ってのは良くないんだぜ。
    僕ぁ実家が石屋だったからよく知ってんだが、ありゃぁな〉

    〈うるさい! あんたには何も聞いてないでしょ!?〉

    〈……えらくカッカしてんなぁ、おい。
    ヨーちゃん、警察学校じゃ生き生きしてんだってよ。
    イサさんに何吹き込まれたか知らんが、喜ばしいじゃないのよ〉

    〈違う! お兄さんは私と探偵になるって……! ずっと……。
    こんなの全然違う! 私に噓ついたんだ!
    噓つきの刑事なんて社会に必要ない! 死んじゃえばいいんだ……!〉

    〈ハッハッハ〉

    〈……何が、おかしいの〉

    〈いや、面白くないワケあるかよ。
    御影ちゃん……探偵ってのは噓つきの巣窟なんだぜ〉

    〈はあ!?〉

  • 8馳河 御影25/02/27(木) 20:09:46

    〈だってそうだろ?
    シャーロック・ホームズだって変装の達人だったらしいじゃねぇか。
    変装ってのは他人様を騙すのが目的じゃねぇのかい〉

    〈っ……それは、事件解決のためだから。
    悪い奴がいるんだったら仕方ないでしょ? 話をズラさないで〉

    〈話ズラしてんのはそっちじゃんかよ。
    だいたい今の御影ちゃんの方が大嘘つきに見えるぜ。
    大好きなおにーちゃんを警察に盗られて悔しいんです、って言ってみぃや〉

    〈こ、この……! 人が悩んでるのをバカにして……!〉

    〈なぁ御影ちゃんよぉ。ずーっと言ってんじゃんか。
    探偵なんかなる価値ないぜ。人の嫌ーなとこばっかつついてさぁ。
    まだパチンカスとして生計立てた方が人生楽しいぜ〉

    〈探偵かつパチンカスのあんたに言われたくないから……!〉

    〈おっと、こりゃ一本取られたな。ハッハッハ!〉

    〈普通の探偵になんかなる気ない。私はお父さんみたいになるの。
    どんな難事件でも解決して、テレビにもどんどん出て……
    先月も一緒に見たでしょ!? 旭日章だよ、総理大臣から!
    探偵が受章するのは初めてだって、お母さんも……〉

    〈……んなモンが何になるってんだい〉

  • 9馳河 御影25/02/27(木) 20:18:50

    〈御影ちゃんってば跳ねっ返りだよなぁ。
    こんだけ"あの人は別だから"っつっても全然分かんねーの。
    地頭はそこそこ良いクセに〉

    〈バカにしないで! 私、学校で一番の成績だよ?
    金持ち自慢しか出来ないあのバカな女とは違う!
    実力があるって証明して見せてるんだ……!
    ただ横になってボヤいてるだけの無能なあんたとは違うっ!〉

    〈あーあ。ナンマンダブ、ナンマンダブ〉

    〈~~~っ!!〉

    〈その優秀な頭で浮気調査やストーカーをやりたいってのかい。
    もっと出来ることがいくらでもあるだろうに〉

    〈……だから……っ!〉

    〈てか勉強も良いけど手先器用にした方がいいんじゃねぇの。
    盗聴器作ったりとか鍵開けたりとか出来る? 教えようか〉

    〈そんなことしないっ! もういい、死んじゃえ!〉

    〈ハッハッハ。死んどけるもんならもう死んでるさ〉

  • 10馳河 御影25/02/27(木) 20:25:40

    〔あのさー……華の高校生が何しちゃってんの?〕

    〔そっちこそ。いつもボヤいてたじゃないですか。
    お父さんが死んだらこんな仕事、さっさと辞めてやるって〕

    〔だから。辞めたら食えねんだわ……〕

    〔遺言なんでしょ。この探偵事務所、あなたにあげるって〕

    〔……ふざけんなよな。僕ぁ一城の主を望んでたつもりはないぜ〕

    〔だったら放棄すれば良かったんじゃないの?
    結構またここへ来てるクセに、カッコ付けないでください〕

    〔しかしよ。その歳で探偵のアルバイトなんざ……〕

    〔お母さんから同意は貰ってます。
    名探偵・馳河石英の名誉を一片たりとも汚させるな、とか〕

    〔……君ら親子っておかしいんじゃないか?〕

  • 11馳河 御影25/02/27(木) 20:31:28

    〔お兄さんが"近ごろ現場を任されるようになった"とか、
    寝ぼけた自慢を私にしてくるから……。
    だから、私も然るべき功績を挙げようかなって〕

    〔あれから1年、何の依頼もねぇけど?〕

    〔はぁ!? 何でですかっ!?
    あの名探偵・馳河石英の事務所ですよ!〕

    〔だから。その馳河石英がいねんだから当然じゃないのよ〕

    〔明らかにあなたの営業努力が不足している証拠ですっ!〕

    〔別にいーじゃん、こんなトコ潰れても。
    どうせマトモな稼ぎじゃねんだから〕

    〔何ですかそれ? だったらマトモな稼ぎにしましょうよ。
    ちょっと私、何とかしてきます……!〕

    〔あぁ!? おい、ちょっと……! 御影ちゃんっ!?〕

  • 12馳河 御影25/02/27(木) 20:37:18

    「テナント代……どうすれば……うぅ……」

    「何だ、まだ払える気でいたのかい?
    僕ぁ踏み倒す気満々でいたぜ」

    「ふざけないでください! 探偵は信用が命じゃないですか。
    このままじゃ後4ヶ月後には確実に廃業ですよ?
    税理士への支払いもあるし、どうしよぉ……」

    「ハッハッハ。だいぶ頼れるようになってきたじゃないの」

    「……バラバラ死体にされたいんですか」

    「御免被るね。はぁ……手柄を挙げたからって調子乗っちゃって」

    「あのですね……! 亡くなったのは私の親友ですよ!?
    ちょっとは言い方、あるんじゃないですか!?」

    「……親友、ね」

  • 13馳河 御影25/02/27(木) 20:44:40

    「汐留さんとお父さんだって、親友だったんでしょ?
    だったら私の気持ち……分かってくれたって、いいじゃないですか」

    「おいおい、泣くなよ。困るから」

    「だってぇ……!」

    「僕ぁ、人を泣かせることしかしてこんかった人種だからね。
    そうやって慰めてほしいみたいにされても場が白けるだけなんだわ」

    「汐留さんって、本当に最低な人ですね。
    お父さんのお葬式でも……涙1つ……」

    「イサさんが死んで、何で僕が泣くのさ。むしろ泣きたいぐらいだよ。
    あれ? じゃあいいのか……今から墓苑で泣いてこようかな?
    ボエーンってさ」

    「こ、このクズっ! ゴミ! 排泄物生産機……っ!」

    「ハッハッハ。何とでも言っちゃって。
    それで気が済んだら、経理の仕事に戻ってくれや」

    「もおおっ……!!」

  • 14馳河 御影25/02/27(木) 20:46:03

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  • 15>>125/02/27(木) 20:57:57

    「うーん……とにかく、事務所の鍵は使えなかったってことか。
    なあ中西さん、嘘はついてないんだよな?」

    「嘘つくくらいなら言いませんよ。だって疑われるだけじゃありませんかぁ」

    「まあ、確かに。だが……そうなると調べ直しか」

    「その必要はない。ここで謎を解け」

    「……南部さん。あんた勘違いしてるんじゃないか?
    推理小説の世界じゃないんだ。現場の再検証が必要だって言ってんだよ」

    「【そんなものは必要ない】。ここで謎を解け」

    「はあ……?」

    「【馳河石英には、それが出来た】」

    「イサさんを良く知ってるって口振りじゃねぇか。
    どっかで何度かお会いしたっけかな?」

    「おいよぉ~~~。それより推理ショーの続きはまだか?
    さっきまでイケイケだったじゃんかよ。大きい声で続けてくれよな」

    「……黙ってろ北野さん。あんたは容疑者の筆頭だぞ」

    「えぇ!?」

    「どうせ"人が入ってくるのを見た"ってのも出まかせだろ?
    現状、あんたが昨日ここに入ったのは間違いないんだ。だったら疑われて当然だよな」

  • 16>>125/02/27(木) 21:05:03

    「なあ御影、どうなんだ? さっきの今ではあるが……」


    「は、馳河さん……お身体の調子でも?」


    「御託はいい。早く示せ」


    「まあまあ、答えを出してくれんなら俺は構わねえよ。
    でももう少しこっちに出てきてくれねぇかな? 顔が見えなくてさ」

  • 17>>125/02/27(木) 21:05:45

    「実際問題、どうなんだい?

    御影ちゃん」

  • 18>>125/02/27(木) 21:07:42

    ……あーあ。震えてるよ。可哀想に。


    ごめんなぁ、探偵としての初舞台をこんなにしちまってよ。


    ああそうとも、御影ちゃん。君は被害者だ。


    あの人があんなに、眩しくなけりゃあなぁ。


    全てを解いて、見透かして、さぞ生きやすそうに見えただろうねぇ。


    誰だって思っちまう。”あんな風になりてえ”ってさ。


    哀しいよな? 誰より生き辛さを感じていたのは……。


    いや。僕にあの人を語る資格なんて、ないか。

  • 19>>125/02/27(木) 21:08:50

    「どうしたぃ? 御影ちゃん。もっかい、証拠でも集めに行くかい」


    「……」


    「何なら僕も付き合うぜ。まあ余計なお世話だろうけどよ」


    「…………」


    「無理に結論を急ぐ必要はないんだぜ。
    言ったろ? “何も分からないことが分かった”ってやつさ。
    とりあえず、今はそんなとこで良しとしようじゃないの。
    ……犯人なんか、分かんねんだろ」

  • 20>>125/02/27(木) 21:10:40

    言っちまいな。”東さんは自殺でした”ってさ。
    それなら何も言うこたぁねぇ。
    教会の奴らにチヤホヤされて、アイドルにでもなっちまいな。
    俺たちはそうしてきたんだ。

    それか、”南部さんがやりました”かい。
    それでもいいぜ。その時ゃ、俺が引導を渡してやるよ。
    安心して探偵を諦めちまいな。楽しいキャンパスライフが待ってるぜ?

    ……そうやって背中を向けてる内は、何にも出来やしねぇよ。

    なぁ御影ちゃん。もうやめようぜ。
    探偵も“探偵”も……お前にとっては生き地獄だ。

    だから。
    もう―――――

  • 21>>125/02/27(木) 21:12:30

    御影は、あの台座に手をついていた。
    時が止まったかのような静寂の中で、地下聖堂は冷え切っている。

    天窓から降り注ぐ微弱な陽光。彼女の黒髪が濡れたように光る。
    その弱く頼りない光を浴びて……御影は項垂れていた。

    誰もが何か言おうとして、言えずにいた。
    ただ静かに彼女を待っていた。
    そのうなじが伸び、細く白い手が台座から離れるのを見つめていた。

    「……」

    埃っぽいはずの空気が、神的に澄み切って感じられる。
    彼女が息を吸い、吐く音が聞こえる。


    「犯人は」


    「……」


    「東、さん」

  • 22>>125/02/27(木) 21:14:44

    「を―――殺した、のは」

  • 23>>125/02/27(木) 21:16:42

    「『―――それは、あなたです!
    汐留康一……っ!!』」

  • 24>>125/02/27(木) 21:17:36

    《ホーリー・グレイブ ~探偵の真実〜》

  • 25>>125/02/27(木) 21:20:25

    その叫びが、地下聖堂に響き突き刺さる。
    青き刃。淡き幻想を斬り裂くための、たった1つの武器。

    御影の言の葉に乗り……今、まさにそれが放たれる。

    「『私は……”罪を忘れるための幻想が愛”だなんて
    これっぽっちも思いません』!
    『もしそれが真心の産物だとしても……!
    私の真心はそんなもんじゃ収まりません』っ!!」

    「御影、ちゃん」

    「『私は今から探偵として、あなたの罪を暴きます】!
    【一連の”聖杯事件”は複雑でも怪奇でもない!
    たった1人の探偵もどきが起こした殺人事件なんです』!」

    「……!!」

    超音速の青き刃が汐留のこめかみを掠める。
    しかし、赤く尾を引く残熱は彼の心胆を激しく焦がした。
    途端、冷え切っていた地下聖堂が灼熱に包まれる。

    「オッサンが……犯、人……?」

    葉一は思わずふらついた。

  • 26>>125/02/27(木) 21:28:44

    「お、おい! 何でそうなるんだ!?
    この場で一番犯人から」

    「いいえ。『この犯行は汐留さんにしか出来ません』。
    ……反論はありますか?」

    「凄いことを言い出したねぇ」

    汐留は照れ臭そうに頭を掻いた。しかし探偵の目には隠せない。
    ほんの一瞬、彼はその笑みを失っていた。

    「【学芸員の兄ちゃんは地下聖堂にいた】んだろ?
    それなら彼にも出来るじゃないか」

    「『北野さんは地下聖堂の扉のドアノブから指紋を拭き取った。
    でも館長室の扉のドアノブからは拭き取っていない……
    何故なら、そこには東さんの指紋がまだベッタリ残っていたから!
    それは北野さんが館長室に入っていないことの証明になります』!」

    狂おしきほどの猛勢で、またも青き奔流が襲い掛かる。
    それは青き薙槍へと姿を変えて、汐留の左脚を深く貫いた。

    「『彼は聖杯を設置した後、柱の陰に隠れました!
    それを見逃して、館長室の東さんへ向かったのはあなた本人じゃないですかっ』!!」

  • 27>>125/02/27(木) 21:36:00

    「……!」

    「反論はっ!?」

    「【場所を考えりゃ……事務局長さんにも、出来た】んじゃないのかい」

    「『出来ません! 彼女が使えた雨具はどこにもない!
    あの嵐の中、物置までプロパンバーナーを取りに行くことは不可能です!
    彼女の着替えが少しも濡れていないことがそれを証明している』……!!」

    「っ!!」

    ドオンと音を立て、聖堂を揺らすほどの勢いで。
    投げ飛ばされた青きグレイヴが汐留の右脚を射止める。
    その一撃で、彼がここから逃げる方法は1つしか無くなった。

    【目の前の、自分を本気で殺そうとしている探偵を殺すこと】……!!

  • 28>>125/02/27(木) 21:51:49

    「【警備員のオッちゃんだって、動けた】はずだぜ……!」

    「『彼が盗める事務所の鍵は、所定の位置にはありませんでした!
    彼が犯行に及べるのは1回目の見回りを終え、監視カメラに映った23時15分から30分までの間だけ!
    しかし中庭から別館に繋がる扉を開錠出来ない以上、警備室を出て大回りする必要がある!
    その上、更に物置でプロパンバーナーを入手していたのでは死亡時刻に東さんを殺すことが出来ません』!!」

    「う……っ!?」

    3撃目は、彼の左腕を貫いて地下聖堂の柱に突き刺した。
    身体の自由が全く効かない。一挙手一投足が奪われていく。
    そんな彼が放てる、赤き真実は……。

    「さっきからバーナーとか何とか……。
    確かに【東さんは何かで焼かれていやがったが、プロパンバーナー以外でもそりゃ出来るだろ】!?」

    「『確かにそれは正しい! 部屋の中には燭台もマッチ棒もあった。
    いやというほど時間を掛ければ同じ状態には出来るかもしれない!
    だけど……! プロパンバーナーが無ければ館長室を密室に出来ませんっ』!!」

    「何ィッ……!?」

    一太刀に振り降ろされる青きグレイヴの斬撃。
    その閃きが、何の苦もなく汐留の右腕を根元から斬り飛ばした。
    今まさに五肢を奪われんとする獣。彼はその攻撃の主を見定めようと足掻く。

    そこに……彼の知る少女の姿は無かった。

  • 29>>125/02/27(木) 22:04:00

    「……御、影……?」

    葉一は柱に手をつき、2人の攻防を眺めるしかなかった。
    しかしそれは対戦ではない。圧倒的かつ究極的な蹂躙にして殺戮。
    蒼穹を思わせる鋭利な刃が次々と出現し、御影の周囲へ突き刺さっていく。
    それは彼女が口を開く度に1本ずつ浮き上がり、汐留の醜き身体を捉えた。

    「『あなたは22時00分に宿直室にいた! それは認めます!
    しかしその次! 22時15分には既に外にいた!
    南部さんが留守にした警備室を狙い、敷地の北に躍り出たっ』!!」

    「ぐっ!?」

    彼の腐った肝臓を、超音速の槍薙が挽肉に変えた。
    次いで浮かび上がる刃の切先は、胃の位置を巡ってグリグリと旋動している。

    「『当然、雨具を持たないあなたには無理だと言う人もいるでしょう!
    しかしそんなことは関係ない! あなたは今日この日のために……!
    服の下へ防水性のインナーを着込んでいたからです!
    あなたはまずトイレに籠り、"仕事装束"に姿を変えたんでしょう』!?」

    「ぐああっ!?」

    守ろうとしていた幻想が貫かれる度、激痛を超える絶痛が全身を苛む。
    御影はその蹂躙を、拷問を、極刑を……その手を緩めようとはしない。

  • 30>>125/02/27(木) 22:16:12

    「『それからあなたは、あの扉を潜り抜けた。
    敷地の一番端っこで、錆び付いて固まっているあの扉ですよ!
    そうすれば、あなたは監視カメラに記録されず外へ出て!
    敷地を大回りしてから物置に辿り着くことが出来る』!」

    「待」

    「『よくそんな場所に扉があるって知っていましたね……!?
    入念な事前準備の成果が出たんじゃありませんか?
    何事も場当たり的で計画性のない、あなたにとっては進歩です。
    だけど……! そんなの私は1ミリたりとも喜べませんよっ』!!」

    「ッ」

    「『あなたは物置で難なく道具を回収することが出来た!
    何故なら物置の扉は、22時15分に暴風で破られていたからです!
    ほんの僅かな幸運をモノにすることには余念がありませんね』……!」

    「テ」

    「『そして、あなたはまたも敷地の端。焼却炉へと辿り着く!
    焼却炉は今や使われていない遺構です。だからこそ誰も開けたりなんかしない。
    あなたはその中から姿を隠す黒いレインコートや、必要な小道具を取り出した!
    そう、かねて密室を演出するために持ち込んでいた……ピッキング用の道具です。
    本当に……人の物を勝手に開けるのが得意ですもんね』……!!」

  • 31>>125/02/27(木) 22:31:33

    「ピッキングツールだぁ……!?
    だが、そんなもん使われた形跡は」

    「お兄さんは聞いてて! お願いっ……!」

    「!」

    涙でグズグズになったその顔で、従妹は彼へ懇願する。
    【これは魔女と探偵が繰り広げる1対1の殺し合い】。
    殺す覚悟も殺される覚悟もない者は、口を挟む余地はない。

    「『あなたの次の行動は、中庭の天窓を意地汚く覗き込むこと!
    あなたが見たのは、地下聖堂で話し合う東さんと南部さんだったはず。
    東さんはこの時、館長室内でバカバカしい自慰的行為に耽っていました。
    だから、突然訪ねてきた南部さんを中へ迎えるわけにはいかなかったんです』!」

    「……ふん」

    「『南部さんが退出するのを見届けたあなたは、いよいよ殺しに着手します。
    彼の通り過ぎた後を狙い、警備室から盗んできた鍵で別館の南を開錠。
    そのまま監視カメラをかわしつつ地下聖堂へと踏み込んだんです!
    一体いくつの物を盗めば気が済むんですか? 貪欲な人』……!」

    その問いに、汐留は答える舌を持たなかった。
    下顎をザックリと御影に斬り飛ばされたからだ。

  • 32>>125/02/27(木) 22:49:03

    「『いいですか? あなたが北野さんに気付いていながら殺さず見逃したのは、
    慈悲でも親切でもましてや"愛"なんかでもありません!
    あなたはただその行為で、過去の自分を慰めたかっただけ!
    ただの恥知らずな自己満足にしか過ぎませんっ】!!」

    今一度、御影の刃に灼熱の赤が宿る。
    彼女はその拷問的な得物で汐留の下腹部を消し飛ばした。
    煮え滾るような赤と、凍て付くような青。
    彼女がその両方を振るう由縁は……ただ彼にある。

    「『汐留さん……もしもあなたが、心の片隅に。
    たった少し、塵の欠片ほどでも……!
    "御影を守りたい"などという妄執を抱いていたのなら!
    はっきりと言ってあげますっ! 迷惑千万この方ありませんっ】!!!」

    「オゴガアァア!!!」

    赤き真実の残滓を口から噴き出し、汐留は柱へ頭を打つ。
    御影がまっすぐ、激しく、鮮烈に、武器の石突で顔面を打ち据えたのだ。

    「『私もバカでした。この期に及んであなたを庇おうだなんて……!
    私もあなたも大人じゃないですかっ! 全責任を自分で負うべきです】!」

    「……ッ!」

    「『あなたが東さんを訪ねると、彼は扉を開きました。
    バカばっかり……! 20年前の事件なんかにああだのこうだの!
    大方、"石英が隠していた真実を教えてあげる"とでも言ったんでしょう?
    【東さんって本当に、見掛けほど頭が良くありません】から!
    彼はその真実を自らの命で買い取ることになったんです』……!」

  • 33>>125/02/27(木) 23:00:51

    「はぁっ……はぁっ」

    御影の声が枯れ始めた。
    彼女はここまで、凡そ19の子女が扱えるべきでない絶言を放ってきたのだ。
    その額には滝のような汗が流れ、黒い髪が艶やかに貼り付いていた。

    「最初は……あなたが殺すにしても、こんな方法をするかって。
    もっと簡単に、適当にやらかして出ていくんじゃないかって疑いました。
    でも……違うんです。『この殺し方は、あなたにしか出来ない』んですよ」

    「どういう、意味だ……!?」

    「"聖杯消失事件"が"聖杯帰還事件"に姿を変え、戻ってきた。
    『でも戻ってきたのは銀の器なんかじゃない。あなたと私……!
    20年前の下手人と、20年後の叡智の器!
    汐留さん! あなたが東さんをああやって惨殺したのは、
    あなたが"聖杯消失事件"の犯人でもあるからです!】」

    「~~~ッ!!?」

    獣は黒き闇を傷口より噴出させながら、のたうち回っている。
    それを殺すのはどうしても……彼女でなければならなかった。

  • 34>>125/02/27(木) 23:09:34

    「『神父を殺したのはあなたです。
    あなたは"嵐の夜"、地下聖堂に忍び込み鍵を掛けた。
    そして神父を殴り痛め付けた後……目玉を潰して抉り出した!
    更に、その場にある松明で全身を炙り焼き殺したんです』!」

    絶対に知るわけがない。知っていてはいけない。
    届くはずのない、闇の奥底にだけ存在する真実。
    ……それを、目の前の探偵が口にしている。

    この世の何よりも飲み干し辛い、劇毒を超えた黒汁。
    それを汲み入れたこの探偵。馳河御影こそ……。

    「我らが―――」

    「『違うっ】!!」

    「!」

    「『私は誰の物でもない……探偵・馳河御影です!
    気色の悪い腐り切った教義で、私を語るなっ】!」

    「……何、だと」

    南部はその細い目を大きく見開いた。
    彼女の撃ち放った聖なる刃が、深々と自分の胸をも貫いていたからだ。

  • 35>>125/02/27(木) 23:25:12

    「『ああ、そうですよ。あなたです、コソコソカサカサと……!
    地下を這い回る害虫みたいに、所構わず糞を放り出す排泄物生産機は!】」

    「……!?」

    「『南部さん! あなたは今回の事件も、20年前の事件にも無関係ではない!
    あなたは神父と共謀し、汐留康一を殺人者に仕立て上げた張本人です!
    資金援助を覗かせて馳河石英を誘き出し、"彼の意志"と体良く協力を要求した!
    あの人が断れないのを良いことに……しかも、彼を助けようとした親友。
    汐留さんの社会的立場までをも人質に取ることで】……!」

    「聖杯! そこまで知りつつ何故抗う!?
    貴様は魔女様を酔わせる器。ただその使命しかないはずだ!」

    「『ふざけるなっ! 殺人集団め】……!!」

    「ぐうっっっ!?」

    南部の胸を貫いた刃が、まっすぐ上へと引き抜かれる。
    上半身ぱっくり2つに割れながら……彼は叫ぶ。

    「何を根拠にそれを言う!?」

    「『星神幻蔵をはじめ、教会の構成員は狂人ばかり!
    馳河石英を弄び……凶悪犯罪を斡旋することで退屈を満たしていたんでしょう!?
    このことは馳河石英の依頼ルートを辿っていけば分かるはず。
    そこかしこに実業家としての東林之助の姿が見えてきます。
    つまり、あなたたちが裏から操っていたマリオネットです】!」

  • 36>>125/02/27(木) 23:37:57

    「『何が"魔女の遊戯"ですか? 閉じ込められたこともない癖に……!
    今から、20年前の真実を全て暴いてあげますよ。
    あなたたちのお望み通りにね】……!」

    「待て!!」

    「動くな!」

    南部がぐわっと伸ばした腕は、屈強な警官たちによって封じ込められた。
    ますます加熱していく地下聖堂の中で、御影が大きく息を吸い込む。

    「【発端は数十年前! あなたたちの"神父"と呼ぶ狂人が、
    下らない御伽噺を信じ込んだことに遡ります!
    彼は自分が"魔女"なる存在に寵愛されていると思い込み、
    解けなかったクイズのことで自己嫌悪に陥ります。
    そんな暇人の退屈しのぎのため設けられたのがこの地下聖堂。
    彼は叡智を司る魔女の信仰を嘯きつつ、一流の社会人たちを勧誘……
    他にやることのないバカ共の秘密結社を作り上げました。
    そんな彼らが求めたのは、神父を凌ぐ高知能の持ち主。
    それで29歳の馳河石英を誘き寄せたんです。
    彼の家庭には当時、翌年に産まれる予定の胎児がいました。
    しかし探偵という安定しない職業のゆえに、彼は困窮していた。
    "聖杯記念教会"に入信して彼らの犯罪の片棒を担ぐことで、
    莫大な支援と協力を約束すると囁いたんです】!」

  • 37>>125/02/27(木) 23:47:38

    「……『そんな誘いに乗る方も乗る方です。でも、教会には勝算があった。
    人目を忍んでやってきた馳河石英を尾行する存在、汐留康一。
    彼をわざと招き入れ、神父を殺させることで彼を人質にします。
    汐留さんはこの歳になってもこのザマですから、20年前なんて相当でしょう。
    "儀式に協力して神父を殺せば石英を厚遇する"なんて嘯けばイチコロです。

    そうやってまんまと嵌められたことに……馳河石英なら気付いたはず。
    "嵐の夜"が明けた後、彼は東さんと2人で地下にやってきました。
    そう、ここには東さんが適任だったんですよ。
    信仰心だけは立派だが組織の実態を知らず、大袈裟に喚き散らす人がね。

    彼は当然、神父の死に気を盗られて気付きません。
    密室の中に……汐留康一が隠れていることを。
    石英だって気付いていました。でも、"気付かないフリ"をすることは出来る。
    彼がわざと逃げ場を作ってあげたことで、汐留さんは形ばかり逃げ果せたんです。

    教会はその後、南部さんを中心に"教団"として持続しました。
    彼らが神父の死それ自体を何とも思っていなさそうな点が、
    東さんみたいに犯人捜しへ固執しなかった姿勢に現れているように思えます】」

  • 38>>125/02/27(木) 23:57:09

    「……それじゃ……聖杯は?」

    気の遠くなるような話に、葉一は立ち尽くしていた。
    御影は涙を浮かべた瞳で彼を見つめる。

    「『聖杯なんて最初からありません。
    彼らが、玩具にしていた人物をそうからかっていただけです。
    手当たり次第壁を掘るなんていう東さんの狂気じみた行動を、教会は止めませんでした。
    彼らにはそれが見つからないことが分かっていたんです。
    でも、"神父の死と共に消えた聖杯"というイメージ自体は利用価値があった。
    結果、バカな東さんは20年にも渡って教団の掌で転がされることになったわけです】」

    「く……それに何の証拠がある……!」

    「証拠。それこそバカげた質問ですね。
    『あなたたちの信仰が本物なら、私がそれを語ること自体が証拠になるはずじゃ】?」

    「ぐぐぐぐぅっ……!!」

    「『心底軽蔑しますよ。死んでください……南部さん】」

    どちゃっ。
    そんな音を立て、刃の峰が南部を潰した。
    彼はピクリとも動かなくなった。

    「……仕切り直しましょう」

  • 39>>125/02/28(金) 00:09:25

    「……汐留さん。
    魔女と聖杯の伝説に踊らされた、バカなあなたは今回の事件を画策した。
    私がそれを確信した物的証拠は……何だと思いますか」

    「へっ。バカと扱き下ろした相手に向かって聞くのかい」

    「『これですよ。あなたが6月20日に渡してきた、東さんからの書簡。
    最初、私は気付きながらも見落としていました。
    あなたが郵便物を貯め置く性格なのは分かってるつもりだったので。
    だけど、これ……。
    消印が10日も前じゃないですか】」

    「……なるほどな」

    「『これを読んだあなたは思ったはずです。
    今度は、教団が御影を玩具にしようとしているのだと。
    まあその推理は当たってますけどね】」

    ぴらぴらと指で封筒を揺らす御影。
    汐留は柱に寄り掛かったまま、項垂れていた。

    「『20年以上、馳河石英の"助手"を務めてきたあなた。
    私たちがその活躍を寡聞にして聞かなかったのには理由があります。
    あなたには常人と一線を画する技術がある。
    侵入、鍵開け、窃盗、盗聴、変装……傷害や殺人も加えますか】?」

  • 40>>125/02/28(金) 00:21:13

    「『1週間以上もあったんです。あちこち嗅ぎ回ることが出来たでしょう。
    扉の数、監視カメラの位置、鍵の置き場所に……南部さんの見回りルート。
    南部さんにとって、あなたの捜査は想定内だったでしょう。
    むしろこの事件が起きるようにあなたを扇動していた節さえある。
    ……分かっててやったんですか】?」

    「さあ……ね」

    「『調査を終えたあなたは、私へ依頼の件を自ら明かしました。
    当然、このタイミングには作為が含まれています。
    来週から忙しくなるっていうのに、敢えて台風の前日を選んだんですから。
    嵐に降り込められて、20年前の状況が再現されることも計算してたんですね】」

    葉一は膝をつきたかった。
    彼にとっては……御影より付き合いの長い人だ。
    男同士ということもあり、特にその軽口には影響を受けた。
    だからこそ。

    「……【オッサンらしいな。そこまで準備しておいて、最後はアドリブ】かよ」

    「はい。宿直室に泊まらせてもらえるかは分からない。
    もしかしたら会議室だったかもしれないし、
    泊まらせてもらえなかった可能性だってある。
    だけど。それでもやったんでしょう、この人は」

  • 41>>125/02/28(金) 00:31:37

    「ヨーちゃん。庇ってくれないじゃないか。俺ならやりかねないって?」

    「黙っとけ。【俺は御影を信じてる】だけだ」

    「……」

    その時だけ、汐留は意外そうな顔を見せた。
    多分、葉一が初めて彼の意表を奪った瞬間だった。
    あまりに遅く……それも最後になるのだろうけれど。

    「葉一さんの言った通り、あなたの犯行は結局のところ場当たり的です。
    それは、地下聖堂についての調べが足りていなかったこと。
    特にあなたを戸惑わせたのは……【館長室の鍵がディンプルキーだったこと】じゃないですか?」

    「確かにな。【事件当時、地下聖堂の扉の鍵は開いてた】。
    だからピッキングする必要もなかったわけだが……
    ここで、ピッキングの通用しない壁が立ちはだかったってことか」

    「計画性が無かったとまでは言いませんよ。
    【そこで念のためあなたが持ってきた、物置の備品が役に立った】わけですから」

    「……」

    葉一は顎に手を当て考える。この状況で、密室を完成させるために必要なもの……それは。

  • 42>>125/02/28(金) 00:44:04

    御影は重たい口を開く。
    柔らかな唇が真実を告げる。

    「『プロパンバーナー。金床。やすり。サンドペーパー。
    場合によってはセメントと石膏も使用したでしょう。
    ですが、私が最も注目し……この結論に至った要素は、

    珪砂です】」

    御影は腕を組み、汐留を一瞥した。
    冷たい目つきだった。俗物を見下すかのような、それでいて睨み付けるかのような。

    「……すっかり顔付きが名探偵じゃねーか。やっちまった……なぁ」

    「別に、あなたがこんなことしなくたって……私は探偵です。
    それを知ったから事件を起こしたんでしょう」

    「待て待て。珪砂って何だ? 何に使ったんだ」

    慌てて割って入る葉一。御影は顔を上げる。
    今度の彼女は、いつの間にか相手を対等に見ているようだった。

    「【鋳造によく使用される素材です。
    潮留さんは館長室に残っていた鍵2本を珪砂に当てはめ、鋳型を用意。
    そこに"あるもの"を流し込んで、鍵の複製を作成したんです』」

  • 43>>125/02/28(金) 00:50:28

    「ま、待てよ! そんなこと無理だろ」

    次に割って入ったのは北野だった。
    御影は彼へは一瞥すら与えなかった。

    「当然です。普通は無理でしょう」

    「いや、俺はよく知ってる! 無理も無理、大無理だ。
    鋳型をフリーハンドで作るなんて出来っこない!
    普通は圧縮して成型するものだし、乾燥させる時間も必要で……
    あんたの言う通りなら、そいつはたった30分間でそんなもんを作ったことになるぞ!?」

    「【やったんです。だから今ここにいる】。違う?」

    「はあ……いや、しかし……一体どうやって……」

    「そんなのあなたが知ることじゃないですよ。悪用されては困ります。
    【名探偵・馳河石英の元助手である、この人だから出来たこと】です。
    その証拠を今からお見せしましょう」

    「証拠……?」

    「葉一さん。事件当時そこにあったものを、出してください」

  • 44>>125/02/28(金) 00:57:19

    御影が指さしたのは聖堂の一番奥、石造りの台座だった。
    調査の途中、一旦全部の証拠品を持ち出したのだ。
    だから今そこには何もなかった。

    「えーっと、そこにあったものって……アレでいいんだよな?」

    「も、もったいぶらずに出してくれよ。刑事さん。というか説明を……」

    「見ていただければ分かります。少なくとも、あなたには」

    葉一が振り返り、背後から袋を取り出す。
    その中には今日、この場所に出現していたあの銀器。
    ついさっきまでは"聖杯"と呼ばれていた、それが入っていた。

    北野はぽかんと口を開ける。
    しかし次の瞬間、飛び上がった。御影の予想通りだった。

    「おおおお、おいぃぃ!? ちょっと待て、何だそりゃあ!?」

    「……私がやったんじゃありません。今日、この状態で置いてあったんです」

    「マジかよ!? 俺の力作がズタボロじゃねーか!?
    あちこちガリガリやられてるし……それに」

    「【取っ手はどこ行ったんだよ】……ですね?」

    「!」

  • 45>>125/02/28(金) 01:05:52

    「御影、ってことはまさか……」

    「そうです。【その器には、元々取っ手が付いてたんですよ】。
    汐留さんは鍵の複製に窮し、何か代わりになるものを探しました。
    それで、鍵にするのにちょうどいいサイズだったのがそれ。
    聖杯の横に付いてた取っ手だったってわけです」

    「この傷と汚れは?」

    「『傷はヤスリによるもの。取っ手を外した後がバれないように、全体的に傷付けたんです。
    汚れはバーナーによるもの。軽く焼き目を付けてごまかそうとした。
    こうして鍵の複製を作り上げ、密室を施錠したんです】」

    「……その通りだよ」

    汐留は背中からずり下がり落ち、尻もちをついた。
    そうすると御影が遠く大きく感じられる。まるで違う世界の人間のようだ。

    「『出してください。まだ持ってるんでしょう、それ】」

    「……っ」

    ずっとポケットに入れていた手を、汐留が開く。
    【そこには、真っ二つに折れた銀の鍵があった】。

  • 46>>125/02/28(金) 01:16:16

    「……決まりだな。あんたがそれを持ってるってことは、そういうことだ」

    「1回使ったら折れちまってよ。
    やっぱいくら磨いても……その場拵えはその場拵えか」

    「『普通のマッチやライター、カセットコンロではまず無理です。
    しかしあのプロパンバーナーなら約1500度の熱は出せるはず。
    銀の融点である961度を簡単に超えます。そうやって聖杯をモノにしたんです」

    「……」

    「『あなたがそれを後生大事に持っているのには理由があります】。
    そうですね?」

    「そうさ。ヨーちゃんの言った通り、これは間違いない物証になるからよ。
    御影ちゃんが推理を間違ってくれるのを……待ってたんだぜ、本来は」

    「『私が南部さんや北野さんが犯人だと指摘した瞬間、それを突き付けるつもりだったんでしょ?
    私に屈辱と絶望を植え付けて、探偵としての道を断つために】」

    「おうともよ。そうでもしねぇと、諦めないんだろ。お前さんは」

    「……ええ」

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