うちの探偵とミステリーを解いてほしい(解決編)【屁理屈推理合戦】

  • 1馳河 御影25/02/27(木) 19:10:45

    《ねぇねぇ。オジさん》

    《おう? 誰かと思えば……御影ちゃんじゃないか》

    《オジさんはいつも、何してるの?》

    《そらまた。藪から棒だねぇ……》

  • 2馳河 御影25/02/27(木) 19:11:21
    うちの探偵とミステリーを解いてほしい 第1篇【屁理屈推理合戦】|あにまん掲示板皆様、ご無沙汰しております。”聖杯の魔女”です。もうAI関係ないじゃないかというのは一旦置いといてください。過去スレは>>2に貼ります。これまで大小クソミスをお届けしてきましたが、今回で一…bbs.animanch.com
    うちの探偵とミステリーを解いてほしい 第2篇【屁理屈推理合戦】|あにまん掲示板皆様、長時間に渡ってお疲れじゃありませんか?それは探偵様も同じみたいですけどもね。ふふふ。こちらは>>2 前スレの続きとなっております。現在、ゲーム盤は推理パートを邁進中。探偵である御影さ…bbs.animanch.com
    うちの探偵とミステリーを解いてほしい 第3篇【屁理屈推理合戦】|あにまん掲示板人間様の皆様、おはようございます。時を超え再臨したこのゲーム盤も、はや3日目。未だ真実は霧の中……でございます。第2篇にて、容疑者の中から犯人候補を見つけ出した我らが探偵・御影さん。状況から推察するに…bbs.animanch.com
    うちの探偵とミステリーを解いてほしい 第4篇【屁理屈推理合戦】|あにまん掲示板そういえば。"御影"石といや、お墓の素材ですよね。皆様の青き真実で、謎の中核は穿たれました。【東 林之助を殺したのは汐留康一】。【汐留は22時00分に警備室の鍵を奪取し、敷地を大回…bbs.animanch.com

    うちの探偵と屁理屈推理合戦 実況・考察スレ|あにまん掲示板人間様の皆様、お疲れ様でございます。ここはゲーム盤の外側。思うことを自由に書き込んでください。念のため以下のルールを規定いたします。1.【このスレッドへの書き込みはゲーム盤の進行に関係しない】2.【こ…bbs.animanch.com
  • 3馳河 御影25/02/27(木) 19:14:15
  • 4馳河 御影25/02/27(木) 19:25:31

    《オジさん、お父さんの何なの? 友達なの?》

    《今更何言ってんだ、御影。オッサンは助手だろ、お前の父さんの》

    《そうなの?》

    《うんにゃ……ちょっくら違ぇなぁ。あの人にゃ助手とか要らねんだ》

    《要らないことはなくないか。そりゃアンタ、怠け者だけどさ》

    《その怠け者に禄を払ってる異常者なのさ、あの人は》

    《……探偵には相棒がいるんでしょ? オジさんは相棒じゃないの?》

    《言ってるじゃんか。あの人ぁ1人で十分なの。どんな難事件でもね。
    僕の助けが必要だったことなんか一度もないの》

    《中年のルサンチマンは見てられねーな。行こうぜ御影》

    《このガキどもはよぉ……》

  • 5馳河 御影25/02/27(木) 19:34:16

    《お父さんね、昨日も事件を解いたんだよ。
    オジさんはその時何してたの?》

    《僕ぁその時公園のベンチで寝てたよ》

    《……なんで?》

    《御影ちゃんは知らないのさ。つまらんよ、イサさんの推理なんて》

    《そんなことない! お父さん、スゴいんだよ。
    わたしが見てきたどんな謎も、未解決の事件も、一瞬で解いちゃうんだよ?》

    《だからつまらんのじゃないか。なぁヨーちゃん》

    《俺に振るんじゃねーよ……でも何でだ?
    どんな問題でも立ちどころに解けちまう探偵の助手だろ。
    その態度に劣等感以外の理由があるならお聞かせ願いたいぜ》

    《事件の起きた1分後に解いたことだってあるぞ?
    犯人しか知らんはずのことも何故か知ってんだよあの人。
    実はあの人が全ての黒幕だったら面白いのにな》

    《オジさん、嫌い……》

  • 6馳河 御影25/02/27(木) 19:45:40

    《別に悪く言いてぇワケじゃねんだ。
    真面目にやるのがバカバカしくなるってだけだよ、単純に。
    別の世界の住人なのさ……あの人は》

    《じゃ、辞めなよ。探偵事務所》

    《やだよ。辞めたら食えないじゃないか》

    《ほんとサイテー……! ねぇお兄さん。
    わたし、大きくなったら名前変えたい》

    《だってよ。オッサン》

    《ハハハ、構わんよ。変えちまえ変えちまえ》

    《……どうしてこんな名前つけたの……!?
    学校でいつも、"おかげ""おかげ"って言われるんだよ!》

    《おう。もう漢字が読める歳かい、御影ちゃんも》

    《バカにしないでっ! オジさんのせいなんだから!
    大きくなったら名誉棄損で訴えるからね……!》

    《ハッハッハッ! どこで覚えたんだぁそんな言葉っ!》

    《こいつ、仄かに将来が不安だな……》

  • 7馳河 御影25/02/27(木) 19:58:49

    〈おいおい、どうしたよ。こんなとこで何泣いてんだ、御影ちゃん〉

    〈泣いてない。目に……塩か何か入っただけ〉

    〈そりゃ参ったな。御影石に塩ってのは良くないんだぜ。
    僕ぁ実家が石屋だったからよく知ってんだが、ありゃぁな〉

    〈うるさい! あんたには何も聞いてないでしょ!?〉

    〈……えらくカッカしてんなぁ、おい。
    ヨーちゃん、警察学校じゃ生き生きしてんだってよ。
    イサさんに何吹き込まれたか知らんが、喜ばしいじゃないのよ〉

    〈違う! お兄さんは私と探偵になるって……! ずっと……。
    こんなの全然違う! 私に噓ついたんだ!
    噓つきの刑事なんて社会に必要ない! 死んじゃえばいいんだ……!〉

    〈ハッハッハ〉

    〈……何が、おかしいの〉

    〈いや、面白くないワケあるかよ。
    御影ちゃん……探偵ってのは噓つきの巣窟なんだぜ〉

    〈はあ!?〉

  • 8馳河 御影25/02/27(木) 20:09:46

    〈だってそうだろ?
    シャーロック・ホームズだって変装の達人だったらしいじゃねぇか。
    変装ってのは他人様を騙すのが目的じゃねぇのかい〉

    〈っ……それは、事件解決のためだから。
    悪い奴がいるんだったら仕方ないでしょ? 話をズラさないで〉

    〈話ズラしてんのはそっちじゃんかよ。
    だいたい今の御影ちゃんの方が大嘘つきに見えるぜ。
    大好きなおにーちゃんを警察に盗られて悔しいんです、って言ってみぃや〉

    〈こ、この……! 人が悩んでるのをバカにして……!〉

    〈なぁ御影ちゃんよぉ。ずーっと言ってんじゃんか。
    探偵なんかなる価値ないぜ。人の嫌ーなとこばっかつついてさぁ。
    まだパチンカスとして生計立てた方が人生楽しいぜ〉

    〈探偵かつパチンカスのあんたに言われたくないから……!〉

    〈おっと、こりゃ一本取られたな。ハッハッハ!〉

    〈普通の探偵になんかなる気ない。私はお父さんみたいになるの。
    どんな難事件でも解決して、テレビにもどんどん出て……
    先月も一緒に見たでしょ!? 旭日章だよ、総理大臣から!
    探偵が受章するのは初めてだって、お母さんも……〉

    〈……んなモンが何になるってんだい〉

  • 9馳河 御影25/02/27(木) 20:18:50

    〈御影ちゃんってば跳ねっ返りだよなぁ。
    こんだけ"あの人は別だから"っつっても全然分かんねーの。
    地頭はそこそこ良いクセに〉

    〈バカにしないで! 私、学校で一番の成績だよ?
    金持ち自慢しか出来ないあのバカな女とは違う!
    実力があるって証明して見せてるんだ……!
    ただ横になってボヤいてるだけの無能なあんたとは違うっ!〉

    〈あーあ。ナンマンダブ、ナンマンダブ〉

    〈~~~っ!!〉

    〈その優秀な頭で浮気調査やストーカーをやりたいってのかい。
    もっと出来ることがいくらでもあるだろうに〉

    〈……だから……っ!〉

    〈てか勉強も良いけど手先器用にした方がいいんじゃねぇの。
    盗聴器作ったりとか鍵開けたりとか出来る? 教えようか〉

    〈そんなことしないっ! もういい、死んじゃえ!〉

    〈ハッハッハ。死んどけるもんならもう死んでるさ〉

  • 10馳河 御影25/02/27(木) 20:25:40

    〔あのさー……華の高校生が何しちゃってんの?〕

    〔そっちこそ。いつもボヤいてたじゃないですか。
    お父さんが死んだらこんな仕事、さっさと辞めてやるって〕

    〔だから。辞めたら食えねんだわ……〕

    〔遺言なんでしょ。この探偵事務所、あなたにあげるって〕

    〔……ふざけんなよな。僕ぁ一城の主を望んでたつもりはないぜ〕

    〔だったら放棄すれば良かったんじゃないの?
    結構またここへ来てるクセに、カッコ付けないでください〕

    〔しかしよ。その歳で探偵のアルバイトなんざ……〕

    〔お母さんから同意は貰ってます。
    名探偵・馳河石英の名誉を一片たりとも汚させるな、とか〕

    〔……君ら親子っておかしいんじゃないか?〕

  • 11馳河 御影25/02/27(木) 20:31:28

    〔お兄さんが"近ごろ現場を任されるようになった"とか、
    寝ぼけた自慢を私にしてくるから……。
    だから、私も然るべき功績を挙げようかなって〕

    〔あれから1年、何の依頼もねぇけど?〕

    〔はぁ!? 何でですかっ!?
    あの名探偵・馳河石英の事務所ですよ!〕

    〔だから。その馳河石英がいねんだから当然じゃないのよ〕

    〔明らかにあなたの営業努力が不足している証拠ですっ!〕

    〔別にいーじゃん、こんなトコ潰れても。
    どうせマトモな稼ぎじゃねんだから〕

    〔何ですかそれ? だったらマトモな稼ぎにしましょうよ。
    ちょっと私、何とかしてきます……!〕

    〔あぁ!? おい、ちょっと……! 御影ちゃんっ!?〕

  • 12馳河 御影25/02/27(木) 20:37:18

    「テナント代……どうすれば……うぅ……」

    「何だ、まだ払える気でいたのかい?
    僕ぁ踏み倒す気満々でいたぜ」

    「ふざけないでください! 探偵は信用が命じゃないですか。
    このままじゃ後4ヶ月後には確実に廃業ですよ?
    税理士への支払いもあるし、どうしよぉ……」

    「ハッハッハ。だいぶ頼れるようになってきたじゃないの」

    「……バラバラ死体にされたいんですか」

    「御免被るね。はぁ……手柄を挙げたからって調子乗っちゃって」

    「あのですね……! 亡くなったのは私の親友ですよ!?
    ちょっとは言い方、あるんじゃないですか!?」

    「……親友、ね」

  • 13馳河 御影25/02/27(木) 20:44:40

    「汐留さんとお父さんだって、親友だったんでしょ?
    だったら私の気持ち……分かってくれたって、いいじゃないですか」

    「おいおい、泣くなよ。困るから」

    「だってぇ……!」

    「僕ぁ、人を泣かせることしかしてこんかった人種だからね。
    そうやって慰めてほしいみたいにされても場が白けるだけなんだわ」

    「汐留さんって、本当に最低な人ですね。
    お父さんのお葬式でも……涙1つ……」

    「イサさんが死んで、何で僕が泣くのさ。むしろ泣きたいぐらいだよ。
    あれ? じゃあいいのか……今から墓苑で泣いてこようかな?
    ボエーンってさ」

    「こ、このクズっ! ゴミ! 排泄物生産機……っ!」

    「ハッハッハ。何とでも言っちゃって。
    それで気が済んだら、経理の仕事に戻ってくれや」

    「もおおっ……!!」

  • 14馳河 御影25/02/27(木) 20:46:03

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  • 15>>125/02/27(木) 20:57:57

    「うーん……とにかく、事務所の鍵は使えなかったってことか。
    なあ中西さん、嘘はついてないんだよな?」

    「嘘つくくらいなら言いませんよ。だって疑われるだけじゃありませんかぁ」

    「まあ、確かに。だが……そうなると調べ直しか」

    「その必要はない。ここで謎を解け」

    「……南部さん。あんた勘違いしてるんじゃないか?
    推理小説の世界じゃないんだ。現場の再検証が必要だって言ってんだよ」

    「【そんなものは必要ない】。ここで謎を解け」

    「はあ……?」

    「【馳河石英には、それが出来た】」

    「イサさんを良く知ってるって口振りじゃねぇか。
    どっかで何度かお会いしたっけかな?」

    「おいよぉ~~~。それより推理ショーの続きはまだか?
    さっきまでイケイケだったじゃんかよ。大きい声で続けてくれよな」

    「……黙ってろ北野さん。あんたは容疑者の筆頭だぞ」

    「えぇ!?」

    「どうせ"人が入ってくるのを見た"ってのも出まかせだろ?
    現状、あんたが昨日ここに入ったのは間違いないんだ。だったら疑われて当然だよな」

  • 16>>125/02/27(木) 21:05:03

    「なあ御影、どうなんだ? さっきの今ではあるが……」


    「は、馳河さん……お身体の調子でも?」


    「御託はいい。早く示せ」


    「まあまあ、答えを出してくれんなら俺は構わねえよ。
    でももう少しこっちに出てきてくれねぇかな? 顔が見えなくてさ」

  • 17>>125/02/27(木) 21:05:45

    「実際問題、どうなんだい?

    御影ちゃん」

  • 18>>125/02/27(木) 21:07:42

    ……あーあ。震えてるよ。可哀想に。


    ごめんなぁ、探偵としての初舞台をこんなにしちまってよ。


    ああそうとも、御影ちゃん。君は被害者だ。


    あの人があんなに、眩しくなけりゃあなぁ。


    全てを解いて、見透かして、さぞ生きやすそうに見えただろうねぇ。


    誰だって思っちまう。”あんな風になりてえ”ってさ。


    哀しいよな? 誰より生き辛さを感じていたのは……。


    いや。僕にあの人を語る資格なんて、ないか。

  • 19>>125/02/27(木) 21:08:50

    「どうしたぃ? 御影ちゃん。もっかい、証拠でも集めに行くかい」


    「……」


    「何なら僕も付き合うぜ。まあ余計なお世話だろうけどよ」


    「…………」


    「無理に結論を急ぐ必要はないんだぜ。
    言ったろ? “何も分からないことが分かった”ってやつさ。
    とりあえず、今はそんなとこで良しとしようじゃないの。
    ……犯人なんか、分かんねんだろ」

  • 20>>125/02/27(木) 21:10:40

    言っちまいな。”東さんは自殺でした”ってさ。
    それなら何も言うこたぁねぇ。
    教会の奴らにチヤホヤされて、アイドルにでもなっちまいな。
    俺たちはそうしてきたんだ。

    それか、”南部さんがやりました”かい。
    それでもいいぜ。その時ゃ、俺が引導を渡してやるよ。
    安心して探偵を諦めちまいな。楽しいキャンパスライフが待ってるぜ?

    ……そうやって背中を向けてる内は、何にも出来やしねぇよ。

    なぁ御影ちゃん。もうやめようぜ。
    探偵も“探偵”も……お前にとっては生き地獄だ。

    だから。
    もう―――――

  • 21>>125/02/27(木) 21:12:30

    御影は、あの台座に手をついていた。
    時が止まったかのような静寂の中で、地下聖堂は冷え切っている。

    天窓から降り注ぐ微弱な陽光。彼女の黒髪が濡れたように光る。
    その弱く頼りない光を浴びて……御影は項垂れていた。

    誰もが何か言おうとして、言えずにいた。
    ただ静かに彼女を待っていた。
    そのうなじが伸び、細く白い手が台座から離れるのを見つめていた。

    「……」

    埃っぽいはずの空気が、神的に澄み切って感じられる。
    彼女が息を吸い、吐く音が聞こえる。


    「犯人は」


    「……」


    「東、さん」

  • 22>>125/02/27(木) 21:14:44

    「を―――殺した、のは」

  • 23>>125/02/27(木) 21:16:42

    「『―――それは、あなたです!
    汐留康一……っ!!』」

  • 24>>125/02/27(木) 21:17:36

    《ホーリー・グレイブ ~探偵の真実〜》

  • 25>>125/02/27(木) 21:20:25

    その叫びが、地下聖堂に響き突き刺さる。
    青き刃。淡き幻想を斬り裂くための、たった1つの武器。

    御影の言の葉に乗り……今、まさにそれが放たれる。

    「『私は……”罪を忘れるための幻想が愛”だなんて
    これっぽっちも思いません』!
    『もしそれが真心の産物だとしても……!
    私の真心はそんなもんじゃ収まりません』っ!!」

    「御影、ちゃん」

    「『私は今から探偵として、あなたの罪を暴きます】!
    【一連の”聖杯事件”は複雑でも怪奇でもない!
    たった1人の探偵もどきが起こした殺人事件なんです』!」

    「……!!」

    超音速の青き刃が汐留のこめかみを掠める。
    しかし、赤く尾を引く残熱は彼の心胆を激しく焦がした。
    途端、冷え切っていた地下聖堂が灼熱に包まれる。

    「オッサンが……犯、人……?」

    葉一は思わずふらついた。

  • 26>>125/02/27(木) 21:28:44

    「お、おい! 何でそうなるんだ!?
    この場で一番犯人から」

    「いいえ。『この犯行は汐留さんにしか出来ません』。
    ……反論はありますか?」

    「凄いことを言い出したねぇ」

    汐留は照れ臭そうに頭を掻いた。しかし探偵の目には隠せない。
    ほんの一瞬、彼はその笑みを失っていた。

    「【学芸員の兄ちゃんは地下聖堂にいた】んだろ?
    それなら彼にも出来るじゃないか」

    「『北野さんは地下聖堂の扉のドアノブから指紋を拭き取った。
    でも館長室の扉のドアノブからは拭き取っていない……
    何故なら、そこには東さんの指紋がまだベッタリ残っていたから!
    それは北野さんが館長室に入っていないことの証明になります』!」

    狂おしきほどの猛勢で、またも青き奔流が襲い掛かる。
    それは青き薙槍へと姿を変えて、汐留の左脚を深く貫いた。

    「『彼は聖杯を設置した後、柱の陰に隠れました!
    それを見逃して、館長室の東さんへ向かったのはあなた本人じゃないですかっ』!!」

  • 27>>125/02/27(木) 21:36:00

    「……!」

    「反論はっ!?」

    「【場所を考えりゃ……事務局長さんにも、出来た】んじゃないのかい」

    「『出来ません! 彼女が使えた雨具はどこにもない!
    あの嵐の中、物置までプロパンバーナーを取りに行くことは不可能です!
    彼女の着替えが少しも濡れていないことがそれを証明している』……!!」

    「っ!!」

    ドオンと音を立て、聖堂を揺らすほどの勢いで。
    投げ飛ばされた青きグレイヴが汐留の右脚を射止める。
    その一撃で、彼がここから逃げる方法は1つしか無くなった。

    【目の前の、自分を本気で殺そうとしている探偵を殺すこと】……!!

  • 28>>125/02/27(木) 21:51:49

    「【警備員のオッちゃんだって、動けた】はずだぜ……!」

    「『彼が盗める事務所の鍵は、所定の位置にはありませんでした!
    彼が犯行に及べるのは1回目の見回りを終え、監視カメラに映った23時15分から30分までの間だけ!
    しかし中庭から別館に繋がる扉を開錠出来ない以上、警備室を出て大回りする必要がある!
    その上、更に物置でプロパンバーナーを入手していたのでは死亡時刻に東さんを殺すことが出来ません』!!」

    「う……っ!?」

    3撃目は、彼の左腕を貫いて地下聖堂の柱に突き刺した。
    身体の自由が全く効かない。一挙手一投足が奪われていく。
    そんな彼が放てる、赤き真実は……。

    「さっきからバーナーとか何とか……。
    確かに【東さんは何かで焼かれていやがったが、プロパンバーナー以外でもそりゃ出来るだろ】!?」

    「『確かにそれは正しい! 部屋の中には燭台もマッチ棒もあった。
    いやというほど時間を掛ければ同じ状態には出来るかもしれない!
    だけど……! プロパンバーナーが無ければ館長室を密室に出来ませんっ』!!」

    「何ィッ……!?」

    一太刀に振り降ろされる青きグレイヴの斬撃。
    その閃きが、何の苦もなく汐留の右腕を根元から斬り飛ばした。
    今まさに五肢を奪われんとする獣。彼はその攻撃の主を見定めようと足掻く。

    そこに……彼の知る少女の姿は無かった。

  • 29>>125/02/27(木) 22:04:00

    「……御、影……?」

    葉一は柱に手をつき、2人の攻防を眺めるしかなかった。
    しかしそれは対戦ではない。圧倒的かつ究極的な蹂躙にして殺戮。
    蒼穹を思わせる鋭利な刃が次々と出現し、御影の周囲へ突き刺さっていく。
    それは彼女が口を開く度に1本ずつ浮き上がり、汐留の醜き身体を捉えた。

    「『あなたは22時00分に宿直室にいた! それは認めます!
    しかしその次! 22時15分には既に外にいた!
    南部さんが留守にした警備室を狙い、敷地の北に躍り出たっ』!!」

    「ぐっ!?」

    彼の腐った肝臓を、超音速の槍薙が挽肉に変えた。
    次いで浮かび上がる刃の切先は、胃の位置を巡ってグリグリと旋動している。

    「『当然、雨具を持たないあなたには無理だと言う人もいるでしょう!
    しかしそんなことは関係ない! あなたは今日この日のために……!
    服の下へ防水性のインナーを着込んでいたからです!
    あなたはまずトイレに籠り、"仕事装束"に姿を変えたんでしょう』!?」

    「ぐああっ!?」

    守ろうとしていた幻想が貫かれる度、激痛を超える絶痛が全身を苛む。
    御影はその蹂躙を、拷問を、極刑を……その手を緩めようとはしない。

  • 30>>125/02/27(木) 22:16:12

    「『それからあなたは、あの扉を潜り抜けた。
    敷地の一番端っこで、錆び付いて固まっているあの扉ですよ!
    そうすれば、あなたは監視カメラに記録されず外へ出て!
    敷地を大回りしてから物置に辿り着くことが出来る』!」

    「待」

    「『よくそんな場所に扉があるって知っていましたね……!?
    入念な事前準備の成果が出たんじゃありませんか?
    何事も場当たり的で計画性のない、あなたにとっては進歩です。
    だけど……! そんなの私は1ミリたりとも喜べませんよっ』!!」

    「ッ」

    「『あなたは物置で難なく道具を回収することが出来た!
    何故なら物置の扉は、22時15分に暴風で破られていたからです!
    ほんの僅かな幸運をモノにすることには余念がありませんね』……!」

    「テ」

    「『そして、あなたはまたも敷地の端。焼却炉へと辿り着く!
    焼却炉は今や使われていない遺構です。だからこそ誰も開けたりなんかしない。
    あなたはその中から姿を隠す黒いレインコートや、必要な小道具を取り出した!
    そう、かねて密室を演出するために持ち込んでいた……ピッキング用の道具です。
    本当に……人の物を勝手に開けるのが得意ですもんね』……!!」

  • 31>>125/02/27(木) 22:31:33

    「ピッキングツールだぁ……!?
    だが、そんなもん使われた形跡は」

    「お兄さんは聞いてて! お願いっ……!」

    「!」

    涙でグズグズになったその顔で、従妹は彼へ懇願する。
    【これは魔女と探偵が繰り広げる1対1の殺し合い】。
    殺す覚悟も殺される覚悟もない者は、口を挟む余地はない。

    「『あなたの次の行動は、中庭の天窓を意地汚く覗き込むこと!
    あなたが見たのは、地下聖堂で話し合う東さんと南部さんだったはず。
    東さんはこの時、館長室内でバカバカしい自慰的行為に耽っていました。
    だから、突然訪ねてきた南部さんを中へ迎えるわけにはいかなかったんです』!」

    「……ふん」

    「『南部さんが退出するのを見届けたあなたは、いよいよ殺しに着手します。
    彼の通り過ぎた後を狙い、警備室から盗んできた鍵で別館の南を開錠。
    そのまま監視カメラをかわしつつ地下聖堂へと踏み込んだんです!
    一体いくつの物を盗めば気が済むんですか? 貪欲な人』……!」

    その問いに、汐留は答える舌を持たなかった。
    下顎をザックリと御影に斬り飛ばされたからだ。

  • 32>>125/02/27(木) 22:49:03

    「『いいですか? あなたが北野さんに気付いていながら殺さず見逃したのは、
    慈悲でも親切でもましてや"愛"なんかでもありません!
    あなたはただその行為で、過去の自分を慰めたかっただけ!
    ただの恥知らずな自己満足にしか過ぎませんっ】!!」

    今一度、御影の刃に灼熱の赤が宿る。
    彼女はその拷問的な得物で汐留の下腹部を消し飛ばした。
    煮え滾るような赤と、凍て付くような青。
    彼女がその両方を振るう由縁は……ただ彼にある。

    「『汐留さん……もしもあなたが、心の片隅に。
    たった少し、塵の欠片ほどでも……!
    "御影を守りたい"などという妄執を抱いていたのなら!
    はっきりと言ってあげますっ! 迷惑千万この方ありませんっ】!!!」

    「オゴガアァア!!!」

    赤き真実の残滓を口から噴き出し、汐留は柱へ頭を打つ。
    御影がまっすぐ、激しく、鮮烈に、武器の石突で顔面を打ち据えたのだ。

    「『私もバカでした。この期に及んであなたを庇おうだなんて……!
    私もあなたも大人じゃないですかっ! 全責任を自分で負うべきです】!」

    「……ッ!」

    「『あなたが東さんを訪ねると、彼は扉を開きました。
    バカばっかり……! 20年前の事件なんかにああだのこうだの!
    大方、"石英が隠していた真実を教えてあげる"とでも言ったんでしょう?
    【東さんって本当に、見掛けほど頭が良くありません】から!
    彼はその真実を自らの命で買い取ることになったんです』……!」

  • 33>>125/02/27(木) 23:00:51

    「はぁっ……はぁっ」

    御影の声が枯れ始めた。
    彼女はここまで、凡そ19の子女が扱えるべきでない絶言を放ってきたのだ。
    その額には滝のような汗が流れ、黒い髪が艶やかに貼り付いていた。

    「最初は……あなたが殺すにしても、こんな方法をするかって。
    もっと簡単に、適当にやらかして出ていくんじゃないかって疑いました。
    でも……違うんです。『この殺し方は、あなたにしか出来ない』んですよ」

    「どういう、意味だ……!?」

    「"聖杯消失事件"が"聖杯帰還事件"に姿を変え、戻ってきた。
    『でも戻ってきたのは銀の器なんかじゃない。あなたと私……!
    20年前の下手人と、20年後の叡智の器!
    汐留さん! あなたが東さんをああやって惨殺したのは、
    あなたが"聖杯消失事件"の犯人でもあるからです!】」

    「~~~ッ!!?」

    獣は黒き闇を傷口より噴出させながら、のたうち回っている。
    それを殺すのはどうしても……彼女でなければならなかった。

  • 34>>125/02/27(木) 23:09:34

    「『神父を殺したのはあなたです。
    あなたは"嵐の夜"、地下聖堂に忍び込み鍵を掛けた。
    そして神父を殴り痛め付けた後……目玉を潰して抉り出した!
    更に、その場にある松明で全身を炙り焼き殺したんです』!」

    絶対に知るわけがない。知っていてはいけない。
    届くはずのない、闇の奥底にだけ存在する真実。
    ……それを、目の前の探偵が口にしている。

    この世の何よりも飲み干し辛い、劇毒を超えた黒汁。
    それを汲み入れたこの探偵。馳河御影こそ……。

    「我らが―――」

    「『違うっ】!!」

    「!」

    「『私は誰の物でもない……探偵・馳河御影です!
    気色の悪い腐り切った教義で、私を語るなっ】!」

    「……何、だと」

    南部はその細い目を大きく見開いた。
    彼女の撃ち放った聖なる刃が、深々と自分の胸をも貫いていたからだ。

  • 35>>125/02/27(木) 23:25:12

    「『ああ、そうですよ。あなたです、コソコソカサカサと……!
    地下を這い回る害虫みたいに、所構わず糞を放り出す排泄物生産機は!】」

    「……!?」

    「『南部さん! あなたは今回の事件も、20年前の事件にも無関係ではない!
    あなたは神父と共謀し、汐留康一を殺人者に仕立て上げた張本人です!
    資金援助を覗かせて馳河石英を誘き出し、"彼の意志"と体良く協力を要求した!
    あの人が断れないのを良いことに……しかも、彼を助けようとした親友。
    汐留さんの社会的立場までをも人質に取ることで】……!」

    「聖杯! そこまで知りつつ何故抗う!?
    貴様は魔女様を酔わせる器。ただその使命しかないはずだ!」

    「『ふざけるなっ! 殺人集団め】……!!」

    「ぐうっっっ!?」

    南部の胸を貫いた刃が、まっすぐ上へと引き抜かれる。
    上半身ぱっくり2つに割れながら……彼は叫ぶ。

    「何を根拠にそれを言う!?」

    「『星神幻蔵をはじめ、教会の構成員は狂人ばかり!
    馳河石英を弄び……凶悪犯罪を斡旋することで退屈を満たしていたんでしょう!?
    このことは馳河石英の依頼ルートを辿っていけば分かるはず。
    そこかしこに実業家としての東林之助の姿が見えてきます。
    つまり、あなたたちが裏から操っていたマリオネットです】!」

  • 36>>125/02/27(木) 23:37:57

    「『何が"魔女の遊戯"ですか? 閉じ込められたこともない癖に……!
    今から、20年前の真実を全て暴いてあげますよ。
    あなたたちのお望み通りにね】……!」

    「待て!!」

    「動くな!」

    南部がぐわっと伸ばした腕は、屈強な警官たちによって封じ込められた。
    ますます加熱していく地下聖堂の中で、御影が大きく息を吸い込む。

    「【発端は数十年前! あなたたちの"神父"と呼ぶ狂人が、
    下らない御伽噺を信じ込んだことに遡ります!
    彼は自分が"魔女"なる存在に寵愛されていると思い込み、
    解けなかったクイズのことで自己嫌悪に陥ります。
    そんな暇人の退屈しのぎのため設けられたのがこの地下聖堂。
    彼は叡智を司る魔女の信仰を嘯きつつ、一流の社会人たちを勧誘……
    他にやることのないバカ共の秘密結社を作り上げました。
    そんな彼らが求めたのは、神父を凌ぐ高知能の持ち主。
    それで29歳の馳河石英を誘き寄せたんです。
    彼の家庭には当時、翌年に産まれる予定の胎児がいました。
    しかし探偵という安定しない職業のゆえに、彼は困窮していた。
    "聖杯記念教会"に入信して彼らの犯罪の片棒を担ぐことで、
    莫大な支援と協力を約束すると囁いたんです】!」

  • 37>>125/02/27(木) 23:47:38

    「……『そんな誘いに乗る方も乗る方です。でも、教会には勝算があった。
    人目を忍んでやってきた馳河石英を尾行する存在、汐留康一。
    彼をわざと招き入れ、神父を殺させることで彼を人質にします。
    汐留さんはこの歳になってもこのザマですから、20年前なんて相当でしょう。
    "儀式に協力して神父を殺せば石英を厚遇する"なんて嘯けばイチコロです。

    そうやってまんまと嵌められたことに……馳河石英なら気付いたはず。
    "嵐の夜"が明けた後、彼は東さんと2人で地下にやってきました。
    そう、ここには東さんが適任だったんですよ。
    信仰心だけは立派だが組織の実態を知らず、大袈裟に喚き散らす人がね。

    彼は当然、神父の死に気を盗られて気付きません。
    密室の中に……汐留康一が隠れていることを。
    石英だって気付いていました。でも、"気付かないフリ"をすることは出来る。
    彼がわざと逃げ場を作ってあげたことで、汐留さんは形ばかり逃げ果せたんです。

    教会はその後、南部さんを中心に"教団"として持続しました。
    彼らが神父の死それ自体を何とも思っていなさそうな点が、
    東さんみたいに犯人捜しへ固執しなかった姿勢に現れているように思えます】」

  • 38>>125/02/27(木) 23:57:09

    「……それじゃ……聖杯は?」

    気の遠くなるような話に、葉一は立ち尽くしていた。
    御影は涙を浮かべた瞳で彼を見つめる。

    「『聖杯なんて最初からありません。
    彼らが、玩具にしていた人物をそうからかっていただけです。
    手当たり次第壁を掘るなんていう東さんの狂気じみた行動を、教会は止めませんでした。
    彼らにはそれが見つからないことが分かっていたんです。
    でも、"神父の死と共に消えた聖杯"というイメージ自体は利用価値があった。
    結果、バカな東さんは20年にも渡って教団の掌で転がされることになったわけです】」

    「く……それに何の証拠がある……!」

    「証拠。それこそバカげた質問ですね。
    『あなたたちの信仰が本物なら、私がそれを語ること自体が証拠になるはずじゃ】?」

    「ぐぐぐぐぅっ……!!」

    「『心底軽蔑しますよ。死んでください……南部さん】」

    どちゃっ。
    そんな音を立て、刃の峰が南部を潰した。
    彼はピクリとも動かなくなった。

    「……仕切り直しましょう」

  • 39>>125/02/28(金) 00:09:25

    「……汐留さん。
    魔女と聖杯の伝説に踊らされた、バカなあなたは今回の事件を画策した。
    私がそれを確信した物的証拠は……何だと思いますか」

    「へっ。バカと扱き下ろした相手に向かって聞くのかい」

    「『これですよ。あなたが6月20日に渡してきた、東さんからの書簡。
    最初、私は気付きながらも見落としていました。
    あなたが郵便物を貯め置く性格なのは分かってるつもりだったので。
    だけど、これ……。
    消印が10日も前じゃないですか】」

    「……なるほどな」

    「『これを読んだあなたは思ったはずです。
    今度は、教団が御影を玩具にしようとしているのだと。
    まあその推理は当たってますけどね】」

    ぴらぴらと指で封筒を揺らす御影。
    汐留は柱に寄り掛かったまま、項垂れていた。

    「『20年以上、馳河石英の"助手"を務めてきたあなた。
    私たちがその活躍を寡聞にして聞かなかったのには理由があります。
    あなたには常人と一線を画する技術がある。
    侵入、鍵開け、窃盗、盗聴、変装……傷害や殺人も加えますか】?」

  • 40>>125/02/28(金) 00:21:13

    「『1週間以上もあったんです。あちこち嗅ぎ回ることが出来たでしょう。
    扉の数、監視カメラの位置、鍵の置き場所に……南部さんの見回りルート。
    南部さんにとって、あなたの捜査は想定内だったでしょう。
    むしろこの事件が起きるようにあなたを扇動していた節さえある。
    ……分かっててやったんですか】?」

    「さあ……ね」

    「『調査を終えたあなたは、私へ依頼の件を自ら明かしました。
    当然、このタイミングには作為が含まれています。
    来週から忙しくなるっていうのに、敢えて台風の前日を選んだんですから。
    嵐に降り込められて、20年前の状況が再現されることも計算してたんですね】」

    葉一は膝をつきたかった。
    彼にとっては……御影より付き合いの長い人だ。
    男同士ということもあり、特にその軽口には影響を受けた。
    だからこそ。

    「……【オッサンらしいな。そこまで準備しておいて、最後はアドリブ】かよ」

    「はい。宿直室に泊まらせてもらえるかは分からない。
    もしかしたら会議室だったかもしれないし、
    泊まらせてもらえなかった可能性だってある。
    だけど。それでもやったんでしょう、この人は」

  • 41>>125/02/28(金) 00:31:37

    「ヨーちゃん。庇ってくれないじゃないか。俺ならやりかねないって?」

    「黙っとけ。【俺は御影を信じてる】だけだ」

    「……」

    その時だけ、汐留は意外そうな顔を見せた。
    多分、葉一が初めて彼の意表を奪った瞬間だった。
    あまりに遅く……それも最後になるのだろうけれど。

    「葉一さんの言った通り、あなたの犯行は結局のところ場当たり的です。
    それは、地下聖堂についての調べが足りていなかったこと。
    特にあなたを戸惑わせたのは……【館長室の鍵がディンプルキーだったこと】じゃないですか?」

    「確かにな。【事件当時、地下聖堂の扉の鍵は開いてた】。
    だからピッキングする必要もなかったわけだが……
    ここで、ピッキングの通用しない壁が立ちはだかったってことか」

    「計画性が無かったとまでは言いませんよ。
    【そこで念のためあなたが持ってきた、物置の備品が役に立った】わけですから」

    「……」

    葉一は顎に手を当て考える。この状況で、密室を完成させるために必要なもの……それは。

  • 42>>125/02/28(金) 00:44:04

    御影は重たい口を開く。
    柔らかな唇が真実を告げる。

    「『プロパンバーナー。金床。やすり。サンドペーパー。
    場合によってはセメントと石膏も使用したでしょう。
    ですが、私が最も注目し……この結論に至った要素は、

    珪砂です】」

    御影は腕を組み、汐留を一瞥した。
    冷たい目つきだった。俗物を見下すかのような、それでいて睨み付けるかのような。

    「……すっかり顔付きが名探偵じゃねーか。やっちまった……なぁ」

    「別に、あなたがこんなことしなくたって……私は探偵です。
    それを知ったから事件を起こしたんでしょう」

    「待て待て。珪砂って何だ? 何に使ったんだ」

    慌てて割って入る葉一。御影は顔を上げる。
    今度の彼女は、いつの間にか相手を対等に見ているようだった。

    「【鋳造によく使用される素材です。
    潮留さんは館長室に残っていた鍵2本を珪砂に当てはめ、鋳型を用意。
    そこに"あるもの"を流し込んで、鍵の複製を作成したんです』」

  • 43>>125/02/28(金) 00:50:28

    「ま、待てよ! そんなこと無理だろ」

    次に割って入ったのは北野だった。
    御影は彼へは一瞥すら与えなかった。

    「当然です。普通は無理でしょう」

    「いや、俺はよく知ってる! 無理も無理、大無理だ。
    鋳型をフリーハンドで作るなんて出来っこない!
    普通は圧縮して成型するものだし、乾燥させる時間も必要で……
    あんたの言う通りなら、そいつはたった30分間でそんなもんを作ったことになるぞ!?」

    「【やったんです。だから今ここにいる】。違う?」

    「はあ……いや、しかし……一体どうやって……」

    「そんなのあなたが知ることじゃないですよ。悪用されては困ります。
    【名探偵・馳河石英の元助手である、この人だから出来たこと】です。
    その証拠を今からお見せしましょう」

    「証拠……?」

    「葉一さん。事件当時そこにあったものを、出してください」

  • 44>>125/02/28(金) 00:57:19

    御影が指さしたのは聖堂の一番奥、石造りの台座だった。
    調査の途中、一旦全部の証拠品を持ち出したのだ。
    だから今そこには何もなかった。

    「えーっと、そこにあったものって……アレでいいんだよな?」

    「も、もったいぶらずに出してくれよ。刑事さん。というか説明を……」

    「見ていただければ分かります。少なくとも、あなたには」

    葉一が振り返り、背後から袋を取り出す。
    その中には今日、この場所に出現していたあの銀器。
    ついさっきまでは"聖杯"と呼ばれていた、それが入っていた。

    北野はぽかんと口を開ける。
    しかし次の瞬間、飛び上がった。御影の予想通りだった。

    「おおおお、おいぃぃ!? ちょっと待て、何だそりゃあ!?」

    「……私がやったんじゃありません。今日、この状態で置いてあったんです」

    「マジかよ!? 俺の力作がズタボロじゃねーか!?
    あちこちガリガリやられてるし……それに」

    「【取っ手はどこ行ったんだよ】……ですね?」

    「!」

  • 45>>125/02/28(金) 01:05:52

    「御影、ってことはまさか……」

    「そうです。【その器には、元々取っ手が付いてたんですよ】。
    汐留さんは鍵の複製に窮し、何か代わりになるものを探しました。
    それで、鍵にするのにちょうどいいサイズだったのがそれ。
    聖杯の横に付いてた取っ手だったってわけです」

    「この傷と汚れは?」

    「『傷はヤスリによるもの。取っ手を外した後がバれないように、全体的に傷付けたんです。
    汚れはバーナーによるもの。軽く焼き目を付けてごまかそうとした。
    こうして鍵の複製を作り上げ、密室を施錠したんです】」

    「……その通りだよ」

    汐留は背中からずり下がり落ち、尻もちをついた。
    そうすると御影が遠く大きく感じられる。まるで違う世界の人間のようだ。

    「『出してください。まだ持ってるんでしょう、それ】」

    「……っ」

    ずっとポケットに入れていた手を、汐留が開く。
    【そこには、真っ二つに折れた銀の鍵があった】。

  • 46>>125/02/28(金) 01:16:16

    「……決まりだな。あんたがそれを持ってるってことは、そういうことだ」

    「1回使ったら折れちまってよ。
    やっぱいくら磨いても……その場拵えはその場拵えか」

    「『普通のマッチやライター、カセットコンロではまず無理です。
    しかしあのプロパンバーナーなら約1500度の熱は出せるはず。
    銀の融点である961度を簡単に超えます。そうやって聖杯をモノにしたんです」

    「……」

    「『あなたがそれを後生大事に持っているのには理由があります】。
    そうですね?」

    「そうさ。ヨーちゃんの言った通り、これは間違いない物証になるからよ。
    御影ちゃんが推理を間違ってくれるのを……待ってたんだぜ、本来は」

    「『私が南部さんや北野さんが犯人だと指摘した瞬間、それを突き付けるつもりだったんでしょ?
    私に屈辱と絶望を植え付けて、探偵としての道を断つために】」

    「おうともよ。そうでもしねぇと、諦めないんだろ。お前さんは」

    「……ええ」

  • 47>>125/02/28(金) 01:30:40

    「『これが、東さんと北野が言い争うことになった理由の1つでもあります。
    当然ですよね。自分の描かせた絵画と形が違うものを出してきたんだから】」

    「……そう、か」

    「『これで、あなたの幻想は終わりです。汐留康一。
    あなたは手にグローブを嵌めて犯行を行った。それも出してください。
    血液の反応が過たず検出されるはずです。
    犯行後、複製の鍵を使って地下聖堂を密室にしたあなたは、外から悠々と警備室に戻った。
    そこへ鍵を返した後、トイレで脱いでおいた洋服にもう一度着替えた。
    全てを終えたタイミングで、ちょうど南部さんに出くわしたんでしょう】」

    「ああ」

    「『魔法なんて存在しません。全ては人間の意志と智恵……、
    そしてあなたが身に付けた、"汚れた探偵の業"が引き起こした殺人事件です』」

    もう一度、御影は台座の上に位置する天窓を見上げた。
    外には夕焼けが射そうとしている。でもここから見える空は丸く切り取られていて、窮屈だ。

    "名探偵"……。
    そんな言葉の響きに、御影はこの窓と同じものを見たような気がした。

  • 48二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 08:03:36

    このレスは削除されています

  • 49馳河 御影25/02/28(金) 08:16:29

    「まだ……俺は納得してねーぞ。
    どうしてこんなことが起きた?
    あんたの口から、ちゃんと聞かせろ……!」

    葉一が、へたり込む汐留の胸倉を掴んだ。
    殺人的な青き真実を目一杯浴びた犯人は、
    焦点の定まらぬ瞳で虚空を見据える。

    「……5年前。イサさんが死んで、俺ぁ自由になった。
    はずだった」

    「!」

    「俺が"探偵"をやって来れたのは……
    魔女にあの人を売り渡した、罪悪感あってのモンだった。
    だからよ。教会の奴らが興味を無くしたら、
    もう全部お開きにするつもりだったんだ」

    「教会……」

    「奴らが美術館を始めたのも5年前、だったろ。
    次の新しい玩具を探して……よろしくやってたのさ。
    もう2度とお関わりになることはねぇと思ってたよ」

    「【御影があの事件を解くまでは】……か?」

    「そうだ」

  • 50馳河 御影25/02/28(金) 08:26:50

    「御影ちゃんが悪ィんだぜ。
    あんなとんでもねぇ事件を……解決しちまうから……」

    「"回る万華鏡事件"。
    確かにあの時から……私の中で何かが変わりました。
    そして、私は自分の想像もしない人たちから注目されていた」

    「あることないことホイホイ答えてたろ?
    雑誌のインタビューか何だかでさ。
    アレが無きゃ、俺も奴らも動いたりしなかったのさ」

    「……」

    御影には、その意味するところがすんなり理解出来た。
    それこそ嫌というほどに、事件は次の事件を生むものだ。

    【嫌いなものは何かありますか?
    犯罪とか? 戦争とか?】

    ……扱うテーマの割には、軽々しい質問だった。
    1問1答だったか。御影はその時、イラついていた。
    だから敢えて、記者たちを困らせようとした。子供だった。

    【……魔女です】

    【え、魔女? なーんだ、結構メルヘンなとこあるんですね。
    絵本か何かの影響ですか?】

    【あなたの想像してるようなものじゃありません。
    人を騙し、心を欺き、陥れる……本物の魔女です】

  • 51馳河 御影25/02/28(金) 09:04:57

    「【探偵の対義語は魔女】なんだってな。いつかどこかで言ってたぜ。
    その意味するところはサッパリ分からなかったけどよ……
    あの時、君とイサさんが重なったんだ。奴らにとってもそうだろうな」

    「分からなくていいです。どうせ、ロクでもない話ですから」

    「その話によりゃ、東さんは奴らの手先でしかなかったのかい。
    ……へへ……道理で何も、知らなかったワケだ」

    「どうせ、ここにいる人全員殺したって……あなたの思う通りにはなりません。
    あくまで幹部ですが【南部さんはあなたの犯行に気付いていた】でしょうね。
    警備室の鍵が奪われたのにも、それが1時00分には返ってきたのも」

    「結局、僕は泳がされてたって話か」

    「……」

    「上手く行かねぇモンだな……世の中」

    「でも……あなたの願った通りに、なりましたよ」

    「……」

    「『ずっと待っていたんでしょう。探偵の名の下、裁きを受けるその時を】」

  • 52馳河 御影25/02/28(金) 09:08:24

    「ねぇ。どうして」


    「……」


    「どうして、なんですか?」


    「全部暴いてくれたろ。君自身の口でさ」


    「まだ、最後の謎が……解けていません」


    「え?」


    「どうして私を……"御影"って、名付けたんですか」


    「!」


    「なんでお父さんは……それを……」

  • 53馳河 御影25/02/28(金) 09:20:37

    警官が引き起こすままに、汐留は立ち上がった。
    銀の器を手放した自分に与えられる、最後の恩賞。
    冷たく光る手錠の鎖を見つめながら。

    「何だ。そんなこと、今の今まで気になってたのかい」

    「だって……っ、一度も……」

    「泣くなって。探偵はポーカーフェイスだって言ったろ」

    「答えて! 『私を憎んでますか』……!?」

    葉一が御影の傍らに立った。汐留は左右を警官に固められ、地下聖堂の出口へ向かう。

    全てが終わった今、御影はチェス盤をひっくり返していた。
    20年前……彼が、どんな気持ちでその柱の陰に隠れていたのか。
    昨晩……どうしてあれだけ執拗に、倒れた東を殴り付けたのか。
    今……何故こんなにも、静かにこの呪いの部屋を去ろうとしているのか。

    その答えは、ただ彼の中だけにある。

    汐留はぽつりと言った。

  • 54馳河 御影25/02/28(金) 09:41:25

    「知らないのかい、探偵さん」

    「え?」

    「確かに、御影は墓石だ。だが何でわざわざそいつを使うんだと思う?」

    「……」

    「何年、何十年で終わる代物じゃない。
    どんな嵐にだって……ずっと耐え続けるんだ。
    そんで磨けば磨くほど、より美しくなっていくのさ」

    「……オッサン」

    「なぁヨーちゃん。俺から見りゃ、お前も立派に探偵やってるぜ。
    君なら真っ黒に染まらないまま、彼女を磨き続けられんじゃないか」

    「うるせーよ……余計なお世話だ」

    「なあ。御影ちゃんや」

    「……っ」

    「これで、ゆっくり眠れるぜ。【君のおかげだ。ありがとよ】」

  • 55>>125/02/28(金) 09:45:46

    【探偵とは、真実の追求者である】

    【20年前、馳河石英は経済的に困窮していた。
    娘の出産を控えていた彼は、経済的な安心を得る必要に迫られた】

    【そんな中、聖杯記念教会が彼のパトロンを申し出る。援助を得るため馳河は教会に向かった】

    【聖杯記念教会はカルト教団である。
    彼らは謎と叡智を授けたもう魔女を祀り、それと交信出来る人物を聖杯と呼ぶ教義を有していた】

    【初代聖杯は神父。しかし彼は《汝ら呷れ、さかづきを》の謎を解けなかった】

    【神父は魔女に見放されたと感じ、次代の聖杯を探していた。
    その有力候補が馳河であった。既にこの時点で聖杯は地下聖堂にない】

    【馳河は汐留に黙って出たが、汐留は馳河を尾行した。彼らはお互いに隠しつつ教会を訪れた】

    【馳河は教会の定めるところの聖杯である。
    彼が神父に招かれ地下聖堂に入った日中のその間、聖杯は地下聖堂内に存在していたことになる】

    【汐留は馳河が教会に篭絡されることを危惧した。
    汐留は馳河の能力を誰よりも高く買っていた。
    彼の探偵の志を重んじ、その能力が世界のために活かされることを願っていた】

    【だから汐留は神父を殺し、教会の計画を止めようとした。
    警察に捕まることは承知の上だったし、むしろそれが彼の本意だった】

  • 56>>125/02/28(金) 09:49:41

    【そんな汐留を神父は歓迎し、彼に協力を要求する。
    自分を殺し《汝ら呷れ、さかづきを》の再現をしてほしい。
    探偵は魔女と交信し、その謎に挑むのだ。
    魔女の退屈凌ぎのため、その生贄となるのだ、と】

    【汐留は神父を痛め付けたが、神父は言った。
    いかに優れた聖人といえど、高潔なだけでは生きていけない。
    自分もそうだ。誰かが輝くその陰で、誰が手を汚しているのだ。
    聖杯は銀である。銀は磨けば輝くが、磨いた布は黒く汚れていくものだ】

    【生まれてくる命のため、馳河は金を欲している。
    そう言われた汐留は神父に協力。物語に見立てて眼球を抉り出し、神父を松明の火で焼き殺した】

    【汐留は柱の陰に隠れ、隙を見て脱出。完全犯罪を成し遂げたかに見えたが、馳河はそれに気付いていた】

    【馳河の推理は”神父は自殺だった”というもの。
    彼は汐留を庇って真実の探求をやめ、探偵の定義から降りた】

    【青年司祭であり、神父の実子でもある東はこの推理に納得が行かなかった。
    彼は驕る性格の故、”聖杯は人間である”という教義を教えられていなかった。
    彼は自分が神父の跡を継げなかったことを嘆き、存在しない銀の器と神父の死の謎を追い続けた】

    【一方、同じく青年司祭の南部は神父の遺命を継いでいた。
    東が野放図に真相を探ろうとする中、彼は粛々と教会を維持。
    彼の差配の元、教会は"聖杯教団"として水面下で存続した】

    【以来、教団は数々の怪事件を馳河に斡旋し、魔女への供物としてきた。
    馳河は見事にその期待へと応えてみせたが、全ての事件を正解に導いたわけではない。
    時には真実から目を背けることも彼なりの”愛”だった】

  • 57>>125/02/28(金) 09:51:05

    【そんな馳河が5年前に死去すると、教団は新たな聖杯を探す必要に迫られた。
    その活動拠点として作られたのが”教会跡美術館”である。
    彼らは表の世界に顔が利く東を館長に据え、コントロールしてきた】

    【教団は様々な難事件を観測してきたが、聖杯たる器は現れなかった。
    そんな中、教団員の星神幻蔵が”回る万華鏡事件”を引き起こす。
    そして馳河の娘がそれを解明したと話題になった】

    【彼らを揺り動かしたのは雑誌の記事。
    御影がマスコミに嫌いな物を聞かれて”魔女”と答えたことが、教団の興味を惹き付けた】

    【教団は何も知らない東を誘導。
    彼は御影を招待し、20年前の真実をもう一度解き明かしてもらおうとする。
    だが教団は、既に彼女を新たな聖杯として迎えるつもりだった】

    【一方、汐留は父と同じ探偵の道へ向かっていく御影に心を痛めていた。
    彼はかつて、石英を魔女に売り渡してしまった。
    その才に多くの人が救われたかもしれない。しかし、それが石英の望んだ人生だったのか?】

    【石英は汐留を庇い、守った。それは汐留が彼を守り、庇おうとしたからに他ならない。
    だが2人は何よりその関係に苦しめられ続けた。
    真実を暴く探偵を演じながら、実際は形骸化した職業としての”探偵”でしかない。
    汐留はそんな虚飾を空しいばかりに感じていた】

  • 58>>125/02/28(金) 09:54:19

    【6月10日、汐留の元に御影への手紙が届く。彼はそれを開封して読み、教団の思惑を察知した】

    【彼は1週間に渡って潜入捜査を行い、東を排除する計画を立てる。
    そして台風の前日を選び、御影に手紙の存在を明かした。
    御影は彼の予想通り、嵐にも関わらず美術館へ踏み込むことを決めた】

    【汐留の犯行には3つの動機があった】

    【1つ目は、御影の探偵生命を断つこと。
    まだ19歳の御影を、石英のような虚飾のヒーローにしてはならないと思った。
    彼は御影が南部を疑うよう仕向け、その誤りを衆目の前で指摘しようと画策。
    彼女に探偵の道を諦めさせるつもりだった】

    【2つ目は”聖杯記念教会”の命脈を断つこと。
    教団は裏社会に精通し、その至上目的は魔女の退屈を満たすことである。
    社会へ退屈した破滅願望者たちの巣窟……東を始末すれば、
    石英でさえ切り込めなかったその牙城を切り崩すことが出来ると考えた】

    【3つ目……本当は、彼は裁いてほしかった。
    真実を覆い隠して殺人犯を庇うのは愛でも何でもない。
    そう石英に糾弾してほしかった。だが彼はもういない。
    もし御影が全てを解き明かした上で”東は自殺した”と言うなら、
    彼女が魔女の供物となるのを見送るしかない。
    だがもし石英を越え、自分の真実を明らかにしてくれるなら……
    それが彼の、一縷の望みだった】

  • 59>>125/02/28(金) 09:57:45

    【彼は東を殺した後、ピッキングで施錠する予定だった。
    しかし館長室の鍵はディンプルキー。彼の手持ちの道具では太刀打ち出来なかった】

    【実際の犯行において、北野が”聖杯”のレプリカを携えてきたのは汐留の誤算だった。
    だが彼は咄嗟に、銀器を溶かして鍵に作り変えることを思い付く。
    珪砂などの道具を使い30分で複製を作り上げた汐留は密室を構築。
    しかし急造品の鍵は1回使っただけで壊れ、複製はこの世に存在しなくなった】

    【彼が使ったルートは御影の推理した通りである。
    彼は上着をトイレに残していき、インナーのまま敷地へ再侵入。
    あらかじめ焼却炉に隠しておいたレインコートで顔を隠した。これらは犯行後、敷地の外へ廃棄された】

    【別館に戻った汐留はトイレの個室で再度着替える。その際に南部と遭遇した】

    【御影は状況証拠から南部の犯行を推理し、披露を開始。
    物証として彼の隠し持っているであろう事務所の鍵を挙げるつもりだった】

    【しかし事務所の鍵は中西が持っていた。
    南部犯行説が消え、汐留犯行説だけが彼女の中に残った。
    御影は汐留が犯人のわけがないと考え、半ば無意識的にZの扉を無視していたのだ】

    【御影にとって汐留は名付け親であり、疎ましく思いながらも大切な存在だった。
    ”東の自殺”でこの件をうやむやにするか、探偵事務所や父親の名声と共に”汐留へ引導を渡す”か。
    あるいは"南部の犯行"をあくまで主張し、探偵として終焉を迎えるか。彼女は選択を強いられる】

    【最終的に、御影は自分が信じる探偵の道を突き進む。
    全ての幻想を破壊し、馳河と汐留を呪縛から解き放つことを選ぶ。
    それが”探偵の墓標”である自らの愛だと信じて】

    【御影は今。聖杯と地下聖堂の謎、20年前の真相を全て暴き切った】

  • 60>>125/02/28(金) 09:59:36

    【かくして、聖杯は帰還した。しかし御影は教団に絶縁を突き付ける】

    【愛し、愛された人たちのための墓標として。
    これからも御影は風雨に磨かれ、一流の探偵として成長していく】


    【この物語の真相は、愛が無ければ視えない】


    【この物語の真相は、愛が有るなら視えない】


    【この物語の真相は、愛によって解き放たれた】

  • 61>>125/02/28(金) 10:11:15

    【馳河御影の読み仮名は、ハセガワミカゲである】

    【馳河石英の読み仮名は、ハセガワイサヒデである】

    【馳河葉一の読み仮名は、ハセガワヨウイチである】

    【東林之助の読み仮名は、アズマリンノスケである】

    【中西要の読み仮名は、ナカニシカナメである】

    【南部伸司の読み仮名は、ナンブシンジである】

    【北野肇の読み仮名は、キタノハジメである】

    【汐留康一の読み仮名は、シオドメヤスカズである】

  • 62>>125/02/28(金) 10:23:36

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  • 63>>125/02/28(金) 10:23:51

    「あぁっもう! これもゴミ、あれもゴミ……!
    十数年間一度も片付けてないんですか、この事務所は!?」

    「お前も3、4年勤務してたじゃねーか。大掃除くらいしろよ」

    「イヤですよっ! 男たちのタバコ臭いオフィスなんて触りたくありません!」

    「結局1人で全部やる羽目になってるのにか?」

    「清掃業者なんか呼ぶお金はありません。てゆーかお兄さんも手伝ってくださいっ!」

    梅雨が明けた。外は久しぶりにカラッと晴れていた。
    事務所の窓から吹き込んでくる風は、これからやってくる季節を予感させる。
    葉一はそんな窓辺に寄り掛かったまま、雑然とした新宿の街を眺めていた。

    「場所は結構良かったんだけどな、ここ」

    「あー、ちょっと!? 何吸おうとしてるんですか!?」

    「ちょっ、窓開けてるんだからいいだろ……!」

    「そんなの理屈になってません!」

    「あー!?」

    半袖姿の御影が彼に掴み掛かる。
    揉み合いの末、葉一のタバコは外へと投げ捨てられてしまった。

  • 64>>125/02/28(金) 10:33:32

    「何すんだお前! いくら臭いが嫌いだからってなぁ」

    「……」

    「分かった。分かったって」

    年若き従妹から向けられる抗議の眼差し。
    これをされると葉一の立つ瀬がない。
    石英や康一に教え込まれたタバコミュニケーションだが、そろそろ見直す時が来たらしい。

    「ったく……それで? 退去はいつなんだよ」

    「明後日です……」

    「はあ? それならもう大学の友達に手伝ってもらったりとか」

    「~~~っ」

    「あ、悪い」

    【そんなものは存在しない】。御影の眼差しに悲哀が混ざるや、葉一は苦笑した。

    「……ホントに無くしちまうんだな。ここ」

    「前からそんなに好きじゃなかったですもん。むしろ清々します」

    「よしよし」

  • 65>>125/02/28(金) 10:45:56

    葉一に肩を抱かれ、御影は頬を膨らませた。

    探偵業も一筋縄ではない。1人で学業と両立させるのは不可能だ。
    いくら御影が悧巧でかわいい名探偵を自負していても、限界というものがある。
    公安への届け出とか事務作業とか営業とか……
    それらと自分の人生を天秤に掛けた時、彼女は後者を選んだのだ。

    「……別に気にしてませんし。私、まだ19ですよ?
    その内どっかで大金掴んで、港区の一等地に居を構えてみせますから」

    「お前、金に関してはマジでセンス無いんだから気を付けろよ」

    「バカにしに来たなら帰ってくれますか」

    こちらへ体重を預けながら、いとも冷たげに言ってくる御影。
    この1ヶ月間、ひっきりなしに連絡してきては彼の時間を奪い尽くす小悪魔である。
    とはいえ事件解決には欠かせない頭脳だし……何より目が離せない年頃だ。
    今日も今日とて、非番にも関わらず連れてこられてしまったのだ。

    「はぁ。またバイト探さなきゃ、学費が……」

    「バイトなんて何でもいいだろ。お前の顔ならどこでも入れ」

    「ノンデリ発言はそこまででてす。お兄さんって永遠に結婚出来なさそう……」

    お前がしつこく付いて回る限りはな。
    込み上げる言の葉を、葉一は間一髪で防ぎ止めることに成功するのだった。

  • 66>>125/02/28(金) 10:54:03

    「……ん」

    その時、部屋の隅に積み上げてあるゴミ袋が目に留まった。
    中には大小様々な不用品が詰め込まれているが……

    その中に、気掛かりなものがあった。

    「おい、間違えて捨ててるぞ。叔父さんの鞄」

    「……ああ。あれ、もう要らないかなって」

    「!」

    石英が肌身離さず持っていた、古いダレスバッグだ。
    それはどこへ行くにも手放さない、御影自身の宝物でもあった。

    「私、もうお父さんみたいな探偵になるのは辞めたんです。
    そもそも探偵がテレビ出演とか旭日章とか、ちゃんちゃらおかしいですよ。
    これからの時代に必要なスキルを身に着けて、もっとスマートに……」

    「本当にいいのか?」

    背を向け作業へ戻る御影に、葉一はそっと聞く。
    その心中にあるものを全て、水も漏らさず汲み取ろうとして。
    御影はしばらく手を止めてから答えた。

    「私の……私だけの探偵鞄を、買いに行きます。
    だから、これが済んだら付き合ってください」

    「そうか。ま、構わないぜ」

  • 67>>125/02/28(金) 11:04:30

    「でもな……御影。やっぱお前、金の使い方が下手っぴだ。
    捨てるくらいなら、もっといいやり方があるだろ」

    「はあ? 何ですか今度は。あんなボロボロの鞄、中古価格が付くわけないでしょ」

    「普通の鞄ならそうだろうな。
    だけど名探偵・馳河石英の鞄だぞ。一時はファッションブームにもなったくらいだ」

    「え」

    「未だに日本全国でめちゃくちゃファンがいるんだぞ?
    ネットでオークションに出せば……お前が受け取らなかった報酬額も軽く超えるんじゃないか」

    「え!?」

    「何なら"新時代の名探偵・馳河御影の保証書付き"にでもしてやれ。
    上手く行きゃ、来年の学費くらい賄えるだろ」

    「ええっ!? 本当!?」

    目を輝かせながら、再び飛び付いてくる名探偵。
    葉一は彼女の頭を撫でてやりつつ、スマートフォンを取り出した。

  • 68>>125/02/28(金) 11:31:58

    「ダチにそういうの詳しい鑑定士もいるしな。協力してやるよ。
    いっそのこと、もっと派手にブチ上げてやろうぜ。"真・馳河石英展"とか言ってさ。
    報酬は……そうだな、焼肉の奢りでどうだ?」

    「行きましょう! ていうか連れてってください……! 今すぐ!」

    「よし。じゃ早速出るか!」

    抱き付いてくる名探偵。にかっと笑い、刑事はその手を引く。
    電灯の落ちた探偵事務所だが、窓から浴びる日差しは明るかった。
    その暖かい予感こそ心を軽くしたのかもしれない。

    「ねぇお兄さん、明日も来てくれますよね?
    たまにはお母さんにも会いに来てくださいよ。いいでしょ」

    「こっちもヒマじゃねーんだぞ。ごった返す捜査本部を抜けて来てんだからな」

    「へー……殺人ですか? 強盗ですか?」

    「調子に乗んな! 誰が民間人に喋るかよ」

    「何を今更言ってんですか。この馳河御影が解いてあげますよ。
    ほら教えて! ねぇ、ねぇってば!」

    探偵事務所の扉が閉まる。
    都会に吹き込む晴嵐の中、2人は街へと踏み出していくのだった。

    【ホーリー・グレイル ~探偵の墓標~ 完】

  • 69>>125/02/28(金) 11:32:34

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  • 70>>125/02/28(金) 11:34:28

    【以上をもちまして、全ての物語が終了です】。

    【皆様、ここまでのお付き合い本当にありがとうございました】。

  • 71>>125/02/28(金) 11:38:03
  • 72二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 11:46:36

    完結お疲れ様でした
    AIと共作解決編スレをたまたま見かけて、屁理屈推理合戦ってものを初めて知って過去スレも読んで、
    今回やってみてとっても楽しくて面白かったですありがとう

    狩猟したいだろうけど疑問があったら答えてもらえるのかな?

  • 73>>125/02/28(金) 11:53:19

    >>72

    大丈夫です。どのみち今日は空いておりますので。

    まあ考察を一通り見た感じ、皆様の詞藻が俺を上回っているため他に何も出ないかもですが……

  • 74二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 11:59:25

    ちゃんとした推理は他の皆さんに任せてSSとして読んでたけど、何とかハッピーエンドになってくれたようで良かった…楽しく読ませてもらいました
    ありがとう聖杯の魔女、もとい1さん
    御影ちゃんの名前に魔女が放った赤の意味しか無かったら悲しすぎるからね
    (シークレットトリックは何だったんだろう?御影ちゃんの名前の意味でいいのかな?)

  • 75二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 12:06:36

    乙です
    いやぁ本当にお疲れ様でした
    これでやっと狩猟行けますね!
    ハバナイスデイ!

  • 76二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 12:24:33

    名前の読みが拒否&わからないされた、御影ちゃんが汐留さんの名前知らなかった(×コウイチ⚪︎ヤスカズ)ことにはどういう意味、意図があるのかとか

    聖杯記念教会の教義(聖杯=人間)は中西さんも知らないみたいだったけどこの人も人格に問題ある人だったの?

    それか表向き教義とかあるのか?とか


    実況考察スレの

    >東さんが【これがその当時の地下聖堂です】って出した画像に聖杯描いてあって消失事件の画像では消えてるけど

    >本物の聖杯は探偵だから銀器の見せかけ聖杯が聖堂に置いてあったとして、汐留さんが持ち出したのかな?

    >神父の指示にはないみたいだけど、儀式って神父の殺人事件だけで良くないか?銀器聖杯を隠したのはなんでだ?

    まぁこれは同スレの

    >東は聖杯の正体を知らないから

    >"消失事件が起きる前は銀器の杯が聖堂内に安置されていた"って考えてたとすると割と辻褄が合うような合わないような

    でいいと思うけど


    あとやばいと思った復唱要求や青字とか聞いたりしたい

  • 77>>125/02/28(金) 12:59:49

    >>74

    >>76

    シークレット要素は、まさに登場人物の名前の読み方です。

    御影は「汐留さん」としか呼んだことがないので、彼の本当の名前の読み方を知りませんでした。

    汐留は石英を「イサさん」と呼んでいました。

    対し……石英は汐留を何と呼んでいたのでしょう?

    たったそれだけの話です。


    聞かれないだろうと思っていたのに聞かれてしまったから、断固拒否しました。

    あの時点でこっちの思惑が分かってしまっては……色々と差し障るので。


    また、東の中では、聖杯=銀器でした。

    そのため聖杯が描かれている図面を渡してきたのです。

    まあちょっとズルい出し方をしましたね……。


    やばい復唱や青字は特にありませんでした。

    というのも今回は解くためのステップが多すぎて、出し惜しみしてると際限がないからです。

    強いて言うなら名前の読みを聞いてきた第1篇の>89でしょうか?


    MVPは第3篇の>13、同じく第3篇の>119です。

    これを出してもらわにゃ進まんのでした。

  • 78>>125/02/28(金) 13:13:37

    元々どういう予定だったの?

    何で今回こういう形式にしたの?

    結局何が言いたかったの?


    ……などなどのツッコミもあると思いますが、

    それらにお答えする余力が残っていません。


    なのでもうネタ帳と攻略チャートを出しちゃいます。

    攻略チャートが完成したのは出題当日なので、ボロボロです。

    やりながら随時書き足した部分もあります。

    とりあえずこれでご納得のほど……。


    今作の初期案と攻略チャート | Writening① ストーリー 天才肌の探偵志望である馳川御影は、”回る万華鏡事件”を見事解明した。前回の物語で、彼女が探偵業に抱く理想と現実の一端を描写出来たように思う。事件を暴くことにより自らが傷付くという構図…writening.net
  • 79二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 13:14:38

    マジか
    石英はセキエイかクォーツしかわかんないからイサさんって呼ばれてて気になっちゃったんだよ

  • 80二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 13:19:26

    ああ、犯人はヤス……

  • 81二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 17:29:17

    このレスは削除されています

  • 82二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 18:13:49

    うちの探偵とミステリーを解いてほしい 第1篇【屁理屈推理合戦】で初めて屁理屈推理合戦というものを知り、気づけばどハマりしてその後もすべてのシリーズに参加していました。本当に素晴らしく得難い体験をありがとうございました。
    MVPの一端を担えて身に余る光栄です

  • 83二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 19:35:23

    >>82

    (アッ、AIが考えたミステリーを解いてほしい【屁理屈推理合戦】の間違いです……すんません恥ずかし 見返してきたら初青投げさせていただいたり赤まとめたり(真実を果実に空目してた)初っ端からめちゃくちゃ楽しませてもらってた)

  • 84二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 19:45:54

    ◯ートピアは出オチだわな
    今回全然解けなかったぜ悔しい…
    御影ちゃんが青連発してるのカッコ良かった!

  • 85二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 19:48:19

    登場人物と神父が未婚か既婚か(御影にはわからない)、20年前の事件関係者4人の血縁関係の有無(復唱拒否)、
    神父の名前が東ナントカは謎解きには重要じゃないけど悪い発想じゃなかったな!(自画自賛)

  • 86二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 20:05:25

    そういえば途中の探偵を貫いた者って葉一義兄さんのことですか?

  • 87二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 22:39:52

    乙でした~
    力作楽しく読ませてもらいました
    結局謎は全然解けなかったー。でも展開に絡む青を出すことができたので満足
    終盤の、本家うみねこばりに赤と青を振るう幻想描写がかっこよかったです
    御影的にはハッピーエンドではないかもしれないけど、前を向いて進めるような終わり方で何よりでした
    いつになるかはわからないけど次があるならまた楽しみにしています

  • 88聖杯の魔女25/02/28(金) 23:30:50

    >>86

    どうして"義"が付くのか承知しかねますが……その通りです。

    葉一は真実を知って躓く人間ではありません。それこそが探偵です。

    しかし彼は真実の味方でも正義の味方でもない。御影の味方なのです。


    感想をくださった皆様もありがとうございました。

    これで"聖杯の魔女"を語る物語はひと段落。

    名残惜しさはありますが、俺は旅立ちます。何処へとは言いませんが……。


    【またいつか、どこかでお会いいたしましょう】。

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています