- 1二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 21:20:29
アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの18スレ目です。
アグネスはひょんな成り行きから、遂に彼女がずっと溜め込んでいた疑念-ユニウスセブン落下テロにはプラント上層部に協力者が存在したのではないか―を最高評議会議員に指摘してしまいます。
その小さな波紋は、既に盤石とも思えるデュランダル政権にどのような作用を及ぼすのでしょうか。
そして、ミネルバ一行が宙で傷をいやす間も地球の争乱は止まるところを知りません。
砕かれた世界で繰り広げられる国家間のそして対ロゴスの戦争に終わりの兆しは見えるのか。
おつきあいをいただければ。 - 2二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 21:24:40
前スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart17|あにまん掲示板北限の海で繰り広げられる戦い。この世界のアークエンジェルを巡る戦いは一つの帰結を迎えようとしています。アーモリーワンから戦い抜いて来たミネルバ、世間は『彼女』を武勲艦と持ち上げ、事実そうなのではありま…bbs.animanch.com1スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たら|あにまん掲示板アグネスが士官学校卒業ザフトアカデミー、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSを書く予定です。お付き合い頂ければ。bbs.animanch.com2スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart2|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。はたして、アグネスは、ルナマ…bbs.animanch.com - 3二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 21:26:04
3スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart3|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。己を取り巻く不可解な状況に四…bbs.animanch.com4スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart4|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバとアグネスはその進撃…bbs.animanch.com - 4二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 21:27:17
5スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart5|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバの活躍は起こるはずだ…bbs.animanch.com6スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart6|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの6スレ目です。自分の心境の変化や激動する世…bbs.animanch.com - 5二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 21:28:48
※落としてしまった7スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。出世の点数稼ぎの場として『戦…bbs.animanch.com再建てされた7スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7(再立)|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。※不注意から一度スレを落とし…bbs.animanch.com8スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart8|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの8スレ目です。戦いに消耗したアグネスとミネ…bbs.animanch.com - 6二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 21:29:56
9スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart9|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの9スレ目です。C.E.73年- C.E.7…bbs.animanch.com10スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart10|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの10スレ目です。遂に開始される『ロゴスとの…bbs.animanch.com - 7二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 21:30:58
11スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart11|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。『対ロゴス戦』は本編とはや…bbs.animanch.com12スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart12|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。対ロゴス戦争が変え行く世界…bbs.animanch.com - 8二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 21:31:59
13スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart13|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの13スレ目です。本編を上回るほどの規模とな…bbs.animanch.com14スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart14|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの14スレ目です。激しい戦いの後、戦女神と大…bbs.animanch.com - 9二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 21:33:43
15スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart15|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの15スレ目です。アークエンジェル問題を何と…bbs.animanch.com16スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart16|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの16スレ目です。アグネスは目の前で次々と発…bbs.animanch.com - 10二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 21:38:35
ジュセック最高評議員につもりに積もった疑念を(一部)ぶちまけたアグネス!
オラわくわくしてきたぞ! - 11二次元好きの匿名さん25/03/03(月) 01:29:06
ジュセック「よろしい。直ぐにアーモリーワンを発つ。ギーベンラート嬢、シャトルは心配しなくて良い。諸々の協議込みで、この後グラディス提督とも少しお話し、月軌道艦隊からナスカ級を出してもらおうと思う」
決断が早い。流石、建国の父の一人ね。方針を決めるや、ポケットから業務用携帯を取り出し、上の階で休憩中のグラディス提督に連絡している。疾風迅雷、クーデター慣れしているわね。
ジュセック「良し、道中でこの話を。まずはライトナ―最高評議会議員たち司法委員会に。国防委員会にはグラディス提督からも一報を入れてもらう。そこから皆にも順に。夜分遅いが最高評議会内でコンセンサスを得る必要がある。ボーンホルム島での出来事についてはまた後日に」
そう言うとジュセック評議員は名刺入れから、三枚名刺を取り出すと、机のこちら側に体を乗り出して私とアスランとメイリンに渡して下さる。
アグネス、アスラン、メイリン「ありがとうございます」
アスランとメイリンが、両側で目を瞬かせている。思わぬ成り行きにビックリと言ったところか。言い出した私も少し気圧されているが、今更引きない。
ジュセック「いや、こちらこそありがとう。貴女達がリスクを承知で打ち明けてくれたこと、必ず最高評議会議員の中で共有する。
『ユニウスセブン落下テロ事件にはプラント上層部にも協力者が存在し、テロリストへの物資支援他、その行動を把握していながら、あえて見逃していた疑惑が存在すること』、『その疑惑がアークエンジェルとアスハ代表のプラント不信の要因と推測されること』、『テロリストのプラント内協力者の存在(疑惑)が今後の外交問題に発展しないように予め手を打っておくべきである事』。この3点は絶体に」
思わぬ成り行きに心臓がバクバクする。
落ち着け、カメラの前での話になったことを除けば予定とさして変わらない。ユニウスセブン落下テロ黒幕疑惑は元々お話しする積もりではあったんだ。
そう話した後、彼は一度躊躇い、やがて再び私の両眼に視線を合わせる。
力強い眉の下から延びる理知的な眼光に気圧されかける。だが、その眼差しが普段の理知的なものであることに気が付き安堵する。
ジュセック「ギーベンラート嬢、試みに尋ねるが、貴女はだれが怪しくないと思うかね?」 - 12二次元好きの匿名さん25/03/03(月) 01:37:44
彼の声音は疑心暗鬼とは程遠い。だからこそ、『怪しくない方』を聞いてくれている。無論それはお互いの身の安全のためでもある。犯人探しなどここでするべきではないから。
横目で無機質なカメラを睨みながら、考えを纏める。まず、無実の人に疑いがかかることは排除するべきだろう。自分の家族を含めて。
アグネス「まず、基本的な考え方を。もしプラント上層部内にテロ協力者が存在したのなら、彼ないし彼女はこの変事に乗じて何かしらの政治的目的を達成しようとしていたはずです」
私の言葉を彼は首肯する。
ジュセック「確かに、テロリズムの定義は政治的な目的を達成するために暴力及び暴力による脅迫を行うこと。サトー一派の剝き出しの復讐心とはまた異なる思惑があったことは容易に想像がつくな」
アグネス「ただ、その一方で協力者の望みがサトー一派と完全に同じ可能性もあります。即ち地上のナチュラルの大量殺戮を行い、既存の国際秩序を破壊し、絶滅戦争を再開すること」
ある意味これが一番単純で分かりやすい事例だと思う。猪か、流石にあり得ないと思うが例として提示する。
ジュセック「協力者と実行犯の目的が同じケースか。そうなるとプラントの有力者の中では、下野させられた旧ザラ派所縁の元最高評議会議員が真っ先に思い浮かぶが…。おそらく彼らではないな」
アグネス「はい。私もそう思います」
ジュセック評議員の問いに応じながら、軽くカメラに気を配る。彼らは現在、最もスケープゴートにされそうな人たちだ。おまけに、私の家に近い方も多い。と言うか、私の家もその一員。そこははっきり否定しておかなければいけない。
アグネス「ザラ派として前大戦末期に最高評議会を追われた人達とその親類縁者。彼らは現政権とユニウス条約下の国際秩序の潜在的敵対者として、当局の厳重な監視下にありました。公職追放を免れた者もザラ派有力者は監視がついているはず。つまり、彼らは一番怪しい故に最もアリバイがある方たちなのです。私は、彼らは『白』だと思います」
この人たちは警察自体がアリバイ証人、故に容疑者から完全に外れる。同時にギーベンラート家とイザーク先輩、ディアッカ先輩も白。パパとママはカナーバ復権以後、肩身が狭い思いをして来た。ここに来てそれがアリバイになるとは人生塞翁が馬だわ。 - 13二次元好きの匿名さん25/03/03(月) 01:49:34
ジュセック「うむ。確かに司法局は―私達は―彼らをマークしていた。そうなるとエザリア・ジュール元最高評議会議員、タッド・エルスマン元最高評議会議員、ユーリ・アマルフィ元最高評議会議員、ジェレミー・マクスウェル元最高評議会議員、ヘルマン・グールド元最高評議会議員、とその縁者は容疑者から外れることになるな」
旧知の者たちが容疑者リストから外れそうなことが分かりジュセック評議員は安堵している。無論、私の見立てを鵜吞みにする気はないだろうけれど。
ジュセック「他に貴女が協力者でないと確信している者はいるかな?テロの目的がユニウス条約下の国際秩序破壊や政権転覆、ないしは―」
試すような言葉を慎重に選びながら、ジュセック評議員は再度私に尋ねる。『ないしは―』の続きはお互いこの場では言えない。政権転覆ではなく政権の権力強化にテロを利用した事例も歴史上数多い。言葉には注意を。
アグネス「最高評議会の内、国防委員会の四名。タカオ・シュライバー国防委員長、エドアルド・リー国防委員、アラン・クラーゼク国防委員、リカルド・オルフ国防委委員は『白』であると考えています」
ジュセック「ほう…」
やや意外と云った面持ちで彼は私の顔を見直す。
確かにジン・ハイマニューバ2型の横流し疑惑を考えるなら、国防委員会こそ疑惑の本丸ではある。ジュセック評議員からしてみれば、私が軍人特有の身内贔屓を発動したのだと思われているかもしれない。
アグネス「(国防委員会と軍本部の機体管理の甘さは大批判を浴びても仕方ない。戦友を疑いたくない気持ちは確かに胸の中にある)」
ただ、私がこの人たちを除いたのは別に身内びいきからではない。
アグネス「思い出して下さい。あのテロの際、デュランダル議長はミネルバに乗艦中でした。初動で指揮を執っていたのはデュランダル議長以外の11名の最高評議会議員、別けてもシュライバー国防委員長以下国防委員会の皆さま。
当時の議事録によれば、最高評議会は、その場でミネルバの議長に連絡を入れ、ユニウスセブンが地球に向かっているのかの調査を開始し、回避の手立ての検討、地球への警告の是非も直ぐに議論なされています。ザフトが誇る精鋭、ジュール隊にメテオブレーカーを持たせ先行させたのも国防委員会の指示のはず。彼らはユニウスセブン落下阻止に全力を尽くしていました」 - 14二次元好きの匿名さん25/03/03(月) 01:59:58
ジュセック「そう言えば…。確かに。しかし、それも演技だった可能性は?」
当時を思い返しながら、ジュセック評議員は最もな質問をする。
アグネス「(カメラに撮られているのにこの方も随分攻めるわね…。それともこれは同僚への確かな信頼の裏返しかな。『彼らがそんな事をする筈が無い』と私に言ってほしいのか)」
そうだとしたら、何度でも言ってあげよう。私が白だと確信している理由を!
アグネス「それならば先行部隊にジュール隊を選抜しません。選抜しても歯抜けにします。しかし、実際は逆、ファントムペインが偶々テロ現場に来ていたのが不幸であり、もしそれがなければジュール隊は独力でテロリストを返り討ちにしてユニウスセブンを砕き終わったかも知れません。
ジン・ハイマニューバ2型の流失はどう言い繕っても国防委員会の失態、そこまでの政治リスクを犯しながら、行う演技としては手が込み過ぎています。普通は完璧を期すかと」
本当になぜ、ファントムペインがあのタイミングで機体の強奪テロを仕掛けたのか。あれさえも仕掛けがあったのか?いや、よせ話が逸れる。
アグネス「それと、ザフト軍は議長の方針もあったとは言え、被災国の支援活動にも熱心でした。当然これも国防委員会の管轄の下行われたこと。国防委員にナチュラル殲滅ないし、戦争再開を狙った者が居れば、議事妨害やサボタージュの一つもする筈ですが、そんな振舞いをした方はいません。無論、テロと連動しての地上侵攻の計画や況やクーデターの予兆など皆無。故に関与なしと内心で結論しています」
私の話にジュセック評議員は目線をやや下に向けて頷いている。両肩の力が安堵で少し抜けたように見えるのは気のせいではないだろう。
ジュセック「他は?」
アグネス「ルイーズ・ライトナー最高評議員、アリー・カシム最高評議員、オーソン・ホワイト最高評議員は『白』と考えています。これらの方たちは前大戦でザラ派とも接点があり、下野した方々ほどでは無いししろ、監視の目が合ったはず」
ここまで話し終わるとジュセック評議員は軽く右手を上げる。ここまで、と言うサインだ。お互いのためにも。 - 15二次元好きの匿名さん25/03/03(月) 02:11:04
コン、コン、コン…。
丁度そのタイミングで扉が外からノックされる。控えめで女性的な音だが、補佐官や秘書がしたものにしては重みがある。グラディス提督が到着されたのね。
ジュセック「良く分かった。ありがとう。参考にさせてもらうよ。アスラン君、ホーク嬢もお疲れだったね。この件は私達の方でも調べてもみる。今日はここまでとしよう」
彼が今日のヒアリング終了を宣言し立ち上がったので、私達も返事とともに敬礼する。
アスラン、アグネス、メイリン「はい」 バッ!
彼も丁寧に私達に返礼しつつ、思いやり深い眼差しで私たち3人に語り掛ける。
ジュセック「どうやら、我々は君たちに大変な思いをさせていたようだ。誠に済まない。君達が、後ろの事を心配せずに職務に邁進できるよう、我々も使命を果たそう。今日は帰って休みたまえ」
アスラン、アグネス、メイリン「ありがとうございます!」
ジュセック「うん」
軽く私達に目礼した後、ジュセック評議員は小会議室の扉を開ける。予想通りそこにはグラディス提督が待っていた。彼女は部屋から出てきたジュセック評議員に敬礼しつつ、中の私達に軽くアイサインを送る。
ビックっと一瞬目を閉じてしまう。私は今日一日でグラディス提督に重すぎる政治リスクを背負わせてしまった。どんな目で見られているのだろう…。
恐る恐る瞼を開けると、彼女の労わるような優しい眼差しが私に注いでいることに気が付く。アスランとメイリンにも順にその視線を向けていらっしゃる。
よく頑張ったわね、そう言ってくれている。
勝手に自爆したも同然だったのに…。私が『上』に行ける日はまだまだ遠いようだ。三人で廊下を早歩きで進み去るお二人をお見送りし、秘書官に連れられ1階のロビーに降りる。グラディス提督とは帰りが別になってしまったわ。仕方ない。
それにしても―本当に疲れた―やっと肩の力が抜ける。あ~あ、終わったわ。先の事?分からないわ! - 16二次元好きの匿名さん25/03/03(月) 10:41:27
保守
- 17二次元好きの匿名さん25/03/03(月) 16:11:06
よく頑張っただけど議長がまたアコードを使って卓袱台返ししたらご破算
- 18二次元好きの匿名さん25/03/03(月) 18:02:45
- 19二次元好きの匿名さん25/03/03(月) 21:39:22
シュラが潜入していたり、イングリッドがプラントに特使として来ていたらヤバいかも
- 20二次元好きの匿名さん25/03/04(火) 01:40:43
波乱のヒアリングを何とか乗り切り、私たち3人はやっとのことで迎えのリムジンに乗る。来た時と同じく運転手はミネルバクルーだ。
運転手(ミネルバクルー)「グラディス提督は?」
アグネス「ジュセック最高評議会議員と緊急の要件が入りました。今後の動向は、私も読めません。運転手さんはどのように命じられていますか?」
運転手(ミネルバクルー)「自分は提督から、3人を送るようにと命令を受けています。ではお早く」
アグネス「では、お願いします」、アスラン、メイリン「お願いします」
アスランと運転手さんのお手並みで車椅子ごと素早く乗車し、足早にホテルを発つ。グラディス提督はまだ協議中だから、この運転手は再往復する必要がある。グラディス提督の動向によっては往復ではない可能性もあるが…。
アスラン「この後どうなると思う?」
開口一番切り出すアスラン、恐れ入る。ずっと地蔵顔だったのに相変わらず内弁慶だこと。とは言え、話せるとき、話せる場所で言葉を交わす努力は大切だわ。訂正、内弁慶大いに結構。幸い、行きと同じリムジンで運転しているのはミネルバの仲間、運転席と客席は区切られ、防音対策はばっちりしてある。
アグネス「最高評議会が『この後』どうなるのかと言う意味ならば―。ジュセック最高評議会議員ご本人が口になされた通り、今夜中に彼は議会工作に着手するはずです。ナスカ級でアプリリウスに向かう道中で、若しくは既にホテル内から。彼自身が『白』判定を下した最高評議会議員や有力者達を叩き起こし、席に着かせていることでしょう」
私の発言を聞いたアスランは、隣で少し曖昧な表情を浮かべながら頷く。
アスラン「『最高評議会内でコンセンサスを得る必要がある』と仰っていたからな…。『白』判定の議員・有力者とは、君が名を挙げた人たちか?」
アグネス「それは判りかねます。ただ、私の感触として、言及した方々については同じ見解に達したように思います」
つまり、ジュセック評議員ご自身以外の11人の最高評議会議員(腹黒議長含む)の内、7名とまずコンタクトを取ろうと図るはず。
自分の発言を思い出す。留任組の3人、ルイーズ・ライトナー最高評議員、アリー・カシム最高評議員、オーソン・ホワイト最高評議員は程度の差こそあれ、旧ザラ派とも縁があり、それゆえ逆に白と推測できる。 - 21二次元好きの匿名さん25/03/04(火) 01:50:19
今一頼りがない国防委員会の四名。タカオ・シュライバー国防委員長、エドアルド・リー国防委員、アラン・クラーゼク国防委員、リカルド・オルフ国防委委員、この人たちもテロ事件前後の言動から見て『白』だろう。
アグネス「おそらく、ここまではジュセック評議員も納得なされていたように思います。何しろ、彼らには―ジュセック最高評議会議員を含め、動機も得もありません」
アスラン「そうだな。いや―政権強化にテロを見過ごした可能性は?」
遂にそこに言及してしまうか。向かい側に座るメイリンは彼女にしては珍しく脅えた表情を浮かべている。何だかんだと言っても私達、17、16の小娘だもの、仕方ない。
アグネス「(でも、仕方ないで済まないわね。私達は多くを知り多くを成してきた。第一、プラントの成人年齢は15歳、その歳でニコル先輩は散華しなされたのだから!)」
それはそうと、もうはっきりしなければいけないタイミングだ。話してしまおう。
アグネス「そう仮定しても、これ等の人々にはリスクに見合ったリターンはありません。国防委員会にはテロなど起こさずとも国軍たるザフトがバックに控えています。ジュセック評議員含め留任組の皆さまは祖国独立の父母。すでに大業を達成され、各自の専門分野で素晴らしい成果を上げ、国民の信も厚い。テロまで起こして強化する権力などないのです。もう持っているのですから」
そう断言すると、アスランは少し緩慢に私の方に顔を向け、リムジン内を目線でぐるりと撫でまわす。彼のその動作に対し、メイリンは黙って頷く。
彼もそこでようやく決心したらしく、遂に重い口を開く。
アスラン「やはり、君は議長が協力者だと?」
アグネス「はい。もし、『協力者が実在するなら』デュランダル議長であると確信しています。ジュセック評議員も察しているのでしょう。だから、月軌道艦隊からナスカ級を借り上げられた。戦闘艦であると共にミネルバを除けば最速の船です」
『テロリストの協力者はデュランダル議長』そう断言したのは―但し書き付きだが―初めてかも知れない。私自身怖かったのだ。一度口にすれば戻れない気がしていた。
もしかしたら、この言葉をメイリンには聞かせるべきではなかったか?彼女を共犯者にしてしまう! - 22二次元好きの匿名さん25/03/04(火) 02:04:11
メイリンも聞いたのでこれはいよいよ
- 23二次元好きの匿名さん25/03/04(火) 02:09:08
そんな心配が、ふと心の中から湧き上がり、思わず彼女のクリクリした目を見てしまう。すると彼女は強い眼差しで私に答えてくれる。『私は大丈夫ですから』と。
一方、お隣の内弁慶さんは―。
アスラン「そうか…。カガリには悪いことをしたな」
相変わらず、ピンボケした発言をするものだから、悲壮な決意も台無しだわ。おかげでメンタル復活よ!
アグネス「現実は推理小説ではありません。ただ、その手法は応用可能です。即ち、ユニウスセブン落下テロでいったい誰が一番得をしたのか?無論、地上国家ではありません」
アスラン「そうだな…。だが、ロゴスは?彼らは復興特需を見込んでいたのでは?」
確かに、巨大な災害後にある種の好景気が到来することはある。災害の痛手を逆手に社会インフラや政治改革を成した例もある。破壊は創造の母、とね。
アグネス「(何が母だか…。産みの苦しみを語れるのは母親のみの特権よ。被災地に立つ母親がこの言葉を口にしていたら、平伏してしまうかもしれないけれど)」
まあ、なんにせよ。
アグネス「その特需のために自分たちの資産・不動産まで吹き飛ばすでしょうか?復興特需、災害によるスクラップ&ビルドは飽くまで次善の策。事態を奇貨としてのものに過ぎないでしょう。それはブルーコスモスも同じこと。彼らにすれば『青き清浄なる世界』が無茶苦茶となって大損です。落下テロ以降の反コーディネイター運動も『どうせならこの機会に…』と言ったところ」
そうなるとやはりプラント側で得をしたのは誰か、と言う事になる。既に弾かれた者以外で考えるならば―。
アスラン「そうなるとデュランダル議長以外思い当たらないな…。ユニウスセブン落下テロによって生じた国内外の危機の中、彼は逆に名声を高め、権力基盤を盤石なものにした。国家の危機の際、指導者は求心力を得るものだ…。歴史の通りだな」
結局、何度考えてもこの結論になってしまうのだ。自国の国家元首が世界を砕いた等と思いたくない気持ちは私にもある。でも、仕方ない。言おう!
アグネス「はい。彼にとって見れば、ユニウスセブン落下テロはどちらに転んでも得しかありません。別に失敗しても良かったのです」 - 24二次元好きの匿名さん25/03/04(火) 02:29:31
そう、彼は仮にテロが失敗に終わったとしても十分なリターンがあった。
アグネス「...どこまでが計画だったのか、それは判然とはしませんが。テロ決行時、彼はミネルバに搭乗中でした。忠勇なるザフト軍人達と共に宙を駆けテロと立ち向かった勇気ある指導者、という成果は残ります。もし、テロが成功すれば、それを防げなかったプラントは国内外で政治的危機に陥ります。しかしながら犯人はザラ派、クライン派の流れを汲む彼の政治的ダメージは相対的に少ない」
あいつだけ得してプラントは大損だわ。地球は云うに及ばず。
アグネス「その後の大戦についても―。議長は地球連合側から開戦することを望み備えていたのでしょうが…、回避されても別に良かった。ユニウスセブン落下テロ後の支援政策だけで『聖人デュランダル』の宣伝は達成可能でした。一報、開戦はプラントに取って大きな痛手です。地球との貿易だけではない。もう少しで絶滅戦争の敗者になるところでした。なので一周回ってプラント側の軍産複合体の線もない。限りあるニュートロンスタンピーダー、その存在を知り、大博打で果実を得られた者は誰でしょう?」
そう問いかけると、アスランは納得するがメイリンから指摘が入る。
メイリン「待ってください。確かにユニウスセブン落下テロで―クライン派の流れを汲むデュランダル議長の派閥-は得をしました。でも、それは議長本人じゃなくても、例えば議長に比較的近い最高評議会議員。ノイ・カザエフスキー最高評議会議員やクリスタ・オーブルク最高評議員でも…。うーん…」
アグネス「話ながら、『無いわ~』って顔しないでよ。メイリン!」
メイリンは、二人の若い女性評議員の線の細い顔を思い浮かべ、あり得ないことを再確認している。勿論、私達は教育として、人は見掛けに寄らないし、人間は多面的な生き物、そう心得てはいる。とは言え、どう見ても、あの二人があの惨事を招いたテロの協力者になるとは―。
アグネス「...直接お会いしての感想だけれど、カザエフスキー評議員は素直な善い人って感じだわ。うん、やっぱり無いわね。あんな悪事にかかわっていたら、きっとあの人心を病んでしまうわ」
ブリュッセルで一緒に彼女と会ったアスランもこの見解に同意する。 - 25二次元好きの匿名さん25/03/04(火) 02:50:09
アスラン「そうだな。それに文官系の1年生議員である彼女達にジン・ハイマニューバ2型の横流しは無理だ。武官の国防委員会を飛び越えて事を運ぶには、立場がもう一段上でないといけない」
メイリン「つまり、お二人も白。議長の表の顔を信じて【片腕】になった気でいるだけなんですね」
そこまで聞いたメイリンが少し辛辣なまとめをする。まあ、少し可哀想だけれど、仕方ない。お二人は人を見る目が無かったことを反省して、これからの人生をアスファルトに咲く花のように頑張って生きてほしい。
ちょっとグラディス提督の事も心配のなって来たわ。上手く立ち回らないと!
アグネス「アスラン先輩の最初の問いに戻ります。今私達が考えたことと同じことをジュセック評議員もグラディス提督もお察しされている。通信で他の最高評議会議員7人の同意が確認されたなら、あとはアプリリウスに乗り込み…」
メイリン「乗り込み?」
メイリンは続きを促すが、私は言葉に詰まってしまう。乗り込んでどうする?仮に8人の最高評議会議員でコンセンサスを得られたとしても。
アグネス「(これまでの話はあくまで推測、憶測の域を出ない。今の話を基に現職の議長を拘束するとか弾劾するのは法律上無理だ。第一、軍も民衆も付いて来ないわ)」
何より、こちらには内外に示せる大義がない。そもそも『ユニウスセブン落下テロにプラント側の協力者がいた』こと自体を秘密裏に処理しないといけないのに。事情を話したら国際的に自爆する。
アスラン「ならどうする?」
メイリン「尻尾を出すまで泳がせる、とか?」
何を言っているの。もう、こっちは賽を投げてルビコン川を渡ってしまったのよ。ローマに進軍する以外道はないじゃない。
アグネス「例えば、まずジュセック評議員達で最高評議会の開催を発議し、会議を緊急で開かせる。その会議でコンセンサスを得た議員の数を生かして、最高評議会内に『ユニウスセブン落下テロ真相究明のための特別秘密委員会』を設置させる。
特別秘密委員会のメンバーは席次上のルイーズ・ライトナ―最高評議会議員、それから立法委員長のアリー・カシム最高評議会議員と司法委員のパーネル・ジュセック最高評議会議員は必ず。必要とあれば、60人議会や民間から特任委員を加えても良い」 - 26二次元好きの匿名さん25/03/04(火) 04:03:49
取り合えず、頭に浮かんだアイデアをつらつら述べてみる。
メイリン「特別秘密委員会。秘密と…。隠せるんですか?」
アグネス「いいえ。情報公開は自由民主主義の基礎。でも、今は無理よ。特定秘密として、50年後に公開とか?」
アスラン「それで真相究明特別秘密委員会を設置して、どうする?」
勿論、この委員会に議長権限を接収する。
アグネス「真相究明特別秘密委員会、委員長に最高評議会議長の権限を『調査期間中は』一時的に委任させてはいかがでしょう。この委員会の委員長を実質的な最高評議会議長代行にしてしまうのです。一応、表向きデュランダル議長は、任期切れまで議長のまま。どうでしょうか?」
一息にプレゼンテーションして見るが、アスランの反応は芳しくない。
アスラン「どうかと俺に聞かれても。そもそも証拠が…。ああ、証拠収集には権限のある委員会を設置するべきなのか、本来は」
考えが一周回ってアスランは納得する。やはり、この人は物事が道理に合うかをかなり重視する。搦手を使うのが嫌だし、使われるのも嫌なのだ。
アグネス「(でも、それで正解なのかもしれない。結局、正論、正道、王道が一番強い。屁理屈、邪道、覇道は弱い。そこは一線弁えておくべきだろう)」
そして、腹黒議長が後者であることは明らかなのだ。私たち自身が相手の特異なフィールドに降りても良いことは何もない。筋道を立てて動かなければ。
メイリン「特別究明委員会は置いて。そもそも議長は再調査要求を呑むでしょうか?」
アスラン「それは...」
アグネス「すんなり飲む筈が無い。圧力を掛けないと。しかも秘密裏に、うーん。お腹にもう一度穴が開きそうだわ」
比喩ではない。本当に脂汗が出てきた。馬鹿者ども!こっちは重傷者なんだぞ!
アスラン「おい…。大丈夫か?」
アグネス「ミネラルウォーターを…。鎮痛剤飲みます」
アスラン「ああ…。これ」、メイリン「もう少しで着きますよ」
アスランが差し出してくれたペットボトルを受け取り、鎮痛剤を一錠飲みこむ。ああ、傷ついた体に染みわたるわ。中毒にならないようにしよう。 - 27二次元好きの匿名さん25/03/04(火) 12:55:42
アグネス序盤で色々言ってたけど、君絶対ターミナルに向いてるよ。
きみ良い頭してるね。
ターミナルに入らないかい? - 28二次元好きの匿名さん25/03/04(火) 19:51:05
アグネスの胃にまた?穴が空きそう
- 29二次元好きの匿名さん25/03/04(火) 21:47:29
仕方がないこととは言え政治パートになるとシンが空気と化す…
この辺りのセンスが皆無だから仕方がないがシンもその辺りのセンスがあればアグネスの負担が減るんだけど - 30二次元好きの匿名さん25/03/05(水) 00:04:43
短い割には濃密な時を駆け抜け、私達を乗せたリムジンはミネルバを囲むドックの出入り口に到着する。我が家に帰ってきたと安心したのも束の間、現場が騒然とした空気に包まれていることに嫌でも気が付く。
アスラン「何があった?」
アグネス「ともかく降りましょう。車椅子をお願いします」
アスラン「ああ…」
運転手が車椅子を先に降ろし、そこにアスランにお姫様抱っこされた私がちょこんと降ろされる。今日、何度目かのこの動作、もっと、ドキドキするものと思っていたわ。
アグネス「(何考えているのだか…。アホらしい)」
しかし、この騒ぎはいったい何なのか。おそらくジュセック評議員とグラディス提督の協議と連動してのもののはずだが…。
メイリン「これはもしやですね」
アスラン「…」
無言で俯きかけるアスランの首をアーモリーワン中に鳴り響く非常警報が縫い留める。この大警報を聞くのも、あの日以来か。
アーモリーワン管制員「システムコントロール、全要員に伝達。月軌道艦隊旗艦ミネルバ並びにナスカ級3隻の緊急発進シークエンス進行中。ローラシア級3隻はコンディションイエローで待機。月軌道艦隊、全乗組員、パイロットは速やかに乗船せよ。物資積み込み作業は30分後には完了を期せよ」
あの日の喧騒と惨劇が脳内にフラッシュバックする。もう、あの頃の様なメンタルではいられない。この警報が示す意味を少なくとも私たち3人は概ねつかんでいる。
アスラン「月軌道艦隊でアプリリウスを攻めるのか?」
呆然自失と言った面持ちのアスランが呟き、それは奇しくも私の震える内心そのものでもある。落ち着け、私まで脅えたらこの場は総崩れになる。 - 31二次元好きの匿名さん25/03/05(水) 00:15:54
アスランを一旦宥めよう。臆病な自分の心と共に。
同軍合い討つことなど誰も望まない。いわんや国民同士で殺し合いなど!
アグネス「暗に圧力を掛けるのみかと。そもそもミネルバ自体修理中です」
アスラン「いや…。そうだとしても出港すると言う事は…」
当然、戦闘も覚悟の上だろう。仕方ない。『誰も望まない』戦いを何とも思わずやりかねない人物を私は少なくとも2名知っている。亡くなったものも含めれば3人になるかな。ただ、その歪んだ考えにこちらが応じる義理はない。
アグネス「首都へは理由をつけて向かうはず。観艦式とか凱旋パレードとか」
そう話すと同時にメイリンに目で合図し、車椅子を押し始めてもらう。ここで突っ立ていて状況が好転するわけでもない。ドック内の通路を抜けて、連絡橋を駆け抜けよう。
メイリン「じゃあ行きますよ。制限速度いっぱいで!」
アグネス「頼んだわ!」、アスラン「あ…ああ」
勢い込んでドック内に車椅子で突進する私達、それを見とがめた保安要員(月軌道艦隊)が見とがめて叫ぶ。
保安要員(月軌道艦隊)「気をつけろ!怪我人が乗っているのだろう!?」
アグネス「私が頼みました!申し訳ありません」
保安要員(月軌道艦隊)「はい。失礼しました!」
ふむ。こんな事態でもFAITH徽章と名誉勲章は効果てきめんね。でも、これでは彼らが可哀想だわ。
アグネス「30分あると言っているから、少しだけゆっくりにしようか?」
メイリン「そうですね」
車椅子のを大幅に下げつつ、ドッグ内を私達は駆けて行く。途中からは運悪くオンに当たってしまったアビーの放送も耳に届く。
アビー「コンディションイエロー発令、コンディションイエロー発令。乗組員は速やかに乗艦を開始せよ。整備班はミネルバ発進準備最終調整を急がれたし。繰り返す…」 - 32二次元好きの匿名さん25/03/05(水) 00:31:57
出せるのか?ミネルバ
- 33二次元好きの匿名さん25/03/05(水) 00:32:57
連絡橋の眼下ではモビルスーツ積み込み作業も急ピッチで進む。
インパルス、ガイアとバクゥハウンド3機、アビスとアッシュ3機、AWACSディン2機、ジン長距離強行偵察複座型2機、ガズウート6期、グフ2機、ザク3機の計24機が次々と搬入されていく。
アグネス「(宙の偵察機にプラント内の『空』の偵察機、市街地戦に投入できるガイアとバクゥハウンド、アビスとアッシュはプラントの『海』の制圧、残りは状況に合わせてと言ったところか。76mm重突撃機銃が多めに搬入されているのは、ザク・グフに持たせることも考えてのもの)」
無論、非殺傷兵器が本命だろう。カーゴに乗り込んでいるトラックのコンテナの中身はおそらく催涙弾。大型の催涙弾はM68キャットゥス 500mm無反動砲で撃つのか。
アスラン「これで観艦式…。しかも修理中の艦で―」
アグネス「歴史上、観艦式には陸戦隊も参加することが有ります。修理中に諸事情が重なり式典に臨んだ艦もきっと存在したことでしょう。前例を探せばきっと」
そんな前例探してどうするという話だが…。そもそも出港準備と言われただけ。上でどんな話し合いが有ったのか、私達は知らない。アプリリウスには家族、親族が…。まさか首都決戦などと言う事態になれば―。
狼狽えるな。焦った者、決断できなかった者、怖気づいたものから落ちて行く。私は決断できたのだから、焦るな、怖気づくな!
連絡橋を渡り終え、いよいよミネルバハッチを車輪が跨ごうとする最中、後ろから10人ほどの足音が爆速で迫る。
アグネス、メイリン「ええ…」、アスラン「うぅ…」
傷に触らぬよう気をつけて振り向くと、足音の主はグラディス提督とジュセック評議員、その補佐官達と秘書官、護衛に保安兵!
アスラン「?!」、メイリン「!!」、アグネス「もうか...」
まったく、とんだディナーにヒアリングだわ。私・シン・ハイネ先輩の短期集中治療は何処に吹き飛んだのやら。
タリア「敬礼はいい。早く乗りなさい!」
ジュセック「急ぎなさい。3人はそのまま士官室へ。ギーベンラート嬢、業務用デバイスのチャンネルに5分後、国防委員会から連絡があると言付かっている!」
アグネス、アスラン、メイリン「はい!」
彼ら彼女らの裂帛の気勢を見るに―。ルビコン川を渡ってしまったのは私だけではなかったのだろう・ - 34二次元好きの匿名さん25/03/05(水) 08:52:18
急展開すぎる…何があったよ
- 35二次元好きの匿名さん25/03/05(水) 10:10:50
本国で何が起きた!? まさかジャガンナートが2年早いクーデター起こして首都占拠でデュランダルを名目上の傀儡国家元首(実権はギルが握ったまま)にして新政権発足宣言したか!?
- 36二次元好きの匿名さん25/03/05(水) 12:36:28
読者はアスランしている!
違った
読者も混乱している! - 37二次元好きの匿名さん25/03/05(水) 18:38:13
ローエングリンゲート攻略辺りからずっとジェットコースター展開が止まってくれねぇ…
- 38二次元好きの匿名さん25/03/06(木) 00:33:12
グラディス提督やジュセック評議員達と団子になりながら、私達はミネルバに転がり込む。
息を切らせて乗艦した私達に、出迎えのクルーは皆、姿勢を正して敬礼してくれる。けれども、その指先の震えは彼らの内心を如実に示している。
グラディス提督は、その様子を察して一瞬申し訳なさそうな表情を浮かべる。でも、彼女はその心を押し殺して、ジュセック評議員と共に士官室に急ごうとする。
アグネス「お待ちください!」
タリア「え…」、ジュセック「うん?どうした」
足早にクルーたちから遠ざかりかける二人を呼び止める。メイリンもその瞬間に空気を読んで車椅子を止めてくれる。
ジュセック評議員に目線を上げて訴える。
アグネス「ジュセック最高評議会議員閣下、まずは味方に大義をお示しください。我らはこれまでも機密を守り、かつ宙と空と海と大地を転戦、今日まで駆けてきました。ザフト全軍の先駆けになって。潜った修羅場は前大戦時の古参兵と比べても見劣りするものではありません」
機密保持に拘って味方の人心を失っては意味がない。全軍に通知しろと言っているのではない。ただ、月軌道艦隊、別けてもミネルバにはマイルドにした上でもこの作戦の意図を明かしておくべきだ
ジュセック「それは…。分かっているが…」
タリア「アグネス、口を慎みなさい!貴女の出る幕ではないわ」
私を鬼の形相で睨みつけ、グラディス提督は分を過ぎた振舞いをぺシャリと跳ねのける。こうなるともう逆らえない。その場の者たちが戸惑う中、私は身を小さくする。
ジュセック「いや…。彼女の言うことも…。提督ここは―」
人の好いジュセック評議員は私の弁護に掛かるが、これはしめたもの。微かに振った私の視線をグラディス提督はキャッチし応えて下さる。
タリア「ジュセック最高評議員、同輩が失礼しました。ですが、この艦を預かる者として、特務隊長として私も彼女と意を同じくします。本官は、この艦で死命を共にする者の中に、秘密の重みに耐えられぬ弱兵を見かけたことはありません。願わくば共にブリッジにいらして下さい」 - 39二次元好きの匿名さん25/03/06(木) 00:43:40
パーフェクトな振舞いと言えるのではないか、これは!
私を突き放した上でこれを言えたのだから、もうタリア・グラディスは『議長の愛人』ではない。本当の意味で私達の上官だわ!
グラディス提督の求めにジュセック評議員は一瞬逡巡するが、直ぐに決断を下す。提督と共にブリッジに赴き、ミネルバの皆に事の仔細を打ち明けると。
ジュセック「…分かった。アスラン君、ギーベンラート嬢、ホーク嬢、我々は一度、ブリッジで皆に呼びかける。貴方達は先に士官室に、ああ、それと補佐官1名も。現状を彼らに説明してくれたまえ」
補佐官「はい!」
そう言うとジュセック評議員はグラディス提督と一緒にブリッジに向かって駆け出す。私達は別方向に、車椅子は制限速度を越える。
アグネス「補佐官殿、業務用デバイスを拾うため、少しだけ自室に寄ります。その間に説明を、メイリン、貴女のデバイスも少し貸してくれる?」
補佐官「はい。勿論」、メイリン「はい!」
競馬の実況中継なみの速さでお互いに話す。競泳の実況中継の方が近いのかな。
それと―メイリン、本当にありがとう。貴女のデバイスのキーボードを叩くのは…、とても怖い。でも、悪用しないと信じているからね!
アグネス「では補佐官殿お願いします。すれ違う者が居ても既にわれらは運命共同体。ジュセック閣下は覚悟をお決めになったご様子」
補佐官「確かに、では―」
4人で廊下をトコトコ進みながら、補佐官殿は早口で説明を開始する。
補佐官「ギーベンラート嬢、ジュセック最高評議会議員は貴女とお話しした後にグラディス提督と会談しました。お二人がお話しした内容に提督も同意し、アプリリウスの議員たちと連絡を取り合いました。ルイーズ・ライトナー最高評議会議員、タカオ・シュライバー国防委員長、アリー・カシム立法委員長、アラン・クラーゼク国防委員、エドアルド・リー国防委員、リカルド・オルフ国防委員、オーソン・ホワイト最高評議会議員の7名です」 - 40二次元好きの匿名さん25/03/06(木) 00:48:53
なるほど。そこまでは予想通りね。ホテルからアーモリーワンの通信設備を経由したのね。アーモリーワンは月軌道艦隊の母港、グラディス提督の力技が発動したわ。
補佐官「8名でお話しになった結果、『最高評議会を緊急かつ秘密会で開き、【ユニウスセブン落下テロの極秘再調査】の議決を目指すこと』に方針を決定しました。そこで、8名の中で席次が上のライトナ―最高評議会議員が最高評議会議長官邸のデュランダル議長のもとに電話連絡を行いました」
れ…連絡したのか?正面から?自分の足元を掬うことになる議題のために会議を開けと。それが法律とは言え―。
アグネス「それは…。あまりにも正道過ぎるのでは?結果は?」
補佐官「『今日は遅いから明日にして欲しい』と議長の筆頭秘書がお断りに…。数度掛けても。なので合議の上、議長と面会を求めて、ライトナ―最高評議会議員はご自身のお車で―」
内心焦り始めている私の横で顔を青ざめさせたアスランが思わず呻く。
アスラン「ライトナ―評議員ご自身が向かわれた!?何故、そんな馬鹿なことを!」
補佐官「ば…馬鹿…。ちょっと、特務隊とは言え…」
ちょっとアスラン、頼むから黙っていて…。でも一応フォローを…。
アグネス「ライトナ―最高評議会議員閣下は彼の亡き母君のご親友です…。アスラン先輩、お気持ちは重々…。でもご辛抱を」
アスラン「あ…。済まない…」
吃驚させないでほしい。そんなことしている内に、もう私の部屋が目前だわ。
アグネス「では…。まさか彼女は議長官邸で拘束!?」
補佐官「いえ、発車直後にジュール隊長から緊急で、ライトナ―最高評議員に直接ご連絡があり、引き返されました。ジュール隊長からは『議長からジュール隊に直接、出動準備命令が出ました。国防委員会、軍本部を越えて…。何事か起こったのですか?』と」
私の車椅子を押すメイリンの手がビックっと震える。これこそ恐れていた事態、危うい!ジュール隊は恐らく今、ザフト軍事ステーション内に居るはず。あの基地はプラント本国の要、イザーク先輩が何も考えずに駒となっていたら、トロイの木馬を使うまでもなく陥落しているところだったわ。 - 41二次元好きの匿名さん25/03/06(木) 01:00:33
メイリン「でも、どうして?」
後ろから確認するように尋ねる彼女の声、二重の意味で疑問なのだろう。頭の良い彼女の事だからすぐに理解できるはず。でも、時間を短縮しよう。
アグネス「まず、『どうして議長がジュール隊長を当てにしたのか?』については簡単よ。ユニウス条約締結後に最高評議会議員を辞職したイザーク先輩は戦争犯罪を償うべく自首。結果、死刑判決を受けるも議長が恩赦。先輩ご自身、相当な恩義を感じていらしたわ。レクイエム戦後は更にFAITHにも任命。議長としては完全に自分の手駒のつもりだったのでしょう」
続きを話す前に私達の部屋に到着してしまう。鍵を開け室中に進む彼女の背中に向け、残りの言葉を投げかける。
アグネス「では、『どうしてジュール隊長がライトナ―評議員に【密告】したのか?』イザーク先輩ご自身が以前から、ご自分の恩義とは別に議長を訝しんでいらしたことに加え…。ライトナ―評議員はイザーク先輩の最高評議会議員時代のご同僚、しかも同じ文官系議員同士。さらに彼女は経歴上、穏健派(クライン派)、強硬派(ザラ派)双方に顔が効く。議長命令に不信があれば、まずは彼女に、と言う事じゃないかしら?」
そう言えば、シュライバー国防長官にも知らせてあるだろうか?分からない…エアーマン過ぎて忘れられているかも。まあ、ライトナ―評議員経由に伝わっているか。
メイリン「なるほど!分かりました。それとデバイス、アグネスさんと私の分、持って行きますね」
アグネス「お願いね」
私が室内に目を向けている間、車輪の隣ではアスランが胸をなでおろしながら補佐官殿に話しかけている。
アスラン「では、ジュール隊は動かない。ザフト軍事ステーションは無事だと…」
補佐官「いえ…。ジュール隊長は『命令は命令』と出動準備は整えています。『手続き違反の疑いある命令ではありますが、戦争犯罪を命じられたわけではありません。ただ、どうかご用心を』とのこと」
アスラン「そんな…」
まあ、そうなるわよね。待てよ!この手続き違反を上手く使えば…。無理だわ。これだけは弾劾理由にならない。
アグネス「(でも逆を言えば、戦争犯罪に当たる命令を議長が出した瞬間、ジュール隊は止まる。問題は―議長が声を掛けたのがジュール隊のみとは限らないこと!)」 - 42二次元好きの匿名さん25/03/06(木) 01:11:13
そこで、部屋からビジネスリュックを背負ったメイリンが飛び出て、敬礼。よろしい。私も敬礼で返す。アスランはきょとんとしているが、急場でこそ平常心を。落ち着け、私。
そう言えば―アスランも自分のデバイスを取ってくるべきだが…。時間がない。あとで指摘しよう。私達の部屋から車椅子は再出発、すぐに制限速度を超過する。
アグネス「ジュール隊長の英断に感謝を。それでアプリリウス組の次の一手は?」
そのまま放っておけば、イザーク先輩に追加の命令が下り、やはり軍事ステーションは議長側の手に墜ちるかもしれない。そして、別動隊がアプリリウスに到着する―あるいはステーションを掌握したジュール隊に首都制圧を任せるつもりなのか?首都警察、首都防衛隊の動向は?
アグネス「(ここでゴチャゴチャ考えていても仕方ない。まずは報告を聞け)」
補佐官「次の手は…。アリー・カシム立法委員長が60人議会を緊急招集しています。最高評議会の立法委員長は60人議会の議長を兼ねますから。最高評議会が開けず、議長の行動が不審なら、60人議会で『ユニウスセブン落下テロの極秘再調査の開始』と『ザフト軍動員時の国防委員会及び軍内部手続きの遵守』と『最高評議会、会合の即時開催要求』を議決することに。カシム最高評議会議員を中心に議会の定足数と秘密会の決定に必要な議員を搔き集めています。無論叶うなら、60人全員の出席を。連絡がつかない議員には片端から電話…」
ここで60人議会開催、ちょっと待った!事は一刻を争うのにまずは会議…。国家運営はそう言うものとは言え―間に合うのか?デュランダル派の議事妨害が起きたらどうする?
アグネス「60人議会を開く?親議長派も多いのに!その方針は果たしてどうなのですか?!」
補佐官「カシム議長が60人議会議員の招集をなさっている間に、ライトナ―最高評議会議員とホワイト最高評議会議員がそれぞれカナーバ前議長とミセス・ジュールにご連絡を。ホワイト評議員は元ザラ派ですから。幸いにもお二方は応じて下さり、各議員の御説得に当たっています。アプリリウスの通信は今、ブリッジに向かっているジュセック司法委員の権限で警察が抑えてあります。各プラント間の通信は保たれています」
今、最も聞きたくない名前が出たわ!
アグネス「(カナーバ…!。今回の事態の9割はあの女の責任なのに…)ゴホン!ゴホン!」 - 43二次元好きの匿名さん25/03/06(木) 01:30:08
つい、うっかり本音が出そうになってしまった。危ない、危ない。さて、まとめよう。
アグネス「理解しました。つまり我々は全速力で首都に一番乗りして、『勝負あった!』を天下に示さないといけない。もしかしたらジュール隊以外にも議長が手駒と見なしている武装勢力が存在するかもしれない。それらの戦力を議長が呼び寄せる前に。あるいは呼び寄せるかもしれないというブラフをつぶすために。
精強な部隊が首都の外側に接近すれば首都防衛隊や首都警察が万一寝返っても、抑えられます。だから、ミネルバと月軌道艦隊ナスカ級3隻と言う戦力が少しでも早くアプリリウスに到達している必要があると」
補佐官「そうです!」
必死で話している間に士官室に到着、時計を確認。驚くべきことにと言うべきか、除節句評議員から5分後と言われて5分まだ立っていない。所謂、『政変』を描いた映画やドキュメンタリーは、しつこいぐらいに『〇時〇〇分』のテロップが出るが、その意味を体感することになるとは…。
アグネス「(歴史の流れとはかくも早いものなのか…。大河の流れる方向も速さもうねりも小舟の中の者が知る由もない。誰にも心の準備をさせてなどくれないのね…)」
それにしても…。国防委員会4人組、本当に空気ね。我が上官ながら涙が出てきそうだわ。
一応彼らの弁護をするなら、本来ザフト軍の動員と作戦行動は、国防委員会の立案計画を最高評議会で議決する必要がある。それが開かれていない以上、動きようがないという面も確かにあるのだが…。しかもあの4人新人議員だし。
アグネス「(何だかなぁ…。ここで私に連絡してくれたところで、もう何がどうなるものでもあるまい。国防委員会の手足になってくれる直属部隊が特務隊である以上、仕方ないのだろうけれど…)」
正直、一番頑張ってもらわないといけないのは私達ではなく、マリクさんとマッド・エイブスだ。ミネルバはアーモリーワン到着以前も以後も続けた突貫作業によって装甲の大部分は修復済みとなっている。
しかし、タンホイザーまでは手が回っていない。カバーは元通りになっているから、こけおどしにはなるかも知れないが…。まあ、ともあれデバイスを開いて、シュライバー国防委員長のコールを待つとしよう。 - 44二次元好きの匿名さん25/03/06(木) 07:45:57
アスランたちの機体はどうするんだろ
現在地が軍事工廠のアーモリーワンだしFAITH権限で適当な機体でも貰っていく?そんな時間もないか - 45二次元好きの匿名さん25/03/06(木) 07:49:06
プラント政変(二年ぶり二回目)
- 46二次元好きの匿名さん25/03/06(木) 10:53:13
ここで首都を抑えてもメサイア要塞が完成済みだからあそこに立て籠もられてダイダロス基地のレクイエムも抑えられるとヤバイ…
- 47二次元好きの匿名さん25/03/06(木) 14:48:27
アニメ本編だと今辺りの議長ってエンジェルダウン達成!あとはヘブンズベースでロゴスと決戦や!って一番ノリにノッてる時期なんだけどな
明確にエンジェルダウンに失敗してAAを取り逃した上に、アスラン以外にも明確に議長に疑義を抱いてる身内が多数出現した結果がこの有り様か - 48二次元好きの匿名さん25/03/06(木) 14:53:11
議長はまぁこんなところで死なんだろうとして、ミーアも多分一緒にいるよなぁ⋯
- 49二次元好きの匿名さん25/03/06(木) 14:56:08
地球軍の勢力を削いでおいてほんと良かったとなる
- 50二次元好きの匿名さん25/03/06(木) 18:55:31
…あれエザリアが緊急議会招集に議員捕まえながらイザークと連絡取って2年早くシホがロックオンされる流れ?
- 51二次元好きの匿名さん25/03/06(木) 23:40:50
シホは今イザークと別行動(地上でパイロット養成中)だからまだエザリアさんの目には留まらんのでは?
- 52二次元好きの匿名さん25/03/07(金) 00:43:14
士官室のデスクに自分とメイリンのデバイスを広げる。ビデオ通話モードに設定するが、イヤホンも2つ用意しておく。必要なら追加で借りることも考えるが、まずはこれで進める。
士官室には私の他にアスランとメイリン、ジュセック評議員の補佐官の計4人。まだコールがかかる前にアスランに伝えておかなければいけないことが有る。
アグネス「アスラン先輩、今の内にご自分のデバイスを取りに行くべきかと」
アスラン「ああ…。そうだな」
軽くアイサインを交わすと、アスランは退出していく。今度はメイリンに頼みたいことが有る。
アグネス「メイリン、ブリッジに電話連絡を、副長あてに私から。ミネルバに補機として載せてあるレイのグフを下ろすのを止めたい。むしろ、特務隊特権で、もう1機押し込んでほしい。改ミネルバ級の限度24機を越えて26機になるけれど、グフは四肢を外せる。デススペースを造らなければ…何とかなるはず」
メイリン「分かりました。お伝えします」
メイリンが艦内電話に駆け寄っていくので、イヤホンをデバイスに突き刺し、耳に押し込む。
アグネス「(そう言えば、シンとハイネ先輩の体調も気掛かりだわ。二人とも負傷している。インパルスとアビスに乗れる状況では無いかも知れない…)」
その場合はアスランにインパルスに乗ってもらい、私がアビスで出るしかないか。ぶっつけ本番で。逆でも良いが―。
アグネス「(アビスのシミュレーター訓練の回数は私の方が多い。あくまで敵役としてだけれど…)」
インパルスに関しては、艦内で組み立てて、シルエットも装備させた状態で発進させればいい。シルエット換装も必要なら、一度、帰還して装着し、再発進するだけの事。
あの機体は、本体のドッキングとシルエット換装に必要なテクニックを省いてしまえば、存外、扱いやすい機体なのだ。
プルルルル!
秘匿回線のコールが鳴る。ワンコール目でキーを叩き、テレビ通話開始、画面の向こうには我らが国防委員会4人衆、勢ぞろい。同じ部屋に横一列椅子に座って会議モードだ。
ずいぶん余裕がある…。この方達は暇なのか?
ともあれ、敬礼!画面の向こうの4人も私に敬礼を返して下さる。随分、丁重な動作で。 - 53二次元好きの匿名さん25/03/07(金) 01:01:16
シュライバー「特務隊アグネス・ギーベンラート!君はザフトの恩人だ!我々の無実をよくぞ信じてくれた!軍の清廉潔白をよくぞ弁護してくれた…。この恩を我等も軍も国防委員会も決して忘れることはない!」
シュライバー国防委員長の私への激賞に隣に並ぶ3人も感極まった顔で頷いている。有難いお言葉だけれど…、今の局面でそんなことはどうでも良い!と言うか清廉潔白でもない!
アグネス「身に余るお言葉です。ただ、再発防止策を。特にモビルスーツ管理体制の強化…、ただそれは今夜を越えてからの事。アプリリウスの様子は如何ですか?」
シュライバー「平穏を保っている。概ねは…。ただ、議長官邸に議長警備隊が武装して集結している」
それはそうでしょうね。ただ、それを咎めることは出来ない。
アグネス「それ自体は違法ではないので止むを得ません。こちらの守備は?プラント最高評議会ビルと60人議会議事堂はどうなっていますか?」
これが一番気掛かりなことだ。
実は国防委員会が最高評議会の同意なしに直接動かせる実力部隊は案外少ない。国内のテロ発生や対外勢力による明白かつ現在の危機であれば別として―。それこそ、純粋に指示を出せる相手は特務隊ぐらいなのではないか。
アグネス「(そして、勿論、議長は『邪魔者』を排除するまで最高評議会を開催する気などないだろう。かと言って手続きを無視して、先に手を出せば、その瞬間にこちらが悪者になるわ)」
ちょうど今は双方が神経戦の真最中。議長もそのせいで、せいぜい自分の手駒に声を掛ける程度しか出来ていない。ジュール隊への対応も、あの程度ならいくらでも言い訳が可能な範囲なのだ。
しかし、何時かは均衡が崩れる。今から、受け身になるようでは負け組に成るだけ。我が上官達は現状をどう『解釈』して指令を出したか?
私の問いに対して、リカルド・オルフ国防委員が皆を代表して回答する。
リカルド「まず、最高評議会ビルについてだ。戦力の集中を図るため、60人議会の招集先は最高評議会ビル内の一室とした。こちらの主力は議会事務局警備部警備隊、総勢500名。全職員を宿舎から呼び出し、重武装で守備に就かせている」
ふむ。大体規模か。その道のプロの方達だから心強くはある。でも少し少ないわね。 - 54二次元好きの匿名さん25/03/07(金) 01:09:07
私の心配をリー国防委員も察して、新たな情報を付け加える。
リカルド「プラント最高評議会ビル内にはザフト情報省が同居している。省の長たる情報官を臨時の隊長とし、勤務する軍人と職員を全て武装させて警備隊に合流させている。他、最高評議会ビルと60人議会議事堂で雇用されている公務員は食堂勤務の臨時職員まで、全て再出勤させ、武装させてバリケードを守らせている。全員を合わせれば1200名ほど…。スパイチャックは実施した」
バリケード?食堂勤務の臨時職員?この人は何を言っているのか…。
アラン「カシム立法委員長の差配で、急遽動員された文民公務員は事務局警備部に部署替え、ないし臨時雇用された扱いになっている。皆、辞令を受け取って制服を着ているから国内法的に問題はない」
アグネス「…」
落ち着け、私。別に皆さんは間違ったことは何もしていらっしゃらない。まだ、今夜は始まったばかり。盛り返せる。まず、思いつく限りの事を指摘しなくては!
アグネス「首都防衛隊は…。彼らは国防委員会の命令に応じていないのですか?」
シュライバー「それとなく匂わせてはある。だが、今の時点での彼らの動員は出来れば避けたい。議長か議会かの2択を突き付けて、彼らを追い詰め、もし議長側に転ばれたら…。せめて60人議会の正式な議決が出るまで待ちたい」
待ちたい、は良いけれども…。ちょっと能天気すぎるのではないか。少し発破をかけなければ!仕方ない。一つカードを切ろう。
アグネス「議長側は議長警備隊の他に非公式の特殊部隊をアプリリウスに伏せている可能性があります。アッシュ等のモビルスーツも含まれるかもしれません」
リカルド「首都防衛隊とは別にか。アプリリウスの外から来るのではなく?」
オルフ国防委員は私の発言を聞いて目を見開く。シュライバー国防委員長は、クラーゼク国防委員、リー国防委員に確認を求めるように視線を向けるが、二人も戸惑いの表情を浮かべている。
やはり―知らないのね。良かったわ。
さて、ここが私の踏ん張りどころ!目元に力を入れてオルフ国防委員と隣のシュライバー国防委員長と視線を交える。おかげで額の傷が痛み始めたような気がするが、我慢だ。 - 55二次元好きの匿名さん25/03/07(金) 01:18:52
アグネス「私は―国際関係を懸念して秘していましたが―プラントの特殊部隊が、正規のルート以外の命令で作戦行動を行った事案を把握しています。確かな筋からの情報です。彼らは中隊規模のアッシュまで用い要人の暗殺を謀りましたが…、壊滅、最後は全員自決しました。同様の部隊がアプリリウス内に潜伏中の可能性も十分あり得るかと」
シュライバー「なんと!本当か?!」
驚愕して、私に問い返すシュライバー国防委員長に出来るだけ冷静な眼差しを返す。
彼らにはもっと危機意識を持って欲しい。かと言ってパニックを起こさせるのはもっと不味い。先ほどは苛立ってしまったが、彼らは合法な範囲で出来る限りの事をしようとしているだけ。
アグネス「(彼らも私と同じだ。余りにも急な展開で現実感が追い付いていない。少し前知識があったか否か、それだけの違い。戦友を小馬鹿にするべきではない)」
思いを新たに4人に向け、意識して、少しゆっくりめに話し伝える。
アグネス「対モビルスーツ戦闘も想定し、最高評議会ビルの備えを強化してください。戦力としては国防本部の警備、防衛隊がまだ残っているはず。最小限の者を残置させたうえで、彼らも引き抜くべきです。これが我等の主力です」
国防本部の守りをがら空きにしろ、その提案に4人は顔を見合わせている。しかし、これまで何かと交流があったシュライバー国防委員長は少し憑き物が落ちた目で私を見返す。
シュライバー「国防本部にはどれだけの守りを残せば良いと思う?」
アグネス「最小限は最小限です。国防本部勤務の文民公務員も家から呼び戻し、緊急志願させて残留組の警備隊に加えて下さい。『兵力がそこにある』と言うだけで大分違います」
シュライバー「分かった!クラーゼク国防委員、頼む!」
アラン「はい。直ちに」
シュライバー国防委員長の号令でクラーゼク国防委員は椅子から飛び上がり、業務用携帯片手に部屋を飛び出していく。まあ、これで多少はマシになるかな。 - 56二次元好きの匿名さん25/03/07(金) 01:56:41
まだロゴスとの決着もついてないのにプラントが内乱寸前だよ…
- 57二次元好きの匿名さん25/03/07(金) 09:49:05
知られたら紫唇が喜びそうでやだなぁ⋯
- 58二次元好きの匿名さん25/03/07(金) 10:03:27
- 59二次元好きの匿名さん25/03/07(金) 20:03:49
☆
- 60二次元好きの匿名さん25/03/08(土) 03:12:24
一番ありそうなのは、当の昔にアプリリウスを抜け出して、メサイアに向かっている事だな。
- 61二次元好きの匿名さん25/03/08(土) 04:25:38
アグネス「もう一つお尋ねしたいことがあります。ブリュッセルのノイ・カザエフスキー最高評議会議員と首都のクリスタ・オーベルク最高評議会議員にこのことはお伝えでしょうか?私は彼女たちの無実も確信しています。彼らが議長と政治的に近くとも、祖国を思う気持ちは同じはず。除け者にすれば付け込まれます」
私の問いにシュライバー国防委員長は、何とも云いにくそうな表情を浮かべる。
シュライバー「君の言う通り、同じことをジュール隊長の通報後、ライトナ―、カシム両議員もご指摘されて…。ただ、オーベルク、アダマン最高評議会議員は既に議長官邸内に―。残された者によると、彼女らは議長からの急な呼び出しを受けたという。タイミング的には我々が極秘再調査を求めた電話を掛けた直後だったと」
流石、議長は頭が良い。敵が嫌がることをよく分かってる。これで自分を加えて最高評議会議員3人を揃えたわけだ。裸の王様一人では『正統政府』を気取れない。事情を知らず、出向いた二人を抑え、丸め込むなりしているのだろう。
アグネス「…そうですか。カザエフスキー評議員は?彼女は最高評議会の名代、動揺されては困ります」
シュライバー「既に電子メールを何通も…。口頭でもと電話も試みているのだが…。出てくれない。相当混乱しているようで―」
そこまで聞いた所で、メイリンのデバイスを起動し、もう一つのイヤホンの電源を差し込む。
アグネス「失礼します」
シュライバー「ああ…。うん?」
それは混乱もするだろう。大体のあらましを知っている自分でさえも…、何しろアプリリウスに『議長が怪しい(意訳)』の一報が入ってから、まだ1時間程しか経っていない。
飛ぶように進む事態の中、誰しもが『少し考える時間が欲しい』。彼女もそう思っていることだろう。叶わぬ願いだけれども。
今までのイヤホンを耳から抜いて、新しい方のイヤホンを押し込み、キーを叩いて、彼女から以前教えていただいた連絡先にコールを掛ける。
カザエフスキー「はい…」
アグネス「お休みのところ申し訳ありません。特務隊アグネス・ギーベンラートです。お電話に出て下さり、ありがとうございます」 - 62二次元好きの匿名さん25/03/08(土) 04:36:22
まずは彼女にお電話に出て下さったことにお礼を心からお伝えする。
事の成り行きを見ていた補佐官殿が背後で驚愕していることが空気の振動で伝わってくる。
最高評議会議員が、特務隊とは言え一軍人の電話に自らワンコールで出たのだ。他の最高評議会議員の連絡にも応じていなかったのに!と言ったところか。
アグネス「(私は驚かないけれどね)」
そもそも、この連絡先を教えてくれたのは彼女の方からだった。
アグネス「お久しぶりと言う程には日は経っていませんが…。多少、お疲れは抜けましたか?」
カザエフスキー「それは…。ええ…まあ…。あまり―。でも、それはお互い様でしょう?」
アグネス「確かに、間違いなく」
私達はあの忙しい一日を共に闘った仲だ。砕かれた世界の空気を共に吸い、小パリの空を共に駆けた。政敵(かもしれない)の同僚の呼びかけに応じられずとも、戦友の電話には出てしまう。それが人の性。
それに彼女もそろそろ情報を欲していたのだろう。
カザエフスキー「今、貴女はどちらに?」
アグネス「アーモリーワンに停泊中のミネルバ艦内です。本国からのメールはご覧になりましたか?」
そう、話しかけると画面の向こうの彼女の顔つきが変わる。『血相が代わる』という表現を考え付いた先人は偉大だ。
カザエフスキー「やはり!ザフト軍はクーデターを起こすつもりなのですね!?私は暴力に決して屈したりしません!!ロゴスの陰謀と軍の策動から祖国を守ります!」
アグネス「はぁ…。陰謀ですか…」
鼻息を荒くする彼女を前にして、私は頭を抱えたくなってしまう。案の定、議長にあることないこと吹き込まれていた…。ブリュッセルで暴発される前に説得しないといけない。
アグネス「(どう誤解を解いたものか…)」
まずは怖くないアピールね。まず、自分の体を引いて自分が車椅子に乗っていることを彼女に知らせる。左太腿、左胸、左肩、髪を少し持ち上げ額に走る傷跡を示す。 - 63二次元好きの匿名さん25/03/08(土) 04:45:46
アグネス「閣下がどの様な陰謀をお聞きしたのか小官には分かりかねますが…。私は今朝、昏睡から覚めたばかり。貴女の敵になりようがありません。パンチ一発でノックアウトです」
カザエフスキー「…」
そう言って、ちょっと悪戯をして見せた子供のように彼女の目元を伺う。嫌な人間になった。人の同情心に付け込もうとは。
私の予想通り、彼女は決まずそうに目線を逸らしている。その視線の先には罪悪感と引き目、労りの念。この方に投票したプラント国民は人柄を見る目が合ったのだろう。
政治家としては?それは判らないが…。彼女の顔から敵意は消え去っている。そもそも私に向けた敵意ではなかったのだから当然か。
アグネス「貴女と私で共にカリーニングラードの連合軍の脅威を打ち砕きました。我らの心は常に祖国とともにあります。陰謀論に身を捧げるほど愚か者にはなれません。それが本当にただの陰謀であるのなら…。何故なら我が身は既に国家に身を捧げてしまった後なので。恐縮ですが、閣下も同じなのでは?」
カザエフスキー「そ…そうですね」
その返事を聞きがてら、一瞬、視線を士官室に引くとメイリンがジェスチャーで艦内放送の予告を伝えてくれる。タイミングが良いのか悪いのか…、ちょっと手が離せない。
もう、良いか。一緒に聞こう。
アグネス「今からミネルバの艦内放送が始まります。敵情視察だと思っていただいて結構なので、一緒に聞いてみませんか?」
そう伝えると素早くデバイスからイヤホンを引き抜く。
カザエフスキー「え…。放送とは?」
アグネス「ここはミネルバの士官室。グラディス提督から皆にご連絡があります」
カザエフスキー評議員に最低限の説明を終えたタイミングで頭上から、貫禄たっぷりの声が響き始める。
タリア「ミネルバ全艦、および月軌道艦隊各艦ブリッジ、ブリーフィングルーム内パイロットに通達する。本艦はこれよりアーモリーワンを発ち、とある特殊作戦に主力として参加する。誠に遺憾ながら今回の敵は対外勢力ではない。我々が向かう先は―アプリリウスよ」 - 64二次元好きの匿名さん25/03/08(土) 04:53:53
グラディス提督の言葉が冷たい刀身となって体中を撫でまわす。もうこれで、いよいよ後戻りできない。何度も後戻りできない地点を踏み越えてきたはずなのに…。本当に怖い。
そんな私の気を知る筈もなく、ブリュッセルの彼女は大慌てだ。
カザエフスキー「や、やはり!」
アグネス「(やはり、何?)」
カザエフスキー評議員に内心で突っ込みを入れたおかげで、余計な感傷が吹き飛んだわ。何よりね。
タリア「皆、急な事態に戸惑っているでしょう。この放送を聞いている者には事の真相を知る権利がある。本艦のブリッジにはジェセック最高評議会議員がいらっしゃっている。詳しくは閣下が直接説明してくださるわ。ジュセック最高評議会議員、お願いします」
ジェセック「ありがとう。グラディス提督…」
デバイス画面の向こうカザエフスキー評議員は目を見開いている。流石にジェセック評議員、直接のお出まし迄、議長も言い含められなかったか。ざまあみろ!
ジェセック「端的に話そう。本日、私、司法委員パーネル・ジェセック他7名の最高評議会議員-ルイーズ・ライトナー女史、タカオ・シュライバー国防委員長、アリー・カシム立法委員長、オーソン・ホワイト氏、アラン・クラーゼク国防委員、エドアルド・リー国防委員、リカルド・オルフ国防委員-はリモート会議も交えながら一つの合意に至った。
『C.E.73年10月3日に発生したユニウスセブン落下テロ事件について秘密調査の必要性あり』と。恐らく、これまで最高評議会が国内外に示してきた見解は一部修正する必要に迫られるだろう」
艦内に響くジェセック評議員の声は固く強張り、少しだけ震えている。要は、自分たちは国民に嘘を言っていました、と告白しているのだ。震えてくれねば困ると言うもの。
アグネス「(それだけが理由じゃないけれどね。震えるわ、私も)」
カザエフスキー評議員は口元を手で押さえ、困惑している。本当に困っている間に面倒事が解決してくれないかしら。 - 65二次元好きの匿名さん25/03/08(土) 05:00:38
ジェセック「これまで示した最高評議会の見解は―。
『ユニウスセブン落下テロはザフト軍を脱走したサトー一派の犯行であり、他のプラント国民及びコーディネイターは無関係である。そして、彼らテロリストグループは全員テロ実行時に死亡した。故に大西洋連邦が要求したテロリストの逮捕引き渡しに応じることは不可能である―』そのようなものであった。
しかし、日時が経ち、状況を客観的に見直すことが可能になるにつれ、不可解な点が浮き彫りになってくる。諸君諸姉の中には気が付きながら、国益のために黙っていてくれた者もいるようだが…」
ジェセック評議員のお話しをミネルバ艦内と月軌道艦隊各艦ブリッジ、パイロット達はどんな表情で聞いているのだろう?ルナマリアやシン達は―。そして、あの日の事をレイはどのように感じているのだろう?
ジェセック「『生産数が限られたジン・ハイマニューバ2型及びユニウスセブンの動力となった大量のフレアモーターを単なる脱走兵の群れが入手可能なのか』、『ユニウスセブンの監視体制の不可解な不備をどう説明するのか』、これ等の点はプラント上層部にサトー等テロリストの協力者が存在したことを示唆している。
また、直接協力はせずとも、テロリストの動向を把握しながら、故意に見逃すことでテロの共謀者となった者が存在したことも疑われる。ここで言う見逃しは単に道徳的義務に反するのみならず、その任にある公職者が行った場合は国家に対する重大な反逆行為だ」
口を手で押さえているカザエフスキー評議員に目を遣ると、彼女もこちらに視線を向けてくる。
アグネス『知っていましたか?』『はい』
カザエフスキー『はい』『知っていましたか?』
何だ!上層部も協力者の存在を薄々は疑っていたのだ。皆、誰が最初に『大様は裸だ』と言い出す頃合いを窺っていたのか!?
アグネス「(違う。本音は見て見ぬふりをしたかった。失ったもの、奪われたものが余りに大きすぎて。だから、コップに満たされた水を溢れさせた最後の一滴は確かに私の告白によるもの。その責任は軽くはない。例え遠からず噴き出していたとしても)」
ただ、この善良な女性と同じように、『まさか自分たちの国家元首がそんなことをする筈が無い』そう思っていた人も少なくはなかっただろう。『薄々察していた』にもグラデェーションがある。何より、私達に国内で揉めている余裕などなかった。 - 66二次元好きの匿名さん25/03/08(土) 05:07:07
賢い人たちのそうした微妙な心理と無邪気で残酷な大衆の情動が互いに作用した結果、不思議な均衡が今日まで保たれたというのが真相、いや、真相など後世の歴史家が見つけてくれる。今は今を生き抜くことだけを!
ジュセック評議員はここで大きく息を吸って、吐いて。もう一回吸って遂に核心部分に触れる。
ジェセック「私達8人の最高評議会議員はこの疑惑を『単なる陰謀論ではなく、権限ある公的機関が再調査するに値するものである』と結論付けた。そのようなテロ協力者の策動を一刻も早く阻止するためにも緊急かつ秘密裏に最高評議会を開催してほしい、と。
しかし、デュランダル議長は不明確な理由で会議を開く決断を先延ばしにした。のみならず、密かに手順を無視してザフト軍部隊の動員に着手したことまで発覚した。このうえは、我らは、デュランダル議長はユニウスセブン落下テロの再調査に反対であり、それを妨害する意図をもって不法に軍の動員を図っている、と見なさざるを得ない」
彼の言葉は猶も続く。
アグネス「そのような彼の振舞いはプラントの民主主義の脅威である。それのみならず―。万が一、彼があの悍ましい破壊行為の協力者であった場合。そのような者を指導者として戴き続けることは我が国一国のみならず、世界全体にとっての脅威と言うべきであろう。
無論このことは、国家の生存にも直結する重大な嫌疑ゆえ、再調査は秘密裏に行われなければならない。この放送を聞いた諸君諸姉も機密保持を徹底してもらう。だが、その前に―。
アプリリウスでは機能不全に陥った最高評議会の代わりに60人議会の開会準備が進められている。どうか勇敢なるザフト軍、月軌道艦隊は一刻も早くアプリリウスに到着し、議会とプラントの正義を守護してほしい」
ジェセック評議員の宣言の最後は駆け足となった。この緊張感に耐えるのは相当しんどいから仕方ない。艦内放送からは彼の少し苦しそうな呼吸音が続く。
「…」
気が付けば、艦内は沈黙で満たされている。ブリッジも士官室も廊下も、デバイスの向こうのカザエフスキー評議員もすっかり忘れていたけれど、国防委員会組も。
全てが声を失い呼吸の方法を忘れたかのようだ。 - 67二次元好きの匿名さん25/03/08(土) 05:17:10
胸を冷たい風が通り抜けて行く。私は取り返しのつかないことをした。何度もした。でも今夜のは特にひどい。
私が寄りによって今、彼らの心の奥の疑念を表面化させたことは果たして正しかったのか。これまで必死に大事にならないように立ち回ってきたはずなのに、結果がこれ!
もっと上手くやれたのではないか?せっかあんなに頑張ってレクイエムからアプリリウスを守ったのに…。
もし、首都が流血の巷になれば、私はどんな気持ちで残りの人生を送ればいいのか?パパやママが巻き込まれてしまったら…、そんなことになれば、私は生きていけない―。
タリア「皆、思いもかけぬ事態に戸惑っているでしょう。とても疲れているとも思う。でも、正念場よ。どうか、忘れないでほしい。私達は、祖国とザフトのためだけではない、帰るべき家と家族と戦友のため、短くも苦しい戦いを続けてきた。そして今日も―この月軌道艦隊の一員として、ミネルバクルーとしての誇りを持ち、最後まで諦めない各員の奮闘を期待します。いいわね?!」
その沈黙を破った声の主は、やはり彼女…。何度も私達を半ば無理やり鼓舞してきたこの艦と艦隊の主-。提督に『いいわね』と聞かれたら返事は一つ!いっせいのうで―
アグネス、メイリン、アーサー、ブリッジ一同、ミネルバ一同、月軌道艦隊放送視聴組一同、カザエフスキー
「はい!」
タリア「ありがとう、皆。ミネルバ、他、月軌道艦隊ナスカ級3隻。アーモリーワンを発進します」
私のデバイスの向こう側の国防委員3人も思わず涙ぐみながら肯いている。他にやることはないのか、この人たちは…。カザエフスキー評議員に至っては、ほぼ勢いで返事をしてしまっている。
この人達…なんか心配。幸せになって欲しいけれど…。
いや、我がプラント国民はどうも勢いで動きすぎるきらいがある。私も大概だと自覚はしているが…。
補佐官「は…はい」
どうやら、プラントの滅亡は免れそう。テンポに乗り遅れて、あとから返事をする彼のような人もいるのだから。 - 68二次元好きの匿名さん25/03/08(土) 11:56:53
さて『ミネルバが向かってくる』ことになるアプリリウス守備兵の士気やいかに
- 69二次元好きの匿名さん25/03/08(土) 12:07:07
さて間に合うかな?
- 70二次元好きの匿名さん25/03/08(土) 12:26:24
「もうダメだぁ…お終いだぁ…」
- 71二次元好きの匿名さん25/03/08(土) 20:47:36
保守
- 72二次元好きの匿名さん25/03/09(日) 00:32:28
保守
- 73二次元好きの匿名さん25/03/09(日) 02:34:07
グラディス提督の号令一下、滞っていた時は再び急加速する。
アーサー「ミネルバ、発進シークエンススタート。本艦はこれより戦闘ステータスに移行する」
アビー「本艦はこれより発進します。各員所定の作業について下さい。繰り返します、本艦はこれより発進します。各員所定の作業について下さい。FCSコンタクト、兵装要員は全ての即応砲弾群をグレードワンへ設定」
士官室に響くブリッジの声、途切れられては困る。状況が掴めないのが一番まずい。
アグネス「メイリン、士官室とブリッジの回線を固定、スピーカーモードでブリッジ内の音声を流して」
メイリン「了解です」
私とメイリンの遣り取りの傍らで、二つのデバイス同士、アプリリウス最高評議会ビルとブリュッセルに分かれた4人の最高評議会議員同士で、謝罪合戦、お礼合戦が始まっている。蟠りが解けたようで何より、一度にイヤホンを引っこ抜いたのは賭けだったけれど、私達はそれに勝てたみたいだわ。
アーモリーワン管制員「ミネルバ緊急発進シークエンス進行中。A55デフロック警報発令。モニターAチーム、コントロール、全チームスタンバイ。第2、第5チームは突発的接続破壊に備えよ。ゲートコントロール、オンライン。ミネルバ、リフトダウン継続中。モニターBチームは減圧フェイズを監視せよ」
アスラン「済まない。遅くなった」
扉をスパっと開けてアスランが乗り込んでくる。戻るなり、彼は士官室の有様に目を白黒し始める。
アグネス「補佐官殿、彼に説明をお願いします」
補佐官「ああ、はい!特務隊アスラン・ザラ、ここまでの流れは―」
アスラン「はい―」
話がトントン拍子に進んでいるところ悪いが、士官室の中は大忙しだ。交通整理をしないと訳が分からなくなりそう。
ジェセック「グラディス提督、私には権限もあれば義務もある。事前の協議通り、このままご一緒させていただきたい」
タリア「是非に。許可いたします。まだ、間があると思われます。少し艦長室でお休み下さい。ご案内を」
ジェセック「ああ。お邪魔するよ」、ミネルバクルー「はい!」
ブリッジ内の遣り取りを聞いて、ホッと胸をなでおろす。グラディス提督、ナイス判断だわ!艦長室なら通信装備も整っている。これ以上来られても、士官室はパンク寸前だ。 - 74二次元好きの匿名さん25/03/09(日) 02:41:54
アーモリーワン管制員「発進ゲート内減圧完了。いつでも行けます!」
タリア「ありがとう。機関始動。ミネルバ発進する。コンディションレッド!」
アビー「ミネルバ発進。コンディションレッド発令、コンディションレッド発令。負傷していないパイロットは、特務隊アスラン・ザラを除き搭乗機にて待機せよ」
廊下を駆け回るクルーとパイロットの足音、その更に外から伝わってくる振動はアーモリーワン造船ドック外部シャッターの完全開放を示している。
タリア「出港!」
アーサー「はい。ミネルバ、リフトオフ!」
中継画面の先、リフトの腕から解き放たれたミネルバはその赤い翼を大きく開き、暗黒の世界に羽ばたき立つ。ナスカ級3隻は別口の宇宙港から発進している。彼らを呼び寄せる信号弾が早速、虚空に輝く。
その灯を見詰めながら、また、残念な気持ちが込み上げる。進宙式、やりたかったな…。今回の寄港、実はかなり期待していたのに―。
アグネス「(つくづく運の無い艦ね。式典のやり直しどころか、修理さえ…。もう、これはそういう運命だと諦める他ないか)」
アーサー「気密正常、FCSコンタクト、ミネルバ全ステーション異常なし」
タリア「全艦、最大船速でアプリリウスへ。安全なL2宙域を経由する猶予はない。デブリ帯を掠めるようにL1宙域を横切り、可能な限りの最短ルートを進む。悪いけど、今作戦に限り、脱落した艦は置いて行く。その際は各艦長の指揮の下、アプリリウスに続きなさい。総員奮起せよ」
アグネス、月軌道艦隊一同「はい!」
時間がない。それが皆の共通認識だ。恐らく、議長サイドでさえも。
アスラン「ここから、どうなると思う?」
後方からアスランに問われる。彼は補佐官殿から説明を受け、2つのデバイス越しに4人の最高評議会議員と敬礼を交わした直後だ。
シュライバー「それは私も質問したい!」、カザエフスキー「宇宙での戦闘が…。何時?」
ああ、アスランが変なこと聞くから無茶苦茶になるじゃない! - 75二次元好きの匿名さん25/03/09(日) 03:13:41
そう言うことは本来、本来どうするべきなのか?ブリーフィングルームに向かうのが吉なのか、今は誰もいないが…。
メイリンにジェスチャーしてブリッジと艦長室に回線越しで音声を届けられるようにする。説明の2度手間は、もううんざりだわ。
アグネス「小官が専門職として、FAITHの権限としてお伝えするとすれば…。我が艦隊の道中に関しては、やはり、L1宙域通過時が最も危ういかと。デブリ帯に議長側の傭兵が潜んでいるやもしれません」
シュライバー「傭兵?ザフトの離反部隊ではなく?」
シュライバー最高評議会議員の顔にハテナマークが浮かぶ。
これはある意味当然な疑問だ。
そもそも、アプリリウスの彼らにとって最大の脅威は同市内の議長派実力組織。次にL5宙域内の議長派(と勝手に議長が思っている)精鋭部隊。今頃、傭兵がどうのこうのと突然言い出されても困るだろう。
しかし、既にアーモリーワンを発ち、空を駆ける月軌道艦隊にとって最も恐ろしいのが実は彼らなのだ。
アグネス「歴史上、強力な軍隊を有する国家・政権が正規軍とはまた別に親衛隊や傭兵を揃えているケースは稀ではありません。理由は様々、政権が正規軍の離反を恐れ、正規軍を抑え込む為に親衛隊を創設する場合。あるいは法律の縛りで動かしにくい正規軍の代わりに使い勝手が良い傭兵を手駒として抱えている場合等様々ですが―」
後は国家予算の取り合いっこをしているうちに増えてしまったりね。『海軍と国境警備隊海上隊と海上警察と国土交通省海上機動隊と水産庁巡視隊』みたいな―、そんなほのぼのとした対立なら助かるのだが。
アグネス「私は議長が国家予算を流用して、文字通りの意味の私兵を蓄えている可能性も無視できないと思案します。もし、アプリリウスまでの航路に脅威があるとすれば、これ等のゲリラ的攻撃。デブリ帯は要警戒と言えるでしょう」
思えばこの政変、まるで鳩と鳩の争いのようだ。
プラント国防委員会は、議長が最高評議会の開催を拒んだせいで、最高評議会の同意を得ることが出来ず、大半のザフト部隊を動員できていない。実は議長側も同じこと、プラント国防委員会の協力なく、また、最高評議会の同意なくして、ギルバート・デュランダル氏はザフト軍を本格動員することはかなわない。 - 76二次元好きの匿名さん25/03/09(日) 03:57:07
議会側の戦力として月軌道艦隊が動いているのは『震源地』となった行きがかり上のもの。対して、議長側はこれまでばら撒いてきた恩義やら何やらで精鋭や隠密部隊を動員しようとしている。ミネルバこそ、その最右翼だったはずだが、どこかでタイミングが狂ったのだろう。
その他の『兵隊』は、お互いお粗末なものだ。議会警備隊や議長警備隊は本職なだけましな方。議会側は文民公務員まで駆り出し、国防本部警備隊まで引っこ抜いた。もし、この政変に我らが耐え抜ければ、『民主主義守護の勇者』が大量発生することだろう。
アグネス「(皆で何十年か経った後、ドキュメンタリー番組や映画に出演するのも悪くない。『その時歴史が蠢いた』とか『歴史秘話ヒストリカ』とか『群像の世紀』とか『アーモリーワンからの手紙』に!アグネス役を選ぶ際は必ず、審査に加わりたいわ)」
あくまで、勝てればの話だが―、閑話休題。
アスラン「確かに。議長は穏健な政治路線を支持され国民に選ばれた。最初から、独裁的な人物であったなら超法規的措置も厭わないだろうが…。今日まで形式上、法を順守してきた人間が豹変すれば、従う者ばかりでもないだろうな」
うなじの後ろからアスランがサポートしてくれる。気になるから、もう座って欲しい。
シュライバー「なるほど。それゆえに、議長が動かすとしたら表に出ない、特殊部隊の中の隠密部隊か、あるいは個人的コネクションで雇った非正規部隊と」
アグネス「そうです。仮にも大国の長、損得勘定抜きに彼のために死のうとする者も中に入るでしょう」
そう言い切ると何故か微かな痛みが心に走る。思えば、今朝、私は彼から名誉勲章を首に掛けて貰ったばかりだ。
私は彼から何度も賞を下され、そのたびに『これは国家から賞されたものであいつ個人への恩義など一ミリもない』そう思ってきた。それが正しいし、そのつもりだった。でも、本当に何度も褒めて下さった。
私にも確かに議長を討つことを躊躇う気持ちがある。仮に議長が今日のディナーの前に私の前に現れて『やあ、アグネス。君の力を貸して欲しい』とか『済まない、今は話せない訳があるのだ。少しの間だけ見逃してはくれないかな?』と言われたら、心が揺らいだかもしれない。 - 77二次元好きの匿名さん25/03/09(日) 04:27:15
そこまで話が進むとブリッジからグラディス提督の声が士官室に届く。
タリア「国防委員長、彼女の指摘は、『あくまでリスクを挙げれば』という意味です。敵が少数の傭兵・私兵を『もしもの時に備えて』隠すならデブリ帯、アグネス、良く分かったわ。ご安心ください。十分に備えた上で速やかにL1宙域を抜けます。アーサー、バート、熱紋にもより注意を」
アーサー、バート「了解」
彼女の声を聴くと心が軋みむ音がする。人は損得だけでは動かない。しかし、損得で始まった関係のため、命を投げ出しても報いたいと考える者はいる。まして、損得抜きに始まった関係だったなら?報恩、親愛、友誼の念がどれほど固いか、この戦役で何度も実感してきた。
タリア・グラディスと言う女性は今の事態をどう感じているのだろう。
私は我が身を人に委ねたことはないから、そのお相手を自分で撃つ事の悲しみや苦しさを本当の意味で理解してあげることが出来ない。身を斬るような痛みなのか、厄介者を払いのけれる安堵か―。いや、後者でないことぐらい私にもわかる。
アグネス「(残酷なことを強いてしまった。一生恨まれるかも―。彼女はそう思わないだろうから余計辛い)」
私が正体不明の罪悪感に苛まれかけたちょうどその時、業務用デバイスの先、最高評議会ビル会議室に喜色を浮かべたリカルド・オルフ国防委員会が飛び込んでくる。
リカルド「国防委員長!儀仗隊と中央軍楽隊が招集に応じました。ジン式典用装飾タイプ12機とフル武装2個中隊の将兵220名が最高評議会ビルに。軍楽隊のトレーラーを利用して武器も多数搬入に成功!非殺傷兵器も」
シュライバー「おお…。お?式典用のジン…」
リカルド「流石に、サーベルと銃剣はテンペスト・ビームソードと76mm重突撃機銃に変更してあります。無論、重斬刀、M68キャットゥス 500mm無反動砲と対ビームシールドも」
シュライバー「素晴らしい!」
素晴らしい!少しだけ心が晴れたわ。ビーム兵器の使用が躊躇われるプラント内の戦い。これぐらいの旧式機の方がかえってやりやすいかも知れない。
早速、作戦会議に熱中し始める国防委員会組を見て、何故か脱力したような安堵感を憶える。ともかく、アプリリウスの方は良い。問題はブリュッセルだ。 - 78二次元好きの匿名さん25/03/09(日) 05:21:43
アグネス「国防委員長、失礼します。少しカザエフスキー評議員と二人でお話しします。その間に、兵の配置や装備等の協議を」
シュライバー「うん?ああ、頼む」
イヤホンを両方のデバイスに繋いで、音声をカット。字幕モードはオン。そして、メイリンの方のイヤホンを耳に押し込む。
カザエフスキー「お話しは対外交渉の件ですね」
アグネス「本来、分の過ぎたことです。あくまでも戦友として、必要なら専門職として。よろしければお話しします」
カザエフスキー「FAITHの戦友とは、私も随分勇敢になれましたね。伺いましょう。私も伝えなければいけないことが有ります」
真剣な表情で私の両眼と視線を合わせて下さる。軍事関係の話題を話している間、この方は、手帳やメモを必死に探り纏めていらした。ご自身ができること、すべきことを必死に考えていらしたのね。
アグネス「ブリュッセルにいらっしゃいますね?」
カザエフスキー「ええ。そして、ここは西ユーラシア連邦の首都、親プラント国各国大使館が所在する。今回の事変、隠し遂せるものではありません。私は、密かに大使や使節とコンタクトを取り、それとなく変事を伝えると共に『事変によりプラントの対外政策・戦争方針が揺らぐことは一切ない』とそう確約したいと思います」
真直ぐな目線、明快な口調で私に告げて下さるので、内心びっくりしてしまう。また、一から十まで説明しなければいけないかと思っていたのに。やはり、私は他人を嘗め切っている。
危うく議長と同じアホの子になり下がるところだった。
アグネス「(人間は思考力を持ち、常に理性と感情の狭間で揺らぎ変化を続けながら最善を求め続ける生き物。自分だけが賢者と思い上がるべきではない)」
その上で2点注意を促す。
アグネス「友邦諸国には『プラントの正統は合議体としての最高評議会に在り、最高評議会議長単独では国家の正統性を担保しない』ことも念を押すべきかと。そして何よりファウンデーション王国にご注意を。貴女ご自身が相手方とお会いするのは諸国家の最後、一番後回しにして、かつ、向こうの様子は大使館員を使って監視するべきです」 - 79二次元好きの匿名さん25/03/09(日) 05:29:03
そうお話しすると彼女は驚いたように目を見開く。
カザエフスキー「最後とは?」
アグネス「西ユーラシア連邦、汎ムスリム共同体、大洋州、アフリカ共同体、南アフリカ共和国、ジョージア政府、アゼルバイジャン政府、ディオキア市、その次と言う意味です」
私のかなり強い口調が気に掛ったらしく、もう一度、彼女は私に問い返す。
カザエフスキー「その理由は?」
アグネス「あの国は『プラント』以上に『デュランダル議長』と強く結び付いている感があります。議長就任前に王家とコネクションがあったのかも知れません。故に接触は最小限かつ最後に。ただ、プラントがファウンデーション王国に対し、既に約束した援助の履行と、今後の支援の継続は確約するべき必要があろうかと思います」
そして―王国には、身の丈に合わぬ宇宙軍がある。
ただ、私は現時点でファウンデーション王国宇宙軍がミネルバと対峙する可能性は少ないと考えている。自国の政変に他国を招き入れたとなれば、ザフトも黙っていない。
合法的に全軍出動命令発令、めでたくデュランダル議長は国家反逆罪で絞首刑。
そうなることが目に見えているから、議長も助けを求められないはずだし、王国も直接は介入して来ないだろう―と。
ただ、それは彼らを『中立』と思って良い理由ではない。この政変の決着がつくまで触らぬ神に祟りなしだ。
カザエフスキー「私が知る限り、貴女はファウンデーション王国に侮りの目線を向けていたように思いますが…」
アグネス「ばれていましたか…。確かに、しかし、それと軍事能力は別。トラドール国務秘書官のお話を聞いた限り、どれほど過小評価しようとも地球連合宇宙軍1個艦隊規模以上の戦力は確保されているはず。地上部隊は存じませんが、中央アジア・南ロシア戦線で気炎を吐き続けているのです。端倪すべからざる存在、むしろ、地上での策動にご用心ください」
カザエフスキー評議員に私なりの善意を必死に込めた視線を送る。どうか頑張ってください、と。彼女もそれを見て軽く微笑む。むう、変顔をしていると思われたか。
カザエフスキー「アドバイスありがとう。最高評議会ビルのライトナー評議員に一報を入れ次第、行動を開始します」 - 80二次元好きの匿名さん25/03/09(日) 11:37:24
どうなるかな…
- 81二次元好きの匿名さん25/03/09(日) 18:55:32
さすがに大乱闘スマッシュコーディネーターズにはならんやろ…ならんよな?
- 82二次元好きの匿名さん25/03/09(日) 19:08:11
議会側も大変だな
儀仗隊や軍楽隊も引っ張り出すか - 83二次元好きの匿名さん25/03/09(日) 19:17:35
…最悪ブラックナイツ総動員で叩き落としに来そうだな。
やろうと思えば闇に堕ちろでアグネスやアスランを暴走させて証言自体、議長への不信感から暴走した叛徒に仕立て上げるのは容易だし。
議長側で尚且つ非正規寄りになるとしたら今のブラックナイツ組が的確すぎる…
本来、黒騎士とは鎧や装備を黒塗りにすることで身分を誤魔化して動くための仕様って意味だったはずだし、
勢力上、味方にまで牙を剥いてフリーダムを落とした存在の正体と考えると黒騎士という言葉が本来の意味で働いてるから - 84二次元好きの匿名さん25/03/10(月) 00:27:16
アグネス「どうかご健闘を!」
カザエフスキー「貴女も!通話は保留状態で行動するのでそちらもそのように」
アグネス「はい。自分が戦闘中でなければ、何時でも出られるようにしておきます」
互いに激励を終え、お互いのデバイスのキーに指を伸ばす。その人差し指が正にキーボードに触れる寸前、カザエフスキー評議員は一つの爆弾を私に投げて寄こす。
カザエフスキー「そう言えば…。東欧を歴訪、慰問活動中のラクス様に今回の事はお伝えしますか?確か、今はポーランド西部に―」
あぁぁ!忘れていた。西ユーラシア政変・冬季攻勢撃退後、ベルリンの病院で目覚めた時に彼女の東欧慰問の件は聞いていたのに。ミーアはポーランドか!
『ラクス様の動向』、こればっかりは早めに周囲にも知ってもらわないといけない。イヤホンのコードを引っこ抜く。
アグネス「最悪かも知れません。ラクス様が議長に呼び出され、政治利用されないように西ユーラシア連邦に空港の封鎖をご依頼いただけませんか?」
カザエフスキー「流石にそれは無理です!西ユーラシア連邦にとってデュランダル議長は大恩人。下手に刺激すれば何が起こるか分かりません。各国にも『それとなく匂わし、釘を刺す』のが限界です」
それを聞いた室内の全員が動揺する空気を肌で感じる。しかし何ともならない。
アグネス「確かに…。うーん。しかし、極力、彼女の動向にもご留意をお願いします。改めてご健闘を!」
カザエフスキー「ええ。貴女も!」
互いに励まし合い、カザエフスキー評議員は画面から消える。後ろでは、アスランが大慌てしている。
アスラン「どうする!?み…、ラクスに議長から招集が掛かっているかも知れない!」
補佐官「ええぇ…!?ラクス様に!どうしましょう!?」
背中の後ろでパニックになりかけた二人の男がギャーギャー騒ぎ出す。少し静かにして欲しい。不味い事態なのは判っている。確実に、彼女には議長から次の指令が下りているだろう。
不安顔のメイリンを安心させてあげられる術は、今の私にはない。 - 85二次元好きの匿名さん25/03/10(月) 00:33:25
メイリン「あの、関西弁じゃない方の…、緑色の服のマネージャーさん、多分、議長のお目付け役ですよね…」
アグネス「そうでしょうね」
ミーア達一行を乗せたシャトルはもう地球を発ってしまっているだろうか?あるいは議長は敢えて彼女達を地上に残して、今後の布石とつもりか?
後者なら、事態はより深刻だ。地上ザフト軍がミーアに扇動されて、議長側にひっくり返るかもしれない。
アグネス「(焦るな。しっかりしろ。地上ザフト軍にとってはミネルバも大事な恩人にして戦友のはず。彼らとて、『ラクス様』に何を言われようとも、『ミネルバの敵側』に付くのは躊躇するはずだわ。その先の展開は測りかねるけれど)」
ともあれ、この件に関してはどうしようもない。それと―更に頭の痛い現実にも気が付いてしまう。
アグネス「(議長を失脚させる、までは良い。でも、地上の同盟国、別けてもガルナハン以降にプラント陣営に付いた国や勢力にとってギルバート・デュランダルは救世主。彼を殺傷するなどもっての外。ユニウスセブンの件に関しても、議会外へ持ち出すわけにはいかない秘密。いっそ彼に暴発して欲しいくらい)」
落ち着け、私はアホか。暴発=内戦だ。『緊急議会開催の意図的な遅延』、『手続き違反の軍への命令』、この二つだけでも、問責決議には足りる。実権を剝奪さえ出来れば、パンダとして置いて置けなくもない。
それより今はミーアの件だ。
アグネス「ラクス様はどうしようもありません。彼女が抵抗すれば、かえって事態が悪化するやも。補佐官殿、そのことを艦長室のジェセック評議員に、これまでの話とも合わせてお伝えください」
補佐官「はい!」
返事をするや、彼は士官室の通信装置に駆け寄り、メイリンの補助を受けながら上官に忙しく説明を始めている。私からも短く文章でまとめてブリッジに送らないといけない。『音は聞こえていましたよね?』では足りないから。
カタカタ、キーボードを叩きながら、もう一つウィンドウを立ち上げ別の場所にコンタクトを図る。私には『匂わせ』をしなければいけない所が職務上、もう一カ所ある。
ラムシュタイン基地付属女性士官宿舎、シホ先輩にご連絡を入れておかなければいけない。彼女はジュール隊から出向中の身で教導航空団の副隊長、あまりにも難しいお立場だ。彼女本人のためにも残してきた部下のためにも、せめて一報は入れておきたい。 - 86二次元好きの匿名さん25/03/10(月) 00:41:26
キーを押してコールを開始、書面作製は一度中断する。2回。3回目が鳴る前に、デバイス画面にバスタオル一枚身に纏ったシホ先輩のお姿が映り込む。
シホ「教官、お待たせしました。何事か起こりましたか!?」
ぐっしょり濡れた髪からは雫がポトポト落ちている。シャワー中だったのに飛び出して来てくれたんだ。律儀な!
ほぼ反射的にアスランが背後で回れ右している。紳士的で実によろしい。
アグネス「少し騒ぎが起きています。ジュール隊長も私達も明日は寝不足になっているでしょう。誰も傷付かなければ良いのですが…。訓練生をよろしくお願いします。もしもの時はカザエフスキー評議員と大使館員の身の安全も。ジュール隊と月軌道艦隊は互いに大事な戦友同士…、無論他のザフト・友邦諸国の軍人も。外敵と政治的混乱から祖国と同胞と戦友と友邦諸国民を守護することが私達の使命。先輩、どうか良い夜を」
せいぜい、言えてこれが限界だろう。耳を凝らして私の一言一句を大事に受け取ってくださるシホ先輩を本当に心強く思う。元は研究職であった彼女がバスタオル姿で高官の娘のパイロットと地上と宇宙で話しているのも、動乱の時代ならではと言うべきか。
シホ「心得ました」
アグネス「本当に失礼を致しました。お風邪をお召しになりませんように」
そう言うと、彼女は今更ながらに少し赤面する。
シホ「いえ!みっともないところをお見せしました。教官こそ、北極の海はお寒かったはず。どうかご無事で…」
そう言って敬礼しようとするので、右手で必死にストップをかける。補佐官もアスランもいる。嫁入り前の娘にあまりにも申し訳ない。お嫁に行った後なら良いわけでは無いけれどね。
目礼して敬意を示すと、彼女も静かに目礼を返して下さる。その後、お互い真直ぐ視線を交わし、通信を切る。はぁ、最悪。先輩相手にこれ、ちょっと不味いかも。これまで後輩の私を散々、立てて下さったのに―。
アグネス「(いや、そんなことは後回しだ。ジュール隊に一人も死傷者を出さない事のみ注力するべき。うん。うん)」
考えを纏め、書面もまとめ、ブリッジに送信を終える。大慌てで会議をしている間に、月軌道艦隊4隻はL4とL1宙域の境目に早、到着している。問題なのはこの先か―。 - 87二次元好きの匿名さん25/03/10(月) 05:46:01
やべぇ、ミーアのことすっかり忘れてた
どうなるんだ? - 88二次元好きの匿名さん25/03/10(月) 12:28:25
どうでもいいけど、シャワー浴びてて2コールで出るって凄い動きだな…これがコーディネーターか。
- 89二次元好きの匿名さん25/03/10(月) 21:36:30
道中でファウンデーションが待ち構えてても驚かないぞ
- 90二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 01:54:28
月軌道艦隊は、アーモリーワンが位置するL4宙域を通過、ミネルバを先頭に後ろにナスカ級3隻、でL1宙域を強行突破していく。艦隊の陣形は所謂、魚鱗の陣にも見えるが、先頭を進むのが旗艦たるミネルバである点が異なる。
艦隊の前方には長距離強行偵察複座型ジンが2機、後方には1機展開中。彼らのスラスターは船足に付いて行くため限界出力を叩き出す。そのため頻繁な交代が必須だ。
アスランに彼のデバイスを起動してもらい、特務隊権限でブリッジのモニターとこちらの機器を同期させる。
暗黒の宙には、無数のスペースデブリが集積して地球を取り巻く巨大なリングを形作っている。所謂、『デブリ帯(デブリベルト、デブリ海)』人類の宇宙進出という快挙の副産物である。
人の営みの負の遺産たる大環は、先の大戦で更にその厚みが増した。人類初の宇宙都市たる世界樹も忌まわしいバレンタインの8日後には砕けて、その一部と化してしまっている。
アグネス「(私達も、ファントムペインとの追いかけっこの時、あそこを突破した。今回は掠めるだけ。でも、油断大敵よ)」
戦闘となるなら、シンとハイネ先輩の状況を確認しなければならない。
アグネス「トライン副長。応答願います。ハイネ先輩とシンの体調は如何でしょうか?対艦対モビルスーツ戦闘には耐えられそうですか?腹部と胸部の内出血と伺っています」
アーサー「残念ながら、無理だ。二人とも気丈に振舞っているが、腹腔内のダメージは軽視できないと、軍医が。加えて、軽度の血胸、これが良くないそうだ。悪化させると命に係る。胸腔ドレナージ(胸腔内に針を刺して血を抜く処置)も追加で必要になる、と」
最悪なタイミングの政変ね。違うか、最悪なタイミングだから政変がおこるのか。いずれにしろ―。
アグネス「了解。アビスは私、インパルスはアスラン先輩で発進したいと思います」
アーサー「アスランも同意か?」
アスラン「ええ。この状況では」
アーサー「よろしい。許可しよう」
こうなったら仕方ない。真とハイネ先輩はゆっくり傷病休暇を満喫していただこう。
アグネス「(あれ?午前は公務で、今はコンディションレッドの艦内。半休しか取れていないわね)」
まあ、それはミネルバ全員一緒だ。四の五の言うのは止そう。 - 91二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 01:59:13
ともかく、もし、私自身に出撃が命じられるとすれば、この宙域が本星。アスランにも声を掛けておこう。
アグネス「アスラン先輩、交代で着替えましょう。先ずは私から、申し訳ありませんが電話番をお願いします。メイリン、ごめん。手伝って!」
アスラン「ああ…。分かった」、メイリン「了解です」
アスランと補佐官殿、二人と敬礼を交わし、メイリンに押されて全速力で更衣室に駆け込む。
メイリン「この部屋まで押してきちゃって、今更ですけど…。そのお身体で出るんですか?」
アグネス「内臓はディナーを食べられる程度には回復したからね。動ける者が動く。止むなしよ」
そう話しつつ、彼女のサポートを受けながら制服を脱いでいく。我ながらひどい体だ。太腿はギブス、肋骨はコルセット、鎖骨はバンド。あっちこっちの裂傷は下は縫い、上は医療用ボンドで止めた状態。そして、体中テーピングだらけ、包帯だらけ。あんまりママに見せたくないな。パパにも。
メイリン「さ、ささっと」
アグネス「ささっ、ささっとね」
二人して意味不明な掛け声を挙げつつ、脱いだらパイロットスーツを着こむ。そして、車椅子に座り直し、ヘルメットを腿に乗せて保持したら準備完了だ。リハビリの手間が省けて結構!
アグネス、メイリン「お待たせしました」
アスラン「ああ…。早かったな。済まない」
士官室に戻ると、アスランの済まないが炸裂。この済まないは『怪我をしているのに着替えを急かしてしまって済まない』の意味ね。
アグネス「いえ。こちらこそ。次はアスラン先輩の番です」
アスラン「ああ。行ってくる」
そう言って入れ替わりにアスランが出ようとしたタイミングで、最高評議会ビルから急報が入る。ミネルバブリッジのモニターにシュライバー国防委員長の姿が大きくアップで映る。 - 92二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 02:06:43
ジュライバー「60人議会の緊急会議が先ほど、開始された。カナーバ前議長とミセス・ジュールのご尽力もあり60人全員の招集に成功。議論と決議の進捗は追って知らせる」
タリア、アスラン、アグネス「了解」
やっとか…。敵の不法を問おうという以上、こちらも合法的な手順が求められる。民主主義国は戦争に強い。とは言え、民意を擬制するため議会主義を守るコストと手間は馬鹿にはならない。
シュライバー国防委員長にブリッジ一同と共に敬礼、彼は返礼した後、通信を切る。
これでやっと60人議会が開かれた。一先ず、最初のハードルは越えたことになる。各議員の説得と根回し自体は粗方済んでいるだろう。
今会議で『ユニウスセブン落下テロの極秘再調査の開始』と『ザフト軍動員時の国防委員会及び軍内部手続きの遵守』と『最高評議会、会合の即時開催要求』の3つを議決すれば、ボールは一旦議長側に渡る。その時点で、彼が白旗を挙げてくれればいいのだが…。
そんな私の願いも虚しく、偵察型ジンからブリッジに急報が入る。
バート「戦闘艦と思しき熱源をデブリ帯の内部に捕捉!距離8000、数5。これはナスカ級です。敵味方識別装置を切っています。国籍、所属、艦名、番号等不明」
タリア「やはりね。ブリッジ遮蔽、対艦対モビルスーツ戦闘用意。アビー、一応呼び掛けて。出来れば戦闘は回避したい」
アビー「はい!」
ある意味予定調和とも言うべきか。バートさんが『戦闘艦』と口にした瞬間、アスランは駆けだし、私もメイリンと視線を合わせ、一つ頷く。
アグネス「補佐官殿。申し訳ありませんが、電話番をお願いします。私が乗り込み次第、アビスのコックピットとブリッジ、士官室は開戦を固定します。ただ、戦闘中、音信不通にもなるでしょう。お互いに臨機応変な対応をしましょう」
補佐官「了解!ご武運を」
アグネス「貴方にも幸運を」
そう言葉を交わすと、私はメイリンに車椅子を押され、モビルスーツ格納庫へマッハで駆けだす。廊下は戦場とはよく言ったものだ。 - 93二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 02:13:57
アグネス「(しかし、流石、我が祖国。相変わらずの兵器管理のガバガバさ。ガバナンス不全。故意はないにしろ、本当なら国防委員会も全員辞職ものよ。前大戦末期は怪我の功名で絶滅戦争を回避できたとは言え、それはそれ、これはこれ。しっかりして欲しい)」
そのままエレベーター前に進み、止まるのを待っていたアスランとも合流。3人で格納庫に到着を果たす。
アスラン「どう思う?」
エレベーター内でアスランに問われ、少し考えをめぐらす。
アグネス「彼らが何を艦載しているかは分かりませんが…。常識的に考えて、ナスカ級5隻とミネルバ1+ナスカ級3隻ではお話しになりません。正面からぶつかれば、彼らの負けです。それに彼らは明らかにまともな軍隊じゃない。こちらは必要以上に非殺傷を拘る必要はありません」
アスラン「そうだな」
そこまで話して少し考える。そんなこと向こうも馬鹿じゃない。分かっているだろう。となると彼らの目的は―。
アグネス「敵が賢ければ、彼らは我らと直接対決を避け、月軌道艦隊の後ろをひたすら影のように追尾して、我々の心身の消耗を図るでしょう。無論、隙があれば決戦することを前提に」
アスラン「さながら、ハンニバルとクィントゥス・ファビウス・マクシムスの故事のようにか。そうなると厄介だな」
エレベーター内の重力が一瞬変化し、格納庫到着をわが身に知らせてくれる。西暦の頃からこの感覚が苦手な方もいらしたようだ。私は平気だが…。
そう声を掛け合い、アスランはインパルスに私はアビスに向かう。大型昇降機を使ってコックピット横まで付け、メイリンとヨウランに抱えられ、また鋼鉄の揺り籠にこんにちは、今晩はだ。
アグネス「メイリン、士官室の方、お願いね。情報系の事も頼むかもしれない」
メイリン「はい!」
ヨウラン「しかし―。なんかなあ。必死で戦ってきたのに、ユニウスセブンがそんなんだったなんて」
車椅子姿の私を気に掛けて昇降機上までついて来てくれた浅黒い肌の同級生、彼の表情には失望、落胆、虚無感が滲み出ている。総大将の正義を信じられぬ時、勇兵はかくも脆くなるのか。 - 94二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 02:24:59
少し腹に力を入れて大きな声で答えよう。周囲の整備兵たちにも聞こえるように。
アグネス「疑惑は疑惑よ!『議長がテロの真相究明を法的手続きを無視して妨害した』。しっかり判明しているのはこれだけ。そしてこれだけでも問責決議には足りる。これまで私達がして来たことは全部無駄なんかじゃなかったわ。後も事は後の事、今はそれぞれの持ち場で最善を尽くすわよ!」
メイリン、ヨウラン「はい!」
マッド・エイブス、ヴィーノ達「おお!」
目の前の人だけでなく、足元からも元気な返事が届く。大変よろしい。さて、コックピットハッチを閉じて、デバイスモニターを起動し、回線をブリッジと士官室に固定する。途端にアビーの大慌ての声が鼓膜を叩き出す。
アビー「グラディス提督!議長官邸から、ザフト広報局を通してメッセージが転送されてきました。アプリリウスにおいて議長が談話を発表したと!」
タリア「え…」
ブリッジ内のグラディス提督の表情が一瞬、激しく動揺する。やはり、あの男-やられっぱなしで済ますつもりはないようね。
アグネス「グラディス隊長、特務隊として上申します。艦隊、艦内には一先ず情報統制を。ただ、ブリッジとジェセック評議員、士官室、モビルスーツに搭乗中の特務隊、アスラン先輩と私とルナマリアは把握して共有するべきかと」
タリア「よろしい。そのように」
アーサー「はい」
一拍後、コックピットモニターに忌々しいワカメ髪が映り込む。いったいどんな談話を発表したのやら。何と無く予想が出来てしまうから、本当に嫌だわ。
アグネス「(議会側の手落ちね。先手を打たれた。取り戻せるか?!)」
私が反逆者扱いを受けたら、パパとママはどうなってしまう?連座制は中世の遺物だけど、それでも―。
アグネス「(悲しむか怒るか失望するか…、我が身の心配をするか。分からない。二人の気持ちは...。娘なのに)」 - 95二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 12:09:20
ほしゅ
- 96二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 17:31:16
談話ねえ?
一体何を言ってくるのやら - 97二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 19:55:28
少なくとも碌な事してないのは確定だからな。
アスランとアグネス辺りに内通疑惑をでっち上げるか…そう言えばアグネスの両親って元々ザラ派だった筈だし、最悪洗脳とでっち上げでアグネスとアスランに容疑を押し付けにくるか? - 98二次元好きの匿名さん25/03/12(水) 01:12:55
デュランダル「プラント、アプリリウス市民の皆さん、私はプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルです。突然の談話発表で穏やかな夜をお騒がせすることをお許しください。ですがお願いです。同じプラント国民同士が合い討つ事態を回避するため、どうか聞いていただきたいのです。無論、現在、私達と一時の不幸な擦れ違いを犯している数名の最高評議会議員及び幾割かの60人議会議員の同志たちにも」
アビー「ザフト広報局を通して、市内に各メディアから…」
タリア「そう…。司法局も全ては抑えられなかったのね」
ブリッジからはグラディス提督とアビーの息を潜めた会話が聞こえる。急なことだったから司法局も手が回らなかったみたい。それに議長の事、司法局が全て動員されても、なお、メディアに介入する術は確保してあっただろう。
先の大戦のクライン派のように。
デュランダル「まだ、お気づきでない市民の方も多いと思いますが、現在、プラント政府は二つに分裂してしまっています。一つは最高評議会議長官邸-つまり我々-、今一つは最高評議会ビルに立て籠もっている方達です。多くの血を流して、ようやく独立を勝ち取ったプラントが分裂しようとしています。コーディネイター唯一の安寧の地が、たったの一晩で!何故ですか?何故こんなことをするのです!誰が!?」
『誰が!?』の声で心臓が縮み全身に鳥肌が立つ!
6000万人の敵意の視線が私に向けられているような錯覚、恐怖。権力と影響力がある者に犬笛を吹かれた側の恐怖は、その立場になって見ないと理解できない。私も今日まではそうだった。
コックピットモニターの向こう、デュランダル議長は、最初は穏やかに徐々に激しくカメラの向こうの聴衆に語り掛ける。パフォーマンス力は一流、害悪も最大だわ。
デュランダル「経緯はこうです。私は数日前、匿名の国防事務局員からある警告を受けていました。『ロゴスが比較的若年で前線勤務、幹部クラスのザフト将兵に的を絞ってフェイクニュースを流布し、軍と議会ひいては最高評議会の分断を図っている』と。私はザフト軍情報省にそのことを伝えましたが…。結果的に間に合いませんでした」
アスラン「な、…。議長!」
アグネス「そういう筋書きで行くのね」 - 99二次元好きの匿名さん25/03/12(水) 01:24:37
インパルスの中で談話を聞いていたアスランと同時にほぼ口走る。なるほど、私(とアスランとメイリン)は敵の欺瞞に騙された愚か者。自分はそれを察知して備えを始めていたと言いたいわけだ。
アグネス「(一流の噓つきは真実の中に嘘を混ぜる。戦時下のこと『ロゴスの欺瞞情報注意の進言』自体は本当にあったのかもしれない。議長は情報省に『若年兵の欺瞞情報・プロパガンダ対策の強化』を本当に命じていたのかもしれない。それを今引っ張り出し根拠づけに利用しているのか。勿論、両方噓の可能性もある)」
だが、そんなものの真偽、今は関係ない。方便だ。取り合うな。
アグネス「(でも、パパとママはどう思うかな?談話の彼・彼女の正体が私であると察せられない程、愚鈍な人達ではない)」
二人の顔を思い浮かべる。父も母も理想が高く、我が子に求める物も相応に大きかった。負傷を厭わず手柄を挙げた私を見れば、流石に『良く頑張ったね』と言ってくれると思っていたが…。会う気になれないと言っている間にこんな事態になるとは思っていなかったわ。
デュランダル「本日、私が遅めの夕食を食べ終わった頃、私が最も信頼する最高評議会議員、ルイーズ・ライトナー女史から急な呼び出しを受けました。彼女曰く、プラント上層部に凶悪なテロリストが潜伏している恐れがある、と。その件で緊急の最高評議会を開くべきであるとも。その言葉には暗に私もそのメンバーの一人であるとでも言いたげな色を含んでいました。現にテレビ通話で目の当たりにした彼女は常の賢明さが剝ぎ取られ、その顔は恐怖で歪んでいました。それを見て、私は遂に恐れていた事態が訪れたことを悟りました。その後、直ぐに複数のザフト軍部隊に出動待機命令を発し、変事に備えさせました」
そこで彼は一度言葉を切り、カメラの前で如何にも『痛恨の思い』と言った表情を浮かべて見せる。演技がうまい。遺伝子学者より役者になるべきだった。
デュランダル「後は皆さんご存知の通り、疑心暗鬼に駆られた何名かの最高評議員は、立法委員長を抱き込み60人議会を招集。現在、最高評議会ビル周辺にバリケードを構え立て籠もっています。
私が今回の変事に際して取った方法は、突発的な事態であった故、幾つか手順を省いたものでした。そのことを不審がる議員が居たとしてもそのこと自体は責めようがありません」 - 100二次元好きの匿名さん25/03/12(水) 01:32:57
ここで自分の手続き違反を敢えて先に申告する当たり、彼は本当に狡猾で抜け目ない。後で開き直るための布石だろう。彼の話はまだ続く。
デュランダル「私も事態が収束し次第、可能な限り早く政治的責任を取りたいと思います。また、今回の返事の発生源はあくまでロゴスであります。大人の都合で始めた戦争の中、プラントの明日を思い懸命に戦ってきた若者を誰が責めるでしょうか?身も心も傷だらけの彼・彼女を敵の欺瞞から守れなかった。その純粋な心をロゴスに利用され過ちを犯させてしまった、これは総指揮官たる私自身の責任なのです」
そう言い切ると、議長の顔つきは何時もの冷静なものに変化する。微笑みさえ浮かべ余裕たっぷり、何も知らない人が見ればそう見えるはず。
そう言い切ると、議長の顔つきは何時もの微笑みを称えたものに戻る。余裕たっぷり、何も知らない人が見ればそう見えるはず。
デュランダル「最高評議会ビルの皆さん。どうかバリケードを撤去し、武器を引き渡してください。
私達の間に一時的に生じた、いや、世界の真の敵ロゴスに生じさせられた不協和音を取り除こうではありませんか。歴史の前例を思えば、気に入らぬ国の内部に不和の種をまき政変を生じさせることは彼らが好んで使う手段、惑わされてはいけません。
我々はもういい加減、こんな彼等の世界システムから抜け出すべきなのです。我々の本当の敵は連合でもナチュラルでも、まして同胞同士でもない。ロゴスこそを討たねば、また繰り返しです。同じ国民同士が争っている暇などないのです。
さあ、こんな得るもののない変事は終わりにして、また、共に言葉を交わそうではありませんか。最高評議会ビルに立て籠もる者全員に告ぐ。バリケードを解除し、武器を引き渡しなさい。また、議会の命令で動いているザフト部隊は速やかに通常任務に復帰せよ。アプリリウス市民の皆さんはどうか平静を保ってください」
最後の市民への呼びかけを以て彼の談話は終了した。政変の渦中なのだから追加があるかもしれないが…。
アグネス「はぁー。ふぅー、ハァァ――。フゥ」
アビスのコックピット内で、乱れかけた呼吸をゆっくり整える。不味いな。この路線で来たか…。
『悪いのは世界の真の敵ロゴス』。私達(と名指しされて居るわけでは無い)は純粋さを付け込まれた被害者。評議員・議員たちに悪気はなかった、と。 - 101二次元好きの匿名さん25/03/12(水) 01:47:19
アグネス「(そう言うことにして、矛を収めないか。議長の呼び水ね)」
無論、誘いに乗って矛を収めたら残酷で陰湿な復讐が待っているだろう。歴史の通例で考えれば、普通はね。想像もしたくない。騙されてはいけない。子供でも分かる。
アグネス「(ただ、問題なのは60人議会。急展開に振り回され続けている議員たちに動揺はないか、心配だ。議長が示した『落としどころに』安易に飛び乗る議員が出たら、どうしよう)」
いや、そのためにエザリアおばさまと忌々しきカナーバまで巻き込んだのだ。議会は何とかなるはず。ここまで来たら心中してもらうしかない。この任期に当たった生まれの不幸を呪ってほしい、私じゃなく。
何より、私達は眼前の敵にも対処しなければいけない。談話の感想は後回し、正体不明のナスカ級5隻の動きは、どうなっている?
バート「ナスカ級のモビルスーツ発進シークエンスを確認!」
タリア「デブリ戦に持ち込むつもりね。誘いに乗るな。後続の月軌道艦隊ナスカ級3隻に敵艦隊との距離をとらせ。アンチビーム爆雷とCIWSが多いミネルバがカバーします。敵の対艦攻撃に備え、ミネルバモビルスーツ隊発信シークエンス開始せよ。ただし深追いするな。マリク、回避行動時は味方の位置にも注意すること」
ブリッジ一同「了解!」
予想通り敵は遅滞戦術に出てきた。デブリを『胸壁』に引き込んでゲリラ戦、誘いに乗るな。アプリリウスに着くことが最優先だ。敵機撃墜、敵艦撃沈は後回し。
グラディス提督の号令の下、カタパルトデッキに明かりが一斉に灯る。アプリリウスに着くだけじゃない。僚艦、僚機一隻、一機も堕としてたまるものか!
アビー「カタパルト、オンライン、進路クリアー、ブラストインパルス、発進どうぞ」
アスラン「アスラン・ザラ、インパルス、発進する!」
アビー「続いて、アビス、発進どうぞ!」
アグネス「アグネス・ギーベンラート、アビス、出ます!」
頭を切り替えろ。気持ちを切り替えろ。パニックになった奴から落ちる。敵の機体すら不明なのだ。集中! - 102二次元好きの匿名さん25/03/12(水) 07:56:56
まぁ、ネームバリューが同等クラスだったからミネルバ組が疑心暗鬼で騙されたことにしたか
問題は、デブリベルトに潜んでいた部隊にブラックナイツが混ざってるかいないか… - 103二次元好きの匿名さん25/03/12(水) 14:31:16
本編からしてこの手の人心掌握パフォーマンスが本当に上手いものな議長は
ホンモノのラクスとミーアが同時にTVに映りでもしないと崩せるもんじゃない - 104二次元好きの匿名さん25/03/12(水) 15:21:18
>6000万人の敵意の視線が私に向けられているような錯覚、恐怖。権力と影響力がある者に犬笛を吹かれた側の恐怖は、その立場になって見ないと理解できない。
そんな中地球連合軍とザフト両方に喧嘩売ったのが三隻同盟なんだよな
フリーダムでもあいつら普通に戦艦パクっていこうぜとか笑顔で言ってるし
なんていうか肝座りすぎだろ、うん
- 105二次元好きの匿名さん25/03/12(水) 19:47:03
アグネスも戦闘できる状態か、これ?
アスラン、お守りしてもらってる分頑張れ! - 106二次元好きの匿名さん25/03/13(木) 03:30:25
アスランが搭乗するブラストインパルスと私が操縦するアビスに続いて、ルナマリアのガイア、ショーンとデイルのグフ2機、ガナーザフファントム3機が発艦する。
ザク3機はミネルバの直掩を務めてくれる。オレンジの機体と白の機体、バーガンディー色の機体はそれぞれハイネ先輩とレイ、私のお下がりだ。
デブリ戦に備え編隊を整えているのはFAITH3人組とショーンとデイルの5機。ジン長距離強行偵察複座型1機が先導してくれる。もう一機の偵察型ジンはミネルバの進路を偵察中。
ミネルバ本体の守りはガズウート隊6機が担当する。彼らは甲板エレベーターからせり上がり、左舷右舷3機ずつ砲台として何時もの定位置に着く。いざとなったら甲板に飛び出すバクゥハウンドはブレイズウィザードを装備して格納庫内で待機している。
アッシュ3機とAWACSディン2機に関して今は待ちだ。パイロット達にはアプリリウスまで英気を養ってもらう。
ミネルバを追い越して一足早くL5に向かうナスカ級3隻を見送る。見捨てられたのではない。彼ら3隻にはグラディス提督から現宙域からの急速離脱及びミネルバの浮沈にかかわらず首都に急行せよとの厳命が下っている。敵の狙いは此方の足止め。戦力の分散も一時的に止むを得ない。
アグネス「(ミネルバが無事なら追い越せるわ。平気よ!)」
議長の談話を聞いた直後、乱れる心を必死に宥め、私達5機は地球を取り巻く円環の輪に接近していく。
コックピットモニターに最高に不機嫌そうなアスランの顔が映り込む。フキハラしないでくれるかな。
アスラン「ブリッジから命令が通達された。『本艦もナスカ級に続いてこの宙域を通過する。その間、アンノウン5隻と艦載機を威圧せよ。深入りは禁止する。ミネルバが距離を稼げたタイミングで帰還せよ』と」
なるほど。威圧、この件に関してはそれが正解か。
アグネス「了解。『ショー・オブ・フォース(殺傷兵器の使用を伴わない航空機の威嚇飛行)』が当面の方針と言う事ですね。長く足を止める訳にもいかないですから」
アスラン「そうだ。それにアンノウンが議長の命令に逆らえなかった友軍の可能性もある」
『命令に逆らえなかった』の部分で今度は物憂げな表情に…、この人の相手は本当に疲れる。どこに地雷があるやら。 - 107二次元好きの匿名さん25/03/13(木) 03:45:30
前を行く偵察ジンからコックピット回線に連絡が入る。よそ事を考えている暇などない。
偵察ジンパイロット「デブリ帯の陰から、大量のミサイル、ミネルバに急速接近中!大型ミサイル96、 小型ミサイル96、M66キャニス短距離誘導弾発射筒より発射と推測。ミネルバブリッジにも同時報告!」
一気に!?奴らも思い切ったことを。
モビルスーツ隊一同「了解!」、アグネス「了解(敵はジンかザクか?)」
なんでも良い、今は!レーダーに光点多数、敵は漂うデブリの隙間を『銃眼』にしている。
タリア「モビルスーツ隊、全機ミサイル迎撃始め!」
アーサー「トリスタン、CIWS起動。目標、飛来中のミサイル群!」
チェン「はい!」
アスラン「ジンは位置を保持してミサイルの監視、位置情報を逐一。ガイア、グフ2機は少し下がりミネルバと連携しつつ確実に墜とせ。アグネスは俺と前に。先に落とせるだけ落とすぞ!」
アグネス「了解!」
アスランの指令とほぼ同時にアビスの両肩部シールドを跳ね上げ、3連装ビーム砲×2を発射、暗黒の宙を直進するビームの先が6機のミサイルを捉えたことを確認する。
チャージが終わった腹部のカリドゥス複相ビーム砲も砲声を轟かせる。音もなく飛び出した光は虚空を薙ぎ払い、1拍後には10発のミサイルが爆散したことをレーダーが知らせる。
アスランのブラストインパルスも大火力を投射、大きく旋回しながらケルベロス高エネルギー長射程ビーム砲とデリュージー超高初速レール砲を掃射すると30発程のミサイルはたちまち火球に変わる。
アグネス「(この感じは久しぶり。でもこの程度のミサイルの波状攻撃程度なら―)」
発射武器はM66キャニス 短距離誘導弾発射筒と推定、ただそれだけでは敵機体を計ることは出来ない。束の間の思索を断ち切る急報が先行する偵察ジンから入電する。
偵察ジンパイロット「敵モビルスーツ12機、本機に急速接近!機種不明!光学映像送ります」
アグネス「了解!急速退避、援護に向かう!アスラン先輩許可を!」 - 108二次元好きの匿名さん25/03/13(木) 03:52:48
反射的に叫ぶとアビスのスラスターを全力で吹かせる。光学映像確認、黒ずくめの偵察ジンを狙うかのように敵1個中隊12機が接近中だわ。
何の積もりか、12機は頭部メインカメラとスラスター部分以外を黒色のマントで覆っている。マントの素材は戦闘中破れないよう強化素材を使用していると推測、ステルス機能はない。ただダークダガーと同じように宇宙で黒色では確認しにくかったはず。発見が遅れたのは仕方ない。
アグネス「(アビスの機動力で間に合うか?インパルスもブレストシルエット…。いや―間に合わせるだけよ!)」
私の叫びに呼応するように、続いてインパルスのスラスターも唸りを上げる。
アスラン「許可する。連携を。ジンはアグネスの言う通りに。回避飛行を繰り返しながら安全圏まで退け。俺も行く」
偵察ジンパイロット「了解」
ジグザク飛行しながらこちらに駆ける偵察ジン。後方から追いかける敵機12機。先に跳び出したアビスを先頭とインパルスの2機編隊が援護に急行中、モニターに映った光学映像と目前の機体の一致を確認する。
敵機はシールドとライフルを構え偵察ジンに肉薄しつつある。内9機は76mm重突撃機銃を装備、残る3機は―。
偵察ジンパイロット「うわぁぁぁ―」
3機が抱えるビームライフルから見慣れた緑色のビームが放たれ、射線上のジンに襲い掛かる。恐ろしく正確な見越し射撃だ!
アグネス「間に合った!」
アビスの右側肩シールドを突き出すように突進し、寸ででジン長距離強行偵察複座型とビームの間に割り込む。安心する暇も無い。直ぐに敵のビームライフル第2射が襲い肩シールドの表面を2本のビームが滑る。さらに―。
ぞくっとした感覚に襲われ、ほとんど勘でビームランスを振るう。その直後、対ビームコーティングされたランスの柄に方向を逸らされたビームが暗黒空間の先に消える。 - 109二次元好きの匿名さん25/03/13(木) 04:21:49
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- 110二次元好きの匿名さん25/03/13(木) 04:25:05
即座にアビスをモビルスーツ形態に変形し、カリドゥス複相ビーム砲で目の前まで来た10本のミサイルは何とか薙ぎ払う。その後ろからビームライフル装備組の黒マントはしつこく偵察ジンを狙ってビームを撃ち続けている。
彼を庇うべく、もう一度、宙を跳躍し、肩シールドでビームを弾く。だが、その直後、狙いすましたかのように20発以上のミサイルが降り注ぐ。
アグネス「!?」
カリドゥス複相ビーム砲のチャージは終わっていない。肩シールドを上げれば隙ができる。止む無く肩部20mmCIWS2門と12.5mmCIWSで迫りくるミサイルを撃墜する。
アグネス「おげぇ…。げぇ…」
当然その距離での撃墜だから衝撃は免れない。宇宙空間は地上の様な障壁はない。空気抵抗もない。ミサイルが目の前で弾け、目が眩むような光が網膜を焼いた後、頭に金属バケツを被せられ、野球バットで殴られたような衝撃が全身を襲う。それが延々と繰り返される。
地獄のような時間、徐々にミサイルは機体に近づいてくる。時間が限りなくゆっくりとなる。命の危機が迫った時に起こるあの現象、脳が危機回避の術を必死に探している故と聞く。
無駄に回転し始めた脳みそのおかげで敵の狙いにやっと気が付く。
アグネス「(こいつら、これが狙いか。最初から狙いは主力機。味方を守りに庇いに来たところを仕留めるつもりでいた。弱い味方を守りに来た敵を叩く。よくある手に引っかかるとは…)」
私は馬鹿か。自分勝手気ままに生きて、手柄を上げて、上に行くつもりが…。こんなしょうもない死に方をするとは。
失望感と虚脱感、そして―やっと楽になれたという安堵感が脳裏を駆け回る。レーダーに目線を遣ると偵察ジンは無事安全圏に。良かったわ。―意義ある死を見つけることが出来たのか、私は…。
そう思い、自己完結しようとすると―レーダー上にはデブリ帯に高速で接近する光点が3つ!
ルナマリア「アグネス、無事?!今行くから!」
ショーン「待っていてください!」、デイル「行くぞ!」
ルナマリアとショーンとデイル。アホか!罠だわ! - 111二次元好きの匿名さん25/03/13(木) 04:42:13
このままではみんな死ぬ。そうよ!うぉぉ!ここで死ぬわけにはいかないわ。
アグネス「(3人道ずれになったら収支が合わない!いや、収支ってなんだ。しっかりしろ)」
右肩を前に。スラスターを微調整しながら、意識を失ってたまるものか!
接近しつつあるミサイル群に少しでも持ちこたえられる態勢に再びアビスを調整する。電力ゲージは絶賛低下中、もう目前まで接近してきたミサイルの型番まで読めそうだ。
アスラン「アグネス!」
コックピット回線から短いアスランの呼び声が響き、半拍後、シールドまで指呼の間にしまったミサイル群がケルベロス高エネルギー長射程ビーム砲で薙ぎ払われる。爆発の衝撃でアビスは後方に一度、吹き飛び私の意識は一瞬、ブラックアウトする。
アスラン「アグネス!無事か?!」
遠くから聞こえる彼の声、周囲は暗い。どうなっている。
アスラン「アグネス!」
アスランの叫びがコックピット回線を震わせ、見開いたままの両眼がコックピットモニターを認識する。本当に危ない所だった。
気が付けばブラストインパルスは傍でフルバーストを開始している。デリュージー超高初速レール砲が残りのミサイル群を吹き飛ばす。インパルスは猛火を噴き出しながら、自機もアビスの前に割り込み、アビスに衝撃によるダメージがこれ以上累積することを防ぐ。
アグネス「(アビスと言うより私の体に、ね)」
あっちこっちが痛い。良し、生きている証だ。目の前がまた、グラックアウトしそうだが、我慢する。両足の指、親指から小指。両手の指、小指から親指を動かしてみる。ちゃんと問題なく動く。頸椎、脊椎は無事だ。
アグネス「あ…。ごぉぇ…」、『アスラン先輩大丈夫ですか?』が言えない。
そんな私を励ますようにアスランは再度、声を掛ける。
アスラン「良くやった」
アグネス「は…、い」 - 112二次元好きの匿名さん25/03/13(木) 05:09:29
※操作を間違えました。この部分はこの部分は下記のとおりです。
アグネス「(危なかったわ…。0.01 秒遅かったら、あのビーム、髪一つ分の傍らを通り過ぎてジンの背中を打ち抜くところだった―)」
敵の猛攻が止まる気配はない。76mm重突撃機銃装備の9機は各機の両下脚から3発ずつ連続してミサイルの発射を開始する。3連装短距離誘導弾発射筒も流出…。ガバナンス不全の国防委員会、許さないわ!
そう強がりを内心で独白する。仕方ない。残された選択肢は一つ、この攻撃、二人を自分と彼を守るには―。敵のビームライフル第3射目が来る前にアビスをモビルアーマー形態に変形させ、楕円形の盾となる。そうしてアビス全体を使ってジンを隠し、回線越しに叫ぶ。
アグネス「直進!私を盾に」
偵察ジンパイロット「は…、はい!」
アビスの両肩部シールドはヴァリアブルフェイズシフト装甲と対ビームコーティングを施されている。何とか―。直後に、私の背中をバットでフルスイングされたような衝撃が襲う。
アグネス「ぐぅ…。ごぇ…」
眼の奥で火花が散り、背骨が砕かれたかもしれないと言う恐怖が脳裏をかすめる。胃袋の内と外が引っ繰り返り、半分消化された今晩のディナーが胃液と共にヘルメットの中にぶちまけられる。
今の敵ビームライフル第3射目で背部のバラエーナ改2連装ビーム砲は爆散した。残念ながら砲塔には対ビームコーティングはない。それは覚悟のこと。
- 113二次元好きの匿名さん25/03/13(木) 14:55:57
保守ついでに応援。めっちゃ面白いので完結まで走ってほしい
- 114二次元好きの匿名さん25/03/13(木) 15:40:57
また意識飛ばしかけてる⋯
- 115二次元好きの匿名さん25/03/13(木) 17:50:10
またアグネスが負傷しとる…
- 116二次元好きの匿名さん25/03/14(金) 00:19:00
怪我してるところより怪我してないところ数える方が早いってレベルにボロボロ
- 117二次元好きの匿名さん25/03/14(金) 00:26:36
アスラン「うん」
アスランの頷く声が思いのほか優しく私に届く。その間、ブラストインパルスはケルベロスをひっくり返し、4連装ミサイルランチャーからファイヤーフライ・誘導ミサイル8本を例の素早しこい3機に向け同時発射している。彼らがこの非正規部隊の主力にして最精鋭だろう。
インパルスに庇われた私もすぐに態勢を立て直す。戦場でお荷物になるようでは西暦時代の一時のハリウッドヒロインと同じだわ。末代までの恥よ。
アビスの武装がアスランに当たらないよう射角を調整、済むや即、両肩部シールドを跳ね上げ、フルバーストを極める。3連装ビーム砲2基は76mm重突撃機銃装備の9機中6機を狙い、カリドゥス複相ビーム砲は敵精鋭3機を焼き尽くさんとする。
次の瞬間、コックピットモニターに76mm重突撃機銃組6機が火の玉に代る様が映し出される。やはり、こちらの正体はジンだった。爆散時に黒マントが捲れ上がり燃え尽きる瞬間、視認したから間違いない。不思議なことにマントの下の頭部と胸部にまでヴェールを巻いていた。
アグネス「(そこまでモビルスーツの頭部と胸部を隠す意味などあるのか?)」
どうでも良い。今はそれどころでは無い。
一方の3機、その軌道は超能力者じみている。インパルスが放ったファイヤーフライミサイルの内、6本は躱され3本はビームライフルに撃ち抜かれた。アビスが放ったカリドゥス複相ビーム砲の大ビームもさえも避ける。予めそこが攻撃されると知っていたかのように。
アグネス「(いわゆるスポーツでいう所のゾーンかな。シンやアスランも偶になるやつ)」
そう当たりをつける。残念ながら私は今、その状態にない。今できることを粛々と為すのみ。残敵に犯行の兆し有り、ブレストインパルスもアビスも接近戦可能機だが、得意な機体とまでは言えない。あの3機は強い。
アグネス「もう一度盾になります。攻勢を続行すべきです」
アスラン「…分かった」
アビスのスラスターは吹かせたまま、両肩シールドは素早く畳み、変形しながらインパルスの足元を潜り、回転しながら前に出る。ヴァリアブルフェイズシフト装甲と対ビームコーティングを施された『甲羅』部分でアスランの盾になるためだ。 - 118二次元好きの匿名さん25/03/14(金) 00:39:23
その直後に臀部の下から強烈な衝撃が襲う。尾骶骨から頭蓋骨の天辺まで雷が奔り、骨盤が砕けたかと錯覚するほど。
アグネス「ぐぅぅゥ…」
何が起きたかモニターで確認するまでもない。あの3機の攻撃でアビスの両脚部が吹き飛んだのだ。アビスの両肩シールドは潜水艇型になっても膝上までしか守ってくれない。ビームライフルに撃ち抜かれて両脹脛と右足膝裏が爆散した。
アグネス「(ハイネ先輩ごめんなさい)」
さらに止めとばかりにジン3機が76mm重突撃機銃をフルオートにして突撃して来る。すでに電力ゲージはギリギリ。このメーターが下がり切ったら―、お終い。終わらないのだけどね!彼が討つから。そのために前に出たのだから。
アスラン「攻撃を開始する。射線に注意」
アグネス「了解」
短い号令と共にもう一度、ブレストインパルスの全火力が残敵6機に投射される。精鋭3機にはケルベロス高エネルギー長射程ビーム砲1門とデリュージー超高初速レール砲2門が咆哮を上げ、ジン3機にはケルベロス1門が牙をむく。
瞬きする間に暗い宙には火球が3つ、ジンの方だ。案外楽に墜ちた。
しかし精鋭3機はそうはいかない。彼らは巧みに対ビームシールドを操作し、先ずレールガンから撃ち出された砲弾を受け流す。そのまま機体を急旋回させ、もはや勝ち目が無くなった戦闘からの離脱を計るが…。こちらが見逃す道理はない。その背中をケルベロスが焼き払う。
アグネス「(敵ながら惜しい才ではあったけれども…。うん?!)」
大ビームの光が消えた先には遠ざかる黒いモビルスーツの背中が3つ。
あの3機のモビルスーツはマントの下も黒色だった。後ろを向いているから判然としないが、機体の輪郭はセカンドステージシリーズに近い。強いて言えばフォースインパルスに近似する。しかし―。なぜビームを喰らって平然と行動しているのか!?
アスラン「やはり、アークエンジェルを襲ったやつらか…」
アグネス「はい?!」
苦虫を嚙み潰したような声がコックピット回線から聞こえる。その声を聴いて事情は何と無く察した。でも、それは後。嘔吐物塗れのヘルメットを脱ぎ捨て、アビスをモビルスーツ形態に戻す。敵の気が変わるかもしれない。 - 119二次元好きの匿名さん25/03/14(金) 00:52:10
アグネス「(そうなったら、どうする?他がジンだとすれば、彼らは第1時攻撃でM66キャニス短距離誘導弾発射筒の中身を空にしている。しかし、ナスカ級に戻って補充を受け、改めて第2次攻撃を仕掛けてくるかもしれない。アビスはボロボロ、電力は限界だわ)」
そう思うと急に心細くなる。
ルナマリア「アグネス、遅れてごめん!」
ショーン「ごめんなさい」、デイル「しっかりしろ」
その直後、心強い我らの戦友達、ガイアとグフ2機が駆け付けてくれる。3機はインパルスと傷付いたアビスの盾になるように布陣し、万一に備えてくれる。
本当にありがたい
そうだわ!急いで判明した事実を報告しなければ!驚天動地の思いとはこのことよ。
アグネス「ミネルバブリッジ、全モビルスーツに報告します!敵主力機にはビーム兵器が通じません。全身に対ビームコーティングが施されていると推測。コーティングの下がヴァリアブルフェイズシフト装甲である可能性も否定できません!」
アビスの肩シールドと同じ手法を機体全体に施せるとは想定しがたいが…。いや、楽観するべきではない。アスランを抜かしてしまったが事は一刻を争う。止むを得ない。
タリア「ボスニア湾の時のテロリストね」
ショーン「ボスニア湾の時と同じだ」、デイル「あいつら宇宙まで来やがったのか!傭兵だったのかあいつ等!?」
周囲の反応で肩透かしを食らう。ああ…。なるほど、そう言えば―。アスランの反応によると、連中はボスニア湾北部でアークエンジェルを攻撃したテロリストの一味の疑いがあると。であれば別行動組以外は皆一度見ているのか…。
コックピットモニターにルナマリアの顔が覗く。彼女は惨憺たる有様のコックピットを目にして、少し顔を曇らせる。ただ、それはそれとして訳知り顔で私に話し掛ける。
ルナマリア「報告書の通りね、アグネス」
アグネス「朝まで昏睡よ、私。その後は公務…。読んでいるわけないじゃない!」
ちょっとムスッとして返したタイミングで、ミネルバの方向から信号弾が輝く。『攻撃停止、速やかに帰還せよ』。敵の装備は脅威の上、タイムリミットは迫っている。これ以上危険宙域にとどまる意味なし、と。賢明ね。 - 120二次元好きの匿名さん25/03/14(金) 00:59:34
デブリ帯の端から皆に護衛されつつ、中破したアビスでミネルバまで必死に進む。途中で遂にフェイズシフトダウン、本当に危ない所だった。
偵察ジンパイロット「本当に申し訳ありません」
退路を見張ってくれている偵察ジンのパイロットは何度も何度も私に謝罪とお礼を言ってくれる。当然のことをしたまで、本当に大袈裟な。
アグネス「ありがとう。お気になさらず、ただ再発防止を。出来ればレポートに書き出して然るべきタイミングでトライン副長とアスラン先輩にアドバイスを仰いで下さい。今夜の戦いはまだこれからです」
偵察ジンパイロット「はい…。ありがとうございます」
ちなみにこの戦闘は私達の負けだわ。ジンを9機墜としたは良いが、敵に時間稼ぎという目的を果たさせてしまった。奴らの正体も気にはなるが、今は後回しにせざるを得ない。
アグネス「(60人議会はどうなったのだろう。こちらが痛い思いをしている間に白旗でも上げていないでしょうね?もし、私が断頭台の露と消える事になれば後世の歴史家が黙っていないわよ!)」
(カウントMS1038〈+共同撃破多数〉 デストロイ2(共同) セカンドシリーズ1(共同) 大型MA22(共同2)
戦闘機56 対MS戦闘ヘリコプター245 大型輸送機33〈+共同撃破多数〉 VTOL輸送機33〈+共同撃破多数〉 長距離偵察機1
リニアガン・タンク141〈+共同撃破多数〉 自走リニア榴弾砲210〈+共同撃破多数〉 ブルドック220〈+共同撃破多数〉 工兵車60<+共同撃破多数> レーダー車7 汎用車両・兵站車両・軍用トラック等297〈+共同撃破多数〉
地対空75mmバルカン砲塔システム7 大型砲20 ヘルダートタイプ・ミサイルランチャー5基 50mmガトリング砲9
空母12 イージス艦16 フレーザ級6 攻撃型潜水艦2 大型輸送艦1 コルベット艦2 哨戒艇1 軍用艇3 アガメムノン級14 ネルソン級14 ドレイク級17 リフレクターシールド装備型ドレイク級10)
- 121二次元好きの匿名さん25/03/14(金) 07:48:41
☆
- 122二次元好きの匿名さん25/03/14(金) 13:44:31
どうなるかなこれは
- 123二次元好きの匿名さん25/03/14(金) 14:02:18
思いっ切りブラックナイトスコードが介入してるからバレたらこの先プラントからファウンデーションへの信用が0になるな…
- 124二次元好きの匿名さん25/03/14(金) 15:13:56
ファンデーションはデュランダルの私兵って認識になるだろうけど、ちょうどコンクルーダーズなんてこれ見よがしな機体ロンダリングして出てきそうな…
ブラックナイトスコードってルドラがデスティニーの簡易量産機って言われるくらい似てるし
ブラックナイツ仕様って扱いで黒と差し色されたデスティニー与えられて来そうな… - 125二次元好きの匿名さん25/03/14(金) 23:23:57
保守
- 126二次元好きの匿名さん25/03/15(土) 03:17:56
アビスを真中に抱え、デブリ戦組6機はよろよろとミネルバに着艦を果たす。一番、危ないポイントは過ぎたが、L5宙域までの旅路は長い。2連装高エネルギー収束火線砲『トリスタン』と多数のCIWSはL2宙域を睨んでいてくれる。
それにしても自機が傷ついている時ほど母艦を頼もしく思う。そして、もう一つ頼もしく思うのが―。
看護兵「大丈夫、助かります」
衛生班だわ。お世話になりっぱなし。コックピットを開けるや看護兵が挨拶代わりのように励ましの言葉をかけてくれる。大型昇降機の上にはストレッチャー、二人の女性看護兵は慎重に操縦席から私を移し、姿勢は右側を下に横たえる。
アグネス「(今回はそこまでではないと思うのだけれど…。素人判断は禁物か)」
何やら周囲は私に敬礼してくれているが、大袈裟な。
ルナマリア「頑張ってね!」
アグネス「あのね…。貴女もこれからが本番よ」
看護兵「いいから行きますよ!」
駆け寄ってくれたルナマリアとゆっくり会話をしている暇もない。キュルキュル響く車輪の音と共に進むストレッチャーに我が身を預ける。
少しぼうっとする意識の外、折悪く艦内放送が流れ出す。何かしら本国で何かしら重要な展開があったらしい。仕方ない。痛いし、苦しいけれど、もう一度意、識を研ぎ澄ませよう。
なになに―。
カシム「私はヤヌアリウス市選出の最高評議会議員にして立法委員長アリー・カシムです。アプリリウス市民の皆さん、ザフト軍諸君諸姉にお知らせします。
本日、私は他の8名の最高評議会議員、ルイーズ・ライトナー女史、タカオ・シュライバー国防委員長、オーソン・ホワイト氏、パーネル・ジェセック司法委員、アラン・クラーゼク国防委員、エドアルド・リー国防委員、リカルド・オルフ国防委員、ノイ・カザエフスキー女史と協議の結果、立法委員長にして60人議会議長の権能において緊急の60人議会を開催しました。
議題は『プラント政府機関及びザフト軍のガバナンス強化の要求』、そのための『最高評議会の即時開催要求』、そして今回の議長の強権的措置に対し『ザフト軍動員時の国防委員会及び軍内部手続きの厳守要請』、『不正に発令された軍部隊への命令の無効を確認する決議』の4点でした。プラント60人議会はこの4つを全会一致で可決しました」 - 127二次元好きの匿名さん25/03/15(土) 03:29:19
良し!第一関門突破だわ。しかし考えたわね、彼らも。
アグネス「(『ユニウスセブン落下テロの極秘再調査』とストレートに言えない。それなら『プラント政府機関及びザフト軍のガバナンス強化』と言い換ればよい、と。それでも嘘は付いていないものね)」
カシム評議員の発表の核心部を聞いた段で医務室に到着する。プシューと言う音と共に自動扉が開くと中には軍医殿とデバイスを2つ抱えたメイリンの姿、気を聞かせてくれてありがたい。艦内放送もちゃんと聞こえるように設定してくれてある。
『病室は静かに』という常識も今日この時に限っては、別けてもFAITH相手では二の次ね。仕方ない。他の患者は避難済みよ。
私が放送に聞き耳を立てる中、看護兵二人はパイロットスーツを脱がしに係る。メイリンはデバイスの画面を私に見える位置に置いた上で、吐瀉物塗れの私の顔を温かいタオルで拭ってくれる。
アグネス「ありがとう、メイリン」
メイリン「いえいえ。お疲れ様です」
横に寝かせてくれたので画面も横向きだわ。脳内で回転して補正しないとね。デバイスに映る面子は3人。声明を読み上げているのは中央のカシム評議員、60人議会議長でもあるから出番となったわけね。右手にはライトナー評議員、左手にはシュライバー国防委員長、なるほど、勝負に出たわね。
カシム「順序を立てて話しますまず、先頃、デュランダル議長が発表した談話には重大な誤りが含まれています。それは『認識の差』の一言で済ませるには大きすぎるもので…。我々は…単なる憶…や陰謀論…」
カシム評議員の発表は砂嵐の様なノイズの向こうに消える。またか!放送局は司法局が抑えたのではなかったの!?
傍らのメイリンが少し落胆して溢す。
メイリン「ボスニア湾の時と似ていますね」
アグネス「ええ。それだけでどうとは言えないけれどね」
ボスニア湾はいい。問題は今日だわ。電波を抑えられた。そうなると議長はどう出る?嫌な予感がする。
ミーア「わたくしはラクス・クラインです」
嫌な予感が即的中。放送のノイズが一瞬で吹き消されるとデバイス画面にはラクスことミーア・キャンベルの姿が映り込む。身に纏うはあの趣味が悪い勝負服だ。 - 128二次元好きの匿名さん25/03/15(土) 03:42:20
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- 129二次元好きの匿名さん25/03/15(土) 03:46:52
看護兵「ミーアさん?」、看護兵「あれ…。不味い?私達…」
私の世話をしてくれている看護兵二人も焦り出す。でも、手は止めない。パイロットスーツを脱がせると次は病院服を着せてくれる。焦っても手を止めてはいけないのは非戦闘部門でも変わらない。
ミーア「現在、プラント首都アプリリウスで発生している変事は、もう皆さんもご存じのことでしょう。プラントの賢明な指導者の皆さが…。デュランダル議長始め最高評議会議員の皆さま、60人議会議員の方々がどうして擦れ違いを起こしてしまったのかは私も理解することは出来ません。しかし―」
ミーアのバックから推察するにこの放送はシャトルの中からのもの。やはり、地球を発つことは止められなかったと見える。このまま彼女はL5の本国に向かうのだろう。
看護兵二人「一、ニ、三、はい!」
アグネス「おっ…と」
ミーアの演説の最中、看護兵は私を問診用の椅子に座らせる。一方の軍医殿は精密検査の準備を終えた所だ。何とも日常的、戦闘中の軍艦の医務室を日常呼びはおかしいが…。
大舞台に立つミーアを目にすると何故か込上げるものがある。
アグネス「(歴史の流れは確かに劇的かもしれない。でも流される小舟の中の人たちにはそれぞれの居場所でなすべきことが有る。映画やドラマでは省かれる何かが、ある)」
衛生班のそれは粛々と負傷者の検査・治療を行うこと。そのためには冷静な振舞いを心掛け、何より私の心の不安を取り除くことにある。現に私達は―私とメイリンーは彼女たちの落ち着いた所作を見て、動揺から立ち治れた。
ミーアを馬鹿にするわけでもラクスを軽視するわけでもない。でも、彼女の呼びかけより我が身を委ねるに足りるものが私の傍にはたくさんある。叶うならミーア自身にとって私達もそうでありたいが…。今日はその日ではない。彼女は議長側で参戦だ。
ミーア「しかし、どのような経緯があったにしても今、プラントはブルーコスモス、ロゴスとの戦いの渦中です。彼らの盟主、プラントに核を放つことも巨大破壊兵器で街を焼くことも、子供達をただ戦いの道具とすることも厭わぬ人間、ロード・ジブリール。そして彼が率いる邪悪な組織ロゴス。これらをまず討たねばなりません。プラントの皆さん、敵の分断工作に乗せられてはいけません。どうか…」
ミーアが話している途中でまた砂嵐が画面を駆け抜け、放送を途切れさせる。 - 130二次元好きの匿名さん25/03/15(土) 04:02:24
遥かな宙の先で次々替わる演者達、今夜は本当に忙しない。
一方、ミネルバ医務室ではこれ幸いと、タイミングを見計らっていた軍医殿が私の問診を始める。彼のジェスチャーに応じて、医務室の艦内放送とデバイスの音声は一度落とされる。
軍医「舌を出して。よろしい。痛いところはありますか?」
アグネス「体中が…。特に首と背中と腰とお腹と…」
軍医「なるほど。多すぎますね」
何ともアナログなやり取りだが、まだまだこう言った検査方法も現役だ。電子書籍の時代になっても羊皮紙やパピルスが、なお分野によっては用いられていたように。と言うか印鑑とか封蝋とか国璽はその最たるものだ。
軍医殿はそのまま聴診器を体のあちこちに当て始めるが―。
軍医「これはいけない!直ぐに検査装置に。その後は手術だ。準備を」
看護兵二人「はい!」
軍医殿の慌てぶり、大ごとになりそうな予感がする。看護兵二人は急いで私を精密検査室に移送し、装置のベッドに寝させる。精密検査装置の形状は西暦時代のMRIによく似ている。言うまでもないが検査の精密さと必要時間の短さは昔の比ではない。
でも、私の注意はL2を駆けるミネルバの医務室ではなくL5の最高評議会ビルにあるのだけれど。
アグネス「検査中も音声をヘッドホンに流して下さい」
軍医「分かりましたから!あなた本当に平気なんですか!?」
アグネス「多分、脳内麻薬が…」
そう話す間もメイリンはデバイス画面を掲げてくれている。検査室のガラス壁の向こうからよく見えるわ。
画面を見ると、ミーアは消えてまた5人の人影が映る。真中の3人は最初の方達。その両側にはエザリアおばさまとカナーバ(消えろ)、いよいよ議会も切り札を切って来た。総力戦ね。
アグネス「(ミーアの放送のジャックを吹き飛ばしたのは、多分この二人の力技によるものね。元々、放送局を『抑えてはあった』のだから)」
しかし、カナーバ。よく表舞台に顔を出せるわね。こうなったのも元はと言えばあの女のせい。責任をとって切腹して欲しいくらいだわ。 - 131二次元好きの匿名さん25/03/15(土) 04:15:28
それはさておき―。精密検査機の筒の中に身体が入り切るとヘッドホンを着用する。身を包む機械がゴゥゴゥと音を立てている。外界との接触はこれが頼りだ。
味方のスピーチを聞こう。
カシム「まず、先ほどラクス様が仰ったように我々は今、重大な歴史の試練に直面しています。国民同士がいがみ合う暇はありません。しかしながら、先頃、デュランダル議長が発表した談話には重大な誤りが含まれています。それは『認識の差』の一言で済ませるには大きすぎるものです。我々は単なる憶測や陰謀論から最高評議会の緊急開催を求めたものではありません。明白かつ現在の危機に迫られてのものです」
ふむふむ。そう言えばカシム評議員は今の『ラクス様=ミーア』をご存知ないわね。まあ、どの道、ここで発表したら手が付けられなくなる。そっちはそっちで何とかしよう。
カシム「それはプラント、ザフト軍上層部のガバナンス不全です。すでにお気づきの方も多いかと思いますが、今大戦において我が国は多くの失策を犯しています。貴重なモビルスーツの流失・紛失、国家・民衆の運命を左右する重要情報への上層部の感度の低さ。
これらを早急に解決しなければ国民に国民の負託に応えられないのみならず、友邦諸国に対しても申し訳が立たないでしょう。プラント、ザフト軍の上層部にテロ組織への協力者・共謀者が潜んでいる可能性も排除できません。
我々が議長に最高評議会の緊急開催を求めたのは『このような時に』ではなく『このような時だからこそ』です。だからこそ、彼が目先の損得に囚われて強権を発動したのは残念でなりません」
精密検査装置から発せられる赤い光線が足先から徐々に頭の方に上ってくる。この検査が終わったら私はどうなるのだろう。今日ばかりは昏睡するわけにはいかない。手術にしても何とか部分麻酔に出来ないものか…。
カシム「また、60人議会が複数の実力部隊に行動を促したのは、あくまで議長が軍を不法動員したことへの自衛措置です。先に軍に手を出したのは議長の方です。
それはそうとて、現在、議会の命を受けて行動中の部隊及び個人について、その行動と結果の責任は全て我ら最高評議会議員と60人議会にあり、彼らにはありません。この変事の振舞いを理由としたあらゆる不利益処分から、彼ら彼女らは完全に免責されると念を押して、ここに宣言します」 - 132二次元好きの匿名さん25/03/15(土) 04:25:26
強く言い切る彼の口調に頼もしさを感じる。特務隊と言う身分でも普段、立法委員長とは関りがない。カシム評議員の事も内心頼りない人間だと思っていた。この大一番で中々やるではないか。
カシム議員のスピーチの後はライトナー評議員の番。彼女は議長と議長側陣営の人々に呼びかけている。
ライトナー「デュランダル議長、今からでも遅くはありません。ザフト軍部隊に不法に発令した命令を取り消し、議長官邸に呼び集めた部隊の武装を解除してください。
我々は今晩の事で彼らを不利益処分に処すことはないと確約いたします。そして、その上で、議長、どうか最高評議会ビルにいらして下さい。身の安全は絶対に保証します。必要とあれば迎えの者も送ります。この不幸な変事を収束させる努力を自ら為すべきです」
シュライバー国防委員長からはザフト軍へのメッセージが発せられる。
シュライバー「議長から命を受け行動している、若しくは、しようとしているザフト軍将兵に告ぐ。その命令は不法に下されたもの、無効だ!国防委員長の権能において命じる。不法命令に動じることなく議長側の全部隊は通常任務に復帰せよ」
シュライバー国防委員長が久しぶりにキリっと決めた所で精密検査は終了し、筒状の空間から私は引き出される。
アグネス「軍医殿。どうでしたか?」
軍医「操縦中に強い衝撃が後ろから加わったせいで外傷性頚部症候群。所謂、『むち打ち症候群』。頚部の筋肉が断裂、靱帯が損傷しています。ですが、そちらは良い。問題は内臓。脾臓の傷が開いています。前より大きく!中度です。腹腔内に出血しています」
それは不味い。感染症も心配だが、それよりも!
アグネス「手術は部分麻酔でお願いします!」
私の要望を耳にした軍医は遂に語気を荒げだす。
軍医殿「戯けたことを言うのは大概にしてください。良いですか?簡単に言います。お腹に溜まった血を抜かないといけないんです。それから大腿部、太腿ですね。そこからカテーテル…細い管を血管内に挿入して、脾臓まで到達させるのです。出血箇所まで着いたら、膨らまして血管内から止血する。西暦の頃より、技術は進歩し、ずっと安全で予後も良く、手術時間も短縮されています。それでも簡単なものではない。さあ、いい加減にして。看護兵!」
手のかかる患者の相手を部下に投げると軍医殿はさっさと手術の準備を始める。 - 133二次元好きの匿名さん25/03/15(土) 12:07:14
アグネス満身創痍
ミーアはプラント急行中だけどラクスはAAかな
プラント政変はどうなるか楽しみ - 134二次元好きの匿名さん25/03/15(土) 13:42:16
- 135二次元好きの匿名さん25/03/15(土) 15:29:28
- 136二次元好きの匿名さん25/03/15(土) 22:02:52
- 137二次元好きの匿名さん25/03/16(日) 02:22:49
保守
- 138二次元好きの匿名さん25/03/16(日) 02:26:13
二人の看護兵は、今度は私を手術室まで運んでいく。どうやら当分、意識を失うことは避けられないらしい。では、次善の策と行こう。何時も頼ってばかりで少し心苦しく思うが…。
私の体から包帯やら何やらを剥がしている看護兵に部屋の外への伝言を頼む。
アグネス「看護兵さん。どうかメイリンに『私が起きるまでお願い。電話番では済まなそうだわ。必要とあれば評議員の方達のお力になって!』とお伝え下さい」
看護兵「了解です。私達にとっても伸るか反るかですもの」
彼女も気丈に微笑んで返してくれる。それを見て少し安心したわ。ガラスの向こうにいるメイリンにもアイサインを送る。するとしっかりした表情で頷いてくれる。
考えて見れば、最高評議会議員も60人議会議員も有能な人が揃っている。自分だけが戦っているわけじゃない。もう少し、彼らを信用するべきだわ。
二人にコルセット等の補助具を外してもらい、体の洗浄消毒、手術着に着替えさせてもらう。いよいよ麻酔を吸い込む段になって、なおも不安そうな私を励ますべく軍医殿が声を掛ける。
軍医「さあ、観念して。メイリンさんやアスランさんもいますから」、看護兵「麻酔も不必要に長く掛けません!」
ああ。アスラン。彼が一番困るわ…。
アグネス「ありがとうございます…。L5宙域到着までには何とか起きたいものです。アスラン…先輩-。不安だわ」
しかし、あれよあれよと処置は進み、やがて麻酔で意識は銀河の彼方へと飛んでいく。
ふわぁっと、持ち上がるように意識が浮上し瞼が上がる。見慣れた天井、何時ものベッド、腕には2本の管、もうすぐ落ち切りそうな輸血と点滴だ。それと両手足や胸に心電図と繋がる線、右手の一刺し指にも何やら機具が嵌められている。
詰まる所、私はまだ生きている。死すべき定めはまだ先であったようだわ。その時は数時間後かも知れないけれど。
看護兵「お目ざめですか!」
偶々、傍にいた看護兵が気付き声を掛けてくれる。
アグネス「はい。早速ですが状況説明を。現在地はどの宙域ですか?」 - 139二次元好きの匿名さん25/03/16(日) 02:33:05
そう言いつつ目線を動かしてみる。いつもの病室、監獄の中ではない。唯一の違いは枕元に『名誉戦死傷章』がそっと置かれていること。証明書(表彰状)と複数回受賞を示す小星が入った小箱、今回は、授賞式は省略ね。遂に5回目、良く生きているわ、我ながら。
それはさて置き―私の質問を受けた看護兵は少し迷いながら私に現状を説明し始める。
看護兵「L5宙域に入って暫く。ミネルバはあの後、先に進んだナスカ級3隻と合流して4隻で行動中です。でも、後ろからピッタリあの5隻のナスカ級が付いて来てプレッシャーを掛け続けています。こちらが決戦しようとすると逃げるのでらちがあきません。」
なるほど、正体不明の敵対者たちの行動は予測の範疇だと言える。問題は時間だわ。
お話しを聞きながら医務室の時計を確認する。あの後、4時半か…。まずまずの船足と言うべき。その黒ずくめ共ももうじき離れるはず。L5宙域はプラントの庭、これ以上付き纏えばザフト軍が正式出動する。
アグネス「ありがとうございます。出来ればメイリンを呼んでください。他にもいろいろ聞くことが有ります」
看護兵「その前に貴女は問診です!軍医殿を呼ぶので待っていてください!」
やや語気を強くした看護兵に注意を受ける。𠮟られながら少しの間ボーッとする。もうL5か、向こうはどうなっているのやら。
軍医殿がスタスタベッドに向かってくるのを気配で察し何とか意識を戻す。軍医殿は問診を開始、気だるいが気力を振り絞って応じるしかない。
彼は少し込み入った説明をしてくれるが、要約すると手術は成功、暫くは絶対安静とのこと。しかし、後者は無理だろう、今の状況では。
メイリン「お待たせしました!」
手術結果と今後の見通しを聞き終わった頃、医務室のドアが開きメイリンが入室して来る。手にはデバイス二つ。
メイリン「ジェセック評議員と補佐官殿からご伝言です…。何とか士官室に来て欲しい、と。アプリリウスとブリュッセルからも知らせが―」
アグネス「はぁー。医療班の皆さん。軍医殿、看護兵さん、身支度をお助けしていただけませんか?士官室ないしブリッジ、最悪モビルスーツに乗れるように」
溜息が出てしまう。ワンチャン寝ている間に全部終わっていてくれることを期待していたのにね。 - 140二次元好きの匿名さん25/03/16(日) 02:43:53
軍医「止むを得ませんか…」、看護兵「了解」
私にとって幸運なことに―幸運ならこんなことになっていないか―医療班も事情はある程度、状況を知り準備自体はしてくれていた。身支度とで駆けの準備に入ってくれる。輸血と点滴の最後の一滴が落ちた瞬間から行動開始だ。
アグネス「メイリン、その間に状況説明お願い」
メイリン「分かりました」
まず、メイリンは自分のデバイスを開くと最高評議会ビル内からの中継映像を私に見せる。画面の先には議会ビルを守るために敷かれた防衛線のバリケード。
正面玄関前の大通りを封鎖している。裏口も勿論、塞いである。防御線の内側には急ごしらえの防衛隊が配置されている。さらにバリケードの外側の道路上には『チェコの針鼠』(戦車・機械化歩兵用障害物)、防衛線は突破に備えて3重、各バリケードは鉄条網で強化され、監視カメラ等も組み合わさっている。急ごしらえにしてはなかなかのものだ。
しかし、問題なのはそこではない。そのバリケードの手前まで数万の群衆が押しかけている。口々に叫び声を上げている彼らは大波のよう。恐ろしい勢いだ。
アプリリウス市民「おー!!議長!頑張れ!負けるな議長」
アプリリウス市民「既得権益に胡坐をかく議会を倒せ!」
アプリリウス市民「デュランダル!デュランダル!デュランダル!デュランダル!」
アプリリウス市民「議会は問責決議を撤回しろ!議長を守れ!」
あれ?何時の間にか民衆が敵に回っている?何で…。
アグネス「これは何事?」
メイリン「アグネスさんが手術中、議会と議長の間で使者が何度か往来し交渉が持たれました。しかし、決裂。議長側は此方の要求、『官邸に呼び集めた部隊の武装解除』、『ザフト軍部隊に下した命令の撤回』、『最高評議会ビルへの出頭』をいずれも拒んでいます。議会側は譲歩し『議長官邸の武装解除、ザフト軍部隊の命令撤回に応じれば、最高評議会ビルへの出頭は取り下げ、リモートでの最高評議会開催を以て足りるものとし、今夜の議長の行動に関しては内乱罪を適用しない』との条件まで提示したそうですが…」
それでも議長は徹底抗戦と。それでどうなった? - 141二次元好きの匿名さん25/03/16(日) 02:52:16
メイリン「痺れを切らした最高評議会議員は60人議会に働きかけ【ギルバート・デュランダル最高評議会議長に対する問責決議案を可決】させました。これ以上事態を長引かせるなら不信任決議もあり得ると通告。非信任決議の次は弾劾決議です」
遂にジョーカーを切ったか。もう引き下がれないわね。
アグネス「でも、妥当なところね。議長は何を粘っているのやら…。いや―」
闇夜のプラントに明かりを掲げる無数の群衆、問責決議に対する議長の回答がこれか!
メイリン「議会の問責決議案を受けて、デュランダル議長は最高評議会と60人議会の即時解散、総選挙を行う可能性を示唆、一方の最高評議会議員9名と60人議会はそのような解散は無効と断じ、議長の強権を改めて批判しています。
さらに議長は一部の最高評議員と議会が、自分達の失策を自分に押し付けていると非難し始めました。自分はスケープゴートにされようとしていると。既得権益にしがみ付き、選挙に応じない議会こそ民主主義を損なっていると批判し、市民に行動を促しています」
無茶苦茶だわ。そんなにユニウスセブン落下テロの再調査を回避したいのか?それともこの局面での政治的敗北を印象付けたくない―せめて引き分けに持ち込みたい―そう考えているのか。
メイリンと話している間に輸血と点滴が終わる。看護兵が外出準備のため、私の体に補助器具を付け、包帯やテーピングを施し始める。優しいが厳しい手つきがちょっと怖い。
それはともあれ―
アグネス「そもそもプラントの最高評議会議員や60人議会議員に然したる既得権益などないわ。それぞれ本業もあるわけだから。ある分野に既得権益を持っているのではなくて、その分野の業績+α等で選ばれることが多い。無論、人柄や政治的立場や主張も判断材料とされるけれど…。そもそも自分から立候補するわけでもなし」
眉を顰めたメイリンも肯く。
メイリン「そうですね。とは言え、最初は仕込みで始まったデモもあっと言う間に規模が拡大してしまって。やはり議長の人気と信頼は凄いですから。議会派のデモなんて直ぐに押し負けてしまって」
アグネス「仕込みや工作員が先導しようとも中身が零なら無駄だったはず。やはり議長にはそれに足るカリスマや実績があったと言う事ね。忌々しいけれど」
メイリン「はい」 - 142二次元好きの匿名さん25/03/16(日) 03:16:14
何にせよ、群衆にビルを取り囲まれ、道路を占拠されたら打つ手は限られる。
非武装の市民を蹴散らしながら動けば、国内的にも対外的にも政治的リスクとなる。議長の逮捕・拘束も難しい。今頃、議長官邸周辺は『デュランダル応援団』が取り巻いている。
アグネス「(しかし、議長も―。そこまでして時間を稼ぐ意味は何だろう。彼とて何時までも足止め工作が通用しないことは理解しているはず。デモ隊を司法局で鎮圧するという最終手段もある。何より、もうミネルバとナスカ級3隻がL5宙域に到達しているのだ。各艦はプラント内戦闘に向けた準備をしている…)」
思うにこれは自分と敵対した最高評議会議員と60人議会へのメッセージ。調子に乗るな、民意は私の味方だぞ、と。
今回の事変、もし議長が早めの敗北を受け入れれば、『講和条約』の条件自体は良くなっただろう。でも、その道を選べば彼は単なる政治的敗北者になり下がる。復活の目はまずない。
『それならば、一度『攻勢』を掛けてから折り合いをつけよう。自分の民衆からの支持の厚さ、影響力の健在さを内外にアピールしてから、矛を収めようではないか』、そう言うことなのか?
アグネス「(いや、予断を持つべきじゃない)」
身体の準備が終わるや看護兵が私を丁寧に持ち上げてくれる。
看護兵「一、二、三、ハイ!」
彼女のお力を借りて車椅子に乗っかる。まだ、頭や体がふわふわする。この状態で政争の最終局面を戦うことになるとは…。その椅子の傍でメイリンは珍しく動揺している。
メイリン「あんなに大勢…。血が流れなければ良いのですが。ああ、アグネスさん。ごめんなさい」
負傷中の私を見てメイリンが慌てて訂正しようとする。まあ、意味は分かっているから気にしないわ。私を持ち上げた看護兵が車椅子の後ろに回る。どうやら同行してくれるらしい。守秘義務は…今更か。守ってくれるに決まっている。
アグネス「メイリン、大丈夫。ちゃんと意味は分かっているから。そうね。あの規模のデモ隊となると…。偶発的な衝突で死傷者が出たら…。最悪ね」
メイリン「はい。それだけは…」 - 143二次元好きの匿名さん25/03/16(日) 03:28:12
アグネス「あ…」、メイリン「お…」
医務室を出たタイミングでパイロットスーツを着たままのアスランとルナマリアに鉢合わせる。彼らも黒ずくめが離れ、ようやく手が空き私を見に来てくれたのだろう。それプラス任務ね。
アスラン「その…」、ルナマリア「アグネス!しっかり!」
一度に声を掛けられても困るが、今は時間がない。皆で士官室に行こう!
アグネス「アスラン先輩、着て下さってありがとうございます。ルナマリア、まあまあしっかりしているわ。ありがとう」
慌ただしい廊下に車椅子の車輪が僅かに軋む音が混じる。道中、ルナマリアが漏らす。
ルナマリア「結局、議長はアプリリウスに留まったのね…。私はてっきり防衛に適した場所に拠点を移して自分の息がかかった部隊と合流するつもりと思っていたわ。何時、動くのかと」
そうなればある意味楽だったのだけれどね。
アグネス「もしそうしていたら、議長はアプリリウス市民、ひいてはプラント国民を見捨てた卑怯者と見なされ、人望を一度に失っていたでしょう。議会派は彼本人への直接的な武力行使を避け続けている。それ故、国民は避難を『止むを得ないもの』とは受け取らない」
隣を歩いていたアスランは少し考え込んでいる。あまり訳知り顔で人に話すのは印象が悪いが、口にした以上、最後まで言おう。
アグネス「歴史の先例を上げれば、ヴァレンヌ逃亡事件に喩えられるでしょうか。王権の権威を失墜させたあの事件、風説では『国王ルイ16世は王妃マリーアントワネットの実家であるオーストリアに亡命を図った』となっています。
しかし、その真相は王の目的地は国外ではなくフランス国内、国境に程近く守りの堅いモンメディ要塞でした。ルイ16世はそこで国境地帯の王党派の軍と合流しようとしていた、と。しかし、その結果は歴史が示す通り。ではもし王がヴァレンヌで捕らえられず、モンメディ要塞に辿り着けたとして、彼が思ってように事態は変化したでしょうか?」 - 144二次元好きの匿名さん25/03/16(日) 03:51:42
無論、これは仮定のシミュレーションだ。フランス革命は複雑怪奇、歴史の歯車が少しでもズレれば何がどうなっていたかは予想もつかない。
しかし、これだけは確信を持って言える。仮に国外でなかったとしても、国内の要塞であったとしても、かの仁君へのイメージダウンは決定的なものとなっていただろう。
アスラン「そうなっていれば、歴史は変わっていただろうが…。パリ市民からの失望は変わらないだろう。民はあの事件までは彼を慕っていたと聞くだけに残念だ」
カペー朝から時々女系を挟みつつも続いた長く由緒ある家門、その善良な人柄を愛され賢明な頭脳で民の福利向上を望んでいた王でさえ、そうなのだ。所詮1年の任期の最高評議会議長の振舞いを見る国民の目はシビアだ。
アグネス「敵軍が迫っての止むを得ない政府疎開、武力衝突の只中の避難ならともかく…。きっと議長もやりにくかったでしょう。だからこそ、その均衡をこちらから崩すことは絶対に止めるべきです」
アスラン「確かに。それに民間人を巻き込むわけにはいかない。それでは繰り返しだ」
『繰り返しだ』か。確かに。内輪で揉めて死なずに済んだ人が死ぬのは本当に馬鹿だと思う。そんなことを話しているうちに士官室に到着する。国防委員会に急いで上申しなければいけない。勢力の均衡を全体に此方から崩してはいけないと。どんな理由であれ、デモ隊への暴力の行使は厳禁だ。
アグネス「(そんなこと百も承知だと思うけれどね)」
士官室の自動ドアが静かに開く。室内に先に来たジェセック評議員と補佐官殿が待っていた。恐れ多いわね。即、敬礼するとタイミングよく返礼が返ってくる。そしてジェセック評議員は屈んで私と目線を同じくすると丁寧に話しかけてくれる。
ジェセック「きちんと話す時間が無くて申し訳ない。デブリ帯の戦い、本当に良く戦ってくれた。貴女の祖国に対する忠勇に最大の敬意を表する」
アグネス「ありがとうございます」
さて、ともあれ駆け足で話を進めよう。デバイスを広げで国防委員会と回線を開く。 - 145二次元好きの匿名さん25/03/16(日) 07:48:07
これ、市民に闇に堕ちろしたろ!?
サクラも混じってそうだし、議長のカリスマ性自体も相当だったが、そこにアコードが繋がれば民間人程度の烏合の衆なら問題なく支配下に置けるわ。
ミネルバ組への妨害は議会の解体して再度支配下に置くまでの時間稼ぎだろうな - 146二次元好きの匿名さん25/03/16(日) 08:35:33
グラディス艦隊の人員突入後血の日曜日事件の再来を狙ってそうな議長
- 147二次元好きの匿名さん25/03/16(日) 09:32:59
これラクスが出ないと民衆は議長側のままかな
でも現在オーブ国民の彼女が出てくる積極的理由がない
本編ではラクスの名前を使ってオーブに刃を向けてきたから出たんだし
う~ん、ここからでもラクス・クラインが出てきたらひっくり返るだろうってのが
議長がスピーカーとして使いたくなるのわかるわ - 148二次元好きの匿名さん25/03/16(日) 10:46:50
ジブリ(なんか……えらい事になってるな)
- 149二次元好きの匿名さん25/03/16(日) 11:38:49
本物のラクスが表に出ることでアコード組と議長との間に亀裂を入れることもできるかもしれないしな⋯
どーにか引っ張り出したいけど今ラクス御本人とミネルバ組はアスラン以外面識ないのよねぇ⋯ - 150二次元好きの匿名さん25/03/16(日) 11:41:37
ストフリはロールアウト直前後はキラの負傷度合い次第か
- 151二次元好きの匿名さん25/03/16(日) 11:47:00
やっぱアコードは反則だって!
- 152二次元好きの匿名さん25/03/16(日) 12:14:31
- 153二次元好きの匿名さん25/03/16(日) 17:24:14
あっしまったすっかり忘れてた⋯
- 154二次元好きの匿名さん25/03/16(日) 23:10:46
アグネスが毎回ズタボロに……そろそろマジでストップしたげて
- 155二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 00:13:20
これFREEDOMの時系列に行く前にアグネス過労なり負傷が原因でコンパスに参加出来ないかそれ以前に死ぬんじゃ?
こうなったら早いとこ長期入院させるか、何だったらレイがいる所でも良いだろうし - 156二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 01:11:45
国防委員会が臨時本部となっているあの会議室と回線を繋ぐ。3コール目にはリー国防委員自らが出て下さる。部屋の中にはシュライバー国防委員長も、他何人かの黒服。クラーゼク、オルフ両国防委員は出払っているようだ。
ともあれ敬礼、リー国防委員、後ろから覗いていたシュライバー国防委員長も丁寧に返礼して下さる。
リー「特務隊アグネス・ギーベンラート、道中ご苦労だった。その貢献に敬意を表したい」
アグネス「ありがとうございます」
シュライバー「本当にありがとう。それで、その後、例の傭兵ないしテロリストどもは?」
そう尋ねられたので瞳を横に動かしてアスランに話を振る。失礼な振舞いではあるが仕方ない。外傷性頚部症候群となった私の首はコルセットで固定されているのだから。
アスラン「L1宙域からずっと追跡されていましたが、L5宙域に入って直ぐに離れて行きました」
シュライバー「良し!ご苦労」
リー国防委員もご一緒に深く肯かれている。お褒めのお言葉も結構だけれど、勝ったらしっかり栄典を授かりたいところだわ。とは言え、今は一刻も早く進言を。
アグネス「先ほど手術から目覚めて、議長派デモ隊の件を知りました。分を過ぎた言ではありますが、デモ隊の強引な鎮圧は万難を排して回避するべきです。武力を用いた議長の逮捕・拘束などもっての外かと。彼に口実を与えてはなりません」
横の椅子に腰かけたジェセック評議員が画面の向こう側の2人に代わってお答えして下さる。
ジェセック「ああ、勿論だ。司法局より首都警察にも厳命した。非殺傷兵器、主に放水砲、催涙弾、ゴム弾、スタングレネード、音響兵器、麻酔銃や発煙弾等で対処する方針だ。ただし自衛のため、あるいは第3者の保護のため、必要に迫られた場合は手続きに基づいて銃も使う」
アグネス「それは当然の事です。このお話が出たと言う事は首都警察の掌握はお済なのですね」
この政変の初期には彼らの離反を恐れて、直接動員は駆けられなかった。今は良くも悪くも状況が変わっている。
ジェセック「そうだ。60人議会が議長側の実力組織に武装解除と通常任務への復帰を命じた時点で一度中立を宣言。その後の議長の高圧的な姿勢と突然の大規模デモを目の当たりにして、流血の惨事を避ける為にも、司法局の指揮命令系統を尊重すると言ってくれている。交通整理、機動隊も出動中だ」
アグネス「良かった」 - 157二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 01:18:06
司法局にはFAITH制度はない。それだけが要因とは言わないが、議長が嘴を挟む余地が軍と比べて司法局警察には少なかったのだろう。治安部隊がこちらに付いてくれたことはありがたい。
私の反応を見てデバイスの先の国防委員会コンビは一度肯く。しかし、やはり辛抱しきれないと言った面持ちでシュライバー国防委員長が不満を漏らす。
シュライバー「だが、遅きに失した。首都警察が旗色を決めかねている間にデモ隊は最高評議会ビルを取り囲み、我々は孤立状態だ。路上も占拠され、今更、外側からチマチマ取り締まりをされても…」
ジェセック「私の決断が遅かったと!議長の策略に乗って交渉に応じ、デモ隊動員までの時間を稼がれたのはビルの方ではありませんでしたか!?」
リー「まあまあ。どうか。ジェセック司法委員、国防委員長は籠城戦の指揮でお疲れでして…」
この期に及んで何か言い争いを始めたわ。勘弁して欲しい。
メイリンのデバイスを横目で確認するに最高評議会ビル防衛隊は、バリケードに押し寄せる群衆を放水砲で追い払っている。音響兵器も照射され、スタングレネードも投入されている。そのおかげもあって押し寄せる人波は何度も引くのを繰り返している。
アグネス「(…少なくとも負傷者は既に発生しているわね。どうしようもない。どうにか死者だけは…)」
それと気が立っている最高評議会議員をお諫めしなければ。もう一度、釘を刺しておこう。
アグネス「いずれにしても殺傷兵器は厳禁とすべきです」
シュライバー「無論だ。最高評議会ビル防衛隊は式典用ジン中隊も含め弾倉はすべて回収してある」
アグネス「それは思い切ったことを…」
逆に心配になるが、もう何も言うまい。不安の種は絶えないが、ともかく次だ。考えを纏めよう。
アグネス「(議長は何を考えているの?本気でこちらが解散・総選挙に応じると思っているわけでもあるまい。武力事態を自ら招いておきながら、そんな不法かつ不当な主張が通る筈もない)」
それなら考えられる可能性は―ミーアの到着を待っているのか?一行を乗せたシャトルがアプリリウスに到着するのを待ち、議長は彼女に核攻撃直後に起こした奇跡の再演を命じる積もりなのではないか? - 158二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 01:46:28
議長は多分、ミーアに『開戦時の時と同じように人々の怒りと不安を静め、社会の分断を防いでほしい』、『最高評議会ビルに立て籠もっている方々にも直接語り掛けて欲しい』ともっともな言葉をかけ、彼女のモチベーションを高めるだろう。
ミーア・キャンベルは私やアスラン経由で議長の胡散臭さは知っている。でも、お目付け役の緑女もいる中、拒否権はないし、この政治危機を目の当たりにすれば彼女なりに思う所もあるだろう。
一方の議長、彼は一貫して『ラクス様の力』を己の政治力の強化に用いてきた。時には地上諸国の懐柔にも使ってきた。当然、今回も当てにしているはず。シャトルの時はジャックされたがアプリリウスに本人が来たなら話は変わる。
アグネス「(ミーアを最悪、使い捨て覚悟で投入するなら今夜しかない。今回は通信越しではなく生身でライブを決行させる。それも大衆の眼前、バリケードに進むデモ隊の最前列へ。
放水と催涙ガス弾が降り注ぐ中、最高評議会ビル正門前まで彼女を押し進める)」
まるで名画か映画のワンシーン。民衆を導く自由の女神だ。そうして政争の最前線のど真中で、『ラクス様』に大衆とバリケードの向こうの【抵抗勢力】に向け大演説をぶちかまさせ、催涙ガスで咳込みながらでも良いから一曲歌わせる。そもそも防衛隊が『ラクス様』に催涙弾を撃つのを躊躇うかもしれないが…。
そんなドラマが目の前で演じられれば、その場の民衆も感極まることだろう。その場の者だけではない。ちゃっかり撮影された映像が加工された上で、メディアによって拡散され『ラクス様=議長』は正義、『議会派=悪or愚か者』と塗り替えられない印象を植え付けられてしまう。
アグネス「(それどころか『ラクス様ご本人』を前面に出せば、最高評議員や60人議員も印籠を見せられた悪代官のように平伏する、そんな期待も議長は抱いているかもしれない。流石に社会の最上位カーストの最高評議会議員はそこまで甘くはないが…。でも、間違いなくビル防衛隊は浮足立つ。総崩れになるかも知れない)」
これが議長のシナリオ―の少なくとも一つ―ではあるだろう。そう当たりを着ける。
アグネス「ジェセック司法委員、アプリリウスにラクス様のシャトルは到着していませんか?」
ジェセック「ああ。まだだ。アプリリウスの宇宙港に回した司法局員からも報告はない」
アグネス「ありがとうございます」 - 159二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 08:52:52
多分本当にまだ着いてないんだろうけど、本編でジブリールがオーブから脱出したときみたいに本来の警備兵が既に殺されてて、成り代わった議長の配下が虚偽の報告出してる可能性もあるのが怖いね
- 160二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 09:01:23
保守
- 161二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 11:22:39
…最悪、ミーアを議会側に殺させるシナリオとか立ててない??
ファンデーションの奴らなら今議長が使ってるラクスが偽物で、GOサイン出そうものなら闇に堕ちろで殺しかねないんだが - 162二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 12:53:59
ありうる
ラクスを公的に殺して無力化できるのは議長にとって大きい
ファウンデーション側には本物は生きてるから公に出さずに女王として戴けばいいとか言いくるめられるし
ただそうなるとキラ激怒案件なのでストフリ受領のために宇宙に上がり済みの場合自由強襲が起きるな…… - 163二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 13:06:23
DPのためならプラントのコロニーが何個も犠牲になっても友軍艦隊を巻き込んでもなんとも思わない人なので流血を糧に正当化してきそう
- 164二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 16:24:55
…言ってみたがマジで議長ならやりそうな手でまずい奴だな
他の人が言ったように今真っ二つに割れてる議会は反議長派とも言える集まりで邪魔だし、故意にしろ事故にしろ「ラクス・クライン」が議会側の人間に殺されれば
ただでさえ民意がデュランダルに傾いてるのに完全に議長=正義、議会=悪の民意で固定され、独裁状態になる。
>>162の言う様にミーアがラクスとして死んで本物が出張っても偽物扱いで影響力だけをデュランダルが使い放題。
ファンデーション側は文字通り言い包められるからマジでやりかねない…
- 165二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 16:28:58
仮にミーアがラクスとして死んだ場合、ミネルバ組もひっくり返せるかどうか…
議会を焚き付ける形となったアグネスもプラントに素直に戻れば使い潰しで消されかねないから疑念が限界に達したアスランと一緒にミネルバから大脱走する羽目になりそう… - 166二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 18:45:02
考えたんだけど闇に落ちろも必要ない
サラみたいな議長の子飼いに狙撃させればそれで終わる
ミーアが議長側の演説してる時に議長サイドがラクスを殺すとか普通思わないもの
これマジでラクス出てこないとミーア殺されちゃうしラクスも社会的に死んじゃうよ - 167二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 01:36:18
まあここで議長逮捕できちゃったらデの字も出ないまま終わっちゃうからねというカスのメタ読みをしてしまう
- 168二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 02:22:14
ギル逃亡→ファウンデーションに潜伏→より的確に嫌らしくなったファウンデーションでFREEDOM開始って可能性もなくはないぞ?
- 169二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 03:14:28
ジェセック司法委員のお答えに胸を撫で下ろす。落ち着け、私。
アグネス「(この馬鹿げた競走、最初にスタートを切れたのは私達、月軌道艦隊。ナスカ級はグラディス提督の厳命により、L4からL1を突っ切りL5まで、最大船速で駆けて抜けて来たわ)」
その間、ミネルバはデブリ帯での戦闘を経て、更に敵の追走も受けたが振り切って僚艦に合流、4隻で艦列を組み直し前進している。後世の歴史家が今夜の出来事をどう評価するのかは私にも判断が付かない。しかし戦史上の評価は分かる。この行軍速度、軍事行動として見れば快挙だ。正に神速の域と言って良い。故に後から事態を察して、おっとり刀で地球を飛び出したシャトルで追い抜くことは不可能と言って良い。
アグネス「(今夜の展開は誰にとっても早すぎた。政変なんてそんなものと言えばそうだけれど。アプリリウスに居なかった面子は初期配置と事態を把握したタイミング、乗り合わせた艦船によって遣れることはかなり限定される。アーモリーワン出港を即断したグラディス提督とジェセック評議員は正しかった)」
しかし、それは議長側も分かっているはずだわ。今頃、ミーアが搭乗するシャトルは設計上の限界速力でアプリリウスに突っ込んできているはず。単なる距離的に言えば、地球-プラント間の方が近いのだ。向こうも必死のはず。
さて、それを含めて何と言おう?
眼を横に遣りアスランにアイサインを送る。彼は私の眼差しには気が付くが意味までは分からずきょとんとした表情を浮かべる。さっきから立ったままのメイリンにも視線を投げる。すると彼女はその意味を半ば察し、戸惑ったような表情を浮かべる。
私達が眼で合図を送り合っていると、自分が別の誰かの眼差しを受けていたことに気が付く。彼女の姉ルナマリアだわ。その眼が言っている。
『お話しするのね、今?!』と。瞬き一つで肯定する。『そうするより外ない』、皆の安全と明日のために―そして、彼女のために…。
アグネス「ジェセック司法委員、シュライバー国防委員長、発言してもよろしいでしょうか?」
今更ではあるが、一応、確認を取る。
特務隊である私の直属の上官は国防委員会、ジェセック評議員にどうこう言うことは本来、分を過ぎる振舞いなのだ。 - 170二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 03:21:44
ジェセック「どうぞ?改まってどうしたね」
隣に座っているジェセック評議員から少し虚を突かれたような声が漏れる。まあ、散々喋り倒しておいて、突然遠慮も何もないと思ったのだろう。
デバイスの向こうの国防委員長と国防委員も問い返してくれる。
シュライバー「何かあるのかね?」
リー「うん?」
良し!まずは手早く済む方から話そう。
アグネス「ジェセック司法委員、シュライバー国防委員長。私は議長がアプリリウスに『ラクス様』を呼び寄せ、彼女に直接、民衆の扇動を命じるのではないかと危惧しています。最悪のケースとしては『ラクス・クライン』をデモ隊の最前列に立たせ、議会側の説得や敵前ライブをさせる等も考えられます」
シュライバー「な…。シャトルの放送だけでなく…。アプリリウスに乗り込んでくると?!」
リー「確証は!いや…。確証云々言っている時期は過ぎたか…」
国防委員二人組は『ラクス』の名が出るたびにビクビクしている。話にならないので宥めるように声音を調整して続きをお話しする。
アグネス「あくまで議長側が取り得る作戦の候補と言うだけです。しかしこの場合、我々にとっても、彼女にとっても、群衆にとっても、最悪の不測の事態が生じかねません。ジェセック司法委員、彼女の搭乗するシャトルのアプリリウス入港は強く自粛してもらうべきでしょう。司法局はアプリリウス宇宙港のチェックをより強化し、外国船舶も含め出入港の監視を厳にするべきです」
ジェセック評議員は私の話をじっとお聞きくださり、慎重な表情で一先ず肯かれる。
ジェセック「議長がそこまですると…。よろしい。司法局にはそのように指示を出そう。ホーク嬢、ミネルバの通信装置で中継する。手を貸してくれ」
メイリン「はい!」
彼が席を立ち、メイリンの補佐のもと士官室の通信装置からミネルバブリッジへ、そこから司法局に電信を送っている。一段回目はクリアね。 - 171二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 03:29:02
今の内にシュライバー国防委員長に聞くべきは聞いておこう。
アグネス「他の部隊の動向は如何ですか?首都防衛隊は議会の指示に従っていますか?」
シュライバー「いや。洞ヶ峠を決め込んでいる」
リー「議長側に付かなかっただけ御の字と見るべきかと。我らにとって良いニュースもある。国防委員長の呼びかけに応じてジュール隊は議会派に転じた。ザフト軍事ステーションはジュール隊長が押さえてくれている。君が麻酔から覚める少し前に報告があった」
良し!グゥレイト!!
アグネス「議長にとって、ジュール隊長とエルスマン副隊長のお二人をFAITHに任じたことが仇となったのでしょう。特務隊は議長ではなくあくまで国防委員会に直属する機関。その全員からの命令なら―。ジュール隊長を力づける大義名分として十分なはず、これで彼は己の良心に従って動けます」
シュライバー「うむ。彼を見込んだ甲斐があった!」
何やら自画自賛し始めているが、FAITH任命にこの人はほぼ絡んでいない。だいたい議長の独断だった。多分、書類にサインぐらいはしたのだろう。
アグネス「(いや、アスランの事を考えるとそれさえ怪しい…。もう言うまい。好きに自画自賛してください)」
そんな感想を抱きつつ、もう一度アスランにアイコンタクトを図る。駄目だわ。通じない。『ラクス』の話をしているんだぞ。もっとしっかりして欲しいわ。
アスランの勘の鈍さに呆れ果て、ジュール隊が味方に付いた事実に安堵していると、アプリリウスの司法局本部に連絡を終えたジェセック評議員が席に戻る。その表情はあまり快活なものとは言えない。
彼にとってこの一晩は人生で最も長い夜の一つだろう。高い期待を抱いていたデュランダル議長には裏切られ、明日の我が身さえも知れない。ただ、今、彼が気に掛けていることは別にもあるようだ。
ジェセック評議員「ギーベンラート嬢、貴女は本当にラクス嬢が―。その…」
言い淀む彼の気持ちもわかる。ジェセック評議員にとってラクスは知らない仲ではない。彼らにとってのラクスはアイドルではなく『首席同志の娘さん』。自由条約行動同盟(ザフト)が前身の黄道同盟であった頃からの付き合いかも知れない。 - 172二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 03:47:09
無論、その後の彼女の活躍を受けて、尊敬の念を新人の最高評議会議員や大衆と共有してはいるだろうけれど…。それでもジェセック評議員の深刻な表情の裏側に隠しきれない親愛の情が見え隠れする。
ジェセック「私は―ラクス嬢がデュランダル議長と行動を共にする訳は戦争の早期の終結を願っての事と思っていた。先の大戦で父君、クライン前議長と共に終始戦闘の停止を呼びかけられたように。単なる政治の駒に身をやつしたわけでは無い、と。ギーベンラート嬢の進言はもっともと思ったので司法局に命令は下した。しかし―」
それ故に感じる不自然さもあるのだろう。彼もまた今まで見て見ぬふりをして来た違和感を受け入れる時が来たのかもしれない。そう、近くで接したことのある人間にとってラクス・クラインは触れることが出来る生身の人間。私にとっての彼女が少しだけ高カーストの鼻持ちならない知人であるのと同じように。
ここにラクスがいて、そのことを知れば相当喜んだのではないか。口の堅いアスランから漏れ聞くオーブでの彼女の思い。『普通の女の子になりたい』っていうやつ。
アグネス「(怖気が走るわ。そうならなかったのは自分が周囲との交流を広めなかったことの結果じゃない!時代や環境のせいにするな!友人知人が出征してしまったのは私だって同じだ。二度と帰ってこなかった人も当然いる…)」
これはアスランにさえ打ち明けていない感情、私は彼女の事が嫌い。
人間は皆、否応なく何かを背負わされ、背負わせながら生きている。望まず王族に生まれた娘もいるだろう、首長家に引き取られた女の子もいるだろう、高官の娘に生まれて上へ上へと急き立てられた子もいたはずだ。
自分だけは例外だとでもいうのか。国父の娘に生まれた以上、果たすべき義務があったはず。ヤキン一回分では足りない、生きている限りのものだから。それを途中で放棄して楽隠居ですか?!おかげでこの有様だわ。その後に月の裏側で助けてもらった大恩を思うと絶対口に出来ないが…。
アグネス「(うん、やっぱりラクス・クライン嫌いだわ。彼女がもっと積極的に動けば死ななくても良い人がたくさんいた。恩知らずだと分かっているけれど、それでも腹立つわ!)」
心の奥底から這い出しそうになる嫌悪感をひたすら飲み込む。うん、私は平気だ。馬鹿者どものおかげでたくさん、勲章貰えたからね。 - 173二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 03:58:09
ぶつぶつ考えても仕方ない。本物のラクスはクライン派が何とかするだろう。今は囚われの少女に手を差し伸べるべきだ。アスラン!
アスラン「…」
その地蔵フェイス止めて。本当に。もう良い。私が話しを続ける。
アグネス「ジェセック司法委員。あのラクスは私達が知るラクス・クラインではありません。議長は彼女を己の手駒と見なしているでしょう。それならば今こそ使い時であり、また捨て時でもあります。あくまで、これがチェスなら!」
私の言葉を聞いたジェセック評議員は何かを悟り、はっと私の顔を覗く。この段になってアスランもようやく私の真意に気が付き、『今か』という視線を寄こす。答えは『Yes』、彼女と我が身を守るなら今動くしかない。
デバイスの向こうアプリリウスのシュライバー国防委員長は若干反応が悪く、『ラクス』『捨て時』と言った瞬間に息が止まりかけ、前後の文脈が頭から抜けている。しかし傍らのリー国防委員はもう少しまともだわ。
リー「何人くらい最高評議会議員をお呼びすれば良い?これはそういう話だね?」
アグネス「お呼びできる限り、恐縮ですが、ご足労いただけない方にも端末で声が届くようにしてください。ミセス・ジュールにもお声掛けをお願いします」
リー「分かった。…ああ、カナーバ前議長にもお伝えすれば良いか?」
えぇぇ。あいつ、知らせなくても分かっているでしょう?多分…、うーん。仕方ない。
アスラン「前議長にもお願いします。私から皆さんにお話ししたいと思います」
地蔵が喋った!良し。
アグネス「そのように願います」
リー「わ、分かった。とんだ夜だな…。今夜は…」
アグネス「そう思います」
上官と互いを慰め合う私に向け、アスランが何やら安堵したような視線を寄こす。話してすっきりしたってわけね。良かったわね!
私が彼に肯くように視線を返す中、リー国防委員は会議室内の通信機で手早く最高評議会議員、全議員組に招集をかけている。
ああ、疲れた。
この話は時間がないから手早く済ませるとしよう。 - 174二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 04:11:10
そう思っていると、この空き時間を逃すまいとメイリンが私の傍まで来て耳打ちする。なに?
メイリン「『ラクス様』とは別件で、アグネスさんの手術中にブリュッセルのカザエフスキー評議員から。大使館員が掴んだ情報によると、ファウンデーション王国大使館からブリュッセル国際空港に向け車が急発進した、と。車内に親衛隊グリフィン・アルバレスト氏の姿を確認したそうです」
そうか、彼が動くか。大使館を見張らせてもらって正解だったわ。
アグネス「トラドール国務秘書官は使節として勲章授与式に参列後は帰路につき、今頃、カスピ海の辺。オルフェ宰相は国事で手が離せない。サーペンタイン国防長官も南ロシア戦線と中央アジア戦線を抱え長期出張は不可能よ。故に王国の中枢人物は今回の政変にノータッチ、そう思っていたんだけどね」
アルバレスト隊員もお取込み中だったはず。それでも動くとは。
メイリン「はい。アルバレスト隊員はザフト・西ユーラシア合同軍本部で行われているウィラード隊長せん妄事件の取り調べに証言者として加わっていました。任意での取り調べにもご協力を。昨日も通常通りに仕事を終えて、大使館に戻っていたそうです」
それなら、もうこの政変絡みとしか考えられないわね。
アグネス「ブリュッセル国際空港のシャトルは?もう発進した?」
ブリュッセル国際空港にあの国の政府チャーター機があるかどうかは疑問だが、西ユーラシア外務・安全保障政策上級大臣に掛け合って調達したのかもしれない。
メイリン「カザエフスキー評議員が西ユーラシア連邦交通・運輸大臣に個人的なコネクションで働きかけてストップさせました」
アグネス「偉い!」
無論、順番的に褒められたことではないが、外務・安全保障政策上級大臣には手が回されている可能性もあった。交通・運輸大臣に働きかけるとはなかなかやるじゃない。
メイリン「でも―。どういうわけか…手違いがあったのかシャトルが発進してしまって。かなり粘ったそうなので時間は稼げたそうですが―」
アグネス「えぇっ」
メイリン「外務・安全保障政策上級大臣はファウンデーション王国にこの件を注視しているとのメッセージが送られています。軽く注意、と言う事でしょうか」 - 175二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 04:21:22
アグネス「外交メッセージとしてはそうでしょう。そうね。でも、どうしようもないわね。相当な時間稼ぎができたのなら―良し!」
メイリン「はい」
そう思うしかない。私がメイリンと話している間、ジェセック評議員のお相手はルナマリアが務めてくれている。
あんまり会話は成り立っていないけれど。ジェセック評議員がこれまでのルナマリアの活躍を褒める、ルナマリアが謙遜する、これを数回繰り返している。まあ、立場が違い過ぎて共通の話題も無いか。
メイリンと話し終わった途端、今度は何か言いたげなアスランの視線が向けられる。こちらが察するしかないか…。
思うに彼には背中を押してくれる人が必ず必要なんだ。そうでないと空回りして人生を無為に過ごすか―。
若しくは、父君の様な最期を迎えることになってしまう。私にアスハ代表の身代わりは任が重いけれど、止む無し。その背を蹴とばそう。
アグネス「アスラン先輩、いずれ明かさなければなりません。そして、今夜が最も彼女の身が危うくなる時でしょう。アプリリウスで彼女と対峙する方にお知らせしなければ、彼女と我々全員を守ることもままなりません」
アスラン「そうだな…。どう話そう?」
アグネス「端的に。事実をはっきりお伝えください。私もそう努めます。彼女をアスラン先輩がどうしたいのか、私がどうしたいのか。そしてもし懸念が現実のものとなった時、どう対応するか知恵を出し合う時です」
そう話した後、目線で合図し、車椅子に身を乗り出してくれた彼に耳打ちする。
アグネス「この際、オーブの件も必要とあれば話すべきかと。会話の流れしだいですが…」
アスラン「それは…!」
事前準備をする間も無くデバイスの向こう側には我が国の最高権力者の面々が集結する。
アイリーン・カナーバ前議長、最高評議会議員ルイーズ・ライトナー女史、同アリー・カシム立法委員長、同タカオ・シュライバー国防委員長、同オーソン・ホワイト氏、同エドアルド・リー国防委員、同アラン・クラーゼク国防委員、前最高評議会議員エザリア・ジュール夫人。 - 176二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 05:13:29
その場にいない方の中でパーネル・ジェセック司法委員は私達の横に座っていて、ノイ・カザエフスキー最高評議会議員は評議会の名代としてブリュッセル、各国大使と接触中だ。他は議長側、望んだわけでは無いだろうけれれども。
アプリリウス全員を代表してライトナー評議員が私とアスランに話しかける。
ライトナー「失礼ですが、挨拶は抜きで。オルフ国防委員は現場指揮で手が離せません。携帯端末で時間がありません。話を聞かせて下さい」
文字通り端的に質問を投げかけるライトナー評議員、その問いを受けてアスランは堰を切った堤のように話し始める。
アスラン「今のラクスは本人ではありません。彼女の名はミーア・キャンベルです。顔は整形だそうです。彼女はラクスのファンで声が似ていて―。私に『ある日急に議長に呼ばれて、今いらっしゃらないラクスさんの代わりに議長やみんなのためのお手伝いが出来たらそれだけで嬉しい』とそう話してくれました。この会話が話されたのは開戦時、核攻撃があった日の夕食を共にした時です」
ライトナー、一同「…」
流石、コミュニケーション検定12級落ちの猛者、加減を知らない。皆固まっている。とは言え、彼らの内、再任組とカナーバ、エザリアおば様は大した衝撃を受けてはいない。心中を推察するに『あ~、やっぱりか』『そうだったのか、なるほど、言われてみれば』と言ったところか。エザリアおば様やライトナー評議員には情報が上がっていたかもしれない。
だからと言ってこんなにストレートにぶちまけるとは思っていなかっただろうけれどね…。
他の新人評議員の驚愕具合は見ているこちらとしてはコメディ漫画を見ているよう。不謹慎かつ場を弁えないこと甚だしいが思わず笑い出しそうになった。勿論、間違った感想だ。私達は相手をびっくりするために話しを始めたわけでは無い。認識を共有して、対策を…。私が翻訳しないと。
ライトナー「それでは本物のラクス様はどちらに?」
しかし、私が補足する暇も無く、ライトナー最強評議員からはごもっともな質問が飛び出す。しかし、そこは私達も知らないから―。
アスラン「今は分かりません。推測するに彼女はアークエンジェルと共に出国したものと思いますが…。その先は―。申し訳ありません」
そこまで話し、ようやくアスランの口が止まる。同時に、世界の時も止まる。本当にどうしようか。 - 177二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 08:15:52
う~ん好悪の感情はともかくアグネスみたいにラクスに役割を果たせっていうのプラント国民結構な割合でいそう
ヤキン1回じゃホントに足りないの?
常に衆目にさらされ皆の望むラクス・クラインとして偶像で居続けたことの重責は?
ふつうの女の子には決してなれないとわかっているからこその願いを吐露してはいけないの?
登場したらヤッパリ!! 腹黒い女と嫌悪しない?
なんだろうアグネスがなりたいものにすぐなれるのにならない相手への嫉妬にみえる - 178二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 08:58:43
生まれと果たすべき義務を直結させる
それは議長とアコードの考え方だ… - 179二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 09:29:16
その人にとって義務は何か、果たすべきかは当人が決めることであって他人が決めることではないって言うのは三隻同盟と同じ目に遭わないと分からないことかもしれない
- 180二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 10:10:09
そう生まれたのだから、その義務を果たせ
その考えこそが議長やアウラ達の思想の根幹そのものなのよね。
それを祈りでなく呪いとして生まれたのがコーディネイター…アコードだったわけで。
ミーアへの切り捨ては一旦、阻止できたと言えるか。
ファンデーション組もある程度動きを抑えられたとは言え、民意はラクス=ミーアを有するデュランダル側だしな。
ただでさえロゴス関係で泥沼なのに議長のやらかしでどうしたものか - 181二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 15:12:29
今のいっぱいいっぱいのアグネスをアコードが唆せれば一気に闇落ちしかねない
- 182二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 15:20:02
オルフェ、イングリット、シュラ、グリフィンの行方が地上で確認されてるしさっきまで交戦してた黒い機体は残りのルドラ組で確定ですかね
- 183二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 23:13:08
ほしゅ
- 184二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 23:50:45
肉体はズタボロ精神は疲弊して八つ当たりが始まりだして大丈夫かなアグネス大丈夫じゃないか…
- 185二次元好きの匿名さん25/03/19(水) 01:15:04
しかし、現実的な問題として私達に固まっている時間などない。
そんな中、エザリアおば様、もとい今夜はミセス・ジュールか…。彼女がカナーバと視線を交わしている。この二人、特にカナーバはある程度まで事情を知っている組だ。
視線の意味を読み解くに『どちらが言う?』と言ったところか。見た所、二人は呉越同舟、かつての遺恨を今は脇に置くことにしたらしい。
アグネス「(党首がその道を選ぶなら、私もそうするべきね。今夜限りは)」
アイコンタクトの末に、ミセス・ジュールが会話のボールを投げ返す役を買って出る。
エザリア「特務隊アスラン・ザラ。先ほど貴方はラクス・クラインがアークエンジェルと共に出国したと述べた。言葉を曖昧にせず話しなさい。彼女は『どの国』から『何時』、『なぜ』出国したのか?」
アスラン「それは…」
ミセス・ジュールに深堀された途端、アスランは困り顔になる。やはり、オーブとアスハ代表の事を慮りそこは曖昧にしたい気持ちが彼にはあったのだろう。
言葉に詰まった彼は私に視線を振る。何時ものように自分の言葉を補ってほしい、と。でもここに関しては彼が語るべき。心を鬼にしてアスランに視線を投げ返す。
ミセス・ジュールは何も取って食おうと思って質問したわけでは無い。むしろ、これは彼女なりの助け舟だ。他の最高評議会議員にも分かりやすく、ラクス達の皆の現状を伝えなさい、プレゼンしなさい、そう仰っている。
双眸に私の視線を受けて、アスランもその意味をようやく悟り、ミセス・ジュールに真直ぐ向き合う。私も心の準備を。彼が何を話すのか既に知っているのだから。
アスラン「まず『どの国』かについては―オーブ連合首長国です。本物のラクスは、前大戦終結後、アークエンジェルの戦友達とオーブに移り、その中の幾人かとその家族と共にマルキオ導師の元で、孤児たちの世話をしながら生活していました。アスハ代表と私もお忍びで孤児院のお手伝いしていたこともあります」
カナーバ前議長(と今晩は呼んであげる)は静かに頷きながら聞いている。戦後処理の時、どのような遣り取りがあったのか私には知る由もない。ただ、オーブでの彼ら彼女らの平穏な暮らしは、きっと彼女の望みでもあったのだろう。
ライトナー「アスハ代表自ら孤児を…。流石、民に慕われた獅子の娘-」
カシム「マルキオ導師とご一緒だったとは…」 - 186二次元好きの匿名さん25/03/19(水) 01:24:49
画面の向こうの方々、そして横のジェセック司法委員の浮かべる表情はそれぞれだが…。時間がない。アスランに視線で続きを促す。
彼もそれに肯き、再びミセス・ジュールに向け、言葉を続ける。
アスラン「『何時』に関しては…。C.E.73年12月、カガリ・ユラ・アスハ代表首長婚姻破棄・同盟条約締結拒否事件の直後にアークエンジェルと同行したものと推測します。ユニウスセブン落下テロ後、ミネルバのオーブ寄港時にはまだラスクは出国していませんでした。それは隣の特務隊アグネス・ギーベンラート、そこに立つメイリン・ホーク、医務室に居る特務隊シン・アスカ、整備班のヴィーノ・デュプレ、ヨウラン・ケントが証言してくれます」
彼の言を受け、ミセス・ジュールの目線が私とメイリンに向かう。鋭く力強い目だ。当たり前か。彼女に限って、韜晦している間に衰えたりする筈が無い。
アグネス「彼の話したことは事実です。オーブの国立慰霊公園の崖に建つ慰霊碑の前で私達5人はラクス様とお会いしました」
メイリン「はい。間違いありません!」
私達の証言を耳にし、ミセス・ジュールは一つ頷く。周囲の最高評議会議員は―カナーバ前議長を覗いて―すっかり狼狽している。
ライトナー「今の『ラクス様』が本物でない。その正体はミーア・キャンベルと言う少女なのだと、何処までのザフト軍人が知っているのですか?」
横から割って入り、ライトナー評議員が私に問いかける。秘密と言うものは一人知ったらいずれは漏れると思わなければいけない。まして5人、それで済むわけがないことは子供でも分かる。
アグネス「私達5人経由で、と言う意味であるならば…。ミネルバのパイロット隊と乗組員には全員周知の事実です。月軌道艦隊に関しては―少なくともダイダロス基地攻防戦に参加したパイロット達、それと恐らく艦長、副長はご存知かと思います。当初はミネルバの外に漏らすことは皆で自粛していました。その後、月軌道艦隊も事実上の機密情報とし、部隊の外までは広めていないはずです」
改めて思えば、良く皆で部隊外にこの秘密を守り抜いたものだと感心する。本物のラクスへの恩義と開戦直後のミーアの貢献に対する感謝によるものだろう。それに皆、ミーアの歌が好きだ。 - 187二次元好きの匿名さん25/03/19(水) 01:33:55
一方、画面の向こう国防委員会組3人の私を見る目に厳しさが宿る。
シュライバー「そんなにか!?」、リー「聞いていないぞ!」、クラーゼク「どうして言ってくれなかった?!」
不味い。このままでは培ってきた上官からの信頼が―。
アグネス「それは…」
アスラン「それは、『なぜ』本物のラクスがオーブを出国せざるを得なかったか。その理由に関わります!彼女達はユニウスセブン落下テロの疎開した先、オーブ領内で正体不明の特殊部隊に襲撃されました。目的は本物のラクスの暗殺と見られます。犯人グループは当時、新型だったアッシュを中隊規模で運用していました!」
シュライバー「な…なに?!」
国防委員会組に責められそうになった私を庇うようにアスランがこの場でツァーリ・ボンバを起爆させる。今度という今度は、本当に最高評議会議員と前議員方はカチコチに凍り付く。訳知り顔だったカナーバ前議長も不敵な笑みを浮かべていたミセス・ジュールさえピクリともしない。目線のみが動き、アスランに続きを促す。
アスランは皆の反応を見て若干言い辛そうにして私に視線を遣る。それに対して私は視線でGOサイン。首コルセットのせいで肯けないから止む無し。結局、『なぜ』を語るなら、ここは避けて通れない。
アスラン「マルキオ導師やラクス達は、幸運なことに皆無事です。しかし住まいは崩壊、落下テロに続いて…。そして犯人達は搭乗したアッシュと共に自爆して全滅しました。結局、誰の指示で作戦行動をしていたのかは不明です。ラクス達はセイラン政権のコーディネイター迫害を恐れ、もともとプラントに移住するつもりでしたが、この件で不可能になりました。アークエンジェルがプラントに深い不信感を抱く最大の理由がこの事件です。彼らは議長を疑っています」
アプリリウス組一同、ジェセック「…。」
うーむ。話が脇に逸れているわね。それはそれ!
今は目の前の政変とそれに利用されようとしているであろうミーアについて向き合うべきだわ。本物のラクス云々は事情説明の一部に過ぎない。
『今のラクスはミーアと言う少女』、『議長が彼女を政争の駒として投入する恐れがある』、『そうなってしまえば、私達は負けるかもしれない。緊迫した状況下で民衆やミーアに不測の事態が起こるかもしれない。何とか防がねば』。この3点のみが大事なんだ。 - 188二次元好きの匿名さん25/03/19(水) 01:45:02
アグネス「(そうはいってもやっと話せた重大事案、一言付言しておこうかしら)」
そのままの姿勢で、特定の誰にと言うわけでは無く全体に向けお話しする。
アグネス「言うまでもなく、我が国が主権国家であるオーブ連合首長国内で勝手に軍事作戦を行うことは重大な国際法違反、侵略行為です。その上、巻き込まれたマルキオ導師はナチュラル・コーディネイター問わず信望を集めるお方、孤児院に暮らしている者の多くは正式なオーブ国籍を保有しており、ほとんどが女性と子供、障がい者でした。あらゆる意味で標的にしてはいけない人たちです。
それを思えば、制式採用されたばかりのザフト製モビルスーツを用いた暗殺未遂事件が如何にセンシティブな問題であったか。私達はそれゆえ―」
私が話し終わるのを待たず、カナーバ前議長が叱責するような声を上げる。
カナーバ「これはどういうことですか!シュライバー国防委員!?」
彼女がシュライバー国防委員長に詰め寄る。顔面蒼白のシュライバー国防委員長は口をパクパクしながら抗弁する。
シュライバー「いや!本当に私は知らない!そんな事件本当にあったのか?」
ジェセック「この場でアスラン君とギーベンラート嬢が嘘を言う意味はないでしょう!何と言うことだ。国防委員会は部隊をちゃんと掌握していないのか!モビルスーツ管理も…」
やばい流れだわ。急いで仲裁しないと…できるか!立場的に、無理だ。
リー「特殊部隊や隠密部隊の存在が上部組織に伏せられていることぐらい、どの国でもあることでしょう!我々のせいにされても困る!」
ホワイト「では誰のせいにしろと!何と言うことを…。下手したら国際問題だ。プラントの大義も疑われる」
カシム「アークエンジェルには国家元首のアスハ代表がご乗艦中なのです!とっくに国際問題です」
ライトナー「誰が悪いかと言えば、黒幕が悪い。もし議長なら彼が悪い。ですが、そんな言い分がいまさら―」
殆どパニックになったような言い争いが起こっている。やはり失敗だったか…。限られた時間、議題は絞るべきだった。そんな中、ふと傍らのメイリンのデバイス画面を見ると、青褪めた顔のカザエフスキー評議員が映っている。
アグネス「カザエフスキー評議員、ご無礼致しました」
どうやら大使館に帰って来て、この会議に顔を出して下さったらしい。こちらも必死過ぎて見落としていたわ。 - 189二次元好きの匿名さん25/03/19(水) 01:57:17
カザエフスキー「そんなことは…。それより!デュランダル議長がラクス・クライン暗殺未遂事件の首謀者であると言うのは本当ですか!?」
アグネス「不明です。犯人は皆自爆しました。しかし―リー国防委員の仰るように―国家には一般の指揮命令系統に属さない隠密部隊と言うものがまま存在するものではあります。そして国防委員会が彼らをご存知でないなら、飛び越えて命令できる人物は極極極少数に限られるでしょう」
極を3回も言ってしまったわ。まあ、これで察せないほど頭が鈍い人物はこの場にはいないだろう。ただ、もうこの話題は後回し、考えるべきは議長の―。
エザリア「それで、件のミーア・キャンベル嬢はこれらの陰謀に関りがあるのか?」
皆が大慌てになる中、いち早く衝撃から立ち直ったミセス…、いやジュール前最高評議会議員は凛然とした声で私に問いかけてくる。無論、答えは分かり切っている。
アグネス「ありません。ないことの証拠は提示できません。しかし、私は彼女と直に話してそのようなことをする人間ではないと確信しました。そもそも彼女にはラクス・クラインの亡命先を知る術も特殊部隊の指揮権もありません。
彼女は議長に利用された善人、歌手として素晴らしい才能を持ち、年相応に良く言えば天真爛漫、悪く言えば調子に乗りやすい、でも人の役に立って認められたいと願い、現にこれまでその歌声と振舞いで数えきれないほどの人を救ってきた、そんな普通の女の子です。死をもって償わなければいけないような大罪はなにも犯していません」
少し長いが必死に力説する。結局、皆、『ラクス、ラクス』ばかりだ。アスランが口にしたというもう一つのセリフ『君のじゃないだろ、ラクスだ、必要なのは』が結局は正しい。
彼女を平然と使い捨てようとしているのは、何も議長だけではない。無論、議長が一番悪いし、この方々に責められるべき所は何もないと分かってはいる。訂正、国防委員会のガバナンス不全は酷すぎるわ。
アグネス「(それにしてもあんまりだと思う。私はエリートだわ!横と斜め上には厳しくとも下には寛容で慈悲深くないと)」
無論、それだけではない何かも胸の内に感じてはいるけれど、今、それを言語化する必要はないだろう。
エザリア「そう。特務隊アスラン・ザラ、相違ないか?」
アスラン「はい。ありません」 - 190二次元好きの匿名さん25/03/19(水) 08:26:27
ここで言い争うとは…いやアスランの発言考えたらそうなるか
- 191二次元好きの匿名さん25/03/19(水) 10:43:33
議長側がこれすら見越して「実はこのラクス偽物なんですよ〜、でもこの子の平和を思う心は本物だし、ご本人は雲隠れしてるから仕方ないよね!」みたいなカミングアウトしてくる可能性ない?
自白する分議長のダメージはかなり軽く済むし、アグネスら議会側にとっては切り札を失うし、後からラクスご本人来ても「今更何しに来たん?」って空気にすらなりかねないし議長にとっては三方良しだ
まぁこれやるとファウンデーション側とは拗れるかもだが - 192二次元好きの匿名さん25/03/19(水) 11:55:04
その時はカナーバが前大戦での犯罪行為を抹消する代わりに国外追放したと公表するしかないだろうな
ラクスは勝手に雲隠れしたわけじゃなくてやむなくプラントから出て行ってることと、カナーバの後任のデュランダルも当然そのことを知ってるはず(だから嘘つくな)ってことを伝える必要がある
- 193二次元好きの匿名さん25/03/19(水) 19:08:43
ほしゅ
- 194二次元好きの匿名さん25/03/19(水) 23:27:29
アスランは強い口調で断言する。思わず私もビックっとなる程の気迫がその言葉には込められている。
エザリア「うん?」
アスラン「私が最初に認めなければ良かったんです…。こんなことは駄目だと、議長と彼女に言うべきだった!」
いや、それはどうだろう?アスランが事情を知った時には、もうミーアが『ラクス様』として歴史の舞台に出てしまっていた。議長もあの性格だ。もし彼が諫めた所で聞く気はなかっただろう。ミーアの内心への警告を早めに出せたかも知れない、と言う意味ならその通りだと思うけれど。
ふと、気が付けば、ジュール前最高評議会議員のみならず、カナーバ前議長始めさっきまで口論していた最高評議会議員も画面を覗きこちらを見ている。
ジェセック「アスラン君…。気持ちは分かるが落ち着き給え」
さっきビックっとしたのは、私だけではなかったみたいだわ。アスランの叫びは真心が籠ったものかも知れないけれど、些か礼儀を失したものでもあった。
アスランを少し咎めるように見つめる20の瞳、仕方ない。フォローするわ。
アグネス「アスラン先輩、お気持ちは良く分かります。でも、やはり直ぐにそうは言えなかったでしょう。後から判明した事実も多数あります」
囁くように優しい口調で彼に語り掛け始め、徐々に声を大きく、アスランに向けていた視線を今度は傍のジェセック評議員、違うデバイスのカザエフスキー評議員に飛ばす。彼と彼女がそれに気が付いたら、最後にアプリリウスで雁首揃えている最高評議会議員、前最高評議会議員の皆さまに向け、出来るだけ落ち着いて語り掛ける。
アグネス「叶う事なら、戦わない方が良い、そう訴えていたデュランダル議長の事を信じていたのは皆、同じです。彼以外の―己を含めた―他者を責めるのは間違った考えだと思います」
はい!最後のところ聞きましたか?そう言うことで今は矛を収めてください。お願いします。 - 195二次元好きの匿名さん25/03/19(水) 23:32:48
アスラン「ああ。そうだろうな…」
私の話を聞いたアスランはやや俯きながら、返事を返してくる。まあ、私は当初から胡散臭いと思っていたけどね、彼の事。髪形と服装のセンスからして生理的に受け付けないわ。
ただ、アスランの答えは確かに何かの合図とはなった。先ほどまで口論をしていた評議員達も互いに軽く目礼し合い舌戦の休戦信号を出し合っている。
カナーバ「少し横道にそれ過ぎたようですね」
エザリア「ええ。先ずは虎口を脱するべきでしょう」
前議長と前最高評議会議員の発言で場の空気は完全に平静さを取り戻す。本当にハラハラさせるわね。
アグネス「(とは言え、諸悪の根源のカナーバ前議長が偉そうに纏めに掛かるのは腹が立つわ。私も鬼ではない。公開全裸土下座までは求めない。せめてこの場で一言詫びて欲しいわ。『全て私の不徳の致すところでした。失われた命の重みを思うと胸が張り裂けそうです。多くの方々に多大な苦痛とご迷惑をお掛けし申し訳ありませんでした』くらい言ってくれても良いはず)」
そんな考えが脳裏を掠めていると、ジュール前最高評議会議員が私に窘めるような視線をお向けになる。『過去の事は水に流せ』と言う意味だろうか。
そうね、我慢だわ。彼女も今は仲間、昨日の敵は今日の友だ。私達の今の敵は議長。敵は議長官邸に在り、よ。
辺りが少し気まずい沈黙に呑まれる中、この場の現職評議員次席が最上位のライトナー評議員が咳払いをして話を引き継がれる。
ライトナー「ゴホン!諸々の事は後日。それでは今後の皆さんの立ち回りについて詰めましょう」
アプリリウス組、カザエフスキー、ジェセック「異議なし!」
アグネス、アスラン他士官室組「了解!」
この政争、既に無血での解決は不可能だ。怪我人が出てしまっている。でも、せめて死人だけは出すべきではない。この馬鹿げた騒動の引き金を引いてしまった者として、私も覚悟を持たなければ。
その後、士官室の会議は滞りなく進み、皆様の役割分担が明確化される。
ライトナー「では、カシム立法委員長は60人議会に、私達も各々…」
カシム、一同「異議なし」 - 196二次元好きの匿名さん25/03/19(水) 23:41:31
デバイス画面の向こう側、会議室から各議員が退出する中、シュライバー国防委員長の視線が私に向く。
シュライバー「先ほどは済まなかった。急なことで…。君はプラントの英雄だ。その献身を今日ほど強く実感したことはない」
ああ、仲直りしよう、と言う事ね。変に律儀ね、この人。
アグネス「ありがとうございます。そして申し訳ありません。私たちなりに国家の名誉と利益を考え…」
リー「それも良く分かった。苦労を掛けたな。特務隊アスラン・ザラも月軌道艦隊も。いや、本当にご苦労だった」
アスラン、アグネス、ルナマリア、メイリン「はい!」
その場の4人でビシッと敬礼し、画面の向こうの国防委員会3人組はそれに満足そうに返礼して下さる。良かった。国防委員会と気まずくなったら以後の任務に差し支えてしまうものね。
彼らとの通信も終了し、やれやれ、やっと、気を落ち着けることが出来る。そう思ったのも束の間、今度は艦内放送、士官室に流れ出す。
アビー「戦闘態勢のザフト艦を発見!数4、ナスカ級です。パイロットは搭乗機にて待機せよ!」
もう少しでザフト軍事ステーションと言う所で―。いや、議長にとってもここは正念場だわ。足止め隊をもう一つ二つぐらいは用意していると想定しているべきだった。
ジェセック「まだ国防委員会に逆らう者たちが居るのか!」
傍で少し苛立った声を上げるジェセック評議員に戦友の名誉のために進言する。
アグネス「恐縮ですが、議長と国防委員長が逆のことを言うと思い備えていたザフト軍人は今日まで殆ど存在しなかったでしょう。私は仮に彼らに撃墜されようとも責める気持ちにはなれません」
そう諫言すると、もとより賢明な御仁だけあって直ぐに平常心を取り戻して下さる。
ジェセック「ああ…。済まない。気が急いてしまって。最高評議会議員失格だな…」
アグネス「そのようなことは…」 - 197二次元好きの匿名さん25/03/19(水) 23:48:39
私が評議員を宥めている中、隅の方でホーク姉妹がこっそり囁いている。
ルナマリア「物分かりの悪い指揮官もいるのね」
メイリン「お姉ちゃん、普通は想定してないよ」
ただ、なんにせよ、同軍合い討つ事態だけは避けたい。それが避けられないなら…。顔が危うくなっているアスランとホーク姉妹に声を掛ける。
アグネス「相手が友軍なら私達が取りうる手段は一つです。モビルスーツは不殺撃破、戦艦はスラスターの破壊もしくは脱出の猶予を与えた後の撃沈。それしかありません。グラディス提督の説得で済めば一番ですが…」
アスラン「ああ」、ルナマリア「勿論」、メイリン「はい」
返事をし合って、中の皆で士官室のドアを跨ぐ。
ジェセック「私も行こう。国防委員長と彼らを説得しないといけない」
そう言ってジェセック評議員も『彼の戦場』に出撃する。ブリッジ間通信で行われれる説得工作が成功すれば、それに越したことはない。
ルナマリア「あんたは医務室に戻りなさい。メイリン、アグネスを送って!」
アグネス「いや…。どうだろう?通せんぼする艦隊とモビルスーツの布陣を見てからじゃないと…」
シンとハイネ先輩は私と同じくむち打ち症候群。加えて消化器にダメージ有り、止めに血胸で戦闘不能。月軌道艦隊がデブリ帯の戦いみたいにナスカ級を先行させるなら―。機体とパイロットの数を考えると…。
アスラン「大人しくしてくれ。怪我人なんだぞ、君は!」
メイリン「じゃあ、デバイスもって行きます。ブリッジとも回線を開いたままで。相手艦隊の情報は医務室で確認しましょう。いざとなったらパイロットスーツのお着替えは手伝いますから、ね?」
アスランに怒られ、メイリンには口先の妥協案を出され…。悲しい。仕方ない。
アグネス「アスラン先輩、ルナマリア。ご武運を。一度に医務室に戻ります」
ルナマリア「よろしい」、アスラン「ゆっくり、とは無理か。でも休んでくれ」
アグネス「はい」 - 198二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 00:05:35
- 199二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 00:07:56
- 200二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 00:09:32
動けない分アスランを扱き使っちゃえ!