【SS】あたしが決めた道

  • 1◆v.9FZ0qjGc25/03/02(日) 22:07:19

    「おめでとう、エース」
    「おう!ありがとなトレーナーさん!」

    今日は卒業式、別れと新たな旅立ちの日。その卒業式を終えたカツラギエースがトレーナー室でトレーナーと話をしていた。
    卒業し大学への道を歩むエース。彼女とはこの場所で話すのも今日で最後になる。トレーナーがそんな事をしみじみと感じていると何やらエースが落ち着かなくなっていた。

    「あ、あの! と…トレーナーさん!」
    「どうしたんだい? 急に落ち着かなくなって……」
    「ひゃいっ!?」

    どこか慌てている…というよりは緊張してぎこちなくなっているエース。そんな彼女の両肩に手を乗せてトレーナーが質問してみると深呼吸を繰り返す。

    「………もし良かったらさ、あ…あたしの実家に来てもらえないか?両親もお礼が言いたいって言ってたしさ」

  • 2◆v.9FZ0qjGc25/03/02(日) 22:07:38

    意を決してそう答えるエース。そんな彼女の提案に対して少し考えた後トレーナーは口を開く。

    「よし分かった。もしよかったらエースの実家に一泊泊まらせてもらっても……だめ?」
    「へ……? いいのか……?」
    「改めて君のご両親と色々お話したいと思ったしね。明後日でも良いか?」

    思わず素っ頓狂な声を上げるエース。
    それも当然である。何故なら普通に日帰り感覚で考えていたら実家に宿泊するという提案が、それも想いを寄せているトレーナーから返ってきたのだから。
    しかしそこは3年間強者と渡り合ってきたエース。再び深呼吸をして落ち着かせ、普段の輝くような笑顔を見せる。

    「ありがとなトレーナーさん。それじゃ約束の日、楽しみにしているぜ」

    落ち着いてはいたものの、振り切れんばかりに尻尾を動かしながら答えるエース。

    「今日で卒業だから今日明日は俺の部屋で泊まってくか?」
    「……!? そ、そうさせてもらおうかな……」

    そして唐突なトレーナーの提案にぎこちなく答えるエースなのであった。

  • 3◆v.9FZ0qjGc25/03/02(日) 22:08:02

    そうして数日後、約束の日。

    「よし、荷物は持った?」
    「ああ、バッチリだ!」
    「戸締りよしっと。これで良いかな」
    「はいトレーナーさん、さっきあたしが作ったんだ」

    大きいキャリーバッグを持ちそんなやり取りをするトレーナーとエース。会話の中で手渡されたのはエース特製のおにぎり、彼女が言うには昨日の残りで
    作ったとの事らしい。

    「心配すんなって、洗い物はちゃんとしたからさ」
    「ありがとねエース。……これからもおにぎり握って欲しいな……なんてね」
    「あたしはそれでも構わないんだけどな……」
    「どうしたエース?」
    「……!? な、なんでもねぇ!ホラ行くぞ!」

    そんなやり取りをして部屋を出た二人。
    外は快晴、出かけるには最高の日であった。

  • 4二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 22:08:19

    このレスは削除されています

  • 5◆v.9FZ0qjGc25/03/02(日) 22:08:24

    部屋を出て電車に揺られながら窓から景色を眺める二人。都会から離れるにつれ、自然溢れる光景が次第に広がっていく。

    「凄いなぁ……」
    「おお………」

    そうトレーナー達が眺めていると丁度橋を渡る所に差し掛かる。その風景の片隅に見えた河川敷、そこで走っているウマ娘の姿がチラリと目に入る。

    「なぁ覚えてるかトレーナーさん、あたし達が出会った時の事をさ」

    あの時誰にも注目されず、河川敷で一人走っていたエースの事、そして何度も河川敷で出会いトレーナーと担当ウマ娘としてのスタートを切った時の事をトレーナーは思い出す。

    「あの頃は互いに精一杯だったからなぁ」
    「だから二人で必死に足掻いたんだ。足掻いて足掻いて足掻きまくって今のあたし達がここにいるんだ」

    「だから………」

    『間も無く到着致します。お降りのお客様は……』

    何か言いたげなエースを遮るように列車内のアナウンスが響き渡る。

    「続きは家で落ち着いてからにしよっか」
    「……そうだな!」

    遮られて残念そうにしていたがその言葉に普段の調子を取り戻すエース。そうして二人は荷物を持って列車から駅に降り立ち改札を出たのであった。

  • 6◆v.9FZ0qjGc25/03/02(日) 22:08:58

    駅を出てその街から少し離れた田畑が並ぶ道、小鳥の囀りが聞こえるそんな静かな道をまっすぐ進んでいくと一軒家に辿り着く。

    「着いたぜトレーナーさん……おーい!帰ったぞ!」

    玄関前に立ち、エースがそう叫ぶと彼女の家族が玄関に集まってくる。

    「おかえりお姉!」
    「卒業おめでとう。……そちらが話していたお方?」
    「うちのエースを見ていただきありがとうございました……ゆっくりしていってくださいな」

    家族の暖かい出迎えを受け、家の奥へと案内されるトレーナー。ふと横を見ると顔を赤くしたエースが彼の方を見ていたのであった。

    「……エース?」
    「あ!いや!なんでもない!」

    「お姉良かったじゃん!いつも話してる大好きなトレーナーさんと一緒だなんて羨ましい〜」
    「ばっ……!こ、こら!」

    そんなやり取りを微笑ましく眺めているトレーナー。

    (エースが…俺の事をそんなに……)

    しかしトレーナーは微笑ましさと同時に自分の奥底から感じる胸の高鳴りを抑えきれなかった。

  • 7◆v.9FZ0qjGc25/03/02(日) 22:09:18

    少し寛いだ後、外に散歩に出るエースとトレーナー。
    都会や街から離れた自然を感じながら道を歩いていると少し開けた広場に幼いウマ娘達がかけっこをしていた。その様子を眺めていると一人のウマ娘が二人に気が付いた。

    「あ!エースおねえちゃん!」
    「おーい!元気にしてたか?」
    「エースおねえちゃんといっしょにうつってたひと!」
    「この人はな、あ…あたしのトレーナーさんだ!」

    次々と周囲の人が二人に集まってくる。それもその筈、多くの強者と渡り合ってきたカツラギエースとそのトレーナーはこの周辺では有名人となっていたのである。

    「折角だからトレーナーさん、こいつらの走りを見てくれないか?」

    というエースの一言で始まった一日限りのレース教室。トレーナーが指示を出し、エースがお手本を見せて子供達に教えていく。その甲斐もあってか教室を開く前に比べ、少しずつ彼女達の走り方が上達していき、最後は皆で簡単なレースをするまでに至ったのである。

    「わたしも……おねえちゃんみたいになれるかな?」
    「大丈夫だ、君もきっとエースみたくなれる!」

    (そうだ、この子達だって輝けるんだ……!)

    上手く走るようになって喜んでいる彼女達を見て何かを閃き決意したトレーナー。

    (トレーナーさん…………)

    そんな彼の様子をじっとエースは眺めていたのであった。

  • 8◆v.9FZ0qjGc25/03/02(日) 22:09:40

    レース教室を終え自然溢れる道を歩いた後、家へ戻った二人。夕食を食べ終え湯船で疲れを洗い流し、用意された部屋でトレーナーは一人星空を眺めていた。

    「今日はありがとな、トレーナーさん」

    すると部屋に入ってきたエースがトレーナーの近くに座り、彼と同じように空を見上げる。

    「ここまで色々あった…決して楽な道のりじゃなかった……でもエースと一緒だから歩み抜けた」
    「あたしもトレーナーさんがいたから、この険しい道を進む事が出来た……今ならそう胸張って言える」

    目を瞑り、今までの道のりを二人は思い返す。勝った事、負けた事色々あった。
    周囲から注目されている強者達にその背中を見せつけるため、今まで自分達を見向きもしなかった者達をあっと言わせるため、そこに至るまでの長く険しい道のりがあった。

    「その…エースとはさ、別々の道を歩む事になるけど……さ、きっとこれまでの経験はお互いに———」


    「———嫌だ」


    突如トレーナーの言葉が遮られる。振り向くと俯いているエースの姿、表情は見えないが震えている彼女の身体がその感情を物語っていた。

  • 9◆v.9FZ0qjGc25/03/02(日) 22:10:10

    「あたしはもっと、もっとトレーナーさんと一緒にいたい……!」
    「でもエース……」
    「だって……だってあたしは…あたしは……!」

    「トレーナーさんの事が大好きなんだっ!」
    「———ッ」

    静寂な部屋に響き渡るエースの告白。その言葉に戸惑うトレーナーにエースは更に想いをぶつけていく。

    「我儘なのは分かってる……自分勝手だって分かってる……でもこれだけは譲れないんだ……!」
    「君にはきっと自分より良い人が見つか……」
    「ならなんで!トレーナーさんはそんな悲しそうな顔をしてるんだよ!」

    そう言いながら俯いていた顔を勢いよく向けるエース。
    彼女は、泣いていた。

    「その顔がどう言う意味かは分からない……だからあたしはトレーナーさんの本当の想いが知りたい!」
    「俺は………」
    「嫌なら嫌って言ってくれよ……それならあたしだって諦めがつくんだ……互いに抱えたままそれで終わりなんて嫌なんだ……お願……!?」

  • 10◆v.9FZ0qjGc25/03/02(日) 22:10:35

    そう言い切る直前、エースの身体が暖かさに包まれる。トレーナーがエースを抱きしめていたのである。

    「そこまで追い込んでごめんなエース……」
    「トレーナーさん……」
    「俺もエースの事が大好きだ」
    「———!」
    「だけど心のどこかで君はきっと自らの道を進んで離れていくものだと思ってた……」
    「そんな……こと………っ」
    「だからハッキリ伝える……カツラギエースさん、どうかこれからもそばにいて下さい」

    一瞬部屋が静まり返り、その後すぐにエースの泣く声が聞こえてくる。そんな彼女をトレーナーは優しく抱きしめ続ける。彼女の心を落ち着かせるようにずっとずっと。

    「ありがとう…トレーナーさん……ありがとう……!」
    「こっちこそありがとう……エース……!」

    同時にトレーナーの泣く声も聞こえ始め、部屋に二人の安堵と喜びの証が響き渡る。そんな二人だけの光景を月だけがただ優しく暖かく照らし続けていたのであった………

  • 11◆v.9FZ0qjGc25/03/02(日) 22:10:57

    「……年甲斐もなく大泣きしたな…‥いつ以来だ?」
    「へへっ、いいんだよトレーナーさん。これから泣きたい時はいつだってあたしがいるんだからさ」

    落ち着いた二人は身を寄せ合い月を眺めながら語り合う。他愛のない会話を続けているとトレーナーは深呼吸をして改まりながら語り始める。

    「今日の子供達を見て分かった。中央にいる人だけじゃない、地方にだってエースみたく輝ける人は沢山いるって」
    「トレーナーさん……」

    エースは自分が学園に来た時の頃を思い出す。地元の誰もが中央との隔たりを感じ、別世界だと思い諦めていた。そんな閉塞感を嫌い、ぶち壊してやろうと学園に入ったあの時、トレーナーとであった時の事を。
    そして今故郷に戻り、あの頃と比べて閉塞感は少しずつ変わりかけていた事を実感していた。

    「だからもっとトレーナーとして実績を積んで、中央と地方の壁を壊したい……橋渡しになりたいんだ」
    「……ならあたしにも手伝わせてくれ、今度もまた皆をあっと言わせおうぜ!」
    「ありがとうなエース……」
    「それじゃ、みんなに伝えに行くか!」

    そう言いながらエースは立ち上がり、続くようにトレーナーも立ち上がる。そして手を繋ぎながら皆のいる部屋に向かっていったのであった。

  • 12◆v.9FZ0qjGc25/03/02(日) 22:11:23

    そうしてエースの両親のいる部屋に入った二人。入ってきた二人の姿を見ると両親はニコニコしながら語りかけてきた。

    「あら、二人とも熱々ねぇ」
    「トレーナーさん、エースの事よろしく頼みましたよ」
    「え?なんで二人とも………?」

    あたかも先程のやり取りを知っているかの様な両親に戸惑う二人。エースが振り向くと何処かよそよそしい妹が目を逸らしていた。

    「あっ、ひょっとしてお前ぇ!」
    「ごめんね……お姉の事が気になって……」
    「まぁまぁエース。多分聞こえてたし……」

    エースを宥め終え、改まって両親達の前に正座して座る二人。そして揃って頭を下げて話し始める。

    「お義父さん、お義母さん、エースを絶対に幸せにします!」
    「あたしからもお願いします!」

    そんな二人のお願いに笑顔で頷くエースの両親。

    「……それともう一つ、あたしの我儘を聞いてください!」

    我儘と聞いて驚いた両親であったがその話を聞いて再びニコリと笑い、その我儘を許してくれたのであった。

  • 13◆v.9FZ0qjGc25/03/02(日) 22:11:46

    後日、トレセン学園にて———

    「よし、ここらで休憩にしよう。エースも休憩に入って」
    「うへぇ……つかれたぁ……」 
    「まぁすぐに慣れるさ、しっかり休んで次のトレーニングに備えないとな」
    「凄いなぁ……先輩は」

    あの後故郷から学園の方に戻ってきた二人。エースは大学へ進学したと同時にドリームトロフィーリーグに参加を表明。大学で農業の勉強をしつつ、学園の練習場にてトレーナーの現担当と共に練習を続けていた。
    またエースの要望もあってトレーナーの部屋で同棲生活を送っている。

    『もっと走ってあたしの地元だけじゃない……地方にいるレースで走りたい人を勇気付けていきたいんだ』
    『そして地元を、同じ様に中央の事を別世界の存在だと思っている地方を変えていきたいんだ』

    それがあの時両親に語ったエースの我儘であった。

    「休憩は終わり。次のトレーニング行くぞ」
    「よっし!どんとこいトレーナーさん!」
    (私達も先輩に負けられない……!)

    気合十分なエースを見て更に奮い立つ担当達、そんな彼女達を見て更に気合が入るエース。、
    そうして彼女達は練習により一層励むのであった。

  • 14◆v.9FZ0qjGc25/03/02(日) 22:12:08

    「お疲れ様。はいドリンク」
    「ありがとトレーナーさん」

    練習を終え、担当達が帰った後エースとトレーナーは二人でコースを眺めていた。

    「勉強と両立で大変じゃないか?」
    「それは大丈夫だよ、あたしが決めた事なんだしさ」
    「そうか、それなら良かった…けど無理するなよ?」
    「トレーナーさんこそ無理したら怒るからな?」

    トレーナーのチームが練習を終えた後も個人で走っているウマ娘がいる。チーム全体で走っているウマ娘達もいる。

    「やっぱり走るのって楽しいよな……」

    コースを走っているウマ娘達を…頑張っている彼女達の姿を見て目を輝かせながらエースは語る。

    「夢を掲げてリーグに参加したけどさ、あたしも正直もっと走りたいって気持ちが強かったからな。それに……」

  • 15◆v.9FZ0qjGc25/03/02(日) 22:12:28

    『キミとアタシは、ライバルだ———』

  • 16◆v.9FZ0qjGc25/03/02(日) 22:12:40

    「きっとあいつも…………?」

    そう呟こうとしたエースの視線の先に映ったのは一人のウマ娘の姿。彼女はエースに向かって笑顔で手を振っていた。

    「いや、きっとじゃねぇ……絶対あいつも来る!」

    エースもまた、笑顔でそのウマ娘に手を振りかえす。
    視線の先の彼女が帰っていくのを見届けるとエースはトレーナーの方に振り向いた。

    「さて、そろそろ行きますかトレーナーさん」
    「そうだな、それじゃ今日はエースの好きな物でも作りますか」
    「いいのか!やった!丁度あたしの家からお米が届いたんだ。それを使おうぜ!」

    エースとトレーナーは手を繋いで歩き出す。
    二人が帰る場所へ
    そして……二人の夢に向かって。

  • 17◆v.9FZ0qjGc25/03/02(日) 22:13:45
  • 18二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 22:16:35


    エースはキャラ的に興味がなかったが、すらすら入ってきた
    ストレートな子なのか…

    月明かりが見守る中で二人きりってのは王道でいい。
    まさに展開のエースさね…

  • 19◆v.9FZ0qjGc25/03/02(日) 22:19:54

    >>18

    ありがとうございます

    王道はやっぱり良いものですよね……

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています