シャカールは子供欲しがらないって言うけどさ

「…………」
「よしよ～し、あっ笑った…かわいいね～…♪」
「…………」

平穏一色の昼下がり、理知的なエアシャカールの瞳のビビッドな黄色はすっかり、くすんだレモンの皮のような色へとその様を変えていた。眼前には多少悪く思っていない担当のトレーナーの──付け加えれば男性の──一見すれば生まれてすぐの我が子を愛おしく思う父親の姿があった。
何ら、不思議では無いだろう。生まれてすぐの生命に対する、一種感情を言い表せない感動と幸福の中に有る……それが我が子なら、尚更当然であろう。

「シャカールに良く似てるね、かわいいね～…」
「…………な、ァ」

気心の知れた相手であるはずなのに、ここまで口が開かなくなるのは何故だろうか？喧嘩もトラブルも起こしていないのに、酷く胸のざわつきが、壊れた火災報知器のキュッキュという音のように喧しく止まらない。

「なンで……？」
「なんで……？夫婦なんだから子供だって出来るでしょ」

夫婦なんだから子供だって出来る。
……その通りだ。

『お前が産んだ』ッてこと以外は。

「ンで……男から子供生まれてンだよ……ロジカルじゃねえよ……」
「でもシャカールの子だよ。耳とかそっくりだし」

夫の──生物学的に夫と呼んでいいか最早分からない──優しい腕に抱かれた子供は、酷く自分に似ていた。
否応なしにこの、目の前の風景が現実であるのだと、胸板に判子を押されるようにずっしりとのしかかって来るのだ。

昼の陽の光の温かさから逃れるように、部屋を出て廊下にずるずると座り込んだシャカール。
爪を噛む音だけが、部屋の温かさから切り取られて存していた。