- 1二次元好きの匿名さん25/03/05(水) 20:28:58
入店時に会員証を見せる。
店員の案内を受けながら通り過ぎたドアの中のいくつかには、財界の重鎮や政治家たちがいるのだろう。そうした空間に自分も踏み入ることになるとは…と遠い目をしていると、ひとつの個室に通される。
テーブルにはスーツを着たウマ娘たちが既についていた。用意されている席に座ると、対面に座るSP隊長の口からこれが母国語でないとは思えない完璧なイントネーションの固い敬語が流れ出す。
「トレーナー様をお呼びしたのは他でもありません。近頃のトレーナー様のお振る舞いが殿下に多大なる影響を及ぼしていらっしゃることについて、事の重大さを認知していただくべくお時間を頂戴致しました」
「はい……」
ファインのトレーニング中、背後に立ったSP隊長から「本日の業務終了後、いつもの店で。少々お時間を頂きたく存じます」と囁かれた時には様々な暗い妄想が頭をよぎったが、どうやら当たりかもしれない。
緊張から、首の後ろに手をやる。
「それです」
「えっ」
どれですか。
言う間もなく、SP隊長は一枚の写真をテーブルに置いた。
そこには担当ウマ娘のファインモーションが写っていた。その周囲と上品なドレスに身を包んだ本人の姿を見る限り、何かのパーティーでの一枚らしい。 - 2二次元好きの匿名さん25/03/05(水) 20:29:18
「これが…?」
「よく見てください」
察しの悪い俺に、SP隊長はズイと写真を突き出す。赤い絨毯の上、少し奥にはステージとマイクが用意されている。出席者として挨拶を求められたのかもしれない。ファインのことだから、スピーチだってお手の物だったろう。それにしても、彼女がこうして公の場でも活躍しているのを見るのは嬉しいし、担当ウマ娘のことながら誇らしい。思わず口角が上がってしまう。
「それもです」
「はい?」
SP隊長はまたもや懐から一枚の写真を取り出す。…今更だが、スマートフォンでは駄目だったのだろうか。おかげで絵面が怪しいドラマのワンシーンのようだ。
取り出されたのは、またもやファインの写真。友人と遊びに行っている時のものなのか、カジュアルだがいつものきっちりさは控えられた、年頃の子らしい私服を着て笑っている。
公務もトレーニングも頑張る彼女がこうして気を抜いて楽しめているならよかった。
「で、これはなんなのでしょう……」
「他にもあるのですが……まだ分からないのですか」
SP隊長は目をキラリと光らせて一枚目の写真をピシャリと置いた。俺は証拠写真を突きつけられた被疑者のように肩をすぼめる。 - 3二次元好きの匿名さん25/03/05(水) 20:29:36
「トレーナー様の癖が!!!殿下にうつっていらっしゃるのです!!!!!」
「えっ」
えっ。
ついていけない俺をよそに、周りのSPウマ娘たちはいっせいに頷きだす。
「これは先日の語学学校国際交流イベントのスピーチ前のものですが、首に手をやっているのがお分かりでしょう」
言われてみれば、右手でうなじのあたりを撫でている。入出時のことを思い出しながら、改めて首に手をやる。
「いや、こんなの誰でもすることでしょうし…」
「ではこちらは? ご学友とのお出かけの際、歯を見せて笑っていらっしゃったのですよ!!!公私の場であろうと口角を上げて上品に微笑むだけでいらっしゃったあの殿下が!!!」
言われて見れば、ファインははにかむようにして白い歯を見せている。年頃の子らしく見えたのは、そのおさなげな表情にあったのかもしれない。 - 4二次元好きの匿名さん25/03/05(水) 20:29:54
どれも俺の影響と言えるのかは微妙だが、近しいところにいる人から癖がうつるというのはない話では無い。しかも、ファインは所作にも充分気をつけないといけない立場だ。日常のものにまで口を挟むのはやりすぎかもしれないが、そばに居る俺からまずは日常の所作に気をつけなければいけないというのは盲点だった。
「すみません、俺が至りませんでした。これからはファインの側にいる者として振る舞いに気をつけ──」
「というわけで癖がうつるほどのご関係にまでなられたトレーナー様と殿下の絆、そしてアイルランド王家の栄光に!!!」
「え?」
「「「「かんぱーい!!!」」」」
「え?」
彼女たちの手にはいつの間に並々とビールが注がれた特大ジョッキが?
テーブルに所狭しと並ぶ油っこくて味の濃い、デカ盛りの料理はどこから?
隣に座るSPウマ娘は俺にジョッキを持たせながら「え〜〜ん癖がうつっちゃうの尊い……トレーナー様×殿下しゃいこー……あっここからはぶれーこーです、唐揚げ食べます?」と肩を組むし。
SP隊長は「ふっ、殿下のあんな笑顔をまた拝見することになるとは……まあ私は幼少期の頃よりお仕えしてる身なので数年ぶりにあのお姿を見ることができた原因がトレーナー様だとしても全然悔しくないんですが。全然悔しくないんですが。この枝豆塩効きすぎでは?」と泣き上戸を発揮しているし。
こうしていつものように始まった宴会は混迷を極め、俺は隣の個室でパイプ作りや高度な政治的な話題の応酬に奔走する社長や政治家に内心謝りながら、ビールの合う居酒屋のようなメニューに箸を伸ばすのであった。 - 5二次元好きの匿名さん25/03/05(水) 20:31:26
おしまい
ファイン出てないねえ!!!!! - 6二次元好きの匿名さん25/03/05(水) 20:32:49
乙~、次からはトリップ付けてくれや
- 7二次元好きの匿名さん25/03/05(水) 20:35:12
トレーナーパスポートの用意は?神様にお祈りは?部屋の隅で旅行鞄の用意をする準備はOK?
- 8125/03/05(水) 20:51:21