【CP/SS】あいだっこ誕生日｜あにまん掲示板

1二次元好きの匿名さん25/03/06(木) 00:02:41

「ヴィルシーナ、今日誕生日のおめーに、ゴルシちゃんから特大のアスタキサンチン爆弾を授けてやんよ」
「アスタキサンチン、赤色の天然色素ですわね。エビやカニかしら？」
「チッチッチッ……誕生日には、これだぁ！」
　同じトレーナーの元で共に練習するチームメイトであるゴールドシップが取り出したのは、特大の鮭である。しかも捌かれる前の完全な魚の姿のままだ。まあこれくらいの奇行は予想の範疇であるが、誕生日イコール鮭とはヴィルシーナの脳内では繋がらない。
「プレゼント、でいいんですよね？　ありがとうございますゴルシさん。ですが……何故、誕生日に鮭を？」
「誕生日には鮭を食え」
「えっ？」
「誕生日には鮭を食え」
「確かに美味しいですが……」
「おーっほっほっほっ、全知の神ゴルシちゃんは何でも知っておるぞよ。ヴィルシーナ殿が輝くウィローの剣を使いこなし、そのアスタキサンチン爆弾を処理できることを……。おーっとあっちからアフリカ大陸で一番標高が高え場所の香りがするぜ！　ここでオサラバだ！」
「あっ……ちょっとゴルシさん！　……行ってしまったわ」
　ウィロー、つまり和訳で柳。ゴールドシップの言葉を脳内で翻訳している最中に彼女はトリプルアクセルを決めながら去っていった。ドロップアイテムのように魚を入れる発泡スチロールの箱を残して。アフリカ大陸の標高が高い場所となるとキリマンジャロだから、そちらは今日のカフェテリアのコーヒーのことだろう。小さな溜め息をついて、ヴィルシーナはプレゼントとして貰った鮭をその箱につめた。
　さて、この鮭をどうすべきか。急に渡されても実家に送るには猶予がないのでヴィルシーナ自身でどうにかしろということだろう。確かに最近は妹のシュヴァルグランのために、魚を捌く練習をしているが。
「あっ……なるほど、そういうことなのね」
　柳の剣。つまり柳刃包丁だ。包丁の中でも特に魚を捌くのに適しているもの。トレーニングの合間を縫って、こっそり魚を捌く練習をしていたことをゴールドシップは知っててくれていたのだ。――どうして知られたのかはこの際気にしないでおく。
「ですが、いただいてるばかりでは申し訳ありませんわね」
　さて、どうすべきか。少しばかり考えたヴィルシーナは、夜間の外出許可を取り、調理実習室の鍵を借りることにした。

2二次元好きの匿名さん25/03/06(木) 00:03:30

「なんてことだ……こんな夜中に暗闇の調理実習室に呼び出されるとは。ま、まさかヴィルシーナがアスタキサンチン爆弾にやられてしまったのか？　アタシを恨んで化けて出てこようとしてんのか……？」
「全くもう、そんなわけないでしょう」
「ドヒャーーーーッ！　こ、このゴルシちゃんの脈拍数を瞬間的に150以上にするとは……流石、おもしれー女だぜ……グフッ」
　暗闇からそっと顔を出すと、ゴールドシップは漫画のようにわざとらしく飛び跳ねた。生真面目すぎるくらい生真面目と思われているらしいヴィルシーナが、夜間外出許可を得てまでして呼び出すのは確かに珍しいかもしれない。ヴィブロスが知ったら「え〜、お姉ちゃんどうひたの〜！？」と口に手を当ててびっくりするだろう。
「ところでよぉヴィルシーナ、オメー今夜はフォークボールを捕球しまくる予定はどうしたんだ？」
「家族団欒の誕生日パーティーはもう済ませてきましたよ。ゴルシさんからいただいた鮭も、振る舞わせていただきました。とても美味しくて――それでねゴルシさん。私、“いただきっぱなし”は嫌なんです」
「ほぉ……」
　調理実習室の、テーブルの上。ご丁寧にろうそくを立てて火をつけたものがある。カチッ、と小さな針の音がして、時計がちょうど0時になった。
「今、この瞬間。3月5日が3月6日になる瞬間は、私たち2人のあいだっこ誕生日、ですよね？　ですからこれは、私たちのバースデーケーキ」
　綺麗な丸の形に整えられた、サーモンのタルタルケーキ。
「ま、まさか……あのアスタキサンチン爆弾を解除して処理したってのか……！？」
「ええ。私がしっかりと、柳刃包丁を使って」
「――でも、なんで誕生日に鮭なんだ？」
　そう問うゴールドシップの表情は、笑っている。きっと、ヴィルシーナなら答えてくれると、信じてくれている。
「あら、ゴルシさんが仰ったじゃありませんか。誕生日には鮭を食べろと。確かに――大切な方の誕生日に“さけ”を贈るのは、お祝いの慣例の一つ。でも私たちはまだ未成年ですから。今はまだ、この鮭で乾杯ということに致しましょう？」
「――完璧な爆弾処理、恐れ入ったぜ」