(SS注意)恋愛マスター

  • 1二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 00:49:52
  • 2二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 00:50:21

    「……こらまた難儀やなあ」
     
     トレセン学園の倉庫。
     そこに、一人のウマ娘が明らかに過大な荷物を抱えて入って来た。
     栗毛のサイドテール、茶色のメンコ、左耳には五弁の紫丁香花の耳飾り。
     ラッキーライラックは、荒れ果てた倉庫の中を見回して、呆れ顔でため息をつく。
     するとその後ろから、彼女ほどではないが多くの荷物を抱えた男性が、目を丸くしながら入って来た。

    「よいしょっと……うわ、これはひどいな、他に運び入れるのはないんだよね?」
    「はい、おおきにな……後はなおすだけやから、トレーナーさんは戻ってもええですよ?」
    「まさか、キミ一人にやらせるなんて出来ないよ、ちゃんと最後まで付き合うから」
    「…………もう、また腰を痛くしても知りませんよ?」


     そう言って、ラッキーライラックは少し困ったような笑みを浮かべる、
     元々は、彼女がクラスメートの友人から頼まれていた仕事。
     それをトレーニング後に済ませようとしたら、話を聞いた彼女の担当トレーナーも手伝うことになったのだ。
     機材の片付けと、倉庫の中の整理整頓。
     一つ一つはウマ娘にとっては大した重さではないものの、彼にとっては重労働であった。
     けれど、嫌な顔一つせず、むしろ楽しげな表情で付き合ってくれている。
     そんな彼の姿に柔らかく目を細めながら、ラッキーライラックは静かに荷物を運び始めた。

  • 3二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 00:50:44

    (まったく、ほんまトレーナーさんはええかっこしいやね。自分の仕事は手伝わせようともせぇへんクセにこないな時だけ気張るんやから、心配するうちの身にもなって欲しいわ…………まあ、手伝ってくれる気持ちは嬉しいし? 一緒におるのも嫌やないし? 必死に荷物運んどる姿見て背中がそわそわしとるけども──────って、あーあー、またそないな荷物無理して運ぼうとして、あんなんうちに任せとけばええのに……ほんま、仕方のない人やわあ、今度また、湿布貼ってあげなあかんね)

     ────その内心は、割と騒がしかったが。
     それはさて置き、倉庫の整理自体はスムーズに進行していった。
     トゥインクルシリーズに二人三脚で挑む二人、言葉を交わさずともチームワークを発揮している。
     トントン拍子で作業は進み、終わりが見えて世間話をする余裕が出来た頃、ふとトレーナーが問いかけた。

    「そういえば、ララ」
    「ん、どないしました?」
    「ちょっとキミに聞きたいことがあって……その、聞いて良いのかは、わからないけど」
    「なんや、おかしなこと言いはりますなあ、うちとトレーナーの仲やないですか、どーんと聞いたってください」
    「そっ、そっか、それじゃあ遠慮なく………………あの、“恋愛マスター”って、なに?」

     瞬間、どんがらがっしゃーんと、大きな音が倉庫に響き渡った。

  • 4二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 00:51:00

    「ラッ、ララ!? すごい音したけど大丈夫!?」
    「もっ、問題はありません……派手な音を立てながら怪我無くコケるのは、得意やから」
    「なにその技術」
    「それよりトレーナーさん、いっ、今の話、どっから聞いたんです?」
    「……どこからというか、割とみんながキミの名前とセットで話題に出してるというか」
    「そっ、そうなんですか……ただの友人同士の戯れやさかい、気にせんといてください」
    「…………まあ、キミが気にしてないなら良いけど」

     先ほど動揺が嘘のように淑やかな笑みを浮かべて、ラッキーライラックはそう答える。
     トレーナーは色々と察したような表情を浮かべ、これ以上は聞かないことに決め、作業へと戻った。 

    (うちの人生の汚点、学園のトレンドになっとるんかあぁぁぁぁああっ!)

     心の中で、ラッキーライラックは頭を抱え、叫び声を上げていた。
     先日────彼女は、友人からの相談に乗っていた。
     相談した本人には自覚がなかったものの、それはまさしく、恋愛相談と呼べるもの。
     結論からいえば、彼女は相談相手の悩みを一応の解決に導いた。
     その功績と知識を讃えて、クラスメートの前で授けられた称号こそが、“恋愛マスター”である。
     以降、同級生からの恋愛絡みの相談が爆増したことは言うまでもなかった。

    (うちかてそないな経験あらへんのにようけ相談されても困るっちゅーねん! ああ、また相談増えたらどないしよ……っ!)

     ラッキーライラックは今後のことに頭を悩ませながら、自分で崩した機材を直し始めた────丁度、その時である。
     がちゃりと、鍵のかかる音が倉庫の中に小さく、けれど妙にはっきりと響き渡った。

    「えっ?」
    「へっ?」

  • 5二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 00:51:15

    「おーい! ……だめだ、近くに人がいる感じがしない」

     そう言いながら、トレーナーは苦々しい表情を浮かべる。
     どうやら誰かが誤って外から鍵を閉めてしまったらしく、二人は閉じ込められる形となってしまった。
     二人とも今はスマホを持っておらず、助けを呼ぶことも出来ない。
     現状を認識したラッキーライラックは、小さなため息をついた。

    「まあ、ここも少なからず利用者はいはりますし、その内、誰かが来てくれると違います?」
    「それはそうだろうけど……ララは大丈夫?」
    「ええ、トレーニングも終わっとりますし、たまにはこうしてゆっくりするのもええでしょう」
    「…………キミはこんな時でも冷静だな、さすが」

     トレーナーは感心したような顔で、ラッキーライラックを見つめた。
     彼女は、まるで自室にでもいるかのような落ち着いた様子でマットの上に体育座りをしていた。

    (まったく! どこの誰や、いらんことしぃは!? ほんっっっっまに! かなんわっ!)

     やはり、ラッキーライラックの内心はそうでもなかった。
     表情こそ落ち着いているものの、耳や尻尾は先ほどからぴょこぴょこと動き回っている。
     とはいえ、本来であれば、このくらいのことでは彼女も動揺を示さない。
     彼女がここまで冷静さを欠いてしまっているのは、ひとえに、直前の会話のせいであった。

    (ああもう! あの子の話を思い出した後やから、変にトレーナーを意識してまうやないか!)

     “恋愛マスター”の発端ともいえる、友人からの相談。
     その友人が自覚無しに思いを寄せていた相手は、彼女の担当トレーナーだったのである。
     友人は、話していた。
     彼の顔を見るとぼーっとしてしまう時があると、彼のことを夢で見てしまうことがあると。
     その時は、微笑ましい気持ちでラッキーライラックも話を聞いていたが、ある時ふと、思い至ったのだ。

  • 6二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 00:51:29

     もしかして、コレ────うちも同じなんちゃうかな。

     トレーナーの笑顔に、思わず見惚れてしまうことがある。
     トレーナーと一緒に過ごす夢を、昨日も見た。
     トレーナーに褒められるだけで、尻尾がぱたぱたと動いてしまう。
     トレーナーのことを考えていると、頬に熱がこもって、胸がドキドキする。
     トレーナーの前では、お淑やかで、物静かで、落ち着いている、格好良い自分でいたい。

    (こんなん、あの子となんも変わらへん……っ!)

     ラッキーライラックは身体を丸めて、俯きがちに、自らの脚へと顔を埋めた。
     何時か友人に向けて行った言葉が、頭の中でひたすら反響して、彼女の精神を散々に打ちのめしていく。
     あの時、確かに彼女はこう言ったのだ────『それはな、恋やで』、と。

    (なあぁぁぁぁにが『恋やで?』やねん! 自分かておぼこなクセにえっらそーなこと言いおって! あん時のうちをぼてくりかましたい気分やわ!)

     自室のベッドだったら足をバタバタさせていた、と言わんばかりの羞恥心にラッキーライラックは身を焼かれる。
     故に、彼女は気が付かなかった。

    「────ララ」
    「……へっ、あっ、トッ、トレーナー、さん?」

     いつの間にか近づいていたトレーナーが、鬼気迫った真剣な面持ちで自身をじっと見つめていたことに。

  • 7二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 00:51:46

    (アカンアカンアカン! 近い近い近い! うちまだシャワー浴びてへんから汗の匂いとかめっちゃするからそんなに近づいたらアカンって! いやでもトレーナーさん、改めて近くで顔見とるとやっぱ男前やなあ…………じゃのうて!? なになに!? ほんまになんなんやこれ!?)

     ラッキーライラックは騒めく心の中とは裏腹に、目を大きく見開いて固まってしまう。
     迫りくるトレーナーの顔を見ては視線を逸らし、視線を逸らしては見つめるを繰り返す。
     距離が近づくに連れて、頬の赤みは増し、心臓の鼓動は大きくなり、息も詰まっていく。
     やがて、彼女の左肩にトレーナーの手がぽんと優しく置かれた。
     大きくて、ごつごつとしていて、暖かな、男の人の手。
     レース前などであれば落ち着いたかもしれないが、少なくとも、今は逆効果であった。
     一際大きく、彼女の心臓がどくんと跳ねる。
     ぐるぐると思考が氾濫し始めて、それに合わせて耳や尻尾を荒ぶっていく。

    (こっ、これは、そういうことなんか? そういうことなんか!? そういう! こと! なんかぁ!? ここ倉庫とはいえ学園内やで!? いや、学園の外ならええってわけではないけども! まだ日も出とる時間やし、いつ誰が来るかもわからへんやんか!? そういうことはまだ早いちゅうか、汗まみれで汚れとるし、下着かて今日はもっさいのやし……とっ、ともかく、いくらトレーナーさんでも今はダメやっ!)

     いかに信頼を寄せていたとしても、いかに恩義があったとしても、越えてはいけないラインというものはある。
     否、そんな相手だからこそ、毅然として向き合わなければならない。
     ラッキーライラックは意思を鋼の如く固めて、真っ直ぐにトレーナーの目を合わせた。

  • 8二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 00:52:04

    「ララ、動かないで」
    「……はっ、はひ」

     ダメだった。
     真面目な声色で、自身の名前を耳元に囁かれただけで、ラッキーライラックの鋼の意思は、ただの蒟蒻へとなり下がってしまった。
     何の抵抗もなく返事をして、言われるがままにぴたりと動きを止める。
     そうこうしているうちに、トレーナーのもう片方の手が、ゆっくりとした動きで彼女の首元へと迫って来た。
     
    「…………っ!」

     そして、ラッキーライラックは全てを受け入れるように、きゅっと目を閉じた。
     無意識のうちに唇を尖らせて、顔を少しだけ上げる。
     それは奇しくも、自分に相談を持ち掛けた友人と、同じ仕草であった。

    「…………それと、右肩は絶対に見ないでね、絶対に、見ちゃダメだよ?」
    「へっ?」

     直後、ラッキーライラックは場の流れに従って右肩へと視線を向ける。

     彼女の体操服の肩先には────割と大きめの虫が、悠々と鎮座していた。

  • 9二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 00:52:20

     ひゅっ、と音を立てて彼女の呼吸が止まる。
     血の気がさあっと引いて、顔が青ざめ、尻尾や耳が逆立ち、そして。

    「ぎゃあああああああああああっ!?」
    「ちょっ、ララ!?」

     ラッキーライラックは悲鳴を上げながら、縋りつくようにトレーナーへと抱き着いた。

    「むっ、むむむむむ、むし! このでかさはあかん! あかんて! トレーナーさん、はっ、はよ! はよとってえな!」
    「わかった! わかったから落ち着いて! というか見ないでって言ったじゃないか!」
    「あんなん見ろちゅーフリやんかっ! あんた何年この仕事しとるんやあ!?」
    「まだ二、三年なんですけど!? とりあえず落ち着いてくれないと取れないから!」

     トレーナーにしがみつきながら、混じりに雫を溜めているラッキーライラック。
     虫に対しては、本来少し苦手程度のはずだったが、至近距離かつ許容範囲外のサイズをいきなり見せつけられた結果、恐慌状態に陥ったのだ。
     あまりに力強く抱き着いているが故に、トレーナーも上手く動くことが出来ない。
     そして、二人でてんやわんやしている内に、件の虫はぴょんと彼女の肩から飛び降りて、そのままどこかへと立ち去って行った。

    「あっ、ララ! 虫はもうどこかに行ったから! 安心して!」
    「……ほっ、ほんま? 嘘ついてへんよね? ドッキリちゃうよね? そないなことせーへんよね?」
    「しないよ、というかそんなことしたことないでしょ」
    「……そやったな」

     ラッキーライラックはきゅっと目を閉じてから、恐る恐る、ちらりと右肩を見やった。
     そして何も居ないことを確認し、大きく安堵のため息をつく。

  • 10二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 00:52:46

    「はあああああ……いやあ、びっくりしたわあ」
    「俺の声のかけ方も良くなかったね、ごめん……それで、その、だな」
    「うん? トレーナーさん、どないしたん? そないに顔を赤くしてもうて」
    「……まずは一旦、離れてもらっても良いかな?」
    「……へっ?」

     落ち着きを取り戻したラッキーライラックは、ようやく自分達の状況を正しく認識した。
     彼女の両腕はトレーナーの背中に回されていて、両手はぎゅっと服を強く掴んでいる。
     必然的に、身体もぴったりと密着していて、特にその豊満な二つの膨らみはむぎゅっと押し付けられていた。
     一瞬、頭の中が真っ白になって────直後、爆発するように燃え広がっていく。
     彼女の口から、声なき声が溢れ出した。

    「~~~~~~ッ! ちゃうっ! ちゃうんやこれは!」
    「うん、大丈夫だから、俺もすぐ忘れるから、まずは落ち着いて離れよう、ね?」
    「せっ、せやな……んっ……ふっ…………あっ、あれ?」
    「……ララ?」

     ラッキーライラックは、一向にトレーナーから離れようとしない。
     むしろ先ほどよりも身体を寄せて、服を握りしめる手の力を強めているようにも見えた。
     そして何よりも、彼女の両足が生まれたての小鹿のようにぷるぷると震えている。
     やがて、彼女は全てを諦めたようにぽふっと彼の胸元へと顔を埋めて、ぽそりと呟いた。

  • 11二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 00:53:04

    「あかん……腰、抜けてもうた」
    「……」
    「……」
    「…………ぷっ」
    「んなっ!? わっ、笑わんでもええやんか!」
    「ぷっ、ふふっ……いや、そうなんだけど……くっ、くく…………っ!」
    「……トレーナーさん、いけずや」
    「ごめんごめん、ほら、支えてあげるからとりあえず座ろうよ」

     トレーナーが笑いを堪えながら、拗ねるラッキーライラックに声をかける。

     その直後────がちゃりと、鍵の音が響いた。

     先刻聞こえた音が鍵をかける音ならば、必然的に今聞こえて来た音はその逆となる。
     二人がその音に反応するよりもずっと早く、倉庫の扉は勢い良く開け放たれた。

    「手伝いに来たわよララ、途中で鍵を持った子とすれ違ったからまさかとは思ったけど────?」
    「……」
    「…………アッ、アイ、さん?」

     鹿毛のロングヘア、大きなリボン付きのカチューシャ、輝く星のような大きな瞳。
     アーモンドアイは倉庫の中の光景を目にして、ぽかんとした表情で固まってしまった。

     男女が、二人きりの密室で、身を寄せ合いながら抱き合っている。

     二人は、見られた状況の深刻さに気付いて、だらだらと冷や汗を流し始めた。

  • 12二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 00:53:44

    「アッ、アーモンドアイ、これは、事故で、だな」
    「せっ、せや! そっ、そうなんよ! うちが、ちぃっとばかし、びっくりしてもうたから!」

     慌てて弁明を始めるトレーナーとラッキーライラック。
     そんな二人に対してアーモンドアイは────まるで、眩しいものを見つめるかのような表情を浮かべた。

    「……流石は“恋愛マスター”ね、ララ」
    「……あ?」

     恋愛マスター。
     その称号は、彼女達二人の間で行われた相談の果てに、生まれたものであった。
     突然をそれを蒸し返されたラッキーライラックは、困惑の表情を浮かべながら聞き返す。
     それをまるで気にも留めず、アーモンドアイは感心したようにうんうんと、力強く頷いた。

    「その背中を追いかけて、ようやく崖っぷちまで追い詰めたかと思ったのに……あなたは更に先へと進んでいたのね」
    「……そんなら崖下に落ちとるやないか」
    「こんなこと口にしたくもなかったけど、認めざるを得ないわね、完敗だわ」
    「うちかてこないなところであんたの口からその言葉聞きとうなかったわ……っ!」
    「でも、わたしは諦めない、必ずいつか勝ってみせる────その時まで、恋愛マスターの称号は、あなたに預ける」
    「いらんわ! きちんと持ち帰りや!」
    「安心して、事が終わるまでの間、このわたしが何人たりともここへは通さない…………えっと、その、それで、ね? 今後の、なんというか、参考程度に聞きたいのだけれど、あっ、あなた達は、どんなことを、どのくらいするのかしら……?」
    「いかがわしいこと言わんといて! 誤解や誤解!」
    「いかがわしいことを五回も……っ!? そっ、そんなにするなら、早く出てった方が良いわね? アッ、アイ、退出しますっ!」
    「ちょっ、まっ、ほんまにあんた、話聞かんやっちゃな!?」

     顔を真っ赤にしたアーモンドアイは、わたわたと倉庫を出て、勢い良く扉を閉めた。
     ラッキーライラックは口をパクパクとしながら、閉ざされた扉を呆然と見つめている。
     そして、完全に置いてきぼりにされていたトレーナーは苦笑いを浮かべながらフォローをし始めた。

  • 13二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 00:54:02

    「まっ、まあ、彼女で良かったじゃないか、他に吹聴したりはしないだろうし、話せばわかってくれる子だよ」
    「……トレーナーさん、さっきの会話聞いとって、ほんまにそう思いますか?」
    「…………ごめん、ちょっと自信なくなってきた」

     僅かな沈黙の後、二人は同時に、大きなため息をつくのであった。

  • 14二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 00:54:18

    「まあ、とりあえず離れておかない? もう大丈夫だよね?」

     しばらく途方に暮れた後、トレーナーはふと、そう問いかけた。
     ────何故か、明後日の方を向きながら。

    「あっ」

     ラッキーライラックは、彼に抱き着いたままであることを思い出し小さく声を漏らした。
     多少なりとも冷静になっていた彼女は、今の状況をしっかりと受け止めてしまう。
     大きくて厚みのある胸板、太くて固い腕、暖かな体温、鼻先をくすぐる心地良い匂い。
     自身が彼に包まれていることを改めて認識して、どくんと、心臓が再び高鳴った。

    「…………ララ?」

     反応が返って来ないラッキーライラックに対して、トレーナーは不思議そうに声をかけた。
     彼女はその言葉を聞こえなかったことにして、思考を巡らせる。
     抜けてしまった腰も、震えていた脚も、すでに何の問題もない。
     離れることは、今すぐにでも出来る。
     離れることは、いつでも、出来る。

    「……」

     ラッキーライラックは、考える。
     恥はもう、十分にかいた。
     正直、散々な一日だったのだから、少しくらいは役得があっても良い。
     そして、トレーナーへ抱き着いているこの状況は────彼女にとって、悪くなかった。

  • 15二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 00:54:49

    「…………」

     ドクンドクンと、大きく、早く鳴る心臓の音。
     それは彼女の胸の中からだけでなく、彼の胸の中からも、鳴り響いていた。
     良く見れば、トレーナーは顔どころか耳まで赤く染めて、彼女を見ないようにしている。
     押し付けられて、柔らかそうに形を変えている、彼女の胸の膨らみを。
     トレーニング後であることに加えて、倉庫に来てからのごたごたで汗ばんでいる彼女の身体を。
     意識してしまわないように顔を逸らしている────ようにラッキーライラックには見えた。

    「えい」

     むぎゅっと、ラッキーライラックは少しだけ腕に力を込めて、身体を更に寄せる。
     するとトレーナーはびくりと身体を反応させて、さらに心臓から早鐘を鳴らし、頬の赤みを強くした。
     そして、その反応を誤魔化すように、彼は慌てながら口を開く。

    「どっ、どうかした?」

     問いかけるその声は、少しだけ上擦っていた。
     疑念は、確信へと変わる。
     ラッキーライラックの中の何かが噛み合って、途端、思考が鋭く回り始めた。

  • 16二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 00:55:11

     問いかけるその声は、少しだけ上擦っていた。
     疑念は、確信へと変わる。
     ラッキーライラックの中の何かが噛み合って、途端、思考が鋭く回り始めた。

    「あー、まだ脚に力が入らんわあ……もうちょいだけ、こうさせてもろてもええですか?」
    「えっ? いや、そんな風には見えないんだけど」
    「……あかん?」
    「……いいけど、さ」
    「…………そか、そかそか、ふふっ♪」

     耳や尻尾を楽しげに揺れ動かしながら、ラッキーライラックはすりすりと顔や体を擦りつけていく。
     トレーナーは困ったような反応をしながらも、決して、嫌がったりするような仕草を見せなかった。
     むしろ、少し嬉しそうにしていると、彼女は感じた。

    (アイさんがあんな啖呵を切ったんや、しばらくの間は誰もきぃへんわな? うん、これもお世話になっとるトレーナーさんのためや、しゃーあないな…………いやいや、ほんまに、しゃーないなあ……♪)

     ラッキーライラックはそう自分に言い聞かせながら、にんまりとした笑みを浮かべる。
     そして上目遣いでトレーナーのことをじっと見つめると、囁くような小さい声で、ぽそりと呟くのであった。

    「………………トレーナーさんの、すけべ♡」

  • 17二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 00:56:09

    お わ り
    関西弁わかんないっぴ

  • 18二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 09:50:35

    良かった

  • 19125/03/11(火) 10:32:49

    >>18

    ララちゃんいいよね・・・

  • 20二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 20:15:18

    アイトレはいかがわしいことを6回はしなきゃならないじゃん!

  • 21二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 20:17:51

    >>20

    何か問題でも?


    それはそれとして>>1は良くやった

    100万年無税

  • 22125/03/11(火) 21:39:34

    >>20

    負けられないからね 仕方ないからね

    >>21

    そう言って貰えると幸いです

  • 23二次元好きの匿名さん25/03/11(火) 21:51:04

    最高

  • 24125/03/12(水) 00:13:30

    >>23

    ララちゃんいいよね・・・

オススメ

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