【SS】トリカスがアリモブを助ける話

  • 1125/03/12(水) 20:35:23

    悲しいことに、私たちは生きたいと思っている。

    ※スレタイ通り、トリカスがアリモブを助ける話です
    ※ネームドキャラは名前しか出ない予定です。先生も出ません
    ※毎日夜に更新する予定です。できない状況になったら報告します
    ※まだ全部書き上げてません。スレ内で終わらせる予定です
    ※以上を踏まえてご覧ください

  • 2二次元好きの匿名さん25/03/12(水) 20:36:26

    おけい、期待

  • 3125/03/12(水) 20:39:04

     それは、夜の路地の中でゴミのように蹲っていた。

     月もなく星もない、ゴウゴウとよく分からない重低音を立てながら空が動く中、私の眼は残念ながらそれを見逃さなかった。
     それは、私がしばらく傍で見ていても警戒して立つような素振りをせず、時折「うぅ」だの「あぁ」だの意味を為さない呻き声を挙げながら、頭髪の上でもぞもぞぐしゃぐしゃと指を動かしているだけだった。

    「あなた」

     私の口から出た言葉に、それはびくりと身震いをしてみせた。しかしその生理的な反応もすぐに消失し、またそれはごそごそ動くだけの何かになった。

    「ねえ、そこのあなた」

     強めの口調で声をかけると、それは顔だけをこちらに向けてきた。身体の下にガスマスクのような仮面が転がっているのが、街灯の微かな灯りに照らされて見えた。

  • 4125/03/12(水) 20:40:47

     夜闇の中でも分かった。その服装は、かつて「アリウス分校」を名乗って大事件を起こした者たちのそれと一致していた。背格好からしてあれらも私たちと同じような生徒なのだろうとは思っていたが、実物を目にしてみると肉付きや目の濁り具合など、私の知る「生徒」とは明確に違う部分がいくらか見受けられた。

    「死にかけているのですか」

     相手は古今未曽有のテロリストの1人だというのに、私はなぜか静かにそう問うた。

     愛用のショットガンは背中のギターケースにしまってある。今取り出そうとしたら目の前の誰かしらを刺激することにもなりかねないし、そもそもその合間に反撃を喰らって気絶する未来しか見えない。正義実現委員会の所属でもない、鉄火場がそれほど得意でもない自分の前に突然現れた「チェックメイト」の状況は、むしろ私にある種の諦観を生じさせるに十分なものだった。
     足元に這い蹲る彼女は、私を死人のような目つきで睨みつけたまま動かない。それが妙に苛立ち、私は再度伺いを立てる。

    「あなた、死にかけているのですか」

     彼女はなおも沈黙を破らなかった。路肩の店群は既に閉まり、通りには人どころかロボットの気配もない。
     「このもはや女であるかも疑わしい見た目の生徒が、ここで死にかけていた」という事実を知る者は、現状私しかいない。

  • 5125/03/12(水) 20:42:34

    「お腹は空いていますか」

     明らかに栄養不足で痩せこけた表情の彼女に、私は努めて平坦にそう訊いた。彼女は怪訝そうに私を見つめ、そして呆れたように大きく息をついた。

    「…………何を」
    「いえ、だってあなた、飢え死にしかけているのでしょう」
    「……誰も、そんなことは言っていない」
    「ええ、私の予測でしかありませんが」

     強がりなのかそうでないのか、彼女は自分が餓死しつつあるということを拒みたがっていた。それがどうにもじれったくて、私は話を次のステップに進める。

    「あなた、私の部屋に来なさい」
    「…………は?」
    「食料があります。来なさい」
    「はぁ……?」

  • 6125/03/12(水) 20:44:24

     死んだ眼が大きく見開かれた。墨汁のような瞳に街灯の光が反射して、一瞬だけきらりと橙色に光る。

    「お前、何を言っているんだ? 正気か?」
    「正気で生きていられる人が、このキヴォトスにいるとでも?」
    「じゃあ狂っているのか、お前。こんなのを助けようとするのか」
    「ある意味では、そうかもしれませんね」

     彼女は戸惑いながらも、足に力を入れてよろよろと立ち上がろうとする。しかしどうにも力が入らないのだろう、膝から大きくバランスを崩した。
     私は、今まで生きてきた中でおそらく1位を獲れるだろう反応速度で、彼女の左手首を掴む。それによって彼女は辛うじてまた路地に倒れ込むことを免れた。

    「放せ」
    「放しません。あなた身体を自由に動かせないでしょう」
    「だから何だ」
    「これで放したら、またここで倒れるでしょう」
    「そうだ。だから何だ」
    「そうしたらあなたは今度こそ死ぬでしょうから、一旦私の部屋に来てください」

     彼女は腕を弱弱しく振り回して私の手を振り払おうとするが、この程度の力で掴まれた手首を解けるとは到底思えない。万が一振り解けたとしても、足の速さで私に追い着かれるのがオチだ。
     そのうち彼女は無駄な抵抗をやめ、諦めたようにぎゅっと目を瞑る。その眦には涙がにじんでいるようにも見えた。

  • 7125/03/12(水) 20:45:53

    「……拒否権は」
    「本当に嫌なら構いませんよ。どうぞ銃でも何でも使って」
    「……………………」
    「では、連れていきますよ」

     そして私は彼女の手首を引っ張って、私の首に腕を回させる。夜闇でよく分からなかったが、近くで見ると薄汚れた制服だ。袖が破れかけている。
     それに鼻にツンと来る悪臭が私の足を鈍らせる。私は早速この女に手を差し伸べたことを後悔していた。

    「普通に歩いてここから5分くらいですので、大体10分くらいを見てくださいな」
    「……………………」

     2人で歩く最中、私たちは誰ともすれ違わなかった。それは私にとっても彼女にとっても幸運だったのだろう。
     彼女は私に肩を借りながらたどたどしく歩き続け、そして何の抵抗も示さなかった。目立ったアクションといえば時折嗚咽のような、喉に何かが引っかかったような呼吸音を響かせるだけだった。

     まるで三流ペットショップの檻の中にいる仔犬のようだ、と私は思った。

  • 8125/03/12(水) 20:46:50

    以上、現在の書き溜め分でした
    もうちょい書き続けるので、今晩投稿するかもしれません

  • 9二次元好きの匿名さん25/03/12(水) 20:53:33

    乙、ここから暖かな物語か濃厚な百合かまた一難か気になる所であります

    ところでトリカスのカス要素どこ・・・?
    アリモブをペットショップの犬呼ばわりするところ・・・?

  • 10125/03/12(水) 22:31:17

    続きができたので投稿します

  • 11125/03/12(水) 22:32:02

     自室に辿り着き、あの捨て犬のような彼女にシャワーを浴びるよう促してシャワー室に放り込み、独りになった部屋で私はオムライスを作る。
     とは言っても簡単なものだ。バターで薄焼いた卵を、ミートソース・ケチャップを混ぜた米に乗せるだけ。招かれざる客人をもてなすための料理とはとても思えないクオリティだ。

     ボウルの中の紅白を切るように乱雑に混ぜながら、私はシャワー音に耳を澄ませる。
     自分しか受け入れることのなかったシャワー室の中に他人がいる。その状況に慣れず、1回勢い余ってボウルを倒しかけた。

    「なぜ、私はアレを助けてしまったの」

     とてもじゃないが、助けたとして何か見返りがあるとも思えない。ホームレスの可能性が高い他人を部屋に入れたのだから、むしろ後足で砂をかける真似をされると考えていいだろう。
     なら、なぜ私は無理矢理彼女の命を繋ぐようなことをしたのだろうか。

    「どうせ答えが分かっているのに、私はどうしてこんな自問自答をしているのかしら」

     ああそうだ。私はその答えを知っている。それでも問わずにはいられない。
     それは食費がかさむことへの嘆きでもあるし、自分らしからぬ行動を起こしてしまったことへの当惑だった。

  • 12125/03/12(水) 22:33:30

     バターを熱したフライパンに落として卵液を焼く。ジュウジュウプツプツ。これを作るのは果たして1週間ぶりだったろうか。それとももっと昔だっただろうか。
     そもそも、料理をするのもいつぶりだっただろう。

    「おい」
    「ああ……あ?」

     声のした方を振り向くと、扉に隠れるように彼女がいた。その肩は濡れそぼり、少し下に目線を向けると女性らしい腰がそのまんま視界に入る。

  • 13125/03/12(水) 22:34:06

    「あの、服は?」
    「服はなかった。何を着たらいいんだ」
    「タオルは」
    「使っていいのか、あれを」
    「私が『使うな』と言うとでも?」
    「言うやつもいるだろう」
    「ああはいそうですかそうですね、では分かりやすいように申し上げましょう」

     怒りと驚きで目の前が真っ赤に染まる。そこから私が再起動を果たせたのは、偏に卵の焦げる臭いが鼻を刺激したからだった。

    「今すぐ脱衣室にあるバスタオルを使って身体を拭いてください。濡らした廊下も拭き上げてください、簡単にでいいので」
    「服は。制服はアレの中に……」

     彼女はゴトンゴトンと揺れる洗濯乾燥機を指差す。終わりのサイレンが鳴るのは3時間後か、5時間後か。

    「…………用意します」

     言われて私は、彼女の着替えを用意していなかったことに気が付いた。焦げかけた薄焼き卵を急いでチキンライスもどきの上に避難させ、洋服ダンスをひっくり返す。
     その間彼女は身体を拭きながら、眉を顰めてぼーっと私を見つめていた。私はいつだか参加した講演会で、「指示待ち人間にはならないように」と偉そうな人が言っていたのを思い出した。

  • 14125/03/12(水) 22:34:44

     放り投げた下着とジャージを着るよう指示すると、彼女は表情らしい表情を見せないまま無言で袖を通し始める。私はもう何が何だか分からなくなって、無心でもう1つオムライスのような料理を作った。
     綺麗にできた方を差し出し、2人でテーブルにつく。私と彼女、向かい合う。「仮面の下が絶世の美少女」なんてこともなく、中の下から中の中あたりの顔が2人対面して正座しているこの状況は何なのだろうか。

    「……食べていいのか、これ」
    「その状況で『食べるな』と言うと」
    「そう言う人は、昔いた」
    「そうですか、では食べてください?」

     そうして彼女は、オムライスをスプーンで作って口に運んだ。

    「…………うむ、ふむ」
    「久しぶりの食事はいかがですか」
    「……これは、お前が作ったのか」
    「ええ、もちろん」
    「なるほど。美味くはないが、不味くはない」
    「でしょうね。私はプロの料理人でもありませんから」

     食器の擦れる音が、ぽつぽつとした会話の中に混じって響く。

  • 15125/03/12(水) 22:35:11

     彼女の食べるペースは私よりも速い。よほど空腹だったのだろう。ならば消化のよい粥の方が適切だっただろうかと少し思案し、しかし「もう過ぎたこと」とその思考を放棄した。

    「他人の作った料理を食うのは、初めてだ」
    「はぁ」
    「慣れない」
    「私も、他人の手料理なんて食べたいと思いません」
    「毒が入っているかもしれない」
    「理解しないでもありませんね」

     外食ならばマニュアル化された料理の手順に沿っているから信頼がある。自分で作ったら味は良くないが、全ての材料が分かっているから信用ができる。
     だが、他人の手料理は別だ。何がどれくらい入っているか分からない。そこにあるのはただのブラックボックスだ。そんなギャンブルをやろうとは思えない。

    「なら、なぜこれを作ったんだ」
    「生卵とケチャップを直で飲むのがお好き?」
    「お前が料理をしたのは、なぜだ」
    「今この部屋にある食材がこれしかありませんでしたから」
    「普段何を食べているんだ」
    「外食や出来合いの惣菜がほとんど」
    「……金持ちの生活だな」
    「我ながら嫌になります」

     自分で作るのも何だか疲れてしまい、以来外食や付き合いの食事で誤魔化してきた。目の前にあるのは、自分の料理スキルのなさの証明そのものだ。
     半ば詰め込むようにして食事を掻き込んでいると、もうオムライスを平らげたらしき彼女が再び「おい」と問いかけてきた。

    「お前……なぜ、私を助けたんだ」

  • 16125/03/12(水) 22:36:19

     先程の問いと変わらない、淡々とした声の調子。感情を悟られないようにするのが、生存のための重要手段だったのだろうか。

    「あなた、死にたかったんですか?」
    「そうだと言ったら」
    「ああ、本当に死にたかったのですか」
    「あのままでいたら、私は〇ねたかもしれない」

     こいつは何を言っているのだろう。苦笑を噛み殺しながら私は応答する。

    「そんな簡単には〇ねませんよ、私たちは」
    「……痛感している」
    「どうせ今晩中にも〇ねませんでしたよ。翌朝あそこを通る人が何人いると思っているんですか。どうせ見かねた誰かがあなたを助けたでしょう」
    「でも、お前は今私を助けた。なぜだ」

     口の中のケチャップの風味が消えかけている。後1欠片の食事を乗せたスプーンを皿の上に置き、私は大きく一呼吸した。
     なぜ私が目前の、何のゆかりもない彼女を助けたのか。それに対する答えなんて1つしかない。

    「助けたかったからです」

  • 17125/03/12(水) 22:36:52

     そして彼女は、放心して口角を引き攣らせた。

    「…………助け、たかった?」
    「はい、あなたを」
    「私を、助けたかった? 見ず知らずの私を? たまたま通りがかっただけのお前が?」
    「そうですよ」
    「……何だ、それ。そんなの」

     ――――ただの、気まぐれじゃないか。

  • 18125/03/12(水) 22:37:41

     私は、その口から思わず零れたらしき発言に応える。

    「ええ、気まぐれです」
    「…………何で」
    「助けたかったから助けたんです。これ以上説明は必要でして?」
    「お前の気分で、私は助けられたって言うのか」
    「そう言ってるのですが」
    「……は、はは。はははははは」

     おそらく自分が生き残ったことを、彼女は笑っている。自分が生かされたということを、まるで親を目の前で殺された子供のように。

    「ははっ、はははは……」

     残念ながら、私の行動に正義感はない。慈悲の皮を被った傲慢に救われた事実は、さぞかし彼女のなけなしのプライドを傷つけたことだろう。
     ○ねたなら、誰に助けられることもなく飢え死にできたなら、いっそ何も分からずにいられたのに。

  • 19125/03/12(水) 22:39:23

    「食べ終わりました?」
    「見れば、分かるだろう……」

     双方空になった皿がピカピカと光っている。洗うのは明日でいいだろう。今日は私も何だか疲れた。

    「それでは、お腹が落ち着いたらそこのベッドでお眠りなさい」
    「…………お前はどこで寝るんだ」
    「ソファーで寝ます。タオルケットもありますから」
    「……そうか。お前は、優しいんだな」

     そうして彼女はよろよろと私の指し示したベッドに潜り込み、布団の中で赤子のように身を屈める。壁の方を向いているので顔は見えない。まあ、私も興味がないので見る気はないが。

    「ああ、1つだけ」

     ソファーに横たわったまま、ベッドの方角に投げかける。

    「……何だ」
    「私が寝ている間に、貴重品など盗まないでくださいね?」
    「…………そこまで堕ちているつもりはない」

     テロリストにも誇りはあるのか、と一瞬だけ思った。

  • 20125/03/12(水) 22:40:19

    以上です。お付き合いありがとうございました
    スレが残っていたら明日のこれくらいの時間に続きを投稿します

スレッドは3/13 08:40頃に落ちます

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