- 1二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 16:03:08
ある休日、夕暮れ前。外での用事を済ませて寮への帰路についているグラスワンダーは、見慣れた背中を花屋の前で見つけた。
「あら、お花屋さんの前に……トレーナーさん?」
思わず立ち止まり、その様子を観察する。ガラス張りの店内をちらちらと見つめながら、自動ドアの認識範囲外で右往左往する姿は不審者のようにも見えかねないところだが、グラスの目には「純真な青年が、初めての花屋に挑戦しようと逡巡している様子」と微笑ましく映っていた。あるいはこれも、担当バの欲目だろうか。
「うーむ、むむむん……えーいむん……」
観察が始まり数分が経っても、トレーナーは悩み続けていた。これは埒が開かない、と思ったグラスワンダーは、声をかけることを選択する。
「どうしたんですか、トレーナーさん?」
「うひゃあ!? ぐ、グラス!?」
声をかけられたトレーナーは、イタズラ中に母親に見とがめられた子供のように飛び上がった。大げさな反応にどことなくエルコンドルパサーが想起され、グラスはくすくすと笑う。
「もう、そんなに驚かなくたっていいじゃありませんか」
「ご、ごめん、グラス……」
これまた子供のようにしゅんとするトレーナー。時には頼れる大人としての姿を示してくれながらも、時にはこうして可愛らしい一面も見せてくれる彼に対して、グラスワンダーは好意を持っていた。それに、こうして普段ならまず来ないだろう花屋にやって来た理由にも見当は付いている。 - 2二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 16:04:49
先日二人で見た映画のクライマックスに、花束を渡して告白をするシーンがあったのだ。そこでトレーナーはふと、「いきなり花束をもらって、嬉しいんだろうか。飾る場所とかも……」と疑問をこぼし、それに対してグラスワンダーは「私は嬉しいですね。私は花瓶を持っていますし、そうでなくても、花瓶として使えるものは結構あるものですよ」と答えた。トレーナーは納得し、その後はグラスワンダーからトレーナーへの花の知識の講習会のような形となった。花言葉、季節、そしてグラスワンダーの好きな花、持っている花瓶のサイズなど、トレーナーは様々なことに興味を示した。
それからすぐ次の休日に、このように花屋に足を運んでいる。その素直さ、行動力の高さを快く思い、グラスワンダーは助け船を出すことにする。
「お困りでしたら、お手伝いしましょうか?」
だが、トレーナーの反応はグラスワンダーの想像とは異なっていた。彼は顔に焦りを浮かべながら言う。
「あっ、いや! グラスには関係ないことだから、大丈夫! ありがとう!」
「えっ?」
言うが早いか、トレーナーは店の中に入っていく。困惑するグラスワンダーが、店の前に一人取り残された。
「……え?」
……関係ない? 自分のためだとずっと思っていたが、そうではなかった。天国から地獄にたたき落とされた感覚。ぬか喜びをしていた自分はなんと滑稽だったのか。
店の中では、トレーナーが店員に相談をしているようだった。プレゼントする相手のことについて話しているのか、はにかむような笑みをしている。それが自分のためのものでないということを考えると、グラスワンダーは目を逸らしたくなったが、そうしたら何かに負けるような気がしてできなかった。 - 3二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 16:06:02
「いやあ、グラス、お待たせ。結構かかっちゃったな。あとは、これを――」
数分か、十数分か、数十分か。どれほど経ったかはわからないが、花束を持ったトレーナーが店から出てきた。自分に向けてくるあまりにも晴れやかな笑顔が憎らしかったので、グラスワンダーはつい意地悪をしてしまう。
「その花束、事前に渡すことを相手方にお伝えしているのですか?」
「いや、これが初めてだし、サプライズにしようかと思ってさ」
グラスワンダーは回答を聞くやいなやまくしたてる。
「いきなり花を頂いても嬉しいとは限りませんし、飾る場所のことだってあります。私のように花瓶を持っているのならまだしも」
「こ、この前と言ってること全然違わないか!? ……あっ。いや、まあ、今回は相手が持ってる花瓶についても調査済みだから安心してくれ」
先日の会話とはまるで真逆の主張にトレーナーは驚いたが、どこか得心がいったような顔になり言葉を続ける。そんな彼に、グラスワンダーの頭はさらに熱を増していく。
「それに、好みというのもあります。嫌いな花を渡されたら、その方も気分を害してしまうかもしれません」
「ええと、うん。それも調査済みだよ。問題ない」
好みに関しても把握しているらしく、何も心配はいらない、と言わんばかりの顔。もうそこまで関係が進んでいるのか。一体、どこの、誰が、私のトレーナーを。グラスワンダーは、尋ねずにはいられなかった。
「……どんな方、なのですか?」
「いいところなら、いくらでも言えるよ。まっすぐで、なにごとにも真剣で、優しくて……」 - 4二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 16:07:52
トレーナーの目を見て、グラスワンダーには、その相手が本当に大事に想われていることがわかった。これでもかというほど、立て板に水のようにその相手の長所を述べていくトレーナー。それほど愛されている、どこか遠くにいる誰かに半ば敗北を認めるような、祝福するような心持ちで、うっすらと涙を浮かべながらグラスワンダーはそれを聞いていた。
「面倒見が良くて、大和撫子で、穏やかな笑顔がとても綺麗で、それでいて負けず嫌いなところもあって、それで……」
「……はい」
「……それで、俺の担当バだ」
「……はい?」
おぼろげなどこかの誰かのイメージが、急に自分のものに切り替わる。グラスワンダーの涙はぴたりと止まった。
「ごめん。さっきの『グラスには関係ない』は嘘だよ。サプライズで渡したかったから、とっさに変なことを言って君を誤解させてしまった。そんなに悲しませてしまうなんて思わなくて……本当にごめん」
「~~っ!」
状況を理解したグラスワンダー。つい先ほどまで頭に上っていた血は、少し位置を下げて顔にやってきていた。嘘をついていたのはトレーナーが悪いかもしれないが、そこから嫉妬丸出しの絡み方をしてしまったのは自分だ。なんたる無様。なんたる不埒。慚愧の念にかられながら、やっとのことで言葉を絞り出す。
「……トレーナーさん。腹を切りますので、どうか介錯を」
「やめてよ!? しないよ!?」
トレーナーから受け取った花束は、グラスワンダーの花瓶にきれいに収まるサイズ。感謝・労い・親愛を意味する花々に加え、彼女の好きなものもしっかりと添えられていた。グラスワンダーには、これがどれほど自分のことを考えて組み立てられたものなのかハッキリとわかり、だらしない笑みが浮かぶのをいつまでたっても止められない。
「グラスがずっと花瓶見つめてデレッデレでなんだか気持ち悪いデース!?」
「ええ、本当に嬉しいので~♪」
「むむ、これはこれでちょーっと張り合いありませんが……フフッ、よかったデスね、グラス!」 - 5二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 16:08:19
- 6二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 16:08:49
もう見せて貰ったよ
- 7二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 16:09:51
なんて高い解像度なんだ…
- 8二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 16:10:05
もう見たさ。腹ァいっぱいだ……。
- 9二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 16:10:13
あま───────────い!!!
- 10二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 16:12:45
腹を切るレベルで良いものをみた
- 11二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 16:14:54
エルがグラスにからかいの言葉をかけてもそれごと惚気ける様な返し方をして……それを見てエルも喜んでこれは……黄金世代の親友バ……。
- 12二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 16:15:37
激エモサンシャイン
- 13二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 16:17:51
急に名文を出力するな。死人が出るぞ。俺は死んだ
- 14二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 16:19:04
口からタンポポ吐きそうだ…
- 15二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 16:33:41
誰か!挿絵を描いて頂戴ッ!
- 16二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 16:36:49
どうせまたグラスが泣いてるんだろうとか思ってスレを開いた俺を誰か殴ってくれ
- 17二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 16:56:14
概念摘出かと思ったらSSが提出されてた 最高だった
- 18二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 18:49:56
スレ立てて妄想文ぶちまけたの初めてだからいい感じだと思ってもらえてとてもうれしい
しっかり者のグラスがまるで感情を抑えられずムムムッと嫉妬したりニッコニコのだらしない笑顔でお花を眺めたりする姿から得られる栄養があるんだ - 19二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 18:55:19
花屋の段階では慌て振りから自分へのかな?とちょっと微笑ましく思うも、思いの外音沙汰無くて実は別の方への…?って思ってしまうのもありかなと思った。
- 20二次元好きの匿名さん22/03/21(月) 19:08:19
それもいい……
花屋の前で「私に贈ってくれるんですね?」と思っていたが何も言われず
途中で喫茶店に誘われて「ここで渡してくれるのでしょうか」と思ったが何も言われず
帰り道でも花束については特に触れられず不安な気持ちがどんどん膨らんで「まさか、私以外の方のために買ったものだった……?」って思ってしまって、ついにそのまま寮の前まで着いてトレーナーに「今日は付き合ってくれてありがとうな、それじゃあ」とか言われて泣きそうになっちゃうのを我慢するんだけど
続いて「これを君に」って渡されてぐちゃぐちゃな感情でいっぱいの心に嬉しさが一気に注がれて本当に泣きだしてしまうグラス見たいよね……