- 1二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 21:34:55
トレセン学園のトラックを駆け抜ける二つの影。
まるで流星の如く走るアーモンドアイとラッキーライラック。そのスピードは、他のウマ娘たちを圧倒するほどだった。
「「はぁ、はぁ・・・・・・ッ!!」」
最後の直線に入ると、二人は並んだまま、ゴールへ向かって駆けた。互いに一歩も譲らない。全身の筋肉を使い、限界まで足を回転させた。
段々とゴール版が目前へと迫る。
(負けるわけには・・・いかない・・・!!)
アーモンドアイは最後の力を振り絞り、足を前へと動かす。そして———
『ゴールッ!!』
横一線のまま、二人はゴールを通過した。
『これは———二人とも自己記録更新か!わずかにアイの方が先着してたね!』
アーモンドアイのトレーナーがタイムを確認しながら、嬉しそうな声をあげる。
その記録更新者の二人は息を整えながら、互いに視線を交わした。
「今日も———、ええ勝負やと思ったのになぁ」
ラッキーライラックがニコリと微笑む。その顔には、この並走———という名の勝負に勝てなかった悔しさよりも、楽しさの方が滲んでいた。
「実際、いい勝負だったと思うわよ———本当ならもっとさを広げて勝つつもりだったけれど。・・・次も私が勝つわ。——今日は並走に付き合ってくれてありがとう、ララ」
アーモンドアイは早々に呼吸を整え、礼を述べる。負けず嫌いな彼女にとって、勝負とあればなんであれ、絶対に譲れないものだった。だが、それは彼女のライバルであるラッキーライラックも同じ。
互いに譲らず、競い合うことで、二人はここまで高め合ってきた。 - 2二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 21:35:16
「・・・あんたって、ほんまに完璧やね。」
ふと、ラッキーライラックがポツリと呟く。
「完璧?」
「せや。なんでもできるし、いつも冷静で、どんな時も同じへん。誰よりも速くて、誰よりも強い。おまけにべっぴんさん。———まさに、完璧なウマ娘やね。」
ラッキーライラックをはじめ、多数のウマ娘がアーモンドアイを形容するなら、「完璧」と称するのは当然だった。これまでの努力の果てに、アーモンドアイはそういう存在になったのだから。
そして彼女自身も、そうあろうと努力に努力を重ねてきたのだから。
だが———
「せやけどな、アイさん。完璧なあんたはんに・・・足りひんもんって、あるんちゃいますの?」
———その一言が棘のように、アーモンドアイの心突き刺さった。
(・・・足りないもの?)
「・・・冗談?」
アーモンドアイは「まるでわからない」と首を捻る。
「いんや、本気やで。だって、アイさんはいつも完璧やからこそ、なんか足りひんもんがあるんちゃうかなって、思ったんよ。」
ラッキーライラックはさらりと言ってのける。だが、当のアーモンドアイには、その言葉の意味も真意も理解できなかった。
(私に・・・足りないもの?) - 3二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 21:35:33
アーモンドアイはわからない。自分は完璧を目指し、全てを成し遂げるウマ娘。そうであるために努力し、誰よりも速く、誰よりも強くあり続けることを選んだ。
だから———
「そんなもの、ないわ。」
即答した。
少なくとも、思いつく限りは、自分に欠けているものはないと思っている。研鑽が足りない部分はあるかもしれないが、少なくとも欠落しているものはないと、自信を持って言えると確信していたから。
その言葉に、ラッキーライラックはほんの少しだけ驚いたように目を瞬かせたが、すぐに「さよか」と微笑んだ。
「んまぁ、アイさんがそう思うんやったら、きっとそうなんやろね。」
それ以上は何も言わず、ラッキーライラックは歩き去っていく。
アーモンドアイはしばらく、その背中を見つめていた。
(足りないもの、なんて・・・)
心の奥に刺さった棘が———依然抜けないまま。 - 4二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 21:36:19
———ラッキーライラックとの併走の翌日。
アーモンドアイは、普段と同じようにトレーニングに臨んでいた。
トラックをかける彼女の走りは、いつも通り———のはずだった。
(・・・あれ?)
アイが違和感に気づく。
どこかおかしい。
足の動きがほんのわずかに鈍い気がする。
ストライドの伸びも、いつもより悪い気がする。
何より———トレーニングに集中できていない。
(・・・あの子の言葉なんて、今は気にする必要ない・・・)
そう思い込もうとしているのに、彼女の心のどこかで“足りないもの”という言葉がこだましていた。
『アイ!次のカーブで体の動きを重点的に———!』
トレーナーの指示が飛んだ———その時だった。
「ッ!?」
コーナーに差し掛かったアーモンドアイがわずかにバランスを崩す。
いつもならカーブに差し掛かるところで体幹を調整し、外に膨らみすぎないように準備するのだが・・・足元ばかり見ていた彼女は、カーブでの銃身移動がわずかに遅れ、そのせいでフォームが崩れてしまった。
「くっ・・・!」
すぐに修正し、立て直す。しかし、些細なミスとはいえ、普段の彼女なら絶対にしないものだった。 - 5二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 21:36:41
ゴール地点を駆け抜けた先で、上がった息を整える。
『アイ、大丈夫?』
心配そうに駆け寄ってきたトレーナーが声をかける。トレーナー自身もアーモンドアイの違和感に気づいていた。
「・・・ええ、問題ないわ。」
笑みを浮かべそう答える彼女だったが、トレーナーの表情は一向に晴れない。
『そう・・・?でも、いつものアイなら、こんなミスはなかなかしないけど・・・』
「・・・たまたまよ」
何でもないことのように言い切る。だがその実、偶然などではなかった。
(———っ・・・私は、何かに乱されている)
不安そうな顔をする彼女に、トレーナーは少し考え込んだ後、優しく言葉をかけた。
『アイ、ここ最近、コンを詰めてるように見えたけど・・・ちょっと疲れてるんじゃないかな?』
「・・・そんなことはないわ。」
『まぁ、たまには力を抜いてもいいんじゃないかな。全力で頑張ることも大事だけど、時にはリラックスすることも必要だよ。』
(リラックス・・・)
その言葉に、アーモンドアイの眉がわずかに動く。 - 6二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 21:36:54
(リラックスなんて、今の私には必要ない・・・睡眠は適度にとっているし、モチベーションを保つための努力だって・・・それに、そんなものなくても、私はいつだって“完璧”に走れるわ)
そう自身に言い聞かせ、アーモンドアイは一言「ありがとう。でも、気にしないで。」と微笑んで見せた。
トレーナーはそれ以上は何も言わず、ただ「無理だけはしないようにね」とだけ告げた。
———“足りひんもんって、あるんちゃいますの?”
その棘が、アーモンドアイの心の奥に、静かに、より深く食い込んでいった。 - 7二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 21:38:45
ということで、カテゴリ間違いを犯し、スレッドタイトルミスを犯した完璧でも究極でもないSSど素人よりお送りしました。現場からは以上です。教えていただいた方、誠にありがとうございました。当方、こうしたところに書くのに慣れておらず、無礼を働いてしまって各方面にご迷惑をかけてしまいました。申し訳ございません。
- 8二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 22:18:06
トレーニングオフのある日。
アーモンドアイはトレーナー室でひとり、机に向かっていた。
前日のトレーニングのミスが引っかかっているわけではない———そのはずだった。
「・・・はぁ」
目の前には、未完了のままの課題プリント。
数式が並ぶ紙面を見つめながら、ペンを持つ手が止まる。思わず、ため息が漏れてしまった。
(こんな問題、すぐ解けるはずなのに・・・)
集中しようとするたびに、ラッキーライラックの言葉が頭の中で響く。
———“完璧なあんたはんに・・・足りひんもんって、あるんちゃう?”———
「私に・・・足りないもの・・・」
何度考えても、こたえは出ない。
その度に、胸の奥がざわつく。
(今の私に足りないものなんてない・・・わよね?そうであるために、自分なりに頑張ってきたし、トレーナーも支えてくれているし・・・それなのに———)
ペンを握る指に、余計な力が入り、彼女の指が少し白む。
その時だった。 - 9二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 22:18:39
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- 10二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 22:19:28
終わりかと思ったら続編あったんやな
- 11二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 22:19:33
扉を開ける音が鳴った。
『あっ、アイ。来てたんだね。』
開け放たれた扉の向こうから、トレーナーが顔を覗かせた。
彼女が軽く視線を向ける。
「ええ。少し課題をしていたの。・・・邪魔だったかしら・・・?」
彼女にしては珍しく弱気な発言に、トレーナーは少し目を丸くする。
だが、すぐに『いやいや、邪魔なんてとんでもない。アイならこの部屋は自由に使ってくれて構わないよ。』と笑顔で答えた。
そんな彼の視線が、アーモンドアイの机上に向かう。
『珍しいね。アイがこんなに難しそうにしてるなんて。』
「別に、難しいわけじゃ・・・ないわ。」
そう言いながらも、彼女の手は止まったまま。
そんな様子を見たトレーナーは、手に持っていた紙袋を机の上に置いた。
『はい、これ。ちょっとした差し入れ。』
「差し入れ?」
『そっ。アーモンドフロランタン。今日、購買でちょうど売ってたんだ。』 - 12二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 22:20:04
袋の中には、香ばしそうなナッツにキャラメルがたっぷりと絡まった焼き菓子。
アーモンドアイは、少しだけ表情を和らげて言った。
「私にぴったりなお菓子ね。」
『でしょ?甘いものでも食べて、少し休憩したらどう?』
そう言われ、彼女は一つ手に取り、そっと口に運ぶ。
———サクッ
ナッツの香ばしさと、キャラメルの甘さが口の中に広がる。
肩の力が、少しだけ抜けた気がした。
(・・・なんでだろう?)
何気ないやり取りのはずなのに、彼女は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
(トレーナーは、私が疲れていることに気づいて他の?それとも、ただの偶然?) - 13二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 22:20:22
そんなことを考えながら、アーモンドアイはポツリと呟いた。
「・・・トレーナー。」
『ん?』
ひと口、またひと口とフロランタンを食べながら、彼女はトレーナーに問いかける。
「私に足りないものって・・・何?」
思わず口をついて出た言葉だった。
トレーナーは、少し驚いたように目を瞬かせる。
『アイに・・・足りないもの?』
「ええ。」
アーモンドアイは、自分でもよくわからない感情を抱えながら、彼をまっすぐに見つめていた。 - 14二次元好きの匿名さん25/03/17(月) 22:21:38
ちょっとだけ続きを書きました。この後も続編は書いていたんですが、冷凍庫にしまっておきます。
あでゅー - 15二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 08:23:25
お疲れ様です
- 16二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 17:04:32
ワンナウツで、難攻不落の投手に無理やり癖を作って打ち崩す話があったのを思い出した