(SS注意)癖

  • 1二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 11:34:56

    「おっ、お待たせっ!」

     休日、駅前の広場。
     たくさんの人達が行き来する中、俺はその隙間をすり抜けて待ち合わせ場所へと辿りついた。
     切れた息、大きく音を立てる心臓、汗ばむ身体。
     今朝、目覚まし時計をセットし忘れてしまい、寝坊してしまったのである。
     俺は呼吸を整えながら、彼女の様子をちらりと窺う。
     栗毛のサイドテール、茶色のメンコ、左耳には五弁の紫丁香花の耳飾り。
     担当ウマ娘のラッキーライラックは、言葉を発さないまま無表情でスマホを眺めていた。
     これは怒らせてしまったな────と思った瞬間、彼女はにっこりと微笑みながらスマホをこちらへ向ける。

    「待ち合わせ1分前、ギリギリセーフやね」
    「……よっ、よかったあ」
    「ちゅーか、そないに慌てんでも良かったんよ? 急ぎの用でもあらへんのやし」
    「キミの時間を無駄にはしたくないし、キミとの時間も無駄にしたくないからさ」
    「…………そか」

     ララは小さく返事をすると、ぷいっと顔を背けてしまった。
     やっぱり、ちょっと怒っているのかもしれない。
     今日はこれから挽回して行かないとな、と気を取り直しながら彼女へと背を向ける。

    「それじゃあララ、早速行こうか、確か新しいシューズ選びを」
    「あっ、トレーナーさん、ちょい待ち」

     歩き出そうとしてその時、くいくいと、服を引っ張られた。
     反射的に振り向くと、ララがじーっと俺を見つめながら、服の裾を摘まんでいる。

  • 2二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 11:35:08

    「……寝癖、ひどいで?」
    「えっ」

     手を頭に伸ばすと、ぴょんと跳ねた髪の毛。
     慌てて家から出て来たため、十分に身嗜みを整える時間がなかったのだ。
     とはいえ、それは自業自得の言い訳に過ぎない、ララに恥をかかせないためにもすぐに整えて────。

    「うちが直したるから、じっとしとき?」

     何かを言う、暇もなかった。
     いつの間にか前に変わり込んでいたララは、両手を俺の頭へと伸ばした。
     細く、長く、暖かな指先が、優しく髪の毛を梳いていく。
     撫でられているかのような柔らかな感触に、思わず俺は固まってしまった。

    「もー、服も乱れとるやんか、せっかくの男前が台無しになってまうよ?」
    「……っ」

     ララの小さくため息をつきながら、次々に俺の服の乱れを直していく。
     テキパキとしていながらも優しい手つきはどこかこそばゆく、身動ぎを堪えるのに必死だった。
     やがて、彼女は困ったような笑みを浮かべながら、ぽそりと呟く。

    「……ほんま、しょーがない人やなあ」

  • 3二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 11:35:52

    「……あっ! トッ、トレーナーさん、あれ見てみぃ!」
    「そりゃいいけど、どうかした?」

     ウマ娘用のスポーツ用品店へ向かう途中、くいっと服の肩辺りを引っ張られる。
     隣では目を輝かせながら、声を荒げているララ。
     珍しいな、と思いつつも彼女の視線の先を見て、すぐに納得した。
     そこには本屋があり、彼女が尊敬するオルフェーヴルを表紙とした雑誌が平積みされていたのだから。
     その人気はやはり凄まじく、見ている間にも次々に売れていくほどだった。

    「買って行く?」
    「……いや、やめとくわ、ネットで予約しとるんよ…………来るの、明々後日なんやけどな」
    「あー」

     悔しそうに顔を歪めるララ。
     流通の都合は仕方ないが、一日でも早く中身を見たい、そんな気持ちがありありと伝わってくる。
     …………さて、中身は普通のレース雑誌、俺としてもオルフェーヴルの特集も興味がないわけではない。

  • 4二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 11:36:11

    「それじゃあ、俺は買って来るからちょっと待ってて」
    「へ?」

     ぽかんとした表情のララを尻目に、俺はさっさと本屋へと向かい、件の雑誌を一冊手に取る。
     幸い、丁度レジが空いている時間だったのか、さほど時間をかけずに会計を済ませ、彼女の下へと戻った。
     未だ唖然とした顔をしている彼女に吹き出しそうになりながら、雑誌が入った紙袋を手渡す。

    「悪いけど、帰りまで持っててくれる?」
    「そりゃ、ええけど」
    「空いてる時間とかだったら、中身は好きに見てくれて構わないからさ」
    「……!」

     すぐに全てを察した彼女は、大切なものを包み込むように、ぎゅっと紙袋を抱きしめる。
     やがて、柔らかく目を細めながら、小さく言葉を紡いだ。

    「…………おおきに、な?」

  • 5二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 11:36:26

     いくつかのお店を見て回り、その途中で昼食を済ませて。
     ララがお手洗いへと行っている間、俺は近くのベンチに腰かけていた。
     何の気なしにぼーっと街中を眺めていると、たまたま、目の前を数人のウマ娘が通り過ぎる。
     その中の一人はオルフェーヴルが表紙の雑誌を抱えており、嬉しそうに友人へと語っていた。
     きらきらと輝く笑顔、自分のことのように誇らしげな話しぶり、それでいて何時か自分もという意思を秘める瞳。

    「ははっ」

     お昼の後に雑誌を読みながら、ララもあんな表情をしていたな、と思わず笑みを浮かべてしまう。
     あの子達はトレセン学園入学前くらいの歳だろうか、なかなか良い脚をしているように見える。
     ただ、少し痩せすぎなようにも感じるので、もっと良く食べて肉をつけた方が────。

    「……見すぎやで」
    「いたっ!?」

     刹那、ぐいっと強めに引っ張られた耳に、冷たい声色が吹き抜ける。
     後ろを振り向くと、不満気な表情を浮かべたララが、ジトっとした目線を向けていた。
     彼女は腕を組み、耳を縛り、唇を尖らせる。

    「そないに、見込みのありそうな子やったか?」
    「いっ、いや、あの雑誌を持ってた子がいたから、見てただけでさ」
    「……正直に言うてみ?」
    「…………まあ、良い脚してるなあ、とも思ったけど」
    「せやろなあ、あんたが持ち物だけで、他のウマ娘をそないにじっと見ることはあらへんもんな」

     ララは納得したように頷きながら微笑みを浮かべる。
     しかし、その目は全く笑っておらず、その目で俺を射抜いたまま彼女は隣へと座った。
     そのまま肩を寄せ合わせるようにぴたりとくっつくと────おもむろに、スカートの裾を少しだけ持ち上げる。

  • 6二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 11:36:38

    「ラッ、ララ!?」
    「……うちの脚と、どっちがええ?」

     思わず、目を向けてしまう。
     晒される健康的な白い肌に、オーバーニーソックスから溢れるむっちりとした太腿。
     モチモチと柔らかそうでありながら、しっかりとした肉付きも感じさせる、美しい脚。
     これまで何度も見て来て、何度も見惚れて、何度も魅せられてきた、ラッキーライラックの脚だった。
     俺は彼女の脚から目を逸らそうとして、やめた。
     こういうことは、ちゃんと伝えないといけないと思ったから。
     そっとスカートを戻してあげながら、薄紫の瞳を正面から見つめて、捻り出すように言う。

    「俺は、キミが一番好きだな」

     ……なんか大事な単語がいくつかすっぽ抜けた気がする。
     その瞬間、ララの耳がぴんと立ち上がり、その目が大きく見開いて、頬が赤く染まった。
     彼女が恥ずかしげに目を逸らして、呆れたような表情を浮かべる。

    「…………あほ」

     ふぁさふぁさと、ララの尻尾が背中を軽く撫でた。

  • 7二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 11:36:55

     無事シューズを買い終えて、空が茜色に染まる頃。
     俺達は何気ない会話を交えながら、帰路に着いていた。
     駅前からはそこそこの距離があるはずなのだが、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
     気が付けば、トレセン学園が見えて来て、ララの住む栗東寮の近くまで辿り着いていた。
     俺は当然トレーナー寮に戻るため、ここでお別れである。
     立ち止まり、そんな俺を不思議そうな顔で見つめる彼女に対して、小さく手を上げる。

    「それじゃあ、俺はこっちだから」
    「……あっ、ああ、せやね、今日はうちの用事に付きおうてくれてありがとうな?」

     一瞬だけ、ララの表情が陰った。
     けれど彼女はすぐに取り繕って、いつもの調子を取り戻す。
     ただ、耳や尻尾がしゅんとした様子になっているのだけは、隠せていなかった。
     何かやり残したことがあるのだろうか、と思考を巡らせるものの、思いつかない。
     まあ何かあれば言ってくるだろう、そう判断して、トレーナー寮へ足を向けようとして────きゅっと、服を掴まれた。
     ジャケットの、ポケットの辺り。
     その部分を、ララの小さな手が、皺が出来るくらいに強く握りしめていた。

    「……ララ?」
    「えっ? ああっ! やっ、こっ、これは、ちゃう! ちゃうんよ!」

     自らの行動に気づいていなかったのか、ララはわたわたと慌てふためいた。
     しかし、そうしている間も、俺の服から手を離すことはない。
     ……さすがの俺でも、ここまでされれば意図はわかった。
     しっかりもので、一生懸命で、少しだけ見栄っ張りだけど、こういうところは本当に可愛いなと思う。
     言葉にしたら怒られるから、口にはしないけれども。

  • 8二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 11:37:10

    「ごめん、ちょっと買い忘れたものを思い出した」
    「……買い忘れ?」
    「そう、うっかりしていたな、俺一人だとまた忘れちゃうかもしれないから……付いて来てもらっても良いかな?」
    「!」

     ララの耳と尻尾が、ぴょこぴょこと大きく反応を示す。
     対して、彼女の表情は複雑なものになっていた。
     気を遣われたことにより、申し訳なさそうに伏せられる目。
     それでいて、嬉しそうに緩んでいる口元。
     心の中に渦巻く様々な感情を吐き出すように、彼女は大きなため息をして、柔らかく微笑んだ。

    「はあ、しゃーないなあ、うちが一緒に行ってあげるさかい」
    「あはは、うん、本当に心強いよ」
    「……っ」

     抑えきれず、思わず笑みが零れてしまった俺を見て、ララは少しだけ恥ずかしそうに顔を俯かせる。
     しかし、すぐに意を決したように顔を上げて、ぱっとジャケットから手を離した。
     
    「ほっ、ほな! 暗くなる前に済ませんとなっ!」
    「わっ!?」

     そして、ララの手は、俺の手を取った。
     一本一本指を絡ませて、手のひらを密着させて、きゅっと握り締めるようにして。
     彼女の吸い付くようにしっとりとした肌、カイロのように暖かな体温、ふわふわと柔らかい感触。
     それが直に伝わって来て、思わずドキリとして、顔が熱くなる。
     そんな俺の姿を見透かしたように、彼女はくすりと愉しげに笑った。

  • 9二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 11:37:24

    「ふふっ、トレーナーさんもこんくらいで顔真っ赤にして、ほんま、かわいらしなあ♪」
    「……そう言うキミの顔も赤いけど?」
    「……うっさい、夕焼けのせいや」

     そっぽを向きながら、尻尾をぱたぱたと振り回すララ。
     俺はそんな彼女の手をぎゅっと、握り返すのであった。

  • 10二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 11:37:50

    お わ り
    なんか前にそういう動画を見た気がした

  • 11二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 11:40:58

    良いものを見た

  • 12二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 11:41:41

    善きかな

  • 13二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 11:52:40

    あっ・・・浄化される・・・

  • 14二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 11:58:40

    あかん、あんまり浄化されると自分の存在が消えてまう……

  • 15125/03/18(火) 19:26:30

    >>11

    ララちゃんいいよね・・・

    >>12

    そう言っていただけると幸いです

    >>13

    ララちゃんは呪いに効く

    >>14

    消えないで・・・

  • 16二次元好きの匿名さん25/03/18(火) 19:33:39

    このレスは削除されています

  • 17125/03/18(火) 22:33:47

    >>16

    お心遣い感謝します

  • 18二次元好きの匿名さん25/03/19(水) 03:20:12

    とても良いですね

  • 19125/03/19(水) 07:42:10

    そう言っていただけると幸いです

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