もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart19

  • 1二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 00:03:47

    アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの19スレ目です。

    アグネス・ギーベンラートが宇宙という大海に放り込んだ小石の波紋。それは彼女と同時代を生きる無数の人々の営みと共鳴し合い、プラント政変と言う大きなうねりを引き起こしました。

    彼女を含め、この事態を予想していなかった人々は押し寄せる大波を乗り越えることにひたすら精一杯です。

    最悪の中の最善を目指して、アグネスとアスランはこれまで秘密にしていたミーアの秘密とラクス・クライン暗殺未遂事件を最高評議会議員たちに打ち明けたのでした。

    その結果は基地と出るか凶と出るか?

    プラントとミネルバが不毛な内輪もめに勢力をとられている間も地上の争乱が止むわけではありません。

    アグネス達にとって未だ知りえぬデュランダル議長の思惑、戦争の行方、ロゴスとの戦いはどう進んでいくのか。

    おつきあいをいただければ。

  • 2二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 00:07:19

    頑張れアグネス
    それ行けアグネス

  • 3二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 00:07:55

    たておつ

  • 4二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 00:10:16
  • 5二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 00:11:23
  • 6二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 00:12:43
  • 7二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 00:15:05
  • 8二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 00:16:47
  • 9二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 00:19:09
  • 10二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 00:21:04
  • 11二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 00:22:28
  • 12二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 01:10:01

    マジカルカナーバと揶揄されるぐらい非現実的かつ最良の外交成果を出したのに色々なことよく知らなくてナチュラルに譲歩しすぎだと不信任突きつけるプラントの一般市民やアグネスから見たら無能に見えるのよね

    プラントが60億人以上虐殺したようなものなのに地球連合に独立を認めさせた
    ザフトなんてテロリストみたいなもんなのに地球連合に存続を認めさせたおかげで外交努力だけで大戦が終了した
    クライン派の罪など(フリーダム譲渡)はクルーゼさんに押し付けた
    色々やらかしたアスランにとってかなり有利な状況にしつつ色々面倒なザラ関連はプラントにとっても都合の良い筋書きにしておいた
    色々と面倒事の種になるラクスとアスランは追放
    ここまでやっても暫定政権ごと総辞職に追い込まれる
    (プラントがユニウス条約で兵器に保有制限を課せられたから)
    兵器の保有制限をされただけで無事にプラントが独立している
    普通なら今までのやりすぎた大量虐殺とかで色々と責任を取らないといけないのに外交で勝利しているという

  • 13二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 01:24:18

    <<アスラン「大人しくしてくれ。怪我人なんだぞ、君は!」
    むしろお前は何故これだけデスマーチを繰り返して怪我の頻度も少なければ怪我してもすぐ回復するんだよアスラン・ザラ

  • 14二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 06:28:32

    >>13

    スパコじゃない優秀だけど普通なコーディネイターなはずのアスラン

  • 15二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 09:20:52

    この鉄火場でエザリアがアグネスを品定めしてたらどうしよう…

  • 16二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 17:23:03

    >>13

    アスランだからさ…

  • 17二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 22:31:27

    >>15

    イザークの嫁アグネス…?

  • 18二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 22:32:44

    ギャンは元はイザークの機体だったってまさか

  • 19二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 01:57:36

    メイリンと一緒に医務室に帰還すると看護兵二人が気遣わしそうに迎えてくれる。

    看護兵「どこが痛みますか?」
    アグネス「いえ…。鎮痛剤が効いているみたいで特に痛みはありません」
    看護兵「では、まず脈拍、呼吸、体温、血圧を測定しましょうね」

    え…。なんか勝手に医務室の通常モードに成り掛けているわ!困る、これが彼女達の戦争なのだと理解してはいるけれど。ここが正念場なのよ!戦況を確認しないと。

    アグネス「メイリン!デバイス画面をオープンに。看護兵さん、医務室の通信をブリッジに固定してください」
    メイリン「はい」、看護兵「バイタルチャックが終わってからです!」

    私の頼みをメイリンは聞いてくれたが、頭から角を突き出しそうになっている看護兵さんには無視されてしまう。

    仕方ない。我が身は看護兵二人に委ねつつ、視線はデバイス画面に注いでおく。ちょうどミネルバと月軌道艦隊のナスカ級3隻が二手に分かれたところだわ。

    内ミネルバは囮を買って出る。マリクさんは舵を切り、横隊となった相手艦隊4隻のミサイル射程ギリギリの位置に艦の進路を変更する。戦闘力と防御力が高く足も速いミネルバが敵を受け止めるのだ。

    その間、ミネルバに比べ足の遅いナスカ級3隻は、後背を省みることなくザフト軍事ステーションまで前進する。軍事ステーションは議会派に転じたジュール隊が押さえてくれているから一先ず安全だ。

    アグネス「(そして、ミネルバは敵の無力化後、その足自慢を活かし先発組に追いつく、と)」

    もしもミネルバに不測の事態が起これば、ナスカ級の3人の艦長の内、最先任者が全体の指揮を引き継ぐことになっている。『不測の事態≒ミネルバ轟沈、私は戦死』であるから、そんな事態は勿論、起こって欲しくはない。

    でも、私達の生死にかかわらず、『それでも世界は廻る』。私の両親や親類を含むプラント国民の明日の事を案じる気持ちぐらい私にもある。

    アグネス「(その場合はザフト軍事ステーションで協議が持たれるはず。イザーク先輩が『総大将』になることもあり得るだろう。何にしろ、もたもたしている時間はないわ)」

    看護兵「医務室の通信、ブリッジに固定しましたよ」
    アグネス「ありがとうございます!」

  • 20二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 02:02:24

    私のバイタルチャックの間にメイリンは業務用デバイスをあれこれ弄って、ブリッジの光学モニターとレーダーモニターと画面を同期させてくれていた。

    それを見るに、敵艦4隻は発進シークエンスを開始している。手早く展開していくモビルスーツ群はザクとグフの混成隊、合わせて60機ほど。主力はM68キャットゥス500mm無反動砲を装備したグフ30機か。

    メイリン「敵のナスカ級、艦載機が多いですね」
    アグネス「ええ。そうね。1隻辺り12機積んできた計算になる。普通のナスカ級は6機だからギチギチに詰め込んできたのね」

    ただ、グフは元々、手足を付け外しできる設計になっている。積み方次第ではそれなりの数を収めることが出来たはず。それにナスカ級にしても、月で私が母艦としたカーナヴォンは最新型で12機を運用していた。そもそもミネルバ自体が過積載をよく行っているのだから、人様の事をとやかくは言えない。

    アグネス「さはさりながら、今の戦況、敵から見れば各個撃破のチャンスね。相手は4隻のナスカ級を中陣として両翼にモビルスーツ隊を配置。私達を翼包囲して袋叩きにする積もりよ」
    メイリン「所謂、『鶴翼の陣』ですね」

    一方、我らがミネルバモビルスーツ隊も発進シークエンスを粛々と進めている。先頭になって発艦するのは、アスランが乗り込むフォースインパルスとルナマリアが搭乗するガイア、続いてショーンとデイルのグフ2機。

    この4機が今のミネルバの主力だ。それに加えてガナーザクファントム3機が発進し、編隊を組む。ミネルバ本体に関して言えば、甲板にはガズウート隊6機が布陣、格納庫ではバクゥハウンド隊3機がブレイズウィザードで待機中。守る分にはそれなりに鉄壁と言えるだろう。

    ただ、これで敵勢を突破するのは無理がある。相手が全力出来たら、こちらにも戦死者が出かねない。『戦友』を全機全艦、不殺撃破してあげることなど、夢のまた夢。

    アグネス「(無理やり積んできた補機のグフがまだ2機ある。いよいよとなったら…)」

    メイリンにチラリとアイサインを送る。一応、パイロットスーツに着替えておきたい。だが、彼女は綺麗な形の眉を顰めて難色を示す。アスランと姉のルナマリアに私を託されているのだから当然か。

    おまけに医務室の奥から鬼のような顔をした軍医殿が現れ、ノシノシ近づいてくる。年貢の納め時、大人しくしておくべきなのか。

  • 21二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 02:16:31

    私が軍医殿に怯んでいる間にミネルバは相手旗艦と通信を繋いでいる。

    タリア「本官はザフト軍月軌道艦隊司令長官、特務隊長タリア・グラディスです。前方に立塞がる友軍に告ぐ。我々は9名のプラント最高評議会議員、国防委員会と60人議会の命令を受け行動しています。
    その命令は『デュランダル議長の強権的かつ不法・不当な措置から最高評議会ビルと首都アプリリウスを守護するため必要な措置を講ぜよ』と言うものです。
    現在、貴官が議長から受けているであろう命令は不法なもので効力を有していません。どうか道をお空けなさい」

    業務用デバイスから発せられるグラディス提督の声、敵艦にも間違いなく届いているだろう。さて、これで相手が引き下がってくれれば言うことはないのだが―。

    一拍後、画面の向こうで相手艦隊旗艦から返信が返される。回線の先に姿を現した方は―。

    グラスゴー「事前通告を送ってくださったことに感謝する。グラディス提督。本官はエターナル追跡捜索艦隊司令官グラスゴー。本日は任務を急遽改め、最高評議会議長ギルバート・デュランダル閣下より『反乱部隊ならびにテロリストから首都・アプリリウスを防衛するため、必要な措置を実行せよ』と命を受け作戦行動中である」

    モニター画面に映る恰幅よく温厚そうな白服士官、彼と私は―いや、私達は意外と深い縁がある。

    メイリン「グラスゴー隊…。やりにくいですね。月での戦いで私達を乗せて下さったナスカ級カーナヴォンの派遣元。戦死した仲間の直接の仲間です…」
    アグネス「ええ…。最悪-」

    画面の向こうの温和そうな紳士を真直ぐに見つめる。うーん。陰謀の共犯者には見えないわね。本当にエターナルの追跡任務に当たっていたところを呼び戻されたらしいわ。

    アグネス「(エターナル追跡捜索とか、やっぱり議長はラクスを―。いやどうでも良い。そもそもグラスゴー隊長は知らないと思う)」

    話から推測するに、彼エターナル捜索と言う特殊任務に従事し、命令系統が一時的に国防委員会から離れ、議長直轄に近似した形になっていたらしい。

    それを利用して議長は下命し、グラスゴー隊は良く分からないままここに来た感じかな。

    お互いに戸惑いながらも、グラスゴー隊長は律儀に副官に合図を送る。すると向こうのナスカ級ブリッジで彼の黒服の副官は立ち上がり、私達に通告を発し始める。

  • 22二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 02:32:51

    副官「これより議長官邸より通達された文章を読み上げる。グラディス提督旗下の兵士たちはよく聞くように。
    『私はプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルです。一部の迷走した最高評議会議員等に扇動されたザフト兵に通達します。最高評議会議長の名と権能を以て命じます。直ちに原隊に復帰し、または通常任務に戻りなさい。
    君達は一部の最高評議会議員及び60人議会議員、そして各自の上官の言葉を正しいものと信じて誠心誠意活動してきた。そのことを私は理解している。しかし、それは誤りだったのだ。彼らは不確かな状況に基づいて判断を謝り、悪気が無かったとはいえ祖国に深刻な悪影響を与えている」

    メイリン「何度も同じことを言い続けて自分の見解を浸透しようしているんですね」
    アグネス「まあ、人は信じたいものを信じるからね。議長を信じる大衆と何割かのザフト兵とって、『教祖様』がだんまりを決め込むことほど耐え難いものはないでしょう」

    故に彼が自身の見解-もとい曲解した真実-を発し続けることはある程度の有効性を持つ。

    副官「『さて、もしこの命令を受けて猶、君たちが抵抗するのであれば、それは結果として人類の敵対者たるロゴスを利するところとなる。それなのに敢えてプラントを内紛状態に陥れようとする企てに協力するというなら、諸君たちは人類の敵ということだ。私は君たちがそうと知りながら行動しているとは思いたくない』」

    のしのし歩いてきた軍医殿はその言葉を聞き、ふむと首を傾げる。

    軍医「人類の敵?議長と敵対したら―。確かにロゴスは倒すべきだが…」
    看護兵「『結果的に内通罪と同じ』と言う意味でしょうか?」

    軍医殿と看護兵は議長の唐突なメッセージに首を傾げている。だが、これはこれで議長にとっては存外有効な言い回しかも知れない。

    アグネス「(『嘘をつくなら大きな嘘を付け』『真実の中に嘘を混ぜろ』、この声明はその両方を満たしている)」

    何より、軍医殿と看護兵さんが議長の声明を冷静に聞けているのは、この空間が医務室と言う『アジール』であることが大きい。戦場に居ながらも一歩引いた距離なのだ。

    戦闘状態の張り詰めた精神状態の艦内、緊張の極限のモビルスーツパイロットにとって自国の国家元首から『人類の敵』と名指しされることは本来、耐え難い。

  • 23二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 02:48:51

    私達、月軌道艦隊がそのプレッシャーに耐えられているのは、これまで積み重ねてきた複合的な要因あってのもの。それでも、皆、内心は不安だろう。一方、FAITH組やメイリン達ブリッジ組に至ってはもう何だか吹っ切れてしまったと言うのが実態かも知れない。

    いずれにしろプラント全体、ザフト全軍の中では、異常なのは私達の方なのだ。

    副官「『君たち扇動されたザフト兵は正しいことをしていると信じてここまで来た。しかし、私の言葉を聞いて、今やそれが間違いであると気が付いた。
    ならば―、今までの行きがかりや仲間意識に縛られて反抗的な態度を取ることは賢明ではない。反逆者の汚名を歴史に残すようではご家族が悲しまれる。今からでも決して遅くはない。直ちに抵抗を止め、正しき軍旗の下に復帰しなさい。君達のご両親もごきょうだいも国民全体もそれを心から祈っている。無論、国家元首たる最高評議会議長である私自身も。今ならこの件で君たちを不問に出来る。速やかに現在の位置から通常任務に戻りなさい』。議長の声明は以上だ。グラディス提督以下の月軌道艦隊の戦友達、よく考えられよ」

    副官殿からの声明文通告が終わると不思議な静寂が訪れる。グラスゴー隊旗艦ブリッジもミネルバブリッジも医務室も―。この感情は何と形容すればよいのだろう。

    一つにはやはり家族の心配がある。議長は親切面して『家族、親きょうだい』に言及している。これは脅しだわ。

    そう言えば、今回の事態に直面して、娘が国家元首から反逆者と言われて、パパとママはどう思っているだろう?

    ママ『アグネスが…、アグネスが何で…。そんなはずありません!あの子がそんな…グラディス提督も…。そんなの何かの間違いです!絶対そんな!馬鹿なことを!』

    うーん。ちょっとイメージしてみたけれど…、絶対言わないわね。パパもママも。

    それはそれ、これはこれの精神で、今頃、政界・官界サバイバルの準備で大忙しだろう。家を守らないと、まず自分たちが生き残らないといけないから。例え今回、勝ち組になれなくても将来復活の目を残さなければいけない。

    アグネス「(最悪、家を継ぐ子供は今から頑張るか、遺伝子を辿ってプラントのコーディネイターの中で血筋が近い子を見つけて養子にしても良いのだから。ここぞという時、立ち回りに失敗した娘の事など一顧だにしないわ…)」

  • 24二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 03:12:06

    そもそもの話、この声明では私達、月軌道艦隊の上層部やパイロット達は刺さらない。
    皆、アプリリウスの内情を知っているのだから。政局は今が正念場だ。どっちにも転がり得る。勝手に勝ち目がないと絶望して自滅するのは愚かしい。それこそ家族に迷惑がかかると言うものだわ。

    メイリン「グラスゴー隊はどうなんでしょうか?」
    アグネス「対立する命令を受け、訳が分からなくなっている、と言うのが正直なところじゃない?数万の大規模デモに怖気づいている可能性もあるわね」

    車椅子の傍のメイリンを見上げ、一度視線を交わす。その意を察したのだろう。今度は大人しくパイロットスーツを広げ始めてくれる。
    デバイス越しで聞くにブリッジではジェセック評議員の説得も始まっている。しかし私が思うに、効果があるかは微妙だ。シュライバー国防委員長も顔を出すかもしれないけれど、多分同じこと。

    彼らは細かい事情を知らず、また私達も伝える時間もない。そんな中、これ以上グラスゴー隊にプレッシャーを加えれば逆に暴発しかねない。
    アグネス「(それならいっそ―。『一戦すれば、彼らの面目も立つか?』)」

    頭に浮かんだ物騒な考えを次の瞬間に打ち消す。そんな軽挙は強く戒めるべきだ。片八百長の積もりで両方に死傷者を出すことほど愚かなことはない。
    グラスゴー隊長には賢明な判断を期待したい―何が賢明かは分からない―が、合法性ならこちらに分があるはず。

    アグネス「軍医殿、私も格納庫に。器具の再調整があれば今の内にお願いします。看護兵さんもお手伝いください」
    軍医「いや、しかし…」

    しかしも何もない。ミネルバと百戦錬磨のパイロット隊なら彼らに勝つだけなら勝てる。でも、あの数、全機を不殺は無理だ。私としても体は傷だらけ。本当は休んでいたい。他の隊なら間違いなくそうしたわ。でも―。

    アグネス「月でカーナヴォンは私達の母艦でした。沈んで行った乗組員は概念的な『戦友』ではありません。直接巡り合った仲です。彼らの母艦隊と乗り込んでいる戦友たちを死なせては、私は彼らに合わせる顔がありません」

    ああ、重ね重ね…。いっそここで出てくるのがウィラード隊長なら良かったのに。そんな考えは間違っていると分かっているけれどね。

    軍医「…待ちなさい。器具を再調整する。首と胸部と腹部のコルセットを調整しなければ。衝撃に耐えられるように。左大腿部のギブスも」

  • 25二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 11:49:48

    うーん、ブラックナイツの半分がこっちに来てることも考えるとまだまだやばいのがなぁ

  • 26二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 11:52:02

    <<メイリン「何度も同じことを言い続けて自分の見解を浸透しようしているんですね」
    兵庫県民の俺の傷を抉るのやめてもろて……

  • 27二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 21:04:53

    保守

  • 28二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 02:09:47

    看護兵「メイリンさん、新しいパイロットスーツを持ってきて。多分、そのサイズじゃ着ぶくれして入らないわ」
    メイリン「はい。アグネスさん、ちょっと待っててください」
    アグネス「お願いね」

    傷付いた体を固定器具と保護具で固め、包帯でグルグル巻きにしてもらう。メイリンがスーツを持ってきてくれるなら今の内に整備班にも声を掛けておこう。

    アグネス「看護兵さん、艦内電話をお願いします」
    看護兵「はい。どうぞ」

    半ば呆れ半ば尊敬と言った表情の彼女から子機を受け取り、格納庫に繋げる。3コール目に受話器が取られ、慣れ親しんだ男子の声が鼓膜を優しく揺らす。

    ヴィーノ「はい?」
    アグネス「ヴィーノ?!お疲れ。忙しいところ悪いけど、グフの出撃準備を整えて!私も出るかも」
    ヴィーノ「…了解。組み立て自体はもう終わっているよ。コックピットモニターの視野確保の調整も済んだ。アグネス達はむち打ちで首の自由が聞かないから」
    アグネス「?」

    話が早くて大助かりだわ。でも、用意が良いのね。

    アグネス「準備してくれていたの?」
    ヴィーノ「うん。こういう時のために…。それとシンも出るって言ってきて。だから、そっちもそうなるかもって」
    アグネス「シンも出撃する?あいつ、身体大丈夫なの!?」

    私以上に医官に制止されていたはず。男子用の拡張医務室ではどんな遣り取りが行われたのやら。きっとパイロットスーツの下は私以上にグルグル巻きになっているわね。

    少し細めの体形のシンが雪ダルマみたいに膨れて、パイロットスーツに袖を通している様を思うと何だか可笑しくなる。赤いパイロットスーツを着れば本当に達磨様だわ。

    アグネス「(クックックっ…)」
    ちょっと笑いを堪えて居ると電話口のヴィーノが心配げに声を掛けてくる。

    ヴィーノ「俺にしてみればアグネスも大丈夫か聞きたいよ?シンも…。一応、ハイネ先輩かシンかで男子の方の軍医殿に聞いて、シンの方が少し怪我の程度が軽いからって」

  • 29二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 02:21:25

    なるほど。考えることは皆、同じね。『戦友を自分たちの手で殺めることは耐えがたい。何とかしなくては!』

    ハイネ先輩は止められちゃった、と。幸か不幸か補機は2機しか積めなかった。私が乗る機体が残っていたのなら、これを天の配材と受け止めるべきね。

    とは言え、電話先の気のいい同窓生には心配をかけたことは詫びるべきだろう。

    アグネス「心配かけてごめん。でも、相手は先に逝った仲間の戦友。いいえ、そうでなかったとしても!同軍合い討つ事態が避けられないなら、何とか戦死者だけは出したくないわ」
    ヴィーノ「当然さ。でも…アグネス、その…。貴女は、本当は俺が思っていたよりもずっと優しい人だったんだね。アカデミーの頃は誤解していたかも。ごめん!変なこと言って」

    何やらヴィーノが申し訳なさそうな声で謝り出した。確かに―自分でも随分、甘っちょろくなったと自覚している。でも、それはそれ、これはこれ。

    アグネス「良いわよ。時間がないから切るわ。シンが来たら待たせておいて。2機編隊を組む」
    ヴィーノ「ああ、分かった」

    ちょうどそのタイミングでメイリンがパイロットスーツを持って入室する。ほぼ同時にミネルバの舵が左に切られる。

    メイリン「おおっ…」
    看護兵「始まったの!戦闘が?!」
    看護兵「向こうはやる気なのですか!?」

    傍の看護兵が少し慌てだしたので、彼女達を右手で制しながら、広げたままのデバイスを覗き込む。

    グラスゴー隊、4隻のナスカ級からビーム8本が発射されている。主砲の120cm単装高エネルギー収束火線砲によるものだ。この軌道から考えて―。

    アグネス「威嚇射撃ですね。見当違いな方向にワザと討っています。マリクさんは反射的に舵を切りましたが、向こうも当てる気は端からない」
    看護兵「良かったわ!」、看護兵「でもこのままという訳にも…」

    看護兵とメイリンは心配げな表情を浮かべつつも、手元はキビキビ動きだす。医療器具やら何やらで着ぶくれした私の体に器用にパイロットスーツを着せてくれる。ありがたい、おかげで私は別の作業に取り掛かれる。

    右手をデバイスに伸ばして画面を切り替える。今の内にブリッジとアスラン宛てに送る作戦計画を早打ちしなくてはいけない。突然、戦場に出て来られても味方を戸惑わせるだけだろう。どんな顔をされるかわかってはいるが、やはり報連相は基本だわ。

  • 30二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 02:44:46

    メイリンは着替えを手伝い終わると、それを少し感心したように眺め、暫し後、重要な質問を私に投げかける。

    メイリン「議長はこれからどうするんでしょうか?3分の2の最高評議会議員と60人議会全員を敵に回して―。ミーアさんを使う気なのは良いとして、それだけ?」

    ふむ。『私達がどうするか』ではなく『議長がどうなのか』ね。もっともな疑問、実は私も気になっていたのだ。

    議長はこの一晩の政変で今まで何をして来たのか?今からどんな手を打とうとしているのか?出撃前に整理しておかないと不味い。

    アグネス「私が推測するに。本当に推測しかできないけどね。多分、議長は最高評議会議員8名からユニウスセブン落下テロの再調査の話が出た時に、政局の潮目が変わったことを敏感に察知したはずよ」

    自分の落下テロ関与の証拠が出てくる可能性だけじゃない。彼らが再調査を求めたと言う事は、詰まる所、自分を疑っているのと同義だ。過半数の最高評議会議員に疑惑の目を向けられては、議長と言えでも己の理想通りの戦争指導や政策実施は不可能となる。

    だから―『先手を打たなければいけない』、彼はそう思ったはず。

    メイリン「議長は頭が良い人です」
    アグネス「ええ、良すぎるくらいに」

    そう答えて、デバイスのキーを最後に叩き、ブリッジとアスランに作戦案を送信する。そろそろシンも着替えが終わる頃かな。ただ、もう少しだけ待って欲しい。頭を整理したい。

    アグネス「メイリン、ここでいう『先手を打つ』と言うのはね。つまり『【反デュランダル派(と彼が見なした)】の最高評議会議員を拘束するということ。そして代わりの最高評議会議員を60人議会議員から出させるということね。
    無論、自分の息の掛かった議員が選ばれるように仕向けたうえ。拘束した議員は適当な理由を付けて弾劾、監視下に置く。これで最高評議会はこれまで通りに運営できる―少なくとも外形上は。」

    思うに今夜の政変の序盤戦はこうして始まったのではないか?確認するようにメイリンを見上げると、それを受け、彼女が続きを加えようとする。

  • 31二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 03:18:35

    メイリン「議長は最初に―議長官邸に向かっていたライトナー評議員を議長警備隊で拘束するつもりでした。しかし、ビルにいる評議員にその方法は使えない。警備隊が居ますし、反デュランダル派に国防委員会も名を連ねていました。市街戦やビルの籠城戦に発展する可能性も。やはりプロの力が要る。そこで議長は子飼いのザフト将兵に動員準備を命じた、と」

    ところを得たりね。

    アグネス「そう【子飼いのザフト将兵にも動員準備を命じた】、これが議長の失策の一つ目ね。その中の主力はジュール隊、でもジュール隊長ご自身は議長に恩義を感じつつもその動向を訝しんでいたわ。そのためジュール隊長経由で情報は反デュランダル派に筒抜けになった。それだけでなく―最高評議会メンバーは議長の余りに強権的な対応に驚愕した。彼自身の振舞いが彼らの黒幕疑惑を確信に変えてしまったのよ」
    メイリン「自滅-ということですか?」

    ちょっと辛辣な質問を受け、ちょっと考え首を振る。

    アグネス「どの道、ユニウスセブン落下テロの疑念が最高評議会議員の会話の端に上るようになってしまった時点で、あのメンバーでの政権運営は不可能だったはず。次の日になっても状況は良くならない。時間がたつほど悪化して言ったはず」

    それなら彼はどうするべきだったのか?答えはやはり単純だ。

    アグネス「後ろ暗いことをやっては駄目ね。前大戦のニュートロンジャマー投下はプラントなりの大義と合理性があったわ。ジェネシスでさえもプラント本国-民間人居住区-に核を打ち始めたのは連合から。もし相互確証破壊なら撃つでしょう。国民全てが標的にされたのだから」

    今回のテロはそれとも違う。あのテロによる人道危機と環境破壊はどう言い繕っても正当化できない。直接の協力、故意の見逃しどちらであっても罪は免れない。ギルバート・デュランダルは、人としても国家指導者としてもレッドラインを踏み越えていた。その襤褸が出ただけの事なのだ。

    そう伝えるとメイリンは身もふたもない言葉を返してくる。

    メイリン「結局、政治家でも悪いことはしちゃ駄目ってことですね」
    アグネス「まあ、そうね…」

    少し違う。世界には確かに正論や正義がそのままでは通らない場面がある。政治家や高級官僚、高級軍人等は国家と国民の利益のために『グレー』な選択肢を取る必要も時には迫られるだろう。

  • 32二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 03:43:37

    でも、選んで良いのはグレーまで、レッドラインを踏み越えてはいけない。それにグレーの選択肢も、あくまで国家と国民の譲りえぬ利益のため、止むを得ない限度でのみ許容され得る。

    あの男がしたかも知れないことは、両方のハードルに引っかかっている。

    アグネス「それはさて置き。立法委員長のカシム評議員が反議長派だったことは最大の痛手だったはず。60人議会の議長でもあるから。早速、招集が掛けられたわ。でもここまでは議長も予見していたはず。『仮に立法委員長が緊急招集を掛けても夜間の事でどれだけ集まるかは読めない。最高評議会ビルの傍まで行けば尋常ならざる気配に議員たちも気が付くだろう。巻き込まれたくないはずだし、60人議会内にも自分のシンパは多い。政治工作で巻き返せる』そう思っていたはず」

    メイリンに話を聞いてもらっているとひょっこり軍医殿も顔を出す。看護兵殿も。何かこそばゆいというか、変な気分だわ。でもそうも言っていられない。相手の威嚇射撃は続いているのだ!ミネルバも威嚇射撃を撃ち返し始めている!

    アグネス「残りの3人の最高評議会議員3人に連絡を入れたのは多分この辺りね。内、オーベルク評議員とアダマン評議員は官邸に呼び出し、ブリュッセルのカザエフスキー評議員には自分の都合のいい情報を吹き込み傘下に引き入れた、と思っていたと」

    メイリン「ここからはミネルバのパートですね。私も話して良いですか?」
    アグネス「どうぞ?」

    話しているうちに少し喉が渇いてきたからね。看護兵さんからミネラルウォーターを少し貰う。

    メイリン「その頃、アーモリーワンではミネルバと月軌道艦隊のアプリリウスが決定しました。グラディス提督のご決断で、【子飼いと思っていたミネルバが子飼いじゃなかった】これが議長の失策二つ目ですね。」
    アグネス「そうね。グラディス提督が公私混同しない人であって本当に良かったわ」

    あるいは『公私混同しない人になった』のか?私にはまだ分からない。妻となったことも母となったこともない。議長と彼女の関係がどうなのかも本当の所は分からない。

    メイリン「ついでにブリュッセルのカザエフスキー評議員も勢いでころっと反議長派に転じました。これで議長は国外勢力と公式な形での連携は不可能に」
    アグネス「そうね。彼女が友達甲斐のある人でよかったわ。ああ、『国家に仕える戦友』と言う意味の友達ね」

  • 33二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 04:04:15

    やや前後して、アプリリウスでは議会にカナーバ前議長とジュール前最高評議会議員も駆け付け、そのご尽力もあり、夜間に関わらず60人議会議員も全員ビルに終結した。

    アグネス「(この二人の内、カナーバ前議長の事情は私の知る由もない。でもジュール前最高評議会議員の方は予想が付くわ。恐らくイザーク先輩やディアッカ先輩を通じて事情は把握していらっしゃたのだろう。機を見計らっていらしたのね)」

    そして勝負をかけるなら今夜だと。

    アグネス「議長の失策の三つ目は【仇敵のはずのお二人が手を協力していたこと】。それによって60人議会は議長のコントロールから外れた状態で開催したわ」
    メイリン「地上のミーアさんやファウンデーション王国に一報を入れたのはこの頃でしょうか?」
    アグネス「おそらくね。『万一の時のため』L1宙域に伏せていた傭兵(?)に連絡を入れたのもこの時のはず」

    逆に言えば、もうこの時にはミネルバは議会派としてアプリリウスに突進しつつあることを察知していたことになる。無線傍受で知ったのか、あるいはアーモリーワンに諜報員を潜伏させていたのか。分からない、分からないことは一先ず分からないままにしておこう。

    ここでうずうずしていた軍医殿が私にアイコンタクトを取ってくる。どうぞとお返しする。

    軍医「ゴホン!議長の備えはある程度功を奏し、ミネルバは傭兵の攻撃と追走に手を焼き、デブリ帯の戦いでアビスは中破、貴女は負傷してしまいました。しかし、議長も切り札だったキャンベル嬢の呼びかけは不発に終わり、議会からは彼に不利な決議が3つも可決されてしまったと。国防委員長も全軍に通常任務に戻るよう命令を下しました」
    アグネス「はい」

    ちなみに私の意識はこの辺りで途切れる。麻酔が切れるまでの間に議長と反議長派に和解交渉が持たれ、決裂。ジェセック評議員曰く議長の時間稼ぎだったそうだけれど…。

    実はここも議長の失策ポイントは相当高い。彼の力量なら、何かしらの妥協を引き出して事態を収拾させることもできたはず。彼の負けは負けでも失点が少ない終わりが選べたはずなのに。

    アグネス「(それをしなかったと言う事は―。彼にとって退くに引けない事情があったと言う事。それはいったい何だろう?本当にロゴス打倒だけが彼の目的なのか?)」

  • 34二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 04:40:04

    ともあれ、業を煮やした60人議会は議長の問責決議案を可決した。それに議長は市民を扇動して大規模デモで最高評議会ビルを包囲して対抗する。

    そして今に至る。

    想定よりもはるかに速いミネルバのL5宙域の到達という議長の四つめの失策に加え、彼は知らないだろうけれど、『ラクス』の正体とラクス暗殺未遂事件の露見という大失策が立て続けに起きている。もし、私が議長の立場ならここからのリカバリーは相当難しいだろう。

    アグネス「私が議長なら―。『民衆の支持』、『ミーア(もうすぐ到着予定)』、『少数精鋭のザフト部隊』は強力なカード。何やらファウンデーション王国親衛隊も一人、地球を発っている。一発逆転の目は確かに存在する。しかし、せっかく稼げた時間、そろそろ身辺整理を始める頃合いと考えるでしょう」

    あるいは―。既に始めているかも知れないが―。

    メイリン「ユニウスセブン落下テロやラクス様暗殺未遂の証拠や痕跡、共犯者や裁判の証人に成りそうな人を消す、ということですか?」
    アグネス「あるいは時間稼ぎの目的の一つがそれだったのかも…。明日の朝刊の隅の方、『自決』や『事故死』の報が心配になるわ。他の記事が悪目立ちすること確定なだけにね」

    そこまで話して、ようやく自分の脳内の整理が終わる。議長の今の狙いは時間を稼ぎ、政変の一発逆転を期しつつ、証拠隠滅と証言者の抹殺を図ること。良し。頭の整理はついたわ。

    アグネス「グフの下へ行きます。やはりアプリリウスへ、一刻も早く!メイリン、看護兵さん、お願いします。毎回、済みません」
    メイリン「いえいえ」、看護兵「本官の果たすべき使命です」
    アグネス「ありがとうございます!」

    デバイス越しに見る艦対戦は徐々に緊迫の色を増し、グラスゴー隊は各艦120cm単装高エネルギー収束火線砲に加え、66cm2連装レールガンも発射を始めている。ミネルバの2連装高エネルギー収束火線砲トリスタンとリニア砲 クルヴェナールも負けじと火を噴く。そうしてお互い、艦を掠めるほど近くの空間に向け必死に威嚇射撃中だ。

    どちらもとしても味方を沈めたくはない。グラスゴー隊からは、取り合えず、時間稼ぎをして、月軌道艦隊にアーモリーワンに帰って欲しい、そんな思いが伝わってくる。

    彼らの厚意に私達も出来れば応えたいが、こちらも使命を帯びた身、そろそろ抜けさせてもらうしかない。

  • 35二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 11:42:13

    保守

  • 36二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 13:42:09

    エターナル追跡部隊差し向けてるって事はメンデルがガラ空き
    ダゴスタが入手できた情報次第じゃゆかり王国も詰む

  • 37二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 13:43:42

    >>36

    最善策のようで詰めが甘いやっぱり投入するならラクス暗殺の部隊のような自決もじさない部隊じゃないと

  • 38二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 19:19:08

    アスランを突っ込ませてダルマ量産…とはいかないか

  • 39二次元好きの匿名さん25/03/23(日) 03:37:00

    保守

  • 40二次元好きの匿名さん25/03/23(日) 04:56:12

    メイリンと看護兵に押してもらってモビルスーツ格納庫まで降りると、既に先客が二人いた。正確に言うと6人ね。一人に付き二人の介助者が付いてくれているから…。

    ハイネ「おう!アグネス、こんばんは」
    アグネス「こんばんは、皆さん、ハイネ先輩。シンもこんばんは、あんたは元気そうね!」
    シン「こんばんは。アグネス」

    二人の内、ハイネ先輩の顔色は良いとは言えない。シンは元気に着替えて赤達磨になっている。
    一方、ハイネ先輩の着衣は病院服だわ。それでもここまで見送りに来てくれたのね。

    きっと、どうしても言いたいことが有ったのだろう。そう思っていると、彼は私の視線に気が付くと、痛んだ体を少し折り曲げ、私達に頭を下げる。

    ハイネ「今までいろいろ気苦労をかけちまったな。アグネスにもシンにもメイリンにも。グラディス提督達にも…」
    シン「そんな!俺達…」、メイリン「いえ、そんな…」

    言葉では言い表せない感動を覚える。本当にどんな気持ちなのだろう。感謝と同情と後悔と罪悪感と達成感が自分の胸の内をかき乱している。きっと、ハイネ先輩も本当に大変だったのだろう。

    でも、私達には感慨にふける時間はない。

    アグネス「こちらこそ、気苦労をお掛けしました。それでは行ってまいります」

    ハイネ先輩は私のそっけない返事を満足そうな表情で受け止めて下さる。

    ハイネ「ああ。二人とも気を付けろよ。武運を!」
    アグネス、シン「はい!」

    ほぼ同時に敬礼を交わし、分かれの挨拶を終えるやそれぞれのグフの昇降機に突進する。私のグフにはヨウランが、シンのグフにはヴィーノが付き、大型昇降機を上がりながら手短に説明をしてくれる。

    ヨウラン「アグネス、今、首と胴を痛めて左右のモニターが見辛いだろ。正面モニターを三分割してそこに両方の画面も映るようにした。これで一応、いつも見ている範囲をカバーできる。そのせいで一方ずつの画面が小さくなったけど…」
    アグネス「ありがとう。良い工夫ね」

  • 41二次元好きの匿名さん25/03/23(日) 05:01:16

    それだけ話す頃には開放されたコックピットハッチの真横に到着している。

    看護兵、メイリン「一、二、三、はい!」

    メイリンと看護兵さん、ヨウランの助けを借りてグフのコックピットに着ぶくれした体を押し込む。よし準備完了。

    ヨウラン、メイリン、看護兵「気を付けて、ご武運を!」
    アグネス「あなた達にも武運長久を!」

    コックピットハッチを閉め、回線をミネルバブリッジとアスランのフォースインパルス、シンのグフと固定する。

    アグネス「シン。2機編隊で行動するわよ。私もあんたもキャットゥス500mm無反動砲を持って行く。グラスゴー隊のモビルスーツは不殺撃破が原則。ナスカ級はスラスターのみ破壊すること」

    呼びかけると通信モニターにシンの顔が現れる。

    シン「ああ。当然だ。味方を殺したくない。でも数が多いな」
    アグネス「ダイダロスの時よりはマシよ。あの時とは勝手が違うけれどね」

    そう。何もかも違う。今回はブラストインパルスの大火力で相手を薙ぎ払う訳にはいかない。彼等は戦友なのだから。
    アグネス「(だからこそ、今!)」

    グフの足がカタパルトに、いよいよね。

    アビー「カタパルト推力正常、進路クリアー、グフ・アグネス機、発進どうぞ!」
    アグネス「アグネス・ギーベンラート、グフ、出ます」

    言葉を発した次の瞬間、身体にGが掛かる。良し、何ともない。戦える!

    アビー「続いて、シン・アスカ機。カタパルト推力正常、進路クリアー、グフ、発進どうぞ!」
    シン「シン・アスカ、グフ、行きます!」

  • 42二次元好きの匿名さん25/03/23(日) 05:11:25

    飛べ出た直後に、強い視線を感じ、反射的にグフの左腕を上げ頭部を守る。一拍後、飛来した大ビームの光が対ビームシールドの表面を滑って行く。

    アグネス「(ガナーザク!オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲。間に合った!)」

    コックピット回線には少し取り乱したシンの顔が映る。

    シン「大丈夫か?」
    アグネス「ええ。頭部狙い。殺意はなかった。でも手荒な挨拶ね」

    こんなことで何時もなら一々騒いだりしない。意識して何でも無いように振舞う。どうやら私もシンも怪我で心まで弱っているらしい。ともあれ発進した私達で無事に合流し、編隊を組んで宙を駆けだす。

    運が良いのか悪いのか、私達の発進はミネルバとグラスゴー隊の奇妙な膠着状態が崩れるタイミングだったのだ。ブリッジ回線からは緊迫した会話が漏れ聞こえる。

    タリア「マリク、回避任せる!アンチビーム爆雷発射」
    マリク「了解」、アーサー「アンチビーム爆雷発射!」

    グラディス提督の指示の下、ミネルバは船体をやや捻りつつ急旋回を遂げる。その次の瞬間に31本の光の濁流がミネルバの想定進路を流れ行く。

    間一髪だった―ように見えるだろう。

    シン「ナスカ級の120cm単装高エネルギー収束火線砲、ガナーザクのM1500 オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲21門-いや、アグネスが弾いたから20門か。あいつら本気だ!」

    シンの声に怒りの感情が滲んだので冷静に事実を指摘する。

    アグネス「あれは全力全開の手加減。まだ、威嚇射撃よ。ガナーザクが多いのはモビルスーツ戦の際、コックピットを外してあげやすいから。ミネルバがアンチビーム爆雷を積んでいることも知っているはず」
    シン「それは…。分かっているけど!」

    勿論、分かっているだろう。馬鹿ではスーパーエースになれない。それに彼の危機感ももっともだ。グラスゴー隊はミネルバを逃がしそうになって切羽詰まっている。

  • 43二次元好きの匿名さん25/03/23(日) 05:22:53

    アグネス「(その理由も分かっているわ)」

    グラディス提督はミネルバの現宙域からの高速離脱を決断した。先行させた月軌道艦隊ナスカ級3隻は既にザフト軍事ステーションに到達し、ジュール隊長から派遣されたナスカ級ルソー、ヴォルテールに迎えられている。

    囮の役目はもう終了した。後はミネルバもグラスゴー隊を振り切って後から追いつくのみなのだ。彼らはそれを見逃すわけにはいかない。

    グラスゴー隊長は、議長と議会の板挟みに苦しみながらも『一応は』議長の命令に従おうと腹を決めたらしい。

    ブリッジから通信、現状を説明してくれる。

    アビー「グラスゴー隊ナスカ級4隻は最大船速でミネルバを追撃中です。母艦より展開させていたモビルスーツ隊は上下左右に4つの翼を広げ。ミネルバ包囲のため活発に活動し始めています。各翼の合計51機。グフ30機とガナーザク21機です。他に各艦直掩に3機ずつ」

    やはり数が多い。最新式のナスカ級に工夫して機体を乗せるのみならず、係留しても来たのだろう。

    アグネス「白服までなる人はやはりただ者ではないわ…」
    シン「感心している場合じゃない!」
    アグネス「知っているわよ!」

    ともあれ、彼等の認識では『反乱軍(仮)』のミネルバをアプリリウスまで素通りさせるわけにはいかないのだろう。第二波攻撃は必ず何発かは船体に当てるはず。アンチビーム爆雷を散布後であると見越した上でだろうけれど。

    コックピット回線にブリッジから指令。

    タリア「現時刻を以て、本艦モビルスーツ隊は牽制飛行を止め。対艦対モビルスーツ戦闘に移行せよ。バート、グラスゴー隊の識別をエネミーに。皆、彼等は敵よ。ただし、損害は最少になるように努力せよ」
    アグネス、一同「了解!」

    まあ、彼女としてはこう言わざるを得ないわ。下手に部下に不殺命令を出せば、互いの損害が増えかねない。

  • 44二次元好きの匿名さん25/03/23(日) 08:57:39

    相手も相手でどこまで本気で撃っていいか分からんだろうなぁ⋯

  • 45二次元好きの匿名さん25/03/23(日) 11:55:24

    レイは大人しく療養してるよな…?

  • 46二次元好きの匿名さん25/03/23(日) 17:56:32

    ほしゅ

  • 47二次元好きの匿名さん25/03/23(日) 22:21:20

    どうなるかねえこれ

  • 48二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 00:40:35

    この局面でアコードが何するか怖いなぁ

  • 49二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 01:23:49

    グラディス提督の指令が下ったと同時に自分の脳内麻薬の蛇口が全開になる。五感全てが研ぎ澄まされるこの感覚、大好きで大嫌い。

    アスラン「アグネス、君の作戦を採用する。グラディス提督も了解済みだ。ルナマリアたちと合流を!」
    アグネス、シン「了解!」

    そこから先は全てスローモーションだ。私達、グフ2機編隊はグラスゴー隊の半包囲下で大旋回して、既に出撃済みのミネルバモビルスーツ隊と合流する。ルナマリアのガイアを先頭に、ショーンとデイルのグフ2機、ガナーザクファントム3機の計6機だ。そこに私達のグフ2機で7機。ガイアを先頭にガナーザクファントムは最後尾として縦隊となる。私は2番目だ。

    同時にアスランのフォースインパルスは反転し、ミネルバの直掩に向かう。彼の鋭い指令が回線を飛び交う。

    アスラン「アビー、ブラストシルエットを射出準備!換装は成功させる」
    アビー「了解しました」

    ブリッジの空気も緊張感の絶頂にある。

    タリア「マリク、旋回。アンチビーム爆雷の散布範囲外に。格納庫のバクゥハウンドはブレイズからガナーに」
    マッド・エイブス「換装済みです!」

    耳はブリッジに向けながら、我が身はガイアに先導されて、4次元に展開された『鶴翼の陣』の右翼に突き進む。立塞がるはグフ7機とガナーザクウォーリア5機の中隊、この陣容は本来、簡単な相手ではない。

    それでもルナマリアはここが抜けると判断した。なら続くのみ。

    タリア「ガズウート隊、バクゥハウンド隊、攻撃準備。目標、グラスゴー隊のガナーザクウォーリア」
    ガズウート隊一同、バクゥハウンド隊一同「了解!」

    最後尾のガナーザクファントムに配慮しながらも、可能な限りの速さで我ら8機は斜行を続ける。こちらの急接近に気が付いた右翼のガナーザクウォーリア5機の高エネルギー長射程ビーム砲オルトロスの照準がこちらを捉える。でも、さっき撃ったせいで、チャージは未だ。

  • 50二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 01:27:59

    ルナマリア「グラディス提督、お願いします!」
    タリア「了解!右翼から!撃てー!」

    グラディス提督の号令と共に虚空を27本の光が次々と貫く。光の正体はビーム、ガズウート隊6のフルカ 2連装ビーム砲各2基と甲板エレベーターから上がって来たガナーバクゥハウンドの高エネルギー長射程ビーム砲 オルトロス3門から迸ったものだ。

    それは私達の傍を瞬きする間に追い抜いて、目前に迫る右翼のガナーザクウォーリア5機の右半身を破壊し中破させている。レーダー上では上翼のガナーザクウォーリア3機も中破された模様。

    モビルスーツと宇宙空間を挟んだ上でもグラスゴー隊の動揺が伝わってくる。彼らは、あともう少し、威嚇射撃合戦が続くと予想していたのだ。ミネルバはその油断を衝き最初で最後のボーナスポイントで最大の戦果を挙げた。

    ルナマリア「行くわよ!道を空けるわ。モビルスーツ隊、続け!」
    アグネス、一同「了解!」

    ルナマリアの掛け声、急速接近するガイアに向け敵のグフ6機が構える6門のキャットゥス500mm無反動砲が火を噴く。

    飛来する弾頭6つ、それに向けルナマリアは身を投げ出す!

    ルナマリア「がぁっ。くぅぅ…」
    シン「ルナマリア!」

    バズーカから発射された6つの弾頭は過たず命中し、ガイアは焔に包まれた。彼女も覚悟の上だ。ヴァリアブルフェイズシフト装甲を持つ機体にしかできない。機動防盾すら自機のコックピットの防御ではなく、後続機体のために掲げてもらった。

    アグネス「(ごめん。本当に―)」

    コックピットの回線越しに彼女の呻き声が聞こえる。何もしてあげられない。今は、働きに答えるだけだわ!

    アグネス「シン、ショーン、デイル、ガナー3機!この距離なら!右半身を!」
    シン他一同「了解!」

    ガイアを盾にその後ろから、私達は一斉に飛び出し、自分のキャットゥス500mm無反動砲の引き金を引き、高エネルギー長射程ビーム砲 M1500オルトロスを撃ち放つ。
    半瞬後に砕け散り、焼け落とされたグフの右腕が握ったままのキャットゥス500mm無反動砲ないしその残骸と共に宙を舞う。

  • 51二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 01:35:38

    唯一、撃ち切れなかったグフ1機には私とシンが一気に飛び掛かる。シンが先、私が後ろ。私は急いで次弾を込める。

    相手機はキャットゥス500mm無反動砲を投棄し、接近したシンに自機の左手のシールドを向け、右腕で引き抜いたテンペスト・ビームソードを振り上げる。

    アグネス「発射!」

    その右腕をキャットゥス500mm無反動砲の次弾で吹き飛ばす。相手機体のパイロットがそのことを知覚するよりも早く、シンは肘から先が捥げた右腕にスレイヤーウィップを巻き付け、破壊面から直に振動波を叩き込む。この機体はこれで済みだ。

    ショーンとデイルも各々、グフに飛び掛かり、1機ずつスレイヤーウィップを使った無力化を完了させている。これで良し。

    アグネス「『ブリッジ、敵右翼のグフ3機を完全無力化。残りのグフ4機とガナーザクは中破に留まりますが先を急ぎます。もし艦を移動させるなら右翼が比較的安全です。ただご注意を』」

    回線に急いで呼びかける。それと同時にガナーザクファントムを先に通す。出せる速度の問題と反撃の恐れから、彼らが先だわ。

    タリア「了解。悪いけれど、急いで」
    アグネス「『了解』。皆、続け!トマホークに注意」
    一同「了解!」

    中破したとはいえ、敵機は片手が残っていれば継戦は可能なのだ。でも私達の目的は敵の殲滅じゃない。ここは突破できればいい。

    私は背後を気にしつつも、先行させたガナーザクファントムを猛追し、ショーン、デイルも後に続く。

    シン「ルナマリア!」
    ルナマリア「良いから!行くわよ」

    シンのアホは殿を担当しているルナマリアを気に掛けているようだった。でも、彼女自身に叱られてデイルに続く。

    そのタイミングで先行させたガナーザクファントムが振り返り、牽制目的でオルトロスを3発撃つ。そのビームの接近を合図としてルナマリアも残敵からガイアを引き離し、私達の後に続く。

  • 52二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 01:40:26

    アグネス「(不殺は大変だわ。やってみてしみじみと思う)」

    右翼を突破した私達は編隊を整え、再びガイアを先頭とした縦列に戻り挺身突撃を続行する。目指すは敵の主力の脇腹、標的はグラスゴー隊の母艦ナスカ級4隻-の4つのスラスターだ。

    アグネス「私達の目標はグラスゴー隊の殲滅じゃない。ただ、彼らを振り切ってアプリリウスに行きたいだけ。スラスターを潰されたら隊の母艦たる4隻は航行不能に陥る。そしてモビルスーツは母艦を離れて長時間、長距離を単独行動できない。基本はね」

    まあ、どんなことにも例外はある。私達はそうした状況に慣れてしまったが、本来はそうなのだ。

    ルナマリア「だから―手早く敵の翼包囲を突破し、母艦を強襲し無力化、目的を達した時点でモビルスーツ隊はミネルバに帰還か現宙域を急速離脱する。ミネルバは俊足を生かして敵モビルスーツ群を置き去りに現宙域を離脱。切り込み隊の先駆けはヴァリアブルフェイズシフト装甲のガイア、つまり私と」

    ルナマリアの声は先ほど彼少し持ち直したように聞こえる。それが空元気でないことを祈りたいわ。

    アグネス「無理させてごめん」
    ルナマリア「まあ、『月光のワルキューレ』様は何度も同じようなことをなさっていらっしゃるものね。気にしていないわ」

    やっとコックピット回線の画面に顔を出してくれる。良かったわ、少なくとも顔色は悪くない。少し意地悪なことを言っているが今は甘んじて受けよう。

    ショーン「でも、ガナーザクウォーリアが多くて助かりましたね。あの機体は左肩にシールドをホールドする設計。それで頭部とコックピットと左背部の大容量エネルギータンクは守れる。でも右半身、なかんずく右腕と構えたオルトロスの砲身は無防備に」

    そう。それも運が良かったわ。これが我が隊のようにザクファントムであったら少し様相が変わった。というか、エース用のザクファントムを何機も運用中のミネルバがおかしいのだ。

    シン「だから―。一応、理論上、ガナーザクウォーリアはほぼ同時に2連射すれば確実に不殺出来る。内1射を左よりに、出来ればコックピットを避けて左腕の付け根辺りに撃つ。敵はシールドで攻撃をガード。そのタイミングで右腕をオルトロス諸共撃ち抜く、と」

    うんうん、と言って頷きながら話しているけれど、それ私があんたに言ったのだけれどね。

  • 53二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 01:46:52

    アグネス「(ただ、言うは易く行うは難し。ガズウート隊とバクゥハウンド隊の練度が高かったからやれると確信できた。他の隊ならこんな作戦は上申しない)」

    グフ戦も基本は同じ。実際に使ってみると分かるのだが、キャットゥス500mm無反動砲は取り回しにとても苦労する。グフの場合、片手(多くは右手)で肩にかけて使う形になるのだが、その際、逆側の手のシールドで守れるのはコックピットと頭部、それに片足の膝下までだ。無反動砲を構えた側の腕と膝下はノーガードなのだ。

    平パイロットならともかく、エースパイロットなら接近できてさえいれば、コックピットに当てることなくそこを破壊してあげられる。

    アグネス「種を明かせば簡単ね。古代ギリシャの時代から右半身は最大の弱点。左手で盾を持ち、右手で長槍を構えるからね。自分の右半身は隣に並んだ戦友の盾で守って貰う。隊列の最右翼は自分の右半身を守ってくれる者はいない。だから、武勇に優れた熟練兵を配置する。もっとも名誉で死に近い場所よ」

    モビルスーツ戦では武装によって右左が逆になることもある。でも、本質は変わらない。そして、例外的な事例でなければ、私達はファランクスを組まない。だから各々が『武勇に優れた熟練兵』になることを求められる。

    無論、それは無理な話だ。もし仮に全員がそうなのだとしても、中ではランクが分かれる。そして、私達はその最上位層だ。感覚にただ頼るのではなく、うまく理屈立てて、皆で連携して動けば不殺撃破の危うさは相当低減できる。

    右だ!迷ったら右を狙え。もしくは攻撃武器を持っている側!そっちの手でも足でも良い、吹き飛ばせ。増してグフにはスレイヤーウィップがある。損傷個所があれば、直ぐにダウンさせられる。

    アグネス「さて…」
    ルナマリア「そろそろ…」

    話を切り上げようとしたら、ルナマリアと声が被る。通信画面でちょっと譲りあった後、私から指令を出すことになったわ。

    アグネス「皆、聞いて。グラスゴー隊は急に変化した戦況に頭と気持ちが付いて来ていない。その心理的衝撃が収まらない内に、全速でナスカ級4隻のスラスターを。気を引き締めて」
    ルナマリア、シン一同「了解!」

  • 54二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 08:15:05

    まさかとは思うけどミーアをシャトルごと撃墜して議会側に犯行をなすりつけたりしないよね……?
    なお実際はミーアはアコードに拉致されたものとする

  • 55二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 17:46:07

    保守

  • 56二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 18:39:16

    >>54

    真ラクスが生きているのに無茶な事をしたら藪蛇になる可能性があるから、さすがにそんな事はせんやろ…

    せんよな?

  • 57二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 00:23:27

    皆の返事を確認して、私達は飛行しながら再度、編隊を整える。先頭はもう一度ルナマリア、ガイアに任せる。心苦しく思うがヴァリアブルフェイズシフト装甲の機体には前に出てもらうしかない。

    アグネス「(大丈夫。あと一回で勝負は着くから…)」

    先駆けとなってくれる彼女の背中を片目で、もう一方の目はレーダーを確認する。大きな光点が4つ、ナスカ級だ。前情報通り直掩機が各艦に3機ずつ、これが少し厄介か―。

    アビー「ザフト軍事ステーションから緊急入電!帰属不明モビルスーツ1機より襲撃を受たとのこと。型式番号はZGMF-X42S!」

    不意に響くアビーの声がその思考を断ち切る。デスティニー、コンクルーダーズ!!

    アビー「機体の配色はグレー、青、赤。ステーションからスクランブルした8機は中破。警告後に軍港も攻撃を受け、ジュール隊のルソーとヴォルテールも出港不能に。アプリリウスに向け先発した月軌道艦隊の3隻も攻撃され、3隻ともスラスターを破壊され、航行不能。発進したザク9機も中破!」
    ルナマリア、シン「!!??」

    彼女が読み上げた情報で先ほどの考えは覆る。甘い対応だ。議長の特殊部隊ではない。コンクルーダーズでもない。隊が結成済みならもっと早く出てきたはず。

    では誰なのか…。独りで、議長を守り、かつ、仲間も死なすまいと一人奮闘する『彼』は―。

    タリア「レイね…。あの子-。ザフト軍事ステーションと月軌道艦隊先発隊を襲撃した後の予想進路は?」
    バート「送られてきた情報通りなら当宙域です」

    ブリッジの皆は比較的、平静だ。指揮官が傍にいるからだろう。でも、私達はそれどころでは無い。あの馬鹿!

    アビー「ジュール隊長より入電、宇宙港は全力で復旧作業中」
    タリア「そう…。仕方ないわね。全艦、全モビルスーツ隊に通達する。当宙域に議長派のモビルスーツ1機が急速接近中である。この機体ZGMF-X42Sには核動力・バッテリーのハイブリッドエンジンが搭載されている。またエンジンのみならず機体性能は計り知れない。十分に注意せよ」
    ブリッジクルー一同「了解!」

  • 58二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 00:32:35

    シン「レイ…。なんで!?」

    ブリッジの通信を聞いたシン・アスカ機から悄然とした彼の呟きが聞こえる。
    『なんで?』はないでしょう。理由なんて分かり切っている。

    アグネス「議長がお養父さんだからでしょう!アビー、一つだけ。ZGMF-X42Sの攻撃による死傷者は?」
    ルナマリア「アグネス!!」

    ルナマリアが私の質問をかき消そうと声を上げる。気持ちは分かる。言葉を発した直後から私も動悸が止まらない。

    でも今聞かないと聞く機会を永久に失するかもしれない。グラスゴー隊の直掩隊は12機で中隊を組んでこちらに向かってきている。もう今にも戦闘は始まる。

    だから、『どうかそうでありませんように』と祈りながらもアビーに質問せざるを得ない。

    アビー「艦隊、軍事ステーションいずれも死傷者は発生していません。殺傷を控えている節があり、警告後であったことから」

    うん…、良かった。そうだと思っていた。信じたかった。心の底から安堵の息が漏れる。

    そして直後に怒りが込み上げてくる。あの愚か者が!
    フェブラリウス市の病院を抜け出し、FAITH権限でシャトルを徴発、そのままマイウス市なりマティウス市なりで最終調整中だったデスティニーを持ち出しのだ。エルスマン博士にあれだけ迷惑をかけるなと言っておいたのに!

    だが、それも生きてこそのもの。お互いにね。

    アグネス「アビー、ありがとう。じゃあ―守らなきゃね。重病の戦友の帰る場所を。ルナマリア、もうすぐ射程圏内よ!」
    ルナマリア「え…ええ!当然よ」
    シン、一同「ああ!絶対に!」

    アビーの回答を聞いて私達は元気百倍だ。皆生きている。だからもう少し頑張ろう。凄く不利になった気もするけれど気にしてはいけないわ。

  • 59二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 00:38:55

    ルナマリアに檄を飛ばすと同時に自分のキャットゥス500mm無反動砲を手放し、代わりにすぐ後ろからシンが差し出してくれた対ビームシールドを受け取る。これでシンのグフは両手で2つのキャットゥス500mm無反動砲、私は両手で対ビームシールドだ。

    互いに接近する2つのモビルスーツ隊。グラスゴー隊の直掩はガナーザクウォーリア5機、ブレイズザクウォーリア5機、スラッシュザクウォーリア2機の1個中隊。

    思ったよりも少しガナーが多い。

    アグネス「ルナマリア、予定変更、私が先に行く!」
    ルナマリア「うん。お願い!」

    一声掛けて、グフのスラスターを吹かせ、前のガイアを抜き縦隊の先頭に躍り出る。グフの体勢は敵中隊に正対、ただし両足の膝下はシールドの範囲に収まるように後ろに90度曲げる。

    敵中隊から5本の大ビームが迸ったのはまさにその直後の事だった。

    我が2枚の大盾の表面を流れる死の濁流。ただ、その流れに悪意はない。盾の裏側からでも分かる。虚空を伸びて来た光が撃ち抜こうとしたのは、グフ頭と両腕と両足だ。グラスゴー隊も味方を殺める気は毛頭ないことが分かる。

    アグネス「(お互い最初から殺し合う積もりなどない。何故なら私達は戦友だから。つまらない政争より戦場の絆が大事。うーん、シビリアンコントロールそっち抜け、軍閥を生む良くない思考ね。結構、結構)」

    コックピット回線から仲間の号令が聞こえる。

    ガナーザクファントムパイロット3機「発射!」

    私がビームを受けている中、後方のガナーザクファントム3機は縦列を少しはみ出しグラスゴー隊のガナーザクウォーリア3機にビームを命中させたのだ。光学映像でガナーザクの3本の右腕と3本のオルトロスが焼き飛ばされる様を確認する。

    私達は縦列でそのまま突撃を続ける。ビームが収まるやルナマリアのガイアは列をはみ出て私の前に出ようとする。私はそれを待ってグフの両手をシールドごと左前に突き出す。

    そうすると盾と盾に隙間ができ、ちょうど銃眼のようになる。そこからシン・アスカ機がキャットゥス500mm無反動砲2門を続けざまに連射する。虚空を高速で飛来していく2つの弾頭は、2射目に備えていた2機のガナーザクウォーリアから右腕とオルトロスを吹き飛ばす。

  • 60二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 00:46:04

    シンの発射を確認するや即『銃眼』を閉じる。同時にコックピット回線をオープンで切り込み隊に呼びかける。

    アグネス「全機、このまま。グラスゴー隊ナスカ級のスラスターを予定通り破壊する!相手の損害は最少になるよう努力せよ!」
    ルナマリア、シン一同「了解!」

    このメッセージを発した直後にブレイズザクウォーリア5機とスラッシュザクウォーリア2機計7丁のビーム突撃銃が掃射を開始し、私に向け無数のビームが伸びる。

    アグネス「(だいたい1割と言ったところか…)」

    撃ち出されたビームの9割近くは私達の予想進路に掠めることなく、宙の闇に消えていく。元々の彼らの心理に加え、私のオープン回線通信も耳にしたのだろう。最早、彼らは私達を殺傷する意図を失っている。

    それでも残り1割は確実に私のグフを捉えている。油断すれば死者が出る。その状況は何も変わっていない。ビーム突撃銃だけではない。グラスゴー隊のブレイズザクウォーリアは1機につき2基28発のファイヤビー・誘導ミサイルを一斉射する。

    それが5機で140発、向こうに当てる気があるかどうかは関係ない。全身に圧力を感じる。

    ルナマリア「迎撃開始!」

    その期を見計らっていたガイアが前に進み出る。今回は右半身引き、左に機動防盾を構えている。後ろの皆を守る役は私が引き受けているから。

    ルナマリアはそれを確認した上で頭部の20mmCIWS2門を全力射出し、飛来するファイヤビー誘導ミサイルを次々と撃破していく。後尾のガナーザクファントムもオルトロス3門を発射し、大ビームが薙ぎ払うごとにミサイルが10発近く爆発している。

    ルナマリア「シン!今」

    ルナマリアが短く号令をかける。接近を止めなかった私達と敵の間合いが遂に詰まったのだ。

    彼女は号令と共にガイアの高エネルギービームライフルを射撃する。直進するビームの先ではブレイズザクウォーリアがシールドを掲げ、光の矢を弾いて見せる。

    だが―その一瞬後に飛来したシン・アスカ機のキャットゥス500mm無反動砲が左膝下に直撃して爆発、右の膝下も巻き沿いを受けて吹き飛ばされている。やや浅いが1機中破だわ。

  • 61二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 00:51:31

    止まることなくガイアはビーム射撃を続ける。

    ルナマリア「そこ!」

    ルナマリアが撃った先、ザクウォーリアは、気持ち下半身寄りにシールドを掛けてビームを弾く。今回は彼女の射撃が下手なのではない。彼らが受けやすいように撃っているのだ。

    シン「良し!」

    次にシンが撃った弾頭は過たず、ブレイズザクウォーリアの頭部に命中して爆発している。良かったわ。同じ中破でも戦闘能力がどの程度残るかで大違いだ。

    ルナマリアとシン、ガイアとグフはここでこのまま頑張ってもらう。特にシンにはガナーザクウォーリアも含め中破した機体をショートさせて回る役目がある。

    だから、前線を押し上げるのは私の役回りだ。グフの両手で盾を掲げたまま、さらに突進する。後ろにはショーンとデイルが続く。

    シールドにはブレイズザクウォーリア3機分のビーム突撃銃とスラッシュザクウォーリア2機分のハイドラ・ガトリングビーム砲の光が直撃し続ける。

    対ビームコーティングさえ蒸発させかねないほどの光の暴風雨だわ。でも、これで後ろの二人が安心して狙える。私の背中から、後ろに並んだグフがヒョコヒョコ現れるたびキャットゥス500mm無反動砲の弾頭が飛び出す。

    ショーン「発射!」
    デイル「発射!」

    二人の最初の攻撃はスラッシュザクウォーリアのハイドラ・ガトリングビーム砲、その片側にバズーカを命中させ、ガトリング砲1基ごとザクの頭部を飛ばす。

    これをショーンとデイルで1機ずつ、1拍後、光学映像で2機の中破を確認する。

    さらに後方のガナーザクファントムがファインプレーを決める。何とこの隙にグラスゴー隊の3機のブレイズザクウォーリアのビーム突撃銃を構えた両腕ごと、オルトロスで焼き切って見せたのだ!

    アグネス「(私達に気を取られ過ぎたわね。戦場での視覚狭窄、私も気を付けよう)」

  • 62二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 01:02:23

    こうして味方の援護射撃に助けられ、私達グフ3機小隊はグラスゴー隊艦隊直掩隊の突破に成功する。だだ、言うまでもなくナスカ級高速戦闘艦はそれ単体でも強力な兵器、これを止められなければ今までの戦闘に意味はない。

    だから先ずは身軽に、私は片方の対ビームシールドを、ショーンとデイルはキャットゥス500mm無反動砲を放棄する。そして、そのままぐるっと艦隊の背後に向け大旋回を開始する。

    アグネス「この3機小隊で切り込む。『国際救難チャンネルの放送を開始します。これより私達ミネルバモビルスーツ隊はグラスゴー隊ナスカ級5隻のスラスターを破壊し艦を無力化します。各艦はスラスター付近・機関部より人員を退避させよ。退避の時間が足りない場合はこのチャンネルで通知せよ。猶予を与える用意があります』、行きます」
    ショーン、デイル「了解!」

    私達の急接近を関知した5隻は沈胴収納式58mmCIWSを上昇させ対空弾幕を張り始める。でも間に合わない。その時既に私達は彼等の背中、ナスカ級3隻のスラスター付近に付けている。

    一拍置いて、私達はテンペスト・ビームソードで横側面からスラスター部を貫く。テンペストを突き刺す瞬間、自分の心臓を突き刺したのではと誤解するほどの衝撃が胸を貫いた。

    アグネス「(味方を…味方の艦を攻撃した。これが原因で轟沈したら?退避は本当に間に合っていたのか?もし、これが原因で…)」

    半ば目も眩みそうになりながらテンペストを引き抜く。良し、誘爆しない。助かった…。

    アグネス「次!デイルは援護を」
    ショーン、デイル「了解!」

    生き足を失った艦を蹴って残る2隻の後ろに付ける。2隻とも途中まで急速旋回を試みていたが、途中でその起動が止まる。人員の退避のためか、あるいは『もうここまでで良いだろう、やってくれ』と言う意思か。

    旗艦と思しきナスカ級に飛び着いてテンペストを高く掲げる。

    アグネス「(生還して聞けばいい。ご無事で!)」

    私が旗艦のスラスターを穿ち抜いたのと同時にショーンも最後の1隻の推進機を破壊し終わる。終わった…やっと。

    レーダーを確認、ルナマリアとシンも無事だ。ガナーザクファントム組も。特にシンの動きはなかなかで中破した機体は全てショートさせている。胸を撫で下ろす。

  • 63二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 01:31:22

    レイ、無理やり出て来たのか、議長が君が意外頼れる奴いないって呼び出したか…
    少なくとも議長確定で黒って段階で出てこられるとこの上なく厄介な…

  • 64二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 06:24:27

    デスティニーinレイとかジェネレーションオブC.Eじゃないですかーヤダー!

  • 65二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 14:33:00

    レイとしても情報が足りてなさすぎるのでは?という気はするが⋯さて大人しくミネルバに着艦してくれるかというと

  • 66二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 17:36:10

    >>64

    この√行くとプロヴィデンス軍団率いるレイのデスティニーを撃破した後にミネルバがザフトからも追われて行方不明で戦争膠着エンドだっけ

    しかもキラもラクスもミネルバと交戦して戦死済みと言う…

  • 67二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 23:07:56

    レジェンドはどうなってるのだろう

  • 68二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 03:57:14

    保守

  • 69二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 04:05:17

    一息つく暇もない。グラスゴー隊のモビルスーツ隊は大半が健在だ。私達は直ぐにこの場を離れなければ、ましてデスティニーも来る!

    アグネス「ミネルバブリッジ、グラスゴー隊ナスカ級5隻の推進機沈黙を確認、私達は離脱します。合流予定座標を送信してください」
    タリア「了解。アビー、お願い」
    アビー「はい」

    ブリッジからコックピットデバイスに合流地点が知らされる。レーダー上、ミネルバは既に進路を調整して現宙域を急速離脱中だわ。

    アグネス「座標を確認しました。向かいます。それと―、グラスゴー隊のナスカ級5隻と撃破済み機体の救難要請を発令するべきかと。周辺船舶に通知して下さい。座標と軌道予測を送ります」

    予測軌道に関してはコックピットデバイスの簡易計算だ。少し心残りとなるが、仕方ない。モニターの向こうのグラディス提督は私の不躾な上申に気を悪くすることなく肯いてくださる。

    タリア「了解、あなた達も急ぎなさい」
    アグネス、一同「了解」

    通信終了と共にシンがキャットゥス500mm無反動砲で停戦信号弾を撃ち上げる。その明かりが消える前にと私はグフのスラスターを吹かし、皆を安全進路に先導する。

    ただ、これは取り越し苦労であったようだ。スラスターを破壊されたグラスゴー隊ナスカ級5隻からも一斉に停戦信号弾が発射され、宙の暗闇を照らし出す。それはこの気まずい会戦が何とか無血で終わった事の証と私には感じられた。

    コックピット回線を後続する8機に繋ぐ。

    アグネス「全員、コックピット内でグラスゴー隊の戦友たちに、敬礼!」
    ルナマリア、シン一同「はい!」

    サッと敬礼を終え、一気にミネルバを目指して高速飛行を続ける。編隊は雁行型、私のグフが先頭、両後ろにデイルとショーンのグフ2機が続く。ショーンの後ろにガナーザクファントム3機、デイルの後ろにルナマリアとシンが続く。

    ミネルバはレーダーで見ると近いのに実際はかなり遠い。少し苛立ちを含んだ焦りの感情が喉元までせり上がる。この宙域の武力衝突は何とかなった。でも先発隊とザフト軍事ステーションが一蹴され、首都の状況も不明、一体どうなって―。

  • 70二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 04:11:40

    バート「本艦に高速で迫るモビルスーツ、数1。敵味方識別反応はエネミー、機体データー照合。型式番号ZGMF-X42S、デスティニーです!」
    タリア「そう…。アスラン。直掩は任せる。アグネス達、出来るだけ急いで。それと、ジュール隊長からデスティニーの戦闘データの簡易分析が届いている。転送するので確認を、足を止めることなく」
    アグネス、一同「了解!」

    グラディス提督の指令が終わったタイミングで、グフのコックピットレーダーにも新しい光点が灯る。速い!この速さを出し続けて電力が干上がらないとは。ハイパーデュートリオンエンジン、恐るべしだわ。

    シン「レイ…」
    ルナマリア「レイ…、シン…、アグネス」

    何やら後続でブツブツ言っているのが回線越しに伝わってくる。勿論、私はそれどころでは無い。イザーク先輩から送られたデータの中身を流し見でも確認する。

    『ZGMF-X42S、デスティニー 全高、約18m、重量の推定80t前後、装甲はヴァリアブルフェイズシフト装甲と推測される。
    両側頭部にCIWS、高エネルギービームライフル(仮)と対ビームシールド(仮)を装備。両肩部にビームブーメランをマウント、この装備は対ビームコーティングシールドを破断する威力有り。防衛隊と月軌道艦隊先遣隊のスラスターを破壊した兵器につき要注意せよ。
    右背部に2つに折り畳んだ大型対艦刀、左背部に高エネルギー長射程ビーム砲を装備中。両腕にビームシールド発生装置有り。なおこのシールドは中からの攻撃を通す!背部ウィングには機動力強化装置が取り付けられている、と』

    なかなか物々しい。この機体にはもう一つ二つ仕掛けがあるかもしれない。ただ、詳細に検討する時間などない。
    何よりこの短時間で接敵した機体や港湾内のデータを搔き集め、分析して送ってくださったジュール隊に感謝するべきだ。この情報には値千金の価値がある。

    ここから先は私達の領分、ただひたすら駆け足を止めないことに全力を尽くすしかない。

    私達の光学モニターにはようやくミネルバの艦影が映り込む。それと、ミネルバの盾とならんと立ちはだかるフォースインパルスの姿も視認する。右手にはアビスのMX-RQB516ビームランスを構えている。

    アグネス「(なるほど。アビスのビームランスの柄には対ビームコーティングが施されている。相手がビームシールド装備を知って急遽ね)」

  • 71二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 04:20:03

    そしてレーダー上には高速飛行する『ザフトの』モビルスーツ、韋駄天のようにミネルバに迫ってくる。

    今からでも思い直してはくれないものか。父は父、子供は子供だ。毒親とは縁を切れ、レイ!

    残念ながら彼は止まらない。むしろ、グラディス提督の口上を振り切るように機体を加速させる。背部の両ウィングから燃え上がるように紅紫色の光が翼、あれが件の加速装置か。

    タリア「…。アンチビーム爆雷発射!回避航行開始!」
    マリク「了解!」、チェン「了解!」

    光の矢となって急接近するデスティニーを前にもう接敵は止むを得ないとグラディス提督は判断した。『彼』をゆっくり説得して翻意させるだけの時間を神様は用意してはくれない。

    だが―。

    アスラン「やめろぉっ!!もうやめるんだ、レイ!」
    レイ「くっ…」

    彼だけは悪戯な神意も何のその。相変わらずの空気の読めなさぶりを発揮してくれるわ!

    アスラン「やめろ!君に何があったのか、俺は全部分かってやることは出来ない。だが、自分が今、何を撃とうとしているのか、君は本当に分かってるのか!」

    デスティニーはアスランの声に気圧された様に急停止すると左背部の高エネルギー長射程ビーム砲を取り外し構える。

    アグネス「(取り回しが悪い武器を!?躊躇いと焦りか)」

    何にしろ敵失だ。彼が見逃すはずがない!
    アスランは恐ろしい判断力でスラスターを全開に、フェイントを掛けながらデスティニーに切り込みをかける。右手にはアビスのビームランス、左手には機動防盾を力強く掲げている。

    対してデスティニーの高エネルギー長射程ビーム砲は恐ろしい唸り声をあげる。しかしそれはただの遠吠えとなって虚空に消える。迸った大ビームはインパルスにかすりもしない。

    インパルスは突進そのままの勢いでビームランスの柄にスラスターの出力も上乗せしてデスティニーの右前腕部を強打する。所謂、『小手!』を薙刀の柄で打ち込まれたようなものだ。

  • 72二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 04:25:46

    レイ「くっ…!」

    デスティニーは打撃の衝撃を逃がしきれず、右手から高エネルギー長射程ビーム砲を取り落とす。アスランは一打目の後、タイミングよくスラスターを吹かせ、右腕を打った衝撃で跳ね上がったビームランスに荷重をかける。次の狙いはデスティニーの頭部、野球バットでフルスイングするように殴りつける。

    しかし、その瞬間、カメラが捉える光学映像に奇妙な現象が起きる。デスティニー本体から残像(?)が投影され(?)、そこを打ったせいでアスランの攻撃はインパクトが軽くなってしまう。

    その間に本物のデスティニーはインパルスから距離を取り、両腕をクロスし、両肩のビームブーメランのブリップに手を掛けようとする。

    ガナーザクファントム「させるか!」

    インパルスの後ろに回り込んだデスティニーの頭部目がけ、我らが切り込み隊のガナーザクファントムがオルトロス・高エネルギー長射程ビーム砲を発射する。その瞬間、デスティニーのビームシールドが展開され、せっかく的中した大ビームは弾かれてしまう。

    だが、それで十分だった。『今そこでビームシールドがビームを弾いている』こと自体が、『これは残像ではない』ことを証明しているのだから。

    フォースインパルスは再び推力のエネルギーを『槍の柄』に込め、振り抜きざまにデスティニーの『胴』を打つ。

    レイ「ぐふっ…。くぅ…」

    いや…。打撃を加えたのは胸部、コックピット前面だわ。ビームブーメランを掴むために肘を突き出しながらクロスした両腕と腹の間を通過させて、全力の加重を掛けたうえで!

    何にしろチャンスだ。畳みかけよう。

    アグネス「ショーン、デイル、ルナマリア、シン、やるわよ!」
    シン「りょ…了解?」、ショーン「はい?」、デイル「お…おう?」、ルナマリア「何を?」

    『やるわよ』では分からないか。

  • 73二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 04:34:52

    アグネス「縛り上げて、武器を取り上げるの!デスティニーから!」

    そう叫ぶと全力でスラスターを吹かして、デスティニーの背部に接近、右腕から引き出したスレイヤーウィップを振りかぶる。目標はあの大きな対艦刀-うん?この位置ならスラスター狙えるかな。

    途中、デスティニーが私達の急接近を関知しかける。間髪入れず、アスランが振りかぶった槍の柄でデスティニーの頭部をフルスイングし、一時的に光学映像とレーダーをダウンさせる。

    その隙に私は鋼鉄の鞭で敵機のスラスターに直接振動波を叩き込む。本来、私がやろうとした役回りはショーンが引き受け巨大な対艦刀をスレイヤーウィップで巻き取り機体から取り上げる。デイルとシンはあの厄介な両手のシールドが発動する前に左右の腕を鞭でグフグフ巻きにして反対方向に引っ張りながら高周波を流し続ける。

    ルナマリア「はい!よし!」

    ルナマリアは体操選手の要領で虚空を2回前方倒立回転してデスティニーの両肩からビームブーメランを抜き取る。

    アスランはビームランスの柄でひたすらコックピット前部をぶん殴り続ける。

    ドゴン! アスラン「レイ!やめろ!踊らされている!君も!」
    バッカーン! アスラン「聞けレイ!議長の言うことは確かに正しく心地よく聞こえるかもしれない!」
    ボッゴーン! アスラン「だが彼の言葉は、やがて世界の全てを殺す!」

    私も負けじと今度は打ち付けるのではなく、直接、スレイヤーウィップを先端からスラスター内に捩じ込んで振動波を流し込む。核動力なのに大丈夫かしら?

    アグネス「(その時は諦めるわ。皆一緒だ、怖くない。このアホを何とかしてあげないと目覚めが悪い)」

    アスランはコックピットノックを止める気はないらしい。インパルスはアビスの槍をもう1回振りかぶる。

    ボゴッ! アスラン「レイ!もうやめるんだ!」

    すると何やら小さな呟きがコックピット回線から漏れ聞こえる。言うまでもなく私達が向かえ討ち、助け出そうとしている大馬鹿者の声だ。

    レイ「はぁ…。ぐふっ…。そんな手は…俺に通じない。見苦しいですよ、アスラン」
    それを聞いて瞬間、私の中で何かが音を立てて切れる。こいつ許さん!

  • 74二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 04:41:36

    アグネス「見苦しいのはあんたでしょう!もう大概にしなさい。エルスマン博士に迷惑をかけるなとあれほど言ったでしょう!」

    コックピット回線に流れ込んだレイの声が余りに腹立つことを言うので思わず怒鳴ってしまったわ。もう少し優しくネゴシエーションするべきだったかな。

    レイ「はぁ…。うっ…」

    これはむち打ち症候群が酷そうね。まあ、勝手に脱走して出てきたのだから仕方ない。

    シン「レイ、ミネルバに帰ろう。博士には皆で謝るから」
    ルナマリア「もうここまでにしましょう。ね?」

    ちなみにガイアは今、デスティニーの両足を固めている。うーん。最新鋭機体の攻略法が数に物を言わせて殴る、武器を取り上げる、縛る、スラスターに直接、振動波を打ち込むとは何とも格好がつかない。

    アグネス「(恰好なんてつかなくても良い。人生は散文的なんだ。この政争の瞬間でさえも。明日は明日の風が吹くなら、今日、死なずに済む者が死ぬのは損と言うもの)」

    今、デスティニーのコックピットの中のレイはどんな気持ちなのだろう。おそらく打撲とむち打ちになっていることとアラート表示がいっぱいになっていることだけは分かる。

    ただ、どうか世界には自分と議長以外にも―あるいはレイ自身がこれまで出会った来た者たち以外にも素敵な人達が大勢いて、出会ったこともない人が自分を気に掛けてくれているかも知れないことは理解して欲しい。

    レイ「俺たちは…。消えなくては―。生まれ変わるこの世界のために…。在るべき正しき姿へと戻る…人は―」

    何か言っているけど、もう良いわ。怪我人と言い争っても仕方ない。が!我慢できないわ。

    アグネス「あるべき正しい姿って何?少なくとも私が産まれた時には世界は狂っていたわ。ここにいる皆、古き良き時代なんて知らない。それと―『生まれ変わる』ってね、母体の心配は無しですか?!」
    アスラン、シン「…」、ルナマリア「アグネス…」

  • 75二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 04:58:17

    あくまで言葉の綾だと分かってはいるが、つい指摘してしまう。別に私は女性代表でも何でもないが―。

    軽々しく生まれ変わるとか言わないで欲しい。転生願望に付き合わされて、そのたびにお腹を傷めなければいけないのだとしたら、世の母親が可哀想すぎると言うもの。

    レイの問題は既に早老症の治療・緩和にシフトしているのだから、話を混ぜ返されても困る。

    レイ「そうか…すまない…」

    そう一言、詫びてレイ・ザ・バレルは沈黙する。あれ?危ないかも―これは!

    アグネス「急ぎましょう。せっかく鹵獲して助けたのだから!」
    アスラン「ああ、急ごう!ミネルバに。『ミネルバブリッジ、デスティニーは鹵獲しました。パイロットはレイ・ザ・バレルと判明。戦闘の結果、おそらく重傷です。医療班は待機を』」

    ブリッジのグラディス提督はその声を7割の安堵と3割の危機感を持って迎える。

    タリア「分かったわ。直ぐに。まったく―。いえ、よく頑張ったわね」

    この段階でようやくシンとデイルは高周波振動波を流すのを止める。ただし、デスティニーの両腕は縛ったままだ。このまま連行する。ふと、周囲を確認するとガナーザクファントム3機が万一の時に備えてビームトマホークを構えてくれていた。デスティニーが序盤で手放した高エネルギー長射程ビーム砲も回収済み、偉い!

    ルナマリア「レイ…。しっかり医療班も駆け付けているからね」
    レイ「...」

    慎重に静かに皆でカタパルトに着艦する。それからデスティニーのコックピットを何とかこじ開けて見る。中では吐瀉物塗れでレイが唸っていたわ。半ば朦朧としている。

    アグネス「レイ、指動く?両手と両足」
    レイ「ああ…。何とか…」
    確かに動いているわね。良かった。助けたはいいものの全身麻痺にでもなられたら―心臓に悪いわ。

    アグネス「よろしい」
    無事、拘束されて医務室送りに、まったく、余計な手間取らせないでよ。

  • 76二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 07:50:32

    機体を破壊せずに中の操縦者にのみダメージを与える内破砕衝撃波(バーニングソニック)…これをくらってたちあがった者はいない

  • 77二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 08:42:18

    案外早い決着(?)になってよかったよかった
    しかしまぁ一時は議長に対して一歩引いた立ち位置にまで来ていたのにまた原作終盤のレイに近い言動に戻ってたのは何があったのか

  • 78二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 17:11:06

    戦闘描写見直してたら >>73の『鞭でグフグフ巻き』に気づいてツボってる

    単純な誤字なのか機体に引っ掛けたユーモアなのかどっちだww

  • 79二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 17:19:36

    アスラン:もうやめるんだ!
    アグネス:博士に迷惑をかけるなと言ったでしょう!
    シンルナ:ミネルバへ帰ろう!

  • 80二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 17:32:44

    アスランの説得がアスラン語全開で笑う

  • 81二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 19:03:36

    説得しようとはしているけど返答する間もなくコクピットに衝撃を叩き込み続けるアスランが容赦無さすぎて笑う

  • 82二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 19:54:39

    >>81

    アスラン「戦闘の結果、おそらく重傷です。医療班は待機を」

    散々殴っておいてコイツ…

  • 83二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 23:17:05

    一撃でも母艦が貰ったらおしまいだからね
    仕方ないね

  • 84二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 02:54:10

    デスティニーから助け出され、ストレッチャー上の人となったレイを私は車椅子に座って眺める。何だかなぁ。

    アグネス「健康になって欲しいと送り出した戦友が、敵になって襲い掛かって来たと思ったら、また病院送りに。もう何だか分からないわ」
    看護兵「そうですね…。本当に」

    ちなみにルナマリアはストレッチャーを謝絶して自分で歩いて医務室に向かっていったわ。元気そうで結構、本人の申告通り『重症ではない』のだろう。とは言え、我がモビルスーツ隊のパープルハート大隊ぶりは呆れるばかりだわ。

    シン「レイ…。あいつ、自分の事をまだそんな風に…。もっと前向きになってくれていると思っていたのに」

    横に停まる車椅子からは悲しみの籠ったシンの呟きが耳に入る。

    『俺達は消えなくては。生まれ変わるこの世界のために。在るべき正しき姿へと戻る、人は』が気に掛っているのか。

    要は『意義ある死を迎えたい』くらいの意味合いじゃない。戦争の途中から私もよく思い浮かべているわ。『もう私は生きているべきではない。それならせめて、祖国やより良い世界の礎になりたい』と。我ながら不健全だわ。

    悲嘆に暮れている暇もない。私の素直な見解を伝えよう。

    アグネス「怪我人の譫言よ。そう大袈裟に捉えるものではないわ」

    素面の状態での言葉ではない。勿論、あれもまた彼の本音ではあるのだろう。でも、人間の内面はどんな小説よりも複雑怪奇なもの。一人の人間の中に幾つもの正義と建前と本心があり、遥かに多くの欲得と下心と―本音がある。その中の一つに過ぎない。

    シン「そう…だよな?」

    私の言葉を聞くと、シンは私に縋る様な視線を送ってくる。まったく、私はあんたの母親ではないというのに。

    アグネス「間違いなくそう思うわ。良い?あいつのメンタルは今夜人生最悪。慕っている養父は破滅の瀬戸際、自分の体も治療中、病院を脱走して強引に機体も持ち出して―後に議長から追認命令は得たのだと思うけれど―、世界で一番追い詰められた人間の一人だったわ」

  • 85二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 03:03:14

    あるいは追認命令を受ける際に、議長に仕様も無い言葉を含まされたのかも知れない。けれど、それも大した問題ではない。私の結論は変わらない。

    シン「追い詰められて…本心が出たってことは無いよな?」

    対して、まだシンはグチグチ考え込んでいる。しっかりして欲しい。病人が父親の危機を知り、更に怪我をして溢した愚痴に本気で取り合っている時間は私達にはない。

    看護兵さんを見上げて合図し、車椅子をシンの対面に移動してもらう。彼としっかり目線を合わせて話すためだ。

    シン「アグネス?」
    アグネス「シン、良い?一般論としてね。追い詰められた時に出るのは、その者の本心ではない。『追い詰められた心』が出るだけよ。違う?」

    無論、危地にこそ人間は真価を試されるものではある。私達は試練の最中だ。けれど、それは己に課すものであって弱った人に求める物ではない。

    シン「それは…。でも、レイは―」
    アグネス「レイはクローンだから?特別な事情があるから、だから何?」

    そう言ってシンを睨みつける。

    目的を圧しつけられてこの世に生まれた人間は何も彼だけではない。世継ぎの為、国の為にと生まれた王子・王女もいるだろう。同じく家門や家業や家芸の継承のために儲けられた子供もいるだろう。

    そうして、産んでおきながら、勝手に『出来損ない扱い』を受けた人だって世界には大勢いらっしゃるはず。

    あいつは同情してくれる人間も『出来損ないじゃない』と言ってくれる仲間もいっぱいいる、幸せ者だ。

    アグネス「レイの早老症は病気の問題として分けて考えるべき。あいつにも前も言ったわよ。だからね!私は、腹は立つけど、彼をこの件でこれ以上責めようとは思わない。腹が立つけれど。くぅー!とんだ災難だわ。この時間的ロス、ミーアのシャトルに先を越されたかも!」

    話しているうちにボルテージが上がって来た!そんな私を今度はシンがまあまあ、と宥める。

  • 86二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 03:07:02

    シン「思いっきり責める気だろ…。駄目だからな。それにファウンデーション王国のアルバレスト親衛隊員は未だ後ろだろうから―」
    アグネス「そっちは『本命』じゃないわよ!」

    そんなことを言い合う内に段々、シンが―いや、私自身も―本調子を取り戻す。やっぱり、味方同士で戦うのは相当なストレスだ。不殺戦法も心身を疲弊させる。メンタルを整える必要自体はあった。これで次の山場に集中できると言うものだ。

    そろそろ切り上げるとしよう。そう思ったタイミングで、背後から、おずおずと声が掛かる。

    アスラン「その…。アグネス、メイリンとジェセック評議員が呼んでいる。ミーアの件も合わせて。一緒に士官室に行こう」

    声の主はアスランだ。どうもこの人は異性相手には少し遠慮がちに成ってしまうらしい。ともあれ、議会側でミーア対策の協議が纏まったのか。

    アグネス「了解。ありがとうございます。向かいましょう」
    アスラン「ああ…」

    首を動かせないから、アスランの表情は見えない。ただ、彼の声音にも多少リラックスした感がある。私達の会話を盗み聞きして思う所もあったのかもしれない。

    アスラン「シンは少し休め。直ぐに新しい命令が出るかもしれないが…。気になるなら、明日直接、レイに聞け」
    シン「分かりました!」

    返事と同時にシンはアスランに敬礼する。その間に私の車椅子は方向転換、看護兵さんのお世話になりっぱなしだわ。

    シン「アグネスも頑張れよ」

    車椅子の回転が終わる段になって背中に同期の応援を受ける。あんたも頑張るのよ。

    アグネス「ありがとうね。じゃあ、偉い人とお話しして来るわ。何か放送があるかもしれないから、注意しておきなさい」

    と言うか、間違いなくあるはずだ。作戦会議通りに事が進んだならね。

  • 87二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 03:34:10

    >>78

    両方です。


    『ぐるぐる巻き』と言う言葉が何故か『ぐふぐふ巻き』と脳内で錯覚されてしまい、それなら、「『ぐふぐふ巻き』を『グフグフ巻き』とすれば洒落が効くな」と思いました。


    次の日になって元の言葉が『ぐるぐる巻き』と書くことに気が付いて。


    脳内の話し言葉を脳内で文字起こしした際に錯覚が起こり、ユーモアを効かせたい気持ちがそれに合わさってその表現になりました。

  • 88二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 07:57:38

    保守

  • 89二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 15:27:23

    ほっしゅ

  • 90二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 15:37:51

    DPのこと分かんなきゃレイの言葉の真意そりゃ分からんわな

  • 91二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 23:01:27

    >>90

    議長が暗躍して折れない理由

  • 92二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 01:43:11

    アスランと共に士官室へ高速早歩きで向かう。より正確に言うならアスランと看護兵さんが高速早歩きをしている。私は車椅子から振り落とされないよう必死だ。

    アグネス「もし電動車椅子があれば自分で操作して…」
    看護兵「ありません!本官が知る限りでは、アプリリウスで探しましょう!」
    アスラン「重傷者が長期乗艦していることは基本ないから…。今後の事は後で」
    アグネス「はい」

    確かにそれもそうだわ。軍艦は本来、病院でもリハビリ施設でもない。贅沢言っている場合じゃないわね。

    士官室の扉を開けるとジェセック評議員の顔が覗く。

    バッ!ザッ!
    アスランと看護兵さんと一緒に3人、背過ぎを伸ばして敬礼する。ジェセック評議員も即、返礼して下さる。彼の反対側にはメイリン、テーブルにはデバイスが2つ広げられている。リモート会議の準備はばっちりと言う事ね。

    私をテーブルの定位置に付けた後、看護兵さんは気を利かせて退出してくれる。メイリンはカタカタと2つの業務用デバイスを操作し、アプリリウスの最高評議会ビル内会議室と駐ブリュッセルプラント大使館内執務室に繋げる。

    二つの画面が灯ると向こう側にカナーバ前議長とジュール前評議員を含む10名の最高評議会議員組が勢揃いする。再びアスランとメイリンと一緒に敬礼をし、彼らの返礼を受ける。

    そのタイミングで私はアスランに目配せをする。先任は彼だ。譲るべきだろう。早く口火を切って欲しい。

    アスラン「うん…。えぇ…と」
    やっぱり、自分で言うわ。時間がない、失礼は承知だ。

    アグネス「会議を始めましょう。一刻千金です」

    私の言葉に最初に反応したのはシュライバー国防委員長だ。表情を見るに彼は先の会戦の戦果にご満足して下さっているらしい。

    シュライバー「本当に皆ご苦労。戦闘を無血で解決するとは!」

    相変わらず調子が良い。でも、ありがたいわ。機嫌の良い今の内に上申しておこう。

  • 93二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 01:55:24

    アグネス「お褒めに預かり光栄に存じます。さはさりながら、同軍合い討つ結果になってしまい、我らとしては痛恨の極みです」
    シュライバー「う…む。それはそうだが―」

    グラスゴー隊やレイとの戦いは私達にとって不名誉な戦い、功を誇ることなどできない。だからこそ絶対にお伝えしたいことが有る。

    アグネス「国防委員長閣下、私達と干戈を交えるに至ったグラスゴー隊も特務隊レイ・ザ・バレルも、国家の指導陣が分裂し、相矛盾する命令が下された中での行動です。どうか、彼らに寛大な処置がなされ、理不尽な処分が下されることなきよう平にお願いいたします」

    どうかこれだけは―政変鎮圧前で些か気が早いお願いかも知れないが、どうだろう?

    シュライバー「おお…。無論、我らもそのつもりだ。ライトナー、カシム両最高評議会議員もそれでよろしいか?」
    ライトナー、カシム「異議なし」

    見回すに彼ら彼女らのみならず、他の方々も特に異存はなさそう。良かった…。今の内にコンセンサスを作っておかないとね。アプリリウスでも一戦有るかも知れないわけだし。

    アスラン「それで、ミーアの件はどうなりましたか?」

    隣でアスランが重い口を開く。この会合の本題だ。彼女の正体を周知し、議長の策謀に利用されるのを阻止しなければいけない。その上で彼女を救出・保護する。

    アグネス「(ただ、救出作戦には彼女の協力が不可欠。正体を明かされて意地になるかも知れない。それが今は何より怖い。不慮の事態で私達は負けるかもしれない。大勢の民衆が巻き込まれるかもしれない)」

    だから、できる手はすべて打っておかなければ。それには偉い人たちの助力が居る。

    私達が必死に戦う中、そちらの『戦線』はどうなったのか。

    カシム「まず、立法委員長兼60人議会議長の私からお話しする。君達と話した後、私達はカナーバ前議長以下、リモート参加者も含め10名の連名で60人議会に以下の5点を報告、説明した」

    そう言って、アラブの血を引く青年評議員は几帳面に手元の資料を捲りあげる。

  • 94二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 02:18:00

    カシム「一つ『C.E.73年11月以降に各メディアに出演しているラクス・クラインの正体はプラント国民ミーア・キャンベル嬢である事』。
    二つ『彼女をラクス・クラインの身代わりとする案はデュランダル最高評議会議長が他の国家機関の同意を得ず独断で実行したもので、他の最高評議会議員は関知していなかったこと』。
    三つ『デュランダル議長はキャンベル嬢に対し、今プラントに居住していないラクス・クラインの一時的代役を務めることを依頼し、彼女はそれを【プラントや世界の平和のため】に善意に基づいて快諾した事』。
    四つ『デュランダル議長はそれらの経緯について最高評議会と60人議会に遅滞なく報告・説明する義務があった事」

    カシム評議員のご報告を漏らさず聞きながら咀嚼する。『議長の失点は何か、何が不正・不法と言えるのか』それは、あの開戦日、一世一代のパフォーマンスを打たせたことではない。

    その前と後が問題なのだ。事前と事後の報告を怠り、定められた手続きを無視して公権力を行使した。加えて―。

    カシム「『加えて、議長は真実を公表ないし露見した後のプラント国民と友好諸国国民の感情への配慮方法、ラクス・クライン嬢とミーア・キャンベル嬢の今後の尊厳ある人生の保証方法等について必要な処置を、他の最高評議会議員及び国家機関と共同して計画し講じる義務があった事』
    五つ『上記にも拘らず、彼はそれを怠り、その後も事情を秘して、彼女を自らの政治的パフォーマンスに利用し続けた。これは公共の利益のための必要最小限度を超えたラクス・クライン嬢とミーア・キャンベル嬢に対する明確な人権侵害であり、プラント国民への背信行為と断ぜられても仕方のない』以上だ」

    カシム立法委員長のお話を私達は相槌を打ちながらお伺いする。60人議会への『今のラクス=ミーア・キャンベル』報告は必須である。それが、私達が前回の会合の終盤で導き出した結論であった。開戦日からの『ズレ』を正し、議長のラクス利用の選択肢を潰しておかなければいけない。

    アグネス「60人議会議員の皆さまは納得していらっしゃいましたか?」
    カシム「それは…」

    カシム立法委員長が少し言い淀む。その脇からホワイト評議員がお知らせしてくれる。

    ホワイト「あの後、『ミーア・キャンベル』というプラント国籍者を最高評議会ビルのコンピューターで検索、捜索したが発見できなかった」

  • 95二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 02:34:20

    やはりか。議長がそんなヘマをする筈が無いとは思っていた。

    ホワイト「アスラン君の言う通りなら、入れ替わり前の彼女の歌手活動の記録が全く存在しないわけはないのに。議長が念入りに消去したとしか思えない」
    アスラン「議長は頭が良いですから…」

    実のところ今回の60人議会への報告は確たる証拠があるわけでは無い。

    『結局、根拠のない陰謀論を吹聴しているだけでは?』『最高評議会議員が揃って騙されているだけだ』そう言われたとして、反論することは容易ではない。

    ただ、こちらには切り札が居る。腹立たしいことだが…。

    カナーバ「彼女がラクス・クライン本人ではないこと、私が証言した。ただ、オーブの一件は伏せてある。議員の皆も、一応、納得してくれたものと思う」

    そう、この女こそ、最強の証人だ。信憑性が段違いであり、そもそも木っ端議員がどうこう言える存在でもない。

    アグネス「ご苦労をおかけしました。事情をよくご存じであろう前議長の証言は信頼に値する、と多くの議員が確信したはずです」

    カナーバ前議長と私の遣り取りを聞いた周囲の人達も各々肯いている。

    それと―今、前議長が言ったように、今回の60人議会報告に『ラクス・クライン暗殺未遂事件』は含めなかった。こればかりは表沙汰になっては困るのだ。少なくとも当面は。

    エザリア「この件を我らはこれから発表する。議長のクイーン(女王)を先手を打って取り上げる。これでキングを守るのはポーンしかいない」

    そのポーンつまり議長の支持者もすごく厄介なのだけれど、今は良い。

    アグネス「ミーア・キャンベル嬢の法的免責と保証についてはどのようになりましたか?」

    ある意味これが今回の肝だ。

  • 96二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 02:43:27

    アグネス「(逃げ道を失くせばミーアは暴走するだろう。下手をしたら自分はパブリックエネミーだ。そうなればもう議長の言いなりでも鉄砲玉でもなるしかなくなる)」

    私達としても、彼女の身柄を捕えない限り、その正体を確定させる方法がない。議長には強固な支持者が付いている。ああいう輩は明確な証拠があっても現状認識を拒否するもの。

    曖昧な根拠なら言うまでもない。
    彼女のためにも自分たちのためにも、ミーアに『投降する』という選択肢を残して置いてあげないといけない。半監禁状態ともいえるから、そちらはそちらで手を打たなければいけないけれど。

    私の質問を受けて、カシム立法委員長が律儀にお答えくださる。

    カシム「まずキャンベル嬢の身分について。C.E.73年11月に遡って今日に至り、なお当面の間。彼女を『みなし公務員』とする旨、60人議会で議決した。
    理由としては、彼女の芸能活動は、始まりこそ議長の独断であったとはいえ、高度な公共性を有し、プラントの国益につながった面もあること。キャンベル嬢自身はこの活動の依頼を自国の国家元首からの正規のものであると認識した可能性が高いことが上げられる。特に前者が大きい」

    開戦時に沸騰したプラントの世論を静め、その後も不毛かつ陰惨な報復合戦に繋がりかねなかった今大戦をギリギリの一線で留め続けてくれた事。これは特筆するに値する。

    カシム「そして彼女の刑事的・民事的・行政的責任について。『ミーア・キャンベル氏が公務・準公務として行動する間に行った経歴詐称、著作権侵害その他一切の違法行為は不問とする。なお此れに拘束下から抜け出るまでの期間も含めるものとする』と60人議会は決定した。この間に彼女が成した言動で、もし将来、損害賠償責任が問われるなら、プラント政府がそれを肩代わりして、彼女には請求しないこととした」

    良し。先ずは最初のハードルは超えた。真っ当に生きる道が無いなら、今の暗黒ロードを進むしかなくなってしまう。それは誰のためにもならない。

    アグネス「正しい配慮であると確信します。彼女の功績は大きく、またミーア自身も議長の欺罔行為の被害者であるという側面は軽視するべきではありません」

  • 97二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 02:54:57

    ここまで来たら、最後にもう一押し。彼女を『闇落ち』させない為には―私達への敵対行為を心理的に抑止するには―もう一工夫が居る。彼女の働きに社会が報いるべきなのだ。

    そちらはどうなったのだろう?

    チラッとライトナー評議員に視線を送ると 彼女は残念そうに首を振る。やはり難しいか。

    最後のもう一工夫、それは彼女の承認欲求、報酬欲求を満たしてあげることだ。実際それだけの事をして来たのだから。これからも十分、果たして行けるのだから。

    そのことを初手で先ず示して見せる。何だかんだとあの歌声は脅威だ。『ラクスの看板』が大きすぎる。歌わせて、話させて、『偽物なんて話はデマだ』と何十何百と言い続けさせれば現実がひっくりかねない。

    アグネス「(でも、60人議会だけの権限で彼女に褒章を出すことは容易ではないわね。最高評議会も開けて、最高評議会議長ないし代行が機能しない事には難しいか―)」

    それにどの褒章なら条件に適合するのか、と言う問題もある。うーん。

    そう半ば諦めていると―我等が国防委員会、エアーマン4人組、彼らが何やら得意げな顔をし始める。何だろう。

    シュライバー「ゴホン!私達、プラント国防委員会は、その名において、ミーア・キャンベル嬢の当委員会に対する、他の者を遥かに上回る並外れた貢献と奉仕を称えて『ザフト軍優秀民間人功労勲章』を授与することを決定した。タイミングを合わせて発表しよう。これで議長との間に楔を打てるかな?」

    ほう、いい案じゃない!勿論、『ラクス様の勲章』としては少し軽い。しかし、国防委員長がその権能で、ザフトに貢献した民間人に出せる勲章としては最上位と言える。

    アグネス「素晴らしいと思います。これを以て国民とキャンベル嬢に呼びかけましょう」

    『プラント国民よ。そのラクスは本人ではありません。議長が邪な計算も込みで独断で選んだ替え玉です。しかしながら、彼女の善意は本物、その心根とこれまでの功績をプラント政府も高く評価して報いたいと思っています。ミーア・キャンベルさん、私達は味方です。今までありがとうございました。どうかこれからも共に頑張りましょう―』と

    ただ、ここまでは下準備、いざミーアがアプリリウスに来たら、あのマネージャーから救出作戦も決行しなければいけない。

  • 98二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 12:02:52

    ほしゅ

  • 99二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 19:03:34

    プラントの表彰もいいが、ラクスが認めてあげるのも効きそう(スパロボ脳)

  • 100二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 01:19:41

    このタイミングで艦内放送が室内に響く。

    アビー「ザフト軍事ステーションに後、15分で到着。ただし、宇宙港は修復中。デスティニーの攻撃による死傷者無しは確定とのこと。先行した月軌道艦隊のナスカ級3隻もレーダーで確認。スラスターは破壊されるも艦内生命維持に支障はない…」

    はぁー。良かったわぁ…。

    アビーの報告、『艦内生命維持に支障がない』で思わず気が抜けそうになってしまう。実は続報で、もしもと、思う気持ちもあった。結果的に月軌道艦隊の仲間は皆無事で、レイは『戦友殺し』にならずに済んだのだ…。

    ミーア周りの事が固まったことに加えて、私にとっての『朗報』が舞い込み、心と体がふにゃふにゃする。

    アスラン「良かったな。本当に」
    アグネス「ありがとうございます」

    その情けない有様を見ても、アスランは私を咎めはしなかった。むしろ軽く微笑んで優しい声を掛けてくれる。嬉しい心遣いだわ。反射的にお礼を言ったのだけれど、もっと心を込めれば良かった。

    ただ、画面の先の人達にとって、これは『悲報』だ。

    シュライバー「やはり、ザフト軍事ステーションと月軌道艦隊先行ナスカ級は無理か?」

    国防委員長は何処か縋るように私達に声を掛けてくる。こちらには実感がないが、アプリリウスの最高評議会ビルは数万のデモ隊に包囲されている。その心理的圧力たるや半端なものではないだろう。

    アスラン「ステーションに関しては非常時の出入口があるはずです。必要とあらば、そこからジュール隊を出撃させられると思います」
    シュライバー「だが、艦が―」

    弱気なシュライバー国防委員長を今は責める気には成れない。外部からの援軍の見込みのない籠城戦は悲惨なものと相場が決まっている。当初の見込みよりその規模が縮小しそうになっているのだ。それは焦るわよ。

    アグネス「国防委員長、それも含めて、ブリッジのグラディス提督とご相談ください。回線は使用可能です。-もし、プラント内の戦闘となった場合の武器使用の強度に関しても、今の内に」
    シュライバー「おお…。そうだな。では、私達はそろそろ」

  • 101二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 01:26:42

    シュライバー国防委員の目配せに他の評議員達も頷きこのミーティングはお開きになる―そう思った矢先、会議室のドアが乱暴に開けられ、黒服の副官が室内に駆け込んでくる。

    ライトナー「どうしましたか!何か状況に変化が?」
    黒服副官「報告!アプリリウス宇宙港がデモ隊に占拠されました。現場の司法局員は抑え切れず…。辛うじて軍港機能は死守しています」
    ライトナー「そうですか…」

    相当な痛手の報を前にライトナー評議員は表面上、落ち着いている。あのデモ隊の規模だから、想定はしていたのだろう。一方、私の横にお座りのジェセック評議員は顔を赤くしたり青くしたりしている。司法委員の彼にとってこれはあり得るべからざる事態だ。

    とは言え、ここでどうこう言っても仕方ない。黒服副官に問うべきことは問う。

    アグネス「特務隊アグネス・ギーベンラートです。司法局員に被害は?」
    黒服副官「司法局員は重軽傷者5名、死者は今のところ出ていない。港湾施設に突入してきた抗議者たちにも負傷者が、ただこちらは詳細不明だ」
    アグネス「分かりました。この件は直ぐにもグラディス提督に。メイリンお願い」
    メイリン「はい!」

    メイリンが室内通信機でブリッジに急を告げる声、このタイミングで宇宙港が狙われたと言う事はいよいよミーアがアプリリウスに到着すると言う事。

    本当にもう時間がない。チラッとジェセック評議員に視線を配り、了承を得る。

    アグネス「ライトナ最高評議会議員、そして皆様に不躾ながらご提案します。今回の会合はここまでとして、次の行動に直ぐに移りませんか?」
    ライトナー「ええ!皆さん、いかがでしょう?」
    カナーバ、一同「異議なし」

    あれ?ジェセック評議員に言ってもらった方が良かったのでは?もう良いや!時間がない。

    私とアスラン、メイリンで揃って敬礼、彼方側とジェセック評議員も返礼して下さり、何とかこの会合を終える。2つのデバイスの画面が墜ちた瞬間、思わず、『疲れたー』と言いそうになってしまう。

    まだ、何も解決されていないと言うのに。

  • 102二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 01:44:10

    アスラン「これから、どうなると思う?」

    横に座るアスランからは最もな疑問が投げ掛けられる。これはまた、難しい質問だ。行き当たりばったりに展開する政変程、予測が難しいものはない。

    ただ、直近の味方の動きは分かるので整理してお答えしよう。

    アグネス「最高評議会議員の皆様は次の行動を開始為されるでしょう。ここで言う次の行動とは―ライトナー、カシム両評議員とカナーバ前議長、ジュール前評議員の4名は『ラクス=ミーア問題』について放送し、国防委員会は今後の事態に備えグラディス提督とブリッジで回線越しに打ち合わせなさる、と言う事です」

    アスランにそう伝え終わるとジェセック評議員にもアイコンタクトを送る。彼はそれに肯き、付け加える。

    ジェセック「私はミネルバから司法局の指揮だな。圧されているらしい。悪いがここは下がってブリッジに向かう」

    アグネス「はい。ご武運を、文民にも言ってよろしいでしょうか?」
    ジェセック「ははっ!難しい問題だな。でもありがたく受け取っておくよ」

    そう言うや、隣の紳士はスクっと立ち上がり、足早に士官室のドアに向かう。ドアを出るに敬礼すると、気配を感じた彼は振り向いて私達に返礼して下さる。

    ジェセック「皆ご苦労、少し休んでくれ」
    アスラン、アグネス、メイリン「はい」

    自動ドアが無味乾燥な音を立てて閉まった時、ようやくさっき喉元まで出かかった言葉を発せられる。

    アグネス「正直、疲れました」
    アスラン「ああ…。そうだな。君は休め、と言えなくて済まない」

    そう言うと彼は私の負傷部位を痛々しいものを見るように眺める。まあ、痛々しいのではなく、痛いのだけれどね。今、私が平気な顔をしていられるのは鎮痛剤と抗炎症薬の賜物だわ。

  • 103二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 01:58:13

    先輩が私に気を使ってくれるなら、私は年下に気を使うべき。

    アグネス「いいえ…。メイリンは大丈夫?」

    とは言え、彼女は同期、失礼に当たらないかちょっと心配だわ。ちょっと言った先のメイリンに視線を向けると彼女は困った表情を浮かべている。私に対する悪感情ではないようだけれど、どうしたの?

    メイリン「アグネスさんにそう言われると…。ね?」
    アスラン「ああ、『大丈夫でない』とは言い辛いな」

    私を飛ばしてアスランとメイリンが同調し合っている。二人の息が合うさまは何か面白い。

    アグネス「フフフ…、そうですか。なるほど…」

    つい笑みを溢してしまうとそれを見た二人も何やらちょっと笑い出す。

    アスラン、アグネス、メイリン「フフフフ…」

    なんとも能天気なものだ。自分で笑いながらそう思う自分もいる。

    アプリリウスの宇宙港は半分デモ隊に占拠され、ミーアの首都到着は間近、或いは終わっているかもしれない。デュランダル監督渾身の一作、『歌姫の帰還』の演出準備は整ったと言う事。私達がミーアの正体等を公表した先として、その先どう転ぶか見当もつかない。

    それなのに私達は艦内で笑いあっている。でも『激動の時代』の実態は、まあ、こんな物なのかも知れないわ。
    メイリン「ちょっとお茶入れますね。アグネスさんは…」
    アグネス「私は白湯で。ありがとう」
    メイリン「いえいえ」

    もうすぐ、ライトナー評議員、カシム評議員の発表が艦内放送で流れるだろう。無論、アプリリウス市内でも。
    ミネルバはザフト軍事ステーションの非常時出入港が無事なら陸戦隊を迎えて増強、もしかしたらジュール隊も艦に乗り込むかもしれない。私達は今は台風の目の中にいる。

    アグネス「(それなら、その平穏さを少しでも嚙み締めよう。この微かな幸せに乾杯!)」

  • 104二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 09:21:40

    かんぱーい!

  • 105二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 09:33:59

    サンダーボルト時空・CE「「互いの悲劇の融合にかんぱーい」」

  • 106二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 17:42:09

    保守

  • 107二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 00:27:03

    議長もしぶといなあ…というかこうなったらもう正当な手段で議長を解任するの厳しそうだな

  • 108二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 00:48:44

    白湯を啜り終わる頃、ミネルバはザフト軍事ステーションの非常時出入港に接舷する。ここが最終準備ポイントとなる。どのように調整なさるかはグラディス提督の裁量ではあるが、少なくともガズウート隊は別機種に入れ替えるべきだろう。心強い存在だが、火力が高すぎて、アプリリウス内では少し持て余す。

    アーサー「全艦に告げる。これより、最高評議会ビルより重要放送がなされる。各員可能な限り聞くように!」

    いよいよか。耳をダンボにして艦内放送に備え、左右のアスラン、メイリンともアイコンタクト。心の準備良し!

    ライトナー「私はプラント最高評議会議員ルイーズ・ライトナ―です。先ほど、我等、最高評議会ビル内の6名及び外部の2名の最高評議会議員並びにオブザーバーとして参加いただいているカナーバ前議長とジュール前最高評議員は一つの結論に達しました。また、その決定に付随した決議を60人議会は採択しました。カシム立法委員長から、その仔細を―…、ザザッ…-ザザァー―」

    雑音で途切れる艦内放送、これは!前にもあった。

    大急ぎでデバイスを再起動してアプリリウスとも回線を繋ぐ。各放送局の画面に砂嵐が吹き荒れ、出演していたであろうライトナー評議員とカシム立法委員長、カナーバ前議長とジュール前評議員のお顔を覆い隠している。

    アスラン「何が起きた?!」、アグネス「これは…、おそらく」

    電波ジャック!前大戦の頃からお馴染みの手法、それを駆使していた派閥は―。

    デュランダル「私はプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルです。公共の電波をお騒がせして申し訳ない。しかし、どうか、平和を愛するアプリリウスの、そしてプラントの皆さん、私の言葉を少しの間で構いません。お聞きいただきたいのです」

    『お聞きしたくありません』と言ってやりたい。デバイスモニターに映る黒髪の長髪、この鉄火場の中、あの男は涼しい顔で口元に微笑みさえ浮かべてみせる。やはり傑物であることは間違いない。

    メイリン「アグネスさん…!?」
    アグネス「しっ!大丈夫、落ち着いて」

    さぁっと顔色が青褪めかけるメイリンを宥めながら、アプリリウスの詐欺師を睨みつける。

    放送の乗っ取りからの自派の宣伝工作、クライン派の十八番だわ。そしてデュランダル議長はその奇形児。親から伝授された技はとことん使い倒す気なのだろう。

  • 109二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 00:57:17

    それで、いまさら何を語り掛けるつもりなのか?

    デュランダル「最高評議会議長として、この国の国家元首として、この一晩の変事により、市民生活に多大なご迷惑をお掛けしていること、大変申し訳なく思います。そして、私は国民の皆様と二人の淑女に謝罪しなければなりません。今、我らと共に、この新たなる戦いに心を痛めて、早期の終結を願って行動してきた『ラクス・クライン』。我らのよく知る彼女は―血統上-シーゲル・クライン元議長のご息女ではありません。その意味では、彼女は偽物です」

    『偽物』と言う言葉が撞木となって頭蓋を打ち付ける。

    この衝撃、半分は先を越されたと言う焦りが原因だ。士官室の回線から、ブリッジのグラディス提督の顔が映り込む。

    タリア「やられたわね!」
    アグネス「はい。『どうせ相手に指摘されるなら、自分から』と言ったところでしょう」

    秘密を他者から暴露されるのと、己で開示するのでは訳が違う。こちらの動きを察知したのか彼のセンスか。何にしろダメージコントロールに動かれてしまった。

    ジェセック「苦し紛れの策だ。議長は自爆したも同然だ」
    アグネス「確かに、そう思います」

    割り込んできたジェセック評議員に返事を返す。『自分で言ったからノーカン』で全部通るほど、世の中は甘くない。『やましいところがある』と彼は自白したのだ。問責決議には十分値するはず。

    アグネス「(でも―もう半分は?私は何を動揺しているの?ミーアが替え玉であることは最初から分かっていたのに―)」

    アスラン「偽物…」、メイリン「そんな言い方は…」

    そうだ!
    本物なら全て正しくて、偽者は悪だと言うのか。これまで彼女が成してきた業績自体は本物であっただろうに―と。ああ、そう思考を誘導すること自体が議長の狙いか!

  • 110二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 01:10:39

    デュランダル「C.E.73年10月3日、私はこの世界が容易ならざる状況に陥ったことを理解しました。地球の人々から沸き起こる憎しみと怒り、その矛先となるであろう我々コーディネイターの戸惑い。新たに始まるかもしれない憎しみの連鎖。その前に私の力はあまりにも小さいものでした。
    私だけでは足らなかった、この難局を乗り越え、皆さんの平穏な暮らしを守るには、かの平和の歌姫『ラクス・クライン』のお力がどうしても必要でした。しかし、当の彼女はユニウス条約締結後、舞台から姿を消し、その座を空席に。避け得る悲劇から無辜の人々を守らんがため、非常の手段を選択する必要に私達は駆られていました」

    『私』なのか『私達』なのかはっきりせい!

    かつての君主は『myself』の代わりに『ourself』を用いたと言うが、議長は違う。この場合、聴衆にとって『私』『私達』『国(政府)』と言った使い分けは要注意だ。

    手柄を誇る時、人は『私』と言い、不祥事を起こしたときは、『私達』ないし『我が社』等と言うもの。それでなくともこの男はこれまで巧みに私と私達を使い分けてきた。

    デュランダル「プラントの―いや世界の人々にとっての―『ラクス・クライン』は、常に正しく平和を愛し、しかし必要なときには私達を導いて共に戦場を駈けてもくださる方。
    ブレイク・ザ・ワールドの下にこそ、そのお力をお借りしたい。しかし、そうした要請を行う術を私は持ちませんでした。そんな時、私はとある筋から、ラクス・クラインと歌手として同等の力量を持つ者が存在することを知りました。私は彼女に、『ラクス・クライン』として彼女が後にした席に座り、プラントと世界のためにもう一度、歌い、語り掛けて欲しい、そうお願いしました。権力者ではなく、世界をより良きものへと願う一人の人間として」

    議長がペラペラ話しているので、取り合えず突っ込みを入れよう。

    アグネス「時系列に無理があるわね。もしそれが本当なら、議長等は10月3日、いや、墜ちた後からなら4日以降か。そこから、ラクスとほぼ同一の声帯を持ち、かつ歌唱力に優れた、そんな好条件の女性を探し出さなければいけない。勿論、それで終わりじゃない」

  • 111二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 01:22:57

    そこがスタートライン、『ラクス・クライン』マネジメントには幾つものハードルがある。軽く考えるだけでも―

    アグネス「顔面の整形、歌と演説のトレーニング、衣装や舞台準備等。もっと前から準備していたのでなければ説明が付かない。馬鹿でも気づく嘘だわ。それこそ、ユニウスセブンが落ちることを最初から知っていたかのようにね!」

    腹立ちまぎれに独り言を発したところ、隣から情けない声が上がる。

    アスラン「済まない…」

    隣で聞いていたアスランに流れ弾が命中してしまったわ。横目で見ると、心臓にグサッと刃物を突き刺されたような顔をしている。

    アグネス「違います。そういう積もりでは…」

    ちょっと、今のは違う!いや、同じか。本当、あのあたりの彼の行動は浅はかだったわ。

    ただ、それだからと言って窮地に陥っていた若者に付け入って良い道理はない。アスランの過失が1だとするなら、このワカメ髪の割り当ては10000ぐらいある。

    デュランダル「この善意の女性こそ、今の『ラクス・クライン』こと、ミーア・キャンベル嬢です。
    この世界のどこかで、悲劇の連鎖に心を痛めていらっしゃるラクス様の黙認と婚約者である特務隊アスラン・ザラの厚意の下、私達のラクス・クラインはその翼を羽ばたかせ、傷つき疲れた人々を励まして回ってくださいました。
    彼女のおかげで世界は本当に救われた、私はそのことを決して忘れません。どうか皆さんもそのことは絶対に忘れないであげて欲しい、そう願います」

    アグネス「(何、いい話に持って行こうとしているのよ。これそういう話じゃないから…)」

    しかし街頭でデモに加わり、あるいは宇宙港を半分不法占拠した者たちにとっては細かいことはどうでも良いらしい。

    デモ隊「デュランダル!デュランダル!デュランダル!デュランダル!」
    デモ隊「本物のラクス様も今のラクス様も愛しています!」
    デモ隊「一緒に謳って下さい!」

    ちょっと、え…。怖気がするわ。皆、大丈夫?突っ込みどころ有りまくりよ、今の話。

  • 112二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 01:27:30

    時系列の不信もさることながら―。

    最高評議会への事前ないし事後の報告義務違反、急場をしのいだ後も『替え玉』を運用し続けたことの是非、ミーアとラクス本人へのアフターケアの欠如と事態をソフトランディングする努力の懈怠。挙げればきりがない。

    アグネス「第一、政変の真最中、このタイミングで真相(嘘)を話し始めた時点で語るに落ちたと言うものでしょうに…」
    メイリン「人は信じたいものを信じるものですから。教祖のお言葉、表面上の筋が通っていれば、騙されてしまうのかも」
    アスラン「騙された振りをするの間違いでは?」

    些か辛辣なアスランの口調に私は半分同意、半分は不同意だわ。

    あの連中、最後まで信じ込んでいるかもしれない。『足を引っ張ってばかりの議会に虐められている議長可哀想。真実を知っている私は最後まで彼と一緒に戦うぞ』と。

    それでも、街頭にまで出て我が身を危険に晒して行動している者達は、匿名中傷攻撃とかする輩よりマシと考えるべきなのか?

    アグネス「(どっちも変わらず鬱陶しいわ。変に行動力ある分、デモに繰り出している連中の方が怖いかも。宇宙港での衝突をこれ以上、拡大させるべきではない。最悪の場合、アプリリウスの物流がストップするわ)」

    そんな私の心配を他所にモニターの向こうの腹黒議長は手前勝手な話を続ける。

    デュランダル「無論、私の振舞いはどのような理由を付けようと二人の女性に対する重大な人権侵害であり、最高評議会と60人議会への報告義務違反でもあります。また、このような振舞いが最高評議会、60人議会議員の皆さんの不興を買う原因になった感も否めません。彼らが言う所の政府と軍のガバナンス不全についての心配も一理あります。そこで、最高評議会ビルの皆さんにご提案します」

    ここで提案ということは『和平案』の提示か、はたまた最終勧告か?

  • 113二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 01:48:13

    デュランダル「一つ、最高評議会議長執務室の下に『プラント政府とザフト軍のガバナンス改善調査』の為の第三者委員会を立ち上げること。
    二つ、調査期間中に限り、最高評議会議長の権限の一部を他の最高評議会議員に代行させること。
    三つ、ミーア・キャンベル嬢に、プラントの国益と安全及び世界平和の推進に特筆すべき貢献を果たしてきたことを賞し、『最高評議会議長自由勲章』を授与すること。
    自らの言動を真摯に省みて、この3点について。どうか最高評議会ビルの皆さんの賢明なご判断を願います」

    自分にとって都合のいい提案をこれでもかと並べ立てて、議長は画面から姿を消す。

    アグネス「赤点です。なぜ議長執務室下に第三者委員会を置くのか。機能するはずが無い。国家元首である彼の言動も調査対象なのに。議長の下での調査なら却って政府職員と軍人の粛清・弾圧に悪用されかねません。調査は最高評議会と60人議会の秘密会で行うべき。そもそも『ガバナンス』というのも方便なのです。議長のテロ協力疑惑が本命なのですから」

    ここでそれを言っても仕方ない。でも、人の好いアスランは肯いて話に乗ってくれる。

    アスラン「権限を代行などと言い出したのもそれか。彼のコントロール下の調査なら何時でも終了させ、権限の返還を求められるから」
    メイリン「ミーアさんの受勲も。国家元首の権能の一つ、栄典の授与権を手放す気がないことの示唆ですね」

    二人の理解が早くて大助かりだわ。いや、ちょっと考えれば分かること。そして最悪なのは―

    アグネス「議長は栄典授与権という『名』も手元に残す気です。それなら、『実』の大部分を手放す気がないと言う事でしょう。『自分はこれだけ妥協した残りは君等次第だ』と」

    では、市内の反応はどうだろう?

    アプリリウスのチャンネルを弄って最高評議会ビル周辺を探る。すると路上の群衆は何やら大騒ぎしている。

    デモ隊「デュランダル!デュランダル!デュランダル!デュランダル!」
    デモ隊「代行は第三者委員会の後で!」、民衆「代行は第三者委員会の後で!」、民衆「代行は第三者委員会の後で!」
    デモ隊「調査なんていらない!もう謝ったんだから、国政を前に進めよう!」
    デモ隊「一般の議事の中でやれば良い!」、「国政を前に進めよう!」、「一般の議事の中でやれば良い!」

  • 114二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 01:51:51

    もう一回滅びた方がいいんじゃないかなこの国

  • 115二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 08:00:26

    コーディネーターは肉体的にも知能でも優れた種じゃなかったのかよ…

  • 116二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 08:04:22

    ここまで政治的な駆け引きがうまいスレも珍しい

  • 117二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 08:41:54

    >>115

    プラント民が如何にラクスに依存してるかなんて原作の時点で明らかだったろ!

  • 118二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 10:16:53

    闇に落ちろされてる可能性もあるが原作時点でプラント市民が自分で考えるのを放棄して他者に責任を委ねる集団って言われたらぐぅの音も得ない

  • 119二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 10:18:58

    >>118

    自分達で考えた結果が人類が滅ぶ一歩手前という大惨事には流石に堪えた

  • 120二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 13:28:37

    世界平和のためにロゴスと戦う議長が間違ってるはずないだろ!権力の亡者どもいい加減にしろ!議長なら全ての元凶…亡くなった家族の仇を討ってくれるはずなんだ…!

  • 121二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 18:01:03

    議長、群衆の中に何人サクラを潜り込ませたのです?

  • 122二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 18:01:55

    アコード一人居ればでもなんて作れそう

  • 123二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 01:53:27

    アスラン「こ…、これは!」
    メイリン「うーん。これは…」

    両側の二人はアプリリウスのデモ隊の迫力に押されて絶句している。国家の中枢機関の周囲であの規模の大群衆が蠢いているのだから無理もない。

    私も胸の奥がドキドキしている。不安の鼓動、明日には自分は政治犯になっているかも知れない。

    二人は、やがて、画面から目を離して、尋ねるように視線を向けてくる。慌ててはいけない。冷静さを忘れた者から落ちて行く。客観的な事実をまず指摘しよう。

    アグネス「デモの参加者はピークアウトしたように思います。遅まきながら司法局下の首都警察が味方に付いたことが大きい。市内全体の治安も揺らいでいません。宇宙港の事は遺憾ですが、今のところ積極的な暴力行為、例えば自爆テロの様な事件は発生していません。双方が流血の惨事を未然に防ごうと努めて居る為です。大衆は、時に衝動的かもしれませんが、人間は愚かではありません」

    バリケードの手前の人間でさえも、自らの手で『最高評議会議員を引きずり下ろす』、つまり殺すなり暴力で拘束するなりすることを望んでいるかは、はなはだ疑問だ。彼らは議長への支持の表明や反議長派の政治家に対する抗議のために集まったのであって、本気で政権転覆や暴力革命を望んでいるわけでは無い。

    アスラン「それは…。だが…」

    軽い困惑を浮かべたアスランが私に再度、目で問う。楽観し過ぎではないかと。確かに、マシな方の事実を指摘しているのだから当然だ。楽観ついでにもう一つ付け加えておこう。

    アグネス「一般的に女性を含む全国民の識字率が90%を超え、かつ合計特殊出生率が2を割り込むような社会では過度な暴力性は鳴りを潜めるもの。最高評議会ビルを囲む多くの『同胞』達は単純な議長の手足ではない。彼らなりにこの国の未来を憂う私達の『戦友』です。踊らされたのではなく、多くの者は不安と使命感に駆られて集ったのです」

    そして、最高評議会ビルはバスティーユ牢獄では無い。『サクラ』が大砲をぶっ放した瞬間、民衆は逃げ散るか―掌を引っ繰り返すだろう。それが分かっているから、議長もあんな演説をしたのだ。

  • 124二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 01:57:41

    そして、もう一つ重要な点がある。

    アグネス「加えて、議長は留保を付けつつも自らの失点を認めました。これは彼が得意とする『善か悪か』、『白か黒か』、『味方か敵か』の二元対立論をこの政争に当たっては放棄したと言う事。『私は白に近いものの灰色です(嘘)』と自己申告したのですから。これは私達の勝利です」

    そう言って、目線を動かしてもう一度、アプリリウスの最高評議会ビル中継画像に二人の眼差しを誘う。

    メイリン「確かに…。最初の頃の今にもバリケードを突破しそうな勢いはありませんね。分断と対立を仕掛ける側が、自分は中間だと告白してしまった、と。」
    アスラン「しきりにシュプレヒコールは上がっているが…。多少なりとも彼らにも動揺があるのか…」
    アグネス「議長が『ホワイト』なイメージで自己プロモーションをして来たツケです。一般大衆にとって彼は清濁併せ持つと言うイメージではありませんでした」

    盛んに掛かるシュプレヒコールは、紛れ込んだ議長の手下の焦りでもある。惑わされるな。

    とは言え―それもこの後の展開で幾らでもどちらにも転がり得る。

    アグネス「いずれにしろ、彼のターンはお終いです。今度は私達。最高評議会議員の皆さまが上手く立ち回ってくださると良いのですが…」

    残りの白湯を口に含んで待つこと暫し、砂嵐に一度は消し飛ばされた最高評議会ビルの代表がモニターと各チャンネルに映し出される。

    中央右手に最高評議会議員ルイーズ・ライトナ―女史、左手に最高評議会議員にして60人議会議長アリー・カシム立法委員長。右端にアイリーン・カナーバ前最高評議会議長、左端に前最高評議会議員エザリア・ジュール夫人。

    この僅かなシンキングタイムで何を話し合ったのか、あるいは話し合わなかったのか、私に知る由もない。

    ライトナー「私はプラント最高評議会議員ルイーズ・ライトナ―です。首都アプリリウス市民の皆さん、そして全プラント国民さんの平穏な夜を搔き乱してしまったこと、誠に申し訳なく思います。また、今も敵前であるいは後方で任務に直向きに注力している全ザフト将兵諸君諸姉、治安・公安職員諸君諸姉にお詫びと感謝を。また、憂国の念に駆られて路上に駆け付けて下さった一般市民の皆様にも心からの敬意の念をお伝えします」

  • 125二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 02:08:08

    序盤の掴みは悪くない。スピーチは席次が高いライトナー評議員が行うようだわ。

    ライトナー「私達、9名の最高評議会メンバー。
    アリー・カシム立法委員長、タカオ・シュライバー国防委員長、パーネル・ジェセック司法委員、アラン・クラーゼク国防委員、エドアルド・リー国防委員、リカルド・オルフ国防委員、ノイ・カザエフスキー女史、オーソン・ホワイト氏、そして、私、ルイーズ・ライトナ―。
    そして、国民より公正かつ公正に選出された60人議会全議員と2名のオブザーバー、アイリーン・カナーバ前最高評議会議長、前最高評議会議員エザリア・ジュール夫人は一つの結論に達しました。
    まず、お伝えします。先ほどギルバート・デュランダル最高評議会議長から示された提案は、我らの要求を満たしたものとは認められませんでした」

    その瞬間、確かに空気が震えるのを感じた。艦内放送を共に聞くミネルバの皆に衝撃が走ったのだ。もう引き返すことは出来ない。これ言うの今晩で何度目かな…。

    しかし、これは詰まる所、つまり、議長の『和平提案』の拒否だ。もう一つのデバイスで最高評議会ビル付近の中継を確認すると群衆にもざわめきが広がっている。

    アグネス「(広がって入るが、この発表によって一露骨な罵声や暴力的な反応は、一部を除いて、惹起させてはいない。人選が良かったのね)」

    ルイーズ・ライトナ―、彼女を前面に押し出した最高評議会ビル派はやはり低能揃いでは無い。席次の順番もあったにしろ、彼女の経歴はプラント国民なら良く知っている。

    ライトナー「順を追ってお話ししましょう。まず、一つ目のご提案について。
    私達、最高評議会ビルに集った者達は、議長の指揮下に第三者委員会を立ち上げるという方式を支持しません。理由としては、国家元首であるデュランダル議長お一人の下で委員会を立ち上げれば、如何に公正無私にそれを運用したとしても余計な思惑や配慮が紛れ込む恐れがあります。『プラント政府とザフト軍のガバナンス改善』とは我々、最高評議会もその対象に含まれるためです。
    調査委員会は最高評議会と60人議会よりなる委員会が、機密を守った上で、必要とあれば専門家を招致しながら、粛々と作業を進めるべきです。無論、調査の進展に伴って、不法行為や不適切な振舞い、特別な利害関係が明らかとなった委員は調査委員会から外れていただきます」

  • 126二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 02:16:56

    士官室の外、廊下に響く艦内放送の音声。そして、私の耳に届く音色。
    先程の、議長の静かでありながら人の感情を刺激させる話し方とライトナー評議員の語り方は好対照をなしている。少し強めに、しかし感情をじっと抑えるような声色だわ。

    友を失くし、故郷を破壊され、二つの大戦を国家の中枢で、政争の渦中に呑まれながら今日を迎えた彼女。それ故にこそ込められた思いが言葉の端々に感じられる。

    ライトナー「二つ目のご提案について。調査期間中に限り最高評議会議長の権限を一部代行させる、と言う案は絶対に受け入れられません。何故なら、プラントは今、戦時体制にあるためです。権限の曖昧さは責任の不適切な分散と判断プロセスの複雑化を生じさせます。
    加えて、『調査』と言う一点に限っても、その間隙をついて妨害や隠匿が企てられないとも限りません。
    従って、調査期間中の議長権限の代行と言う案は、代行される権限がプラント最高評議会議長の全権能である場合のみ成り立つ選択肢です。
    我々はギルバート・デュランダル議長が調査委員会活動期間中、その職権の全てを最高評議会議長全権代行に委譲されることを強く求めます。
    なお、委譲期間中もギルバート・デュランダル氏が最高評議会議長の職名を用い、閣下の称号を有し、議長官邸に居住し、議長警備隊による警護を受け、給料を全額保証され、専用の自動車・宇宙船舶・地上船舶・飛行機・シャトルが利用可能であり、事前の申し出と同行者がいれば海外訪問も許可される、こうした措置を我等は考慮しています」

    出血大サービスのウルトラボーナスだわ。これだけ妥協したのだから拳を下ろせ、そんな最高評議会ビルの面々の悲鳴が聞こえてきそう。彼らも相当焦っている。

    アグネス「(少し甘すぎないか…。いや、あの数万の大群衆を思えば、議長の名誉だけでも守っておかないと引っ込みがつかない。それに調査過程で疑惑が見つかれば、いくらでも対処は可能なはず)」

    だから、ライトナー評議員は『不逮捕特権』に関しては一言も言及していない。彼女は―彼女達は―尻尾さえ掴むことが出来れば、『やる気』だ。

    中継映像を見るに最高評議会ビル周辺のデモ隊は、この提案に関して反応が割れている。大体、3対1くらいかな。

  • 127二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 02:21:37

    デモ隊「体の好い押し込めだ!軟禁だ。甘言に乗るな!」
    デモ隊「ビルの連中は議長を軟禁しようとしている!甘言に乗るな!」
    デモ隊「外国訪問も出来るなら…。ずっとじゃないみたいだし―」
    デモ隊「騙されるな!権限剥奪=失脚だぞ!」

    アスラン「不味いな…。こちらとしてはかなりの大妥協なのに…」
    メイリン「これで、納得してもらえなければ…。市街戦ですか?」

    メイリンはかなり不安そうな…、いや懇願するような視線を私に投げかけてくる。彼女はアーモリーワン事変から、本当に成長して強くなった。そのメイリンですら、市民に銃を向けることは厭う。勿論、私も嫌だわ。エリートのやることじゃない。

    アグネス「非殺傷兵器を使うはず、よ。もしもの時は…」

    非殺傷兵器でも当たり所やタイミングが悪ければ重症者が出る。最悪、死者が出る。それは私達、軍人にとってあまりにも重い。戦地で万止むを得ず、民間人に巻き添え被害が出るのとは訳が違う。

    本国で自国民を殺すのはあまりに―。

    いけない。何を言っている!いや…駄目だわ。正直、国民の鎮圧任務は本気で考えていなかった。ここまで来て何を言っているんだ、私は!

    私の揺れる心を見て取ってメイリンは目を伏せる。隣のアスランにも視線を振るが、顔面が『ザラ議長化』している。これどっちなの?

    ライトナー「三つ目、ミーア・キャンベル嬢の『最高評議会議長自由勲章』を授与に関して、我らは全面的にこれに賛同いたします。ただし、その授与はあくまで最高評議会議長全権代行がその名を以て行うものでなければいけません。ギルバート・デュランダル氏がミーア・キャンベル嬢をその権能を以て賞することは甚だ道理に反します。その理由をこれよりお話しします」

    そこで、画面の先の女性は一呼吸を置く。

    ライトナー「デュランダル議長は国家と世界の難局を乗り切るために『ラクス・クライン』のお力が必要であったとご説明されました。なるほど、彼は雌伏の時を過ごしていた歌手ミーア・キャンベル嬢を見出し、あの開戦日に大きな成果を上げたかもしれません」

  • 128二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 02:37:20

    フォックストロット・ノベンバー。あの忌まわしい核攻撃で動揺していたプラントの民衆を静めたこと。それだけでお釣りが出るほどの大成果なのだ。そこで終わっておけば―。

    アグネス「(もとのユニウスセブン落下テロ協力疑惑の時点で駄目ね。前提がおかしいわ)」

    ライトナー「しかし、彼女のあれほどの活躍にも拘らず、デュランダル議長とキャンベル嬢の関係は正常な契約関係によるものではありませんでした。対等な民法上の雇用関係でも、法律によって守られた公的機関と私人間の契約関係でもない。
    デュランダル議長は一人の女性の生殺与奪の権を一手に握っていました。国家元首と一人の歌手との間の圧倒的な権力関係の不均衡を考慮せず、彼女に指示を下し、他の国家機関による監視・監督の余地を最初から拒絶していました。
    彼はミーア・キャンベルと言う一人の女性の前半生を覆い隠し、何時まで続くかも不透明な『ラクス・クライン』役を演じさせ、その後の人生に何らの保証も配慮も行っていませんでした。まるで19世紀や20世紀のパトロンとバレリーナの関係のように」

    芸能とはそういうものだ、では済まされない。私達はC.E.に生きている。不健全な慣習の頸木を態々、未来永劫持ち越すものでもあるまい。まして、ミーアの問題はそこに留まらない。

    ライトナー「そのような関係を今日では『奴隷』と呼びます。その外形的な事実と不法性・不当性はミーア・キャンベル嬢の内心に関わらず彼女がどう口にしたかに関係なく、忌まわしい問題です。
    ブルーコスモスのエクステンデッドを議長はどうして一方的に非難できたのでしょう?危険の有無でしょうか?
    それなら、『ラクス・クライン』で無くなった後の彼女の人生にどんな展望を語っていたのでしょう。先ほどの話から伺うことは出来ませんでした。
    私が伺えたのは彼が必要とあらば自国民を非合法に政略の駒として利用し、いざとなれば居直って恥じることのない振舞いをする、そういう政治家であると言うだけです。その対象がキャンベル嬢のみに留まり、他の国民に対しては権力の濫用を禁じえるものなのか。その人格と人権を尊重する気持ちがあるのか、私は確信できません」

    多くの聴衆を前にして、彼女ははっきりとした発声を心がけながら話を続ける。結構攻めるわね。流石、建国の父母の一人。

  • 129二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 02:50:38

    ライトナー「デュランダル議長は彼女の声帯がラクス・クラインとほぼ同一であることのみに着目し、開戦日以降も己の広告塔として利用し続けることに痛痒を感じていませんでした。
    彼はキャンベル嬢の生活と芸能活動を物心両面の世話をする代わりに、全てをコントロールし、欲しいままにプラント国民と諸外国民にメッセージを発し続けました。
    そのメッセージを議長以外の公権力がチェックしたことは一度もありませんでした。
    彼女のメッセージは誰のものなのでしょうか?
    根底に流れる平和への願いと人々への労りの情はミーア・キャンベル嬢その人のものでしょう。
    しかし、それを彼女の内心から外界に発する際、たった一人の権力者がその台本と台詞を加工し、剰え他人の名義で発せさせていたのだとしたら?それは彼の者であって彼女のものではない、そう断じざるを得ません」

    デモ隊「いや…。しかし…」
    デモ隊「今は戦時なんだ!綺麗ごととだけなら誰にでも言える!」
    デモ隊「安全圏から綺麗ごとを言うな!議長は命かけているんだよ!」

    チャンネルを合わせると、どうもデモ隊に参加中の諸君諸姉の受けは良くないらしい。彼女の演説に痛いところを突かれたと、感じる者もいる。そこで恥じ入ってくれればいいのだが、そうでない人も多い。

    ライトナー「皆、『ラクス・クライン』は誰なのかと問います。しかし、『ミーア・キャンベル』とは誰なのかと問うものは誰もいない。恥ずかしながら、私もそうした者の一人でした。とある女性が、私と話した後に浮かべた悲しみに満ちた表情、それに気が付くまでは。
    世界とプラントが未曽有の試練に直面する中、その女性は誰よりも身命を賭してきました彼女の両側に座っていた我らプラント国民の息子と娘も彼女に劣ることなく青春と人生を捧げてきました。
    彼ら彼女らが命を掛けて守ろうとしているものは祖国の安寧だけではありません。人は創造主により、平等に作られ譲り渡すことの出来ない一定の権利-生存、自由、幸福追求の権利-を与えられ、他者の権利を犯さぬ限りそれを行使しうるという人類普遍の原理をも守護してきたのです。」

    突然の話でビックリしたわ。私の事だ。それとアスランとメイリンね。

    アグネス「(グラディス提督が仰っていた通りだったわ…。『貴女は自分で思っているよりも他者から見られている。注意しなさい。そういう立場に既になっているのよ』と)」

  • 130二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 03:24:37

    ライトナー「それこそが我等がこの人工天体を築き上げ移り住んだ理由であり、祖国独立の原動力でもあったはずです。私達はただ、生命の安寧の身を求めてこの宙に浮かぶ大地に足を下ろしているわけではありません。我らの国の名を、皆さん、一度、唱えて下さい。
    『Peoples Liberation Acting Nation of Technology(科学技術に立脚した民族解放国家)』
    ブルーコスモスやロゴスが我等コーディネイターから奪い去ろうとした権利と祖国の独立、忠勇なるザフト軍将兵が戦地でそれを守るなら、その原理を内地で確保するのは政府の使命です。もし、議長の行いが国の基に沿ったものであると言えるならば、どうして桃色の小鳥を鳥籠に閉じ込めてしまったのか。その鳥籠に次に閉じ込められるのが自分では無いとなぜ断言できるのか。まして、私は彼女の本当の髪の色さえ知りえません」

    そう言えば確かに私も知らない。彼女は『ラクス・クライン』の座を降りる時、その姿をどうするつもりなのだろう?
    本来の自分に戻るのか、ラクスを演じた自分も含めて今の自分と思い、そのままの顔で生きていくのか。

    アグネス「(それは彼女が決めるべきこと。文句を言って良いのはラクス本人だろう。いや、彼女にすらその資格は無いわね。自己決定権的に考えるなら)」

    脳裏を風変わりな思考が掠めた頃にライトナー評議員の演説もクライマックスを迎える。

    ライトナー「我が同胞よ。ミーア・キャンベル嬢の善意と貢献を称えること、彼女を使役してきた者の責を問うことは同時に出来ることなのです。人を駒として見なさざるを得ない時代だからこそ、我らは人を駒として見なしてはならないのです。
    デュランダル議長、貴方はミーア・キャンベル嬢の優しい心と、現実世界に及ぼした素晴らしい影響を賞するにふさわしい人間ではない。我々の中から相応しい者が彼女に栄典を授けます。
    また、第二、第三のミーア・キャンベルを生まないためにも、現最高評議会議長たる貴方自身の言動も含め、調査委員会の対象にしたい。貴方の下の第三者委員会にそれを委ねることは出来ないのです。貴方の3つの提案に対する我々のまとめます。我々の回答は以下の通りです」

  • 131二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 03:40:35

    ライトナー「一つ、『プラント政府とザフト軍のガバナンス改善』を目的とした委員会は、最高評議会と60人議会より委員を選び、最高評議会ビル内で、機密遵守の上で調査・作業・取りまとめを行う事。
    二つ、調査期間中、デュランダル議長はその全権能をプラント最高議長全権代行に委譲すること。ただし、議長としての身分とそれに付随した最小限度の特権はなお彼の手元に留まること。
    三つ、ミーア・キャンベル嬢にはこれまでの貢献を賞して『最高評議会議長自由勲章』がプラント最高議長全権代行の名の下に授与されるべきこと。以上、ギルバート・デュランダル最高評議会議長の賢明な回答をお待ちしています」

    そこまで話して彼女達がモニター画面から一旦姿を消す。ムムム…。

    アグネス「私って、もしかして顔に出やすい?」

    場違いと分かっているが、素朴な疑問を二人に投げかける。

    アスラン「いや…。俺は…」
    メイリン「結構顔に出ています。ああ、でも私は嫌な思いをしたことありませんから…」

    やはりアスランは鈍いわね。その逆に同性には丸わかりだったのか…。これも以前、グラディス提督に注意されたことだわ。

    アグネス「(もう男が女がと言う時代は過ぎ去っているけれど…。過ぎ去っていると思いたいけれど。それでも、同性が目の前で波を切り開いてくださり、とても助けられている)」

    そう言えば、女性の白服でブイブイ言わせているの、グラディス提督ぐらいしか知らない。正直、出世の取っ掛かりが議長の愛人だったかもしれない事なんて今はどうでも良い。

    彼女に潰れて欲しくないし、私も潰れたくない。政治犯強制収容所なんて真っ平だわ。いけない、厳しい現実が目の前に来て目を背け始めている。元々、ギロチンと覚悟して突き進んできた道だ。怖気ずくな!

    アグネス「まあ、良いわ。私の表情がどうか怪我の功名になりますように!」
    アスラン「ライトナー評議員は相当頑張っていらっしゃったように思うが…」

    うん。それは私もそう思う。ただ、どうだろう。議長は折れるか、あの要求に。

  • 132二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 06:21:57

    いやあ折れないでしょうきっと

  • 133二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 10:49:03

    こんな両雄真正面からぶつかる政治劇になるとは思ってなかったからとても面白い
    だが気を付けろアグネス…そのインチキワカメは割と実力行使を好むぞ

  • 134二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 13:02:53

    正面切って議長とその他議員との演説合戦が始まった以上、議長お得意の隠密部隊でどうにかできる範囲を越えたような気はするなぁ
    もう一般市民にお互いのスタンスが割れたんだし下手に動いたら自分の首を絞めるぞ

  • 135二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 21:39:46

    保守

  • 136二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 00:40:56

    ここで、洗脳で相手に無理やり失点作れるアコードパワーがスーッと効いて…
    オルフェ、イングリッド、シュラ、グリフィンは行方わかってるけど残りの面子は未確認っぽいのが不安が尽きねぇ

  • 137二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 01:38:09

    >>136

    リュー、ダニエル、リデラードが既にプラント本国にいる可能性は確かに否定できないな

  • 138二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 02:21:42

    アグネス「(正直、4:6と言ったところかな。勿論、『議長が折れない』可能性が6ね)」
    ただ、議長とて、もう自分が政治的に一人勝ち出来る状況でない事ぐらい理解しているだろう。あとは条件闘争か―さもなくばハイリスクハイリターンの策に打って出るしかない。

    アグネス「(私は前者を選ぶ可能性の方が大きいと見る。既にダメージコントロールの為とは言え、ミーアの事も自白した。彼の取り得る選択肢は相当、狭まっているわ)」

    ミーアの一件、彼はそれを必要悪と言い、彼の支持者も同じことを言うだろう。戦時下の事、理解を示す民衆もかなりの割合存在するはずだ。

    でも『必要悪』は何処まで言っても『悪』だ。彼の行為の問題点も、ライトナー評議員が全国民の前でご指摘になった。

    何より、『善意の少女を操って国民を扇動していた』ことが明るみに出てしまったことは、これからボディーブローのように彼にダメージを与えて行く。

    そこを加味した上で、アスランに返事を返そう。

    アグネス「デュランダル議長も既に3:7の分けは諦めているはず。後は何処まで自分優位の体勢に持って行くかと言った所かと。今頃、彼は陰謀の証拠隠滅作業で大忙しでしょう」
    アスラン「だが、ミーアは…」
    アグネス「無論、逆転の一手は温存するはずです。それに彼女の帰還の如何に関わらず、宇宙港は何とかしなくてはいけません」

    二人でそこまで話し終えたところで、自動ドアが開く音が聞こえ、ジェセック評議員が足早に入室して来る。

    3人で敬礼しようとすると、彼はそれを押し留め、ジェスチャーで最高評議会ビル会議室とと回線を固定済みのデバイスの起動を促す。

    ジェセック「先程、私達、最高評議会ビルの一同から議長に対して、提案への回答期限時刻を通知した。それはそうと宇宙港の事が気掛かりだ。協議を」
    アグネス「承知しています。起動させました」

    画面に明かりが灯ると、その先にはシュライバー国防委員長、リー国防委員、ホワイト評議員、ジュール前評議員がお揃いだわ。

  • 139二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 02:31:36

    アスラン、メイリンと共に敬礼しようとして、やはり制止される。

    シュライバー「悪いが急ぎだ。他の方はライトナー評議員やカシム立法委員長、カナーバ前議長と共に協議を、クラーゼク、オルフ両国防委員はビル防衛の指揮を。
    用件はアプリリウスの宇宙港について。もう間もなくキャンベル嬢が搭乗したシャトルが入港する。軍港で踏みとどまっている職員が掴んだ情報だから間違いない!」

    泡を喰った国防委員長のお顔、彼の双眸に出来るだけ冷静な視線を送りながら、質問する。

    アグネス「了解しました。彼女を取り巻く人員が議長派であることは確実です。問題はキャンベル嬢ご自身の内意です。それ次第で救出作戦の中に『説得』というコマンドが入るかどうかが決まります」
    リー「残念ながら、シャトルに通信を入れても通り一辺倒の返事を返すばかり。駄目元でキャンベル嬢との取次を依頼したが、聞き入れて貰えなかった」
    アグネス「分かりました。では『彼ら』は未だやる気なのですね」

    そう言って、一度言葉を区切る。議長本人の対応も頭が痛い。ただ。問題は他にもある。この緊急事態の中、『議長派』内部の足並みが乱れ、一部の者が先走る恐れもある。

    今のミーアを議長が使う気が有るかどうかは五分五分と言った所。しかし、あの緑女の一派は間違いなく、彼女を逆転の一手として投入する積もりなはずだ。そのために傍に付いていたのだから。

    アスラン「入港は阻止できませんか?」
    リー「撃墜できるか、と言う問いなら否だ。君達ぐらいしか動かせる部隊はいないし、民間機を攻撃するのはそもそも違法だ」

    隣のジェセック評議員も補足する。

    ジェセック「司法局傘下の公安職員も今は軍港機能維持に手一杯だ。入港阻止は難しい」
    アスラン「では、もう…」

    はぁー、呆れるわ。レイの来襲が無ければ…。言っても仕方ない。

  • 140二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 02:40:25

    アグネス「了解。ただ、シャトルの入港に間に合うか否かに関わらず、アプリリウスの港湾機能は一刻も早く正常化しなければなりません。市民生活への影響だけではありません。首都のインフラが麻痺したままでは前線のザフト軍部隊にも影響は波及します。
    さらにアプリリウスと各市区とのサプライチェーンが途絶えれば、直ちに産業に痛手が出ます。国内だけでことは終わりません。親プラント国は対ロゴス戦に伴う経済混乱から立ち直り切っていないのです。プラントから物資等の供給をもたつかせる訳には行きません」

    だから仮に『ラクス・クライン』のアプリリウス到着を阻止できなかったとしても、宇宙港奪還作戦は、素早く実行されなければいけない。
    無論、そんなことは画面の先の御仁たちも承知の事だろう。

    ホワイト「だが、デモ隊・抗議者に重傷者や―まして死者など―決して出すわけにはいかない。そうかと言って事態を座視することもできない。シュライバー国防委員長とジェセック評議員それに私で、今から不法占拠者に最終退去勧告を出す」
    シュライバー「猶予時間中にアプリリウス宇宙港の奪還作戦を立案、準備し、首都に到着次第実行に移して欲しい」

    シュライバー国防委員長は、何故か私の顔をガン見してサラッと無茶ぶりをして下さる。確かにザフト軍事ステーションからアプリリウスまでミネルバなら一足で到着する。
    非常時搬出港からステーションの物資は搬入中だ。本国防衛の要の大型軍事拠点、大抵のものは揃っている。

    しかし、うーん、宇宙港奪還の必要性を強く指摘した後で申し訳ないが、事はそう簡単ではない。そもそも順番が違う。純粋な軍事作戦の立案と計画なら、グラディス提督とトライン副長にお声を掛けないといけない。そして、この部屋の中で話を持ち掛けるべきはアスランだ。

    流れ上、私に話が回って来ているのだけれどね。

    アグネス「ブリッジにもお繋ぎします。それと作戦のブリーフィングを主導なさるのはトライン副長です。彼のお力なくしては。メイリン、お願い!」
    メイリン「はい!」

    彼女はトコトコっと反応して、手早く士官室の通信機を操作してくれる。こき使う様で申し訳ない。

    さて、そうは言ってみたものの…。まだ、此方に機体の眼差しを向けて下さっていらっしゃる4名もとい横のジェセック評議員を含め5名を無下にすることもできない。

  • 141二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 02:56:50

    アグネス「(でも、私は、ほぼモビルスーツパイロットとしての軍歴しか積んでいない。単に宇宙港に殴り込みを掛けろと言われたら、それを完遂するのみだけれど。今回は自国民が居る。多分、女性や未成年者も…)」

    半ば頭を抱えて、目を宙に漂わせると、横に座っているアスランの顔が瞳に映る。彼の表情には生気というか鋭気が漲っている。地蔵が押してばかりの人だから、何だか新鮮だわ。

    アグネス「アスラン先輩、何か腹案が?」
    アスラン「いや、腹案と言う程では…」

    だが、確かに私は彼の頬の下が、こめかみの表面に稲妻が走るのを横目で確認した。この人との付き合いも、そこそこになる。何か作戦が閃いたのだろう。

    アグネス「そう言えばアスラン先輩は…」
    アスラン「…」

    その続きは敢えて言わない。前大戦において、アスランはヘリオポリスに潜入して敵最新鋭機の奪取と言う大作戦に参加した。きっと、それは彼の中で苦い思い出となっている。親友との敵対、相次ぐ戦友の死、中立違反とは言え民間人居住コロニーの崩壊、今になって思う。私が彼の立場なら精神を病んでいた。

    だが、一軍人としてはこの上なく貴重な体験と言える。状況が違うとはいえ、生かせるはず。

    彼と視線を交え、私が出来る限りの励ましを彼に送る。

    アグネス「どうか思いのままに。今回は人を救うための作戦です」

    我ながら詭弁が過ぎるようにも思う。しかし、彼はその言葉に何かしらの意味を感じ取り、先程から焦れた顔をし続けているモニターの向こうの方々に意見を述べ始める。

    アスラン「腹案と言う程のものではありません。ただ、今からお願いする物、準備、情報が揃い、更にミネルバに加え、ジュール隊の参加を前提とすれば、重傷者の発生を相当抑制しながら短時間での宇宙港奪還は可能かと」

    そう言いながら、アスランはチラッとメイリンに視線を配り、申し訳なさそうに私にもその眼差しを向ける。これは、ミネルバパイロット隊は怪我人も参加と見える。メイリンも陸戦隊と一緒に突撃かな。

    『ジュール隊』と言う言葉にジュール前最高評議員は眉を少し動かし、意味深な視線を私たち3人に向ける。しかし、流石は鉄の女、直ぐに女傑の顔にお戻りになる。

    エザリア「シュライバー国防委員長、ジェセック司法委員、ホワイト最高評議会議員、物惜しみできる状況では無い。彼ら彼女らに提供できるものは全て出すべきかと」

  • 142二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 10:55:56

    あの3人は潜入任務の経験が豊富

  • 143二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 12:23:51

    モルゲンレーテにも潜入経験あったな⋯

  • 144二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 19:07:52

    アコードがロゴスを操って
    このタイミングでプラント襲わせて
    議長が正しかったって流れも想像してしまった

  • 145二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 21:06:57

    >>144

    ジブリ「私はアコードに操られていたのだ! 私は悪くない! 悪いのは遺伝子を弄って生み出されたあのバケモノ共だ!」

  • 146二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 21:10:11

    今なら残党の流れ弾で民間の死者が一人でも出たらやばいからな

  • 147二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 01:32:45

    彼女の迫るような言葉にシュライバー国防委員長、他会議室組、それにジェセック評議員も肯きを返す。

    シュライバー「最終退去勧告は私とホワイト最高評議会議員で行おう。リー国防委員とジェセック評議員はミネルバとジュール隊、ザフト軍事ステーションと協議をされよ」

    常の彼には似合わず(失礼)、シュライバー国防委員長が切れの良い反応を示す。1秒を争う事態であるのはこの場の誰しもが理解している。

    リー、ホワイト、ジェセック「異議なし」

    その返事と共に、シュライバー国防委員長とホワイト最高評議会議員は席を立ち会議室から抜けて行く。本当にスピーディーに事が進んでいくわ、戸惑うくらいに。

    エザリア「では、この場はここまでだ。次は?」
    タリア「続きはブリーフィングルームで、トライン副長を既に向かわせています。パイロットと艦内各班長も。ジュール隊旗艦ボルテールのブリッジ、ザフト軍事ステーションの司令室とも回線が開かれています」

    モニターの向こうに居残っているのは後を託されたリー国防委員とジュール前評議員、その彼女からの問いかけに答えたのは、ブリッジから士官室の通信機に顔を出したグラディス提督だ。

    エザリア「よろしい。直ぐに我等も。その前に特務隊アスラン・ザラ、必要なものとは何か?今、国防委員と司法委員に話せる物ならここで」
    アスラン「それは―」

    アスランは幾つかの事項をお三方から提供して貰う。それに基づき私とメイリンも協力して、脳内の全細胞をフル回転して、必死に螻蟻の穴を探す。O.1秒が10分いや1時間になったように錯覚したほどに。

    アスラン「では行こう!」
    アグネス、メイリン「はい!」
    ジェセック「よろしい!」

    終わった瞬間、開放された気分だわ。時間としてはほんの僅かだったけれど、こういうの疲れるわね。

    士官室から4名で退出し、ブリーフィングルームへ駆け出す。ちなみに4名の中に、私は入っていない。私の代わりに駆けてくれているのは車椅子を押してくれている看護兵、私は振り落とされないことに全力、これ何度目だろう?

    ブリーフィングルームに入室するや室内の全員が敬礼して来る。今回は私ではなくジェセック評議員が対象だ。中に立つトライン副長も緊張していらっしゃる。座席には負傷中のハイネ先輩を含む全パイロットと軍医殿を含む艦内各班長が起立している。

  • 148二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 01:39:12

    ジェセック評議員は、そんな皆に丁寧に返礼するが、それ以上の挨拶を省くよう室内外の者にジェスチャーでお伝えして下さっている。それならば、私達は略礼で進行するべきだろう。

    私達は入室後、アスランの目線の指し示す先、ブリーフィングルーム前方のスクリーン左横側に陣取る。そのスクリーンモニターの右端にはボルテールのブリッジが映し出され、中にはジュール隊長とディアッカ先輩が、また、左端にはザフト軍事ステーション司令部の白服指揮官や黒服たちが顔を揃え投影されている。

    この異常な状況の中、トライン副長は戸惑いを隠せずにいらした。しかし、直ぐに頭を入れ替え、作戦会議を開始なさる。

    アーサー「では、早速、状況制説明を。今更言うまでもなく、我らの暮らす人工天体は円錐状構造物、その底面に位置する直径10キロ相当の面積が居住区であり、その7割は水源で占められている。これが2つでプラント1基。両端、つまり両居住区間は60㎞の距離が有り、移動する際は、内部中心に聳えるシャフトタワー内のエレベーターが用いられる。そして、その中間ポイントが宇宙港などの施設地帯となっている。
    無論、これは首都であるアプリリウスも同じだ。そして、この政変の中心地である官庁街がここ」

    そう言ってトライン副長は天秤―忌々しいブルーコスモス共の言う砂時計-の片側の居住区を拡大して見せる。あそこが言わば首都の中の首都、政治行政の中枢部だ。

    アーサー「最高評議会ビルがここ、議長官邸がそこで。デモが行われている箇所は―」

    モニターに映し出されるアプリリウスの三次元地図、その一部がトライン副長の操作で赤く染まる。最高評議会ビルを中心としたエリア一杯に詰めかけている数万の市民、彼らが正に議長にとっての主力だ。聞いた時には相当焦ったものだけれど―。

    アグネス「(こうして設計・地図を用いて眺めるとまた違った感想も覚える。デモ隊が繰り出しているのは、2つの居住区の内一方のみ。もっと言ってしまえば官庁街のみにほぼ留まっている)」

    その理由は―国民生活を慮ったデュランダル議長の良心-な訳はなく、単にこの範囲までしか『動員』を掛けられなかっただけの事。ここに彼の焦りと事態の急転直下ぶりが如実に示されている。

    もししっかり備えていたのなら、それこそデモ隊をアプリリウス外からも招き入れたかもしれない。

  • 149二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 01:45:51

    アグネス「(加えて司法局公安職員がデモ隊を遅まきながら囲い込んで波及を阻止した事、反対側の居住区の地上エレベーター昇降施設を抑えることに成功したことによるわね)」

    ただ、問題なのは―。
    トライン副長は続けてモニターを操作し、一度、設計・地図を引き、新たに2箇所のポイントを赤色に表示して話し続ける。

    トライン「官庁街以上に問題なのは、この2箇所。一つは官庁街が有る側の地上エレベーター昇降施設、ここがデモ隊に占拠されている。デモ隊・抗議者の集団はここから宇宙港に昇った。先頭が司法局公安職員を突破して強引に。司法職員たちは何とか建て直して施設地帯の全面占拠と片側居住区への波及は阻止した。ただ、中間地点のエレベーターホールはバリケードで封鎖されている。それとコントロールルームも。ただし、これも第2コントロールルームは司法局公安職員が死守した」

    ここで座席側から手が挙がる。あれは…シンね。

    アーサー「シン、どうした?」
    シン「その…、エレベーターを直通してデモ隊が反対側居住区に乗り込んだりはしていないんですか?」

    なるほど、もっともな疑問だわ。ただその答えは分かっている。

    ジェセック「失礼、司法委員のパーネル・ジェセックだ。遅きに失したが首都警察の出動が間に合い、反対側のエレベーター昇降施設はこちらで抑えてある。直通してきた抗議者は『無許可デモを禁ずる条例」を根拠に一時抑留中だ。無論、人権侵害をする意図はない。法に則って粛々と対応している。重罰を科すつもりも毛頭ない」

    ただ、逆を言えば、司法局公安職員(首都警察を含む)も直通エレベーターを使用できない。もし官庁街が有る側にエレベーターで向かえば、昇降施設はデモ隊に占拠されているのだから、下りた瞬間に今度は自分たちが囚われの身になってしまう。

    故に官庁街側の治安対応は元からそちらに配置されていた人員でこなすしかない。

    シン「分かりました。ありがとうございます」

    ジェセック司法委員からの説明を受け、シンは安堵したように質問を終了する。『人権侵害をする意図はない』『重罰を科すつもりはない』と聞いたためだろう。何とも能天気なものだわ。実は私も安心したのだけれど、ね。

  • 150二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 01:52:01

    アーサー「ゴホン!そして、最後が今作戦の第一目標である宇宙港、より正確に言うならその中の民間使用エリアだ」

    遂に説明が3箇所目に及ぶ。トライン副長は、アプリリウス宇宙港内部の3D地図をアップにして表示する。なるほど、宇宙港の内、民間港は不法占拠状態。軍要港は司法局公安職員が民衆の圧力を入口で押し返している。

    ちなみに軍港内のザフト軍はノータッチだ。これは何も彼らが無責任であるとか、司法局に事態を丸投げしていると言うわけでは無い。

    なにしろ、相手は丸腰の自国民(議長の手下は武器を隠し持っているかも?)なのだ。

    国内で抗議運動ないし政治運動が発生し、それによって治安維持や国民生活に混乱が生じる恐れが出た場合、最初に対応するべきなのは文民警察。

    国家体制(個々の政権ではない、国家の在り方や憲法を頂点とする法秩序そのもの)の危機が生じて最後に出てくるのが軍隊。

    本来、国家と国民を守るべき軍が自国民と対峙すると言う事はそれほど重い。アプリリウスで政変に直面した彼らにしてみれば、『今回はどちらなのか』判断に困ってしまうだろう。

    私達と彼等では情報に格差が有り過ぎる。その私達でさえ、政変発生後からここまで戦ってきた相手は、国際法違反の武装勢力と、指揮命令系統の乱れから止むを得ず衝突した自軍のみ(ここではレイも含む)。いっそ議長が武力で事を起こしてくれれば、彼らも踏ん切りがついたように思うが―、だからこそ彼は一線を越えられないのだ。

    アグネス「(と言う事は、議長は部下が忖度して事を起こすのを待っているのか?あるいは偶発的な武力衝突待ちか。しかし、そんな方法が今更通るかどうか…)」

    アーサー「アプリリウスに駐屯中のザフト軍は今の所、持ち場を堅守して命令系統の正常化まで事態を静観する構えだ。ただし、外敵の侵入とテロ発生の備えは厳にしている。
    月軌道艦隊司令長官グラディス提督とプラント国防委員会、二つのルートからザフト全軍に我々がL1で遭遇した正体不明の武装勢力の存在は周知済みだ。ザフト軍はこの政変にのみ対処に苦慮しているが、通常任務を疎かにはしていない。戦友を信じよう。
    アプリリウスのザフト軍、首都防衛隊も事態の長期化が国益と安全保障を致命的に損なうことは理解している。ミネルバの寄港自体は拒むつもりもないと先ほど通信があった」

  • 151二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 02:05:45

    ふむふむ、なるほど。あの黒ずくめがL5に近寄らないわけだわ。思っていた通り、彼らとて虎の尾を踏むことは恐れるのね。

    しかし国内のテロを抑止するのは難しい。それにこの情勢、偶発的な暴力行為も―。

    アグネス「(それを恐れているからこそ、ミネルバの寄港を『拒まない』と言っているのね。要は『早く来い』と)」

    他力本願は困る、と言いたいけれど、彼らの立場も分かる。さて、これで状況は粗方つかめたわ。

    アーサー「では、続きはアスラン、君が作戦を立案してくれたと聞いている。続きを頼む」
    アスラン「はい」

    アスランは返事をするとトライン副長とポジションを入れ替え、ブリーフィングルームの前方中央に立つ。それを目にしたジュール隊長の表情!何だか面白いわ。

    アスラン「申し訳ありませんが、時間がありません。挨拶抜きでお話しします。まず、アプリリウスの民間港奪還について。デモ隊・抗議者は軍要港と民間港の接続ポイントに複数のバリケードを設置しています。
    ミネルバを軍要港に入港させ、陸戦隊で非殺傷兵器を用いながら突破、制圧することは不可能ではありませんが…。最終手段にするべきです。おそらくその方法では重傷者の発生を防ぐことは出来ません」

    そして、重傷者が重症者となり死亡者となる可能性もある。

    アスラン「また、民間港とエレベーターエントランス、コントロールルームの一部も同じくバリケードが設置されているでしょう。陸戦隊を用いた制圧にリスクが有るのも先に述べた通りです」

    最終奥義としては、非殺傷兵器を躊躇わず使っての制圧、しかし犠牲者が出たら、この局面、どう転ぶか分からない。

    アスラン「そこで打開策を。先程、司法局と国防委員会双方にアプリリウス宇宙港の建設当時から現在までの詳細なデータを提供してもらいました。アプリリウスの民間港側には外壁から通じ内部に到るメンテナンス用の通路が有ります。それらの内、業者の入れ替わりと時間の経過から、最近使われていないものを幾つか発見しました。デモ隊もノーマークのはずです」

    そう言って先ほどまでの3D地図に第一候補から第五候補までの通路を表示して見せる。超短時間で条件に適合する通路を見つけるの、本当に大変だったわ。これが螻蟻潰堤と成りますように、議長にとってのね。

  • 152二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 02:13:07

    すると、そこで軍事ステーション司令部の黒服参謀から質問がなされる。

    黒服参謀「しかし、幾ら見落とされたとしても赤外線センサーなどを用いた自動監視装置があるはずでは?」
    アスラン「国防委員会と司法局の全面協力により、パスワードと解除方法を提供していただきました。これからのお話しは全てそれらを利用する前提となっています」

    黒服参謀「それは…思い切ったことを…」

    ザフト軍事ステーションの面々は、白副司令官も含め、驚愕の眼差しをジェセック評議員に向ける。首都を丸裸にしたも同然の措置なのだから当然ではある。まして、相手はアスラン・ザラ。政治的にも心配するなと言う方が無理と言うものだろう。

    ジェセック「非常のときには非常の手段を。アスラン君先に」

    ジェセック司法委員は目の力で、軍事ステーション司令部を抑え込み、アスランに先を促す。

    アスラン「作戦としては、先ずミネルバで我々はアプリリウス付近の至近距離まで接近します。ここでミネルバは軍港に入港許可を求める通信を入れます。勿論、これはデモ隊の注意を軍港側に向ける為の陽動。ミネルバはそのまま軍港に向かいますが、その直前、民間港からの光学カメラの死角となる後部ヘリポートのヘリ格納庫からステルスランチを発進させます」

    モニターの画面は切り替わり、ミネルバのアプリリウス接近までの航路、最適な接近方向、軍港への通信ポイント、ステルスランチの発進方法とランチの進行方向が示される。

    アスラン「ステルスランチは熱感知を避ける為、最終盤では慣性航行に切り換えます。従って逆噴射は出来ません。エアバッグによる無音衝突で代用します。そこからパーソナルジェットを装備した突入班が取り付きます。メンテナンス通路入口扉の開放と監視装置の解除はデジタル時計型のコントローラーによって行います」

    アスランの話を聞いていたボルテールブリッジのジュール隊長とディアッカ先輩の表情は複雑なものだ。懐かしさと悲しさと苦しさと悔い、幾つもの感情が混じり合っている。

    アグネス「(ヘリオポリスの事、思い出すなと言う方が酷か。ほぼ、あれの再現だから)」

    しかし、今は思い出して、勘を取り戻していただかなくては困る。後悔するときは皆でしよう。

  • 153二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 10:41:57

    保守

  • 154二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 13:07:55

    まあ、「錯乱がアスランしている!」状態でないだけまだマシというもの。
    分捕って来たMS勝手に持ち出して意味不明な行動に走るよりは、余程良い。

  • 155二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 21:13:27

    このレスは削除されています

  • 156二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 00:31:05

    アスラン「突入の第一陣には、非戦闘職種ではありますが、ミネルバ艦橋オペレーターのメイリン・ホークも加わります。こちらの…、彼女は情報のエキスパートです。陸戦隊と共に敵拠点に乗り込み電子・情報戦に従事した経験もあります。彼女はサポート役と共に電子機器を持ってメンテナンス通路に向かいます」

    アスランに紹介されて、メイリンはビクッと背筋を伸ばす。もっと堂々としていればいいのに、等と言う感想は16歳の若い女性には酷と言うもの。

    それでも、メイリンはアスランが向けた視線にしっかり頷いて応えている。偉い。10000000000アグネスポイント!

    アスラン「これからの作戦にとってメイリン・ホークは最重要人物です。作戦説明を続けます。入口扉の開放と監視装置の解除後、突入班主力-私とジュール隊長、エルスマン副隊長の参加はほぼ決定事項ですが―は港湾内部への侵入を続行します。一方、メイリンは私達の前進速度と上手くタイミングを合わせたうえ、後方からインジェクションアタックを実行します」

    会議参加者の内、ザフト軍事ステーションの白服司令官と黒服参謀は顔を見合わせ、メイリンを見詰め、また顔を見合わせている。

    無理もない。これまでメイリンの手柄は原則非公開とされてきた。そのため他の部隊や部署の人間にとって彼女は『武勲艦ミネルバの優秀なオペレーターの一人』と言う認識に留まっていたはず。さほど注目された存在ではない。無論、彼らも軍人である以上、非戦闘職種の大切さは理解しているにしても―。

    アグネス「(そう思うと今回の作戦で彼女の存在を明かすこともリスクでもある。作戦参加者・幹部陣の機密遵守は徹底させなければいけない)」

    一方、私達の内心の揺らぎに関わらず、アスランの説明は続く。

    アスラン「具体的な方法としては、通路に入って暫く進むと港の内部に続く電子ケーブルのカバーが外れるポイントが有ります。これはメンテナンス作業中の業者・港湾職員とコントロールルームの連絡を維持するための物です。
    このカバーを外し、ケーブルを露出させ、専用の装置を取り付け、装置と持ち込んだ機器を連結して行います。
    この方法により、先ずアプリリウス民間港内の全隔壁を閉鎖します。また同時にコントロールルームの出入り口の扉-これはダクトの出口やダスターシュートの入口まで含まれますが―そのすべてを開錠させます」

  • 157二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 00:45:03

    横からゴクリ、と唾液を飲み込む音が聞こえる。軽い武者震いも。正直、アカデミーを出て直ぐの一軍人が任される限度を超えた大任だ。怖じるなと言う方が無理だろう。

    アグネス「メイリン…」

    そっと小声で彼女に呼びかけ、その右手をそっと握る。ありがた迷惑かな。そう思っていると、思いのほかしっかりと彼女は私の手を握り返してくる。

    メイリン「アグネスさん、ありがとうございます」
    アグネス「うん…」

    それで少しは気が紛れていると良いのだけれど…。その間もアスランの説明は続く。

    アスラン「メイリンが電子戦をしている間に先行隊はコントロールルーム手前まで進み、センサーで内部を確認して最適な侵入経路を選択します。そして彼女の開錠と同時に突入。
    遺憾ながらコントロールルームに関しては、その制圧はスタンドグレネードやゴム弾、スタンガン等を用いたものとなります。私とジュール隊長、エルスマン副隊長を始め選抜メンバーが重傷者を生じないよう細心の注意を払ったうえで素早く行います」

    ここで聞き手に徹していたトライン副長がアスランに問いを投げ掛ける。

    アーサー「民間港のコントロールルーム制圧方法は理解した。隔壁を下ろした意味は?」

    敢えてこのタイミングで彼が質問するのは、『聞き手代表』としての役割を果たそうとしての物だろう。

    アスラン「催眠ガスを流すためです。隔壁を下ろすのは群衆に占拠されてない場所までガスが流れ込むのを防ぐため。催涙ガスの濃度は年少者、高齢者が吸って健康被害が生じず、かつ健康な成人男性の抵抗力を奪う程度に調整します」

    そこでジェセック評議員が手を上げて補足説明を入れる。

    ジェセック「群衆が設置したバリケード・障がい物の位置は司法局公安職員が粗方把握済み、こちらに情報を送信させた。内の幾つかが隔壁の邪魔になっているが、シミュレーションしたところ、周囲の隔壁が機能すれば補えることが分かっている」

    ジェセック評議員のお話しを受け、アスランがモニターに映る見取り図に群衆が設置したバリケードの判明した位置、推定と推定位置も示し、その状態で隔壁を下ろして見せる。さらに色を付けたガスを流し込んで見せ、その広がりを皆に確認させる。

  • 158二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 01:02:58

    一度、ポンと手を打った後、トライン副長はもう一つ、重要事項を質問する。

    アーサー「催眠ガスの噴霧方法は、どうする?」

    実はここのポイントで私達パイロット隊が関わってくる。

    アスラン「コントロールルーム制圧後、連続して宇宙港の給気システムの通風口を開き、ドローンを侵入させます。
    催涙ガス弾を装備したドローンをシステムの中心部である循環装置に進めガスを放出させるためです。催眠ガス運搬用以外では、電波中継装置装備ドローン、システム内障がい物移動用ドローン、ガスを流し込む予定ではない区画に空気が流れることを防ぐための密閉ネットを装備・設置する為のドローン等。
    細心の注意と操作技術が求められます。私が選抜したモビルスーツパイロットを中心とした人員がこれを行います」

    港施設内の設計と見取り図が判明しているとは言え、この作業には相当程度高い空間認識力とセンスが必要とされる。そして、私達は頭がおかしくなる程、そうした能力を磨いてきた。でも、一応、2、3回はシミュレーション必須ね。

    アグネス「(『やれ』と言われればやるだけの事。私もシンもハイネ先輩も負傷中だけど、軍人だから致し方なし。私達ならドローンの操縦は人より上手くできる。ルナマリアが思ったより軽症なのが救いか)」

    気無く視線をルナマリアに向けると、彼女は右腕で軽く力こぶを作って『私は平気よ』のジェスチャーを送ってくれる。どうやら、骨までは折れていなかったらしい。『何時もの面子』でもう一仕事、ブラック労働どんとこいだわ。

    アスラン「ドローンと最新式電動車椅子はザフト軍事ステーションから。車椅子は負傷兵の一時リハビリ室から借り受けました。座席部にパーソナルジェットを固定してプラント内作業に赴きます。ドローン組は第2班として、しかし途切れることなく第1班に続きます」

    ここでアスランがこの作戦のもう一つの肝について話し聞かせる。

    アスラン「催眠ガスの濃度は慎重に調整して決行します。しかし、元から持病があった人、年少者の内、特に小柄な者には効き過ぎる恐れがあります。また、ガスを吸い込んで座り込む際、手足を捻挫したり打撲傷を負う者の発生も想定されます。
    逆に青年男性で特に大柄で体力がある者の中には効きが悪い場合もあり得ます。医療班と陸戦隊の働きがこの作戦の成功の最後の鍵です」

  • 159二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 01:34:10

    そこで座席から手が挙がり、軍医殿が説明に加わる。

    軍医「メンテナンス通路に突入する第3班は私達医療隊と陸戦隊が続く。第2班に続いて通路を進み、催眠ガスを吸った人たちのケア、陸戦隊は彼等の確保と移送を行う。軍港に入港したミネルバからも同様の構成の第4班が下船し、医療行為と彼らの制圧、確保、移送を行う」

    アスランが指摘したように、今回の作戦は犠牲者を出してはいけない作戦だ。衛生兵の役割は大きいわ。

    ここまでで民間港の作戦概要はお終いだ。その後もアスランの説明は続くが、エレベーター部分に関してもほぼ同様の作戦が結構予定とのこと。

    アスラン「ただ、奇策が通じるのは最初の一回と割り切るべきです。民間港奪還と占拠されたエレベーター施設の奪還は止まることなく連続される一つの作戦と認識するべきです。そして、そのように実行される必要があります。不法占拠中の民衆に対する心理的衝撃が収まる前に、どれだけ短時間で作戦を遂行できるかが鍵になります」

    そして、もう一つの懸念、デモ隊・抗議者の中に恐らく議長の手下、それも特殊部隊が潜んでいる可能性がある。と言うか高い。

    アグネス「(それゆえにアスラン自身とジュール隊長、ディアッカ副隊長自身が先陣を切るのね。後、頼りになるのはルナマリアか)」

    でも彼女は負傷している。本人はやる気と見受けられるけれど。

    はあ、母親に成ったら子供には軍はやめとけと、しっかり教えよう。本当にきついわ。

    アスランの説明が済み、幾つかの質問と注意事項が交わされた後、ブリーフィングは終了となる。ここからの私達の行動は秒刻みだ。

    私達は使用するドローンの詳細を把握し、シミュレーターに転がり込んで催眠ガス噴霧作戦の手順を必死に練習する。電動車椅子がパーソナルジェットを固定した状態で届いたらその使用方法の把握と移動・飛行練習、これをもう目が回る勢いでこなす。

    その間も準備を終えたミネルバはザフト軍事ステーションを出発、準備不足は承知の上だ。

    道中、シュライバー国防委員長から不法占拠中のデモ隊と交渉して女性と年少者と高齢者の避難に関しては合意できたと連絡があった。エレベーターで実際に移動中なのを確認し、それが降りたら作戦決行とのことだ。

  • 160二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 11:14:24

  • 161二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 11:29:33

    このスレももうすぐ1周年か

  • 162二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 20:48:41

    たちの悪いメイリンによる突入ハッキングが

  • 163二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 20:50:24

    >>162

    ま、まだスキルツリー伸びきってない状態かもしれないし…

  • 164二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 20:53:54

    DESTINY本編の時点でもアスラン脱走回でジブラルタルのセキュリティをハックして警報鳴らしてんだよねぇ⋯
    あのときは後でログ解析されてメイリンの仕業ってバレてたけどFREEDOM時代ならそんなヘマもしないんだろうな

  • 165二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 02:03:00

    リー「それと、重要情報だ!ミーア・キャンベル嬢の搭乗したシャトルの民間港到着を確認。彼女を含む人員が下船している。間に合わなかった!退避する民衆と共に官庁街方面の居住区に降りてくるはず!」

    シュライバー国防委員長に代わって、慌てて会議室に乗り込んで来たリー国防委員が決定的な情報をもたらす。訓練中も広げて置いた業務用デバイス、モニターの向こうの彼は顔面蒼白だ。

    アグネス「了解しました。どうか冷静に…」

    自分自身の落胆の情を悟られないように彼を宥める。どうかしっかりして欲しい。

    アグネス「動揺した方が負けます。粛々と事態に対処しましょう。この件はグラディス提督、ザフト軍事ステーション司令部、ブリュッセルのカザエフスキー最高評議会議員とも共有済みでしょうか?」
    リー「カザエフスキー最高評議会議員にはまだだ。良し!直ぐにでも」

    そう応えてリー国防委員は彼方の会議室を飛び出していく。その先はまた国防委員長の話が続く。

    シュライバー「ザフト軍にはアプリリウス港に向かう宇宙船に対し、船舶検査(臨検)命令を発令した。これは通常任務の範囲内、問題ない。ただ、中立国、友好国の船舶に対しては実施できない。急いでくれ」

    なるほど、アプリリウス外から議長の味方が流入するのを止めるのか。悪くない手だ。

    アグネス「了解。ファウンデーション王国のシャトルはまだ確認されていませんか?」
    シュライバー「ああ。今の所。どこに飛んだんだ?」

    モニターの向こうのシュライバー国防委員長は小首をかしげるが、私が答えを持ち合わせているはずもない。
    まだ後ろなのか、プランBを実行しているのか、どちらかだろう。プランBの中身?私が知るわけないわ。

    ちょうどその時、会議室、国防委員長の傍で話を聞いていたホワイト議員がここに来て彼に苦言を呈し始める。

    ホワイト「どうしてもっと早くその措置を取らなかったんだ!そうすればキャンベル嬢のシャトルを止められたのかもしれないのに!」

    ああ、それ、私もチラッと思ったわ。でも、今出ないとできない理由もあって…。

    シュライバー「あの時はザフト軍全体の動向が明らかではなかった!キャンベル嬢のことが公表されたからこそ出来ることだ。後だしで批判しないでもらいたい!」

  • 166二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 02:13:25

    シュライバー国防委員長にも言い分がある。ただ、やはり言い訳じみている面も拭えない。

    クラーゼク「いや、私も少しそれは思ったのですが…」
    シュライバー「ではなぜその時言わない!?」

    呆れることにモニターの向こうの会議室では、また、しょうもないことで言い争いが起きている。誰が悪いと言うより、もう皆、脳内麻薬の過剰分泌で頭がおかしくなっているのだろう。

    落ち着け。この状況で慌てるなと言う方が無理だ。むしろ彼らの危機意識は幸いの兆しかも知れない。

    アグネス「どうか、落ち着かれますように。ホワイト最高評議会議員、勝負で勝つのはミスをしない者ではありません。より多くミスをした方が負け、少ない方が勝ちます。ミネルバとアプリリウスは既に目と鼻の先、ご辛抱ください。シュライバー国防委員長、外国船舶については『協力のお願い』自体は出来るかと」

    それと一々事が動くたびに絶叫交じりで私に話を持ち込んで来るのは控えて欲しい。こっちも忙しい、これは言えないけれどね。

    ホワイト「ああ…。済まない。シュライバー国防委員長も申し訳ない」
    シュライバー「いや…。ああ、うん。分かりましたとも!特務隊ギーベンラート、心配をかけた。では一旦これで!」
    アグネス「はい!」

    信じられないことに、このやり取りの最中も私達-ハイネ先輩とシン―は電動車椅子+パーソナルジェットの訓練中だ。しかも、作戦次第ではパラシュート降下もあり得るとのこと。信じられないことに、ぶっつけ本番になる模様みたいだわ。

    必要とあらばやるだけのこと、軍人なら。とは言え―。
    何故こんなことに世界は願ったように動かないのかと。腹立たしく感じないと言ったら嘘になる。

    私達はL4宙域から万難を排して急行してきた、それがこの有様。ミーアのシャトルには追い抜かれ、デモまで起きて―。まあ、泣き言を言っても現実は動かない。

    アグネス「とっ…!良し着地!」
    ハイネ「上手いな。うん、良し。上空30㎞からの敵前降下、成功させようぜ」
    アグネス、シン「はい!」

    あくまで作戦次第と言う意味だ。大丈夫、エクストリームスポーツと思えば良い。西暦の時代も似たようなことをしている人はいた。やらずに済めばそれに越したことは無いが…。予断は持つべきではない。

  • 167二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 02:27:00

    でも、その訓練もここまでのようだわ。

    アビー「コンディションレッド発令、コンディションレッド発令。アプリリウス港突入班第1班から第3班はステルスランチにて待機せよ」

    その艦内放送を聞いた瞬間、私の脳内で撃鉄が落とされる。体と心が瞬きする間に置き換わる何時もの感覚、それは負傷していても変わらない。

    赤いパイロットスーツの上から深緑色のボディーアーマーを纏っていても、下腹にウエストポーチ型軍用鞄を巻いているても。シートベルトを着用して座っている最新式電動車椅子にパーソナルジェットが固定されていることも含めて、本当に何時も通りだ。

    ハイネ「じゃあ行くぞ!」
    シン「はい!」アグネス「はいっ!」

    ハイネ先輩に返事をして、即、業務用デバイスに手を伸ばす。この装備の為ために、私のみポーチは特大サイズになっている。ありがたいことに、高性能なこの車椅子は、物を拾ったり、少し距離がある物を取ろうとすると、椅子自体が細目に移動し、角度を調整、椅子の高さも合わせてくれる。

    ハイネ「良し。大丈夫か?」
    アグネス「はい」
    ハイネ「じゃあ、改めて行くぞ!」

    私の準備が整ったのを確認して、車椅子部隊は出陣する。先頭はハイネ先輩、次に私、シン。ステルスランチに乗るまでの順番だ。現場では一番調子が悪いハイネ先輩が第2班の真中になる。

    キュルキュルキュ―。キュルキュルキュル―。キュルルルキュルルル―。

    少し間の抜けた音と共にエレベーターに乗り込み、扉から出るや、皆で高速運転を開始する。この車椅子は少なくとも時速45㎞は出せる。もっとも、事故の恐れから艦内は30㎞で前進する。目的地は艦尾のヘリ格納庫。今はそこに、無理やり詰め込んだステルスランチが3艘ある。

    途中、ルナマリアとショーンとデイル、ガズウート組6人と合流する。

    ルナマリア「ああ、ハイネ先輩、アグネス、シン!すっかり使いこなせていますね」
    ハイネ「いや、よくできた機械だ。まだまだ引き出せてはいないさ。お前の怪我はどうだ?」

    私達と合流し、艦尾に急ぐルナマリアのパイロットスーツは何だか凸凹している。それがギブスか包帯によるものであることは一目瞭然だ。

  • 168二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 02:38:37

    ハイネ先輩に心配してもらったルナマリアは、走りながら少し姿勢を正して応えている。

    ルナマリア「背中と腰の打撲と左腕の微細骨折です。でもしっかり固定したので大丈夫です。任務に臨めます」
    ハイネ「そうか…。ドローンの操縦、頑張ろうぜ。だが、格闘戦も想定される。そっちはどうだ?」

    本来だったら肉弾戦こそルナマリアの本領と言うもの。しかしこの状態では―。

    ルナマリア「十分可能です。鎮痛剤もしっかり効いています」

    そう言ってキリっとした表情を浮かべる。ふむ。さすがは優等生、委員長。
    斜め後ろから見るに、確かに彼女の顔色は良いわ。嘘をついている風でもない。ゴリラは優しい。頼りにしているわ。

    いけない、ゴリラはいけない―うーん、何と言えば良いか、思いつかないわ!

    ルナマリア「アグネス!あんた!」
    アグネス「何にも言ってないわよ!?ルナマリアは頼りになる!うん、これがしっくりくるわ。私はあんたを頼りにしている。あんたも私を頼っても良いわよ。今まで通りにね!」

    内心を見透かされたので慌てて言葉を補ってしまった。そんなことは当然のこと、今更言うまでもない。そう思っていると―。

    ルナマリア「あんた…。映画だと死ぬわよ」
    ハイネ「映画じゃないから死なないさ!」

    失礼なルナマリアの声をハイネ先輩が即座に『逆フラグ』に変えて下さる。うん、この調子で行こう。

    そうして遂に格納庫前到着、アスラン、メイリン、ジュール隊長、ディアッカ副隊長、陸戦隊と医療班の皆さんが続々とステルスランチに乗り込んでいる最中だった。無論、私達も。

    その前に―私達は整備班にパーソナルジェットと車椅子を見てもらう。いざと言う時にガス欠や電力不足に陥ったら困る。動けないのだから致命的だわ。

    ヨウラン、ヴィーノ「OKです」
    ハイネ「ありがとうな。行ってくる!」、アグネス「武運を、ザフトの為に」、シン、ルナマリア、一同「そっちも気を付けて」

  • 169二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 02:45:23

    艦内放送では発進シークエンスは刻々と進んでいく。

    アビー「ミネルバ、ステルスランチ発進ポイントに到達まで後、20秒」

    時間が遅いのか速いのかもう分からない。一つ言えることは―。これが、本当の意味でのポイント・オブ・ノーリターンということ。

    アグネス「(20秒もあるの…。早く済んで欲しい。いけない、私が焦ってどうする?息を整え、精神を集中させろ―)」

    言葉を、心を静め勇気づける言葉を―。

    アグネス「(神よ、私に変えるべくもないものを静穏に受け入れる力と、変えるべきを変える勇気、両者を見分ける洞察力をお与えください。
    一日一日を生き、この時を常に喜びをもって迎え、困難は平穏への道として、至らぬ私の頑迷さを捨てさせ、この罪深い世界を在りのままに受け入れさせてください)」

    私はデュランダル議長が今後の世界にどんなヴィジョンを持っているのかを知らない。彼は変えたいのだろうか、受け入れたいのだろうか、この世界の在り様をどうしたいのか。

    いや、神でさえ大洪水は一度だけとお誓いになった。彼はおそらく世界を砕き、人の領分を踏み越えた。どんな言い分や遠大な目標が有ったとて、初手で禁忌を犯したならその時点でその企ては無効となるべき。零には何を掛けても零だ。

    アグネス「神のご計画にこの身を委ねれば、主が全てを正しくされることを信じています。そして、この人生が小さくとも幸福なものとなり、天国の主のもとで永遠の幸福を得ると知っています」

    最後の部分を唱えると、シンがチラッと私の顔を覗く。

    シン「南無阿弥陀仏(阿弥陀仏に全てを委ねます)?」
    アグネス「まあ、そんなところね。天の国の事は神と仏に、宙と地の国に生きる我等は己が務めを!ザフトの為に!」
    ハイネ、一同「ザフトの為に!」

    私の掛け声に皆が唱和したタイミングでグラディス提督の指示が下る。

    タリア「作戦開始、アプリリウス宇宙港とエレベーター機能を完全に正常化せしめよ」
    アスラン「ステルスランチ1番2番3番、順次発進開始!」
    アグネス、一同「了解!」

  • 170二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 10:33:05

    やはり日系

  • 171二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 19:24:25

    保守

  • 172二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 20:45:47

    ひょっとしてエターナル追跡部隊を引き抜いたから代わりに本物のラクスを抑えるのにブラックナイツをそっちに向けてる可能性もある?
    ダコスタ君の入手した情報の中にアコードの読心能力のことがないとキラが合流してストフリに乗り換えてもヤバいぞ…
    入手してても対策立てる時間もないし…

  • 173二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 20:50:44

    >>172

    メイン武装の胸部ビームやビームライフルやドラグーンをいくら撃っても効果ないのでサーベルでいくしかない…

  • 174二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 23:29:14

    >>167


    車椅子キュルキュル言わせながらステルスランチに乗り込む負傷兵たち

    うーん、本人達は至って真面目なんだけど絵面がシュールでギャグなんよw

  • 175二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 23:35:04

    >>174

    ※休まないといけない負傷兵兼エースパイロットの集団です

  • 176二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 04:26:01

    ステルスランチ1番から指揮を執るアスランの号令が2番に乗り込む私達の耳に届く。直ぐ後に軽い振動、彼等がミネルバのヘリ格納庫を出立した印だ。

    開いた扉から、今度は私達が乗り込む2番ランチが迫り出す。推進装置を吹かせるのは発進時の一度きり、その先は本当に無音で遣り過ごすしかない。

    アグネス「(息苦しい。精神的な者だけではなく肉体的にも)」

    さして広いわけでは無いステルスランチに12人が詰め込まれている。電動車椅子も荷物も込みでだ。ハイネ先輩、私、シン、ルナマリア、ショーンとデイル、ガズウート組6名。その内、ガズウート組パイロット1名はランチの操縦士を務めるが、彼を抜いても11名いる。

    本当に立錐の余地もないとはこのこと。どこかの強制収容所かな。パイロットスーツの酸素と対G機能が無ければ持たなかったわ。

    アグネス「(頑張れ、あと少しの辛抱よ)」

    そう言い聞かせ、自分が腹に抱え込む特大軍用ウエストポーチを一度、ギュッと抱きしめる。
    実はお守り程度の小道具もこの鞄に忍ばせてはある。使う機会、効果の有無は不明ではあるが…。

    ハイネ「…」スッ―。

    ハイネ先輩が手信号で操縦士に合図を出す。その次の瞬間-本当に私が瞬きをする間も無く―この黒い小舟は身を振るわせ、戦女神の背中を飛び立っている。

    小窓からは、我らの青い天秤が大きく大きく聳えている。両居住区の外壁である多層超弾性偏光・自己修復ガラスは私達の斜め上と下に。

    この人工天体に暮らしている身でありながら、近づいてみて見るとその大きさに圧倒されそうになる。

    しかし、今は感慨にふける間などない。アスランが直卒する1番ランチは既に目的の中間施設外壁付近に到達した。機体からエアーバックが音もなく虚空に広がる。後ろから見ると5つ葉のクローバーみたいで何か可愛い。

    ハイネ「…」パッ―!

    ハイネ先輩の指示と共に、2番ランチもエアーバックを開放、ランチが静かに震える。後ろに続く3番ランチの乗員には、私が今見た通りの光景が目に映っていることだろう。

  • 177二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 04:39:38

    私がある程度、余裕をもって『観察』を出来ていたのはここまでだ。ここからの私の感覚は脳内物質の過剰分泌のニューロンの電気信号の洪水で『晴れた靄』に覆われてしまう。相反しているのに―。

    1番ランチが中間施設外壁に衝突、一回バウンドする。1秒後、1番ランチのエアーバックも隣のポイントに衝突、数回のバウンド、3秒ほど。どちらの操縦士も精鋭だ。3秒で制止させる。

    1秒先にバウンドを止めた1番ランチからは、乗員が滑るように外壁目標ポイントに進み出て行く。先頭の赤いパイロットスーツがアスラン、次に進む白いパイロットスーツがジュール隊長、その後ろの黒いのがディアッカ副隊長、さらに5名の緑のパイロットが続く。

    この1個分隊が突入班の先駆け、ミネルバとジュール隊、ザフト軍事ステーションから選び抜いた最精鋭だ。さしずめ『ザラ分隊』と言った所だろうか。

    ザラ分隊の後ろには電子班が続く。比較的小さめな機器を肩にかけて進んでいるのがメイリン、大きな機材を両手で持って飛んでいるのがその補佐役。

    1秒後、私達のランチも止まり、音もなく扉が開く。艇内の空気は既に抜いてある。

    ハイネ「…」シュ―。

    ハイネ先輩の手信号と共に私達は順次、艇外に進む。中からは積み込んで来たドローンセットが入った特大バックを運び出す。これにはコロが付いているから重力下では電動車椅子組の馬力が大いに活用されるはずだ。

    この作業を皆で1秒以内に済ます。私達の傍では3番ランチが着壁、バウンドを制止している。

    その間、ザラ分隊は通路出入口に到着し、アスランは手首に装着したコントローラーを操作する。

    一秒後、頑強な扉は、拍子抜けするほど簡単に開け放たれてしまう。開かれた先には無数の赤外線センサーの光線、無論、それ以外の監視装置もあることだろう。監視カメラはもうすり替え済みか―。

    目線の先ではアスランが国防委員会と司法局に提供させたパスを駆使してセンサー類を軒並み停止させている。最後の1本の赤い光線が消えたのは1.8秒のこと。

    たった1.8秒で首都が丸裸だ!『鍵と地図』を全て与えられているとは言え、常人には出来ぬこと。

  • 178二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 04:50:13

    ハイネ「…」グッ!

    ハイネ先輩との指示で私達は2番ランチの傍を離れる。同じタイミングでザラ分隊は民間港内に侵入を開始する。

    それに続いてメイリン達も突入する。

    通路を泳ぐように進む彼女と補佐役の兵、1秒後には打ち合わせの箇所に辿り着く。彼女達は手際よくプレートの蓋を外し、電子ケーブルに装置を取り付け、それから延びる有線ケーブルを広げて置いたコンピューターに差し込む。

    私達がメンテナンス通路の入口を潜ったのはこのタイミングだ。彼女には彼女の務め、私達も時間を無駄にすることは出来ない。電動車椅子に小型の牽引機にを取り付け、それに大型軍用キャリーケースを括り付ける。

    私に限っては、特大ポーチから業務用デバイスも取り出す。最高評議会ビルやブリュッセルとの連絡だけではない。2番ランチ隊の為の戦況把握も重要な任務だ。

    そんな中、傍で見るメイリンの指先、キーを我武者羅に叩く仕草は、何時もより荒っぽく忙しない。私達が後ろから追いつき焦らせてしまったのか…。

    しかし、心配は無用だったようだ。彼女は6秒後に肩から力を抜き、振り向くこともなくハンドサインを2番ランチ組に示してくれる。

    メイリン「…」グッ!

    インジェクションアタック成功、コントロールを奪取!

    それを見たハイネ先輩から『進め』のサインが示される。ここでハイネ先輩は後ろに下がり、先頭にガズウート隊の隊長格が立つ。

    大荷物を抱えながらハンドガンを片手に彼も必死、私も必死、みんな必死だわ。電動車椅子は大荷物を引きながらゴットン!ゴットン!と車輪を進めていく。

    私は、負傷中の左手で車椅子を操作しながら、右手でデバイスを操作する。

    アグネス「ザラ分隊のコントロール室突入まで残り90秒!」

    無理をしているはずなのだけれど、全然苦に感じない。むしろ、五感が研ぎ澄まされ過ぎて、脳と外界が直列繋ぎになっているような、全能感に近い不思議な感覚を覚えている。

  • 179二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 10:14:55

  • 180二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 17:24:41

    ボロボロ

  • 181二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 21:08:53

    そろそろ脳内麻薬中毒にならないか心配になってきた

  • 182二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 03:32:33

    私の状況報告と時を同じくして、3番ランチを出撃した陸戦隊1班と衛生兵1班が全員メンテナンス通路に侵入を遂げる。その直後にメイリンは通路の入口扉を閉める。死の宙と我らを区切る、その静かな振動が胸に響いた時の安心感はたるや…。体験した事のない人には一生かけても説明できないだろう。

    しかし―。90秒は短い。心臓の鼓動までいつもより早まる。モビルスーツを操縦している時とはまた違った緊張感-

    その間を利用し、私達はメイリン達電子班の傍を離れた後、ひたすらに足を進める。目的ポイントは、メンテナンス通路から出て暫く先の大型の通風口2基の前。

    幾つかある通風口の中からこの2基を選択した理由は、制限時間内に到達可能で、かつ、循環装置までの障壁-ダンパ(通風管の中間に取り付け風量を調整する装置)-が少なく、残りもコントロールを奪取したメイリンに開閉できる物と判明しているためだ。

    アグネス「(遠隔作業もできるドローンだけど、時が惜しい)」

    その後ろを3番隊は全力で追う。私達も大荷物だが、陸戦隊はさらに上回る。各員、パーソナルジェットに加え大型軍用バックも背負い、更に制式ライフルと防護盾、予備ドローンまで運搬して来る。医療班は最小限度の自衛武器以外持つことは禁止だから仕方ない。

    そうして施設内通路を密やかに駆け抜けること60秒後、目標の大型通風口前に駆け込む様に到達する。

    アグネス「電子班に報告。2番隊、通風口前に到達。ドローン準備と菅入口の鎧戸撤去に移ります」
    メイリン「了解です」

    メイリンとの通信中、後ろから陸戦隊が追いつき、周辺警戒を開始する。2番隊はドローン準備、鎧戸を外し始める。

    その最中、私のデバイスに短い文章通知が国防委員会から届く。

    『官庁街側のエレベーター昇降施設から退避に応じたデモ参加者が退場中、女性と子供と障がい者、高齢者の大部分。なお、その中にミーア・キャンベル嬢一行も確認。
    彼女に同行するのは緑服のマネージャーと黒服ボディーガード4程名、身のこなしから現役ないし退役間もない特殊部隊員と推測。なお、この報に関わらず、現行の作戦は続行されるべし』

  • 183二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 03:39:22

    読んだら即、ザラ分隊に取り繋ぐ。

    アグネス「アスラン先輩、ミーア一行と要配慮者の大部分は港とエレベーター施設から退去中、作戦は続行。以上」
    アスラン「こちらアスラン、了解。コントロールルーム突入まで残り15秒!」
    アグネス「了解」

    ガラン!ガラーン…。ガラン!ガラ――ン。

    背後では音を立てて、通風出口鎧戸が転げ落ちている。

    アグネス「注目!状況はお聞きの通り。作戦は続行。ザラ分隊、コントロールルーム突入まで残り14秒!」

    ハイネ「了解!皆良いか?」
    一同「はい」

    ザラ分隊の勇敢さに報いるべく、私達も何とかドローンの離陸態勢を整える。催眠弾を運搬するのは6機、中継ドローン2機、通風管障害物突破作業要・封鎖作業用ドローンが2機、これはダンパの制御が不発に終わった時の備えだ。

    私の割り当ては中継ドローンになっている。いわばWiFi役。途切れた場合、作戦は破綻する。命が鑢に掛けられているような心地だ。

    業務用デバイスにはアスランとメイリンの遣り取りが続いて表示される。

    アスラン「メイリン、2番非常口だけ空けろ。他は閉めろ。3で行く」
    メイリン「了解です!」

    ちょっと!速い速い速い―

    アグネス「3秒後に突入!2、1、ゼ…」

    私が『零』を言い切る0.01秒前に数ブロック先で空気が震えた。どうか!?

  • 184二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 03:44:26

    ハイネ「ドローン隊発進!先頭はシンだ。頑張れ!」
    シン「はい!」、一同「了解!」、アグネス「…!?」

    ハイネ先輩は突入の結果を待たず決断を下す。アスランへの信頼によるものか、鍛え抜かれた第六感によるものか。何にせよ、私もデバイスをコントローラーに持ち換える。

    アグネス「メイリン、ドローン投入。経路上のダンパを開放せよ」
    メイリン「了解!」

    通風口に滑り込んで行く催涙弾運搬のドローン6機、作業用ドローン2機、いよいよ後発の中継のドローンも―。

    最後尾のドローンが菅内に入り終わる前にアスランの報告が届く。

    アスラン「民間港コントロールルーム制圧。重傷者・死亡者なし。軽症者3名、彼等は特殊部隊員だ。無力化した者を拘束し、先を急ぐ。メイリンは現在地で隔壁の閉鎖を!その後は陸戦隊と共にコントロールルームへ。続きの隔壁操作はここでしてくれ。それと着き次第、中間エレベーター施設にインジェクションアタックを。3番隊は2番ランチ組に警護を2名残して彼女と前進せよ!」
    メイリン「はい。全隔壁強制閉鎖!」、3番ランチ組「了解!」

    微かな振動が空気を揺らし、それがパイロットスーツ越しに私にも伝わってくる。隔壁はもう下がったのだ。恐ろしいスピード感、付いて行けなければ死ぬ。

    『衝撃の原則:衝撃は「速度と集中力」の心理的結果である』。私達は奇襲を仕掛けたのだから機動を止める訳には行かない。

    シン「真っ暗!?ライトじゃだめだ。まじデータだけが頼りかよ!」

    操作に必死になりすぎたシンが何やら声を上げている。その様はまるでゲームに没頭している西暦時代の子供のようにも見える。無論、見た目だけの話だ。命が掛かっている。

    アグネス「シン!集中。シミュレーター通り。ガルナハンを思い出して!今の方がずっと楽なはず」
    シン「わ…分かった!」
    ルナマリア「もう!」

    管の中を高速で飛ぶシン達のドローンを追いかけ、私はやや慎重に中継ドローンを進める。その時々で一番、無線が届くか考える必要があるためだ。

  • 185二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 04:19:43

    チョウチンアンコウのように漆黒の空間を進む我が愛機、良し。何とか無線は繋がっている。良いぞ!

    その時、パタパタと駆ける電子班の足音が入口から向かってくる。メイリン達だわ!彼女達を待っていた3番隊は合流するやそのまま駆け出す。その際、彼ら彼女らから私達の背中に敬礼を受けた。感覚で分かる。でも今回ばかりは返礼できない。

    シン「循環装置確認-空間に到達!」
    ハイネ「俺も到達した。後続、シンと俺のライトが見えるか?急げ!」
    ショーン、デイル他「了解!」

    頼むわよ、チョウチンアンコウ君。無線がここで切れたら―銃殺刑ものだわ。

    ハイネ「安全装置解除!催眠ガス噴霧開始!視野の確保のため奥の機体からだ。投下したら順次、撤収。無理ならドローンは投棄すること」
    シン、一同「了解!」

    側で作業を続けるシンのコントローラー画面を確認するとドローンから投下された催眠弾から、ガスが濛々と立ち込めている。

    彼が先頭だから、この機体が最初に管を出てくるのか…。この空間にも催眠ガスは当然逆流して来る。パイロット用ヘルメットを皆、装着しているから関係ないけれどね。

    下に置いた業務用デバイスに今度はミネルバブリッジから入電。アプリリウス軍港に入港、接舷完了とのこと。

    モニターの先では、ミネルバ内にぎゅうぎゅう詰めにされていた陸戦隊と医療班が上陸を開始している。それを出迎えているアプリリウスの黒服参謀たちの表情からは安堵の念が溢れ出している。

    取り合えず、これで第一関門は突破したとみていいだろう。突入から全行程を合わせても3分かかっていない。

    胸を撫で下ろしながらドローンの操縦をしていると、軍港内では思わぬ遣り取りがなされている。

    タリア「アプリリウス軍港司令官部に通達。本艦の入港を許可していただき感謝します。そして―もし貴官達がそれを良しとご判断いただけるなら―この場のザフト軍部隊の指揮権を特務隊長タリア・グラディスに一時移譲下さい。その場合の全責任は本官が負います」

  • 186二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 04:53:17

    アグネス「え…?!」

    思わず、中継ドローンを通風管の壁にぶつけるところだった。え…、だって―私達は民間港とエレベーターの制圧までしか下命されていなかったはず―。

    アグネス「(戦場は生き物。この機を逃すべきではないと踏んだのね…)」

    果断と言って良い。『将在外,君命有所不受(将は外に在りては、君命をも受けざる所あり)』、まして今回の場合、国防委員会の判断は明らかだ。きっと直前にシュライバー国防委員長の言質を取った上での勧告だろう。

    殆どのザフト軍と同様にアプリリウス軍港司令部が今まで旗色を明らかにできなかった理由は、指揮命令系統の分裂に加え、内乱勃発の恐れと民衆に銃を向けることへの忌避感があったから。

    その一方、軍港司令部は元より政変長期化による国益の毀損を憂慮していた。自分たちが決断を躊躇していることは却って、内乱回避の芽を摘み自国民の安全を脅かすことに繋がるのでは―と恐れてもいたはず。

    そこに自分たちの目前で、民間港のコントロールが呆気なく私達によって奪還され、催眠ガスでデモ隊は眠りに落ちて行く。以後の責任は特務隊長(実質、月軌道艦隊)が引き受けると伝達された。ラクスはミーアだった。ライトナー評議員の演説も聞いた。

    さあ、どうする?

    モニターに映り込むグラディス提督の表情筋は緊張で張り裂けそうだ。私もチェスでチェックと言う時、こういう顔をするのだろうか。

    多分、彼女にとってこれは人生で最大の賭け―出産も大変か、安産・難産、胎児と自分の命―だから、きっと彼女の最大の賭けの『一つ』だろう。

    アプリリウス軍用港司令官「話は分かった…。ああ…。本官の指揮下にある全部隊の指揮権を―グラディス提督に移譲しよう。この事態が解決するまでの間-」

    勝った!まだ勝ってないが、この場は勝ったわ!

    アグネス「(『衝撃は速度と集中の心理的結果である』、勝負あったと彼らに思わせることが出来れば、理屈は後からどうとでも付けられる。元々、合法性はこちらが上なのだ。勢いを大事にしよう)」

  • 187二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 10:43:34

    一手間違えば大惨事にもなりかねない状況下でこの判断力は…
    つ、強い!強すぎるぅ!(島田ボイス)

  • 188二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 19:49:52

    保守

  • 189二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 00:34:03

    保守。

  • 190二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 04:27:31

    ドローン操作を一時中断、即、情報共有。まず、ザラ分隊から。

    アグネス「アスラン先輩、アプリリウス軍港全部隊の指揮権がグラディス提督に移譲。司令・統制機能、軍港陸戦隊、医療班、電子班、オペレーター等、加えてモビルスーツ隊、ナスカ級4、ローラシア級4他」
    アスラン「了解。こちらはこれよりエレベーター中間施設の第1コントロールルームに突入する。残り10秒。本作戦は提督からの指示あるまで変更なく続行せよ」

    10秒!電光石火とはよくいったものだ。

    アグネス「了解」

    その時、傍らからはシンの鋭い声が飛ぶ。

    シン「アグネス!つっかえてるぞ!」

    私のドローンの手前までシンのドローンが迫っている。分かってる!

    アグネス「ハイネ先輩、お聞きの通り。『メイリン、そちらにも情報、上がっている?』」

    上がっていると踏んでデバイスは下ろし、中継ドローンのコントローラーを引っ掴む。集中!全集中力を!チョウチンアンコウ君、頑張れ、私も頑張る。

    メイリン「届いています。こちらは隔壁操作中、次の通風口までの通路は開放済み。眠った人は陸戦隊が隅に寄せました」
    アグネス「了解!」

    下に置いたデバイスからはメイリンの報告が上がる。それに向け私もやや声高に応じる。同じタイミングで通風口から私の後ろで任に当たっていた中継ドローンが最初に帰還する。そう言えば彼が最初になるか―しっかりしろ。

    2秒後には私とシンのドローンが通風口からスライディングするように飛び出る。

    ハイネ「移動準備!ドローンはそのまま飛ばして進むこと」
    アグネス、一同「了解」

    急いでデバイスを拾い上げ、太腿の上に乗せ、その上にコントローラーを乗せる。荷物の整理、電動車椅子の牽引機に接続は最初に出て来た中継ドローン操縦者が進めてくれている。ガズウートパイロット達は負傷していないから体の自由が利く。

  • 191二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 04:37:00

    5秒後には全ドローンが手元に戻る。損失なし。残り2秒でアスランが突入する!

    ハイネ「移動開始。焦るな。状況は一気に有利だ。民間人に犠牲者を出さない事を最優先に」

    車椅子の車輪をフル回転させながら、ハイネ先輩の呼びかけにお答えする。

    アグネス、一同「了解!」

    次の目標、エレベーター施設通風口2基まで、私達は全力で進んでも10秒かかる。ゴトンゴトンとバウンドする牽引中のキャリーバック、通路の隔壁はメイリンの報告通り開かれ、通路の脇にはぐっすりお眠り中のデモ隊諸君が転がっている。通れるようにスペースを開けてくれた陸戦隊に感謝する。

    その2秒後、前方から空気の波が伝わってくる。ザラ分隊の本日、2度目の突入が決行されたのだ。しかし結果を気にする余裕などあるはずもない。時間と流れがぐっと濃縮されるような感覚。おそらくザラ分隊なら大丈夫だろう。

    アスラン「中間エレベーター第1コントロールルーム制圧。死傷者なし。内、特殊部隊の2名は確保、拘束済み。メイリン、隔壁を下ろせ」

    予想通り、3秒後にはアスランの報告が届く。

    メイリン「了解。中間エレベーター施設。全隔壁強制閉鎖!」

    中間エレベーター施設の制御は既に彼女が民間港コントロールルームから既に奪取済みとなっている。前方からスルスルと隔壁が降りる気配がする。私達、ドローン隊はその5秒後に第2目標の大型通風口の前に到着する。来てみると先に進んだ3番ランチ陸戦班が通風口の鎧戸を外してくれていた。

    ハイネ「催眠弾の装備開始。焦るな!」
    一同「了解!」

    ハイネ先輩の指示を待たず、ガズウート隊は手早く車椅子組の分も含めてドローンに催眠弾の装備を始めている。その間、私は連絡を電子班に入れる。

    アグネス「メイリン、ダンパを開けて!」
    メイリン「了解です」

    ここで一度、モニターを切り替えると、ミネルバ下船組の陸戦隊と医療班が軍港の陸戦隊と医療班と合同で眠りに落ちたデモ隊の収容と介抱に務めている。偶に意識が残っている者もいるが抵抗の余地は既にない。
    彼等の留置は基本、港内の待機スペースとなるが、新たに艦が指揮下に加わったから、一時後送することも可能になっている。良いぞ、この調子だ。

  • 192二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 12:09:27

    TSUEEEEEE!
    なんだけど、上手くいきすぎて逆に不安になってくる

  • 193二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 21:07:03

    保守

  • 194二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 01:36:04

    ハイネ「ドローン、投入開始!」
    アグネス、一同「了解!」

    私達が操縦するドローン隊が再び通風管に突入する。前回と比べ循環装置までの道程が少し長い。中間エレベーター施設の核心部に手を伸ばすのだ。Wi-Fi役も今回こそ本領を発揮するべき時。

    シン達運搬用ドローン隊の後ろを作業用ドローンが飛び、その後ろを探るように私のドローンも進む。その後ろには中継ドローンがもう1機、比較的手前側から無線を中継する。

    メイリンが頑張ってくれているから障壁の心配は―いや、楽観するべきではない。コントローラー画面のモニターの片側に事前データを表示し、残り半分にライトで照らされた通風管内を表示する。

    ここまでは順調に進んでいるはず。それなのに1秒1秒が過ぎるのがとても遅い。もしかしたら今にも議長の反転攻勢が始まるのではないか…。突然、後ろに特殊部隊が迫って首の付け根に銃口を突き付けられるのではないか―。

    それだけの迫力と言うか存在感があの男にはある。それに一般論としても攻撃を発動した瞬間が一番危ういのだ。

    アグネス「(だからこそ!集中、今を。まず、今だけを!)」

    何より、もう少しでシンのドローンが循環装置に到着する。それで催眠弾を投下すれば、エレベーター中間施設制圧が成る。落ち着け―。

    シュライバー「一時大事だ!議長が回答時刻を切り上げて返事を寄こしてきた!その内容が…」
    アグネス、一同「…」ビクッ!

    突然、デバイスから大声で通信が入り、総毛立つ!私だけではない。私も皆も通風管突入で必死の所だったのだ!
    ここで通信を入れるほどの事か?いったい何が起こった?!

    アグネス「作戦中です。傍に他の者も。お構いないならお話し下さい」

    コントローラーから目を離すことなく、やや声を高くしてお答えする。『国防委員長の相手は私がするので集中を!』と周囲に伝える為だ。私も脳の70%はドローンへ、30%でいいならどうぞ!

    アグネス「(作戦中に本気なの?この人!)」

    デバイス画面に視線を向ける暇はない。彼方に偉い人が何人いるかも分からない。取り合えず、通信の主はシュライバー国防委員長だわ。彼が何やら騒ぎ立てている。

  • 195二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 01:47:38

    シュライバー「議長が期限前に回答を寄こしてきた。こちらの3つの要求について。1つ目と3つ目について議長はこちらの要求を呑むと。1つ目、調査・改善委員会についてだ。最高評議会と60人議会から選出された者が委員となり、両議会の下で機密遵守を誓約した上で作業をすることに同意した。実質的な秘密会だな」

    それは結構!こっちもモニターによるとシンが循環装置に到着したわ。

    アグネス「成功ですね!」
    シン「ああ!」

    適当に相槌を打つとシンまで反応する。もう何でもいいわ。思うに国防委員長は単に励ましと同意を欲しているのだろう。この鉄火場の私に求められても困るが、言いたいなら聞き流すから好きなだけ喋っていてください。
    シュライバー「ああ…。それで―」

    シン「着きました!」

    口ごもるシュライバー国防委員長をそっちのけで、傍らではシンがハイネ先輩と皆に嬉しそうに報告している。

    ハイネ「…いいぞ!後続は慌てなくて良い。でも急げ!」
    ルナマリア、一同「了解!」

    アグネス「(無線は良好そう。何よりだわ。これなら少しはお相手を出来るか)」

    ドローンは今のポイントをキープしながら少し、体の向きを変える仕草をして国防委員長に続きを促す。

    シュライバー「3つ目についても!『プラント最高評議会議長全権代行』に委譲される権能に国家元首の持つ栄典授与権も含まれることに同意。全権代行の名においてキャンベル嬢に『最高評議会議長自由勲章』が授与されることに異は唱えないと!」

    アグネス「議長がそこまで折れるとは―。少し怖いですね」
    シュライバー「ああ、それはだな…」

    私が鬱陶しい上官の聞き役を引き受けているうちにハイネ先輩を含む催眠弾運搬ドローンは全機目的地に到達している。良いぞ、無線も大丈夫そうで何よりだわ。

    ハイネ「良し、揃ったな。全機、安全装置解除せよ。投下はシンから、順に通風管を逆戻りしろ。無理ならドローンは投棄すること!」
    シン、一同「了解!」

  • 196二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 02:48:21

    肩越しにシンの手元を覗き込むのは今日で2度目になる。彼が投下した催眠弾からは前回以上の量の催眠ガスが濛々と立ち込め、あっという間に循環装置に吸い込まれていく。他の機体もそれに続くだろう。どうあれ、この戦場は私達の勝ちだ。

    脳内麻薬が一度切れたのか、身体がふにゃふにゃに成りそうなのを必死で押し留める。まだ虎口は出ていない。より深いところにこれから飛び込むのだ。

    シュライバー「ところが、2つ目『議長の全権能の委譲と残る議長特権の内容』でかなりの難題を突き付けて来た―」

    任務中にあーだこーだと勘弁して欲しいけれど、もう仕方ない!聞き役が欲しいのね。良いわよ!

    アグネス「(やはり議長は条件闘争を仕掛けて来たか?それともこれは時間稼ぎや撹乱工作と見るべきなのか―一挙両得狙いと見るべきね)」

    アグネス「あれでもかなりの譲歩かと。『委譲期間中もギルバート・デュランダル氏が最高評議会議長の職名を用い、閣下の称号を有し、議長官邸に居住し、議長警備隊による警護を受け、給料を全額保証され、専用の自動車・宇宙船舶・地上船舶・飛行機・シャトルが利用可能であり、最高評議会に事前申告と評議会が指定した職員の同伴があれば海外訪問も許可される』、これ以上何を?」

    首を向けることはかなわない。でも可能な限り、国防委員長の迷いは受け止めよう。今揺らがれては皆が困る。

    シュライバー「それらの条件に加えて、議長が要求している物は以下だ。
    『① 官邸内のオフィスに議長自ら採用した専属職員を60人配属されること。現在、公職等に就いている者は本人が応じれば出向を許可すること』
    『② 海外訪問時の制約は受け入れるが、国内の外出・移動-プラント本国並びに地球上の実効支配領域-については制限しないこと。また自分と専属スタッフの通信の秘密を守り、検閲・傍受を禁ずること』
    『③ 要請をすれば、現職の最高評議会議長並びに最高評議会議長全権代行と同等レベルの機密情報の報告を受ける権限を残すこと』
    『④ 免責特権、不逮捕特権を認めること。最高評議会議員の一人として任期終了までは逮捕・拘束されず、最高評議会内で行った演説・討論・表決について、評議会外で責任を問われないこと。最高評議会議長在任中の公務としての行動は免責されること』」

  • 197二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 10:37:04

    保守

  • 198二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 19:27:33

    スレの残り数が少なくて心苦しいけど時間がやばいので保守

  • 199二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 19:28:02

    >>196

    あ~やりたいこと終わったら好きにしろって言ってるのかこれは

  • 200二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 21:21:14

オススメ

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