シャーレ夜食部

  • 1二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 01:53:46

    カタカタカタカタ
    ッターン

    ”ふぅ……”
    ”そっちはどう?”
    ”終わりそう?”

    カヨコ「あと二行で終わる――終わったよ。んっ……おつかれ、先生」ググッ

    ”お疲れさま!”
    ”いやあ、さすがだよ”
    ”どうする? 早めに終わったし、ごはんでも食べに行く?”

    カヨコ「いいね。社長たちも、今日はハルカのバイト先でご飯食べて来たみたいだし……。あ、でもどうせなら」

    ”?”

    カヨコ「わたしとも作らない? 夜食をさ」

  • 2二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 01:54:58
  • 3二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 02:00:24

    厨房

    ”カヨコの手料理を食べられるなんて光栄だなあ!”

    カヨコ「初めてでもあるまいし、なに言ってるの先生。それに一緒に作るんだよ。こないだ、ユカリともいっしょに作ったんでしょ?」

    ”あー、あの時ね!”
    ”ほんと助かったよ。しかもなんだかんだ間を取り持ってくれたみたいで、”
    ”もう便利屋には足を向けて眠れないや”

    カヨコ「こちらこそ、だよ。ユカリの家では値段なんか想像できないようなご馳走もいただいたし。滞在中にユカリが先生に教えてもらったって言って作ったキッシュも不格好だったけど、美味しかったよ。あれ、私のレシピだよね」

    ”そうそう”
    ”前にカヨコから教えてもらったやつ。作ってみたくてさ”

    カヨコ「あれは時間があるときの料理だったんだけど……。なんで夜食で作るかな。せっかくいっしょに作ったのに、食べられなかったんでしょ?」

    ”ぐっ。おっしゃる通りです”

    カヨコ「意味わかんない……。あの時そう言ってくれれば待ったのに」

  • 4二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 02:03:27

    食レポ上手い方やん

  • 5二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 02:03:34

    ”あの日は私が悪かったからね”
    ”ユカリが自分から帰るって言ったし、それを引き留めるのはよくなかった”
    ”……今度私からもお詫びしないと”

    カヨコ「ふふ。そしたら次回もぜひ便利屋を、お引き立て願いたいね」

    ”それはもちろん”
    ”そうだ、なんか困ったことない? なにかあったら相談してね”
    ”私にできることはなんでも協力するよ”

    カヨコ「そうやってなんでも相談してって言わない方がいいって何度も――まあいいや。でも嬉しかったよ、頼ってくれてさ。アルの髪は長いから、寝ぐせ直しには苦労したけど……」

    ”ああ、だからお団子ヘアだったんだ”

    カヨコ「そうそう。ムツキの髪は太くて重いから寝ぐせ付きづらいけど、アルは細いくせに毛量があるから」

    ”それで、なに作る?”
    ”今日は作る気なかったから、あんまり材料ないけど”

    カヨコ「それなんだけどね――」

  • 6二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 02:14:46

    カヨコ「これが今回の材料。冷蔵庫と冷凍庫漁ってたら見つけてさ」

    ”なにしてるの……”
    ”えっと、フジッリにたまねぎ、にんにく……”
    ”使いかけのベーコン……。これ、いつのだろ”

    カヨコ「カッチカチだったから使えるはず。多分ね」

    ”豆は……レッドキドニーとひよこ豆、かな”
    ”どこにあったの?”
    ”買った記憶がないんだけど……”

    カヨコ「それはさっき下のコンビニで買ってきた。あそこ、意外と食材充実してるから。あれ、嫌いだった?」

    ”ぜんぜん食べられるよ!”
    ”ソラちゃん、私がカップ麺ばっかり買ってたら怒っちゃってさ”
    ”ひと手間かかるようなものばっかり置くようになったんだよね……”

    カヨコ「そりゃそうだよ。不摂生が過ぎるというか……。気を付けないとあっという間に成人病コースだから気を付けないとダメだよ、先生」

  • 7二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 02:15:19

    >>4

    ほんとに?

    うれしい!

    ありがとう!

  • 8二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 02:23:21

    ”あとは香草類……フジッリ使うんだからパスタ料理なんだろうけど……”
    ”ホールトマトもあるってことは、アラビアータ的な?”

    カヨコ「惜しくも近くもないね。まあでも、味はそうか、アラビアータになるのかな。でもこれはあくまで豆料理。そう。誰が何と言おうと、豆料理」

    ”カ、カヨコさん”
    ”なんか妙な気迫が……”

    カヨコ「いやさ、こないだアル達と見てた映画がすごい印象的で……。そこで食べてたのは唯の豆の缶詰だったけど、同じ時代の料理を作りたいなってずっと思ってたんだ」

    ”へぇー”
    ”便利屋のみんな、映画好きだもんね”

    カヨコ「私の趣味に付き合わせてるようなもんだけどね。意外とハルカも好きでさ……。ま、映画の話はおいおい話すとして」

    ”なんていう料理名なの?”
    ”私、知ってるかな”

    カヨコ「知らないと思う……。作るのは『フーヴァーシチュー』。大恐慌時代によく食べられていた、貧乏人たちの食べ物だよ」

  • 9二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 02:34:22

    ”び、貧乏人……”

    カヨコ「まずは玉ねぎをみじん切りに、ベーコンを短冊状に切って――」サクサク トントントン

    カヨコ「――アルが憧れるアウトローだって、言ってしまえば貧乏人だよ先生。カウボーイ、銀行強盗、ヤクザ、マフィア。どれも始まりは、庶民にすらなれない爪はじきものから始まるストーリーが多いでしょ」ザッザッ

    ”それは、そう……かな?”
    ”あ、私なにすればいい?”

    カヨコ「んー……。この料理、すぐ作れるんだよね。そしたら付け合わせの準備してもらおうかな」

    ”そうなんだ。材料は多いのに……”

    カヨコ「あのね先生。夜食でしょ。そんなのに手間かけてどうするのさ……。パッと作れてお腹に溜まる。夜食にそれ以上はないって。じゃあ、コーヒー豆挽いといてくれる?」

    ”コーヒー豆?”
    ”いいけど……”

    カヨコ「出来る限り粗目でね」

  • 10二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 02:40:22

    カヨコ「あとニンニクを一欠けみじん切りにして……油で炒めて香りを出す」ジュゥゥゥ

    ”おおっ、食欲を誘ういい匂い!”
    ”できる限り粗目って、そしたらこのダイヤル限界まで回しちゃうけど、いいの?”

    カヨコ「いいよ。ほんとなら――」

    コンコン

    カヨコ「布に包んで、ブーツで豆を叩き割るんだから。さすがに靴で割るのはイヤでしょ?」

    ”うっ。まあ、衛生的に考えれば……”

    カヨコ「だからグラインダーで最大まで荒く。大丈夫だよ。ペーパードリップとかじゃないから」

    ”カヨコの淹れてくれるカリタ式、美味しくて好きなんだよね”

    カヨコ「……それはまた今度。さて。油にニンニクの香りが移ったら、玉ねぎとベーコンを入れて、少し透明感が出るまで、炒める」ジャッジャッ

  • 11二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 02:52:34

    ”二杯分ぐらい挽けばいいかな?” バリバリバリ

    カヨコ「1.5ぐらいでいいかな。かなり濃くなる抽出方法だから。それ挽き終わったら、パスタ茹でてくれる、先生?」

    ”オッケー!”

    カヨコ「ほんとはマカロニ使うんだけど、なかったから代用」

    ”マカロニかぁ”
    ”マカロニサラダぐらいしか使い道思いつかなくて、買ってなかったんだよね……”

    カヨコ「いいんじゃない? 正直、このレシピ、すごく適当でいいはずでさ」

    ”そうなの?”

    カヨコ「豆と炭水化物とトマトが入ってれば体を為すというか。この味付けならなんでも美味しくなる、みたいな黄金レシピだから。だからこそ、いろんなところで作られたわけで」

    ”……まあ、どうせ食べるなら、美味しく食べたいしね”
    ”じゃあパスタ茹でちゃうね?”

    カヨコうん、よろしく先生。それ、茹で時間何分?」

    ”3分!”

    カヨコ「了解。じゃあこっちは、ホールトマトとローリエ、パセリ、オレガノ、チリペッパーを目分量で適当に……」

  • 12二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 02:54:35

    カヨコ「あ、豆もこのタイミングで。いつでもいいと思うけどね。ほんと適当にドボドボ入れちゃう感じ」

  • 13二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 03:06:26

    カヨコ「そしたらこっちは一度火を止めて……」カチッ

    ”パスタはもうちょっとだね”
    ”ざる、使うでしょ? 準備しておくね”

    カヨコ「あ、うん。ありがと……」

    ”そういえばさ、どんな映画みたの?”
    ”私も見てみたい!”

    カヨコ「ん……。『二十日鼠と人間』って映画」

    ”二十日鼠と人間?”
    ”……あ! 私、小説読んだことあるかも!”

    カヨコ「ほんと? ――そっか。先生も知ってるんだ。ふふ。なんだかいま、踊りたい気分」

    ”あはは、いつでもお供いたしますよ”

    カヨコ「ホントには踊らないよ、踊り方なんか知らないし……」

    ”残念。”
    ”でも読んだのずいぶん前だからなあ。映画になってるなんて知らなかったし”
    ”確か農場で働く人たちの話……だったっけ?”

  • 14二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 03:19:07

    カヨコ「そう。農場で働くっていうか……。仕事を求めていろいろなところを渡り歩く『渡り労働者』――ホーボーって人たちの話だね」

    ”ホーボー……”
    ”確か、小柄で頭のいい男と、体が大きくて力がつよい……”
    ”……えっと”

    カヨコ「名言されてないけど、まあ。精神的に問題を抱えた人だろうね。憶えてるじゃん、先生。――二人は仕事を渡っているけど、体の大きな男の人が問題を起こすせいで長く働けない。だからお金もたまらないし、もちろん家なんて持てない。そんな二人がようやく見つけた仕事で、ずっと叶えたかった夢に手が届きそうになる、っていう感じかな」

    ”思い出してきたかも”
    ”確か最後は――”

    ピピピッ

    ”っと。パスタが茹で上がったね”

    カヨコ「……そしたら、水を切ってこっちの鍋に入れちゃっていいよ」

  • 15二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 03:28:05

    カヨコ「もうほとんど完成」

    ”えっ! 早い!”

    カヨコ「だから夜食にそんな手間かける方がおかしいんだって……。ここにケチャップを適当にいれて、コンソメを半欠片……。あとは塩で味を調えて……」ユビ チョンチョン

    ペロッ

    カヨコ「ん、決まった。あとは火にかけるんだけど……。先生。これ、水分飛ばしてさ、ヘラで引いたときになべ底が見えるぐらいになったら、火を止めてくれる?」カチッ ボボッ

    ”ゆっくり混ぜておけばいい感じかな”
    ”ああ……わかってるよ。本来夜食はこうあるべきだって……”

    カヨコ「なにぶつぶつ言ってるの? はい、ヘラ」フリフリ

    ”はい……”ウケトリ

  • 16二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 03:37:02

    カヨコ「で、ちょっと横ごめんね、先生。コンロ一口使わせて」

    ”おっと” カシュカシュ
    ”あ、コーヒー豆”

    カヨコ「うん。ちょっと時代はズレるけど、これも同じ国の飲み物。っていうか、飲み方って言った方が良いかな」

    ”時代はズレるって、あんまりそんなの気にしたことないよ”
    ”カヨコはすごいなあ……”

    カヨコ「いや、私も毎回こんなことしてるわけじゃ……。ただ、昔のレシピだし、昔の飲み物を合わせたいなって思っただけ」

    ”ふふ”
    ”意外と凝り性なんだよね、カヨコ”
    ”意外と、っていうほどでもないかな”

    カヨコ「う、うるさいな。はぁ……。これは『カウボーイコーヒー』。西部開拓時代の労働者が飲んだ……。お上品なコーヒーとは違う、野趣味と粗暴さにあふれた煮出しコーヒーだよ」

  • 17二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 03:49:28

    ”煮出しなんだ!”
    ”私、煮出しでは飲んだことないや”
    ”上澄みの泡をすすって飲むんだっけ?”

    カヨコ「それはまた別の淹れ方だね。あっちは細挽きで、しかも砂糖を入れて飲むやつでしょ。これは、そんな手の込んだことはしない……。ここに水を入れて」ジャバジャバ

    ”ほうほう”

    カヨコ「煮る。終わり」カチ ボボッ

    ”ええ……”

    カヨコ「一応、好みの淹れ方もあるんだけどね。沸騰したら一呼吸置いて、もう一度沸騰させるんだけど……。それを何回やるか、ってぐらい。温度を気にしたり、粉を蒸らすとか、どんな豆を使うとか。そんなの一切ない。ただ豆を砕いて煮る。それだけなんだ」アハハ

    ”カヤが聞いたら目を剥いて怒りそう……”
    ”でも、こんな夜にそんな濃そうなコーヒー飲んで大丈夫?”

    カヨコ「私はあんまりカフェイン効かないから、これぐらいなんでもないよ。……先生はこのあとも仕事だよね」

    ”……なんでわかったの?”

    カヨコ「はぁ。それぐらいわかるって。ほんとにさ……。いつかほんとに倒れるからね?」

    ”あはは……みんなに言われる、それ”

    カヨコ「笑い事じゃないんだけど」ムッ

  • 18二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 03:59:06

    カヨコ「優しい人って、付け込まれる。今はそんなこと考えなくてもいいかもしれないけど……。いつか、足元すくわれたらどうするつもり?」

    ”うーん”
    ”それでも、みんなが楽しく過ごせるなら……”
    ”大人はそのために居るんだからさ。みんなの時間を守るために――”

    カヨコ「先生が辛い思いをしていると辛くなる人もいるってことだよ。そういう人のためにも、もうちょっと仕事量セーブしなよ」

    ”ありがと、カヨコ”
    ”ほんとに限界だったら言うから”
    ”いまは、頑張らせて欲しいんだ。――楽しいんだよ、この忙しさが”

    カヨコ「私が何言っても無駄なのはわかってるけどね。この後残ってる仕事って手伝えそうなのはある? 明日は便利屋の仕事入ってないから」

    ”ありがと”
    ”でも、今日はご飯食べたら解散!”
    ”カヨコは学生だしね。あんまり遅くまで手伝わせてたってバレたら、リンちゃんに説教――”
    ”あ、見て見て、いい感じに水分飛んだんじゃない?” ジュゥ

    カヨコ「……こっちも、一回沸いたね」ハァ カチッ

  • 19二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 04:10:00

    ”それじゃあお皿を――”

    カヨコ「待って、先生」ガシッ

    ”ん、どしたの?”
    ”もしかして、まだ完成じゃなかった?”

    カヨコ「いや、完成は完成なんだけど……。せっかくだからさ」カロン

    ”それって、さっきホールトマト入ってた……”

    カヨコ「そうだよ。ただの缶。せっかくだからさ……。これはお行儀悪く、食べてみない?」

    ”……”
    ”!”
    ”いいね。アリだ” ニヤリ

    カヨコ「コーヒーはもう一回沸騰させるから、ちょっと待っててね。その間に、完成したのをこっちに詰めてもらって……」

    ”おっけ!”
    ”任せて!”

  • 20二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 04:13:22

    カヨコ「……ん。こっちも完成」

    ”そしたら、事務所のソファで食べよっか”
    ”あちちちっ。缶そのままは熱い!”

    カヨコ「なにしてんのさ……。いいよ、そっちは私が持つから。先生はコーヒー持ってきて」袖 ノバシ

    ”……そのパーカー、私も欲しいな”

    カヨコ「ならお古でよければあげようか? サイズ合うか知らないけど」

    ”いや、さすがにカヨコのサイズは私は無理だね……”

    カヨコ「だろうね。はい、早く食べよう。お腹空いた」

    ”だね!”

  • 21二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 04:18:59

    今回はパッと作れるレシピらしいけど所要時間何分ぐらいなんだろう

  • 22二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 04:25:13

    カヨコ「私が見た映画では、ポケットから取り出したスプーンで食べてたけど……」

    ”入れてるわけないからね、スプーン……”
    ”普通に、ちゃんと洗ってあるやつだよ”

    カヨコ「そこまでは望んでないというか……。便利屋の極貧時代似たようなことしたというか……。いや、いまでも裕福とは言えないけど」

    ”……お願いだから、限界を迎える前に声かけてね?”
    ”一応私、経営顧問だし……”

    カヨコ「それは先生もだよ」

    ”ふふ。お互い様ってことで”

    カヨコ「はぁ。じゃあ――」

    ”この匂いを嗅いで我慢するのは体に悪いね。よし――”

    ”「いただきます!」”

  • 23二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 04:30:45

    缶をそのまま利用するとか金属のコップとか西部劇って感じがする 見た映画は39年版なのかな 『西部戦線異状なし』の監督が撮ってたんだ

  • 24二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 04:30:51

    >>21

    シチューだけだったら、15分もあればできると思います!


    玉ねぎとベーコンとニンニク切って、ホールトマトor1ダイスカットトマトぶちこんで

    あとケチャップと塩とコンソメで味整えて豆とマカロニか何か入れて煮込むだけですからね!


    香草もなければオールスパイスでいいだろうし!

    味付けにウスターソースとかも楽でいいかも


    なんならケチャップだけでもいいんじゃないかな……

  • 25二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 04:41:55

    カヨコ「ん……。味見したときに思ったけど……」

    ”うまい!”

    カヨコ「不味くなる要素ないよね。トマトとニンニクとケチャップと……。オレガノとローレルが良い深みを出してくれてる。味は、ちょっと濃いめだね。それこそ、香草が良く効いたアラビアータかも」

    ”レッドキドニーのほくほくと”
    ”ひよこ豆のコリコリ!”
    ”ベーコンの肉感に、玉ねぎのごろごろ感!”
    ”これは……バクバク食べるって言うより、話しながらこう、スプーン一杯を味わいながら食べるのに向いてるね”カロン ムグムグ

    カヨコ「映画でもそうだったよ。こう、焚火を二人で囲んでさ……。これからのことと、これまでのことを話しながら……。スプーンで一口ずつ食べるんだ。まあ、映画で食べてたのは、こんな料理されたものじゃなくて、ただの水煮缶なんだろうけど」

    ”貧乏人の食べ物って言ってたけど”
    ”これは好きだなあ!”

    カヨコ「いわゆるごった煮なんだよね。栄養も取れて、マカロニとかで炭水化物も取れて。早い、簡単、ボリューミー。炊き出しとかでよく作られたんだってさ」

  • 26二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 04:51:06

    深夜にしてはガチめじゃない?

  • 27二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 04:55:18

    ”そしてコーヒーだけど”
    ”これは……すごいね。なんというか、ビジュアルが”

    カヨコ「ふふ。トリニティの子が『泥水』って冗談まじりにいうけど、これはまさしく泥水でしょ」

    ”豆の油がダイレクトすぎるよ……”
    ”でも、たしかに油っこいし味も雑味がすごくて顔がゆがみそうになるけど……”

    カヨコ「――合う。無理矢理”美味しい”の味を作り出してる、このフーバーシチューに」

    ”ほんとほんと!”
    ”味の濃いシチューに、このコーヒーのガツンと来る味が負けないし”
    ”渋い苦みが良い感じに口の中をさっぱりさせてくれる! 不思議だ……”

    カヨコ「こんなに濃厚なコーヒーなのに、そうだよね。不思議。逆にさっぱりさせてくれるってどういう理屈なんだろ。味の濃いもの×味の濃いものがさっぱりなんて……。マリアージュってほんと、奥が深いよね。そこまで考えてないけどさ」ズズッ

    ”これは……これは……!”
    ”ウマイ!!”

    カヨコ「お気に召していただけたようでなにより、かな」

  • 28二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 04:59:28

    >>26

    深夜だからこそさ……

  • 29二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 05:12:32

    カヨコ「……」カロカロ ムグムグ

    ”……”カロン ズズッ

    カヨコ「……映画でさ」

    ”うん?”

    カヨコ「先生。先生は、主人公が最後にやったこと、どう思う?」

    ”最後、最後って”
    ”――ああ。そうか。そうだったね”
    ”最後、また大男が問題を起こして、農場に居られなくなった主人公は……”

    カヨコ「うん。一緒に旅をしていた男の人を……撃ち殺す」

    ”確か、ようやく夢が叶う寸前だった”

    カヨコ「そう。どんなに惨めで、どんなに辛い労働の旅についていながらも、二人は頑張ってた。生きていた。夢を持っていた。他の人たちはそんな生活に嫌気が差したり、慣れちゃって、ダメになっていったのに。――なぜなら」

    ”『俺たちはそうじゃない。俺にはお前がいるし、お前には俺がいる。互いに世話しあっているから。そういうわけさ!』”

    カヨコ「……!」

    ”あはは。合ってた?”
    ”学生時代何度も読んだんだけどね。こっちに来てからはぜんぜん読む時間がなかったから……”
    ”好きだったんだ。このお話。『二十日鼠と人間』がさ”

  • 30二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 05:24:11

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  • 31二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 05:26:32

    カヨコ「セリフを暗唱できるようなものを忘れる? 普通」アキレ

    ”いやほんと、もう十年近く前の話だし”
    ”お恥ずかしながら、目の前の事でいっぱいいっぱいでございまして……”

    カヨコ「……そっか。そうだね。好きなものって、触れないままでいると忘れちゃうこともある。私はね、先生。この主人公はまさにそんな感じなんじゃないかって思うんだ」カロン ムグムグ

    ”好きなものを忘れてたって?”

    カヨコ「そ。だって、約束をしてたのにさ……。2人でお金を貯めて、1軒の家と1エーカーの土地を買って。動物や畑を作って、つつましやかに暮らす。2人で。何度も何度も話したんだろうね。そんな夢のことを。冬の雨に文句を言いながら、凍える身体をストーブで温めて……。だけど、夢が叶いそうなときに足を引っ張った”友だち”のことを、撃ち殺した。きっと、きっと……。忙しさにかまけるうちに、友だちだったことを、忘れちゃったんだろうなって」

  • 32二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 05:36:38

    カヨコ「結局、この主人公もさ。同じだよ。生活に慣れてダメになっていった他の奴らと。レニーと自分に言い聞かせてた約束も、そのうちわがままな子供をあやすための寝物語程度のものでしかなくなって――」

    ”カヨコ” カランッ

    カヨコ「――っと。ごめん。ちょっと熱くなりすぎた」

    ”あは”
    ”音楽しかり、映画しかり”
    ”好きなものを好きと言えて、伝えられる。そんなカヨコが、私は大好きだよ”

    カヨコ「……そういうの、あんまり軽々しく口にしない方が良いと思うけど」

    ”カヨコはさ。もしかしてだけど……”
    ”この物語を、便利屋のみんなに重ねたりしているのかな”

    カヨコ「……いや」

    ”ん?”

    カヨコ「……かもね」ハァ

  • 33二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 06:42:18

    “二十日鼠と人間の このうえもなき企ても やがてのちには狂いゆき”

    カヨコ「それは?」

    ”あとに残るはただ単に 悲しみそして苦しみで 約束のよろこび 消え果てぬ”
    ”――これは、この作品の元になった詩だよ”

    カヨコ「……へえ。そんなのあったんだ。暗いね」

    ”カヨコが見た映画と、小説がどのぐらい同じなのかわかんないけど”
    ”すくなくとも、レニーを撃ち殺したジョージは、放心しているとも思えるような状態だった”

    カヨコ「ラスト……私が見たのは――」

    ”なるほどね”
    ”二人でいっしょ仕事をしていたときの幻想を見ながら列車に乗っている、か”
    ”原作とは違う……いいエンドだね”

    カヨコ「そう、なの?」

    ”うん”
    ”小説の最後は撃ち殺した後、農場の仲間に支えられて、酒を飲む、って終わりなんだ”

    カヨコ「なにそれ……」ケイベツ

    ”もちろん悪い意味じゃないよ”
    ”酒でも飲まなきゃやってられないだろうって、仲間に誘われてね”

  • 34二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 06:43:20

    ”だから、それらを振り切って、レニーを失ったことを強調する”
    ”カヨコが観た映画のラストシーンは、私はとても好き”

    カヨコ「でも、足を引っ張った友だちを殺したのは事実だよ、先生」

    ”もしさ。もしだよ”
    ”便利屋の……。そうだね。一番年下だから……ハルカとかが、便利屋の存続に関わるような……いや”
    ”アルのヘイローが壊れてしまうようなミスをしたら、カヨコはどうする?”

    カヨコ「だから――っ! 私はそれでも、絶対にそんなことしないって!」

  • 35二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 06:43:36

    ”……”ニコッ

    カヨコ「……ごめん」

    ”物語は物語”
    ”喜びが消え果てるような物語は、便利屋には起きないよ”

    カヨコ「……」

    ”なぜなら、そのことを知っているカヨコが居るし――”
    ”私だって、いるからね!”

    カヨコ「はぁ」

    ”いい? カヨコ”
    ”物語っていうのは、誰かの結論なんだ”
    ”それは音楽もいっしょでしょ?”

    カヨコ「うん。だからこそ、引きずり込まれる」

    ”そう、誰かの結論なんだ”
    ”物語を受け止めたカヨコは、そこからスタートできる”

    カヨコ「……なるほど」

  • 36二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 06:44:14

    ”誰かが時間を、人生を賭けて導き出した答えからスタートできる”
    ”それは、今を生きるカヨコのアドバンテージ”
    ”カヨコは、二十日鼠と人間の主人公を、より良い方向に導く物語を作れるはずだよ”

    カヨコ「そういう考え方もあるんだね……。ふふ。ありがと、先生。ちょっとすっきりしたかも」

    ”一番年上だもんね、カヨコ”
    ”私も、映画見てみようかな”
    ”……あ、小説ってこっちでも手に入るのかな。久々に読みたくなってきた”

    カヨコ「外の世界の本だったら、あつかってるところ心当たりあるから。探してみるよ」

    ”ほんと!?”

    カヨコ「うん。私も、文字でも読んでみたいし。読み終わったら貸してよ。私もDVD貸してあげる。今度持ってくるね」

    ”ありがとう!”
    ”交換っこだね!”

    カヨコ「まあ、そうだけど……。なんなら一緒に観ようか、先生。視聴覚室でさ、大スクリーンで」

    ”いいね!”
    ”そしたらみんな呼ぼうよ、で、このフーバーシチューもそもそ食べながらとかどう?”

    カヨコ「わかった。アルたちに声掛けておくね。……ねえ、先生」

    ”ん?”

  • 37二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 06:44:40

    カヨコ「先生さ、ジョージとレニーのような約束を一つ、私としてって言ったら……してくれる?」

    ”え……っと”
    ”それは……?”

    カヨコ「ふふ。もし約束が消え果てたら――」

    ”き、消え果てたら?”

    ユビ テッポウ

    カヨコ「ばーんと。後ろから撃たせてもらおうかな」フッ

    ”……ははは”
    ”私に出来る限りのことは、するよ。もちろん”
    ”でも撃たれるのはもうやだなあ……。痛いし”
    ”それに、二人の約束って、いわゆる夢のこと、だよね……?”
    ”1軒の家と、1エーカーの土地……”

    カヨコ「……あははっ。なにその顔」

  • 38二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 06:45:33

    カヨコ「冗談。冗談だよ、先生。私たち便利屋は、約束じゃなくて契約を取る。約束なんか私は信じない。書面に書いて、サインをして、初めて契約が成り立つ。そういう世界に、わたしはいるからね」

    ~Fin~

  • 39二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 06:45:59

    終わりです。
    今回もどうもありがとうございました!

  • 40二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 06:50:24

    >>23

    ちゅうわけで、ごめんなさい、39年版じゃなくて92年版、ゲイリーシニーズの方の、マルコヴィッチ出てるバージョンでした!

    あの場で食べてるのは『ケチャップ入れて食うのが好き』って言ってるから、ほんとに味付けされてない、ただの水煮缶の可能性……。

    だからこのフーバーシチューはそもそも雰囲気味わうためのものだったってことで……すまぬ

    缶詰から豆料理食いたかったんや


    でもねでもね!

    39年版もいいよね!

    西部戦線の人だったんだ監督……

    両方DVD持ってるのに、プレイヤー失くしたせいで見返せなんだ……

  • 41二次元好きの匿名さん25/03/20(木) 07:14:18

    乙 何かを食べたくなるのは小説を読んだときよりも映画を見たときって言った小説家がいたなあ ずっと積んでた本をパラパラめくると「ねえものにかぎって、おめえはほしがるんだからな」とあって自分と同じだなと思った 

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