- 1二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 09:20:43
- 2二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 09:22:13
この日のことを、一生忘れることはないだろう。
「あらっ、プロデューサー科の人が、わたしに御用?」
「あなたをプロデュースさせてください」
「もー、その台詞は聞き飽きたわ。ま、仕方ないけどね!私が魅力的すぎるのが悪いんだから!」
「あなたのことは調べてきました。役に立てるはずです。他のプロデューサーよりも。」
「ほんとにー?じゃあ、質問ッ!なんでわたしをプロデュースしたいの?」
「それは──」 - 3二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 09:23:26
初星学園事務所
「プロデューサー!いる!?」
(この声は・・・)
「咲季さん?」
「おはよう、プロデューサー。事務所で寝てるなんて珍しいわね。でもこんな所で寝たら体調崩すから休むならしっかり休みなさい!」
「すみません。次からは気をつけます」
(最近疲れが溜まっているのだろうか、咲季さんに迷惑をかけるわけにいかない、早急に解決しなければ)
「ええ、気をつけなさい。って落ち着いてる場合じゃないのよ!衝撃の事実に気づいてしまったわ・・・・・・!」
「聞きましょう」
「わたしたちってHIFに向けて活動してるじゃない?そこで気づいたのよ・・・・・・一人前のアイドルって、みんな──自分だけの持ち歌があるのよ!!」
「そうですね。」
「反応が軽いわね!?衝撃の事実でしょう!?未来のトップアイドルであるこの花海咲季にっ・・・・・・まだ持ち歌がないなんてッ!!どう考えてもおかしいじゃない!?」
「・・・・・・そうですね。おかしいですね。全てが間違っています、はい。」
「うんうん、同意してくれて嬉しいわ。さすがわたしのプロデューサー。じゃ、わたしみたいな曲をすぐ準備しなさい。佑芽との対決のライブで歌いたいから。」
「無茶苦茶言いますね。」
「プロデューサーへの信頼の証よ。」
(先程の失態を挽回する為にも信頼に応えなければ。)
「それはどうも。ちなみに・・・・・・咲季さんの曲ならもうできていますよ。」
「えっ?」
「今日、渡すつもりだったんです。」
「えええええ!?そういうことは早く言いなさいよもぉ〜〜〜っ!やっぱりプロデューサーってわたしのことわかってるのね!」 - 4二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 09:24:25
「これがデモ音源です」
「わたしにぴったりの曲だわ!プロデューサー!歌詞!!」
「どうぞ。」
「ありがとう♪──ふむふむ・・・・・・む。むむむっ・・・・・・むむむむむ〜〜〜〜!ちょっとプロデューサー!なによこの歌詞は!」
「死ぬほど負けず嫌いなアイドルの歌です。咲季さんらしい歌でしょう?」
「そーね!わたしにぴったりの歌詞ね!ピッタリすぎて歌えないわよバカぁ!ぐぬぬ・・・・・・この曲を、感情移入せずに歌える気がしない・・・・・・」
「感情移入して歌えばいい。」
「できないわ。私は、無敵の花海咲季でいなくちゃいけないの。強いわたしだけを見せていたいの。わたしがこの曲歌ったら・・・・・・弱いわたしが顔を出すもの。はだかで歌うようなものじゃない。佑芽に見せられないわ、そんなの」
「勝つためでも、ですか?」
「・・・・・・なんですって?」
「花海咲季が誰にも負けないための歌。無敵のトップアイドルになるための歌。」
「この曲が、そうだっていうの?
・・・・・・・・・・・・・・・面白いじゃない。プロデューサーって、わたしを乗せるの、本当に上手よね。いいわ、やってあげる。勝つためなんでしょ?なら、なんだって挑戦するわよ・・・・・・」
(ライバルとの直接対決、相手はすでに格上。咲季さんを信じよう。最高の勝利とライブを見せてくる。【Fighting My Way】は咲季さんのトップアイドルになるための力になるはずだ!) - 5二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 09:25:28
──ライブ前
「いよいよ勝負の日がやってきましたね。調子はいかがですか、咲季さん。」
「も、もももも、モチロン!万全にききき、決まってるわっ!」
「全くそうは見えませんが。」
「フフフフ・・・・・・・・・こんなに勝機の薄い状況で、佑芽と勝負するのは・・・・・・生まれて初めて。見てよ。手・・・・・・震え、止まらない。・・・・・・あの子、いつも、こんな気持ちだったのかしら。あー怖い・・・・・・怖い、怖いわ・・・・・・もしも負けたら、わたしはもう・・・・・・頼れるお姉ちゃんじゃなくなっちゃう。あの子はわたしなんか追い抜いて、夢に向かって走っていって・・・・・・負けたやつへの興味は失せて・・・・・・二度と振り向いてくれなくなる。もうダメよ・・・・・・なにもかもおしまいだわ・・・・・・」
あまりにも情けない言葉とは裏腹に花海咲季は顔に笑みを浮かべた。
「前言撤回します。万全のようですね。」
「どこ見て言ってるのよ!!!」
「もちろん、あなたの笑顔を。」
「ふんっ!笑うしかないでしょ、こんなの!すごく怖くて・・・・・・泣きそうで・・・・・・でも、同じくらい嬉しいんだから。」
「咲季さん。あなたを、ずっと見てきました。いつも自信満々で、必死に弱気を押し殺して、虚勢を張り続けて・・・・・・妹への意地でここまできた、負けず嫌いで情けない、姉の姿を。」
「大事なステージ直前に、ぼろくそ言ってくれるわね!!」
「感動していたんです。今日のあなたは、いままでで──」
「一番強い」
(きっと咲季さんはこのライブで一つ、トップアイドルへの階段を上っていくのだろう、そしてこれからも。)
「なにそれ、意味わかんない。・・・・・・でも、ありがと。プロデューサー、そこで見ていて。このわたしの、一世一代の悪あがきを!」 - 6二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 09:26:23
「あ!お姉ちゃんのプロデューサーさん!」
「佑芽さん、お疲れ様です。素晴らしいライブでした。」
「えへへ・・・・・・ありがとうございます。って、プロデューサーさんはお姉ちゃんと同じライバルなんですから!今日こそ勝ってみせますよ!」
「佑芽さんは咲季さんに勝ったらどうするんですか?」
「え!?いきなりですね・・・ちょっと待ってくださいね・・・・・・ん〜・・・・・・むむむ・・・・・・あの、プロデューサーさん、わかんないです!!」
「内容とは裏腹に気持ちのいい返事ですね」
「ごめんなさい!だけど、そうとしか言えなくて!とにかくあたし・・・・・・お姉ちゃんに勝ちたくて。アイドルの仕事が素敵だなって、その気持ちは嘘じゃないはずで。一番を目指したいって気持ちも、ちゃんとあって。だけど、わからないんです!」
「このアイドルという『競技』で、もしもお姉ちゃんに勝てたとき。あたしがどうなっちゃうのか。あたし、こんなんじゃダメでしょうか!?」
「それは・・・」
(先ほど咲季さんの言ってたように、二度と振り向かず走り抜けてしまうのだろうか?)
「って、あー!!そろそろお姉ちゃんのライブ始まっちゃいます!急がないと!!」
「っ!すみません、長く引き止めてしまって。」
「プロデューサーさん!」
「どうしました?」
「あたし、さっきの答えを・・・・・・お姉ちゃんに勝ってから考えます!だから、それまでお姉ちゃんをよろしくお願いします!」
「はい、任せてください。」
返事を聞いた花海佑芽は、満足気に笑いながら走り去っていった。
「さて、咲季さんのライブが始まる、俺も咲季さんの勇姿を目に焼き付けなけれ───」
(足に力が入らない、一体なにが・・・・・・)
「おい!大丈夫か、あんた!!」
「誰か救急車を呼べ!早く!」
(意識が・・・・・・咲季さ─)
──その日、花海咲季のライブは大成功し、トップアイドルとしての歩みを進めた。 - 7二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 09:28:47
病院に運ばれた後、精密検査を受け、結果を待つこと数十分、ようやく診察室に案内された。
(最近身体の調子も悪かったが、病院に行っても軽い過労だった。今回もライブに向けて少しを詰めすぎてしまったのだろうか。・・・咲季さんのライブは成功しただろうか。)
診察室で医者からは告げられたのは、聞いたこともない病名と、余命宣告という事実だった。
確率の低い手術か延命治療。親に伝えるとひどく取り乱し、今すぐ病院へ向かうと言われた。
(現実感がない。点滴を打っているので身体はむしろ調子が良い。なのに・・・なぜ、俺なんだ・・・)
病室のドアがノックされる。入ってきたのは初星学園の学園長、十王邦夫だった。
「学園長、なぜここに?」
「お主が倒れたと聞いてな、急いで駆けつけたんじゃ、それで身体の具合はどうだ。」
「・・・今すぐ延命治療を行えば3年は持つと。ただそれ以上は現状・・・・・・」
「・・・・・・どうにかならんのか?金のことなら十王家が力になれるぞ。」
「お気持ちはありがたいです。ですが世界的に手術例が少なく、成功率も極めて低いとのことです。」
病室は重たい雰囲気に包まれた。そこに、軽快な足音が近づく。嫌な予感がした。 - 8二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 09:29:32
「プロデューサー!」
「咲季さん・・・・・・」
「ライブが終わって戻ったら、倒れて病院に搬送されたって聞いて・・・心配したんだから!」
(咲季さんは優しい、きっと、この事実を伝えてしまったら気に病んでしまう。彼女を悲しませてしまうだろう。咲季さんはトップアイドルになる。俺がその足を引っ張ってはならない。)
してはならない嘘をついた。
「・・・軽い・・・・・・過労です。すみませんでした。体調には気をつけてたつもりだったのですが。なにより、佑芽さんとの勝負に水を差してしまった。」
「なっ!もう・・・・・・呆れたわ。とにかく無事なら良かったわ。それと、ライブは大成功!今日もわたしの勝利よ!」
「それは良かった。ただ、今日の咲季さんのライブを見れなかったのが惜しいです。」
「よく聞きなさい、プロデューサー!心配しなくても、この先ずっと、特等席で見せてあげるわ!花海咲季というアイドルを!」
この先、という言葉に胸が痛む。
「えぇ、楽しみにしてます。・・・・・・今日は安静という事で入院しますが、戻り次第、今後の方針について話しましょう。」
「分かったわ。しっかり休みなさい!あなたが元気じゃないとわたしが困るんだから。」
「はい。では学園長、咲季さんをお願いします。」
「・・・・・・ああ、任せとけい」
二人が去り暗くなった病室で一人、覚悟を決めた。自身の命の使い道を、そして、何をすべきかを。
「残り少ない人生、咲季さんをトップアイドルする為に使おう。あの日見た夢を、叶えてみせる」
その言葉が、病室に静かに響いた。 - 9二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 09:33:49
ひとまずここで区切りです。
更新は今日の夜か明日です。この先もどうかよろしくお願いします。読みづらかったり、何かあれば改善するので遠慮なく教えて下さい。 - 10二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 09:40:19
セリフの前に名前はつけた方がいいでしょうか?この先、登場人物が増えるので参考にしたいです。
- 11二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 09:51:43
乙!いいねいいね
この感じなら口調とタイミングで誰が喋ってるかは分かるから、名前はどっちでもいいかな? - 12二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 09:53:06
ありがとうございます、一応今後もできるだけ口調を分かりやすいように心がけます!
- 13二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 10:53:38
キャラが多くて会話が九割のものは台本形式みたいに名前ついてるといいとは思うけど、これなら全然大丈夫だと思う!
ナイスSS! - 14二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 16:59:14
こういうSSはなんぼあっても美味い
- 15二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 20:27:18
退院から数日後
「『NEXT IDOL AUDITION』。へぇ、挑みがいあるじゃない!ありがとう、プロデューサー。とっても素敵な目標ね!」
今後の方針を決め、そう言い残すと、咲季さんは佑芽さんに会いに出ていった。
(咲季さんにとってNIAはファンを増やす絶好の場、ここでファン投票一位を取れば、トップアイドルへの道が一気に近づく!)
教室のドアをノックする音がした。
「失礼するぞ。調子はどうじゃ?」
「・・・学園長。身体は問題ありません。先日はありがとうございました。近くの病院に設備の手配や、親の説得にまで手を貸してもらって、本当に感謝してます。」
「なんどもお礼せんでもよい、それよりお主、本当によいのか?」
「・・・意思は変わりません。このまま咲季さんをトップアイドルまでプロデュースしてみせます。勿論、俺がいなくなった後の後任もすでに見つけています。」
「星南のことじゃな。」
「はい、プロデューサーとしては新米ですが、『一番星』であり、咲季さんと同じ悩みを抱える星南さんになら、夢を託すことができる。」
「わしが何を言っても、変わらんのだろうな。」
「・・・申し訳ありません。」
(本当にいいのか、なんて悩んでる暇はない。少しでも咲季さんの力になる為に、自分の全てを使うと決めたのだから。)
「そんな・・・嘘、どうしよう・・・・・・」 - 16二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 20:28:58
「ねぇねぇ、プロデューサー!わたしのファン、だいぶ増えてきたんじゃないかしら?」
「あわせて投票数も順調に増えてますね。」
「でっしょお〜〜〜〜〜!ランキングもがんがん上がっているわ!えへへぇ・・・・・・やっぱりわたしだから、みーんな好きになっちゃうのよね〜♡この調子でファンが増え続けたら、いずれ全人類がわたしに夢中になっちゃう日も近いんじゃない!?」
「と、喜ぶのはここまでにして。ファンが順調に増えいるからって、気を抜いちゃダメ。他のアイドルたちと比べたら、私のランキングはまだまだ低いんだから。さらなるファン投票獲得のために、わたしはなにをすればいいのかしら・・・・・・?」
「もちろん様々な活動をしていきますが、基本方針は、とてもシンプルです。ありのままの咲季さんを知ってもらいましょう。」
「どういう意味?」
「ありのままの咲季さんを見せれば、みんなファンになるという意味です。」
(そう、このまま咲季さんの魅力を見せていけば確実にファンは増える。)
「・・・・・・よくわかってるじゃない。じゃあその方針でいきましょう。世界中のアイドルファンたちに、どんどん花海咲季を知ってもらって!がんがんわたしのファンを増やしていくわよ!」 - 17二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 20:30:14
方針にひと段落つくと事務所のドアが開いた。
「お姉ちゃん。」
「来たわね〜っ!さっそく!どっちのランキングが上か勝負しましょ!」
「う、うん・・・分かった」
(佑芽さん、どこか元気がない様子だな。普段なら勝負の際、もっと勢いがあるのに。)
「どうしたの?佑芽。」
「お姉ちゃん、その・・・」
「佑芽さん、どうしました?俺の顔に何かついてますか?」
「い、いえ!その・・・なんでもないです!ほ・・・ほら、お姉ちゃん、勝負しよ!」
「・・・ええ、そうしましょう。」
二人はスマホを取り出し、ファン投票ランキングを見る。まさかの同じ順位だった。
「たった今更新されたのかしら・・・?もうっ、絶対勝ったと思ったのに〜!」
「ん〜・・・・・・この勝負の仕方じゃだめだね。」
「そうね・・・・・・こういう変化の激しいもので勝負するのはうまくいかないわ。直接対決にしましょ。最終日が楽しみだわ!」
「・・・・・・」
「佑芽、聞いてる?」
「え、うん!次は勝ってみせるから!」
(やはり佑芽さんの様子がおかしい。あとで話を聞いてみるべきだろうか。) - 18二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 20:50:59
「──そういうわけだから、プロデューサー。わたしが受けるオーディション、佑芽とは被らないようにね。」
「『NIA』最大のオーディション──『FINALE』こそが、わたしたちの勝負の舞台なんだから!」
「かしこまりました・・・・・・が。」
「あら、なにか言いたいことでもあるの?」
「アイドルとして完全無欠に近いメンタリティを持つ咲季さんの数少ない欠点は、妹以外のアイドルを、軽く見がちなところです。」
(今後、アイドルとして上にいくほど、油断は命取りとなる。少しでも咲季さんの今後のためになるように。)
「う・・・・・・それは・・・・・・そう、ね。自覚が、ある。入学当初、アイドルを甘く見ていたって・・・・・・反省したはずなのにね。ごめんなさい、プロデューサー。気を引き締めたわ、もう油断しない。」
「それでこそ咲季さんです。」
「油断はしない・・・・・・けどね、最大のライバルはやっぱり佑芽よ。最後の勝負ではわたしがギリギリ勝ったけど。どーせあれからさらに実力を伸ばしてるな決まってるんだから。このままじゃ勝てない。ファンを増やすために、他校の強敵に負けないために、姉妹対決で勝つために!できることは、全部やるつもり。だから・・・・・・改めてよろしくね、プロデューサー。」
罪悪感が胸をよぎる。彼女の信頼に対して不誠実ではないのか、と。
「・・・・・・できることは、全部やりましょう。」
(咲季さんはやると決めたら必ず成し遂げる。今一度、覚悟を決めよう。・・・俺の全てを尽くしてプロデュースしてみせる。) - 19二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 20:53:18
一旦書き終わったもの全て出しました。
これからすぐに書き始めますが遅くなったらすみません。できる限り早めに出すつもりです。 - 20二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 21:58:02
乙です!
続きを楽しみにお待ちしてます。主さんもしっかり休んで下さいね - 21二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 22:48:58
コメントありがとうございます!励みになります!
- 22二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 22:49:53
(仕事も片付いたし、例の件も滞りなく進んでいる。そろそろ病院に向かい検診を受けないと。)
「あのっ!プロデューサーさん!」
「佑芽さん、お疲れ様です。咲季さんならすでに、寮に戻りましたよ。」
「そうじゃなくて・・・プロデューサーさんに話があるんです!」
「俺にですか?」
「・・・・・・お姉ちゃんに嘘ついてますよね。」
言葉が出なかった。どこで知られたのか、そもそもどこまで知っているのか。頭の中で理解しようとするも、唐突すぎて状況を飲み込めずにいた。
「あたし、聞いちゃったんです。学園長と話してるのを。病院に運ばれた時に過労って言ってましたよね。あれ全部嘘だったんですか?」
言葉に詰まる。うまく呼吸ができない。そして少しの沈黙ののち、口から出たのは弱々しい謝罪だった。
「・・・・・・騙していて・・・すみませんでした。」
「そうじゃなくて・・・その、今から病気を治してからでいいじゃないですか!」
その問いに対して俺は、佑芽さんに自身の病気と先が長くない事を伝えた。 - 23二次元好きの匿名さん25/03/21(金) 22:51:41
「あたし・・・難しい事はわからないけど、こんなの、絶対間違ってます!・・・なんでお姉ちゃんに言わないんですか!」
「咲季さんを・・・・・・無敵のアイドルにするためです。」
「無敵の・・・アイドル?」
「咲季さんは強い、きっと一人でも、いずれトップアイドルとして、多くの声援を受けてステージに立つでしょう。ですが、アイドルと職業は一人で歩むには、あまりにも険しすぎる。今の大事な時期にプロデューサーとして投げ出すわけにはいきません。そのために俺のことを話すわけにはいかない。」
「それに、夢なんです。トップアイドルを自らの手でプロデュースすることが。だから、お願いします。どうかこのことを、咲季さんには秘密にしてください。」
「・・・お姉ちゃんは、こんなこと望んでない。プロデューサーさんは、間違っています!」
「俺もそう思います。でもこれしかないんです。咲季さんをトップアイドルにするために。そして、佑芽さんに負けないアイドルに。」
俺の言葉を聞いた佑芽さんは真剣な面持ちで言い放った。
「じゃあ、勝負しましょう。」
「勝負?」
「あたしがお姉ちゃんに勝ったらプロデューサーさんはちゃんと話してください。」
「・・・なぜ、勝負にするのですか?」
「プロデューサーさんがお姉ちゃんを、無敵のアイドルにするために言えないのなら、あたしがお姉ちゃんに勝って、間違いだったって認めてもらいます!」
俺の決意を汲み取ってくれたのだろう。咲季さんだけじゃなく、俺のためにわざわざ勝負をしようだなんて。
「分かりました。では『FINALE』で佑芽さんが勝てば、咲季さんに全てを打ち明けます。ですが、咲季さんが勝てばこの事は無かったことにしてもらいます。」
「あたし、絶対に勝ってみせますから。」
(負けるわけにはいかない。なんとしても勝たなくては。) - 24二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 00:38:31
「プロデューサー、少し痩せた?」
「そうですか?」
「前より若干やつれたように見えるけど、また仕事のしすぎ?また倒れたりしたら困るから、休みはしっかり取りなさいよね!」
「咲季さんにお弁当作ってもらっているので、助かっています。休みもしっかり取れていますよ。おそらく軽い夏バテかと。」
「そう?なにかあったら言いなさいよ。じゃあ、現状を共有させて。最近の活動を通じて、順調にファン投票数が伸びているわ。卑下も誇張もなく、わたしはベストを尽くせていると思う。だけど・・・・・・このままじゃ佑芽に勝てない。あの子のアイドルとしての実力は、わたしよりもず〜と上なんだから。」
「前回の勝負の時と、姉妹の実力差は変わってないと思います。」
(映像で見る限り二人のパフォーマンスは五分、もしくは佑芽さんの方が上だった。しかし、勝利したのは咲季さん。目には見えない、なにかが上回ったのだろう。)
「ふんっ、そりゃあね!必死に食らいついているもの。だけど、あの勝利は・・・・・・まぐれとは呼びたくないけど・・・・・・いつでも出せる力じゃない。どうして勝てたのか、自分でも分からないの。だから・・・・・・なんとかしないと。格上のライバルに勝ったあの日のわたしを・・・・・・何度でも、出せるように。いいえ・・・・・・それだけじゃ足りない。あの日の自分を、越えなくちゃ。」
「では、このままベストを尽くす日々を続けましょう。ファンを増やし『NIA』ランキングも伸ばし、人気アイドルになりましょう。」
「それで・・・・・・いいのかしら。わたし自身のなにかが、変わるわけじゃ・・・・・・ないのに。」
「変わりますよ。目には見えないだけで。咲季さん向けに言うなら・・・・・・ファンの皆さんは、アイドルにとって、外付けの筋肉のようなものなんです。」
「・・・・・・なにその変なたとえ。もう・・・・・・笑っちゃったじゃない。──なら、筋トレを頑張らないとね。」
想定よりもずっとはやい。限りある時間で一体、どれだけ咲季さんに残せるものがあるだろう。そんなことを考えながら、日に日に弱っていく自分の身体に、目を背けながら歩き出す。
担当アイドルの疑いの目に気づかないまま。 - 25二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 01:06:33
「そういえば、プロデューサー。わたし、他の学園のアイドルたちについて、よく知らないのよね。」
「オーディションで競い合ってみて、興味が出てきましたか?」
「まぁね。油断できない相手・・・・・・だとは思う。わたしに勝ちうるようなヤツがいるなら、知っておきたいわ。」
「これを。他校の調査レポートです。」
「ありがとう。ふふん、さすがわたしのプロデューサーね。ふむふむ〜、わたしのライバルになりそうな強敵は──極月学園の生徒が多いのかしら。確か・・・・・・新しく設立されたアイドル養成校よね?」
「理事長は961プロの社長でもある黒井崇男氏。彼が才を認めたという、極月学園の精鋭とは『NIA』で幾度も戦うことになるでしょう。」
「へぇ・・・・・・ずいぶん高評価じゃない。あなたがそこまで言うなんて──面白くなってきたわ。『NIA』・・・・・・改めて、一筋縄じゃいかないみたいね。相手にとって不足なし!まとめて成長の糧にしてやろうじゃない!・・・・・・何笑ってるのよ。」
「咲季さんと出会ってから・・・・・・ずっと苦境に立っているのに。」
(かけがえのないこの瞬間が、咲季さんと共に歩む苦難の道のりが・・・・・・)
「楽しいな、と」
「・・・・・・わたしもよ、プロデューサー。楽しみましょう、このピンチを!」
願わくばこの先もずっと、咲季さんの隣で── - 26二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 04:41:42
「プロデューサー、今日は佑芽のライブを観にいくわよ!」
今日は咲季さんに誘われて佑芽さんの公開オーディションにやってきた。しかし、それとは別に一つ、やらなければならない事もある。
「ふっふっふ・・・・・・あれから、どのくらい力をつけているのかしら。たっぷりと確認させてもらうわ。ん〜っ、楽しみね〜!」
「咲季さんのプロデューサーとしては・・・・・・素直な気持ちで楽しめるかどうか・・・・・・」
(佑芽さんがこのままファンを増やしていけば、必ず『FINALE』で大きな壁となる。そして、その勝負に負けた時は・・・・・・)
「まだまだ甘いわね、いちアイドルファンとして、超可愛い佑芽を堪能する。アイドルとして、最強のライバルである佑芽を堪能する。一粒で二度おいしい!それがアイドル・花海佑芽の魅力よ!」
「お互いに相手のファンであり、ライバルでもある関係なんですね」
「いいでしょ〜、自慢の姉妹関係なの。」
「素晴らしい姉妹愛です。しかし咲季さん・・・・・・佑芽さんが今日のライブに出演するとは限りませんよ。」
「はあ?佑芽がオーディションに落ちるとでもいうの?今のあの子が?わたし以外のアイドルに負ける?フッ・・・・・・天地がひっくり返ってもあり得ないわ!」
「咲季さん、今日のオーディションには・・・・・・」
(今日きた目的の一つ・・・・・・極月学園の──)
「聞く必要なし!これは油断じゃない。─愛する者への信頼よ!!」
「お姉ちゃあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!?負けちゃったぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「え・・・・・・えぇえぇえぇ〜〜〜〜〜〜ッ!?」
佑芽さんを倒し、オーディションを勝ち抜いたのは、初星学園中等部ナンバーワンユニット『SyngUp!』の元リーダーにして、元初星学園1年3組。賀陽燐羽、今日の目的は、彼女に会うことだ。 - 27二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 04:55:28
「ほーら、佑芽!いつまで落ち込んでいるつもり?」
「・・・・・・お姉ちゃん。見たでしょ・・・・・・あの子のライブ。すごかったよね〜〜〜〜!」
「あなたねえ・・・・・・わたし以外のやつに負けて、はしゃいでいるんじゃなぁ〜〜〜〜いっ!」
「えええええ!元気づけようとしてくれてたんじゃないの!?」
「空元気じゃ意味ないでしょ。」
「・・・・・・うっ。お姉ちゃんには・・・・・・落ち込んだところ、見せたくないなって。」
「ばかね、何年姉妹やってると思ってるの?あなたが一度負けたくらいで、落ち込んで泣いたくらいで。失望なんてするわけない。『FINALE』で直接対決、するんでしょう?約束、忘れてないわよね。」
『FINALE』という単語を聞いた途端、彼女は大きく目を見開いた。
「う"ん・・・・・・!」
「ほら、鼻かんで。涙を拭いて。復活した?まだモヤモヤする?なら、見ていなさい──お姉ちゃんが仇を討ってあげる!」
すると二人の会話に割って入る声がした。
「できもしない約束を・・・・・・するものではないわ。」 - 28二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 04:57:31
「!? あなた・・・・・・」
「あ〜〜〜〜〜ッ!賀陽燐羽ちゃん!」
「馴れ馴れしく呼ばないでくれる?・・・・・・花海佑芽さん。私、あなたのファンなの。」
「えっ?えっ?」
「無様に負けて泣いていたあなたを、なぐさめにきたんだけど。必要なかったみたいね?」
「うん!お姉ちゃんがかっこよく仇を討ってくれるし──すぐに自分でもリベンジするからっ!」
「そっ。ふーん・・・・・・あなたは、いいアイドルになりそうだし。せいぜい頑張れば?あ、でも・・・・・・私、この後のオーディションには出ないって言ったらどうする?」
「ええ〜っ!?『NIA』の期間、まだまだ残ってるのに!?」
「いま、極月学園で、一番勝ち星を挙げているのは私。契約分は働いたわ。目的も果たしたし、今回の仕事は、これでおしまい・・・・・・と思っていたんだけど──」
「賀陽燐羽!わたしと勝負しなさい!佑芽の仇を討ってやるわ!」
「嫌いなのよね・・・・・・あなたみたいなの。たいした才能もないくせに、無責任なこと言わないでくれる?」
「なっ、なぁんだとぉ〜〜〜〜〜〜!あたしのお姉ちゃんは・・・・・・あなたなんかに絶対負けないっ!」
「・・・・・・そ。気が変わった。あと一度だけ、オーディションに出ることにしたわ。次はそこで会いましょう。じゃあね、咲季お姉ちゃん。」
そして賀陽燐羽は花海咲季の耳元で呟いた。
「妹の前で、メッキを剥がしてあげる。」 - 29二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 05:08:43
「お疲れ様です。わざわざ芝居を打ってもらい、ありがとうございます。」
「別に、仕事なんだからいいわよ。・・・・・・あなたの担当アイドルには個人的に興味があるし。言っておくけど手を抜くつもりはないから。」
「もちろんです。むしろ、手を抜かれては困る。全力でお願いします。」
「・・・・・・そう。変な人。じゃあ私はこれで。それと、黒井理事長があなたと待っているわ。」
そう言い残して燐羽さんは去っていった。
「遅かったじゃないか、座りたまえ。」
「黒井理事長、先日は頼みを聞いていただきありがとうございました。」
「勘違いするなよ。使えると判断したから乗っただけだ。決して優しさなどではない。」
「分かっているつもりです。」
「改めて今日の燐羽のライブを見てどう思った。」
「・・・・・・素晴らしいライブでした。アイドルとして、圧倒的な歌唱力、キレのあるパフォーマンス、元中等部ナンバーワンユニット『SyngUp!』のリーダーとしての実力。どれを取っても非の打ち所がありません。」
「それで、貴様の担当アイドルが、燐羽に勝つ算段はついたのだろうな?」
「ええ、咲季さんの専属トレーナーを契約し、『一番星』十王星南さんの指導含め、他事務所のトップアイドルとの合同レッスンやライブなど手配しました。・・・・・・咲季さんは燐羽さんに必ず勝ちます。」
「ほう・・・・・・若いが、良い目をしている。アイドルの勝利のために、どんな手段を使ってでも、成し遂げようとするその姿勢。今からでも遅くない。極月学園に来るなら歓迎しよう!」
「お褒めいただき、光栄です。ですが、今は・・・・・・お断りさせていただきます。花海咲季がトップアイドルになる為にまだやる事が残っています。」
「・・・・・・そうか、まぁ、いい。気が変わったら連絡したまえ。」
「では、失礼します。」
そう言い残し、その場を後にした。
(せめて『FINALE』までにできる事を全てしなければ。俺にやれるのはきっと、そこまでなのだから。) - 30二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 05:13:04
これで予定の半分ほど書き終わりました。
次の投稿は今日の夜か明日です。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。なにか指摘や、アドバイスあれば遠慮なくお願いします!良いねやコメントめっちゃ嬉しいです。
続きも精一杯書くので楽しみにしてください。