セイア「君が望むのなら、殴り合うとしよう、ナギサ」

  • 1125/03/24(月) 17:33:01

    「っ……!」

     自分から売った喧嘩でありながら、私の握り拳は震えている。その私よりも一回り以上も小さいセイアさんは、何故か覚悟の決まった表情で、真っ直ぐに此方を見据えているというのに。
     拳を交えての喧嘩など、生まれてこの方した事が無い。トリニティの生徒たるもの、上品たれ────17年と少し。そんな物とは全く無縁の人生を貫いてきた私の背を、言葉に替え難い恐怖が這い上がる。

    「……どうした。君と私の考えを折衷しても、納得の行く答えが出なかったんだろう。ならば、私の頬に一撃喰らわせてでも、君の信念を貫き通す必要があるのではないかね」

     そうやって、滲む汗の不快感を感じながら、必死に悩んでいる私にぶつけられた言葉を聞いて。…かちん、と来た。自分は二度目だからと言って、簡単に物を言う。
     そうだ。私はミカさんじゃない。力の制御が必要な程、自身の天賦の才に困らされてもいない。そんなもの、ひと欠片も持ち合わせていない。

    「…覚悟は、宜しいですね…!!」

    「何度言わせる気なんだい…。…ああ。いつでも来たまえ」

     その言葉を皮切りに。握り直した、細身の拳を。踏み込んだ足の、勢いのままに。
     大きく、横薙ぎに────。

  • 2125/03/24(月) 17:37:05

    前スレ

    セイア「殴り合いだ。歯を食いしばりたまえ、ミカ」|あにまん掲示板「…は?」 ミカの表情が、疑問に曇る。当然だ。私だって、今しがたその言葉を発した自分自身がなんとも滑稽でならない。少なくとも、年ごろベッドの上で咳き込んでいるだけの虚弱な女が放つ言葉にしては、あまりに…bbs.animanch.com

    ミレニアムEXPOを挟んでの続きを書きたかったけど、内容が全く思い浮かばなかった奴です。今も思い浮かんでないです。

    色々語ろうと思ってたのに不覚にも落としてしまったので、大分空きましたが周年イベ関連とてーぱーてー語りを兼ねてのんびり書けたらいいな、ぐらいの感覚で建てました。こうでもしないと絶対に着手しない気がした。

  • 3二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 17:42:27

    このレスは削除されています

  • 4125/03/24(月) 18:41:43

    普通に落としそうで大焦り
    2、3レス分くらい書き溜めてから立てるべきでしたごめん
    落ちたら何事も無かったかのように建て直しますね...

  • 5二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 18:42:15

    とりあえず10か

  • 6二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 18:43:54

    くそっ覚悟~のせいでロールケーキをうちこまれるセイアちゃんが連想されてこまる

  • 7二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 18:44:58

    このレスは削除されています

  • 8二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 18:47:34

    >>4

    でもよシャンクス…書き溜めようとしたらいつまでも立てられないんだろ!?

    分かるよ、俺もだ…

  • 9二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 18:48:43

    このレスは削除されています

  • 10二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 18:49:39

    後生だからネルセイについてイッチはどう思ったか聞かせてほしい

  • 11125/03/24(月) 19:21:56

    たすかった。ありがとうございます...


    >>8

    短編以上長編以下を書くならモチベ維持的な意味合いでも、突発スレ立て勢い執筆は結構悪くないのでは、と思ってます。二作目書こうとして途中で筆折った身なので説得力無いんですけどネ...。


    >>10

    言語化難しいけど「良き」の一言に尽きます。ちびっこコンビ。問題解決を通して気心知れた仲になってからの軽口合戦が大好きすぎる。


    ミカとセイアの相性が「悪い」とは言いませんが、切れ味高めのセイアちゃんとカラッとしてるネル先輩は話してて気楽そうだな、という印象。関係性の違いとかもあるのでこうだ、と言い切る事は出来ないですが。

    難しい言葉でズバズバ物を言うセイアちゃんの言葉を額面通り真っ直ぐに、全部そのまま受け止めちゃうミカはむっとしがちで、ネル先輩は言葉遣いとか気にせず、セイアが「何を言いたいのか」だけを抽出して受け止めてるイメージ。


    まぁ、ネル先輩の内面が大人びすぎてる所がデカいとも思います。リオレベルのバッドコミュニケーションかまさなければ、結構誰とでも仲良くなれるのが想像に易い。

    ただ、「コイツめんどくさそ、リオと同じタイプか?」→「『頼る』が出来る行動派。いいねぇ!」って評価の遷移は、エデン条約を経てセイアちゃんが「頼る」を出来なかった友人の失敗から学び、成長した行動の結果、みたいな捉え方が出来るかな、と。「頼る」に関しては前スレでもフォーカスした内容です。


    早口出ちゃう!

  • 12二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 19:26:36

    >>11

    いいよね……いい……

    なんかこうミカとは違ったベクトルの友人……って言うのかな……

    2人でリオいじるやつすき

  • 13二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 01:52:22

    ティーパーティーはもっとドラマみたいな青春見せてくれ

  • 14二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 11:11:33

    このレスは削除されています

  • 15二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 20:02:01

    このレスは削除されています

  • 16二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 05:54:24

    保守

  • 17二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 14:22:33

  • 18二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 18:45:39

    ほしゅ

  • 19二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 22:30:31

    ほしゅ

  • 20二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 22:36:50

    先生に力負けしかけるナギサと、病弱が治ったおかげで固定されてる数百kgの自販機を揺らせる程パワーが回復したセイアの殴り合いか…

  • 21二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 07:41:44

    このレスは削除されています

  • 22二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 14:24:04

    ほしゅ

  • 23二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 14:55:15

    このレスは削除されています

  • 24二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 14:56:38

    セイアちゃんが殴り合うスレって結構多いんだな

  • 25二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 00:09:33

    セイアがかなりやんちゃお嬢様だったから想像付きやすいんよな

  • 26125/03/28(金) 01:14:01

    「はぁ………」

     一秒前に流し込んだ紅茶の香りを纏う溜息は熱を帯び、蒸気の様に微かに白く色づいて空に溶けていく。
     物憂げな表情は、そのまま彼女の抱える内心の憂いそのものの色を映していた。

     既にトリニティを離れ、遠くミレニアムサイエンススクールへと旅立った友人。彼女の望みをただの「我儘」だと断じてしまえば、きっとそれまでだったのだろう。
     ナギサがそう出来なかったのは、薔薇の茎の様な棘だらけの言葉の根っこに見えた、ナギサを慮る純粋な気持ちから目を逸らせなかったからだ。

     セイアのそれを否定して、ナギサが自分の意見を押し通そうとすれば、今度残るのはナギサの「我儘」だけになってしまう。
     その理屈は奇しくも、あの古聖堂で「赦し」を選んだ幼馴染のそれと似通った物だ。もっとも、ミカの選択を知らないナギサと、今ここにあるナギサの葛藤と選択の理由を知らないミカの間で共有されない限りは、日の目を浴びる事の無い偶然だが。
     
    「……あっさり先生の言う事聞いた割に、不服そうじゃん。ナギちゃん?」

     机に肘をつき腕に顔を預け、両手に預けたスマホから目線だけをナギサに寄越すミカが口を開く。カップを口元から離し手元のソーサーに戻すナギサは、後味を噛みしめるのも程々に口を開く。

    「私だって、私自身の仕事量に多少の無理がある事くらい分かっています」

    「多少どころじゃないと思うけどなぁ。ほぼ三人分でしょ、三倍だよ?」

     どの口が。腸がぐつりと立てた音を、聞かなかった振りで誤魔化し、みたび紅茶を口に含む。

  • 27125/03/28(金) 01:16:04

    「その上で、秤に掛けたまでです。過労の私と病み上がりのセイアさんの、どちらに適した仕事であるかを」

     先の会議でもナギサが例示した、ミレニアムに関する芳しくない噂も大いに彼女の心労の一因ではある。ただ、外的要因だけが心配の種ではない。

    「今は安定しているかもしれませんが、出先で突然体調を崩したら…?」

     今回のミレニアムEXPOに際した学園交流に、救護騎士団は同行しない。シスターフッドと併せて、それぞれ異なる理由で外交向きでない事もあっての判断だ。故に、当然ながらかかりつけ医である彼女たちの協力は見込めない。
     果たして向こうに、緊急事態に対して適切な処置を出来るだけの設備や知識、それを活かせるだけの技術を持った人手があるのだろうか。

    「…設備はともかくとして、セイアさんの容態に関する知識が無いのは事実ですから」

    「それを言い出したら、ナギちゃんだっていつ倒れるか分かんないし一緒じゃない…?」

     む、っと顔をしかめるナギサ。「私は良いんです。本当に限界になったら分かりますから」。わざわざ口には出さず、態度でそう語りながら追いカフェインを決める姿から、ミカはやれやれと目を逸らす。

  • 28125/03/28(金) 01:17:32

    「……」

     そのまま暫しの沈黙が流れ、ナギサの心中が波打ち始める。

    「私は、どうするべきなのでしょう……」

     目を閉じ、先の会議で彼女が言った言葉を諳んじた。

    『────君たちが私の心配をしてくれるというならば────』
    『────その権利は同様に、私にも有って然るべきじゃないのかい────?』

     心配。そう、ナギサとセイアは、互いの事を同様の理由で心配している。
     未だ安定したとは言えない具合のセイアと、いつ過労が限度を超えるかわからないナギサ。客観視してみれば、不安材料としては確かにどっこいどっこいではあるだろう。

    「ナギちゃんも殴り合ってみたら?結構スカっとするよ☆」

    「本末転倒どころの騒ぎでは無いでしょう……」

     おちゃらけた調子の提案に、深いため息を吐くナギサ。セイアの事を守りたいが為の喧嘩なのだから、そのセイアをぶん殴って何になる、という話だ。
     
     あの喧嘩から半年弱。三人の間では未だ記憶に新しい。
     『悩んだり、不安がある時は誰かにちゃんと相談する』。先生を呼び、仲裁を頼んだのも、その反省の目に見える一歩だと言えるだろう。

     ただ、この件はミカの時とは話が違う。あれは、か弱いセイアが裡に閉じこもったミカを助けたがったから、成立した物のはずだ。

    「ナギちゃんとセイアちゃんでも、ナギちゃんの方がギリ強そうだもんね。ナギちゃんから殴っちゃったらちゃんといじめかぁ」

    「そういう話ではなく……」

  • 29125/03/28(金) 01:19:53

    大変お待たせしました。ありえないくらい間空ける事もあると思いますが、前と同じように最初の1レスに合流させられるようにゆるゆる書いていくので、付き合っていただけると幸いです...。

  • 30二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 07:48:08

    ゆっくりと楽しませていただきます

  • 31二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 14:33:54

    このレスは削除されています

  • 32二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 18:37:03

    ほしゅ

  • 33二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 22:47:50

    このレスは削除されています

  • 34二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 08:21:17

    このレスは削除されています

  • 35二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 13:32:26

    このレスは削除されています

  • 36二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 22:01:58

    保守

  • 37二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 07:39:39

    このレスは削除されています

  • 38二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 12:17:18

    このレスは削除されています

  • 39二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 19:56:34

    このレスは削除されています

  • 40二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 23:48:24

  • 41二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 08:48:45

    このレスは削除されています

  • 42和泉元エイミ25/03/31(月) 13:01:06

    保守。

  • 43二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 13:15:13

    あの名作の続きか楽しみ

  • 44125/03/31(月) 13:55:51

     ────セイアさんが単身ミレニアムに出かけたからと言って、私の生活が大きく変わる事は無い。正義実現委員会がまとめて不在である為、発生した問題にいつもと異なるアプローチが要される点は失念していたが、シスターフッドとの提携によりそこで大きく不便が生じる事は無かった。

     正義実現委員会の代役────と言うと聞こえは悪いかもしれないが。ティーパーティーが直接的正義実現委員会に出動を依頼する所を、サクラコさんを通してシスターフッドに動いてもらう形式で対応した。
     殊の外情報伝達はスムーズに機能していた為、伝言ゲームが大失敗する恐れは、ただの杞憂に終わった。いちいち何か含みのある言葉が返ってくるものだから、後からどんなツケを取り立てられるか、それだけが気が気ではないが。

     起こる問題の規模は話に聞くゲヘナの惨状と比べれば可愛い物。所構わず大穴を空けては高笑いと共に煙に紛れて消えゆくテロリスト集団や、不気味な粘液を撒き散らし辺りを闊歩する正体不明の怪物は、この学園には居ない。
     …だから良い、などと言うつもりはない。真に悩みの種なのは規模ではなく頻度の方だ。最終的に全ての報告は私の下へ一極集中する。規模感がどうでも、私の行動は「状況を把握して指示を下す」だけなのだから、内容がテロリストの制圧でも痴話喧嘩の仲裁でも、私にかかる負担は同じ。

     多様な理由で暴れるスケバン連中の制圧と、それらに起因するどこぞの団長の暴走。ヘルメットを被った武力集団と自警団の交戦による被害。ある一般生徒による戦車強奪事件。図書館での発砲沙汰。いじめ行為。金髪生徒のブラックマーケットでの目撃情報。その他、過激な派閥争いの問題行動が多数。

     耳を塞ぎたくなる事例が二件程見受けられるが、概ね対応が求められるのはこんな所。それに加えて予算の管理や生徒からの要望の精査など、無数の事務作業が文字通り山の様に残っている。
     片っ端から目を通して問題の無い物には印を押し、そうでない物には赤字で修正や事実確認の調査を入れ、期限を設けて再提出を命じる。勿論、この辺りのスケジュールも全て把握しておく必要がある。

  • 45125/03/31(月) 13:57:22

    「ふぅ……」

     飽きるほど飲んでも尚飽きない。紅茶は、淹れ方で如何様にも化ける。
     香りと、熱と────それから、カフェイン。これが無ければ、精神的にも物理的にも一週間を耐え抜く事は出来なかっただろう。

     いつも通り、七日間は仕事に忙殺されている間に過ぎ去って、今日はセイアさん達が帰って来る日。同行していたハスミさんや先生からも特に不穏な連絡は無い。少なくとも恐れていた様な事は起こらなかったようで、ほっと胸を撫で下ろす。

     いつものテラス、ミカさんと二人。 午前に仕事を押しやり、無理矢理作った時間。当然、セイアさんの出迎えの為だ。
     丸机を二人で挟み、見慣れた空席を眺める。背もたれには彼女の嗜好を施したチェアカバー。華やかに装飾が為されているから、その主が不在である事で逆に寂寥感が滲んでいる。

    「────ナギちゃーん?」

     そんなことをぼんやり考えていたら、意識の外からミカさんに声を掛けられる。はっ、と身体が弾み、手に持ったティーカップの中で赤橙色の水面が大きく波を打った。

    「す、すみません。何かありましたか…?」

    「眠たいなら、無理しなくても良いんだよー?」

     それこそ、一週間ぶりの休息だ。ぼうっとしていたのは否定できない。……それとも、今の私はそんなに酷い顔をしているのだろうか。

    「……出迎えくらいは。いつまでも不仲で居たいわけでは、ありませんから」

     何か言いたげな表情のまま、そっか、とだけ言葉を返し、背もたれに上体を預け直すミカさんを視界の端に。ちょうど、がちゃり、とノブが回る。扉を開けたお付きの生徒が先に出て扉を抑え、その後方で金色の狐耳が、ぴょこりと跳ねた。

  • 46二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 14:41:46

    続きだぜ。

  • 47二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 23:19:52

    セイア様になら殴ってほしい、いい塩梅で気持ちよさそう。

  • 48二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 23:20:53

    このレスは削除されています

  • 49125/04/01(火) 00:46:29

    「ただいま。ミカ、ナギサ」

    「おかえり、セイアちゃん!」
    「おかえりなさい」

     特に勿体ぶるでもなく挨拶を終えたセイアさんは、白地にミレニアムの校章が印刷された紙袋を持って自身の席に歩を進める。

    「………」
    「………」

     …沈黙。互いに発声のタイミングを逃した実感が沸々と湧き出でて、握った手の中でじんわりと嫌な汗。
     出発前に顔を合わせたのは、「行ってきます」「行ってらっしゃい」の1ラリーで終わった見送りの一回で、その一つ前は先生を呼んだあの会話になる。互いに無視できない気まずさから目を伏せた結果、さらにそれが増長する最悪の状況になってしまった。

    「…えーっと。セ、セイアちゃん、それお土産?中見ていい?」

     秒刻みで重くなる空気に耐えかね、私と同様に額に汗を浮かべたミカさんが間に割って入る。「ああ」と端的に返事を返すセイアさんは、素知らぬふりをして目を閉じたまま紅茶を一口。
     がさごそと紙袋を漁り、なんとも前衛的な見た目のサングラスを手に首を傾げるミカさんは置いておいて。黙りこくっていてもどうしようもないと、乾いた喉から絞り出す様に声を出す。

    「……ミレニアムは、如何でしたか?」

     開口一番喧嘩の話から入るのもどうかと思い、当たり障りのない会話からゆっくり軌道を合わせようと指針を定めた一言。貼り付けた澄まし顔で、相手の出方を伺う。

    「得る物はあったよ」

     ……。

     ……あの。それだけですか…?

  • 50125/04/01(火) 00:46:41

    「ど……どんな、展示が…?」

    「我々には馴染みの無い物ばかりさ。詳説にも難儀するくらいにね」

     ……つまり、言う気は無いと…!?

    「えぇ、と…。……も、問題は、ありませんでしたか?体調の程は……」

    「見ての通り、健在だとも」

     この人、会話を続ける気が無さすぎませんか…っ!?

     目も合わせず、両手の袖をぽふぽふと浮かせる適当な態度での返事に、貼り付けた筈の笑顔が引き攣る。言葉遣いにそぐわず、見かけの方に釣り合ってしまう程行動の幼稚さが際立っている。

     要するに、私の方から謝るまでまともに会話をする気はない、とでも言うつもりだろうか。そう思うと途端に「君はあれ程口煩く物を言っていたが、結果として恙無く事は終わった訳だ。さて、一週間何の不都合も無く役割を全うした私に対して、何か言う事は無いかね、ナギサ?」とでも言いたげな、得意げな表情に見えてきた。

    「………それは何よりです」

     だが。今回上手く事が進んだからと言って、次もその次も心配は要らない、などとどうして言い切れるだろうか。ここで私が折れて謝る事は、本当に彼女の為になるのだろうか。この成功体験に乗っかった彼女が、いつ足を滑らせる結果になるか。それを思うなら、ここで私が折れるべきでは無いのでは。

    「………えっと……二人ともー…?」

     …下らない意地だとは自覚している。ただ彼女の態度が気に入らないだけだろう、と突っ込まれてしまえばそれまでかもしれない。どちらかが折れなければ、大人にならなければ終わらない我慢比べだという事も理解している。

     それらの事実と私達に挟まれおろおろしているミカさんから全力で目を背け────私、桐藤ナギサと百合園セイアの間に、火花が散る。

  • 51二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 09:57:15

    すごく深刻そう

  • 52二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 18:13:44

    このレスは削除されています

  • 53二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 22:09:14

    おろおろするミカはちょっと気まずそう

  • 54二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 02:54:49

    まぁなんだ、感情をぶつけ合って喧嘩するといいよ。
    ナギセイが年相応~幼い部分を出しているのを見るとほっこりする。

  • 55二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 11:30:50

    保守

  • 56125/04/02(水) 12:39:01

    「っは~~~…。もう、居心地悪ぅ…!」

     そう言いながら、ミカは凝った身体を伸ばす様に両手の指を組んで大きく上へ持ち上げる。
     先の会話から程なくしてナギサが残った仕事の関連で呼び出され、席を空けた。ぴりついた空気の中では流石に、ミカのいつもの無神経も鳴りを潜めていたが────。

    「当事者の前で言う事かい?君はもう少し、気を遣うという事をだね…」

    「嫌味だもーん。意地張らずに、さっさと謝って終わらせちゃえばいいのに…」

     …意地。

    「…ミカは私が悪いと、そう思っている訳か?」

    「どっちもどっちだよ。お互い頑固者なんだから」

     呆れたような表情で溜息を漏らすミカ。そう言われてしまうとぐうの音も出ない。私の頭の固さは、もはや言われるまでも無く自覚しているのだから。

    「ナギちゃんだって謝る気ゼロって訳じゃないのは、セイアちゃんにも分かるでしょ?セイアちゃんの方から謝れば、ナギちゃんも謝るって」

    「だが、正しかったのは私の方だ。宣言通りに役割も全うし、五体満足で無事に帰って来たのだから、ナギサの方から謝るのが道理ではないかね?」

    「そういう所が意地っ張りだって言ってるんじゃん。どっちが先に謝るかー、とかじゃなくない…?」

     ……珍しく。そう表現するのも失礼な話だが、珍しく、ミカの正論が深々と突き刺さり、ゆっくりと頭が冷えていく。

  • 57125/04/02(水) 12:48:23

    「……意固地になっている自覚はあるさ」

     私を「保護対象に過ぎない」と言い切ったナギサは、私の事をその身を案ずる必要がある、か弱い存在だと認識していた筈だ。
     
    「だが……今回の外交対応に際し、私は身をもって示した訳だ。私だって力になれる、という事を」

     天を仰いでから瞼を降ろす。EXPOで起きたトラブルと、その収拾の為に奔走した一週間を、その裏に投影しながら。
     “仲間“と、胸を張ってそう言える、ミレニアムの友人たちの様に────言葉にはせず、心の中でそんな枕詞を付け足しながら。

    「────認めてくれても良いと。そう思うのは、悪い事か?」


    ………。

     ────一際大きな、私室の窓。朧雲が頭上に浮かぶ、いつもよりも少し暗い夜。膝の上に乗せた本に栞を挟み込み、そろそろ寝ようかという頃。

    「────?」

     視界の端。窓から影が落ちたように感じ、ゆっくりと首を其方に向ける。
     淡い月明かりの逆光を受けた人影。その体躯は私のそれと大差ない、身軽さを見て取れる────などと口に出せば、本人はきっと怒るだろう。

    「よう。来てやったぜ、セイア」

     この時間に、こんな場所からの尋ね人。緩くはない筈のセキュリティを素知らぬ顔ですり抜け、気安く「遊びに来た」などと言う。心当たりのそれと一致した声の侵入者に対し、思わず笑みが零れてしまった。

    「……本当に、突然来てくれるものだ。昨日の今日だろうに」

     立ち上がり、膝の上の本を棚に戻す。寝間着な事に多少の小恥ずかしさを覚えつつ、不躾な客を快く迎え入れる準備を整え────。

    「私の秘密の園へ、ようこそ────ネル」

  • 58二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 20:43:49

    やだこの二人最高……♡

  • 59125/04/02(水) 23:38:30

    今週時間あるからゴリゴリ書き進めようと思ったんですが、難航気味なので早めに報告しておきます...
    めっちゃえっちな展開の入りみたいな区切れ方してますけど、閲覧注意付けてないのでエ駄死百合展開はありません

  • 60二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 08:50:42

    保守

  • 61二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 12:48:08

    このレスは削除されています

  • 62125/04/03(木) 14:42:17

     こぽ、こぽ。熱を持った飴色の液体がティーポットから注ぎ落とされる、耳心地の良い音。椅子を腰かけ足を組んだまま、物珍しそうにその様子を見つめる彼女の態度を咎めるつもりは無い。

     予告の通りに最上級の茶菓子を取り寄せる事は叶わなかったものの、来客用に取り揃えていた物の中から砂糖控えめな物を選び取って机に並べてある。紅茶が甘いから、という事もあるが────腐っても女子。夜中の糖分には十分警戒したい。
     ともかく、最低限紅茶に見劣りするという事は無いだろう。カフェインで眠気が遠のくのが玉に瑕だが、致し方無いと割り切ろう。

    「……これ、ホントに紅茶か?もうちょい苦かったりするもんじゃねーの?」

     カップに唇を付けたネルが、目を見開いてそう漏らす。籍を置く環境と彼女自身の人となりから、茶会の場には慣れていないのだろう。そんな顔が見られただけでも、茶会のホストとしては鼻高々という物だ。

    「はちみつの風味を含んだアプリコットだ。お口に合うと良いのだが」

     遅れて説明を挟み、自身も一口。目を瞑り、口に広がる深い甘みとフルーティーで芳醇な香りを楽しんで、飲み下してから────口を開く。

    「それで、どうしてこんな時間に?」

    「朝っぱらからC&Cの任務で動いててな。帰り際、偶然トリニティの近くに立ち寄ったから、驚かせてやろうと思って」

     つい昨日まではEXPOの裏で走り回っていたというのに。ミレニアムから中々に距離のあるトリニティ近辺にまで、一日かけての任務とは、さぞかし大変だった事だろう。
     にも拘わらずけろりとした顔で私の部屋への侵入もこなす始末。さぞ忙しく、暇しない日常を送っているのだろう。

  • 63125/04/03(木) 14:43:52

    「……?どうした、シケた面して」

     “忙しい日々”。その言葉にふと過ぎったナギサの顔。
    いつぞやの、スズミに初対面で悩む胸の内を言い当てられた時の事を思い出す。どうやら私は、ことこういう話題に関しては表情を隠す事が限りなく下手な様だ。

    「……何。見解の違いで、少し友人と揉めていてね」

    「……そういやそれらしい事、ちらほら言ってたな」

     ずず、と音を立てて紅茶を啜るネル。ふぅ、と熱い吐息を漏らしてから、続けて言葉を発した。

    「事情も知らねえしとやかく言わねえけど、あんま考えすぎんなよ。リオみたいのがもう一人なんて、面倒見切れねぇからな」

     当然の様に反面教師として、悪い例の代表に挙げられる────もう一人の友人の、困ったような表情を思い浮かべ、苦笑いをする。

    「あぁ、ありがとう。肝に銘じておくよ」

     肺に溜まった甘く暖かい空気を、お腹から一息に吐き出した。

     ……ミカにも言われた通りだ。大事なのは「どちらが先に謝るのが道理か」などではない。事の発端は、ひとえに私もナギサも互いを心配しての事。その本質が揺らいでは本末転倒も良い所だ。
     ネルの言う通り、考え過ぎなのかもしれない。凝り固まった考えを解き解す事から始めていこう、と────そう考えながら、甘い紅茶をもう一度、口に含む。

     夜は、そうして和やかに更けてゆく。

  • 64125/04/03(木) 15:04:35

     その報告が私の耳に入って来たのは、翌日の昼頃だ。
     疑いが挙がった朝の時点から事実確認を挟み、更に変わらずの激務の渦中にある私の耳に届けるまでに掛かったのが半日。仕方のない事だ。
    無論早いに越したことは無いが、事が起きた後である以上は五十歩百歩。咎めるべきはそこではない。

    「セイアさんの部屋に、侵入者…!?」

     構成員からの報告を聞き、真っ先に思い浮かぶのはエデン条約にまつわる例の事件で起きた、セイアさんの襲撃。その真相はセイアさんが自身の死を偽装し、姿を隠すためのブラフだった訳だが────それは、彼女に予知夢の権能があった頃の話。

     ミレニアムEXPOへのセイアさんの参加を渋った理由の一つでもある、予知夢の能力の喪失。体が弱く自衛の手段も信頼に欠ける彼女にとって、未来を先読みするある種大きな武器であったはずだ。
     能力と引き換えに「勘が鋭くなった」とは言うものの、その精度は明確に全盛のそれよりも低く取り回しも悪い。

    「警備は、何を…!」

     エデン条約の一件。それから、ミカさんへの嫌がらせの再燃が発覚した、件の決闘。その二つの要因から、ティーパーティーメンバーの二人の私室周りの警備の見直しは数回に渡って行われている。少なくとも、アズサさんの襲撃時とは比較にならない程、厳重になっている筈だ。

     だが、それでも。監視カメラに映った不可解な影や部屋周辺にわずかに残った痕跡。動物や自然現象とは異なる、人の手で残された証拠は、何らかの目的でセイアさんの部屋に侵入した人物が、少なくとも「アリウス分校で訓練を受けた経験のあるアズサさん以上に、潜入が上手く手際の良い何者か」である事を示していた。

  • 65125/04/03(木) 15:05:11

     当人への事情聴取からはセイアさん自身に特に危害が及んだ様子も無く、特に部屋の物が盗まれた、とかいう被害も出てはいないようだった。だが、これを幸いと取るかは判断しかねる。

     握った手の中で滲み出る汗。思考の先走りで痛い目を見るのはもう何度目か。ついこの間、謝肉祭に際したシスターフッドの一件でもそうだった。ミカさんにこってり絞られ、反省してから、既に一か月と少し。
     それでも、邪推は止められない。セイアさんが、ミレニアムEXPOで────或いは何らかの形で、誰かの恨みを買うような事をしていたとすれば。…或いは。

    「────対策を講じます。正義実現委員会に、警備の巡回ルートの見直しを。それから……」

    襲われなかった理由など、幾らでも思い浮かぶ。偵察目的。様子見。疑いを与える事すら、作戦である可能性。
     見据えるのは常に最悪の想定。セイアさんがミレニアムの恨みを買った、以上に────、

    「……何か私に、隠している事が……?」

     あの時以来心に巣食い、この頃鳴りを潜めていた猜疑心が────幼馴染の裏切りの記憶すらも、引きずり出して。

  • 66125/04/03(木) 15:05:34

     疑念は芋づる式に、私の選択肢を狭めてゆく。
     ミカさんと話した時に自らの口で発した言葉だが、「不仲で居たいわけではない」のは本心だ。そしてそれはセイアさんの方こそ、そうである筈だ。
     にも拘わらず、EXPOを挟んで尚続く不和を解消しようとしないのには、理由があるのではないか────?

     そして、EXPOから帰還したタイミングでの謎の侵入者の存在。セイアさんの周辺の何かを狙っての事であるならば、直近に起こした大きな行動────ミレニアムEXPOの参加と、全くの無関係であると断じる方が不自然だ。
     かといって、ミレニアム生にアタリを付けるのも危険な事に間違いはない。だって、正義実現委員会もEXPOに参加していたのだから。

     無数に枝分かれする可能性の全てを睨んでいても、どうしようもない。ミレニアムからロボットか何かが送られてきている可能性もあれば、既にトリニティ内部に息を潜めている、いわば“裏切り者”の再来という事もあり得る。或いは、先にも浮かんだ、本当に最悪の筋書きであったとしたら。

    「…………」

     思考の袋小路に行き詰まり、ただ一つ分かるのは────可能な限り早く、出来る限り人手を借りず────先ずは、百合園セイアにかかった容疑を晴らすべきである、という事。



    二日の空白。その答えは月の下、ナギサの手に握られたボイスレコーダーの中に、

    『……マジか、通りでやけに厳重だと思ったら』
    『あぁ。少し、会合は控えるべきかもしれないね』

     私の────桐藤ナギサの想定する“最悪”を、見事に引き当てる形で、音声として残されていた。

  • 67125/04/03(木) 15:10:06

    続き、書けたら夜にでも
    てーぱーてーの3Dお披露目が楽しみ過ぎて昼も夜も眠れません。なんかの間違いで12月まで続いてクリスマス歌ってくれねぇかな.........

  • 68二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 20:07:20

    ナギサ様⁉私室の盗聴はライン越えでは⁉
    しかも中途半端にしか録れてないっぽい?
    これは…

  • 69二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 21:05:12

    本当にイベの後日談読んでる気分だぜ

  • 70125/04/03(木) 23:24:59

     ────肩で風を切り、道無き道を駆ける音。
     途切れ途切れの、足音。壁を蹴って宙を舞い、草木の合間に身を滑り込ませる。パルクールを魅せているかのように、縦横無尽に。自然のアスレチックを駆け抜ける、小柄な少女。

     真っ直ぐ突き進めば良い物を、わざわざ複雑な経路を彼女が辿るのは、木々に姿を隠した多数の正義実現委員会の生徒の射線。その存在を、正確に見抜いているから。
     緊急の配属ラインとはいえ、その脆さを補って余りある人数。それを、頭数など関係無いと嘲笑う様に、着々と目的地へと距離を縮めてゆく。そんな報告が、リアルタイムで私の耳に届く。

     跳び、駆け、滑り、転がり、回り。発砲すら許さず包囲網の網目を潜り抜け────その足が、遂に部屋の窓へ。

    「……随分派手な歓迎だな。この部屋の主が、こんな事許したのかよ?」

     月を背負った橙の髪。三つ編みを風に泳がせ、此方を見下ろす少女。背丈はセイアさんと然程変わらない。鎖で繋がれた二丁のサブマシンガンを鞄に吊るし、先に録音で聞いていたあの声で。人相の悪い少女は、余裕たっぷりに笑みを浮かべる。

    「セイアさんなら席を外しています。救護騎士団の健康診断────其方に手を回して、その時間を調整致しました」
     
    「へぇ。まるであたしが来んのが分かってたみてぇな口振りだな」

     臆する様子を欠片も見せず、此方の種明かしを軽く聞き流す。声が震えないよう腹に力を入れ、真っ直ぐに拳銃を向けながら言葉を紡ぐ。

    「貴方程名前が知れ渡ってはいませんが、こちらにも優秀な諜報部が居りますので」

     初めの想像を大きく飛び越えるほどの、大物。その威圧感を肌で感じながら────彼女の名を、呼んだ。

    「……ミレニアムサイエンススクール、C&C所属。コールサインダブルオー────“約束された勝利の象徴”、…美甘、ネル」

  • 71二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 08:43:54

    量より質かあ…

  • 72二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 13:46:27

    ほうこれが神スレの続編か

  • 73二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 19:22:07

    ほほじょ

  • 74125/04/04(金) 19:33:35

    「言ってくれるじゃねえか……って、噛みつきてぇとこだけど。優秀なのは間違いねぇんだろうな。いつから捕捉されてたんだ?気付かなかったぜ」

     何せ、いつ誰に見られてっかわかんねぇからよ。どちらに対してもそこまで意に介していないような口ぶりでそう笑い飛ばしながら、ネルは窓辺にぶっきらぼうに腰を下ろし、両手を挙げてひらひらと動かす。

    「ま、悪ぃのはあたしの方だ。あと、あたしの事を黙ってたセイアもだけどな」

     ぴくり。一挙手一投足、放つ言葉を一つたりとも逃さないように、強い警戒を向けていた所に────当然のように飛び出す、セイアさんの名前。まるで親しいかの様な口ぶりだが、どんな関係なのか────?そうやって問い質したい気持ちをぐっと飲み込み、今ここで聞くべき事を初めにはっきりさせておく。
     
    「────では、降伏する、と?」

    「手荒なのが好きなら付き合うぜ。どうする?」

     白い歯を覗かせ、鞄から覗くサブマシンガンに手を触れてかちゃかちゃと音を鳴らす。
     彼女の実力が本物である事は、疑いようも無い事実。ミレニアム最高戦力と言っても過言ではない相手だ。それこそ、ミカさんかツルギさんでも連れて来なければお話にもならず逃げられる事だろう。

     言葉遣いは別として、思いの外物腰柔らかな彼女の態度と、戦力差。それらを考慮に入れた数秒の逡巡を経て、窓の外の部隊に銃を降ろせとハンドサインで命令を下す。────握った拳銃だけは降ろさず、狙いがブレないように腕を伸ばしたまま。

    「へっ。つまんねぇけど、賢明だ」

    「…目的は何ですか。セイアさんに、何をするおつもりで…」

     私の言葉を聞いたネルの表情が変わる。目を見開き、素直に驚いたような顔で、盛大に舌打ちを響かせてから顔を背け、ぶつぶつと何かを呟き始めた。

    「マジで何の説明もしてねぇのかよ…あいつ、あたしの事なんだと思って……いや」

     かと思えば、今度は何かに気付いたように此方に顔を向け、半ば睨みつけるように目を細めた表情で此方を見つめて来る。

    「し、質問に答えてください!貴方は、何のつもりで────」

    「そうか────お前か、セイアと喧嘩中の友達ってのは」

  • 75125/04/04(金) 19:34:49

     頬が強張る。力が入ったのは顔だけでなく、全身だ。意識の外から殴りつけられた様な衝撃。どうして、どこから、どうやって。考えるまでも無く、「本人から聞いたから」の一言で説明がついてしまう。

     もしかして、本当に────?

    「やっぱりな。…お前ら、分かりやすいんだよ」

     思わず押し黙ってしまった此方の顔を見て、後頭部を搔きながら深く溜息を漏らす彼女。

    「何のつもりで、って聞かれたな。あたしは文字通り、ただ遊びに来てるだけだ。……証拠っつーんなら、これだな」

    「────」

     そう言うと彼女は、着崩している制服をくい、と引っ張って指し示す。その意図を測りかねている私を見てか、付け加える様に言葉を発した。

    「…あたしの事調べたんなら分かるだろ?メイド服を脱いだあたしは、C&Cとは何の関係もねぇ。プライベートの、一人の美甘ネルとして、だ」

    「……根拠として、弱すぎます」

    「なら、セイアを呼べよ。それが一番話が早ぇ」

     ……それは。

    「……だんまりか?そろそろイラついてくるから、しゃっきりしろ」

  • 76125/04/04(金) 19:35:17

    言葉通り、不機嫌を隠そうともしない相手。確かに、この場にセイアさんが来れば彼女の発言の真偽は分かる。だが、それをするのは────。

    「……お前は多分、あたしの知り合いと同じタイプだ。流石にそいつ程じゃねえだろうが、大分頭が固いと見た。違うか?」

    「っ……」

     誰の事を、言っているのだろう。
     心の踏み込まれたくない所に、土足でずかずかと踏み入られるような感覚に、不快感を覚える。

    「発端は知らねえけど、アイツと揉めたって事はそういう事だろ。さっぱりした奴だからな」

    「貴方が、セイアさんの何を…」

    「あたしもセイアの“友達”だ。お前が知らねえ面を知ってて、お前が知ってる面を知らねえ。そんなもんだろ」

     ────何、を…!

    「……口も利きたかねぇってのは相当重症だな。何から逃げてんだよ。お前は、何がしてぇん…」

    「────私達の、何を知って、偉そうにっ!!」

  • 77125/04/04(金) 19:36:03

    「セイアさんが一時期どんな状態だったかも知らない部外者が!」

     叫ぶ。

    「私“達”にとって彼女がどれだけ大切かも知らない癖に、勝手な事をっ!!」

     叫ぶ。

    「たかだか一週間の付き合いで、思い上がりも甚だしい!!」

     叫ぶ。

    「口の中をスコーン詰めにされたくないなら、その口を閉じなさい!!」

     …叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。
     溢れ出る激情の奔流に身を任せ、トリニティのホストにはとてもとても似つかわしくない言葉遣いで口汚く罵りながら。

    震える指を引き金にかけ、睨みつけた相手の顔は────笑っていた。

    「────なんだよ。元気よく喋れんじゃねぇか」

    「…聞こえなかったのですか…!?口を、閉じろと…」

    「ただ、やる相手が違ぇ」

     徐に。片手を持ち上げ、此方を真っ直ぐ、指さす────否。その指が指し示すのは、私ではなく、その後方。

    「───────ナギ、サ……?」

     声を聞きつけたのか、開いた扉の向こうで呆然と口を空けている────ミカさんと、セイアさんの事を。

  • 78二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 19:38:44

    おお……
    ネルパイかっこいい……

  • 79125/04/04(金) 19:44:13

    お待たせいたしました......本当は一気に投下したかったんですが、書いてる途中特にネルパイ周りで展開ごと「んん?」ってなる箇所が多くて、軌道修正に時間がかかりましたごめんなさい

    それはそれとして、今更序盤の描写と整合性取れないイベントの記述を見つけちゃったので、どこかでまとめ直す事があれば大きめの修正加えるかもです......クッソ......

  • 80125/04/04(金) 23:58:36

     移動したのは、正義実現委員会が居た為だ。処遇を考える為としてネルを連れ、揃い踏むティーパーティーの三人と共に訪れたのは、いつものテラス。
     茶会の予定の無い夜のテラスは、いつも通りの静けさに包まれている。青みがかった空に浮かぶ朧月は、今日も晴れずに淡い光を降らせ、同じく静まり返ったトリニティをわずかに照らしている。

    「………」

     先頭を歩くセイアさんが、中央に置かれた丸机の横を通って、その奥に立ち────静かに、私達の方へ振り返る。

    「随分と……熱が入っていた様だが」

     言葉の端々に滲むのは、どこか怒りに似た色の様に思えて。

    「……話をしましょう。腹を割って、真剣に」

     それは此方も同じ事。何故、ネルの事を隠していたのか。納得のいく説明を要求するのじは当然だと、セイアさんを見つめる。

    「……ミカ、つったよな。端、寄っとくぞ」

     張り詰めた雰囲気に居心地の悪さを感じてか、ネルは私の前を横切ってテラスの端の柵に背を預けた。

    「……なんで私も?」

    「あたしが一人になると、集中して話もできなそうなお嬢様がそこにいるんでな。逃げやしねぇけど、お前が見張ってりゃ邪魔にもなんねぇだろ」

     ……嫌味ったらしい言葉に、再び胸の内が軋む音がした。眉間に皺が寄ったのを自覚し、目を閉じて深呼吸で紛らわす。

  • 81125/04/05(土) 00:09:26

    「ネルさんの事。ミレニアムであった事。洗いざらい、話していただきます」

    「……聞けば考えを改めると言うのなら、やぶさかではないが。君にそのつもりがあるのかね?」

    「考えを改める、とは?……私の、何がそんなに気に食わないのですか?」

    「EXPOの前にも飽きるほど言ったはずだが、これだ。言葉を紡ぐだけ無駄ではないかね」

    「……そうやって逃げに走るのは、話し合いの放棄ではありませんか」

    「……君に守ってもらう必要などない。そう言ってやれば満足か?」

    「………それこそ、何度も言ったはずです。事実に基づいた判断ですから、感情の問題ではないと」

    「私が示した行動を無視して『感情の問題』────私の我儘だとでも、言うつもりか?」

     ────駄目だ。これでは、何も変わらない。
     揚げ足の取り合い。理不尽の応酬。不快感のぶつけ合い。真っ直ぐ目を見て話そうとしても、取り合う気が無いのだからどうしようもない。

    ……しかし。自覚したから何だという話だ。「互いに」胸を開かなければ、結局は同じ事。
     心に靄がかかる。もや、もや。胸が詰まる様な感覚。何か、どうにか────




     
    『────ナギちゃんも殴り合ってみたら?結構スカっとするよ☆』

  • 82125/04/05(土) 00:20:51

    「……セイアさん」

     声調を、一つ落とす。落ち着きを保ったまま、よく言葉を選ぶ。

    「私達は、どうやら……度が過ぎて頑固な、分からず屋の様です。…事ここに至って、まだ意地を張らずにはいられない。互いに譲らず、自分を貫こうと必死になってばかり……」

     眉を顰め、静かにこちらの話に耳を傾けるセイアさんに。声が震えないように、腹に力を入れて────続ける。

    「状況は違いますが……言葉が意味を成さない時、セイアさん。────貴方自身がした事を、忘れてはいませんよね」

     表情が、変わる。驚きを含んだ物に。目を、大きく見開いて。

    「……そうか」

     何かを考える様に、目を閉じるセイアさん。数瞬。声を上げるべきか迷いを残したまま、口を開こうとしたその時。

    「確かに、それも手だ」

     そう言いながら、膝を曲げて足を持ち上げ、後ろ手で靴を脱ぐセイアさん。白いタイツに包まれた両足が、冷たい筈のテラスの床に触れる。が、目を閉じたセイアさんの表情からはそれに対する反応は見て取れない。

    「……あぁ。そうだね。言葉が意味を成さない時────言い得て妙だ」

     続いて、袖を結っている紐に指をかけ、ゆっくりと引く。ボリュームのある付け袖が、ぱさり、と音を立てて地面に落ちた。

     目を伏せたまま、ゆっくりと。丸机の外側から回り込むように、私の傍へ、セイアさんが来る。
     見下ろした顔。見上げる顔。視線が交わりたじろぐ私に、セイアさんが────告げる。



    「君が望むのなら、殴り合うとしよう、ナギサ」

  • 83125/04/05(土) 00:24:23

    そろそろ言葉が出て来なくなってきたので、今日はここで一旦寝ます。
    明日はお昼ごろから更新出来たらいいな、と!

  • 84二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 04:02:01

    ついに殴り合いが…

  • 85二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 12:04:53

    細かくフラグを積み増していくからハラハラしたけれど、ネルパイセンが介入し始めたら一瞬で…
    さすがパイセン。

  • 86125/04/05(土) 12:47:30

    「っ……!」

     自分から売った喧嘩でありながら、私の握り拳は震えている。その私よりも一回り以上も小さいセイアさんは、何故か覚悟の決まった表情で、真っ直ぐに此方を見据えているというのに。
     拳を交えての喧嘩など、生まれてこの方した事が無い。トリニティの生徒たるもの、上品たれ────17年と少し。そんな物とは全く無縁の人生を貫いてきた私の背を、言葉に替え難い恐怖が這い上がる。

    「……どうした。君と私の考えを折衷しても、納得の行く答えが出なかったんだろう。ならば、私の頬に一撃喰らわせてでも、君の信念を貫き通す必要があるのではないかね」

     そうやって、滲む汗の不快感を感じながら、必死に悩んでいる私にぶつけられた言葉を聞いて。…かちん、と来た。自分は二度目だからと言って、簡単に物を言う。
     そうだ。私はミカさんじゃない。力の制御が必要な程、自身の天賦の才に困らされてもいない。そんなもの、ひと欠片も持ち合わせていない。

    「…覚悟は、宜しいですね…!!」

    「何度言わせる気なんだい…。…ああ。いつでも来たまえ」

     その言葉を皮切りに。握り直した、細身の拳を。踏み込んだ足の、勢いのままに。
     大きく、横薙ぎに振るう────直前。セイアさんの姿が、私の視界から、消え────




    「────っあ゛……」

    露わになったセイアさんの細腕が腹部に突き刺さり、私の身体が、くの字に曲がる。

    「────どうした」

     力の入っていない腹に加えられた一撃。じんわりと痛む腹を抱え、咳き込む私に────セイアさんが言う。

    「お求めは、殴り“合い”だろう────?」

  • 87125/04/05(土) 12:48:31

     沸々と、湧き上がる感情がある。それが、ゆっくりと顔を覗かせる。
     私は、激情家だ。それはいい加減に認めなくてはならない。
     学園を統べる立ち位置、ティーパーティーという席に座り。微笑みの仮面を貼り付け、皆の規範と、手本となるべく抑えつける事を選んでも────本来の人間性を隠し切るのは、並大抵の事ではない。

     それを私は、欠点だと、思っていた。



     ……膝をついてはいられない。反骨心が、よろける体を支える。
     脳が、興奮状態に移行する。腹部に溜まった熱が全身に行き渡り、沸々と湧き立つ錯覚。
     顔を上げる。澄ました顔の狐が、幾分か私よりも小さい筈の、彼女が────此方を見下ろしている。

     足に、改めて力を入れ直す。緊張は無い。握る手は、怒りに満ちている。
     彼女への怒りではない。自分自身の情けなさに対しての物だ。

    「う、あぁっ!」

    「!」

     銃声と同時に地を蹴り出す、徒競走の様に。……と言っても、その経験は無いのだが……。生まれて初めてのスタートダッシュに、バランスを崩しかけながらも────持ち上げた腕を、もう一度────ッ!

    「ぐ」

     横薙ぎに振るった腕は、セイアさんの横腹に。咄嗟に噛ませた細腕で防がれる、も────華奢な腕では衝撃を殺すに至らず、彼女の歯の隙間から苦悶が漏れる。

  • 88125/04/05(土) 12:48:41

    「ぅ……ッ」

     そして、それは。生まれて初めて「殴る」という行為をした私にも、跳ね返る様に。

     ────痛い。

     簡単に折れてしまいそうなセイアさんの腕でも、通った骨は信じられない程に硬い。これでは、ただぶつけただけと同じ事ではあるまいか。
     じん、じんと痛む。ほんのり赤みを見せる素肌が目に入り、眉間に皺が寄る。こんな事を、どうして────と、抵抗が顔を見せた、瞬間に。

    「あ、ぁあッ!」

     顔面に、鋭い衝撃。ぐらり、と視界が揺れ、一瞬で思考を吹き飛ばす破裂音が響いた。
     それが、セイアさんの平手の反撃によるものだと気付くまで、数秒の後れを要する程に。

     ────何を、考えていたんだったか。

    「こ、のっ…!!」

     先程の抵抗感は、どこへやら。一発、やり返してやらなければ。そんな思いに身を任せ────平手を、返す。

  • 89二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 12:52:25

    セイア、普通に戦えるようになってて驚き

  • 90125/04/05(土) 12:53:11

     全くの、低次元。
     ネルとミカ、方向は違えど実力者の二人の目に映るのは、児戯にも近しいがむしゃらな喧嘩だ。小柄で華奢な身体のセイアが、どれだけ頑張ろうとその殴打の威力はたかが知れているし、負けず劣らず非力なナギサも、体格差を全く活かせない素人丸出しの立ち回り。

    「………アイツ」

     しかし、百合園セイアの動きに注視していたネルは、直ぐにそれに気づく。彼女の動きの一部は、ネルの癖を真似た物だという事に。
     所詮は素人の猿真似。膂力もスピードも比べるまでも無い。反射神経も精々並の少し上で、防御はザルだが────条件が素人同士の殴り合いである以上、その付け焼き刃の技術も立派な武器として作用している。

     それも、たった数回、ネルの実力を目の当たりにしただけにしては、良く出来た動きと言えるだろう。箱入りのお嬢様でなければ────セイアの虚弱体質を詳しく知らないネルは、そんな事を考えながら静観を続ける。

    「ナギちゃん……」

     隣で、同じく二人の格闘を見つめるミカ。止めるつもりなら彼女にとっては易い事。間に入って二人の腕を掴めばそれで仕舞いだ。
     そうするつもりが無いのは、彼女が知っているからだ。極限に追い込まれ、煮詰まった物の考え方が解き解されていく感覚を。思い返せばあの時は、殴り合いの喧嘩と呼ぶにはあまりにも一方的だったと、内心で苦笑いをしつつ。

     どこか冷静さを失わないセイアの動きに違和感はあれど、それよりも目を引かれるのはナギサの方だ。声を荒げて怒る姿は、17年と少しの間に幾度となく見た。しかし、あそこまで鬼気迫る表情で事に臨むのは、いつぶりか。
     願わくばどうか、自分の時の様に良い方向に着地しますように────そんな祈りを胸に、彼女もまた静観を続ける。

     軽い打撃音と、雄叫びと、苦虫を噛み潰したような悲鳴────。

  • 91二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 13:06:36

    ネルパイの動きを真似てるところにネルセイの波動を大いに感じる……

  • 92125/04/05(土) 15:11:14

    「あ、ぐっ…!」

     真下から垂直に顎を撃ち抜かれ、視界がブレる。世界からほんの一刹那色が抜け、ちかちかと明滅しながら、遠のく意識を何とか引き戻す。────ここで倒れる訳には、いかない。
     やけに鉄っぽい味の唾液を飲み下す。おそらく口内を切ったのだろうが、痛い箇所が多すぎて分からない。────だが、折れない。

    「────ぁ、あぁああ゛────ッ!!!!」

     ふらついた身体。前傾した上半身を起こさず、そのままセイアさんの方へ走り出す。手足でだめなら、身体でぶつかりに行く。ここでようやく、私は自身と相手の体格差と言うアドバンテージを自覚した。

    「う、ぐ………っ!!」

     突き出した両手を受け止められ、取っ組み合う形。顰め面、目線が交差する。
     負けない。負けられない。そうやって歯を食いしばる私の顔を見る、どこか冷静なセイアさんの表情。

     何故────?

     そう、言っているように感じて。

    「────こっちの、っ…!台詞、です、…!!」

     曲げた肘を、体重を乗せて、一気に伸ばし、相手を突き飛ばす。
     声も上げずに吹き飛んだセイアさんが、背中から地面に倒れた。此方を睨みつける彼女の顔に、鼻血が伝う。

    「どうしてっ!!どうしてそうも、頑なになって、私の…私を!!」

     気を遣う余裕も無い。頂点に達した激昂をこの場で発露しなければ、ぐつぐつと煮えたぎった腹の内が熱くて堪らない。

    「私から!!離れようと、するんです!!」

    「────君が、それを言うか!!箱庭に閉じ込め、保護と称して一人で先を往こうとする君が、私に、それを!!!」

  • 93125/04/05(土) 15:13:23

     跳ね返る怒号が、びりびりと空気を揺する。

    「────っでは、着いて来れるのですか!!?何の根拠があってそう言い切れるのですか!?一度や二度上手く行ったからといって手放しに任せられる程、貴方の身体が強くないのは事実でしょう!?」

     殴り。蹴る。一言、叫ぶ度。互いに。

    「ならば君は、このままずっと私を蚊帳の外にするつもりか!!一人では限界がある事位、これまでで嫌と言う程学ぶ機会はあったろう!まだ分からないのか!?君一人で突き進む事の非効率性を!!」

     必死に、叫ぶ。体裁もへったくれもない、醜態を晒しながら。

    「私一人を使い潰して事足りるのなら十分でしょう!!」
    「自棄の精神など唾棄すべき悪徳だ、ふざけるな!!!」

     最早躊躇いも、言葉選びも無い。口汚い本心を乗せて、思いつく限りの暴力と共に。
     届け、届けと。そう、女々しい願いを裡に隠し。

    「傍に居る貴方に気を遣う余裕なんて無い!!なぜ、なぜ────っ!」
    「その負担を私も背負うと言っているのだろうが!!────何、故……!!」

     振るった、拳が、交差して。

    「「どうして────私を、信じない!!!」」

     互いの頬を────撃ち抜く。

  • 94二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 22:36:35

    君が望むなら保守をしようスレ民

  • 95125/04/06(日) 00:25:33

     口から垂れる血を拭う、ナギサ。鼻から垂れる血を払う、セイア。
     鋭いクロスカウンターで開いた空間。その間に割って入る人影が、一つ。

    「そこまでだ」

    「…なぜ止める、ネル」

     膝を着いたまま、鋭い目つきをネルに向ける。無謀と分かっていても、邪魔をするなら君であろうと────そう言いたげなセイアが、尾の毛を逆立てながら。

    「興奮しすぎだ、セイア。────お互いに、言いてぇ事は言い切っただろ」

    「………言いたい、事を」

     深いため息の後、片手を挙げたネルは彼女の後方に立つ────ナギサとセイアを、誰よりも知る少女に、合図を出す。「後は任せる」────と。

    「……はぁ。好き勝手搔き乱して、全部わかってましたー、みたいな顔でこっちに全振り?ムカつく。……まぁ、そうするつもりだったけどさ」

     退いたネルの脇を通り、丸机に腰を預け────震える足を抑えて、立ち上がろうとするナギサの方へ、視線を向ける。

    「……ナギちゃんは、セイアちゃんがいなくなるのが怖いんでしょ?」

    「……は」

  • 96二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 01:11:24

    このレスは削除されています

  • 97125/04/06(日) 01:12:34

     私は、激情家だ。一度頭に血が上ると暫くはそのまま、短慮を繰り返して後悔を積み重ねる幼い人間。それは、どれだけ強い立場になっても抜けない、私と言う人間の本質の一部。
     感情に振り回され続ける様では、人は着いて来ない。此処に辿り着く道のどこかでそう思ったから、それに蓋をする事を覚えた。

     紅茶が好きなのは、落ち着くからだ。香りが。味が。熱が。
     湧き上がる怒りも、心沈む悲しみも、飛び跳ねたくなる様な喜びも────生まれた感情の凹凸を、出来る限り平らに均す為。平等で、誠実で、規範となる人間で居るべきだと。その為には、感情で動いてはいけないと。

    「────エデン条約の時から、だよね。セイアちゃんから目を離さないようになったの」

     セイアさんの死亡の報告を受けた時。 感情的になってはいけないと。冷静に、ティーパーティーのホスト代理としてするべき事を、優先しようと。疑わしい人物を洗い出し、それ以上の被害を出す前に確実に事を終える。恙なく、エデン条約を成立させるために、と。
     熱い目尻も見て見ぬふりをして。心を殺して事実のみを客観的に抜き出し。導き出した苦渋の決断を────嘲笑うかのように、世界は歪み、状況が変わる。

    『────「あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ」……との事です♡』

    『────「私達は他人だから」。ね、分かる訳ないじゃん?』

     分からなくなった正解。信じられなくなった信念。────皮肉にも、私が無慈悲に排斥しようとした、補習授業部の皆さんに助けられたこの身で、何が出来るのか。
     だから、先生の────皆さんの助力を得て、失ったと思ったすべてが。手放したと思ったすべてが、帰って来たあの明け方、日の下に決めた。

    「私と、いっしょ。もう、二度と────」

    「……二度と、同じ轍は踏まない」

     感情のままに。隣人を愛する、心のままに。自分の、したいように。
     理解し得ない他人であろうが、守りたい友人から手を離さない為に。

    ────あの一週間を乗り越えられたのは、紅茶のお陰なんかじゃなかった。
     ただ、セイアさんが帰って来たのに、仕事が片付いていないだなんて────彼女の心配を助長する様な事には、なりたくなかったから。

     ミカさんは満足そうに微笑んでから、セイアさんの方へと顔を向けた。

  • 98125/04/06(日) 01:24:34

    「セイアちゃんの方は……私との喧嘩の後くらいから、かな。────愚痴が増えたよね。聞かされるこっちの身にもなってほしかったなーっていうか!」

     端的に言うなら、気に入らなかった。いつまで経っても、私を頼ろうとしないナギサの事が。無理していることくらい見ればわかるのだ、強がらずに頼ればいい。
     
    件の“取引”以来、憑き物が落ちたように快方へ向かう身体。救護騎士団の言う通り快復とまでは言えずとも、既に最低限の業務くらいなら難なくこなせる程度には順調で。
     だからこそ、もどかしかった。疲労を蓄積させ、それでも皆の前では何でもないかの様に振舞い、紅茶のカフェインで無茶を通して、夥しい量の仕事をやり過ごすナギサの姿を、指をくわえて見つめているだけの事が。

    「だから、分かるよ。どういう経緯で、こんなに拗れちゃったのか。たくさん話を聞いたから、私は分かってる。────証拠が要る、って思ったんだよね。ナギちゃんの力になれるって、証拠が」

     純粋に、君の力になれたなら。そんな内心を吐露するのが小恥ずかしい、と。それだけの、子供じみた理由だった。だから、私から言う前に君から認めて貰えばいいと。君が、手放しで私を頼る事が出来るようにと、口実を作りたかった。

     そうして、がむしゃらに理由を求めて進むうちに────手段が、目的に挿げ替わっていた。たった、それだけの事で。

    「色々あって戦力外な私が言えた事じゃ無いかもしれないけど……セイアちゃんは、賢いしさ。ナギちゃんに心配かけない範囲でも、ナギちゃんの助けになるのがどんな事か。……分かるんじゃないかな、って思って」

     ……愚直で、素直で、単純で。いつも通りの、楽観主義。机上の空論、理想論を、何の躊躇いも無く口に出す。
     なればこそ、その純粋さに、どこか救われた様な心持ちの自分がいる様に思えて。

  • 99125/04/06(日) 01:26:59

    起きたら締めまで駆け足で行きます。おやすみなさい

  • 100二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 05:27:18

    やさしい世界が見えてきたな、迷ったり止まったりするんじゃねぇぞっっっ

  • 101二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 12:38:27

    ラスト保守

  • 102125/04/06(日) 13:43:28

    「ははっ、酷ぇツラだな」

     鼻血を垂らすセイアさんの顔に手拭いを押し付けながら、肩を貸すネル。同じく、アドレナリンが切れ、足の立たない私はミカさんの肩を借りる。

    「……ナギサ」

     おずおずと、セイアさんが声を上げる。

    「……その。ミカが、代弁してくれた通り、だ。……少し、癪だが、異議は無い」

    「セイアちゃーん?」

     視線を泳がせるセイアさんの発言に、私の隣でミカさんが青筋を立てるのは置いておいて。

    「……後生だ。手伝わせてくれ。君にも、偶にはゆっくりと休んでほしい」

     ひとつ、深呼吸。友人の想いに、応える為に。

    「……セイアさんの身体を心配するあまり、心情にまでは気が回っていなかったのだと、思います」

    「────私が言えたことではないかもしれませんが……くれぐれも、無茶はなさらないでくださいね」

  • 103125/04/06(日) 13:45:19

     ────。


     相も変わらず、忙しい日々。先生のお力添えのお陰で、校外での野暮用は殊の外早く片付いた。後は、部屋に残った書類の山を片すだけ……と、ノブに手をかけ扉を開き、机の前で椅子を引いた────その時。


    「……付箋?」


     桃と、黄色。二色の付箋が、書類の束の上に貼られているのが目に入る。

     ……よく見れば、記憶にあるよりもやけに書類が整っているような。少なくとも、二山に分けて並べ置いた覚えは無かった。


     特徴的な筆跡。桃色の方には丸みを帯びた文字と、簡易的な顔文字。モモトークでよく見る文体だ。黄色の方は整った達筆で、端的な報告と伝達が残されている。


    『またセイアちゃんにパシられた~~~!><。』

    『←承認、非承認→ 確認したら、テラスに来るように』


     ────また、やられた。溜め息が漏れ、口角が上がる。


     不在の間に、何者かが勝手に仕事を終わらせる。今でこそ躊躇い無く名前も出して、最早隠す気が有るのか無いのか、と突っ込みたくなるが────初めのうちはそんな怪奇現象紛いの何かを装っていた様だ。

     …終えた仕事の存在を忘れているのではと、自身の記憶障害を疑った私の狼狽ぶりを見てからは、『賢人(フィロソファー)とその遣い』『←なんかムカつく!!!!』などと名前を伏せつつ正体を明かす付箋や紙を残すようになったのだが。


     椅子に腰を下ろし、ざっと目を通す。完璧だった仕分けは几帳面なセイアさんの仕事だろう。印はところどころにがさつさが見て取れる。パシられた、とはこの事だろうと苦笑いをしつつ────随分と楽になった仕事を片付け、書置きにあったテラスへ足を運ぶ。

  • 104125/04/06(日) 13:46:35

    「────絶対、海だって!」

    「────いいや、山だね」

    扉越しに、二人の言い合いが聞こえてくる。何のことか、と聞き耳を立てつつ、ゆっくりと扉を開けた。

    「なんでさぁーっ!可愛い水着着て一緒に泳ぐの、良いじゃん!先生も呼んでさっ!」

    「自然に触れるのも良い事だよ。友人からも話を聞いたが、日頃パソコンの前に座りきりの先生にも、良いリフレッシュになるだろう」

    「……ただセイアちゃんが泳げないから、先生を理由に山が良いって言い張ってるだけじゃないのー?」

    「雨間の海原の様に常々荒れ模様の君の心も、自然に触れれば多少は落ち着くだろうさ。友人の気遣いを無碍にする気かい?」

    「はぁ~~~~!?」

     ……やれやれ、と肩をすくめながら、声を上げる。

    「……書類の件、ありがとうございます、二人とも」

    「おかえり、ナギサ。……はて、皆目見当もつかないな。ミカ?」

    「んー、そうだねぇ~。何の事だろ~?」

     ……一応、隠すつもりではいるらしい。直前まで言い争っていたくせに、によによと笑みを浮かべてしらばっくれる二人。なんだか楽しそうだから、放っておく。

  • 105125/04/06(日) 13:49:00

    「それで……旅行のお話、ですか?」

    「そうそう、聞いてよナギちゃん!セイアちゃんが、ミレニアムの子達が行ってたからーって、山でキャンプしたいって聞く耳持たなくてぇ~!」

     二人の善意の悪戯のお陰で、明確に私にも時間が出来た。本人たちは認めないが、そのお礼として、空いた時間に私が企画したのが────先生を交えた、四人での小旅行。その、行先について揉めている、という話らしい。

    「分からず屋は君の方だろう、ミカ。海の方が優れているというのなら、その根拠を示したまえよ。子供じゃないのだから、私の様にプレゼンをだね」

    「あーもー、話になんない!こうなったら…!」

     痺れを切らしたミカさんが、机に両手を突いて立ち上がる。……その顔は、何故かにやりと笑っていて。

    「────決闘で、決めよ?」

    「…!?み、ミカさん!?」

     まさかの切り口に、仰天。しかし、その宣戦布告を受けたセイアさんはというと────。

    「……良いだろう。かの“ダブルオー”直伝の、この正拳が火を噴くときが来たようだ」

    「セ、セイアさんまで……悪ノリはやめてください、二人とも……」

     ……自虐も込みの天丼なのだろうが、直近、同じ事をした自分にもダメージが入る。

  • 106125/04/06(日) 13:50:37

    「冗談じゃ~ん!私とセイアちゃんじゃ、一瞬で決まっちゃうしね☆」

    「ふふ。私は試してみても良いがね。あの時とは違うという所を、見せてあげられるとも」

     ……どうやらあれ以降セイアさんは、時折ネルさんと会うたびに、格闘の指南を受けているらしい。尚、当人のこの自信に対して、ネルさんの見解は「……まぁ、筋は悪くねぇけどよ。そもそもが細すぎるし、正直話になんねぇな」との事だったが。

    「そうそう、それで!ナギちゃんは、どこか行きたい所あるのかなーって聞きたくて、待ってたの!先生は、”みんなが行きたい所に着いて行くよ”って言うからさっ」

    「そもそも君主導の旅行だからね。私達の意見も、案の一つくらいに受け止めてくれ。……ほら、先ずは座りたまえ、ナギサ」

     セイアさんが引いてくれた椅子に、ゆっくりと腰を降ろせば────すっかり見慣れた、茶会の場。

    「そう、ですね……私は────」

    さて、どちらの肩を持ったものか。或いは、更に一石を投じてしまおうか。そんな事を考えながら、ポットを手に取り、紅茶を注ぐ。

     ……雨は過ぎ去り、固まった地を三人で踏み締める。
     置いて行くのではなく。先を進むのではなく。足並みを揃え、同じ方向を向いて。
     晴れ渡る空の下で、今日も────飴色の水面は、暖かく凪いでいる。




    『セイア「君が望むのなら、殴り合うとしよう、ナギサ」』____________ FIN

  • 107二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 14:02:34

    幸せなSS!!そしてなんやかんや戦闘の指導を受けるセイア!!
    三人の仲が深まったね!!!Happy!!

  • 108二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 14:09:05

    良きスレだった!

  • 109125/04/06(日) 14:12:56

    二度寝決め込んでちょっと遅くなりましたが、これにておしまい!何となく先ちょナギセイ登場前に畳みたかったので、無事に書き終えれたのは安心。ただ、ちらっと言った通り個人的に若干気に食わない所もあるので、渋か笛かに上げるってなった時はちょっと改変加えるかもしれないです
    これのお陰でモチベが戻って来たので、次はEXPOでネルセイの陰に隠れてその頭角を静かに現したナツセイで一本書くか、ちょろっと書いて筆折ったシグレinスイーツ部の方に着手するかで迷ってます。シグレの奴読んでくれてた人いたらごめんね......。
    先ちょ供給か別衣装イベント来たら、それをネタに続き書けそうだったら、とも企んでます。水着でもドレスでもバイトでも俺得。早く来てくれ...でも石ないからやっぱもうちょっと待って...

    相変わらず趣味と誤字盛り盛りの拙作ですが、楽しんで頂けたのなら幸いです。改めて、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!

  • 110125/04/06(日) 14:13:09

    以下は未だ実現していないミカVSナギサの殴り合いについて語るスレです。

  • 111二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 14:15:11

    まずどうやってナギミカ殴り合いが始まるのか…
    問題点になりそうなものはあらかた解決してるし‥

  • 112二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 21:02:15

    過去話にでもしないと難しいよなぁ

  • 113二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 23:13:25

    完結お疲れ様です!
    セイアとナギサも殴り合いでお互いに気持ちを整理できて良かったね

  • 114二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 08:25:39

    完結おっつおっつ!

  • 115125/04/07(月) 10:03:56

    先ちょ、心が浄化されました
    ついでに距離制限も解除ということで、3ヶ月と言わず7年ぐらいは続いて欲しいものです

  • 116二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 10:10:11

    >>115

    わかる

  • 117125/04/07(月) 10:15:20

    そもそも声付いて間もないので、特にセイアちゃんの刺々しい雰囲気の声なんか聞けたら昇天しちゃうかも
    Shortsに収まるレベルのしょうもない喧嘩して、先生の仲裁でめちゃくちゃあっさり仲直りしてほしい...

  • 118二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 10:22:37

    刺々しい雰囲気セイアちゃん…良いねぇ…
    ミルクティー作るとき先にいれるか後にいれるかくらいの些細な問題とかかな…?

  • 119二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 19:23:41

    保守

オススメ

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