- 1二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 23:51:10
満身創痍の様相でいの一番にゴール板を駆け抜ける!
そして王とジェンティルドンナの肩を借りて、ターフで戦えるようになったところを観客達に祝ってもらい、味わったことのない充実感に酔いしれる!
ところが!何故か復帰したばかりなのに、このレースが引退レースみたいな空気感になってしまった!
確かに決死の覚悟でレースに挑んだし、息も絶え絶えでボルトが入った脚はじくじくと痛むが、正直そんなに辛くはないし、ちょっと休めばまだ走れる程度の疲労感だ。
そうなってくると、目をそらしてた不満が湧いてくる。
肩を貸してくださった王は私のことをそっちのけでジェンティルドンナと口論なされているし、勝って無事帰ってきたのにトレーナーも医者もカンカンに怒ってるし、せっかくのG1のウイニングライブじゃお気に入りの勝負服の上に蛍光オレンジの作業用ハーネス付けて工事用のクレーンでさらし者にされる始末!
腹が立った私は!
年末の中山のゲートに入る!
- 2二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 23:52:41
- 3二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 23:54:34
なんか久々な気がするヤベーオンナ
- 4二次元好きの匿名さん25/03/24(月) 23:57:04
不死身かおめーは
- 5二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 00:06:51
- 6二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 00:21:32
医者から「ヤベーのはこの状態で出走したお前の頭だよ」「本当に必要なのはウチの科ではなく脳外科」「ヤベーのは死んでも治らない」等々の温かい言葉貰ってそう
- 7二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 00:25:42
ヤベーオンナの主な勝ち鞍
GⅡ目黒記念
GⅠジャパンカップ(当時ワールドレコード)
GⅠ有馬記念(コースレコードタイ) - 8二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 05:18:10
二つ名は『世界を貫くその一念』かな?
- 9二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 05:39:03
- 10二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 06:33:19
ヤベちゃんの「ヤベー」なところがもう別の意味になっちゃうよ
- 11二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 06:39:38
適性は狭いが適性範囲内で無類の強さを誇るタイプか…?
- 12二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 06:48:01
2400mでレコード出せるなら2000mとかも行けるだろうし別に狭いとは感じない
- 13二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 09:07:02
多分この後ドバイ香港欧州で2000〜2400蹂躙するだろうしなぁ
個人的には1800〜3200or1600〜3000なんじゃないかと - 14二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 18:47:56
春天出るのは見てみたいな
- 15二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 18:51:25
通販クラブさんそろそろ新しいCMだしてくんねえかな
- 16二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 19:06:19
ウマ娘のトレーナーになった私は!
怪我から復帰した担当の教え子が怪物だったことに恐怖する!
ジャパンカップの後、担当したウマ娘が選手生命の最期を華々しく飾ったものだと思い込んでいた。
ところが、彼女は人気投票の結果を見て有馬記念に出たいと言い出すのだ。
もちろん私は反対した、ジャパンカップの後だって自分で歩けない程ボロボロだったのに、今度こそ彼女が死んでしまう。私の脳裏に去年の有馬記念の光景が浮かぶ。
しかし、トレーナーを解約してでも出場すると言い出した彼女を止める術は無かった。
レース当日、彼女のコンディションは万全で、主治医からも問題無しの太鼓判をいただいた。だが、私の不安は拭い切れない。
私は彼女に「大外を回り、極力競り合いには参加しない」という消極的な策を守ることを条件に彼女を送り出した。
彼女はちゃんと私の条件守った。彼女はずっと外ラチの柵すれすれのところを走り続け、一切誰とも競り合わなかった。
いや、競り合えなかったのだ。
16番のゲートから飛び出した彼女はまるでスプリンターのような加速で後続を引き離し、最初の4コーナーを抜けた頃には既に後続を大きく引き離し、失速を狙うライバル達に後塵すら遺さぬままゴールまで駆け抜けてしまった。 - 17二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 19:28:46
強すぎて呆れるほどのパフォーマンス
本当に身体能力だけで無双してる - 18二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 19:29:36
担当ウマ娘の狂気の大逃げを目の当たりにした私は!
自身の臆病な判断で彼女が歴史に名を残す機会を奪ってしまったと後悔する!
彼女の時計は2:29:5、ドリームジャーニーでも届かなかった絶対不変の大記録、ゼンノロブロイのコースレコードに並んでしまったのだ!
彼女が走ったのは中山小回りの外側を綺麗になぞるルート。私があんな指示を出さなければ確実にコースレコードは塗り替えられていた!
それでも私が自分の判断を間違っていたとどうしても思えない。去年の今頃はもう二度と走れないとまで言われた子なのだ、先月死に物狂いで満身創痍になりながらようやくGⅠを勝ち取った子なのだ、全力でやって来いと送り出せるほうがどうかしている。
私は有馬記念のレイを私の首にかけてくれた彼女の目を見ることができなかった。
私は彼女が壊れるまで走れる子だと知っている。
それでも、自分の担当を信じて送り出せるのが正しいトレーナーの姿なら、
もしくは、預かった他人の子供の目を見て真剣に「死んでこい」言えるのが正しいトレーナーの姿なら、
私はトレーナーに向いていないのかもしれない - 19怪我スレSS書き25/03/25(火) 19:48:28
わぁい、久々のヤベーオンナスレだぁ(歓喜
まー、こんな感じっスよねぇ……。
いつか自分が書いたヤベちゃんSSでも、いつの間にかオーガみたいな感じになってたし……
???『
自らの意思を望む通りに実現する力
それが…………
強さの最小単位!!!
』
- 20二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 21:51:58
…ちょっとウイポ新作出たら再現してみようかな
- 21二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 23:03:02
このレスは削除されています
- 22二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 23:21:56
このレスは削除されています
- 23二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 23:33:14
有馬記念の雪辱を果たした私は!
なんだか妙に静かな観客席に手を振る!
いやおかしいだろ!こんな盛り上がらない中央のGⅠレースなんて聞いたこと無いよ!?そら本命じゃあ無いんだろうけど、一応人気投票で選ばれたウマ娘のひとりだよ!?いくらなんでも失礼じゃない?
あ、我が王……じゃなかった、オルフェーヴルいた!姉君も!
オーイ!ノシ
……なんかオルフェーヴル顔引き攣ってない?姉君なんか不機嫌そうにそっぽ向いちゃったし……
あ、もしかして昔マックイーン先輩がやっちゃったっていうアレ?もしかして審議中?
でもおかしいな?ゲート出てからずっと外走ってたし、シップが入ってきたのも今さっきだし、走行妨害にはならないはずだよね?トレーナーも秋天のスタートみたいに混戦になるの見越して『ヘンな物言い入らないように大外から逃げ切れ(意訳)』って作戦たててたし、私はちゃんと作戦通り走ったはずだよね?
せっかく元気な姿を見せたかったのになんか釈然としない私は!
その場でオルフェーヴルに宣戦布告をする!
「オルフェーヴル!!私は!!あなたが私に勝つまで!!私は絶対にレースを辞めない!!」 - 24二次元好きの匿名さん25/03/25(火) 23:41:57
立派にライバルしてるじゃねぇか
当初の目的はどうした - 25二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 06:22:31
そら『王の勇姿を間近で拝みたい』のが目的なんだから
自分がラスボスやれば特等席から見られるじゃん - 26二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 09:50:03
言うだけなら簡単だが実現するのが凄い
- 27二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 18:11:13
実馬を想定すると『めっちゃソラ使って馬群に埋もれてるけど、成績はおしなべて良い』馬の欠点がまるっと解消された感じかなぁ……
- 28二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 18:25:34
- 29二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 20:04:16
有馬記念で勝利した私は!
釈然としないままモヤモヤした気分で年末を迎える!
結局歓声を浴びることなく、なんだかトレーナーも体調が悪そうで急に泣き出すしでどうしようもないので、ヒーローインタビューとかも全部断って、ライブが終わるとそそくさと府中に帰った私たち。出来ればトレーナーぐらいには褒めてもらいたかったのに泣き腫らしたトレーナーは『ごめんなさい』としか言わないし。
さっきまで年末の中山でセンターで踊ってたウマ娘に背中さすられるとかとんでもなく貴重な体験なんだぞ?こら、それで鼻をかむんじゃありません、それは私達の優勝レイだ。
翌朝のスポーツ新聞の見出しは『災害、現る』だった。
あんまりである。
トレーナーは烈火の如くキレ散らかして抗議の電話をかけていた。泣いたり怒ったり忙しい人だ、多分むこうには音割れしてなにも伝わっていない。
レースの直後から私の勝利が歓迎されてないのは気がついてたけど、よくもまあ、ここまで嫌われたもんだ。確かに沢山のファンに夢を託されて走るグランプリで私だけ生存報告の為に走ってるんだから白い目でみられるのはわかる。私に投票してくれた人たちには申し訳ないと思っている。
でもさ?『災害』って、訓読みしたら『わざわいわざわい』だよ?『地震』とか『台風』とか『津波』とかとと同じジャンルだよ?日本のウマ娘に背負わす二つ名じゃないよ?今なんかあったら不謹慎だからって謹慎しなきゃならないの?
マスメディアなんだから目を引くショッキングな言葉選びが大事なのはわかるし、ポジティブな褒め言葉にネガティブなキーワード使う文化もわからない訳じゃないけど、
いざ自分が背負わされるとなんだかなぁ。
と思いながらコタツで祭典の戦利品を読み漁る! - 30二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 21:01:02
戦利品ってオメー有馬であんな勝ち方して祭典にも行ったんか!?
- 31二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 22:12:10
有馬記念の縁で、祭典で声をかけてくださったロブロイさんに、感想文付きお勧め英雄譚目録本をいただいた私は!
私がこの世界で成すべきことを、私のこの世界での役割を知る!
両手の紙袋いっぱいに入ってった同人誌も読み飽きて、目録から適当に気になった本を電子書籍で読んでいて気がついた、英雄の物語には必ず強大な敵役がつきものだ、大きな壁を乗り越えることで英雄を英雄たらしめるのだ!
ならばこの世界の英雄は我が王オルフェーヴルをおいて他にいるはずがない、そしてその王直々に敵であれと私は望まれたのだ!
ならば私がやるしかない!王が討ち果たすのにふさわしい強敵に、それこそ地震や津波に匹敵するような前人未到の大災害に!
世界を滅ぼすような圧倒的な脅威こそが王の名声を人類史の末まで轟かせる英雄譚にはちょうどいいだろう。
私に与えられたこの二つ名、きっと世界が『王の物語の舞台装置として目覚めよ!』と促しているんだ!
有馬記念の静寂も、私が世界のヒールとしてこの世に生を受けたファンファーレだったのだ!
そうとわかれば話しが早い、空白だった来年の目標が一気に定まった!
天命を知った私は!
意気消沈して黄昏れてるトレーナーに鞭を入れる!
トレーナー!私は!凱旋門賞に出ます! - 32二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 05:54:52
こいつ凱旋門賞を目標にしつつ世界中の大レース蹂躙する気だ……!
- 33二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 08:24:07
騒ぎになりそう
- 34二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 16:37:53
これは面白いことになる
- 35二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 18:13:03
- 36二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 19:17:58
はかた号のってピンピンしてる子だしウマ娘で人と同じ施設使えるならもっと無茶できないかな
- 37二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 19:28:26
年間12走してるのにもっと走れと!?
- 38二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 22:02:10
- 39二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 22:59:47
ウマ娘だからヒトの医療技術が使えたり痛みや異変を訴えたり、体重が軽いから寝転んだり座ったり杖が使えたりで生き延びれた訳で、ウマ娘でも命の危険があるレベルだと
『史実のヤベーオンナ号は11年の有馬記念で故障、予後不良と判断されて安楽死』
みたいなことになってそう
復帰して目黒記念勝利まで含めて原作再現とかかもしれんが - 40二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 04:23:05
突然担当ウマ娘が凱旋門賞に出たいとか言い出した私は!
とりあえず学園が発足した海外遠征プロジェクトへの打診を提案してみる!
しかし、彼女はあくまで現在の陣営での凱旋門賞の挑戦したいのだという。どうにも、オルフェーヴルとの決着を凱旋門賞で付けたいので、現在オルフェーヴルを中心に動いてるプロジェクトL'Arcとの合流は避けたいのだとか。
未だ日本人からの勝者が出てないレースを私闘の場に選ぶなんて、遂に狂ったのかと思ったが、そういえばこの子狂ってたや、むしろオルフェーヴルがそこで優勝することを一切疑ってない辺り平常運転に戻ったとも言える。
負ける為に出場することは置いといて、出たいレースがあるのは良いことだ。それにそこまで現実味のない目標と言うわけでもない、凱旋門賞には海外選手の出場枠の制限がないし、既にこの子は国際競争のG1を二つとっている、後一つ二つどこかで勝てばまず問題なく出られるだろう。
間違いなくこの子に勝てるようなウマ娘はもう国内には居ない。災害呼ばわりにはまだ納得いかないが、今現役の子達にとっちゃ厄災であることに異論はない。
「じゃあ次はフェブラリーステークスだね」
『今なんつった?』 - 41二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 04:58:20
トレーナーに唆された私は!
流されるままに今東京レース場のダートコースに居る!いや、1600メートルだからここはターフの上なんだけど。
トレーナーが言うには日本の野芝コースがハード路面なのに対してロンシャンの洋芝コースはソフト路面だそうで。
一度国内G1でソフト路面での実力を見ておきたかったのだそうだ。そんな理由で距離も馬場も適正外のレースに出すんじゃない。あと開催が早いので何があってもリカバリーが可能なのがありがたい。
ついでに、ここで成果を遺せばドバイワールドカップの招待を受けられる可能性がある。実は本命はこっちである。学園のプロジェクトに頼らない以上、海外遠征にはお金がかかる。
しかし目線が痛い、観客から他のウマ娘からも。芝のウマ娘が私達の戦場になんのようだと。完全に場違いである。
でも自分がヒールだと思えば案外そんな扱いも心地よい、『悪役』にとっては敵意は歓迎なんだ。
ゲートに入り、呼吸を整える。作戦はすっかり馴染んだ『全力スプリントからの高速巡航、誰とも競るな』だ、失速して集団に飲まれれば砂に慣れた猛者達の機動力に手も足も出ない。経験不足はパワーで補う!
災害ウマ娘な私は!
完全にアウェーなレースを蹂躙する! - 42怪我スレSS書き25/03/28(金) 06:20:23
- 43二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 09:13:46
ダートでも爆走するの草
また王がドン引きしちゃう… - 44二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 17:14:17
これはすごい
- 45二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 17:26:24
「『芝で強いウマ娘だからって砂の上じゃ素人同然』ってことにはならないと思うよ?」
去年の秋の芝を盛大に荒らしたウマ娘を目の前にしたあーしは!
一足先に脚を洗ったライバルの見解を思い出す!
もう既に雰囲気の硬さが違う!空気が重すぎて歩くだけでも疲れる!あいつの周りだけ景色が揺らいでる!何か空間歪んでね?若い連中はみんなビビって縮み上がってる。ダートで一番強いヤツをキメるレースに出る奴らがなんて様だ。
以前あいつのことは見たことある、確か芝の暴君サマの取り巻きの一人、いつもぬいぐるみを抱えていた女だそのぬいぐるみはレースにも持ち込んでるようで、
ダサい柄のセーターにスカートの下にデニムパンツの芋女むき出しの本体とは対照的に、抱っこ紐で縛られた暴君サマはモリモリにデコられてる。お前本当にそれ勝負服か?
見た目だけなら『馬場に迷い込んでしまった素人のウマ娘』か『熱気しすぎて立ち入り禁止のとこまで入ってきちゃったならず者』である。勝負服が派手なのは一般人と選手を見分けやすい為でもあるらしいから、コイツはだいぶ無茶を通してこの芋女スタイルを貫いたに違いない。
災害だなんて呼ばれるようなウマ娘だ、コイツも暴君サマと変わらないぐらいワガママなんだろう。
そいうウマ娘は強い。今まで戦って来た強い奴らはみんな話しを聞かないような奴らばっかりだった。
こっちの戦場なら多少有利にやれると思ってたが、そんな考えはとっとと捨てたほうがいい。
(トレーナーが居りゃ何かいいアドバイスくれたのかなぁ)
今の丸くなったあーしなら素直にいうこと聞いてたんだろうなと、だいぶ前に引退した自分のトレーナーを思い出す。
大きな音を立てて自分のほっぺたを思いっきりぶっ叩く。
何がアドバイスだ!あーしがヒトのいうこと聞くわけないだろ!レースから離れた奴らの意見なんか関係ない!走るのはあーしだ!闘うのはあーしだ!勝つのはあーしだ!
災害とかふざけたことぬかすウマ娘と闘うあーしは!
ここでコイツをぶっ潰す! - 46二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 18:14:13
ゲートから飛び出した私は!
短い芝を全力で駆け抜ける!
ダート専門のウマ娘は芝の硬いはねっ返りを嫌う、もちろん彼女らだって対策を取ってない訳じゃない、とくにダート専門の子達は選手寿命が長い、経験値は彼女達のほうが格上だ。
それでもここでは私の独壇場だ、そもそも力業だけで砂を駆け抜けようとしてるのに、得意分野で力負けしてちゃ話にならない!
芝とダートの境目にさしかかる。あと一歩踏み出せば私の専門外の領域だ。
この1カ月ちょっとの転換訓練を思い出す。
身体の傾斜角、膝の回転、足首のスナップ、飛距離、滞空時間、トレーナーはこの短い期間で私にダートでも戦える武器を与えてくれた!今それを示すとき!
踏み込んだ左脚にしっかりと手応えを感じる、きっちりと砂を捉えた脚は滑ることなく次の一歩に私を打ち出す。
いける!が、考えることが多すぎる!丁寧に路面を処理し続けなければ一瞬で足元が破たんする、力任せに芝を蹴っ飛ばしてただけの私には、こんな状態でドッグファイトなんてことになろうものならあっという間にすっころぶだろう。ここは無理せず最初に稼いだアドバンテージを維持する方向でいこう。
視界も音も消え去った真っ黒な世界に自分以外の足音がまぎれこむ。
――エスポワールシチーさん、やっぱり来るか。
最近元気のなかった彼女だが、今日食いついて来るのは彼女だと思っていた。
場所は自分の位置よりコースの少し内側3馬身後。
良くない位置に陣取られた。できるかぎりコースの幅を精一杯使ってコーナーでのグリップ不足を補うつもりだったけど、これだとコーナーで速度差が埋まった際に走行妨害と取られかねない。きちんと双方の位置関係を把握したライン取りをすれば問題ないのだが、今の私にはそれができる余裕がない。
できればやりたくなかったが、今日も大外ベタベタのひとり旅だ、格上相手ならこれが一番確実に勝ちを狙える、近接戦になったら間違いなく足元の練度で負ける。
今日は勝つ!少なくとも何か一つは持ち帰る! - 47二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 19:02:43
「…………っ!!」
相手がダートに慣れてない為になんとかついて行ってるが、明らかにオーバーペースだ、このまま最後まで走りきれるのか?それでもここでペースを落とすわけにはいかない、この女の戦法はスタート直後から一気にトップスピードまで加速して、コーナーの大外使って一切速度を落とさず最後まで走りきるってスタイルだ、よくある中長距離ウマ娘が攻め処を見誤って惨敗するなんてことは絶対にあり得ない。コイツはほんの短い加速距離さえあれば、少なくとも2500メートル居ないならどこでも同じ走り方で戦える。まさに走る理不尽だ。
だけど、一緒に走ってて勝機っぽいのは見えた。
芝からダートへの切り替わりの処理は悔しくなるほど完璧だった、歩数もピッチの切り替えもドンピシャでかなりしっかり作戦を練って来たのだろう。
砂の上の足捌きも悪くない。基本に忠実な丁寧な足運び、だけど、丁寧過ぎる。慣れたウマ娘ならもっとラフな感じが出てくるものだ。
あいつはダートに慣れてない、身体の体力が無尽蔵でも、アタマのほうはどうだろう?やっぱりずっと考えながら走ってると疲れちゃうんじゃないだろうか?
だったら話は早い、あいつを自分より長く走らせりゃいい。あーしはあいつの左後ろに陣取る。これでコーナーの内側に切り込んで来たらぶつかって外側に追い出してやる。
そう思ってたけどあいつはやっぱりG1ウマ娘だ、あっさりとラインが絡む内側を捨てて外側に離れていった。あーしと競り合いするより、判断そのものを捨てて外側に逃げたんだろう。考えを見透かされたみたいで腹が立つ。
4コーナーを抜けた辺りで距離は1馬身に縮む。本当は並んでるつもりだったが、なんて速さなんだ内側と外側じゃ40メートルぐらい距離に差が出るはずなのに!
だけどここなら射程圏内、あいつの走りにも粗が出始めてる。
後から迫る足音がある、アキュートだ。
狙ってやがったな?あーしらが食い合って潰し合うのを。
だがコイツは譲らねぇ、今日はあーしが勝つ!
残り400、今だ!あーしがトレーナーから貰った必殺技!こっからじゃ逃げウマのあんたじゃなにもできないだろ!?
「この勝負!「もらった!!」」 - 48二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 19:22:54
第4コーナーで距離を詰められた私は!
ジリジリとエスポワールシチーさんに距離を詰められる!
後にはワンダーアキュートさん!この速度ならゴールまでに詰められてしまう!絶体絶命のピンチ!
ふと並びかけていたエスポワールシチーさんの足音が変わる、今400メートルを過ぎたところだ!
「この勝負!「もらった!!」」
これを待っていた私は!何度も繰り返しみたエスポワールシチーさんのレース映像を頭の中で思い浮かべる。そこに重なる現実世界の音、空気感、風、重力、砂の感触、映像では得られない無限弐近しい情報量の数々。
私は集まった情報量を今まで足りなかったピースとしてエスポワールシチーさんの体格や体重、骨格的な癖と一緒に大慌てで組み立てる。
彼女は既にま隣、いや、もうハナ一つ出ている。レースは残り200を切った。
急げ!間に合え!
次に踏み出した一歩、まるで隙間だらけのブロックが、そのピースがはまった瞬間に継ぎ目のない一つの塊になるのを感じた!
ウマ娘が好きな私は!
エスポワールシチーのラストスパートを自分のモノにする! - 49二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 19:38:25
2013年 フェブラリーステークス
一着 ヤベーオンナ 1.33.6
二着 エスポワールシチー ハナ
三着 ワンダーアキュート クビ - 50二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 19:44:45
うおっ史実より1秒5も早い……
- 51二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 20:35:54
今出来ることを全力でレースに注ぎ込んだあーしは。
「あーしってこんなに速く走れたんだな……」とぼんやり掲示板を眺める。
サンサンと輝く一番上には『ヤベーオンナ』の文字、あーしの名前は2着だった。
「あーあ、負けちゃったねぇ」
さっきまであーしらを食い殺しそうな勢いで追っかけてきたターボババァはいつの間にか、いつものぽわぽわおばあちゃんに戻っていた、てかコイツクビ差まで迫ってたの?ダッシュ力ヤバくね?
東京競馬レース場のコースレコード一歩手前まで指をかけた災害サマはじっと掲示板を見つめて動かない。
「……そんなに悔しいか?コースレコード塗り替えられなかったのがよぉ、」
こんだけ熱いレースをやったのに、勝者は自分のタイムに夢中だ。やっぱり寂しいし、腹が立つ。
「いえ、私はまだまだ弱いなって……災害なんて言われて調子乗ってました。」
「あーしらみたいな木っ端相手に辛勝ってのが納得いかないってか?」
あーしだって気を付かわれてることぐらいわかる。
コイツの目当ては実績作りだ。もう一緒に走ることはない、ちょっとぐらい嫌味言ったっていいだろ。
わたわたと慌てる芋女をみて少しスカッとする。
「あんたはさ、なんのために走ってるよ?」
あーしは聞きたくなった。
災害なんて呼ばれてるウマ娘、きっと自分以外みんな
舐め腐った調子扱いてる奴だと思っていた。
だけどコイツはあーしの走りをこのレース中にマネしてきやがった。しかも勝負が決まる土壇場でだ。なにも知らない素人ならともかく、自分の強味を持った一流のウマ娘がだ、よっぽどのリスペクトがなきゃそんなことできないだろうに。
「私は、王に負ける為に。」
はは、乾いた笑いしか出なかった。
去って行くヤベーオンナの背負った暴君サマと目が合う。
あーしは今日のレースで初めて『悔しい』と感じた。 - 52二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 21:39:59
何でこんなネタ10割みたいなスレで文才が無駄遣いされてるんですかね(困惑)
- 53二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 22:05:02
怪我スレで話が大きく動いたからじゃないですかね(マジレス)
- 54怪我スレSS書き25/03/28(金) 23:32:43
まぁ、はい、中々大きめのイベントですからねぇ……
この概念参入は怪我スレが初めてでしたけど、その中であれやこれや書かれてるの見て、頭の中で下の年表ができた次第です
・オルを追いかけ始めたのはクラシック期
ジュニアのどこかですれ違い、
早ければシンザン記念辺りで目をつけたかも
・遅くても皐月とかの頃には臣下になる?
・実力不足を考慮し、日本ダービーには不参戦か
・夏。エキシビジョンでオルに勝利
・合宿後?臣下を降りよと言われドン底
・なんとか菊花には出たくて神戸新聞杯出走
ただし絶不調につき着外。色々と藻掻いていたウインバリアシオンブチ切れ
・王からの果たし状。有馬のために持ち直し、G3G2で賞き…ファン稼ぎ(使い詰○
・有馬滑り込み。……オルと一緒に走りたくて出走するも大怪我。トラウマ植え付けてそう。
・阪神大賞典見て混乱
・春天見て動転。すったもんだの末、心機一転
・目黒記念、本当の意味で競争ウマ娘として走り出す
・宝塚記念観戦。勝ちたい願いがオルに向かう - 55二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 02:47:24
ドバイワールドカップミーティングに無事招待された私は!
dice1d2=2 (2)
1:ドバイシーマクラシック
2:ドバイワールドカップ
に出場しワールドレコードをコンマ
dies1d30=
秒塗り替えて世界にその名を轟かせる!
- 56二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 02:49:32
再dice
縮めたワールドレコード
コンマ
dice1d30=16 (16)
秒
- 57二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 03:02:24
ダート2000m
1分56秒2
ヤベーオンナ
2013年3月30日
メイダンレース場
馬場:良
ドバイワールドカップ - 58二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 11:03:44
海外のダート蹂躙しとる
実馬的に言えば、完全に幼さが抜けて脂ののった時期ということ…… - 59二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 19:35:49
まともじゃない戦法でまともじゃない勝ち方する姿はまさに災害
戦法さえまともなら『日本の至宝』と呼ばれてもおかしくない能力はあるんだがなぁ - 60二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 02:07:34
ヤベーオンナ、トレーナーの生命力と引き換えに激走してない?
トレーナーのライフは0よ? - 61二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 02:10:17
厄介な女にのめり込んだ余は、
阪神レース場の直線で奴の影を追う。
昨年の年の瀬より、余はこれまでの全てを捨てて基礎から築き始めた。
あの女とはジャパンカップで約束を果たしたつもりだった。だが、奴は年末の有馬で余が約束を反故にしないように釘を刺してきたのだ。
正直に言えば、余は逃げたのだ。ジャパンカップで再び交えたとき、既に余はあれには勝てぬと思った。結果は果敢に戦ったジェンティルに次いでの3着。脚を引き摺る奴をみて、余は奴の献身に答えられなかった不甲斐なさよりも、もう二度と闘わなくて済む安堵を感じてしまった。
だからなのだろう、奴は1カ月足らずでターフに戻り、全身全霊の最期の一燃えと思っていた走りを、今度は2500mで再現して見せたのだ。もはや最後の奇跡などではない、捨て身の決死行でもない、あれがあの女の実力だと誰もが思い知った。
奴は怯える余に向かい、ターフから余に叫んだ。
「オルフェーヴル!!私は!!あなたが私に勝つまで!!私は絶対にレースを辞めない!!」
なにもかもを見透かされた、もう逃げられない、余は奴と闘わねばならぬ。でなければもはやこの世に余の居場所はない。
余はその日から基礎体力作りから、戦術眼まで全てたたき直した。好き勝手にやって培った我流の勝術を全て捨て去り、トレーナーに師事し、新たなウマ娘として生まれ変わるつもりで鍛え直した。奴は博識で熱心にトレーニングに臨んでいた。穴だらけの石垣の上でふんぞり返っている余には太刀打ちする術すら無い。
結果は思ったよりも早く出た。1カ月もすれば、奴とも対等に渡り合えるだけの実力を得たつもりになっていた。再び相まみえれば次は必ず勝つ!そう思っていた。
丁寧にすき間なく積み上げた石垣は、あっさりと崩れた。
フェブラリーステークス、そこで奴は奥の手を見せた。
奴は一瞬でトップスピードに達する脚力とそれをゴールまで維持できる無尽蔵のスタミナが武器だと思っていた。
だが奴は最後の数百メートルで再び加速したのだ。それもゲートから飛び出したときと遜色ない力強い蹴脚でだ。 - 62二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 02:10:47
余は今、目前に死が迫るのを感じている、血は煮えたぎり、筋は引き千切れ、脳は焼け爛れ、目も曇り耳も塞がった。霞のかかった記憶を頼りに脚を回している。
それでも奴の影には追いつかない。奴の影はまだ遠いのに、死のカベは既に鼻の先にある。これ以上進むなと凝固し始めた脳が叫ぶ。ふざけるな、奴の背中はまだ遠いのだぞ!
ふわっと、余の身体が重力から離れる。その直後に全身を巨大なハンマーでぶん殴られた。何事かと慌てて辺りを見回す。
余が居たのは第1コーナーの柵の外、ゴール板は遥か彼方にあり、よろよろと力尽きた後続が通過していた。
余は担架を持って走ってきた救護の者を払いのけ、柵の外側を通り、コースを引き返す。
勝ち時計は1分56秒7
……足りぬ
現状からの打開策を見出せぬまま、耳を劈くような歓声を無視して余はターフを去る。 - 63二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 02:51:40
ドバイに住むとか言い出して暴れるトレーナーを引きずって飛行機に乗り込んだ私は!
機内のニュースで我が王が伝説的な勝利を収めたと知る!
なんと阪神レース場の2000mのコースレコードを1秒以上縮めてしまったのだ。
「キミは世界記録を1.6秒縮めたんだよ」
とか無粋なことを言い出すトレーナーは無視する。
今回のドバイ遠征は悔いの残るものとなってしまった。今回の目的は洋芝コースで実際に闘ってみること。そのため、本当は「ドバイシーマクラシック」に出たかった。
ところが、一日に2回レースには出られないという規約を知った私は、フェブラリーステークスでライバルから機会を奪ってしまった負い目から、泣く泣くドバイシーマクラシックをあきらめてドバイワールドカップに出走することに決めたのだ。
メイダンレース場のダートコースは日本と違って土で固められていて日本の芝に慣れた私にはとても走りやすく、傾斜もなくてコーナーにはバンク角まで付いちゃってて、私のスタイルにドンピシャだったのだ。
なので世界記録と言われてもイマイチピンと来ないのである。
「シーマクラシック、出たかったなぁ」
せっかくの遠征なんだからもっといろんなレース、何ならドバイターフにも出たかった私は!
帰ったら理事長に制約の撤廃を持ちかけるつもりだ! - 64二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 03:02:14
オルすんごい焦ってらっしゃる
バリちゃんとか何を思うのだろうか - 65二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 10:37:25
バリちゃんはオルフェーヴルも一人のウマ娘だった事に安堵しつつ
焦ってる相手が自分じゃない事に苛立ってそう - 66二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 19:25:22
アニマルキングダム涙目である
- 67二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 23:44:58
- 68二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 01:28:03
担当ウマ娘の挑戦を観客席で応援する私は!
既にゲート前から地獄のような混乱状態に陥っている京都のターフを固唾を飲んで見守る!
ある者はフェンスにしがみついて震え、ある者はしゃがみ込んで泣き出し、ある者は数人の係員を引きずりながら逃げ出そうとしていた。
原因はわかっている。一つは私の愛する担当ウマ娘、もう一つはトレセン学園の破天荒、『魔王ゴールドシップ』だ。
往年のジャンプのバトル漫画のキャラクターがオーラを纏っている姿が、まさか実際にみられるとは思わなかった。
ゴールドシップがヤベーオンナに正面から近づく、空気の振動が耳を振るわせて、晴天の空が割れる幻覚が見える。
今にも胸ぐらを掴み合い、取っ組み合いの殴り合いが始まるのではないかと、私は観客席から飛び出しそうになるが、二人はガツンと拳を付き合わせると各々のゲートにすんなり入っていた。
おっかなびっくりゲートに脚を踏み入れる子、泣き叫びながら抱きかかえられてゲートにねじ込まれる子、ターフに爪痕を遺しながら係員達に引き摺られる子。
数分遅れで全員がゲートインし、ようやくレースの準備が出来たようだ。
最強のステイヤー決定戦が今始まる――
――前に、ゲートの中で過呼吸で失神した子が出たらしい。スタートはまだ遅れそうだ。 - 69二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 01:36:19
もはや何がなんだかわかんない世
- 70二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 02:28:46
『よう、最近元気そうじゃねーか』
最近オルフェの調子が悪いので、原因のほうの様子を見に来たアタシは!
思った以上におもしれーことになってるオルフェの取り巻きに挨拶する!
もうさ、スーパーサ○ヤ人ってこんな感じなんだろうなってぐらい光ってやんの、オルフェよりも金ピカなのが受ける。アタシを差し置いてヤベー女名乗ってるだけはある。
かわいそうに、回りの連中はsan値チェックに失敗したのか発狂して大暴れだ、ウケる。
その渦中の中心の邪神サマは
「今日は一緒に楽しみましょう!」
ときたもんだ。ヤベーよ、アタシブルッちまってるよ、こんなにレースが楽しみなの、そうそうねーよ。
「おう!有馬ん時といっしょにすんなよー!」
アタシ達は拳を打ち合いゲートに入る。
おし!今日はあれやっか!終わったあと筋肉痛でしんどくなるけど、まあいいや。こんな楽しいレース、出し惜しみしてらんねーよ。
おい!とっとと初めてくれよ!このゴルシちゃんがファンサ無しでゲート入ってんだぞ!
おい大丈夫かアンタ?スタッフー!隣の奴が泡吹いて倒れたぞ! - 71二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 03:14:23
ゴールドシップとお互いの健闘を祈った私は!
静かに出走の瞬間を待つ。
ゴールドシップ、やっぱりすごいオーラの持ち主だ。みんなが怯えて我を忘れてる、暴れたせいで華やかな勝負服も既にボロボロになってる子まで居る始末、シップのとなりの子なんか失神して担架で運ばれてってしまった。
さすがは『魔王』、立ってるだけでこの場の空気を自分のものにしてしまった。
気合入れろ!一筋縄では勝たせてもらえないぞ!
電磁石が震える音が耳を触る。私は開き始めたゲートに肩を擦り付けて飛び出す。後でフライングを取られるかもしれないけどしのごの言ってられない!たとえ競争中止になったとしてもこの勝負は捨てられない!だって私と同じタイミングで飛び出した奴がいるんだから!
私の全力スプリントにきっちり付き合う白い奴が隣に居る!
ゴールドシップ!あんたはそんな前傾姿勢で走らないでしょ!そんなピッチで脚を回さないでしょ!しかもストライドはいつもとそんなに変わらない、なんか雑な早回し見てるみたいで気持ち悪い!
京都の坂道を駆け上がり始めた辺りでギョッとする!
ゴールドシップが加速し始めたのだ!違う!私が失速している!ゴールドシップは歩幅を綺麗にちぢめて脚の回転数を増やし、減速無しで坂を駆け上がってるのだ!
私もマネして歩幅を縮めるが、既に間に合わない、最初のコーナーはゴールドシップに取られてしまった!
第3コーナーで巻き返すべく転倒覚悟で転がり落ちるように駆け下るが、ここもゴールドシップのほうが上手だ、身体をバイクのように傾けて蹄鉄を若干滑らせながら綺麗にクリップポイントを掠めてコーナーを抜けていく。
京都で熱戦を繰り広げる私は!
最初のホームストレートでゴールドシップの後塵を浴びる! - 72二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 04:13:09
ハハハ!なんかの間違いじゃねぇか!アタシがレースで先頭走ってるよ!
あんまりやりたくないコンセントレーションを決めたアタシは京都の観客席のすぐ前を駆け抜ける!
もちろんゲート前のパフォーマンスの代わりなんかじゃないぜ?次のコーナーは大外からクリップポイントを第2コーナーの手前にとってターフの幅ギリッギリまで使って大きく回るつもりだ、レースの頭っからロングスパート決めたんだ、出来りゃあこの速度を維持したまま最後まで走りたい。アタシの骨格じゃあんまり急加速するような走りはできない。だから普段はじっくり速度が乗ってから仕掛けてるが、有馬のときでコイツ相手じゃ間に合わないのはわかってる。
だからスタート直後で仕掛けた。ゲートの仕組みさえ知ってりゃ開くのと同じタイミングで駆け出すのなんて簡単だ。
生粋の逃げウマならみんなやってる基本技能だ。だからここでは差は出ない。前に出るのはすぐ先の京都名物の坂だ。
走ってる側からすりゃ壁にしか見えねーそれは慣れてないやつなら尻込みして止まっちまう。コイツに限っちゃそんな事はねーだろうが、それでもコイツの戦績みりゃスタート直後にこの坂に突っ込んだ経験はなさそうだ。坂を駆け上がりながら加速する術は無いだろう。だからここで勝負逃げ馬出る。2週目じゃダメだ、コイツの学習能力じゃあ勝ちきれるだけのアドバンテージが取れない。
決めるなら初見殺しの1回目だ、上りの加速と降りの処理で、このレースのマージンを稼ぎきる!
残り1700メートル、マイル一回分の距離、今日のゴルシちゃんなら十分やれる距離だ。
ヤベーオンナは真後ろ、ほかの連中はまだ来ない。
アタシはコースを横切るように第1コーナーに切り込み、内側の柵を掠めながら第2コーナーを膨らんでいく。
狙うはストレートの入り口から坂の入り口辺りまで、ストレートを斜めに突っ切るラインだ、先頭独走してる奴だけに許されたライン取り、いまのゴルシちゃんはとにかく速度を維持する事に手一杯だからよ、せっかくのアドバンテージは贅沢に使わせて貰うぜ!
ストレートの入り口、何かが肩に触れる。
「オメー、なんでそんなところに居るんだ?」
馬鹿でっかいぬいぐるみを背負ったそいつは確かにニヤリと笑った。
「……おもしれーことになってきやがったぜぇ!!!」 - 73二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 04:42:56
ホームストレートでゴールドシップを追う私は!
次のコーナーで取られた距離を巻き返す!
観客席側スレスレを駆け抜けるシップはこのままコーナーを最大限まで使って走りきるつもりだ。
ゴールドシップのあの長い脚とがたいのいい身体はレースじゃ凶悪な武器だが、同時に弱点でもある。あまり勢いよく回しすぎると股関節への負荷が大きすぎるのだ、だからスタートダッシュの加速には酷く驚かせられた。それでも相当な無茶をしたはずだ、ライン取りをみるにシップはもう再加速はできない。
だから私は残った脚をここで使う!
ゴールドシップが第1コーナーの内柵に切り込んだのを見て私は外柵めがけて直進する!そしてコーナーの半ばで脚を踏み込み急旋回!ボルト止めの骨が大きく軋む!蹄鉄のグリップが限界を超え、スキー板のように芝の上を滑り出す!もう一歩!路面に蹄鉄を叩きつけ身体を支配するベクトルを右に逸らす!もう一歩!もう一歩!柵に脚が絡まる直前で、私の身体が第2コーナーの出口に向く。
思い描いたラインの上に乗った私は!腕を振って脚をぶん投げ、背骨を振って身体を押し付け、地球を蹴り飛ばして向こう正面のストレートを自分に引き寄せる!!
シップのラインを踏み抜き、二回目の交差点でシップとぶつかる、勝ったと思ってたんだろう、シップは丸い目をしてこっちを見ていた! - 74二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 05:01:45
シップと肩をくっつけた私は!
そのまま宇宙へと飛び出しそうな勢いで京都の坂を駆け上がる!
第3コーナーで遠心力に押されてシップの身体が私を弾こうとする!そのまま吹っ飛べと芦毛の魔王が鬼の形相でこちらを睨む!まけてたまるか!こっちは走る災害だぞと!踏ん張り突き返す!
第4コーナー下り坂!私達は宮崎アニメの如く二人三脚で宙を舞う!もはや我慢比べだ、日和った奴が先に死ぬ。
重量に引っ張られて堕ちた先、平坦な地上に沿わせて落下速度を真正面にねじ曲げる!水平に!ゴールに向かって転落する私達!先に叩きつけられるのは私だと足元の壁を蹴って少しでも前に進もうとする!
勝つ!勝つ!勝つ!!
鼻先の産毛1本でも隣のコイツより先にゴール板を超える!!!
ゴール手前までゴールドシップと絡んだ私は!
全身の筋肉という筋肉を使って、自分の身体をゴールの向こうにぶん投げる! - 75二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 05:26:40
無音の中、白い宇宙の漂う私は!
まだ立ち上がれもしなかった頃に両親から貰った初めてのぬいぐるみの抱き心地を、ウマ娘という存在を理解した日の不安を、ウマ娘が競い合う競技があると知った日の感動を、トレセン学園に入学した日の希望を、親愛なる我が王に拒絶された日の絶望を、
ぼんやりと思い返していた。
これを見るのは2回目だ。つまりまた私は脚を折るのか……。
いやダメでしょ!?まだ本番前の前哨戦みたいなもんなんだから!今折ったら絶対凱旋門賞間に合わないよ!?
世界に色が戻り眼前に緑の地球が迫る。私は頭を抱えて身体を丸め、衝撃に備える。全身がバラバラになるような衝撃に耐え、ゴロゴロと転がって第1コーナーの手前に放り出された私とシップは、ほぼ同時に上体を起こしてターフビジョンを睨みつける。
オレンジの明かりが灯る
ゴールドシップが地球に向かって叫ぶ隣で私は!
右手の拳を精一杯高く掲げる!! - 76二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 05:47:30
2013年 天皇賞(春)
一着 ヤベーオンナ 3.11.0
二着 ゴールドシップ ハナ
三着 フェノーメノ 大差 - 77二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 06:00:39
京都のターフで勝どきを上げた私は!
そのまま芝の上で大の字に寝転がる!
隣でシップも同じように手脚を広げてごろんと寝っ転がった。
「なあ、またどっかでやれねぇか?」
シップはそう聞いていくれた。うれしかったし、また今日のようにバチバチやれる日が来たら、すごく楽しいと思った。だけど、
「もう、シップと走る機会はないかな。」
「……そっか、今日はたのしかった。あんがとな。」
そんなやり取りをしていると、救急車がコースの中にまで入って来てしまった。
慌てて立ち上がり、なんともないとアピールしようとしたのだけれど、
「動かないで!」
と救急隊員に静止され、疲れて抵抗する気も起きず、私達は大人しく救急車で京都レース場を後にするのだった。 - 78二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 07:45:02
フェノーメノ「あいつらクレイジーであります!!」
- 79二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 16:41:01
まめちんは泣いていい
- 80二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 23:06:26
身体検査を受けて、顔の擦り傷の治療を受けた私は!
泣きながら処置室に入ってきたトレーナーの全力ビンタを喰らう!
病院で引っ叩かれるのは二回目だなーと考えながら、ちゃんと受け身はとったし、怪我も顔の傷と肩の打撲ぐらいでなんともないと弁明しても、トレーナーは私に掴みかかりヒステリックに喚き散らすだけだ、何を言ってるのかよくわからない。
トレーナーはスタッフに取り押さえられて処置室を引っ張り出される。傷を消毒してくれていた看護師さんに、「ウチのトレーナーが過保護で済みません。」と謝ると、今度は看護師さんから雷が落ちる。
時速70キロで転倒すればウマ娘だってタダじゃ済まないし、無理をしたウマ娘がそれで命を落とす事も珍しくない。そもそも私はそれで一回死にかけてるのだ、トレーナーは大袈裟でもなんでもない。
しかし、参ったな後で謝るにしても、後一回無茶をする予定があるのに、もう無茶しないでなんて言われたらなんて答えよう……
頬に染みる消毒液に眉をしかめる私は、
トレーナーをどう言いくるめるか頭を悩ませる。 - 81二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 07:27:39
「よう、オメーがわざわざ病院にまでお見舞いに来るなんて、槍でも降るんじゃねーか?」
「ほざけ、余は義理ごとを蔑ろにはせぬ。珍しいのは貴様が入院してることのほうだろう。」
病院に担ぎ込まれた腐れ縁の様子を見に来た余は。
元気そうな此奴の姿を見てほっとする。
「タダの筋肉痛で大袈裟なんだよ、このゴルシちゃんが転けたぐらいで怪我するわけねーだろうが。成層圏から地上にダイブしたって瓦割りしながら詰め将棋して華麗に着地してやるよ。」
「その減らず口が叩けるのも運が良かっただけなのを忘れるな。」
「オメーは引き摺りすぎなんだよ、ジャーニーから聞いたぞ?昨日トレーニングほっぽり出して病院に突っ込んでって取り押さえられてたんだって?」
余は無意識に椅子から立ち上がる、が、此奴の挑発にまんまと乗せられた事に気が付き、椅子に座り直す。
「ヤベの方の様子はどうだったよ?」
「奴は昨日のうちに帰ったわ、それに余は元より病院では奴には接触禁止だ、前科があるのでな。」
「オメーの代わりにヤベトレが暴れたらしいけどな。あいつ病院来ると殴られる呪いでもかかってるんじゃねーの?」
「奴は普段から自分が無茶苦茶してることに気付いておらぬ。引っ叩かれても文句は言えまい。」
そもそも奴は自分を大事にしなさすぎなのだ、奴のトレーナーが不憫でならぬ。 - 82二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 07:28:38
「で、オメーが聞きたいのはレースんときのヤベの様子の方なんだろ?」
「なんだ、わかっていたのなら早く話せ。」
「ヒッデー、ゴルシちゃんは今怪我人なんだぞ?優しくしてくれないと死んじゃうんだから。」
「筋肉痛で死んだ者など聞いたことないわ、それでどうだった、奴は。また思い詰めて無理をしてる様子はなかったか?」
余は此奴の茶番に付き合う余裕もなく、ヤベーオンナの話をせっつく。余は去年の有馬以降奴と直接顔を合わせておらぬ。奴も余と同じように外圧に翻弄されておらぬかと心配なのだ。
「……あいつはちゃんとレースを楽しめてるよ。たぶん今まで自信がなくって諦めてた事に片っ端から挑戦してるだけだ。オメーのことを微塵も考えてねぇってこたーないが、少なくともオメーほど気負っちゃいねぇ。」
余は「そうか」と短く返事をし、ほっと息を吐く。
奴が毎回恐ろしいやり方で闘いつづけておるのは余のせいだと思っていた。余がジャパンカップで勝っていれば、このような無茶をせずに済んだのではなかろうか?と。
「オルフェ、オメーはもっと肩の力抜いて楽しめ。せっかくとんでもなく強えーやつがオメーを名指ししてライバル宣言してくれてるんだ、オメーがヤベにやったみてーによ。」
ゴルシの言葉に余は我に返る。 - 83二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 07:29:00
「オメーだってヤベにレースを楽しんで欲しかったから取り巻き止めろって突っぱねたんだろ?だったらオメーだってヤベの意を酌んでやれ、アタシはレース以外にも愉しい遊びたくさん知ってるから、オメーらみてーに怪我する寸前までレースにのめり込んだりしねーけど、それでもアイツとやるのは愉しかった。アイツならオメーを十分楽しませてくれるさ。」
しかし、余は有馬記念で奴の叫びを思い出す。
「……余は奴に勝たねばならぬ。奴を強引にレースに引き戻したのに、余は未だに奴に王の威光を示すことができておらん。余は、目黒記念の後、『戻ってこい!』と叫んでいた奴の思いに、まだ答えられておらぬのだ。」
ゴルシは呆れたように長く息を吐く。
「んなもんただのマイクパフォーマンスに決まってんだろ、べつにアイツは勝ち負けなんか気にしちゃいねーよ。元々アイツはオメーと走るだけで満足してたんだ。それでいいんじゃねえの?オメーが勝とうと負けようと思う存分やれりゃ満足するさ。」
余は思い出す。ヤベーオンナに家臣を降りよと下したことを。
実力があるならば、己のレースをせよと、余は伝えたつもりだった。
だが、余が放った『“敵”として認識する』という言葉に縛られてしまったのではないか、そのせいで脚を折ったのではないか、そして今もまだ死の淵を走り続けてるのではと、余は考えていた。
だから余は勝たねばならぬと、手遅れになる前に勝って奴を止めねばならぬと、そう焦っていたのだ。
ゴルシの言葉が真であるのならば、ヤベーオンナはすでに自分のレースを楽しんでいた。余はそれを家臣の枠に収めて可愛がろうとしていたのか?実に滑稽ではないか!ミダス王でもここまで間抜けな逸話を持ってはおらぬだろう。
「恩に着る。邪魔したな。」
「おう、愉しんでこい。」
道化の戯れ言に感銘をうけた余は。
改めて己の為に走り出す! - 84二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 16:12:09
「トレーナー、私はもう、無事には帰ってこないかもしれない。」
ロンシャンレース場の控室、重い口を開いたあなたの言葉を聞いた私は、
「……そう、わかった。私が代わりに掲示板見といてあげるよ。」
あなたの背中を押す。
「…………止めないだ。」
「止まったことないじゃん。」
春の天皇賞の後、私達は主戦場を海外に移した。
香港、シンガポール、イギリス、アイルランド。
彼女はその道中で次々と泡を吹くような記録を残していった。
私はそれをただ見ているしか出来なかった。彼女の実力は既に私の力量を遥に越えていた。それに、天皇賞の一件以降、彼女は私に、レースについて何も相談しなくなった。
私に出来るのは、彼女が出たいと言ったレースの出走登録をして、旅程の管理と航空券や宿泊地の手配をするだけだ。
レースの間、ただ祈ることすらせずに、彼女が蹂躙するのを見届けるだけ。
「トレーナー、私のレース、つまらなかった?」
「こんなことないよ、あなたはいつだってデタラメに強くって、みんながびっくりするような結果を残してたじゃん。」
「でも、トレーナーは褒めてくれないじゃん。」
彼女の言葉が心に刺さる。一応戻ってきた彼女にねぎらいの言葉をかけていたが、それも定型文のようなものだった。
「私はなにもしてないからね、ただ近くにいただけで一緒に勝利を分かち合うなんて、やっぱりおこがましいよ。」
「そっか、寂しいな。私に家臣を降りろって言ったオルフェーヴルも、こんな気持ちだったのかな。」
「きっとそうだよ。オルフェーヴルもあなたとレースの楽しさを分かち合いたかったんだろうね。」 - 85二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 16:13:08
私がもしウマ娘だったら、オルフェーヴルの代わりに一緒にレースで競う仲間になれたんだろうか。
いや、無理だな。ウマ娘の選手生命は短い。同じレースで全力で競い合えるなんて、奇跡に近い巡り合わせなんだ。
「トレーナー、私が闘えるのは、トレーナーのおかげなんだよ。身体作りも、走り方も、戦術も、全部トレーナーが教えてくれたことなんだよ。」
「そうだね、あなたはそれをあっという間に全部身につけちゃった。もう、私があなたに教えられることなんてなにもないよ。」
もっと力量のある経験豊富なトレーナーが付いていれば、彼女はもっと強くなっていたんだろうか?
とびっきり理不尽でとびっきり最強でとびっきりでたらめなウマ娘に、一緒に走ったウマ娘はみんな走るのが嫌になっちゃって、ファンも飽きてレースを見なくなるような、そんなウマ娘に。 - 86二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 16:13:31
「ヤベちゃん、いま、レース楽しい?」
「楽しいよ、どんなに全力で走っても、簡単には勝たせてくれなかった人たちがいたから、だから私はまだ闘いたいって思える。私はすごく恵まれてるんだ。…………次の子はそんなことないかもしれないからさ、トレーナーが担当するんだからレースでひとりぼっちになっちゃうかもだからさ、その子はちゃんと褒めて、寄り添ってあげてね、レースが嫌になったりしないように。」
「……うん、頑張るよ。さ、もう時間だよ。」
レース開始の時間が迫る。
私は担当に『死んでこい』と言えるトレーナーを選んだ。
トレーナーとして、人として、大切なものをたくさん失った気がする。人殺しと罵って、石を投げてもらいたい気分だ。
でも、まだ短い彼女のこれまでの人生とくらべてたら、奇跡のような今のほうが命なんて吹っ飛ぶぐらい重いのは理解してるつもりだ。
私だって学生だった時代がある。残りの人生なんてなくったっていいと情熱を燃やしたことだってある。
年をとってこれまでの人生が増えて、命の価値がブクブクに肥え太った大人の価値観で、学生の情熱を否定する指導者にはなりたくない。
「行ってくるね、トレーナー。」
あなたとの、最期になるかもしれない会話を済ませた私は。
「楽しんで来てね。」
あなたの背中を押す―――。 - 87二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 18:43:59
ロンシャンレース場のターフの上、世界のトップクラスのウマ娘が集うこの場所で私は!
「久しいな、ヤベ。」
「お待たせしました、我が王よ。」
愛する我が王と再会する!
「おい、王とは呼ばぬのではなかったのか?」
「あ、久々でつい。」
「よい、許す。余のことは好きに呼べ。」
王は朗らかに笑っておられる。
今、私と我が王オルフェーヴルは同じ所に立っている。もはや我々の間柄は呼び方程度では揺るいだりしない。
「今日は存分に楽しませて貰う。」
王には微塵も緊張は見られず、これから世界最強のウマ娘を決めようというのが嘘のように落ちついている。
御自身がこの場を制することを微塵も疑っておられないのだ。
ああ、今日、私は勝てないのか。トレーナーにトロフィー持たせてあげたかったな。
「私も、楽しませてもらいますね。」
互いのわだかまりを解いた私達は。
静かにゲートに収まる。 - 88二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 00:40:25
保守
- 89二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 07:47:40
ついに凱旋門賞か……
来るべき時が来たなぁ - 90二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 14:07:36
楽しみ
- 91二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 18:31:39
「なんだかあそこだけ妙にゆるいですね」
いつになくピリピリとしたロンシャンレース場で、場違いな程和やかな空気で談笑する二人のウマ娘、いました。
片方はニホンの海外遠征プロジェクトチームの代表ウマ娘、オルフェーヴル。去年の凱旋門賞を大外からもぎ取ろうとしたやばい人です。前回客席から見たときはもっとビリビリとした怖い人に見えましたが。今日はなんだかすごく落ちついてて、まるで師匠のように一線を退いたような人にも見えます。
問題はもう一人のほう、こっちはチームには属さず自分のトレーナーと二人きりで世界を走り回っては各地のウマ娘とレース場の尊厳を踏みにじる災害、ヤベーオンナ。たぶん今日の空気が重いのはこの子のせいでしょう。
なんせ私達の凱旋門賞に出向いてきてやることが『オルフェーヴルの追っかけ』なんですから。そりゃみんな起こります。
私だって一言言ってやろうと思っていたのですが、本物を見ると結局怖くて近づけませんでした。ほかの人はあれがウマ娘に見えているのでしょうか。
仕方がないので、情けないのですが、談笑が終わるタイミングを見てオルフェーヴルのほうに声をかけます。
「可愛らしい方ですね、あなたのファンガールなんでしょ?」
「ほざけ、ただのファンガールがこんなことろに居るものか、あれは余の敵だ。余はあれに勝つ為に今日ここに居る。」
「リヴァルなんですね、うらやましいな。そういえば、師匠からニホンの挨拶を教わってたんです。」
「『調子に乗るな』使い方、合ってますか?」
「あぁ、この上なく正しい。今この場で最もふさわしい挨拶だ。惜しむらくはこの場にもっとその挨拶が似合う者が居ることだ。余は貴様らと同じ挑戦者に過ぎん。」
穏やかに見えてたオルフェーヴルは今はピリピリと眉間にシワを寄せている。これがニホンで暴君と呼ばれるウマ娘の姿か。
「今、この場で誰に挨拶すべきかわかりました。」
「調子に乗るな、ここは私達の国だ。」 - 92二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 01:08:12
保守
- 93二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 05:28:33
そういやまだフランスでは勝ってなかったな
- 94二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 08:44:32
そういやそうか
- 95二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 16:26:18
静寂、私が今まで経験したことがない静寂。
気が張り詰めて、無駄なノイズはすべて脳がキャンセルし、必要な情報を必死に拾おうとしている状態、世間じゃゾーンと呼ばれている、トップスポーツマンの必須技能。今日のゾーンはいつになくさえています。
きっとそれはほかのウマ娘達が全員ゾーンで戦えるウマ娘だから。『領域』なんてただの言葉遊びのはずなのに、なぜか、ここに居るウマ娘達全員で現世を離れて別の世界を共有しているような錯覚をしてしまいます。
いつになく、賑やかで静かな孤独の中で私はその時を待ちます。
きた、
私が脚に力を込めて身体を撃ち出すと、私の身体を撫でるようにゲートが開く。
今日のスタートは大外だったので、レースの様子がよく見えます。
このレースの主役になるとおもっていたヤベーオンナは、緊張でスタートダッシュに失敗したのか、ほかのウマ娘達に群がられてうまく前に出られない様子、彼女の脚質は逃げ。この状況は致命的でしょう。もうこのレースでは表舞台に出てくることはないでしょう。世界を混乱の渦に巻き込んだウマ娘の呆気ない最期、世界の頂点は甘くなかったというわけでしょうか。
それを余所に、昨年の侵略者は悠々と外側でひとり坂をかけあがりっています。全員が一斉にヤベーオンナのブロックに回ってしまったので、こちらの脅威がフリーになってしまいました。
フランスの頂点でリヴァルとの決闘を楽しみにしていたであろう彼女の無念を思うと不憫でなりませんが、フランスのウマ娘としてはこの独走を見過ごす訳にはいきません。
私はオルフェーヴルの後方に付き、彼女を風除けにしながら追います。
ヤベーオンナのことは残念でしたが、注目を集めるとはこういうこと、あなたのリヴァルは私が務めます。
コーナーを下り、もうすぐフォルスストレート。そろそろ仕掛けどきでしょう。
私は重力をカタパルトにしオルフェーヴルとの決戦の為に加速を――――――
急に、大気の粘度がかわった。今まで私の身体を冷やしてくれていた風がまとわりつき、前に進めなくなる。逃げ場を失った熱が私を蒸し焼きにしようとする。肺に空気がへばりついて呼吸の邪魔をする。
パニックを起こす私の脳を砕き、すり潰すように、怒号が私の身体を振り混ぜる。
「オルフェエエエエエェェェェェェヴルゥ!!!!」 - 96二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 17:27:49
ほう、この小娘、なかなかやるではないか。
ロンシャンの坂を必死に逃げる余は!
後に付いた追跡者に感嘆する!
ヤベーオンナに対して近接戦はあまりにも愚策。
今でこそ大逃げが奴の代名詞のようになっているが、奴の特技はバ群を隠れ蓑にした奇襲的な差し脚、大逃げは狂気じみた末脚をスタートダッシュに転用し、非常識極まりない体力を生かしてイレギュラーを避け、負傷した脚を庇う安全策でしかないのだ。
これで世界を取ろう等と考えるトレーナーの頭がおかしいのである。中央トレセンの長い歴史の中でも、彼女の大胆さに肩を並べる者はそうはいないだろう。
そんな彼女が、奴の差し脚を解禁したのだ。死の壁の向こう側に居る彼女がこの戦法を取ったのならば、もはや何が起こるか想像も出来ぬ。
余が下臣を連れ歩く様を大名行列と揶揄する者がいたが、ならばあれは魔王の軍勢だ、世界の強豪をその悍ましい魅力で併呑した即席の魔王軍。奴は今手勢の神輿の上で玉座に肘を付いて休み、いつ余の頸を食い破り血を啜ろうかと舌なめずりをしている。
ならば余は今のうちに必死に逃げるしかない。さながらフォックスハントの狐の気分である。
この小娘もそれを理解しているのだろう。勉強熱心なのは良いことだ。余を風除けに使うのを許そう。
余が3コーナーを駆け下り、4コーナーの半ばまで来た所でで、奴が動いた、奴が痺れを切らし、ここまで世話をしてもらった忠臣の頭を踏みつけて、哀れな狐共におそいかかる。
小娘は怯えて飛び出した。奴はそっちに狙いを絞ったようだ。
パニックを起こして闇雲に加速する彼女が余を追い越すとき、小娘と目が合った
素晴らしであろう?余の忠臣は。 - 97二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 18:20:44
ロンシャンレース場を私物化しようとする私は!
とりあえず邪魔な子達を早めに片付ける!
ここに集まるのは世界の強豪揃い、いつもの逃げ戦法じゃゴール前に纏わり付かれる危険がある。そうなっちゃうと王との決闘どころじゃないので、彼女等には早々に舞台を降りてもらう。可哀想だけれど我が王の為だ、存分に恨んで欲しい。
私はゲートが開くのを見てからゆったりとスタートする。
するとなんてことでしょう!あっという間に14人のウマ娘に囲まれてしまったではないでしょうか!
……いや、釣れすぎでしょ?世界の強豪がビビりすぎじゃね?正面は壁になり、背後も気流の渦を潰してくれる辺りにウマ娘が配置されて、ほとんど風を通さないエアポケットになり、足元は踏み固められて非常に走りやすい。構成物が世界のトップクラスのウマ娘達でスピードも申し分ない。暑苦しいことを除けばなかなかの快適空間だ。八百長疑われたらどうしよう?
まあ、降着になってもいいか、今日はもともと好き放題やるって決めてたし。
ロンシャンの坂をらくらく上って、そろそろレースを始めようかと準備する。
もちろんこの場群から抜け出すのはほぼ不可能だ、それもそのはず、この風除け達は私をブロックしてるつもりなのだ。みんなここに居るウマ娘達は世界の精鋭たち、まるで後に目が付いてるように私のの一挙一動を一切見逃さない。位置取りも完璧でコーナーでもポジションは一切崩さない。一切の隙などない完璧な包囲網だ。
じゃあ隙を作ろう。
ここに居るのは世界の精鋭トップクラスの強豪揃い、空間把握能力も対応力も実に素晴らしいに違いない。
そんなウマ娘達が、私の脚が芝を捉え損ねたことに気が付かないことなんてあるだろうか?
そんなウマ娘達が、転倒するウマ娘に対応できないなんてあるだろうか?
私はすんなり左後方に集団から弾き出された。さっきまで左隣にいたウマ娘が振り返ったので左から笑顔で返事をする。
「ありがとう、お疲れさま。」 - 98二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 18:21:04
爪先を深々と芝の隙間に突き立てる。
体力万善ウォーミングアップ完了!エスポワールシチーさん直伝のダート走法、今活用させてもらいます!
共にここまで旅をした仲間たちに心で別れを告げて、シップ肩を付き合わせ二人三脚で駆け下りた京都の坂を思い出しながらコーナーを滑り降り、前方の愛しの我が王に狙いを定める。
「オルフェーヴルぅ♡」
嬉しくってつい手を振って声をかけてしまった。聞かれてたら怒られるかも。
ロンシャンの坂で加速した私は!
我が王オルフェーヴルとの最後の決闘に挑む! - 99二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 19:15:51
しまった!罠だ!狙われたのは私だった!
すれ違うオルフェーヴルが私を笑う。後から迫る何かには怖くて振り向けない、得体の知れない何かが背中に迫る。うなじに息がかかる。よだれが滴り落ち鋭い歯が肌を刺し貫き頸椎が砕ける。
もういやだ、早く追い抜いて――
ふと我に返る、今凱旋門賞を守れるのは私だけだ!
死に物狂いで脚を回して前に進む、めいいっぱい身体を倒して芝を蹴る、可能な限り自分が生み出せるエネルギーを前進に使う。
ジリジリと距離をつめられる。速度差がありすぎて距離が維持出来ない。もうすぐ最後の緩いコーナーだ、交わされてしまえば、もう私にできることはない!
眼が脳に送る情報を遮り、全ての神経を後方に向ける、息遣い、振動、足音、全てを解析して次に後の何かがどちらに動くか予知をする。
一度だけ、一度だけブロック出来ればいい。後は命と引き換えにしてでも逃げ切ってやる!
後から聞こえた、右足首の関節がねじれる音、脛の内側の筋肉が僅かに外側よりも唸る
左だ!
コーナーから膨らむように外側へ身体を逸らす。後の足音が躊躇うように足踏みをした。
やった!かちました!私は勝ったんです!
身体をストレートの出口に向ける。
走れ!回せ!飛べ!二度と走れなくたっていい!二度と立てなくていい!二度と目覚めなくていい!今もぎ取った勝利を絶対に手放すな!
私の右側、トン、と足音がなる。その音はさっきの足音よりも、現実感を伴って鼓膜を揺する。
視野が戻ると、コーナーの内側を二人のウマ娘がすり抜けていく。
フェイントだったのか……。
二人のウマ娘はこちらを一瞥もせずにゴールへと駆けていく。 - 100二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 19:39:14
最後の直線、先頭に立った私は!
全身がちぎれ飛びそうな強烈な痛みに耐える!
最後のウマ娘を交わしたとき、ボルトの入った脚から嫌な音が身体に響いた。重心を強引にねじ曲げてフェイントを仕掛けたのが良くなかったようだ。
体力はまだある。筋肉はまだ動く。だけれど骨がもう持たない。
今日は無理をしすぎた。急減速からの急加速、減速無しで坂道から平坦に突っ込む、足首を使ったフェイント、そしてなによりも、エスポワールシチーさんが最後の400メートルでしか使わない末脚を、3コーナーの半ばから使いっぱなしなのだ。
一歩一呼吸で意識が飛びそうになる。後に迫る王が私を交わすのを感じる。なんとかできることを頭の中を引っかき回して探すけど痛みが邪魔をする。ただとにかく前に進め、王が私の隣に並ぶ、とにかく脚を回せ、王が過ぎ去る、とにかく地面を蹴れ、王の背中が見える、とにかく……何をすればいい?
目の前の光景は私がずっと見たかった光景、
青と緑の間
マントをたなびかせ
大地を踏み締め
風を裂く王の御姿
もうなにもしなくていいんだ。
酸欠でコントラストが暗いのが不満だけど、見られた。
ああ、愉しいなあ - 101二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 20:25:21
ロンシャンのゴール板の先に一番最初に踏み抜いた余は。
次いでゴール板を駆け抜けたヤベーオンナに寄り添い、身体を支えながら、ゆっくりと減速する。
案の定彼女は走りながら気を失っていた。彼女を外ラチに誘導してゆっくりと芝に腰を下ろして座らせ、そのまま仰向けにして彼女の頭を膝に乗せる。
ヤベーオンナの弱点、それは無限に走れる訳では無いことだ。フェブラリーステークスと天皇賞で露呈したことだが、物理がこの世を支配してる以上、彼女の骨格も筋肉も心肺も、酷使をすれば悲鳴をあげる。
ならば、極力レース中には絡まず、最後に対峙する際に体力を温存していれば、勝つことだけなら容易なのだ。
実に王としては無様な醜い手であるが。彼女には既に王と呼ぶなと言っていたのだ。文句はあるまい。
王の姿にこだわらないレースはとても楽しかった。様々な展開を予想し、そこに勝機を求めて頭を悩ませ、持てる手札から妥協点を探って策の確度を稼ぐ。
そして実際のレース運びから使える手を残して次々と無駄になった策を捨て去り、自分の決断に怯えて後悔しながら、次の選択肢が来ることを祈る。
強さを求めるだけでは知り得なかったレースの楽しみ方をこの忠臣は余に捧げたのだ。
膝にの上のヤベーオンナが、ゆっくりと目を開く。
「……王よ、私は王の望む敵で在れましたか?」
「ああ、我が生涯において、最も理不尽で、最も強く、最もでたらめな敵で在った。そなたと同じ時代に産まれ、そなたと競い合えたこと、余のウマ娘としての生は比類するものなどない至上の幸福であった。感謝をする。ありがとう。」
駆けつけた救護の者にヤベーオンナの身体を預け、余は立ち上がる。
「ヤベよ、傍らで見よ、そなたの王が、そなたの捧げた地で、祝福を受けるのを!」
最愛の下臣の傍らで拳を掲げる余は!
大観衆の祝福をうける! - 102二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 20:30:24
2013年 凱旋門賞
1着 オルフェーヴル 2.32.04
2着 ヤベーオンナ 5馬身
3着 ヴェニュスパーク クビ - 103二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 20:44:44
祝 日本勢初の凱旋門賞制覇
ヤベは脚壊しても2着に残ったのか - 104二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 21:02:23
おまけ
ロンシャンのステージでセンターに立つ我が王の勇姿を傍らで見届けた私は!
ステージから降りる階段で脚を捻って捻挫してレース人生を終える!
レースの後、身体検査を受けて特に異常がなかった私は、少し休んだ後で、遅らせたもらったウイニングライブに王と共に立つことができた。
ライブを終えた後、余韻に浸りながら壇上を降りる階段を一段踏み外してしまった。
その場でなんともなかったけれども、その晩足首が腫れ上がり、あわてて救急病院に駆け込んだのだった。
幸い湿布貼っとけば1週間で直るような捻挫だったけど、私はトレーナーと相談して、レースを引退することに決めた。心配してわざわざ病院まで駆けつけてくれた王も今回はそれを許してくれたのだ。
日本に帰ると大騒ぎ、私が引退するって発表に、尾びれと背びれと胸びれが付いたらしく、
なんと私が凱旋門賞の直後、王の膝の上で息を引き取ったことになってたのだ!
おまえらウイニングライブみとらんのかい!!
早々に生存報告が必要になり、帰国して休む間もなく緊急会見が開かれる事になる。
なんで私が自分の無事を知らせようとしたら毎回大ごとになるんだろうか?
とにかく冷静に今回の引退に付いて。
・捻挫自体はたいしたことがないこと
・捻挫とは関係なく今回の引退は決めてたこと
・引退の理由は目標を完遂したため
と伝えた。
最後に
「ヤベーオンナさんの力走を、まだ見たがっているファンが大勢います。どうしても引退を取りやめる事は出来ないのでしょうか?」
と、空気の読めない記者がくだらない戯れ言を吐いた。
あと数日、こんなどうでもいい質問に答えなきゃいけないと考えると憂鬱になるが、一応希望のあることを最後に言っておこう。
「何を勘違いなされてるのかわかりませんが、私の実力は全てトレーナーの指導の賜物です。私も後進の育成に尽力しますので、すぐに誰も私を思い出さなくなるようなウマ娘が現れるはずです。」
今後のあれこれが面倒になった私は!
あることないこと言って全部トレーナーにぶん投げる! - 105二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 21:08:40
ウマ娘プリティーダービー―Insane Lady―
Dルート
凱旋門賞の嵐~暴君の決断~
「災禍は続く」エンド - 106二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 21:10:22
乙
よくぞ怪我スレのあの概念の数々を纏めきった - 107二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 21:19:37
以上ヤベーオンナDルートの妄想でした
ヤベーオンナの道中で割を喰らわされたウマ娘、および実馬としのファンの皆様には大変申し訳なく、
特に今が旬のフェノーメノ様には筆者の知識不足により、史実で取ったレースの描写に全く絡まないという大変失礼な扱いをしてしまったことを深くお詫び申し上げることで
こちらの妄想を閉じたいと思います。
この妄想に納得のいかないという方がいらっしゃいましたら、是非ともご自身の妄想するヤベーオンナの物語をここで披露していただけると、私は大変喜ばしく思います。 - 108怪我スレSS書き25/04/03(木) 22:45:30
乙です。
こんな大作、書けるのすげぇです。
超乙です。
自分の場合、ヤベをもう少しマトモなヒト寄りに書く癖がありまして(エキシビジョンレースの時は除く)、春天とか目黒記念みたいな思い悩んだ時期ならともかく、覚醒した後のヤベを自分じゃ書けない悩みがありました。考えなかった訳じゃないけどマジで書けません。
……なので、こうしてDルートのヤベを見られた幸運に最大限感謝申し上げます。 - 109二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 08:30:32
ほ
- 110二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 08:31:10
本当にありがとうございます!
- 111二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 10:47:38
最後の最後まで書ききったの本当に素晴らしい…
ありがとうございます - 112二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 12:26:38
GJ!
まとめ上げ書ききったのは凄い - 113二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 20:57:27
すごくすごいお疲れ様です!
- 114二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 01:35:44
おつ
- 115二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 09:29:46
悔いのないレース生活だったんだな
- 116二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 11:02:28
世界で大暴れしてても結構辛勝してたり絶対無敵じゃないってぐらいのがいい
- 117二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 20:43:52
言われてみれば強すぎない感じになってるんだな
- 118二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 22:20:55
最後の最後に無茶振りされたトレーナーかわいそ……
- 119二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 02:56:10
凱旋門賞の後、引退もしたので暇になると思った私は
鬼の形相で泣くトレーナーに胸ぐらを捕まれてチーム転籍希望者の選別を任される!
あの会見の後私のトレーナーの元に70名近くのウマ娘が集まった。もうトレーナーには手に負えないので、私が駆り出されたのだ。
方法も任されたので、とりあえずレースで一番救われた体力を基準に9割は落とそうと思う。体力だけはトレーナーの指導だけじゃどうにもならない部分があるし、一昼夜が育つものでもない。
選別方法は24時ぐらい私と併走してもらう、それだけだ。苦楽を共にしたトレーナーをあっさり捨ててしまう不届き者に優しくはしない。レースの基本は人バ一体なのだ。
こうして70名近居た希望者は翌日の日が沈む頃に20人にまで減っていた。正直自信無くなっちゃう。
とりあえず体力は十分なのでトレーナーの指導にも耐えられるでしょ。
それから1カ月を待たずして、トレーナーは担当が居なくなった。誰もトレーナーの指導に耐えられなかったのだ。あんまりである。
24時以上苦楽を共にしたウマ娘達の何がダメだったのかと問い詰めた私は!
トレーナーから納得の一言をもらう。
「自分のトレーナー捨てちゃう子に優しくはできないよ。」 - 120二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 04:00:25
新入生の選別レースを終えて暇になった私は!
2回目の祭典のサークル参加に向けてキーボードを打ち鳴らす!
今年トレーナーが受け持ったウマ娘は15名、先輩ウマ娘が居ない新造チームだけど、みんな私と72時間走り続けた精鋭達だ。うまくやっていけるだろう。
手が空いた私は、アグネスデジタルさんの勧めで、夏の祭典に向けて私や王や他のライバル達とのレース人生を濃密に書き表すエッセイ本の執筆に精を出す。
去年の年末。念願のサークル参加を果たした私は、知名度の向上も合間って、ポエム付きぬい撮り写真集を500部を捌ききった。ところが、『中身がない』『ポエムがひたすら気持ち悪くって不快』『オルフェーヴルのことしか書いてない』と感想は散在だった。写真術には自信があったのになぁ。
意気消沈した私の前に現れたのは、トレセン学園のドラえもん、アグネスのヤベー方アグネスデジタルさんだった。
デジタルさんは、私のこれまでのレースを振り返るエッセイを書くように勧めたのだ。
と、言うわけで私は今3枚目のキーボードを消費しているのだ。
改めて自分のこれまでを振り返ると、なかなかの冒険譚だなとは思った。エスポワールシチーさんからフェブラリーステークスのときの話が聞けたのは愉しかったし、ヴェニュスパークとはとても仲良くなった。
シップは何を言ってたのかわからなかったが、その辺はナカヤマさんとマックイーンさんが補填してくれた。
私が自分の冒険譚を著していると、隣で紅茶を愉しんでられた王が、
「『勝った』と書くだけなのに、こんなに文章量が必要なのか?」
とおっしゃった。
確かに王からしたら倒した敵の前日譚、取るに足りないものなのでしょうが、少し寂しい。
突然王の身体が宙に浮く。
「王様!今のはいくら王様でも許せません!」
「そうです!ヤベさんがどれほど死ぬ思いしてレースに挑んでいたのか!王はヤベさんを避けてたので知らないんです!」
「違うんだ余!余のヤベなら全部『勝った』の一言で十分だと思ったんだ余!」
下臣達に胸ぐらを捕まれて、もみくちゃにされる我が王。
私は姉君に仲裁をしてもらえるように目線を送ると、
「今のはオルが悪いよ。人を褒める為に周りを貶めるのは本当に良くない。オルの忠臣達に免じて私からはなにも言わないがね。」
失言を下臣に咎められた我が王は!
私の写真集に参加することを約束してくれる! - 121二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 10:04:33
おお新展開が
- 122二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 16:22:57
>72時間走り続けた精鋭達
>3枚目のキーボードを消費
いやちょっと待てやおかしいやろ(震え声)
- 123二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 23:12:54
このレスは削除されています
- 124二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 23:13:42
ウマケット参戦編もありましたねぇ……
デジタルちゃんの勧めでウマケットに初参戦する私は!|あにまん掲示板bbs.animanch.com - 125二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 23:57:32
無事入稿を終えた私は!
トレーナーの指導風景を遠目から観察する!
前回の縫い活本が酷評されてたし文芸作品はウケが悪いことから今回はコピ本で30部ぐらいにしとこうと言った途端、デジタルさんが胸ぐらをつかんで、
「あなたはまだ戦争がしたいんですか!?」
と言いだした。王も下臣仲間も、姉君やドンナも欲しいと言いだしたし、デジタルさんも印刷から委託まで面倒見てくれるというので調子に乗ってオフセットで1000部も刷ってしまった。300ページが1000部とかなかなか想像がつかない。てか、これを30部とはいえコンビニ印刷で済まそうとしてたのは流石に迷惑極まりないな。
トレーナーの元に集った新入はみんな1勝をあげて順調にトゥインクルシリーズを走り始めたようだ。デビューから1カ月で15人全員勝ち上がってるのはなかなか優秀な子達だ。
練習風景みるとやっぱり体作りが中心のメニューのようだ。何をするにも筋力は全てのベースとなる。なのでこの時期の子達はみんな筋トレから始めてるはずだし、体ができあがらなきゃそっから先のトレーニングなんてさせられない。トレーナーも気を使ってだいぶ緩めの指導をしてるみたいだ、グラウンドの端で死体のように転がされてるチームメンバーは見なかったことにする。
部外者目線でみると、トレーナーってあんなに怖いんだな、と思いながらグランドを去ろうとした私は!
突然肩を捕まれる!
「追いあんた、私と勝負してよ。」 - 126二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 01:16:43
「えーと、芝3200、2400、2000、ダート1800、1200……あと何する?障害とかばんえいとかなら私もやったことないからいい勝負になるのかな?」
久々にちょっと本気で走った私は!
目の前で這いつくばってる子が勝てるレースを模索する!
てかすごいなこの子、5戦やってもちゃんと闘えてるし。
「このバケモノが……!」
「災害呼ばわりよりはだいぶマシだなぁ。」
この子はフランスからの帰国後に転籍を希望してきた子達の一人だ。一晩中一緒に走ったときも思ったけど、やっぱりすごい体力と根性だ。この子だけ給水も休憩も無しでずっと一緒に走ってたのを覚えてる。トレーナーの指導からは真っ先に逃げ出したが。
「わたしは!……あんたに勝って、まだ闘えるウマ娘って証明しなくちゃならないんだ!」
どうやら、この子はトレーナーとの契約を反故にしたあと、元のチームからも復帰を拒否されて、今は独力でトレーニングしてるらしい。
とりあえず勝負はやめにしてこの子をつれてファミレスに連れてく。「なんでも頼んでいいよ」とは言ったけど、ホントに容赦なく食べるなコイツ。
「……私たちからすると、他のトレーナーって敵に見えるけど、トレーナーからしたら同僚だし、情報交換とか休暇や出張の間のフォローをしあう仲間なんだよね。」
目の前のウマ娘はペペロンチーノをもりもりと口に運ぶ手を止める。
「それにさ、ウマ娘のレースに限った話じゃないんだけど、学生スポーツの指導者って実際はどうあれ『他人様の子供使って遊んだり金儲けしたりする人』って印象持たれたりするんだよね。だから選手に怪我させたり、呑ませたり、死なせたりしたら容赦なくぶっ叩かれるの。」
「だから、ウマ娘はみんなトレーナーの為に勝とうとするし怪我に気をつけたりするんだ。」
自分で言ってて耳に痛い話だ。
「それでね、簡単にトレーナー変えちゃうような子はみんな引き受けたくないし、受け入れるとマズいんだよ。」
目の前のウマ娘が口にパスタを含んだままぽたぽたと涙を落とす。 - 127二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 01:17:04
「わたしは……勝ちたい……勝てる可能性が増えるあるなら、そっちに行きたかった。……でも今はまともにレースにすら出してもらえない……」
理性では自業自得と言いたいけれど、私自身がやりたい方題してたウマ娘なので少し同情してしまう。
ウマ娘が走れる期間はすごく短い、しかも10代でその短い選手人生の重要な選択を迫られる。正しい選択肢を選び続けてるには明らかに人生経験が少ない。社会人の人間関係や世間の印象を考慮して選択肢するなんて、大の大人でも失敗するのだ。大人の常識は子供にはあまりにも不条理すぎて飲み込めない。
「じゃあ、とことんワガママに自分勝手でいこうか、私がトレーニング見たげる。」
彼女はフォークを落としてこちらを見る。
「でも、私、トレーニングしてもトレーナー居ないからレース出られないし。」
「中央トレセンのトレーナーでもみんな忙しいってわけじゃないし、専属トレーナーでもトレーニングパートナーの為にチームを持ってる人もいる。そういうところに潜り込んで成果を出すの、そしたら名声や実績を求めて寄ってくるトレーナーが必ず何人か居るから、その中から自由に仕出来そうなのを選んで鞍替えするんだよ。」
彼女は目を丸くする。私だって自分で言っててドン引きだ。
「もちろんまともな指導は受けられないよ。まともな指導が出来ないからそんなことしてるんだし。」
「でも、それで結果を出せなかったり、怪我したりしたらそのトレーナーに迷惑かかるんじゃ……」
心配する彼女を見て吹き出して笑ってしまった。そういえば私は狂っていたんだった。
「キミが死んだら私やトレセン学園やキミの家族はみんな困るけど、キミは別に困らないでしょ?死ぬんだし。」
きっとこの子なら、死に物狂いの意味をわかってくれるはず。
「私のトレーナーのところの子達がね、みんな強すぎてこのままだと競えるのが身内だけになっちゃいそうなんだ。」
愉しいレース人生を歩んだ私は!
「協力してよ、後輩達に、『愉しいレース』をしてもらいたいんだ。」
トレーナーにとびっきりの恩返しを思いつく! - 128二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 01:18:22
と言うわけで、
残ったスレッドで新しい概念を模索しようと思う - 129二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 07:21:26
ヤベー軍団が完成しとる…
- 130二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 15:53:29
チームでレースを蹂躙するトレーナーに外付けコーチング担当で対抗するヤベーオンナとか超熱い第二部やないか
オルフェーヴルの臣下軍団もどうなるのか気になる - 131二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 21:42:01
引退して放課後暇になった私は!
どっからかトレーナーをひっ捕まえてきた協力者ちゃんとひたすら併走を繰り返す!
基礎スペックはなかなかいいものを持っていたので、ちょっとテコ入れしてあげればすぐにG1級に通用すると思っていたけど、それが甘かった。この子いくら説明しても理解してくんない。学校の授業の範疇の内容しか話してないんだぞ?
いや、理解しないんじゃない、納得しないんだ!
コイツなんでか自分の走りに妙に自信持ってて自分のやり方を変えようとしない。
仕方ないのでとりあえずプライドへし折ってわからせるところから始めようとさっきからひたすら併走してるんだけど、走るたびにヘンな自信をつける始末、8馬身は突いて来れてるウチに入らないぞ。キミは何かを掴みかけてるらしいが、私には万に一つの可能性すら感じ取れない。
途方に暮れた私は!
王のツテを頼り、一人のウマ娘を呼び寄せる!
「うっららー♪来たよー!なのなに?トレーニング?」 - 132二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 22:25:11
「と、いうわけでこんな感じの走り方でこれと走って欲しいんです。」
「わかった!オグリさんとエルちゃんの間みたいな感じでスズカさんみたいにばーっていって最後にゴルシちゃんみたいな感じだね!」
流石ウララさん、私の説明を更に分かりやすくかみ砕いてくれる。いろんな子のトレーニングに顔出してるから経験値が豊富で話しやすい。
そういうことで芝2500メートルで二人で走ってもらう。
おい、お前今鼻で笑ったな?トレセン学園の重鎮やぞ?ウララさんとマンツーマンでトレーニング出来るなんてとんでもない光栄なことなんやぞ。
実際、走り始めるとあっさり勝敗は決した。ウララさんが序盤から10馬身引き剥がしてそのまま走りきってしまったのだ。あ、なんかやっちゃダメなことした気がする。
「ヤベちゃん!これすごい走りやすいよ!なんか急に足がパワーアップしたかんじ!」
「はい、きっとウララさんに合うと思ってました。あと私が教えたのは絶対に内緒にしててくださいね?」
またね!と手を振ってウララさんを見送って、さっきから地面に這いつくばって泣き喚いてる協力者ちゃんを見下ろす。
おい、露骨に悔しがるな。あまりにも失礼すぎるだろ、あんまり態度が悪いとトレセン学園中の怖い人達に目を付けられるぞ?
「ああ、貴様のウララの扱いも相当失礼であったな。」
後から声をかけられ冷や汗を垂らす私は!
逃げる間もなく王に頭を鷲づかみにされて持ち上げられる!
なおウララさんはその後「砂の女王」と呼ばれる程の大躍進を果たしたらしい - 133二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 02:40:54
ウララちゃんがホクトベガクラスに!?
- 134二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 09:49:53
すごい強化だ
- 135二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 16:32:44
でもウララちゃんが喋らなくても一部のウマ娘やトレーナーにはバレるんだろうなぁコレ
- 136二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 22:19:29
酷い罪悪感に苛まれる私は!
無心で協力者ちゃんのフォームを正す!
ウララさんの上限解放が秒でバレた私は、ウララさんのトレーナーに胸ぐらを掴まれ、そのまま泣きながら恨み節をぶつけられる、足元で蹲って慟哭する大人の姿はあまりにも情けなく見るに堪えなかった。
正直私がやったのは普段のウララさんのトレーニングやレースの様子から、ウララさんが出来そうなスキルを組み立てただけなので、ほとんど経験値の蓄積や基礎体力を育てたこのトレーナーの功績なのだからそんなに嘆くことはないのに。
完成目前のパズルを横からかすめ盗った?
それはまあ、うん - 137二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 23:16:17
さて、今私はひたすらルームランナーで走る姿を協力者ちゃんにまじまじと観察される。言葉で説明するのは諦めた。
彼女の走り方は言うなれば疲れない走り方だ、マラソンやランニングとまでは言わないけれど足の裏を転がすようのに接地時間を増やして膝や足首の負担を軽減する走り方。障害走の子はけっこう使ってるのを見かけるが、平地競走じゃだいぶ物足りない。なまじパワーだけはあるのでこれで勝ててしまったのが彼女の不幸だ。前のトレーナーは彼女になにも教えなかったのだろう。
「体力が有り余ってるのは悪くないけど、できればどの距離で走っても息切らして倒れ込むぐらい疲れるのが理想だよ。途中で疲れて失速するよりも、完走して呼吸が乱れてないことのほうが恥ずかしいって意識を持って!」
一度ウララさんにへし折られたのが効いたのか今度はちゃんとメモをとりながら聞いてくれる。たぶんそのメモを見返すことはないんだろうけど。
以外だったのは彼女が拾ってきたトレーナーがなかなか使い勝手が良さそうなことだ。担当を持たず、トレーナー棟でいつも雑用してる半分用務員みたいな職員だと思っていたが、意外なことに毎回トレーニングに顔をだし、意見を求めれば的確な回答が返ってくる。
名前だけ借りられれば良かった所、だいぶ嬉しい誤算だ。私は結局素人なので、腐っても中央トレセンのトレーナー免許持ってる大人が居るのは心強い。
彼の過去になにがあったか知ったこっちゃないが、熱意がまだ湧くだけの若さがあるなら今後のトレーニングの主導権は彼に任せてもいいだろう。
なんとなく体制が整ったと思った私は!
彼女の再始動を来月の札幌日経オープンに決める!
あと夏の祭典で売り子もやってもらおう、狙い通りにいけば、いい客寄せパンダになってくれるはず。 - 138二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 07:47:15
ウララちゃんが完成目前だとしてもそのトレーナーに完成させられるかは別問題なんだよなぁ
そこまでできあがってるならもっと前に完成させてるハズだという話でもある - 139二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 07:57:14
- 140二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 14:30:20
……あれコレもしかしてヤベーオンナがウマ娘にとっての『災害』からトレーナーにとっての『災害』になるパターンでは?
- 141二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 21:36:27
札幌日経オープンでの協力者ちゃんの成果
dice1d7=7 (7)
1.競走中止
2.凡走、掲示板外
3.健闘、2着~5着
4.辛勝、1着
5.芝2600日本レコード2.37.30(2014年現在)越え
6.芝2600世界レコード2.37.00(2014年現在)越え
7.2着と31馬身差で勝ち
- 142二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 21:37:34
セクレタリアトじゃねーんだぞオイ!!!!!!
- 143二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 22:13:42
万全な状態で送り出した協力者ちゃんは!
伝説のウマ娘として名を馳せる!
……いや、流石に想定外よ?距離も馬場も違うしオープン戦だしで単純比較出来ないけど、レースの実況で『31馬身』なんて生きてるうちに聞くことになるなんて思わなかった。
協力者ちゃん本人含めてゴールしたウマ娘達がターフの上で呆然としている。
観客席も現実を受け止められず騒然となっている。
無理もない。あまりにも荒唐無稽で創作物ですら許されないような大勝利。
よもや北海道の無名のウマ娘のレースでそんなものの語り部に選ばれるなど、この場に居た全員が思いもしなかったろう。
ハッと我に返った協力者ちゃんが慌てて拳を挙げて打ち合わせ通りに叫ぶ
「わ、わたしぎゃ!ヤベーオンナの一番弟子!『災害』を受け継ぐ者でゃ!」
噛みまくって声も裏返って居たが、彼女は確かにそう叫んだ。再起の狼煙にはいささか強烈過ぎたが幸先のいい滑り出しでとりあえずは満足かな。
その後、協力者ちゃんとともに夏の祭典に挑んだ私は!
押しかけた協力者ちゃんのファンでビッグサイトを混乱の渦にたたき落とし、一冊も配布すること叶わずに開場前に撤退を余儀なくされる!
ちきしょう…… - 144二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 08:03:48
マーケット運営に目をつけられちゃう
- 145二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 16:27:37
運営「次回出禁で」
- 146二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 16:56:16
出禁喰らったからってネット通販しようとしたら、きっと回線パンクさせるぞ
一挙手一投足が災害が呼び起こす、どこぞのヒューマノイドタイフーンを彷彿とさせる - 147二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 17:30:52
通販で在庫店に持っていってもらわないと確実に寮の部屋を圧迫する事態になる
- 148二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 23:55:20
理事長に献本したものが好評で、トレセン学園が引き取ってくれることになって事なきを得た私は!
王と協力者ちゃんと3人でデジタルさんに説教される!
どうやら我が王オルフェーヴルも手ずから配布したいといい出したので相当苦労して運営スタッフと協議して配置や導線を用意してくれてたらしいのだ。ところが、一週間前に売り子の一人が伝説のウマ娘に昇格、凱旋門賞のワンツーに生まれたてホヤホヤのセクレタリアトの再来が重なったことで完全に予測が約に立たなくなり、コントロールが不可能になったのだとか。
デジタルさんの緊急時の退去プランがなければ祭典自体が有明からも追い出されてたかもしれなかったらしい。
『唐突に伝説のウマ娘を生やさないでください』
なんて説教、この人類史で聞いたのは後にも先にも私たちだけだろう。
夏の祭典に失敗した私は、
冬の祭典を憂いて河原でたそがれる。正直本命はそっちで出すつもりだった王と作るヌイ活本だったんだけどな……やっぱりもうスペースもらえないよな……。
「今度はなに企んでるの?こっちの練習に顔出さずにあんなの用意してたなんて。」
声をかけて来たのは私のトレーナーだった。
「引退したウマ娘が練習でてなにするんですか?」
「みんなあなたに付いてきて私の元に居るんだよ?そのあなたが余所のトレーナーのところでウマ娘育ててたら私の立つ瀬がないじゃん。」
どうやら私が勝手にウマ娘を用意してたのが相当不満なようだ。でも元はといえばこの人が取りこぼしたウマ娘なので、ちゃんと抱え込んでおけばこんな事態にはならなかったはずだ。
「ヤベちゃん、トレーナー達からだいぶ嫌われてるよ?」
正直、それは織り込み済みだ。無責任な子供がトレーナーの真似事して自分たちの仕事にクビ突っ込んでくるんだ、面白いわけがない。
「ウララさんのことは申し訳ないと思ってます。」
「そっちは私はなにも悪いことしてないと思ってるよ、ウララちゃんだっていつまでも走ってられる訳じゃないし。ねぇ、中央トレセンの資格持ちで、デビューからずっとウララちゃんと頑張ってたトレーナーがいつまでも結果が出せなかったのに、オルフェーヴルから紹介されないとつながりがないようなあなたがちょっとアドバイスしただけで結果が出るなんて本気で信じてる?」
できるだけ考えないようにしていたことをズケズケと言ってくるな。なんか妙にヘラってるかんじ? - 149二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 23:55:54
「私は耐えられないよ。必死に頑張ってる学生がさ、『負け組の星』とか言って大人のおもちゃにされてるのがさ。」
聞いてるだけなら熱い良心的な大人の言葉に聞こえて、良いトレーナーなんだなって印象を受けるだろう。
でも、ヒール役に慣れてしまったひねくれた私には『なにもしなかった大人の自己弁護』に聞こえてしまう。
「私たちは、てか、世の中のスポーツ選手って、『アスリート』である前に『ショーマン』なんだよ。レースは『競技』じゃなくて『興行』。プロモーターさん達が頑張って企画運営してくれてようやく競い合えるんだ。『負け組の星』は間違いなくウララさんの武器だよ。負けてもレースを楽しむ姿勢は崩さず、なおかつちゃんと勝ちを求めて果敢に挑む姿はウララさんにしか出来ないことだから、『可哀想』だなんて決めつけちゃいけない。」
ウマ娘が好きな私は。
トレーナーに自分の勝手な言い分をぶつける。
「それでも、トレーナーが勝つのを諦めちゃ絶対にいけない。みんな、長くない走れる時間を私たちに預けてるんだよ。私たちからしたらいくらでも居るウマ娘の一人、『一人ぐらいこんなウマ娘が居てもいいよね』なんて気軽に言えるけど、ウマ娘からしたら、一回しかない大事な挑戦権をそんな風に使われちゃたまったもんじゃない。」
「ねえ、ヤベちゃん、見捨てた私が言うのは筋違いかもしれない。でもトレーナーのマネするなら、これだけは聞いとかなきゃダメなの。」
「ヤベちゃん、あの子をどうするつもり?私との私闘に使うつもりなら、私はあなたを許さない。」 - 150二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:37:03
「私が協力者ちゃんに求めるのは、トレーナーの育てたウマ娘と闘って満足させること。あの子達はたぶん競える相手が居ないからさ。私が大きな壁を用意するんだ。でなきゃ、トレーナーはあの子達を蠱毒にかけることになるよ。」
私は包み隠さずトレーナーに真意を告げる。怖いからそんなに睨まないで欲しい。
「あなたは天狗になりすぎてる。中央で闘うウマ娘を舐めないで。」
「トレーナー、あなたは自分が世界を巻き込む災害を育てたトレーナーなのを忘れてる。そしてあなたの元に集ったウマ娘は私が選んだ精鋭だ。私は強いウマ娘を見る目と自分のトレーナーの采配だけには絶対の自信があるんだ。」
「宣言するよ、来年のクラシック3冠はあの子達から出る。あの子達がクラシックに興味があればだけど。」
あの子達はおそらく同期には既に興味がないだろう。既にシニアで走ってる先輩方か、最悪自分のチームメイトしか敵とみてないだろう。
「あなたは、なんでそんな子を私の所に集めたの?」
「それはさっきトレーナーが言ったじゃん。一回しかない挑戦権は有効的に使われるべきなんでしょ?」
時系列は前後するけど、セリフの説得力を増すために協力者ちゃんを利用する。
「私が育ててるウマ娘はね、今年が5年目でもうピークがだいぶ過ぎてるんだ。たぶんあと1年も走ってられない。来年の宝塚記念がラストランに出来れば上出来じゃないかな。」
「……だいぶ遅咲きな子なんだね。」
トレーナーの表情から心にもない事を言っているのがわかる。さっきのウララさんの話がそのままトレーナーに降りかかる形だ。
「彼女はね、まともなフォームすら知らなかったんだ。もし、彼女にデビューからまともなトレーナーが付いてたら、私たちやオルフェーヴルだって名前すら誰も覚えてなかったと思うよ。」
「ウマ娘の成否はトレーナーに掛かってる。私は才能のある子を信頼出来るトレーナーに預けて、いずれ私やオルフェーヴルの事を誰も思い出さなくなるようなウマ娘を育てて欲しい。」
「これは後片付けなんだ。私が荒らした世界の。」 - 151二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:44:53
トレーナーが固唾を飲んで私を睨む。いいな、やっぱり私のトレーナーは最高だ。私を敵だと理解してからは並ならぬ殺意を私にぶつけてくる。
「そうだ、さっき、あの子達の同期にはまともに闘える子は居ないって言ったけど、実は下臣仲間から王のトレーナーの元で今年ジュニアで走ってる子が居てね、その子も相当できる子のはずだよ。」
精一杯ヒールを演じる私は!
「来年は愉しい年になりそうだね!トレーナー!」
鬼として来年の話を嗤う! - 152二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 01:58:14
協力者ちゃんオルフェーヴルやヤベーオンナと同期だったのか…
- 153二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 09:38:20
すげぇ世代だ
- 154二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 13:28:09
15クラシック世代大変だなー
- 155二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 20:00:15
指導者に恵まれなかった子は多いんだろうなぁ
- 156二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 00:29:27
それから順調に勝ち進む協力者ちゃんは!
順調にファンと獲得賞金を稼ぎ、晩秋には遂に念願の勝負服に袖を通せる目処が立った!
しかし……
「やっぱり、全力でやれるのは年内が限界かなぁ……。」
しっかり身体に負荷をかけてエネルギーを稼ぐスタイルはやはり身体に負担がかかる。
全盛期のウマ娘なら4~5日で回復してトレーニングに励めたりするのだが、ピークの過ぎたウマ娘ではそうもいかない。
これまでは低燃費走行で誤魔化されていたが、勝つための走りを覚えた今は、レースのあとは少なくとも一週間は
は開けないと不安がある。なんならウイニングライブのステップすら怪しい時もある。
「ジャパンカップで最後にするか、良くても有馬記念までが限度だろうね。」
レースを終えた彼女の足をマッサージしながら話す。こればっかりは誰も覆せない宿命だ。変に隠したりせず、きちんと伝えて覚悟を決める時間を与えるべきだろう。すると、
「年明け……あなたの後輩達と闘うことは出来ないの?」
と妙な事を聞いてきた。
「無理だろうね。その頃には今みたいな走りも出来ないだろうし。強引に走らせて怪我させるわけにもいかないし。」
「ヤベちゃん、あなたはわたしを、後輩達と競わせるためにここまで連れて来たんじゃないの?」
「確かにそうだけど、別に気に病むことはないよ。私はキミを利用して、キミは私を利用した。WIN-WINの関係だ。キミは私の指示に従ってちゃんと成果を出したんだ。胸張りなよ。」
「確かに計画は御破算だけど、キミのレース人生を歪めてまで達成しなきゃいけないようなものでもないんだよ。王の元で研鑽を積む下臣仲間もメキメキ育ってるし、他のトレーナーのところからも頭角を現すウマ娘がけっこう出て来てる。案外あの子達はクラシックを楽しめるかもしれない。そもそも普通はチーム内で切磋琢磨できる相手が居るのは健全な環境だし。」
「……私は…そんな簡単に諦めがつくようなことのために今まで走ってたの?」 - 157二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 00:29:41
少し回答に困ってしまう。トレーナーにあんな啖呵切っちゃった手前、やっぱりダメでしたなんて言ったら私は軽蔑されちゃうだろう。
それでも彼女がG1に勝って有終の美を飾る姿よりも価値があるとは思えない。
「そうだよ、キミはそんな戯言につられて重賞で闘えるようなったんだ。だから私のことは気にしなくても
「わたしは!!自分の勝負服なんていらない!G1で勝ちたいなんて思わない!わたしはただあなたのそのどうでもいい目的のためだけに走ってるんだ!!」
いきなり声を荒げて激高する協力者ちゃんに私は固まってしまう。
「誰もわたしに期待してないなんて知ってたよ!がむしゃらに頑張ったって誰も褒めてくれないし、死ぬ気で走ったって誰も気にも止めない!」
「そんなわたしをなんの疑いもせずに、あなたの後継者に推薦したり、あなたの後継者を打ち倒す役目を与えてくれたりした!あなただけがわたしが勝てる事を信じてくれた!」
「それなのに、わたしは、あなたの……そんな軽い願いすら叶えてあげられない……!」
「……そんなの、ウマ娘として生まれた意味がないよ…………!」
うずくまって泣き出してしまった彼女に私はどう声をかけようか考える。
「ねえ、落ち着いて……私の目的なんてそんな大したことじゃ
「落ちつくのはあんたの方だよ。」
さっきから黙って見てた協力者ちゃんのトレーナーが口を開く。
「ちょっと席を外してくれないか?彼女と話したい。」
ウマ娘の気持ち側わからない私は、
控室から追い出される。 - 158二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 06:01:59
協力者ちゃん…
- 159二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 12:34:43
やべーオンナの2015あたり……?(
- 160二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 21:40:50
どうするんだろう
- 161二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 05:34:24
他人の脳を灼くってこういう事なんだぞヤベ
- 162二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 07:24:37
落ちついてウイニングライブに向かう彼女を見送った私は!
彼女のトレーナーと話をする!
「で、協力者ちゃんのラストランをどっかの地方のオープン戦で済ませろって?ふざけてんの?G1で勝負服着て走れるウマ娘が世の中に何人居ると思ってる?みんなさ、デビューが決まったら浮き足だって自分の勝負服作るんだよ?絶対これ来て走るんだって、あんただってみたことないわけじゃないでしょ?寮のゴミ捨て場のゴミ袋に新品の勝負服が突っ込まれてるの。あの子にそんなことさせる気?それがあの子の意思だとしても、あんたはそれを飲んじゃいけない立場だろうに。」
コイツはウマ娘にとって勝負服で走ることがどういう意味を持つかわかってるのか?ジーパンとセーターで走ってた私が言えたことじゃないが、ウマ娘の勝負服にはそいつの主義主調これまでどう生きてきたかこれからどう生きていくかってものを全部詰め込んだ自分そのものなんだ。たくさんの人が注目する晴れ舞台でそれを披露することが、レースにおいてどれだけ重要なことなのか、そんなのがわからないようじゃトレーナーなんて任せてられない。
一時の癇癪で人生を棒に振る子供を引っ叩いてでも引き留めるのが大人の役目だろう。
「あんたはさ、オルフェーヴルに敵であれって言われて凱旋門賞までいっちゃったんだろ?もしもさ?脚折ったときにさ、オルフェーヴルに『よく頑張った、あとは余が生涯面倒見よう』って言ってきたらどうしてた?」
「ギプス付けた脚で蹴り飛ばしてたんじゃないかな。たぶんそれニセモノだし。」
「もうやだ、狂ってる奴と話してるとこっちも頭がおかしくなる。」
「雑なエミュで王を語るな、私は服役する覚悟ぐらいできてるぞ。」
「あんたのその覚悟は、G1で勝負服着ることよりも軽いのかい?」
私は黙り込む。もしも私が王に狼藉を働く者をみたら、確かに今後レースに出られなくなってもその狼藉者を全力で蹴り飛ばすだろう。王は悲しんでくださるだろうが、私自身は勝負服が着られなくたって別に気にしやしない。 - 163二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 07:25:22
「あんたはさ、全部諦めた人間が、手を差し伸べられたら、手に入らなかったモノを全部与えられたりしたら、そいつのことをどう扱うと思うよ?高潔なあんたからしたら即物的で不純で不愉快で一緒にされちゃたまんないだろうけど、あんたと同じで首ぐらい簡単に差し出すようになるんだ。」
怖気が走る。私にそんなものを差し出されても背負いきれない。はじめて私はオルフェーヴルにしてきたことの重大さを理解する。胃が裏返って口から出て来そうだ。
「あのままほっといたらあの子はあんたの目の前で自分の勝負服をズタズタに引き裂いてたよ。そんなことされたらあんた耐えられんだろ。ちょっとは感謝してくれ。」
私はもうなにも言えない。
「それでも、私のために、G1を諦めさせるなんて……」
「あんたがオルフェーヴルにしたことは世界中の人間が知ってるよ。オルフェーヴルはあんたの思いを尊重した。あんたも飲み込め。もうくだらない問答をする気はない、建設的な打ち合わせをしよう。」
トレーナーが言うには、
ジュニア級とシニア級のウマ娘が走れるオープンレースを探して、そこに協力者ちゃんの体調を合わせて、私が闘わせたかったウマ娘達をそのレースに出走させるのだ。
ちょうどいいレースがなければどっかの地方レース場を使ってレースを新設するつもりらしい。私の名前を使えばその程度のワガママは通るのだそうだ。
私を納得させる条件として
『必ず観客をいれてレースをする』
『全員が自分の勝負服を着て出走する』
ことを提示してきた。大観衆の前で勝負服をお披露目できるならG1じゃなくてもいいだろうと言うことだ。 - 164二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 07:25:49
「でもそれは他のウマ娘の協力があってこそじゃない?そもそも出てくれるかわかんないし、G1走る前に勝負服お披露目とか縁起でもないし。」
「それは問題ないだろ、あんたのトレーナーの教え子からしたら憧れのウマ娘からの招待状だし、オルフェーヴルのとこだって黙っちゃいないだろう。なんならクラス問わず出たい奴はいくらでもいるさ。たぶん18人フルゲートじゃ足りないぐらいにな。なんせ最も新しい伝説のウマ娘と競える最後のチャンスだ、正装ぐらいはしてもらわないとな。」
妙に目を輝かせるトレーナーに私は少し引く。
「すごいと思わないか?俺の愛馬がグレード制までぶっ壊すんだぜ?あんたですら届かなかった領域だ。」
まだ決まってもないレースに夢を語る男をみた私は!
この人達のために全力を尽くすつもりだ! - 165二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 07:34:51
とうとうトゥインクル・シリーズ飛び越えようとしてやがるぞコイツ等
- 166二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 12:37:24
ウマ娘が好きな私は!
東京レース場のダービールームに招待状される!
すごい!なんかホテルのロビーっぽい!部屋の中はラウンジみたいだ!バルコニーからはコースが全部俯瞰で見える!
お昼ご飯はホテルオークラレストランのビュッフェだ!まさにVIP待遇である。
「はしゃぎすぎだ、ドバイのレース場の方が設備が整ってたろうに。」
とこの13号室の名前の主、オルフェーヴルに笑われてしまったが、庶民からしたらメモリアルスタンドですら一生に一度入れるかどうかだ。ダービールームなんて入る機会があるとすら思わなかった。
今日の第11レースはジャパンカップ、世界のウマ娘が集うドリームレースだけど、私達の目的は第7レース、私の担当の子の名前を冠したレースだ、表向きはジュニアとシニアのクラス間交流試合、実際にはトレセン学園の理事長を巻き込んだワガママと悪ふざけの産物だ。
ちなみにその理事長はさっきからバルコニーで本来はブレーキ役の緑の人と一緒に大はしゃぎだ。あなたたちはこんなこといつでも来れるだろうに。
「今回は本当に申し訳ありませんでした、本来はチーム全員をご招待すべきでしたのに。」
そう謝るのは今日の主役、ヤベちゃんの協力者ちゃんのトレーナーだ。
「いえいえ、我々だけで3枠も用意していただけただけでも十分ですよ、みんなが脚質が合うわけじゃありませんし」
実際にはこのレースの参加権のために15人全員で選抜レースをやって決めたのは黙ってよう。
「仕方があるまい、今や奴はすべてのウマ娘が狙う敵、墜とせば伝説のウマ娘の称号が得られるのだ。貴様等の私闘ではもう収まらんよ。」
ほんとに今回のレースは応募が殺到したらしい。一応交流試合なのでジュニア級の子は優先的に出訴させるが、あとは賞金額順なので、もうオープンレースのメンツじゃない。ジャパンカップと被せたのは希望者を絞る目的もあるんだろう。 - 167二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 12:37:47
「しかしまあ、ジャパンカップの日に東京レース場で芝2400メートルなのは良いとして、『ヤベーオンナ杯』って名前はどうにかならなかったの?」
「どうせ遅かれ早かれどこかのレースで使われる名だ。ならば本人が関わってるレースで冠した方がよかろう。それにジャパンカップ蹴ってオープンレースに出てる者も居るんだ。やばい女と呼んでも差し支えない。」
オルフェーヴルと談笑してたらさっきからキョロキョロしてた協力者ちゃんのトレーナーが声をかけてきた。そういえばキミは協力者ちゃんのところ行かなくていいの?
「そのヤベーオンナさんは今どこに?もうすぐレースが始まってしまうんですが」
私はオルフェーヴルと目を合わせて笑い出す。
「あの子のがこんなとこに来るわけないじゃない。」
「レースのことを『闘う』と表現するオンナだぞ。決闘の場で大人しくしている訳があるまい?」
ヤベーオンナに脳を灼かれた私達は!
闘いを見届けるためにバルコニーに向かう! - 168二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 13:52:47
ウマ娘が好きな私は!
ゲート前で今をときめくウマ娘達に挨拶をする!
まずはウチのトレーナーの教え子達、サトノの家のご令嬢とそのルームメイトの子、蠱毒の壺から選抜された代表達だ。スカウトしてからほとんど顔を合わせてなかったけど、声をかけると喜んでくれた。すごくいい子達だ。
次に我が王からの刺客で私の下臣仲間の友達、右耳リボンの鹿毛の子、夏の本の編集でひどく酷使しちゃった相手だ。本を出せなかったことを謝ったら「こんなことであやまんな。」と怒られてしまった。
他にも有名な演歌歌手や野球選手の娘さんも参加してくれたようだ。なんかすごいメンツが揃ったなぁ、 - 169二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 13:53:37
そんで、こっちはジャパンカップ蹴ってこっちにクビ突っ込んできた頭のおかしい人たちだ。
「シップもドンナもなんでここに居るのよ?」
「そりゃオメーやオルがアタシ抜きでおもしれーことしてっからだろ?アタシも噛ませろ!」
「そもそも私達は二人ともあなたに苦い汁を舐めさせられていますのよ?たとえ弟子が相手とはいえ、リベンジの機会を逃すとお思い?」
私は王ばかり追いかけてたけど、向こうからしたらそりゃ因縁の相手か、まあジャパンカップに引けを取らないメンツが集まったとは思ってるので楽しんでいって欲しい。
問題はこの人だ。できれば出てくる時間を間違えたと思いたい。
「ジャパンカップは4つあとのレースですよ?ヴェニュスパーク。」
「違いますよ。私はあなたのお弟子さんと闘いに来ました。彼女に勝つことはどんなトロフィーよりも価値があるものだと思っています。」
すごいな、あの子は、もう世界にその名が轟いてるんだなぁ。
で、その当の本人の勝負服に物申したい。
「なんであんたはジーパンにセーターなの?綺麗な勝負服持ってたんじゃないの?」
私の自慢の一番弟子はセーターにデニムのスカートのしたにジーパンをはいて、おんぶ紐で背中に私のぱかぷちを背負ってる。完全にターフに迷い込んだ観客だ。
「むしろこの場でこんな格好できるのはわたしの特権でしょ?」
「なんのためにみんな勝負服で走ってくれてると思ってるのよ?あんたがそんな格好じゃ意味ないじゃない!」
「ウマ娘の勝負服にはそいつの主義主調これまでどう生きてきたかこれからどう生きていくかってものを全部詰め込んだ自分そのものなんだ。ならばわたしの勝負服はこれしかないよ。ケチ付けるってのならたとえ師匠でも許さないよ。」
彼女の満面の笑みに私はもうなにも言わない。
「キミの献身に感謝する。全員まとめてやっつけてこい!」
「はい!」 - 170二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 13:53:55
他にも参加してくれたウマ娘達一人一人に挨拶して、
私はゲートに入る。
8枠18板、私の指定席だ。
「…………なんでヤベちゃん、ゲートはいってるの?」
隣の協力者ちゃんがきょとんとしながら訪ねる
「え?だって理事長が出ていいよって言うから」
私はスタッフに預かってもらってた我が王のぬいぐるみを受け取り装着する。これで私の勝負服のできあがりありだ。パチンとバックルが鳴ると、晴天が真っ黒に染まったような錯覚を覚える。1年ぶりの感覚に身震いする。
協力者ちゃんには悪いけど、ここに集まったのは私の因縁だ。正直他人に譲りたくない。それに。
「勝負だよ。あなたの最期、特等席からみててあげる。」
私だって伝説のウマ娘と闘いたい。
「…………見ててよ、後からね!」
ゲートの電磁コイルが唸りを上げるのを感じ取る。
私はまだ開かないゲートに向かって私の体を蹴り飛ばす。
ウマ娘が大好きな私は!
私を大好きなウマ娘達から逃げ切る!! - 171二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 13:56:14
ウマ娘プリティーダービー―Insane Lady―
Dルートアフター
災禍は続く
~完~ - 172二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 14:02:27
蛇足妄想にお付き合いいただきありがとうございました。
レースパートの描写がなく申し訳ありません。使えそうな描写は過去作から未発表作のプロットまでDルート部分で使い切ってしまいました。
ヤベーオンナが狂人のまま終わってしまったので人間らしさのある普通のウマ娘に戻すつもりが、こんな結末となってしまったことを深くお詫びします。 - 173二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 14:04:04
あとセブンスクイーンってアニメとアプリで見た目全然違うのね
- 174二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 14:12:51
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- 175二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 15:42:40
乙でした
やってきた事が自分に返ってきたヤベーオンナいい…… - 176二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 21:38:16
- 177二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 02:54:39
そこまでいったらもう化け物なんよ
- 178二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 05:37:11
- 179二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 05:59:41
こうなったらオルフェーヴルがヤベーオンナを追いかける流れになるだろうな
王を自負した自分が国内で三冠目指してる間にジュニア期に敵宣言した相手があっという間に歴代最強まで駆け上がって行くんだから
- 180二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 09:00:06
先っちょブリッジコンプみたいなローテだ…
- 181二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 10:13:00
この協力者ちゃん
なんの因果かイギリスじゃなくて日本に居て芽が出なかったフランケルだったりしない? - 182二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 17:46:30
日本の芝が合わなかったのか…
- 183二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 19:04:10
- 184二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 04:39:55
うわぁ(ドン引き)
- 185二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 09:22:06
ヒエッ…