【SS】異文化交流戦@昼時カフェテラス

  • 1二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 01:03:22

    ヒシミラクルは白米をぱく、と口に含みながらカフェテラスを見渡した。混んできたなあ、と思いながら熱い茶を啜る。
    相席していた友人は「先生に呼び出されてたの忘れてた!」と手早く食事を済ませて席を立ってしまったため、一人で二人がけのテーブル席を独占している状態だった。
    ここで個性豊かな同期だったらそこら辺を歩く友達を誘ったり、知らない生徒でも話しかけて座らせてあげるんだろうけど普通である自分には荷が重い。せめて早く食べ終わって席を空けようとするも、早食いは得意じゃない。そうこうしてのたくた定食と格闘しているヒシミラクルのもとに現れたのは、意外な人物だった。

    「そこ、空いてます?」
    「はい空いてま〜す⋯って、ええ!?」
    「ありがとうございますっ! えへへ、話すのは初めてですよね? 記念に写真撮っていいですか?」

    学園で知らないものはいないであろう人気者。いつも人だかりの中にいて、注目を集めているウマ娘。

    「か、カレンチャン⋯」
    「はーい。カワイイカレンチャンです☆」

  • 2二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 01:04:09

    どうしてこうなったのか分からない。
    自分の定食に視線を落としながら、向かいに座るカレンチャンを見るのはあまりに不躾だろうか──と惑っていれば、見透かしたかのようにサンドイッチにぱくつくカレンから「カレンはカワイイって言ってもらえるのが大好きなので、ちゃ〜んと見ていてくれたら嬉しいな♪」と言われたので、ええいままよと視線を上げてみる。

    「か、かわいい〜〜⋯⋯」
    「ありがとうございますっ!」

    小さな顔にアンバランスなほど大きな瞳。人形のような完成度だが無機質な感じではなく、エネルギーに満ち溢れている。
    入学してから話題となり、みんなフォローしてるからという不純な動機によるCurrenのフォロワー300万分の1ではあるが、実物の方がよっぽどカワイイとは。
    そんなカレンに見とれていたが、気づくと周りからも視線を注がれていることに気づく。
    「(そりゃそうだよね〜)」
    カレンとお近付きになりたい人なんて星の数はいるだろう。こんな自分が相席を賜ったのは分不相応が過ぎる。一ヶ月分の運は使い果たしたかもしれない。明日の英語の小テストはヤマが全部外れるとか。
    そうならないようせめて早く席を離れようと食べるスピードを早めたヒシミラクルに、カレンはこてんと首を倒す。

  • 3二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 01:04:26

    「もしかして⋯この後、何か用事がありました?」
    「いや、ないけど⋯」
    「よかった! カレン、ヒシミラクルさんとゆっくりお話してみたかったんです!」
    「え゛」
    「⋯⋯やっぱりお邪魔でした? カレン、スプリンターだから、一度ステイヤーの人のお話聞いてみたいなあって思ったんだけど、急すぎたかな⋯⋯」

    両手を顔の前に持ってきて、瞳をうるませるカレン。カフェテラスの光源と窓からの自然光がハイライトを一層大きく映し出して今にも泣き出しそうなほどの愛くるしさが胸を打ち、慌てて顔の前で手を振る。

    「全然!そんなことは、ないけど⋯⋯、わたしだよ? あれだったら、トップロードちゃんとかクリスエスちゃんとか、呼んでこよっか」
    「ううん。カレンね、今はヒシミラクルさんとお話がしたいの」

    カレンはこちらの手を両手でそっと握りこんだ。手に視線を落としているため伏せられたまつ毛は信じられないくらい長く、きらきらと光っている。

    「ヒシミラクルさんがいいの」

    ライトグレーの幕がゆっくりと上がる。ピンクとも紫とも判断のつかない宝石が姿を現す。
    その眩さに心を奪われながら、とんでもないことになったなあ、とヒシミラクルは他人事のように思った。

  • 4二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 01:04:48

    「『カレンのカワイイを広める』──」

    語られた壮大すぎる夢に、ヒシミラクルは口を開けた。

    「それは、すごいことだね⋯」
    「そうですか? カレン、3歳の頃からの夢だから意識したことはないんですけど」

    笑いながらサラリともたらされた情報に、ヒシミラクルはまた驚かされる。

    「3歳! いや〜、本当にすごいよ。そんな時からもう夢が決まってたんだ。わたしなんて、まだまだどうなるか分からないのに」
    「そうなんですか? あれだけすごい成績なのに?」

    「うん、結果は──まあ、残せたんじゃないかな〜とは思うけれど、このままドリームトロフィーリーグまで行くほどかなあとかは考えちゃうし、トレーナーになるにしても、教える才能なんてなさそうだしね〜。まあ、わたし、フツーのウマ娘だし」
    「フツー⋯」
    「うん。普通。確固たる夢があった訳じゃないけど、何となく走り続けてて、外付けの自信とモチベでここまで引っ張ってもらって、だからその後に何が残るかなんて分からない。でも、期待された以上は、何か残したい──って、感じかな。あはは、自分で言っててもふわふわしてるな⋯」

  • 5二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 01:05:58

    カレンは目の前の先輩を見る。
    ヒシミラクル。普通を自称する、ミラクルなウマ娘。ステイヤーとして輝かしい戦績を残しながら、迷いも悩みもある。
    けれど、その悩みに自分の持ちうるカワイイで助けになる気は起きなかった。
    だって、なんとかなりそうだったから。
    とろりとした瞳からも、ゆるい喋り方からも、確固たる意志のようなものは見えない。けれど、何かを託したくなる。このウマ娘なら、何かやってくれるんじゃないかと思える何かがある。
    カレンにはカワイイがあった。じゃあ、それを自覚していない人たちには何があるんだろう。何を燃やして生きていくのだろう。
    幼い頃、それでもカワイイを届けるために封印した問いが胸から溢れ出てくる。

    その答えが、目の前のウマ娘にあるような気がしていた。

    「──いいなあ」
    「え?」
    「ヒシミラクルさんといたら、カレン、いろいろなことが分かる気がする」

    テーブルに両肘をついて、広げた両手に顎を乗せる。考えなくたって角度は完璧だけど、半端に口を開けた目の前のウマ娘はちょっと間抜けで、しかし信じられないくらい素敵だ。

    「カレン、やっぱりヒシミラクルさんがいい」
    「ええ〜⋯やっぱりインフルエンサーって何考えてるか分からないよお〜⋯」

    口に出す予定のなさそうな軽口に少し笑う。
    まずは互いに知ることが大事そうだ。
    明日のお昼の約束も取り付けなくちゃ、と思いながら相槌を打つ。
    なんだか、とてもワクワクする。

  • 6二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 01:07:17

    おしまい

    久々にスレ画作成機能のランダムで出た二人で書いてみたけど芦毛の可愛いコンビ、普通にありな気がする

  • 7二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 01:27:30

    乙でした
    忘れがちだけどミラ子みたいなふつーの子からするとカレンチャンはとんでもなくカワイくてとんでもないスターだっていうのいいね

  • 8二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 01:28:00

    良き、最高です

  • 9二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 01:28:06

    夢のあり方とか、意外と可能性を感じる2人だな。本家での絡みってありそうだけどないんだっけ

  • 10125/03/26(水) 01:32:27

    >>7

    ありがとうございます!!!普通のウマ娘から見た激ヤバインフルエンサーカレンチャン書きたかったのでそう言って貰えると嬉しい⋯

    >>8

    読んだ上に感想までいただけるんですか!?ありがとうございます⋯!!!

    >>9

    いけるいけるいけるやれるやれるやれると思いながら書いてたので可能性感じて貰えて嬉しいです!互いの呼称もなかったので今後イベントなどで絡みあったら嬉しいですね〜

  • 11二次元好きの匿名さん25/03/26(水) 01:37:03

    まさに異文化交流って感じのSSだ…
    確固たる意思でカワイイを披露しつづけ周りを惹きつけるカレンチャンと傍目から見れば普通ではない戦績なのにゆるい感じで周りを惹きつけるミラクルって本当に対照的
    そりゃあお互い惹かれ合うに決まってるよなぁと思いました
    良いSSでした

  • 12125/03/26(水) 01:44:52

    >>11

    ありがとうございます!!!


    >確固たる意思で〜

    ここ作者よりSSの概要を把握して魅力的にテーマを評価している才に溢れた感想なのですがもしや名のある書き手さんですか???本当にありがとうございます

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