何かあった未来のイブキ(17)がやってきたがPart3

  • 1二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 00:59:50
  • 2125/03/27(木) 01:04:17

    初スレ建てになるため、もし何か問題ありそうなら改めてどなたかPart3スレを建てていただけたらと思います。

  • 3二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 01:45:21

    建て乙です、たぶんこのままだと深夜の内にスレが落ちますね

  • 4二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 01:46:06

    保守しとくで

  • 5二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 01:49:38

    とりあえず10辺りまで伸ばすか

  • 6二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 01:51:22

    と思ったが取りあえずスレ落ちまで10時間に伸びたからいいか

    しかし前スレ199、誰かしらの意図で繋がったっぽいね
    誰なんだ

  • 7二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 03:02:06

    うめ

  • 8二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 03:03:43

    うめ

  • 9二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 03:19:51

    「窓」って言われると、色彩が頭をよぎるな…
    よく覚えてないけど、あれも確かキヴォトスの外から窓を通ってやってきたみたいな話なかったっけか?
    だから元凶は色彩経由で反転した誰かだとは思うんだが、誰かはサッパリわからん

  • 10二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 04:01:46

    埋め

  • 11二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 08:39:44

    念の為の保守

  • 12二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 09:30:10

    ホシノ抜きアビドス
    ハイランダー&ネフティスを交えつつ(暫定)ゲヘナと協力
    制空取れてないので他機を感知せず

    ゲヘナ万魔殿
    致命的なタイミングの悪さとシロコ*テラーによってアビドスと敵対
    イブキとイロハが人質状態でアビドス方面に進軍中
    ミレミアム製ドローンによる領空侵犯を受ける

    シロコ*テラー
    おそらく迎撃準備中

    RABBIT小隊withミカ
    砂漠のどっかにいるであろうRABBIT5をミレニアム製ドローンと共に捜索中

    ホシノ&イブキ(17)
    一緒にご飯

    ???
    アビドス砂漠に窓を接続

    これゲヘナ視点だと最悪ゲヘナvsアビドスwithハイランダー・ネフティス&ミレミアム&RABBIT小隊withディーパーティーに見えるという地獄の状態でついでに近くに未来イブキもいるという

    万魔殿部隊がアビドス市街地にある戦車長の愛車がしっかりカモフラージュして停車してるのを見てなんとか情報の交錯に気づかないかな

  • 13二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 10:31:24

    さて現イブキと未来イブキの邂逅もそろそろ秒読みかぁ……物騒な展開しか予想外できないが。

  • 14二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 10:43:08

    (前スレまでss書かせて頂いてた者です、自分で立てず申し訳ない…。良ければまた今日にでも続き上げます。)

  • 15二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 10:56:37

    >>14

    まってます

  • 16二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 14:44:48

    「これは酷いわね…」

    午前11:45 シャーレ執務室。
    中天に登った太陽が窓から明るい光を差し込み部屋を照らす。本来なら明るく清潔な印象を与えるはずのその部屋の中はしかし、死屍累々とでも言うべき状況が現出している。
    先日から泊まり込み現在は机に突っ伏して仮眠している先生を筆頭に、約10名の生徒達が書類に埋もれながら突っ伏し横臥し座りながら睡眠しと惨憺たる有様であった。
    これだけ女生徒が集まっていれば世の男達の言うところの「良い匂い」がしそうなものではあるが、今ここにあるのは疲れ草臥れ激務に討ち倒された哀れな亡者達の疲労の臭いだった。
    その中に立ち入り彼女…扇喜アオイは呆れて嘆息する。
    ある学校の生徒から「友達が当番に行ったきり帰って来ないからどうにかしてほしい」と連絡を受け、ついにあの大人が生徒を毒牙に掛けるに至ったかと血相を変えてシャーレへと向かった。
    しかし着いてみると状況は言葉より雄弁に事情を物語っており、帰ってこないと連絡のあった青いジャケットでミント色の髪留めを付けたトリニティ生から事情を聞くに至り全ての疑問が氷解した。
    どうやらこの状態が一週間か少し前から続いていたのだが、七神リンが内々に進めるべく連邦生徒会内でこの件についての情報を封鎖し自身で全てを処理していたらしい。
    そもそも生徒からの連絡を受けた経緯も突っ伏して眠っているリンの横で鳴る固定電話を取ったためだった。
    「先生もリン先輩も後で膝詰めでお説教ね」
    アオイはかつて空が赤く染まった時にリンを責めた自身の事を思い起こす。あの時は荒唐無稽な話過ぎたとはいえ何も考えずリンを責めたアオイ自身にも大きな瑕疵がある。
    しかし今回はゲヘナが大きく動き中央として座視出来ない事態だ。アオイも前回の失敗から学び何が起きても協力出来るよう用意を怠らず危急に備えている。
    しかし、こういう大事なことをリンも先生も何も教えてくれはしない。私は頼るに値しない存在ということなのか?
    そんなわずかな怒りを抱きつつ、幸せそうに眠る先生の額に思いっきりデコピンを放った。

  • 17二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 14:46:22

    “ふごっ!?”
    そんな声を上げて飛び起きる、アオイが信頼し職務とこじつけ時折会いに来るシャーレの先生。
    髪もボサボサ、服もヨレヨレ。…うわデコピンした指に皮脂ついてる。
    体臭も濃厚な彼のシャツに人差し指を押し付け汚れを取ると、“えっ!?なに無言の圧力!?コワイ!!”と騒ぐ先生。少し面白い。
    「なにじゃないでしょう?毎日毎夜女生徒を連れ込んで何をしてるのかしら?」
    “えっ!誤解だよ!?昨日出先から帰ってきたばかりだよ!?”
    詳細はリンを問い詰め聞いている。
    ゲヘナの動員に対応するため四方八方を飛び回っていたところ今度はミレニアムの大規模ドローン飛行による実験を名目とした各校上空の領空侵犯、さらにはそれに同調しウソかマコトか「その実験に協力する」と申し出てアビドス砂漠に大規模兵力を向けたゲヘナ万魔殿。…まあ、おそらくミレニアムの飛行にかこつけての事だろうが。
    それらの処理が山積しオーバーフローを起こしている。この惨状はそれに対する処置なのだ。
    「貴方一人で解決出来ないからこの子達に協力を仰いでいるということね?」
    “……うん、少し無理してるなって自分でも思ってる”
    先生とは連邦捜査部シャーレの特権において超法規的措置を用い各校の生徒達の問題を解決する機関唯一の人員、という認識におそらく齟齬はなくまた権能もそうであると証明している。
    しかし所詮は独り。生徒の力をどれだけ借りても最終的には一人ぼっち。
    どう足掻いてもその力の及ぶ範囲は限界がある。ゲヘナ、ミレニアム、アビドス。そしておそらくここに絡んでくるもう数勢力。千散に乱れた状況はたとえ十数本の猫の手を借りようと事足りることはないだろう。
    もっと根本的な解決策が必要になる。何か根本をひっくり返す何かが。
    そしてその最短ルートをおそらくこの大人は知っていて、何か考え画策し裏で忙しなく動いている。
    「(私も巻き込んでくれていいのに…)」
    “アオイ?”
    「……シャツに誰かのリップ付いてるわよ、薄いやつ。」
    “エッ!!??いや違ッ…アッ!!昨日忍術研究会の子達にもみくちゃにされたからほら!!”
    「忍術……百鬼夜行にまで行ってるの?」

  • 18二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 14:49:19

    本当に何を考えて動いているんだろうこの大人は。彼の脳内地図がまるで読めないのが少し悔しい。そんな悔しさから核心を聞く事にする。
    折角タイミングが合って話が出来るのだから今聞いておかないと、リンを説教した後この件を補佐する仕事分担が決め難くなる。
    「それで?いろんな場所を飛び回ってこの事態をどうするのかしらシャーレの先生は。」
    “うん、上手くいけばもう数日で一応の目処はつくと思う。”
    飛び出してきたのは意外な目標日数。仕事の出来ない人間が口にする「根拠は無いけど納期はここ」と定めるアレではないだろうか?
    いやまさかこの人に限って…
    “まあ根拠は何も無いんだけどね”
    なんの根拠も無かった。折角だしもう一発ほど先生の額ではなく肩口にデコピンを放つ。
    「…別にいいけど、それならそれでこっちにも情報を頂戴。リン先輩がこんな事してるってうっすら感じてはいたけど初めて知った。」
    “え?リンちゃんアオイ達に何も話してなかったの?”
    「……」
    嘘のような話だが完全に一人で抱え込んでサポートをしていたらしい。
    あの人はいい加減他人に説明して頼る事を覚えないと先日のクーデター騒ぎの時のような破局を迎える。苦難を背負い込みながら心配させまいと周囲に壁を作るのはもはや拒絶を通り越して無言の攻撃だ。放置すべき悪癖ではない。
    「…なんて言ったかしら。そう、因数分解しないといけないわよね。」
    独り言ちて後、先生にもいずれお説教と告げ少し泣かせてから再び死屍累々を乗り越える。
    少しずつ生徒達は大人としての力を身に付け巣立ちの準備を整えて行く。この死屍累々はそのための通過儀礼とも言えなくもない。
    果たしてアオイが大人になったらどんな姿になっているのだろうか。キヴォトスはどうなっているのだろうか。
    「いっそ将来……」
    アオイはあり得る未来として先生の隣で教鞭を取る自身を想像し微笑みつつ、シャーレビルの廊下を歩き一階に向かうエレベーターに乗り込む。
    ガラス張りのエレベーターから見るキヴォトスは、いずれ来るであろう輝かしい未来を思い描けるような煌びやかな繁栄の中にあった。

  • 19二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 14:50:54

    訂正、忍術研究会→忍術研究部

  • 20二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 16:52:07

    繁栄は簡単に瓦解する
    ただしほぼ必ず生き残りが出る

  • 21二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 21:38:22

    どうなるんだ

  • 22二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 00:27:20

    イブキには報われて欲しい

  • 23二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 00:28:05

    とりあえず未来イブキが、未来に戻った後も、平和に暮らせるハッピーエンドをユメ見てる

  • 24二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 03:07:15

    ー幕間ー
    ゲヘナブラックマーケットにて。

    時は遡る。

    「お金が無い…」
    当然だが未来からやって来た丹花イブキは現代の通貨を持ち得ない。
    未来では物々交換とブラックマーケットが私的に発行し流通させていた独自通貨を用いた取引が主流だった。
    イブキは身体中にそれらを忍ばせ危急に備えており現状車一台分を買うだけの資金があったが使えないのでは意味がない。彼女が持ち合わせているのは今ではトイレットペーパー以下に成り果てた件の紙切れと、こちらで得た数百円のクレジットだけだった。
    子ウサギ公園を夜逃げ同然に逃げ出しゲヘナ外縁部のブラックマーケットに辿り着き、その状況を振り返った時に初めて発したのが先の言葉である。
    「どうしよう…日雇いでもした方がいいのかな…?」
    陽の差さない暗い路地。血がへばりつき銃弾の弾痕著しい壁面に手を添えなぞり歩き考える。
    やるとなると用心棒や荒事専門の戦闘員などだろうか。技術は持ってるし何でもござれだ。それがダメなら窃盗か、資本主義が根付く今の世界なら強盗という手もある。
    「…砂狼さん達元気かな」
    ふと脳裏を過ぎる旧アビドス高校の人々。現役時代は裏社会の大物と繋がっていたと豪語するあの人達なら的確な助言をくれただろうか。

    「お前の無事を心配した方がいいんじゃねえかぁ?」

    思考の海からイブキを引き揚げたのはくぐもった無遠慮で甲高い声。歩を止め周囲を見回す。
    長く薄暗く高い壁が圧迫感を与えるゲヘナの路地裏。前方に数人のフルフェイスヘルメットを被った少女がいる。さっきの声は後ろから掛かったなと思い振り向くと、そこには同じくヘルメットを被った少女達。
    何の用事だろうか?
    「誰…?」
    「誰とは笑わせるな。お前こないだ風紀委員と一緒に暴れた奴だろ?」
    「…………ああ〜」
    ヘルメットに貼り付いたステッカーが先日の任務で切り刻んだ連中と同じモノだと今さら気付く。
    もしかして仲間の仇討ちかな?
    そう聞くとヘルメットの少女は語気を突然荒げ激昂しイブキに食ってかかった。
    「よく分かってんじゃねえか!こっちはあの一件で友達を傷付けられてんだよ!!情報屋の情報通りこっちまでノコノコ来てくれて助かったぜ!!」

  • 25二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 03:08:53

    イブキはなるほどと納得する。たしかに仇討ちは大事だ。
    適者生存・優勝劣敗の世界を生きる人々にとって、仇を討つということは損じた利益と尊厳を最大限贖わせる行為に他ならない。もしもイブキが教官や参謀長を傷付けられたならこの身を賭して復讐を決行するだろう。だから彼女達の想いも痛いほど理解出来る。
    「そっか、ごめんね。謝るよ。」
    だからまず返すのは彼女達に対する形式上の謝罪。そもそも誰の命も奪っていないのだし復讐も何もない。笑顔でこれ以上は恨みっこなしだと誇示する厄介事を避ける魔法のスマイルをしていると、どうやらそれは逆効果だったらしい。
    「ふざけんじゃねえ!!」
    「わわっ」
    マズルフラッシュが瞬きヘルメットの少女が下げた銃から銃口初速905m/sの速度で弾が吐き出され、轟音を残して裏路地の壁や道に新しい争いの記念碑として複数の穴を穿つ。

    しかしそれは数ステップで躱された。
    銃の安定性を無視した慣れない持ち方。フルフェイス越しでも分かる馬鹿正直にイブキの顔だけを狙った目線。おそらく戦闘慣れしていない。戦うのを他人に任せるタイプかこのグループ自体が捨て駒にすらならない残り滓の雑魚揃いなのだろう。
    乱れた感情と震える手元で小さい的を狙った射撃なんて、サキとホシノにスパルタで戦闘術を叩き込まれたイブキには容易に軌道が読める。「避けろ」と言っているようなものだ。
    「ねえやめよう?そっちが悪い事をしたから私達が出張ったんだよ?こんなの意味ないよ。」
    「黙れ!!!」
    「あーもう」
    さらなる射撃を行おうとするヘルメットの少女。イブキはブーツのつま先で足元の小石を宙に蹴り上げると一つステップを踏んで凄まじい速度で右脚を振り抜き、引き金に掛かるヘルメットの少女の指へと小石を叩き付けた。

    破裂音。
    ついで絶叫。
    他の少女達が彼女を見ると、なんと引き金に掛かっていた彼女の指があらぬ方向へ曲がって力無く垂れ下がっている。あまりに強い衝撃とヘイローの加護が相殺した結果、内部でダメージが弾け指の骨が粉々に砕けたのだ。
    濁った絶叫を上げる少女とは対照的にイブキは高い声を上げて自身のヘイローを確認するよう手で空を切りつつ飛び跳ねた。
    「痛ッッッッッッッたい!引き金押し込んで一発もらっちゃったじゃん!もー!!死んでないよね私!?なんでこれは命中するかな!?」

  • 26二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 03:10:30

    イブキを取り囲んでいた少女達に僅かな恐怖が細波のように伝播する。
    おかしい、風紀委員でもないこの女がなぜこんなに強い?情報屋は「箔付けで参加した他所の新人」と言ってはいなかったか?
    その動揺を切り裂くようにイブキは言う。なるべく落ち着いて、平坦に、抑揚なく。
    「じゃあこうしようよ。」
    その目は先ほどまでの笑顔とは異なっていた。
    「私が今から動くからそれを上手に捌けたらあなた達の勝ち。」
    獲物を前にした獣が遊びをやめてこれから獲物を切り裂く歓喜に震えるような…
    「あなた達が負けたら有り金全部と情報屋の事教えてよ」

    「もし私に勝てたらあなた達の死に顔を似顔絵で描いてあげる」

    瞬間、前方と後方から閃光と轟音が瞬きダンスを踊る。
    交錯する射線。射線上に居る双方に銃弾が当たるが固いプレートに当たる音が響く。
    キヴォトスでは銃の攻撃はそこまで痛痒を要するものではない。たとえば服の下にボディアーマーなどを仕込めばこういう味方への被害を想定しない戦い方が可能になる。
    イブキは壁を蹴って一息に宙に舞うと、後方射線の一角を形成する少女の首筋一点に上方から大量の銃弾を重ねて叩き込む。無防備ならアーマーを仕込もうと意味はない。
    ヘルメットから吐瀉物が漏れ出て崩れ落ちる彼女を支えようとした仲間の横に降り立ち、抜き放ったサーベルで銃を叩き斬り手足にそれぞれ1回ずつ剣先を通す。死んじゃうから大きい脈は切ったらダメ。
    くぐもった仲間の絶叫に怯える先程指を砕いた少女を睨み、竦んだ瞬間に担ぎ上げ残った対面の射線からの肉盾として利用する。
    潰れたカエルのような声が断続的に聴こえるが自身が招いた状況なのだから我慢してほしい。
    少女達の中に突っ込みぶつかる直前、肉盾を放り投げ壁を二度蹴って身を翻し跳躍。一回転後に彼女達の後ろ、その足下に降り立ち先頭に立っていた少女の無防備なスカートの中に銃口を突っ込み乱射。先程と比ではない悲鳴に似た絶叫を発し刺激臭のする黄色い液体が流れ出す。……少しやり過ぎかと思いつつヘイローも消えてないし大丈夫だろうと判断する。
    完全に戦意を喪失した残り二人のうち一人の腕をサーベルで壁に縫い付けマガジンを再装填する。

  • 27二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 03:11:32

    「肩って何発打ち込めば千切れるかな?」
    「がッッ…あヒッ……!!」
    肩口に銃口を押し付け目一杯乱射。
    「ああああああがああああああああぎやあああああああいやああああああああああああああああアアアアアアアア!!!!!!!!」
    程よい所で止める。
    ヘルメットのバイザーが割れて白目を剥いて気絶した少女を転がすとサーベルで刺した部分に簡単な止血を施す。
    肩は脱臼程度で済んだかな。ちょっとやり過ぎたし後で救急車呼ばないと。

    さてずいぶん静かだが残るは…と、イブキが振り向くと最後の一人は泡を吹いて気絶し先程の少女よろしく粗相をしていた。恐怖を与えすぎたのかもしれない。
    この時代のブラックマーケットの連中は驚くほど貧弱だし心も身体も痛みに弱い。イブキの時代には確実に殺すため子供を使ったブービートラップすらあったものだが、その図太さとは比べるまでもない。 
    嘆息しつつ気絶した少女の懐を弄り財布を引き出すと、文明人として守るべき秘密を次々引き出していく。
    「札は無し。ああそっか、電子決済メインの人が多いんだっけこの時代。学生証…うわ元トリニティ生?意外。あ、クレカ。ん?ええ…?親名義?あ、キャッシュカードも──」
    呟きつつスマホも拝借して記録されていた情報屋とやらの居場所を見つけ出しメモを取る。
    上手くいけばこいつ経由でカイザーに渡りをつけて質のいい良い密売ルートを見つけられるかもしれない。そして砂漠を渡る車を手に入れアビドスで拠点を構築し元の世界に戻る方法を探る。

    全てにおいて予測と見切り発車で動いているが、立ち止まったら飛んでくる銃弾は避けれない。
    動き続けなければ生きていけない。

    イブキは残る数人に応急処置を済ませ全員分の財布の中身を抜き取ると、スマホを手に取りゲヘナ救急医学部への連絡を済ませる。
    「ありがとね。」
    倒れ伏す少女達…の財布に礼を告げると、彼女は先の見えない路地の暗がりに進んで消えた。


    幕間、閉

  • 28二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 07:23:21

    うーん、強い

  • 29二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 07:57:53

    なるほどカツアゲかぁ

  • 30二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 10:24:42

    まあ襲って来た方が悪いしね、仕方ないね
    ドラクエで例えれば雑魚モンスターだと思ってたらモシャスで化けてた幹部クラスだったってオチか

  • 31二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 10:33:41

    キヴォトス人なら銃弾の十や二十は食らっても問題ないはずなのに、たった一発食らっただけで死んでないか心配するのって、未来だとヘイロー破壊爆弾を銃弾化したようなやつが出回ってるってことなのかな

  • 32名無しの先生25/03/28(金) 10:43:22

    >>31

    カヨコが主人公の同人誌で、そんな感じの奴が出ていたなそういや

  • 33二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 16:58:26

    保険ほしゅ

  • 34二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 17:02:02

    >>32

    何それ気になる

  • 35二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 20:11:15

    未来ホシノ譲りの人体破壊術かな

  • 36二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 20:46:03

    イブキ(17)の戦術はサキ教官から叩き込まれたSRT式のCQB・CQC戦術をベースに参謀長から言葉で教わったティーパーティー実働部隊の戦術、ホシノから実践形式で教わった凶悪極まりない人体破壊術や環境利用闘法、その他にも外で拾った各校の戦術教本やBDで得た戦術を組み合わせたものなんだけど、細かな癖とかにゲヘナ式の動きが若干残ってたりするんだよね
    一般モブ生徒レベルだと色々混ざり過ぎてて初見殺しもいい所な戦術だけど未来ホシノや野良メイドぐらいの手練れなら「特殊部隊のやり方みたいだ」とすぐ分かっちゃうんだ

  • 37二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 01:17:13

    何かあった未来の戦力比ってどうなってるんだろう?
    一般モブ生徒一人当たりですら、過去キヴォトスと比べて1:5とかになってそうだけど
    (ただの喧嘩とガチ生存競争の意識差で)

  • 38二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 07:05:26

    念の為ほしゅ

  • 39二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 09:58:44

    「おお〜すごい切れ味だねえ」
    バラバラになった木組みの椅子を見て小鳥遊ホシノは感心し先程まで猛威を振るっていた一振りの刃物に賛辞を送る。
    イブキはそれを受け取りサーベルを鞘に収めつつ、釈然としない表情を浮かべ二日目の夜を迎えようとしていた。

    その日の朝、目覚めて朝食を摂り準備を整えるとさっそく谷底からの脱出路捜索が始まった。
    イブキ達のいる谷間は地中に埋もれたかつての都市の一角にあり、それを構成する岩塊はアビドス最盛期の摩天楼に上から砂が堆積し何層かを押し潰し圧縮した廃ビル群。
    昨夜彼女達が野営用の機材を求められたのは、ひとえに侵入出来たビルのフロアに企業や飲食店の残骸が潰れず残っていたからである。
    そんな廃商業ビル群が目測幅150〜200メートルに渡って砂漠の渓谷を構成しており、そこから抜け出るにはビル内部を登っていくのが正攻法に思われる。
    しかし先に述べたように幾層もが押し潰された廃ビルは資材確保時に侵入出来た「比較的無事」なフロア以外は指一本ナイフ一本差し込めない有様であり、当然ながら文明の利器たるエレベーターなど使えるわけもなく階段ですら使用に耐えうる状態ではなかった。
    では岩塊を垂直に登って行くのはどうか?
    所謂登山である。高峰を征く登山家たちは機材を用いて前人未到の頂を目指す術を持っているものだ。
    …勿論これも現実的ではない。
    イブキやホシノは登山家でもないし登山の道具などここには無い。道具なしでここを登ろうなんて無謀に過ぎる。
    「おじさん無くてもぴょーんて行ける時あるよ?」
    とはホシノの言だが、何を言ってるのか理解できない。化け物か?化け物だった。
    なるほどキヴォトスの人間は「神秘」と呼ぶに相応しい力を有している。しかしそこまでの事が出来るものなのか?だったら彼女一人で抜け出て救援を呼ぶことも可能ではないか?
    そう問うと
    「まあ調子がいい時だけだけどね〜」
    と返された。なんだこの人は本当に。

  • 40二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 09:59:20

    結果としては収穫と呼べるものは無かった。
    タイムリミットが刻一刻と近付くが有効な手が見つからない。
    そんな焦燥感と徒労感の中で本日の焚き火を用意するためサーベルを持ち出した時のホシノの言葉が先のそれである。危機感のないのんびりとした口調。
    この人は今の状況を理解しているのだろうか?
    「…少しは焦ったらどうなんですか?」
    「え〜?焦る必要あるかなぁ?」
    あまりに能天気な返答に開いた口が塞がらない。イブキの知るホシノなら次の算段を即座に出せないイブキに対して面白くなさそうにショットガンの弾を一発叩き込んでくるはずだ。
    「分からないんですか?水と食料は残り少ない。なのにここから動けない。救援の呼びようも無いし脱出の術も見つからない。あなたはビルを飛んで行けると豪語してますけどそんなの絶対無理じゃないですか」
    思わず語気を強めて捲し立てる。
    こんな所で立ち止まってはいられない。しかし立ち止まった原因が目の前で呑気に焚き火を起こしまた食事を作り始めている。
    「ええ〜?私は楽しいけどなぁ。修学旅行どころかキャンプファイアーなんて贅沢だと思わない?」
    「……」
    反論する気力も無くなり黙したままホシノの対面に座り込む。何を言っても無駄だこの人には。
    言語は通じるのに言葉が通じないという奇妙さだけが未来ホシノとの共通点だった。

  • 41二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 16:50:59

  • 42二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 19:32:08

    ホシノがこれだけ落ち着いてるの既に救援要請だしてるからかな?
    しかし潜った修羅場は負けてない筈なのに精神的に未来イブキの方が余裕ないのは守るものがあるかないかの違いか……

  • 43二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 20:11:55

    信頼できる人がいるかいないかの差じゃないかな
    未来から来てるのは自分だけでこの世界の人達には何も言わずに離れたから今のイブキは本当に1人だけだし
    例え未来でこんな状態になってても救援に向かう余裕はどこにもないから1人でなんとかしないといけないと考えてそう

  • 44二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 21:39:32

    >>40


    その後の食事も相変わらず無言で進んだ。

    残る食料は少ない。切りつめて1日分浮かせたメニューは質素だが、過不足ない栄養価を維持できていると理性の瞳を濁らせて信じたい所だ。


    「そういえばウサギちゃんは随分急いでるんだね〜。何処かに向かってたみたいだし何かあるの?」

    焚き火に木片を注ぎ足しつつホシノが言う。

    重ねて言うがホシノはそれを妨害した張本人だ。よくもぬけぬけと言えたものだと思う。

    先ほど声を荒げたように今急いているのはこの瞬間にも胃袋に納めている食料と、谷間の陰が無ければ体力と共に倍以上の速度で減っていたであろう水が枯渇しつつあるためだ。

    それらの前提条件を丸ごと無視しての質問。この人は嫌がらせか、さもなければストレステストでも課しているのかと勘繰ってしまう。

    「その前にひとついいですか…」

    「うん?」

    そのようにホシノへの不平不満が砂漠の砂のように積もり吹き荒ぶイブキだが、とりあえずまず一番に言ってやらねばならない事がある。

    「その呼び方やめてもらえますか。」

    「ウサギちゃん?」

    「そうです。」

    イブキはウサギではない。確かに先日までRABBIT5の拝命を喜んでいたが今は違う。

    迷惑を掛けてしまった部隊を指す言葉で呼ばれたく無かったし、呼ばれ方も揶揄されるようで嫌だった。

    「私には丹花イブキって名前があるんです。」

    「イブキ?」

    聞くとホシノは口元に手を当てて何かを考え始めた。しまった。もしかして知己だったか?

    アビドスとゲヘナは隣接した校区である。交流がある可能性もあるし『今の』イブキの名を聞いた事もあるかもしれない。

  • 45二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 21:40:01

    イブキが疑い固唾を飲んで見つめているのに気付くと、ホシノは相好を崩しにへらと笑った。
    「ううん、記憶にない名前かなぁ〜おじさんったら女子高生を取っ替え引っ替え膝に乗せたりハーレムさんだから」
    「はあ……?」
    「じゃあイブキちゃんだ。よろしくねイブキちゃん。」
    差し出されるホシノの右手。
    さっきのサーベルで腕を叩き落とすかもしれないとかそういう類の危機意識を本当に持っていないのかこの人は?
    そう聞くと「うへっ!?そうなの!?」と手を伸ばしたまま素っ頓狂な声をホシノは上げた。
    本当にまるで修学旅行に来て見知らぬ人と話しているようだ。
    ホシノの手を握り返す。
    柔らかいが、何故かとても力強く暖かい手のひら。未来のこの人の手も、もしかしてこんな感じなのだろうか?
    「うへへ、名前も分かったし難しい話は一回置いといておじさんと恋バナしよっかイブキちゃん」
    「しません、寝ます」

    そんなぁ〜、とホシノの悲しげな声が響き砂漠の夜は再び静寂と闇に沈む。
    彼女達の耳に自らを探す者の足音が聞こえるまで、未だ僅かな時を要する。

  • 46二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 01:08:18

    保守

  • 47二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 03:05:16

    未来世界の限界っぷり、地球防衛軍6思い出しますね

  • 48二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 09:44:20

    やけに恋バナにこだわるねホシノ
    話をしたいのなら他の話題でも良いのにやっぱり他人の恋愛事情とか気になるのかな?

  • 49二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 14:21:42

    果たしてホシノには聞き覚えがあるのかどうか

  • 50二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 21:03:12

    「わーお⭐︎」
    「凄いですねこれは」
    「綺麗です…」
    「………これジャミングで全部落としたらどうなるかな?」
    「やめろよ!?ほんとにやめろよ!?」

    アビドス砂漠を見渡せるような位置に突き出た廃ビルの高層部。そこでは臨時編成RABBIT小隊の面々がミレニアム製ドローンの活躍を見守っていた。
    ミカが膝に置いたタブレットにはアビドス砂漠の地図が表示されている。そこには数えきれないほどの光点が表示され、砂漠の3割を覆い尽くして縦横無尽に動き回っていた。
    地図の横に開かれたいくつかのタブにはそれらが集積したデータが肉眼の視認能力を遥かに越えるスピードで瞬き流れて行く。
    アビドス砂漠を調査する小型ドローン群・約560機。
    それらは人間を遥かに超える神の如き視点で砂漠を見つめ、荒野に逃げたウサギを探す。

    「……これは収集した情報を解析するだけで何ヶ月も掛かるんじゃないのか?」
    [問題ないわ。ドローンを並列に繋げて解析処理を調査と同時に行っているから。]
    画面上に乱舞する意味不明な文字列を見つつサキが独語すると、AIドローンがその疑問に答えた。
    数百機の高性能ドローンを用いるとはいえアビドス砂漠はあまりに広い。そんな中からたった一人の人間を探すとなると当然ピンポイントで見つけられるわけもない。
    何処を通ったのか?痕跡はないか?砂嵐の有無による地理変化は?予測ルートは何通りか?などなど……
    特定を行うために吐き出されるあらゆる調査結果の分量は膨大の一言に尽きる。
    必要か不必要かすら分からない不明瞭で胡乱な情報の中から、まさしく砂漠の中で一粒の宝石を見つけ出すような労力が必要になるのではないか。サキにはそう思われた。
    しかしAIドローン(便宜上彼女と呼ぶが)は彼女曰く量子だの重ね合わせだの光方式だのとよく分からない説明を長々と喋りつつその素晴らしさを力説する。半分以上は分からないが、つまり早くて強いという事だろうと分かった。
    ならばきっと大丈夫なのだろう。

  • 51二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 21:04:38

    「でも…やっぱりこれだけしかカバー出来ないんですね…」
    ミユがおそるおそる言う。
    それにはサキも同感だった。どうせなら全域を一気に調べられないのだろうか。
    [あのドローン達は私を中継基地として動いてるの。つまり私のカバーできる活動限界がこの範囲。そっちに私本人が機材を持って行ければこんな手間は掛けなくていいのだけれど…]
    「ん…?そっちに機材を?お前があのドローンの所に飛んで行くっていう意味か?それはやめてくれ、外の状況は知ってるだろ」
    [あっ……え、ええ。そう、ね。]
    「??」
    つっかえつつ同意すると彼女はモエの所に飛んで行った。
    大丈夫かあのAI…と少し不安になるが、致し方ない事だろうと外を見やる。昨日から途切れ途切れに砂嵐が巻き起こり、廃ビルを覆い隠してはまた晴れるを繰り返す。この調子では電波状況か何かに影響が出てもおかしくはない。
    だが、とりあえず確実にイブキへ一歩一歩近付いている。
    自分を教官と呼ぶ彼女に色々言いたい事はあるが、とりあえず見付けたら首根っこを捕まえて教えたい事が一つある。
    その時の事を想像して空を見つめ悪い笑顔を浮かべつつ、サキは今一度分析結果を聞くため外をみるのもそこそこにモエ達の方に歩み寄った。

    だから彼女には見えなかった。
    砂嵐の向こう、砂漠を踏破して押し寄せる一団──
    ゲヘナ万魔殿の軍勢が。

  • 52二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 21:07:20

    ホシノ的には脱出よりもイブキの素性を探っておくほうが優先順位高いのかも
    焦らずとも解決する見立てのようだし

  • 53二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 21:18:09

    推定元凶の人の開け閉めで起きる砂嵐でアンジャッシュが……

    ミレニアムのビッグシスターとかいう隠し事とか演技が本当に苦手な奴

  • 54二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 03:42:52

    保守

  • 55二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 08:49:02

    人には時ならず意に反して「特別な選択肢」という名のボールが転がり込んでくる時がある。
    冗談ではなくそのボールをどう転がすかでその人間の数年先から数十年先の運命が決まるのだ。大事なチャンスボールを誰かにパスして活かすのか、それとも自分でゴールポストを揺らすのかという選択。しかしこのボールを正しく使える者は殆どいない。
    何故ならこのボールは黄金色にも虹色にも光っておらず、ごく普通の「ただのボールにしか見えない」という特徴を生来有しているからだ。
    何気なく無意識に投げたボールが壁に跳ね返って死神や疫病神を引き連れて戻って来る。そんな悲劇とも喜劇ともつかない話が往々にして起こり得る。
    人生に審判が居るのならボールの特徴に関してルールブックの改訂を求めたいというのが多くの人々の望みだろう。もちろん扱い方も教えてくれるなら尚のこと良い。

    そしてそれは彼女……銀鏡イオリに関しても当然当てはまる事だった。

    RABBIT小隊との作戦からこっち、万魔殿の嫌がらせとも言えるような様々な事態が風紀委員を嵐の渦中に叩き込んだ。
    ゲヘナ内での流血沙汰に関しての執拗な責任追及と再三に渡る喚問。突然他校へ向けて動き出した万魔殿に前ならえと言うかのように何週間にも渡りお祭り騒ぎで暴走し始めた不良生徒の鎮圧と逮捕拘禁。そしてその万魔殿から出たある人物の捜索要員の供出要請に何故かヒナが乗っかり、その人員として駆り出され各校を転戦してはまた不良の鎮圧に舞い戻り問題が起きれば始末書を書き……
    この1ヶ月、イオリはまったく学生らしくない日々を送っている。学生とは何だったか。ブラック企業もかくやという労働に従事する事だったろうか?疑問の種は尽きない。

  • 56二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 08:50:18

    「もうやだ……」
    そして極め付けは今回の『これ』である。
    「キシシッ、なんだ銀鏡イオリ!私の威光に目を開けていられないか?空崎ヒナの部下とも思えない醜態だな!奴の部下を名乗るなら(以下略)」
    「……」
    イオリは自身の聴覚をカットして自身を運ぶ軍用ジープの座席に身を沈め空を眺める。
    青い空とエンジン音、バカみたいな暑さに顔に当たって痛い砂。
    ここはアビドス砂漠。
    隣では同じくジープで走りつつなぜかフロントガラスに足を乗せ、部下から「ダメですって議長!!低速でも落ちたら轢かれてめっちゃ痛いですよ!?」と叱咤されている万魔殿議長•羽沼マコトの存在。
    そして背後には数えたくもない数の万魔殿の大兵力。
    大人しく座り直すマコトを横目に、もう全部あの空に溶けて消えてくれないかと祈りつつ、イオリは珍道中の渦中にいる。

    事の発端は二日前、ゲヘナにアビドスが宣戦を布告したと内々で情報が回ってきた事だった。
    しかも丹花イブキ、棗イロハ両名を人質にしてとの事である。
    現在アビドスとの回線が遮断されており事態の詳細が掴めない。続報として先生がアビドスに事の次第を問いただすため赴いたとの情報も入っている。
    当然ながら「あんな弱小校が?いや常識的にどう考えても何かの誤解か行き違いでしょ。」と至極まっとうな意見が風紀委員内の大勢を占めた。
    ちょうど転戦が終わり本部に戻って来ていたイオリは、会議の席で大勢を占めていた意見に全面的に賛同した。確かにあの学校は少数精鋭で侮れない力を持つ。イオリもかつて正面から対峙して戦ったがあれだけの実力を持つ生徒がゲヘナに何人いるか正直疑わしい。
    しかし粒が良けれど所詮は小勢の弱小校。数で押せばたちまち潰されアビドスという学校そのものが消えて無くなるだろう。
    しかしいくらなんでも宣戦布告なんて有り得ないではないか。
    ただ、現地に先生が向かったというのは心配だった。またあの変態教師は何かをやらかすのではないか。あの列車で自分達に立ち向かった時のように。

  • 57二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 08:50:45

    ふと、イオリの中の不安の種が芽吹いた。
    もし宣戦布告が本当で、先生がアビドスに付いて自分達に敵意の籠った暗い瞳を向けたとしたら……
    有り得ない話だ。絶対にあり得ない。しかし考え出すと止まらない。
    イオリの中で種は芽吹き、勢い良く天を突くほどに育ち伸びた枝葉が声の形を借りて思わず口から飛び出す。
    彼女の手元にあったボールはその時、不安の枝葉に押されてあらぬ方向に飛び跳ねた。

    「現地に確認に行ってやろうかな…」

    発した瞬間しんと静まり返る風紀委員会議室。行儀悪くコーヒーを啜った音がやけに大きく響き、イオリは思わず赤面してしまう。
    そして周囲を見回し、皆が何故か得心した顔をしてこちらを見ているのに気付いた。
    「あ…あれ?私なにか変なこと…」
    「ちょうどよかったわイオリ」
    その言葉に冷や汗がイオリの額を伝う。何がですか?
    『さすがイオリ、よく言ってくれたわ』と言わんばかりの空崎ヒナの微笑みが目に映る。
    その横にいるアコは『ほんと良い所を持って行くんですねあなたは』とでも言わんばかりに微笑み呆れ顔。
    ……おい、嘘でしょ?ちょっと待て。待って下さい神様。私はどこで何を間違えた?
    心中の絶叫を他所にイオリに告げられる次の任務。

    「真偽の確認のため風紀委員と万魔殿は一時的に共同歩調を取る。あなたは万魔殿が行うイブキイロハ両名の奪還作戦に参加して。」

    絶望と衝撃。
    転戦続きでやっと帰れたと思ったらまた仕事。しかも今度も万魔殿といっしょ。
    ヒナ委員長はもしかして自分のことが嫌いなのではないかとすら思ってしまう。
    しかしここで負けれはいられない。イオリは唯一切れるカードを場に晒して勝負に出る。
    「………私がいないとゲヘナの治安が…」
    「私が全部やる。」
    負けた…ゲームセット。そう言われてはぐうの音も後顧の憂いも出ようはずがない。
    こうなったのも先生のせいだ。事が終わったら先生を一日連れ回せる約束を無理矢理取り付けてやる。
    「またっすか…」と言わんばかりの部下達を引き連れて泣く泣く風紀委員本部を後にしつつ、イオリはそう固く心に誓ったのだ。

  • 58二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 16:53:12

    サキが言いたい事って何だろ
    やっぱり勝手に脱走したことかなぁ、「たとえ何者だろうがお前はまだrabbit小隊の一員だ!」的な

  • 59二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 19:33:07

    思ったより時間が経っているので、アビドスもハイランダー・ネフティスへの協力要請が済んでる頃かねえ
    イブキたちはまだ谷底、RABBIT&ミカは探査が終わる頃?

  • 60二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 01:41:48

    これイブキが経験した未来に近づいているのかな?

  • 61二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 03:26:13

  • 62二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 10:31:27

    さーてこの事態どう収拾つけるのやら
    ……まだアビドス勢が何も気が付いてないのがヤバいよなぁ

  • 63二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 12:23:34

    「天使が堕ちてきた日」
    まず異変が起こったのはD.U.地区だった
    地上・地下問わず街中の至る所で起こった爆発とその跡の大穴、腰砕けになり地面に頭を打ちつけたサンクトゥムタワー、消息を絶った連邦生徒会と「先生」、散っていった仲間たち……
    その日の事を「RABBIT2」は終生忘れられないだろう
    次に異変が起きたのはゲヘナだった
    ゲヘナ自治区の方から上がる天を衝くような黒煙と空を染める紅蓮の炎はD.U.地区の子ウサギ公園の片隅で3つの墓の墓碑銘を刻んでいた「RABBIT2」の目にもよく見えた
    その次に異変が起きたのはトリニティ
    散った仲間たちの代わりに幾ばくかの遺品を納め、墓石を建てた「RABBIT2」が空を見上げればその目に飛び込んできたのは閃光
    そして閃光の方……ちょうどトリニティ自治区の辺りから「何か」が飛んで来て、子ウサギ公園前の道に堕ちたのがはっきりと見えた
    血みどろのピンクの髪、血でほとんど真っ赤ながらもかろうじて元の色は白だったように見えるトリニティ様式の服装、所々焼け焦げたり折れたりした翼、指の数本欠けた手、吹き飛んだ片足……
    一見屍にしか見えなかった「それ」を「野ざらしというのは流石に忍びない」と思い埋葬しよう近づいた「RABBIT2」は思わず驚いた
    それは生きていたのだ
    しかもうっすら意識すらあったのだ
    「RABBIT2」は「それ」を抱え、急いでテントに戻りマットの上に横たえ、その類い稀な生命力と神秘を信じて応急処置を施した
    もし回復すれば、トリニティで一体何が起きたのかを聞き出せるかもしれないから
    子ウサギ公園に元ゲヘナ万魔殿の重戦車が逃げ込んでくる少し前の出来事であった……

  • 64二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 15:17:40

    >>57

    「…ていうか万魔殿、お前ら二人だけなのか。」

    イオリは不平不満で築かれた泰山から降り立ち問い掛ける。

    二人、というのはこのジープに同乗する二人の万魔殿幹部を指す。

    運転席に収まるのはイオリが名前を記憶する必要もないと感じ、またこの道中が終われば記憶の書庫からするりと抜けて行くであろう万魔殿の一生徒。組織の長に振り回されているという意味では最もシンパシーを感じるが、他の一般生徒と押し並べて差異はなく特記する事もない。

    次いで助手席には先にも述べた万魔殿議長である羽沼マコト。

    今は部下に注意され大人しく自身の座席に収まっている。口元に笑みを浮かべ前途を睨んでいるが一体何を考えているのやら。

    そして最後に後部座席。

    厄介事を押し付けられこうして頭を悩ませている観戦武官ならぬ臨時派遣風紀委員の銀鏡イオリ。

    そしてその隣には…

    「ああサツキ先輩?風紀委員の幹部の人たち苦手だからパスって。こんなにカッコいいのにね?…あっ!はいイオリちゃん動かないで〜?その悩ましげな顔も様になってるじゃん!そのお顔一面に載っけるから楽しみにしててね〜〜〜………OK!一枚もらっちゃいました〜!!」


    バカみたいにテンションが高い一名の新聞記者……否、万魔殿書記•元宮チアキが居る。

    彼女は先程からカメラを構えて砂漠とマコトとイオリを激写し続け、その様はまるではしゃぎ回る犬のようだ。

    『万魔殿議長に傅く風紀委員を撮影するのだ!』とマコトが同乗させたスポークスマン兼退屈な車内で延々話すムードメーカー。それが彼女である。

    「……載せるって何にだよ」

    「何って万魔殿(ぱんでも)新聞。知らない?学園内のいろんな場所に貼ってあるけど。」

    「ぱんで……アレか……」

    イオリは記憶の書庫を探るが、書架に無遠慮に貼られた紙面がうるさい壁新聞にすぐに行き着く。

    読んだ事はないが名前は聞いた事があるし実際目にした事もある。ただし主に不良どもが無茶苦茶をした後の清掃活動で壁に張り付いた回収すべき紙切れとしての印象が強いけれど。

    その新聞に誰が読むかも分からないのに自分の顔を載せると言われ、胸中いっぱいに不快感が押し寄せる。どうせある事ない事面白おかしく書き立てられるに違いない。

  • 65二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 15:18:45

    「断る、却下、お断り。私の記事を見つけたら規則違反で貼ってる奴をしょっぴいて抗議文を送ってやるからな。」
    「そ?じゃあ風紀委員に直接送るね?」
    「……」
    なるほどやはりこいつらに何を言っても無駄だし相容れない。諦念と共に自身をこの場に叩き込んだヒナにも抗議文を送りたいイオリである。

    「おいチアキ!さっきの私は上手く撮れたか!?」
    そんな中助手席から飛ぶマコトの声。どうやらイオリたちの会話で承認欲求が刺激されたらしい。
    「おしりならいっぱい撮れたよ?」
    「なにィ!?私の尻にも威厳はあるが民衆はそれでは満足すまい!もう一回ポーズを取るぞ!」
    「おっけー!」
    「議長!座ってください議長!」
    立ちあがろうとするマコトにノリノリのチアキ。それを押し留める哀れな一般万魔殿生徒。
    イオリは目の前で繰り広げられるコントに辟易しつつ緊張感の無さに呆れ返る。
    仮にも戦争でも起こそうというような事を始めておいてこの態度はどうなのか。
    彼女が溺愛するところの丹花イブキが人質になっているとあって内心穏やかならざる事は察せる。しかしどうにも遊び感覚でやっているようにしか思えない。
    そもそもここまでの大軍を編じて他校区に侵入するなど度が過ぎている。
    アビドスからの宣戦布告の真偽が分からない中で大規模な戦力を無闇に動かすのは得策ではなく、下手を打つと周辺自治区の警戒をさらに喚呼してしまうのは自明の理だ。
    風紀委員を同道させることで「以前からの捜索の一環であり政治的に穏健で他校を侵す意味はない」と内外にアピールしてはいるがタチの悪い賭けと言わざるを得ず、兵を動かす時に吐いたという「不法侵入したミレニアムのドローン群を追跡」あるいは「実はゲヘナも大規模実験に参加予定だったのだ」などの言い訳もとい大義名分もどこまで通じる事なのやら。
    このアホはどこまで考えて行動しているのか。何も考えておらずイブキの誘拐を奇貨としてただただ馬鹿騒ぎがしたいだけじゃないのか?
    ヒナやイオリはこんな無責任なアホ達のためにわざわざ労を割いて駆けずり回っているのだろうか。

  • 66名無しの先生25/04/01(火) 15:19:50
  • 67二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 15:19:58

    自制はしていたが、そんな疑問が不安と絡まり炎のようにゆらめき立ち、イオリの中で溜まった怒りを加熱して怒気が迫り上がって口から出る。

    「お前らは気楽でいいな。人質になったイブキも可哀想だ。」

    途端、イオリの顔に影が差し顎を軽く摘み上げられる。
    前を向いていたはずマコトの顔が振り返り、その顔がイオリの目の前にあった。
    「な…ッ」
    「いい事を教えてやろう銀鏡イオリ」
    先程まで騒いでいたバカとは思えない冷たく鋭利な視線がイオリの両眼を射抜く。瞳の中にイオリには解析できない炎が揺らめいている。
    もしこんな状況でなければ即刻距離を取り一撃二撃と弾を撃ち込んでいただろう。
    「まず、組織の長は部下達の前で私情で狼狽したりなどしない。士気そのものに関わるからだ。」
    「う…」
    正論。いつもイオリ達の前で泰然としている組織の長たるヒナの顔が浮かぶ。
    「気楽などではない。気楽なら私はこんなバカみたいに暑くて不快な場所には来ないし部下も無闇に巻き込まない。巻き込んだ奴が居たから私はここに部下と共に居る。」
    謎の捜索にゲヘナ中を巻き込んどいてそれを言うのかとは思うが、今回の騒動で巻き込まれた風紀委員の負荷を減らすよう立ち回っていたヒナの姿が思い出される。
    「最後に、この行動は全て仲間のために行われている。あいつらが無事ならばアビドスになど用はないしどうでもいい。お前たちの空崎ヒナも同じ状況に置かれれば必ず同じ事を言うしするだろう。奴の部下なら、覚えておけ。」
    「………すまない、言葉が過ぎた。謝らせてくれ。」
    それ以上イオリには何も言えない。バカだバカだと侮っていたと痛感する。彼女たちには彼女たちなりの道理があるのだ。
    「キシシッ、構わん。本来万魔殿への攻撃と見做すが今回だけは特別に見逃してやる。ヒナの教育が行き届いていない事が知れただけでも収穫だ。」
    「でもマコト先輩さ、私達が『議長自らが出るのは危ない』って言って止めるのに『やだ!私はイブキのとこに行くんだー!』って駄々こねた結果人員増えちゃったし、人にお説教とかまったく出来なくない?」
    瞬間マコトの顔は青くなったと思ったら転じて真っ赤になる。
    「チアキィィィイイイイイいいいいい!!」

  • 68二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 15:20:37

    イオリは自身の顔を叩いて正気に戻る。どうやら悪魔を率いる魔王の詐術に飲まれるところだったようだ。
    この女の言うことはやはり何一つ信じないようにしておこう。
    気晴らしに視線を前に向けると、砂に半分ほど埋まったビルが見える。
    「あれは?」
    運転席の生徒に話しかける。この車内で唯一話が通じそうな人間だ。
    「アビドス中心地へ陸路で行く際の中継地点ですね。ここからもう半日行くと海抜も上がって砂漠も減るし、ハイランダーが新しく敷設した線路と駅があります。」
    「へえ………………あれ?じゃあ万魔殿か風紀委員から調査団みたいなのをハイランダー経由で送り込めば良かったんじゃないか?」
    「そう言ったんですけどね。議長ったら────」

    その声は途中で途切れた。

    前方に聳える巨大な廃ビル。そこから飛んで来た一発の銃弾が運転手の頭を強か叩きつけ彼女の意識を刈り取り気絶させたからだ。
    気絶したその身体が倒れ込むと同時にハンドルも倒れ込み、乗り込んだ者達の悲鳴を道連れにゆるやかな砂丘を転がり落ちていく。
    その一撃を放った者は鷹の目を持つ。
    迫り来る脅威を近寄る前に排除する戦場の守護天使。敵にとって忌むべき悪魔。

    RABBIT小隊のスナイパー、RABBIT4•霞沢ミユ。
    彼女の狙撃は決して獲物を逃がさない。

  • 69二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 17:41:48

    このレスは削除されています

  • 70二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 20:42:11

    ゲヘナで事件起こしたからトップ自らイブキを捕まえに来たと思ったのかな?
    なまじっか間違いじゃないのもややこしいことになりそうだ。

  • 71二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 23:12:49

    うわー先にこっちと衝突かぁ……こっちには無理矢理着いてきたゲヘナトップ、向こうは内密で元とはいえトリニティトップの一人が……マジで下手すりゃ全面戦争だぞこれ

  • 72二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 07:49:10

    ミレニアムがドローン一斉に飛ばしてアビドスに向かわせたりしてるから何かしらアビドスとの密約結んでる風にも見えるし
    開戦準備は既に整ってるようにも見える訳で疑惑が疑惑を生んで大変な事になりそう

  • 73二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 08:19:21

    こ、ここでゲヘナを全滅させればただの遭難事故よ……(時代劇悪役並の苦しい言い訳)

  • 74二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 10:41:57

    聖園ミカ。
    トリニティ総合学園の首脳部であるティーパーティーのホストの一角。
    かつて巻き起こったエデン条約に起因する騒動の全ての発端を作った大罪人であり、しかし同時に彼女の持つ素朴で慈悲深い善意を未熟で無防備だったがために大人に利用され歩むべき方向を決定付けられてしまった哀れな子羊とも言える。
    だが、そんな彼女でも今は過去を過去として前を向いて進んでいる。
    改めるべきところは改め学ぶべきところは学び、他の生徒達同様に一歩一歩大人になるため未来へ歩を進めているのだ。

    そんな彼女がその日踏み締めた一歩は、些か力強く豪快に過ぎたかもしれない。

    「シッ…!!!」
    一歩。
    その一歩で廃ビルの床に薄く亀裂が入り、その歩みが如何に重く強いかを周囲に知らしめる。
    そしてその踏み込みから打ち出される蹴撃はただの蹴りではない。
    人間の脚部から生み出される力は腕の持つ力の約5倍。人体において重要な機能ほとんど全てを有する上半身を支える力は、武器として用いれば絶大な破壊力を発揮する。
    ミカの神秘は彼女の全身に巡りその力をさらに増幅させ、例えば重厚な建築物の壁をすら砕き割る威力を持つだろう。
    その威力を止める術が有るとするならば脚そのものを潰し損壊するしか道は無い。

    衝撃。
    次いで鼓膜を震わせる不快な破裂音。
    周囲に身体の一部が四散し飛び散るが、当然それは人体ではない。
    『彼女』が武器として下げていたアサルトライフル、そしてあらかじめ買い込み身に付けていたボディアーマーの破片である。
    ミカの一撃は『彼女』が構えた銃身を砕きボディアーマーに到達。その身体を宙に浮かし後方へ垂直移動させて柱に叩きつけるに至った。
    先ほどより大きな衝撃音とビルを揺らす振動。
    蜘蛛の巣状の亀裂を生み出した柱から重力に従って地に足を付くと、『彼女』は明滅する視界と意識を数度の瞬きで整え再びミカに向かって向き直る。
    「……あなたもしかして、『色彩』に触れた?」
    「なにそれ?絵の具には授業以外では触れないかな」

  • 75二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 10:43:30

    何一つ噛み合わない会話を済ますと『彼女』──シロコ*テラーは新たな武器を取り出しミカへ対峙する。
    「ん、私は倒れない。アビドスも渡さない。」
    「だ〜か〜ら〜!誤解だって!!」


    ─────────────────────


    ミカとシロコ*テラーの戦いから30分前。
    アビドス砂漠中央部廃ビル、臨時編成RABBIT小隊野営拠点。

    拠点構築から三日目。
    ドローンの走査によりついに砂漠のとあるポイントに希望的情報を得たRABBIT小隊は、そこへ移動するための準備を行なっていた。

    昨日今日と有力そうな地点には何度も足を運び人力での捜索を行ったが、そこにあるのは野生動物やおそらくならず者や浮浪者が居たと思われる形跡のみ。
    何度か見たくもない物を見て嫌な気分になったが、砂漠の恐ろしさを実感するようなそれらの物証にイブキの安否がさらに案じられた。
    [この渓谷に光点を確認したわ]
    そしてついに今日。日が地平線に沈み常闇が地上の支配者へと切り替わる時間。
    人間眠るように日に数時間活動を停止するAIドローンが目覚めてから声を弾ませて報告して来たのは、おそらく焚き火と思われる光点の情報だった。
    谷底に誰かがいる。確率的にイブキの可能性が高い。
    「もしかしたらとっくに中心部に行ってしまったかとも思ったが、こんな所で立ち往生してたのか……。初日に焚き火を探したけど見つからなかったのも納得だ。」
    「砂漠突っ切るルートだったもんねぇ。見つけられた私らも運良いけど遭難したならこの子も運良いわ。」

  • 76二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 10:45:04

    現在アビドス高校がある中心部に向かうにはいくつかのルートがある。
    最短はハイランダーを経由して向かうこと。残存していた旧路線を活用して整えられた新しいインフラは他の方法では敵うべくもない快適性と利便性を誇る。ゲヘナからならハイランダーを経由して一日と経たず到着出来るだろう。
    次いで空路。有翼の航空機を離着陸させる空港はないが、ヘリコプターの運行はアビドス高校含めアビドスの企業も頻繁かつ手広く行っており、ハイランダーの参入まではこれが最も最短の校区外への移動方法だった。
    そして最後が最もスタンダードでポピュラーな方法である陸路だ。
    これには二つほどルートがある。
    まず、サキ達は知り得ないがかつて先生やゲヘナ風紀委員や今回イロハ達が辿った、インフラの跡が多く残る放棄されたいくつかの旧市街を進んで行くルート。道は平坦で歩き易く徒歩や車で移動するにも適し、残っている住民や店舗などを知っていれば迷うことも行き倒れることもなく比較的楽に中心地まで移動できる。
    そしてもう一つは砂漠を突っ切り向かうルート。
    土地の起伏や過酷な環境も相まってこちらの方法を取る人間は犯罪者か自殺志願者以外ほとんどいない。
    準備が万全で移動手段を確保でき、何のトラブルも起きなければ最短で3日。準備を怠れば征く道は冥府へと続く覚悟のある者だけが向かう険しい道である。
    …公共交通機関が使えない逃亡者で、万全とは言えないが相応の準備を整え、他者を害してでも生き残るという覚悟を持ってしまっている実力者。
    イブキが選ぶのはこの道しかない。
    ルートを絞った上での全力の捜索は実を結んだのだ。

  • 77二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 10:45:36

    [まだそうとは言えないわ]
    ドローンが告げる。当然ながらこれがイブキであるとは断定出来ない。
    本来なら谷底まで確認に行きたと思うが、最終的にいくつか設けた拠点からちょうど捜索限界点にあるその渓谷は谷底までが深い。下まで降りてしまうと通信機能が十全に活かされず墜落の恐れがある。
    もしもそこに居るのがイブキではなく、例えば不所持を是とする変わり者が煮詰まったような浮浪者や趣味が転じて悪い方向に煮詰まった女子キャンパーの一団だったとしたら?
    ただでさえ少ない捜索能力が誤情報のために削られては何の意味もない。
    だとしてもイブキの可能性は高いのだ。小隊の取り得る手段は一つのみ。
    [だからごめんなさい、もう一度お願い出来るかしら。]
    「分かりました。RABBIT小隊出動準備!」
    ミヤコの一声を契機に時間は急速に動き出す。
    あと一歩。もうほんの一歩で手が届く。
    なぜ谷底にいるのかは分からない。もしかして崖下に落ちて身動きが取れないのかも知れない。
    それを確かめに行き、見つけたら叱って連れ戻してやるとサキは誓う。

    そうして勇んで出動準備をする小隊の居るビルに、彼女…シロコ*テラーが舞い降りたのは偶然であり悲劇であり喜劇と言えた。

    彼女が砂塵の中から現れてRABBIT小隊と遭遇するにあたって最初に告げた言葉は、ボタンの掛け違いが起こっているとその場の知るには十分だったのだ。


    「あなた達ゲヘナにアビドスは渡さない」

  • 78二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 10:50:43

    このレスは削除されています

  • 79二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 10:52:29

    (誤字脱字多め申し訳ない。)

  • 80二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 13:51:02

    クロコさーん人違いでーす話し合いましょー
    rabbit小隊は仮にゲヘナと関係ないことが証明できてもアビドス砂漠にいる理由を説明するのむずいな

  • 81二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 13:53:20

    喜劇で終わるのならいいんだけどさぁ……

  • 82二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 15:19:40

    あれ?じゃあミユ何でこの状況でゲヘナ側に発砲したん?
    これ以外で別のアンジャッシュが起きた感じ?

  • 83二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 22:58:06

    しかしクロコをもってしても決定打が与えられないとは……
    この圧倒的な強さのミカを何したら片足奪えたんだ未来世界は

  • 84二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 23:33:36

    将を射んとする者はまず馬を射よと言うし、ミカ以外の人を狙われたとか助けようとしたとか……?

    先生が介在していないところで事態が転がり続けているのはエデン条約編を思い出すねえ

  • 85二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 01:35:57

    寝る前に保守

  • 86二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 07:54:10

  • 87二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 12:36:03

    ─────────────

    数日間の捜索において、ドローンの操作性の観点から彼女達はいくつか新拠点を構築していた。
    現在RABBIT小隊が居る第三キャンプは昨夜移動した新拠点であり、陸路でアビドスに向かう人々から中継地点と呼ばれる場所に位置している。つまりランドマークである。
    前回の拠点より少し中心地に近い廃ビルで、イブキが予想以上に距離を稼いだ、あるいは急遽安全なルートを選んだという前提で捜索拠点として選ばれた。
    最初の設営地と同じく高所から砂漠を見渡すことが可能で、先に述べた第一の陸路でアビドス高校へ向かう者がいたならばすぐに見下ろせる地点にある。

    つまり「攻めてくる敵がいたとしたら監視する場所として優れているし伏兵を置き易い」。要衝と言える。

    シロコ*テラーはだからこそゲヘナ侵攻軍(仮)を迎え撃つためそこに現れ、先に陣取っていたRABBIT小隊を「先回りしたゲヘナの尖兵」と誤解した。

    シロコ襲撃時の小隊の位置は以下の通り。
    屋上にてヘリの離陸準備をするモエと不測の事態に備え周囲を警戒するミユにAIドローン。
    五階ほど階下で現地突入時の作戦の最終確認と武器弾薬の装備を行っていたサキとミヤコ。
    そして最後がのんびりとした足取りで讃美歌を口ずさみながら屋上へ向かっていたミカである。

    ここ数日の砂漠生活で自慢の髪には埃が付いてアウトドア用に買った服も汚れが目立ってしまっていたミカだったが、彼女はそれなりに今の冒険を楽しんでいた。
    見知らぬ場所で見知らぬ人々と交流して色んなことを学んでいる実感がある。それはエデン条約の一件以来、自業自得ではあるが学内での誹謗中傷や叱責に耐える閉塞した日々を過ごす彼女にとって、まるで修学旅行のように新鮮な日々なのだ。
    そしてその日々もそろそろ終わってしまうが、それもまた仕方ないと彼女は思う。
    自分がやってしまった馬鹿で愚かで血泥に濡れた安息の終焉ではなく、楽しく賑やかで輝かしい日々の緩やかな終わりなのだから。
    あの人は否定してくれたが自身が魔女と呼ばれてしまうような人間だという自覚はある。たとえば新人ちゃんが小隊と涙の再会を果たしたなら風のように立ち去って終わるのも良いだろう。

  • 88二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 12:36:44

    テレビでお馴染みの悪役は映画で手を貸してはくれるがフィナーレ前には何だかんだと憎まれ口を叩いて逃げ去るものだ。
    自分を悪役だと感じてしまっている子羊にとって、この物語の終わりに居座り続ける気分にはなれないでいた。

    当然ながらそんな風に考えてしまっているミカの脳内からは、事の発端となった彼女の親友であるところのナギサの企図した策謀の件などすっかり忘れられ消え去っている。
    ナギサの策は事件解決後のトリニティ、ひいては自身と先生との関係性向上にあるのだ。むしろそれしかない。SRT特殊学園復活時云々というのはこの事態を起こすための言い訳でしかないし、交渉もせず立ち去れば全てご破産。そもそも先生とすら今回の事態でニアミスが続きまだ一度も繋がれていない。
    このままでは確実にナギサは徒労に打ちひしがれ紅茶の消費量が増える事だろう。セイアのフォローが光りそれを見るミカの爆笑を誘う筈だ。ミカも自身そのまま額縁に飾れるような悪役としての面目躍如になってしまう。

    だからこそシロコ*テラーの襲来はミカにとって、あるいはナギサにとって天啓であった。

  • 89二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 12:37:31

    まず最初に気付いたのは監視網を敷いたドローン達だった。
    […ッ!アンノウン接近!!]
    無線を通して言うが早いか、その人影はちょうど階段を登るミカの居るフロアにガラスを突き破って侵入し、目前の標的に躊躇せず銃を構え掃射した。
    ミカの思考は中断され周囲に弾丸の雨が降り注ぎ、脆く風化した廃ビルの建材が粉塵となって周囲を包む。
    闖入者であるシロコは銃を構え敵の排除を確認するため近寄るが、そこに突き出されたのは…
    「!?」
    拳である。
    しかも色彩に触れ死の神として覚醒したシロコですら躱し切れない速度で。
    頬を擦過した拳は空を切り、強か打ちつけた階段の手摺りをひしゃげ壊して壁まで吹き飛ばした。
    猛獣、怪物、あるいは────悪魔。
    粉塵の中から現れたのは天使のような容姿と笑顔を湛え、昏い瞳の焔を揺らした地獄の使徒。
    「人がせっかく良い気分になってたのに……さぁッ!!」

    何事かと階下から登ってきたミヤコとサキは激戦を見た。

    高層ビルの最上階近くはかつて優良大手企業(おそらくネフティスだろう)が借り上げており、アビドス経済を支える一等地の一つだったのだろう。
    砂漠に侵食され退去する時も彼らはその矜持を忘れず、いつか戻ってくる時のため整然と引き上げた筈だ。このビルの保存状態の良さがそれを物語っている。
    しかし今目の前で繰り広げられているのは、その過去を暴力と破壊で創り直す大暴挙であった。
    パーテーションで区切られたはずのフロアは通気性良く大穴が開けられ、各パーテーション間の移動の自由を促進している。
    空気中に舞うのは砂塵だろうか何か身体に悪い廃材の粉塵だろうか。加湿器のミストでは出来ない視覚効果だろう。
    そしてこの場を演出した二人のリフォーム業者……否、破壊者二人は殴り合い撃ち合いの殺し合いを繰り広げビルを廃墟に作り替えようとしている。
    「何が起こってるんだ!?」
    サキの叫びは高く響きその場にいた者達の耳朶を打つ。

  • 90二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 12:39:35

    しかしその声は屋上階には届かない。

    聞こえてくるのは階下からの爆発に似た破壊音と矢継ぎ早にAIドローンが送り込んでくる情報の数々。
    階下に侵入者、それに対応するミカとミヤコとサキ、。そして…
    「ま、マジで?なにあの大軍勢…?」
    「モエちゃん鼻息が…」
    [確認出来たわ。あれは……ゲヘナよ。]

    砂漠を進む大軍勢。ここからでは正確な数は掴めないが、おそらくは師団規模。機甲部隊を中心とした諸科混成の大部隊。
    ゲヘナ万魔殿か風紀委員か。どちらにしろ少数のウサギ達だけで対処できる規模ではない。
    ということはまさか下階の騒動はゲヘナの偵察部隊との戦闘だろうか?
    「ちょっとちょっと!ゲヘナに作戦を気付かれてたってこと!?」
    [そんな筈がないわ。情報撹乱は行っていたし先生も…]
    モエのなぜか悦びを孕んだ口調に応えたドローンは、そこまで言うと[あっ…]と小さな声を漏らし沈黙する。
    「先生?先生がどうかしたんですか?」
    先生という語を聞き逃さなかったミユの質問に沈黙を続けるドローンはしかし、機体を巡らせそちらに正対する。
    [……ごめんなさい言えないわ。]
    昏い声。ドローンである筈が、どこか苦渋を耐えているような声音。
    [だけどお願い、どうにか足止めをして。まだ“到着”していないの。]
    「……」

    言っている意味は分からない。
    しかしこの数日間ともに小隊の一員として活躍してくれたドローンが何か事情を隠し、おそらく先生の思惑が透けて見える中こう言っている。
    モエに顔を向けるとニヤッと笑って小さくジェスチャーでOKと同意を送ってくる。
    まあ、あの子はこういうやっちゃいけない時にやるのが性癖なんだろうなと納得すると、ミユは通信を通して全員に伝えた。
    「こちらRABBIT4、これより狙撃を開始します」

  • 91二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 12:43:10

    『はあ!?ちょっと待てミユ!こっちも状況把握がだな…』
    「必要なのサキちゃん。ゲヘナの軍勢が来てる。それにきっと先生が関わってる。」
    『はああ!?』
    理解不能な事態にひたすら叫ぶサキに変わりミヤコが応答する。
    破壊音とセットだがその声は落ち着き払い、RABBIT小隊小隊長として作戦を遂行する際の威厳と覚悟に満ちていた。
    『あなたの判断は?RABBIT4。』
    決断を質すその質問はミユに全幅の信頼を置いてのものだ。ミユも信頼される身として確信を持って応えねば非礼に当たる。
    「NoGoではなくGoです。」
    暫しの無音。
    実際は10秒にも満たないだろうが、感覚としては数分待たされているように感じる答えを待つ時間。
    空気に乗って音波が耳に届きにひたすら聴こえる破壊音。無線の中からもノイズ混じりの音としてそれが認識出来ている。一体下階で何が起こっているのか……
    『全て任せます、RABBIT4』
    そうして呆気なく途切れる通信。

    決は得た。ならば後は遂行するだけだ。

    ミユの目が隊列中段をのろのろと歩くように走るジープを捉える。座席には何やら偉そうな格好をした人影が立ち上がってポーズを取っていた。
    この時、存在がアホっぽいターゲットに隠れその後ろに座る人物…作戦で同道した銀鏡イオリはミユからは見えていない。
    運転手を撃てば指揮官級らしき数人をまとめて退治出来、指揮は麻の如く乱れ隊列は止まるだろうとミユは考える。
    こちらからの狙撃と気付くかもしれないが、こちらの次の一手が見えない以上身動きは取れなくなる。
    スナイパーとは銃弾一発で戦場を掌握する神の如き力を持った小賢しく狡猾な悪魔なのだ。

    ミユの指が引き金を引く。
    打ち出された弾はライフリングを擦過し軌道を安定させるための回転を得て爆発音と共に遥か彼方に射出される。
    それはスコープとミユの脳内情報において算出された空気抵抗と重力加速度、そしてターゲットの移動距離を加味し予測された着弾視点に向かい、違うことなくそれを射止めるだろう。
    この射撃は今回の事態において最も重大な行動だったと言える。
    この一撃により始まるのは未来イブキ漂着から巻き起こった事態の総決算にして終幕の序章。

    アビドス砂漠における多校間衝突事件。
    名をつけるならば「アビドス事変」とも呼べる事件の幕開けがそれであった。

  • 92二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 12:44:55

    (開いていた>>66氏のスレに一回誤って投稿してしまいました。申し訳ありませんでした。)

  • 93二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 19:52:46

  • 94二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 20:13:09

    繋がった。

    彼女はそう確信する。
    二度三度と瞬いた曖昧な境界は次第に形を持ち、「こちら」と「あちら」を繋ぎ結び付ける窓を形作る。

    最初は半信半疑だった。
    しかしそうなると確信を持つことも出来た。
    窓が開くことも、こちら側に彼女が会いに来ようとしている事も。
    自分はそれに少し手を貸し、こちらに来るための準備を整えたに過ぎない。
    彼女は必ずそれをやり遂げると知っていた。
    なぜなら彼女はそういう人なのだから。

    次第に窓がこちら側に歪み、まるで深い海から浮かび上がるように彼女の輪郭がハッキリと見えてくる。
    こちらからも手を伸ばす。

    繋がったとはいえ慎重に。
    間違いが起きないように確実に。

    そしてついに手と手が触れ合い、彼女はこちら側に引っ張り上げられる。
    彼女達はついにやり遂げたのだ。

    世界を超える奇跡の御業を。


    「大丈夫。忘させないよ、⬜︎⬜︎⬜︎。」



    ─────────────────

  • 95二次元好きの匿名さん25/04/03(木) 23:37:59

    終わりの始まりな雰囲気だ……
    確信的な物言いしていたし、先生は少なくとも終着に向けた道筋が見えているっぽいね

    SS書き手さんも毎日更新ありがとうございます

  • 96二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 02:06:20

  • 97二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 09:58:30
  • 98二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 11:19:18

    目を開ける。

    まばたきを数度行うが小さな砂塵が目に入り思わず顔を顰める。
    口腔内の確認。寝ている間に少量の砂が口に入り込んでおり、唾液で口内で満たし地面に吐き出す。
    周囲の音は静寂。ふと目を上げるとホシノが少し向こうで身体を動かしているのが分かる。朝の体操だろうか。
    砂が入らないようゆっくりと鼻から息を吸い込んで肺に空気を取り込み横隔膜を上下させる。
    肋骨や内臓に痛みはなし。咽頭に少しの痛みを感じるが、就寝中に意図せず砂を吸い込んでしまった影響だろう。
    手足を僅かに動かしながら感覚の確認を末端から行なっていく。異常なし。
    しかし同時に胃が大きく鳴った。体調は良いが栄養摂取の面では不安が残っている状況だ。
    食料は今日で尽きる。そこからどうなるかは奇跡が起きる可能性と残り時間が殴り合いでもして平和的妥結による協定を結ぶことを願うしかない。

    いつもの動きで型落ちかつジャンク上がりの折り畳み携帯を取り出す。
    時刻は5時55分。狂った世界から吐き出された狂った存在にとって、この携帯電話に表示されている時刻と染み付いた起床時間だけが正常だ。
    「……」
    何気なく思い立って携帯電話に内蔵された写真フォルダを開く。
    そこには何枚かの写真が保存されている。
    向こうで撮影した風景にイブキの身近にいた大事な人々。教官に参謀長、キャンプの人々に子供達、時折訪れていたアビドスキャンプの面々。
    「……帰りたいな」
    ホームシックとでも言うのだろうか。
    こんな正常な世界に迷い込んでおいて言うのも気が引けるが、イブキにとってやはりあの狂った世界こそが帰るべき場所で「正しい」世界なのだと実感する。
    帰って教官にお小言を言われながら子供達に絡まれ訓練や教育をし、資源採取に出掛けて良いものを見つけて持ち帰ったらみんなとはしゃぐ。時折訪れる客人と交流や歓談をしたりするもよし、あるいは銃火器や刃物で賑やかに命のやり取りをするもよし。
    巫山戯た話だが、そういう「おかしい世界」が今はとても恋しかった。

    時計を見る。時刻は5時59分。
    寝坊だと慌てて起きあがろうとした時、イブキは携帯の画面上に見慣れない物を発見する。

  • 99二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 11:21:07

    その表示はその携帯の機能上あって当たり前のものであり、むしろある筈のものをイブキが今まで一回も使わないだけだった。
    しかしそれも当然だ。使える環境そのものが存在しなかったのだから。

    「……新着メール?」

    誰が?何故?どうやって?
    たとえば周囲に基地局があったとしよう。
    狂う前のこの時代。この手の携帯は業務連絡用や小さい子供に与えるため生産をかろうじで続けている。
    向こうの世界で滅んだがこの世界では健在の携帯電話のメーカーが、同種の携帯があるから何かセールスメールを送ろう!と考える可能性は絶無とは言えないかもしれない。
    しかしこんな荒れ果てた砂漠に基地局などという文明の足跡は存在しない。
    通信を行うためには衛星とのリンクが必須であり、衛星と交信できる機器が必要となる。
    たとえば上げた目線の先でこちらの起床に気付き手を振るホシノがいるが、いくら超人的な彼女でもそんな機器を用意する事は出来まい。そんな物があったらとっくに交信を行なって救助を呼んでいる。
    まさかこの携帯が実は電波を無視してメールを受信出来る凄い携帯電話だとでもいうのか?
    否、そんな事は絶対に有り得ない。この携帯の長所など極地に耐えれる頑強さくらいだ。
    そもそも基地局がある範囲内ですらセールスのメール一つすら飛んで来なかったのだし受信機能そのものの破損を疑うべきではないだろうか。
    しかし今、たしかに画面上には新着メールの表示がある。

    疑問が脳内を駆け巡り逡巡したのは数秒、しかし確認のためボタンを押し込むのに掛かった時間は長い。
    時刻は6時2分。ゆっくりとボタンを押し込む。
    ケータイ構えてどうしたの?おじさんの写真でも撮りたい?と笑顔のホシノが近寄ってくるが、イブキの目には映っていない。
    文章は短く一文。しかもメッセージの本文欄ではなく、件名の欄に一言だけ書かれている。
    携帯会社が営業用に送るような機械的なメッセージでは決してない。間違いなく人間による送信だ。
    しかしなぜ?
    どうして『私を』?



    件名  みつけた

  • 100二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 11:26:33

    このレスは削除されています

  • 101二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 11:30:11

    (時系列まとめて頂き感謝です。ただ基本的にあまり深く考えずやっているので、整合性が取れない面があると思います。また、『異変』については別の方のアイデアなので弊ss世界は違うものになると思います。書くにあたっては当方が「こうなったらこの惨状になるだろう」と今まで書いた弊ssの展開同様オリジナル要素が出るかもなので、ご容赦頂けますと幸いです。)

  • 1029725/04/04(金) 11:49:34

    >>101

    了解です。指摘ありがとうございます!

  • 103二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 14:05:22

    凄く今更だが
    初代スレの104と108だが隻眼設定なのも良く見てなかった…

    V4でも試してみたけどやっぱりV3の方がよかった
    ちなみにV4で作ったのはこんな感じ

  • 104二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 14:08:33

    >>103

    V3版幾つか載せときます



















  • 105二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 20:17:29

    乙!すごくいい、、、

  • 106二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 20:20:14

    このレスは削除されています

  • 107二次元好きの匿名さん25/04/04(金) 23:42:55

    このままだとイブキの知る未来へ収束していきそうだが、果たして……?

  • 108二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 06:51:53

    このままじゃBADEND不可避

  • 109二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 10:57:08

    先生経由とかならちゃんとイブキには伝わるように送ってくれるだろうに「みつけた」の一言だけで送ってくるって多分ヤバい奴か危ない所だよね…

  • 110二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 12:31:57

    このレスは削除されています

  • 111二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 12:34:08

    違和感の塊でしかない文字列と状況に脳内で疑問符が乱れ飛ぶ
    「んん〜?何これスパムメール?」
    「わかりません……」
    ホシノの声に応える。スパムメールだったら余計な事は考えなくてもいいのだが、そんな言葉で済ませられるような簡単な代物ではなさそうだ。
    …気にはなる。
    気にはなるがしかし、今はこんなメールに手を煩わせてる場合じゃない。
    そう思い直すとイブキは携帯を閉じてポケットに捩じ込んだ。
    何も考えるな。生きるために何も考えず進まなければ。
    「今日で脱出方法を見付けないと不味いんですから、さっさと探索を続けましょう。」
    「お〜、やる気だねぇ。」
    初日から変わる事のないホシノの声音に辟易するが、ぐっと堪える。無駄な体力は使うだけ無駄だ。
    イブキとしては無謀ではあるが残された最後の手段を講じざるを得ないと考えている。
    それにはホシノの協力も必要だ。対立するだけ無駄でしかない。
    「……協力してくれますか小鳥遊さん」
    「うん?」
    その言葉にホシノは笑顔とも怪訝顔ともつかない表情を浮かべこちらを見る。
    イブキにはこの顔に覚えがある。未来世界でホシノに追い立てられてる時、イブキが変わった方法で抗って来た時に見せる表情だ。
    楽しい物への期待と失望させるなよ?というプレッシャー。こちらとっての快心の策をこの顔で返されるといつも次こそは目をかっ開かせてやると誓ったものだ。
    ──そしてこの世界でならその自信はある。
    こんな土壇場でやるような事ではないし命の危機を呼び込む賭けだし出来るかは正直分からない。ただ、おそらくこれが方法としては一番最適だと思う。
    ならばやるしか道はない。

    「…ジェンガってゲーム知ってますか?」

  • 112二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 20:26:38

    保守

  • 113二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 20:29:20

    イブキの所持する武器は二つある。

    まずは短機関銃。
    小さい頃からの愛銃でかつては表面に少女らしいペイントと装飾が施されていたが、今ではその全てが剥がれ落ち無骨な銃身に所々残る色の残滓が「かつてのイブキ」という失われた人格を如実に示しながら多くを語らず沈黙を守っている。
    欠かさず継続した弛まぬ努力によって完璧に整備され、規格に合う弾を込めて照準を定め引き金を引きさえすれば今でも十全に標的を撃ち抜く事が出来た。

    そしてもう一つが一振りのサーベル。
    これに関して多くを語るべきかイブキは迷っていた。

    『ホシノに対して』ではない。この過去の世界における全ての人に対してだ。

    このサーベルはとても便利な武器だ。
    たとえば食べ物を切る時のナイフとして使えるし、木材を切って焚き火の素材を作り出せる。
    人を殺す時には特に役に立つ。肉と骨を断ち切っても刃こぼれ一つしないし、どれだけ硬いものでも簡単に切り裂ける切れ味を持つ。
    そう、切れすぎる。
    このサーベルは『斬る』という表現で表すにはあまりに呆気なく世界に存在する万象を呆気なく切って捨てる。使い手の技量は当然必要だが、切れ味においてはその材質をこそ其の真価であると考えねばならないだろう。
    ではその材質とは何なのか?
    鉄か、あるいは何か特殊な合金か。しかし無機物は別としてヘイローを有するキヴォトスの人間をあっさりと刺し貫く金属とは何なのか?
    それを話すという事は、この世界を自身の世界と同じ物にする危険を呼び込むのと同義だ。
    出来ない。それだけは絶対に。
    だから今は何も考えずひたすらサーベルを振る。すべては生き残るために。

    「じゃあ三本目行くよー」
    「お願いします」

  • 114二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 20:30:03

    言うと同時に響く数発に及ぶホシノのショットガンの銃声。弾は柱に深く穴を穿ちその強度を低下させる。そこへイブキがサーベルを袈裟懸けに二度振り下ろし、柱を真っ二つに両断。
    切り取られた部分の柱が抜け落ち音を立てて床を揺らす。
    ただの刃物で建築物がここまで簡単に切れる異常性を除けばたったそれだけ。
    しかし一本切るごとにビルの天井から不気味な軋みのような音が響き、背筋に寒い気配が這い上がってくる。それは生物の持つ生存本能に起因する勘とでも呼べる物だったろう。
    計算を間違えてもし今この瞬間にビルが崩れて来たとしたら。
    そんな恐怖と戦いつつ実行している行為はイブキの考えた策に着いて回る仕方ない代償だった。
    道具はある。微かだが勝算もある。見切り発車でもやるかやらないかで言えばやるしかない。

    廃ビルを倒して足場を作り地上への橋頭堡とする。

    それがイブキが考案した気の遠くなるようなアイデアだった

  • 115二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 20:36:50

    着想は子供の頃に万魔殿でマコト達と遊んだおもちゃだった。
    「あれって一本一本抜いて行っていつ倒れるか…ってゲームですよね。何処を抜けば崩れずに済むのか一生懸命考えて。」
    「おじさんもアビドスのみんなとやったことあるよ。最初はうまく行くんだけど途中でシロコちゃんとセリカちゃんが集中力を切らしてめちゃくちゃしたりノノミちゃんとアヤネちゃんは不利になったら事故を装って崩したり…」
    思わぬところで未来で良くしてもらった面々の話を聞いたが、今はその程度で済むんだと思ったりもする。
    「それをある時自分で作ってみた事があったんです」
    「うへっ!?器用だねえイブキちゃん」
    「違うんです、それが大失敗で…」
    子ウサギ公園で小さい子供達に遊ばせてやろうと思い立ち作り始めたはいい。
    しかしイブキには絵の素養や心得があるにはあったが立体物の素養は皆無だった。既製品のようにブロックを削り出すほどの器用さは無く、他の大人達もそこまで手先が器用では無いと知れるに至って行き詰まる。

  • 116二次元好きの匿名さん25/04/05(土) 20:38:40

    普段は全幅の信頼を置く頼れる大人達もその時は頼れなかった。
    サキ教官はまずその遊びを良く知らなかったし極限まで無駄を削ぎ落とす彼女に遊び心を求める玩具を作らせるのは愚策に過ぎた。参謀長は知識なら貸してくれたが作るのは自身の手を示して辞退した。イブキもそれを受け入れてから残酷な事をしてしまったと後悔したものである。
    なので自身のサーベルで不器用ながら木を削り出し積み上げたのだが、それが実に不恰好な出来になってしまった。
    サーベルの大きさで細かい作業は叶うはずもなく必然細部は組み合わずガタガタになる。
    どうすれば崩れずにバランス良く積み上がるのかと作った手前細かく削ったりブロックに番号を付けたりとある意味それが娯楽になった頃、こちらに飛ばされてこの始末だった。
    そしてあの遊びを再現出来ないかと考えた。つまり規模はまるで違うがあれの拡大版をやればいい。
    ただし先も述べたが賭けである。ビルが何処まで耐えれるのか?そもそも本当にこの手法で倒す事が出来るのか?
    木こりが木を切るのでもあるまいし簡単に行きはすまい。
    だが今のイブキに出来ることはこれしか無かった。
    何もかも、とにかく前に進まなければ何も成せはしないのだから。

  • 117二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 02:14:17

    保守

  • 118二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 11:10:48

    保守。かなり混迷を極めてきた感じ

  • 119二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 11:24:38

    手法は地味だがめちゃくちゃ派手な策だ

    しかしサーベルにもなんか事情があるっぽいのかね…?

  • 120二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 15:24:55

    ホシノが銃弾を装填し引き金を引きイブキがそれを叩き切る。
    建造物の柱とはいえ廃ビルだ。かつて堅牢を誇ったその建材も風化し、たった二人でも作業は淡々と進んで行く。
    二人はフロアが潰れていないビルの下階部の柱を潰して行く。もしも首尾よくビルが渓谷側に倒れたなら上部に堆積した膨大な砂がビルと共に崩れ落ち、予測できない量の瓦礫と共に倒れ込んで来る事になるのは確実である。
    巻き込まれる可能性を限りなく下げるため一本潰したら全力で建物の外に出るという事を繰り返す。
    イブキは焦りからそれに否定的だったがホシノによって静止された。「急いだ結果死んじゃったら取り返しつかないでしょ?」という言葉に口を閉ざすほかなかったのだ。
    しかし今になって従った自分に後悔する。
    建物のバランスと銃弾の残弾を考慮しどうにかビルを崩さず、あと一歩で成果が出るというところまで来た時には夕刻に差し掛かるほどになってしまっていた。

    作業を行っていた廃ビル横。ホシノに促され休憩に入ったと同時にイブキは手を押さえて座り込んでしまっていた。
    「一日中鉄の塊を振り回したんだから仕方ないよねぇ」
    「……」
    迫る時間とアイデアが上手くいくかという不安と、そんなプレッシャーを振り切るためにひたすら振い続けたサーベルを支える筋肉が上げる断末魔の絶叫。
    疲労から上手く声も出せない。何か冷たい飲み物でもと思うがそんなわけにもいかない現状だ。
    そんなイブキの様子を察してか、ホシノが残り少ない水を差し出してくる。
    「ほら、おじさんの分の水飲みな?」
    「……いいです、私が飲むと上に上がってから小鳥遊さんが…」
    首を大きく横に振り厚意を断る。
    ここから上がれたとする。アビドス高校まで歩いたとして要する時間はほぼ丸一日。
    初日にあらかじめ上での行動分はキープしていたが、それも事ここに至って残り僅か。
    貴重な命綱を無闇に失うわけにはいかなかった。

  • 121二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 15:26:10

    「大丈夫だよ?おじさんこういうの慣れてるし、ヒナちゃんと互角にやり合えるくらい最強だから。」
    「……そんなの聞いたこと無かったですよ。」
    「おじさん宣伝しない謙虚な人だから。」
    イブキは思わず苦笑する。彼女との交流は遭遇した日を含めおおよそ四日。
    その間ずっと捉え所がなくてずっと全容を掴めない不思議でふわふわした人物という印象が消えてくれない。しかし動き出せばまるで別人のように行動してくれた。今もこうして冗談混じりに気負わさずサポートをしてくれている。
    悠長で暢気な面ばかりの変人が何故ああなったのか、今のイブキにはまるで想像ができない。

    ……そういえば、とイブキは思う。
    未来のホシノの事すら自分は何も知らないのではなかったか?
    知る機会がなかったのではなく、脅威を排除して生き残る事以外を知る必要性を感じなかった。
    だから向こうでも理由を付けて話をしようともしなかったし、知らないからこそ初遭遇時に逃げて谷底に落ちるなどという失態をした。
    小隊との作戦で失敗をした時もそうだ。「こっち」の事を積極的に知ろうと彼女は考えていなかった。調子を合わせはしていたが未来の基準で考えて動いて失敗した。
    「修学旅行、か……。」
    遠くの地で多くを学び、知り、自身や周囲を振り返る。ホシノの例えは正鵠を射ていたのかもしれない。
    もしも今知ろうとしたら何か変わるだろうか?
    ぼんやりと考え顔を上げた途端、イブキの口に何かが当たった。

    「んぶっ!?」
    ホシノである。
    彼女はイブキの顎を掴んで固定すると、ペットボトルをイブキの口に付け貴重な水を流し込んだのだ。
    「んごっ…!んっ…ごっ!んグッ…」
    イブキは咽せかけたが次の瞬間には必死になって水を取り込もうと口と角度を調整し、なんとかホシノの水責めを耐え抜いてみせた。
    何だ?一体なにをしたこの人は?それがどういう意味を持つ愚行なのか理解しているのか?
    飲み終わると一息吐いてから彼女に残されている片眼を見開き、爛と燃え上がらせて愚かな罪を背負った下手人を見やる。
    名を小鳥遊ホシノ。たった今イブキが知ろうと思った人物である。

  • 122二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 15:27:08

    「何するんですか!!それが小鳥遊さんの持ってる最後の水だったんですよ!?」
    「うん。でもさ、仕事の休憩はしっかり取らないと午後から吐くくらいしんどいじゃない。」
    「なんでそんなに危機感がないんですか!!ここに落ちてから今に至るまでずっとずっと!!」
    激昂しホシノを問い糺すが、言葉は右から左に流れて消えているようでフニャッとした顔でこちらの怒りを聞き流しているようだった。
    「私だけ助かっても意味が無いんです!私が『こっち』を掻き乱したらダメなんです!」
    イブキは言ってはいけない言葉が口をついて溢れ出ている事に気付いていない。
    しかし生きるつもりがないような自己犠牲的行動を取るホシノが許せずイブキは言葉を止められなかった。
    「あなたはここから出るつもりがないんですか!?私を助けてヒーローにでもなるつもりなんですか!?まるで先せ…あの大人みたいに!!『私の知ってる小鳥遊さん』なら──」


    「未来の私なら君を殺して食料でも奪ってたかな?」


    ─────絶句。
    言葉が詰まる。
    さらに紡がれた言葉にイブキは息も出来なくなった。

    「そうじゃないかな、万魔殿のお姫様…丹花イブキちゃん?」

  • 123二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 15:33:53

    未来世界で起きた何かの影響でゴルゴンダの研究が流出してテクストを物質に付与できるようになった結果生まれた「物体を切断する」っていうテクストが付与されたサーベルとか…?

  • 124二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 15:36:03

    うわぁ、ばれてーら

  • 125二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 18:16:25

    >>万魔殿のお姫様…丹花イブキちゃん?

    これ未来イブキにしたら皮肉もいいとこだな……

    現在ホシノは何も知らないから悪意はないんだろうけど

  • 126二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 21:14:24

    保守

  • 127二次元好きの匿名さん25/04/06(日) 22:51:17

    無自覚煽りィ……

  • 128二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 00:24:47

    先生が先んじて伝えていたとか……?
    ヒナと先生の両方からゲヘナの視察の話を聞いてはいたけど

  • 129二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 07:54:18

    本当に彼女の事は聞いてなかったけどこっちのイブキとは会った事があったからこの子の見た目と目の色を見て「苦しみつつも必死に生きてきた未来のイブキ」って気づいたりしたのかな…

  • 130二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 13:50:33

    小鳥遊ホシノは人を判断する時に幾つかの判断基準を設けている。
    多種多様な基準はあるにはあるが、それを一概に述べるのは難しい。
    では例えばかつてホシノを救いアビドスの恩人となった先生を引き合いに出すとするならばどうか?
    彼の場合評価すべき点は特に多い。
    たとえばかわいい後輩達が受け入れるような善性を持っている事、アビドスのために必死になって戦ってくれた事、ホシノを最後まで諦めずに救い出してくれた事、暴走した馬鹿な自分を引き止め連れ戻してくれた事…。箇条書きにしてもかなり多い。
    さらにアビドスの面々の良い部分も悪い部分もちゃんと分かって対等に接してくれる事や、自己保身や利益誘導に走らず真摯に向き合い付き合ってくれるという面も信頼に値する。
    悪い大人とは似ても似つかない、心の底から信じられるとても素敵で大事な人。……いや、うん、まあ少し色を付けた評価ではあるが。
    兎にも角にもホシノは人を判断する際は時間をかけてその人物を観察し、信用するに足るか否かを見極める。
    常に笑顔を貼り付けて、真意を見せない軽い態度で、時間をかけて対象を分析する。

    だから穴に落ちたか弱いウサギも同じように観察した。

  • 131二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 13:52:13

    ホシノが最初に彼女のことを知ったのはとある人々から連絡を受け取った時だった。
    ゲヘナ風紀委員長である空崎ヒナと、先述したホシノが憧憬するところのシャーレの先生である。
    まず最初にヒナから受け取った情報はこうだ。
    『ゲヘナで問題を起こした他校の生徒が逃げ出したの。ええ、追跡した情報から見て今はミレニアムに潜伏してるけどもしかしたらアビドスにも向かうかもしれない。もしそうなったなら秘密裏に保護して私に連絡してほしいのだけど…。勿論その際は送還に遣いを送るわ。ええ、そう。秘密裏に。立場的にも実力的にも貴女以外には漏らさないで欲しい。…十六夜ノノミ?それぐらいなら別に良いわ。それとうちの万魔殿も捜索をしてるみたいだからどうか彼女達には見つからないように。…ええ、こっちの事情に巻き込んで本当にごめんなさい。ええ、ええ。……………いくらなんでもそれは吹っ掛け過ぎじゃないかしら?』

    次いで少し経ってから先生から受け取った情報は同じようで少し毛色が違うものだ。
    その頃にはどうやらヒナの思惑は外れたようで万魔殿も件の生徒を探し始めており、アビドスも協力体制を検討しつつあった。
    『“うん、万魔殿の捜索部隊だけど人数は幹部二人と護衛二人の四人で敵対の意思は無いよ。大丈夫だからねホシノ。そう、ヒナから聞いてるよね。そっちにゲヘナで問題を起こした生徒が行っちゃったみたいでさ。探してはいるけどミレニアムを出てから正確な行方が掴めなくて…。そうだね、武装してる。だから無理のない範囲で警戒だけはしておいて。うん。ヒナにも協力してもらっててさ。ん?…ああ、他にはそうだね…大きいシロコも事情を諒解してる。……ごめん、詳細はまだ言えない。出来る限り事件に関わる人数を減らしたいんだ。でも全てが終わったら話しに行くよ。うん、約束する。皆んなにもよろしくね。……え、ゲヘナから来る子達の名前?あはは、そうだねごめんごめん。えっと────”』

  • 132二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 13:54:35

    棗イロハに丹花イブキ。来訪者の名前と容姿を知ったのはこの時だ。
    棗イロハは赤髪の少女で万魔殿の戦車長。丹花イブキは万魔殿のアイドルとも言われる齢11歳の可憐な少女。
    しかしそれはゲヘナ万魔殿からの使者としての情報だった筈だ。

    万魔殿の捜索部隊が来るその日、ホシノはそれを放り投げて砂漠に出掛けた。
    ヒナやシロコ*テラーが情報を知っているのに自分には教えてくれない。それに少しの嫉妬と憤りを感じていたというのもあり砂漠を歩いて気を紛らわせたかったというのもある。
    そんな時に現れたのが今ホシノの目の前で呆然とし、貴重だなんだと言ったペットボトルを取り落としてこちらを見つめる子ウサギだったのだ。

  • 133二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 18:30:31

  • 134二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 19:46:01

    砂漠を爆走する車を見た時、最初はまた有象無象のチンピラか犯罪者かあるいは馬鹿な事を考える自暴自棄の輩かと勘繰った。ちなみにカイザーという可能性はあり得ない。かの企業は未だアビドス内で隠然とした影響力を有していたが、ハイランダーと提携したネフティスの再台頭により砂漠の開発から殆ど手を引いてしまっている。
    そして接触してみるとどうにも先に挙げた候補のいずれでも無いように思われた。
    その人物は出会い頭に万魔殿の名と武力を背景として押し通ろうとしたが、当然ながらホシノは先生とヒナから情報を得ていたため此処でそう名乗る事のおかしさを知っている。さらに遭遇の直前にアヤネ達から万魔殿到着の報を受けていたので、その女は万魔殿とは無関係の何者かでしか有り得ない。
    では果たして彼女は何者なのか?
    いくつかの可能性が脳内を巡ったが、ホシノのデータベースに存在する有力な対象は一人しか居ない。
    ゲヘナ生の特徴を持った特殊部隊からの脱走者。
    真偽は捕らえてからの確認となるが彼女はヒナと先生の情報にあった人物と酷似していた。

    憂さ晴らし、というには語弊があるが似たような感情であった事は否定出来ない。
    この迷子ウサギのせいで先生は方々を駆け回る事になり自分はこんな感情を抱くに至った。周囲も振り回されて苦労しアビドスも数々の対応に迫られている。
    ならば少しだけ「お仕置き」してもバチは当たらないではないかとホシノは自分自身を説得し、煽りに煽って追いかけ回してしまった。
    1年の頃ならいざ知らず3年生にもなってどうなのかと思わなくもない。今は亡き彼女の先輩が知ったなら「めっ」と叱るに違いないに決まってる。
    いえ、違うんです。ユメ先輩。これには深い理由があって……
    そう胸中で幻影の思い出に言い訳をしていたら見事に天罰が下ったのだった。

    予想外の抵抗。ホシノはそこまでするつもりはなかったがウサギは洞窟に暮らす人喰いウサギだった。
    ホシノを掴んで笑いながら一緒に谷底に落ちて行くその顔と声は正気とは思えない。
    ここでウサギ…丹花イブキを評価するための1個目の木片(ピース)をホシノは得るに至る。

    それは『こいつは自分と同じで後先考えない愚か者だ』という評価の木片だった。

  • 135二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 01:53:49

    このレスは削除されています

  • 136二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 03:07:49

    まあ先生からすれば情報少なすぎて未来イブキが誰と知り合いで誰と敵対してるかも分からない以上下手に素性は明かせないし協力者を増やせないのは分かる。
    未来イブキの精神状態考えると下手に接触すれば事故りかねない事も。
    でもここまで情報伏せられちゃたとえホシノでも厳しいって……

  • 137二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 08:31:13

    >>136

    ホシおじは人の縁はあっても運が少ないイメージだね。こう、絶妙に足りてないというか……

    人の縁と運って普通は比例するはずなんだけど…

  • 138二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 08:44:40

    >>137

    信じるものは救われるとはよく言うけど

    逆に言えば信じぬものは救われぬってことなのかもしれん


    ホシおじって基本初手疑いから入るし

  • 139二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 08:57:06

    先生も先生で良かれと思って隠してたのが反対に聞かされていない他の子達の疑惑や反感を生んであわや戦争が起きかねない状況になってるし
    エラい貧乏くじ引かされたなぁ…

  • 140二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 13:43:55

    このレスは削除されています

  • 141二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 19:59:37

    地獄への道は、善意で舗装されているからなぁ…

  • 142二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 20:03:36

    ─────────

    「なんで…未来のこと…」
    貴重さを嘆いた水は今やイブキの足元で転がり、砂に吸収されあっという間に地面に溶けて消えて行く。
    瞳が揺れ、動揺していた焦点がゆっくりと像を結び始めるが指一本すら動かせない。
    そこには未来で何度も見た見慣れた瞳。
    冷めた目で獲物を見つめる小鳥遊ホシノの姿がある。

    「推測と憶測。先生とヒナちゃんから少し情報は得てたからね。」
    谷底に落ちてからもホシノは木片を集め続けたが、イブキの正体についての推測の組み立ては急速に進んで行った。
    まず事前に得ていたシロコ*テラーと先生の情報共有の件。なぜ彼女だけなのか?
    簡単だ。『多世界から来た者の意見を必要とする事態が発生している』という事だろう。
    シロコの持つ別世界での経験か、あるいは感覚か。そういう物が必要になったに違いない。
    そしてなぜ限られた範囲で事を済まそうとしているのか?
    これもシロコの事を考えれば簡単だ。
    違う世界の情報が下手に拡散されでもしたら何が起こるか分からない。もしそれを悪用しようとする者が現れたなら先生の手で収まらなくなる可能性が大いにある。
    『世界を越えた何らかの異変が件の特殊部隊の新人を起点に起こっている。』そう考えておそらく障りはないはずだ。

    「それと私への接し方と君の名前。まさか簡単に教えてくれるなんて思わなかったよ。普通は偽名でも使うのにそのまんまじゃん。」
    イブキが名前を晒すという何の警戒心もない行動を取ったおかげで、ホシノは『丹花イブキ』という人物の情報と目の前の人物を照らし合わせる事が可能になった。
    万魔殿のお姫様の丹花イブキと、目の前にいる傷だらけの丹花イブキ。
    常識的に考えれば極めて稀な確率で、それも天文学的な確率で発生する同姓同名の人違いだ。
    まず歳が違う。容姿もアイドルのような存在には見えない。そんな扱いを受ける少女の取る行動とも印象がまるで違う。
    しかしホシノにとってシロコ*テラーの存在そのものがその不整合性を合致させる。
    イブキはホシノを知っているような態度を取っていた。つまりホシノをよく知っていたのだ。何処で?いつ?どういう形で? 当然ながらホシノ自身にはその記憶も覚えも一切ない。
    全ての疑問を組み立て立証するには足りないピースが多い。しかしホシノが持ち得る情報と推測を組み上げると、一つの仮説がついに完成したのだ。

  • 143二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 20:07:55

    目の前にいる人物は未来人。
    あるいは別世界の同じ誰か。
    それがホシノが積み上げ形を与えた積み木細工の完成形だった。

    「私の知り合いに『そういうの詳しい人』がいてさ。確証は無いからカマかけだったけど、大当たりって感じかな?」
    「……」
    沈黙は肯定と同義。
    イブキは今の状況を整理する。
    現在は脱出の最終路を作ろうとしていて、もう食料も水も殆ど無くタイムリミットが迫っている。
    なぜこのタイミングでホシノはそれを切り出したのか?

    ……まさかここで自分を殺して彼女一人が生き残るため?

    己の浅はかさに胸中で罵詈雑言を投げつける。ホシノが未来と違うなどという印象は全て間違っていた。
    確かに未来ほどの恐ろしさは無いのだろう。だがその隼を想わせるような鋭い瞳に射竦められ動けない。
    過去の延長線上に未来のホシノが居て、未来のホシノの「根っこ」は過去のホシノから生えている。「葉」は姿を変えるかも知れないが「根」はそうそう変わらない。
    あの無機質で硬質な樹を思わせる敵に対峙する時のホシノはこの頃にはもう完成されていたのだ。
    初めて会った時から今この瞬間まで、ホシノはイブキを人としてなど見ていない。
    ずっとずっと、狩る側の者として敵か味方かの判断を保留し見極めていた。
    きっといま彼女の中でイブキは「正体を隠しホシノを欺いた敵」という位置付けになったに違いない。
    おそらく、いや、きっとそうだ。
    ここから先は答えを間違えたらイブキの首はあっさり胴から離れて───

    「……せいっ」
    「がボッ!?」

    そして胴と離れる筈のイブキの頭はしかし、さらなる生の果実を享受する。
    それはホシノが持っている最後の食料、バナナ味のカロリーバーだった。

  • 144二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 20:10:46

    未来のホシノ恐ろしすぎて草
    流石にイブキの誇張が入ってると思いたい

  • 145二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 21:16:55

    そもそも今までの未来世界住人説明が未来イブキの視点での主観って可能性がここにきて出て来たなぁ。
    流石にガンギマッた未来ホシノといえど6年近くの付き合いなら口では何と言おうと半ば身内と認めてたんじゃ……

  • 146二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 23:53:50

    まさかイブキが信頼できない語り手だったとは…
    と思ったけどゲヘナのほぼ全員から溺愛されたイブキからしてみたら軍隊式訓練とそれが霞むサバイバル式スパルタの数々はトラウマにもなるか

  • 147二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 02:53:59

    保守

  • 148二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 10:35:29

    ホシノには全部終わったら話すって言ってたけど
    ミレニアム&連邦生徒会勢には終わっても話せないかもしれないって言ってたのはどういう違いだろう?

  • 149二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 19:09:01

    「まーたそういう目する。未来のおじさんってそんなにヤバい感じなの?可愛い女の子を怖がらすなんて違う意味で罪な女になっちゃったねぇ…」
    獲物を狩るための目をしていたホシノの顔は柔らかさを取り戻している。
    よよよ、と嘘泣く仕草をしているのを見てイブキは緊張から解き放たれた安堵から足腰が立たなくなった。いざという時はサーベルを抜き放とうと僅かに浮かせていた身体を砂地に放り出し廃ビルの壁に背中を預ける。
    先程まで水を口に含んでいたのに口中はカラカラで、口に突っ込まれたカロリーバーもまたそれを助長させていた。座り込むと同時にじわりと唾液が溢れ出し、それの持つバナナの風味が口いっぱいに広がってくる。

    なぜかは分からないけど助かった……

    「…うん、唇にも色が戻ってきてるね。落ち着いた?」
    ハウリングがかかったように聞こえるホシノの声が次第にクリアになり、指先に血が回る感覚が這い登ってきて軽く痺れを感じる。自分が軽い貧血のような状態に陥っていたのだと今更ながら実感する。
    「その…なんで……」
    「ん?正体のことを言った理由?」
    力無く頷く。
    ホシノの推理は見事であり、イブキの正体を正確に言い当てた。しかしだからと言って今ここで切り出す理由が分からない。
    脱出手段が大詰めを迎えた段階で、脱出後のことを考えて裏切り者のイブキを殺し水と食料を奪う。
    それが合理的だしイブキの知るホシノなら当然の行動だ。

  • 150二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 19:09:55

    イブキがそう言うとホシノは強い口調でそれを否定した。
    「私はそんな事しないよ。君の世界がどんな風かは知らないけど、少しでも一緒に居て一緒にご飯を食べた仲の人を害するなんて絶対にしない。…まあ明らかな敵意があれば話は別だけど。」
    「…………どうして、しないんですか?」
    「『先輩』に顔向け出来ないからね。」
    何者かは知らないがイブキの命を救う遠因になったであろう誰かの名を出すと、ホシノは対面に腰を下ろしてイブキの口から転げ落ちていたカロリーバーを拾い上げ自身の口に咥えて食べ始める。
    「だから生きることも諦めないし自己犠牲なんかももうやらない。そっちは後輩たちに顔向けできないから。」
    ホシノは言い終え咀嚼していたものを飲み込む。
    太陽はすでに低く傾き陽の光は谷底に影を落とし、薄暗がりの中でホシノの色違いの瞳が強い光を宿してイブキを射貫く。
    それは未来のホシノと何も変わらない強い光。
    「イブキちゃんはさ、私や先生や今の世界をどこまで知ってる?」
    この世界のことなど何も知ろうとしなかった。これ以上関わり知るべきではないと思っていた。
    「きっとお互いのことを知らないと、ここから出てもきっとまたさっきみたいな事になる。部隊から逃げ出した理由ももしかしてその辺関係あるんじゃない?」
    何も知ようとしなかったから失敗した。子ウサギ公園から逃げ出してこんな谷底に落ち込んだ。
    「だから今のうちにおさらいしてさ、お互い知っておこうよ。おじさんも未来の自分のことを知らないままじゃ気持ち悪いしさ。」
    だからイブキはさっき、彼女のことを知ろうと思ったのだった。
    「修学旅行の引率で居るはずの先生を差し置いてはちょっとアレだけどさ、頼れるおじさんに話してみよ?こっちの世界のことも、イブキちゃんの世界の事も───」


    「未来で何があったかも」


    ホシノが言い終わるのと、背後のビルが計算を違え偏った重量に耐えかね断末魔を上げたのは同時だった。
    《───────》
    形容できない破滅的な破砕音が谷底に響き、谷底に向かってビルの本体と上層部や隙間に降り積もった砂が雪崩を打ってホシノとイブキを押し潰そうと一斉に襲い掛かる。

    崩れ行くビルと膨大な砂の津波を視界に捉えた次の瞬間、イブキの意識は真っ黒に塗り潰された。

  • 151二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 20:12:32

    多分未来イブキが現在の事知ろうとしなかった理由のひとつに知れば未来に帰りたくなくなると考えてしまう自分ができる可能性が怖かったとかもありそう
    あまりに幸せ過ぎて過去の自分に殺意向けてしまいかねないのを心のどこかに考えてたとかも

  • 152二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 22:42:55

    >>151

    どこかの正義の味方みたいに、過去の自分が◯したい程に嫌いなんだろうな

  • 153二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 01:09:50

    保守

  • 154二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 01:23:21

    知ろうとするということは少なくともその間は関係を保つということ
    RABBIT小隊でやらかして自分がこの世界の異物だと痛感した時点で、どうしても距離を取ろうとするところはあったんじゃないかねえ

    あとはそもそも未来の環境的にまず歩み寄るという選択肢が取りづらそうだし

  • 155二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 08:08:59

    生き残る為に他の人と手を取り合ったり助け合ったりする事もたくさん経験しただろうけど
    それと同じかそれ以上に他人からものを奪ったり平気で嘘をついたりして自分だけ助かろうとする人もたくさん見てきたのかもね

  • 156二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 14:53:37

    ────

    夜の砂漠に炎が上がっている。

    それは燃え上がる二人乗りのバギーで、本来砂漠用の迷彩色だった車体は今や炎と炭で赤黒く塗装されている。
    その傍にはバギーを彩るのと同じ色で染め上げられた人型のアート作品が一つ完成されており、さらにその奥でもう一つの素材が『そう』なるための下準備を終えようとしていた。

    「まっ待って!?やだ!!ねえ!ちょっと近道で通っただけでしょ!?さっきは驚いただけで私あなた達に危害を加えるつもりは…!!」
    「残念。他に言い残すことは?その武器、弾切れでしょ。装填のチャンスならあげるけど…」
    「…ッ、いっ嫌!いやだッ!!私まだしないといけな───」

    引き金を引く。
    飛び出した弾は先程まで喋っていた肉塊を割れた柘榴に変える。
    彼女……小鳥遊ホシノはその時ヘイローが砕ける時の不可知の破砕音が聴こえる気がした。
    「チッ」
    聴こえるわけがない。しかし誰かの命を奪う時はいつも耳の奥で高くか細く悲鳴のようによく響き、「あなたが殺したんだよ」と訴えかけるような総毛立つ感覚が背中を走る。

  • 157二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 14:54:45

    しかし殺される方も悪い。
    どこの生き残りかは知らないが、彼女たちは悪意を持ってホシノに機銃掃射の雨を降らせた。
    砂漠を根城とするホシノはアビドスに侵入する者を見張り、害ありと判断すれば鏖殺する。
    警告という名の鉛玉だけで逃げ帰るならそれで良し。逃亡しても捕まえて尋問し、事情が事情なら見逃してやる。
    しかし攻撃を加えてくるというなら容赦はしない。
    今回の彼女たちは三度に渡る警告を無視し、そのまま逃亡し、あまつさえこちらに発砲し敵意を示した。しかもバギーには『あんなもの』まで積んでさえいる。

    「…殺すしかないじゃないか。」

    そもそもホシノにやられる程度ならどうせこの先も生きて行けないに決まっているのだ。
    今ここで終わるのが彼女達にとってきっと幸せだっただろう。

  • 158二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 14:56:09

    大きめの肉塊を赤と黒の絵の具の中に放り込むと、間もなく色が混ざり合って言いようのない不快な臭いが鼻をついた。
    砂漠に座り込みそれを眺める。

    「イブキはどれだけやっても死ななかったんだけどな」
    ふと口から出たのは先日亡くなったと連絡のあった一人の少女のこと。
    いくら追い立てて痛め付けてもいつもいつもホシノの予想を上回って生き残り、なんだか気に入ってアビドスのキャンプにも連れ帰ったりした。
    それが子ウサギ公園との交流のきっかけとなり、アビドスも大いに助けられた。
    イブキはそこに居るだけで人を動かす。
    かつてゲヘナでアイドルのような扱いを受けていたと聞いているが、案外本当なのかもしれないなとホシノは思う。
    「まあそんな簡単に死ぬような奴とは思えないし、どうせまた顔を出すでしょ。」

    砂漠に向かって行方不明になったイブキをホシノは探していない。
    今目の前で燃えている薪のように斃れればそこまでという事だし、あのしぶとい獲物の事だからどうせ死んでいないだろうという妙な確信もある。
    「次会ったらどんな風に追い詰めてやろうかな」
    ニッと顔に貼り付けた笑顔の口角を上げる。
    あるいはそれはアビドスを守るために仲間を頼らず独りで戦い、削れて枯れて摩耗し切った彼女の唯一残された人間性の発露ではなかったか。
    ホシノはそれが未練だと気付かない。
    否、気付こうとは絶対にしない。
    喪った先輩と道を示してくれた恩師にいつかまた会いたいと今でも夢に見てしまう優しい彼女は、今という時を皮肉と諦念と狂気で塗り固めて作り笑顔で覆い隠さなければ、きっと容易く壊れてしまうのだから。

  • 159二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 14:57:24

    「………?」

    そしてふと、その表出した感情の残滓が消える。ホシノは周囲に警戒の目を飛ばし銃を構え突然の強襲に備える姿勢を取った。
    おかしい。
    先程とは明らかに世界の「質」のような物が異なって見える。
    なんだ?一体何が起こった?
    一歩、また一歩と砂地を歩く。
    燃え上がる車とその元乗員、見慣れた砂漠の風景、いつもと変わらない破壊し尽くされた大地と、狂って壊れた気温と天候。チラと雪が舞っている。否、そんなのは今のアビドス砂漠では日常茶飯だ。

    ゆっくりと目線を上げる。
    ホシノはそこにあり得ない物を見た。
    絶対に有るはずのない物、この世界では絶対にあり得ないモノ。
    刹那、目の前で虹色の光が弾けて急激に膨張する。
    光はホシノの身体を包むと、疑問を抱く間もなく彼女の意識を飲み込んだ。

  • 160二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 16:23:19

    ……未来ホシノ想像以上に容赦ないバケモンになっちゃってるな
    こりゃ未来イブキもトラウマになるわけだわ

  • 161二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 22:04:29

    >>160

    自覚してないだけで、すでに再度テラー化してるんじゃ…

  • 162二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 01:27:34

    一緒にいた時間が長い筈の未来サキも未来ミカも死んだって諦めたのに未来ホシノだけ生存疑ってないの何て言うかその……

  • 163二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 08:11:07

    ここまで酷いと他アビドス勢がホシノのことどう思ってるかも気になる

  • 164二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 09:08:50

    アビドス3章前か後か、いつ分岐したかでホシノに対するアビドス勢の内心がかなり変わりそう

  • 165二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 13:24:58

    そもそもイブキが言うところのホシノ塾を受講するためにはアビドス砂漠に行く必要があるわけで、その上でホシノの扱きに耐えてたっていうのがデカいんだろうな。
    多分サキとミカは単純な戦闘技術で判断して、ホシノは限界環境への適応力で判断してるんじゃないか?

  • 166二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 13:34:50

    どれだけ扱いても死なずに喰らい付いてきて持ち前の地頭の良さで意識的無意識的問わずホシノの動きをラーニングして成長するんだよ未来イブキは
    荒み切ったおじさんからすれば可愛い事この上ない後輩というか弟子って感じでしょ

  • 167二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 14:43:28

    砂漠を数台の車両を連結させた列車が往く。

    岩場を縫い障害物を避け砂漠の影響が少ないルートにその足場を持つ列車は、器用かつ軽快にアビドスの荒地を走り乗り込む人々を運ぶ。
    その姿は陽光の残滓を纏い、銀糸の如き輝きを放つ一本の矢のようだった。

    『ん〜、前方に障害物な〜し。』
    『パヒャヒャッ!いいねいいねぇ。折角だしスピード出しちゃう?どうせ私たちしか乗ってないんだしさ。納期短縮しちゃう?』
    「おい馬鹿者ども聞こえてるぞ。急を要する事態でも運行に際しては適切なスピードと安全を第一に心掛けろ。」

    『『はーい』』
    双子…橘ノゾミ・橘ヒカリの気の抜けた声を最後に無線機からの通信は途切れる。
    まったく気楽なものだと忌々しげに無線をしまい車内を歩きながらその少女は悪態をつく。
    くすんだ色味の緑髪、制服であろう黒のロングコートに制帽、そして際立って特徴的な少女らしさを湛える顔に不似合いな黒く大きな眼帯。
    朝霧スオウ。ハイランダー鉄道学園監理室所属の管理監督官である。

    現在ゲヘナの大規模な行動により各校が様々な対応を迫られており、当然ながらハイランダーもその例に漏れない。生徒会にあたるCCCと理事会直属の監理室も上へ下への大騒ぎの最中だ。
    鉄道網が食い込んでいる関係上、捜索部隊の受け入れをアビドスと共同で迎え入れるという事で決して数日かけて突貫で準備を行ってきた。
    既に鉄道を通したセイント・ネフティスの地縁であるアビドスにはいい顔をしておきたいし、鉄道網の拡張と経営拡大に繋がるかもしれぬゲヘナと良好な関係を築いておくに如くはない。そう考えたのだろう。
    理事会にCCCの双方が珍しく全面的に同意した事柄である。鉄道学園のレールと枕木の伸び征くところハイランダーの輝かしい栄光あれかしといった所か。

    ところがそこからおかしくなった。
    ミレニアムが大規模実験と称して各校の頭上をドローンで飛び越え、ハイランダーの利権(則ち鉄道網だが)の通るアビドス砂漠近傍へ向かい大挙して進路を取ったという。
    さらに同調してゲヘナが動く。表向きにミレニアムの実験に付随する平和的な行動との事だが信用できる物ではない。
    さらには突然アビドスとの連絡が取れなくなった。共有していたのは学園に据え付けられた一台の電話らしいが、呼び出し音も鳴らずただ虚しく断線を知らせる音が単調に流れるのみ。

  • 168二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 14:44:00

    ──全てが乱れたダイヤのように混乱の坩堝にある。

    ミレニアム・ゲヘナ•アビドス全方向に満足な確認が取れず、当初の騒ぎなど比ではないほど驚天動地の大騒ぎが起きつつある。
    頼りの綱となるクロノスは相変わらず信用できない誤報なのか陰謀論なのか分からない情報を垂れ流しがなり立て、さらにレポーターのふざけた格好が観る人々の神経を逆撫でた。

    これにより一時的に成立していたハイランダー上層部の均衡が崩れて水盆が傾き乾いた床を大いに濡らす結果を招来させる。
    事態が悪化し経営的観点から理事会は二の足を踏み、それに業を煮やしたCCCは単独で行動を始めたのだ。我らの血と汗で綴られた命の道を何人たりと侵させるものか、というような「現場の理念」を優先させた結果だろう。
    スオウには未だに理解できないところだが、この学園の連中は度し難い楽天主義者の集団だ。人が頼るべきインフラの整備はすべてに優先され、それを掌握し伸ばし往きフロンティアを広げるのが自身の使命と信じて何も疑わない。
    それを同じくフロンティア精神を持つはずのミレニアム、ひいては諸学園が如何なる仕儀でこれを踏み荒らすのか?ということなのだ。

    ……向こうにも向こうの事情がありそれを確認して妥協点を探り双方にとっての着地点を探る。それが政治で外交であり理事会の領分だ。楽天的で後先考えない冒険的バカ共が勝手に行動すべき時では本来決してないのである。
    その姿は行き当たりばったりで追い詰められて、それなのに決して折れない何処かの学校の奴らを思い出して虫唾が走る。
    理事会からそんな連中をもしもの時に抑えるため派遣されたスオウは早い話がバカどものお目付け役。以前の事件と重なる自身の役目にとても不快な思いが湧き上がるが、苦虫を噛み潰すしか彼女はその不満に報いる術を知らないのだった。

    向かう目的地はアビドス高等学校。
    まずはゲヘナの客人の安否とアビドスの意向を直接確認しよう、という決定であった。

  • 169二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 14:44:46

    (ハイランダーの組織間描写は勘で書いてるのでご容赦を)

  • 170二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 19:03:34

    保守

  • 171二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 21:51:51

  • 172二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 00:59:59

  • 173二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 08:35:41

  • 174二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 09:00:44

    ハイランダーの列車は汽笛を鳴らし線路をひた走る。
    もう20分ほどでアビドス中心部が見えてくる筈だと車窓から外を眺めたスオウは、風景に何か違和感を感じてそちらを凝視する。
    立ち上がり近づいて見ると、明らかにおかしい。

    「砲火」と「黒煙」が見える

    車内を見回すと乗務を行なっているハイランダー生の幾人かもそれを眺め、驚愕と困惑の表情を浮かべている。
    内心の動揺を抑えつつ彼女達に持ち場に戻るよう言うと、おそらく先頭車両の露天部で列車の行先を眺め見ているであろう双子に通信を繋ぐ。
    「おい、そっちから見えているな?」
    無線で問い掛けると相変わらず気の抜けた返事が返ってくる。
    『え〜?なんもないよ?』
    『うんー全然ないー』
    「前方じゃない。横を向け、砂漠の中心部にある廃ビルの付近だ。」
    え〜?というやる気の無い「なんで私がそんな面倒な事をしないといけないんだ」と言わんばかりの声を無線が発してしばらくの後、打って変わって子犬が大型犬に吠え立てるかのような甲高い騒ぎ声が鼓膜を揺らす。

    『ちょっと凄いよアレ!やばいって!!どうしよ、とりあえず速度上げちゃおっか!』
    『はーい、カーブに突っ込んでも大丈夫な限界速度〜』
    相変わらずの呑気さだが声と行動には緊張感が含まれている。そうでなくては困る。変事に際しては呑気さなど返上してもらわねば。
    「双眼鏡を持っているな?何が起こっているか見て分からないか?」
    そうは言いつつ、何が起きているかはおおよそ推測できるし理解できる。
    しかし恐ろしい。
    目の前の事態がどういうものか認めれば、スオウ達ハイランダーの行動一つが事態に何らかの影響を与え引き摺り込まれかねない。
    「そう」だと認識した段階で事態は極めて政治的な局面へ移行する。とてもではないが現場判断で介入して良い事態ではない。
    解決できるとすればそれはおそらく……

  • 175二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 09:01:38

    『おー、ゲヘナがドローンを撃ち落としてる。あれって報告にあったミレニアムのー?』

    決まりだ。
    どういう仕儀かは知らないがゲヘナはミレニアムと一戦を構えるに至った。しかも他校区の領域で、こんなド派手に。
    「私は学園と連絡を取る。列車を止めるな、進路そのまま。ここを突っ切ればアビドスまで一直線だ。カーブも直線も機関の具合を気にせず全速で走り抜けろ。」
    今はとにかく安全圏への離脱が重要だ。兎にも角にもアビドスに着けばひとまずは安泰なのだ。
    『ほんと!?太っ腹じゃん監督官!ヒカリ!納期めっちゃ縮まるよ!』
    『うん、じゃあ目一杯とばしちゃおー』

    ゆっくりと、しかし確実に身体に加わる慣性の力が強まる。
    窓の外を流れ行く風景があまりの速度に溶け出すのに比例して枕木を叩く音が強くなって行く。
    二人の対応を全身で確認すると、後方車両にある据え付けの連絡機器に速足で向かった。
    この急報をハイランダーに伝えねばならない。
    しかしなぜこんな事態になっているのか。アビドスはこの状況を理解しているのか?
    後部車両に向かい無意識で早足になる。否、もう走っている。
    それは危機感か、それともスオウの──

    しかしいま少しで目的を果たそうかとする瞬間、車両のすぐ外で巻き起こった閃光と爆発音がその思考を圧して閉じた。

  • 176二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 11:30:35

    この状態でむしろ速度を上げてアビドスに向かってるのはまさしく奴らの仲間扱いされてもおかしくないよね…

  • 177二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 11:58:48

    まさかアビドス(クロコ)が宣戦布告してるなんて思うまいて…当のアビドス対策委員会すら知らないんだから

  • 178二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 14:28:54

    これ思ったけど、未来イブキ、帰ったら3人から凄い問い詰められて、返答次第だと、凄いお仕置されるやつ

  • 179二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 15:13:05

    ゲヘナ本隊(チアキ・マコト・イオリ)→宣戦布告してきたアビドスから被攻撃(実際にはRABBIT小隊)、ミレニアムドローンとも交戦中?
    RABBIT&ミカ&ミレニアムAIドローン→ゲヘナと誤解したクロコと交戦&先生の意図があると踏んでゲヘナ本隊と交戦、足止め
    アビドス&ゲヘナ調査隊→親善中
    ハイランダー→アビドスの依頼+荒れてる状況からアビドスに急行中、ゲヘナ本隊の交戦を確認
    クロコ→ん、ゲヘナの侵攻からアビドスを守る(宣戦布告&RABBITに攻撃)
    未来イブキ&ホシノ→アビドス砂漠の谷間から脱出途中、ビル崩落に巻き込まれる

    先生→あちこち調整しつつ事態解決のために動いている?
    トリニティ→ミカを派遣して政治的優位と先生に恩を売りたい

    未来ミカ&未来サキ→未来イブキが死亡したものと判断
    未来ホシノ→砂漠でありえない何かと遭遇
    未来ハルカ→アビドスから子ウサギへの物資運搬中に事故、その際現在のゲヘナ本隊を視認?

    ???→未来と現在をつなげたと思しき誰か、未来イブキへメールを送った?

  • 180二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 20:39:19

    待機

  • 181二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 20:52:33

    >>178

    そうやって問い詰められたりお仕置きされてる時にふと笑みが溢れてしまうんだよね…

  • 182二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 00:41:33

    >>181

    この先どうなるかは分からないけど、イブキは自分が弱かったせいで失った人たちを助けることはしても、

    この時代に残ろうとは思わなそうだね

    自分の居場所は、あの地獄の中にあるキャンプ地なんだ、と

  • 183二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 01:09:00

    過去を改変して未来を変えようとか、幸せな時代にどうやったら馴染めるのかとか考えずに自分は居てはいけないから早く帰らないといけないし多少滞在するにしても極力干渉してはいけないって発想になるのが…
    面と向かって言ったら本人は否定するだろうけどいい子過ぎるでしょイブキ…

  • 184二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 09:01:03

    ほしゅ

  • 185二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 12:27:14

  • 186二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 15:19:39

    最近イブキは殊更絵を描く事に傾倒している。
    毎日何かに取り憑かれたようにイブキは筆を走らせる。
    それは彼女にとって呼吸をするように自然なことで、この世界を写し出す悦びに満ち満ちた幸福な行為であり時間だった。
    スケッチブックという閉じた世界の中には色とりどり多種多様絢爛豪華な極彩色が広がり、イブキがそれをひとたび開けばそこは彼女の王国が広がっている。
    女王である彼女は宝物である絵をなぞり、描いた時の華やかな記憶を思い出し心を躍らせるという「創造主」にしか許されない悦びを受け取ることが出来るのだった。

    最近そんな彼女の王国にまた幾つかの宝物が追加された。
    正確に言えば先日から追加され続けていて、スケッチブック外の画用紙に描いた物も含まれるそれは幾人もの生徒達の姿を描いた物だった。万魔殿生徒会、遠征で訪れたアビドス対策委員会、他にも多種多様な人達を描いて宝物庫に収めている。
    大人や大人に近い人が見ればそれはただの落書きにしか見えないだろう。しかし彼女にとってはそれは「強く美しい理想の女の人達」の姿だった。
    自分が将来大人になったらどんな姿になるのだろう?と描きながら沢山想像した。いくつかその想像図も描いている。
    そのせいでいつの間にか宝物庫はずっしりと重くなったが、彼女にはその重さがとても愛おしく大切な物だった。

  • 187二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 15:23:02

    「どうせ夜には戻るのですからいいじゃないですかイブキ」
    「違うの〜!いま描きたいの〜!」
    だからこそ、その日の行動にスケッチブックを忘れてしまった彼女はとても機嫌が悪かった。
    同行するイロハ達からすればどうせ夕刻には再び学校へ戻り近隣に構えた宿泊地に戻るのである。当然イロハ達の武器と調査に必要な物品を除いた荷物も宿泊地にあり、1日それを放っておく事に何の不満も不安も無かった。
    ただ、そこが大人になりつつある少女達と大人に焦がれる少女の違いだろう。
    彼女にとって大事な物はいつでも傍に置いておきたいというのが心情なのだ。子供がぬいぐるみを求めて駄々をこねるのと一緒の理屈と言える。
    「分かりました、じゃあメモ帳と鉛筆でも…」
    「む〜〜っ」
    どうやらダメらしい。護衛達もどうすべきか分からずイロハの方に視線を送り、イロハはその度に首を横に振る人形へと堕していた。これは今日は面倒な1日になりそうだ。

    イロハイブキ両名の到着の翌日。現在時刻はAM9:23

    車に揺られアビドス市街地に向かうイロハ達の頭上に日光が輝く。
    すでに太陽は正中に上り気温は高い。砂漠を擁する自治区らしい日光がイロハ達の肌を焼き、強い風が吹くと口に砂粒が入り込む。
    アビドスで暮らす人々にとっては当たり前の事に辟易しつつ、イロハ達の遠征の1日目が幕を開けようとしていた。

  • 188二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 19:51:13

    現在のイブキにカメラが当たっているときもかなりハラハラするなあ……
    現在イブキからしてもそんな姿受け入れがたいだろうし

  • 189二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 00:08:56

    保守

  • 190二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 07:17:23

    未来ホシノが現代に転移したのかと思ってたけど何を見たんだろ

  • 191二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 07:27:25

    そろそろ次スレだね

  • 192二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 10:37:50

    ===========================

    繋がってしばらくは状況の把握に努めた。
    「彼女」の存在を知覚し歓喜に震え邂逅を約したメッセージを送ったのも束の間、この世界が分岐した世界の一つだと気付くのに時間をそこまで要しなかった。

    それに関しては絶望の一言に尽きる。

    僅かな可能性を辿って辿り着いたというのにこの仕打ちとは。テクスチャが貼り変わることなく世界が平穏無事に続いているこちらと、乱雑にテクスチャが剥がされ出鱈目なテクストが縦横無尽に張り巡らされたあちら。
    信じるべき神など持ち合わせない身だが、なぜこんな残酷な事をと天に向かって唾を吐き掛けたくなる。
    こんな事が許されてなるものか。
    せめて神にも地獄の底まで付き合ってもらうとしよう。

    数瞬思考を巡らせる。
    この世界とあちらの世界の差異。なぜこの世界がこう成るに至り、向こうの世界は何処で踏み違えたのか。
    思考を閉じる。
    情報が足りない。判断するための情報を集めなければいけない。
    ゆえにこちらの担当者に問い掛ける。

  • 193二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 10:39:13

    帰ってきた答えと自身が持ち合わせるものを統合した結果、容易に答えを導き出す事が出来た。
    ならば次にやるべき事は決した。
    この提案をすると担当者は渋ったが、こちらの意図を伝えると極めて嫌そうな顔をしつつ渋々と同意してくれた。
    しかし同意してもらわなければ困る。
    もしも断固とした拒否をされていたら、比喩表現ではあるが身柄を拘束しそのまま縊っていただろう。そうならずに済んで本当によかった。協力者は多ければ多いほどいい。

    自身の世界ではとっくの昔に見えなくなった澄み渡った空に手を伸ばす。
    美しい、本当に、本当に美しくて涙が溢れそうになる。
    この空の向こうに『彼女』がいる。
    それを希望にしてさっそく仕事に取り掛かるとしよう。




    この世界に、あの世界の行先をなぞらせる



    =============================

  • 194二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 10:44:54

    (ss書かせて頂いてる者です。月末まで一身上の都合で忙しくなるため、次スレ立っても三日か四日に一回くらいの更新になってしまうと思うと思います。その時に元スレ主ではないものの僭越ながら私が立てるか、その時に新しく立ってるスレに書き込むかどちらかにしたいなと思います。)

  • 195二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 14:14:39

    (書いてたけど載せ場が無かった未来赤冬小話)



    駆ける、駆ける、駆ける。
    雪原のウサギより早く、血を失い過ぎて熊よりも重たい身体を引き摺って。
    何度も何度も雪に脚を取られ、その度に雪の白いキャンパスに赤い絵の具が染み込んで行く。

    「止まれ貴様!止まらんと本当にヘイローを砕くぞ!」
    背後から聞こえる声に僅かながら振り向くと、数人のレッドウィンター兵がこちらに銃口を向けているのが見える。
    まずいと思い目前の雪が分厚い事を祈って五体投地のまま突っ込むと、予想より浅くて肩口を銃弾が擦過する。
    「があっ…!」
    幸いな事に軽傷と言える。すでに腕に一発喰らって体力を消耗しているので、もしもさらに風穴を開けられたら本当に危なかった。
    こうなったら反撃するしかない。しかし武器はここまで来る途中に落としてしまった。
    ならばもう残された手段は一つ。使いたくなかったが背に腹は替えられない。
    「最後の虎の子の一個…!頼みますわよ!!」

    思いっきり腕を振り抜き投げたのは手榴弾。しかしそれはただの手榴弾ではない、特別製だ。
    「……!まずい伏せッ……!!」
    直後に聞こえるレッドウィンター兵の焦った声と、それを圧する轟音と閃光。
    雪の中に屈んでいるが爆発の圧が肌を打ち、彼女に根源的な恐怖を想起させる。
    あんな物を直前まで服の下に抱えていたのだと思うとゾッとする。

  • 196二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 14:16:52

    時間にして数分。
    ゆっくりと雪から身を起こし、静寂に支配された雪原を振り返るとそこにあったのは見慣れた光景だった。
    先程まで彼女を追っていた兵隊達がただの肉片に成り果てている。息絶えて間もないため、肉体の破断部からは白い湯気がうっすらと立ち昇っていた。
    そう、人だったものが転がっている見慣れた光景だ。
    今こそ人口が減って道で死体を見る頻度も減ったが、かつては街を歩けば1日5ダースは見た光景だった。
    「あんなに偉そうにしてたのに、中身は変わらないですね。」
    レッドウィンター書記長直属の飼い犬達。
    今は誰がどのようにその地位にいるのかは知らない。連河チェリノは『異変』の最初期にクーデターでレッドウィンターを追われ、遠い異国で側近達共々命を落としたと聞く。
    あれ以来校区を閉ざしたレッドウィンターは現在、言葉で言うには足りない暴政と愚かな独裁政治の只中にある。
    とてもではないが彼女が許容できる世界などではない。

    「ここは……よし、6番目のアジトより少し西側ですわね。」
    あと10分も歩けば拠点に着くだろう。しかしそれまでこの身体が持つだろうか。
    いいや、なんとしても辿り着くのだ。
    レッドウィンター解放のために戦った仲間達の死を無駄にしないために今ここに立っているのだから。
    「メルリーさん、このお手紙は必ず227までお届けしますから」

    レッドウィンター知識解放戦線あらため各組織と同盟を結んだ「レッドウィンター解放戦線」。
    彼女…三善タカネはそこに身を置き戦いながら、「いつか」と願っている。
    開かれ自由になったレッドウィンターで新しい「ルナ」を皆で作るのだ。そしてそれは過去の続刊ではない。


    新しい世界で皆が一緒に自由に読めるような、まったく新しい───



    (幕)

  • 197二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 20:31:30

    このレスは削除されています

  • 198二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 22:44:44

    次スレは待つ間に語りたい人がいれば立てる、そうでなければSS作者さんのタイミングで、ですかね

    イブキのことを求めているのに、どうも推定元凶の人は現在の平穏なキヴォトス側に所属してるっぽいのが謎だな……もしくは3つ目の世界でもあるのか

    未来赤冬、案の定の言論統制と粛清の嵐でアカいなあ……!

  • 199二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 06:35:07

  • 200二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 07:35:29

    このレスは削除されています

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています