【SS】じてんしゃにのろう!

  • 1二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 02:05:59

    イクノディクタスは図書館のあるコーナーの前で足を止めた。
    なかなか人が寄り付かないコーナーに誰かいる。よくよく見れば、それは思いがけないウマ娘だった。

    「何かお困りですか? ──ドゥラメンテさん」

    しゃがんで棚の一角を見ていたそのウマ娘──ドゥラメンテは、そのままイクノを振り返った。
    その後ろには、この図書館に数冊しかない、自転車に関する本が並んでいた。

    トレセン学園の図書室は流石の名門校だけあって蔵書も多いが、そのほとんどはレース関係のものに絞られてくる。
    レース以外のスポーツについてはひとつの棚の下半分、しかも自転車ともなれば片手で足りる冊数である。自転車で行ける距離なら自分の脚で行くし、走れないとなったらそれは自転車に乗っている場合の怪我ではない。そういう訳でウマ娘の自転車競技の人口は少ない。

    だから、イクノは少しワクワクしていた。自転車に関心があるか、そうでなくともそれに関わる悩みがあるなら是非手伝いたいと思った。
    ドゥラメンテは少し考える素振りをして、訥々とこういう内容のことを語った。

  • 2二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 02:06:18

    一族の者が主催するパーティに呼ばれたドゥラメンテとそのトレーナーは、余興のビンゴ大会に参加することになった。
    そこでなんと一等を引き当てたトレーナーの景品は、今度発売するニューモデルのロードバイク。
    壇上で司会から景品の紹介を受けるトレーナーを見ながら、主催者である親戚はドゥラメンテの横に来て「よかったねえドゥラメンテちゃん。トレーナーさんと一緒に走ってみたらどうだい」と小さな声で言った。
    曰く、そのロードバイクはヒトとウマ娘が並んで走ることをコンセプトに作られたものらしい。ウマ娘の方もロードバイクに乗って、のことであるが。
    大型スクリーンで映し出される新CMには、ウマ娘と男性が揃いのデザインのロードバイクで海沿いの道路をどこまでもどこまでも走っていく様子が描かれていた──。

    そのCMを、ドゥラメンテがどんな顔で見ていたのかは分からない。しかし数日後には、その親戚からドゥラメンテの分のロードバイクやその他一式の用具までが届けられていた。

    しかし、ドゥラメンテはロードバイクに乗った経験は無い。スピードが出るものであり、それ相応の知識と準備がないと安全は保障できないことは知っている。それが、トレーナーと共にという話であればなおのこと。
    そういうわけで、まずは知識をつけるために図書館に来たが蔵書が少なく、自分の得たい知識を充分に得ることはできなかった。

  • 3二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 02:06:55

    その話を聞き終わったイクノは、ひとつ大きく頷いた。

    「その悩み──私に協力させてください」

    イクノはフレームをきゅっと押し上げた。
    なんとも頼もしい仕草だった。


    イクノが提案したのは、まずは自分とドゥラメンテとでロードバイクに乗ることだった。トレーナーと幾度となくロングライドに出かけた経験から、速度や気をつけるポイントを踏まえたデータは整っている。
    イクノは走りながら、それらを惜しむことなくドゥラメンテに伝えた。ドゥラメンテは良い生徒だった。

    そうして全ての準備が整った。
    最後にドゥラメンテは丁寧に礼を言った。そして、何か自分にできることはないかと聞いた。

    「いいえ。私は私がしたいことをしたまでです。そして、私はもう──とても良いものを、もらいました」

    イクノは笑ってドゥラメンテを送り出した。
    耳をくすぐる柔らかな風が吹いて、イクノはドゥラメンテと走ったある日のことを思い出した。

  • 4二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 02:07:14

    「ここで休憩をいれるのがいいでしょう。トレーナーさんの疲労の度合いも見ながら、10分程度は置きましょう。景色もいいですし、写真等を撮るのも良いかと」
    「──そうか」
    「具合はいかがですか?」
    「変、だな」

    イクノはハッとドゥラメンテを見た。しかし、不調を訴えているにしては高台から景色を眺めているドゥラメンテの表情は穏やかだ。

    「──自分の脚でないもので走ることがこんなに楽しい。ペダルを踏むだけで前に進んでいく感覚に慣れると、自転車が走っているのか自分が走っているのか分からなくなる⋯。それが、何だかたまらない」

    ドゥラメンテは自分の自転車のハンドルを撫でながら言った。風に髪が揺れて、印象的な紫の瞳が見えたり見えなくなったりしていた。
    そんなドゥラメンテを見ながら、イクノは胸があたたかくなった。

    イクノは見返りを求めていない。周りの手助けをするのは自分がやりたいからだし、そのせいで目の前のタスクが増えたとしても、周り周って自分のためになると信じていられる。

    だから、このあまりに大きな返礼を予想することはできなかった。

    自分の好きな物を、誰かが好きと言ってくれた。
    そんな、ささやかで望外な喜びのことを、一生忘れないだろうな、と思った。

  • 5二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 02:09:55

    おしまい

    ランダム機能再び

  • 6二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 02:27:05

    書くのが早いでやんす!
    お疲れ様でやんす
    ランダム機能でここまで書けるのすげぇでやんす
    トレウマやウマウマともまた違うトレセンならではの青春の一幕みたいな主のSSいいでやんすねぇ
    清涼感あふれて夜中でも目がすっきりするでやんす
    サポカイベントでもこのイベント実装してほしいでやんす

  • 7125/03/27(木) 02:37:21

    >>6

    もしかして昨日のも読んでくださってる!?読んでくれるだけで嬉しいのに感想までありがとうございます⋯!

    トレウマもウマウマも好きだけどこれくらいのほんのりした交流を考えるのも好きなのでそう言っていただけて何よりです!嬉しいコメントありがとうございます!!!

  • 8二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 03:49:29

    偶然の出会いっていいですね。

  • 9二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 06:20:44

    お疲れ様です
    なんでしょうか…この、凄く良かったです!

  • 10二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 07:22:55

    爽やかないいお話でした
    ありがとう

  • 11二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 10:18:22

    こんな学生生活送りたかったな…

  • 12二次元好きの匿名さん25/03/27(木) 11:18:05

    アニバーサリーのガチャピックアップの二人がこんな絡みしてたらと思うと夢しかない
    素晴らしいSSをありがとう
    感動した

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