すみませんここに来れば

  • 1二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 00:33:39

    仕事中に思いついたウイヒナを投げていいと聞いたので投げますね

  • 2二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 00:33:59

    ペンギンがいる。
    ぽってりと丸いペンギンが、カウンターに乗っかって私を見つめている。黒い身体に真っ白なおなか。胸元の黄色が眩しい。くりくりとしたつぶらな瞳には、眉根を寄せた私が映りこんでいる。

    「……なぜ?」

    ここはトリニティ学区にあるコーヒーショップ。極地でも動物園でもない。つまるところ、このペンギンもただのぬいぐるみだ。お腹のあたりにタグも見えているし。
    しかし、なんでこんなところに居る……置いてあるのやら。率直に言って、場違いでは無いだろうか。

    「気になりますか?」
    「……ええ、まあ」

    バイトの店員が、袋詰めの終わった豆を手渡しながら尋ねてきた。
    言及されるほどにぬいぐるみを見つめていたと気付かされて、顔がじくりと熱を持つ。
    それを誤魔化すために、私は目を伏せた。

    「看板娘って言うんでしょうか。少しでも話題になると良いなと思って……ほら、トリニティってやっぱりお茶のお店の方が人気ですし」

    店員が上機嫌にそうにペンギンの頭を撫でながら言った。

    「はぁ、まあ……良いんじゃないですか……?」
    「わ、そう言ってもらえると嬉しいです!」

    ぬいぐるみで話題作りとはまた安直な……とか、コーヒーとペンギンって別に関係ありませんよね……とか、そういう冷や水めいた言葉を飲み込んで、代わりに生返事を捻り出す。
    そんな安っぽい肯定でも、店員は満面の笑みを返して来るから私は居心地が悪くなってしまう。切らしてしまった豆を買いに来ただけなのに、何故こうも気を揉まなくてはいけないのか。私は理不尽さに歯噛みしながら数枚の小銭と引き換えに袋を受け取り、そのまま足早に出口へ向かう。

    「ありがとうございましたー!」

    店員の声が、追いかけてくる。振り返ることなく、私は店を後にした。

  • 3二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 00:34:32

    春の日差しに背を向けて、古書館への道を辿る。
    そんな私の頭の中は、ペンギンで一杯だった。
    もたもた覚束ない足取りで歩いて段差に躓いて転ぶ。カメラマンの周りに集まって興味津々で見上げている。直立したキウイフルーツの様な雛。ふわふわ。もちもち。
    動画で、文献で。これまで見たペンギンにまつわる記憶が、炭酸飲料の気泡の様につぎつぎ浮かんでくる。

    (……なぜ?)

    そうやって思いを馳せる程、私はペンギンへの思い入れは無い。可愛らしい造形をしているとは思うが、その程度だ。
    或いは、安易な思い付きに駆り出されたさっきのぬいぐるみに思う所でもあったのか。

    (……まあ、意に反して外に引っ張り出されるのは、御免被りたいものですから)

    ……頭を過った思考があまりにも馬鹿馬鹿しくて、私は思わず首を振る。苦笑いも浮かべていたかもしれない。ぬいぐるみに同情するほど、自分が感傷的だったとは。
    カウンターにぽってり乗っかって、何も考えていなさそうな顔で(実際何も考えていないのだけれど)客を待つペンギンのぬいぐるみ。その姿が想起されて……そして気づいた。

    (……そうか。あの色合い)

    黒と白と黄色。ペンギンを構成するその三色がしっくりくるというか、馴染むというか……とにかく、言い知れない充足感があるのだ。

  • 4二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 00:34:52

    (でもどこで……いや、なにで……?)

    然れば、その感覚の由来がどこかを探ることに思考が変わる。
    この間修復した子の表紙、私物のペン、クローゼットの奥にしまいこんだ水着……
    順番に思い浮かべて、そのどれもがピンと来なくて、指が豆の袋をカリカリと引っ掻いて……私は柔らかい何かにぶつかった。

    「きゃっ!?」
    「あぇ……?」

    ぽよん、と柔らかく弾力のある感触に弾かれて、身体がのけ反る。重心が後ろに傾いて、不快な浮遊感が身体を包み込んで……

    「あぶない……!」
    「ぐぇ……っ!?」

    今度は、強烈な圧迫感。肺から空気が押し出されて、変な声が出た。一拍置いて、心臓がバクバクと暴れ出す。誰かの腕に抱き留められている事に気づいたのは、さらにその後のこと。

    「大丈夫ですか、ウイさん!?」
    「だ、大丈夫なので緩めてもらえますかヒナタさん……!」

    みしみしと軋む身体に危機感を覚えて声を張り上げると、その“誰か”……まあ、ヒナタさんなのですが。彼女はぱっと腕を緩めて私から離れた。

  • 5二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 00:36:02

    「ごめんなさい、ウイさんに怪我が無くてよかったです……」

    ヒナタさんがしゅん、と身体を縮めて謝ってきます。まあ今回に関しては私が注意力散漫になっていたのが悪いのだけれど、どう伝えた物か。そう考える中で、気が付いた。
    ヒナタさんの格好……黒を基調とした制服に、白のレース。裏地に黄色の布があしらわれたベール。その色合いはまるで……

    「……成程」
    「あの、ウイさん?」

    胸に引っかかっていた疑問が、するりと飲み込めた。

    「……ヒナタさん、アイスアメリカーノでも飲みます?」
    「え?あ、では……」
    「……細やかなお礼ということで」

    しばらくはヒナタさんの事を見る度にペンギンを思い浮かべてしまうだろう。そんな確信を胸に、私達は古書館へと向かったのだった。

  • 6二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 00:38:25

    投げました

    ✌ダブルピース✌

  • 7二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 00:41:17

    えっかわいい
    かわいい……ありがとうございます

  • 8二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 00:44:32

    当店セルフサ……ッ?!?!
    ウイのヒナタに対するちょっと特別な感情が見えるいいSSだ……

  • 9二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 00:52:52

    ペンギンが好きです
    ウイヒナも好きです
    じゃあ混ぜたら宇宙最強じゃないか?と思って書きました

  • 10二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 00:57:40

    この穏やかな感じ好き

  • 11二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 08:06:57

    なるほどね


  • 12二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 10:35:20

    >>11

    かわいい

  • 13二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 11:08:05

    可愛かった。
    気が向いたらまた頼む。

  • 14二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 11:22:29

    ウイヒナなんてなんぼあってもええですからね

  • 15二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 20:05:38

    おまけ

    氷水を入れたグラスが二人分。そこに、濃く煮だしたコーヒーを注ぐ。
    こうやって急冷することで、コーヒーの持つ香りと風味が濃縮されたように引き立つ。私の細やかなこだわりだ。
    ぱきぱきと音を立てて氷にひびが入り、バランスが崩れてからりと動く。

    「……あ」

    それで、思い至る。
    氷。だからペンギンなのかと。

    「安易……という訳でもないのかもしれませんね」

    グラスの中の、小さな氷の大地。そこにペンギンの群れる様を想像して、私は小さく笑った。

  • 16二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 20:55:46

    もう一個温めてるネタがあるのでスレが残ってたらここに、落ちてたらまたスレ立てますね
    ✌✌クアドラプルピース✌✌

  • 17二次元好きの匿名さん25/03/28(金) 20:56:57

    普通にヒナタか…意外性をついてヒナが出てくるかと思った

オススメ

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