- 1ぬ25/03/29(土) 00:57:14
- 2ぬ25/03/29(土) 00:57:27
カーテンの隙間から漏れ出る陽光に当てられ、目が覚める。
急速に覚醒していく意識に反し、再びベットの中の微睡に身を委ねたいという欲望が湧き上がってくるが、噛み潰すようにして起き上がる。
今はそんな欲にかまけている暇など無い――。
身支度を整え気合を入れていくが、気持ちはどんどん落ち込んでいった。
目覚めた少女――桐藤ナギサの心中を渦巻くのは罪悪感。
【エデン条約】を成功させるために切り捨てようとした生徒たちへの、同じ分派の同輩たちへの、他分派の首長たちへの、シスターフッドの皆様方への、そして――。
「……よしっ!」
汚泥のように心から零れ落ちそうになった罪悪感に蓋をして、今日も「桐藤ナギサ」が完成する。
落ち込んでいる暇など無いのだ。
今は一分一秒でも惜しい。
そんな正論で自身の尻を叩き、私室から私の戦場へと身を投じる。 - 3ぬ25/03/29(土) 00:57:48
【エデン条約】の破断。
元々は別の思惑があった条約だが、主導していた連邦生徒会長の失踪。
そのまま空中分解されるはずだった条約だったのだが、待ったをかけたのがティーパーティのホストの一人、フィリウス派首長の桐藤ナギサだ。
乗り気ではないゲヘナの万魔殿ではなく、風紀委員長から口説き落とし、なんとか復活させたエデン条約。
しかして楽園は――嘲笑うように砕け散った。
「――はあ」
いまだ一人しかいない執務室でため息を吐く。
時計の針はまだ5時を指しており、普通の生徒ならばこの時間帯に起きてきているのだから当然ではある。
エデン条約はアリウス――過去トリニティ合併時に生贄となった学園――によって崩壊させられてしまった。
ゲヘナとトリニティ、個人的な生徒間での繋がりは生まれたらしいが、求めいた成果に比べれば些末な話。
つまりは、エデン条約は失敗したのだ。
そして、失敗には責任が付き物だ。 - 4ぬ25/03/29(土) 00:58:02
全てを計画していたアリウスの生徒会長の身柄を押さえられれば良かったのだが……主犯格共々見事に逃げられてしまった。
であれば、次に責任を取る人物が必要だ。
少し話がズレるが、万魔殿の議長である羽沼マコトはトリニティで発生した爆発に巻き込まれたという理由でティーパーティに美容院代の請求をしてきた。
極々少額。今摘んでいるスコーンと良い勝負をしているといえば、分かりやすいだろうか?
だからこそ厄介であった。
払うのは容易だが、払ってしまえば最後、エデン条約でのゲヘナの行動を咎めるのが難しくなってしまう。
――後から聞いた話だが、ミサイルが着弾する前に万魔殿のメンバーは会場から離脱する準備が完了していたという。
明らかにアリウスと何かしらの密約が交わされていた。しかしそれを問い詰めるだけの証拠は存在していなかった。
時間稼ぎをして証拠を洗い出そうにも、今のティーパーティにそんな暇があるわけがない。
だが無視をすれば、この程度も出せない学園であると噂を吹聴されかねない。
では、どうしたのか。 - 5二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 00:58:13
ぬってなんだよ。天の助か?
- 6ぬ25/03/29(土) 00:58:14
払った。
後々の政治的な不利益が被ろうとも、払うしかなかった。
サンクトゥス分派代表、百合園セイアの長期に渡る体調不良。
パテル分派代表、聖園ミカのトリニティに対する裏切り行為。
そしてフィリウス分派代表、桐藤ナギサが立て直したエデン条約の確定的な破断。
ティーパーティはボロボロだった。外敵に対し不利であると悟りながら言われるがまま応じるほか無かった。
ここで仮にティーパーティの完全解散が行われた場合……それはきっと地獄の釜の蓋が開くときだろう
詰まる所、今の私はどこまで行っても自己保身の塊ということなのでしょう。
「ふふっ……」
書類の束を相手取りながら自己嫌悪を一摘み。
今だってそうなのだ。
積み上げた書類の束は無能の証。謝罪行脚や各組織との日程調整で日中が使えないからこそ、今必死に処理するしか無いのだ。
これ以上、ティーパーティの品位を落とさないために。
これ以上、トリニティに混乱を産まないために。
『あはは……』
「……はあ」
苛まれる幻聴に耳をふさぎ、書類を片付けていく。
朝は、まだ来ない。 - 7ぬ25/03/29(土) 00:58:39
ちらほらと登校者が目立ち始めた朝七時。ペンを走らせる音だけが木霊してた執務室には人が集まっていた。
総勢十数名。滲み出そうになる疲労を押し殺し、平静を装うナギサを中心として会議が始まる。
フィリウス派内での情報共有と方針決定のための会議だ。
「――パテル分派は首長不在との事で一向に指針を示さずに仮の代表も立てておりません」
「それどころか元首長である聖園ミカに対する悪質な嫌がらせに関与しているとの噂も……」
「……」
表情を動かすことは避けたが、机の下で自然と手が強く握りしめられる。
今やるべきことは仮の首長でも立て、一刻も早くパテル派が立ち直ったと示すべきではないのか?
それがどうして内輪で争いを続ける幼稚な真似をしているのか?
同輩だった者たちの未熟さに、ナギサは憤慨したのだ。
出来ることならナギサ直々に意識改革に乗り出したいところだが、フィリウスがパテルを取り込み、今度はナギサがティーパーティを手中に収めようとしていると確実に誤解されるだろう。
歯がゆくもどかしいが、汚点だらけの状態では正常に戻したいと言っても説得力など欠片も生まれないのだ。
静観するしかない、今はまだ。 - 8ぬ25/03/29(土) 00:59:02
分かりきった決断を下し、ナギサは一つ息を吐いた。
何も問題はティーパーティ内部だけではない。
「正義実現委員会は問題なく機能しております。構成員の中から無作為にヒアリングした所、目立ったクーデターの意思は見られませんでした」
「トップである剣先様からは『我々は治安組織であり自らの意思で政治に関わる気はない』とのことで……」
「……それだけ、ですか?」
「……『ただ今後、本人に責もなく身柄を拘束するような真似はお控え願いたい』と」
ナギサは溢れ出そうになったため息を隠すことなく露わにした。
しっかりと情報共有は行ってくださいと、部下を窘めながら本音をひた隠す。
正義実現委員会はティーパーティの下部組織だ。
完全に制御することが難しかったからこそ、エデン条約締結前に問題を起こさないように人質として学力に問題のある一名を補習授業部に入れたのだ。
その結果がこれである。
下部組織だというのに好きに動かせないどころか、反乱の気配も漂わせている。
トップであるツルギは任務遂行時、滅多矢鱈に建物を破壊する悪癖のような物を持ち合わせてはいるが、私欲でトリニティに混乱を呼び起こそうと考えている人物ではないことは信用している。
だが今後は? このまま溝を深めていってしまえばいずれティーパーティと正義実現委員会が分離する日がやってきてしまうだろう。
それは何時かの正義実現委員会のトップが反乱を企てるという意味ではなく、他の政敵利用される可能性を見込んでだ。
いずれにせよ、仲を取りまとめなければ。 - 9ぬ25/03/29(土) 00:59:29
「救護騎士団はサンクトゥス分派の方々から頂いた情報になりますが、日々トリニティ内で怪我人を探し救護を行っているようで此方に対しクーデターを起こす暇はないとの事です」
「……ただ、もし仮にサンクトゥス分派がティーパーティの再編を目論んでいる場合、牙をむく恐れはあるかと」
「……身内であるティーパーティを、ましてや首長を救った恩義のある救護騎士団を無駄に巻き込み、纏まりかけているトリニティに再び混乱の渦を持ち込むような愚か者たちに見えますか? そうでなくとも、ヨハネ分派の首長であるミネさんは政治など興味がないと大々的に発言していますよね? 些か、思慮の浅い……愛が足りていない発言ではありません?」
諭すように、窘めるように、威圧するように。
ナギサは手を組み、発言者に対しにっこりと笑顔を見せた。
大慌てで謝罪をする部下を見ながら、人知れず組んだ手に力を込めた。
分かっている。彼女は真にフィリウス派のことを考えての発言だったのだろう。
エデン条約を破壊し、トリニティの裏切り者が誰だったのか記憶に新しい。
同じティーパーティであったパテル派首長、聖園ミカだ。
トリニティから追放されたアリウスを使いサンクトゥス分派を襲撃し、ティーパーティを手中に収めようとした裏切りの魔女。
牙が向いていたのはフィリウス派も同じで、あわやナギサも帰らぬ人となるところだった。
――ミカさんの本心は置いといて。 - 10ぬ25/03/29(土) 00:59:53
一度裏切られてしまえば、次何時裏切られるのかと過敏になっても致し方ないのだ。
まだ事件から一月も経っていないのだから。
「午後、誤解無きよう今後の方針を定める為、救護騎士団の視察に行きます」
異論はないかと部屋をぐるりと見渡すが、目に見えた反対意見は無いようだった。
それではと、空気を入れ替えるようにして次の発言者に目を向けた。
「シスターフッドですが……アリウス生徒たちのカウンセリングは未だ成功の兆しを見えていないようでした」
「外部から、見えている範囲内ですと特段目立った行動は見られませんが……」
「……」
アリウス生徒。
トリニティがトリニティたらしめる為に生贄として捧げられた悲劇の学園。
忘れ去られていた、過去の被害者。 - 11ぬ25/03/29(土) 01:00:10
トリニティの地下に眠るカタコンベの先にあるアリウス地区だが、暴走したミカさんを止めるために皆で突入をした。
制圧ついでに事件の重要参考人として、弾圧の謝罪の意も込めてトリニティ内で保護することになったのだ。
しかし、アリウスに居た全ての生徒を捕まえることが出来た訳ではない。
保護した生徒から僅かに聞き取れた話では、むしろ殆どはまだアリウスに残っていると思われた。
一応、トリニティで保護することを物資を送りながら対話の意思をアリウス生徒たちに示しているのだが、それもまた芳しくない。
それはそうと、シスターフッド。
アリウス生徒たちのカウンセリングを一任してはいるが、果たして問題はないのだろうか?
現状、最も綺麗に政争に突入し、最もティーパーティと相対する可能性があるのがシスターフッドだ。
暴走するトップを抑え、迫害された者たちへ愛を説き……実質的な戦力を拡大している。
ティーパーティの派閥にとって良くない流れが生まれている。
……恐らく、先生ならば信じることの大切を再び私に説いてくださるのでしょう。
ですが、私はティーパーティホスト、桐藤ナギサです。
そんな怠惰な、甘えた考え方をしてはいけないんですよ。
「……この後、大聖堂へ向かいましょう。お二人は大聖堂を外部から監視してください」
「はっ!」
アポも無しに首長が現場へと向かう。
非常に迷惑な話でしょうが、代わりに相手が隠そうとしているものがあれば何かしらのアクションが見れる筈だ。
保身に走り、相手の粗を探し、脅して立場を強固な物へと変える。
あの騒動が起きても変わることの無い自分に嫌気がさした。
ふと、手元を見ると自分の体で影ができ、闇の中で祈る様に手を組んでいた。
光はまだ、遠く。 - 12二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 01:05:48
政治描写をすっ飛ばして結果だけ手繰り寄せてるのが原作だとしたらそれが機能しなかった世界線と考えれば中々良いものだ
- 13二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 03:31:53
それスレじゃなくて初代スレに投げられた単なる1レスだった気がするぞ
- 14ぬ、ホスト規制25/03/29(土) 08:53:46
- 15二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 08:54:52
スレ捜索でSS書いた人初めてみた
- 16二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 08:57:51
すまん
政治家が駆け引きと内部統制で胃を痛める話が大好物過ぎて、このままSSの続き書いてくれねえかなの感想しかない
スレ主が探してるスレにも心当たりがない - 171325/03/29(土) 10:33:28
- 18ぬぇ~25/03/29(土) 16:18:49
- 19ぬ25/03/29(土) 16:19:55
教会。
朝日を浴び、聖歌が響く穏やかな雰囲気を肌で感じつつも、荘厳な雰囲気に気圧されるのは疚しい思いがあるからだろうか?
湧いて出る感情を押し殺し、そっと入り口の扉を開く。
シスターの姿をした生徒たちが胸の前で手を組み聖歌を響かせる。
まだ早い時間だというのに誰一人欠けることなく集合しているのは戒律の厳しさ故なのか、はたまたシスターフッドの組織力が為せる業なのか。
ふと現在のパテル派が脳裏に浮かんだところで、教会の隅で居心地悪そうに周囲の真似をしているシスターがいた。
(あれは……アリウス生徒……?)
なぜシスター服を?
なぜ讃美歌を?
洗脳、刷り込み、吸収……一瞬にして浮かんできた言葉の数々を振り払い、フラットな目線で思考してみる。
シスター服……これは単にシスターフッドにある物を使用しているだけだろう。
決して派閥の誇示やアリウス自治区や生徒を手にするための正当性を確保しようとしているわけではないだろう。
讃美歌……生活圏を共にし、心を開いてもらうためにただ参加してもらっているだけなのだろう。
間違ってもシスターフッドの経典を頭に詰め込むためだとか、この空間自体が洗脳するための儀式場というバカな話ではないはずなのだ。 - 20ぬ25/03/29(土) 16:20:19
漂う疑念から目を背けていると、シスターフッドの長である歌住サクラコが知らず知らずのうちに近づいていた。
「ナギサさん、おはようございます。こんな朝早くから如何なさいましたか?」
「おはようございます。ちょっとした野暮用をお伺いに来ただけですよ」
困惑が混じった小さなどよめきが二人を中心に教会内に広がっていく。
ひっそりと教会内に入ったからこそ、聖歌は止まらず謳われ続けていたのだ。
好奇心が刺激されてしまえば、自然と口も止まってしまう。
好奇な目を向けられ、陰口のように小さな声で何かを話すシスターたち。
その光景に、ナギサの心は締め付けられるような痛みを覚えた。
「……分かりました、奥の部屋で話しましょう。ここではあまりにも耳目が多すぎるでしょうし」
「お心遣いありがとうございます」
言葉を聞いてか、ナギサの状態を見てかは分からないが、サクラコは自然に教会の奥へと案内した。
ここまではナギサの思惑通りではあった。
予想外のダメージは受けたが、未だシスターたちの噂話は教会を支配しているが。
ナギサはサクラコの後を追う以外の選択肢はなかった。
一方マリーは、必死に讃美歌を謳っていた。 - 211325/03/29(土) 18:13:22
- 22ぬ25/03/29(土) 21:55:37
元々ハーメルンに放流する予定の奴なので完成させる気はあったのだ
まあ感想が無かったら普通にありがとう!~完~
だった気はします
続きます
案内された応接室は無駄に飾られていない、トリニティらしさのない質素な部屋だった。
「それで、野暮用とは?」
紅茶を出されることもなく、部屋に入り向かい合った途端、サクラコは切り出した。
すっと細められた視線に敵意こそ込められてはいないが、嘘は認めないと言わんばかりの確かな圧がそこにはあった。
「言わずとも理解はしているでしょうけれど……アリウス生徒たちについてですね」
涼しい顔で答えるナギサに反して、サクラコの表情はさらに険しくなっていた。
- 23ぬ25/03/29(土) 21:56:01
「我々ティーパーティとしても援助は惜しみませんし早急な解決を求めいてるわけではありませんが……どうしてもそれに対する不満というものは溜まってしまうわけです」
「シスターフッドは変わりました。昔のような手段を用いることはしませんし、ナギサさんの求めているような不満を解消するような情報を私たちは持っていません」
――果たして本当にそうなのか。
思わず口を突いて出そうになった言葉を飲み込み、サクラコの眼を見る。
真っ直ぐに、強い怒気が込められた目は嘘偽りがあるとはとても思えなかった。
サクラコ本人には後ろ暗いことは無いようだった。
では、周囲の者たちは? - 24ぬ25/03/29(土) 21:56:15
他のシスターたちは暴走していないだろうか?
エデン条約の際、アリウスが放ったミサイルはシスターフッドが管理していた古聖堂を見事に粉々に砕いたのだ。
そして三度、アリウスと敵対し実際に交戦した過去は消えない。
その点で言えば、アリウスも。
果たして今シスターフッドが抱えているアリウス生徒たちは牙を剥かないだろうか?
再びトリニティを襲撃する時を虎視眈々と狙っては居ないだろうか?
シスターフッドを擬似的な隠れ蓑にして、再びセイアさんを、私を、そして――。
「……申し訳ありません。心にも無いことを聞いてしまいました」
ナギサは困ったように微笑み、僅かばかりに頭を下げた。
唾棄すべき疑心暗鬼に塗れる己を締め上げ、最善の行動を取る。 - 25ぬ25/03/29(土) 21:56:46
唐突な謝罪に流石のサクラコも面食らったのか何処か居心地悪そうに視線を逸らした。
その横顔に、ナギサは酷い既視感を覚えてしまった。
それはどうしようもない自己嫌悪。
毎朝鏡の前で見る、化粧やメイクだけでは隠しきれない自分自身の横顔がどうしても横切ってしまったのだった。
「――ああそうだ、忘れるところでした」
自身の心を再び奮い立たせるためにも、現状の空気を換えるためにも、ナギサは大仰に手を合わせてみた。
ナギサの態度に気づいたサクラコも微笑みの仮面を被り直し、表面上は先程の空気が切り替わったように思えた。
「これが来週行われる会合と、その一覧です。何か不備や不明点がございましたらいつでもティーパーティにご連絡ください」
「……こんな朝早くからありがとうございます。とはいえ、こちらとしても監査の目は緩めるつもりはありませんので」
「重々承知しております。そもそも、たかだか数時間の差は意味をなさないことはご存じでしょう?」
「分かっているのであれば構わないのです」 - 26ぬ25/03/29(土) 21:57:00
――桐藤ナギサが正実を動かし、生徒四名を退学に追い込もうとした時以来、ティーパーティは自由に活動することは認められなくなった。
その監視役に選ばれたのが『シスターフッド』と『救護騎士団』。
ティーパーティが開催、または参加する会合を事前に知らせ、ティーパーティに強制的に風穴を開けた。
会合の内訳に問題があると思えば、この二組織のどちらかが前日までに一報入れれば会合を中止にすることが出来る。
因みに、期限が前日までになったのは多忙かつ政治に比較的疎い救護騎士団を考慮してのことだ。
今の所、二組織による強制介入は行われてはいない。
だが、ティーパーティからすればこれはとんでもないほどの弱点だろう。 - 27ぬ25/03/29(土) 21:57:19
出来るだけ早く三頭政治に戻らなければ、その為にはまず介入可能なサンクトゥスから立て直さねば。
でなければ、この打ち込まれた杭は滅ぶその日まで抜けなくなってしまうかもしれないのだから。
顰めてしまいそうな頭の痛みを笑顔で覆い、その場を立つ。
些か性急だと思われそうだが、残念ながら世間話をして友好を深める暇など無いのだ。
「これで用件は済みましたのでお暇させていただきますね。サクラコさん、朝早くにお騒がせして申し訳ありませんでした」
「その件は気にしないでください……それと」
外部から何か情報は得られただろうかとナギサが考えていると、サクラコはこの場に似つかわしくない優し気な笑みを浮かべた。
「ナギサさん、シスターフッドには告解室があります」 - 28二次元好きの匿名さん25/03/29(土) 21:57:44
このSSでピクニック描写の方も書けばいいのでは?
- 29ぬ25/03/29(土) 21:57:50
唐突に、そんなことを言った。
「……存じて、おりますが」
「けれど、一度も足を踏み入れたことは無いでしょう? とはいえ、一介のシスターに話せる内容など高が知れているでしょうけど……」
何処か寂し気に瞳を伏せながら、サクラコは続ける。
「どうか、お一人で抱え込まずに、どんな小さなことでも構いませんから。逃げられる場所があるのだと知っていて貰いたかったのです」
「――お心遣いありがとうございます」
ナギサに視線を戻したサクラコは、己の失態を知った。
「ですが無用な気遣いです」
では、と笑顔で部屋を出ていくナギサを、サクラコは止めることが出来なかった。
丁寧に、されど素早く閉じられた扉は、言葉で表せない程の拒絶反応を示しているように思えた。
「……主よ」
何が正しかったのか、何が間違いだったのか。
サクラコにその判断を下すには、まだ政治に対する経験値が足りていなかった。 - 30ぬ25/03/29(土) 21:58:06
教会から少し離れた路地裏で、ナギサたちは情報共有を行っていた。
「ナギサ様が教会に入って行かれた少し後に、教会から抜け出そうとしていたシスターが一人居ました」
「すぐに追いつかれて捕まえられていましたが……」
「それは……」
恐らくあのアリウスの生徒なのだろうと、察することは出来た。
「捕まえられた生徒はどのような様子でした?」
「さ、さあ……もみくちゃになって銃も使わずに再び教会に連れていかれましたので……」
「他に怪しい動きのある生徒も特に現れませんでしたし……」
教会内部での隠し通路は複数あると考えた方が良いと進言する言葉に耳を傾けながら、陽光を浴びる教会を見つめる。
恐らく、心配事は杞憂で終わるだろう。
アリウス生徒の方は分からないが、少なくともシスターフッドの方は。
アリウス生徒たちに関しても、比較すれば追いかける者の少ない夜間ではなく今脱走の気配を見せている辺り、ちょっとした甘えに近い行動なのかもしれない。 - 31ぬ25/03/29(土) 21:58:34
チチチッと、鳥たちが飛び立つ。
青空を自由に飛び交う鳥たちは、何の柵も無いように見えた。
建物によって遮られた空に写った影は、何処までも遠く。
「……ナギサ様?」
「いえ、すみません。それでは皆様はパテル派のサポートに行ってください。私はサンクトゥス派から重大用件だけ無いか聞いてきます」
「かしこまりました」
路地裏に駆けだしていく二人を見送りながら、ナギサも一歩、影に足を踏み入れる。
ふと、振り返ると暖かな日差しが照らす教会の中から再び、聖歌が響き出した。
冷たい風を前から感じながら、ナギサは後ろを振り払うように歩き始めた。
――救ってほしいのは、私ではないのだ。 - 32ぬ25/03/29(土) 22:02:54