【閲覧注意】ここだけ、ナギサ様がひっそりと入水する話

  • 1125/03/30(日) 09:43:48

    見たいよね
    書きます

  • 2二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 09:44:48

    おいおいとんでもねえな…
    ポップコーン持ってくる

  • 3二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 09:47:06

    見たいので保守

  • 4二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 09:50:30

    10まで保守

  • 5二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 09:51:44

    保守ついでに全裸待機

  • 6二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 09:55:51

    保守

  • 7二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 09:58:16

    楽しみ

  • 8二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 09:58:42

    期待

  • 9二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 09:59:11

    脱いだ

  • 10二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 10:00:06

    このレスは削除されています

  • 11125/03/30(日) 11:00:29

     酷く、穏やかな陽気だった。

     エデン条約調印式会場、ミサイルが直撃したあの日あの時あの瞬間。
     いがみ合い、バラバラだったトリニティは確かに一つに纏まったのだ。

     ETOを強行採決し、アリウスを救い、大人げない黒幕をシャーレの手を借り捕縛した。
     トリニティ内で問題がなくなった訳ではないが、確かにハッピーエンドと呼ばれるような終わりを迎えた筈だった。

    「――ナギちゃん?」
    「えっ? あ、ああ、ミカさん。どうしたんです?」
    「もう、皆でピクニックに行くって言ってるのにまだ準備してないみたいだったから呼びに来たのにどうしたのって……そんな言いかたってある?」
    「……ですから、ピクニックでは無く各派閥の垣根を超えた親睦会だと、何度言ったら分かるんですか」

     ぶー垂れるミカさんを眺めながら、ほんの僅かな期間にあった地獄を思い出す。
     トリニティの裏切り者とし、パテル派の代表を降ろされ虐めにあっていたあの時を。
     手を差し伸ばすことも許されずに、ただ眺めているだけしか出来なかったあの頃を。

     だが今は違う。

  • 12125/03/30(日) 11:01:02

    「まあ、ミカさんはピクニック気分でも許されるかも知れませんけどね」
    「うっ……で、でもこのままならまた私首長に戻ることになるし? 同じ目線だと思うんだけどなあ~?」
    「さて、同輩を待たせるわけにもいきませんし、ピクニックの準備でもしてきましょうか」
    「ちょ、ナギちゃん無視するの!?」

     黒幕を捕縛出来たおかげか、ミカさんに対する周囲からの反応はだいぶ落ち着いた物へと変わっていった。
     何よりも、ミカさんが手を差し伸ばしていたアリウス側からの証言も有ったことが大きかった。

     人知れずアリウスを取り込もうとした、野心家だとは思われている。
     けれど、トリニティを陥れようとした魔女だと思われることは無くなったのだ。

     はしゃいでいるミカさんの声をどこか遠くに聞きながら、今日行われる親睦会の場所を思い出す。
     確か、コスモスの花畑が綺麗な場所だったと思う。

  • 13125/03/30(日) 11:01:20

     遅ればせながらミカさんと共に親睦会の会場である花畑に到着した。
     既に他の組織の方々が思い思いの物を持ち寄って、交流を深めていた。

     シスターフッドであればクッキーやハーブティを。
     救護騎士団であればチョコやコーヒーなど。
     ティーパーティであればケーキや紅茶等々。

     ……何をすれば良いのか分かっていないアリウス生たちを自身の派閥の色に染め上げるためのちょっとした押し付け合いがあるものの、銃声一つない、平和な親睦会が目の前には広がっていた。

    「わっ、秘蔵のお菓子とかも配ってるみたいだよ? ナギちゃん、何処からよる?」
    「……そう、ですね。ミカさんが行きたいところからで構いませんよ」
    「そう? それじゃあシスターフッドから見て回ろっか」

     そう言って、無邪気に私の手を取り先に進んで行く。
     ふと、横目から遠くに見えた補習授業部の面々が、何やら楽しそうに騒いでいるのが見えた。
     すぐさま視線をミカさんに戻し、躓かないようにしっかりと後を追う。

     この会合はトリニティ生徒であれば参加することが許されている。
     それはアリウス生徒たちもトリニティ生であるということを示すためのちょっとした箔付けでもあるのだが、そんな裏事情はどうでもいいだろう。

     皆が笑顔で、ここに居る。
     それだけで、この会合はきっと素晴らしいものだといえるのだから。

  • 14125/03/30(日) 11:01:38

     問題を起こし、今も尚一名欠けているティーパーティがアリウス生徒たちの大部分の面倒を見ることは決して許されなかった。
     だからこそ、弱者救済を日頃行い、派閥としても比較的近縁にあるシスターフッドが主にアリウス生徒たちを受け持つことになるのは自然の流れだった。

    「あら、ミカさんと……ナギサさん。おはようございます」
    「おはよ~、シスターフッド秘蔵のクッキーを貰いに来たよ」
    「おはようございます、サクラコさん……それとミカさん、目に余る態度は止めてください」
    「別にかっちりとした場じゃないんだし、少しくらいフレンドリーな方がシスターフッドとしてもやりやすいでしょ?」

     それをこちらから口に出すなと、内心で溜息を吐いているとサクラコさんは穏やかに微笑んだ。

    「そうですね。今回は気を張らなくとも問題ない場所、というお題目ですし。先程のような態度の方が好ましいですね」
    「ほら~」
    「ほらーじゃありません……クッキー頬張りながら人に指を差さない」

     奔放な真似を続けるミカさんに頭が痛くなってくるのを感じていると、サクラコは淑やかに笑った。
     けれど微笑みはすぐに消え去り、まるで懺悔でもするかのように沈痛な面持ちで語りだした。

  • 15125/03/30(日) 11:01:58

    「我々は、余りにも距離を置きすぎたのだと思います」
    「……」
    「もぐもぐ」
    「血も涙もないと、あの時、ナギサさんを糾弾しましたが……それは、ティーパーティからしてみればシスターフッドにも言える言葉だったのではと、思えてくるのです」
    「それは……」
    「さくさく」
    「エデン条約のあの日、傷だらけになりながらも立ち上がり、トリニティを、ゲヘナを……そしてアリウスまでも救おうとしていた貴方を見れば、分かります。ナギサさん、貴方は血も涙もない人では無く、ただ優し過ぎた人なのだと」
    「そんなことは決して――」
    「ずずーっ」
    「ああもうっ! さっきっから何なんですかミカさんは!」

    「ここは親睦を深める場所で、罪を吐き出す空間じゃないんだけど? ナギちゃんこそ、ちょっと落ち着くべきじゃない?」

  • 16125/03/30(日) 11:03:13

    書き溜めもしてないから一旦ここまでじゃんね
    因みにここのナギちゃんはすーぱーナギちゃんだから原作ブレイクしてるじゃんね

  • 17二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 11:04:54

    入水って聞いて身構えちゃった!

  • 18二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 11:06:45

    あんた助けてくださいってスレの人かい?保守出来ずに言うのもあれだが前の続きもみたいなと思ってるんだがどっかに投げたりした?

  • 19125/03/30(日) 11:10:54

    >>18

    助けてくださいの人ですね

    完成したらハーメルンに投げる予定ではありますが、前の奴はまだ50%しか書き終えてないし締め切り(スレ落ち)も無くなったのでもうこっち書き始めてます

    楽しみにしてくれてありがとうだけど、ごめんね……!

    溢れ出るナギサ様を湖にぶち込む欲求を抑えきれないの……!!

  • 20二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 11:13:48

    >>19

    了解した!どちらも楽しみにしてます

  • 21125/03/30(日) 12:31:22

    >>15

     それは私に言っていて、けれどサクラコを刺している言葉でもあった。


    「そんな話より、私はこのクッキーの話でも聞きたいかな? 何だか目が冴えて来るし、何入ってるの? 違法ハーブとか?」

    「ミカさん!?」

    「た、確かに以前のシスターフッドではそう言った物も扱っていたとは聞き及んでいますが……!」

    「サクラコさん!?」

    「な、な~んて、単なる冗談じゃんね。ちょっとしたアイスブレイクのつもりだったんだけど……」


     三人寄れば姦しいとはこの事かと、どこかズレた思考をしながら聞いていない独白を続けそうになるサクラコさんを止める。

     私たちだけの空間ならばまだしも、至る所に耳目があり、後々の禍根とも言えることをこんな所で吐き出して欲しくは無かった。


     ……あっ、生徒たちがクッキーを返しに来た。


    「や、やはり、私たちはそのような集団だと周りから見られているのでしょうか……!!」

    「ああ、ちょっと! こんな時に周りから頭下げてるように見られるような恰好は止めてってば! な、ナギちゃ~ん!」

    「……」


     慌てふためくミカさんを尻目に、シスターフッドに返却されたクッキーを一枚貰う。

     素朴で、ティーパーティでは決して出されないであろう不格好なクッキーだなと思いつつも、一口齧る。


     何故か、目の前に居るシスターが息を飲む音が聞こえた。

  • 22125/03/30(日) 12:31:37

    「……ローズマリーですね。少し、癖が強いですし……クッキー一枚とは思えない程度の満腹感も感じられますね。サクラコさん、これはどのような時に食べるクッキーなのですか?」
    「こ、これは夜通し行われる祭事や宿舎の警備を行う者たちに配られるクッキーです。眠気覚ましや、空腹感を紛らわすためのちょっとした工夫がされているんです」
    「なるほど……ですが、それだけではありませんよね?」

     思考が冴え渡る。
     きっとそれだけでは無いのだ。この場に出すクッキーとして、これ以上無いくらい相応しい理由があるのが分かる。
     サクラコさんに笑いかけると、サクラコさんも何時もの笑みを取り戻して答えてくれた。

    「これは、アリウス派の生徒たちに手伝ってくれたクッキーなんです。些か不格好ではありますが、味のほどは問題無いはずですが」
    「勿論、十二分に美味しかったですよ。ですが、この後も回らないといけませんからこの一枚だけで充分ですよ」
    「満足して頂けたのなら何よりです」

     ニコリニコリと笑顔が飛び交う。
     クッキーを返した生徒たちも、謝りながら再度クッキーを受け取ろうと戻ってくる。

     これでいいのだ、これが良いのだ。

     そんな満足感に浸っていると、サクラコさんは少しだけ表情に影を落とした。

    「申し訳ございません……お手を煩わせてしまい」
    「構いませんよ。お手を煩わせるだなんて、言ってしまえば我々はアリウスの保証を全てシスターフッドに押し付けているんです」
    「ですが、また皆さんに要らぬ誤解を」

    「変革に痛みは付き物です。シスターフッドは変わって行ってるのです、より良い方向に」

  • 23125/03/30(日) 12:31:59

    「……そう言っていただけるのであれば、これ以上悩んでいても仕方ありませんね」
    「ええ、悩みなんて――悩むなんて、大抵どうしようもないことか、どうでもいいことの二つですから」
    「? それは」
    「――ナギちゃーん!」

     サクラコさんを遮るように、ミカさんが飛び込んでくる。
     ……何故か小脇に、シスターを抱えたまま。

    「な、何をしているんですか? ミカさん」
    「ちょーっと、お話聞いてもらいたいかなって。ほら」
    「あっ、えっと、その……」

     綺麗に整えられていたであろう金髪は少しだけはねて、落ち着けなさげに修道服の握る。
     どういうつもりかとミカさんを見ると、どこか優し気に、そして申し訳なさそうに此方に一つウィンクを飛ばした。

     思わず零れ落ちそうになった溜息を飲み込み、目の前の生徒が落ち着く様に笑顔を見せる。
     しかして逆効果だったか、顔を赤らめいっぱいいっぱいになった表情で彼女は言葉を吐き出した。

    「あ、あの! お、美味しかったでしょうか! わ、私、お菓子作りなんて今回が初めてなのに、その……えっと……」
    「――大丈夫」

  • 24125/03/30(日) 12:32:15

     俯き、修道服を握りしめる彼女の手を包み、上がってきた視線に合わせるようにして答える。

    「作って頂き、ありがとうございます。様々な困難がこれからも待っているでしょうけども、私たちは決して――」
    「な、ナギちゃん。盛り上がってるとこ悪いんだけど……」
    「えっ?」

    「う”う”う”う”う”~~~~~!!!」

    「もう、聞こえてないみたいだから……」
    「……どうしましょう」

     涙と鼻水をこれでもかと流す彼女に手の施しようが無いと困惑するティーパーティ。
     ティーパーティは泣く子に弱いとどこかに書かれるだろうかと、シスターフッドの皆様と協力して何とか慰めることは出来た。

  • 25125/03/30(日) 12:34:18

    とりあえずここまでじゃんね
    遅筆な癖して描写を盛り始めると際限なく脱線して行くからシスフで区切って投稿しちゃうじゃんね
    多分湖に泳ぎに行くのは同程度の文量を書いた後になりそうじゃんね

  • 26二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 14:02:56

    じっくり煮詰めてからひっそり入水するのが鬱くしいと思うので遅筆だろうと構わない
    それに凝った描写は好きで読んでて楽しいのでゆっくり待ってます

  • 27125/03/30(日) 15:39:45

    >>26

    嬉しいこと言ってくれるじゃんね

    感想を貰えるとやっぱり筆が乗るじゃんね

    ク〇ゲやりながら書いてるけど

  • 28125/03/30(日) 15:40:25

    >>24

    「大丈夫、なのでしょうか」

    「気にし過ぎだって。それに、たぶんもっと大変だったと思うから気にするだけ無駄だと思うけど?」

    「それは……そうですね」


     交流もそこそこに、私たちはシスターフッドが設営したエリアから離れた。

     長居し過ぎても迷惑でしょうし、何より主役とも言える来賓が来る前に内輪での挨拶は終わらせておきたかった。


    「そういえば……ティーパーティの設営はセイアさんがやってくれたんでしょうか?」

    「あははっ、出不精なセイアちゃんが態々音頭を取るわけないじゃん。私だよ、わ・た・し」

    「ミカさんが……?」

  • 29125/03/30(日) 15:40:45

     少し……いや、かなり驚いた。
     今の彼女はティーパーティの一員ではあるが、パテル派の代表ではない非常に複雑な立場だ。
     同じパテル派で手伝ってくれる人物がいるであろうことは想像に難くないが、全体の指揮を執るために彼女自身のプライドを打ち壊す真似を一つか二つは行ったはずだ。

     そんな驚嘆した表情が顔に出ていたのか、ミカさんはどこか苦笑いしながら答えた。

    「確かに、ね……一筋縄じゃいかなかったよ。どの面下げてって見てくる人も居たよ。でもね?」

     どこか眩しいものを見つめるような瞳をこちらに向け、ミカは続ける。
     ――胸が、ジクリと痛む。

    「ナギちゃんが、あんなにも頑張ってるのに……何もできないのは悔しかったから」
    「――」

     息が漏れる。
     脳が拒絶するようにミカの言葉が脳を震わす。
     駄目だ、ダメだ、だめだ!

     痛みを堪えるように歯を食いしばる。
     必死に、表情がバレないように。

  • 30125/03/30(日) 15:41:10

    「……ナギちゃん?」
    「……はぁー、全く私の節穴具合にはほとほと呆れますよ」
    「へっ?」

     大きく、大きく、全ての息を吐き出すような溜息を吐いて、そう溢した。
     そうして、ミカさんに笑みを向ける。
     自然と零れた涙を隠すことなく、曝け出しながら。

    「ミカさん、パテル派首長に復帰するんですものね」
    「えっ、まあーそうだね」
    「真面にミカさんを見れずに否定して……相変わらず、私は間違えてしまうんでしょうね」
    「……いや、普通に仕事し過ぎなんじゃないかなあ~って私思うんだけど」



     二人の距離は、どこか遠くで不確かで。
     実の所両隣りに居ることを二人はまだ知らない。

     一人は、とても遠く。
     一人は、とても低く。
     一人は、この場に居らず。

     それが、現在のティーパーティの実情であった。

  • 31二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 21:22:48

    すごく平和な風景なのに、これから湖へダイブするという前提があるから心の奥底で焦燥感がフツフツと…

  • 32125/03/30(日) 22:30:08

    >>30

     その嗅ぎなれない香りが鼻腔を擽ったのは近づいた証だった。


    「この香りは……」

    「うわっ、コーヒーの匂い……私、コーヒー嫌いなんだよね」


    「確かにトリニティでは、馴染みの薄い香りですよね」


     いつものシールドを持ちながら、救護騎士団団長であるミネさんは顔を出した。

     強いコーヒーの香りを漂わせているミネさんに、顔を顰めるトリニティ生は少なくないだろう。

     どうしても、印象としてゲヘナの人間を思わせるからだろうか?


     現に、ゲヘナ嫌いを公言するミカさんは苦々しくミネさんを見つめていた。


    「全く、トリニティの親睦会なのにコーヒー持ってくるってどうかしてるんじゃない? また争いの種でも撒きたいの?」

    「……そうかも、しれませんね」

    「へっ?」

    「み、ミネさん……?」


     いつものミカさんの軽口に呼応するように、ミネさんは肯定した。

     まさか……今完全に武装しているのはそういう意図が……?

  • 33125/03/30(日) 22:30:26

     私たちの疑念と困惑の混ざった視線を受けてか、ミネさんはハッとしたように盾を落とし、恥ずかしそうに謝罪した。

    「も、申し訳ありません。少し言葉足らずでしたね……」
    「少しどころかまるっきり足りてないんじゃないかなあ~? ……ビックリしちゃったよ」

     そう答えるミカさんは心底安堵したように大きく溜息を吐いていた。
     盾を拾いなおし、救護騎士団が設営したエリアの方を見ながら彼女は言った。

    「エデン条約機構が成立したことによって、ゲヘナにある救急医学部の救援を受けて手伝うことも増えて参りました。それに伴い、ゲヘナ生との衝突も」
    「まあ、おかげで正実からはかなり楽に仕事ができるって話だけどね。私はまだ納得できないけど」
    「確かに、ゲヘナの風紀委員会も同様に似たようなことを述べていましたね。きっとETOを成立させたことは間違いでは無かったんです」
    「それが……どうして争いの肯定だなんて……」

     紙面上では犯罪率の低下や検挙率の増加は見られる。
     だが、数値と現場の差と言うのは体感してみなければ分からないものだ。
     口に突いて出た疑問に、ミネさんは少しだけ顔を伏せた。

  • 34125/03/30(日) 22:30:37

    「ゲヘナ生のバイタリティの高さは、ご存じですか?」

     唐突に、そんなことを言った。

    「彼女等は、自身のやりたいことであれば犯罪であろうとも軽々とその心理的ハードルを飛び越えていきます。まだ、それならば理解はまだ出来るのですが……」

     何かを思い出しているのか、彼女の持つ盾が震える。
     そして衝動のまま地面に突き立て――。

    「楽しそうと思ったから爆破! 襲撃! 乱闘! トリニティの文化が全く通用しないのです!」

     土埃と、ミネの怒声が舞い上がった。
     事前に取り出していたハンカチで口元を覆っていたので私は助かったが、ミカさんは思いっきり咳き込んでいた。

    「正義実現委員会の方々が忌み嫌うのも分かります! 根本が相いれないと、身に染みて知っているのでしょうから!」
    「ぐぉっほ!ごっほお! ……あははっ、内容には同意するけど、ちょっと興奮し過ぎじゃない? 救護騎士団が周りを怖がらせちゃ駄目でしょ」

     ミカさんの言葉が耳に入ったようで、激昂していたミネさんは静かになった周囲を見渡した。
     怯え、困惑、不安の混じった視線が四方八方から飛んでくる。
     親睦会の荒らし、混乱の元。

     そう判断した蒼森ミネの行動は早かった。

    「もはやこの命で償う他ありません!!」
    「ちょっ、盾は刃物じゃないんだけど! いやそれで貫通する恐れがある方が怖いから止めてって!」

     銃は持っていなかったのか、盾を縁で自決を計ろうとする女、蒼森ミネ。
     そんな良くも悪くも、日常風景の一コマ。
     漂っていた不穏な空気は、ものの見事に霧散したのだった。

  • 35125/03/30(日) 22:30:48

    「――……」

     ただ、一人を除いて。

  • 36125/03/30(日) 22:32:23

    とりあえず今日はここまでじゃんね
    明日の朝、更新するために頑張って書いておくじゃんね
    まあホスト規制されてたらどうなるかわかんねえじゃんね
    保守してくれると助かるじゃんね
    おやすみじゃんね

  • 37二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 22:33:00

    乙です!
    ナギサ様全否定されちゃったね

  • 38二次元好きの匿名さん25/03/30(日) 22:43:20

    貴女がやってることは机上の空論でしたって突きつけられたのか

  • 39二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 00:02:08

    団長さぁ・・・

  • 40二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 06:15:51

    早朝保守

  • 41二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 06:46:41

    なんか、死期が近い人って素でこんな感じだよな
    …()

  • 42二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 07:19:45

    このレスは削除されています

  • 43125/03/31(月) 07:20:32

    >>35

    「申し訳ありませんでした……」


     ミカに盾さえ奪われたミネは、ナギサにただ謝ることしか出来なかった。

     己が謝罪を受けているという事実が、固まったナギサの頭を動かし始めた。


    「そうですね……ここで許すと言っても納得できないでしょう? 今から、救護騎士団の所に挨拶しに行こうとしていたんです。それまでのエスコートを、お願いしてもよろしいですか」

    「分かりました……必ずやこの身に代えても」

    「ちょっとちょっと、盛り上がり過ぎじゃない? はい盾、重いから持ってほしいんだけど」


     文句を投げながらも盾を手渡すミカさんと、再び盾を持ち直したミネさん。

     不穏な空気は殆ど無くなったと確認して、救護騎士団が設営したエリアに向かう。

     その道中、途中で途切れてしまった話に戻っていた。


    「それで、結局のところ何故コーヒーをここで配ることにしたのですか?」

    「確かに確かに~! 団長は切れやすいけど私欲で動くタイプじゃないよね? 何かここでコーヒーを出す意図があるんでしょ?」


     ミカさんはからからと笑いながらミネさんに尋ねる。

     実際、ミネさんたちも基本は紅茶を嗜んでいた筈だ。

     普段使うものを捻じ曲げて迄、ここでコーヒーを出したかった理由があると考えるのは自然だろう。

     ミネさんは観念するように、ポツリポツリと語りだした。

  • 44125/03/31(月) 07:20:49

    「実は……救急医学部の部長から頂いた物なんです」

    「長期間の拘束が珍しくないゲヘナでは、基本的に熟さなければならない雑務はどうしても溜まって行ってしまうとかで」

    「眠らない為に、全て片付けるために備え付けてあるものだと」

    「ですが、今皆様に配っているものは、救急医学部が常備しているものとは違うんです」

    「協力の感謝の印として、個人で愛飲している物を部活単位で頂いてしまいましたので……」

    「きっと、私共で頂くのが筋だとは思ったんです」

    「けれど、このコーヒーの香りと同じで、友好を結べる者たちは友好を結べば良いのだと、示したかったのです」

    「ゲヘナだからと、一瞥で判断せずに」

    「その人自身の思想や行動で、手を取り合えるのかを判断して貰いたかったのです」

  • 45125/03/31(月) 07:21:17

     その結果が、これなのですけどね。
     ミネさんは寂しそうな笑みを浮かべながら、救急医学部の設営したエリアを案内する。

     伽藍洞、と言うほど人が居ないわけではないが、居ても数人。
     どうしようもなく、空いたスペースが目立っていた。

    「私の我儘で、救護騎士団員を傷つけては居ないだろうかと。この香りを嗅いだ参加者が嫌な気分になっていないのかと……どうしても心配になってしまうのです。私は、ミカ様の仰るような清廉な人物ではありませんから……」
    「……」
    「……えっ? ちょっとミカさん!?」

     ミネさんの独白を聞き終えたミカさんはコーヒーを配る生徒の下へ行った。
     おずおずと差し出されたコーヒーを受け取り、顔を顰めながら黒い液体を飲み込んだ。

     そして――。

    「にっがっ!? ちょ、これ愛飲してるとか信じられないんだけど……あ、砂糖とミルクってある? 沢山入れてくれない?」
    「み、ミカさん……!」

     余りにもあんまりな態度を見せた。
     まあ元々好き好んで腹芸を行うタイプではないが、だとしても余りにもあんまりではないだろうか。

     たっぷりの砂糖とミルクが入ったコーヒーモドキをチビチビと啜りながら、ミカさんはミネさんの前に立った。
     どこか複雑そうな表情を見せるミネさんに、ミカさんは持ってるコーヒーモドキを差し出した。

  • 46125/03/31(月) 07:21:42

    「ミネ団長、これが私の答えだよ」

     飲んでみて? と、茶目っ気たっぷりにウィンクと共にコーヒーモドキを受け取らせる。
     何処までも渋顔のまま、ミカさんと同じようにコーヒーモドキを啜り――渋顔のまま答えた。

    「甘くて、確かに飲みやすい……ですが、これでは本来のコーヒーの味や香りが――」
    「それでいいんだよ」

     受け渡したコーヒーを奪い返し、今度は一息で飲み干した。
     溶け切っていない砂糖が紙コップの底面に残るのを眺め、舌を唇に這わせる。

    「最初っから選択肢が狭かったら、本当に知って貰いたい人に届かないかも知れない。意固地になって別の可能性を信じないと、もっと嫌いになるかも知れない。目指してるのが融和なら、まず私たちが寛容に成らないと駄目なんだよ」
    「ミカさん……」

     いま彼女は、ミネさんを見ていない。
     遠く遠く、もう届くことの無い過去の自分に向かって吐き捨てているのだ。

     ――エデン条約調印前の、アリウスへの救済案。

     ゲヘナとの政策が嫌だったからこそ、見つけた組織だったのだろう。
     私たちにその詳細を詰めぬまま、絵空事のように語っていたからこそ。
     具体的な案を相談することなく、独断専行で目指したからこそ。
     ただ一つのボタンのかけ間違いがでもあったら、きっと今笑い合うことなど出来なかったと知っているからこそ。

  • 47125/03/31(月) 07:21:57

     同じ轍を踏んで欲しくは無いと、愚者からの調べを奏でたのだ。
     慣れないコーヒーを飲んで迄、道化を演じて。

     ……いえ、ミカさんですし好奇心で動いただけかもしれないですね。

    「……否定は、出来ませんが」

     そんなミカさんからの言葉に、ミネさんは確かに心を動かされていた。
     しかし、それでも歯切れ悪く答えるのはまた別の理由がある様に思えた。

    「あの、ミネさん。まずは試してみるだけでもいいのではないんですか?」
    「そうしたいのは山々なのですが。現在のコーヒーに合ったミルクと砂糖の分量を調べるのは困難で……」
    「え~? じゃあさ、ご自由にお使いくださいって置いとくのはどう?」
    「それも衛生管理上の問題が起きぬよう、確実に此方で対処したいのです。……万が一でも救護騎士団が食中毒でも起こすなど有ってはならないのです……!!」

     真面目や誠実さは美点だが、こういった時にどうしても融通が利かなくなってしまう。
     如何したものかとミカさんと顔を合わせていると、チョコレートを配る場所で大きな声が上がった。

    「これはシェール・アルコマーニ……!? ゲヘナの香りに釣られてみれば、まさかの出会いだ。にひ、これこそ正にロマン、と言うわけだね」
    「へえ~……あ、これコーヒーと合う」
    「わ、私はコーヒーはちょっと無理かな……カフェオレなら何とか飲めるんだけど」
    「じゃあミルクと砂糖入れて貰うよう言っときなさいよ。すみませーん」

    「……渡りに船、とはこのことですかね」
    「ナギちゃん、あの子たち知ってるの?」

     放課後スイーツ部の面々に事情を話、他の組織が出しているお茶菓子を持ってくることを条件に手伝ってもらうことに成功したのだった。
     それからそこそこの賑わいを見せ始めたエリアを尻目に、私たちは本来居るべき場所に帰るのだった。

  • 48125/03/31(月) 07:25:23

    区切りが良いのでここまでじゃんね
    基本的にストックは残さない性質じゃんね
    あと、ナギちゃんが湖に飛び込む理由に欠片も引っ掛かってないのに責められる団長でちょっと草生えちゃったじゃんね
    お仕事から帰って来て書き始めるから保守してくれるとありがたいじゃんね

  • 49二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 11:25:21

    団長もサクラコも勘違いされやすいからね、しょうがないね

  • 50125/03/31(月) 19:04:03

    >>49

    どっちかというと私がナギちゃん目線で書いてるせいじゃんね

    ミネ団長に何の非も無いと思ってるせいで生まれたギャップじゃんね

    おかげでナギちゃん死亡後にミネ団長がライナーすること確定したじゃんね

    ありがとじゃんね

  • 51二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 19:04:56

    書いてくれてありがとうじゃんね

  • 52125/03/31(月) 21:05:52

    >>47

    「全く、ミネ団長は相変わらず手を焼かされるよね」

    「それをミカさんが言いますか」

    「ふふーん、私が団長とは違うってことを御覧じろ、ってね?」


     各組織、または各部活が開く出し物の間を行きかう生徒たちが増え始める。

     太陽の日差しもその強さを増していく頃、私たちはティーパーティの設営したエリアを目指していた。


    「大丈夫、ナギちゃんが心配せずとも一日中回る様にシフトも組んであるから」

    「……もとより、疑っていませんよ。ミカさんがそこまで力を入れたのですから」

    「そ、そこまで全幅の信頼をされるのもちょっと怖いじゃんね……」


     冷や汗を流しながら計画に問題が無いかミカさんが空をなぞっていると、その指先は一人の生徒に向けられた。

     修道服にその身を包んでいるがウィンプルは被っていないようで、艶やかに照らされた長髪を振り回し焦っているようだった。

     恐らく、誰か探しているのだろう。

     同じように気づいたミカさんは呆れたように目を細め、手を挙げて彼女名を呼んだ。


    「誰探してるの、サオリ」

    「――ッ! ……ミカか」

  • 53125/03/31(月) 21:06:04

     目に見えるように落胆するサオリからは、驚くほどに邪気を感じることは無い。
     あの時、あの場に居たトリニティ生が見たらその変貌ぶりに驚くこと間違いないだろう。

     彼女はトリニティ襲撃の主犯格、アリウスの主戦力であるアリウススクワッドのリーダー、錠前サオリ。
     目の前で怒気や殺気や憎しみが込められた視線と銃を向けていた彼女が、ただ平和に居なくなってしまった人を探しているのは奇跡と言っても差し支えないのだろう。

     ……いや、本当は分かっている。
     彼女たちアリウス生徒たちは、普通を奪われたその中に負の感情を詰め込まれていたに過ぎないのだ。
     負の感情を抜いた今の姿こそが、彼女たちの本性なのだろう。
     穏やかに、友を思いやることの出来る、私とは正反対な――。

    「……ゃん? おーい、ナギちゃーん?」
    「えっ!? あ、えっと……ど、どうしました?」

     いけない。
     意識を切り替えると、ミカさんが不安そうな顔をこちらに向けていた。
     違和感こそを持たれなかったようだが、心配したような表情で続ける。

    「……サオリがアツコちゃんたちと逸れちゃったみたいだから一緒に探しに行こうと思ったんだけど」
    「ああ、それなら一緒に」
    「それより! ナギちゃんには私が作った陣地を見て来て欲しいなーって……ダメ?」

     不思議と、ショックは大きくなかった。
     まるで我儘を言っている子供のような物言いだが、我儘を言ってミカさんに迷惑をかけたのは私なのは明白だ。
     ちょっと目を離した隙に上の空になる人間を連れ回そうとするほど、彼女は子供ではないのだ。

    「すまない、ナギサ……様。他に頼る伝手も無くてミカを借りることになってしまって……」
    「あはっ☆ どうしてナギちゃんには様を付けて私には何もないのかな?」
    「ミカがそう呼ばれたいならそうするが……私は友人にそうは呼びたくはない」
    「……いーよ、特別に許してあげる。でも、TPOは弁えてね」

  • 54125/03/31(月) 21:06:18

     軽口を叩きあう二人からは、どこか近寄りがたい空気を感じてて。
     こちらに手を振りながら人を探しに行ったミカさんに対し、私は力なく手を振り返す事しか出来なかった。

  • 55125/03/31(月) 21:07:38

    短いけど、ここまでじゃんね
    やっぱり理想とは違う始め方しちゃったから色々と難しいじゃんね
    だから想定の数倍の不穏さを出して中和するじゃんね

  • 56125/03/31(月) 21:55:20

     ――その姿を見たのは、ほんの偶然の交わりに過ぎなかった。

    「……ナギサ様?」

     何故か偶然にもティーパーティが主催した親睦会の近くに出展されているモモフレンズの出店に向かう途中、光に隠れてしまいそうな浅黄色の髪の持ち主とヒフミはすれ違った。
     すぐさま振り返るが、遠い人ごみの中――ティーパーティが設営したエリアの方向――に消えていってしまった。

     理由は分からないが、漠然とした不安感がヒフミの胸中を覆った。
     確かに、補習授業部の件で以前とは別の距離感が生まれたのは知っている。
     だが、それでも。

     誰にも目もくれずに先に進むナギサは別人のように思えて――。

    「――ヒフミ?」
    「あ、アズサちゃん?」
    「もう! ヒフミが態々会場出てまで見に行きたいって言うから付き合ってあげてるのに、はぐれないでよね!」
    「そうですよね。今度は逸れないように、ピッタリと♡ 密着して歩きましょう?」
    「そ、そんなこと言って! どこ触るつもりなのよ! エッチなのは駄目なんだから!」
    「ヒフミ、スカルマンのグッズはあるだろうか」
    「わわっ! アズサちゃん! そんな急に引っ張らないでください!」

     つんのめる様に腕を引かれる。
     騒がしくも、明るく楽しい青春の物語へと帰っていく。
     一抹に抱かれた不安感は拭い去られ――無情にも溶けて無くなっていった。

  • 57125/03/31(月) 21:55:32

     終ぞ語られなかった奇跡の象徴さえも去った。
     残るのは、ただの現実か。

     それとも。

  • 58125/03/31(月) 21:58:41

    今日はこれでホントのホントに終わり!
    短いとか……そんな文句言わないでよね!
    本当だったら、入水落ちを隠したストーリーが書きたかったんだから、仕方ないでしょ!
    寝不足は駄目! おやすみ!!

  • 59二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 22:46:42

    後悔半端なくなりそう

  • 60二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 02:03:00

    結末はどうなるのでしょうか?
    ハッピーでもバットでも構いません!

  • 61125/04/01(火) 08:18:09

    >>60

    ん……一応最後まで行けばハッピーエンドにはなるかも

    でも再度スレ立てする気はないから仄暗い絶望の底で沈む終わりも出来る、二度おいしい

    本音を言えばそんな終わり方が一番好きなんだけど、大勢の人はそうじゃないから幸せの道筋は用意しておく……ん、創作は難儀な物


    昨日はアイデアが浮かばなくて妖怪足舐め禿の両足をへし折ってたから続きの更新はない……ごめんね

    でも明日は休みだから一つの山場は越えられそう

    他にも感想質問があったら嬉しい

  • 62二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 12:04:31

    そういえば入水の読みは「じゅすい」と「にゅうすい」のどちらでも成立するんだよな

    湖って誰か気付かないと助からないのでは

  • 63二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 12:13:14

    入水ナギサ様、なんというか、うん。
    ゾクゾクする()

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