- 1Pドル絶対信仰者25/03/31(月) 19:10:01
「………………は?」
虚をつかれたのは、何もこれが始めてなんかじゃない。
篠澤広という人間と過ごすようになってから、心配と不安、そしてそれらを全て帳消しにする幸福が、俺の日常に齎された。
だがそれにしても、それでも、ここまで脳が理解を拒絶するようなことは、ただの一度も無かった。
「……これでプロデューサーは、私のモノ。これが、その証拠」
今だ状況が理解できずに固まる俺を差し置いて、そう言いながら広さんが差し出してきたのは、一枚の紙。
冗談でしょう? なんていつもなら言い返してあしらうところを、広さんの微動だにしない琥珀色の瞳が、俺の言葉を許さない。
喉を鳴らしながら、恐る恐る差し出された紙を手に取る。そこには確かに、俺の名前から始まるあらゆる情報が記載されており、末尾には【上記の人物の人権は全て篠澤広が所有する】と書いてあった。だが、この書類は稚拙であまりにも出来が悪く、この書類を本物とすることは到底出来なかった。
「…………どういうつもりですか?」
口から出たのは、それだけ。
この言葉の真意は、なんでこんな冗談を、では無く、なんで俺の人権を買ったのか? ということだ。それ程までに、広さんの言葉は、目は、俺の人権を買ったと信じていることを雄弁に語っていた。
「勿論、本当に買ったわけじゃない。人権なんて、買えるようなものじゃないから。でも、これでプロデューサーは私のモノになった。それは、もう私のプロデューサーじゃないってこと」
「……分かっています。けれど、何故こんな事をしたのか、それを教えて欲しいんです」
「…………」
沈黙。ドロリと溶けた鉛が全てを押し込むような空気が、俺達の距離を出会った頃より何千倍も遠くまで離させていた。
広さんの思考が読めない事を数えようとすれば、始まりの保健室から今に至るまで同じ時間かかってしまう。
だが今この沈黙の意味は、その時間全てをもって考えても足りないような、そんな錯覚すら起こってくる。
1秒か、はたまた数時間か。それ位の時間が経った頃、広さんは大きく深呼吸して、横一線に強く結んだ口を開いた。
「…………プロデューサーは、もう私のモノ。今この瞬間から、アイドルとプロデューサーの関係も無くなった」
「────だから、一週間だけ、貴方の全てを、私に頂戴」
これから起こるのは、奇妙な一週間。
────俺と広の、期間限定の恋人生活だ。 - 2Pドル絶対信仰者25/03/31(月) 19:11:12
- 3二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 19:12:26
頼む、続けてくれ
- 4二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 19:12:52
待っていました
帰って来てくれてありがとう - 5二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 19:13:25
続き見ようとしたら消滅して絶望してから助かる。
- 6二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 19:19:58
どうぞッッッッッッッ
- 7Pドル絶対信仰者25/03/31(月) 19:21:45
ありがとうございます。
かなり遅筆で、いつまで続くか分かりませんが、どうか末永くお付き合いくれると嬉しいです。 - 8Pドル絶対信仰者25/03/31(月) 19:22:02
【日曜日】
どんなに心地よい眠りだろうが、幸せな夢を見ようが、目が覚めるのはいつだって唐突だ。
「────プロデューサー、起きて。もう朝だよ」
いつもならカーテン越しに射し込む朝日と、忙しなく動く車と電車の音、その合間に聞こえる何かの鳥の鳴き声がアラームになるが、この日は違った。
寝惚けてボヤける視界に入ってきたのは、左右の亜麻色のカーテンに、綺麗な琥珀の瞳、そして女神と形容されるに相応しい美しくも儚い少女の顔。
「……お寝坊さん、だね」
ふふっと柔らかに笑う彼女は、本来この場に居ないはずの担当アイドル。いや、今は俺の人権の所有者……言わばご主人様と呼ぶべき人だろうか。
「…………広さん? 何故ここに……いや、そうだ……貴女は……」
「そうだよ。私はプロデューサーの"彼女"。だから部屋にいるのも普通だし、起こしに来てあげるのも普通。……おはよう、彼氏くん」
その言い方は心底止めて欲しいと願っても、絶対にこの人は止めないだろうという信頼。今だけは、抵抗するカードを一枚失わせる信頼が憎らしい。
名残惜しいが、一先ず広さんの髪のカーテンから横に逃れて起き上がり、その可愛い彼女とやらを睨みつける。
「ふふ、その納得いっていない顔も寝起きの顔もカッコイイね。流石は私の彼氏」
「…………おはようございます、広さん」
「違うよ、プロデューサー。昨日言ったよね?」
「流石に抵抗というか……なんというか……」
「駄目。今はプロデューサーの人権は私が持ってる。だから、プロデューサーに拒否権は無い」
あーと天を仰いでみても、ただ何も点っていない電球が見えるだけ。観念して、昨日された広さんとの"約束事"を守る。
「…………おはようございます、広」
そう呼び捨ててあげれば、広はすぐにぽっと頬を赤らめて、ふふふと嬉しそうに笑ってくれた。
「おはよう、プロデューサー。約束、ちゃんと覚えていてくれたんだね。嬉しい。そうだ、朝ごはんにパンを焼いて、昨日の残りのサラダを盛り付けたけど、食べる?」
「火傷とかしてませんか……? 大丈夫ですか……??」
「安心して。最近のトースターは、火傷しないように出来ている」
取り敢えず準備での危険は無かったようで安心した。
「それじゃあ、朝ごはんにしよう。私達恋人の、最初の朝だから。最高のスタートにしなきゃ、ね」
そう言いながら、広は手を差し出し、俺はその手を取る。 - 9Pドル絶対信仰者25/03/31(月) 19:22:20
何故広が俺の部屋にいるのか、何故俺のことを恋人というのか、何故俺の人権を買ったなどと言うのか。
それは昨日のレッスン後、広と"約束事"をした時まで遡る────
「────全部って……どういうことです」
「そのままの意味。まだ足りない。だから、プロデューサーには、私と一週間恋人ごっこをしてほしい」
……訳が分からない。広さんが何を言ってるのか、本当に分からない。
広さんのプロデュースは、常に全身全霊、それこそ俺の全てを捧げてきたつもりだ。けれど目の前の人は、それを否定して、あまつさえ恋人ごっこをしてほしいと言ってきた。……確かに、広さんからはただのプロデューサーへの信頼では無い何かを常々感じとってはいたが、まさかここまでとは……目的は一体なんなんだ?
そう逡巡したのは一瞬で、すぐにその思考は無駄になった。
「……プロデューサーには、拒否権が無い。今プロデューサーの人権は私が持ってる。だから、諦めて恋人ごっこをして」
……どうやら、とことん続ける気らしい。
「……まず、その人権を買ったというのはどういうことです? 買ったとして、支払ったのは誰にですか?」
「それは、今からプロデューサーに払う」
「え?」
「いくらがいい? 億でも、幾らでも、プロデューサーが欲しいって言った金額を払う。プロデューサーの欲しいものは、全部用意する。プロデューサーの望みは、私が何がなんでも叶える。……だからお願い、一週間だけ恋人になって欲しい」
じわりと、綺麗な琥珀が哀しみに滲む。懇願とも、哀願ともとれるそれは、今までの全ての望みとは違う。
「待ってください、何も話が分からない。……一体、何があったんですか」
「…………それは、言いたくない」
「…………」
……きっと何か、何かが広さんの身に起こった。その何かは分からない。だけど、人権を買ったなどと、荒唐無稽な脅し文句を使ってでも、ここまで望む程、望まなければいけない程、彼女は焦燥感に駆られている。その答えを聞いても、はぐらかされるだけだろう。……今はただ、彼女にここまでさせる何かを解決できない自分の無力さを呪いたい。握りしめた爪が皮膚に刺さる痛みが、心の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。
プロデューサーとアイドル、夢よりも己の趣味、信頼、その全てを投げ捨ててでも、広さんは俺の全てを望んでいる。
…………なら、俺がすべきことは。 - 10Pドル絶対信仰者25/03/31(月) 19:22:34
「────分かりました」
「…………プロデューサー」
「貴女に、全てを委ねます。俺は今から、いいえ、ずっと前から、貴女のものですから。今更人権がどうとかそんなこと瑣末なものです」
「……いい……の? 本当に……?」
「貴女が欲しいと言ったのでしょう。なら俺は、貴女の為に全てを捧げます。人生だろうが、人権だろうが、なんだろうが。何もかも、全て」
「………っ!! プロデューサー……!!」
トンっと、柔らかく弱く、それでいて力強く抱きしめられる。一瞬それに驚いたが、すぐに抱き締め返して支えてあげる。胸元がなんだか湿るような感覚がしたが、そんなことは気にならなかった。
「ありがとう……本当に嬉しい……!」
……ここまでこの人が感情を顕にしたのは、佑芽さんのライブを見た時か、NIAで倉本さん達に勝った時だったろうか。過ぎ去る思い出に浸っている間に、広さんは俺の膝上に乗るように体勢を整えていた。向かい合って、広さんは俺のことをまた抱きしめる。
「…………ふふ、ふふ、ふふふ、プロデューサーが……私の彼氏……」
「…………1週間だけ、ですか?」
口をついて出てしまったことに気付かないまま、広さんの言葉を待つ。
「…………そう、だよ。うん、一週間の恋人ごっこ。子供がやるみたいな、幼稚なごっこ遊び。そうだ、それでね、お願い……というか、約束して欲しいことがあるの」
「約束?」
「そう、これ」
ポケットから取り出したのは、先程の書類とはまた違う小さなメモ用紙。そこには、プロデューサーと守る約束と書かれた項目が数種類。
1.プロデューサーは私の彼氏。私はプロデューサーの彼女になる。
2.この1週間、プロデューサーはプロデューサーとして振舞ってはいけない。彼氏として振る舞う。
3.プロデューサーと同棲する。
4.学園には登校する。けれどお仕事は全てお休み。
5.プロデューサーの生活の全ては私と一緒に行う。
6.プロデューサーは私のお願い事を全部聞く。
7.プロデューサーは一週間後、私に何でも一つ命令できる。
…………これが、広さんの要望。
軽く目を通しただけだが、本当に広さんは俺の事を手に入れたいようだ。
「それで……ね……あの……まず最初のお願い言うね」
……何を言われるのだろうか。だが、どんなものだろうと、今の俺に拒否権は無い。なんせ、人権が買われてしまっているのだから。 - 11Pドル絶対信仰者25/03/31(月) 19:22:56
何を言われてもいいように覚悟する。いや、そもそも、彼女の言葉に、望みに、俺の覚悟なんて要らない。ただ、広さんの為に尽くす。彼女の望みを全て叶える。それが、俺というプロデューサーの存在意義であり、俺の個人の存在理由だ。
広さんは、少し目を泳がせてゆっくりと俺の首に手を回すと、恥ずかしそうに耳元に口を寄せる。
「────広、って、呼んで?」
────1週間の、期間限定の恋人生活。その始まりを告げるかのような、彼女のか細く、それでいて芯の通った声は、全てが彼女のものになったことが現実であると、俺に思い知らせた。 - 12二次元好きの匿名さん25/03/31(月) 19:42:43
このレスは削除されています
- 13Pドル絶対信仰者25/03/31(月) 20:57:40
「「────いただきます」」
向かい合うように小さなテーブルに座り、2人揃って手を合わせる。
テーブルに乗せられた、昨日の残りのサラダとと少し焦げたパン。そしてそれに合わせるジャムは、質素ではあるものの、彼女が作ってくれたというだけで、俺にとっては何にも変え難い御馳走であった。
「少し焦げちゃったけど、許してほしい。ふふ、トースターは分からない、ね」
「貴女が機械類の操作を間違えるわけありませんよ。古いトースターですから、焦げるのも仕方ありません。俺も時々焼きすぎちゃいます」
「やっぱり、私達は似た者同士」
ふふ、と笑って小さくパンを齧る彼女。俺も釣られて、パンを齧ると、少しの焦げの苦味とジャムの甘さが。誰かとこうして共にするだけで、こんなにも穏やかな気持ちになれることを、久しく忘れてしまっていた。
「あのね、プロデューサー。これからのこと、昨日は話せなかったから、食べながらでいいから話したい」
「……えぇ、そうしましょう。昨日は貴女がはしゃいで、どうにも話せる状況じゃありませんでしたから」
「ふふ。一週間でも、プロデューサーと一緒に暮らせることがどんなに嬉しいか、話してあげてもいいよ?」
そう言っているが、本当に遠慮したい。止まることなんて絶対に有り得ないだろうから、何時間かかるか分かったものじゃない。
「それはまたの機会に。それで、これからのことでしたよね?」
「うん。具体的には、詳細な期間と、私のやりたいこと。これをまず話しておきたい」
「一週間の恋人生活……でしたよね。そして俺は、人権を買われてるが故に、貴女の言うこと全てを聞き入れ、叶えなくてはいけないと」
「そう。まず、ここでの生活について必ず守らなきゃいけないことを、数点話しておきたい。まず1、プロデューサーと私は同じベットで眠る」
…………いきなりヘビーなのが来たな。物凄く真剣な顔で、一番最初に話すのがそれなのか。だけどまぁ、最初に言ってきたということは、流石にこれ以上マズイものは出てこないだろう。
「2、プロデューサーと私は一緒にお風呂に入る」
「ストップ。待ってください」
「何?」
「…………何故?」
「…………?」
頭を倒して俺が悪いみたいに言わないでほしい。
「プロデューサー、まだ2つ目だよ?」
「その2つ目から既におかしいんです。いや、1つ目も十分おかしいですが」 - 14Pドル絶対信仰者25/03/31(月) 20:57:57
やれやれ、何も分かってないなプロデューサーは。みたいに首を振るのは本当に辞めて欲しい。
「プロデューサー、今人権は私が持っている。つまりプロデューサーは私に逆らえない。大人しく全部の条件を呑んで」
「それにしても流石に限度がありますって……第一、アイドルと一週間だけとは言え、同棲してる時点で大分アウトなんですから」
「…………水着着るよ?」
「体をちゃんと洗えないのと、洗濯物が増えるのでダメです」
「むぅ……プロデューサーは強情。人権は私が持ってるのに……」
「なんとでも言ってください。あくまで仮の恋人生活なんですから。一つ目の約束を呑むだけでも、ありがたく思ってください」
「…………じゃあ、2つ目の約束は一先ず諦めて、3つ目。プロデューサーは、私とできる限り触れ合い続けること」
「……あまり要領を得ませんね。触れ合う……つまり、ハグとかそういうものですか?」
「そう。家にいる間、プロデューサーは、私をぎゅって抱きしめて、頭を撫でて欲しい。できれば学園でもそうして欲しいけど……やっぱり人の目があると恥ずかしいから……」
一緒に寝たいとかお風呂に入りたいとか言うくせに、なんでこういうところは恥ずかしがってるんだろうかこの人は。
「ということで、はい」
すくっと立ち上がり、俺の隣に来てそう一言。小さな体を大きく広げて、所謂ハグ待ちのポーズを取ってくる。
……まぁ、一つ目や二つ目の約束に比べたら、こんなことは些細なものか。
今の俺には人権が無い。つまりは拒否権が無い。二つ目はなんとか回避できたが、これを拒否するのはもう難しいだろう。仕方がない、だって人権が無いのだから。
そんな免罪符で自分を正当化して、ゆっくりと抱きしめる。
細く、柔らかい、筋肉こそ多少なりとも着いたけれど、今だ標準とは言い難い彼女の体は、緩やかに俺の全身を暖かく包み込む。
緩やかな俺の心臓の音が、彼女の心臓の音と段々同じリズムを刻み、ついにそれは同じタイミングで奏でるようになる。右胸に当たる彼女の生きている証が、どうしようもなく愛おしくて、もっと感じたいと、もっと聞きたいと、自然と力んでしまっているが、そんなことを考える余裕は無い。
広も同じ気持ちだろうか? ふぅと艶めかしい息を吐きながら、また彼女も俺の体に強く自分の胸を押し付けてくる。 - 15Pドル絶対信仰者25/03/31(月) 20:58:16
腕も、胸も、髪も、肌も、匂いも、彼女の構成する細胞の一つ一つですら感じたいと、そう思うこれは幸せというものなのだろうか? 頭の中がぐちゃぐちゃで、もう何も考えられなくなってしまいそうなその瞬間、俺はようやく彼女を引き剥がすことができた。
勢いよく離したことで、一瞬彼女は目を丸くしていたが、何を見たのか、すぐにいつもの柔らかい笑みを浮かべる。
「…………ふふ、気持ちよかったね?」
「…………そう、ですね」
しょうがない。人は触れ合うと、幸せな気持ちになれるのだから、さっきまでの俺はしょうがない。けれど、こんなのは言い訳にしかならないだろう。
「じゃあこれからも、宜しくね? これはマストでやらなきゃいけないことだから」
「…………善処します」
俺の心中なんて、きっと彼女にはお見通しだ。 - 16二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 00:50:19
保守
- 17二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 03:33:45
ほしゅ
- 18二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 07:22:49
保守
- 19二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 12:33:51
ほ
- 20二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 14:49:34
見れなかったあのスレがまた復活してるだなんてエープリールフールじゃねえよなぁ!?
- 21二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 22:20:45
保守
- 22二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 23:28:01
朝食を終えて、諸々の掃除等の家事を一通り終わらせた俺たちは、どこに行くでもなく、何か特別なことをするでもなく、ただ二人で映画を見ることにした。
ソファを用意して、飲み物や食べ物だったりを用意して、二人だけの特別な映画館だね。なんて微笑む彼女は、今俺の足と足の間に鎮座している。もちろん、俺の手をしっかりと持って。確かこれは、あすなろ抱き、なんて言うのだろうか? ともかく、朝の宣言は絶対なようで、彼女はずっと俺に触れ合っている。
「この映画、莉波がオススメしてくれたんだけど、なんだか私達みたいだね」
「…………そうですか? 似ても似つかないと思いますが……」
「ううん、凄く似てるよ。特にこの主人公の設定と関係性が」
お姉さん系アイドルの姫崎さんがオススメしてくれたらしいこれは、確かに女性が好みそうな一般的な恋愛映画だった。
超天才な科学者の女主人公。なんでもできるが故に、退屈な日々を過ごしていたが、そこに現れた暑苦しいほど元気で爽やかなヒーロー。ヒーローに手を引かれて、主人公は自分の世界を広げていく……というチープな設定ではあるものの、演出と演技がとても素晴らしい。これは確かに、人気が出るのも納得の出来だ。主人公もどことなく広に似ているし、これをおすすめした姫崎さんは、これも見越していたのだろうか? だとしたら素晴らしい感性とセンスの持ち主だ。
だけどやっぱり、似ても似つかない。主人公の設定自体はそうだが、この映画には、明確な"趣味"が存在していないのだ。なんせ、俺達の方が、もっとままならない日々を過ごしているのだから。なんて言葉は、取り敢えずコーラで流し込むことにした。
「はい、あーん」
「…………広」
「あーん」
差し出されたポップコーンを渋々食べれば、にへらと笑ってもう一度。食べれば、また一つ。またまた食べれば、また次の物が俺の口に押し込まれる。この人はもはや、映画を見るのが目的じゃなくなっているのか。
「……広。あーん」
「あーん」
……どうやら、意趣返しは出来ないようだ。小さな口に吸い込まれるポップコーンが少し面白い。
「ふふ、楽しいね。プロデューサーは楽しい?」
「それは映画がですか? それともこうしてるのが?」
「どっちも?」
「なんで疑問形なんですか……まぁ、楽しいですよ」
「良かった。ところで、この映画を見たら次は何をしよう」 - 23二次元好きの匿名さん25/04/01(火) 23:47:40
「まだ半分にすらいってないのに次のことですか」
「だって、1週間しかないから。ドンドンやりたいことをやっていかないと。世の中の恋人って、何をやっているんだろうね」
「そうですね……まぁ、どこかへ出かけたりするのが普通なんじゃないですか?」
「そっか……じゃあ、映画は終わりだね」
「え?」
ぶつりと切られたテレビの黒さに気を取られるまでもなく、俺の体はソファに押し倒される。体重差はかなりあるはずなのに、虚をつかれたせいですんなりと倒されてしまった。
映画は結構いい所だったはずなのに……確かこれから主人公が海外の研究所へ────
「────ダメだよ、プロデューサー。……浮気、だね」
「浮気って……ただ映画の続きが気になることが?」
「……うん、そうだよ。ダメ、それでも浮気」
なんて暴論。胸の上でプクリと頬を膨らませる彼女に、思わず苦笑いを一つ。
「浮気者なプロデューサーには、お仕置しなくちゃ」
「…………何がお望みで?」
「…………キス?」
「それは遠慮させてください」
「なら命令」
「ダメです」
「…………プロデューサーの人権は、私が持ってる」
「ダメなものはダメです。いくら人権奪われてても、性的な物は全部ダメです」
「むぅ……彼女なのに」
「仮、ですから」
「…………じゃあ、本当の彼女にしてって言ったら、してくれるの?」
「…………」
その言葉に、俺は少し考える。逡巡では無い。ただ、考える。でも、いくら考えたって、答えが出ることなんて有り得ない。……そう、有り得ないのだ。
返答代わりに、彼女の頭を撫でる。
撫でてあげれば、不服そうな顔はすれど、すぐに俺の手に身を委ねてくれる。そんな彼女に、どことなく胸が暖かくなる。
「……今は、これで」
「……満足はしない。でも、今はこれでいいよ」 - 24Pドル絶対信仰者25/04/02(水) 00:02:54
すみません、ちょっと今朝から身体をぶっ壊してしまい入院することになりました。
なんとか1度書いてみたものの、やはり書けるような状態じゃ無くなってしまいました。書き切れないのが本当に残念です。
1度目は削除されて、2回目はこんなことになってしまい本当に申し訳ないです……折角保守してくれたにも関わらず書けなくなってしまってごめんなさい。
病院にいてスレの削除ができないので、このまま落としてください。 - 25二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 00:08:48
続きは一生待ってる😢😢😭
- 26二次元好きの匿名さん25/04/02(水) 00:15:03
一生でも待ちますよ、でもどうか体に気をつけて、気が向いた時にでも書いてくれたら嬉しいです。素晴らしいssをありがとうございました