- 1逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/04/07(月) 21:25:33
- 2逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/04/07(月) 21:26:31
前スレ
【R-18】ここだけ3勢力入り乱れ惑星外性生物と戦うリアルロボットSFな世界part6【のんびり進行】|あにまん掲示板襲来した異星人!侵略されるエネルギー資源!存亡の危機に晒されてなお人類は……未だ一つになり切れず、壮大な内ゲバを繰り広げ続けていた!!【出来れば読んでいただきたい世界観および初期設定集(テレグラフ)(…bbs.animanch.com【禁止事項】
・無敵ムーブ(戦闘でダメージを受けない、回避し続ける、など)
・必要性の認められない確定ロール
・相手PLが嫌がっていることを強要する行為(特にR-18関連はデリケートなところなので扱いには気を付けて、事前相談忘れずに)
【世界観やパワーバランスを保つ上での禁止事項】
・版権設定の利用
・「地形を変えられる火力」を個人で設定し所有すること
・3勢力(K.I社、人自連、デスペラード)+インベイドよりも立場や規模が大きい勢力を設定すること
・なんでも高い水準で出来るキャラ、なんでも高い水準で出来る機体禁止(他の人の活躍機会を奪いかねないため)
・メタネタ禁止(「この世界は作り物だ~」や背後さんへの言及をキャラの目線で発言させるなど)
- 3逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/04/07(月) 21:26:53
Q1:参加してぇ!けど事前のキャラ登録って必須なの?テンプレはある?
A1:キャラシはあった方が色々スムーズだとは思うけど、無くても規約的なNGムーブさえしなけりゃ参加はOKだぜ!
テンプレらしいテンプレは特に無い(めんどうくさかった)からテレグラフなりで各自好きな様に書きたいこと書いてくれ!
↑の初期設定集から飛んだ先にあるスレ主のキャラシからテンプレとして項目を引用しても大丈夫だぜ!
Q2:キャラは1参加者につき何人まで?
A2:何人でもOKだぜ!複数陣営あるし下手に制限設けたらスカスカになるのが目に見えてるから……好きな様に作ってくれ!
Q3:コテハン(トリップ)は必須なの?
A3:必須じゃないぜ!でもトリップが無いってことはなりすましや乗っ取りが出ても判別方法が無いってことでもあるから、自衛手段としてコテハンを持っておくのは無難だぜ!
Q4:スレタイにR-18表記があるけどエロスレなの?
A4:一般誌のエロ描写とか元ネタ一般作品のエロ同人好き? 俺は好きなの……
エロメインじゃないけど「エロいことも割と自由に描写して良い」スレだから苦手な人がミスッて踏まない様に一応表記しているぜ!
「猥談耐性はあるけど自キャラにエロルさすのはなぁ……」って人でもOK、「自分は露骨なエロやりたくないです」って言っておけば良いぜ!
Q5:設定集に目通したけどなんか既視感ある設定ばっかりだな?
A5:へへっ - 4逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/04/07(月) 21:28:13
【テレグラフ(設定やキャラシート、R-18な文章を書いたりにどうぞ)】
h ttps://x.gd/mv4zw
【URL短縮用サイト(テレグラフのデフォルトURLだとあにまんのNGワードに引っ掛かってしまうのでこちらでURL短縮してから投稿してください)】
h ttps://x.gd/#google_vignette
- 5逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/04/07(月) 21:29:58
保守用無反動滑空砲 狙撃開始
着弾まで 5 - 6逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/04/07(月) 21:31:20
着弾まで 4
- 7逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/04/07(月) 21:31:32
着弾まで 3
- 8逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/04/07(月) 21:31:44
着弾まで 2
- 9逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/04/07(月) 21:31:57
着弾まで 1
- 10逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/04/07(月) 21:32:27
着弾 今
命中を確認。インベイドを撃破しました。保守成功です - 11龍影25/04/07(月) 22:35:17
前スレ180
「手番…アッハッハッハ」
龍影は思わず笑ってしまった。
「私のはマニューバ先行入力のことじゃなくて歩兵の運動能力向上用インプラントとBFを繋げるんだよ。桜空の技術の一つ。世間様は『クローム』だとか『サンデヴィスタン』って呼んでるやつだよ。」
私は義体の恩恵で7手よめるけど。そう最後に付け足した。 - 12二次元好きの匿名さん25/04/07(月) 22:42:52
このレスは削除されています
- 13ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/07(月) 22:43:20
前スレ200
にゃはははははは!猫にかけては誰にも負ける自信はないのにゃ!
「自慢げになっちゃって…でも本当に母さん上手い」 - 14ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/07(月) 22:51:01
『れ、廉月が……俺達の廉月が……』
「もともとは劣化月風を作ってどうする! なんてキレてたくせにさぁ……別にいいじゃん。他にも試作機はあるんだし」
逆巻カンナは自社に戻った後、廉月の試作機の一機の改造を命令した。
桜空技研のものも復刻させる以上、操縦系統を含めて原型は殆ど残らないだろう。
「……さて、と。それじゃあ望月完成のために連絡するかぁ」
何度か話もしているし、すり合わせも行うこともある。 いつも、とは言わないがさてどうだろう?
と思いながら。
カンナはヴァルハラテックのデスクへと『話がしたいから時間取れる?』と連絡をするのであった。
「え?!?! な、ァ!? ちょ!?!」
《前提条件を伝えなかった時点でケイの敗北です。当然の結果でしょう》
やってやる。と思考を回していたのに結果は梯子外し。
おまけに12ステップの一斉先行入力ではなく、1ステップごとの手打ち入力式が神経接続の利点なのだ。
つまり勝負の土台にすら立ってもらえない。
その上で、七手読み……!?!
「ず、ず、ず!! ずるいですよ龍影さん!!! 俺の爺ちゃんだって6手読みだぞォ!?!」
《どっちもどっちでしょう》
スイからすればどっちも化け物だった。
ケイは思わず頭を掻いてぐああああ!!と叫んでいた。 その姿はとても子供らしい。
- 15ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/07(月) 22:52:09
- 16ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/07(月) 22:54:53
- 17龍影25/04/07(月) 23:02:53
- 18ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/07(月) 23:09:13
- 19龍影25/04/07(月) 23:18:39
- 20ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/07(月) 23:19:46
フフフ……気に入ってもらえて何より……( ΦωΦ )
同じ物を事務所でも使えるように2台送っときますね……
(まぁでも、流石に全員の家事スキルが燃えてるインベイドの巣が如く壊滅してるとは思いたくねぇな……)
とにかく滑らかになるまで砕いたら、今度はこれを壺に入れて放置
あとは楽な作業だけなんでラストスパートかけて行きましょう!
今度取り出すのはこれ! A5ランクビーフのハラミ! 脂身の多いワギュウと赤身の多いアメリケンビーフの2種類だ!
こいつらは壺漬けにするなら、同じ切り方で大丈夫!
壺に入るサイズにカットしたら……味が染み込みやすいように表面に網目状の切り込みを入れます!
5mm、これは浅いかな〜と思ってからもうちょっと刃を入れるレベルの深さがベスト!*個人の見解です
そしたらこれを壺に入れて6時間放置……したのがこちらになります
【冷蔵庫から4つ陶磁器を取り出す】
- 21ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/07(月) 23:24:35
- 22ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/07(月) 23:25:29
「い、い、いぢめられてる、というかっ! なんかこう龍影さんって俺のことに結構こういう感じで……!」
整備班の中では最も年長者の整備長にはちゃんと敬意は持っているのだが、龍影にからかわれているので余裕がない。
「?? 年齢がどうでも、龍影さんは綺麗ですし。俺はぜんぜん大丈夫ですよ?って、あっ」
囃し立てる整備員たちにさらっと言い放ちながら。
板バネがぶち当たった整備員を見てうわちゃあ、という顔をする。
「綺麗なんだから、それでいいと思うんですよねぇ……」
《一般的に、女性というのは年齢が若いほど評価が高い傾向にあります。が、男女ともに高望みしすぎれば行き遅れです。そこの整備員は反省するように》
スイは追撃を仕掛けるほど無慈悲だった。
- 23ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/07(月) 23:29:41
- 24龍影25/04/07(月) 23:40:57
- 25ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/07(月) 23:47:58
「良いんですか?」
龍影が7手読みできる。という情報のおかげか。ケイに望月への抵抗は薄れていた。
いや、強いて言えば……チャオレンという機体。
唯一無二の相棒から龍影を、あれが奪ったとケイが思い込んだ結果が起こした一種の嫉妬なのかもしれない。
「もちろん喜んで。スイ、依頼は終わったもんな?」
《はい。リミッターはかかっていますが、様々な機動性は保証されています》
デート、という言葉にちょっといいなと感じつつ。
こういう時、アウトサイドにもちゃんとした格納庫を用意したいな……という気持ちが強くなった。
腕の良い独立系傭兵の中には、あちこちの都市に専用ハンガーを持っている。という与太話を、ケイは大真面目に信じていた。
蒼風に乗り込んだ後。ケイは望月の到着をまだかまだかと待つ。
- 26ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/07(月) 23:50:12
- 27龍影25/04/07(月) 23:55:48
- 28ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 00:05:37
- 29ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 00:07:09
- 30ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 00:12:06
- 31二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 00:17:16
このレスは削除されています
- 32ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 00:20:06
- 33ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 00:20:42
- 34ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 00:26:55
- 35ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 00:35:48
- 36ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 00:38:13
- 37ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 00:43:46
- 38ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 00:51:08
- 39ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 01:00:21
- 40ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 01:06:56
- 41ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 01:25:03
- 42ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/04/08(火) 01:41:31
《ウルヴィ、調子はどうかな?》
「…普通」
【キャットウォークの手摺に背を預け、分解されている愛機を見ているウルヴィに、若い男の声がかけられる】
《オーバーホールには三日はかかる。まあ、それまでは好きにしてていいよ》
【どうでもいいように吐き捨てるその頭は…球体だ。金属の。中心部にある何かが辛うじて目である事が分かる、しかしレーザーでも撃ってきそうな穴があるだけの球体が、軽薄で気味の悪い声を発している】
【コロニー奪還作戦からは、数日が経っている。後遺症の殆どは収まったが、依然として右腕だけは上手く動かせないままだ】
《右腕については気にしなくていいよパイロットへの負荷は想定の範囲内》
【全てを一息に繋げて球体頭が言い切る。心配などの素振りはなく、ただ事実を吐き出しただけの情報の羅列】
《じゃあ、僕は行かせてもらうよ》
【ウルヴィはそれを聞いてはいるが、返事をしない。顔など無くても、球体男が自身を見ずに話していたのが声から分かっていたし、ウルヴィも聞きはしても必要な情報を拾っているだけだった】 - 43ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 01:48:18
- 44ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 01:58:13
- 45ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 02:02:54
- 46ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 02:07:11
「へへへ、秒で母さんの階級超えちゃったよ…あ、貴方まだそれ以前の雇われ兵でしたっけ、フッ…」
揃いも揃って………あ゛ああああ゛あああ゛なんなんに゛ゃあああ゛ああああ゛!!!!!!!!!
【その後、こってりしっぽり浴場で癒されに癒されたアサド家であった】
- 47龍影◆9BZ6kXGcio25/04/08(火) 08:17:29
キンッ
ウィングバインダーを展開してバーニアを温める。
「カウント5。3、2、1、テイクオフ。」
ふわりと手を繋いだ2機は空へ上がる。
夕焼けの淡橙と青紫色のグラデーションがある空に墨と蒼の望月と、白と蒼の蒼風が飛ぶ。
望月の両肩には航行灯が光っている。
「ケイと一緒に飛びたかったのよ、私。でもウーヤァじゃ蒼風のフライトについていけないからさ…」
ぽつぽつと龍影は言葉を紡ぐ。
「やっぱり、私は貴方が好きなのね。古兵として後輩を気にかけるってのじゃない。ちゃんとした恋心。」
少し恥ずかしそうに龍影は話す。
《DAWN》
高度計が非戦闘区域の天井が近いことを示し、警告が鳴る。アウトサイドから飛んでいるはいえ、コロニー外3kmは外壁より高く飛ぶ事は出来ない。
「…もう少し遠くまで行こっか…」
ポストマニューバ(その場で回頭を行う航空機の曲芸マニューバ。)を行い、コロニーから離れるコースを取る。
- 48ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 08:38:19
「俺と? 頼んでくれれば、ウーリャが相手でも悩まず一緒に飛んだのに……」
そこまで行って苦笑いをしたケイは、少しで気付いた。
ついていけない、の方が彼女にとって大事だったのだろう。と。
手を繋いだままの飛翔をしながら、蒼風は丁寧に両肩側面のウイングを動かして真っ直ぐ姿勢制御をとっている。
そして、好きなのだ。という言葉を聞いて。
「はい。俺も龍影さんが好きです……先輩後輩として以上に、女の子としてのあなたが大好きです」
「嬉しいです。俺が、龍影さんに恋されてるってのか、とっても……俺でよければ、その……ぜひ」
ケイは臆面もなく言い切った……ように見えてその視線は逸れている。顔が熱くて仕方ない感覚をケイは感じていた。
それは下手をすると、彼女の機嫌を損ねるかもしれなかったが……でもそれはケイの精一杯の表現だった。
もう少し飛びたい、と願う彼女に合わせて。蒼風の旋回半径をギリギリまで切り詰めた定点旋回を、手を繋ぎながら行う。
空というスケート場で、月風の系譜が二機、踊りながらコロニーから離れていく。
- 49龍影◆9BZ6kXGcio25/04/08(火) 08:56:22
「ふふっ…いつぶりだろう。大真面目に人を好きになったのって。」
龍影はケイの返事が嬉しかった。だが同時に早産みの母子と同じ年齢が離れていると言うことに心を痛める。
「そう言えばさーウチに月風用のハンガーが1個空いてるんだけど、アウトサイドを拠点にするとかなら整備長に聞いておこっか?」
大変遠回しではあるが龍影なりの「一緒に住もう」と言う誘いであった。
《パイロット、心拍上昇。》
バイタルチェッカーが龍影の恋による鼓動を緊張状態によるストレスと判断した。
《コネクトカット。機体制御を通常モードへ切りかえます。》
ほんの少しだけ望月は軸がズレたが、龍影の操縦により外見では何も起こっていないように取り繕う。しかし相手は月風乗りである。
- 50ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 09:12:13
「え?いいんですか!?」
その提案はケイにとっては望む以上のもので。
「……じゃあ、よろしくお願いします」
と嬉しそうに語った直後、……顔が曇る。
「ただその……俺……」
《ケイは対インベイドにおける戦局寄与を重視した依頼選択をします》
《受ける依頼は必要ならクロノスや人自連、デスペラードのものも拒みません。また、各地を飛び回る生活になるでしょう》
《あなたの恋人は、あなたの尊いものを踏み躙る可能性を含んでいます》
それでもよろしいのですか?とスイが念を押した。
龍影がクロノスを唾棄していることは、ケイもなんとなくわかっていた。だからこその後ろめたさだった。
「アウトサイドに不利益が出る依頼は極力避けるし、龍影の依頼とブッキングしたら、俺が下がる。蒼風を壊したっていい」
「でも……受けてしまう可能性もあるから……本当に、ごめん」
「俺は……最低なやつだ」
そう言いながら、望月の動きの乱れに合わせながら飛ぶ。 口と思考、動きを切り離してる己のなんと薄情なことか。
少しだけ、ケイから異音がなった。
- 51龍影◆9BZ6kXGcio25/04/08(火) 09:40:47
「飛び回ることをやめてなんて言わない。インベイド討伐ならK.Iともコロニーの連中とも組んで良い。ブッキングはならないように私が調整する。でもお互いの依頼で敵になるなら…全力で殺しにきなさい。私もちゃんと貴方を殺すから。それが傭兵としてBFパイロットをやってる者の覚悟よ。」
最後に呪いにも似た言葉を付ける。
「でもね、ただ私はBFの外に居る時くらいはアナタと一緒に居たいの。それじゃダメかしら?」
少しだけ甘えるような声でケイへ聞いた。
ケイのストレス耐性が低いのは知っている。だからこそ、先に言わないといけない。その時になって壊れてしまうよりも今のうちにヒビを入れて治した方がよっぽど健全だからだ。
「スイ、恋って物は流動的に動いて激しく緩やかに、熱くひんやりと燃えるものよ。」
望月は蒼風と握っていた手を離し、ポストストールマニューバ(ストールと同様にエンジンを落として墜落滑空を行いながポストマニューバを行う曲芸)をした。
- 52ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 11:15:50
「いやだ」 異音が、大きくなった
「ころせない」 ヒビになって、割れるように。
「嫌だ、いやだ!そんなの絶対に……!!」
まるで駄々をこねる子供のように、叫びながらヘルメットを脱ぎ捨てたケイは、どこまでも弱く見えて。
「そうなったら俺、みんなを裏切って龍影と一緒にいるよ」
殺さない。殺せない。顔を見知らぬ人ならまだいい。だが、一度仲間になったものを手にかける覚悟など、ケイにはまだ持つことが到底できなくて。
「龍影を殺すくらいなら俺が死ぬし、龍影が死んだら、俺も復讐してから死ぬ」
「ごめん……許して……ゆるしてください……」
「そうなったら、俺を、ころして、ください」
蒼風が地に降りて、項垂れていた。
……ケイという少年の幸運は、優しい女性に出会えたこと。
そして最大の不幸はその優しい女性が、ケイにどうしようもなく敵になったなら、自分を殺しに来いと言ってしまえる人だったこと。
「なんで……みんなに優しい世界じゃないんだよ……どうして……みんな、大事な人と簡単に……」
殺し合えてしまうのか。 その覚悟があるのか。 殺し合わない道を探ることよりも、殺し合うことを喜ばれるのか。わからなかった。
《王龍影……あなたはいま、ケイを壊しています》
《ケイの優しさを、ケイの心を。ケイが、あなたの尊いと思ったものを踏みにじりたくないと叫んだ心を》
《あなたはケイを壊して、新しいケイにしたいのならば》
《ケイを、一生涯支えると誓ってください。彼を、悪鬼に変えないために。壊れた人にしないために》
ケイは、スイが語る間にも。殺したくない。殺して欲しい。許して欲しいと。
うわごとのように呟くだけで……。
- 53ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/04/08(火) 11:48:15
【そして直後、球体男の球体部分だけが浮遊し、身体を置いて機体を分解している内の──頭の無い身体に乗っかった】
(変態)
【何度見ても不快感を感じる動作に、ウルヴィは呆れる。これが愛機を作った人間だとは思いたくなかったが、こいつも仕事だけは確かなのだ】
《右腕はどうするつもりかな?》
《SHINONOMEの在庫を使うのはどうだい?》
《いやいやいや、左腕の素体…スカッド・ソルジャーだよ?》
【ふと全く同じ声が三つ、ウルヴィの耳に届く。キャットウォークの下に目を向けると、タブレット端末を前に球体男が三人集って何かを話し合っていた】
《いっそアーヴィングでも目指すかい?》
《その場合、僕は降りるよ。逆巻に喧嘩を売るなら“僕”だけでどうぞ》
《冗談っだっよっアハッハハハハ!》
《僕たち?既にシノノメ・ソルジャーに月風を参考にした空力性能で機動力を確保したことを忘れたのかな?》
【頭痛と目眩に襲われ、黒イルカが必要かもしれないな、と思いながらウルヴィの目は遠くを見つめる。彼らの言う通り、BESTIAはキメラのような機体だ。素体にはクロノス・インダストリーとアズマ工業の量産機を用い、機体特性は逆巻重工に近く、武装にはアイゼン・アトリエの技術を使っている。これで彼(彼ら?)に悪気はなく、ウルヴィの出した金と戦闘ログから可能な限りのBFを作ろうとしているだけなので、よりたちが悪い】
《はーい僕ー?一つ意見をいいかな》
《なんのつもりだい?》
《ドーザーから卸したジャンクのスレイガン。コアとヘッドはダメになってたけど、両腕は健在だった…違うかな?》
《僕………》
【球体男の肩が震える。それは突拍子もない提案への怒り───ではなく】
《素晴らしいじゃないか!》
【それは、感動だった。知らない方が良いことって多いなぁ、とウルヴィは諦観の沼に浸かることにする。そもそも戦いやすいBFであればなんでも、と言ったのは自分なので、どうしようもないというのもあるのだが】
- 54龍影◆9BZ6kXGcio25/04/08(火) 12:09:35
「良く言った。その時は逃げるのよ。」
少年の出した答えに満足した声を出し、ゆっくりと望月を降ろす。
「ケイ、君の判断がそれで良かった。もし撃墜出来るなんて言ったら恋人じゃ無くて僚機としてしか見れなくなってたわ。」
蒼風の前に降りて望月のコックピットハッチを開け、月風型共通である上部胸部パネルを操作し、コックピットハッチを開ける。
泣きじゃくるケイを龍影は前から包み込む。
「いつでも私の胸で泣いて良いのよ。ケイ。貴方が強くたって無理したらダメ。」
宥めるように優しく語りかけた。
月風なら…あった。龍影は後部簡易座席のロックボルトを取り外して、座席を倒す。
「この前と逆だし、戦闘義体だからあの時の続きなんかできないけどね。」
やさしく唇を重ねた。
龍影の髪がパラパラとケイの顔に当たる。
- 55ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 12:26:49
なぁメビ......昨日はああで良かったんだよな
【10:00 倉庫地下】
【アンクの性能試験がこれから行われるため、ハニヤがオペレーターの指示に合わせて叩き起こす】
【一方でオペレータールームに居る金龍は、窓ガラス越しにその様子を眺めながら隣のメビに問うた】
『「彼女の過去は、大佐にとって損得で判別できる物以外は確かに関係がありませんから、ああやって断ち切ってもよろしかった」 私はそう思います』
【胸に抱いたルゥルアをあやしつつも、彼のここまでの行動に則した言葉で答える】
......だったら、目の前のロボットに集中するとしよう - 56ミカエラ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 12:31:45
「博士、坂巻重工からコンタクトの要請です」
【奪還作戦にて収集できたデータを整理中のミカエラが返事を返す】
坂巻がぁ?…高性能志向って意味ではウチと競合しかねないインベイド殲滅派の柱が私達に一体なんの話があるって…
【『マニュアル偏重の操縦』。廉月の存在を把握してる訳ではないミカエラとしては其方に執着し続ける頭の硬い老舗に見えている訳であり…事実件の戦いにおける蒼月のマニューバは目を見張るものがあったが、大半のパイロットはあそこまで成熟する前に死ぬ】
【そこが相容れない。BFの要はいかにパイロットの望み通りに動かせられるか、同時にいかに高い性能を発揮できるか────誰も彼もが最初は素人だし、人材が無限にある訳でもないのだから飲み込みの遅い人間だろうと歴戦の強兵に仕立て上げられるUIを組み上げる意気込みでミカエラはBF制作に打ち込んでいる。…とんだ高望みはあるが、高望みせずしてなにがインベイド殲滅か】
…ま、話を聞いてから身の振り方考えても遅くはないっしょ。技術者としてはあんま良い顔しないけどさ?なにも私らを後ろから撃つような連中じゃない…敵がなんなのか、しっかりと理解してる所だからね
【そんな企業からのコンタクトだ。個人的に興味が湧いてきたし、新風を吹かせにいくのも悪くないだろうとその誘いを了承した】
- 57二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 12:51:30
このレスは削除されています
- 58ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 12:57:15
「あ」
コックピットハッチをこじ開けて、入ってきた龍影の言葉がケイに流れてくる。
逃げていい。殺し合わなくていいと言う答えで、全てが壊れた。
「ろぅ、りい……」
あまりにも乱れた言葉の羅列で。
そのまま、まるでずっと目の前から離れてしまった母親を見つけたような。愛する人が目の前にいることが奇跡であるかのような顔に、何度も涙が流れて。
抱きしめられて、辛くて。嬉しくて。全てがないまぜになって壊れて、渦巻いて。
「死んだ後も、俺のことを憶えてくれる?」
あのシミュレーターでは。誰も、誰一人として。
死者となり、巻き戻ったケイを。巻き戻る前の死者を覚えているという機能はないから。
あの仮想世界の死者は、ケイしか覚えていないから。
「憶えてくれるなら俺を壊して。俺を殺して」
何もかも、残らないように。
彼女を中心に、己の世界を回してしまうほどに。家族として壊してくれと。
青にして黒の瞳には、彼女の目しか見えていない。
唇が触れた後。ケイは体を震わせて。
男であるはずなのに、女のようにその身を委ねる。
蒼風のコックピットインターフェース。スイは、その緑の蛍光色を淡く光らせながら。
仲人のようにその光景を見つめていた。 - 59龍影◆9BZ6kXGcio25/04/08(火) 13:06:54
- 60ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 13:15:39
- 61二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 13:20:11
このレスは削除されています
- 62ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 13:25:46
- 63ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 13:29:35
- 64ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 13:33:37
- 65龍影◆9BZ6kXGcio25/04/08(火) 13:35:17
泣き疲れたのか寝息を立てているケイを優しく包み撫でていると
「王!お前今どこにいる!」
インカムから整備長の怒鳴り声が聞こえる。
「あ、ちょうど良かった。整備長、ウチの格納庫で月風2機は整備出来る?」
龍影は聞いた。
「あぁ?!そりゃハンガーは空いてるがソレが…っまさかアイツをウチらのとこに入れるってのか?!馬鹿野郎!そんな事しても蒼風なんか無理だぞ!」
龍影の願いに対して整備長は声を荒らげて答える。
「坂巻の技術屋も招けばアーヴィング乗りの部隊を廉月に更新出来る。アウトサイド防衛が楽になる筈よ。悪い話じゃないと思うわ。」
龍影は意地でもこの少年と一緒にいる時間を延ばしたい為に整備長を説得する。
「…はぁ…わかった。お前の機体の機体の件もあるしいっその事そうするか…だがな、王。これだけは言わせてくれ。絶対にその少年の前でくたばるんじゃねえぞ。」
そう言って整備長は通信を切った。
幸せそうに寝ているケイには悪いけど…
「ケイ、そろそろ帰るわよ。起きて。」
少年を揺すり、起こそうとする。
だが目は覚めない。
「スイ、気付け薬ってある?アンモニアとかジンとかそういうの。」
- 66ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 13:40:19
- 67ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 13:46:49
- 68ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 13:54:02
《念の為のですが、合法の興奮剤なら》
使用はおすすめしません。とだけ言う。
ケイがそもそもその手のものを使っていないのでどんな作用があるか、スイも計算できていないのだ。
まぁ、使えば起きるのは確定だった……その後の保証はないが。
(望月の開発完了の数週間前)(ヴァルハラテック企業内部)
「やぁ、ミカエラ女史。そちらの研究開発は順調かな?」
社交辞令の儀式を交わしながらやってきたのは、逆巻重工六代目CEO・逆巻カンナその人だった。
企業序列的に本来は逆巻重工が呼びつけるのが通常なのだが、今回はその逆である。
それがどれだけの事態であるかは……企業が主体となっているこの世界では当たり前に察することができるだろう。
ネ ー ム ド
「君たちの試作機群と特記戦力がいないせいで、G-3コロニー攻略戦は大変なことになったよ……けどま、オーバーホールで間に合わないんじゃ仕方ない。本当にね」
一発目の言葉は、文字通り苦労した。そして君たちが来なかったことに対して一切の追求はしない。という事実確認。
「ただまぁこっちもうちの支援してる傭兵が参加したお陰でスレイガンのパーツを手に入れられた。色々と便利だから、ラッキーだったね」
これもまた、ただの事実共有。 ヴァルハラテックにとってスレイガンのパーツ程度もはや価値がないことなど百も承知。 逆巻カンナはミカエラという女性の天才ぶりを常に評価していた。
「でさ。私達が持ってる技術でなにか欲しいもの、ある? あげるよ。ロハで」
本題に入った。 カンナがミカエラに資料を手渡す。
『Cv-A8 RENGETHU(廉月)』と書かれた、新型機の設計図だった。
- 69ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 13:56:40
ちょま…急に囲むかフツー!?急展開にも程が…
【ハニヤ得意のインファイト戦術は面制圧力に劣る。物量で圧倒されると“アメミット”であれば多少の損壊覚悟で突破せざるを得なくなるが…ハニヤはこの瞬間、仕様書に記されていたある機能を思い出した】
!このレバーにゃ!!
【まずはマイクロミサイルバインダーからミサイルを乱射…撃破目的ではなく、爆風によるデコイの撹乱が目的だ。そして目標を一瞬でも見失ってる内に…】
【デコイ郡の一角が光刃の輪に突き崩される。シェセプ・アンクの陸戦形態…四足でホイール走行するBFは目眩しを掻い潜る攻撃を紙一重でケープでいなし、敵を正面のみに固める事で戦況を掌握】
にゃー!!!!
【今度はミサイルを残弾全て使い切り、撃ち漏らしたデコイをホイールとウィングで切り裂いていく】
- 70二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 14:00:05
このレスは削除されています
- 71二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 14:20:36
このレスは削除されています
- 72龍影◆9BZ6kXGcio25/04/08(火) 14:27:49
「ん、ありがと、スイ。」
そういって自己注射を取り、確認する。
「えーっと薬名は…アンフェタミン…また古臭い…あっ古いってまさか」
薬には使用期限と言うものがある。安定した管理をしていたとしても期限を超えてしまったものは薬品が劣化、変質してしまう。そうなってしまうと本来求めた効能が出ない、または身体に重篤な影響が出る場合がある。今回の場合、放置に近い状態で置いてあった月風型についているものとなる。コックピット周りは魔改造されすぎていて逆巻が触れてないのも影響しているんだろう。
「はぁ…やっぱりそうなるよね…」
龍影は望月のコックピットへ戻り、気付け薬を取って蒼風のコックピットへ戻る。
シュッ
ケイの顔辺りに噴霧された溶液はアンモニアの強い刺激臭を放ち、彼の鼻腔へ飛び込む。
「~~っ!?」
声にすらならないものをあげて起きた。
「そろそろ帰ろっか。」
起きた少年にそう言って2人でアウトサイドの格納庫へ飛び帰った。
気付け薬…といっても一時的なものであった為、蒼風から降りた彼は崩れ落ちるように眠ってしまった。
「あっ…ケイの家知らないや…スイ、私の家に運んで大丈夫?」
《わかりました、ごゆっくり…》
そういって彼のつけているスマートウォッチ的なモノは電源が落ちた。なんか勘違いされたがまぁいいや。
龍影はケイを抱え、(今回もお姫様抱っこ)自宅まで連れ帰り、ベッドへ寝かす。自分もセクサロイド義体になり、ケイの隣で横になる。
「おやすみ、私のケイ。」
龍影は睡魔に意識を預けた。
- 73ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 14:32:21
- 74ミカエラ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 14:43:11
…これはこれは、どうもご丁寧にありがとうございます、アンナCEO
【打ち合わせの内容を聞いた時は流石のミカエラでも面食らったというものだ。本来ならこちらから出向くのが礼儀だと考え準備を進めていたので相手方のCEO自ら出向くとなれば飲んでいたコーヒーの一つや二つ吹きこぼすというものだ】
いえいえ…此方としても支援したかったのは山々ですが、内部で色々とありまして
(この様子じゃ、ウチが自作自演でこっそり手助けしてたのはバレてないって感じか?それとも参加しなかった事含めて敢えて言及を避けるつもりか…ま、追求されないのは面倒くさくなくて有難いかも)
【序列の度外視。作戦不参加の非追求。(未確定ではあるが)茶番の見逃し…此方の不手際全て飲み込んだ上で、坂巻が何かを求めているのは目に見えて明らかだった】
この機体資料は…Cv-k7の後継機ですか?
【ふむふむ、と興味深そうに資料を読み進めていく。…中でも目を惹いたのは『マニュアル偏重の操縦系統の刷新』が図られている所だ】
(頭の固い所とばかり思ってたけど、案外柔軟性あんじゃないの…とはいえ)
【今までマニュアル一辺倒で頑張ってきた企業がそう易易とマニュアル偏重から脱却できる訳でもなく。オートマニューバはエース機の戦闘データのトレースで補うようだが…裏を返せばそれは月風の長所を殺すこととなる…それ以上に、得られる物も多い訳だが】
SF-R3…SHINSEIで物足りなくなったら選択肢に入ってくる、っていうのが現状の相場ですかね。坂巻機の入門用として中々いい機体だと思います
【客観的に感じた事を正直に伝える。かねてよりミカエラが月風を問題視していた点は機種転換の難しさと操縦系統の極端さだ。パイロットそのものの互換性を狭める問題を坂巻自ら改善しようという姿勢は手放しに褒められるし、なによりマニュアル一辺倒企業としての意地をそこに垣間見た気がした】
- 75ミカエラ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 14:43:42
それで、ここまで便宜を図ってヴァルハラテックの何を御所望なのでしょうか?
【本題に入る】
正直な話、うちでロールアウトしたばかりのR/W-N01【ヴァルキリー】のデータは、そちらにとって然程有意義なものでは無いと思います。
餅は餅屋。『ワーグナーモデル』のメインフレームをマニュアル操縦で動かすとなれば、アーヴィング以下のポンコツが出来上がるでしょう。資源の無駄になるという事を強く警告します
【坂巻の技術の中に目ぼしいものが無い訳ではないが、まずは此方の何を求めているかをミカエラはハッキリさせたかった。その上で、「ただワーグナーモデルのデータを譲った所でガベージデータになるぞ」という事実確認を交えつつ】
- 76ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 15:02:14
- 77逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 15:10:52
(やっぱり、噂に聞いてたヴァルハラテック機の強奪騒ぎはマッチポンプか)
(そのうえでひっそりと作戦参加をしつつデータ取り……うん、良い立ち回りしてるね)
こちらが出向く。という行動を取ったのはまぁ、カンナとしても色々探るべきことが多かったからだ。
特に新興企業として頭角を現し始めているヴァルハラテックをライバル、引いては商売上の仮想敵になりうると判断している企業が多い。仮に強奪機の結末が最悪なものとなっていれば、サイファーカルトの手にわたる危険性もあった。
逆巻重工は密かに、そしてさり気なくそれらの追及の手を止めておくよう自身の身の回りに言い含めさせていたのだ。
「そうだね……後継……というよりかは量産試作機。っていうほうが近い。月風もエース仕様として古いから」
ミカエラ女史の言葉にも笑顔で対応する。 そのご説明されている仕様はだいたい資料のとおりだったが。
「色々と妥協したお陰で、新人が動かしやすくなる機体にはなってくれたかなぁって。
いやほんと苦労したんだよ? 拡張性とか整備性はSHINSEI超え無理だな―とは思ったけど、及第点くらいにはなったし」
妥協、という言葉でまぁ見えるものはあるだろう。
廉月。資料に書いてある漢字には暗喩が含まれていた。
「で……うん。勿論そこは分かってる。ヴァルキリーはワーグナー系は確かにウチの流儀には、少し合わない」
ヴァルキリーとワーグナー。両者の存在に対しての『お前らじゃ無理だ』という発言もカンナは軽く流す。事実しか言っていないものに怒る理由も必要はない。
・・・・・・・・・・・・・・・・
彼らは過程で流れる血を侮辱する者たちではない。 それだけで敬意を表するには十分だった。
・・・・・ ・・・・・・
「そして。だからといって私達の機体が君たちの流儀に合わないとも限らない」
次の資料は、廉月のカスタム機体の設計仕様書。――――名を、望月。
記載されている技術の一部の出所を見れば、重大さを理解してくれる。カンナはそう信頼していた。
桜空技研。
初期インベイド大戦の戦禍に消え、多くの素晴らしき――――善きにしろ悪しきにしろ――――技術が葬られてしまった悲劇の企業の名前が記されている。
- 78ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 15:27:37
- 79ミカエラ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 15:45:22
(妥協…なるほど。廉価版の月風だから廉月か)
【皮肉としては洒落にならないそのネーミングセンスに、ミカエラは内心筋金入り過ぎて逆に好感が持てた。ここまで突きぬける研究者は見ていて気持ちがいいものだ】
Cv-A8/F………こっちはさっきのをベースにしたカスタム機ですか……………………っと
【仕様書を閲覧する限り、先程の廉月をベースにしつつもそれとは比べ物にならない高度な技術を幾つも要求しているのが見て取れる。】
これを考えたの、貴方達じゃなくてパイロットでしょ?それも元桜空の可能性が高い…なるほど、ようやく逆巻がウチに何を求めてきたのかが理解出来たわ
【ミカエラはデスクに腰掛け、パソコンを操作する…程なくしてモニターに浮かび上がったのはワーグナー由来のBFの神経接続操縦プログラムと…】
こっからは腹を割って話そう。桜空には世話になった事もあるからねー…大方神経接続狙いだったんだろうけど、忘れ形見へのお返しとしてこいつもついでに譲ったげる
【──────桜空技研と運命を共にしたと思われていた、陽電子リフレクターフィールド制御技術の理論。それそのものだった】
うちの試作機に使ってる電磁シールド技術が中々上手くいかず暗礁に乗ってた時に助け舟出してくれた事があってね。せめてそのパイロットへの恩返しってやつ?
- 80ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 15:52:00
- 81逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 16:05:57
「ああ。そうだ。だから君たちには――――はは」
「ははは、ハハハハハハッッッ!!!」
ミカエラ女史の言葉と行動。そして表示されている技術に、わずか。表情を消した。
陽電子リフレクターの、再現を。彼女らは終えていたのだ。
それらを察した瞬間。カンナは自身の仮面を剥ぎ取った。
呵々大笑と言わんばかりに笑い叫んだのだ。
・・
「凄い!! 凄いじゃないか君たちはッ!! 自分たちだけでそこに行っていたなんて気付けなかったよ!ハハハ!!」
――――私達より早かったか!!!チクショウ!!
カンナは若き天才として。コンストラクターとして負けを宣言した。 金糸をかきあげながら天を仰ぎ笑い続ける様は、怒りや悔しさではない。
――――歓喜だった。
「はははは……!! ……ふぅ、ふぅ。済まない……余りにも嬉しかったもんだから。許しておくれよ」
息を整えながらも、軽い笑い声が止まらない。
やはり彼女が【元K.Iであることをあの"老害共"の目から隠して良かった】という歓喜が、カンナを震わせていた。
「本題に話を戻そうか、ふふっ。まずは……私達はね、陽電子リフレクターについては完全再現を既に完了させてるんだ。あとは載せるだけ……君たちより後発だけど済まない。そこは自慢させてくれ」
まず1つ。君たちの2つ目の誠意は、運良くにして悪く、こちらも再現が完了してしまっているという事実。
- 82逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 16:07:49
「問題なのはもう一つの方」
「桜空技研の神経接続式半思考操縦でね……こっちの再現率がどう足掻いても、パイロット要求の7割弱しか再現できていない。ということなんだ」
真に問題となっている部分を告白する。カンナがよくよく確認したところ、ヴァルハラテックの神経接続技術とも若干仕様が違う。
おそらく差異に関しては彼女たち自身の求めるところと変わっているがゆえ改良を施したのだろうが……パイロットが求めているのは【完全なオリジナル】だった。
「正直に言おう。彼女が求めているのはオリジナルだ」
だから、施しだけを受けるわけにはいかない。
・・
「君たちの力も借りて残りの三割を埋めたい」
協力が必要なのだ。
・・
「私達と君たちヴァルハラテックで――――桜空の神経接続式半思考操縦のオリジナルを復刻させよう」
「成果と功績は山分け。協力での完成と復活だ。 勿論そちらもこの技術は自由に使って良い」
だから、頼むと。 カンナはミカエラに頭を下げた。
- 83ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 16:14:55
- 84ミカエラ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 16:34:51
…………………
【恩人への義を果たして良い気になってドヤ顔していたミカエラの表情は“既に再現しきった”という一言で瓦解した】
待って今なんつった????既に完成させてるって何????へ…へぇ…????
【逆巻がそんな技術を隠していたという情報は聞いた事がない…いや、そもそもヴァルハラテックだってこの理論を保持し続けたのは桜空との約束でもあったし、信用出来る企業には元々秘密裏に開示するつもりだった】
ちょっと待ってよ、じゃあ技術ソースって………いや、これ以上は止めとこ
【間違いなくクロノス…そして面子に拘らないかつてのミカエラの支援者だろう。勢力の垣根を越えてまでたかが1機のBFに心血を注ぐその姿勢には全く頭が下がる】
とにかくウチから貰った事にしといてよ陽電子技術。そちらさんも変に疑われるよか都合良いでしょ?
【人自連の技術が人自連経由で人自連に渡ったというカバーストーリーの方がまだ自然だろう、という提案もそこそこに】
三割どころか十三割になってもいいけど…オリジナル再現を要望してるんだったらしゃーない、三割で我慢…というか問題は思考制御というよりも、それを受け取って処理する演算プロトコルか。ちょい別畑な気もするけど…まぁどうにかできる範囲か
顔上げなよ。ヴァルハラテックは逆巻の桜空技術復刻に全面的に協力する
【下げられた頭を上げさせるよう促し、合意の証として手を差し伸べる】
- 85ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 16:43:00
- 86ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 16:50:46
- 87ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 17:01:37
- 88ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 17:11:05
- 89逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 17:26:52
「ふふふ、君のその顔が見れただけ、意地を張れた甲斐があったよ」
頭を上げれば、試作機として既に月風を大きく凌ぐ機体達。その数々を手掛けた天才が困惑している様は、それだけでカンナを報われた気持ちにさせた。
「技術ソースに関しては完全クリーンだよ。ま、ほら。参考資料は大量にあるじゃん?陽電子防護膜技術とか」
例に技術はK.I社先行のそれ。 目的のものと原理こそ違うが、量産機ではなく専用装備としてなら……既に逆巻は指を引っ掛けかけていた。
需要がないから、装備対象になっていなかっただけ。
もちろん、龍影の資料提供が最後の後押しをしてくれたことは言うまでもない。
「その上で配慮はありがたくいただこう……痛くもない腹を探られることほど、嫌なものはないからね」
"老害達"の目は欺くに限る。 過去に、そして将来的にもエイダン・リーの協力が必要な逆巻重工は細心の注意を払う必要があった。
「あ、勿論そっちでは十三割目指していいからね! パイロットが一番慣れてて、かつ負荷が低いのがオリジナルってだけだし」
期待してるよ!と笑顔で親指を立てつつ、ホログラム資料を見せる。
「情報を集積、取捨選択する技術については……ちょっと心当たりがあってね。そこは一緒にやろう」
そこだけは、少し言葉を濁して。
「君たちにはパイロットへのバックファイア防止と、演算系統に全力を挙げて欲しい。特に演算系は君たちの血肉になる課題のはずだ」
提案には、逆巻重工の意地があった。 パイロットの脳を傷つけない。 月風がマニュアル偏重であった理由はそこなのだから。
「で、陽電子リフレクターに関しては君たちの提案を受け取るわけだから、対価は更に増やさないとね♪」
そう言って渡したのは――――蒼風に用いられている新型背部コア粒子推進機関の設計図だ。
廉月もモノは同じだが、これは部品精度と加速力が馬鹿げている、文字通りのワン・オブ・サウザンド。
0-50、そして50-100の無段階推力可変速度は最高クラス。
蒼風が強襲級や、キルケー部隊、サイファーカルト機という死神共と立て続けに踊り、棺桶へと叩き返した元凶の技術だ。
恩を売って売って売りまくり、そして僅かな対価でより恩を売る元手を作る。 逆巻重工の狂気がそこにあった。
- 90ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 17:31:33
- 91ミカエラ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 17:52:39
資料も実用化も完全にこっちが先行ってたと思ってたのにぃ…なにこの敗北感
【敢えて手を付けていない技術だったという点が尚更、若き天才は老舗の意地に感服することとなった】
選択システムについては心当たりがあるってことね。じゃあそこはそのようにするとして…バックファイアと演算系ね、わかった
【確かにワーグナーモデルの謳う完全神経制御において、その2点は可及的速やかに成熟させなければならない技術である】
【試作機に搭載されている“特別製”のインターフェースには、性能を重視しすぎてヴァルキリーに設けられてある安全マージンがどこかしら度外視されている…例えば、機体腕部を損傷してそのまましばらく腕を痛めたロスヴァイセのパイロット、マルタ・アーネルがいい例だろう】
【そして、件の機体を求めるパイロットが要求するのは間違いなく“特別製”基準かつ安全性の高い対策だ。後学及び企業戦力の柔軟性を高める為に研究する価値が大いにある…などと考えている内に、逆巻から提供されたコア粒子推進機関の設計図に目を通し】
…うちも大概だけどさ、そっちも随分と思い切り良いね?
【全方向への無段階加速。これの大雑把な構成を把握出来れば試作機を含めワーグナーモデルの性能向上に繋がる…カスタムパーツとしては値段は貼るだろうが、元々糸目をつけない試作機にとって些細な問題だろう】
【正直な話、ミカエラはインベイドが全滅さえしてくれればそれで良い人間だ。その為の労力は厭わないし、それが自分の発明でなくても構わない。技術者として異端とも取れる無頓智さ…逆巻の狂気に、自分と同じものを垣間見た気がした】
- 92ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 17:57:44
- 93ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 18:15:29
- 94逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 18:21:25
「お願いするよ」
真剣な目線でカンナが答えた心当たりが、蒼風のコックピットインターフェース……
その中枢に居座る『独立型戦闘支援コンピュータ』であることは決して口には出さなかった。
「君たちは神経系技術を推してるみたいだからね。ちょっと昔、それで痛い目を見る友人がたくさんいてね……
同じ轍は踏んでほしくないんだ。 分かってくれて、ホント助かる」
カンナ自身が若さでありながら、まるで妹を見るようにミカエラへ感謝を述べた。
凄惨を極めた初期インベイド戦争時代に、不完全な神経接続技術に生存の希望を見出したものはいた。
そして彼女は幼い頃、見送る側だったのだ。
「ははは、君にいうかは迷ったが……蒼風の新型コア粒子推進機関自体は、数年前に開発と搭載が完了しててね」
「パイロットへのG対策は許容範囲だったんだけど、その性能を活かしきるパイロットが現れなくて、死蔵しちゃってたのさ」
暗に、蒼風は開発、または改修自体が数年前に終わっていたことを示していた。
「君たちなら問題なく使いこなせると信じて託す。 裏切らないでくれよ?」
そういって笑いながらメモリを手渡して。
「ま、インベイド殲滅のためならこれくらいなんとでも……あ、でも野望はあるんだ。私」
彼女の人間らしさを構成しているものは、間違いなく存在していた。
・・
「君たちがSHINSEIを駆逐するところを見たい。 そして、いつか私達でエース機のシェアを独占しようじゃないか」
それはまさしく、野望。
「インベイドの進化はこちらの予想を超えている。蒼風ですらギリギリだった」
「”統率個体”が、そして新型インベイドがまた現れたときのための札は、一枚でも多く、一秒でも早く増やしたい」
そして、野望は狂気と併存して混じり合っている。打算と感情、そして人の理性と心を信じるからこそ、異端は異端であるのだ。
カンナはG-3コロニー攻略戦データ……ソドム奪還作戦と奈落防衛線データが主だが……をミカエラに手渡し、今すぐ見るよう念を押した。……統率個体、という言葉をミカエラが知っているかまでは、カンナにとっては伺いしれないが。
知らねば思わぬ落とし穴に落ちる可能性があった。 それは減らしたいという気持ちが全てだった。
- 95ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 18:25:16
- 96ミカエラ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 18:46:24
バディフレームが人体の延長なら、安全性の担保された神経接続で操縦できるようになるのは自然な流れでもある…ヴァルハラがそっちの操縦系統に拘るのはその理念に立ち返ったからこそだよ
【初めから完全な技術なんてありはしない】
【今こうしてヴァルハラテックが安定して研究に励めるのも、その無数の失敗と屍で舗装された修羅の道があってこそ…自分が初めから携わっていればもっと犠牲を少なくできたという自負が無いわけでもないが過ぎたものを憂いでも仕方ない。その犠牲に報いる為にもパイロットに優しい機体の研究に四苦八苦しているのだ】
自分の野望が他社の台頭の希望って………企業のトップとしちゃイカれてないと口にできないんじゃないのソレ?
…言われなくても。それが元より私の目標だしね
【『ワーグナーモデル』の構想を始めたのも、元はと言えばスカッド・ソルジャーの基礎設計の限界を察してしまった事に起因するものだ。より高性能でよりインベイド如きに追いつけない強い機体…ミカエラの信じる人類の生存への道に、ハッキリ言ってSHINSEIのシェアは邪魔だ】
【いずれはスレイガン諸共BF史の闇にたたき落とす。ミカエラの目には確固たる信念があった】
それとこないだの作戦の詳細なデータセンキュー、しっかり活用させてもらうよ。見た本人がそう言うくらいだしね
【そう言ってすぐさまコンピュータにインストールし、内容を閲覧する…】
【未確認のインベイドが魍魎跋扈する地獄。そう形容するのが相応しい光景が、戦場の端で観察していたミカエラのそれより鮮明に映し出されていた】
(うちのパイロットが見たっていう『ビームが通じない装甲』もしっかり映ってる。これを向こうから渡してくれたのはかなり有難いことだ)
- 97龍影◆9BZ6kXGcio25/04/08(火) 18:48:29
さて困った。昨日の夜勢いで連れ込んで寝かせてしまった。しかしこの前と違って特に急かす意味が無い…料理まぁ食べるだろうな…
「頑張るか…」
黒パンを手頃の大きさに切りトースターへ入れる。
その間に合わせるものとして燻製のケミカルミート、代替ベーコンを厚めに4枚ほど切り分け、バターをのばした鉄フライパンへ並べていく。パチパチと音を立てて火が通り、焼き目が付いてきたベーコンを裏返し、卵を割り入れる。ベーコンエッグと呼ばれているものだ。アイツの好物だったよな…そう思いながら片方を裏返す。ふと思う。
(あれ、黒パンじゃ無くて白パンが好きとかだったらどうしよう…)
そう考えながら堅焼きとなった目玉焼きを皿に移す。トースターからちょうどいい焼き加減となった黒パンを取りだし、目玉焼きをのせた皿へ置く。
2人分の料理を机に並べる。
そろそろ起こすか…
「ケイ、朝だよ。」
ゆさゆさと彼を揺すり起床を促す。
- 98ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 18:56:19
- 99逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 19:04:38
「ふふっ、確かに一面ではそれもそうだ。私達もそれを極めるために、マニュアルを信奉している部分がある」
「安全な技術ならどんな方向でも構わない……君たちは君たちの道を行くと良い。
私が止めることは、人倫に反することくらいさ」
機体開発の系譜は多ければ多いほど良い。というカンナの思想として、ヴァルハラテックの……過去と比べれば極めて安全に近い神経接続機は……それは素晴らしいものだった。
自分たちが間違っているとも、ヴァルハラテックが間違っているとも思っていない。
人の道に反していなければ、どちらも正しいのだという極めて優しい寛容がそこにはあった。
「はっきり言えばねぇ。私達としても邪魔な奴らって多いんだよ……アズマがいつトチ狂うかも分からないし、私達逆巻が狂うかもしれないじゃん?」
「安全弁と進化の先は、たくさん残したいのさ」
人自連は『多頭の獣』だ。 そして逆巻重工はやむにやまれずその頭の一つを食いちぎったことがある。
初期インベイド戦争時代に起きたとある企業の裏切り以降、彼女たちは毒で腐りきった首を食いちぎる『介錯人』だった。
その介錯人がいつか狂った時。食いちぎってくれる獣は多ければ多いほど良いのだ。
「あとこれは独り言。"老害ども"をいつか潰す動きがあるかもしれないから、協働するか中立くらいは考えておいたほうが良いよ」
そう言い残して、映像をともに見る。
「ほら、うちの蒼風でこれだ。恐ろしいだろう?」
聴覚をやられていた、という証言を抜きにしても蒼風の牽制を抜けて組み付き、その左腕を離そうとしないサイファーカルト機。
その後、全快した蒼風との運動性能も殆ど互角に見える。 勝敗を分けた決定打はパイロットの予測と、僅かな性能傾向の違い。
カンナの危機感の正体だった。
- 100エイダン◆Fd5AlHEdkk25/04/08(火) 19:07:15
「Hmm……」
【『A-2コロニー』 内に建てられた高層マンション。その3階にある自宅の中で、エイダンは訝しげなため息をついた】
【目の前の机上には『BESTIA』と呼ばれる、デスペラード製BFについての資料。その写しが、一枚一枚、丁寧に並べられている】
【ベースは高い互換性を持つSHINONOMEとスカッド・ソルジャーを合わせた物。性能は逆巻重工を参考にした節が見受けられ、物理一辺倒の武装からは (背中に背負った巨大チェーンソーを除き) ロジック・アトリエの技術が使われていることがわかる】
【一言で表せばキメラ。実にデスペラードらしい機体である】
「面白い、が、それだけといえばそれだけ。……でも、何か引っかかるんだよなあ」
【既視感があるのだ。デジャブではない、確かな過去に裏打ちされた既視感が】
「よし」
【羽織っていた白衣の内ポケットからガラケー (に酷似した外見の情報端末) を取り出し、メッセージを送る。宛先は『BESTIA』の所有者であるパイロットだ】
「あれこれ考えるよりは、直接確かめたほうがいい時もあるからね」
【 ''直接会って依頼したい'' という文面の下に適当な待ち合わせ場所を添付しながら、エイダンはそう呟いた】 - 101ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 19:10:19
- 102龍影◆9BZ6kXGcio25/04/08(火) 19:15:58
- 103ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 19:18:59
- 104ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/04/08(火) 19:24:51
【『直接会って依頼がしたい』…まぁ、よくあることである。無法者の傭兵が信頼に足るか、顔を合わせて確認したいという依頼主は少なくない。少なくないが──あのクロノス社の人間が、仲介人無しに、直接の依頼。そして待ち合わせ場所は、相手が指定済】
『騙して悪いが』
【脳裏を過るのは、傭兵達に古くから伝わり、今なお使われる言葉。しかし差出人を見て、ウルヴィは悩む】
【───エイダン・リー。採掘場防衛、G-3コロニー奪還作戦、その両方で見かけたBFパイロットの名前だ。それなりの立場だった…気もするが、ウルヴィにはそこまでの情報しかない】
【暫しの逡巡。その後にウルヴィは…エンブレムが刺繍されたコートを羽織る。彼の指定した、待ち合わせ場所へと向かうことにしたのだろう】
- 105ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 19:30:22
- 106ミカエラ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 19:39:04
…なるほどね?
【ヴァルハラテックとて、実際の所ミカエラのワントップ企業という訳ではない。彼女はあくまでBF専門】
【…“アスガルド・アカデミー”なる養成機関については其方の専門家が指揮をとっている…お互いがお互いをとち狂った時に介錯できるよう。目的を共有した以上は会社の垣根を越えてこちら腹を据える必要があるだろう、無論そんな日は永遠に訪れて貰いたくはないが】
(協働しろって言わないのが中々いやらしいところだねー…水臭いといいますか)
【その頃には試作機のオーバーホール…ついでのちょっとしたアップデートも仕上げられる頃合いだろうと目測を立てつつ、映像を見入る】
…成程?というか再生したりその場で機体性能組み替えてるっぽかったりと意味わからんくらいバケモンだなこりゃ…ビーム兵器も威力減らされる訳でしょ?
…物理兵器。考えてみましょっかね
- 107龍影◆9BZ6kXGcio25/04/08(火) 19:41:03
- 108ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 19:42:22
- 109旧イルベリア半島◆OXAm1h6odk25/04/08(火) 20:21:51
【──────────────────夜の帷を鋭く切り裂いて、けたたましい回転翼の音が大きく響く。旧西方列強連合軍が運用する『イーグル』に搭乗しながら、“ローン・ソルジャー”をネルチ二等兵はその場の雰囲気に呑まれていた】
(……………私がいるのは、何か違うな)
【約百機単位で運用される次世代型のコア粒子推進機構複合回転翼航空機だ。約三百機のBFという一個師団にも匹敵する戦力の中に、徴兵されたばかりのパイロットである彼女が紛れ込んでいるのは場違いに思われた】
【コロニーの住民に課される労働義務の一つとして挙げられる“慰安”への参加が厭で軍部に志願をしたのだ。人類の為だなんて言われても実感が湧かないし、こんな自分が貢献出来るのかも分からない】
【BFと比較してさえも重厚な装甲板によって厳重に密閉された『イーグル』機内で、同伴する二機からネルチに通信が来る。ネルチは慌てて通信を繋いで応えた】
『新入りの、『スコール』の射撃用意は終えているな。『ホークアイ』のインストールも問題ないか?』
『は………はいっ!』
『ハハッ、そう緊張しなくても良い。コイツはどうやら新人が心配らしくてね。俺達は別に英雄的作戦に従事する訳じゃないし、これから先も続くだろう通常任務の一環だ。早めに慣れておくと良い』
【若い男の声が連続する。ネルチはコクコクとその言葉に頷いて、特殊弾頭を装填した大型の砲身を手に構えた】 - 110旧イルベリア半島◆OXAm1h6odk25/04/08(火) 20:22:01
『───空爆座標への到着まで、5秒。カウントダウンを開始します。5……4……3……2……1。攻撃を開始してください───』
【機内アカウントの直後、厳重に密閉されていた重装甲の機体の扉が開いてネルチ達は一斉に乗降口も兼ねていたその扉から身を乗り出して特殊弾頭射撃を開始した】
【約三百個にも及ぶ特殊空爆弾頭『スコール』が空から地表に向かって降り注ぐ。『イーグル』は回転翼によるホバリングを行っており、『ホークアイ』による空爆補助もあって照準も抜かりない。遅れて投射機級がプラズマ弾による撃墜を試み、】
・・・・
【───────────────無意味だ。既に『スコール』は上空で炸裂している。コア粒子燃焼による推進力と重力による加速を受けて特殊合金片の質量集束爆弾が拡散する。対空迎撃に優れた個体であっても、その全てを撃墜するのは不可能だ】
【突撃兵級、射撃兵級が『スコール』によって多大な被害を受けて屍山血河となる。辛うじて被害から逃れた装填手級も、直ぐにロングビームライフルによる集中砲火で破壊された───────装填手級を失った投射機級も、プラズマ弾という最大の攻撃手段にして防御手段を失って蜂の巣にされる。侵攻を退けた】
- 111ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 20:35:16
- 112エイダン◆Fd5AlHEdkk25/04/08(火) 20:35:56
- 113旧イルベリア半島◆OXAm1h6odk25/04/08(火) 20:46:39
【───────────────とは言え、任務というものはイレギュラーが付き物だ。クロノス・インダストリーの空軍戦力によって幾度となく撤退を余儀なくされたインベイドは、未知の進化を遂げ始めている】
『あれ………今、何かが見えたような…………』
『ッ、新種だ!迎撃態勢、避けろッ!』
【戦闘機にも匹敵する速度で空を駆ける巨大な鴉が密集陣形の『イーグル』に接近している。古参兵は素早く動いてロングビームライフルを時間稼ぎの為に撃ち込み、回転翼からコア粒子推進に切り替えた『イーグル』が直ぐに散開する】
【そして、不幸な事にネルチの搭乗する機体に狙いを付けた様であった。全速力で逃走する機体に翼の力だけで追随する異常な速度。鉤爪はビームクローの類いで、強固な装甲すらも溶断する刃渡りだ】
『なッ…………何ですかアレは!?』
『新しい大型種だ!俺達は対空級って呼んでるいるインベイドで、文字通り航空機の撃墜に特化した種だ!追い付かれれば死ぬぞ!』
『最悪の場合は『イーグル』を放棄して降下する、準備を整えておけ。『スコール』で大半を処理した今なら撤退もまだ可能だろう』
【徐々に、本当に緩やかなスピードで対空級が機体との距離を詰める。それがかえってネルチの恐怖を煽った。逃げられないと死神に肩を叩かれている様で、涙すら浮かんでしまう】
【1km……800m……600m……400m……同乗機を操縦する男が叫んだ】
・・・・
『───────────────火消し役が来たぞ!』
【機体の進路上に、異形の機体が現れていた】 - 114逆巻カンナ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 20:50:14
「……本音を言えば、協力して欲しい。だから、どうするかは任せるよ」
「『子どもたちが誇れる未来のために』なる方で決めてくれ」
常に一人で戦い続けている企業が、弱音という襟元を開いた瞬間だった。それが、精一杯だった。
「あくまで推定だけど、減らされるどころじゃ済まないね。殆どは無効化……ってうちのパイロットは言ってたよ。メタ張られた、ってキレてた」
蒼風がビームサーベルを使っていないのがその証拠だ。と声を固くした。
通じること前提でお祈りよりかは、思考から捨てたが未来予測精度とやらが高くなる……とかも言ってたが、カンナはとりあえず 「そっか」 で流している。
だが蒼風のビーム兵器は、あくまで数年前の水準だが最高クラスを用いている。フリクタル装甲の変化による、性能の可変についても謎が多い。現時点での完全解明はほぼ不可能……というのがカンナの結論だった。
「うちのパイロットたちはその……どっか頭がイかれててね。ケイも『手番』とか『12ステップ』とか、そういうので読み勝ちしたらしい」
どういうものかはカンナは分からない。 ただ、月風を乗りこなすコツらしいとしか知らなかった。
……知れば理解できるか、理解を拒むかの二択が、まさにアレなところだろう。
『右手ハサミか砲撃を警戒しつつ、先手有針徹甲弾で回避誘発。相手の反撃読みの反撃で勝ちを取るつもりでした。まさかあれで死ぬとは思っていませんでした。死ぬかと思いました』なんて報告書、参考にできるわけがない。K.I社のパイロットは宇宙を見ていたような顔をしていた。
……いや、出しておこう。 お前も道連れだ。
「これ、蒼風のパイロットの報告書……とりあえず読んどいて。 あと実弾兵器ならうちの使って。ライセンス生産で良いなら許可するよ……はぁぁ……」
ケイのケイらしい部分に頭を痛めたせいで、少し口調が荒くなっていた。
- 115ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 20:51:43
- 116ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/04/08(火) 20:54:48
- 117ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 20:56:58
- 118ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 20:57:36
- 119ミカエラ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 21:08:32
子どもたちが誇れる未来、ねぇ?
【いい事言うじゃん、とミカエラの口角が上がる。それ以上その件について追求することは無く…わざわざ意思表示せずともこちらの意図を読み取ってくれる事を信じて】
【此方の既存兵器で通用する可能性を秘めた武装と言えば、貫通力に優れたマルチビームライフルのランスモード若しくはコア粒子を押し固めて形成するビームチャージブレード…過剰火力と揶揄されながらも技術の粋を集めて作り上げた酔狂な兵器郡ならとも思わなくはないが、確実性に欠ける】
【専用の対策装備の開発は急務だった】
ま、今は実弾兵器が分かりやすい攻略法な訳だしその時は世話にならせてもらうよ…で、これが報告書?
ふむ…………ふむ…………ふーん。お堅い組織なら「詰め将棋してんじゃねぇんだぞ」ってお叱り喰らうわなこりゃ
- 120エイダン◆Fd5AlHEdkk25/04/08(火) 21:13:55
- 121ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 21:16:48
- 122旧イルベリア半島◆OXAm1h6odk25/04/08(火) 21:20:27
『───────休暇を望む軍人。確かに必要な事ではある。人間は永遠に戦い続けられる訳ではないのだから、多少メンテナンス期間は認めてやろうではないか……………』
【コア粒子推進機構。強襲級の有する極めて小型でありながら粒子回収によって半永久的に機動可能な加速器官とは異なり大型でバッテリー式だが、拡張ユニットを大型化させれば超音速にも手が届く】
『───────戦力を出し惜しみする企業、まだ許して差し上げましょう。予備戦力、スペアプランというのは存続と安全保障の都合で重要です。非常時に迷わず献上するのなら構わない……………』
【“スレイガン”のカスタム機が巨大な拡張ユニットを装着している。素体である機体を超える大きさの大型レールガンに同じく大型の高出力ビームランスと機体の機動力を考慮しない武装だが、そんなものは拡張ユニットで補えば良い】
『───────この期に及んで既得権益を守ろうとするような人類全体の利益を考えられない無能な企業。許し難い愚かさだが、大規模な内戦を起こす余裕は人類にはない……………』
【旧西方列強連合領軍所属ルクノレア・ノーザレム空軍中将は吼えた】
『だが貴様らは別だ、害獣ゥゥゥ!!!!!!!!後からのこののやってきた惑星外来種風情が霊長面をして蔓延るんじゃアない!!!!!!!!!反吐が出るッ!!!!!!!!!!一匹残らずこの惑星から駆逐してやるぞこの宇宙デブリがァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
・・・
【───────展開された粒子ビームが曲がる。拡張ユニットから機体全体を覆うように展開された粒子砲門の内の四つから放たれた粒子ビームが対空級を追尾し、詰め将棋のような冷酷さと合理的軌道で撃墜する】
【その間にコア粒子によって電力を引き出した大型レールガンがマッハ7、時速約8,568kmで空を駆け抜けて反対方角の対空級を撃墜する】
【低空からの急上昇で厄介な“火消し役”を排除するべく奇襲を仕掛けたもう一体の対地級がもう一門の粒子砲門によって軌道変更を余儀なくされ、急転換した機体の振るったビームランスによって沈黙して蒸発した】 - 123ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/04/08(火) 21:26:52
- 124ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 21:31:55
(合ってるには合ってるが、なんか凄い例えぶっ込んできたな......)
まぁでも、姐さんが料理について関心持ってくれるようになったら、腕を振るった甲斐があったってもんですよ
まだまだおかわりはあるから、たらふく食べてくださいね
【1人は金持ちのお坊ちゃん、一家はその日暮らしの貧者だった者たち、お互いの感性に驚き驚かされながら、賑やかな昼食会はお開きとなった】
- 125ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 21:38:35
そう言えば、メビに今朝聞かされたのですが、夜はあの中華街の料亭で満漢全席をご馳走しようかと思ってるんですがどうします?
【メビと共に後片付けを進めながら、今にも本革とフェザーで拵えたソファに同化してしまいそうなハニヤに問い掛ける】 - 126ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 21:48:44
- 127エイダン◆Fd5AlHEdkk25/04/08(火) 21:50:19
- 128ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/08(火) 21:53:40
- 129ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/04/08(火) 22:02:05
- 130龍影25/04/08(火) 22:04:35
- 131ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 22:11:06
「北方戦線含めた、初期インベイド戦争時代に兵士たちの間で流行した符牒さ。合言葉と言ってもいい」
「――――私も、彼らに救われた。だから彼らの仲間なんだ」
みんながこの言葉を叫んで団結して、そして死んだ。だから絶対忘れない。とカンナが言った。
誇りある顔だった。
「だぁよねぇ。それ、予め『先行入力』したマニューバなんだって。ケイいわく」
いや、しらんけど。全く意味わからん。というカンナの表情は死んでいた。
「月風乗りはこれができて当たり前らしく、いつもみんな『手番遊び』ってのをしてるよ……」
遠い目だった。
「いきます!!!」
キラキラした笑顔で椅子から立ち上がった。今すぐ行きましょう!!という勢いだった。
- 132龍影25/04/08(火) 22:16:35
- 133ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 22:24:07
- 134ミカエラ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 22:31:56
- 135龍影25/04/08(火) 22:33:15
- 136ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 22:43:25
「あー、そういえばそっちは……人間以上の反応がないと使えないってやつを……」
思い出した。そうだ、そういう機能はあっちも用意しているのか。
それをマニュアルでやるやつがやばいのか、機械で再現するほうがヤバいのかは分からなかった。
どっちもどっちか。とカンナは結論付けた。
私らはそういう普通じゃ満足できない奴ら向けを作るのが役目だろう。
「りょーかい。派遣は受け入れるよ。顔出しもOKOK。 ま、望月が表に出るまでは秘密で、ね?」
という約束をしつつ。
「あ、これ口止め料に蒼風のシールド材ね。 シグドニット合金と超カーボン複合材かつ耐ビームコーティング」
これが本来の対価だったんだ。と渡すそれは、上手く使えばキルケー部隊の狙撃すら防げるものだった。
「いい取引だったよ。これから宜しく、ミカエラ」
カンナは手を伸ばした。
「はい!!」
そのまま乗り込んで……うん、ちらっとその姿を見て綺麗だなぁなんて思う程度には。
男の子で、浮かれていた。
- 137ミカエラ◆KPwoT407kA25/04/08(火) 22:55:25
- 138エイダン◆Fd5AlHEdkk25/04/08(火) 23:09:46
「そうか、そうか……やっぱり、あの人だったのか。ふふふ……」
【思わずニヤケ声が漏れた口を押さえる】
【数少ない己が抱える衝動の理解者にして、敬愛の対象が今も存在している事実を得た歓喜が心を沸き立たせていた】
【が、今は他人の前である。喉奥に紅茶を流し入れ、プリンを一口食べる。伝統的な甘味と苦味によって、騒がしい胸中を落ち着かせる】
「ふぅ……すまない。では、依頼に入ろう。内容は仲介だ。君には、デュラハン氏との会談の取り次ぎを頼みたい」
【そうして、再びずり落ちた眼鏡をあげながら、風変わりな依頼内容を口にした】
【提示された報酬額は相場の天井にぶち当たっている。それだけ、目の前の男は本気だということだろう。何なら、言えば色をつけてくれるかもしれない】
- 139龍影25/04/08(火) 23:10:58
- 140ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/08(火) 23:15:28
- 141ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/04/08(火) 23:25:44
- 142エイダン◆Fd5AlHEdkk25/04/08(火) 23:49:17
「……心配、してくれているのかな。君は優しい人だね、Ms.ウルヴィ」
【どうやら、デュラハンは人と呼べるような状態ではなくなったらしい】
【外見が変わったのか、精神が変わったのか、はたまた両方なのか】
【しかし、根底が変わったわけではないだろう】
「ありがとう。でも、どちらにしろ受け取ってもらうよ。違った場合は、優秀な技術者へ取り次いでくれた報酬ということにするさ」
【最初から別人だろうが会うと決めているのだ。
デュラハンの名を騙っているのなら一発殴るかもしれないが、BESTIAという素晴らしいキメラを作り上げる技術は本物であろう】
【なら、一発殴ったあとに会談すればいいやとエイダンは考えていた】
- 143ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/04/09(水) 00:07:25
「傭兵は信用が第一、それだけ」
【無機質な声、無表情のままに言う。ウルヴィにそれが心配であるという自覚はないらしい】
「分かった…それがクライアントの意向なら、尊重する」
【そこまで言うのであれば、仕方ないと頷いてコーヒーに口をつける。目の前の彼はどうやら、この場を設けるより以前…恐らく自身に連絡をした時点で、とうに心を決めていたのだろう。ならば余計なことをしてしまったか、と思いつつ、端末を取り出す】
「…ウルヴィ。……いや、あなたに会いたい人がいる。………エイダン。エイダン・リー。……………違う、そうじゃなくて。……うん。」
【善は急げといわんばかりに、ウルヴィは連絡を行ったらしい。難航の兆しを見せていたものの、話はまとまって】
「…今から?え、あ、大丈夫?」
【喫驚と申し訳なさが混じったように、エイダンへと質問した。今からでも問題ないだろうか、と】
- 144二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 00:30:29
このレスは削除されています
- 145エイダン◆Fd5AlHEdkk25/04/09(水) 00:40:02
「もちろん。今日は有休を取ってあるからね、一日暇だよ」
【最初は『BESTIA』の他の機体についての資料も読み込むつもりだったために取った休みであるが、余計な情報なので言わない】
「すいません、お会計を」
【残っていた紅茶を飲み干し、プリンを四口ほどで素早く食べ終えて店員を呼ぶ。既に財布は懐から出されていたため、料金はつづかなく払われた】
「よし。それじゃあ、行こうか」
【キャスケットを被り直し、眼鏡をあげながら席を立つ。その姿勢はまっすぐで、今にも飛び出していきたい足を抑えているようにも見えた】
- 146ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/04/09(水) 00:40:23
- 147龍影◆9BZ6kXGcio25/04/09(水) 07:37:50
ドーザーショップ、ドーザー(解体屋)が経営するBF専門の中古品市場で、企業スポンサーが持てない傭兵の約7割がここでBF一式を揃えている。
「チャオレン…おい!姐さんが来たぞ!こりゃまぁド派手にやって…」
ワラワラと牽引車に載せられたボロボロのチャオレンを見ようとドーザー達が群がる。
「チャオレンはレストアしない!売却に来た!」
トレーラー運転席の窓を開けて、群がってきたドーザーに伝える。
「売却ぅ?!」
ドーザーのひとりが素っ頓狂な声を上げる。
「G-3で大破しちゃってそのまま点火しないの!」
それを聞いたドーザーは
「わかった、正常に動くパーツはどこだ?まずはそこから買ってく。」
商売人の目になった。
龍影はケイにも降りるよう目配せをしてからトレーラーを降りる。
「おい、隣からガキが…」
「あのガキ…アイツもG-3に居たって話だ…」
「姐さんの僚機か?」
ザワついた。
「あ!あのガキはオリジナルアーヴィングのパイロットだぞ!」
G-3へ弾薬を運んだドーザーは叫んだ。
「オリジナルアーヴィング?!」
「マジか!おい、話を聞かせてくれ!オリジナルアーヴィングの動性をどうやってマニュアルでやってんだ!」
「オリジナルのパイロットならアーヴィングで使ってる20mmバルカンは買わないかい?」
むさ苦しいドーザーはケイに群がった。
「ハイハイ、ここまで。彼は私の付き添い。今回の客は私。OK?」
龍影はケイを抱き寄せ、隣に持ってくる。
それを見てドーザーは関係性を理解したのか
「悪かった、姐さん。チャオレンの脚部ホバーユニットと右腕、それに取り付けてあるプラズマブレードはどこもイカれてない。こんなもんで買い取らせてくれ。」
まぁそこそこな金額だ。
「わかったわ。この金額でお願いするわ。」
見積もり書に龍影はサラサラとサインを書いた。
- 148龍影◆9BZ6kXGcio25/04/09(水) 08:13:43
- 149ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/09(水) 08:45:38
「うわ、うわわっ、うわ!?!」
《……ケイ、どうか落ち着いて対応を》
ドーサーたちに群がられたケイは、龍影が虫除けのように抱きついてくれるまでむさ苦しい彼らへの応対をすることになる。
スイは揉め事を避けるため自身を蒼風の中に退避させた。 ざわつく彼らは、己が『G-3の生き残り』ということで話をしに来ているようにケイは思った。
『オリジナルアーヴィングの動性をどうやってマニュアルでやってんだ!』
「凄い身も蓋もないけど、その、経験。訓練しかしてないけど、10年は月風に乗った。手足がもう月風なんだ」
まず最初の質問にケイは真摯に答える。 困惑しながら、辿々しいが。
「次に未来予測精度……凄い噛み砕いていうと、数秒後の自分と敵の動きを予測するんです」
「その流れを『手番』って言います。 1手読みはできて当然。2手読めれば上々。3手読めれば……使いこなすには苦労しないはずです。そうすれば……」
才能は置いておくとして。たぶん誰でも、月風に乗れる。 ケイはそう言い切った。
『アーヴィングで使ってる20mmバルカンは買わないかい?』
「気持ちだけ、ありがたく。 気になるなら、ぜひ月風の頭部バルカンの口径を調べてください」
ケイの保護者たちはアーヴィングのあれそれはともかく、武装についてまで偏見はない。
だがケイはケイで、蒼風と月風の装備バランスには自信があった。 それが答えだ。
そこまで答えられてようやく龍影に抱き寄せられて、ケイはチャオレンの売却の誓いに立ち会う。
――――なるほど。奪ったわけじゃないんだぞ、っていうのを見せて信頼を作る儀式なんだな。
ケイはそれを即座に理解して。異論なし!と叫んだ。
そのまま、龍影に抱きついてついでに。
「俺の龍影です。 諸々は彼女の好き好きに任せますが、彼女に望まぬ手出しをしたら…… 許さないですからね」
さりげなく、独占欲が漏れ出した。 ドロリとした粘性だった。
- 150エイダン◆Fd5AlHEdkk25/04/09(水) 10:37:07
- 151ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/04/09(水) 11:07:12
- 152龍影◆9BZ6kXGcio25/04/09(水) 11:18:30
「ケイ…」
言うようになったじゃない。
龍影はそう言葉を紡ごうとした時
ギャギョン
独特な駆動音を鳴らし有蹄類を彷彿とさせる有機的な2脚のメカが歩いてきた。
それに腕は無く、頭と言えなくもない胴体ブロックの上に牽引用の巻き取り式ワイヤーを取り付けた忌々しい異形…アーヴィングフレーム。ほんの少しだけ龍影の顔に影が落ちる。
チャオレンの横につくと牛の嘶きのような音を立てて直立し、ワイヤーを下ろす。
それを受け取ったドーザーは慣れた手つきでチャオレンにそのワイヤーを玉結びして固定する。
「持ってくぞ!」
アーヴィングはまた嘶き、腰を落として歩き始める。チャオレンが牽引車からおろされていく。
そんな独特なスパイス、アーヴィングを物珍しそうに見ていたケイに龍影は
「アレが月風のデッドコピーの月光。アーヴィングよ。」
と伝えた。どこからどう見ても別規格のようなものであるが、内部駆動部品のほとんどは月風に使ってもエラーを吐かない程の精密さで作られたドーザー作の模造品であり、その上からインベイド達の筋繊維を独自に培養して取り付け、冗談のような健脚を実現している。
- 153ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/09(水) 12:36:47
子供のような笑みを見せたところにギョン、ギョンと歩いてくる生物的なBFを見たケイは物珍しそうにそれを観察する……龍影の顔が浮かないのに気づいて。その肩を抱き寄せた。
「……あれが、ぁ????!」
そして、龍影の言葉に、間抜けな声で叫ぶ羽目になった
高度な精密機器、そして鋭角と流線で作られた硬質な金属装甲で覆われてなお細身を維持する機体。
その背部へ大型のコア粒子推進機関を三角で覆うように取り付けられた3種類のウイングバインダー……が月風だ。
それらの面影が全て、消え失せている。
「はは、ははは……えぇ……??」
おまけに月風へ内部パーツを組み込んでもエラーを吐かないと言われたら、もはや間の抜けた声しか出せなかった。
怒りだとかそういう感情以前の問題。困惑だった。
「カンナさんがキレるわけだよ……」
控えめに言ったあと、ケイはコレを初めて見せられた時の6代目逆巻重工CEOの気持ちを思い、そして彼女へ憐みの祈りを捧げた。
こんな産んだ覚えのない異形を認知しろと言われたら、コンストラクターとしてどんな感情になるか。ケイは哀れとしか思えなかった。
- 154エイダン◆Fd5AlHEdkk25/04/09(水) 12:39:28
- 155ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/04/09(水) 12:55:13
- 156龍影◆9BZ6kXGcio25/04/09(水) 13:42:11
- 157ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/09(水) 13:42:22
あ...さ......姐......ん......姐さん、起きてください
ちょっと眠気覚ましに向こうのテーラー行きますよ
【いつの間にか仲良く寝落ちしていた2人を起こす】
【その隣では、赤い旗袍(チーパオ)と黒タイツを着けたメビがルゥルアを抱いていた】 - 158ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/09(水) 13:49:38
- 159ミカエラ◆KPwoT407kA25/04/09(水) 13:57:42
【ある日のヴァルハラテック研究所】
「…博士、この機体いったいなんですか?AR-Vでもヴァルキリーでもなさそうですが…」
ん?
KBF-06-Assaultですけど…どっちかってーと07-Assault?
【研究員と博士の眼前には、先日手に入れたスレイガンの背部に強襲級インベイドの推進機関を適当に取り付けた“なんちゃってソロネ”が鎮座していた】
あ、でもこれまんまソロネってしちゃったらあのおじさんカンカンだろうし通称弄るか…フォールン・ソロネとかどう?
「いや見たら…いやシルエットくらいしかぼんやり似通ってませんけどどういう風の吹き回しなんです?こんなの組み上げて三徹でついに頭がおかしくなりましたか」
…ちょっとね。
「えっ本当に頭がおかしく」
そっちじゃねぇんだわ
【実機があるのとないのとでは、性能評価の制度は大きく変わってくる。ミカエラが信じるのは自身のワーグナーモデルだ。こんな不細工な模造品は間違っても戦場に出す訳にはいかない】
確かに加速力や小回りには目を見張るものがあったけど、これが企業の特記戦力張れたのは一重にパイロットが良かったからだよこりゃ
…だのにそいつを生かそうって気概がまるで感じられない。スレイガンでこうなんだから恐らく、原型はもっと
【恩師も雑な仕事をする…いや、出来なかったと言うべきか。現にあの仕様で馬鹿みたいに成果を出せていたのだから上層部はこれ以上の機体のチューンナップは無駄な投資だと考えていたのだろう】
…ふざけんなよ
【逆巻からコア推進機関とシールド材のデータを貰えたのは僥倖だった。あれのお陰で、ミカエラはより理想の機体の開発に着手できる】
【フォールン・ソロネの解体指示が下された後、ミカエラはしばらく研究室に籠りきりだったという】 - 160ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/09(水) 14:03:37
- 161ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/09(水) 14:17:11
- 162ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/09(水) 14:35:43
- 163龍影◆9BZ6kXGcio25/04/09(水) 14:47:54
目的のひとつであった57×180mm弾がなかったため、龍影は30×137mm弾と、それに対応している突撃銃を購入しようか考えていた。
「姐さん、お目が高いねぇ!そいつは30mm突撃砲。コロニー守備隊のウェポンラックにかかってた新品だ。馴染だからお安くしたいところだが…今回はちと値が張っちまう…」
中々に吹っ掛けてきた値段を言われた龍影は
「そう、なら人自連の方で用意するわ。」
そういって連絡を取ろうとする。(30mm程度、人自連で用意できてしまうからだ。高いから頼まないが。)
「だー!客が離れる!わかった!姐さん!2でどうだ?」
店主は値段を下げてきた。
「高い、3はいかないと。」
龍影はさらにいけると強気にでる。
「3はマズイ!2.4だ!」
食い下がる店主
「2.6は?」
相手の額に擦り合わせていく。
「姐さん、あんたの勝ちだ。2.5で売らせてくれ。」
店主が折れた。
「ありがと、寄った時にまたここで買うよ。」
龍影はそういってカードで支払った。
「積み込みは私の乗ってきたトレーラーにお願いね、デリバリーは高いから。」
店主にそう伝え、ケイと共にまた散策を始めた。
- 164ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/09(水) 15:00:47
よっしゃ、それじゃ行きますよ〜
この時にとっておきの曲があるんですよ〜
Redbone - Come and Get Your Love (Official Music Video)
着きましたよ〜あれです
【路上駐車場に駐め、最寄りの交差点を越えると、チャイニーズレッドが映える古代建築様式の建物が目に入る】
【そして、その古いが綺麗に手入れされた店に、金龍は我が家にでも帰ったかのようにドアを開ける】
梅子的老妇人〜您现在在吗?
「ちょいと待っちょってくれ〜その声は勞の坊ちゃんかい?」
【レジ裏のカーテンから数珠をジャラジャラ身に付けたニコニコ顔の老婆が現れる】
「あらあらやっぱり〜今日もようおいでなすったな。お茶と菓子はいるかい?」
だったら、ありがたくもらうよ婆ちゃん
「それで? 一体どんな用で来たんだい?」
あそこに居る家族とこれから飯に行くから、その店の雰囲気にぴったりのものを頼みたい
「そういう事なら分かったわいね。ほらお嬢ちゃんたち、あんたらの名前を聞かせても良いかね?」
- 165ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/09(水) 15:27:14
- 166ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/09(水) 15:40:27
- 167ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/09(水) 15:52:24
- 168ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/09(水) 15:53:57
- 169ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/09(水) 16:08:41
- 170W-6コロニー撤退戦◆OXAm1h6odk25/04/09(水) 16:28:33
【────────────────────太陽が沈みゆく中で、自動車が点々と連なって一本の線になりながら舗装された道路を高速で進んでいる】
【元々はコロニーに生活に必要な物資を届ける為の道路だったが、今ではコロニーからの避難民を輸送する為にトラックが占拠していた】
【三日前、W-6コロニーの哨戒部隊はインベイドの群勢を発見した。クロノス・インダストリーは防衛戦を宣言。それに伴いコロニーの住民は全て避難を余儀なくされた】
【W-6コロニーで生まれ育ったアレクもその一人で、パイロットとして出撃した両親に代わってまだ幼い妹の面倒を見なければならなくなった】
【十五歳の青年がまだ七歳の少女を膝の上に乗せている。妹は荷物の整理で大事なお人形を手放さなければならなくなった時の駄々捏ねでの泣き疲れが今来たのか、彼の膝の上でぐっすりと眠っていた】
「すみません。ボードンさん。お手を煩わせてしまって……………」
「子供が遠慮なんかするもんじゃないさ。どうせ手持ち無沙汰なんだ、困った時は助け合いだよ」
【アレクの対面に座る髭面の壮年男性はボードンと言う。普段はコロニーのBF工廠で働いていて、その関係でアレクとリリアナの両親とも縁があった】
【それに、とボードンは続けた】
「子供に泣かれると、俺も胸が痛くなる。こういうご時世だからこそ、未来に繋がる子供は大事にするべきなんだ」
「………………ありがとうございます」
【もう何度目かも分からない感謝の言葉を目の前の青年から述べられて、ボードンは苦笑した。真面目なのは良い事だが、これでは気苦労しそうだと】
「まッ、何だ。直ぐにでも帰れるだろうさ。オメェの両親も頑張ってる。俺が作ったBFでインベイド共を今頃蹴散らしてる頃じゃないか?」 - 171龍影◆9BZ6kXGcio25/04/09(水) 16:37:13
「順調よ、ケイ。貴方は買いたいものあった?」
隣を歩く少年に聞いた。
「どうしても最高品質ってのはスパイスとかになるけど、あんまりにも酷い粗悪品はここにないわよ。12.7mm弾…少し見ても…?」
店主に許可を取り、龍影は箱から一つ手に取り確認した。
「…コレ、弾頭には何を?鉛じゃないわね。」
龍影は違和感を感じた。
「よく気づきなりましたねお嬢さん…コイツは特殊も特殊…インベイド甲殻を加工したものになっておりまして…
それでお値段なんですが…」
店主は薄らに笑みを浮かべた
「いや、鉛弾が欲しいわ。貫通力は求めてないから。」
龍影は訳の分からんものよりも過去からある信頼性の高いものを求めた。
「そうか…釣れないねぇ…」
店主は少し寂しそうに鉛弾を龍影に売った。
- 172ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/09(水) 16:39:48
- 173W-6コロニー撤退戦◆OXAm1h6odk25/04/09(水) 16:45:13
【鋭い風切り音が聴こえる。直ぐ様ボードンは顔色を変えてアレクの胸倉を掴んでからトラックの外に投げ飛ばした】
【────────────────────そうして、放たれた機関銃がトラックをグシャグシャな鉄の塊にして、ボードンがバラバラの肉片になるのをアレクは目撃した】
「……………………ぁ?」
【息が詰まる。空を見上げる。そこには単眼の巨人が喧しく回転翼によってホバリングしながら眼下の避難民の列を睥睨している】
【対地級。過去の悪夢。無数の人を虐殺し、無数の難民を生み出した怪物────────BFの発展に伴い、低空への接近が容易になった事で駆逐された筈の骨董品】
【避難民を護送していたクロノスのパイロットが、教本通りの動きでブースターを吹かし対地級に肉薄しようとした。既に対処法を確立された筈だった】
【───────────────────そして希望は迅速に摘み取られた。巨大な鴉めいた異形の新種が単調な加速で対処しようとした機体をビームクローで咎め、パイロットを蒸発させた】
「なんで…………インベイドが此処に……………」
【分かっている。インベイドが避難民の追撃を行う為にはコロニーの防衛線を突破しなければならないという事は。だがそれは、つまり防衛部隊の敗北を意味するのだ】
【アレクとリリアナの両親は、パイロットだった。腕に懐いたリリアナはまだぐっすりと眠っている。衝撃を自分の身体をクッションにして軽減していたから、この悪夢めいた光景を見ずに済んでいる】
【対地級の銃口がアレクを向いて、インベイド相手には通じないと理解しながらアレクは叫んだ】
「お願いします!妹だけは………僕は殺しても良いですが、妹だけはどうか助けてください!まだ七歳なんだ!まだ、こんな所で…………」
【奇妙な事に、その祈りが通じたのか対地級はその銃身をアレクから逸らした】
- 174ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/09(水) 16:46:11
- 175龍影◆9BZ6kXGcio25/04/09(水) 17:00:23
- 176ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/09(水) 17:05:20
「うんうん……あらかた聞いたし、今から採寸させてもらおうかね。坊ちゃん、ここからは男子禁制だから、好きなだけお茶を飲んで待っといて〜や〜」
あーもー分かってるから、いちいち茶化さないでくれや婆さん
【お互いにやーねーあーねーとニヤニヤしながら戯れつく】
「ええじゃないか〜坊ちゃんだっても私の息子なんだし、こうやって話すのが楽しいんだわい。それじゃ、ハニヤちゃん達はこっち。すぐに特上品を仕立てあげるからね」
【そう言うと、孫娘たちの居る部屋へと3人は連れられて行った】
んじゃ俺は少し寝る
メビ、久々に膝枕頼むよ
「金龍様、少々はしたないですよ」
別に良いんだよ
前に君の服を仕立ててもらった時も眠らせてもらったんだからね
(……しょうがないお方ですね)
【家事で溜まった疲れはまだしも、店内で流れる曲に眠気を誘われ、金龍は瞼を閉じた】
中国楽器「二胡」で聴くリラックス音楽 " 蒼古 " Chinese Instrumental Music, Erhu music, Meditation, Relaxing
- 177W-6コロニー撤退戦◆OXAm1h6odk25/04/09(水) 17:07:15
【もう一機のクロノスのパイロットが何とか注意を惹き付けようと放ったアサルトライフルの弾は四つの尾から放たれた細い粒子ビームによって全て撃墜され、返礼の機関銃がトラックと同じ様にその機体をグチャグチャの鉄塊に変えて沈黙させた】
【────────────────────最後の希望も、そうして潰えた】
【鋼鉄の巨人は、アレクにとって無敵の存在だったのだ。進撃する突撃兵級を薙ぎ払って、射撃兵級の弾幕にも果敢に突っ込んで敵を撃ち払う】
【その守護者は、今や物言わぬ骸へと成り果てた】
「い…………いやだ…………………」
【妹を起こしてしまわぬように優しく、しかしその体温を感じる為にアレクは彼女を抱き締めた。まだ何も知らないのだ。何の罪も犯していないのだ】
【ボードンさんが持ち出してくれたお気に入りのお人形は、潰れたトラックから流れ出たガソリンの火で燃え上がっていた】
【まだ人生に満足していない。口先では「死んでも良い」なんて吼えたけど、物心付かない頃から人類は脅かされていて、死の恐怖がずっとあったのだ】
【───────────────────アレクは、まだ“平和な世界”を知らないのに】
「し、しにたく………しにたくない…………!」
【何故自分達なのだろう。人類が勝利するまでは、如何なる苦境にも耐え抜こうとする意志があった。だがもうアレクが人類の勝利を見届けられる未来はないのだ】
【何も、罪は犯していない筈だ。如何なる非道も、如何なる悪辣も、至って無縁の平凡な暮らしをしていただけだ】
【────────────その“平凡”が、罪だとでも言うのか?】
「誰か、助けてくれ!」
【放たれた機関銃は、一組の兄妹を合挽きにした】
【泥濘に落ちたその家族写真も、やがてインベイドの進軍によって踏み潰されていった】
- 178W-6コロニー撤退戦◆OXAm1h6odk25/04/09(水) 17:10:40
【翌日、クロノス・インダストリーの東方大陸司令部にとある紙が並べられた】
【W-6コロニー撤退戦、推定死亡者数163,740人】
【名前もなく、無機質な数字だけが記された報告書の上には人自連に所属するとある企業への攻撃作戦案が置かれていた】 - 179ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/09(水) 17:12:33
「それで大丈夫です! 弾倉4つ分で……あと、通常高速弾頭も4つ分お願いします」
年老いた店主でも分かるだろうケイの頼み方は、初期インベイド戦争時代に弾装……マガジンの中に入っている弾頭のこと……を複数種類混ぜ合わせて使う傭兵特有のものだった。
そんなことをすれば通常は弾道特性のブレや威力の違いに戸惑いやすいのだが……少年の目に迷いはなかった。
「体は生まれつき頑丈なんです!! むかし5mくらいの高さから落ちましたけど、骨折で済んだくらいですし!!」
と言っても、衝撃と痛みでそのまま気絶して祖父に助けられたのだが。
稀によくいる……というレベルの、耐G体質というものだった。
インプラントのパンフレットはありがたく受け取った。龍影さんなら使うかも!という気持ちでだ。
- 180龍影◆9BZ6kXGcio25/04/09(水) 17:35:29
「ほう…いいのかい?ほんとにそれで。まぁ別に歌舞くのは構わないが…でもまさか月風乗りに会えるとはねぇ…そろそろ凪が終わるのかもな…」
そう行って店主は色々と書き込んだ紙を1枚ケイに渡した。
「それに受け取り場所を書いといてくれ。」
店主はケイが書き込むのを待った。
書き終わったのを確認してから裏に着いていた紙を剥がし、ケイに渡す。
「それ控えね。受け取りの時に持ってきた若いのに見せてやってくれ。」
そう言ってヒラヒラと手を振った。
買い物が終わったケイにパンフレットを渡された龍影は、思わず笑ってしまった。
「コレはM型のインプラントパンフレットだよ!ほら見て!」
だいぶ直接的な写真が載っているパンフレットであった。
義体はM(男)とF(女)で必要な構造がまるで違うため、共有できるものでは無い。ケイはその違いがいまいちピンと来ていなかった。
- 181ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/09(水) 17:41:42
- 182ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/09(水) 17:45:14
- 183エイダン◆Fd5AlHEdkk25/04/09(水) 17:57:12
「初めまして、Mr.デュラハン。突然の訪問を受け入れてくださり、誠に感謝します」
【キャスケット帽を取り、深く礼をする】
【親交を深めた相手にとるには冷たすぎる態度を受けても、心は動じなかった。すげ替えられた頭を認識した時点で、彼がクロノスを自分の中から完全に切り離したことを察したからだ】
「今回は個人的な会談を申し込みたく伺いました。もちろん、タダとは言いません」
【肩にかけていた鞄から、二つの資料の束を取り出す。それぞれ『スレイガン:フレーム』『リニアキャノン』というシンプルな表題がつけられている】
「クロノス・インダストリーが誇る最新鋭量産機、スレイガンのフレーム設計とリニアキャノンの詳細を詰めた資料です。BESTIAの品質向上に役立つかと思い、持参しました」
【資料へつぶさに目を通していく中で『BESTIA』が試作段階……もしくは未完成であることにエイダンは気づいていた。だから、そこを突ける最適な札を切ることにしたのである】
【デュラハンは自分が知る中でも5本の指に入る優秀な技術者だ。既に解析へ取り掛かって……否、終えている可能性も高い。これは賭けだ】
【まあ、既視感の裏付けを取るという最大の目的は達成されたのだから、最悪負けてもいいか。と、エイダンは思うことにした】
- 184龍影◆9BZ6kXGcio25/04/09(水) 18:01:22
- 185ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/09(水) 18:10:08
「お姉様、かわい子ちゃんがちょっと怖がっておられましてよ」
「この子に堪え性がないだけだ、胡桃。いちいち大袈裟にしない」
「……でも少し……胡桃姉さんと陽米姉さん……雑じゃない……?」
「……分かった分かった」「……分かりました」
【3姉妹(というよりは2人)にもみくちゃにされつつもも、一家は採寸を終わらせる】
【そして、梅子婆さんは姉妹から受け取ったメモ用紙をピンで壁に固定した】
「可愛い孫たちや、ご苦労だったわいね……ここからは私の出番だね……」
【コオオオオオ……】
【彼女たちのためにと見繕った布を目の前に、全精神を集中させる】
「ほわちゃあああああああああああああ!!!!!!!」
【工業用ミシンよりも素早い速度で布を断ち、固定し、瞬く間に縫う!】
【その手元が速すぎるあまり、宙に舞う布と糸が彼女を包む繭のようにも錯覚してしまう!】
- 186ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/09(水) 18:13:18
「2着お待ちだねい!!!!!! 着心地はいかがかねい!!!!!!」
- 187ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/09(水) 18:21:22
- 188ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/09(水) 18:26:08
- 189ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/09(水) 18:40:03
- 190ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/09(水) 18:40:22
…………
「どうしたんだい? まさか手持ちがないからツケにして欲しいわけじゃ無かろうて?」
いや……(普段の1割なんて破格なサービスしちゃって大丈夫なのか?)と思ってな……
「今回はサービスなんだよ、坊ちゃん。あんなに可愛い子達、アンタのメビちゃん以来だからねい。こっちも存分に満足したわいな」
あーなるほど
【納得しながら流れるようにカードを読み込ませる】
【百数年前に開業しているとは言っても、この仕立て屋は時代に適応してはいたのだった】
それじゃありがとうな、婆さん
今度は手土産持ってまた寄るよ
「あんたも元気にやるんだよ〜」
【そうして、金龍一行は再度ドアの鈴を鳴らした】 - 191ウルヴィ◆xZJxX8ZGsA25/04/09(水) 18:45:47
《僕に?会談?君が?》
【理解できない、と言いたげだった音声は直後、資料の束を取り出されたところで一変する】
《……なるほどね。流石はあのエイダン・リーだ、僕が欲しいモノはお見通しってことかな?》
【エイダンの切ったカードは、デュラハンが今最も求めていると言っても良い情報だった。現在BESTIAの腕部を完全に作り直す必要があり、そのためにスレイガン・フレームを素体としていようといたが、エースパイロットに優先配備されるテスト段階のそれは、解析しようにも今まで出来なかったものだ。更にリニアキャノン。実弾に偏重することを好むクライアントの意向に沿うならば、現在クロノス・インダストリーが持つ中で一番、参考になる技術。】
《けど、君になんのメリットがあるんだい?こんな場所に、目ぼしいものはないと思うけど》
【K.I社の最新鋭の技術を出してまで、エイダンが何を求めているのか。デュラハンが気になったのはそこだ】
【デスペラードに技術を提供する危険性は、大企業からすれば計り知れない。それほどBESTIAに惹かれるものがあったのか──】
《それとも、ひょっとして僕かな?現・工学事業部部長殿》
【からかうような態度で、球体の中心部がエイダンの瞳へ向く。友好的とはとても言えない、人を食ったような音声。過去の繋がりの一切は今ここに居る“デュラハン”のものではないと伝え、同時に記憶は確かに存在することを示していた】
- 192ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/09(水) 18:45:48
- 193龍影◆9BZ6kXGcio25/04/09(水) 18:49:16
30mm突撃砲とその他弾薬を満載した牽引車のついたトレーラーに戻った2人。龍影はケイをしばらく見ているとおもむろに龍影は運転席付近にあるボタンの1つを押し、フロント、サイドガラスにスモークを入れた。本来の用途はトレーラー運転手が仮眠をとる際のプライバシーカットに使うものである。当然ながら外からトレーラーの中は見えない。
ケイの唇を龍影は奪うようにキスをした。
舌を絡ませ、2人の唾液が混ざり合う。
しばらく…いや、1分とも1時間とも感じれる長く、そして短い時間の中で重ねていた唇を離し、瞳に自分の姿が見えるほどの距離で、
「ごめん、キスしたくなっちゃった。もし続きをするなら帰ってから…ね?」
少し物悲しそうに龍影は言った。
ケイは龍影に、龍影はケイに。とてもまともではないほどの依存をしていた。もう他人からの介入があったとしてももう2人の関係はとても早く、歪なそれでいて歪みのないものに成長していた。
- 194リンゼイ◆Fd5AlHEdkk25/04/09(水) 18:52:30
「んー……見つからない。確かにここら辺にある筈なんだけど……」
【星型にデザインされた擬似ハイライトを瞬かせながら、リンゼイ・コースは困り顔で周囲を見渡す】
【K.I社専属ハッカーという肩書を持つ彼女が足をつけているのは、もちろんK.I社が管理するコロニー……ではなく、人自連が運営する晴天市街の道路である】
(せめて ''ドラクラクエスト'' の居所だけでも掴まないと、有休を使った過去の私が可哀想だし……)
「うん、止まってる暇はないわね」
【そう呟き、一歩を踏み出す】
【この女、未だ見ぬ世界/ゲームのためなら安全圏から飛び出すことも厭わない、生粋のゲーム廃人であった】 - 195ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/09(水) 19:03:30
「ん、ぐ……ぷはっ……っっ」
唇どうしが交わる間、ケイは龍影を強く強く抱きしめながらそれを受け入れて。
透明な橋ができてしまったことなど気にしないほどに、ケイも龍影の目に見入っていた。
「へへ……大丈夫です。我慢します」
そう言い切るケイだが、……正直なところ、求められることが嬉しすぎて既にどうにかなっていた。
性欲もあるだろう。だが、彼女に求められることが何より嬉しい。
求めたい気持ちもあるが、龍影が望まない時はしない姿勢を既に決めていた。
18歳の少年とは思えないほどケイは龍影に身を委ね。
依存しながらも隣り合い、尊重する。歪みながら真っ直ぐな、そんな関係。
(……あ、そうだ。あとで地下に龍影を招待しなきゃ)
そういうものになったのだから、すべきことに今更気づいて。
自分の本当の故郷へ彼女を招待する算段を、ケイは立てていた。
- 196ハニヤ◆KPwoT407kA25/04/09(水) 19:05:33
- 197ゴルドラ◆ncKvmqq0Bs25/04/09(水) 19:10:43
もうすぐ着くぜ〜
恐らく、いや絶対に、この中華街で1番の料亭によ〜
【金龍が示す先、そこにはアサクサ・テンプルの中央にゴジュウ・タワーが合わさった外観の建物が、中華街のシンボルのように立っていた】
【そこで地下駐車場に駐め、荘厳なBGMが流れるエレベーターで上がる】
「ようこそお越しくださいました。僭越ながらお客様の名前を伺っても?」
【燕尾服姿のウェイターが、実に手慣れた動作で静かに出迎える】
勞金龍 個室を予約したはずだけど、合っているかな?
「……えぇ合っております。でしたらこちらの専用エレベーターでお上がりください」 - 198◆PPyRfvMZl625/04/09(水) 19:21:07
【インベイド侵攻以前、今となっては遠い過去の名残、嘗ての街並みと戦いの傷跡をもそのまま残す人類自由連盟の中核都市は、コロニーという壁の外に住まうあらゆる人々にとっての憩いの地であった】
【照りつける晴天に煌めくガラス張りの電気街、勇ましく行進するBFの映像を投影した街頭モニター、通行量も多いそうした表通りから一本脇道と逸れれば、最早骨董品と化した古びたガジェットや機械部品を集めて売り捌くアンダーグラウンドな通りへと入る、目的の古いゲームソフトはそうした骨董通りを探せば見つかるだろう】
【しかしそのどれもが合法とは限らない、例えば、マニアが好みそうなカメラの隣に置かれたフィルムケースには、よくよく見ればケースと同色に擬装された怪しげな粉末の影が潜む】
【当局の監視の目を掻い潜り、大方、デスペラードなどの無法者や過酷な世界に心を蝕まれた者達が購入するのであろう、現実から目を逸らし、一時の幸福を得るための薬品類】
『……』
【じろじろと、通りの両端からリンゼイを観察する様な視線が幾つも向けられる、見慣れない顔、奇抜だが清潔な身なり、注目を集めること自体は必然とも言えるが】
【一歩深みへと進む毎に、背後に付いて回る人影が少しずつ増えていくのはそれ以上に不穏だった】
- 199龍影◆9BZ6kXGcio25/04/09(水) 19:25:48
- 200ケイ◆ECPjTIh3Iw25/04/09(水) 19:30:54
「はい」
答えたケイの目は墨と青色が混ざって、青が綺麗に輝いていた。
平静を装った声が、気配が甘くて。
自分が出した声、大丈夫かな。蕩けてないかな……いや、蕩けててもいいか。一緒にいられれば、それでいいんだ。
そのうえで、依存しているはずなのに、お互いに自由なのは。まず間違いなく歪なのかもしれないけれど。
でもケイはそれが良かった。それで、良いのだ。