すいませんここにくれば

  • 1二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 14:51:25

    マキとアキラ、ツムギが織りなす芸術を巡るストーリー、ワイルドハント編が読めると聞いたんですけど……
    人に任せてばかりもダメなので少し書いてみますね

  • 2二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 14:54:39

    当店セルフ…お、おお…

  • 3二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 14:56:07

    ひとりでできてえらい

  • 4二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 15:01:45

    「ワイルドハントに行かなかった理由?」
    “うん。マキみたいに芸術が好きな子はワイルドハントに行くことが多いらしいから”

     深夜3時過ぎ、シャーレにはコーヒーとエナジードリンクの匂いが混ざり合い空間を支配していた。先生はキーボードを叩く手を止めてこちらに目線を向ける。
    「話すと長くなるけど……」
    “あ、無理に話さなくても……”

     先生はしまった、という顔をして発言を訂正する。

    「先生は知ってる? ワイルドハントの七不思議」
    “いや、知らないな”
    「そのうちの六つは既に解決されてるから、残りは実質ただの不思議。けどそれがどうしても解明されなかったんだ。それを解決すべく、私はミレニアムに入ったというわけだよ」

     まあ、本当はそれだけじゃないけど……

     その日は夜も遅かったので残ったほんの僅かな仕事を片付けて家へ帰った。暗い道を一人で歩くのが、久しぶりに怖かった。

  • 5125/04/08(火) 15:02:36

    すいません書き溜めずにぽっと思いついたものを書いてるので更新めちゃくちゃ遅れると思います、ごめんなさい

  • 6二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 15:03:26

    >>5

    ええぞ!ええぞ!!頑張ってくれ!!

  • 7125/04/08(火) 15:14:09

    プルルル──プルルル──ガチャリ
    “はい、こちらシャーレです”
    「お久しぶりです、先生」

     声の主はツムギだった。先日のトリニティ謝肉祭でスイーツ部を助けたアーティスト。そしてワイルドハントに通う生徒でもある。

    “電話だなんて珍しいね。どうかしたの?”
    「実はもうすぐ、ワイルドハントで文化祭があるんですが、よかったら一緒に巡りませんか?」
    “いいアイデアだね! けど、トリニティの謝肉祭と文化祭の日程がかなり近いんだ?”

     別に特に深い理由はない。ただ謝肉祭の疲れ……というより余韻が残っていただけだ。

    「ワイルドハントの起源は、トリニティのお嬢様たちの専属芸術家の建てた学校です。ですからトリニティの生徒たちが謝肉祭を遊んだ流れでこちらに来れるよう、この日程になったと聞いています」
    「では先生、お待ちしていますね」
    “うん、私も楽しみにしてるね”

     電話がプツリと切れた。時刻は朝9時。そろそろ始業の時間だ。ワイルドハントの文化祭……きっとものすごいんだろうな。あそこは絵画、音楽、文学、彫刻などの様々な学科があると聞く。きっと夜空の星々が咲いたようなものになるんだろう。

    “よし、今日も頑張るか” 

     私の手はキーボードを叩き始める。そのリズムが鳥のさえずりと重なって旋律となった。

  • 8125/04/08(火) 15:27:51

    「ようこそ先生、ワイルドハント芸術学院に」
    “でっか……”

     私の目の前に広がるのは、視界の半分以上を占める巨大で厳かな建造物。キヴォトスの外で言うパルテノン神殿と似たものだ。そこに数多くの生徒たちが行き交い、出入りする。近づいてみるとその大きさがよく分かる。まるで神の足元に立ったかのような感覚に陥った。

    「ここが本館です。これはかつて存在した建築科と彫刻科の合作だそうですよ。まずはここで受付をして、他の建物や校舎を巡りましょう」

     恐る恐る足を踏み入れる。床に張り巡らされた大理石に靴底が辺り、コツっという音がなる。その音が波紋のように建物に広がり、私を迎え入れた。はっとすると、また文化祭らしい喧騒が戻ってくる。建物一つでこの感動ならば、ほかのものはどうなのだろうか。

    「あれ? 先生じゃん!」
    “やあマキ。マキも来てたんだね”
    「もっちろん! この日をどれだけ楽しみにしてたことか!」

     受付カウンターへ歩くと、見慣れた赤のお団子が話しかけてきた。楽しそうにピョコピョコと話す姿に思わず顔が綻ぶ。

    「そっちの人は?」
    「私はツムギといいます。マキさんも楽しみにしてくださったんですね」
    「うん! ねえツムギ、私も一緒に巡っていい?」
    「ぜひ!」

     すっかり意気投合……マキがグイグイと距離を詰め、気がつけば二人を私が後から見守って歩くような形になっていた。これはこれで楽しい。

    「あ、先生遅いよ! まずはこの空飛ぶカルボナーラの彫刻を見に行こうよ!」
    「その後は文学科の展示に行きましょう。部誌ももらえますので気に入った作品は後でじっくりと読み返すこともできますよ」

     楽しい文化祭の一日はとても長そうだ。

  • 9125/04/08(火) 15:47:39

    「はぁー! 楽しかった!」
    「マキさんの一番のお気に入りはどれでしたか?」
    「やっぱり絵画科の『超新星爆発』だね! 火薬に色を付けて発射するなんてアイデア、何を食べたら思いつくんだろう?」

     文化祭を巡る時間は長いようで一瞬だった。もちろん待ち時間がほとんどで、作品に触れられる時間は思ったより短かった。芸術にこんなに触れる時間はあまりなかったからとても新鮮な気持ちだ。

    「じゃ先生! 私はこの辺で!」
    「マキさん、お気をつけて」
    “じゃあね”

     マキの背中が小さくなっていくのを見届けた後の、こと。人気のなくなったワイルドハントに、私とツムギは二人でいた。

    「先生はワイルドハントの七不思議をご存知ですか?」
    “うん。前にマキから聞いたよ”
    「なら話は早いですね。未解決の不思議その7、予言の本についてお話します」

     ツムギは真剣な目でこちらを見ている。普段のミステリアスで掴みどころのない雰囲気ではなかった。例えるなら、殺意を目に宿したような。

    「その本には数々の予言が記されていました。直近で言うと、空が赤く染まった日のことです。ワイルドハントはこの本を元に対策を立てたため、あまり影響を受けませんでした」 

     確かに、まだ虚妄のサンクトゥムが顕現した時にはワイルドハントからの救援要請がなかったのを覚えている。そういうカラクリがあったのか。

    「その本に書いてあることは今まで全て当たっているんです。そしてその次の内容が──」
    「ワイルドハントで多くの死傷者がでる、というものです。もちろんこれには科学的根拠があるわけではありませんが、疑ったほうがいいでしょう」
    “そこで私と一緒に調査をしてほしい、というわけだね”
    「話が早くて助かります」

     ワイルドハントに眠る予言の本……ヒマリが喜びそうな話だ。

    「では先生、いきましょうか」

  • 10125/04/08(火) 15:51:32

    ごめんなさい、少し離脱します。1時間後にはもどります 

  • 11二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 17:09:36

    ギャラリーフェイク読んで待ってる

  • 12125/04/08(火) 17:43:10

     暗くなった廊下を歩くのは、やはりと言うべきかかなり怖かった。消火栓の紅いランプがぼうっと浮かび上がるだけで、景色が変わらないようにも感じる。ツムギの案内に従って進んでいくと、例の本があるという部屋に辿り着いた。

    “ここが……”
    「先生、しっ」

     ツムギが人差し指を唇に当て、声を抑えるように促す。闇が広がったとき、扉の向こうから音が聞こえてきた。

    「うーん……」カタカタカタカタ
    「ゔーん?」カチャカチャカチャカチャ

     唸り声を上げながら、謎の音を立てる向こう側のそれ。その声はだんだん、だんだんと大きくなり、耳をつんざくほどにまでなった。私は耐えきれずに扉を開けた。

    “そこにいるのは誰!”
    「げ! 先生にツムギじゃん!」

     扉を開けた先にいるのは、懐中電灯を咥えてノートPCを叩くマキの姿だった。

    「マキさんがどうしてここに?」
    「やっぱり知識を求めるヴェリタスとしてはさ、知りたいの。どんな原理でこの本が予言を当てているのか!」

     マキがキラキラした目線を送る先には、いかにも古文書という見た目のものがあった。あれが例の本らしい。それにしても、私に相談もなにもせずに侵入して調査だなんて……

    “君、本当のマキじゃないね?”

    今日はここまで。お昼ご飯食べてくるね〜

  • 13二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 20:25:32

    また明日楽しみにしてます

  • 14二次元好きの匿名さん25/04/08(火) 22:52:24
  • 15125/04/09(水) 07:39:49

    >>14

    ありがとう! 実はブルアカ始めたの最近でスイーツ部イベント読めてなかったから助かったよ


    朝なのでたくさん書くぞぉ!

  • 161◆C3mb2PReIs25/04/09(水) 07:51:58

    「なに言ってるのさ……私は本物の……」
    “お団子の位置と大きさが普段と違う。声色も普段はもっとリラックスしているし、なによりマキなら今” 
    「先生ごめんね……忘れ物してたみたいで」

     廊下の向こう側から、マキが走ってこちらにやってくる。先ほど先生が電話で呼び出していたのだ。つまり、今目の前にいるマキはマキではない。

    「同一人物が二人……まるで鏡のようですね」
    “正体を明かしてもらうよ”

     先生は恐れながらも確かな足取りで偽マキへとにじみ寄る。
    「やはり変装はまだまだでしたね」

     偽マキから発された声は、聞き覚えのあるものだった。凛としていながらはっきりとした声。

    “アキラだったんだね”
    「おや、覚えていてくださったんですね」
    “今回はなにが目的? その本に美術的価値を見いだしたのかな?”
    「いえ、ただ生徒会長としてやるべきことがありましたので。それでは」

     偽マキ──アキラは窓から飛び降りてみせた。ここは3階だが…彼女なら怪我をすることはないだろう。

    「私には……ワイルドハントを守る使命がありますから。予言の本が示す事件を何としてでも回避してみせます」

  • 171◆C3mb2PReIs25/04/09(水) 08:12:00

    「おはよー!」
    「おはようございます、マキさん」
    “おはよう、マキ”

     文化祭から一日。先生と二人はシャーレに集まっていた。情報を共有し、ワイルドハントの予言を回避するためである。

    「ワイルドハントで多くの死傷者ね……もっと具体的に書いてくれればいいのにな」
    「そうしてしまっては風情がないですから。予言といえど文学なのでしょうね」
    “その死傷者が出るのが、事故なのか事件なのか……そしてアキラとの関係も調べなきゃ”

     問題は山積み。というよりも問題に自ら突っ込んだというべきだろう。先生とは常にそういう生き物であった。

    「先生はアキラさんをご存知なのですね」
    “うん、まあ……”

     ゲーム開発部がメイドになったときも、アキラがいた。価値を理解されない美術品たちを守ると言っていたっけ。

    「アキラさんは数年前から行方不明で……昨日久々に会えたと思ったら、あの本を見ていたんです。生徒会の仕事も溜まりっぱなしで」
    “アキラは生徒会長だったんだ”
     なら益々ここに戻ってきたのはなんでなんだろう?
    「そのアキラって人がたくさん怪我人を出すんじゃないの?」

     マキが考えないようにしていたことを言った。七囚人なら母校への恨みがあってもおかしくない。信じたくない予想ではあるけれど。

    “予言のことは他の生徒は知ってる?”
    「いえ。あれは生徒会が管理していますから、私とアキラさん、それとほかの委員しか知りません」
    「もしそれが知れ渡ったら確実に混乱するよね。いつそれが起きるかも分からないのに」

    「他の生徒に知られることなく、予言を回避する。それが目標になりそうですね」
     シャーレの作戦会議は、少しだけ緊張感が走っていた。

  • 18二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 16:08:59

    なかなかスポットの当たらない三人助かる

  • 19二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 01:34:11

    思ったよりも盛大になってきたな?

  • 20二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 05:35:57

    しゅ

  • 21二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 07:15:45

    >>14

    ガチの参考文献で笑う

  • 221◆C3mb2PReIs25/04/10(木) 07:40:41

    保守感謝です! 寝落ちしちゃった……
    ───────
    “やあ、ツムギ、マキ”
    「どうしたの先生、急に連絡なんて珍しいじゃん」
    「私になにか御用でしょうか」

     シャーレ、午前8時。始業前にも関わらず、先生は顔をしかめていた。この顔は残業中に追加の仕事ができたときの顔だ。とても不安で、なにかに怯えているような顔。

    “これを見てほしい”

     先生がそう言って差し出したのは一通の手紙。高級な紙に薄桃色の模様があしらわれた可憐なものだ。その手紙の上にある、万年筆で書かれた文字。それはツムギとマキを驚かせるのに充分たるものだった。

    明日、午後3時20分
    ワイルドハントの影の底から
    予言の書を頂戴しに参ります
    ─慈愛の怪盗

    「予告状ですか……」
    「つまり明日、私の偽物がワイルドハントに、ってことだよね」

     シャーレに確かな緊張が突き抜ける。先生の思考は固まりつつあった。もし、もしも慈愛の怪盗──アキラがあの予言の本に書かれた死傷者を出す元凶だとしたら。先生としてそんなことを信じるわけにはいかないが、本当にそうだった場合、先生として事件を未然に防ぐ義務もある。

    “ねえツムギ、明日って”
    「はい、後夜祭があります。文化祭の時よりも人がたくさん来るはずですから……」
    「ねえねえ、なんで後夜祭の方が人気なの?」
    「音楽科の生徒たちが各々得意な演奏をするんです。オーケストラに、軽音楽に……」 
    “そうなると、やっぱり怪我人を出すわけにはいかないね”

     アキラ、お願いだから、人を傷つけることはしないで。もしその理由があるなら私が一緒に解決するから。だから、明日は……一緒に後夜祭を楽しめたりしたら嬉しいな。
    To be continued in chapter2……

  • 231◆lnkYxlAbaw25/04/10(木) 07:58:50

    “これが後夜祭か……”
    「みてみて先生! 文化祭のときよりも人がたくさんだよ!」
    「導かれし者たち……ですね」

     後夜祭ではそこかしこで旋律が芽生えている。ヴァイオリンの美声に、フルートのさえずり。森の中の姫がいたならこんなふうに舞うのだろう。

    「では先生、私はここで。アキラさんをよろしくお願いします」
    “うん、ツムギも頑張ってね”

     ツムギは軽音楽の発表のために先生たちと別れた。アイリたちに手を差し伸べた眠り姫はベースが得意なようだ。

    “さあマキ、行こうか”
    「あの教室嫌なんだけどな……」

     一昨日通った暗く恐ろしい廊下は、昼の明かりが差すと花道と成る。あのときは分からなかったが、あの本がある部屋はどうやら生徒会の部室だったようだ。教室に入ると、割られたショーケースが奥にあり、散乱した机たちの真ん中に例のモノがあった。時刻は午後2時。犯行予定時刻まで残り1時間と20分。

    “マキはどうして最後の七不思議を知ってたの?”
     ──この本を知っているのは生徒会だけ──

     ツムギのこの言葉が引っかかっていた。マキは生徒会でもなければワイルドハントの生徒でもない。ならどうして……

    「ハッキングで覗いたって言ったら怒る……?」

     マキは恐る恐るこちらを見上げる。ウルウルとした瞳はこの子の可愛さを理解しているらしい。

    “はぁ……”
    「ちょっと先生、いくら私でもそのため息はちょっと傷つくかもな!?」

     その時、一陣の風が窓から吹き抜ける。カーテンが舞い、それと同時に二人の視線が重なった。

  • 24125/04/10(木) 08:00:29

    今から学校なので次の投稿は夕方頃になります。あと誰か文字太くする方法教えてください……

  • 25二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 12:43:26

    期待して待ってるよ〜

    >>24

    いいねの数が2つ以上で少し太く。5以上でかなり太く。11以上で段階的に色がつくはず・・・

  • 26125/04/10(木) 16:44:14

    「すいません、当日券を一枚くださいますか」
    「はい、少々お待ちくださいね。」

     正門にいる受付の生徒に声をかけ、チケットを買う。母校に金を払うのも滑稽なものだが、寄付だと思えばまた別の面白さがある。
     本館からほど近い静かな展示場。後夜祭の発表もされない物寂しい建物から侵入する。この学校は私の庭も同然、警備が薄い場所など把握済みだ。心臓部に繋がる大静脈となるダクトへ入り、匍匐前進で進む。目指すはあの本の確保、そして先生との接触。ワイルドハントを守るためにはあの人の力が必要だ。

  • 27125/04/10(木) 17:12:16

    「ねえ先生、なんか音しない……?」
     ガタガタガタガタガタガタと、天井の方から音がする。空になった一斗缶で子どもが遊ぶような音だ。ガタガタガタガタとその音はやがてこちらに近づいてくる。

    “マキ、なにかあったらすぐに逃げて”
    「うん、え、でも……」
     マキが答えを濁した時、天井が崩れ落ちる大きな音が空間を割った。
    “っ……”
    「先生、大丈夫!?」
    “うん。私は平気。マキは?”
    「私は大丈夫。でもあの人が……?」

     マキが指を差す方向にいたのは、粉塵の中にいる薄桃色の髪の少女。

    “アキラ……!?”
    「お久しぶりです、先生。このような形での再会を謝罪します。ですが今は時間がありません」
    “時間…?”

     手首の腕時計を確認する。現在時刻午後3時。アキラの犯行予告まであと20分だ。

    「落ち着いて聞いてください。あと20分後、ちょうど私の予告時間の通りにワイルドハントは未曾有の事件に襲われます。もちろん犯人は私ではありません。怪盗と言えど……」
    “わかった、私は何をすればいい?”

     先生、即答。

    「話が早くて助かります。詳細は移動しながらお伝えしますのでついてきてください。そこの赤髪の子と一緒に」
    “行こうか、マキ”
    「しょうがないな……私の手が必要なんだね」
    「では向かいましょう。場所はここから遠くない場所にある廃倉庫です」
    ──残り20分。

  • 28125/04/10(木) 17:23:37

    「その廃倉庫には数々の美術品が収められています」

     アキラは走りながら話す。なびく髪と尻尾がとても風に溶け込んでいた。

    「ですがそこは、所謂『失敗作』の溜まり場。それが問題でした」
    「失敗作と言えども、その全ては芸術家たちが魂と人生をこめて作った作品です。それを無碍にされた恨みや怨念がそこには籠ってしまいました」
    「でもそれが予言の本と何の関わりがあるの?」
    「貴方は分からないかもしれませんね。ですが先生ならお分かりなのではないでしょうか。強すぎた思いはどうなってしまうのか」
    “……思いの実体化”
    「その通りです」

     ──残り15分

    「強すぎる思いはやがて、崇拝や信仰に似たものとなります。それが何かの……聖徒の交わりや空が赤く染まった日などです。それらの影響によって実態を得ようとしています。そして誰にも評価されず、見向きもされなかった恨みを晴らすべく復讐の行進を始めるのです」
    「確かに……見られないのは辛いよね」

     私もグラフィティを酷く言われたことはある。けど一番傷つくのは、誰にも見られず、上書きされることもなく雨と風で風化することだもん。

    「つきました、ここです」

     三人が辿り着いたのは見るからにオンボロな木造の倉庫。アキラはどこからともなく鍵を取り出すと、南京錠を開けた。扉を引くと、腐った木の悪習が外に漏れ出る。

    「ううっ……、くさ」
    「……失礼します」

     アキラが中に入ると、外の光でより鮮明に倉庫の中が見えた。そこかしこに石膏の欠片が散らばり、絵の具が壁中にある。この光景は生き物が息絶えた姿に似ていた。芸術、または魂や美学とも呼ばれる生き物が息絶えた姿に。

  • 29125/04/10(木) 17:35:52

     三人が中を探索しようと倉庫に足を踏み入れたとき、遠くの方で爆発音が聞こえた。
    「今のは!?」
    “本館……後夜祭会場の方だ”
    「急ぐよ二人とも! みんなを避難させなきゃ!」
    (予言の時間とずれている……!? まさかあの本も共犯だというのですか!?)

     三人は来た道を何よりもはやく駆け抜ける。辿り着いた先では黒炎が上がり、逃げ惑う人々の悲鳴で溢れていた。

    「皆さん!こちらに避難を!」

     その中で孤軍奮闘、来場者を誘導するツムギの姿があった。
    “ツムギ!”
    「先生、無事でよかった。私がベースをかき鳴らしていたら突然爆発が起きて……あの人たちが銃や爆弾で攻撃を……!」

     ツムギが指差す方向にいたのは、灰色の液体で形作られた、人の姿をした何か。それが武器を取って民間人を攻撃していたのだ。

    “ツムギ、このまま避難の誘導をお願い。マキ、アキラ、いける?”
    「もっちろん! あの面白みのない体を私が染めてあげる!」
    「ワイルドハントを……ここにある芸術を守るため……戦う覚悟はできています」

     それぞれ銃を取り出し戦闘態勢に入る。
    “みんな、いくよ!”
    「うん」「はい!」

  • 30125/04/10(木) 21:55:12

    明日の朝に続き書きますのでよろしくお願いします。こんな初心者の駄文を読んでくれて本当にありがとうございます! おやすみなさい〜

  • 31二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 02:56:21

    >>30

    お休み。頑張ってくれ

  • 32二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 08:32:42

    ほしゅ

  • 33125/04/11(金) 15:44:45

    流石に学校から書き込む勇気はないのでもうしばらくお待ちください……
    夜には書けると思います

  • 34125/04/11(金) 20:35:43

    「ね先生!? この人たち銃が効かないんだけど!?」
    「まるで手応えがありませんね」
     
     彼らの体を形作る灰色の液体が、銃弾を包んで受け止める。どれだけ高威力な弾丸でも、炸裂しなくては意味がない。その間にも彼らは民間人を攻撃し、どんどんと被害が増していく。

    「先生、あの人たちの銃、威力高すぎない……?」
    “え?”
     
     先生の視線の先にあるマキの右手からは、タラタラと血が流れ出していた。アキラの左足も、その生温かい赤い絵の具で染められている。キヴォトス人にも数発で怪我をさせる彼らの攻撃力。銃が効かない彼ら相手に先生たちはどんどんと追い詰められていく。

    「来場者の避難誘導が終わりました!! ワイルドハントの生徒は自分で避難できますから大丈夫です! 私も戦います!」
    「無駄ですツムギ! 彼らにこちらからの攻撃は通らない。しかし相手に攻撃は我々をどんどんと削る……はっきりいって私たちの勝ちの目は薄い」
    「でもだからって諦めるの!? 諦めたらここにある彫刻や絵画はどうなるの……私、ワイルドハントに遊びに来てたくさんの面白いものに出会ったのに……」

     マキその言葉が、慈愛の怪盗の心に火をつけた。

    「そうですね……ここには素晴らしい美術品がたくさんある」

     全身の痛みを噛み殺して立ち上がる。尻尾の毛が抜けてヒリヒリするし、多分どこか骨も折れている。けど私は立ち向かわなくては……ワイルドハントを……ここにある芸術を守るために!

    「私は慈愛の怪盗、清澄アキラ! 一人の芸術家として、あなた方の気持ちは痛いほどわかります。見向きもされず、評価もされない。才能の芽が枯れるのを見ることしかできないその苦しみや悔しさも」
     
     肺いっぱいに息を吸い込み、人生で一番大きな声で叫ぶ。彼らに、世界に、届け、届け、届け。

    「ですが、未来の芸術家の母校たるこの聖域を壊すことは絶対に許しません!! その苦しみは、暴力ではなく芸術で表現すべきです!! あなたの思いや表現がたとえ世間に理解されず、避難を浴びようとも、私があなたの美学を受け止めて差し上げます!」
     
     これが、清澄アキラも美学だった。

    「私も一緒に見てあげるからさ。もし気に入ったらグラフィティの参考にするかも?」
    「ならわたしは、あなたの芸術をよく聞きましょう。同じ芸術に生きた者として」

  • 35125/04/11(金) 21:40:52

    “動きが止まった……”
     
     私の目の前で起こったことは信じられないものだった。私たちが彼らを認め、受け入れることを決めたとき、動きがぴたりと止まったのだ。形作っていた灰色の液体が徐々に流れ、だんだんとシルエットがより鮮明になる。その姿は、どこにでもいる女子高生そのもの。そして彼女らは微笑むと、金色の光の粒となって空へ溶けていった。彼女らはただ、理解されたかっただけかもしれない。私がその一助になれたのなら、芸術を愛した甲斐があるというもの。

    「はぁ……終わった」
    「お疲れ様でした。マキさん、アキラさん、先生」
    “私はなにもしてないよ。全て君たちのお手柄だ”
    「では私はこれで。最後にどうしてもやりたいことがありまして」

     足早に、先生たちと向かった古い倉庫へと戻る。撃たれた足は決して治りなどしていないが、それでも戻らなくては。私が正義実現委員会の彼女だったらどれほどいいか。

    「やはり臭いですね……今私が救って差し上げましょう」

     その辺に放置されていた箒とちりとりを持って掃除を始める。きっとここも元々は、綺麗な木の香りがする美しい倉庫だったのだろう。元に戻すことは叶わないが、せめて片付けるのが礼儀というものだろう。散らばった石膏が足裏に刺さる。埃が舞い、一瞬だけ倉庫が夜になった。

    「ふう、これでおしまいですかね」

     散乱していた部屋はかなり綺麗になった。掃除中に、一つだけ状態のいい絵画作品を発見したので持ち帰って大事に保存することにした。その作品のタイトルは、「私」。やはり誰しも、人に理解されたいらしい。

    “やっぱりここにいた”
    「先生……なぜここに?」
    “怪我した生徒を放って帰るわけないでしょ。セリナ、救護を頼める?”
    「もちろんです。じっとしていてくださいね」
    「ありがとうございます……」

    “アキラ、それは?”
     先生は私が手に抱えた額縁を指して言う。

    「これですか? これは、我がワイルドハントの大切な美術品です」
     そう、これは嘘偽りない美術品なのだ。

  • 36125/04/11(金) 21:43:18

    読んでいただきありがとうございました!!!
    これにてこのSSは完結となりましたあああ!!
    何か質問等あればお答えしまっす。
     

    あと感想たくさんください。ボロクソに叩いてもらってもかまいませんのでどうか……

  • 37二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 04:01:24

    お疲れ様!!明日ゆっくり読ませてもらうね!!

  • 38二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 10:26:48

    ありがとう・・・ワイルドハントのSSほんと少ないから・・・ありがとう
    なんなら初めて読んだかも

  • 39125/04/12(土) 11:11:36

    >>38

    気に入って貰えたならSS書きの冥利に尽きるぜ

    読んでくれてありがとな!!

  • 40二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 15:14:04

    >>8

    ツムギはともかくとしてやっぱりマキちゃんコミュ強だよね?

    イベントから思ってたけど友達少ないとか嘘だよね?

  • 41125/04/12(土) 15:34:31

    >>40

    はい。めちゃくちゃコミュ強ですね!!

    マキちゃんにわかなので上手に書けたか怪しい部分もありますが

  • 42125/04/12(土) 19:59:34
  • 43二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 20:00:18

    マキって元はワイルドハント行く予定だったんだっけ なんで蹴ってミレニアムいったんだろ

  • 44125/04/12(土) 20:02:50

    >>43

    その辺の掘り下げが欲しい!! パジャマイベントでユウカも聞いてたから本当に気になる!!


     ワイルドハント編、僕は切実に待ってます

  • 45二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 04:17:44

    >>44

    そろそろメインストーリーとまではいかなくてもイベントとか来てもいいよね!

  • 46二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 05:49:10

    面白かった

  • 47二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 11:01:34

    >>45

    来るなら赤冬や山海みたいにトップとの対談始まりかなぁ

  • 48125/04/13(日) 11:28:45

    ワイルドハントについて判明していることは

    ① ツムギが学籍をおく学校である

    ② ヤマモトという生徒はいない

     

     以上2点くらいだからな……マジで情報バンバン出してほしい


    >>46

    そういう言葉が一番嬉しいんよ

  • 49二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 20:33:13

    >>48

    なら、いくらでも言ってやる!!

    面白かったぞ!!

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