- 1二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 14:28:51
「トレーナーさん、おはようございます♪」
早朝、人もまばらな週末のトレセン学園校門前で彼女は待ってくれていた。
明るい鹿毛のふんわりとしたボブカット、夕焼けのような瞳、ワインレッドのカクテルハット。
担当ウマ娘のノースフライトはこちらを見つけると微笑みを浮かべて、尻尾を揺らしながら歩み寄って来る。
足取りは軽やかで、表情も柔らかい。
見たところコンディションには問題なさそうだが、念のため問いかけておく。
「おはようフライト、体調は大丈夫?」
「見ての通り、わたしのやる気がウズウズしちゃってるくらいです」
「そっか、じゃあそれは本番までしっかりと溜め込んでおいてね?」
「はい!」
元気の良い返事をするフライト。
今日は大目標のG1レース、相手関係も決して楽ではないが、今日の彼女ならきっと大丈夫だろう。
追い切りのタイムなどから元々自信はあったものの、更なる確信を深めて俺はこくりと頷いた。
「よし、それじゃあそろそろ向かおうか?」
東京や中山でレースがある時は、学園で待ち合わせをしてから向かうようにしている。
直接レース場で落ち合っても良いのだが、一度こうして以来、何となくそれを続けていた。
着いたら芝の状態を確認して────と予定に思考を巡らせていた、その時である。 - 2二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 14:29:09
「あっ……ふふ、胸元、ちょっと失礼しますね」
「えっ?」
フライトの声を聞いて我に返ったその時には、彼女の顔が間近にあった。
愛らしさと美しさの両方の兼ね揃えた顔立ち、キメ細やかな肌、薄くも丁寧に施されているメイク。
あまりの距離感、そしてふわりと漂うシャンプーの香りに、思わず硬直してしまう。
そんな俺を尻目に、彼女はそっと俺の胸元のネクタイへと手を伸ばした。
「きっちり、整えて、っと」
鼓膜を揺らす衣擦れの音。
フライトは慣れた手つきて、テキパキとネクタイを整えてくれる。
そしてきゅっと締めて仕上げた後、彼女は一歩だけ離れて、ピンと人差し指を立てた。
「最後に、楽しい一日になりますように……」
ちょん、とおまじないをかけるようにネクタイに触れる。
そして両手を合わせると、どこか誇らしげな微笑みを浮かべた。 - 3二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 14:29:21
「はい、これでばっちりです!」
「……ありがとう、今日は素敵な一日になりそうだね」
「ええ、そうしてみせます……それじゃあ行きましょうか、トレーナーさん」
そう言いながら、フライトは歩き出していく。
そんな彼女を見ながら、ちらりとネクタイの様子を確認した。
きちんと丁寧に整えられたネクタイ。
彼女自身は普段することがないだろうに、素晴らしい手際である。
それもそのはずで────俺がスーツを着て来る度、彼女はネクタイを直してくれていたのだ。
最初はちょっと遅刻しかけてしまい、慌てて家を出たから乱れていて、それを彼女が直してくれた。
ただ、それ以降はきっちりネクタイを締めていると露骨に残念そうな表情をするようになったので、わざと崩している。
気恥ずかしい部分はあるが、これで彼女の気分が良くなるなら、安いものだろう。
「……トレーナーさん?」
「ああ、ごめんごめん、すぐ行くよ」
いつの間にか足が止まっていたようで、フライトは首を傾げながら待ってくれている。
我に返った俺は、慌てて彼女の後を追いかけて行った。 - 4二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 14:29:44
控室、いよいよフライトの出番が迫って来た。
今日のレースの傾向も分析済、作戦に関しても十分に共有した、彼女自身の調子も維持できている。
勝算は十二分にある、のだけれど、やはりこのタイミングばかりは緊張をしてしまう。
実際走る彼女にしてみれば尚更だろう、と思った矢先、更衣室のカーテンが開いた。
「お待たせしました、いよいよですね」
「そうだね……どう?」
「心が弾んでいるみたいです、新しい自分に出会えそうな、そんなときめきを感じます」
勝負服姿のフライトは、くるりとターンを踏んで好調をアピールする。
うん、これなら大丈夫だろう。
まだパドックまで時間が少し空いているし、お茶でも買ってこようかな。
そんなことを考えていると、ふと、彼女は俺の目の前をふらふらと歩き出した。
「……」
ちらちらとこちらを見やりながら、期待するように耳をぴょこぴょこと動かして。
またか、と心の中で苦笑いを浮かべつつ、フライトの首元を見る。
そこにはスカーフが巻かれており、ほんの少しばかりではあるが乱れてしまっていた。
俺はゆっくりと腰を上げて、声をかける。 - 5二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 14:30:10
「フライト、スカーフが少し崩れているよ」
「え、そうですか?」
「うん、俺が直してあげるから、おいで」
「……はーい♪」
フライトはいそいそとした様子で、こちらへと早足で近づいて来る。
そして目の前に立つと、そっと目を閉じて、まるで唇を捧げるように少し上を向いた。
俺はそれを見ない振りをしつつ、彼女の首元のスカーフを解く。
晒される、細く長く、白い首。
俺はゆっくりとスカーフを巻きながら、考える。
ファッショニスタウマ娘たる彼女が、自らの勝負服のスカーフを崩して現れるなんてあり得るだろうか。
答えは否、そもそも、他の部分に関しては非の打ちどころがないほど完璧な着こなしなのだ。
だというのに肝心のスカーフだけ崩しているなんてこと、まず、あり得ないだろう。
むしろ、わざとそこだけ着崩している、と考える方がまだ納得がいく。 - 6二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 14:30:42
「……ふふ、トレーナーさんも手慣れてきましたね?」
「まあ、何回もやっているとね」
そう、これが初めてではない。
フライトが勝負服を着る機会がある度に、スカーフを直してあげていた。
最初の頃は、直す前よりひどい状態になったり、首や顎に触れてしまうこともある。
しかし、別の機会で練習させてもらったりして、気づいたら綺麗に付けてあげられるようになっていた。
今日も、何の問題もない。
ただ────ちょっとだけ、キツめに巻く。
「んっ」
「……ごめん、キツく巻きすぎたね」
「い、いえ、大丈夫、ですから」
少しだけ頬を赤く染めて、フライトはそう言った。
これも、わざとであった。
切っ掛けはただのミスで、俺の血の気が引いた反面、彼女は妙に艶やかな悲鳴を上げていた。
それ以降は、一度はこうしてあげないと、露骨に物足りなそうな顔をするのである。
改めて、彼女のスカーフを整えて、一歩引く。
きらきらと輝きを放つ、ノースフライトの勝負服。
その姿に見惚れてしまいそうになりながらも、俺はそっとスカーフに触れて、言葉を紡ぐ。 - 7二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 14:30:56
「今日もキミは素敵だよ、フライト」
「……えへへ」
フライトは、照れたようにはにかんだ笑みを浮かべる。
気が付いたら、そろそろパドックへ向かわないといけない時間。
俺はぽんと、彼女の肩に手を置く。
「それじゃあレースを楽しんできてね、いってらっしゃい」
「はい、いってきますっ!」
満面の笑顔でフライトはモデルのようにポーズを取る。
怖いものなしの、キラキラモード。
眩いばかりの輝きを放つ彼女の首元で、スカーフがふわりと揺れるのであった。 - 8二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 14:31:36
お わ り
ショート動画良かったね BoC'zも何か書きたい - 9二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 14:35:30
- 10二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 14:36:32
なんだろう、唐突に良SSで思いっきりぶっ刺してくるのやめてもらって…いややめなくていいや、続けてもらっていいですか?
- 11二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 19:15:51
良…
もっかいあのshort見てくるか… - 12二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 22:39:11
なんかえっちじゃない?
- 13二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 22:41:05
やはりトレフーは万病にきく
- 14二次元好きの匿名さん25/04/09(水) 22:59:46
脳内フーちゃんボイス余裕だった
彼女が素敵じゃない日なんてあるのだろうか - 15二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 00:33:17
しゅき♡
- 16二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 01:54:09
またフーちゃんスレ(SS)のおかげで俺の中の何かが目覚めてしまった…
- 17二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 02:02:38
表情に出てしまいがちなフーちゃんかわよ
- 18二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 06:09:22
昨日ショートで見た動画がさらなる補完をもってお出しされるとは思わなんだ
最高か - 19二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 13:55:15
フーちゃんの両手合わせるモーション良いよね
- 20二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 14:26:12
これは……マーキング、でしょうか
- 21125/04/11(金) 00:08:36
- 22二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 09:33:44
なるほど、ネクタイの前垂れ部分がリードか
- 23二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 10:40:11
BoC'zとフーちゃんSSの言質が取れたぞー
- 24125/04/11(金) 20:12:32