- 1二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:01:13
※落ちてしまっていたので建て直しました。書き込んでくださった方、申し訳ありません。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20
アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの20スレ目です。
一夜の間に繰り広げられるプラントの政変、首都アプリリウスの膠着状態はミネルバの到着で崩れ去りつつあります。
それを察してか否か、提示されつつあるデュランダル議長の妥協案。これに最高評議会ビルに集った者たちはどう回答するのでしょうか?
政変の最中、呼び戻された『偽りの歌姫』。彼女にはどのような役割が課され、ミーア本人はそれにどう応えるのでしょう。
どの陣営に属すものにとっても、人工天体の空に光が差す時間が直ぐそこまで迫っています。しかし良きにつけ悪しきにつけ夜明け前は一番暗いものです。手探りで進むアグネス達の良く手のは何が待つのでしょうか。
おつきあいをいただければ。 - 2二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:02:37
立て乙
- 3二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:04:32
朝バタバタしてて保守しそこねてしまった…
いつも楽しみにしてます! - 4二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:16:06
立おつです!
- 5二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:27:51
ありゃ落ちてたか
- 6二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:43:09
落としてしまったスレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの20スレ目です。一夜の間に繰り広げられるプ…bbs.animanch.com前スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart19|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの19スレ目です。アグネス・ギーベンラートが…bbs.animanch.com1スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たら|あにまん掲示板アグネスが士官学校卒業ザフトアカデミー、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSを書く予定です。お付き合い頂ければ。bbs.animanch.com2スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart2|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。はたして、アグネスは、ルナマ…bbs.animanch.com - 7二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:45:44
3スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart3|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。己を取り巻く不可解な状況に四…bbs.animanch.com4スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart4|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバとアグネスはその進撃…bbs.animanch.com5スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart5|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバの活躍は起こるはずだ…bbs.animanch.com6スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart6|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの6スレ目です。自分の心境の変化や激動する世…bbs.animanch.com - 8二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:48:37
※落としてしまった7スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。出世の点数稼ぎの場として『戦…bbs.animanch.com再建てされた7スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7(再立)|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。※不注意から一度スレを落とし…bbs.animanch.com8スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart8|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの8スレ目です。戦いに消耗したアグネスとミネ…bbs.animanch.com9スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart9|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの9スレ目です。C.E.73年- C.E.7…bbs.animanch.com - 9二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:50:48
10スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart10|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの10スレ目です。遂に開始される『ロゴスとの…bbs.animanch.com11スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart11|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。『対ロゴス戦』は本編とはや…bbs.animanch.com12スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart12|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。対ロゴス戦争が変え行く世界…bbs.animanch.com13スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart13|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの13スレ目です。本編を上回るほどの規模とな…bbs.animanch.com - 10二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:53:19
14スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart14|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの14スレ目です。激しい戦いの後、戦女神と大…bbs.animanch.com15スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart15|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの15スレ目です。アークエンジェル問題を何と…bbs.animanch.com16スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart16|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの16スレ目です。アグネスは目の前で次々と発…bbs.animanch.com17スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart17|あにまん掲示板北限の海で繰り広げられる戦い。この世界のアークエンジェルを巡る戦いは一つの帰結を迎えようとしています。アーモリーワンから戦い抜いて来たミネルバ、世間は『彼女』を武勲艦と持ち上げ、事実そうなのではありま…bbs.animanch.com18スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart18|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの18スレ目です。アグネスはひょんな成り行き…bbs.animanch.com - 11二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:11:12
今度こそ落ちないように
- 12二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:19:11
2番ランチの皆で通路を全力で進む。何度も隔壁に突き当たるが、それらは目前まで迫るとスゥーと持ち上がっていく。コントロールルームが完全に管理下に置かれている証左と言える。監視カメラでこちらの動きを察してくれているのだ。
アグネス「(メイリンはもう後続に引き継いだ後かな?)」
心強いことに私達のオペレーターはメイリンとアビーのみではない。ジュール隊、ザフト軍事ステーションからの参加者、それにミネルバ到着以後に旗下に収まった者の中にも優れた人は多いはず。
ガズウートパイロット「良し、一、二、三」
ガズウートパイロット「一、二、三!」
しかし厄介なのはコロコロ転がって眠りこけているデモ隊の面々だ。パーソナルジェットで出来るだけ飛び越えるなどして進んでいるが、駄目なら退かして進むしかない。
これが敵兵なら多少ぞんざいにも扱える。しかし無防備な自国民となると―。
寝た人間を動かすと言うのは意外と手間だ。変な扱いをして頸椎を傷めたり、頭をぶつけ万一障害でも残ればここまでの苦労が水の泡となる。
ハイネ「すまん!行けるな」
ガズウートパイロット「はい!」
アグネス、他「ありがとうございます」
その後、数ブロック先まで悪戦苦闘して進み、ようやく宇宙港から進んで来た陸戦隊と合流する。
陸戦隊員「よくぞご無事で!制圧作戦は成功です。死傷者は確認されていません。後ほど…」
ハイネ「ありがとう。心得ている。行こう!」
陸戦隊の言葉を遮りハイネ先輩はせっつく。彼らしからぬ振舞いだが本当に今は切迫している。
陸戦隊員「ああ、はい!こちらへ。退けておきました。技術班は先に向かっています」
ハイネ「ありがとう!皆、彼に続いて。下に降りるぞ!」
アグネス、一同「了解!」
道中では眠りの国の住人の搬送作業に陸戦隊と医療班が大忙しになっている。彼らがモーセのように道を割ってくれたおかげで私達の足取りは一気に軽くなる。 - 13二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:31:19
廊下をそのまま走り抜け、先ずは作業員用大型エレベーターに到着する。
先ずはこれを使って中間施設の官庁街方面地区側の非常口に向かう。ボタンが押され、大きな鉄の籠を待つ間にここからの自分の動きをおさらいしておく。
官庁街方面居住区エレベーター昇降施設の奪還。基本的な手法はこれまでの通りだ。
『ザラ分隊突入⇒電子班のインジェクションアタック⇒ドローン隊による催眠ガス噴霧⇒後続してきた陸戦隊と医療班による制圧と救助、搬送』。寸刻を惜しみ一気呵成に進んで来た理由は、この戦術が悟られるリスクを少しでも低減するためだ。
アグネス「(そこまでは良い。問題はどうやって現地に辿り着くか…)」
トライン副長のブリーフィングを思い出す。プラントの2つの居住区間の距離は60㎞に達する。中央エレベーターは半ば軌道エレベーターに近い。
地球に当て嵌めて考えるなら『地上から60㎞』は中間圏。流星が燃え尽きる高度だ。この任務においては半分の高さで事足りるが、それでも『地上』まで約30㎞の高さがある。地球なら成層圏(高度20㎞~50㎞)だ。
この高さからの降下は事実上の大気圏突入に近しい。大気と重力の在り方が地球とプラント内では異なるがいずれにしろかなりの難易度だ。
アグネス「(ここで当たり前に生きて来たけれど。改めて考えて見れば空恐ろしい。この人工天体が人の英知でなくて何と言おうか!)」
チーン!
音が響くと同時に目の前の大扉が左右に開く。下からこれが昇って来たと言う事は、1番ランチ隊は先に下りたということ。彼等の為にも私達は足を止める訳にはいかない。
電動車椅子のコントローラーを進め、巨大な鉄籠の段差をゴトっと乗り越える。
直ぐに扉は締まり、音もなくエレベーターは動きだす。次扉が開くポイントの先には官庁街方面地区側の非常口が見えるはず。
それは円錐形の尖った先が中間施設地帯と交わっている所に空いた小窓の様なものだ。文字通りの非常口と言うよりメンテナンスの穴に近い使われ方をしている。 - 14二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:42:29
ルナマリア「そこから飛び降りるのよね…。私達」
アグネス「そうなるわね…」
シン「う…」
流石にルナマリアもシンも表情筋が引き攣っている。エベレストの高さが8849m(0.8849㎞)、旅客機の飛行高度が約10000m(10㎞)であることを思えばこれがどんなに無茶なことか余人にもお分かりだろう。
アグネス「(とは言え、これは止むを得ない選択よ。他もいろいろ考えられたのだから…)」
まず『単純に中央エレベーターで降りると言う案』。
しかしデモ隊は当然それを予想して守りをガチガチに固めている。現に司法局公安職員もこの方法を反対側の居住区から試みて見事に失敗、拘束されてしまった。
文民警察とは違いザフト軍なら、突破と鎮圧に成功するかもしれない。しかしそれが可能か否かは着いてみなければ分からないし、強引な手法を取れば死傷者が出るかもしれない。
次に考えられた案は『モビルスーツによる降下作戦』。
ある意味、私達の本領発揮とでも言うべきか。人員は耐熱ジェルを塗布した兵員輸送車に搭乗、モビルスーツ隊がそれを抱えて居住区に降りるのだ。
これは最も有効な方法と目されたが―目立ち過ぎる。議長側にモビルスーツ特殊部隊が存在した場合、それを投入する大義名分にされるかもしれない。『モビルスーツを用いた弾圧から民衆を守る』と。
仮に議長にそうした手駒が居なくとも『民衆をモビルスーツで鎮圧』という絵面は余りにも物々しい。政争のエスカレーションを避けるよう私達は最後まで気を配るべきなのだ。
モビルスーツを投入は最終局面になってから―本当はそれも避けたいけれど―
アグネス「(最悪の想定として、デモ隊が窮鼠と化して中央エレベーターを爆破する等したらプラントの基幹インフラが大破する。極力目立たぬように転寝している間に事を終えなければいけないのだわ)」
そこで考えられたのが空挺作戦。30㎞『上空』から(敵前)降下して昇降施設周辺に着地する。外部からの秘匿出入口は私服公安職員が確保してくれているから、そこを通って―だそうよ!
チーン!
運命のゴングには少し軽い音を響かせ、我等、剣闘士達の門は開かれる。数回シミュレーションしただけのこの無茶な作戦、参加しただけで私も皆も勇者だと思う。 - 15二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 04:03:20
保守
- 16二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 06:39:16
上げ
- 17二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 12:06:33
念のため保守
- 18二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 19:45:11
もう一回保守。
- 19二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 02:31:22
開け放たれた扉から皆でそろそろと進み出る。ザラ分隊やメイリンの顔を見る機会も有るかと思っていたのだが…。彼らはもう気密室の向こう側だ。
私達よりも先に跳ぶのだから当然ではあるが、何だか心細い。
ヴィーノ「ハイネ先輩、シン!アグネスも」
ヨウラン「体の調子は?大丈夫ですか!」
でもマッド・エイブス達技術班とミネルバ医療班、補給班が準備物資と共に合流ポイントで待機してくれている。見知った顔がここまで心強いものとは!
ハイネ「まあまあかな。シン、アグネス、ルナマリア、跳べるか―いや、すまん。跳んでくれ」
アグネス、シン、ルナマリア「了解。ご一緒します」
むち打ち症候群で一々振り返ることが出来ないハイネ先輩が背中越しに届けてくれた声に異口同音で即答する。負傷が何だと言うのだ。やってやるわ。
そもそも私達は戦時の軍人だ。上官が『やれ』と言ったら『やる』しかない。拒否して良いのは、それが広義・狭義の戦争犯罪に当たるか、上位の軍事命令ないし自国の憲法を頂点とする国内法及び国際法に違反すると一見して明らかな場合のみ。
だからはハイネ先輩もそう言ってくれている。彼なりの優しさだ。
ハイネ「良し。ありがとうな。皆も。じゃあ手早く準備を」
軍医「はい。急ごう、さあ!」
軍医殿はマッド・エイブスと視線を交わし、息を合わせると看護兵たちが私達の着替えを手伝いに駆け付けてくれる。
彼女らの助けを借りつつ、私は一旦、お腹の特大ポーチとパーソナルジェットを下ろし、ボディーアーマーとヘルメットを脱ぐ。
高度300,000mの(敵前)降下-目も眩むような途方もない作戦だ。
ただ、一応のモデルケースは存在する。実は西暦2012年10月14日には既にオーストリア人のスカイダイバー、フェリックス・バウムガルトナー氏が高度38,969.3メートルからのジャンプに成功しているのだ。 - 20二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 02:45:35
与圧服と特性のパラシュートを纏い自由落下した彼の最速速度は音速の壁を破り時速1,357.64 kmに達し、4分19秒後にその足はアメリカ合衆国ニューメキシコ州の大地を踏みしめていた。
C.E.に生きる我らが彼に続くことが出来なければ、どうしてご先祖様に顔向けできるのだろうか。
アグネス「(ただし、私達は軍事作戦の一環として跳ぶ。空挺作戦だから装備も多いし何より、地上から議長の特殊部隊が攻撃してくる可能性も排除できない)」
そのため、彼の偉業をそのまま再現すれば良いわけでは無い。地球とプラント内では勝手も違う。技術も進歩した。単純な効果のみなら私達が楽なのだが―。
看護兵「アイ・プロテクションです。どうぞ」
アグネス「ありがとうございます」
看護兵から渡されたゴーグル型のアイ・プロテクションを頭部に巻き付ける。これで爆発や射撃による飛散物や粉塵、人体に有害な物質や血液の飛沫、紫外線から眼球を守る。
そのゴーグルを巻いた後は超薄型ヘルメットを頭に被る。剛性化合物と衝撃分散素材、粘弾性素材の3層構造で製造された優れもの。だが軍用ではない。あくまで『お守り』。
二つを被り終わったら、看護兵に手伝われつつパイロットスーツの上に深緑色の地上戦用ボディーアーマーを着込む。これまでの簡易的なものではなく、胸部から下腹部、背中を覆う本格的なものだ。
私が纏っている間にパイロットスーツ用ヘルメットを受け取った技術班作業兵は内部の酸素補給機をいっぱいにしてくれている。
技術兵「どうぞ、お気を付けて」
アグネス「ありがとう」
励ましの言葉にお礼を言ってヘルメットを受け取る。すると急いで歩み寄って来た軍医殿が鎮痛剤と抗炎症薬とミネラルウォーターを差し出して下さる。
ありがたく喉に流し込み、目でお礼をお伝えするとパイロットヘルメットを下の装備に重ねて被る。 - 21二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 02:52:34
重ね着はまだ続く。別の作業兵が耐熱ジェル塗布済みの女性用ザフト軍パイロットスーツとヘルメットを私に差し出してくれる。何時ものものよりワンサイズ大きい。落下の熱に耐えきらなければいけない。
これを元のパイロットスーツにボディーアーマーを着込んだ上から着るのだからもう大変だわ。
看護兵「肥満指数が高い人がパイロットスーツを着るようなものです!大丈夫」
アグネス「ええ…。私、この下にギブスと包帯もグルグルに―」
看護兵「なおのこと安心ですね!」
何時も無茶しがちな私を諫めてくれる彼女が今回はアクセル全開だわ。正直、今はそれが本当にありがたい。
アグネス「(素直にその意気に乗じるべきね。止まれば動けなくなる)」
看護兵二人の助けを借りてしっかり厚着する。着たら、腰にハンドガンが入ったホルスターを巻きつける。弾丸はゴム弾と実弾、両方を持って行く。
こうして3重に(耐熱ジェルまで含めれば4重に)守りを固め、次はパーソナルジェットだわ。
ヨウラン「アグネス、足の怪我、気を付けてな。いろいろ調整しておいたから」
アグネス「ありがとう」
ヨウランは私に一声かけて背中に装着してくれる。今までのよりワンサイズ大きく、耐熱ジェルが塗布されている。
実はこれが私とハイネ先輩、シンにとっては命綱だ。流石に車椅子までは降下できない。パレットで投下することも考えられたが、梱包を解く間も惜しいと告げられた。だから『地上』に着いたら私達はジェットの浮力の助けを受けながら自力で作戦目的ポイントに駆けるしかない。
アグネス「(私は左太腿を不全骨折中。頭おかしくなりそうだわ)」
勿論、そんな暇を神様は与えてくれはしない。準備中の私達の耳にアビーのカウントダウンが響く。
アビー「1番ランチ隊の降下準備進行中。電子班と共に。残り15秒!」
何とはなしに気密室の向こう側、非常口で跳躍に備えているメイリンの事を思う。彼女どんな顔をしているだろう。親バカならぬルームメイト馬鹿になってしまったのかな。 - 22二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 03:13:10
ルナマリア「メイリンが…」
隣で着替える女性が漏らした微かな呟き。何かと取り留めもなく問いかけるような語調-。胸の奥がずきりと痛む。
アグネス「(ルナマリア…。どうしよう。メイリンはオペレーターのはずだったのに私が連れまわしたせいで―)」
そんな考えはおそらくメイリンにとっては余計なお世話だろう。あそこに立つのは彼女自身の意思だ。
でも彼女の家族にとっては?もし妹に何かあれば、ルナマリアは私をどう思うだろう―。
アグネス「メイリンは度胸の塊。大丈夫よ!」
傍のルナマリアに、自分に言い聞かせるように思いを伝える。かつては深く傷つけた友…。『何を分かった風なことを』と嫌な顔をたらどうしよう…。
ルナマリア「ありがとう。あの子、良い人に出会えたのね」
そんな私の心配はルナマリアの控えめな笑顔で崩れ去る。感謝と心配と励ましがカクテルされたような優しい顔だわ。まるで聖母の様な―。
アグネス「逆よ。私が善人に出会えたの。凝り固まる前にね」
そう言って此方も微笑み返す。いや、微笑み返せたはずだと思う。どちらにしろ彼女のようにはいかない。私は善人ではないから。でも善人の友ではありたい。
カウントダウンは粛々と進む。
私達はドローンと催眠弾が入った耐熱素材の特特大バックを腹側にベルトで巻き付ける。業務用デバイスは残念ながら置いて行く。
代わりに簡易通信装置を携帯、パイロット用ヘルメット内の通信機と同期させておく。やはり連絡係は私になる。
アグネス「(残りの荷物はデバイス、電動車椅子と一緒に昇降施設制圧後にエレベーターで降ろす予定-。成功したらね)」 - 23二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 03:27:27
一方、気密室の向こうでは『その時』が来る。
アビー「3.2.1。降下開始」
アスラン「了解!行くぞ」
イザーク、ディアッカ「了解」、メイリン、一同「はい!」
壁の向こう側で重い扉が開き、皆が飛ぶ気配と外部に空気が噴き出る音が殆ど同時に感じられる。さて、次は私達か。
マッド・エイブス「それ!頑張れよ」
アグネス「はい!」
パラシュートはどうするのかと思ったが、なんとパーソナルジェットの後ろに背嚢を担ぐ要領で固定されたわ!
ふーむ、戦時とはいかなる無茶も押し通すもの。ある意味、何時も通りね。
耳をすませば、彼方側では非常口の扉は締まり、気密室は再調整に入った模様。
アグネス「(祈りを唱えるのが少し早すぎたわ。凄く怖い…。え…私が怖い?)」
そんな感覚がまだ残っていたとは…。もうとっくに擦り減ったと思っていた。戦場で邪魔な物が今は愛おしく思える。
アビー「続いて2番ランチ。気密室内に進んでください。その場の兵は彼等の移動をサポートせよ」
ハイネ、アグネス、一同「了解」
気密室の扉の先、思ったより大きな非常口が目に飛び込む。大型貨物機の貨物搬入口によく似ている。空挺作戦にはピッタリと言うべきかな。
さて、陸戦隊と医療班、技術班は総出で神輿を担ぐように私達を待機位置に着かせる。私達の目前には大きく分厚い隔壁。あれの開放と同時にジャンプ、自由落下開始だ。
アビー「3.2.1。隔壁開放します。同時に降下開始せよ」
ハイネ、アグネス、一同「了解!」
扉の開放、気圧の急変、自分の足が床を蹴り飛ばす感触、それらがまるでスローモーションのように脳内に流れ込む。 - 24二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 09:56:18
保守
- 25二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 16:18:37
再度保守。
- 26二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 22:13:58
保守
- 27二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 00:15:31
脳裏に凄まじい量の情報が飛び交う。飛び降りたアプリリウスの『空』は僅かに白み始めていた。
所謂、『天文薄明【空の明かりが星明りより明るい状態】』。美しく神々しい朝焼けの最初の一幕、きっと我らが共通の母たるミトコンドリア・イブも同じ風景を目にしたことだろう。
だが、これは円錐状の巨大構造物の側面内側に映し出された人工のパノラマに過ぎない。眼下に収まる直径10㎞の湖、その中に浮かぶ3㎞の小島、そこに私を地面に引き寄せているこの力は本物の重力ではない。この天体がセンターハブを軸に回転することで生み出している疑似的なものだ。
本物の『空(宇宙)』は足の下にある。
アグネス「(だから―何!今更-)」
残念ながら私は地球を『母なる星』と懐かしむ感性を持ち合わせていない。
私の故郷は今、下り立とうとしている僅か3㎞の小島だ。政府高官の娘として産まれた私は首都アプリリウス市中枢部の通勤エリア内の邸宅でアカデミー入学までの時を過ごした。
だから故郷を守る。それだけのこと―。
やがて、荷物のバランスによってか、身体は1回、2回と回転を始める。その回転は収まることなく、速度はどんどん早くなりソニックブームに気が付く暇もない。
音速を突破した体外の時間と私のニューロンが感知するスピード感には奇妙なずれが生じている。やたらといろいろなものが見えては消えていく。
プラントの内壁、湖、中央エレベーター、アプリリウス居住区、飛び降りた中間施設地帯、その先の居住区-。
人類の持てる英知を結集して築き上げ、維持管理してきたこの人工天体120基こそが我等の祖国だ。もし気に入らなければ最新式プラントを建てて移り住むだけのことよ。
アグネス「(科学技術に立脚する(of Technology)国なのだから。地球の事は後回しで良い)」
無論、プラントは地上にも多くの『飛び地』を領有し、コーディネーターの同胞が多数暮らしている。親プラント国も存在する。蔑ろにしようなどとは全く思わない。 - 28二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 00:22:38
思わないが―。デュランダル議長…。
アグネス「(散々暗躍して開戦を誘発し(疑惑)、地球情勢に入れ込み、挙句泥沼の対ロゴス戦をスタンドプレーで始めた人間。国益を散々に損ねて…。この有様、万死に値するわ!)」
だから、政界にあいつの居場所などあってはならない。彼には絞首台がお似合いだ。
夜明け前の街には奇妙な明かりが帯となっている。デモ隊の掲げるライトね。連なった抗議者の帯の目標地点は二つ。最高評議会ビル、彼らが人間の盾となって守っている議長官邸。
その二つほどの規模ではないが奪還目標であるエレベーター昇降施設周辺にもそれなりの人だかりができている。
出来ているが何やら様子がおかしい。ソニックブームに驚いたのか?
アビー「ザラ分隊より報告!地上にスナイパー発見、撃退。負傷者4名、スナイパー本人と観測手とのこと」
ハイネ、アグネス、一同「了解!」
やっぱりいたか!メイリン…、いや、先ずは自分の心配よ!
アグネス「(道理で…。議長はもう隠すこともしなくなったのか?あるいは手下の独断か…)」
どちらでも不味い。でもそれはそれ、今はとにかく生きて降りることを!
隕石になって地面に接する前、高度2.61㎞(26100m)で紐を引きパラシュートを広げる。
周りを飛ぶシンやルナマリア等も次々と。大型だから衝突や絡んだりしないように要注意だわ。
ハイネ「アビー、全員パラシュート展開!皆、下りるまで気を抜くな。狙撃に注意。着地後、車椅子組以外はハンドガンを取れ」
アグネス、一同「了解」
どんどん地面が近くなる。気が付いたデモ隊や野次馬が指を差してくる。パラシュートの色は極力、空の色に合わせて隠密性を高めたのだが―。
やはりソニックブームがいけなかったか。 - 29二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 01:04:54
アグネス「(いや、そもそも銃撃戦があったそうだから2番隊の私達は嫌でもバレるか)」
群衆は何やら叫びながら走って集まってくる。
何と言う事…。バレバレじゃない!取り合えず銃撃はされたいない事を以て良しと思うしかない。
ハイネ「絶対に民間人を傷つけるな。銃弾はゴム弾のみ。発砲は正当防衛以外は俺に許可をとれ」
アグネス、一同「了解!」
直後、私達はパーソナルジェットを起動する。着陸時の衝撃を緩和するためだ。特に私は左足に怪我をしている。普通に下りたら骨がどうなるか分からない。
ジェットの推力を慎重に上げ下げしながら、必死にゆっくりと両足を着く。
アグネス「ふぅー~~」、ドザッ!ズドン…!
着いた瞬間、ぐっと重みが掛かりそうになるのでジェットをもう一吹き。
群衆「おぉぉ…」、群衆「さすが!」、群衆「ザフトだ。頼む、あいつ等をやっつけてくれ!」
パチパチパチパチ。パチパチパチパチ!パチパチパチパチ。パチパチパチパチ!
ハイネ「うん?」
アグネス「あれ?」
なんか様子がおかしくない?袋叩きに遭うかと身構えていたのに。
未だ夜明け前、それでも周囲に集まって来た人々に敵意がないことは察知できる。どうした?
群衆「あそこから飛び降りたの?すご~い」
群衆「そんなこと言っている場合か!スナイパーがいました!あいつら先に来たザフト兵に実弾を…。信じられない!この辺りにテロリストが紛れている!」
群衆「助けてくれ。俺達はただ抗議に来ただけだ。こっちも怪しいやつがいないか探している」
群衆「抗議も別に良いが…。そろそろ解散してくれ。そろそろステーションを開けないと、開店時間が迫っているんだ!」
群衆「荷物が遅れたらどうしてくれる!」 - 30二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 01:13:23
着陸に成功したかと思えば、皆が好き勝手なことを言い出すので閉口してしまう。それと同時にふと大事な点を見落としかけていたことに思い至る。
アグネス「(そう言えば…、別にこの人達自身はテロリストでも何でもなかったわね。反軍感情が強いわけでもない。夜が明けたら会社や官公庁、学校は始業する。主婦もご家族のお世話が―。彼ら彼女らには普通の一日が待っているのだ)」
一部の『プロ』を除いてね。
そしてプラント国民の大多数にとって『ザフト軍は味方』。軍が武力を市民に行使する前に訳の分からない連中が『味方』に発砲するのを目にすれば…。
市民がどちらに立ちたくなるかは明瞭だわ。
アグネス「(そうなるとアスラン達に攻撃を仕掛けたのは議長の命令ではなく手下の暴発か。宇宙港とエレベーター昇降施設の半分以上の『陥落』に焦ったのね。馬鹿者が…)」
拍子抜けしながらパラシュートを外す。さて、どうしたものか、予想外過ぎて途方に暮れてしまう。
するとハイネ先輩が武器を持たずに両手を上げて民衆に振って見せる。微かな身振りで私達も続くよう促ので、皆で手を振る。敵意がないことを示すのは良いが、狙撃兵がまだどこかに…。
デモ隊女性「う~ん。ふ~ん」ブンブン
デモ隊男性「…。ほぉ~。ほぉ~」ブンブン
何やら向こうも手を振り返してくれている。『自分たちは軍と戦う気はない』と。なるほど、これでもう撃てないな。仮にまだ居たとしても。
アグネス「(暴力革命に成熟社会の市民はついて来ない。それでもやるならデモ隊に勢いがあった最初期に最高評議会ビルに突っ込むべきだった)」
いや、突っ込んではいたのだ。一番負傷者が出たタイミングがあの時だった。ただ、あの規模の一般市民ではバリケードを突破し、非殺傷兵器で武装した警備隊とその増援を押しのけることは出来なかった。
儀仗兵や軍楽隊まで搔き集めた意味は確かにあったのだ。 - 31二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 01:35:51
一しきり手を振り合った後、ハイネ先輩はヘルメットの顔面カバーを一つ二つと持ち上げ、周囲の市民に話し掛ける。
ハイネ「ザフト軍特務隊です。アプリリウス市民の皆さん、どうか落ち着いて下さい。周囲にテロリストが潜んでいるかもしれません。
まず昇降施設付近から離れ、出来ればご自宅にお帰り下さい。宇宙港、エレベーター利用業者の方、同施設を利用予定の方も。お仕事やご予定があることと思いますがどうかご理解ください。
ザフト軍は政治的立場を区別することなくプラント国民の生命と財産を守るために全力を尽くしています。早期の利用再開に努めますので一度、ご自宅ないし本社にお帰り下さい」
先程まで好き勝手なことを捲し立てていた民衆は、彼が話し出すとピッタリ口を閉ざして素直に話を聞き始める。
アグネス「(やっぱり役者が違うわね…)」
こうした局面では個人のカリスマ性がものを言う。立ち振る舞いや姿勢、声音-そして善にしろ悪にせよ内に秘めたる力強さ―醸し出すオーラの様なもの。
顔も識別できないこの時間帯であるからこそ、誤魔化しは効かない。その点、ハイネ・ヴェステンフルスはうってつけな人材なのだ。議長がわざわざFAITHにしただけのことはある。
負傷者の身で重装部を纏い決して楽ではないはずなのに身のこなしがとても格好がいい。あの歌手の様な声も凄く説得力がある。
群衆「ああ…」、群衆「いや、でも議長が…」
群衆「言っている場合か…。狙撃兵がいたんだぞ!そんなつもりじゃ…」、群衆「いや、まだどっちの者か決まっては無いから―」
それに加え隊の外見も幸いしたように思う。私達はハンドガンこそ携帯しているがライフルなど殺傷能力が高い兵器を手にしてはいない。物々しいボディーアーマーも二着目のパイロットスーツに隠れている。
そのお陰で見た目が『空挺部隊』より『宇宙飛行士』よりになっている。さっきの拍手も何だか『ギネス記録達成の瞬間を目撃』と言った雰囲気があった。
ハイネ「皆さん、お気を付けて。繰り返しになりますが付近にテロリストが潜んでいる可能性があります。自分と大切な人の命を守るため、直ちにご自宅か付近の避難場所に向かって下さい。どちらも難しい場合は政府のホームページに次善の避難場所が記載してありますのでご確認ください―」 - 32二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 02:05:50
拍子抜けするような『普段通りの言葉』、それで良い。これが今は核爆弾の次に有効な兵器だ。
群衆「のんきなことを…。現に銃撃戦が…」
ハイネ「はい。ですから私達がそれを止めに行きます。それは軍人たる私達の務め、皆さんは職業人として学生として、家庭人として誰かの友として。願わくば私の友として、掛け替えのない普段の日常を守ってください」
ハイネ先輩のご挨拶の途中で視線を合わせ、皆でタイミングを見計らう。一、二、三…
ハイネ「それでは皆さん、良い一日を!」
彼のその言葉を合図に私達はパーソナルジェットを再起動する。ハイネ先輩も敬礼した後ジェットを起動、周囲の人垣を飛び越える。頭上を越えるときは両手を振って『敵意無し』を示し、最後には皆でもう一度、敬礼する。
暁の空はその色を刻々と変化させている。そろそろ東雲も近い。
そのまま昇降施設に飛行していく私達を、市民たちがどうとったのか知る由もない。
ただ、少なくない数の彼ら彼女らがハイネ先輩や私達の敬礼に返礼して下さり、今も背中に向け手を振ってくれていることはしっかり覚えておくべきだろう。
それを忘れぬためにも今は直走るのみよ。パーソナルジェットは全力、バッテリー交換は後回し、到着できれば良い。
メイリン「インジェクションアタック、成功しました!」
取り出したばかりの簡易通信装置が鳴る。インジェクションアタックが決まったと言う事は―。
アグネス「コントロールルームはこちらの物なのね?!」
メイリン「はい。奪取しました。そちらと繋がらなくて…」、アグネス「ごめん。取り込み中で詳しくは後で」
メイリンに急ぎ答え、そのまま皆に知らせる。
アグネス「ザラ分隊、コントロールルーム奪還。電子班はインジェクションアタック成功」
ハイネ「了解!あそこが入口だ。このまま飛び込むぞ」
アグネス、一同「了解」 - 33二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 08:01:52
もうデモ隊使って扇動も使えないしどうすんだろ議長
- 34二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 08:06:02
スナイパーが暴走してるってことは議長の指示がないってこと
諦めてるか、もしくは別の手段を取っていることになるけど
この流れで何か仕掛けてるのか? - 35二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 10:36:59
仕掛けてるんじゃなく評議会側と直接交渉中とか?
どこまで追い詰めたら観念するんだろう
AA(オーブ側)の介入なしで一国家として自浄作用があるという結末になってほしいが - 36二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 16:37:20
もう議長官邸に本人は居なくてもぬけの殻だったりしない?
ここまで情報戦とジャミングでは議長が先手を打ち続けている - 37二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 17:35:42
メサイアに立て籠もってレクイエム押さえて私は不当にプラントから追放されたとか演説しながらレクイエムをチラ付かせてDP導入迫る気かな…
- 38二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 20:32:25
良かった…
大乱闘スマッシュコーディネーターズをやるアホなプラント国民はいなかったんや… - 39二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 21:17:07
今のところは、群集心理に押し流されていないようだけど……ほら、前の大戦のパナマの「アレ」があるから、
今一つ安心できないんだよな……。それに、最高評議会ビルを取り囲んでる連中の掛かり具合もまた違うと思う。
議長の仕込みが破綻しつつある事は確かなんだが、まだ何かありそうな気がするのは俺だけか?
- 40二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 02:28:38
保守ッ
- 41二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 03:32:48
ハイネ先輩が指し示した先、秘密通路出入口は再び閉鎖されている。議長の手下の逆襲を防止するためだ。メイリンとの回線が繋がったのは幸いだった。
アグネス「電子班へ通達。2番隊は作戦を続行する。ゲート開放を求む」
メイリン「了解。ゲート開放します」
昇降施設のコントロールを握るメイリンの指先で目前のシャッターは音もなく持ち上がっていく。マップを頼りに進んできたから、少し心配だった。
よくできた秘匿通路だわ。周囲の外壁とよく一体化してカモフラージュされている。
シン「アグネス、『プロ』に見られている。鋭い!」
アグネス「うん。知っている。5時の方向1500mに2人、1時の方向3000mに2人。安心して、彼等は司法局の私服公安職員よ。他は?」
簡易通信装置のモニターを司法局の現地リアルタイムデータと同期させながら答える。勘だけで察するとはシンもなかなかね。
デイル「湖面上を高速移動しているボートは?2時の方向、3500」
アグネス「司法局の海上警察です。信号と一致。ただし欺瞞の可能性には留意を」
デイル、一同「了解」
飛びながら答えている間にヘルメットの先は敷居を跨ぎ掛けている。
ハイネ「突入。目標通気口まで。先行する4名はハンドガンを抜き接敵にも備えろ。後尾の2名も。ゴム弾を装填、自己判断での発砲を許可する」
アグネス、一同「了解!」
ハイネ先輩の号令一下、先頭のガズウートパイロット4名はハンドガンを構えつつジェットを切って駆け足で通路を進む。続く我ら7名。後尾の2名とはショーンとルナマリアだ。
本来、射撃の腕は私のほうが上なのだが、こんな状態では止む無し。ハイネ先輩と私とシンはジェットの出力を絞って、まるで月面を歩くアームストロング船長のように必死に前に進む。 - 42二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 03:44:49
アビーにもこのことを伝達。
アグネス「アビー!司令部、報告。2番ランチ隊、侵入に成功しました」
アビー「了解。こちらは中間施設地帯及び太陽光発電装置の完全掌握に成功。国防委員会の命により一時的にグラディス提督の軍政下に。デモ隊に拘束されていた公務員・準公務員全員の解放に成功、ただし睡眠中」
困った事態ね。でも仕方ない。眠らせたのは私達だ。
アグネス「中間施設の機能に問題は生じていない?」
アビー「拘束を受けなかった者とこちらの応援、自動管理プログラムで諸機能運用には支障なし」
アグネス「了解」
少しヒヤッとした。しかし運用に掛かる人員は省力化されているし、ザフト軍事ステーションから付いて来てもらった専門兵もいる。想定の範囲内だ。
アグネス「ハイネ先輩。中間施設と全機能はグラディス提督が抑えました。今は彼女の軍政下に。国防委員会の命であると」
ハイネ「了解。やったな。合法か?いや、すまん。忘れてくれ」
ケンケン足のように必死に進みながら連絡すると、ハイネ先輩から気になる問いが投げ掛けられる。なるほど、この一件を議長が『軍事クーデターの企み』と煽り始めないか心配なのね。
アグネス「(作戦中にそんなこと、と言えない所が辛い。本当に国内での行動だと気を使うわ…)」
実際どうなのだろう?国防委員会と行政委員、司法委員は話が付いているにしても。アプリリウス市長の権限と衝突しそうではある。
しかし、目下の情勢で、宇宙港と中央エレベーター及び周辺付属施設地帯を安全かつ平穏に管理運営できそうな機関と人物が他にない。軍港の部隊以外の首都駐留軍の旗色は未だ決まっていない。
今は細かい法解釈より、皆の不安を払拭することが優先される。
アグネス「いえ。合法性は担保され得るかと。非常時です。カシム立法委員長と60人議会のご協力もあります。市長の追認も遠からず、と思案します」
ハイネ「そうだな。悪い。このまま急ごう!」
アグネス「了解」
必死にお答えしながら、床を弾むように前に進む。ジェットの調整が難しい。左足を不全骨折したことがこうも鬱陶しいとは―。と言うか、私、開腹手術を数時間前にしたばかりね…。 - 43二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 03:53:33
アグネス「あっ…」
デイル「おおぃ!」
調整をミスって跳ね上がりすぎた私を後ろのデイルが慌ててキャッチしてくれる。もう少しで天井に激突する所だわ。
アグネス「ありがとう」
デイル「ああ。しかしさっきからゴロゴロしているな」
アグネス「そうね…」
彼が『ゴロゴロ』と表現したのは通路脇で手足を拘束され呻き声を上げている一群の者達のこと。彼らは―おそらく―議長の手下の特殊隊員だろう。先行したザラ分隊が非殺傷兵器で打ち倒し、無力化しながら進んだのだ。
倒した後に拘束したのは後を追った電子班の力に寄るかもしれないが―。
シン「ザックリ、2個分隊はいる…。駆け付けて来たんだ」
アグネス「流石に学習するわね…。『敵』も」
シンの声は微かに震えている。私はどうだろうか?勿論、敵が怖いのではない。いや、怖いは怖いのだが…。
アグネス「(呻き声を上げている人は良い。嫌なのは脇を通り過ぎた際に何の反応も上げなかった者達よ。おそらく彼らはもう…)」
彼等の立ち位置は自爆して果てたアッシュ隊と同じ。当然、ザラ分隊が自爆の恐れは除いてくれている。となると、体内に毒薬を仕込んでいたのか。
今、唸っている彼ら彼女らは、次戻った時まで生きているだろうか?いや、間違いなく自決を図っているはず―。
ハイネ「相手も馬鹿じゃない。しっかりしろ、皆、自分の出来ることと出来ないことは割り切れ。さっ、俺たちもアスラン達に負けないよう頑張らないとな、集中!」
迷うな、ハイネ先輩はそう声を励まして下さる。うん、不気味さや変な罪悪感に圧し潰されている暇はない。
アグネス、シン、デイル「はい」
意識して高い声で返事をし、強めに床を蹴る。 - 44二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 04:02:10
でも見てしまった。
私が足を蹴った次の瞬間、ちょうど足元で転がっていた特殊隊員の体が奇妙に震え、着地した時には体がだらんと脱力している。
思わず振り返り目線を落とすと、落ちたサングラスの奥の瞳と視線が合う。若い―まだ幼い―私とさほど歳が変わらぬ優し気な面立ち―女の子、いやプラントにおいては女性だ。
私と同じ兵士。同じ国に仕えていたのにどうして…。
モビルスーツ越しでなく、剥き出しの人間を―それも、おそらくプラント国民のコーディネイターの同胞を―殺めるのは初めてかも知れない。私達が到着しなければ、いや私が傍を通り過ぎなければ…。彼女は自ら命を絶たずに済んだかもしれない。
彼女の目から生気が急速に失われていく。その眼の光をどうしてあげることもできない。
デイル「頑張れ!」
デイルが少しよろけた私をがっしり支えてくれる。足がふらついたのはジェットの操作ミス、きっとそうだ。
周囲の空気も重い。私の反応が何を意味しているのか、察せられない程、皆も鈍くはない。
戦地での命の遣り取りには慣れてしまった。でもこれは何か違う。気持ち悪い。
アグネス「(彼女は務めを果たしただけ。私には私の務めがある。先を急ぐのよ…)」
自分の心を落ち着けろ。ラクス暗殺未遂の一件から予想してきたことではないか!相手が10代だったから、生身だったから、目の前で見たから、足元で死んだから―。
だから何だと言うのだ!
頑張って、必死に自分に言い聞かせて、次の一歩を踏み出す。今度はデイルの助け無しよ。本当に恥ずかしい。
アグネス「ありがとう。大丈夫」
デイル「ああ…」
足早に、呻き声と死の回廊を突き進む。 - 45二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 04:18:31
本当に不覚としか言えない。宇宙港や中間施設地帯で捕縛された特殊隊員も監視の目を潜っては同じことを試みているはず。窮鼠と化した者の自爆を心配しながら、機密保持目的の自決対策を講じきれなかった。
私達に余力がもっと有れば―
簡易通信装置に急いで叫ぶ。
アグネス「アビー、逮捕者の自決対策を。急いで」
アビー「はい…。既に。ただ何人かはもう―」
アグネス「そう。分かった。ありがとう」
彼女の声音を聞いて理解した。士気への影響を考慮して黙ってくれていたのだ。仮に伝達されたとしても装備も人員も最小限、おまけに負傷者が多い2番ランチ隊に出来ることは無いから。
シン「どうして…。レイも」
後ろからのシンの呟きは敢えて無視する。
アグネス「(思うに-きっと―それに足る何かを議長は彼等彼女等に示した…。理想とか主義とか使命とかそういった類の物を。それが何なのかはここで考えることではない)」
特殊隊員「…」ビクッビクッ…
特殊隊員「う…。おぉ!」ビクビクッビク。
たった数十秒、言って20人前後の生死に過ぎない。カオスのファイヤー・フライ誘導ミサイルの装填数より少ない。
でもまるで何十日も白骨の街道を歩んでいるよう。暗く細いこの道が地獄に続いているのかとさえ思う。
でも、その先にようやく大型通風口が見える。何だか泣きたくなる程ほっとする。
先に着いた4人の内2人が鎧戸を落としてくれていたわ。足を前に、余計なことは考えるな。通風口に到着し、重い荷物を広げ、ドローンに催眠弾を装着する。
遅れてやって来た最後尾のルナマリアと、ヘルメット、アイ・プロテクション越しに視線を交わす。ちょっとお互い泣きそうだけど、まだまだやれる。 - 46二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 04:51:03
最後尾の彼女とショーンの準備が終わるまで20秒とかからない。連絡を。
アグネス「電子班、これよりドローンを投入します。通風管のダンパ等、循環装置までの障壁を開放してください」
メイリン「了解。10秒後に全通します」
アグネス「了解。カウント開始、10,9,8…」
ハイネ先輩に視線を振った後、皆にも声を振りながら心の準備を促す。この隊の勢いが失せていることが気掛かりだ。意気高らかに民間港に突入して20分と経っていないのに。
シン「…」
ルナマリア「…」
まったく、いちいち狂人に構うな!あんなのはサトー一派みたいなものなんだ…。
アグネス「(え…。彼女が狂人?)7,6,5…」
何かが違う。私は彼女と戦ってきたのか?自分の勲功と祖国の為にここまで戦ってきたはずなのに―。
クシャクシャした考えが頭を離れてくれない。これが勲功か?本当に…。
ハイネ「皆、集中!港とエレベーターが機能しないと市民も国民も友好国も困る。デモが起こっていない方の居住区の住民も。目を覚ました子供たちが学校に行くのに困るようではダメだろう?朝起き出す街の独特の空気、俺は好きだ。皆はどうだ?ここは踏ん張りどころだろう。違うか?」
確かに私も好きだ。静寂の中に活力が満ちたあの不思議な一時。明け行く空は誰かの希望を指し示し、別の誰かのそれを裏切り続けて行く。大きな町が動き出す前の静けさ。
多分、それが正常なことなんだ。
シン、一同「はい!」、アグネス「4!3!2!」
ハイネ「サンキュー」
官庁街の方は一晩中騒々しかったが、彼等もまた眠りに就く時が来る。今日を迎える為に、デモ参加者の朝寝坊は確定ね。夜更かしのつけだ。 - 47二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 04:57:52
アグネス「1!…」
アグネス、メイリン「ゼロ!」
ハイネ「投入!」
ハイネ先輩の号令と共に催眠弾運搬ドローンが最初に通風管に、それに作業ドローンが続き、中継器の私達が最後、これまで通り。
30㎞のジャンプにも関わらず、手に持つコントローラーパネルには細かな罅一つ入っていない。手伝ってくれた皆のおかげだ。大冒険を共にしたチョウチンアンコウ君こと我が愛機を心底、愛おしく思う。
アグネス「(もしこの戦争が終わった時に私がまだ生きていたなら、次は地球で大ジャンプに挑戦して、その先でこの子を飛ばしてみるのも悪くはない。払い下げを受けないと駄目だけれど)」
フェリックス・バウムガルトナー氏が偉業を打ち立てた2年と10日後、その記録は塗り替えられる。今度は4,1425m!41,425㎞!
ロバート・アラン・ユースタス氏によるものだ。
アグネス「(西暦時代のナチュラルにこれだけのことが出来た。C.E.のコーディネイターのエリートたる私ならもっと高くもっと速く飛んで見せる)」
それなのに今晩の有様はなんだ!せっかくの力だ。私は―私達は―もっとでっかく素晴らしいことの為にそれを活かすべきなんだ。そのためにも―
アグネス「シン、電波は?」
シン「良好、もうすぐだ!」、ハイネ「良し。こっちも良いぞ」
良かった。任務は順調、そう順調だ。中継器の面目が立つと言うもの。
アグネス「(後、循環装置まで後、6秒!)」
ふと不安が頭を過ぎる。
アグネス「メイリン、閉じ込めた人たちは大人しくしている?隔壁が破られたりしていない?」
メイリン「隔壁はビクともしていません。テロの爆発でも簡単には破れない仕様です」 - 48二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 05:05:40
建物は無事と。では人はどうだ。
アグネス「自傷行為者は?」
メイリン「デモ隊の大部分は…。でも一部のおそらく議長旗下の者達が自決を企図。催眠ガスで状況は落ち着きます」
アグネス「-そう。分かったわ」
もう何も言うまい。私がモニターで見守る中、6機目最後の運搬ドローンが循環装置に辿り着く。
ハイネ「催眠弾投下、撤収せよ」
シン、一同「了解」
コントローラーモニターの先、循環装置にモクモクした白い煙が大量に吸い込まれていく。これで取り合えず、この施設内の馬鹿者どもは自他を傷つけることを止めるだろう。
何だか馬鹿らしい。楽しい妄想の続きをしよう。
うん。そうだわ!いっそカーマン・ライン(100㎞)からジャンプしてみようかしら。
勿論しっかり準備をして、ね。任務で何度も目にしたあの光景をモビルスーツ越しではなく我が身で直に感じるのも悪くはない。そんなことに意味があるのか、と聞かれても私は応えられない。それで世の中が良くなるとは言わない。
でも、それでもご先祖様はエベレストに登った。彼らにとって、そんなことは知ったことではないだろう。
私だってそうだ。けれども。
アグネス「(この世界には命を掛けるに値することがいっぱいある。他所の国で自爆したり、他人を巻き込んで自決するより、意義深く気持ちの良いことがもっとたくさんあるはず。それを知らせたい)」
脳内では妄想、目はモニター画面。ガスは全て回り切った、シンのドローンは管から出て来た。後は順繰り。途中メイリンから報告が入る。
メイリン「催眠ガス、官庁街方面居住区中央エレベーター昇降施設内全隔壁に噴霧完了。作戦成功です」
アグネス「了解。ありがとう」
メイリン「いえいえ」
肩から一気に力が抜けるのは今晩で何度目か。嫌な思いもしたけれど、一応のお役目は済ますことが出来たのか―。 - 49二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 08:20:29
地球側からプラントに内偵でも送られていたら
この政権のグダりっぷりというか国内の有様を見て
「えぇ...なんやこいつら...」と引くんじゃなかろうか... - 50二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 11:16:36
- 51二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 12:06:16
- 52二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 12:10:21
FREEDOMの小説版の地の文で議長が黒幕でサトー一派も支援してたと明言されてる
- 53二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 20:40:15
☆
- 54二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 23:12:27
アグネスも本当に変わった
怪我も治らないまま何度も修羅場をくぐるのは心配になる
人としていい方向に進んでいると思いたいが… - 55二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 02:28:17
ドローン回収後、2番ランチ組はメイリンの指示に従って、エレベーターホールに進む。持ち上がった隔壁を越えるごとに床で爆睡している人の数が増えて行くのには閉口してしまう。
避けて、跨いで、飛び越えて―。
デイル「おっっと!」
アグネス「あ、ありがとう。悪いわね」
デイル「おう!」
天井激突寸前にデイルに何度か助けられる。みっともないが左足を負傷中の私は車椅子3人衆の中でも別格に移動が難しいのだ。疲労の蓄積も流石に誤魔化しが効かなくなってきている。
ハイネ「もう少しでエレベーターホールに着く。陸戦隊と医療班が俺たちの荷物と一緒に着いているはずだ。皆もうちょっとだぞ」
アグネス、一同「はい!」
ブルブルブルブルブル…。
と、ここで手元の簡易通信装置に通信が届く。ミネルバブリッジを守るトライン副長からね。
アグネス「アグネスです。いかがいたしましたか?」
アーサー「皆、無事で何より。悪いが予定を変更する。2番ランチ隊はエレベーターのカプセルに乗ってこちらに戻って欲しい。車椅子等はこちらに」
アグネス「了解。特務隊アスラン・ザラにもこのことは共有済みですか?」
突然の予定変更ではあるが、確かに理にかなってはいる。正直、ドローン作戦が終わった以上、私達はここに残ってもできることは無い。むしろ、怪我人が多い2番ランチ隊は陸戦時に足を引っ張る。ザラ分隊はどうなったのか?
アーサー「勿論、アスランとジュール隊長、エルスマン副隊長はもう先に上がり始めている。25分後にグラディス提督から、『彼女の軍政下において』宇宙港と中央エレベーターの運行正常化宣言を発出する。万一に備えてモビルスーツに搭乗して待機して欲しい。重症のハイネは医務室に」
25分後!ギリギリだわ。無数に転がる夢の国の住民を見るに不安は尽きないが…。論じている暇はない。 - 56二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 02:37:14
アグネス「了解」
アーサー「頼む」
モニターを確認すると陸戦隊と医療班、司法局公安職員が中間施設からエレベーターカプセルに飛び乗って次々と降下している。
手当てと移送とバリケード等の撤去、施設内外警備の強化、間に合うだろうか?
アグネス「(その為にも私達を上げるのか。昇降施設と敷地内の警備は本来、文民警察の領分だけれど、司法局から軍に『要請』があれば動ける。必要とあれば敷地内にモビルスーツ隊の降下も有り得ると提督は考えていらっしゃるのね)」
もしそうなら音を上げている訳にはいかない。
アグネス「注目。トライン副長より、2番ランチ隊はエレベーターで上昇し中間施設に。後、搭乗機にて待機とのこと。ハイネ先輩は医務室に」
ハイネ「了解」、シン・ルナマリア達「了解…」
もう皆、言葉少なげだ。『宇宙港とエレベーターを正常化してアプリリウス市民の暮らしを守れた。目出度し目出度し』とはいかないらしい。
アグネス「(まだ政変は終わっていない。分かっていたことよ)」
でもここに来て体中に脂汗が滲み出てくる。相次ぐ負傷と手術と酷使に身体がSOSを上げているのがわかる。でもそれは一緒に戦ってきた皆も同じこと。
ましてザラ分隊の負担は私の比では無かったはず。
だから泣き言は言えない。軍人なら絶対に―そう自分に言い聞かせる。
そうして、くらくらしながらやっとエレベーターホールに到着する。そこでは、ごろ寝していた人は数カ所に集められ医療班が大忙しで対処している。無論、大変なのは医療班だけではない。
陸戦隊の女性兵と女性公安職員も天手古舞だ。もし寝転んでいるのが女性の場合、彼女の尊厳を傷つけることの無いよう注意しないといけないから。
アグネス「(国内の民間人相手は本当に気を使う。いや、戦争法においても女性の名誉と人権の保護には厳しい規定が設けられている。結局、どこでも同じか―)」
しかし、女性と高齢者と未成年者と障がい者の退去にデモ隊も合意していたはずなのに、自分の意思で残った女性がこれほど多いとは―。 - 57二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 02:43:35
ハイネ「整列!」
アグネス、一同「はい!」ザッ!
ハイネ先輩の号令一つで、ふらつき乱れかけていた隊列がバシッと整う。不覚だったわ。ホールを管理していた陸戦隊の隊長がこちらに敬礼してくれていた。危うく欠礼するところだったわ、私は馬鹿か!
皆で一緒に敬礼して、陸戦隊長の示して下さった敬意にお応えする。
陸戦隊長「お疲れ様です」
ハイネ「ありがとう。済まないが時間がない。民間人に重傷者はいないか?」
陸戦隊長「民間人には、おそらくありません。ただ自決を遂げていた者が既に9名ほど見つかっています」
ハイネ「そうか…。残念だ。私達が通って来た方にも約20名ほど。死者の尊厳を毀損することの無いよう。しかし時間が押している。効率的に進めてくれ。俺達は次の命令を受けた。後を頼む」
陸戦隊長「はい!」
陸戦隊長の敬礼を受け、ハイネ先輩が号令をかける。
ハイネ「全員、敬礼!」
ザッ、ビシッ!
遣り取りを見た他の者達も目礼してくれる。ただ、彼等彼女等は忙し過ぎて手礼は無理、止む無し。無言でエールを交わす。
ちょうどこのタイミングで上からエレベーターカプセルが到着、コントロールルームの調整はなかなかと見える。風を切るような音と共にカプセル型の籠の扉が開く。
ハイネ「良し。乗ろう。乗ったら、アグネス、シン、ルナマリアは座れ。負傷兵だ。スペースがある限り他の者も。せめて今は楽にしろ」
アグネス、一同「はい。ありがとうございます」
ハイネ「うん」
籠の中央部には円形のソファー、ハイネ先輩の心遣いを受けて皆で座り込む。疲れと装備の重さのせいで、2番ランチ組皆で尻もちを衝くような形になってしまったわ。
ソファーはボコンと凹むが流石、我等の優秀な技術、次の瞬間には元のふかふか状態に戻っているわ。 - 58二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 03:08:04
私達が座ると同時にドアはまた風を切る様な音と共に締まり、強化ガラスの籠は猛烈な勢いで上昇を開始する。
アグネス「ハイネ先輩もお座りください」
ハイネ「スペースがないだろ。それにどうせ上がったら俺はベッドだ。気にするな」
じゃあ、自分もと立とうとすると目で押し戻される。うーむ、では厚かましいがこのまま座っていよう。
カプセルが施設の内部部分を抜けた瞬間、強化ガラスに光が差し込みアプリリウスの全景が目に飛び込んでくる。曙の時、桃色がかった赤色の空、それを映す湖面の水面。
ルナマリア「綺麗…」
アグネス「本当にね…」
シン「ああ…」
『軍政下での』宇宙港と中央エレベーターの正常運行再開宣言-止むを得ない措置だ。首都の物流と人の流れを止める訳にはいかない。国内外に恰好が付くものでは決してないが…。
アグネス「(『正常化』後は、大規模デモが発生していない方の居住区から平常に戻して行くべきかな)」
私が見るに抗議者の勢いはかなり衰えている。ここで自分たちの街の半分が普通の日常を再開したさまを見せつけられれば、サクラが何を言おうが特殊隊がどう騒ごうが心が折れるだろう。
アグネス「(楽観し過ぎかな。じゃあ加えて官公庁の長、会社や法人のトップ、学校の校長先生に『日常への復帰』を呼びかけてもらうのも良いかも知れない。その後は徐々に位を下げて行って、直属の上司、担任の教授や先生。民族によっては部族長や宗家にも依頼を―)」
こうなったら人海戦術だ。それこそ1万人のデモ隊が居れば1万通りの説得を各個人の携帯電話で仕掛けても良いかも知れない。こっちには行政と司法と軍のトップが付いている。最高評議会ビルの所機能も健在だ。個人情報保護法の例外規定を適応してしまえ。
アグネス「(少し強権的に過ぎるかな。止めよう。せめて今、この時だけでも頭を休めて―)」
ブルブルブルブルブル…!?
殆ど飛びかけていた私の意識を手元の簡易通信装置のコールが強引に引き寄せる。通信元は―シュライバー国防委員長-もう止めて!本当に限界なの、私。
アグネス「(これ、仮に実力組織の中のことでも戦時じゃなければパワハラよ。顔がアスランみたいに地蔵になりそうだわ。ならないように頑張るけれどね…)」 - 59二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 08:58:00
☆
- 60二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 16:17:16
もうやめて!
アグネスのライフはゼロを通り越してマイナスよ! - 61二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 20:02:29
まだ何かあんのかよお!!
- 62二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 20:14:33
CE「こんなデスレースがこの先も延々と続きます」
- 63二次元好きの匿名さん25/04/16(水) 05:58:17
まぁ、CEだしな
まともなやつはずっとこうと - 64二次元好きの匿名さん25/04/16(水) 05:58:48
アグネス「はい。特務隊アグネス・ギーベンラートです」
シュライバー「今、キャンベル嬢が動画に出て、何か話そうとしている!こちらは最終勧告への回答待ちだと言うのに。ネットを見れらるか?!」
泡を喰ったシュライバー国防委員長のお顔を拝見するのは人生でもう何度目か。思い出したように褒めて下さったことだけは救いね。
アグネス「(もう半分諦めの境地だわ。もう毎回、この御仁からの『連絡≒厄介ごと』よ)」
でも、同じ空間にいる戦友たちの受け止め方は異なる。いきなりの国防委員長の叫びに周囲のガズウート組とショーンとデイルは驚愕、シンとルナマリアはきょとんとし、ハイネ先輩は少し眉を上げている。
聞くところによると―前大戦の戦犯クルーゼはザラ前議長が国防委員長だった頃から彼に取り入り、悪巧みをしていたとも。
自分が特務隊として国防委員会直属になって見ると、果たしてよくそんなこと出来たものと感心する。自分の任務や業務も別にあるのだ。中々、フィクションの暗躍キャラみたいには振舞えるものではない。少なくとも私には無理だわ。偉い人と知り合いになっても振り回されるばかり。
アグネス「(そう。私はクルーゼでは無い。そしてシュライバー国防委員長はザラ前議長でもない。現国防委員長はパニックに陥っていても精神を病んでいるわけでもないはず)」
だから、先ずは彼を落ち着かせるべく努力しよう。返答は事実に基づいて静かに確実に、と心掛ける。
アグネス「現在、私を含む2番ランチ隊は中央エレベーターを上昇中です。簡易通信装置で閣下とお話ししていますので、動画視聴の為には切り替える必要があります」
シュライバー「ああ…。そう…そうだったな!奪還作戦ご苦労、良くやってくれた。そうか困ったな」
取り合えず良し。国防委員長の反応を見るに、まだ彼の中にも僅かなゆとりがある。これで一息入れれたわ。話を進められそうね。
アグネス「閣下、恐縮ですが状況共有の為、お話しを中断しては如何でしょう。この場の者と一緒に私も動画を確認します」
シュライバー「いや…。君には議長への最終勧告も把握して、助言して欲しいから―」
声音から察するに、本来の要件はそちらだったのね。確かにそれは私も把握はしておきたい。動画放映の意図にも関わっている可能性も大きい。けれど、ふーむ。 - 65二次元好きの匿名さん25/04/16(水) 09:55:19
鬼が出るか蛇が出るか…ゴクリ
- 66二次元好きの匿名さん25/04/16(水) 13:45:44
ラクス(スタンバってるのに出番がありませんわ…)
- 67二次元好きの匿名さん25/04/16(水) 18:55:15
出番がないならそれに越したことはないし…
- 68二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 00:40:10
☆
- 69二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 01:17:53
アグネス「それでは最終勧告の概要はメールでご送信下さい。助言は後程、いかがでしょう?」
シュライバー「分かった。良し…、今、送らせた。動画のサイトは―」
チャンネルを合わせ右手で隊の仲間に『注目、傾聴せよ』の合図を送る。ハイネ先輩も歩み寄ってくださっている。
アグネス「事情はお聞きの通り。動画放送も最終勧告の内容も互いに関連し合って共に重要です。音声はチャンネルに固定、モニターは小官が読み終わり次第、切り替えることとしたいのですが…」
ハイネ「それで構わない。焦るな。アグネスはよくやっている。任せる」
アグネス「ありがとうございます」
凭れ掛かるようにモニターをチラ見する戦友達も軽い身振りで全員同意してくれる。やはり皆の疲労困憊ぶりは一線を越えている。国防委員長からの直々のご連絡という珍事の驚きも倦怠感の波に飲みこまれている。
一方、画面の先の国防委員長は未だ大慌て、手元の簡易通信装置は文章通知を受信する。もうこれ、頭がどうにかなりそうだわ。
でも何度も言うようにここが粘りどころ。国防委員長への助言と言う形をとって皆に励ましのメッセージを送ろう。
アグネス「無事受信しました。閣下、お疲れのことと存じますが、どうか警戒を怠りなきよう。議長はこちらの精神的疲労を衝いてくるやもしれません」
それを聞いて2番ランチ隊の背筋が少し伸びる。素直でよろしい。私も頑張るわ。画面の先の国防委員長も少しは表情を引き締めてくれる。
シュライバー「おお…。そうだな―」
アグネス「仮眠はお取りになられましたか?」
シュライバー「取った。クラーゼク国防委員と交代に君たちは?」
どうだろう?私は手術の後、麻酔が切れるまで意識が無かったけれど、あれって仮眠か?いや断じて仮眠ではない!
アグネス「兵士の義務ですので。では暫し失礼します」
国防委員長の気遣いのお言葉に婉曲なお返事をお返しし、敬礼して見せる。シュライバー国防委員長もその意図を汲んで更に姿勢を正して返礼して下さる。 - 70二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 01:23:59
彼が姿勢を戻したタイミングを逃さず、チャンネルを伝達された動画チャンネルに切り換える。画面に映り込むのは、連絡していただいた通りラクス・クラインことミーア・キャンベルだ。
彼女の服装は何時もの派手な舞台装束、共演者は無し。格好がつかないと考えたのか、両側にはプラント国旗とザフト軍旗が立てかけられている。
2つの大旗の真中で身を小さくして所在無げなミーアが本当に痛々しい。
アグネス「(正体が明るみに出た以上、仕方ない反応か…)」
ラクスの仮面を剥がされた彼女がどれ程、寄る辺ない存在か、一見しただけでも理解できてしまう。勿論、彼女の歌手としての才能に疑念の余地は無いが―。
ハイネ「官邸からの放送かな」
アグネス「判断材料がありません。議長の直接の指示なのか、彼女付きの者達の忖度によるものなのかも不明です。まだ若干の猶予が、今の内に勧告の内容を読みます」
ハイネ「良し。読むのはアグネス。ペースは自分主体で」
アグネス「ありがとうございます」
返事をしながら、画面をメールに切り替える。音声は動画のままだ。出来れば何か彼女が言い出す前に、眼を皿にして表示された文章をなぞる。
読んだところ、最終勧告の内容は政変後の議長の処遇について。ここがクリアできれば事態収拾は可能と評議会側は踏んでいるのね。
アグネス「(実際はどうかしら―。いや、責難は成事に非ず、ね。説得の取掛かりを我等から手放してはいけない)」
問題はその内容、デュランダル議長が最高評議会議長全権代行に全権能を委譲した後について―
『権限委譲期間中もギルバート・デュランダル氏は最高評議会議長の職名を名乗ることを妨げられず、閣下の称号を有し、議長官邸に居住し、議長警備隊による警護を受け、給料を全額保証され、専用の自動車・宇宙船舶・地上船舶・飛行機・シャトルが利用可能であり、最高評議会に事前申告と評議会が指定した職員の同伴があれば国外訪問も許可される』
アグネス「(この激甘な条件はもう確定事項となったのか…)」
もうここは割り切るほかはない。変に議長を殉教者、受難者にしても不味いのだ。尻尾を掴んで豚箱にぶち込むまでは。では議長の追加要求への回答はどうなったのか。 - 71二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 01:30:42
眼は徐々に下側に進んでいく。『我等の返答は以下の通り』、と。
『① 議長が官邸内のオフィスに専属職員を採用・配属することは認めるが人数は20名まで。現在、公職にある者、及び公共性の高い職種にある者の採用と出向は許可しない。退職後を条件とした採用も不可とする』
『② 議長の国内-プラント本国並びに地球上の実効支配領域も含む-外出移動の自由については特定の指定エリア以外は妨げない。ただし、1泊以上の外出は事前に行先と目的を申告すること。
また、通信の秘密の保護と検閲・傍受の禁止については、議長自身も調査対象であり、また自ら当重大事案を招いた責任がある以上、尊重されども完全な保証は不可である。この決定は議長のスタッフにも及ぶ』
『③ 議長の機密情報へのアクセス権はこれを認めない。必要ならば最高評議会に要請すること』
『④ 免責特権、不逮捕特権について。議長は当事変発生日の前日までに最高評議会内で行った演説・討論・表決について、最高評議会外で責任を問われない。
また、最高評議会議員の一人として任期終了まで、現行犯罪または内乱罪、外患誘致罪を除き、逮捕・拘留されない。ただし、広義・狭義の戦争犯罪と一見して明らかでかつ重大な憲法違反はこれの例外とする。
また、最高評議会議長在任中の公務としての行動の免責は、他の元最高評議会議長と同じく、認められる。ただし、一見して明らかでかつ重大な憲法違反、人類全体に対する明確な背信行為と目される著しく凶悪かつ重大な犯罪行為はその例外とする』
『⑤ ギルバート・デュランダル議長が最高評議会議長全権代行に委譲する権能には最高評議会議員の権限も当然に内包され、そのことに議論の余地は無い。同氏は調査・改善委員会の結論が出るまで何らの政治的役割を果たしえないし、影響力を行使してはならない。空席は彼が選出された市から補欠で最高評議会議員代行を選出し、調査期間中ないし任期満了までのその職務を執行することとする』以上。
甘い、甘すぎるが―。もうこれで事態が収拾するなら構わない。なんやかんや言っているがこれを呑ませればチャックメイトだろう。
ササっと読んで頭に内容は入った。優秀な遺伝子を持って産まれただけあって時間は掛からなかったわ。さて、画面はミーアの動画チャンネルに再度…。 - 72二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 01:38:06
ミーア「皆さん、初めまして。私はミーア・キャンベルと申します。既にご存知の方も大勢いらっしゃるかと思いますが、改めまして…。私はシーゲル・クライン元最高評議会議長のご息女たるラクス・クライン様ご本人ではありません」
ちょうどチャンネルを切り替えた所でミーアが演説を開始したわ。タイミングが良いと言うべきか。
ミーア「私は今日、この時までラクス様ご本人の直接のご承諾なく、その名と容姿をお借りしていました。私を本物のラクス様と信じて、中には大きなご決断や行動を起こした方もいらっしゃることでしょう。両者に改めて深く謝罪します。本当に申し訳ありませんでした」
ラクスと同じ顔と声の女性が深々と頭を下げている。可哀想に顔面は蒼白、肩はガタガタ震えている。その有様を目の当たりにして、彼女とラクスの格の違いも残酷なほど明らかになる。
ラクス・クラインとは、ラクス・クライン本当は何だったのか?誰のことだったのか。そんなことは分かり切っている。
国父の娘にしてアイドル。家柄、容姿、能力、自身の功績、バックの組織と言うか派閥、全てを持ったプラント最高最強のクイーン。
残念ながらミーア・キャンベルにはその全てが―歌手としての才は有るから―99%が、ない。生まれ持った遺伝子と恵まれた育ち、それに由来する人脈や教育機会、体験と経験は何にも代えがたい。
震えるミーアを見て確信する。仮にラクス本人が自派から引き離され、窮地に陥った所で、きっと最期まで堂々と振舞い切る。彼女は一般人どころかエリートの中でも別格なのだ。『王女殿下』だから。本当に憎たらしいほどに。
そんな人間の代役など、『ごく普通の才能豊かな歌手』には無理だ。声と顔が同じでも関係ない。遅いか速いかの問題できっとこのことは露見していただろう。
多分、議長もそのことは承知している。もとより使い捨ての駒だろう。最初に思った通りだ。
半泣きになって顔を上げたミーア、幸薄いな、この人も。もし舞台に立てていれば、歌手としてはラクスの2番手か同着一位に成れたかも知れないに。
ルナマリア「ええ…と。これは謝罪会見?何で今?」
アグネス「どうかしら…」
ルナマリアにはそう言ったが、既にここまでで何と無くの察しは着いた。おそらく、議長は彼女の口から自分の失策である『ラクス替え玉事件』の弁護をさせたいのだ。 - 73二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 01:44:36
謝罪やクレーム対応に女子社員を当たらせると言うのは西暦時代からのよくある手だ。見え透いている。動画に映るミーアは一声、グスッと嗚咽を漏らした後、演説を再開する。
ミーア「ラクス様の代行と言う大きなお役目は、ある日、本当に突然やってきて来ました。夢見ていた歌手としてのデビューとは少し違ったものではありましたが…。考えて見ればこれは大変名誉で意義深いお仕事、長年、ラクス様の歌に親しみ彼女をお慕いしていた身としては。ただ、心配だったのはそのような大任、私ごときが果たすことが出来るのかということでした」
少し吹っ切れたような挙動の後、彼女は語り出す。と言うか、そこから話すのね。早送りして欲しいけど、聞き逃すわけにもいかないか…。
ミーア「でも先のことなど誰にも分かりません。この時節にこのようなお話しが廻ってきたことには、きっと深い事情がある。それならばまずは何でもやってみよう。良し頑張るぞ、そう意気込んでお仕事をお引き受けしたことを今でも思い出します」
モニターを前から覗き込んでいるハイネ先輩が小首を傾げながら私に問いかける。
ハイネ「『ミーアは騙されたわけじゃない。あくまで意義ある仕事として、彼女自身の意思でラクスの代役を受け入れた』と、議長は言わせたいのかな?」
アグネス「一面としては、そうでしょう」
ミーアの話はラクス代行就任後の出来事に移っていく。おそらく細々としたこともこの間にあったのだろうが…。
ミーア「ラクス様はお仕事は、単に歌手活動をするのみならず、プラントや世界の平和のために様々な慈善活動や政治活動を行うこと。その重責を果たして背負えるのか、不安に思わない日は有りませんでした。しかし歴史の針は止まることなくC.E.73年10月3日を差しました。取り返しのつかない悲劇の日を。あの日、私はデュランダル議長の下へ、議長は虚心坦懐に一歌手に過ぎない自分に丁寧にお話ししてくださいました。
ユニウス・セブン落下テロが地上で巻き起こした巨大な惨事、予期していた事とは言え本物のラクス様はプラントにいらっしゃらない。今君の力が必要である、プラントの為に、と」
ユニウス・セブン前からスタンバっていたことはもう隠さない方向にしたのか。まあ、もう露見しているからね。デュランダル議長に言い包められる所まではこちらも知っている通り。 - 74二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 01:52:07
ミーア「本当に私がラクス様の代役を、このように早く…。いざとなると心の準備は何も出来ていませんでした。フォックストロット・ノベンバー、ロゴスの策謀によりユニウス条約締結以来の平和が破られ、ブルーコスモスによるプラントへの核攻撃がなされた日。私は初めて皆様の前に立って、声を振り絞りました。どうかお怒りを静めて下さい。剥き出しの憎悪を叫べば、それは新たな戦いを呼ぶことに繋がると。
本当はこのお言葉をラクス様ご本人から賜りたかった、そして私達の小細工を速やかにお詫びしたかった。彼女の婚約者、特務隊アスラン・ザラにその日の内に事情を打ち明けることが出来たことが私達の微かな慰めでした」
アスランの名前が出た瞬間に、エレベーターの中の皆が顔を見合わせ、やれやれと言った反応を示す。まあ、何であれ、時は戻らない。彼が同じ轍を踏まないよう祈るばかりだわ。
アグネス「(おや?)」
ふとモニターを見返すとミーアの顔に徐々に生気が戻っていく。さっきまでは憔悴しきった顔、半泣きで話していたのに。
ミーア「お仕事が本格化した後は緊張の連続でした。それでも戦火の中、忠勇なるザフト軍将兵は、皆ラクス様をお慕いしていらっしゃって。私の存在は嘘で塗り固められたもの、自責の念に苛まれ続けました。それでも!皆さんを励ましたい、その一心で噓を付き通そうと必死でした。ラクス様のように、自分の声が皆様に届きますように、早く戦争が終わりますように、共に―私は末席ながら―頑張りましょうと」
応援演説のパートか、謝罪会見の後に如何なものだろう。ここからでは市民の反応は読めない。
ミーア「慰問コンサートには地球の人も待っていて下さり、お声かけて下さり、感激したものです。本来、私に向けられたものでは無い笑顔、それでも私を奮い立たせるには十分なものでした。しかし―」
しかし―の声と共に彼女は自分の右手を左胸に当て、苦し気に絞り出すように、哀切な口調で訴えかける。
ミーア「しかし戦禍は何時まで経っても止みません。連合の行いはやがて一線を越え、世界を恐怖に陥れようとしているかのよう。でも、それは私の思い違いでした。真の悪はロゴス、連合の一般将兵もまた被害者であったのです。議長のご指摘は、お言葉は正鵠を射ていらっしゃる。なのに!限られた立場の人の耳にしかそれは届きません」 - 75二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 01:57:48
いよいよ彼女の言葉は熱を帯び始める。今が勝負どころと言った所か、議長にとって、ミーア・キャンベル自身は―。
ミーア「ラクス様のお言葉がどうしても必要です。本当にそれで世界が変わるなら。ああ、どうか変わってください。今はいらっしゃらないラクス様の縁として、どうか私の声を聞いてください!」
感情を激して、画面の先に訴えかけると、何とミーアはここで一曲歌い出す。
ガズウートパイロット「これはミーアの持ち歌『EMOTION』!」
ガズウートパイロット「アカペラなのに凄い」
それどころじゃないわよ。睡眠不足のせいなの?!しっかりし…。
あ…あれ?
アグネス「何だが…意味不明に惹きつけられる…。前からそうだったけれど、人の心を揺らす歌声、これは何?」
ルナマリア「さ…さあ?今まで深くは考えなかったけれど、そういう声音の性質なんじゃない?」
シン「歴史上の演説の名手にもそういう人がいたらしい…。う…」
突っ込みどころの多い謝罪と演説が歌の力で上塗りされる。しっかりしろ!う…いけない。疲労の蓄積、まともな睡眠も取れていないせいで―。
アグネス「なるほど…。だから彼女を今、投入するのね」
ハイネ「訓練を積んだ俺達がこうなら、デモ隊や徹夜でテレビ中継を見ていた市民も同じはず、と」
アップテンポな曲を聞き終わると何故か体に活力が満ちてくるわ。思えば、これまで彼女の歌を聞くたびこうなっていたのかもしれない。深く考えていなかった。
ミーア「皆さん。私はラクス様の威を借りた一介の歌手に過ぎません。私には血筋も家柄も特別な学歴もキャリアもない。たまたま声がラクス様に似ていただけの一市民、本来ここでこうして語り掛けるのも烏滸がましい小娘です。ですが―」
両手を組んで胸の真ん中に当て叫ぶように演説する彼女の声には何処か内面を曝け出すかのような痛切な響きが混ざる。
あれは私だ。本物でないだけで、確かに私が―と。 - 76二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 02:07:24
ミーア「それでも、選ばれた人間ではない、エリートでもない人間にも声を上げる権利はあります。今、ようやく世界は平和を乱す元凶を見つけ出しました。ここで私達が足並みを乱せば彼らの思う壺となります。
国民の皆さん、アプリリウス市民の皆さん。愚かな私の軽挙をどうかお許しください。
そして思い出して下さい。デュランダル議長は一人の偉大な政治家にして研究者ですが、決して無謬の存在ではありません。善意に基づくものであれども時として誤りを犯します。
彼が誤りを起こしたとき、犯しかけた時、それを指摘し修正し、場合によっては追及するのは最高評議会と60人議会の役割。彼等彼女等は己が役目を全うしようとしていらっしゃるのでしょう。正しい振舞いです」
ここに来てエリート批判か。デュランダル議長の経歴は絵にかいたような天才・エリートコースだろうに。民衆を煽っていきつく先がそれでは残念極まりないだろう。
ミーア「しかしデュランダル議長は既にご自分の誤りをお認めになり、真摯に反省し、改めるべきところは改めて行くと言明されています。それなのに一部の最高評議会議員や60人議会議員が何時までもこの政争を長引かせようとなさるかのよう。これでは、重箱の隅を突いて政局に利用しているのでは、と疑われても仕方ありません」
アグネス「謝ったんだからハイ、お終いとはいきません。そもそも本丸がまだです」
ルナマリア「ここで言ってどうするのよ」
確かにそうだわ。どうしても言いたくなってしまって、つい口に出てしまった。
ミーア「ギルバート・デュランダル最高評議会議長は最悪の事態を避けるべく、今も懸命な努力を続けています。ですからどうか皆さん、常に平和を愛し、今、またより良き道を模索しようとしている皆さんの代表、最高評議会デュランダル議長のお言葉を聞き、どうか信じて。非暴力を旨としつつ立ち上がり、国政を前に進めるべく行動しようではありませんか!」
後、数秒でカプセルは中間施設地帯に到着する。聞いているうちに良く分からなくなる。これは何処まで原稿でどこまでがミーアの本心なのだろう。少し判然としない。
アグネス「(これは救出時に『説得コマンド』が必要になるかも。うーん、誰に任せよう?)」
面識からすればアスラン…不安しかない。市民の反応も未知数―。デモ隊が変に活気づいていないだろうか? - 77二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 06:35:48
読者目線からすると議長は黒って思うけど作中世界の人間はまだ知る由ないもんなあ。
しかしまた議長優勢かこれ?どうなるんだろ - 78二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 06:53:00
このミーア、アコード能力のなかった場合のラクスよりも歌の能力高いのでは
- 79二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 07:31:13
「誰が悪い誰が敵だ」「こうするのが正しい」とか人を戦いに駆り立てるようなことラクスは絶対に言わないからキラが嫌悪感持つ奴
- 80二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 17:16:10
保守
- 81二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 17:32:46
アスランの中では無印の頃の回想シーンが流れてるかもしれない
(アスランが信じて戦うものは何ですか?戴いた勲章ですか?お父様の命令ですか?)
(敵だというのなら、私を討ちますか?ザフトのアスラン・ザラ!) - 82二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 23:45:40
真逆の事を言わされているミーア
- 83二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 02:47:40
少し考えてみる。
市民の反応など大体予想が付く。少なくとも今頃、デモ隊は大いに気勢を上げているだろう。
では、私は?私達は、彼女の演説をどう捉えるべきか。数秒の間に、考えを纏める。
先ずこの動画が議長の直接指示で官邸内から放送されていた場合、その目的はこの政変の一発逆転-では無いだろう。
私が見るに議長にとってこの政変は既に引き分け狙いの条件闘争のフェーズに入っている。ただ相手にそれを気取られては条件が不利になるから最後の時までは拳は下げない、と言った所だろう。
アグネス「(宇宙港とエレベーターの奪還は迅速に行われたから、これに関して彼はまだ確定情報を掴んでいないはず)」
しかしミネルバのアプリリウス軍港入港を察知できない程、愚鈍な人物ではない。そしてミネルバが入港すれば、グラディス提督による軍港の掌握と民間宇宙港奪還は免れないとも。
何故なら、『惑星強襲揚陸艦ミネルバ』は彼の肝入り、艦だけでなく乗員とパイロットも含めてだ。この艦の到着が何を意味するか、デュランダル議長は誰よりも分かっているはず。
ではこの動画が議長の直接指示を受けず、若しくは不可能な状況で、あるいは彼が直接、手を汚すのを厭うて、ミーア係の配下が独断で流したものならどうか?
その場合、先の展開の見通しは著しく困難となる。
困難となるが、あの緑のマネージャー達-特殊隊員達-ならおそらく一発逆転思考を狙うと予想する。
戦争や政変のクライマックスの攻防では得てして中堅幹部が前のめりなのが歴史の常だ。あるいは議長もそれを見越して、ある種の曖昧さを以て命を下しているかもしれない。
ではミーアの演説単体ではどう評価すべきか?彼女の本音は何処にあるのだろう。
表示板を見上げ、考察する時間が有るかを確認しようとすると、ちょうどハイネ先輩の視線が私の瞳に合わさる。
ハイネ「ミーアが言ったことを考えているか?」
アグネス「はい」
ハイネ「それで?」 - 84二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 02:59:26
短い問いかけ。でも周囲の皆が興味津々で聞き耳を立ててくるのには困ってしまう。
仕方ない。思いついた点だけは触れておこう。
アグネス「ミーアはやや婉曲的ではありますが最高評議会議員と60人議会議員の事を非難しています。これは明確に議長たちの意図。ミーアの本心とは別のはず」
ハイネ「そうだな。彼女はこの政争に巻き込まれた側だろう。どっちをどうとかでは無く」
いや、『どっち』の中に入れられていない自然な存在がある。
アグネス「注目するべきは、あの演説にミネルバ及びグラディス提督への直接の非難・批判が含まれていなかったことです」
道中、L1宙域で襲撃は受けた。あいつらはからは禍々しい意志を感じた。その先、グラスゴー隊から勧告文が副官の口から伝達され、戦闘に及んだ。しかし、L1の奴らはどうかは分からないが、グラスゴー隊以降の議長側からグラディス提督への攻撃意思は感じられない。どこか遠慮していると言ってもいい。
あくまで彼女個人への配慮(?)であって、私達は変わらず修羅場なのだけれどね。
シン「ああ…そう言えば」
ルナマリア「妙ね…。あの噂、やっぱり本当だったのかな」
ショーン「でも政治家ですよ。いざとなったら妻子も捨てる人たちです。まして結婚もしていないのでしょう?!」
デイル「グラディス提督には死別した旦那さんとの間にお子さんも居るわけだし、うーん」
普通はそうだろう。政治家と言う人種は―いや、政治家も様々だ。議長の場合は―
アグネス「(議長からグラディス提督への感情は純愛に近いものがあるのではないかな。そう表現するには乱れているし公私混同も甚だしいけれど―)」
忘れられぬ執着と懐古。それ以上の何か。ギルバート・デュランダルと言う一人の人間にとってタリア・グラディスと言う女性は、おそらく彼自身の人格形成に関わるほどの重要な存在なのだろう。 - 85二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 03:16:24
ハイネ「そうだったな…。やはり議長にとって彼女は特別な人なんだろうな。議長傘下の者達も主人の逆鱗には触れたく無いんだろう」
アグネス「はい」
その割に都合よく酷使していたように思うが、軍事素人の愚行はこの際、どうでも良い。
ハイネ「他は?」
アグネス「『非暴力を旨としつつ立ち上がり』の所。【非暴力を旨とし】の部分はミーアの挿入では無いかと思います。少し小難しい言い回しですが、演説の流れに乗れば言えたはず」
思うに、議長なり緑の特殊隊員の原稿にはおそらく、『勇気を持って屈することなく立ち上がり、国政を前に進めるべく行動しようではありませんか!』とでも書かれていたのではあるまいか。ニュアンスとしては。
ミーアに語らせているのが議長でも特殊隊員でも。これから市民を自宅から引っ張り出し、デモ隊にもうひと暴れさせ、条件闘争なり一発逆転狙いに行こうと言う時にわざわざセーフティーを掛ける意味はない。ビルに突進するなど暴力そのものでは無いか?
議長側の『アリバイ作り』にしても、あれはではあからさま過ぎる。
おそらく平和を願う、流血を回避させたいと言うミーアの心がポロっとこの文言を言わせしめたのではないか?意識的にしろ無意識的にしろ。
アグネス「(そうであって欲しいと言う、私の願望に過ぎないかも知れないけれど…)」
そう話すとエレベーター内の皆も同意してくれる。何だかホッとしたような安堵の表情を浮かべながら、ね。
シン「まだ彼女は味方なんだな…」
アグネス「味方の定義にもよるけれど、ユニウスセブン落下テロの黒幕疑惑については彼女にも既に伝えてあるわ。彼女が『本物のラクスと自分』をどう思おうと、凶悪なテロ共謀容疑者と心中する意思までは無いでしょ」
とは言え、動画を見るに彼女は狼狽え、追い詰められ、冷静な判断力を喪失しているようにも感じられた。『ラクス・クラインとしての自分』と『ミーア・キャンベル』の狭間で揺らいでいる隙に、デュランダル議長派の生贄にされないか心配だわ。
アグネス「(そう。ミーア・キャンベルを生贄にさせてはならない。個人的な感情としても、私達がこの政変の敗者にならないためにも)」 - 86二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 03:29:23
この数秒間に思い付けたことはここまで、時間切れだ。到着を知らせる人工音声と風切り音と共に開くドアが私達に次の戦場に向かうよう急き立てる。
ハイネ「-降りよう」
アグネス、一同「はい」
エレベーターホールに降りて見ると、ヴィーノとヨウラン達技術班と医療班が迎えてくれる。喜色に満ちた彼らの表情を目にし、やっと胸に閊えた氷が溶けだしたような気持になる。
アグネス「(なんかこう言うの良いわね。少し救われた気になれる)」
電動車椅子も2台準備されている。ハイネ先輩はストレッチャーに乗せられるらしく、1台準備されている。
ハイネ「技術班の皆、ありがとう。おかげで任務を果たせた」
ヴィーノ、ヨウラン、技術班「はい!」
ハイネ「じゃあ、皆。それぞれの務めを、しっかりな」
アグネス、一同「はい!」
ハイネ先輩は短い挨拶の後、用意されていたストレッチャーに乗せられ医務室へ。私達は技術班に鞄ごとドローンを引き渡し、背中のパーソナルジェットのバッテリーを交換してもらう。
私の場合は、その間も任務がある。ヨウランから特大ウエストポーチを受け取ると中から業務用デバイスを引っ張り出し、パーソナルジェットのメンテを受けながらもスイッチを入れ、国防委員会と回線を繋ぐ。
看護兵「アグネスさん、鎮痛剤とミネラルウォーターです。顔!ちょっと、かなり辛そうですが…」
アグネス「ありがとうございます。辛いです。でもベストを尽くすのみです」
コールの間に短く看護兵さんとも言葉を交わす。2重にしているパイロットスーツのヘルメットを外し、もう飲み慣れてしまった鎮痛剤を水でぐびっと飲み込む。
休んでいる暇はない。薬を嚥下した次の瞬間には、勢いよくシュライバー国防委員長のお顔が画面に飛び込んでくる。
シュライバー「キャンベル嬢の放送を聞いたか!?ああ、こっちは大変な騒ぎに…」
アグネス「聞きました。そちらは、バリケードが突破されそうですか?」
シュライバー「いや、それは未だ。何とか…。君の周り、人はおるか?」
やはりデモ隊の士気は高揚しているのね。そして、人払いをご希望か…。ちょっと無理ね。 - 87二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 03:39:38
アグネス「人払いは難しいかと。イヤホンマイクを差します。閣下からお話しする分には漏れ聞こえることは無いかと。私からは文字打ちしてお知らせします」
シュライバー「ああ、頼む」
そう言って、傍の皆に視線を送る。各々取り込み中の中だけれど、それを受けて、私の周囲から少しずつ距離を開けてくれる。
偶々目が合ったガズウートパイロットに一人、彼は体調に支障をきたしていたらしい。気づいてあげられなかった…。
アグネス「(軍医殿から栄養剤を受け取っている―。多分、体調と言うか精神的な問題…。もう皆、限界だ―)」
お疲れ様、もうちょっと一緒に戦いましょう。そう思う他ない。
さてと、パーソナルジェットをヨウランに任せ、自分はエントランスのソファーにどっしりと座る。
もっと女性らしい、恥じらいのある仕草を心掛けて来たのに。最近はずっとこう。はぁー。
アグネス『閣下、イヤホンマイクを差し込みました』
キーをカタカタ打ち込むと、国防委員長からは口頭で事情が伝えられる。
シュライバー「バリケードは…正直、かなり圧されている。キャンベル嬢の演説を聞いて、しょげていたデモ隊がすっかり元気に。一応、新たに合流を図る者は司法局公安が止めている」
アグネス『キャンベル嬢が宇宙港に到着した時点で想定済みであったことかと。ただ、警備隊の疲労が心配です』
シュライバー「ザフト軍事ステーションから到着したジュール隊ナスカ級ルソーから陸戦隊が上陸している。順次交代で休ませる手筈だ」
ほう!レイが破壊したザフト軍事ステーションの軍港の応急修理が完了していたのか。しかし―。宇宙港にルソーは未だ着いていないが、何処から陸戦隊を?
シュライバー「最高評議会ビル地下緊急脱出艇ドックからだ。このドックの事は極限られたものしか知らないだろう。君を信頼して話す。いやぁー、カナーバ元議長が、実は私も―ゴホン!ルソーはドックの外側に係留中だ」
アグネス『初耳です。閣下のご信頼に報いるべく努力します。それでは陸戦隊と装備の目途は着いたと理解してよろしいでしょうか?』
シュライバー「ああ、警備隊と増援の内、疲労著しい者を下げて。専門部隊と十分な数の非殺傷兵器を運び込んだ。バリケードを内側から開いて蹴散らす手も有るが…。最後の手段とするべき、そうだな?」 - 88二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 04:00:17
最高評議会ビル地下緊急脱出艇ドック、そんなものがあろうとは。成り行きで国家機密を知ってしまった。ノーガードだったと言う事は、議長一派は知らなかったのか?
今はどうでも良い。国防委員長の問いに早くお答えしよう。回答は勿論、YES!
アグネス『はい。その方法を選択した場合、国民の軍に対する信頼は崩壊します。本当に最後の手段とするべきです』
シュライバー「ふむ。そうだな。市民に死者が出たら、もう堪らない…。説明は以上だ。君の見解を利かせてくれ」
ルソーがドックのすぐ外側に係留中、となれば―。
アグネス『デュランダル議長は、次の一手として各議員の切り崩し工作を仕掛けてくると思われます。閣下、分を過ぎた発言をお許しください。私は係留中のルソーに60人議会議員全員を【議会機能ごと】一時疎開させることを進言します。必要とあれば『移動する議場』に出来ます。
カシム立法委員長から疎開案を提出、即刻議決していただき、以後、政変終結まで60人議会の議事はナスカ級ルソー内で進めていただきましょう。物理的に彼らを議長から『完全保護』するべきです』
要は議長側に寝返りを打たれない為の体のいい監禁とも言える。これまでの最高評議会ビルの対応は60人議会を掌握で来ていたからこそ、朝日が昇って議長の話術と市民の圧力で造反議員が出れば、こちらは破滅する。
議員方にとっては気に障るかも知れないが、止むを得ない。今が踏ん張りどころであることは60人議会議員の皆様もよくお分かりのはずだ。
シュライバー「名案と思うが…。しかし、それでは『政治家が首都から逃げ出した』として市民の失望を買わないか?」
アグネス『それを回避するために、最高評議会議員の皆様は最後までビルを死守するべきかと。60人議会疎開案はこれがセットです。議長でもあるカシム立法委員長以外の今ビルにいらっしゃる皆さま、ルイーズ・ライトナ―最高評議会議員、閣下ご自身、オーソン・ホワイト最高評議会議員、エドアルド・リー国防委員、アラン・クラーゼク国防委員、リカルド・オルフ国防委員、アイリーン・カナーバ元最高評議会議長、元最高評議会議員エザリア・ジュール夫人は踏みとどまっていただく必要があります』
ヴァレンヌ逃亡事件を再現すれば、こちらは自滅する。60人議会を不承不承でも『避難』させるには最高評議会議員自らリスクを背負う姿勢が欠かせない。 - 89二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 04:11:09
アグネス『上位の最高評議会議員がその覚悟をお示しに成れば、60人議会議員の賛同も得やすいはずです。閣下と皆さまは、ビルにただ残るだけでなく、玄関や窓から姿を見せ、国民と市民にお姿を披露し、最高評議会議員のお覚悟とその権威が健在たることをお示しください』
キーを叩き終わると、国防委員長の顔色はサッと青褪める。
シュライバー「デモ隊に紛れた特殊隊の狙撃を受けるのでは?」
アグネス『可能性は大いにあります。そんな手法は悪手の極みですが、議長の焦りや配下の暴発の恐れも否定はできません。閣下と皆様の身を私も案じて止みませんが、凶事がもし起これば疎開済みの60人議会議員から繰り上がって最高評議会議員が新たに選ばれ、ランチで緊急脱出艇ドックに再上陸する運びとなるでしょう』
私の返事を読んだ国防委員長の顔は一瞬真っ赤になり、また青白くなる。無理もない。余りな言い様だと自分でも思う。要は『死を決して覚悟を示せ』と言っているのだ。直属の部下から!
アグネス「(それでも私を面罵したりしないのは、これまでの奮闘してきた実績を慮っているため。彼が、自分より遥かにリスクを背負って政変に臨んでいた一群の者達の存在を、一顧だにしないような無情な人間ではない証だ)」
それならばもう一言、言い添えておこう。これはキーを打つまでもない。口で言う。
アグネス「『もし今陛下が命を助かることをお望みなら、陛下よ、何の困難もありません。私達はお金を持っていますし、目の前には海があり、船もあります。しかしながらお考え下さい。そこまでして生き延びたところで、果たして死ぬよりかは良かったといえるものなのでしょうか。私は【帝衣は最高の死装束である】という古の言葉が正しいと思います』。
閣下、国防委員会の皆様が纏っていらっしゃる制服の色合いは奇しくも緋色に親しく、文官系評議会議員の群青色の衣は高貴なラピスラズリの趣があります。偉大な先人の雄姿を再現するのに躊躇う理由は無いと思案します」
私の話を聞いたシュライバー国防委員長は何か思う所があったらしく、少し悪戯っぽく眉を上げる。
シュライバー「悪くないな。その言葉、私が説得の際に使っても良いかな」
アグネス「はい。テオドラ皇后も今更、とらかく仰ることは無いでしょう」
シュライバー「良し…では、他にあるかな」
再びキーを叩く。 - 90二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 04:20:30
アグネス『政変後の議長の処遇をこれ以上、協議するのは無益であると愚考します。あれ以上の譲歩はあり得ません。最高評議会議員の皆様のコンセンサスは形成されていますか?』
シュライバー「あれが限度、それが共通認識だ。問題ない」
良かった。では、今の所はもう思いつかないな。ああ、そうだわ。
アグネス『キャンベル嬢の演説に関する私の所感を述べさせてください』
シュライバー「おお、そうだ。本題はそっちだったな!どう思う?」
その質問にエレベーターで皆に話したことと、自分の内心で思った事を取り急ぎまとめてキーを叩く。
シュライバー「やはり説得の手間がかかるか…」
アグネス『止むを得ない政治的コストかと思案します。私が一番恐れているのは説得が上手くいくか否かではありません。彼女が無事なら失敗しても良い。怖れるべきなのはキャンベル嬢が今、大衆の目前で、それも私達の誰か実行したように見せかけられたうえで、暗殺されることです』
シュライバー「議長サイドの偽旗作戦と言う事だな…。分かった。皆にそう伝えよう」
アグネス「ありがとうございます」
お礼を言って敬礼を交わし、デバイスをスリープモードに。時間はほとんど経っていないのに…。お偉い人への助言は疲れるわ。そう考えるとパパは凄いなぁ…。
ヨウラン「アグネス、パーソナルジェット。バッテリー交換とメンテ終わった」
アグネス「ありがとう」
ヨウラン「背中に付けるの、俺がやるよ」
アグネス「本当にありがとうね。30㎞からのジャンプ、中々だったわ。ねえ、私が将来、地球でカーマン・ライン、高度100㎞からのジャンプに挑むときもお手伝いをお願いして良い?」
頭を休める為の軽口を人の好い同期に叩いてみる。さっき思いついた冒険だ。何時どうやるかは考えてもいないが―。
浅黒い青年はそれを真に受けて考え込み、背中への装着を終えたところで返事をくれる。
ヨウラン「良いけれど、先ずは高度41㎞辺りから練習しよう」
なんか乗り気ね。嬉しさ半分、困惑半分、でも心強いわ。
アグネス「ええ。まあ、41㎞は西暦でナチュラルのご先祖様達が達成しているから、ウォーミングアップね」
ヨウラン「まあ、な」
アグネス「(これは半分強がり。そう強がり、心で負けては駄目だわ。勝てる勝負も勝てなくなるからね)」 - 91二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 11:28:22
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- 92二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 12:13:29
- 93二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 21:01:53
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