- 1二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:01:13
※落ちてしまっていたので建て直しました。書き込んでくださった方、申し訳ありません。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20
アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの20スレ目です。
一夜の間に繰り広げられるプラントの政変、首都アプリリウスの膠着状態はミネルバの到着で崩れ去りつつあります。
それを察してか否か、提示されつつあるデュランダル議長の妥協案。これに最高評議会ビルに集った者たちはどう回答するのでしょうか?
政変の最中、呼び戻された『偽りの歌姫』。彼女にはどのような役割が課され、ミーア本人はそれにどう応えるのでしょう。
どの陣営に属すものにとっても、人工天体の空に光が差す時間が直ぐそこまで迫っています。しかし良きにつけ悪しきにつけ夜明け前は一番暗いものです。手探りで進むアグネス達の良く手のは何が待つのでしょうか。
おつきあいをいただければ。 - 2二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:02:37
立て乙
- 3二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:04:32
朝バタバタしてて保守しそこねてしまった…
いつも楽しみにしてます! - 4二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:16:06
立おつです!
- 5二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:27:51
ありゃ落ちてたか
- 6二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:43:09
落としてしまったスレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの20スレ目です。一夜の間に繰り広げられるプ…bbs.animanch.com前スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart19|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの19スレ目です。アグネス・ギーベンラートが…bbs.animanch.com1スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たら|あにまん掲示板アグネスが士官学校卒業ザフトアカデミー、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSを書く予定です。お付き合い頂ければ。bbs.animanch.com2スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart2|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。はたして、アグネスは、ルナマ…bbs.animanch.com - 7二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:45:44
3スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart3|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。己を取り巻く不可解な状況に四…bbs.animanch.com4スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart4|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバとアグネスはその進撃…bbs.animanch.com5スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart5|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバの活躍は起こるはずだ…bbs.animanch.com6スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart6|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの6スレ目です。自分の心境の変化や激動する世…bbs.animanch.com - 8二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:48:37
※落としてしまった7スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。出世の点数稼ぎの場として『戦…bbs.animanch.com再建てされた7スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7(再立)|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。※不注意から一度スレを落とし…bbs.animanch.com8スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart8|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの8スレ目です。戦いに消耗したアグネスとミネ…bbs.animanch.com9スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart9|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの9スレ目です。C.E.73年- C.E.7…bbs.animanch.com - 9二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:50:48
10スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart10|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの10スレ目です。遂に開始される『ロゴスとの…bbs.animanch.com11スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart11|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。『対ロゴス戦』は本編とはや…bbs.animanch.com12スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart12|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。対ロゴス戦争が変え行く世界…bbs.animanch.com13スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart13|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの13スレ目です。本編を上回るほどの規模とな…bbs.animanch.com - 10二次元好きの匿名さん25/04/10(木) 20:53:19
14スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart14|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの14スレ目です。激しい戦いの後、戦女神と大…bbs.animanch.com15スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart15|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの15スレ目です。アークエンジェル問題を何と…bbs.animanch.com16スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart16|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの16スレ目です。アグネスは目の前で次々と発…bbs.animanch.com17スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart17|あにまん掲示板北限の海で繰り広げられる戦い。この世界のアークエンジェルを巡る戦いは一つの帰結を迎えようとしています。アーモリーワンから戦い抜いて来たミネルバ、世間は『彼女』を武勲艦と持ち上げ、事実そうなのではありま…bbs.animanch.com18スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart18|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの18スレ目です。アグネスはひょんな成り行き…bbs.animanch.com - 11二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:11:12
今度こそ落ちないように
- 12二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:19:11
2番ランチの皆で通路を全力で進む。何度も隔壁に突き当たるが、それらは目前まで迫るとスゥーと持ち上がっていく。コントロールルームが完全に管理下に置かれている証左と言える。監視カメラでこちらの動きを察してくれているのだ。
アグネス「(メイリンはもう後続に引き継いだ後かな?)」
心強いことに私達のオペレーターはメイリンとアビーのみではない。ジュール隊、ザフト軍事ステーションからの参加者、それにミネルバ到着以後に旗下に収まった者の中にも優れた人は多いはず。
ガズウートパイロット「良し、一、二、三」
ガズウートパイロット「一、二、三!」
しかし厄介なのはコロコロ転がって眠りこけているデモ隊の面々だ。パーソナルジェットで出来るだけ飛び越えるなどして進んでいるが、駄目なら退かして進むしかない。
これが敵兵なら多少ぞんざいにも扱える。しかし無防備な自国民となると―。
寝た人間を動かすと言うのは意外と手間だ。変な扱いをして頸椎を傷めたり、頭をぶつけ万一障害でも残ればここまでの苦労が水の泡となる。
ハイネ「すまん!行けるな」
ガズウートパイロット「はい!」
アグネス、他「ありがとうございます」
その後、数ブロック先まで悪戦苦闘して進み、ようやく宇宙港から進んで来た陸戦隊と合流する。
陸戦隊員「よくぞご無事で!制圧作戦は成功です。死傷者は確認されていません。後ほど…」
ハイネ「ありがとう。心得ている。行こう!」
陸戦隊の言葉を遮りハイネ先輩はせっつく。彼らしからぬ振舞いだが本当に今は切迫している。
陸戦隊員「ああ、はい!こちらへ。退けておきました。技術班は先に向かっています」
ハイネ「ありがとう!皆、彼に続いて。下に降りるぞ!」
アグネス、一同「了解!」
道中では眠りの国の住人の搬送作業に陸戦隊と医療班が大忙しになっている。彼らがモーセのように道を割ってくれたおかげで私達の足取りは一気に軽くなる。 - 13二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:31:19
廊下をそのまま走り抜け、先ずは作業員用大型エレベーターに到着する。
先ずはこれを使って中間施設の官庁街方面地区側の非常口に向かう。ボタンが押され、大きな鉄の籠を待つ間にここからの自分の動きをおさらいしておく。
官庁街方面居住区エレベーター昇降施設の奪還。基本的な手法はこれまでの通りだ。
『ザラ分隊突入⇒電子班のインジェクションアタック⇒ドローン隊による催眠ガス噴霧⇒後続してきた陸戦隊と医療班による制圧と救助、搬送』。寸刻を惜しみ一気呵成に進んで来た理由は、この戦術が悟られるリスクを少しでも低減するためだ。
アグネス「(そこまでは良い。問題はどうやって現地に辿り着くか…)」
トライン副長のブリーフィングを思い出す。プラントの2つの居住区間の距離は60㎞に達する。中央エレベーターは半ば軌道エレベーターに近い。
地球に当て嵌めて考えるなら『地上から60㎞』は中間圏。流星が燃え尽きる高度だ。この任務においては半分の高さで事足りるが、それでも『地上』まで約30㎞の高さがある。地球なら成層圏(高度20㎞~50㎞)だ。
この高さからの降下は事実上の大気圏突入に近しい。大気と重力の在り方が地球とプラント内では異なるがいずれにしろかなりの難易度だ。
アグネス「(ここで当たり前に生きて来たけれど。改めて考えて見れば空恐ろしい。この人工天体が人の英知でなくて何と言おうか!)」
チーン!
音が響くと同時に目の前の大扉が左右に開く。下からこれが昇って来たと言う事は、1番ランチ隊は先に下りたということ。彼等の為にも私達は足を止める訳にはいかない。
電動車椅子のコントローラーを進め、巨大な鉄籠の段差をゴトっと乗り越える。
直ぐに扉は締まり、音もなくエレベーターは動きだす。次扉が開くポイントの先には官庁街方面地区側の非常口が見えるはず。
それは円錐形の尖った先が中間施設地帯と交わっている所に空いた小窓の様なものだ。文字通りの非常口と言うよりメンテナンスの穴に近い使われ方をしている。 - 14二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 00:42:29
ルナマリア「そこから飛び降りるのよね…。私達」
アグネス「そうなるわね…」
シン「う…」
流石にルナマリアもシンも表情筋が引き攣っている。エベレストの高さが8849m(0.8849㎞)、旅客機の飛行高度が約10000m(10㎞)であることを思えばこれがどんなに無茶なことか余人にもお分かりだろう。
アグネス「(とは言え、これは止むを得ない選択よ。他もいろいろ考えられたのだから…)」
まず『単純に中央エレベーターで降りると言う案』。
しかしデモ隊は当然それを予想して守りをガチガチに固めている。現に司法局公安職員もこの方法を反対側の居住区から試みて見事に失敗、拘束されてしまった。
文民警察とは違いザフト軍なら、突破と鎮圧に成功するかもしれない。しかしそれが可能か否かは着いてみなければ分からないし、強引な手法を取れば死傷者が出るかもしれない。
次に考えられた案は『モビルスーツによる降下作戦』。
ある意味、私達の本領発揮とでも言うべきか。人員は耐熱ジェルを塗布した兵員輸送車に搭乗、モビルスーツ隊がそれを抱えて居住区に降りるのだ。
これは最も有効な方法と目されたが―目立ち過ぎる。議長側にモビルスーツ特殊部隊が存在した場合、それを投入する大義名分にされるかもしれない。『モビルスーツを用いた弾圧から民衆を守る』と。
仮に議長にそうした手駒が居なくとも『民衆をモビルスーツで鎮圧』という絵面は余りにも物々しい。政争のエスカレーションを避けるよう私達は最後まで気を配るべきなのだ。
モビルスーツを投入は最終局面になってから―本当はそれも避けたいけれど―
アグネス「(最悪の想定として、デモ隊が窮鼠と化して中央エレベーターを爆破する等したらプラントの基幹インフラが大破する。極力目立たぬように転寝している間に事を終えなければいけないのだわ)」
そこで考えられたのが空挺作戦。30㎞『上空』から(敵前)降下して昇降施設周辺に着地する。外部からの秘匿出入口は私服公安職員が確保してくれているから、そこを通って―だそうよ!
チーン!
運命のゴングには少し軽い音を響かせ、我等、剣闘士達の門は開かれる。数回シミュレーションしただけのこの無茶な作戦、参加しただけで私も皆も勇者だと思う。 - 15二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 04:03:20
保守
- 16二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 06:39:16
上げ
- 17二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 12:06:33
念のため保守
- 18二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 19:45:11
もう一回保守。
- 19二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 02:31:22
開け放たれた扉から皆でそろそろと進み出る。ザラ分隊やメイリンの顔を見る機会も有るかと思っていたのだが…。彼らはもう気密室の向こう側だ。
私達よりも先に跳ぶのだから当然ではあるが、何だか心細い。
ヴィーノ「ハイネ先輩、シン!アグネスも」
ヨウラン「体の調子は?大丈夫ですか!」
でもマッド・エイブス達技術班とミネルバ医療班、補給班が準備物資と共に合流ポイントで待機してくれている。見知った顔がここまで心強いものとは!
ハイネ「まあまあかな。シン、アグネス、ルナマリア、跳べるか―いや、すまん。跳んでくれ」
アグネス、シン、ルナマリア「了解。ご一緒します」
むち打ち症候群で一々振り返ることが出来ないハイネ先輩が背中越しに届けてくれた声に異口同音で即答する。負傷が何だと言うのだ。やってやるわ。
そもそも私達は戦時の軍人だ。上官が『やれ』と言ったら『やる』しかない。拒否して良いのは、それが広義・狭義の戦争犯罪に当たるか、上位の軍事命令ないし自国の憲法を頂点とする国内法及び国際法に違反すると一見して明らかな場合のみ。
だからはハイネ先輩もそう言ってくれている。彼なりの優しさだ。
ハイネ「良し。ありがとうな。皆も。じゃあ手早く準備を」
軍医「はい。急ごう、さあ!」
軍医殿はマッド・エイブスと視線を交わし、息を合わせると看護兵たちが私達の着替えを手伝いに駆け付けてくれる。
彼女らの助けを借りつつ、私は一旦、お腹の特大ポーチとパーソナルジェットを下ろし、ボディーアーマーとヘルメットを脱ぐ。
高度300,000mの(敵前)降下-目も眩むような途方もない作戦だ。
ただ、一応のモデルケースは存在する。実は西暦2012年10月14日には既にオーストリア人のスカイダイバー、フェリックス・バウムガルトナー氏が高度38,969.3メートルからのジャンプに成功しているのだ。 - 20二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 02:45:35
与圧服と特性のパラシュートを纏い自由落下した彼の最速速度は音速の壁を破り時速1,357.64 kmに達し、4分19秒後にその足はアメリカ合衆国ニューメキシコ州の大地を踏みしめていた。
C.E.に生きる我らが彼に続くことが出来なければ、どうしてご先祖様に顔向けできるのだろうか。
アグネス「(ただし、私達は軍事作戦の一環として跳ぶ。空挺作戦だから装備も多いし何より、地上から議長の特殊部隊が攻撃してくる可能性も排除できない)」
そのため、彼の偉業をそのまま再現すれば良いわけでは無い。地球とプラント内では勝手も違う。技術も進歩した。単純な効果のみなら私達が楽なのだが―。
看護兵「アイ・プロテクションです。どうぞ」
アグネス「ありがとうございます」
看護兵から渡されたゴーグル型のアイ・プロテクションを頭部に巻き付ける。これで爆発や射撃による飛散物や粉塵、人体に有害な物質や血液の飛沫、紫外線から眼球を守る。
そのゴーグルを巻いた後は超薄型ヘルメットを頭に被る。剛性化合物と衝撃分散素材、粘弾性素材の3層構造で製造された優れもの。だが軍用ではない。あくまで『お守り』。
二つを被り終わったら、看護兵に手伝われつつパイロットスーツの上に深緑色の地上戦用ボディーアーマーを着込む。これまでの簡易的なものではなく、胸部から下腹部、背中を覆う本格的なものだ。
私が纏っている間にパイロットスーツ用ヘルメットを受け取った技術班作業兵は内部の酸素補給機をいっぱいにしてくれている。
技術兵「どうぞ、お気を付けて」
アグネス「ありがとう」
励ましの言葉にお礼を言ってヘルメットを受け取る。すると急いで歩み寄って来た軍医殿が鎮痛剤と抗炎症薬とミネラルウォーターを差し出して下さる。
ありがたく喉に流し込み、目でお礼をお伝えするとパイロットヘルメットを下の装備に重ねて被る。 - 21二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 02:52:34
重ね着はまだ続く。別の作業兵が耐熱ジェル塗布済みの女性用ザフト軍パイロットスーツとヘルメットを私に差し出してくれる。何時ものものよりワンサイズ大きい。落下の熱に耐えきらなければいけない。
これを元のパイロットスーツにボディーアーマーを着込んだ上から着るのだからもう大変だわ。
看護兵「肥満指数が高い人がパイロットスーツを着るようなものです!大丈夫」
アグネス「ええ…。私、この下にギブスと包帯もグルグルに―」
看護兵「なおのこと安心ですね!」
何時も無茶しがちな私を諫めてくれる彼女が今回はアクセル全開だわ。正直、今はそれが本当にありがたい。
アグネス「(素直にその意気に乗じるべきね。止まれば動けなくなる)」
看護兵二人の助けを借りてしっかり厚着する。着たら、腰にハンドガンが入ったホルスターを巻きつける。弾丸はゴム弾と実弾、両方を持って行く。
こうして3重に(耐熱ジェルまで含めれば4重に)守りを固め、次はパーソナルジェットだわ。
ヨウラン「アグネス、足の怪我、気を付けてな。いろいろ調整しておいたから」
アグネス「ありがとう」
ヨウランは私に一声かけて背中に装着してくれる。今までのよりワンサイズ大きく、耐熱ジェルが塗布されている。
実はこれが私とハイネ先輩、シンにとっては命綱だ。流石に車椅子までは降下できない。パレットで投下することも考えられたが、梱包を解く間も惜しいと告げられた。だから『地上』に着いたら私達はジェットの浮力の助けを受けながら自力で作戦目的ポイントに駆けるしかない。
アグネス「(私は左太腿を不全骨折中。頭おかしくなりそうだわ)」
勿論、そんな暇を神様は与えてくれはしない。準備中の私達の耳にアビーのカウントダウンが響く。
アビー「1番ランチ隊の降下準備進行中。電子班と共に。残り15秒!」
何とはなしに気密室の向こう側、非常口で跳躍に備えているメイリンの事を思う。彼女どんな顔をしているだろう。親バカならぬルームメイト馬鹿になってしまったのかな。 - 22二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 03:13:10
ルナマリア「メイリンが…」
隣で着替える女性が漏らした微かな呟き。何かと取り留めもなく問いかけるような語調-。胸の奥がずきりと痛む。
アグネス「(ルナマリア…。どうしよう。メイリンはオペレーターのはずだったのに私が連れまわしたせいで―)」
そんな考えはおそらくメイリンにとっては余計なお世話だろう。あそこに立つのは彼女自身の意思だ。
でも彼女の家族にとっては?もし妹に何かあれば、ルナマリアは私をどう思うだろう―。
アグネス「メイリンは度胸の塊。大丈夫よ!」
傍のルナマリアに、自分に言い聞かせるように思いを伝える。かつては深く傷つけた友…。『何を分かった風なことを』と嫌な顔をたらどうしよう…。
ルナマリア「ありがとう。あの子、良い人に出会えたのね」
そんな私の心配はルナマリアの控えめな笑顔で崩れ去る。感謝と心配と励ましがカクテルされたような優しい顔だわ。まるで聖母の様な―。
アグネス「逆よ。私が善人に出会えたの。凝り固まる前にね」
そう言って此方も微笑み返す。いや、微笑み返せたはずだと思う。どちらにしろ彼女のようにはいかない。私は善人ではないから。でも善人の友ではありたい。
カウントダウンは粛々と進む。
私達はドローンと催眠弾が入った耐熱素材の特特大バックを腹側にベルトで巻き付ける。業務用デバイスは残念ながら置いて行く。
代わりに簡易通信装置を携帯、パイロット用ヘルメット内の通信機と同期させておく。やはり連絡係は私になる。
アグネス「(残りの荷物はデバイス、電動車椅子と一緒に昇降施設制圧後にエレベーターで降ろす予定-。成功したらね)」 - 23二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 03:27:27
一方、気密室の向こうでは『その時』が来る。
アビー「3.2.1。降下開始」
アスラン「了解!行くぞ」
イザーク、ディアッカ「了解」、メイリン、一同「はい!」
壁の向こう側で重い扉が開き、皆が飛ぶ気配と外部に空気が噴き出る音が殆ど同時に感じられる。さて、次は私達か。
マッド・エイブス「それ!頑張れよ」
アグネス「はい!」
パラシュートはどうするのかと思ったが、なんとパーソナルジェットの後ろに背嚢を担ぐ要領で固定されたわ!
ふーむ、戦時とはいかなる無茶も押し通すもの。ある意味、何時も通りね。
耳をすませば、彼方側では非常口の扉は締まり、気密室は再調整に入った模様。
アグネス「(祈りを唱えるのが少し早すぎたわ。凄く怖い…。え…私が怖い?)」
そんな感覚がまだ残っていたとは…。もうとっくに擦り減ったと思っていた。戦場で邪魔な物が今は愛おしく思える。
アビー「続いて2番ランチ。気密室内に進んでください。その場の兵は彼等の移動をサポートせよ」
ハイネ、アグネス、一同「了解」
気密室の扉の先、思ったより大きな非常口が目に飛び込む。大型貨物機の貨物搬入口によく似ている。空挺作戦にはピッタリと言うべきかな。
さて、陸戦隊と医療班、技術班は総出で神輿を担ぐように私達を待機位置に着かせる。私達の目前には大きく分厚い隔壁。あれの開放と同時にジャンプ、自由落下開始だ。
アビー「3.2.1。隔壁開放します。同時に降下開始せよ」
ハイネ、アグネス、一同「了解!」
扉の開放、気圧の急変、自分の足が床を蹴り飛ばす感触、それらがまるでスローモーションのように脳内に流れ込む。 - 24二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 09:56:18
保守
- 25二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 16:18:37
再度保守。
- 26二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 22:13:58
保守
- 27二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 00:15:31
脳裏に凄まじい量の情報が飛び交う。飛び降りたアプリリウスの『空』は僅かに白み始めていた。
所謂、『天文薄明【空の明かりが星明りより明るい状態】』。美しく神々しい朝焼けの最初の一幕、きっと我らが共通の母たるミトコンドリア・イブも同じ風景を目にしたことだろう。
だが、これは円錐状の巨大構造物の側面内側に映し出された人工のパノラマに過ぎない。眼下に収まる直径10㎞の湖、その中に浮かぶ3㎞の小島、そこに私を地面に引き寄せているこの力は本物の重力ではない。この天体がセンターハブを軸に回転することで生み出している疑似的なものだ。
本物の『空(宇宙)』は足の下にある。
アグネス「(だから―何!今更-)」
残念ながら私は地球を『母なる星』と懐かしむ感性を持ち合わせていない。
私の故郷は今、下り立とうとしている僅か3㎞の小島だ。政府高官の娘として産まれた私は首都アプリリウス市中枢部の通勤エリア内の邸宅でアカデミー入学までの時を過ごした。
だから故郷を守る。それだけのこと―。
やがて、荷物のバランスによってか、身体は1回、2回と回転を始める。その回転は収まることなく、速度はどんどん早くなりソニックブームに気が付く暇もない。
音速を突破した体外の時間と私のニューロンが感知するスピード感には奇妙なずれが生じている。やたらといろいろなものが見えては消えていく。
プラントの内壁、湖、中央エレベーター、アプリリウス居住区、飛び降りた中間施設地帯、その先の居住区-。
人類の持てる英知を結集して築き上げ、維持管理してきたこの人工天体120基こそが我等の祖国だ。もし気に入らなければ最新式プラントを建てて移り住むだけのことよ。
アグネス「(科学技術に立脚する(of Technology)国なのだから。地球の事は後回しで良い)」
無論、プラントは地上にも多くの『飛び地』を領有し、コーディネーターの同胞が多数暮らしている。親プラント国も存在する。蔑ろにしようなどとは全く思わない。 - 28二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 00:22:38
思わないが―。デュランダル議長…。
アグネス「(散々暗躍して開戦を誘発し(疑惑)、地球情勢に入れ込み、挙句泥沼の対ロゴス戦をスタンドプレーで始めた人間。国益を散々に損ねて…。この有様、万死に値するわ!)」
だから、政界にあいつの居場所などあってはならない。彼には絞首台がお似合いだ。
夜明け前の街には奇妙な明かりが帯となっている。デモ隊の掲げるライトね。連なった抗議者の帯の目標地点は二つ。最高評議会ビル、彼らが人間の盾となって守っている議長官邸。
その二つほどの規模ではないが奪還目標であるエレベーター昇降施設周辺にもそれなりの人だかりができている。
出来ているが何やら様子がおかしい。ソニックブームに驚いたのか?
アビー「ザラ分隊より報告!地上にスナイパー発見、撃退。負傷者4名、スナイパー本人と観測手とのこと」
ハイネ、アグネス、一同「了解!」
やっぱりいたか!メイリン…、いや、先ずは自分の心配よ!
アグネス「(道理で…。議長はもう隠すこともしなくなったのか?あるいは手下の独断か…)」
どちらでも不味い。でもそれはそれ、今はとにかく生きて降りることを!
隕石になって地面に接する前、高度2.61㎞(26100m)で紐を引きパラシュートを広げる。
周りを飛ぶシンやルナマリア等も次々と。大型だから衝突や絡んだりしないように要注意だわ。
ハイネ「アビー、全員パラシュート展開!皆、下りるまで気を抜くな。狙撃に注意。着地後、車椅子組以外はハンドガンを取れ」
アグネス、一同「了解」
どんどん地面が近くなる。気が付いたデモ隊や野次馬が指を差してくる。パラシュートの色は極力、空の色に合わせて隠密性を高めたのだが―。
やはりソニックブームがいけなかったか。 - 29二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 01:04:54
アグネス「(いや、そもそも銃撃戦があったそうだから2番隊の私達は嫌でもバレるか)」
群衆は何やら叫びながら走って集まってくる。
何と言う事…。バレバレじゃない!取り合えず銃撃はされたいない事を以て良しと思うしかない。
ハイネ「絶対に民間人を傷つけるな。銃弾はゴム弾のみ。発砲は正当防衛以外は俺に許可をとれ」
アグネス、一同「了解!」
直後、私達はパーソナルジェットを起動する。着陸時の衝撃を緩和するためだ。特に私は左足に怪我をしている。普通に下りたら骨がどうなるか分からない。
ジェットの推力を慎重に上げ下げしながら、必死にゆっくりと両足を着く。
アグネス「ふぅー~~」、ドザッ!ズドン…!
着いた瞬間、ぐっと重みが掛かりそうになるのでジェットをもう一吹き。
群衆「おぉぉ…」、群衆「さすが!」、群衆「ザフトだ。頼む、あいつ等をやっつけてくれ!」
パチパチパチパチ。パチパチパチパチ!パチパチパチパチ。パチパチパチパチ!
ハイネ「うん?」
アグネス「あれ?」
なんか様子がおかしくない?袋叩きに遭うかと身構えていたのに。
未だ夜明け前、それでも周囲に集まって来た人々に敵意がないことは察知できる。どうした?
群衆「あそこから飛び降りたの?すご~い」
群衆「そんなこと言っている場合か!スナイパーがいました!あいつら先に来たザフト兵に実弾を…。信じられない!この辺りにテロリストが紛れている!」
群衆「助けてくれ。俺達はただ抗議に来ただけだ。こっちも怪しいやつがいないか探している」
群衆「抗議も別に良いが…。そろそろ解散してくれ。そろそろステーションを開けないと、開店時間が迫っているんだ!」
群衆「荷物が遅れたらどうしてくれる!」 - 30二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 01:13:23
着陸に成功したかと思えば、皆が好き勝手なことを言い出すので閉口してしまう。それと同時にふと大事な点を見落としかけていたことに思い至る。
アグネス「(そう言えば…、別にこの人達自身はテロリストでも何でもなかったわね。反軍感情が強いわけでもない。夜が明けたら会社や官公庁、学校は始業する。主婦もご家族のお世話が―。彼ら彼女らには普通の一日が待っているのだ)」
一部の『プロ』を除いてね。
そしてプラント国民の大多数にとって『ザフト軍は味方』。軍が武力を市民に行使する前に訳の分からない連中が『味方』に発砲するのを目にすれば…。
市民がどちらに立ちたくなるかは明瞭だわ。
アグネス「(そうなるとアスラン達に攻撃を仕掛けたのは議長の命令ではなく手下の暴発か。宇宙港とエレベーター昇降施設の半分以上の『陥落』に焦ったのね。馬鹿者が…)」
拍子抜けしながらパラシュートを外す。さて、どうしたものか、予想外過ぎて途方に暮れてしまう。
するとハイネ先輩が武器を持たずに両手を上げて民衆に振って見せる。微かな身振りで私達も続くよう促ので、皆で手を振る。敵意がないことを示すのは良いが、狙撃兵がまだどこかに…。
デモ隊女性「う~ん。ふ~ん」ブンブン
デモ隊男性「…。ほぉ~。ほぉ~」ブンブン
何やら向こうも手を振り返してくれている。『自分たちは軍と戦う気はない』と。なるほど、これでもう撃てないな。仮にまだ居たとしても。
アグネス「(暴力革命に成熟社会の市民はついて来ない。それでもやるならデモ隊に勢いがあった最初期に最高評議会ビルに突っ込むべきだった)」
いや、突っ込んではいたのだ。一番負傷者が出たタイミングがあの時だった。ただ、あの規模の一般市民ではバリケードを突破し、非殺傷兵器で武装した警備隊とその増援を押しのけることは出来なかった。
儀仗兵や軍楽隊まで搔き集めた意味は確かにあったのだ。 - 31二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 01:35:51
一しきり手を振り合った後、ハイネ先輩はヘルメットの顔面カバーを一つ二つと持ち上げ、周囲の市民に話し掛ける。
ハイネ「ザフト軍特務隊です。アプリリウス市民の皆さん、どうか落ち着いて下さい。周囲にテロリストが潜んでいるかもしれません。
まず昇降施設付近から離れ、出来ればご自宅にお帰り下さい。宇宙港、エレベーター利用業者の方、同施設を利用予定の方も。お仕事やご予定があることと思いますがどうかご理解ください。
ザフト軍は政治的立場を区別することなくプラント国民の生命と財産を守るために全力を尽くしています。早期の利用再開に努めますので一度、ご自宅ないし本社にお帰り下さい」
先程まで好き勝手なことを捲し立てていた民衆は、彼が話し出すとピッタリ口を閉ざして素直に話を聞き始める。
アグネス「(やっぱり役者が違うわね…)」
こうした局面では個人のカリスマ性がものを言う。立ち振る舞いや姿勢、声音-そして善にしろ悪にせよ内に秘めたる力強さ―醸し出すオーラの様なもの。
顔も識別できないこの時間帯であるからこそ、誤魔化しは効かない。その点、ハイネ・ヴェステンフルスはうってつけな人材なのだ。議長がわざわざFAITHにしただけのことはある。
負傷者の身で重装部を纏い決して楽ではないはずなのに身のこなしがとても格好がいい。あの歌手の様な声も凄く説得力がある。
群衆「ああ…」、群衆「いや、でも議長が…」
群衆「言っている場合か…。狙撃兵がいたんだぞ!そんなつもりじゃ…」、群衆「いや、まだどっちの者か決まっては無いから―」
それに加え隊の外見も幸いしたように思う。私達はハンドガンこそ携帯しているがライフルなど殺傷能力が高い兵器を手にしてはいない。物々しいボディーアーマーも二着目のパイロットスーツに隠れている。
そのお陰で見た目が『空挺部隊』より『宇宙飛行士』よりになっている。さっきの拍手も何だか『ギネス記録達成の瞬間を目撃』と言った雰囲気があった。
ハイネ「皆さん、お気を付けて。繰り返しになりますが付近にテロリストが潜んでいる可能性があります。自分と大切な人の命を守るため、直ちにご自宅か付近の避難場所に向かって下さい。どちらも難しい場合は政府のホームページに次善の避難場所が記載してありますのでご確認ください―」 - 32二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 02:05:50
拍子抜けするような『普段通りの言葉』、それで良い。これが今は核爆弾の次に有効な兵器だ。
群衆「のんきなことを…。現に銃撃戦が…」
ハイネ「はい。ですから私達がそれを止めに行きます。それは軍人たる私達の務め、皆さんは職業人として学生として、家庭人として誰かの友として。願わくば私の友として、掛け替えのない普段の日常を守ってください」
ハイネ先輩のご挨拶の途中で視線を合わせ、皆でタイミングを見計らう。一、二、三…
ハイネ「それでは皆さん、良い一日を!」
彼のその言葉を合図に私達はパーソナルジェットを再起動する。ハイネ先輩も敬礼した後ジェットを起動、周囲の人垣を飛び越える。頭上を越えるときは両手を振って『敵意無し』を示し、最後には皆でもう一度、敬礼する。
暁の空はその色を刻々と変化させている。そろそろ東雲も近い。
そのまま昇降施設に飛行していく私達を、市民たちがどうとったのか知る由もない。
ただ、少なくない数の彼ら彼女らがハイネ先輩や私達の敬礼に返礼して下さり、今も背中に向け手を振ってくれていることはしっかり覚えておくべきだろう。
それを忘れぬためにも今は直走るのみよ。パーソナルジェットは全力、バッテリー交換は後回し、到着できれば良い。
メイリン「インジェクションアタック、成功しました!」
取り出したばかりの簡易通信装置が鳴る。インジェクションアタックが決まったと言う事は―。
アグネス「コントロールルームはこちらの物なのね?!」
メイリン「はい。奪取しました。そちらと繋がらなくて…」、アグネス「ごめん。取り込み中で詳しくは後で」
メイリンに急ぎ答え、そのまま皆に知らせる。
アグネス「ザラ分隊、コントロールルーム奪還。電子班はインジェクションアタック成功」
ハイネ「了解!あそこが入口だ。このまま飛び込むぞ」
アグネス、一同「了解」 - 33二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 08:01:52
もうデモ隊使って扇動も使えないしどうすんだろ議長
- 34二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 08:06:02
スナイパーが暴走してるってことは議長の指示がないってこと
諦めてるか、もしくは別の手段を取っていることになるけど
この流れで何か仕掛けてるのか? - 35二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 10:36:59
仕掛けてるんじゃなく評議会側と直接交渉中とか?
どこまで追い詰めたら観念するんだろう
AA(オーブ側)の介入なしで一国家として自浄作用があるという結末になってほしいが - 36二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 16:37:20
もう議長官邸に本人は居なくてもぬけの殻だったりしない?
ここまで情報戦とジャミングでは議長が先手を打ち続けている - 37二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 17:35:42
メサイアに立て籠もってレクイエム押さえて私は不当にプラントから追放されたとか演説しながらレクイエムをチラ付かせてDP導入迫る気かな…
- 38二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 20:32:25
良かった…
大乱闘スマッシュコーディネーターズをやるアホなプラント国民はいなかったんや… - 39二次元好きの匿名さん25/04/13(日) 21:17:07
今のところは、群集心理に押し流されていないようだけど……ほら、前の大戦のパナマの「アレ」があるから、
今一つ安心できないんだよな……。それに、最高評議会ビルを取り囲んでる連中の掛かり具合もまた違うと思う。
議長の仕込みが破綻しつつある事は確かなんだが、まだ何かありそうな気がするのは俺だけか?
- 40二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 02:28:38
保守ッ
- 41二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 03:32:48
ハイネ先輩が指し示した先、秘密通路出入口は再び閉鎖されている。議長の手下の逆襲を防止するためだ。メイリンとの回線が繋がったのは幸いだった。
アグネス「電子班へ通達。2番隊は作戦を続行する。ゲート開放を求む」
メイリン「了解。ゲート開放します」
昇降施設のコントロールを握るメイリンの指先で目前のシャッターは音もなく持ち上がっていく。マップを頼りに進んできたから、少し心配だった。
よくできた秘匿通路だわ。周囲の外壁とよく一体化してカモフラージュされている。
シン「アグネス、『プロ』に見られている。鋭い!」
アグネス「うん。知っている。5時の方向1500mに2人、1時の方向3000mに2人。安心して、彼等は司法局の私服公安職員よ。他は?」
簡易通信装置のモニターを司法局の現地リアルタイムデータと同期させながら答える。勘だけで察するとはシンもなかなかね。
デイル「湖面上を高速移動しているボートは?2時の方向、3500」
アグネス「司法局の海上警察です。信号と一致。ただし欺瞞の可能性には留意を」
デイル、一同「了解」
飛びながら答えている間にヘルメットの先は敷居を跨ぎ掛けている。
ハイネ「突入。目標通気口まで。先行する4名はハンドガンを抜き接敵にも備えろ。後尾の2名も。ゴム弾を装填、自己判断での発砲を許可する」
アグネス、一同「了解!」
ハイネ先輩の号令一下、先頭のガズウートパイロット4名はハンドガンを構えつつジェットを切って駆け足で通路を進む。続く我ら7名。後尾の2名とはショーンとルナマリアだ。
本来、射撃の腕は私のほうが上なのだが、こんな状態では止む無し。ハイネ先輩と私とシンはジェットの出力を絞って、まるで月面を歩くアームストロング船長のように必死に前に進む。 - 42二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 03:44:49
アビーにもこのことを伝達。
アグネス「アビー!司令部、報告。2番ランチ隊、侵入に成功しました」
アビー「了解。こちらは中間施設地帯及び太陽光発電装置の完全掌握に成功。国防委員会の命により一時的にグラディス提督の軍政下に。デモ隊に拘束されていた公務員・準公務員全員の解放に成功、ただし睡眠中」
困った事態ね。でも仕方ない。眠らせたのは私達だ。
アグネス「中間施設の機能に問題は生じていない?」
アビー「拘束を受けなかった者とこちらの応援、自動管理プログラムで諸機能運用には支障なし」
アグネス「了解」
少しヒヤッとした。しかし運用に掛かる人員は省力化されているし、ザフト軍事ステーションから付いて来てもらった専門兵もいる。想定の範囲内だ。
アグネス「ハイネ先輩。中間施設と全機能はグラディス提督が抑えました。今は彼女の軍政下に。国防委員会の命であると」
ハイネ「了解。やったな。合法か?いや、すまん。忘れてくれ」
ケンケン足のように必死に進みながら連絡すると、ハイネ先輩から気になる問いが投げ掛けられる。なるほど、この一件を議長が『軍事クーデターの企み』と煽り始めないか心配なのね。
アグネス「(作戦中にそんなこと、と言えない所が辛い。本当に国内での行動だと気を使うわ…)」
実際どうなのだろう?国防委員会と行政委員、司法委員は話が付いているにしても。アプリリウス市長の権限と衝突しそうではある。
しかし、目下の情勢で、宇宙港と中央エレベーター及び周辺付属施設地帯を安全かつ平穏に管理運営できそうな機関と人物が他にない。軍港の部隊以外の首都駐留軍の旗色は未だ決まっていない。
今は細かい法解釈より、皆の不安を払拭することが優先される。
アグネス「いえ。合法性は担保され得るかと。非常時です。カシム立法委員長と60人議会のご協力もあります。市長の追認も遠からず、と思案します」
ハイネ「そうだな。悪い。このまま急ごう!」
アグネス「了解」
必死にお答えしながら、床を弾むように前に進む。ジェットの調整が難しい。左足を不全骨折したことがこうも鬱陶しいとは―。と言うか、私、開腹手術を数時間前にしたばかりね…。 - 43二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 03:53:33
アグネス「あっ…」
デイル「おおぃ!」
調整をミスって跳ね上がりすぎた私を後ろのデイルが慌ててキャッチしてくれる。もう少しで天井に激突する所だわ。
アグネス「ありがとう」
デイル「ああ。しかしさっきからゴロゴロしているな」
アグネス「そうね…」
彼が『ゴロゴロ』と表現したのは通路脇で手足を拘束され呻き声を上げている一群の者達のこと。彼らは―おそらく―議長の手下の特殊隊員だろう。先行したザラ分隊が非殺傷兵器で打ち倒し、無力化しながら進んだのだ。
倒した後に拘束したのは後を追った電子班の力に寄るかもしれないが―。
シン「ザックリ、2個分隊はいる…。駆け付けて来たんだ」
アグネス「流石に学習するわね…。『敵』も」
シンの声は微かに震えている。私はどうだろうか?勿論、敵が怖いのではない。いや、怖いは怖いのだが…。
アグネス「(呻き声を上げている人は良い。嫌なのは脇を通り過ぎた際に何の反応も上げなかった者達よ。おそらく彼らはもう…)」
彼等の立ち位置は自爆して果てたアッシュ隊と同じ。当然、ザラ分隊が自爆の恐れは除いてくれている。となると、体内に毒薬を仕込んでいたのか。
今、唸っている彼ら彼女らは、次戻った時まで生きているだろうか?いや、間違いなく自決を図っているはず―。
ハイネ「相手も馬鹿じゃない。しっかりしろ、皆、自分の出来ることと出来ないことは割り切れ。さっ、俺たちもアスラン達に負けないよう頑張らないとな、集中!」
迷うな、ハイネ先輩はそう声を励まして下さる。うん、不気味さや変な罪悪感に圧し潰されている暇はない。
アグネス、シン、デイル「はい」
意識して高い声で返事をし、強めに床を蹴る。 - 44二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 04:02:10
でも見てしまった。
私が足を蹴った次の瞬間、ちょうど足元で転がっていた特殊隊員の体が奇妙に震え、着地した時には体がだらんと脱力している。
思わず振り返り目線を落とすと、落ちたサングラスの奥の瞳と視線が合う。若い―まだ幼い―私とさほど歳が変わらぬ優し気な面立ち―女の子、いやプラントにおいては女性だ。
私と同じ兵士。同じ国に仕えていたのにどうして…。
モビルスーツ越しでなく、剥き出しの人間を―それも、おそらくプラント国民のコーディネイターの同胞を―殺めるのは初めてかも知れない。私達が到着しなければ、いや私が傍を通り過ぎなければ…。彼女は自ら命を絶たずに済んだかもしれない。
彼女の目から生気が急速に失われていく。その眼の光をどうしてあげることもできない。
デイル「頑張れ!」
デイルが少しよろけた私をがっしり支えてくれる。足がふらついたのはジェットの操作ミス、きっとそうだ。
周囲の空気も重い。私の反応が何を意味しているのか、察せられない程、皆も鈍くはない。
戦地での命の遣り取りには慣れてしまった。でもこれは何か違う。気持ち悪い。
アグネス「(彼女は務めを果たしただけ。私には私の務めがある。先を急ぐのよ…)」
自分の心を落ち着けろ。ラクス暗殺未遂の一件から予想してきたことではないか!相手が10代だったから、生身だったから、目の前で見たから、足元で死んだから―。
だから何だと言うのだ!
頑張って、必死に自分に言い聞かせて、次の一歩を踏み出す。今度はデイルの助け無しよ。本当に恥ずかしい。
アグネス「ありがとう。大丈夫」
デイル「ああ…」
足早に、呻き声と死の回廊を突き進む。 - 45二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 04:18:31
本当に不覚としか言えない。宇宙港や中間施設地帯で捕縛された特殊隊員も監視の目を潜っては同じことを試みているはず。窮鼠と化した者の自爆を心配しながら、機密保持目的の自決対策を講じきれなかった。
私達に余力がもっと有れば―
簡易通信装置に急いで叫ぶ。
アグネス「アビー、逮捕者の自決対策を。急いで」
アビー「はい…。既に。ただ何人かはもう―」
アグネス「そう。分かった。ありがとう」
彼女の声音を聞いて理解した。士気への影響を考慮して黙ってくれていたのだ。仮に伝達されたとしても装備も人員も最小限、おまけに負傷者が多い2番ランチ隊に出来ることは無いから。
シン「どうして…。レイも」
後ろからのシンの呟きは敢えて無視する。
アグネス「(思うに-きっと―それに足る何かを議長は彼等彼女等に示した…。理想とか主義とか使命とかそういった類の物を。それが何なのかはここで考えることではない)」
特殊隊員「…」ビクッビクッ…
特殊隊員「う…。おぉ!」ビクビクッビク。
たった数十秒、言って20人前後の生死に過ぎない。カオスのファイヤー・フライ誘導ミサイルの装填数より少ない。
でもまるで何十日も白骨の街道を歩んでいるよう。暗く細いこの道が地獄に続いているのかとさえ思う。
でも、その先にようやく大型通風口が見える。何だか泣きたくなる程ほっとする。
先に着いた4人の内2人が鎧戸を落としてくれていたわ。足を前に、余計なことは考えるな。通風口に到着し、重い荷物を広げ、ドローンに催眠弾を装着する。
遅れてやって来た最後尾のルナマリアと、ヘルメット、アイ・プロテクション越しに視線を交わす。ちょっとお互い泣きそうだけど、まだまだやれる。 - 46二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 04:51:03
最後尾の彼女とショーンの準備が終わるまで20秒とかからない。連絡を。
アグネス「電子班、これよりドローンを投入します。通風管のダンパ等、循環装置までの障壁を開放してください」
メイリン「了解。10秒後に全通します」
アグネス「了解。カウント開始、10,9,8…」
ハイネ先輩に視線を振った後、皆にも声を振りながら心の準備を促す。この隊の勢いが失せていることが気掛かりだ。意気高らかに民間港に突入して20分と経っていないのに。
シン「…」
ルナマリア「…」
まったく、いちいち狂人に構うな!あんなのはサトー一派みたいなものなんだ…。
アグネス「(え…。彼女が狂人?)7,6,5…」
何かが違う。私は彼女と戦ってきたのか?自分の勲功と祖国の為にここまで戦ってきたはずなのに―。
クシャクシャした考えが頭を離れてくれない。これが勲功か?本当に…。
ハイネ「皆、集中!港とエレベーターが機能しないと市民も国民も友好国も困る。デモが起こっていない方の居住区の住民も。目を覚ました子供たちが学校に行くのに困るようではダメだろう?朝起き出す街の独特の空気、俺は好きだ。皆はどうだ?ここは踏ん張りどころだろう。違うか?」
確かに私も好きだ。静寂の中に活力が満ちたあの不思議な一時。明け行く空は誰かの希望を指し示し、別の誰かのそれを裏切り続けて行く。大きな町が動き出す前の静けさ。
多分、それが正常なことなんだ。
シン、一同「はい!」、アグネス「4!3!2!」
ハイネ「サンキュー」
官庁街の方は一晩中騒々しかったが、彼等もまた眠りに就く時が来る。今日を迎える為に、デモ参加者の朝寝坊は確定ね。夜更かしのつけだ。 - 47二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 04:57:52
アグネス「1!…」
アグネス、メイリン「ゼロ!」
ハイネ「投入!」
ハイネ先輩の号令と共に催眠弾運搬ドローンが最初に通風管に、それに作業ドローンが続き、中継器の私達が最後、これまで通り。
30㎞のジャンプにも関わらず、手に持つコントローラーパネルには細かな罅一つ入っていない。手伝ってくれた皆のおかげだ。大冒険を共にしたチョウチンアンコウ君こと我が愛機を心底、愛おしく思う。
アグネス「(もしこの戦争が終わった時に私がまだ生きていたなら、次は地球で大ジャンプに挑戦して、その先でこの子を飛ばしてみるのも悪くはない。払い下げを受けないと駄目だけれど)」
フェリックス・バウムガルトナー氏が偉業を打ち立てた2年と10日後、その記録は塗り替えられる。今度は4,1425m!41,425㎞!
ロバート・アラン・ユースタス氏によるものだ。
アグネス「(西暦時代のナチュラルにこれだけのことが出来た。C.E.のコーディネイターのエリートたる私ならもっと高くもっと速く飛んで見せる)」
それなのに今晩の有様はなんだ!せっかくの力だ。私は―私達は―もっとでっかく素晴らしいことの為にそれを活かすべきなんだ。そのためにも―
アグネス「シン、電波は?」
シン「良好、もうすぐだ!」、ハイネ「良し。こっちも良いぞ」
良かった。任務は順調、そう順調だ。中継器の面目が立つと言うもの。
アグネス「(後、循環装置まで後、6秒!)」
ふと不安が頭を過ぎる。
アグネス「メイリン、閉じ込めた人たちは大人しくしている?隔壁が破られたりしていない?」
メイリン「隔壁はビクともしていません。テロの爆発でも簡単には破れない仕様です」 - 48二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 05:05:40
建物は無事と。では人はどうだ。
アグネス「自傷行為者は?」
メイリン「デモ隊の大部分は…。でも一部のおそらく議長旗下の者達が自決を企図。催眠ガスで状況は落ち着きます」
アグネス「-そう。分かったわ」
もう何も言うまい。私がモニターで見守る中、6機目最後の運搬ドローンが循環装置に辿り着く。
ハイネ「催眠弾投下、撤収せよ」
シン、一同「了解」
コントローラーモニターの先、循環装置にモクモクした白い煙が大量に吸い込まれていく。これで取り合えず、この施設内の馬鹿者どもは自他を傷つけることを止めるだろう。
何だか馬鹿らしい。楽しい妄想の続きをしよう。
うん。そうだわ!いっそカーマン・ライン(100㎞)からジャンプしてみようかしら。
勿論しっかり準備をして、ね。任務で何度も目にしたあの光景をモビルスーツ越しではなく我が身で直に感じるのも悪くはない。そんなことに意味があるのか、と聞かれても私は応えられない。それで世の中が良くなるとは言わない。
でも、それでもご先祖様はエベレストに登った。彼らにとって、そんなことは知ったことではないだろう。
私だってそうだ。けれども。
アグネス「(この世界には命を掛けるに値することがいっぱいある。他所の国で自爆したり、他人を巻き込んで自決するより、意義深く気持ちの良いことがもっとたくさんあるはず。それを知らせたい)」
脳内では妄想、目はモニター画面。ガスは全て回り切った、シンのドローンは管から出て来た。後は順繰り。途中メイリンから報告が入る。
メイリン「催眠ガス、官庁街方面居住区中央エレベーター昇降施設内全隔壁に噴霧完了。作戦成功です」
アグネス「了解。ありがとう」
メイリン「いえいえ」
肩から一気に力が抜けるのは今晩で何度目か。嫌な思いもしたけれど、一応のお役目は済ますことが出来たのか―。 - 49二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 08:20:29
地球側からプラントに内偵でも送られていたら
この政権のグダりっぷりというか国内の有様を見て
「えぇ...なんやこいつら...」と引くんじゃなかろうか... - 50二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 11:16:36
- 51二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 12:06:16
- 52二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 12:10:21
FREEDOMの小説版の地の文で議長が黒幕でサトー一派も支援してたと明言されてる
- 53二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 20:40:15
☆
- 54二次元好きの匿名さん25/04/14(月) 23:12:27
アグネスも本当に変わった
怪我も治らないまま何度も修羅場をくぐるのは心配になる
人としていい方向に進んでいると思いたいが… - 55二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 02:28:17
ドローン回収後、2番ランチ組はメイリンの指示に従って、エレベーターホールに進む。持ち上がった隔壁を越えるごとに床で爆睡している人の数が増えて行くのには閉口してしまう。
避けて、跨いで、飛び越えて―。
デイル「おっっと!」
アグネス「あ、ありがとう。悪いわね」
デイル「おう!」
天井激突寸前にデイルに何度か助けられる。みっともないが左足を負傷中の私は車椅子3人衆の中でも別格に移動が難しいのだ。疲労の蓄積も流石に誤魔化しが効かなくなってきている。
ハイネ「もう少しでエレベーターホールに着く。陸戦隊と医療班が俺たちの荷物と一緒に着いているはずだ。皆もうちょっとだぞ」
アグネス、一同「はい!」
ブルブルブルブルブル…。
と、ここで手元の簡易通信装置に通信が届く。ミネルバブリッジを守るトライン副長からね。
アグネス「アグネスです。いかがいたしましたか?」
アーサー「皆、無事で何より。悪いが予定を変更する。2番ランチ隊はエレベーターのカプセルに乗ってこちらに戻って欲しい。車椅子等はこちらに」
アグネス「了解。特務隊アスラン・ザラにもこのことは共有済みですか?」
突然の予定変更ではあるが、確かに理にかなってはいる。正直、ドローン作戦が終わった以上、私達はここに残ってもできることは無い。むしろ、怪我人が多い2番ランチ隊は陸戦時に足を引っ張る。ザラ分隊はどうなったのか?
アーサー「勿論、アスランとジュール隊長、エルスマン副隊長はもう先に上がり始めている。25分後にグラディス提督から、『彼女の軍政下において』宇宙港と中央エレベーターの運行正常化宣言を発出する。万一に備えてモビルスーツに搭乗して待機して欲しい。重症のハイネは医務室に」
25分後!ギリギリだわ。無数に転がる夢の国の住民を見るに不安は尽きないが…。論じている暇はない。 - 56二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 02:37:14
アグネス「了解」
アーサー「頼む」
モニターを確認すると陸戦隊と医療班、司法局公安職員が中間施設からエレベーターカプセルに飛び乗って次々と降下している。
手当てと移送とバリケード等の撤去、施設内外警備の強化、間に合うだろうか?
アグネス「(その為にも私達を上げるのか。昇降施設と敷地内の警備は本来、文民警察の領分だけれど、司法局から軍に『要請』があれば動ける。必要とあれば敷地内にモビルスーツ隊の降下も有り得ると提督は考えていらっしゃるのね)」
もしそうなら音を上げている訳にはいかない。
アグネス「注目。トライン副長より、2番ランチ隊はエレベーターで上昇し中間施設に。後、搭乗機にて待機とのこと。ハイネ先輩は医務室に」
ハイネ「了解」、シン・ルナマリア達「了解…」
もう皆、言葉少なげだ。『宇宙港とエレベーターを正常化してアプリリウス市民の暮らしを守れた。目出度し目出度し』とはいかないらしい。
アグネス「(まだ政変は終わっていない。分かっていたことよ)」
でもここに来て体中に脂汗が滲み出てくる。相次ぐ負傷と手術と酷使に身体がSOSを上げているのがわかる。でもそれは一緒に戦ってきた皆も同じこと。
ましてザラ分隊の負担は私の比では無かったはず。
だから泣き言は言えない。軍人なら絶対に―そう自分に言い聞かせる。
そうして、くらくらしながらやっとエレベーターホールに到着する。そこでは、ごろ寝していた人は数カ所に集められ医療班が大忙しで対処している。無論、大変なのは医療班だけではない。
陸戦隊の女性兵と女性公安職員も天手古舞だ。もし寝転んでいるのが女性の場合、彼女の尊厳を傷つけることの無いよう注意しないといけないから。
アグネス「(国内の民間人相手は本当に気を使う。いや、戦争法においても女性の名誉と人権の保護には厳しい規定が設けられている。結局、どこでも同じか―)」
しかし、女性と高齢者と未成年者と障がい者の退去にデモ隊も合意していたはずなのに、自分の意思で残った女性がこれほど多いとは―。 - 57二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 02:43:35
ハイネ「整列!」
アグネス、一同「はい!」ザッ!
ハイネ先輩の号令一つで、ふらつき乱れかけていた隊列がバシッと整う。不覚だったわ。ホールを管理していた陸戦隊の隊長がこちらに敬礼してくれていた。危うく欠礼するところだったわ、私は馬鹿か!
皆で一緒に敬礼して、陸戦隊長の示して下さった敬意にお応えする。
陸戦隊長「お疲れ様です」
ハイネ「ありがとう。済まないが時間がない。民間人に重傷者はいないか?」
陸戦隊長「民間人には、おそらくありません。ただ自決を遂げていた者が既に9名ほど見つかっています」
ハイネ「そうか…。残念だ。私達が通って来た方にも約20名ほど。死者の尊厳を毀損することの無いよう。しかし時間が押している。効率的に進めてくれ。俺達は次の命令を受けた。後を頼む」
陸戦隊長「はい!」
陸戦隊長の敬礼を受け、ハイネ先輩が号令をかける。
ハイネ「全員、敬礼!」
ザッ、ビシッ!
遣り取りを見た他の者達も目礼してくれる。ただ、彼等彼女等は忙し過ぎて手礼は無理、止む無し。無言でエールを交わす。
ちょうどこのタイミングで上からエレベーターカプセルが到着、コントロールルームの調整はなかなかと見える。風を切るような音と共にカプセル型の籠の扉が開く。
ハイネ「良し。乗ろう。乗ったら、アグネス、シン、ルナマリアは座れ。負傷兵だ。スペースがある限り他の者も。せめて今は楽にしろ」
アグネス、一同「はい。ありがとうございます」
ハイネ「うん」
籠の中央部には円形のソファー、ハイネ先輩の心遣いを受けて皆で座り込む。疲れと装備の重さのせいで、2番ランチ組皆で尻もちを衝くような形になってしまったわ。
ソファーはボコンと凹むが流石、我等の優秀な技術、次の瞬間には元のふかふか状態に戻っているわ。 - 58二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 03:08:04
私達が座ると同時にドアはまた風を切る様な音と共に締まり、強化ガラスの籠は猛烈な勢いで上昇を開始する。
アグネス「ハイネ先輩もお座りください」
ハイネ「スペースがないだろ。それにどうせ上がったら俺はベッドだ。気にするな」
じゃあ、自分もと立とうとすると目で押し戻される。うーむ、では厚かましいがこのまま座っていよう。
カプセルが施設の内部部分を抜けた瞬間、強化ガラスに光が差し込みアプリリウスの全景が目に飛び込んでくる。曙の時、桃色がかった赤色の空、それを映す湖面の水面。
ルナマリア「綺麗…」
アグネス「本当にね…」
シン「ああ…」
『軍政下での』宇宙港と中央エレベーターの正常運行再開宣言-止むを得ない措置だ。首都の物流と人の流れを止める訳にはいかない。国内外に恰好が付くものでは決してないが…。
アグネス「(『正常化』後は、大規模デモが発生していない方の居住区から平常に戻して行くべきかな)」
私が見るに抗議者の勢いはかなり衰えている。ここで自分たちの街の半分が普通の日常を再開したさまを見せつけられれば、サクラが何を言おうが特殊隊がどう騒ごうが心が折れるだろう。
アグネス「(楽観し過ぎかな。じゃあ加えて官公庁の長、会社や法人のトップ、学校の校長先生に『日常への復帰』を呼びかけてもらうのも良いかも知れない。その後は徐々に位を下げて行って、直属の上司、担任の教授や先生。民族によっては部族長や宗家にも依頼を―)」
こうなったら人海戦術だ。それこそ1万人のデモ隊が居れば1万通りの説得を各個人の携帯電話で仕掛けても良いかも知れない。こっちには行政と司法と軍のトップが付いている。最高評議会ビルの所機能も健在だ。個人情報保護法の例外規定を適応してしまえ。
アグネス「(少し強権的に過ぎるかな。止めよう。せめて今、この時だけでも頭を休めて―)」
ブルブルブルブルブル…!?
殆ど飛びかけていた私の意識を手元の簡易通信装置のコールが強引に引き寄せる。通信元は―シュライバー国防委員長-もう止めて!本当に限界なの、私。
アグネス「(これ、仮に実力組織の中のことでも戦時じゃなければパワハラよ。顔がアスランみたいに地蔵になりそうだわ。ならないように頑張るけれどね…)」 - 59二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 08:58:00
☆
- 60二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 16:17:16
もうやめて!
アグネスのライフはゼロを通り越してマイナスよ! - 61二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 20:02:29
まだ何かあんのかよお!!
- 62二次元好きの匿名さん25/04/15(火) 20:14:33
CE「こんなデスレースがこの先も延々と続きます」
- 63二次元好きの匿名さん25/04/16(水) 05:58:17
まぁ、CEだしな
まともなやつはずっとこうと - 64二次元好きの匿名さん25/04/16(水) 05:58:48
アグネス「はい。特務隊アグネス・ギーベンラートです」
シュライバー「今、キャンベル嬢が動画に出て、何か話そうとしている!こちらは最終勧告への回答待ちだと言うのに。ネットを見れらるか?!」
泡を喰ったシュライバー国防委員長のお顔を拝見するのは人生でもう何度目か。思い出したように褒めて下さったことだけは救いね。
アグネス「(もう半分諦めの境地だわ。もう毎回、この御仁からの『連絡≒厄介ごと』よ)」
でも、同じ空間にいる戦友たちの受け止め方は異なる。いきなりの国防委員長の叫びに周囲のガズウート組とショーンとデイルは驚愕、シンとルナマリアはきょとんとし、ハイネ先輩は少し眉を上げている。
聞くところによると―前大戦の戦犯クルーゼはザラ前議長が国防委員長だった頃から彼に取り入り、悪巧みをしていたとも。
自分が特務隊として国防委員会直属になって見ると、果たしてよくそんなこと出来たものと感心する。自分の任務や業務も別にあるのだ。中々、フィクションの暗躍キャラみたいには振舞えるものではない。少なくとも私には無理だわ。偉い人と知り合いになっても振り回されるばかり。
アグネス「(そう。私はクルーゼでは無い。そしてシュライバー国防委員長はザラ前議長でもない。現国防委員長はパニックに陥っていても精神を病んでいるわけでもないはず)」
だから、先ずは彼を落ち着かせるべく努力しよう。返答は事実に基づいて静かに確実に、と心掛ける。
アグネス「現在、私を含む2番ランチ隊は中央エレベーターを上昇中です。簡易通信装置で閣下とお話ししていますので、動画視聴の為には切り替える必要があります」
シュライバー「ああ…。そう…そうだったな!奪還作戦ご苦労、良くやってくれた。そうか困ったな」
取り合えず良し。国防委員長の反応を見るに、まだ彼の中にも僅かなゆとりがある。これで一息入れれたわ。話を進められそうね。
アグネス「閣下、恐縮ですが状況共有の為、お話しを中断しては如何でしょう。この場の者と一緒に私も動画を確認します」
シュライバー「いや…。君には議長への最終勧告も把握して、助言して欲しいから―」
声音から察するに、本来の要件はそちらだったのね。確かにそれは私も把握はしておきたい。動画放映の意図にも関わっている可能性も大きい。けれど、ふーむ。 - 65二次元好きの匿名さん25/04/16(水) 09:55:19
鬼が出るか蛇が出るか…ゴクリ
- 66二次元好きの匿名さん25/04/16(水) 13:45:44
ラクス(スタンバってるのに出番がありませんわ…)
- 67二次元好きの匿名さん25/04/16(水) 18:55:15
出番がないならそれに越したことはないし…
- 68二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 00:40:10
☆
- 69二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 01:17:53
アグネス「それでは最終勧告の概要はメールでご送信下さい。助言は後程、いかがでしょう?」
シュライバー「分かった。良し…、今、送らせた。動画のサイトは―」
チャンネルを合わせ右手で隊の仲間に『注目、傾聴せよ』の合図を送る。ハイネ先輩も歩み寄ってくださっている。
アグネス「事情はお聞きの通り。動画放送も最終勧告の内容も互いに関連し合って共に重要です。音声はチャンネルに固定、モニターは小官が読み終わり次第、切り替えることとしたいのですが…」
ハイネ「それで構わない。焦るな。アグネスはよくやっている。任せる」
アグネス「ありがとうございます」
凭れ掛かるようにモニターをチラ見する戦友達も軽い身振りで全員同意してくれる。やはり皆の疲労困憊ぶりは一線を越えている。国防委員長からの直々のご連絡という珍事の驚きも倦怠感の波に飲みこまれている。
一方、画面の先の国防委員長は未だ大慌て、手元の簡易通信装置は文章通知を受信する。もうこれ、頭がどうにかなりそうだわ。
でも何度も言うようにここが粘りどころ。国防委員長への助言と言う形をとって皆に励ましのメッセージを送ろう。
アグネス「無事受信しました。閣下、お疲れのことと存じますが、どうか警戒を怠りなきよう。議長はこちらの精神的疲労を衝いてくるやもしれません」
それを聞いて2番ランチ隊の背筋が少し伸びる。素直でよろしい。私も頑張るわ。画面の先の国防委員長も少しは表情を引き締めてくれる。
シュライバー「おお…。そうだな―」
アグネス「仮眠はお取りになられましたか?」
シュライバー「取った。クラーゼク国防委員と交代に君たちは?」
どうだろう?私は手術の後、麻酔が切れるまで意識が無かったけれど、あれって仮眠か?いや断じて仮眠ではない!
アグネス「兵士の義務ですので。では暫し失礼します」
国防委員長の気遣いのお言葉に婉曲なお返事をお返しし、敬礼して見せる。シュライバー国防委員長もその意図を汲んで更に姿勢を正して返礼して下さる。 - 70二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 01:23:59
彼が姿勢を戻したタイミングを逃さず、チャンネルを伝達された動画チャンネルに切り換える。画面に映り込むのは、連絡していただいた通りラクス・クラインことミーア・キャンベルだ。
彼女の服装は何時もの派手な舞台装束、共演者は無し。格好がつかないと考えたのか、両側にはプラント国旗とザフト軍旗が立てかけられている。
2つの大旗の真中で身を小さくして所在無げなミーアが本当に痛々しい。
アグネス「(正体が明るみに出た以上、仕方ない反応か…)」
ラクスの仮面を剥がされた彼女がどれ程、寄る辺ない存在か、一見しただけでも理解できてしまう。勿論、彼女の歌手としての才能に疑念の余地は無いが―。
ハイネ「官邸からの放送かな」
アグネス「判断材料がありません。議長の直接の指示なのか、彼女付きの者達の忖度によるものなのかも不明です。まだ若干の猶予が、今の内に勧告の内容を読みます」
ハイネ「良し。読むのはアグネス。ペースは自分主体で」
アグネス「ありがとうございます」
返事をしながら、画面をメールに切り替える。音声は動画のままだ。出来れば何か彼女が言い出す前に、眼を皿にして表示された文章をなぞる。
読んだところ、最終勧告の内容は政変後の議長の処遇について。ここがクリアできれば事態収拾は可能と評議会側は踏んでいるのね。
アグネス「(実際はどうかしら―。いや、責難は成事に非ず、ね。説得の取掛かりを我等から手放してはいけない)」
問題はその内容、デュランダル議長が最高評議会議長全権代行に全権能を委譲した後について―
『権限委譲期間中もギルバート・デュランダル氏は最高評議会議長の職名を名乗ることを妨げられず、閣下の称号を有し、議長官邸に居住し、議長警備隊による警護を受け、給料を全額保証され、専用の自動車・宇宙船舶・地上船舶・飛行機・シャトルが利用可能であり、最高評議会に事前申告と評議会が指定した職員の同伴があれば国外訪問も許可される』
アグネス「(この激甘な条件はもう確定事項となったのか…)」
もうここは割り切るほかはない。変に議長を殉教者、受難者にしても不味いのだ。尻尾を掴んで豚箱にぶち込むまでは。では議長の追加要求への回答はどうなったのか。 - 71二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 01:30:42
眼は徐々に下側に進んでいく。『我等の返答は以下の通り』、と。
『① 議長が官邸内のオフィスに専属職員を採用・配属することは認めるが人数は20名まで。現在、公職にある者、及び公共性の高い職種にある者の採用と出向は許可しない。退職後を条件とした採用も不可とする』
『② 議長の国内-プラント本国並びに地球上の実効支配領域も含む-外出移動の自由については特定の指定エリア以外は妨げない。ただし、1泊以上の外出は事前に行先と目的を申告すること。
また、通信の秘密の保護と検閲・傍受の禁止については、議長自身も調査対象であり、また自ら当重大事案を招いた責任がある以上、尊重されども完全な保証は不可である。この決定は議長のスタッフにも及ぶ』
『③ 議長の機密情報へのアクセス権はこれを認めない。必要ならば最高評議会に要請すること』
『④ 免責特権、不逮捕特権について。議長は当事変発生日の前日までに最高評議会内で行った演説・討論・表決について、最高評議会外で責任を問われない。
また、最高評議会議員の一人として任期終了まで、現行犯罪または内乱罪、外患誘致罪を除き、逮捕・拘留されない。ただし、広義・狭義の戦争犯罪と一見して明らかでかつ重大な憲法違反はこれの例外とする。
また、最高評議会議長在任中の公務としての行動の免責は、他の元最高評議会議長と同じく、認められる。ただし、一見して明らかでかつ重大な憲法違反、人類全体に対する明確な背信行為と目される著しく凶悪かつ重大な犯罪行為はその例外とする』
『⑤ ギルバート・デュランダル議長が最高評議会議長全権代行に委譲する権能には最高評議会議員の権限も当然に内包され、そのことに議論の余地は無い。同氏は調査・改善委員会の結論が出るまで何らの政治的役割を果たしえないし、影響力を行使してはならない。空席は彼が選出された市から補欠で最高評議会議員代行を選出し、調査期間中ないし任期満了までのその職務を執行することとする』以上。
甘い、甘すぎるが―。もうこれで事態が収拾するなら構わない。なんやかんや言っているがこれを呑ませればチャックメイトだろう。
ササっと読んで頭に内容は入った。優秀な遺伝子を持って産まれただけあって時間は掛からなかったわ。さて、画面はミーアの動画チャンネルに再度…。 - 72二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 01:38:06
ミーア「皆さん、初めまして。私はミーア・キャンベルと申します。既にご存知の方も大勢いらっしゃるかと思いますが、改めまして…。私はシーゲル・クライン元最高評議会議長のご息女たるラクス・クライン様ご本人ではありません」
ちょうどチャンネルを切り替えた所でミーアが演説を開始したわ。タイミングが良いと言うべきか。
ミーア「私は今日、この時までラクス様ご本人の直接のご承諾なく、その名と容姿をお借りしていました。私を本物のラクス様と信じて、中には大きなご決断や行動を起こした方もいらっしゃることでしょう。両者に改めて深く謝罪します。本当に申し訳ありませんでした」
ラクスと同じ顔と声の女性が深々と頭を下げている。可哀想に顔面は蒼白、肩はガタガタ震えている。その有様を目の当たりにして、彼女とラクスの格の違いも残酷なほど明らかになる。
ラクス・クラインとは、ラクス・クライン本当は何だったのか?誰のことだったのか。そんなことは分かり切っている。
国父の娘にしてアイドル。家柄、容姿、能力、自身の功績、バックの組織と言うか派閥、全てを持ったプラント最高最強のクイーン。
残念ながらミーア・キャンベルにはその全てが―歌手としての才は有るから―99%が、ない。生まれ持った遺伝子と恵まれた育ち、それに由来する人脈や教育機会、体験と経験は何にも代えがたい。
震えるミーアを見て確信する。仮にラクス本人が自派から引き離され、窮地に陥った所で、きっと最期まで堂々と振舞い切る。彼女は一般人どころかエリートの中でも別格なのだ。『王女殿下』だから。本当に憎たらしいほどに。
そんな人間の代役など、『ごく普通の才能豊かな歌手』には無理だ。声と顔が同じでも関係ない。遅いか速いかの問題できっとこのことは露見していただろう。
多分、議長もそのことは承知している。もとより使い捨ての駒だろう。最初に思った通りだ。
半泣きになって顔を上げたミーア、幸薄いな、この人も。もし舞台に立てていれば、歌手としてはラクスの2番手か同着一位に成れたかも知れないに。
ルナマリア「ええ…と。これは謝罪会見?何で今?」
アグネス「どうかしら…」
ルナマリアにはそう言ったが、既にここまでで何と無くの察しは着いた。おそらく、議長は彼女の口から自分の失策である『ラクス替え玉事件』の弁護をさせたいのだ。 - 73二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 01:44:36
謝罪やクレーム対応に女子社員を当たらせると言うのは西暦時代からのよくある手だ。見え透いている。動画に映るミーアは一声、グスッと嗚咽を漏らした後、演説を再開する。
ミーア「ラクス様の代行と言う大きなお役目は、ある日、本当に突然やってきて来ました。夢見ていた歌手としてのデビューとは少し違ったものではありましたが…。考えて見ればこれは大変名誉で意義深いお仕事、長年、ラクス様の歌に親しみ彼女をお慕いしていた身としては。ただ、心配だったのはそのような大任、私ごときが果たすことが出来るのかということでした」
少し吹っ切れたような挙動の後、彼女は語り出す。と言うか、そこから話すのね。早送りして欲しいけど、聞き逃すわけにもいかないか…。
ミーア「でも先のことなど誰にも分かりません。この時節にこのようなお話しが廻ってきたことには、きっと深い事情がある。それならばまずは何でもやってみよう。良し頑張るぞ、そう意気込んでお仕事をお引き受けしたことを今でも思い出します」
モニターを前から覗き込んでいるハイネ先輩が小首を傾げながら私に問いかける。
ハイネ「『ミーアは騙されたわけじゃない。あくまで意義ある仕事として、彼女自身の意思でラクスの代役を受け入れた』と、議長は言わせたいのかな?」
アグネス「一面としては、そうでしょう」
ミーアの話はラクス代行就任後の出来事に移っていく。おそらく細々としたこともこの間にあったのだろうが…。
ミーア「ラクス様はお仕事は、単に歌手活動をするのみならず、プラントや世界の平和のために様々な慈善活動や政治活動を行うこと。その重責を果たして背負えるのか、不安に思わない日は有りませんでした。しかし歴史の針は止まることなくC.E.73年10月3日を差しました。取り返しのつかない悲劇の日を。あの日、私はデュランダル議長の下へ、議長は虚心坦懐に一歌手に過ぎない自分に丁寧にお話ししてくださいました。
ユニウス・セブン落下テロが地上で巻き起こした巨大な惨事、予期していた事とは言え本物のラクス様はプラントにいらっしゃらない。今君の力が必要である、プラントの為に、と」
ユニウス・セブン前からスタンバっていたことはもう隠さない方向にしたのか。まあ、もう露見しているからね。デュランダル議長に言い包められる所まではこちらも知っている通り。 - 74二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 01:52:07
ミーア「本当に私がラクス様の代役を、このように早く…。いざとなると心の準備は何も出来ていませんでした。フォックストロット・ノベンバー、ロゴスの策謀によりユニウス条約締結以来の平和が破られ、ブルーコスモスによるプラントへの核攻撃がなされた日。私は初めて皆様の前に立って、声を振り絞りました。どうかお怒りを静めて下さい。剥き出しの憎悪を叫べば、それは新たな戦いを呼ぶことに繋がると。
本当はこのお言葉をラクス様ご本人から賜りたかった、そして私達の小細工を速やかにお詫びしたかった。彼女の婚約者、特務隊アスラン・ザラにその日の内に事情を打ち明けることが出来たことが私達の微かな慰めでした」
アスランの名前が出た瞬間に、エレベーターの中の皆が顔を見合わせ、やれやれと言った反応を示す。まあ、何であれ、時は戻らない。彼が同じ轍を踏まないよう祈るばかりだわ。
アグネス「(おや?)」
ふとモニターを見返すとミーアの顔に徐々に生気が戻っていく。さっきまでは憔悴しきった顔、半泣きで話していたのに。
ミーア「お仕事が本格化した後は緊張の連続でした。それでも戦火の中、忠勇なるザフト軍将兵は、皆ラクス様をお慕いしていらっしゃって。私の存在は嘘で塗り固められたもの、自責の念に苛まれ続けました。それでも!皆さんを励ましたい、その一心で噓を付き通そうと必死でした。ラクス様のように、自分の声が皆様に届きますように、早く戦争が終わりますように、共に―私は末席ながら―頑張りましょうと」
応援演説のパートか、謝罪会見の後に如何なものだろう。ここからでは市民の反応は読めない。
ミーア「慰問コンサートには地球の人も待っていて下さり、お声かけて下さり、感激したものです。本来、私に向けられたものでは無い笑顔、それでも私を奮い立たせるには十分なものでした。しかし―」
しかし―の声と共に彼女は自分の右手を左胸に当て、苦し気に絞り出すように、哀切な口調で訴えかける。
ミーア「しかし戦禍は何時まで経っても止みません。連合の行いはやがて一線を越え、世界を恐怖に陥れようとしているかのよう。でも、それは私の思い違いでした。真の悪はロゴス、連合の一般将兵もまた被害者であったのです。議長のご指摘は、お言葉は正鵠を射ていらっしゃる。なのに!限られた立場の人の耳にしかそれは届きません」 - 75二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 01:57:48
いよいよ彼女の言葉は熱を帯び始める。今が勝負どころと言った所か、議長にとって、ミーア・キャンベル自身は―。
ミーア「ラクス様のお言葉がどうしても必要です。本当にそれで世界が変わるなら。ああ、どうか変わってください。今はいらっしゃらないラクス様の縁として、どうか私の声を聞いてください!」
感情を激して、画面の先に訴えかけると、何とミーアはここで一曲歌い出す。
ガズウートパイロット「これはミーアの持ち歌『EMOTION』!」
ガズウートパイロット「アカペラなのに凄い」
それどころじゃないわよ。睡眠不足のせいなの?!しっかりし…。
あ…あれ?
アグネス「何だが…意味不明に惹きつけられる…。前からそうだったけれど、人の心を揺らす歌声、これは何?」
ルナマリア「さ…さあ?今まで深くは考えなかったけれど、そういう声音の性質なんじゃない?」
シン「歴史上の演説の名手にもそういう人がいたらしい…。う…」
突っ込みどころの多い謝罪と演説が歌の力で上塗りされる。しっかりしろ!う…いけない。疲労の蓄積、まともな睡眠も取れていないせいで―。
アグネス「なるほど…。だから彼女を今、投入するのね」
ハイネ「訓練を積んだ俺達がこうなら、デモ隊や徹夜でテレビ中継を見ていた市民も同じはず、と」
アップテンポな曲を聞き終わると何故か体に活力が満ちてくるわ。思えば、これまで彼女の歌を聞くたびこうなっていたのかもしれない。深く考えていなかった。
ミーア「皆さん。私はラクス様の威を借りた一介の歌手に過ぎません。私には血筋も家柄も特別な学歴もキャリアもない。たまたま声がラクス様に似ていただけの一市民、本来ここでこうして語り掛けるのも烏滸がましい小娘です。ですが―」
両手を組んで胸の真ん中に当て叫ぶように演説する彼女の声には何処か内面を曝け出すかのような痛切な響きが混ざる。
あれは私だ。本物でないだけで、確かに私が―と。 - 76二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 02:07:24
ミーア「それでも、選ばれた人間ではない、エリートでもない人間にも声を上げる権利はあります。今、ようやく世界は平和を乱す元凶を見つけ出しました。ここで私達が足並みを乱せば彼らの思う壺となります。
国民の皆さん、アプリリウス市民の皆さん。愚かな私の軽挙をどうかお許しください。
そして思い出して下さい。デュランダル議長は一人の偉大な政治家にして研究者ですが、決して無謬の存在ではありません。善意に基づくものであれども時として誤りを犯します。
彼が誤りを起こしたとき、犯しかけた時、それを指摘し修正し、場合によっては追及するのは最高評議会と60人議会の役割。彼等彼女等は己が役目を全うしようとしていらっしゃるのでしょう。正しい振舞いです」
ここに来てエリート批判か。デュランダル議長の経歴は絵にかいたような天才・エリートコースだろうに。民衆を煽っていきつく先がそれでは残念極まりないだろう。
ミーア「しかしデュランダル議長は既にご自分の誤りをお認めになり、真摯に反省し、改めるべきところは改めて行くと言明されています。それなのに一部の最高評議会議員や60人議会議員が何時までもこの政争を長引かせようとなさるかのよう。これでは、重箱の隅を突いて政局に利用しているのでは、と疑われても仕方ありません」
アグネス「謝ったんだからハイ、お終いとはいきません。そもそも本丸がまだです」
ルナマリア「ここで言ってどうするのよ」
確かにそうだわ。どうしても言いたくなってしまって、つい口に出てしまった。
ミーア「ギルバート・デュランダル最高評議会議長は最悪の事態を避けるべく、今も懸命な努力を続けています。ですからどうか皆さん、常に平和を愛し、今、またより良き道を模索しようとしている皆さんの代表、最高評議会デュランダル議長のお言葉を聞き、どうか信じて。非暴力を旨としつつ立ち上がり、国政を前に進めるべく行動しようではありませんか!」
後、数秒でカプセルは中間施設地帯に到着する。聞いているうちに良く分からなくなる。これは何処まで原稿でどこまでがミーアの本心なのだろう。少し判然としない。
アグネス「(これは救出時に『説得コマンド』が必要になるかも。うーん、誰に任せよう?)」
面識からすればアスラン…不安しかない。市民の反応も未知数―。デモ隊が変に活気づいていないだろうか? - 77二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 06:35:48
読者目線からすると議長は黒って思うけど作中世界の人間はまだ知る由ないもんなあ。
しかしまた議長優勢かこれ?どうなるんだろ - 78二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 06:53:00
このミーア、アコード能力のなかった場合のラクスよりも歌の能力高いのでは
- 79二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 07:31:13
「誰が悪い誰が敵だ」「こうするのが正しい」とか人を戦いに駆り立てるようなことラクスは絶対に言わないからキラが嫌悪感持つ奴
- 80二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 17:16:10
保守
- 81二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 17:32:46
アスランの中では無印の頃の回想シーンが流れてるかもしれない
(アスランが信じて戦うものは何ですか?戴いた勲章ですか?お父様の命令ですか?)
(敵だというのなら、私を討ちますか?ザフトのアスラン・ザラ!) - 82二次元好きの匿名さん25/04/17(木) 23:45:40
真逆の事を言わされているミーア
- 83二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 02:47:40
少し考えてみる。
市民の反応など大体予想が付く。少なくとも今頃、デモ隊は大いに気勢を上げているだろう。
では、私は?私達は、彼女の演説をどう捉えるべきか。数秒の間に、考えを纏める。
先ずこの動画が議長の直接指示で官邸内から放送されていた場合、その目的はこの政変の一発逆転-では無いだろう。
私が見るに議長にとってこの政変は既に引き分け狙いの条件闘争のフェーズに入っている。ただ相手にそれを気取られては条件が不利になるから最後の時までは拳は下げない、と言った所だろう。
アグネス「(宇宙港とエレベーターの奪還は迅速に行われたから、これに関して彼はまだ確定情報を掴んでいないはず)」
しかしミネルバのアプリリウス軍港入港を察知できない程、愚鈍な人物ではない。そしてミネルバが入港すれば、グラディス提督による軍港の掌握と民間宇宙港奪還は免れないとも。
何故なら、『惑星強襲揚陸艦ミネルバ』は彼の肝入り、艦だけでなく乗員とパイロットも含めてだ。この艦の到着が何を意味するか、デュランダル議長は誰よりも分かっているはず。
ではこの動画が議長の直接指示を受けず、若しくは不可能な状況で、あるいは彼が直接、手を汚すのを厭うて、ミーア係の配下が独断で流したものならどうか?
その場合、先の展開の見通しは著しく困難となる。
困難となるが、あの緑のマネージャー達-特殊隊員達-ならおそらく一発逆転思考を狙うと予想する。
戦争や政変のクライマックスの攻防では得てして中堅幹部が前のめりなのが歴史の常だ。あるいは議長もそれを見越して、ある種の曖昧さを以て命を下しているかもしれない。
ではミーアの演説単体ではどう評価すべきか?彼女の本音は何処にあるのだろう。
表示板を見上げ、考察する時間が有るかを確認しようとすると、ちょうどハイネ先輩の視線が私の瞳に合わさる。
ハイネ「ミーアが言ったことを考えているか?」
アグネス「はい」
ハイネ「それで?」 - 84二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 02:59:26
短い問いかけ。でも周囲の皆が興味津々で聞き耳を立ててくるのには困ってしまう。
仕方ない。思いついた点だけは触れておこう。
アグネス「ミーアはやや婉曲的ではありますが最高評議会議員と60人議会議員の事を非難しています。これは明確に議長たちの意図。ミーアの本心とは別のはず」
ハイネ「そうだな。彼女はこの政争に巻き込まれた側だろう。どっちをどうとかでは無く」
いや、『どっち』の中に入れられていない自然な存在がある。
アグネス「注目するべきは、あの演説にミネルバ及びグラディス提督への直接の非難・批判が含まれていなかったことです」
道中、L1宙域で襲撃は受けた。あいつらはからは禍々しい意志を感じた。その先、グラスゴー隊から勧告文が副官の口から伝達され、戦闘に及んだ。しかし、L1の奴らはどうかは分からないが、グラスゴー隊以降の議長側からグラディス提督への攻撃意思は感じられない。どこか遠慮していると言ってもいい。
あくまで彼女個人への配慮(?)であって、私達は変わらず修羅場なのだけれどね。
シン「ああ…そう言えば」
ルナマリア「妙ね…。あの噂、やっぱり本当だったのかな」
ショーン「でも政治家ですよ。いざとなったら妻子も捨てる人たちです。まして結婚もしていないのでしょう?!」
デイル「グラディス提督には死別した旦那さんとの間にお子さんも居るわけだし、うーん」
普通はそうだろう。政治家と言う人種は―いや、政治家も様々だ。議長の場合は―
アグネス「(議長からグラディス提督への感情は純愛に近いものがあるのではないかな。そう表現するには乱れているし公私混同も甚だしいけれど―)」
忘れられぬ執着と懐古。それ以上の何か。ギルバート・デュランダルと言う一人の人間にとってタリア・グラディスと言う女性は、おそらく彼自身の人格形成に関わるほどの重要な存在なのだろう。 - 85二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 03:16:24
ハイネ「そうだったな…。やはり議長にとって彼女は特別な人なんだろうな。議長傘下の者達も主人の逆鱗には触れたく無いんだろう」
アグネス「はい」
その割に都合よく酷使していたように思うが、軍事素人の愚行はこの際、どうでも良い。
ハイネ「他は?」
アグネス「『非暴力を旨としつつ立ち上がり』の所。【非暴力を旨とし】の部分はミーアの挿入では無いかと思います。少し小難しい言い回しですが、演説の流れに乗れば言えたはず」
思うに、議長なり緑の特殊隊員の原稿にはおそらく、『勇気を持って屈することなく立ち上がり、国政を前に進めるべく行動しようではありませんか!』とでも書かれていたのではあるまいか。ニュアンスとしては。
ミーアに語らせているのが議長でも特殊隊員でも。これから市民を自宅から引っ張り出し、デモ隊にもうひと暴れさせ、条件闘争なり一発逆転狙いに行こうと言う時にわざわざセーフティーを掛ける意味はない。ビルに突進するなど暴力そのものでは無いか?
議長側の『アリバイ作り』にしても、あれはではあからさま過ぎる。
おそらく平和を願う、流血を回避させたいと言うミーアの心がポロっとこの文言を言わせしめたのではないか?意識的にしろ無意識的にしろ。
アグネス「(そうであって欲しいと言う、私の願望に過ぎないかも知れないけれど…)」
そう話すとエレベーター内の皆も同意してくれる。何だかホッとしたような安堵の表情を浮かべながら、ね。
シン「まだ彼女は味方なんだな…」
アグネス「味方の定義にもよるけれど、ユニウスセブン落下テロの黒幕疑惑については彼女にも既に伝えてあるわ。彼女が『本物のラクスと自分』をどう思おうと、凶悪なテロ共謀容疑者と心中する意思までは無いでしょ」
とは言え、動画を見るに彼女は狼狽え、追い詰められ、冷静な判断力を喪失しているようにも感じられた。『ラクス・クラインとしての自分』と『ミーア・キャンベル』の狭間で揺らいでいる隙に、デュランダル議長派の生贄にされないか心配だわ。
アグネス「(そう。ミーア・キャンベルを生贄にさせてはならない。個人的な感情としても、私達がこの政変の敗者にならないためにも)」 - 86二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 03:29:23
この数秒間に思い付けたことはここまで、時間切れだ。到着を知らせる人工音声と風切り音と共に開くドアが私達に次の戦場に向かうよう急き立てる。
ハイネ「-降りよう」
アグネス、一同「はい」
エレベーターホールに降りて見ると、ヴィーノとヨウラン達技術班と医療班が迎えてくれる。喜色に満ちた彼らの表情を目にし、やっと胸に閊えた氷が溶けだしたような気持になる。
アグネス「(なんかこう言うの良いわね。少し救われた気になれる)」
電動車椅子も2台準備されている。ハイネ先輩はストレッチャーに乗せられるらしく、1台準備されている。
ハイネ「技術班の皆、ありがとう。おかげで任務を果たせた」
ヴィーノ、ヨウラン、技術班「はい!」
ハイネ「じゃあ、皆。それぞれの務めを、しっかりな」
アグネス、一同「はい!」
ハイネ先輩は短い挨拶の後、用意されていたストレッチャーに乗せられ医務室へ。私達は技術班に鞄ごとドローンを引き渡し、背中のパーソナルジェットのバッテリーを交換してもらう。
私の場合は、その間も任務がある。ヨウランから特大ウエストポーチを受け取ると中から業務用デバイスを引っ張り出し、パーソナルジェットのメンテを受けながらもスイッチを入れ、国防委員会と回線を繋ぐ。
看護兵「アグネスさん、鎮痛剤とミネラルウォーターです。顔!ちょっと、かなり辛そうですが…」
アグネス「ありがとうございます。辛いです。でもベストを尽くすのみです」
コールの間に短く看護兵さんとも言葉を交わす。2重にしているパイロットスーツのヘルメットを外し、もう飲み慣れてしまった鎮痛剤を水でぐびっと飲み込む。
休んでいる暇はない。薬を嚥下した次の瞬間には、勢いよくシュライバー国防委員長のお顔が画面に飛び込んでくる。
シュライバー「キャンベル嬢の放送を聞いたか!?ああ、こっちは大変な騒ぎに…」
アグネス「聞きました。そちらは、バリケードが突破されそうですか?」
シュライバー「いや、それは未だ。何とか…。君の周り、人はおるか?」
やはりデモ隊の士気は高揚しているのね。そして、人払いをご希望か…。ちょっと無理ね。 - 87二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 03:39:38
アグネス「人払いは難しいかと。イヤホンマイクを差します。閣下からお話しする分には漏れ聞こえることは無いかと。私からは文字打ちしてお知らせします」
シュライバー「ああ、頼む」
そう言って、傍の皆に視線を送る。各々取り込み中の中だけれど、それを受けて、私の周囲から少しずつ距離を開けてくれる。
偶々目が合ったガズウートパイロットに一人、彼は体調に支障をきたしていたらしい。気づいてあげられなかった…。
アグネス「(軍医殿から栄養剤を受け取っている―。多分、体調と言うか精神的な問題…。もう皆、限界だ―)」
お疲れ様、もうちょっと一緒に戦いましょう。そう思う他ない。
さてと、パーソナルジェットをヨウランに任せ、自分はエントランスのソファーにどっしりと座る。
もっと女性らしい、恥じらいのある仕草を心掛けて来たのに。最近はずっとこう。はぁー。
アグネス『閣下、イヤホンマイクを差し込みました』
キーをカタカタ打ち込むと、国防委員長からは口頭で事情が伝えられる。
シュライバー「バリケードは…正直、かなり圧されている。キャンベル嬢の演説を聞いて、しょげていたデモ隊がすっかり元気に。一応、新たに合流を図る者は司法局公安が止めている」
アグネス『キャンベル嬢が宇宙港に到着した時点で想定済みであったことかと。ただ、警備隊の疲労が心配です』
シュライバー「ザフト軍事ステーションから到着したジュール隊ナスカ級ルソーから陸戦隊が上陸している。順次交代で休ませる手筈だ」
ほう!レイが破壊したザフト軍事ステーションの軍港の応急修理が完了していたのか。しかし―。宇宙港にルソーは未だ着いていないが、何処から陸戦隊を?
シュライバー「最高評議会ビル地下緊急脱出艇ドックからだ。このドックの事は極限られたものしか知らないだろう。君を信頼して話す。いやぁー、カナーバ元議長が、実は私も―ゴホン!ルソーはドックの外側に係留中だ」
アグネス『初耳です。閣下のご信頼に報いるべく努力します。それでは陸戦隊と装備の目途は着いたと理解してよろしいでしょうか?』
シュライバー「ああ、警備隊と増援の内、疲労著しい者を下げて。専門部隊と十分な数の非殺傷兵器を運び込んだ。バリケードを内側から開いて蹴散らす手も有るが…。最後の手段とするべき、そうだな?」 - 88二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 04:00:17
最高評議会ビル地下緊急脱出艇ドック、そんなものがあろうとは。成り行きで国家機密を知ってしまった。ノーガードだったと言う事は、議長一派は知らなかったのか?
今はどうでも良い。国防委員長の問いに早くお答えしよう。回答は勿論、YES!
アグネス『はい。その方法を選択した場合、国民の軍に対する信頼は崩壊します。本当に最後の手段とするべきです』
シュライバー「ふむ。そうだな。市民に死者が出たら、もう堪らない…。説明は以上だ。君の見解を利かせてくれ」
ルソーがドックのすぐ外側に係留中、となれば―。
アグネス『デュランダル議長は、次の一手として各議員の切り崩し工作を仕掛けてくると思われます。閣下、分を過ぎた発言をお許しください。私は係留中のルソーに60人議会議員全員を【議会機能ごと】一時疎開させることを進言します。必要とあれば『移動する議場』に出来ます。
カシム立法委員長から疎開案を提出、即刻議決していただき、以後、政変終結まで60人議会の議事はナスカ級ルソー内で進めていただきましょう。物理的に彼らを議長から『完全保護』するべきです』
要は議長側に寝返りを打たれない為の体のいい監禁とも言える。これまでの最高評議会ビルの対応は60人議会を掌握で来ていたからこそ、朝日が昇って議長の話術と市民の圧力で造反議員が出れば、こちらは破滅する。
議員方にとっては気に障るかも知れないが、止むを得ない。今が踏ん張りどころであることは60人議会議員の皆様もよくお分かりのはずだ。
シュライバー「名案と思うが…。しかし、それでは『政治家が首都から逃げ出した』として市民の失望を買わないか?」
アグネス『それを回避するために、最高評議会議員の皆様は最後までビルを死守するべきかと。60人議会疎開案はこれがセットです。議長でもあるカシム立法委員長以外の今ビルにいらっしゃる皆さま、ルイーズ・ライトナ―最高評議会議員、閣下ご自身、オーソン・ホワイト最高評議会議員、エドアルド・リー国防委員、アラン・クラーゼク国防委員、リカルド・オルフ国防委員、アイリーン・カナーバ元最高評議会議長、元最高評議会議員エザリア・ジュール夫人は踏みとどまっていただく必要があります』
ヴァレンヌ逃亡事件を再現すれば、こちらは自滅する。60人議会を不承不承でも『避難』させるには最高評議会議員自らリスクを背負う姿勢が欠かせない。 - 89二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 04:11:09
アグネス『上位の最高評議会議員がその覚悟をお示しに成れば、60人議会議員の賛同も得やすいはずです。閣下と皆さまは、ビルにただ残るだけでなく、玄関や窓から姿を見せ、国民と市民にお姿を披露し、最高評議会議員のお覚悟とその権威が健在たることをお示しください』
キーを叩き終わると、国防委員長の顔色はサッと青褪める。
シュライバー「デモ隊に紛れた特殊隊の狙撃を受けるのでは?」
アグネス『可能性は大いにあります。そんな手法は悪手の極みですが、議長の焦りや配下の暴発の恐れも否定はできません。閣下と皆様の身を私も案じて止みませんが、凶事がもし起これば疎開済みの60人議会議員から繰り上がって最高評議会議員が新たに選ばれ、ランチで緊急脱出艇ドックに再上陸する運びとなるでしょう』
私の返事を読んだ国防委員長の顔は一瞬真っ赤になり、また青白くなる。無理もない。余りな言い様だと自分でも思う。要は『死を決して覚悟を示せ』と言っているのだ。直属の部下から!
アグネス「(それでも私を面罵したりしないのは、これまでの奮闘してきた実績を慮っているため。彼が、自分より遥かにリスクを背負って政変に臨んでいた一群の者達の存在を、一顧だにしないような無情な人間ではない証だ)」
それならばもう一言、言い添えておこう。これはキーを打つまでもない。口で言う。
アグネス「『もし今陛下が命を助かることをお望みなら、陛下よ、何の困難もありません。私達はお金を持っていますし、目の前には海があり、船もあります。しかしながらお考え下さい。そこまでして生き延びたところで、果たして死ぬよりかは良かったといえるものなのでしょうか。私は【帝衣は最高の死装束である】という古の言葉が正しいと思います』。
閣下、国防委員会の皆様が纏っていらっしゃる制服の色合いは奇しくも緋色に親しく、文官系評議会議員の群青色の衣は高貴なラピスラズリの趣があります。偉大な先人の雄姿を再現するのに躊躇う理由は無いと思案します」
私の話を聞いたシュライバー国防委員長は何か思う所があったらしく、少し悪戯っぽく眉を上げる。
シュライバー「悪くないな。その言葉、私が説得の際に使っても良いかな」
アグネス「はい。テオドラ皇后も今更、とらかく仰ることは無いでしょう」
シュライバー「良し…では、他にあるかな」
再びキーを叩く。 - 90二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 04:20:30
アグネス『政変後の議長の処遇をこれ以上、協議するのは無益であると愚考します。あれ以上の譲歩はあり得ません。最高評議会議員の皆様のコンセンサスは形成されていますか?』
シュライバー「あれが限度、それが共通認識だ。問題ない」
良かった。では、今の所はもう思いつかないな。ああ、そうだわ。
アグネス『キャンベル嬢の演説に関する私の所感を述べさせてください』
シュライバー「おお、そうだ。本題はそっちだったな!どう思う?」
その質問にエレベーターで皆に話したことと、自分の内心で思った事を取り急ぎまとめてキーを叩く。
シュライバー「やはり説得の手間がかかるか…」
アグネス『止むを得ない政治的コストかと思案します。私が一番恐れているのは説得が上手くいくか否かではありません。彼女が無事なら失敗しても良い。怖れるべきなのはキャンベル嬢が今、大衆の目前で、それも私達の誰か実行したように見せかけられたうえで、暗殺されることです』
シュライバー「議長サイドの偽旗作戦と言う事だな…。分かった。皆にそう伝えよう」
アグネス「ありがとうございます」
お礼を言って敬礼を交わし、デバイスをスリープモードに。時間はほとんど経っていないのに…。お偉い人への助言は疲れるわ。そう考えるとパパは凄いなぁ…。
ヨウラン「アグネス、パーソナルジェット。バッテリー交換とメンテ終わった」
アグネス「ありがとう」
ヨウラン「背中に付けるの、俺がやるよ」
アグネス「本当にありがとうね。30㎞からのジャンプ、中々だったわ。ねえ、私が将来、地球でカーマン・ライン、高度100㎞からのジャンプに挑むときもお手伝いをお願いして良い?」
頭を休める為の軽口を人の好い同期に叩いてみる。さっき思いついた冒険だ。何時どうやるかは考えてもいないが―。
浅黒い青年はそれを真に受けて考え込み、背中への装着を終えたところで返事をくれる。
ヨウラン「良いけれど、先ずは高度41㎞辺りから練習しよう」
なんか乗り気ね。嬉しさ半分、困惑半分、でも心強いわ。
アグネス「ええ。まあ、41㎞は西暦でナチュラルのご先祖様達が達成しているから、ウォーミングアップね」
ヨウラン「まあ、な」
アグネス「(これは半分強がり。そう強がり、心で負けては駄目だわ。勝てる勝負も勝てなくなるからね)」 - 91二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 11:28:22
☆
- 92二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 12:13:29
- 93二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 21:01:53
☆
- 94二次元好きの匿名さん25/04/19(土) 00:57:13
保守
- 95二次元好きの匿名さん25/04/19(土) 02:27:08
保守。
- 96二次元好きの匿名さん25/04/19(土) 06:05:52
パーソナルジェットのバッテリー交換が終わった所で、今度はトライン副長からの通信が入る。
アーサー「大仕事の直後に済まないが、計画を前倒しする。『軍政下での宇宙港・中央エレベーター正常化宣言』は今から10分後に発信する」
アグネス「了解。反対側居住区はどのようになっていますか?」
アーサー「官庁街側に先行する形でジェセック最高評議会議員が各自治会と物流業者、郵便局、学校や病院に通知した。彼方の昇降施設は3分後に開く」
やはりミーアの演説の影響は大きかったと見える。向こうが攻撃を繰り出して来るなら、こちらも応戦有るのみと言う訳ね。
アグネス「了解」
アーサー「君達には施設内自動車を手配してある。以後の動きはメールで送った。読んでくれ」
アグネス「了解」
妥当な決断、そう判断して構わないだろう。議長の妄言や策動に動ずることなく、私達は粛々とアプリリウス市の都市機能正常化を進める。それが事変解決の近道と見るべき。
アグネス「注目!中間施設地帯移動用自動車が来ます。乗り合わせ地点まで移動します」
シン、ルナマリア、一同「了解」
私の伝達を聞くやその場の弛緩した空気が一気に引き締まり、皆の時が動き出す。この辺り、訓練された人間は強い。技術班も移動準備の為、高速で身支度を始める。
私はヨウランにアイコンタクト、お礼を言う時間も惜しいからせめて目礼をする。彼も気が付いて目礼を返してくれる。お互い大変だわ。
皆の準備が整うまでの15秒ほどの時間にトライン副長から届いたメールの冒頭に目を走らせる。
先ず、レイの馬鹿がスラスターを破壊した月軌道艦隊ナスカ級3隻が牽引されてザフト軍事ステーションに入港済みとの由。各艦に積まれていたモビルスーツとパイロットは救助に来た軍事ステーションから救助に来た各艦に分乗し、先程、アプリリウスに到着したとのこと。
必死に事態に対処しているのは私達だけではない。後続てくれていた戦友がたくさんいる。忘れてはいけないわね。 - 97二次元好きの匿名さん25/04/19(土) 06:36:54
皆が高速で準備を整える中、私はデバイスにイアホンマイクを差して、文章は読み上げモードに切り替える。
一刻千金どころでは無い、一秒万金だわ。読み上げられ続けるメールを聞きながらソファーから電動車椅子へ。それを目にした看護兵が1名、慌てて駆け付けて来て下さる。足を怪我しているから、と。本当にありがたいわ。
ご厚意に素直に甘えさせていただき、一、二の三で車椅子に搭乗完了。少しほっとする。やっと体が楽になった感じ。
その間、5秒ほどで周囲の準備は完了している。シンも電動車椅子に座っている。見た所顔色も悪くない。
ルナマリア「アグネス、何時でも」
ヴィーノ、軍医「こちらも終了」
アグネス「了解。移動しましょう」
他の人達は駆け足、私は迎えの車までの移動時間中も報告を聞き続ける。
アグネス「(司法委員-ジェセック司法委員-から国防委員会にエレベーター昇降施設の警備協力が要請。国防委員会は了承し、先ず大規模デモ未発生側の居住区昇降施設敷地及び出入り口にモビルスーツ隊を降下を決定した、と)」
この決定の真の目的は『先例』を作り。いよいよモビルスーツ隊の投入も含めた最終フェーズが始まった―少なくとも彼らはそう見ている。民衆との衝突が発生しえない反対側の施設に隊を下ろして『慣らし運転』を始める。
反対居住区昇降施設警備には後から到着した月軌道艦隊ナスカ級1個小隊3機を下ろすとある。ブレイズザクはM68 キャットゥス500mm無反動砲を装備、弾頭は催涙弾。
ガナーザクのM1500 オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲は放水砲に交換済み。
他、ビーム突撃銃は 76mm重突撃機銃に交換して、銃弾は催眠弾となっている。おそらく、これを基本装備としてこの政変に当たるつもりなのだろう。
アグネス「(そうなると私達の出番も直ぐか…。私達は官庁街方面、激戦地の方ね。死者だけは出さないようにしないと…)」
それともう一つ。『慣らし運転』や『先例作り』に時間を割きすぎれば、デモ隊-議長サイドーに対処の間を与えてしまう。これは連続した『攻勢』の一部でなければいけない。上申するべきか否か。
ちょっと迷っていると、メールの先の部分で同じ指摘をグラディス提督がなさっていたわ。国防委員会も了承済み、何よりね。 - 98二次元好きの匿名さん25/04/19(土) 10:39:57
いよいよMSを投入か…ってアグネスたちも出るのか!?
潜入任務から戻ったばかりだけどまた倒れないかな。いや、休んだら動けなくなるから動き続けるしかないのか - 99二次元好きの匿名さん25/04/19(土) 16:16:37
☆
- 100二次元好きの匿名さん25/04/19(土) 22:34:24
保
- 101二次元好きの匿名さん25/04/20(日) 02:33:47
皆で乗車位置まで駆け足で進むと、そこには中間施設地帯用のマイクロバスが3台待っていた。昨晩の空挺作戦の際、私達は業務用エレベーターで非常口に向かったが、ヴィーノ、ヨウラン達はこうしてここに来たのね。
ヨウラン「手伝うか?」
アグネス「ああ、大丈夫。この電動車椅子、普通に階段も走れるみたいだし」
ヨウラン「良いから!」
ヨウランと駆け付けた整備兵が、よっこいしょ、と車椅子ごと私をバスに押し上げ、乗車させてしまう。何気にこの人たちも怪力ね。
アグネス「ありがとう」
ヨウラン、整備兵「おう」
私のお礼を受けて、二人は何やら嬉しそうな返事を返す。どこか見慣れたような、それとはまた違うような笑顔…。
アグネス「(元々、私は男子受けを考えながら、これまで行動してきた…)」
だからいつも通りのこと…。でも何だか今は心苦しい。こんな気持ちになるのは、脳内が常時、走馬灯状態になっているためだろうか。
アグネス「本当にありがとう。皆も移動、急ぎましょう」
ヨウラン、整備兵「了解」
それだけ伝える。じっくり話す暇はない。分からないことは分からない。今日の所は青年を紳士にするのも淑女の務め、と思うことにしよう。
それにぼさっとはしていられない。次から次へと旧2番ランチ組が乗り込んでくるから。先に乗った私は全員乗るのを今か今かと待つ。ほんの数秒の事を何を焦っているのか…。
バス操縦兵「出します。目的地は中間施設地帯内モビルスーツ格納庫、そこに皆さんが乗る機体も」
アグネス「了解。お願いします」
バスが電動音と共に走り出す中、業務用デバイスのスリープモードを解除し、この政変の全体状況の把握を開始する。いろんなことが僅かな間にも同時に進行するから、気が休まらない。
アグネス「(まず、最高評議会ビル60人議会緊急議会では、カシム立法委員長がルソーへの『議会疎開』を提案し緊急多数決で可決された、と)」 - 102二次元好きの匿名さん25/04/20(日) 02:43:55
『提出、採決、可決』10秒で終わった、と言うか、終わらせたとの由。平時ならあり得ないスピード採決であったそう。それが問題ないとは言わない。でも―
アグネス「(今は非常時故止む無し。立法委員長を説得した国防委員長のお手柄ね)」
疎開先になるジュール隊所属、ナスカ級モビルスーツ搭載型高速駆逐艦ルソーは、最高評議会ビル地下緊急脱出艇ドックの外側に停泊、係留中だ。同じくジュール隊所属ナスカ級のボルテールが護衛の為、傍に控えている。
先に中間施設地帯にお戻りのジュール隊長とエルスマン副隊長は、白いグフとグレーのブレイズザクファントムで母艦に帰還されたとのこと。ミネルバからはジン長距離強行偵察複座型2機を応援に付けている。疎開先で奇襲を受けて議会が全滅しました、等となったら目も当てられない。
アグネス「(でもこれで…。イザーク先輩とディアッカ先輩がお守りくださるなら、もう60人議会の心配はしなくていい)」
ついでに彼らの造反の心配もしなくて良い。別に疑ってなどいないけれど、議長の政治力は侮るべきではない。
アグネス「(ジュール隊の話は一旦置いて、今度は私達、ミネルバと月軌道艦隊の番だ。ジン長距離強行偵察複座型2機の動向は先に確認した通りだけれど…)」
アプリリウス軍港には我が艦隊のモビルスーツ隊が追加で18機上陸済み。レイの攻撃で同時到着とは行かなくなったが、結果的にこのタイミングでも問題は無かった。
トライン副長は18機から1個小隊3機を先ず抽出し、官庁街と反対の居住区の中央エレベーター昇降施設敷地内に降下させる手はずだと言う。
アグネス「(当作戦は『国防委員会が司法委員会からの正式な要請を受けて派遣した』もの。本当にそのまま本当のことだ。協議の結果、モビルスーツの着地ポイントは司法局公安職員たちが張った警戒線の内側となるわ)」
やはり一義的には、文民警察に対応してもらわないといけない。地上国家で喩えれば―。
警察からの協力要請で軍が首都中央駅の治安維持のため出動したと言う所で、軍隊が来たからと言って警察が『お疲れ様です。後はよろしく』とはならないのと同じことね。
アグネス「(モビルスーツの内訳はブレイズザク2機(M68キャットゥス500mm無反動砲:催涙弾、76mm重突撃機銃:催眠弾)とガナーザク(放水銃と76mm重突撃機銃:催眠弾)と…)」 - 103二次元好きの匿名さん25/04/20(日) 02:52:13
私の確認中、後ろからスヤスヤとした寝息が聞こえる。ほんの数分か数十秒の移動も彼ら彼女らには血の一滴のように大切な休息だ。
私もスヤスヤしたい―。本当にもうギブアップした…い?!
業務用デバイスのモニター越しに中継映像が流れ始める。戦友3機が中間施設地帯のプラント内側モビルスーツ出入口から飛び降りだしたわ!心の準備が出来ていないのに。
アグネス「注目!官庁街の反対居住区エレベーター昇降施設敷地内に我が方モビルスーツ小隊降下開始。内訳はブレイズザク2、ガナーザク1、武装は主に非殺傷兵器。ただし敵モビルスーツ特殊部隊の万一の来襲に備えてビームトマホークは装備中。以上!」
シン、ルナマリア、一同「了解!」
疲労のあまり半分放心状態だった皆の集中力は私の一声で即時に回復する。ゾンビ軍団みたいね、私自身も含めて。
アグネス「(上手くいくか…)」
プラントの空を私達から見ると逆向きに、そう先程、飛び降りた私達とは頭と足を逆にして下りて行く3機を見守る。スラスターの出力を微調整しながら、目の上の大地に向かって下りて行く3機のモビルスーツ。
アグネス「(きっと地球の人達から見れば何とも摩訶不思議な光景だろう。重力の在り方が異なる故にこそ生じ得る現象。私達にとっては当たり前の物が彼らにとっては一生の珍事だ。逆もしかりだわ)」
それ故にこそ相互理解も難しい。環境や暮らしの違いが精神や成長に及ぼす影響は決して小さくはないだろう。もっとも、そんな考察をしている場合ではなく―。
ああ、もう直ぐ大地に立つ。どうなる?降下先、警戒線の周囲は人だかり、野次馬が集めっているわ。
ここで転んだら話が進まなくなる。一応、彼らの『足元』は警察が開けてくれているのだ。頼むから、皆大人しくしていて…。
民衆「うっぉー!」、民衆「やったぞ!」、民衆「速く港を開けてくれ!」、
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
アグネス「あれ?既視感??」、シン「どうしたんだろう?」、ルナマリア「あの人たちは…」
後ろから上半身ごと乗り出したシンとルナマリアも目を丸くしている。 - 104二次元好きの匿名さん25/04/20(日) 03:05:26
民衆「昇降施設の倉庫を早く開けてくれ!」、民衆「チケットのキャンセルが間に合わない!?ふざけるな!じゃあ次の便に乗るからその分はタダにしろ!」
何やらモビルスーツそっちのけで、施設の係員や公安員と喧嘩を始めている者もいるが…。ああ、あの人だかりはエレベーターと宇宙港の利用者、利用業者の皆さんなのね。
今の時間帯ならどちらかと言えば業者さんが多いか。いや、宇宙船の始発利用者も―。
アグネス「再度、注目!降下作戦は今のところ順調」
一同「よっし!」、ショーン「あーあ、ハラハラした…」、デイル「それでも世界は回るってな」
彼の言はもっともね。宇宙港とエレベーター遅延による経済・社会への影響は軽視できない。特に問題なのは食糧の流通だ。こんな騒ぎを何時までも続ければ、冗談抜きで市民が困るのだ。飢える、と言う切実な意味で。
アグネス「(最悪、『歩いて蝗のように喰える地を目指す』と言う地球の人の最終手段が宇宙にはない。食料生産は解禁になってプラントも頑張っているけれど、アプリリウスに限定して考えれば…)」
でも、流石に今日の学校給食やサラリーマンのお昼ご飯は大丈夫かな、うーん。
政府にも民間にも備蓄は有るが、配布するには、それこそ騒ぎの収束が必須となる。
それ故にこそ―作戦は尚も続く。モニター越し、今度は耳目の確保のためAWACSディンが2機発進している。武装は左手には90mm対空散弾銃、弾頭は催涙弾、右手には小型放水砲を装備している。使う機会が無ければ一番良い。
哨戒エリアは両方の居住区だが、官庁街方面は高高度からの偵察で今はお茶を濁す。変に下がれば圧迫感からデモ隊が暴発しかねない。
もう暴発していると言えばそれまでだが…。ギリギリまで彼らを気遣うべきだ。
アグネス「(気掛かりと言えば、ファウンデーション王国の親衛隊員アルバレスト氏は何処に行ったのだろう?私達が宇宙港を押さえた以上、アプリリウスには上陸できない)」
やはり途中から行先を変更したと見るべきか?プランBないしC、でもそれは何なんだろう。議長に肩入れしていると私は睨んでいるのだけれど、その程度が読めない…。 - 105二次元好きの匿名さん25/04/20(日) 11:02:10
ファウンデーションもそうだけど
今頃地球の方の状況はどうなってるんやろな…
こっちは議会もアグネス達も議長の対応に掛かりっきりだったわけだし… - 106二次元好きの匿名さん25/04/20(日) 12:39:42
プラントで食料生産はしてても、港が封鎖状態では生産コロニーから居住コロニーへの輸送ができないわけね。
- 107二次元好きの匿名さん25/04/20(日) 20:54:19
アコード達は何しているんだろ…ろくでもないことしてそうだけど
- 108二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 01:11:26
保守
- 109二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 02:45:00
私が心配している間もマイクロバスは進む。状況の変化も止まらない。
事前計画通り、小隊降下から1分も立たず、中央エレベーター施設管理事業者から現地でアナウンスが始まっている。『中央エレベーター運転再開』と。重いシャッターが引き上げられ、付属倉庫施設も開錠されていく。
彼方の居住区、特に物流業者、郵便サービス、学校、病院関係者は心待ちにしていたことだろう。学校が休みにならなくて学生、生徒諸君はがっかりしたかな。全区間開通までもう少しだ。
公安用出口からは爆睡中のデモ隊が運び出され続けている。目が覚めたら留置所や保護室で皆、吃驚することだろう。未許可デモで迷惑条例違反-まあ、最高評議会議員の皆様も重い罪に問う気は無いと仰っていた。首謀者以外は罰金ぐらいで済むのではないかな。
勢いで公務執行妨害や暴行、障がい、器物損壊罪を犯してしまった人はちょっと分からない。私は法務士官では無いし―。ただ、何れにせよ、これで正常化宣言は秒読み。止まったら死んでしまうチキンレースはギアをチェンジして加速を続けている。
バス操縦兵「到着しました」
アグネス「ありがとう。全員、降車せよ」
シン、ルナマリア「了解」
中間施設地帯内モビルスーツ格納庫でマイクロバスは止まり、中から皆で駆け出す。私とシンは電動車椅子で進む。
下車した後、まず目に飛び込んでくるのはミネルバの艦載機群、その後ろには月軌道艦隊ナスカ級の艦載機群。
シン「アグネス、あれ!」
アグネス「あれって、あんたね…。デスティニーって言いなさいよ!」
シン「そう、それ。デスティニー」
シンに思わず突っ込みを入れたが、内心では私も驚いている。ミネルバの艦載機であるインパルス、ガイア、グフ4機、アッシュ3機、バクゥハウンド3機、ザク3機等と混じって、鹵獲したばかりの新顔がもう並んでいるのだ。
アグネス「整備班の人達、凄いわね。あの短時間で応急修理にメンテナンス…。仮眠無しの徹夜なのは私達と一緒だったのね!」
後ろに着いてきたマイクロバスからは、件の整備班が次々と飛び出してくる。我等の戦いは何時終わるのやら。
ルナマリア「ねえ、中に誰が乗っているの?」
アグネス「待って…。アスランね!先着してモビルスーツ移動任務をしてくれていたわ」 - 110二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 02:56:02
ちょうどその時、格納庫にアナウンスが響く。
アビー「コンディションレッド発令、コンディションレッド発令、パイロットは搭乗機にて待機せよ。特務隊アスラン・ザラはデスティニーに引き続き、インパルスはシン・アスカ、ガイアはルナマリア・ホーク、アグネス・ギーベンラートとショーンとデイルはグフに搭乗とのこと。アッシュ小隊は前進せよ」
踏ん張りどころか、また。
アグネス「じゃあ、そういうわけで、武運を」
シン「うん」、ルナマリア「もうちょとね」
互いに励まし合い別れる。何か『もうちょっと』が口癖になりそう。本当に忙しない。
そう思ってグフに向かっていると後ろからヨウランと看護兵が全力ダッシュで追い抜いて行く。私の為か…。
アグネス「(自力で乗れそうな気もするのに、いえ、本当に頼もしい。そう思うべきね。勇気が出る)」
アグネス「デスティニー、整備班の皆、凄いわね」
先に着いて、大型昇降装置を操作してくれているヨウランに先程の感想を伝える。すると、彼は何やらこそばゆそうな面持ちになった後、取り急ぎ私に情報を伝達する。
ヨウラン「プラント内のことだからグラディス提督の指示で各機の武装は制限してある。デスティニー、インパルス、ガイアの高エネルギービームライフルは放水砲に換装し、CIWSの銃口は特殊樹脂で薄く覆って封印した。パルマフィオキーナ掌部ビーム砲も同じく。証拠写真と映像も撮った。でも、砲弾自体は装填済み。ビームも撃てる状態にはしてある」
なるほど、『不慮の事故』を発生させないための処置ね。証拠写真と映像は正常化宣言と同時か直後に流すのか。
となると―、自分が乗り込もうとしているグフを見上げてみる。
何時も重宝してきた両腕のドラウプニル4連装ビームガン、その砲門8つは現在、白色の膜に覆われている。よくよく見ると端の方に確かに封蠟が見える。多分、ザフトマークね。
アグネス「グフのテンペスト・ビームソードとスレイヤーウィップは使用可能なのね」
ヨウラン「ああ、自衛の為って。ドラウプニル4連装ビームガンも撃てばビームは出る。でも―」 - 111二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 03:04:01
アグネス「原則使用しない。自衛の為、止むを得ない場合のみ使用可と、分かったわ。他は―、デススティニーのアロンダイト・ビームソードはより小型のテンペスト・ビームソードに、M2000GX高エネルギー長射程ビーム砲は大型砲水砲に換装されているわね」
ヨウラン「そうだよ。こう、俺達も何時もと勝手が違って変になりそうだ」
確かに、これまでは如何に効率的に敵戦力を無力化-つまり殺して壊す―かの勝負をして来た。それも大変だったけれど。自国民を相手にした時の厄介さと比べたらなんてことは無かった。
ヨウラン、看護兵「良し、一、二、三、はい!」
昇降機がコックピット手前に着くや、掛け声と共に巨人の胸の中に身体を押し込んでもらう。パーソナルジェットをしょっているのだけれど、まあ、普段通りと言うのも大事ではあろう。
アグネス「ありがとう。ご武運を」
ヨウラン、看護兵「こちらこそ、ご武運を」
互いにエールを交わしてコックピットを閉める。機体を起動すると途端にコックピットモニターが灯り、ジェセック評議員、グラディス提督、トライン副長、アスランが顔を覗かせる。心臓に悪いわ。
ジェセック「戻って直ぐに申し訳ないが、水中モビルスーツを下ろして官庁街側の湖を制圧して欲しい。水上警察の巡視船、巡視艇は出動している」
ジェセック司法委員の勢い込んだ声、緊張感と寝不足から目つきが危うい。
しかし、作戦意図は正しい。
居住区の約7割を占める湖の制海権(制水権)確保と市民の水源確保が目的だ。空からの監視はもう確立しているのだから。
ジェセック評議員の発言を受け、グラディス提督が続きを述べる。
タリア「司法委員から正式に国防委員会に要請され、国防委員会から戦術統合即応本部隊長たる本官に命が下りました。月軌道艦隊の戦力を以て司法局水上警察の治安活動及び救難活動を支援します。ミネルバパイロット隊からはアッシュ3機を投入、アグネスは、ショーンとデイルと共にグフ3機で投入ポイントまでこれを空輸しなさい。アスランはデスティニーで彼女達を先導し、防御に備えよ」
アスラン、アグネス「了解」 - 112二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 03:10:44
地上からの攻撃が少し怖い。議長傘下の特殊部隊がロケットランチャーを発射してくるかもしれない。前大戦ではその方法でザフト軍モビルスーツが撃破された事例もある。
グフやアッシュにはヴァリアブルフェイズシフト装甲は無いのだ。
アーサー「デスティニーが哨戒飛行を、状況に応じてソリドゥス・フルゴール・ビームシールド発生装置を起動すればリスクを最小化出来る。なおアッシュの試製推進器複合型多目的ミサイルランチャーには水中デコイと催涙弾頭ミサイルが装填。高エネルギービーム砲と23mm2連装機関砲は封印、自衛時、止むを得ない場合のみ破ることを許可する」
やはり縛りが多いわね。問題は議長側の部隊の有無ね。
アグネス「国防委員会管理外の水中モビルスーツ潜伏のリスクを評価済みですか?」
ジェセック「評価済みだ。水上警察の水源管理データから。一応、その恐れは少ないと。分析には帰還したホーク嬢も途中参加してくれている。
それから、君達のアッシュ小隊投入と同時に水上警察のホームページを更新する。内容は司法局水上警察に対するザフト軍の支援と参加中のモビルスーツの武装詳細、これを動画サイトにも。私達が市民を攻撃する意図がない旨をはっきりさせておくことが最大の自衛-私はそう思うが、ギーベンラート嬢、どうかな?」
慎重居士になっている時ではない。正しい見解と配慮だと思う。
アグネス「小官も同意見です」
ジェセック「うん。ありがとう」
少しだけ表情が柔らかくなったジェセック評議員が私にお礼を言ってくれる。ちょっと嬉しいわ。
アグネス「(インパルスのシンやガイアのルナマリアには別の作戦があるようね。後で知らされるでしょう)」
そして一連の遣り取りが終わった後、地蔵と化していたアスランが重い口を開く。
アスラン「発進後の戦闘指揮は俺が執ることになった。付いて来てくれ」
アグネス「了解」
アスランも疲労が溜まっているかと心配したが、何時も通りの声音、さして問題はなさそうね。安心安心。
通信が終わるや、グフをハンガーを離れさせる。手を振る整備兵にコックピット内で敬礼し、デスティニーを先頭にグフ3機とアッシュ3機は2列となって気密隔壁の先に進む。
アビー「デスティニー1機、グフ3機、アッシュ3機の発進シークエンス最終段階。気密シャッターを閉鎖します。プラント側モビルスーツ用出入口開放します」 - 113二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 03:15:28
アビーの声と共に目前の隔壁が持ち上がる。途端に内部の空気は外に吸い出される。本当に今日は下りたり登ったり忙しい日だわ。
アスラン「グフは各機1機ずつアッシュを抱きかかえろ」
アグネス、ショーン、デイル「了解」
アスランの指示の下、目の前のアッシュを『抱っこ』する。グフの両腕を広げ、同じく両腕を広げたアッシュと抱き合のだ。アッシュは手がクローになっているからマニピュレーターのグフがより気を配って運搬しないといけない。
アッシュパイロット「お願いします」
アグネス「こちらこそ」
強壮な鎧武者と河童が抱き合っているような絵面、ちょっと面白いかもね。成功したら後世では絵になる組み合わせだと思われるはずよ。
アビー「ザラ隊、発進どうぞ!」
アスラン「アスラン・ザラ、デスティニー、発進する!」
アスランはデスティニーのスラスターを控えめに吹かせて中間施設地帯からプラント内部の空に飛び立つ。次は私ね。
アグネス「アグネス・ギーベンラート、グフ、出ます」
緑の戦友と抱き合いながら、フライトユニットのスラスターを吹かせ、円錐形の故郷に跳躍する。その後ろをショーンとデイルも『4人一緒』に続く。
後ろの2ペアを見守りつつ、私はデスティニーの背中を慎重に追いかける。
この作戦の肝は、飛び降りた後の飛行経路にあると言っても良い。
アグネス「(ジェセック評議員はあのように仰ったけれど、いざ、モビルスーツが居住区に投入されたとなれば心理的衝撃は途轍もない。向こう側で騒ぎにならなかったのは住民が『敵対』していなかったから。こっちではどうなるか…)」
正直、最高評議会ビル前のデモ参加者が司法局海上警察のホームページや公式動画を確認するかも怪しいところだ。
故に『アッシュ小隊3機を水面付近まで運び、襲撃等が無ければドボンと着水させて任務終了』では合格点はもらえない。素早く、かつ、下の市民に圧迫感を与えることなく、降下作戦を終了させないといけない。 - 114二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 03:45:15
故に目撃のリスクは少しでも減らす。真直ぐ降りるのが一番早く済むが―迷う所だが、今回はそのルートは選ばない。居住エリア上空1500m(1、5㎞)までは、プラント側面内部を楕円形に周回しながら、高度を下げて行くのだ。
アグネス「(この作戦は心理的圧迫を与えることを恐れてのもの、簡易レーダーなどで議長側に察知されても構わない。でも大衆が直に恐怖を感じ出すのは避けたい)」
それでも1500mより下になれば双眼鏡でも測定されるだろう。
1500を切ったら目標ポイントまで一直線、急降下してアッシュを下ろす。降下ポイントはアプリリウス市中心部の島状エリアとそれを取り囲む郊外の陸エリアの湖面上中間点、この方法でも軍用ならともかく、バードウォッチング用程度の双眼鏡では詳しく確認できない。
アグネス「(これを行きと帰り、合わせて5分で達成する。地味にきつい)」
そんな作戦を説明するアスランは平常モードだ。何と飛び出してから説明している。非常時だ、何も言うまい。
アスラン「地球と違ってプラント内は重力の変化が大きい。アッシュを落としたり、バランスを崩して隊列を乱すことが無いように」
アグネス、ショーン、デイル「了解!」
全高20.65m、重量50.59tの大荷物を抱えながらの連続大旋回。祖国の国土である人工天体の巨大さと小ささを同時に思い知る。
アスランの言うように下がり始めたときはアッシュの重さは大したことの無いように感じた。一周回って下がるごとにその重みがグラデェーションのように変化して、その有様が脳内を混乱させる。
プラント内を自分一人で作戦飛行した際には感じなかった心地だ。グラデェーションは周囲の風景にも及んでいる。エレベーターで上がって来た時は曙色、オレンジに近かった空が黄色に近い。つい見惚れそうになる。
そしてふと思う。身籠っていた時の母-ママ―が仕事で中央エレベーターを利用した時、同じような体験をしたのだろうか。自分の体だけでなくお腹の子供の重さまで変わると言うのはどんな気分だったのだろう。
不安だったのだろうか。産休に入った後はゆっくり家で過ごしたのだろうか?ナチュラルの親戚が暮らす区画を尋ねたりもしたのだろう…。何時も私に多くを求め続けたママ-。
アグネス「(次に会ったときに聞けばいい。今考えることじゃない…)」 - 115二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 03:51:31
下らぬ感傷に脳の容量を取られた。プロらしからぬこと、何を考えている!
眼下からは潜在的な攻撃の脅威、両腕には大荷物、少しミスをすれば戦友を居住区に落下させ、彼も下敷きになった市民も死ぬ。
アグネス「(不眠不休で、自分が明らかに平常な状態ではない事だけは分かる。でもそれが言い訳になるものか!)」
ああ、もう何でもいいわ。今、両腕の内にある戦友が無事に湖面に下りられて、潜った途端に撃破されたりしなければ、もうそれだけで合格よ。デモもビルも知った事か!
私の内心などお構いもなく、湖面が近づき、街はますます大きくなっている。アッシュはどんどん重くなる。
デイル「報告!手がズレそうです」
アスラン「了解。フォローに回る」
デイルの声を聞き、アスランが彼らに接近する。デスティニーで一度、アッシュを抱え、デイルのグフにもう一度、抱きしめさせるのだ。
時間のロスだが、確実性が大事だ。アプリリウスの全市民が見ている。少なくともそのつもりで行動するべき。
私は同じ失敗はすまいと、緑の戦友を抱く腕に慎重に力を込める。
試製推進器複合型多目的ミサイルランチャーが厄介だ。つい掴みたくなってしまうけど、掴んだらポロっと取れてしまうかも―。
アッシュパイロット「ご迷惑を。パラシュートが間に合えば良かったのですがのですが…」
アグネス「いえ。水中をお任せするのですから。これぐらいは頑張らせてください」
いけない。彼に心配をかけた時点で私の勝ちポイントは減っている。しっかりしないと!
高度と速度メーターを睨みながら、鏡のような湖面にさらに。私達は楕円状に降下しているから、湖は大きくなり細身になりを繰り返している。湖面の合流ポイントには巡視船が到着している。もう直ぐそこだ―。
そう―遂に上空1500m!
アスラン「急降下開始、デスティニーがビームシールドを展開しながら下を飛ぶ。安心して降りて来い。でも用心を怠らないよう」
アグネス、ショーン、デイル「了解!」 - 116二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 04:08:36
急降下開始後、街並みは一層鮮明に見える。朝の陽ざしに照らし出されつつある大都市、郊外の陸地では夜明け前のドライブと洒落こんでバイクを走らせている人影もちらほら。
文字通りの朝飯前と、自転車を爆走させている人も多い。
あの郊外は季節によってはお花見も楽しめる。ピクニックや散策、日が昇れば、きっと今日も賑わうことだろう。政変の真最中でも、間違いなく。
アグネス「(考えれば当然のこと。塹壕戦の最中にも兵士はクリスマスや誕生日を祝った。戦時下でもお花見したり、遊んだり、お祭りを楽しんだり。クーデターもとい政変など何処吹く風。それで結構よ)」
ただ、私はそこに加わることが出来ない。ここだけじゃない。見知った人たちが今も地上で戦っている。
操縦桿を目一杯引き上げ、グフのスラスターの全推力を以て逆進を掛ける。重い、でも頑張る。しくじればグフごと湖面にダイブだ。この距離では命が有るかどうかは危うい。
噴き出すスラスターの逆噴射、それが3つ!
市民の日常をお騒がせするようで少し気が引けるが―。大丈夫、彼等とは数キロの距離がある。中々速度が下がらない。しっかりしろ、地球ではこんなものでは済まない。
インパルスを作戦で運んだことを思い出せ!他の機体も運んだことがあったろう!?
そうだ、ゆっくりゆっくり…。まだ奇襲は無い。
アグネス「(いや…本当に隠れた部隊はいないのか?このまま下がって本当に大丈夫なのか?)」
不意に襲ってくる不安、視界に飛び込んだ巡視船、水上警察の甲板要員が手を振ってくださっている。
湖面にさざ波が立つ、だんだん大きくなる。私達のスラスターによるものだ。敵によるものではない…。
アスラン「安心して下がれ。下からの攻撃は無い!」
アスランの声がコックピット回線から聞こえる。下を―水面ぎりぎりを飛行するデスティニー―はその通信の直後にソリドゥス・フルゴール・ビームシールド発生装置を全力稼働させ、透明な大盾を水上に広げる。
それがどれ程の安心感を私達にもたらしたのか―。共に下りなかった人には想像もつかない事だろう。 - 117二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 04:30:11
アスラン「投下、タイミングは任せる」
アグネス「了解。何で行きましょうか?」
この『何で行きましょうか』はジャンプ後、ずっと抱き合っている相棒に掛けた言葉だ。10秒なのか、3秒なのか…。
アッシュパイロット「一、二、三で」
アグネス「了解、一、二の」、アッシュパイロット「一、二の」
アグネス「三!」、アッシュパイロット「三!」
その掛け声とともに私達は腕を解く。直後に水柱、ドボンと言う音、後ろにも2つ。結果は?
コックピットモニターに入電!
アッシュパイロット「無事です。自分も機体も。ありがとうございます」
アグネス「こちらこそ。ご武運を!」
彼と敬礼を交わしつつ、他の2機の無事もコックピットデバイスで確認する。良し、まあ、先ずは良いじゃない。
アスラン「アッシュ隊投下成功。俺達は帰還する。続け」
アグネス、ショーン、デイル「了解!」
帰路は降下時とは逆、1500mまでは急上昇、周回しながら中間施設地帯まで戻る。
アーサー「報告。手は休めることなく。シンとルナマリア、フォースインパルスとガイアがザク3機と共に官庁街側昇降施設敷地に降下した」
アスラン、アグネス「了解」
トライン副長からの入電。『慣らし』は着々と進んでいるようだわ。結構結構。次から次と通知が来て頭が一杯になりそうだけど、国防委員会直属の身故止む無し。幹部なのだから、私は!
アーサー「ザク3機は降下時、ブレイズバクゥハウンド3機も空輸。ファイヤービー誘導ミサイルの弾頭は催涙弾と催眠弾に換装済み。現在、司法局がデモ隊には撤収勧告、我々は敷地内と中央エレベーター接続道路上のバリケード等障害物の撤去作業を担当、バクゥハウンド隊は司法局機動隊を背後に率いる形で最寄りの郵便局に向け前進」 - 118二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 04:37:44
おや!それは。一度に『攻勢』を仕掛けたわね。
アグネス「(でも…なるほど、作戦意図は至極真っ当なもの。アプリリウス市民にとって宇宙港とエレベーター『だけ』を正常化したところで意味はない。それらと主要な物流センター、郵便局等が結合してこそ意味を成す)」
故にこれらを結ぶ幹線道路も開通させる必要がある。これが『正常化宣言』前の最後の仕上げね。加えて言えば明らかに目立つこちらの降下作戦は、私達の側面援護の意味もあったのだろう。
しかし現場には、まだそこそこ抗議者が居たはず。
アグネス「抗議者との間に衝突は発生していませんか?ハイネ先輩の説得である程度は帰宅したかも知れませんが…」
アーサー「今の所、衝突は起きていない。キャンベル嬢一行出発後はデモ隊も徐々に最高評議会ビルに転進していた。現在、周辺には業者と利用予定者の方が多い。ああ、それと」
それと何だろう?
アーサー「別の理由で野次馬が集まってきている。何やらファンを名乗る人達が…。私達はほら―有名-だから。インパルスやバクゥハウンドは外見からもよく目立つ。
何でも『カオスは来ていないのか』、『セイバーとカオスは修理中なのか』と聞いてくる人もいるのだとか」
アスラン「はぁ…」
回線越しにアスランの呆れたような声がするが、なるほどそう言う訳か。
アグネス「私達は『英雄』なるほど。イメージ戦略が成功して議長閣下も鼻が高いでしょう」
つい嫌味を言ってしまった私を誰が罰せられようか。軍民融和大いに結構。
冗談抜きでクーデターや政変、若しくは戦況が一時的に悪化した際こそ、常日頃からのプロパガンダもとい広報活動が威力を発揮する。議長の場合、逆に働いたようだけれど。あの人、見る目だけは有るのよね。
そんな私とアスランの反応を少し観察した後、トライン副長は少し表情を改め、注意を促す。
アーサー「確かに。だが、ふとした拍子で悲劇が起こるのは歴史が示す所だ。生活優先の昇降施設周辺の民衆と政治的動機に突き動かされている官庁街デモ隊はまた勝手が違う。本官達は、気を抜かず粛々と任務に当たろう」
アグネス、アスラン「了解!」
私達の返事を聞いて、トライン副長はご安心したように敬礼して下さる。私達もそれに返礼、夜明けまで本当にもう少しだわ。 - 119二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 13:08:30
能力等の人を見る目だけはあるがアフタフォローが最悪
- 120二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 18:37:24
有能なアーサーカッコいい
- 121二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 23:07:37
スレ主です。
手首の調子が悪く、今日は続きを書き込めません。読んでくださっている方、申し訳ありません。少々お持ちください。出来れば明日にも書きます。 - 122二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 23:14:08
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- 123二次元好きの匿名さん25/04/22(火) 06:09:44
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- 124二次元好きの匿名さん25/04/22(火) 09:55:21
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- 125二次元好きの匿名さん25/04/22(火) 18:05:56
保守
- 126二次元好きの匿名さん25/04/22(火) 18:39:27
無理しないでくれ…
- 127二次元好きの匿名さん25/04/22(火) 22:52:41
- 128二次元好きの匿名さん25/04/22(火) 23:01:17
トライン副長の報告直後に私達は編隊の順番を変更する。私が先頭、ショーンとデイルが両翼で続き、最後尾はアスランが守る。
デスティニーの援護で背中の守りに僅かな余裕が出来たので、今の内に水上警察のホームページを確認する。ジェセック司法委員のお話しだと投下後、即時にとのことであったが、さて。
アグネス「(良し!ちゃんとホームページは更新されているわ。動画も。司法委員からの国防委員会、ザフトへの協力要請がなされたこと。要請に応じ出動した水中モビルスーツの数、アッシュの武装が市民への配慮から制限されていること等)」
これで議長側に攻撃の名目を与えることをある程度、防ぐことが出来る。
そして肝心なことに、出動後のアッシュの動向に関しては秘匿されている。これは同じパイロット隊の私さえも知らないこと。
緑の戦友はプラントの湖の奥深くに既に身を隠してしまったのだ。魚雷を積んでいなかろうが、一部武装を封印していようが、議長サイドにはあまり関係ない。
『何処にいるか、何時、攻撃してくるか分からない』、水中兵器の最大の武器たる心理的圧力を彼らは手放してはいないのだ。
そしてもう一つ朗報。
ブレイズバクゥハウンドを先頭にして基幹道路を進んでいた司法局機動隊が遂に郵便局に到着した。加えて、余勢を駆ったガイアは交通機動隊と共に大型物流センターに到達したとの由。
これ等の報告を受けながら、ザラ小隊は上昇、旋回を続けて行く。そして、あと少しで中間施設地帯モビルスーツ出入口-と言う所でコックピットモニターに明かりが灯る。
シュライバー「オーベルク最高評議会議員から連絡が!議長官邸内からだ!」
シュライバー国防委員長…。私は貴方の政策秘書か何かか?特務隊がそうした役目を仰せつかること自体は問題ないだろうけれど―。一段落と落ち着く間もない。
アグネス「(それはさて置き…。オーベルク評議員はこの政変初期に議長官邸に呼び出され、なし崩し的に議長派(?)になっていたわ。ほぼ空気だったのに。引っ張り出されたのね)」
既にグフの着陸が近く、国防委員長に視線を向けることは叶わないが、その声音には狼狽と喜色が混じっていた。割合は4:6と言った所か。
アグネス「了解。オーベルク最高評議会議員は何と仰っていらっしゃいますか?」 - 129二次元好きの匿名さん25/04/22(火) 23:19:29
国防委員長の声から察するに都合の良いことを言ってきた―いや、議長に言い含められてきた―のだろう。
シュライバー「彼女が通信越しに言うには『議長は此方の最終勧告の受け入れを前向きに検討している』と。議長は『細部を詰めるため、彼女を特使として、最高評議会ビルに派遣する用意がある』そうだ」
ほらやっぱり。絶対に乗っては駄目、これは議長のカウンターパンチだわ。
アグネス「閣下、ご用心を。推察するに、議長の狙いは彼女をワンクッション挟むことで、時間稼ぎをし、可能なら譲歩を勝ち取ること。グラディス提督の『軍政施行下での宇宙港とエレベーター施設の運行正常化』を読んで前もって手を打ってきたのでしょう」
私が冷や水を浴びせかけるような返事をしたものだから、国防委員長も少し口をへの字に曲げかけるが、寸でで気を取り直して下さる。
シュライバー「ふむ…。確かに宇宙港とエレベーターを我等が奪還したことを議長は察知したのだろうな」
良し。国防委員長閣下が気を取り直して下さったのなら、もう一つ確認しておこう。モタモタしている暇はない。彼と話す間に出入口は目前だ。
アグネス「閣下、先程、小官は閣下から『議長にこれ以上の譲歩は無い』と伺いました。皆様のご結論にお変わりありませんか?」
シュライバー「それは…。ああ、勿論。しかし、オーベルク最高評議会議員の面目も…。あまりにすげない態度を取って彼女を議長の側に追い込むのもどうだろう?」
不安的中。案の定、妥協的な空気が流れていた。もう勘弁して欲しい。どれだけ私達が苦労してきたか。やっと『優勢(?)』になって来たのに!ここまで来てそれはあんまりだわ。
着陸時の忙しさでシュライバー国防委員長のお顔を見ずに済んだことを神に感謝したい。顔を合わせていたら自分が表情を取り繕えたかどうか自信が無いわ。
アグネス「私が思いますに、クリスタ・オーベルク最高評議会議員は賢明な方。議長の疑惑を知ってなお彼に与するようなお人では無いでしょう。その機会が無かっただけです。彼女も我等と同じく国家の名誉を守ることこそ、己の面目を全うする道と心得ていらっしゃるのではありませんか?」
政治家にとって面子は大事。半分はそれでご飯を食べているようなもの。でもその優先順位はやはり時と場合で異なる。まして今回に限ってはそれが相反するわけでは無い。 - 130二次元好きの匿名さん25/04/22(火) 23:59:27
シュライバー「それは…。その通りではあるが…」
アグネス「閣下、我等が議長に問うているのはYESかNOのみ。オーベルク最高評議会議員には変わらぬ友情に感謝をお誓いした上で、申し出に関しては丁重にお断りするべきです」
国防委員長とお話を続けながら、同時にグフのフライトユニットを最終調整する。機体を着陸態勢にして無事に着陸、ショーンとデイルが着陸しやすいように位置取りをする。
私の軽い緊張の一瞬が過ぎた後も国防委員長は煮え切らない。折角の『講和』の機会を逃したくないと言った所かな。
シュライバー「他の最高評議会議員、カナーバ前議長、ミセス・ジュールに私から言うべきか?いや、ミセス・ジュールも君に近いことを仰っていたが…」
アグネス「強くそのように述べ伝え、皆様をご説得するべきと思案します。オーベルク最高評議員には申し訳ありませんが、既に交渉のフェーズは終わっています。
シュライバー「ああ…」
冷たい言い方になってしまうが、そもそも彼女は味方の数には含めていなかった。それに振り回されても困るのだ。
アグネス「(違う…。議長が手持ちの駒を使って此方を揺すりに来たんだわ。彼女じゃない。私達は議長に振り回されている)」
私達が話している間にショーンとデイル、終いにはアスランも帰還した。自分達には次の任務が待っているだろう。ご無礼だけれど、駆け足で続きをお話ししよう。
アグネス「もしオーベルク最高評議会議員が60人議会に接触を試みる気配が感じられた場合、それも、どうかお引止めください。『我々から報告すれば足る』とでもお伝えして。彼女はルソーに疎開していることを知らないはず。こちらの工夫で議長の策動は無効化出来ます」
シュライバー「60人議会…。危ないところだった。直ぐにでも伝える。それに関しては…」
はたと見ると―シュライバー国防委員長は口では私に同意してくれているが、その実、強気な助言に若干引き気味になっている。『元より伸るか反るかでは無かったのか?』そんな本音が私の口先をつい尖らせてしまっていたのだろう。
これは議長の巻き返しだわ。まんまと乗せられてどうする?ぐっと我慢、語調を和らげ、穏便にお伝えしよう。 - 131二次元好きの匿名さん25/04/23(水) 00:08:30
アグネス「閣下、私達は賽を投げ、ルビコン川を渡ったのです。皆様方のリーダーシップのもと川の最深部は超えました。それなのに岸に上がる際に足を取られて、また水に攫われるようなことがあれば…その無念遣る方無いのではありませんか?」
結局、強気発言している。私は猪か―、もっと自分を賢い人間と思っていたのに。
シュライバー「…そうだな。良し。分かった。それで?」
自省していると今度はシュライバー国防委員長の方が乗り気になっている。この人、シーソーみたいだわ。彼に限らず表では強気な人は結構こう言う所がある。
でも好機、改めてまとめてお伝えしよう。
アグネス「オーベルク最高評議員には、『我等が求めているのは議長の最終回答である』と重ねてお伝えください。『交渉の余地は無い』とも。また同時に彼女個人にはご配慮を、皆様が『事変以前も以後も変わることなく彼女の誠実な友である』と明確なメッセージをお伝えすべきです。そして、一番重要な事ですが、グラディス提督の『正常化宣言』は遅滞なく発せられるべきです」
オーベルク評議員には『帰順』をお呼びかけしたいが…。議長官邸内ではどうしようもない。仮に応じてくれても拘束されて終わりだ。
シュライバー「ふむ。分かった。共有しておこう。我々もグラディス提督の足を引っ張る気はない。君もご苦労」
アグネス「ありがとうございます」
ようやく納得して下さった国防委員長と敬礼を交わして通信回線を切る。どっと疲れが噴き出す。これ地味にきつい。精神的な負荷が半端じゃない。
アスラン「アグネス、国防委員長は―。いや済まない。少し休んでくれ。搭乗機内で済まないが…」
アグネス「ありがとうございます…」
アスランも話の中身を知りたかったみたいだけれど、余程私の顔が危ういのか…。まあ、ご厚意に甘えてほんの少しだけ、体をリラックスさせよう。すこぉーしだけ、ね。 - 132二次元好きの匿名さん25/04/23(水) 07:49:55
- 133二次元好きの匿名さん25/04/23(水) 13:14:33
- 134二次元好きの匿名さん25/04/23(水) 21:52:07
☆
- 135二次元好きの匿名さん25/04/24(木) 01:29:17
保守
- 136二次元好きの匿名さん25/04/24(木) 04:23:55
本編時空では32話『ステラ』の頃です。
良い頃合いなので、本編の出来事と、この世界で同じころに起きていた出来事を対照してみます。今日は総集編と思ってお付き合いくだされば。
本編〇話『△△△』:出来事
この世界では―:出来事、基本アグネス視点で、全く同じ出来事でなくとも近似した出来事は『相当(する)』と表現します。
それでは以下の通り。
本編8話『ジャンクション』:ミネルバ、オーブ入港。トライン副長の進言『補給はともかく、艦の修理等はカーペンタリアに入ってからの方が良いのではないかと、自分は思いますが』をグラディス艦長は却下する。
この世界線では―:トライン副長の進言をアグネスも強く推す。騒ぎを聞きつけ出て来たバルトフェルドの助言も受け、グラディス艦長は補給のみ受け取りオーブを出港する。
本編9話『驕れる牙』:連合、プラント開戦【フォックストロット・ノベンバー】。
この世界では―:ミネルバは開戦と同時に『オーブ近海会戦(本編12話『血に染まる海』の待ち伏せに相当)』を戦う。大勝後、カーペンタリアに入港を果たす。
本編10、11話に当たる期間でミネルバを突貫工事で修理する。
本編12話『選びし道』:【オペレーション・スピア・オブ・トワイライト】。トライン副長は開戦を理由にグラディス艦長にオーブ出港を促す。しかし彼女は『物資の積み込みもまだ終わっていない』と進言を退ける。終盤、身分を隠したバルトフェルドのリークを受け、オーブ出港。
この世界線では―:ミネルバは海上部隊として【オペレーション・スピア・オブ・トワイライト】に従軍。カーペンタリア方面のザフト軍を完全勝利に導く。
- 137二次元好きの匿名さん25/04/24(木) 04:32:08
本編15話『戦場への帰還』:アスラン合流、ミネルバは潜水空母ニーラゴンゴの護衛を受け、ジブラルタルに向けて出港する。(実際はマハムール基地へ)
この世界線では―:ニーラゴンゴからグーンとそのパイロット(現、アッシュ小隊)、整備班と医療スタッフを引き抜き、ミネルバに迎える。潜水母艦は伴わず空路でマハムール基地へ。
※1海路を選ばなかったことで、すぐに本編16 話の『インド洋攻防戦』に相当する戦闘が勃発、ミネルバ大勝。抑えたスマトラ島基地をカーペンタリアの味方に引き渡し、その後、マハムール基地に到着する。
※2この快進撃により、マハムール基地第一次派兵部隊(本編18話回想シーンで殲滅していた面子)が生存。彼等と合同作戦を取ることが可能となる。
本編16 話『インド洋の死闘』:スマトラ沖でファントムペインとミネルバが戦う。
この世界線では―:ローエングリンゲート攻略の為の作戦立案、調査、現地勢力との協議、訓練等に時間が当てられる。
本編17話『戦士の条件』:ミネルバ、マハムール基地に入港する。
この世界-:ミネルバと第一次派兵部隊は、ガルナハン基地攻防戦を戦う。連合・ユーラシア連邦軍はこれまでの『ミネルバの大戦果』に業を煮やしたのか、方面軍規模の戦力を動員し待ち受けていた。この連合の猛攻撃によりミネルバはカスピ海に大破着底、乗員に死者も発生した。
しかし連合の代償は大きく、軍は殲滅され、ガルナハン・ローエングリンゲートも陥落してしまう。ガルナハン市も無事に解放される。捕虜の虐殺はアグネス達ザフト側の配慮もあり発生していない。
本編18話『ローエングリンを討て!』: ミネルバ・ラドル隊合同部隊はガルナハン・ローエングリンゲートを攻略する。ガルナハン市解放。捕虜虐殺発生。
この世界-: 【ガルナハン・ファウンデーションショック】(本編のガルナハン戦後のユーラシア西側情勢+FREEDOMのファウンデーションショックに相当)が勃発。
カスピ海周辺と黒海東部に生じた『軍事力の空白』を衝き、ファウンデーション王国が事実上の独立を果たす。それに刺激を受けた西ユーラシアの諸民族、諸国家が蜂起し、独立・半独立の嵐となる。アグネス達ミネルバのパイロットもコーカサスを転戦して彼等を支援する。ディオキアもこのタイミングで(原作より一足早く)解放される。 - 138二次元好きの匿名さん25/04/24(木) 04:39:45
大破したミネルバは、独立したアゼルバイジャンの首都バクーの造船所で修理中となり、パイロットと乗員は飛行機でディオキアに到着する。アグネス達はそこでデュランダル議長と面会する。
※なお、死を免れた第一次派兵部隊モビルスーツ隊は、後にミネルバパイロット隊に合流する。
本編19 話『見えない真実』:ミネルバ、ディオキアに入港する。パイロット達はデュランダル議長と会見する。
この世界線-: ミーアがアスランの部屋に侵入し、ハイネがミネルバ着任する。皆でミーアのライブ(本編19話冒頭に相当)を楽しむ。アスラン、アグネス、シンがステラ達と接触。その際に彼女達が人道犯罪の被害者であると判明し、ザフト軍内で専門対策チームが立ち上がる。
本編21話『さまよう眸』:ミーアがアスランの部屋侵入。ハイネがミネルバ着任する。シンがステラと邂逅する。
この政界―:ミネルバのパイロット隊とブリッジクルー及び一部乗員は月戦線に転戦する。月面では、グラディス艦長の指揮のもと新たに再編された『月軌道艦隊分艦隊』が月軌道会戦(本編22話『蒼天の剣』冒頭で流れた月面付近の戦いに相当)で連合軍艦隊に大勝する。
本編22話『蒼天の剣』~本編24話『すれ違う視線』
ダーダネルス海峡の戦い。アークエンジェル組が本格的に活動を始める。アスランがキラ、カガリと話し合う。
この世界では―: ユーラシア情勢の悪化と月での大敗がロゴスと連合上層部にどのように作用したのか。アグネスは知る由もない。ただ、それらが呼び水となったかの如く激しい戦闘が月の裏で繰り返される。(本編44 、45話に相当)
アグネス達は最終的にレクイエムを沈黙させ、ダイダロス基地を陥落させることに成功する。しかし、その代償にゴンドワナを含むザフト軍月軌道艦隊は7隻(ミネルバを含む)を除いて全滅し、ダイダロス基地攻防戦に参加した他のザフト軍宇宙部隊にも相応の損害が出る。
なおミネルバは改ミネルバ級に改装され(本来はミレニアムに使われるはずだった部品が多数流用された)、途中から戦場に復帰。ラクスの意を受けたエターナルも極秘裏にレクイエム攻防戦に参戦し共闘した。 - 139二次元好きの匿名さん25/04/24(木) 04:50:10
本編25『罪の在処』:ロドニアのラボをミネルバが抑える。シンはステラを捕虜にする。
この世界では―:デュランダル議長がロゴスとブルーコスモスの悪行を世界に公表する。対ロゴス戦争の始まり。なおロドニアのラボは専門チームが開放済みと知り、アグネス達は胸を撫で下ろす。ステラとスティングは生き残り治療へ。
本編26話『約束』:ステラがエクステンデッドということが判明する。キラ達のことでアスランは悩む。ラクスはバルトフェルドと共に宇宙に上がる。
この世界では―:ミネルバはクレタ島に集結している地球連合軍と決戦に向かう。
この島には本編でミネルバと戦うはずだった部隊の他、独立を宣言した『西ユーラシア連邦』から追い出された地中海海軍・空軍・陸軍が壇ノ浦の平氏さながらに大集結していた。
ミネルバは彼等に対して奮戦し、遂に一時的な現地停戦を取り付ける。しかし―
本編27話『届かぬ想い』:ジブラルタルへの道中、クレタ島でミネルバはオーブと再戦する。アークエンジェルはクレタに向けて進む。
この世界線では: クレタ島で停戦中のミネルバに急報が入る。内容はファントムペイン・デストロイの東欧及び南アフリカへの侵攻と、東部戦線の連合・ユーラシア連邦軍が若干の逡巡の後、なし崩し的に全面攻勢を開始したと言うものだった。
ただし、見せしめ的に続けられる大虐殺とそれに続く大規模攻勢は、民衆の危機感に火をつけ反感を煽る結果となってしまう。地元政府と現地軍も事態を座視しかねて次々と反ユーラシア連邦側に転じ始める。
西ユーラシア(ヨーロッパ)出身者が多かったクレタ島地球連合軍も故郷の危機に驚愕し、ザフトに停戦を確約し、自らも東欧に医療・物資支援部隊を送り込む。
アークエンジェルも姿を現し、救助・救難活動を開始し、フリーダム、ストライク・ルージュ、ムラサメ隊はポーランドに駆け付けて行く。
【西ユーラシア政変・C.E.73年地球連合軍冬季攻勢】勃発。
ミネルバは先ずは東欧に向かうことが決まり、カーマン・ラインを飛び越えポーランドに向かう。一方、殿のような形となったアスランとアグネスは、冬季攻勢に加わる構えのサントリーニ島地球連合軍に攻勢を仕掛け殲滅する(一連の戦闘が本編のクレタ島沖の戦いの相当)。アグネスはこの時、重傷を負う。 - 140二次元好きの匿名さん25/04/24(木) 04:55:42
本編28話『残る命散る命』:アークエンジェル、ミネルバ、オーブ軍で激戦。シンがアビスを撃墜し、キラはカオスとアスラン搭乗のセイバーを撃破する。タケミカズチ撃沈。
この世界では―:【西ユーラシア政変・C.E.73年地球連合軍冬季攻勢】の渦中。
アグネスは軍病院のベッドで起きると、特務隊としての上官であるシュライバー国防委員長から無理を承知でリトアニア行きを命じられる。国防委員長の無茶ぶり一回目。
アグネスは命令を受諾し、シャトルで宇宙に出た後、大気圏降下し戦線へ。リトアニアから敵戦線の後背に回り込み、ベラルーシを転戦する。現れたデストロイも飛行隊を率いて撃破する。
これに呼応したミネルバとザフト・西ユーラシア・現地軍合同部隊も逆攻勢に出て、戦線を大きく東方に押し出した所で戦闘は終結する。アグネスはまた負傷し、重体に陥る。
デュランダル議長はロゴスとブルーコスモスを再度、激しく糾弾する。一度目の発表で反応が鈍かった層もデストロイの虐殺後では態度を一変し、世界各地で反ロゴス運動が燃え上がる。
本編29話『FATES』:デュランダルとクルーゼが語る総集編であるが、OP前の会話で、グラスゴー隊が専任で『ラクス・クラインを騙ってシャトルを奪った者』を捜索中であることが判明する。
この世界では―:?
本編30話『刹那の夢』:タケミカズチ轟沈を生き延びたオーブ軍パイロット隊がアークエンジェルに合流する。シンは無断でステラをネオに引き渡す。
この世界線では―:アグネス、ベルリンのベッドで起きる。グラディス提督、アビー、レイも過労と激務で入院。世界のあまりの激変ぶりに驚く。勲章授与、イングリッドと出会う。レイは正式に傷病休暇を取ってエルスマン博士の病院に出発する。
アスランは市内でミリアリアと再会する。
そのことを聞かされたアグネスはミネルバ特務隊(ハイネ除く)に報告・連絡・相談。アスハ代表との非公式会談を試みると決める。会談予定日の前日夜、シュライバー国防委員長から『特別訓練課程』の教官就任を強く要請される。無茶ぶり2度目。止む無く受諾する。 - 141二次元好きの匿名さん25/04/24(木) 05:09:08
本編31話『明けない夜』:シン、逮捕、営倉入り。議長の計らいで不問とされる。ステラ、デストロイに搭乗してユーラシア中央からロシア平原に進撃。東欧で破壊の限りを尽くす。
この世界線では―:朝、アグネスは主治医から出してもらった一時外出許可で病院を後にする。先ずは訓練課程の拠点であるドイツ西部ラムシュタイン空軍基地に向かう。
そこで副教官として先に現地入りしていたシホ・ハーネンフースとアスラン、メイリンも交えて情報を聞く。訓練開始の挨拶(訓示)を訓練生に述べて午前のスケジュールを消化する。
積もりだったが―。
胸騒ぎを覚えたアグネスはアスランを諭してアスハ代表との会談を予定より早めてもらい飛行機で旧デンマーク領ボーンホルム島へ。昼過ぎ頃にキラ、アスハ代表と会談、交渉は決裂する。
しかし、会談の直後にボーンホルム島が地球連合軍により攻撃される。アグネス達は現地の近衛騎兵連隊とキラ、アスハ代表で島を守る。
前後して、アスハ代表達の危機を知ったアークエンジェルは、リトアニアを出発。その直後にカリーニングラード、サンクトペテルブルクを拠点とした地球連合軍の攻撃に晒される。
同じく、時を前後して、大西洋連邦軍がスカンジナビア王国旧ノルウェーに進駐を開始する。
ボーンホルム島防衛戦は初期の攻勢をアスラン、アグネスらが撃退した後、ミネルバが来援して連合部隊に止めを刺す。
アグネスとアスランは初期救助、救援に務めるが、ミネルバにその準備があることを知り、彼らに後を託し、ブリュッセルへ。ブリュッセルでは夕刻まで会議、親書問題の解決、カリーニングラード戦の事前協議を行う。
この間、アークエンジェルは連合機を撃退しながら、北極海に向けボスニア湾を北上中。ミネルバはボーンホルム島の救助・救援・復旧支援中。
夕刻から夜のはじめ頃まで、カリーニングラード攻防戦。
バルチック艦隊と軍管区の軍港機能、飛行戦力を殲滅し、西ユーラシア連邦・ザフトがバルト海の制海権と制空権を得ることを企図してのもの。
ザフト、西ユーラシア連邦側が大勝。アグネスは負傷し重体に陥る。
アグネス、夜更けに意識を取り戻す。捕虜の移送が無事終了したことを知る。
ボスニア湾でエンジェルレスキュー作戦が決行される。 - 142二次元好きの匿名さん25/04/24(木) 05:15:35
ウィラード隊長がせん妄状態となり現場は混乱、正体不明機がアークエンジェルを攻撃、ザフト軍も巻き込まれて1名戦死する。
ミネルバのパイロット隊は暗黙の了解でアークエンジェルを支援。フリーダムは撃墜され、セイバーは大破。アスランは低体温症になる。
止む無くミネルバはウィラード隊抜きで、エンジェルレスキュー作戦続行する。スカンジナビア王国の領海を侵犯せず、アークエンジェルを追うため、カーマン・ラインを超えて宇宙空間に上がる。そこを待ち伏せていたかのようにファントムペインのガーティ・ルーとナナバルクの攻撃を受ける。タンホイザー発射は不可能、艦装甲にも相当なダメージを受ける。
ルナマリアはアグネスを起こし、二人の合意のもとシャトルは宇宙に。ミネルバとファントムペインを挟撃。モビルスーツ全機とガーティ・ルーを鹵獲し、ナナバルクを撃沈する。
この段階でグラディス提督は、エンジェルレスキュー作戦の目的を『アークエンジェルのメンバーの直接保護と移送』から『目前の地球連合から脱出させること』に変更させる。
アグネスを含むミネルバパイロット隊主力と偵察機は大気圏を降下し、アークエンジェルを北極海で待ち伏せしていた地球連合軍を撃破する。アグネスは受傷、重体に陥り掛ける。
アークエンジェルは北極海の深淵に身を隠し何処かに。ミネルバパイロット隊は迎えに降下したミネルバと共に海に投げ出された連合軍人の救助に奔走する。
初期の救助活動を終えた段階でアグネスは昏睡状態になる[アグネスにとっても世界にとっても長い一日が終わる]。
本編32話『ステラ』:ベルリンの戦い、ステラ死亡【本編の西ユーラシア政変のハイライト】。
この世界-:アグネス意識を取り戻す。ミネルバはアーモリー・ワンに寄港していた。船体は突貫工事で修復、タンホイザーはまだ使用不能とのこと。
アグネスは仕事、勲章授与式、休息と時を過ごし、ジェセック司法委員と会食するが…。
-ここから長い一一夜が始まる―【プラント政変のはじまり】 - 143二次元好きの匿名さん25/04/24(木) 09:47:42
おさらい助かる
- 144二次元好きの匿名さん25/04/24(木) 16:56:52
保守
- 145二次元好きの匿名さん25/04/24(木) 22:41:12
改めて書かれると、でかい戦いの順番が入れ替わってるんだなぁ
- 146二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 00:15:39
保守
- 147二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 02:22:06
脳を休ませるために目を閉じようとするが、寸で思いとどまる。そんなことをすれば意識は宇宙の彼方に吹き飛ぶだろう。ストレッチをしようにもパーソナルジェットを背負い、ギブスと包帯だらけの我が身、不可能ね。今回は厚着しているし。
アグネス「(じゃあ呼吸を整えるか。二回吸って、数を数えながら、ゆっくり吐く―)」
それを4回終えたタイミングで、グフのコックピットモニターが灯りグラディス提督の顔がアップで写される。彼女は画面の向こうの無数の人間に向けて一度敬礼する。
タリア「アプリリウス市民の皆さん、まだ夜も明けぬ間に失礼します。私は戦術統合即応本部隊長、月軌道艦隊司令長官タリア・グラディスです。現在、本官はアプリリウス宇宙港に停泊した月軌道艦隊旗艦、惑星強襲揚陸艦のブリッジより、皆さんにお話しをしています」
私はコックピットの中で返礼する。提督は、本人の必死の努力にも関わらず、もう目の下の隈が誤魔化し切れていない。お肌も危ういことだろう。
その肌も今は真っ白になっている。当然だわ。きっとこの措置がこの政変のクライマックスの終わりの始まりとなる。良くも悪くも。
市民の反発はどうだ?議長はどう出る?彼女が今、感じている重圧は―きっと言葉に出来ないほどのものだろう。
タリア「プラント国民、アプリリウス市民、友好諸国政府にお伝えします。本官は、プラント最高評議会議員9名、即ち最高評議会4分の3の要請に応じた国防委員会の命令を受け、非常の措置として本日、本時刻から以下に述べるアプリリウス市一部区画に軍政を敷くことを宣言します。
軍政が適応される範囲は、アプリリウス・ワンの太陽光発電施設と軍用・民間用双方の宇宙港を含む中間施設地帯全域、プラント中央エレベーターと両居住区の昇降施設、並びに昇降施設から最も近い大規模郵便局・物流センターとそれらを繋ぐ基幹道路と付属地帯までとなります。
そして、当宣言と共にエレベーター施設と宇宙港は平常通りの運行を再開します。
首都の物資と人の移動が阻害されることにより市民生活と国民経済、友好国の経済、そして前線の戦友に致命的な混乱をきたすことを回避する、これが軍政施行の目的であります」
提督は一度に宣言を読み切り、目立たぬようにほっと一息をついている。私が逆の立場で耐えきれたかどうか。見ているこちらが辛い。 - 148二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 02:48:34
眼下ではヴィーノやヨウランはじめ整備班も放送音に聞き耳を立てている。ただし彼等の作業の手が止まる事は無い。
中間施設地帯内のアナウンスのみならず、国営放送、政府のホームページ、動画サイトでも生中継が始まっている。
もう引き返せない。これ言うの何度目か分からないが…。軍政施行はレッドラインぎりぎりアウトかセーフ、どっちと民衆は取るだろうか?
グラディス提督は再び表情を改め、宣言文の続きを読み上げる。
「基より、この措置は、我が国が直面している内部の混乱に収束の兆しが見えた段階で、速やかに解除されるべきものであります。この宣言の源泉となった国防委員会の命令は、最高評議会議員全員の賛意を得たものではありません。民主主義を基調とする我が国の国家体制を確立するべく努めて来た数多の人々の思うと、私も遺憾の念に堪えません」
そう、アウトかセーフかと言えば、アウトなのだ。当たり前だろう。仮に国会議員の4分の3が賛成し、国防本部が命令したからと言って、軍部隊が突然、首都の重要インフラを占拠して良い道理はない。良心に基づいて拒否するべきなのだ。本来は!
グラディス提督はそのことも、よくよく考え迷った上で結論を出したのだろう。市民に脅威を抱かせまいと、言葉を続ける。
タリア「これはあらゆる党派の垣根を超えたアプリリウスにお住いの全市民及び一時滞在外国人が、健康で文化的な最低限度の生活を享受する権利を守護するための措置であり、政治的イデオロギーを強制し、あるいは民族的、人種的、宗教的差異を暴力以て解決することを意図したものでは決してありません。
いわんや憲法を頂点とした我が国の法秩序を破壊し、人間の基本的権利を蹂躙しようなど、思いもかけない事です。あくまで、市民と国民を明白かつ現在の危機から遠ざけんが為の判断である、とご理解ください」
グラディス提督は一人、ブリッジモニターの向こうで宣言文を読み上げる。本当に一人ぼっちだ。他の最高評議会議員は誰も顔を出していない。共に立つザフト将兵もいない。
アグネス「(仕方ないことなんだけれどね。最高評議会議員が気を利かせて顔を出せば、この宣言の党派性が前面に出てしまう。単独での放送も部下や協力者を巻き込むまいとする彼女のご配慮だわ)」
でも彼女自身は? - 149二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 03:05:45
ジャンヌ・ダルクが火刑に処された時、彼女は19歳。今、グラディス提督は29歳-。死すべき日はまだ遠くて良い。オルレアンの乙女と違い、提督にはお子様も。ご不安を感じていらっしゃらない筈は無いのに…。
胸の奥がギュッとなる。
アグネス「(これは…。私のせいなのか。いや、私のせいだ。もっとスマートなやり方が…)」
後悔しても遅い。『その時』が来たら、私も覚悟を決めるだけのこと。その時の状況次第だけれど…。
タリア「それ故に当然の道理として、本官と本官の指揮命令系統に属する者達は誠実な管理者として、これ等の施設・区画を守護いたします。私達はこの事態において完全な中立者を装い、国民と市民を欺く意図は有りません。
しかしながら、宇宙港とエレベーター等施設を、平穏かつ公然と利用しようとする者を、政治的立場を理由として粗略に扱うことは絶対にありえません。また、これら施設が生み出す利益や公共サービスの成果を、意見の対立する市民同士の片側にのみに提供し、もう片側を排除することも一切、考えられません」
あくまで、この措置は『市民の暮らしを守るためのもの』。誰かを兵糧攻めすること等、端から考えていない。もっとも向こうが勝手にそう勘ぐって自壊してくれるなら、それに越したことは無いが…。
ただ、グラディス提督の思いはやや打算的な私のものとも異なるようだ。彼女は静かに言葉を続ける。
アグネス「本官と部下たち、戦友たちは今日までプラント国民と国家の存続の為、激しい戦いを生き抜いてきました。そしてこれからも、きっと。
この際はっきり申し上げます。最高評議会ビルを囲む方々も、また囲まれている方々も。不安な思いで成り行きを見守っていらっしゃる他のプラント市民も。その全て『国民』を我等はお守りしたいのです。
何故なら、国家の存続に不可欠な利益と、国民の生命と安全を守ることこそ、我等ザフト軍の本当の使命であるからです。どうか目下の混乱が速やかに収束し、この非常措置が直ぐにでも解除されんことを切に願います。以上」
そうだったわ!危うい危うい。元の嫌な性格が顔を出すところだった。
グラディス提督は結語と一拍間を置いて、力強く敬礼する。やや女性的な仕草が多い彼女には珍しい。その決意に私も名一杯お答えしないと。グフの中で静かに敬礼をお返しする。 - 150二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 06:33:59
さてどうなるかな
- 151二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 11:23:00
前の大戦直後のテロ等の事を後で知ることになりそうなアグネス
- 152二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 18:05:59
知らないよそんな事件!(視聴者の声)
- 153二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 22:34:17
☆
- 154二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 04:06:41
グラディス提督の宣言布告が終わると、モニターにはより詳細な情報が表示され、読み上げられる。アナウンサーはアビーだ。流石にのっぺらぼうでは市民が不安になる。彼女も覚悟を決めたのね。
悲壮な決意に反して、彼女の声は驚くほど滑らかだわ。まるで天気予報を聞いているよう。オペレーターたるもの、こうでなくては務まらない。本当に私は周りを見ていないのだ、反省するばかりね。
アグネス「(それと隣で手話を頑張っているミネルバクルーもお見事。プラントに聾唖者は少ないけれど、それでも欠かせない配慮だわ)」
その内容は―。軍政施行エリアで課される決まりや規則、中央エレベーターや宇宙港のダイア情報等ね。軍政機関本部はミネルバブリッジと決定したとの事。詳しい情報は、一般公表された軍政本部ホームページでも確認できるとの由。
何時もの政府広報と変わらないわね。意図してやっている面もあるのだろうけれど…。
アグネス「(やはり世界は散文的と見える。この鉄火場においてさえ、物事は、粛々と淡々と驚くほど事務的に処理されていく。私達はプロなのだからそれで良い)」
戦争犯罪を実行しているわけでもない。このまま詰将棋を差していくべきだろう。
アスラン「上手くいくかな?」
私が自分の心の中を整理したタイミングで、隣のデスティニーから通信が入る。そう言えばアスランはさっき私に話し掛けようとしていたわね。コミュニケーションはタイミングが大事。話せるときに話しておこう。
グフの通信モニターに映るアスランの顔を見上げる。どうも不安げな様子、少々頼りない。元気づけて見るか。
アグネス「上手くいくか、ではなく。是非、私達で上手くことを進めましょう」
アスラン「そうだな…」
アグネス「決して悲観的な状況ではありません。ジャミングを仕掛けられる事もなく、布告自体は平穏無事に行われました」
アスラン「そう言えば…。そうだな。メイリン達電子班の力か?」
それも勿論ある。しかし議長サイドが本気で電子妨害を図れば、こちらももっと手古摺ったはず。そうはならなかったのは―。
アグネス「議長も既にフェーズが変わったことを察したのでしょう。『ここからの逆転はあり得ない』、と。勿論、彼個人のグラディス提督に対する感情もあるのでしょう」 - 155二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 04:48:05
私の言葉に思う所があったのか、アスランは少し納得したように返事を返してくる。
アスラン「例え立場や陣営を違えても…愛した人、いや愛する人を傷つける事は堪えられない…。なにより潮時だと」
アグネス「はい」
思う所どころじゃない。彼にしてみれば身に覚えが有り過ぎるのだ。少し羨ましい。私はそこまで他人を大切に思えたことがないから。おそらく自分自身のことも―。
ゴホン!さてそれはともあれ。
アグネス「(仮に自分が議長の立場なら、今何を考えているだろう。自分自身の立場をどう理解し整理するのか。シミュレーションしてみよう)」
頭の体操と思えばいい。アスランがこのチェスの相手だ。
アグネス「私が議長なら『アプリリウスの最重要インフラを精鋭部隊に抑えられ、そこに軍政まで敷かれた時点で、物理的に巻き返しは不可能だ。単純に武力が足りない』とまず考えます」
するとやや迷いながらアスランが次の一手を差してくる。
アスラン「まだ、議長シンパのザフト軍人や部隊は存在するのでは?彼らをアプリリウスに呼び寄せ俺たちの排除を」
アグネス「ではそうした部隊が仮に存在したとして。議長はこうも思います。『外部から自派の部隊を呼び、アプリリウスの『グラディス軍』に攻撃すれば、自らレッドラインを超えてしまう。グラディス軍は一貫して同軍と自国民に犠牲者を出すまいと努力してきたのに、その均衡を自分から破れば―。そんな振舞いをすればプラント国民とザフト全軍に愛想をつかされてしまう』と」
むむむ。と言った顔のアスランは、次の手を繰り出す。なんかチェスと言うより議長の『脳内会議』の再現みたいね。
アスラン「では、首都から脱出して何処かに腰を落ち着け、形勢逆転を目指す可能性は?」
アグネス「その策のデメリットは以前もお話ししました。『最高評議会ビルとグラディス軍が致死的暴力を抑制し、議長本人の生存権と制限付きながら自由権を保証している中、首都と支持者を見捨てれば、政治家生命は終わる』、『石に噛り付いても踏み止まり、復活の芽を残すべきだ』と。あくまで私の常識であれば、ですが」
私の話をアスランは数回、脳内で反芻した後、返答を寄こす。
アスラン「なるほど。ただ彼は俺たちをは違うかも知れない」
アグネス「はい。議長は―少なくとも私よりは―諦めが良くないでしょう」 - 156二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 04:53:37
この人も相当だろうけれど、さて、アスランとの会話はそこそことして、自分はコックピット回線を切り替える。表情が乏しいこの男との睨めっこは疲れるのだ。
少しは自分の成果・業績も確認してみたい。そう思っても罰は当たらないはず。へとへとになりながら頑張ったのよ。
先ずはモニター画面を宇宙港のカメラに。デモ隊に占拠され、次いで眠りの国の住民のベッドと化していた空間。それが、何とこの短期間でしっかり整理整頓されている。
流石!我等は優秀なコーディネイター、更にその中の上澄みだ。これぐらい何ともないわ!
アグネス「(それにしても大したものね。内部施設だけじゃない。港外で待機せざるを得なかった複数の宇宙往還機シャトル、スペース·シャトル、シルバーウィンド。更には小型シャトルクラフトまで入港を済ませている―)」
『通常業務の範囲内』で協力してくれた他部隊のザフト軍、各機の機長や搭乗員、グラディス提督指揮下の各員の連携と奮闘によるものだろう。
シャトルから大量の貨物が『陸揚げ』されていることにも安堵する。これで首都が食料・衣類・医薬品不足に陥る心配は無くなったわ。
アグネス「良かった…」
アスラン「そうだな」
少し柔らかい彼の言葉が私の鼓膜を揺らす。
思えば奪還作戦の一番の功労者はアスランだ。それなのに彼は全く手柄を誇る風ではない。彼にとっては普通のことなのだ。その辺り建前と打算も込みで『当然のことをしたまでです』と言ってしまう私とは根本的に異なる。
義人とは間違いなくこのような人の事を言うのだろう。
アグネス「(これでもう少しコミュニケーションが上手くて、フキハラ「機嫌ハラスメント」さえしなければ。無自覚パワハラ気質っぽい所も改めて―)」
近年はコンプライアンスが厳しいのだ。もう世間では「根は良い人だから」でハラスメントを許してなどくれない。この一件が終わったら、アスランにハラスメント講習受講をお勧めしよう。
折角、高い能力を持っているのに空回りするようでは、本人にとっても世界にとっても大損失よ。うんうん。 - 157二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 05:01:54
自分の思い付きに内心で肯きつつ、次は中央エレベーターの様子を確認する。
ちょうど各カプセルが一斉に動き出したところだった。苦労して、更に苦労して奪還したプラントの重要インフラ。それが、まるで壮大な機械の歯車が一斉に回転するかの如く―、感無量だわ。
居住区に降りるカプセルには昨夜から滞留していた大量の物資が山済みになっている。また居住区から上ってくるカプセルは、宇宙港利用業者や宇宙船利用客、居住区間移動者ですし詰めだ。せっかくの透明カプセルだけれど、もう朝焼けを楽しむ余裕は彼等にはないだろう。さっさと捌けておかないと、これからもっと混雑する。
安堵の念と、若干の拍子抜け感。それでも世界は回る、とは本当によく言ったものね。
ルナマリア「アグネス!あ…アスラン先輩も。放送と動画サイトを見て下さい。私達のホームページも」
アグネス「うん?」、アスラン「なんだ?」
ルナマリアの元気な声に励まされて、回線を調整する。議長サイドが反撃を?いや、ルナマリアの声は明るい。悪い出来事ではないだろう。
アグネス「ああ…。これは良いわね。すごく良い手だわ」
各放送局チャンネルと動画サイト、軍政本部公式ホームページ上の動画は正に今私が見た光景を放映している。
多少の影響は有れども、概ね普段通り運行されている宇宙港と中央エレベーター。利用者の落ち着いた様子、賑やかなステーションの風景。物資到着を待つ郵便局や物流センターに静かに漲る活力-。
余計な編集や効果音など要らない。淡々とした、しかしそれ自体が劇的な日常がここには広がっている。
アグネス「(百回の名演説より、力強いメッセージね。『目を覚ませ。もう朝だ』と)」
まあ、デモ隊が見ているかは…。いや見ているわ!街頭大型ビジョンにも映し出されているから。
ルナマリア「これで、決まり?」
何やら期待してルナマリアは私に聞いてくる。しかしこればかりは私も分からない。デモ隊や議長の手下の動向までは読み切れないから。ただ、おそらく―。
いや―それならむしろ、これからが危うい! - 158二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 12:33:37
切り札がオカルト能力持ちは恐ろしい
- 159二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 19:06:05
これからが危うい…?
ええ…まだ悪あがきされるんですか… - 160二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 19:07:55
どうなるんだこれ…
- 161二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 01:43:02
保守
- 162二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 03:40:31
政変の流れは加速している。躊躇っている時間は無い。
アグネス「アグネスよりミネルバブリッジへ。応答を願います」
アーサー「了解。用件をどうぞ」
お応え下さったのはトライン副長、チラッと通信モニターに映るルナマリアとアスランにも視線を遣る。二人にも聞いて欲しい。
アグネス「最高評議会ビル付近に向かう準備を急ぐべきと具申します。ヴァリアブルフェイズシフト装甲を備えたデスティニー、インパルス、ガイアを中核として…」
アーサー「えー!待ってくれ。急にどうした?軍政施行が理由か?」
短兵急な申し出にトライン副長は驚愕する。
アグネス「一因ではあります。副長、小官は議長サイドが冒険主義的な行動を始めるリスクが現に高まっていると判断します。犠牲者が発生するような…いえ、むしろ犠牲者を発生させる為の暴挙に出るとも」
一気に話し出した私にトライン副長は少し困惑している。彼だけではない。
アスラン「落ち着け、アグネス」、ルナマリア「ちょっと、あんたどうしたの?」
諫めるような二人の声が耳に飛び込む。彼らの反応はごもっとも。詰将棋みたいに粛々と、等と自分も先頃まで思っていたのだから。
だから一応、誤解は解いておく。
アグネス「『準備を急ぐべき』と申し上げたのです。デモ隊の強制排除を決行せよ、と申しているのではありません」
トライン「そうだった。いや―しかしどうして?粛々と進めるよう本官は伝えたはずだが。何か事情があるのか?」
人の好い副長はそう言って、私に発言の機会を設けて下さる。しっかりお応えしよう。
アグネス「もう議長『完全勝利』の芽は無くなりました。周囲はともかく、議長ご本人は察しているはず。では彼が『負け』を避け『引き分け』に持ち込む為にはどうするべきか」
アーサー「最高評議会ビル側が示した妥協案を呑む以外、彼に選択肢はないだろう。あの内容なら殆ど引き分けと言っても良い」
そう。甘々の大甘な条件なのだ。追い詰められた立場の議長にしてみれば、むしろ勝利と言ってもいいだろう。 - 163二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 04:03:29
しかし―。
アグネス「議長は事を荒立て過ぎました。振り上げた拳を下ろすにはそれ相応の理由が必要です。自ら吹いた犬笛で呼び集めた数万の群衆、メディアと電子通信網を通して自分を見つめる国内外の支持者達。お恵みのように妥協案を受け取れば『恰好が付かない』。彼らの前で議長は英雄であらねば。敗者として敵の軍門に下った愚将ではなく、民衆の為に敢えて自己犠牲の道を選んだ勇者であらねば、彼に復活の芽はありません」
私がそこまで話し終えると、通信モニターの向こうの3人も表情を一変させている。意図が伝わったみたいで何より。
アーサー「つまり、遂に偽旗作戦を決行すると?死者が―犠牲者が出るような…」
YES。ずっと心配してきた偽旗作戦、使うなら今しかない。
アグネス「はい。より正確に言えば議長の直接の命令ではなく、彼を慮った者の独断と言う形を採るのでしょう。敢えて一度、流血の事態を発生させたうえで、『これ以上の犠牲を避ける為、止むを得ず―』引き分けを選ぶのだと。これは常套句故に周囲から納得を得やすい。内戦を直前で回避する為、自ら進んで不利益を引き受けた仁君・聖人として振舞う。これなら面目を保った上で『引き分け』を受け入れられます。彼以上に周囲の者にも理由が必要なのです」
そして議長の信徒は多い。言い訳が付く範囲の振舞いなら、あらゆる論法でで彼を弁護・擁護する。最悪のケースとして、本当に独断でこのシナリオを決行しようとする者も現れるのではないか。
アーサー「話は分かった。それで…準備とは?具体的にどうする積もりだ?」
アグネス「すでに発進済みのAWACSディンで官庁街のデモ隊を、別けても『映えスポット』的箇所周辺のデモ隊を要監視し情報をリアルタイムで共有してください。やるなら劇的な場所で劇的なタイミングで、と考えるはず。ジャミングにも注意してください。
そして―。いよいよエスカレーションの兆候が見られた場合、その瞬間にヴァリアブルフェイズシフト装甲機3機を急降下させます。武装を完全に外し、あるいは無力化した上で機体には赤十字をペイントし、狭いですが軍医殿と看護兵もコックピットに搭乗してもらいます。不測の事態があった時、フェイズシフト装甲なら余程でない限り」
そこまで話を聞いた所でアスランが口を開く。 - 164二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 04:14:58
アスラン「なるほど。衛生兵として駆け付けるのか。そして惨事をギリギリで回避すると」
アグネス「そうです。あ…その時は私も向かいます。マニピュレーターにでも乗せて下さい。『なるなら軍師』は性に合いません」
ルナマリア「普通にどれかのコックピットに乗っていきなさい!もうガイアに乗せてあげるわ。副長、私は彼女の言うこと一理あると思います」
どうやら二人は賛成してくれるようだわ。シンは―きっと賛成ね。彼は民間人が惨事に巻き込まれることを見過ごせる人間ではない。
そして、トライン副長もこと自国民に関して言えば―。
アーサー「よろしい。本官から提督にお伝えしよう!」
タリア「分かったわ。準備を始めなさい。デスティニーとインパルス、ガイアは格納庫へ」
アーサー「ええー。提督!はぃー。分かりました」
コックピット通信モニターの画面がもう一つ灯り、グラディス提督の顰め面が映し出される。私も含め皆、驚くが結論は早い方が良い。
アスラン、アグネス、ルナマリア「了解」
タリア「頼んだわ」
提督の命令一下、トライン副長は早速、技術班や医療班に連絡・調整を始めている。人を支えるポジションと言うのも大変だわ。
一方のグラディス提督の表情はどこか悲しげに見える。悲しみと恐れを押し殺した表情。顰め面などでは無かった。愛した人を疑い切れない、それが彼女の偽らざる本心なのだろう。誰が責められようか?
進言を入れて下さったのだ。元気良く返事を!
アグネス「はい!」
タリア「よろしい。別命あるまで待機なさい」
私が敬礼すると、彼女は少しだけ目じりを下げ返礼して下さる。ちょっとでも提督の緊張が抜けると良いのだけれど…。
モニター画面の先では再調整に向け、デスティニーが奥に歩んで行くのが見える。私はグフだから特にすることがない。やれやれ、ほっと一息-する間など有るわけもなく―。 - 165二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 04:35:57
カザエフスキー「特務隊ギーベンラート、少しお話しが…」
シュライバー「重大な案件なのだ!」
グラディス提督のお顔が画面から消えて20秒と立たず、グフの通信モニターにはお偉いさんが二人も揃って顔を出して下さる。
アグネス「(まあ、揃ってと言ってもカザエフスキー評議員は地球のブリュッセルだけれど)」
げっそり窶れながらも元気そうで何よりだわ。
カザエフスキー「デュランダル議長がファウンデーション王国に大規模軍事援助を約束していました。書面の日付と時刻は昨日の早朝、アーモリーワンでの勲章授与式典前にトラドール国務秘書官との間で…。先程、大使館を訪問した際、彼女本人から伝えられ、確認を求められました」
トラドール国務秘書官が、なるほど。やはり外交機会をみすみす見逃すような愚物では無かったか。
アグネス「(あるいは議長もある種の予感のようなものは感じていたのかもしれない。そんな状況ですることが外国への『仕送り』と言うのは解せないが…)」
トラドール秘書官は式典後にカスピ海の辺、首都イシュタリアに帰還。そして変事を聞きつけブリュッセルの自国大使館に直行してきた。素早い。油断ならない人物…。
アグネス「議長の越権行為では?」
カザエフスキー「微妙です。書面上でも『最高評議会に対し事後報告をした上で』と記されています」
その表現なら…、いや、『事後承諾』ではなく『事後報告』。合意自体は既に締結済みとも解釈され得る。
アグネス「…」
カザエフスキー「この政変を友好国は『注視』しています。政変前の約束を、後になって反故にすれば我が国の信用は失墜します。追認するしかありませんでした」
確かに。それでシュライバー国防委員長は何のようなのだろう?凄い表情をしているけれど…。
シュライバー「国防委員会は承知していないぞ!まったく馬鹿げている。幾らザクやグフと入れ予定とは言え…。現役機を含むほぼ全てのシグーとゲイツRをくれてやるだと!相当数のグーンやザウートも。一体、プラントが何機のジンとディンを奴らに渡したと思っているのだ!3回程度に分けて、となっているが、ザク系統の生産体制も限界に来ていると言うのに!」 - 166二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 05:04:07
シュライバー国防委員長のお怒りを何故か私が聞く羽目になる。
しかしひどい条件だ。欲張り過ぎだと私も思う。トラドール国務秘書官、足元を見て来たわね。最悪。
散々、粗大ごみ扱いしてきたけれど、ゲイツRもシグーもまだまだ使えるのだ。グーンとザウートに関して言えば代えが聞かない機能もある。ほいほい下げ渡す訳にも…。
アグネス「(落ち着け、話は分かったわ。でも追認してしまった。仕方ない。この事変を生き残ってから考えれば済むことよ)」
それに逆を言えば―
アグネス「ファウンデーション王国は追加軍事援助の約束を果たすなら、政変の結果に異議は唱えない、そう解釈してよろしいでしょうか?」
彼等が軍事援助を取って議長を切ったなら、決して悪くはない話だ。
しかし、カザエフスキー評議員の回答は何とも微妙なもの。
カザエフスキー「明言を避けられました。彼女は『我が女帝陛下は嵐の前後で友誼の念を違えることは無いでしょう』と」
アグネス「言外に言質を取ったと言えるでしょう。他に何か?」
カザエフスキー「国務秘書官から、最高評議会の名代として、以下の見解に同意を求められました。『凡そ文明国の当然の義務として、ある政治的立場に属した事のみを理由として、国家が、それが民間人であれ公職者であれ、各個人を不利益に扱ってはならないし、政治的敗者の基本的人権を勝者が蹂躙して恥じない振舞いは野蛮国のそれである』と」
つまり政変後に法を犯していない限り、あるいは犯していたとしても不当に重く、『デュランダル派』を弾圧することの無いよう。そしてデュランダル議長の人権を最大限尊重するよう釘を刺して来たのか。
アグネス「ご回答はどのように?」
カザエフスキー「『文明国が【自国内の秩序において】実現すべき道義である』として同意しました」
アグネス「正しく、ご配慮の行き届いたご回答と思います」
カザエフスキー「ありがとう」
特務隊とは言え、一軍人の賛辞、軽く受け流しても良いものなのに。
彼女は真面目に受け取りはにかむようにお礼を言ってくれる。きっと相当参っていたのね。あっちこっちの大使にいろいろ言われて。褒めても立ち直ってくれるならいくらでも褒めるわ。 - 167二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 05:21:42
しかし褒めてはみたものの国務秘書官に一杯喰わされた感がないでもない。
イングリット・トラドール。まだ二十歳にもならない女性が、大国の最高指導の一人と渡り合って見せるとは恐れ入る。端倪すべからざる人物、相手にするときは相当な覚悟を持って向き合おう。
さて、事情は分かった。今度は私が為すべきことを為さねば。
モニターに映る二人の御仁、げっそり凹み気味のカザエフスキー最高評議会議員と憤懣遣る方無いと言った風のシュライバー国防委員長、両者に目を配り、お声を掛ける。
アグネス「カザエフスキー最高評議会議員閣下、このような重大事をお知らせいただき光栄に思います。
シュライバー国防委員長閣下、シグーとゲイツRは今朝を無事に乗り切る為の担保とお考え下さいませんか?ファウンデーション王国はアルテミスを拠点に宇宙軍を保有しています。それに南ロシアと中央アジアの戦線は彼らなしには立ち行きません」
私は別にカウンセラーでは無い。でもその役割を求められ、他に適当な人がいないなら国家の為にその任を全うしなければいけないのだろう。
シュライバー「そうだな…。いや、カザエフスキー最高評議会議員…。その…責め立てるように聞こえていたのだとしたら申し訳ない」
カザエフスキー「いえ。そんなことは…。国防委員長のお気持ち、私もよく分かります」
もっと愚図るかと思ったら、あっさり和解を始めるのでもう参ってしまう。
思うに、国防委員長とて、私の言ったことぐらいは百も承知だったのだ。本物の馬鹿では最高評議会議員に選ばれない。私の前では困った言動ばかりだが、そもそも困った時に話を持ってくるのだから、それは当たり前のこと。
きっと誰かにこう言ってもらわないと腹の虫がおさまらなかったのだろう。
憤懣をぶちまけられて、少しスッキリした。私と彼女が話す内容からカザエフスキー評議員も彼女なりにベストを尽くしたと分かった、と。いかにも子供っぽいが、人間そんなものなのかもしれない。
アグネス「(蟠りが残らなくて良かった。そう思うことにしよう。はぁー。この時間、本当に何だったんだろう…)」 - 168二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 11:19:56
ファウンデーションが良いタイミングで嫌なことをしてくれる…
これだから公式の場で軽々しい口約束はしちゃいけないんだよな - 169二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 15:16:10
原作時空ではジンとディンだけだったけど、この世界線ではそれに+してゲイツR、シグー、グーン、ザウートか
全て旧式とはいえ、なかなか欲張りな - 170二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 20:12:59
☆
- 171二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 20:18:25
ビーム標準装備のゲイツRが渡ると厄介
- 172二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 22:59:05
デュランダルがファウンデーションに亡命
DPで独立をして、世界に示すとかだともっと厄介かな - 173二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 23:44:00
映画時空の75年だとまだザフト正規軍でもジンやシグーが現役だったのを考えると実際にゲイツが譲渡されるのはずっと先な気もするが⋯
それでも正式な約束として通すのは嫌だなぁ - 174二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 01:44:27
脱力感に襲われている場合ではない。ファウンデーション王国の事は後だ。『分割払い』なら、まだ何とかなる(?)。今は目前の嵐を乗り切ることに集中!
アグネス「国防委員長閣下、現在、我々は議長の偽旗作戦阻止に向け、インパルス、ガイアデスティニーを改装中です。既に報告済みかも知れませんが…」
先程の遣り取りを見るに、最高評議会、国防委員会のキャパはパンク気味だ。情報共有に問題が生じているかもしれない。このタイミングで確認しなければ―。
カザエフスキー「議長の偽旗作戦!本当にそのようなことを!?」
シュライバー「うう…ん?ああ、ついさっきグラディス提督から何か通信が来ていたな…。済まない。こっちも窓から予定している市民への演説内容調整で忙しくてな」
やっぱり…。案の定、シュライバー国防委員長は小首を傾げていらっしゃる。カザエフスキー評議員は藪から飛び出て来た蛇を目にしたような顔をなさっている。
アグネス「(タイムラグがあったか。このままでは、悔いを残す結果に成るかも知れない)」
しかし特務隊首席グラディス隊長に断りなく、私から話して良いものか…。
シュライバー「済まない。こちらも立て込んでいて、読んでいる余裕がなかった。君から報告せよ」
カザエフスキー「一刻千金いえ万金です」
そんな私の懸念を察したお二人が先を促して下さる。そうだ、今は巧緻よりも拙速を選ぶべき時よ。
アグネス「それでは誠に恐縮ながら。先ず現状を分析するに、既にデュランダル議長の『完全勝利』の芽は無く―」
シュライバー「ふむ」、カザエフスキー「?」
二人にお話しする内容は、先程、トライン副長に上申した内容とほぼ同じものだ。話している最中、カザエフスキー評議員はハラハラした眼差しを私に注いでくる。対して国防委員長は落ち着いたものだ。偽旗作戦の恐れを度々、上申して来た甲斐があったわ。
カザエフスキー「議長ないし傘下の者が敢えて流血の事態を、真ですか?」
アグネス「少なくとも、小官は強い危機感を覚えます。議長がある種の調停者のような形で威信を失わず戦術的撤退を試みるなら、この方法が先ず想起されます」
シュライバー「あり得るな。今の所、ビル周辺は―。少しずつ熱気が冷めているように見えるが…。均衡が崩れる瞬間こそ危ないものだからな」
正にその通り。緊張のピークから弛緩に入る瞬間は相当リスクが高い。 - 175二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 01:54:17
アグネス「国防委員長閣下、どうかご用心を。皆様と各隊にも」
シュライバー「分かった」
カザエフスキー「お気を付けて」
アグネス「はい」
一通り話し終えて敬礼すると、二人も返礼して下さり何とか通話を終える。先程と異なり、不思議なほど疲れを感じていない。むしろ、変な活力さえ感じる。
脳内麻薬の補充が済んだのだわ、きっと。いける!どんな難易度が高い任務もクリアできるわ!うぉーー!
私が摩訶不思議な気分の高揚感に浸っていると、奥の整備スペースからシンが乗り込むフォースインパルスがガチャンガチャンと前進して来る。シルエットはフォース。
私の進言通り、左肩には赤十字マークがペイントされ、放水砲も含め全武装が取り外されている。フォールディングレイザー対装甲ナイフもビームサーベルもなし。一応、最後の守りとして機動防盾は装備してある。胸部の20mmCIWSには封印が施されているが…。
コックピット回線を開き、シンに語り掛ける。
アグネス「シン、お疲れ。コックピットに何方か乗っていらっしゃる?それと20mmCIWSの対処はどうしたの?」
私の呼びかけでシンがコックピット回線に顔を出す。窮屈そうに同乗していらっしゃるのはミネルバの軍医殿だわ。
シン「アグネス、お疲れ。俺の所には軍医殿が、医療キッドと一緒に。20mmCIWSは全弾抜いて、もう一度、砲門を封印した」
アグネス「良し!」
シン「頑張らないとな!」
何時もより士気が高いシンとエールを交わし合う。『生かす、助ける』任務だからだろう。
ふと思う。もし彼が戦火に巻き込まれつつも、ご家族が軽傷で済んでいたなら。
アグネス「(消防士か緊急救命士にでもなっていたかも。若しくは大穴で医師に、ボランティアか赤十字等に属して被災地や戦地を廻るような生き方を選んでいたかも知れない)」
無論、そんな妄想に意味などない。でも一瞬前の彼の明るい面差し。敵機を撃破した後の特異そうな面より、ずっと生き生きして見えた―。 - 176二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 02:08:11
―さて、軍医殿にもお声を掛けよう。そもそもこの作戦は、私の杞憂に終わるかもしれない。付き合わされて、ご機嫌を悪くされていないだろうか?
アグネス「軍医殿、手狭かも知れませんが、ご辛抱を」
軍医「はは!大丈夫だ。軍用救急車や救助用内火艇もスペースが広いわけじゃないさ」
アグネス「ありがとうございます。心強く思います」
ありがたい。別に怒ってはいないようね。
私達が言葉を交わしていると、また奥からガチャガチャ、機体が前進して来る。今度はガイアだ。インパルスと同じく左肩に赤十字マーク、手ぶらでビームサーベルも無し、機動防盾は装備。他の武装は?
アグネス「どう?」
回線を開いてルナマリアに聞いてみる。
ルナマリア「うーん。妙な感じね、正直に言うと。ビーム突撃砲とグリフォン2ビームブレイドは、出力装置から幾つか部品を抜いて無力化。20mmCIWSと12.5mmCIWSは砲弾未装填で砲門を封印」
アグネス「本当にね。国内だと、困ってしまうわ」
ルナマリア「国外だったら無茶して良いわけじゃないんだけれどね」
アグネス「それはそう」
しかし実際問題として、国外のデモ隊相手ならここまで気を使うことは無かっただろう。虐殺などもっての外だが、催涙弾ボンボン撃って、機体で威圧して追い払っていたかもしれない。自国民には本当に気を使うわ。
アグネス「デスティニーはまだ掛かりそう?」
ルナマリア「もうちょっと。埋め込み型の装備が多いから」
間に合わないと不味い。緊急救命の際には医師だけは足りない。ナースもいる。本当は緊急救命士も欲しいが贅沢は言えない。
時計の数字を見ながら、己の焦りを押し殺す。大丈夫。さして時間は過ぎていない。気持ちを落ち着けろ。 - 177二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 02:49:33
待つ事、暫しミネルバの新入り、デスティニーが姿を現す。
フラッシュエッジ2 ビームブーメランは未装備、対ビームシールドは装備中。パルマフィオキーナ掌部ビーム砲とソリドゥス・フルゴール ビームシールド発生装置に関しては無力化済み。CIWSの中も空とのこと。
なお、小柄な女性看護兵を一名選び、医療キットと共にコックピットに乗せている。ムスッとしたアスランの表情に中の彼女も戸惑っているみたいだわ。彼は女性をコックピットに乗せる星の下に産まれたのかしら…。
AWACSディンパイロット「報告!市街外れのへリポートに連絡用ジェットファンヘリ発見!キャンベル嬢と緑色の服のマネージャー、特殊隊員と見られる黒スーツの護衛2名が搭乗中。離陸が近い!妨害しますか?」
アスラン、アグネス、ルナマリア、シン「!!!」
取り留めのない思いは次の瞬間、舞い込んだ急報に吹き飛ばされてしまう。やや停滞気味だった時の流れの堤が、遂に切らたのだ。AWACSディンが捕らえた映像は同期したグフのモニターからも確認できる。
アーサー「いや!攻撃を受ける恐れもある。市内からも!こちらは準備が整った。君は監視を継続せよ」
AWACSディンパイロット「了解!」
議長サイドはミーアにデモ隊を煽らせ、大規模衝突を発生させるつもりなのか?いや、それでは議長にも非難が及びかねない。おそらく生贄の子羊は―彼女自身。私には今の彼女はまるで荷馬車の上の子牛のように見える。
アグネス「(自分の運命を薄々察しながら逃れられない。きっと彼女自身、揺れている筈)」
AWACSディンパイロット「ジェットファンヘリ、離陸!」
アーサー「了解。グラディス提督、よろしいですか?」
我等の上官にして首席にトライン副長は指示を仰ぐ。モニターには平静を装ったグラディス提督の顔が表示される。
タリア「ええ。これよりインパルス、ガイア、デスティニー3機は中間施設地帯から官庁街方面居住区上空に向け発進せよ。上空からデモ隊の様子を注視しつつ、キャンベル嬢の説得工作と救助も同時に進める事。もし死傷者発生の急迫にして現在の危機とあらば緊急着陸し、救助救命活動に移行せよ。自衛の為の小火器の使用はこれを許す。」
提督は敢えていつも通りの声音だ。それが逆に事態の深刻さを再確認させる。
アーサー、アスラン、アグネス、シン、ルナマリア「了解!」 - 178二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 12:05:30
☆
- 179二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 18:09:42
偽旗作戦としても、ここからミーアに何をさせようとしてるんだ…?
あと頑張れアスラン。
色々とプライベートがややこしくなる気がしないでもないけど、マジ頑張れ。 - 180二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 19:58:10
- 181二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 22:14:01
下手したらミネルバ隊の近くでヘリごと爆破とか?
MSと衝突した、気流に巻き込まれた、最悪の場合発砲されたって言いがかりつけられる可能性すらある - 182二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 22:52:12
ルナマリアは返事をした後、ガイアをグフに寄せ、コックピットに向けマニピュレーターを開いて差し出す。私は腰に業務用デバイスを入れた鞄を巻き付け、ホルスターには制式拳銃を入れる。迷ったが、左腕を怪我している身にはハンドガンよりこれがベストだろう。
乗り移る前にルナマリアに一声。
アグネス「受け止めてね」
ルナマリア「了解」
直後にグフのコックピットを開き、パーソナルジェットも使って巨人の掌にジャンプする。成功!昇降施設奪還戦でジェットの練度が向上したわ。
ヴィーノ「シン、アグネス、ルナマリア!気を付けて、ミーアさんのことも!」
ヨウラン「しっかりな!」
足元からは整備班の声援が届く。ルナマリアが開いたコックピットに乗り込む前に皆に敬礼して応えて行く。
アグネス「よっと!じゃあよろしくね」
ルナマリア「はいはい」
フォースインパルスとデスティニーはガイアを追い越し機密区画に、私達もそれに続く。
アビー「インパルス、ガイア、デスティニー、発進スタンバイ。気密シャッターを閉鎖します」
アビーのアナウンスと共に背後でシャッターが下がり始める。空き時間を無駄にできない。この束の間が私とルナマリアのブリーフィングタイムだ。
ルナマリア「通信モニターの一つをAWACSディンと同期完了。最高評議会ビルを含む官庁街、まだまだ人が居るわね」
アグネス「ええ。彼らをどうにかしないと政治行政機能が機能不全を起こしたままになる。議長に国を人質に取られているようなものよ」
司法局が放送局を死守してくれたのは不幸中の幸いだった。お陰で、議長との情報戦で痛い目を見ているが、それでも踏ん張れている―。
ルナマリア「政治機能はともかく行政機能は何とかなるわね。建物に人は入りにくいけど、AIが作動中なら暫くは無人でも…」
アグネス「え…。ちょっと待って―」
ルナマリア「うん?」 - 183二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:10:06
出撃直前に親友がとんでもないことを言い出した!私と認識が違うわ。どうしよう?
アグネス「な…何ともならないわよ…」
ルナマリア「何で?プラントに『プロの公僕』は居ないでしょう?実務は殆ど行政実務支援用AIがやって、政治家と行政チームが最終決定だけする。その行政チームも区民から選ばれた人が副業として…」
不味い。ルナマリア、教科書を丸ごと信じている―。私達は、アカデミーを出て赴任先に直行したから、ある意味当然か。
アグネス「ねえ、思い出して。私の親は『政府の高官』よ。他国で言う所の高級官僚の最上位クラス。人の親を無職にしたいの?そもそも『本当にプロ無し』では回らないと判明して、私達は専業軍人になったんじゃない」
ルナマリア「ああ、そう言えば…。ごめん」
少ししゅんとなるルナマリア、別に彼女は間違いを口にしたわけでは無い。プラントの行政機能はAIによる助けを受け、他国より遥かに省力化、効率化している。残りは国民から選ばれた任期制公務員と政治家が担当。公職を務めることは国民の義務だ。
それで国家・地方行政は大体回っている。
しかし、高度な経験や専門技術が求められる分野はどうしても存在する。まして国家の中枢となれば『任期制の素人』では回せない。やはり『ほぼ専業』の公務員や官僚団はどうしても必要なのだ。
『階級がない』と言いつつ、実質的にはしっかり階級的なものがあるザフト軍と同じこと。物事の建前と実態が必ずしも合致しているとは限らない。西暦時代からよくあったことだ。
アグネス「(教科書通りなら、今頃、私の親は高官を辞めて、別のお仕事に邁進していたはずだからね。案外、その『矛盾』を周囲は不思議に思っていないみたいだけれど)」
ルナマリア「大変じゃない!皆さんを登庁できるようにしないと!」
アグネス「勿論よ。ほら官庁街近くの高級住宅街がデモ隊に囲まれているでしょ。あそこに高級官僚用官舎がある。私の実家もあのエリアに。缶詰め状態を解除しないとAIが頑張っても中央行政は暫くすれば機能不全になるわ」
アグネス「(パパとママは別邸に移ったのかな。いや、パパは泊まり込みで仕事か…)」 - 184二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:29:33
狭い空間で早口で話す間に、施設側の隔壁は閉じ、プラント側モビルスーツ出入口の開放も完了済みとなる。シークエンスのカウントは終了した。
アビー「ザラ小隊、各機発進どうぞ!」
アスラン「アスラン・ザラ、デスティニー、発進する!」
シン「シンアスカ、インパルス、行きます!」
ルナマリア「ルナマリア・ホーク、ガイア、出るわよ!」
各々気合を入れて、プラント内部に発進する。
『空』に出て見るとプラントの内壁は、既に微かに紫色を帯びた明かりで包まれつつある。マジックアワーの刻はもう間もなく終了するのだ。『日の出』は近い。
無論、本当の太陽は外。我等にとっては当たり前のことだ。
さて、ルナマリアに話した点も心配ではあるが…。私としてはミーアが搭乗しているジェットファンヘリの行方を注視したい。何処に向かい何をするつもりなのか?
アグネス「(あるいは上空から?)」
上空30㎞から降下する間に、少しでも見極めておきたい。
AWACSディンパイロット「報告!最高評議会ビルにも新たな動きがあり。最高評議会ビル空中庭園にライトナー最高評議会議員、カナーバ前議長、前最高評議会議員ジュール夫人他、リー国防委員、ホワイト最高評議会議員が進み出ていらっしゃいます。後ろに放送局スタッフが機材と共に!」
タイミングが良いのか悪いのか。
ルナマリア「ミーアにぶつけて来たの?」
アグネス「いえ。少なくともこちら側は元からその予定だったわ。国防委員長は『窓から』と仰っていたけれど、最終的に庭園を選んだのね」
あくまで偏見だけれど、空中庭園を選んだのは、女性陣の意見だったのかもしれない。せっかく命を掛けるなら見栄えが綺麗な方が良いものね。本場の『バビロンの空中庭園』も王妃様の為のものだったのだから。 - 185二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 06:58:05
保守
- 186二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 15:06:40
保守
- 187二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 22:23:48
アスラン達の世代までは兼業ですがルナ達の世代は軍人一本が多そう
- 188二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 01:27:33
アグネス「(空中庭園の真中から国民に訴えかけるのか、端から身を乗り出して市民に呼びかけるのか。どちらにしても勇敢なお姿だわ。彼方側の議長が直接姿を見せない分、より効果的なはず)」
此方が、デモ隊に圧されている時なら『見え透いた虚勢』と見なされかねなかった振舞いも今なら『為政者としての責任ある態度』と受け取られるはずよ。
ルナマリア「じゃあ!私達は急いで…」
ルナマリアは、そう言って操縦桿を握る手の力を込める。待った!待ったよ!
アグネス「ルナマリア!要らないわ。逆効果。皆様もお覚悟の上よ。通信回線を開いて。小隊皆に伝達するわ」
ルナマリア「え…。うん。分かったわ」
そう言えば、私と最高評議会メンバー、国防委員会サイドの遣り取りをルナマリアやシンはよく知らないのだった。情報共有の間などなかったから―。
アスラン「アグネス、ライトナー最高評議会議員やカナーバ前議長たちが…」
アグネス「我等の手出しは無用かと思います!泰然自若、威風堂々とした、一国を背負うに足るお姿です。既に国防委員長ともお話ししています」
アスラン「そうか…。分かった。俺達はミーアとデモ隊の方を、シンとルナマリアも!」
ルナマリア、「了解」、シン「了解!」
ルナマリアはアスランの指示にテキパキと応答しつつ、チラッと視線を私に投げてくる。釈明しておくか。
アグネス「ごめん。知らせる時間が…」
ルナマリア「それは良いって。そう、でも皆様は―ううん。分かったわ」
優等生の彼女はやはり心配が尽きないのだろう。
彼女達が長距離狙撃、あるいはロケットランチャー等を用いた市街地ゲリラ攻撃に晒されないとも限らない。私は彼等に『その時は殉教者になってください(要約)』と求めた。其れが高貴なる者の責務、今更になって逃げてどうする、其れならここで死になさい、と。彼等彼女等も異存はないだろう。
でもルナマリアにそれを理解せよ、と言うのは酷かもしれない。
私達が降下しながら情報交換している間、ミーア一行の動向にも変化がみられる。 - 189二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 01:43:23
バタバタバタバタバタバタ!
ライトナー評議員達の行動に応ずるかのように、ジェットファンヘリは最高評議会ビルの方向に機首を旋回させる。街中に響き渡るけたたましいプロペラ音!高度は300mほどか。
アスラン「AWACSディンは居住区上空3000mまで降下せよ。俺達は1000mまで下がる」
AWACSディンパイロット、ルナマリア、シン「了解!」
アスラン「アッシュ隊、ジェットファンヘリを注視、必要とあらば行動を。返答の必要なし」
AWACSディンパイロット、ルナマリア、シン「了解!」
返事と共にガイアを含む小隊は急降下を開始する。アスランの言葉は更に続く。
アスラン「国際救難チャンネルの放送を開始する。現在、ザフト軍の衛生モビルスーツ小隊3機、アプリリウス居住区上空を降下飛行中。本小隊は完全に非武装である。砲弾は未装填、ビーム兵器は発射不能処置済みである。アプリリウス市民の生活を妨げる意図は一切なし。接触事故等防止の為、各機義務の履行を求める。以上」
バタバタバタバタバタバタ!バタバタバタバタバタバタ!
アグネス「(喧しい音。でも彼らも計算外の出来事だったはず。一行がビルの人達の動向を知るわけはない)」
大気を震わせる回転翼の轟音、その上空から舞い降りる4機のモビルスーツの影。官庁街に溢れる群衆は空を仰ぎ見ていることと思う。
AWACSディンと同期済みのモニターから、ビル空中庭園を確認する。ライトナー評議員、カナーバ前議長、ジュール前評議員、リー国防委員、ホワイト評議員は庭園の端、手摺ぎりぎりに向け、足早に歩みを進める。
放送局スタッフは全力ダッシュで、彼らを追い越し、撮影放送の準備中だ。彼ら彼女らはジェットファンヘリが飛んで来ようがモビルスーツが急降下しようが何処吹く風だ。
その様子は一目で、彼らの強固な使命感と仕事への愛情を感じさせるもの、力強い味方がたくさんいらっしゃるわね。
シュライバー「いよいよか!どうする?どうなる!?」
ルナマリア「うぁ!?なに?」
アグネス「国防委員長閣下よ。私の業務用デバイスに、あんたは操縦に集中して」
ルナマリア「了解」
ここに来てこの人か…。目下の情勢が緊迫を増す中、彼にとっても正に今と言う時であるから、ある意味当然ではあるのだが…。腹部に巻いた特大バックから、業務用デバイスを取り出し広げる。 - 190二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 01:51:20
アグネス「閣下、どうなるかは未定です。我等は先に決めたように全国民の範たるべく振舞いましょう。ともかく最善を、自国民を、文民を守るのです」
シュライバー「ああ…分かった。いや…そうだったな」
良し、お話しは終了、ああ、そうだわ。此方も一つ、お願いをしてみようかな。『お守り』を『付けて活かす』には本来、国防委員会の許可が要る。
アグネス「閣下、無理を承知でお頼みします。今日に限り、パイロットスーツに勲章とミニチュアメダルのレプリカを佩用することを許可していただけませんか?ザフトの服装規定に抵触しかねませんが…。キャンベル嬢の説得の際、こちらの身元を明らかに示したいと…」
シュライバー「許可する!だから頼む。最高評議会ビルの正面で民間人の流血だけは避けて欲しい」
あっさり通ったわ。これは素直に感謝しておかないと。
アグネス「ありがとうございます。ビルの前であれ何処であれ、了解!」
短い変事と共に敬礼を一つして、通信を切る。きっと用があれば、また掛けてくるだろう。
ルナマリア「国防委員長って何時もああなの?」
呆れた顔のルナマリアが操縦桿を握ったまま、声を上げる。ふむ、不味い。フォローをしておこう。
アグネス「ちょっとお疲れになっていらっしゃるだけよ。この大戦を大過なく支えて来た名司令官、身を預けるに足りるわ」
ルナマリア「ああ。うん。それはそうね」
ルナマリアもしっかり者だ。直ぐに意識を作戦に全力集中する。まあ、これで私も国防委員長にも義理は果たせただろう。身を預けられるほどかは実は分からないけれど…。
ともあれ、私は未だ降下中のガイアの中、業務用デバイスを軍用特大ポーチに押し込め、代わりに『お守り代わり』として入れて置いた4つの勲章と取り出す。
『最高評議会名誉勲章』のミニチュアメダル(レプリカ)を二つ。『最高評議会宇宙名誉勲章』のミニチュアメダル(レプリカ)を一つ。そして金星がリボンに4個付いた(つまり5回受勲した)『名誉戦死傷章』のレプリカと。
ルナマリア「準備が良い!」
アグネス「元はミーア対策と言うより、群衆に協力を呼び掛ける際のアイテムになるかもって思ってね。でもアスランの説得が不発なら、その次に面識があるのは私だから…」 - 191二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 02:06:33
機内が動いているのが鬱陶しいが、まあ私のような優れたコーディネイターのスーパーエースパイロットにはどうと言う事でもない。予め勲章リボンの後ろに張り付けて置いた両面テープを一つずつ剥がし、左胸に4つのメダルを留める。ちょうど、FAITH徽章の内側に4つ並んで佩用した形だ。
アグネス「良し。ザフトのパイロットで女性のFAITH、そしてこれ等の勲章なら誰だか一目でわかるわ。ネームプレートより一目瞭然よ」
ルナマリア「確かに、いいアイデアかも、っと『高度1000m。キープします』」
アスラン「了解、指示を待て」、シン「了解」
1000m上から下の街並みを眺める。この高さからでも半径10㎞の居住区は全方位余裕で見渡すことが出来る。その俯瞰風景の下、ジェットファンヘリはか弱く飛び、その更に下には小さな箱庭のような官庁街、街路が良く見えないのは人波のせいなのか。
AWACSディンパイロット「上空5000。拡大映像、送ります。同期を」
アスラン、ルナマリア、シン「了解」
天使の視点から人の目線に近づく。そこには官庁街と周辺市街地の街路も広場も軒先も占拠した群衆が少し疲れた様子で蠢いている。彼らは私達が見下ろす『箱庭』から溢れ出し、司法局各警察隊が張った警戒線で留まっている。
なるほど、最高評議会ビルに閉じ込められた皆様方がしばしば弱気になるのも無理からぬこと、よくぞ数万の圧力と突破力から最高評議会ビルを守り抜いたものだわ。
そして―今は明確に攻守が逆転している。
最高評議会ビルは地下ドックを通して援軍を受け入れ、疲弊した人員を交代させている。精兵が増強されたあのビルはもう素人の単純なバリケード突破行では陥落しない。
宇宙港とエレベーターも『反デュランダル派』に奪われた。グラディス提督は兵糧攻めをしないと確約しているが、彼らにとってそれは安心材料とはならないだろう。
そして一番致命的だったことは、アプリリウス以外のプラント各市各区へ、『デュランダル議長擁護』の訴えが波及しなかったこと。理由はシンプル、夜間でもう皆、寝ていたから。
それに就寝前の者もまさか自分の区で夜中にデモをする訳にも行かなかっただろう。駆け付けようにもアプリリウス行きの船には臨検による足止めが掛かっていた。 - 192二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 02:19:54
そもそも『反デュランダル派』の最高評議員9名は9市つまり108基(区)のプラントから選出されている。議長支持派も突然、地元代表を切り捨てることは躊躇われたはず。『まあ、良く分からないから明日でもいいか。少し様子を見よう』、これが大多数の本音だったろう。
アグネス「ルナマリア、もうちょっと拡大して!」
ルナマリア「なに?ああ、なるほど。私達、中々ね」
アグネス「ええ」
二人でデモ隊の最新映像を拡大して、自分の努力の正しさを再確認する。以前の見た映像と比べ、デモ隊の人数は櫛の歯が欠けたように減少し続けている。残った人々もグラディス軍政の下、当たり前のように上下する中央エレベーターを見上げ、来るはずのない援軍の影を求めては裏切られ続けている。
既にデモ隊の最大の敵はザフト軍でも最高評議会議員でもない。
彼らは『日常』に溶け落ちるのだ。会社の始業時間が始まるたびに、校門が開くたびに、自分の親兄弟姉妹、そして子供が朝の挨拶を待っていると思い出すたびに―。彼らの『隊』は解体していく。
最後まで残れるのは学生だろうか。何にせよ、彼らにとって『革命未だならず』。
ふと思う。これで良かったのだろうか?
大衆の一時の熱狂は確かに褒められる結果ばかりを生むものではない。しかし暴君の拳を砕き、歴史の針を逆行させるような強権主義の歯止めになって来たのも彼ら彼女らのような人達だったのではないか。
こんな風に民衆に敗北感と無力感を植え付けるようなことをしては、後で本当に祖国に暴虐の嵐が吹いた時、立ち上がる者が居なくなってしまうのではないか?
暗闇に抗う六等星も、砂塵に塗れた地上の星も、間違いなくあの中にいるはずなのに。それどころか考えようによっては皆全てが―。
ライトナー「プラント全国民の皆さん、私は最高評議会議員、ルイーズ・ライトナーです。おはようございます。今、最高評議会ビルの周りにお集まりのアプリリウス市民の皆さんも、おはようございます。皆さんにご心配をお掛けしていること、誠に遺憾に思います」
ガイアが国営放送を受信する。ライトナー評議員、ママ世代だけれど頑張るわね。空中庭園の端に立った彼女は堂々と群衆に語り掛け始めた。同時に各ビルの大型ビジョンも一斉に彼女の映像を映し、その声を街角の端から端へ届ける。 - 193二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 09:02:33
保守
- 194二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 17:35:40
保守
- 195二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 23:24:45
- 196二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 01:50:17
空元気というか自嘲というかヤケクソというか⋯
そう思いでもしないと「なんで私はずっとこんな目に⋯」って方向に思い詰めてしまうだろうからな - 197二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 02:27:22
ライトナー「高い所からでありますが、このビルから皆さんの…―ザザッ、ザ―ザ―、サ―ッザ―ザ―…」
しかし、それも束の間、大型ビジョンの映像は砂嵐に覆われる。街のビジョンだけではない。私達が注視するガイアの通信モニターもノイズで閉ざされてしまう。
アグネス「(またか、小賢しい。いい加減にして!)」
ライトナー評議員は放送スタッフから拡声器を受け取り、なおもスピーチを続けようと試みるが―。
バタバタバタバタバタバタ!バタバタバタバタバタバタ!バタバタバタバタバタバタ!
その声さえもビル正面付近まで迫ったジェットファンヘリの音が妨害する。先程まで300mをキープしていた高度はみるみる下がり、今は150mほど。本気か!?市街地だぞ!
これは―。物理的手段による言論妨害、議長側が一線を越えたか!
アスラン「小隊、降下開始300mまで。グラディス提督、危機的状況、発生の兆候あり」
タリア「了解、許可します」、ルナマリア、シン「了解」
アスランの号令一下、ザラ小隊各機は前傾姿勢となり、700mの急降下を開始する。ほぼ同時に眼下のヘリは装備していた大音量拡声器から、『彼女』の声を地上に押し流し始める。
ミーア「皆さん、私はミーア・キャンベルです。きっとお疲れでしょう。でもどうかもう一度、私の話を聞いて下さい」
ヘリの拡声器が口火を切った瞬間、電波妨害で乗っ取った街頭ビジョンに搭乗中のミーアの姿が映し出される。何時もの舞台衣装でジェットファンヘリの座席に腰かけ、インカムを付けて話している。隣座席は緑の服のマネージャー、前座席には黒スーツのボディーガード1人、もう一人は操縦士か。
ミーア「昨夜から、果てしなく長い夜を越え、最高評議会ビルの外でデュランダル議長をお守りしている皆さんも、ビルに立て籠もり些細な見解の相違から事態を故意無く長引かせてしまった方々も…」
ミーアの演説、おそらくそのまま即席ライブを決行する魂胆…。いや、それだけか?
あるいは―。
業務用デバイスから無線インカムを取り出し、二重に被ったパイロットヘルメットを脱ぐ。そしてガイアの通信モニターにも強めの口調で話す。 - 198二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 02:36:01
アグネス「アスラン先輩、もしこれが偽旗作戦なら…。この段階でヘリを撃ち落とされる可能性もあります。彼ら自身によって、『反デュランダル派』を装いロケットランチャーで攻撃…」
アスラン「な…!」
3重目の薄型ヘルメットの片側にインカム固定、準備良し。再びヘルメットを重ねて被りながら話を続ける。
アグネス「あるいは自爆の恐れも。デモ隊は直ぐに見抜けません。激昂して死者が生じるほどの衝突も勃発し得るかも。デスティニーなら間に合います」
アスラン「分かった!彼女を…」
アスランは返事と共にウィングから桃色の翼を広げる。ヴォワチュール・リュミエール、戦闘兵器でない為、赤十字マークを入れた際にもこれは無力化していない。
その翼が生じるや、彼の機体は鷲が小鳥を狩るがごとく、眼下のジェットファンヘリに舞い降りる。
アグネス「メイリン、通信を。お願い」
メイリン「はい!」
メイリンの返事の後、一呼吸を置いて、私は全市民に向けてアナウンスを掛ける。
アグネス「国際救難チャンネルの放送を開始します。こちら軍政本部衛生モビルスーツ小隊、眼下のジェットファンヘリに告げます。貴機の飛行高度は法令に反し、居住区地上の人間及び周辺建物、並びに自機に対し、明白にして現在の危険を生じさせています。速やかに危険飛行を止めよ。下の人間は退避を!」
メイリンの手並みに寄って街中の防災無線は奪還され、私の読み上げるアナウンスは地上のデモ隊にも満遍なく降り注ぐ。其れのみならず、街頭ビジョンの何割かにも。
当然、ジェットファンヘリの通信にも届いている。
ミーア「…従って、これ以上のいがみ合いは、ただ悪戯に―。え…アグネスさん?…サラ!あれ、あのモビルスーツは?」
サラ「ちぃ! 」
滔々と演説を続けていたミーアも否応なくデスティニーの灰色の影に気が付く。
なるほど、あの緑色の女はサラと言う名前か、判明したわ。拡声器とビジョンで丸聞こえだったから。彼女らは上空で偽旗作戦でもする気だったのか?そうはさせない! - 199二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 02:53:49
- 200二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 06:21:42
200ならここのアグネスは未来永劫胃痛キャラ