- 1二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 21:39:19
- 2二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 21:39:53
「レイサ―!ツバキー!朝ごはんできてるわよー!」
「んあ……ふぁあ……」
「春休みだからってツバキと二人して寝坊しないで。早く起きてらっしゃい」
聞きなれた声で目が覚めます。
暁春眠を覚えず。最近はすっかり暖かくなってきて、窓の外に見える梅の木も蕾を開いています。
そんな季節なのでついつい寝坊助になってしまう私ですが、今日の眠りが深かった理由は他にありました。
「すぅ……すぅ……」
「……ツバキ姉さん」
体を起こせばすぐそばに柔らかな人のぬくもりが。同じ布団で寝ていたツバキ姉さんです。
姉さんは姉妹の中で寝るのが一番大好きです。そして、そんな姉さんの側で寝てると普通よりもずっとぐっす眠ってしまうのです。
一緒にお昼寝することもあるのですが、気づけば夕方に……なんてことがよくあります。
「目覚ましは……やっぱり止まってる」
あと、目覚まし時計が嫌いな姉さんと寝ていると、いつの間にか時計のアラームを止められていることも度々。
ずっと寝ているはずなのに一体いつアラームを切っているのでしょう。不思議です。 - 3二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 21:40:58
「ぐぅ……すぅ……」
ツバキ姉さんはアル姉さんの声を聞いてもちっとも起きる気配がありませんでした。
まあ、いつものことです。ちょっとやそっとで起きない姉さんを起こすのは昔から私のお仕事でした。
まずは布団から起き上がって、すぅっと大きく息を吸って。
「おはようございます!!ツバキ姉さん、もう朝ですよ!!!」
大きな声といっしょに掛け布団を引きはがします。
朝日に照らされる白いシーツの上、ひとつしか歳が違うとは思えない程色々と大きな体があらわになります。
……。
ツバキ姉さんもアル姉さんもスタイルはいいですし、私も来年にはきっとこれくらいにはなっていますね!!
「ん~……朝?」
「はい、朝ですよ!姉さん!!」
「もうちょっと、寝てちゃダメ?」
「アル姉さんが朝ごはんを作って待っています。早く下に降りて一緒にごはんを食べましょう!」
「……んぅ」
むにゃむにゃと瞼を擦りながらも、のっそりとクマさんの様な動きで起き上がります。
ここから「もうちょっと」「あと少し」と粘られることもよくあるのですが、今日は比較的寝覚めが良いようです。
「ふぁ~、おはよう、レイサ」
「はい!おはようございます、姉さん!」
密かに憧れている艶やかな黒髪を揺らしながら、大きなあくびと共にすぐ「おはよう」の挨拶をしてくれました。
こうして目を覚ました私たちは、アル姉さんの待つ一階へと降りるのでした。 - 4二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 21:41:44
「おはようございます!」
「……おはよう、アル」
「二人ともおはよう。……まずは顔を洗ってきなさい」
居間に入った私たちを迎えてくれたのはエプロン姿のアル姉さんです。
丁度ご飯を運んでいる途中の様で手にはお皿が。料理の際に湯気に当たったのかメガネのレンズが少し曇っています。
「ん~……」
「わわ、すぐにお手伝いします!!」
アル姉さんは私たちの中でも一番のしっかり者で、おっちょこちょいな私やのんびり屋のツバキ姉さんの面倒を見てくれます。
とはいえ、姉さんに頼りっぱなしは申し訳ないです。
ゆっくりと洗面台へ向かうツバキ姉さんを追い越して急いで顔を洗って寝癖を直し、すぐに準備のお手伝いに加わります。
「あれ、新しいジャム?」
「ええ、そろそろ今のがなくなりそうだったでしょ」
「あんずのジャムなんて初めてです!」
「あら、そうだったかしら?」
厚切りのトーストとミニトマトの乗ったサラダにこんがりのソーセージと温めたミルク。
アル姉さんの作ってくれたご飯をテーブルに並べていきます。
準備が全て終わった頃、顔を洗ってようやくきちんと目を覚ましたツバキ姉さんが席に着きます。
三人でテーブルを囲むいつもの朝。
「「「いただきます」」」 - 5二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 21:45:12
「レイサ、今日はなにかあるの?」
トーストにジャムを塗りながらアル姉さんが聞いてきたのは本日の私の予定です。
今は春休みで学校がお休みですからね。最近は毎日この時間にお互いの予定を確認するようになっていました。
甘酸っぱいあんずジャムのトーストをごくりと呑み込んでから今日の予定を口にします。
「今日はこの後ムツキちゃんと一緒にお買い物の予定です」
「ムツキと二人で?……あんまり危ないところへ行っちゃダメよ?」
「ムツキちゃんもいますし大丈夫です!」
「だからこそ心配でもあるのだけど……お昼は?」
「少し遅くなるかもしれないですが、うちに戻って食べようかなと。あ、ムツキちゃんも一緒に来ると思います!」
「そう、わかったわ。もしかしたら私が家にいないかも知れないからその時は何か食べられそうなもの作り置きしておくわね」
「了解です!」 - 6二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 21:47:34
「ツバキの方は?」
ミルクを一口飲んで、今度はツバキ姉さんの方へ尋ねるアル姉さん。
「百鬼夜行への引っ越しで残ってた手続きがあって、今日は一日家にはいないかな」
「……」
ツバキ姉さんの一言で、朝日の射す居間が急に電気を落としたかの様に薄暗くなったと錯覚します。
胸の奥がキュッとなって、それを悟られない様にソーセージを頬張ります。
「わかったわ。あ、どうせミモリも一緒でしょ?終わったらうちに連れてきなさい。この前のお礼を言いたいから」
「そんなに気を使わなくてもいいのに」
「あなたがそんなだから私が気を回すの!いいわね!」
「はーい」
「……」
姉さん二人はなんてことない話題の様に話す引っ越しの話。
百鬼夜行。ツバキ姉さんだけ。ここからずっと遠い学園自治区。
私たちは昔から高校から三人とも別々の学園に進学することが決まっていたのです。私たちの生家がそう決めているのだと。
ツバキ姉さんは百鬼夜行へ、アル姉さんはゲヘナへ、それから私はトリニティへ。
それはずっと前からの約束事で破ることはできないのだそうです。
だそうです、と言うのは私にはそのことを知らされていなかったから。中学二年生になって初めて姉さんたちに聞かされたからです。
おおよそ半年前、私は初めてそれを知りました。
もうあと少しで、ずっと一緒に暮らしていた二人の姉がこの家からいなくなるということを。 - 7二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 21:49:41
☆★☆
「はぁ……」
朝ごはんを食べ終わって。洗い物をして身支度を整えた私は、燃えないゴミの詰まったゴミ袋を片手に少し離れたゴミ捨て場を目指しています。
もう片方の手には中学の進級祝いという名目でどこかから届いたショットガン。シューティング☆スターと名前をつけています。
ムツキちゃんとの待ち合わせまでにゴミ出しを終えなければいけませんので、気持ち駆け足です。
私たちが暮らしているのはトリニティ自治区とD.U.の間にある雑多に建物が乱立する緩衝地区。
自治区の住人からはスラム街なんて呼ばれることもある地域にある二階建ての一軒家です。
スラムと言われているとはいえ、昔からの家や住人もそれなりにある場所で私たちの家も比較的立派な部類には入りますが決して珍しいものではありません。他のスラム地区と比べればかなりきれいな町並みをしていると思います。スラムの中では、という但し書きはつくのでしょうが。
"旧市街"とここに住んでる人たちはそんな風にこの一帯を呼んでいます。
まあ、私もあまりきちんとしたことはわかっていないのですが。
つまるところ何の話かと言えば、自治区内であればゴミ収集車が回収しに来てくれるらしいおうちのゴミも気軽には捨てられないという事です。
スラムなんて呼ばれている場所ですからその辺にポイ捨てしているところも少なくないのですが、私たちの暮らしている"旧市街"は住民同士でルールを決めています。
こういったゴミも買い取る人がいるらしく、決まった時期にそういうお店まで持って行くことになっているのです。
これが微妙に家から遠く、いつもゴミ出しの期日に出かける人が担当することになっています。
私がゴミ出しをひとりで任されるようになったのは今年に入ってからでしたが。 - 8二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 21:52:55
「事情は理解してますよ。もう話を聞いて半年も経ってます。わがままを言うつもりもないんです……ただ……」
「ただ?」
「その、姉さんたちが無理をしていないかが心配なんです。二人は私に黙ってこっそり色んな苦労をずっとしている気がして」
「うんうん、レイサちゃんは二人のこと大好きだもんね~。それと同じくらいあの二人はレイサちゃんを大事にしてるんだけど」
「はい、大好きなんです。だから……うぇえぇっ!?」
いつの間にか口から洩れていた独り言が独り言ではなくなっていることに気づいて飛び上がれば、見知った顔がにんまりを満足そうな笑顔を浮かべます。
「ム、ムツキちゃん!?なんでここに……!?約束の待ち合わせはウェストパークって」
「くふふ~こっちで張ってればレイサちゃんびっくりするんじゃないかなぁって」
「びっくりしましたけど!!そうじゃなくって!」
白い髪に赤い瞳。私よりも少し小さな背丈の女の子はこの後一緒にお買い物予定の浅黄ムツキちゃんでした。
昔、細かな事情は知らないのですがアル姉さんが家に連れてきてしばらく一緒に暮らしていたこともある私たちの幼馴染です。
家に閉じこもりがちだった私を色んなところに連れまわしてくれた、もう一人のお姉ちゃんみたいな存在でもあります。
「どうせ同じ様な場所に住んでるんだし一緒にD.U.まで出た方が早いしね」
「それならそうと先に言ってくれればいいのに」
「そしたらレイサちゃんをびっくりさせられないじゃん」
「それはもう、すごくびっくりしました……」
「それなら悪戯大成功~♪」
嬉しそうにくふふと笑えばそれにあわせて後ろでひとまとめにされた髪が小さな尻尾のようにぴょこぴょこと上下します。以前はツバキ姉さんより短い髪だったのに、最近伸ばし始めたみたいです。果たしてどこまで長くするつもりなのか、少し気になってます。
ムツキちゃんは昔から悪戯好きで私もよく彼女の悪戯でひどい目にあいました。
長い付き合いなので悪戯されるのもすっかり慣れたものですが。 - 9二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 22:00:32
「それで、レイサちゃんは色々とお悩み中なわけだ」
「う……」
下からのぞき込まれる様にしてそう言われると、つい言葉に詰まってしまいます。
昔は私が見上げていたはずなのに。気づけばいつからか私の方が背が高くなってしまいました。
……姉さんたちにはちっとも追いつかないのですが。
「今日のショッピングだって無関係じゃないんだし、ついでにムツキちゃんに相談してみたらどうかな?」
かわいらしく小首をかしげて、少し茶化す様にそう言われれば大人しく相談する以外ありません。
なにより、軽い口ぶりではあってもムツキちゃんが私のことを心配してくれているのもわかるのです。
もう一人の幼馴染もそうなのですが、どうにも私は幼馴染とういうものに敵いません。
「えっと、それじゃあ……このゴミを出し終わったら」
「おっけー。ゴミ捨てなんてさっさと終わらせちゃおう。そしたらレイサちゃんとデートだもんね」
くるりとその場で一回転しムツキちゃんは私の先をたたたと駆けていきます。
その小さな背中を私も駆け出し追いかけます。
昔は私が見上げていたはずなのに。
彼女の名前を何度も呼んでその背中を追いかけたことをふと思い出してしまい、なんだか懐かしさの様なものがこみ上げてきます。
あの頃から私も目の前の彼女も変わっているのだなぁって。
そして、それはきっと姉さんたちも。
昔も今も見上げる姉さんたちだって、きっと私と同じように成長して。変わっているのです。
その結果がまもなく訪れる別離なのでしょう。
ゲヘナも百鬼夜行も歴史あるとても大きな学園で。そんな学校へ二人が進学することは決して悪いことではないのです。
ただ、そう。
変わっていくことをほんの少し。ふとした瞬間に寂しく思ってしまうだけで。
そう思っているのは、私だけなのだろうかと。そんな寂しさまで覚えてしまうだけで。 - 10二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 22:03:47
ひとまず今日はここまで
見切り発車ではじめたのでどこまで書けるかわからないですが続きは明日更新できればなと
レイサとツバキとアルが姉妹という謎世界線SSになります
深い設定や謎や事情は特にないのでふんわり雰囲気を楽しめるものを目指す予定 - 11二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 22:11:04
期待してる
- 12二次元好きの匿名さん25/04/11(金) 22:14:19
この3姉妹概念好きだから嬉しい
- 13二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 01:22:48
元ネタもとい精神的前スレ
宇沢の姉募集|あにまん掲示板bbs.animanch.com