(SS)お釈迦の歌

  • 1◆l7elE92Qk0.U25/04/12(土) 00:37:25

    「クラフトさんをシークレットライブにご招待なのです」

    ある日の昼下がり、わたしの目の前にいるウマ娘から、そう告げられた。
    彼女の名はアストンマーチャン。"辻写り"を得意とするスプリンター。
    シークレットライブ? ファル子さんがよくやってるゲリラライブのようなものかな?
    この後特に予定は無いし、気にはなるけれどどうしようか?

    「観客はマーちゃんとあなただけなのです。選ばれし者です。どややっ」
    「さあ、こちらへ。もうすぐ始まりますので」
    一体どういうものか考えていると、彼女はわたしの手を取り駆けだす。

    「あ、ちょっ、待って!」
    どうやら拒否権はないみたい。手を引かれるまま足を前に出すほかない。


    ────


    連れてこられたのは、鉄壁で隔てられた一室。
    見渡すといくつもの装置が立ち並んでいる……ここ、入ったらまずいんじゃないかなぁ!?
    でも、なんでそんなところにすんなり入れたんだろう?
    ……思い返してみればドアは半開き。まるでわたしたちを待っていたかのように。
    不可解な点がいくつも浮かび上がってくる。

    マーチャンさん、何か知っているのかな? 声をかけようとすると、彼女が口を開いた。

    「開幕です。お静かに」
    しぃっと指を当ててわたしにそう話す。

  • 2◆l7elE92Qk0.U25/04/12(土) 00:37:44

    目の前に鎮座する装置。前面を覆う鉄扉には"電設-1-7"と無機質なプレートが張り付けられてる。
    その無骨な装置は、わたしたちが静まるのを待っていたかのように歌い始めた。

    それはまるで、若い女性の声。
    楽し気にも、悲し気にも聞こえる不思議な歌声。

    その歌はどの国の言葉かはわからない。
    どんな意味が有るのかもわからない。

    ただその歌声は楽し気に、そして悲し気に歌い続ける。
    目の前のわたしたちに向けるように。



    「誰や!? パイロン置かんと作業しとるんは!? しかも半開きやんけ!!」
    二人で聞き入っていると、誰かが入って来た。
    思わず目をやると、そこにいたのは作業着にヘルメット姿の職員さん。
    腕には"主任"の腕章を付けている。

    「君ら何しとるんや? 危ないさけ入ったあかんで!」
    わたしたちを見つけるや否や、そう話しかけていた。

    「すっすみません! 直ぐ出ますから! マーチャンさん、出なきゃ!」
    「もうすぐ終わりますので少しお待ちください。職員さんもいかがですか? シークレットライブ」
    慌てるわたしにも職員の方にも意に介さずそう続けた。

    「シークレットライブぅ? どういうことや?」
    怪訝な顔で問いかけられ、彼女は答える。

    「耳を澄ませて、装置さんの歌をお聞きください」

  • 3◆l7elE92Qk0.U25/04/12(土) 00:37:59

    職員はその答えに何か気付いた様子で、耳に手をやり注意深く聞き始めた。
    歌声はまだ続く。それに伴い、職員の顔はどんどん青ざめって行った。

    「あかん、オシャカや!! 停めたなあかん!!」
    そう叫ぶと手に持っていたタブレットを慌ただしく操作し始めた。

    「こいつ先週点検しとるのに……担当誰や!? 俺やんけ!!」
    「えらいこっちゃ、人集めんと……」
    ……あれ? もしかして結構大事!?
    わたしたち、何かやっちゃった!? 血の気の引いて行く感覚、そして頭の中でどうすれば良いのかグルグルめぐる。
    そんなわたしとは対照的に、彼女はいつも通りそこに佇んでいる。まるで、すべて知っているかのように。

    「君たち」
    「は、はい! すみません、何か壊しちゃいましたか!?」
    「よう見つけてくれた! ちょっとの間不便やけども堪忍してな!」
    「は、はい! 頑張ってください!」
    何が何だかわからないうちに、わたしたちはその場を後にした。

  • 4◆l7elE92Qk0.U25/04/12(土) 00:38:13

    ────


    "学園設備緊急点検のお知らせ"



    その後、校内掲示板を見に行ってみれば、そう貼り出されていた。

    「どうやら、装置さんのSOSだったようなのです。マーちゃんは機械にも頼りにされているのです。どややっ」
    「もしかしたら、本当にそうかもね」

    職員さん曰く、機械は歌うことがあるみたい。
    故障したり、摩耗した部品が軋む音、ガタつく音が組み合わさって人の声みたいに聞こえるとか。

    本当かどうかわからないけれど、もしかしたら彼女は気付いていたのかもしれない。
    理屈はわかるけれど、不思議なこのことを。


    ……


    マーチャンさん、あなたには何が見えているの?
    わたしには見えない、何かが見えているの?

    彼女の愛くるしい瞳を見つめても、帰ってくるのは微笑みだけ。

    何も、何もわからない。
    わかることは、彼女が存在し、"何か"を知っている。ただそれだけ。
    それ以上はわからない。

  • 5◆l7elE92Qk0.U25/04/12(土) 00:38:26
  • 6二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 00:51:29

    兄貴おっすおはよう
    無なる者の声とは言っても今回は機械さんか…
    終わりが近いと分かれば彼らも自分の存在を示そうと歌を歌うもんなんだな…
    マーチャンと共鳴するものがあったんだろうね

  • 7二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 00:53:04

    脳内マーチャン&クラフトボイス余裕だった
    何かと思えばそんな現象あるのね
    また一つ賢くなった

  • 8◆l7elE92Qk0.U25/04/12(土) 01:00:38

    >>6

    オッスオッス!

    終わり行くものの断末魔はマーちゃんにはよく聴こえるのかもしれんね

    機械ってたまに人間臭いところが有るから面白い


    >>7

    ありがとナス!

    結構色んな業界で聞くのであるあるなんやろね

  • 9◆l7elE92Qk0.U25/04/12(土) 01:19:02
  • 10◆l7elE92Qk0.U25/04/12(土) 06:54:56

    最後に一発上げておこう
    大胆な自スレ上げはスレ主の特権

  • 11二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 07:00:36

    山彦が聞こえたら逃げろっていうのもあるよな
    (小熊の鳴き声が人の声に聞こえるという所から)

  • 12◆l7elE92Qk0.U25/04/12(土) 07:29:52

    >>11

    オーイ、オーイって聞こえると近くにいるから逃げろって言われてるな

    あな恐ろしや

  • 13二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 13:53:36

    オカルトでも何でもないちゃんとした事象なのか…

  • 14◆l7elE92Qk0.U25/04/12(土) 20:34:53

    >>13

    意外と色んな業界である話だから結構面白い

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