【ss】魔法科学園の意地悪な先輩の話。

  • 1二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 01:49:26

    私は織姫ミヤビ、魔法科学園に通っている一年生。

    夢は立派な魔法使いになることで、その為に魔術の稽古を毎日している。

    まだ魔法の腕は未熟だけど、楽しく鍛錬に励んでいる。

    新しい魔法を使えるようになるのはやっぱり嬉しいし、夢に一歩近づいたような感覚がするからだ。

    クラスには仲のいい友達もいて、学園生活はとても好きなのだけれど、一つだけ困った問題があった。

    それが……。



    「よおミヤビ。任せておいた掃除は終わったんだろうなァ?」

    ドスドスと足音を立てて怖い顔で近づいてくる、二年生の高身長な鳳凰カガリ先輩。

    オオカミの耳と尻尾を持つ獣人で、鉄の棒を曲げるほどのとてつもない怪力を持つ。

    この人は傲慢かつ身勝手な性格で、いつも掃除の時間になると私に掃除を押し付けて遊びに出かけてしまうのだ。

    私だけでなく、小柄で気の弱そうな一年生を見かけると掃除の仕事を押し付けてくる。

    本人曰く「掃除は下っ端の仕事。オレが掃除をしたらこの美しい尻尾が汚れてしまう。」とのこと。

    掃除の押し付けに限らず、カガリ先輩は私達の靴を隠したり机に落書きをしたりと酷い嫌がらせばかりしてくるのだ。

  • 2二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 01:58:25

    その為当然ながらカガリ先輩は皆から嫌われており、顔を見ただけでそそくさと逃げていく人が大半であった。

    それでもカガリ先輩は持ち前の馬鹿力で私達を強引に捕まえ、自慢話を聞かせたり嫌がることをしてくる。

    先輩の自慢話は内心全く面白くなくうんざりさせられるものであったが、私達は自らの気持ちを押し殺して「すごいですね。」と称賛するしかなかった。

    彼は自分が常に一番目立っていて、誰からも慕われていないと気が済まない性格なのだ。

    皆に好かれたければ優しく接すればいいことには、カガリ先輩は未だに気付いていない。

    私達はそんなカガリ先輩を懲らしめて反省させる方法を色々と考えてきたが、どれも実行する勇気がなかった。

    何せ相手は身長が百八十センチメートルを超えており、あの鋭い目付きで睨まれたら思わず足が竦んでしまう。

    存在そのものが威圧感を放っており、彼に意見できる者はいなかった。

    そうしているうちに彼はいつしか、「独裁の暴君」と陰で呼ばれるようになった。

    本人は自分が周りからそう呼ばれていることを知っても、憤るばかりかまるで褒め言葉のように解釈し、ますます自惚れをヒートアップさせてしまっている。

    そんな状態だから、上級生や先生達も彼の扱いに手を焼いているようであった。

  • 3二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 01:59:25

    早く寝ろ桃太
    よくもまぁまた似たような名前の使い回して
    ネーミングセンスのボキャブラリーの貧弱さに憐れみすら覚えるぜ

  • 4二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 02:05:39

    彼について悩んでいた、ある日のこと。

    私はいつものように掃除を押し付けられ、不服ながらも廊下の雑巾掛けを始めた。

    不当に押し付けられた仕事だからといって、決して放棄はしない。

    汚いのは私も好きではないし、皆にも綺麗な校舎を使って欲しいからだ。

    カガリ先輩は外で、火の魔法を使って遊んでいる。

    火の魔法は数ある魔法術の中でも特に危険で、必ず先生の監督下の元で行わなければならない。

    そしてカガリ先輩のように尻尾のある生徒は、安全な為に外套と呼ばれるコートのようなもので尻尾を覆わなければならない。

    しかしあの人がそんな忠告にみすみす従うはずもなく、相変わらず尻尾をズボンの外に出したまま火遊びをしていた。

    彼が他人の忠告を素直に聞くような人物なら、今頃は嫌がらせをすると他人に嫌われるという同級生の忠告を聞いて嫌がらせをやめているはずだ。

    生徒だけで火の魔法を使っているだけでも危ないというのに、尻尾に何度も引火しそうになるものだから見ているだけで冷や汗が止まらない。

    とはいえ私にも自分の……ものではないが押し付けられた仕事があり、押し付けた本人がどう過ごしていようと関係ない。

    先輩の様子を見るのをやめ、再び掃除に取り掛かろうとした時だ。

    「たた、助けてくれぇ〜!!」

  • 5二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 02:14:06

    その声は、随分と聞き慣れていたものであった。

    何かが焦げるような匂いと、バチバチという音がする。

    声のした方を見ると、どうやら案の定尻尾に火が引火してしまったカガリ先輩であった。

    先輩は火のついた自分の尻尾から逃げるように、右往左往に走り回る。

    立ち止まると火がそのまま自分へと向かってくるので、どうにも立ち止まれない描写であった。

    間の悪いことに先輩はこの時に尿意を催していたようで、恐怖からなのか火を消す為に恥を忍んでしているのかは不明だがおしっこを漏らしてしまっていた。

    しかし、尿の勢いでは火を消すことはできず、ますます大きくなるばかり。

    更に火のついた尻尾を振り回したことで周りの植物にも引火し、火が燃え広がってしまう。

    普段いくら意地悪をしてくる先輩であっても、これほどのピンチに陥っているのを放っておかない。

    私は雑巾を洗う為の水が入ったバケツを握り、大急ぎで先輩の元へと向かった。

  • 6二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 02:20:39

    先輩は自分に近づいた私に気付き、大声で怒鳴った。

    「来るな!! 燃やされたいのか!!」

    いつもの自分なら、確実に怯えていた声量だ。

    しかし今回の私はそれに一切怯むことなく、水の溜まったバケツを勢いよく先輩目掛けて投げた。

    バケツは空中で宙返りしながら中の水を撒き散らし、周囲を湿らせる。

    それはカガリ先輩の頭上から重力に従って滝のように降り注ぐ。

    そして、先輩に驚く時間と余裕も与えずにびしょびしょに濡らした。

    やがてバケツは水と共に地に落ち、カランと音を立てて転がった後に静止した。

    火は水に弱い。

    先輩の尻尾を餌に燃え盛っていた火は、水の勢いに押し負けて完全に消え去った。

    しばらく辺りには煙が立ち込めていたが、やがて視界がクリアに開け、カガリ先輩はようやく状況を理解した。

  • 7二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 02:29:46

    カガリ先輩の容姿は、お世辞にも美しいとは言えなくなってしまっていた。

    半分ほどが焼け落ち、残った半分も真っ黒に焦げてしまった尻尾。

    雑巾を洗ったどす黒い水を被り、汚らしくなってしまった全身。

    もはやお漏らしの後すら残さぬほどに濡れ、ポタポタと水滴を垂らす制服。

    彼は自分の今の姿は勿論、何よりもずっと見下して蔑んできた人物に助けられたことにみっともなさと恥ずかしさを覚えた。

    もはや、穴があったら入りたいほどだ。

    だが、残念ながらそこにはカガリ先輩が入れるほどの穴はない。

    自身の惨めさを誤魔化すかのように、先輩は私に向かって怒鳴った。

    「何するんだ!! お前が汚い水をぶっかけたせいで、オレの美しい姿が……」

    「それが、自らを助けてくれた者への態度かね。」

    先輩の言葉を遮って現れたのは、彼のクラスの担任の先生であった。

    「火の魔法は教師の監督下で、且つ君のような尻尾のある生徒は外套で尻尾を完全に覆って初めて使用が許されるものだ。悪戯に使うなど言語道断!!」

    先生にこっぴどく叱られた先輩は、私に初めて弱っている姿を見せた。

    耳は垂れ、顔は俯き、尻尾はだらんとしている。

    「彼女の勇気ある行動のおかげで助かったんだ。何か言うことがあるのではないかね?」
    「その、助けてくれて……ありがとう。あと、いつも嫌がらせして、ごめん……。」

  • 8二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 02:40:44

    先輩はあろうことか私に、感謝と謝罪の言葉を同時に口にした。

    その言葉からは嘘やいい加減な気持ちは感じられず、偽りのない誠実さが自分の心に届いた。

    心から反省していることが先生にも伝わったのか、叱責はそこで止まった。



    それからというもの。

    カガリ先輩はすっかり心を入れ替えて改心し、心優しい人物になった。

    他人の為に動くことに躊躇せず、喧嘩をしている者がいれば仲裁に入り、後輩に勉強を教えたりもしていた。

    しかし、長く横暴に振る舞ってきたのだから、信頼を取り戻すのは簡単ではなかった。

    松葉杖を使っている生徒が荷物を持ちながら階段を登ろうとしていた為、荷物を自分が運ぶと提案したものの「カガリくん、意地悪するから嫌! どうせ運ぶフリをしてばら撒いたりするんでしょ!」と冷たく返されてしまった。

    その時のカガリ先輩は純粋な善意で助けようとしたのだが、その生徒は過去にカガリ先輩にそのような行為をされたらしく、先輩を信じないのも無理はなかった。

    そうした経験をするたびにカガリ先輩は酷く落ち込んだが、なけなしの力を振り絞って何度でも再び立ち上がってみせた。

    そうこうしているうちに、カガリ先輩が改心をしたことが学園中に広まり、もはや彼を憎むものはいなくなっていった。

  • 9二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 02:50:47

    騒動から一ヶ月ほどが経過し、焼けて焦げてしまったカガリ先輩の尻尾は再び生え揃った。

    生命の回復力は凄まじいもので、燃える前の美しい銀色と先端の黒いグラデーションを取り戻した。

    それは再生力という誰にでも備わった力であったが、私はそれは改心したことへの神様からのちょっとしたご褒美だと思った。

    しかし、彼はもう自分の尻尾を皆に見せびらかすことはない。

    尻尾が汚れたとしても、掃除を後輩に押し付けることなく自分自身で丁寧に行うようになった。

    彼は二つのことに気付いたのだ。

    一つ目は、例え自分の尻尾が汚れたとしても皆が綺麗な校舎を気持ちよく使える方がずっといいということ。

    二つ目は、人気者でい続ける方法は自らの美しさをひけらかすことではなく皆に親切にすることだということ。

    それでも彼にとって尻尾は獣のような耳と共に種族の象徴である。

    尻尾のせいで尻の部分に尻尾を通せる穴の空いたズボンやパンツしか履けないが、それでも切ったりズボンの中にしまう気にはなれない。

    例の県の反省から火の魔法を使う時は外套で全て覆うが、それ以外では常にズボンから出して皆が見えるようにしていた。

  • 10二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 03:00:24

    先輩の尻尾はふさふさとしており、触り心地がよい。

    そのことは学園中に広まっており、毎日多くの生徒が彼の尻尾を触りたがった。

    昔の彼ならばそんなことは己のプライドが絶対に許さなかっただろうが、私と出会って成長した今の彼は尻尾を触られるのを嫌がらなくなった。

    時には強く掴んだり引っ張ったりなど乱暴な触り方をする者もおり、そのせいで尻尾の毛並みが乱れてしまうこともある。

    そういう者に出会したとしても今のカガリ先輩は軽く苦言を呈しはすれど、激しく怒って口論に持ち込むことはない。

    あの人が精神的に成長したのもあるが、私にブラッシングされるのが大好きな彼のことだから、尻尾の毛並みが乱れれば私にブラシをかけてもらえるのも怒らない理由の一つだろうか。

    先輩はもはや嫌われ者から一転、皆に愛される存在になった。

    もしかしたら彼も心のどこかで、孤独を感じていたのかもしれない。

    もしそうだとしたら、皆に好かれるようになって本当に良かったと思っている。


    終わり

  • 11二次元好きの匿名さん25/04/12(土) 03:01:05

    このお話は、過ちを犯した人でもやり直せる、幸せを得る権利はあるということを伝えたくて書きました。

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