(SS注意)猫

  • 1二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 02:08:27

    「カワイイ~~~~~~ッ!」

     部屋の中、黄色い声が響き渡る。
     目の前には、きらきらと瞳を輝かせるウマ娘が一人。
     芦毛のセミショート、耳カバーと一体化した黒いカチューシャ、左耳には赤いリボン。
     担当ウマ娘のカレンチャンは耳をぴこぴこと動かしながら、俺の膝の上へと顔を寄せて来る。
     彼女の視線の先には────子猫が一匹、のんびりと寛いでいた。

    「知り合いから一日だけ預かって欲しいって言われてさ」
    「そっか…………じゃあ、カレンとの約束がキャンセルになるのも仕方ないね」
    「うぐ……埋め合わせは、必ずするから」
    「ふふ、冗談だよ♪ でも、お兄ちゃんのエスコートには期待してるからね?」

     そう言って、カレンは微笑みながらぱちりとウインクを投げた。
     今度の週末は心してかからないとな、心の中で背筋を伸ばしながら膝の上を見やる
     灰色っぽい毛並みで耳だけは真っ黒になっている、小柄な猫。
     人見知りをしないのか、初対面である俺の家の中でも我が物顔で過ごしていた。
     やがてカレンは猫から視線を外し、周囲を興味深そうに見回る。
     部屋の端々には、猫の飼育に関連した様々なアイテムが並べられていた。
     これはこの子を預かる際に借りたものだが────彼女はそれを見て、こてんと首を傾げる。

  • 2二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 02:08:47

    「……お兄ちゃんって猫とか飼ったことあるの? 何だか手慣れてるみたいだけど」
    「実家にいた頃にね、気ままなやつで良く迷子になるから何度も捜しまわったもんだよ」
    「そっか、そうなんだ」

     それを聞いたカレンは柔らかく微笑む。
     何故か、どこか懐かしそうに、どこか嬉しそうに。
     そして彼女はぴこんと両耳を反応させて、わくわくとした様子で言った。

    「そうだ、この子、撫でたりしても大丈夫かな?」
    「ああ、この通り大人しい子だから、撫でるどころか膝の上に乗せても大丈夫だよ」
    「やったぁ☆ せっかくだからツーショットでウマスタに上げちゃおうかな♪ 『♯カワイイの共演』なんてね」
    「投稿する前には声かけてね、向こうにOKかどうか確認するから」
    「もちろん、それじゃあ」

     そう言いながらカレンが子猫の頭に手を伸ばす、その瞬間であった。

    「ふしゃーっ!」
    「うわっ!?」
    「きゃっ!?」

     突然、子猫は毛や尻尾を逆立てて、カレンに向けて威嚇の声を上げた。
     あまりの豹変ぶりに、彼女は慌てて手を引っ込めて、ぱちくりと目を瞬かせる。
     そして未だに荒い息をしながら睨みつける子猫に対して、困ったような表情を浮かべた。

  • 3二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 02:09:07

    「……もしかして、撫でられるの苦手なのかな?」
    「い、いや、そんなことをないはずなんだけど、ほら」
    「おっ、お兄ちゃん! 今は危ないんじゃ……!」
    「あ」

     カレンの制止を聞いて、ハッとする。
     興奮状態のこの子に手を伸ばすのは、あまりにも配慮のない行動だった。
     しかし、時すでに遅し。
     俺の手はすでに近づいており、それを見つけた子猫は────。

    「にゃーん♪」
    「えっ」
    「へっ」

     ころりと寝転がって、お腹を差し出すようにこちらへと向けた。
     その変わり身の早さに困惑しながらも、俺は子猫のお腹を優しく撫でてあげる。
     子猫は気持ち良さそうに身動ぎをしながら、目を細めていた。

    「……大人しいね?」
    「あ、ああ、そうだね、というかずっとこうで、さっきのが例外的だったんだけど」

     きょとんとした表情でカレンは子猫を見つめている。
     実際のところ、預かってから俺に対して威嚇することなんて、一度もなかったのだ。
     子猫は甘えるようにすりすりと顔を寄せると、カレンのことをちらりと見やる。
     その顔は、どこか得意げで勝ち誇っているようにも見えた。

  • 4二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 02:09:42

    「……おっと~?」

     カレンは笑みを浮かべたまま、口元を微かに引きつらせた。
     子猫はそんなことをまるで気にも留めずに、俺の手のひらを存分に堪能している。
     何故か、二人の間に火花が散っている────ように見える気がした。

    「……カレン?」
    「……お兄ちゃん、もしかしてこの子、女の子?」
    「ああ、良くわかったな」
    「ふうん……お兄ちゃん、モテるんだね」

     そう言いながら、カレンはジトっとした目を俺に向けるのであった。

  • 5二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 02:09:58

     事の発端は、知り合いからの急な連絡。
     実家の父が突然倒れたとのころで、緊急で帰ることとなったらしい。
     ただ、今は丁度行楽シーズンで猫の預け先に困っていたところ、俺に白羽の矢が立ったのだ。
     カレンとの先約はあったものの、この人には色々とお世話になっていたので少しでも恩を返したい。
     そう思って彼女へと相談したところ、カレンも会いたい、ということになったのだが。

    「あっ、こら、ちょっとくすぐったいって」
    「……」
    「わぷ……ほら、口をぺろぺろしない、まったくもう」
    「…………」
    「それにしても、本当にカワイイな、毛並みもすっごく柔らかで」
    「………………!」
    「……えっと、カレン? どうかした?」
    「……べっつにー?」

     テーブルの向こうにいるカレンに視線を向けると、彼女はぷいっとむくれたまま顔を逸らしてしまう。
     珍しい表情を見せるカレンに、俺は困惑を隠せない。
     そして、そんな俺達を尻目に、子猫は文字通りの猫撫で声を発しながら俺の顔を舐め回していた。

     どうにも────この子とカレンとの相性は大分良くないらしい。

     彼女が近づこうとすると、子猫はすぐに気を立てて威嚇し始めてしまう。
     最初こそは撫でようとしたら、という程度だったが、その範囲は次第に広くなり、今やテーブル一つ挟まないといけないくらいだった。
     カレンは猫に会いに来たというのに、これでは面白くないだろう。
     そこで、俺は彼女に一つの提案をすることにした。

  • 6二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 02:10:22

    「あのさ」
    「……どうしたの?」
    「猫の面倒だったら俺一人で見られるから、カレンは帰っても」
    「やだ、カレン、絶対に帰らないから」
    「アッハイ」

     食い気味の力強い拒否によって、俺の提案は一蹴されてしまう。
     まあ、本人がここに居たいというのなら帰らせる理由はないのだけれど。
     やがてカレンは小さくため息をついて、ぺたんとテーブルの上に突っ伏した。
     そして、俺へ絡みつくように密着している子猫を、じいっと見つめる。

    「……あなたも、家族から離れちゃって、不安で寂しいんだよね?」

     その瞬間、子猫の動きがぴたりと止まった。
     猫は人間の言葉がわかる、という話があったが、案外眉唾とは言えないのかもしれない。
     そんな子猫の反応を見て、カレンはくすりと笑みを零す。

  • 7二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 02:10:36

    「私もわかるよ、お兄ちゃんのことだから、来てからはずっとこうして構ってもらってたんでしょう?」

     まるで見ていたかのように、カレンはそう話す。
     実際、子猫は大人しくはあったが、最初の頃はあまりこちらへ近づこうとはしなかった。
     だからカレンが来るまでの間は、おもちゃを使ったり、話しかけてみたり、コミュニケーションを取ると色々と試みている。
     それで懐いてくれたから、誰からも好かれやすいカレンだったらもっと早く仲良くなれる、そう思っていたのだけれど。

    「あなたはべそべそと泣きださないだけ、とーっても立派なんだよ」

     そう言って、優しく微笑みながらカレンは身を乗り出しながら、そっと手を伸ばす。
     子猫は振り向き、また威嚇をする────と思いきや、何も言わぬまま、すっと頭を差し出した。
     やがて彼女の細く綺麗な指先が子猫の頭に触れて、ゆっくりと、慈しむように撫でつける。

    「ふふ、えらいえらい♪」

     慈しむような、カレンの言葉。
     子猫はどことなく不服そうな顔をしていたものの、尻尾をゆらゆら、気持ち良さそうに揺らしていた。

    「…………それはそれとして、独り占めはちょーっとズルいんじゃないかな?」

     刹那、カレンの瞳がめらりと淀む。
     子猫は悲鳴のような鳴き声を短く上げると、跳ねるように俺の胸の中に飛び込んでいった。

  • 8二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 02:10:58

     夜の帳が降りて来た頃、子猫の飼い主が戻って来た。
     父親はぎっくり腰だったらしく、しばらく安静にしていれば問題はない、ということである。
     子猫を受け渡し、借りていたものをちゃんとに返して、これにてめでたしめでたし。
     まあ、離れる時に子猫が妙に暴れていたことが、少し気になったけれども。
     …………それと、もう一つ気になったことといえば。
     
    「……なあ、カレン」
    「んー、どうしたのお兄ちゃん?」
    「えっと、あの、こんなにくっついてたら暑くないか?」
    「えー? カレンは暖かいと思うけど、お兄ちゃんはダメ?」
    「ダメじゃ、ないけどさ」

     カレンが、先ほどから腕に絡みつくように抱き着いたまま、離れてくれないのである。
     子猫を受け渡す時ですらこの状態で、正直顔から火が出るほどに恥ずかしかった。
     相手が色々と理解のある人で、本当に良かったと思う。
     そして今は、彼女と密着した状態のまま、ソファーへと腰掛けているところだった。
     感触を意識してしまわないように彼女から目を逸らすと、そこには灰色の毛が何本も落ちている。
     一瞬だけ、心の中に隙間風が吹いたような気が下。

    「……お兄ちゃん、ちょっと寂しいんでしょ?」

     図星を突かれて、心臓がドキリと跳ねて硬直してしまう。
     その隙を突くように、カレンはするりと身体を反転させながら、俺の膝の上へと跨った。

  • 9二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 02:11:12

    「んな……カッ、カレン!?」
    「あんなに可愛がってたもんね、寂しいに決まってるよね」
    「いっ、いや、ちょっと寂しいのは否定しないけども」
    「だからその寂しさは────カレンが埋めてあげるね?」

     そう言いながら、カレンは身を寄せて顔を近づけて来る。
     熱っぽく潤んだ瞳、微かに赤らんだ頬、熱い息を吐く唇。
     柔らかな膨らみが胸元へ押し付けられ、脚はハリのある太腿に挟み込まれて、形の良い尻がのしかかる。
     くらくらするほどの甘ったるくて濃い匂いが鼻腔を抜けて、全身の血の巡りが激しくなるのを感じた。

    「すりすりしてあげる、ぺろぺろしてあげる、お腹を晒してあげる、尻尾を触らしてあげる」

     尻尾をふりふりと振りながら、カレンはぺろりと唇を舐める。
     それはまるで、獲物を目の前にした猫のようにも見えた。
     やがて彼女は妖艶な微笑みを浮かべながら、囁くような小さな声で、言葉を紡ぐ。

    「だから、見せつけられてお預けされた分────たーっぷり、可愛がって欲しいにゃあ♪」

  • 10二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 02:11:42
  • 11二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 08:00:20

    嫉妬するカレンチャンかわよ

  • 12二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 17:01:51

    ありがとうございます
    やはりカレンは強い…!

  • 13二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 17:08:10

    枚数多いけどサクサク読める良作品でした、乙乙!

  • 14125/04/18(金) 21:09:36

    感想ありがとうございます

    >>11

    嫉妬する女の子は健康に良い

    >>12

    やっぱりつよつよなカレンチャンは良いよね・・・

    >>13

    そう言っていただけると幸いです

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