【閲覧注意・クロス】凛の唄

  • 1二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 19:44:06

     「潔~!試合で頭打ったって聞いたけど、大丈夫!?」
     「良かった。意識は回復したんだな」
     「……潔。大丈夫か」
     「あ。あぁ……大丈夫。ありがと、みんな。わざわざドイツ棟まで来てもらって悪いな」
     「潔くん、これでも大分回復したで。最初は酷かったんやから」
     「とりあえず、脳に異常はなかったんだろ?本当、良かったぜ。壊さなくて」
     「……う、うん。ごめん、ちょっと休みたいかも」
     「そうか。大丈夫になったのなら帰る。お前らも行くぞ」
     みんなが出て行って人気がなくなる部屋の中、最後に蜂楽は振り返って……俺に言った。
     
     「なんかあったらいつでも言ってね!相棒」

     その頼もしい言葉は、思いの外はっきりと聞こえた。けれど。
     俺は改めて部屋をぐるりと見渡した。
     おそらく白色であったであろう部屋。見慣れたその部屋が、今は。
     
     赤色と、肉の塊と、気持ち悪いもので埋め尽くされている。
     
     「…………言えねえ、よな」
     目が覚めてから。
     この目に映る全てのものが、異形に成り果てているなんてこと。

    ※ここだけ沙耶の唄に近い状態になってしまった潔と実は人に化けた人外な凛と一部ブルーロックスの世界線
    ※元ネタグロ表現あり注意

  • 225/04/18(金) 19:44:37

    >>1


     異形に成り果てて見えてしまったのは、みんなも例外じゃなかった。

     辛うじて、色味と聞こえる声と口調で見分けをつけている。何だったら頭を打つ前より人間の話す声も聞こえにくかった。

     変わってしまった視界は気持ち悪くて仕方がなかったけれど、どうにか適応して俺はブルーロックでの日々を続けている。早く治ってくれと願い続けているけれど、一向に良くなる気配はない。

     でも。

     おかしくなった景色の中で、おかしくなる前に近い奴もいた。

     まずは相棒の蜂楽。他のみんなより今までの姿に近くて、声がはっきり聞こえる。蜂楽まであのような姿に見えていることに絶望しかけたけれど、声は変質していない。

     次が凪。蜂楽とは逆で声は変わっていたけれど、姿が人間だった。顔が骸骨の仮面で見えないこと以外は。

     それと、士道。異形というよりその呼び名みたいな悪魔になっていたけれど、不思議と異形より嫌悪感が少なかった。

     最後に……唯一。

     姿、声が頭を打つ前より変わらなかったやつ。


     「あ。凛!」

     「……なんだよ、潔」

     肉片と異形にまみれた世界の中で、凛だけは何も変わらなかった。

     

     冴は1 凛と同じ人外

       2 人間。凛が人外であることを知りながら弟として接していた

     dice1d2=2 (2)

  • 3二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 20:03:52

    潔があの沙耶の唄状態だと感覚過敏だからやばそう
    それを見越して嗅覚触覚とかはナーフされてる……?

  • 4二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 20:17:48

    この世界線だとほえ凛の頃に変質者とかうっかり撃退のつもりで食べちゃって
    兄ちゃにやんわりと人食べるのを止められてそう
    多分普通の牛豚肉でなんとかなるように兄ちゃが訓練手伝っている

  • 5二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 20:21:57

    凛のお前と死ぬ!が洒落にならなくなるな(元ネタの侵略ENDだったら世界まで危険)
    実際元ネタに二人で亡くなるENDもあるし

  • 6二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 20:26:26

    凛の「人間の目ん玉がどうついてるかぐらいから 勉強し直して来い」
    が人外であることを踏まえるとホラーな台詞になってくる
    元ネタの沙耶も最終的に人体について究極に詳しくなっていくし……

  • 7二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 20:34:13

    潔さん頑張って適応しているけれど、ガチで気分悪くなってる時ありそう

  • 8二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 20:59:00

    未来時空のCLで決着着けた後なのか、ブルロにいる内に起こってしまうのか分からないけれど
    凛のこのシーンも綺麗なんだろうな(綺麗だけど世界は破壊される)
    多分水エフェクトも加わってそう

  • 9二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 21:24:23

    >>8

    イメカラ似てるな、よし!

  • 10二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 21:26:09

    凛ちゃんの百鬼夜行なり凪の💀なり蜂楽のかいぶつなり士道の羽なり
    この世界線だと本来の姿を暗示していたり、本当の姿が出ているんだろうな

  • 11二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 22:37:53

    このレスは削除されています

  • 12二次元好きの匿名さん25/04/18(金) 23:13:02

    原作だと主人公が心を閉ざして唯一人間に見えるモノ(正体バケモノ)に依存してくけど潔はどうかな?

  • 13二次元好きの匿名さん25/04/19(土) 04:29:03

    依存とは違うかもだけど関わりやすくはあるだろうなやっぱり

  • 14二次元好きの匿名さん25/04/19(土) 07:14:23

    このレスは削除されています

  • 15二次元好きの匿名さん25/04/19(土) 11:55:57

    試合の時が怖いな
    特に異形に見えてる選手だと判別つかなくて違うやつにパスしたりサイズ感間違えて変な所にパス出してしまいそう

  • 16二次元好きの匿名さん25/04/19(土) 13:16:47

    このレスは削除されています

  • 17二次元好きの匿名さん25/04/19(土) 13:26:41

    サッカーだけは諦めたくないだろうから異形に見える周囲と関わることは諦めないんだろうなという気はする
    その中で元の姿のままで美しいシュートを決める凛の姿は救いになってそうだけど

  • 18二次元好きの匿名さん25/04/19(土) 22:49:07

     (意識が戻って数日の潔のプロローグ)

     「潔。大丈夫、大丈夫?」
     「あ……ごめん黒名、ちょっと気分悪くて」
     「無茶したらあかんで。潔くんはもう休んどき」
     「ありがとう。ごめん、やっぱ休んでくるな」
     
     やるせない気分で練習場から抜け出した。まだ、サッカーがしたかった。
     この視界になって数日も経っていなかった。だから、気味の悪いものを見続けて具合が悪くなることもあった。練習場から抜け出したところで、廊下だって肉片まみれだ。気持ち悪い。
     目が覚めてからこの景色から抜け出せたことはない。せいぜい目を瞑った時ぐらいだろうか。
     正直な話、じわじわと精神にきているのを感じていた。
     当たり前だとも思う。だって、目が覚めたら突然地獄に落とされたようなものだ。”地上”や”天国”の景色も、見えるようになった訳でもない。
     一体いつになったら、前のような普通の景色が見えるようになるのだろうか。
     はぁ。
     とついたため息の音が、肉塊でできた廊下になぜか響いた。
     
     いっそのこと、暗い所ならば……この見るに堪えないものたちも少しはマシになるかな。
     ふとそんなことが頭に過ったから、灯りのともっていない部屋に向かった。
     真っ暗な部屋に入る。今は使われていない寝室のはずなのに、誰かが入ったような形跡がある。
     光の無い部屋で休ませてもらうつもりだったのに、先客がいるのだろうか。
     そういえば、ブルーロックに不法侵入した不審者がいたとかいう噂が流れてたっけ。
     鉢合わせたら、嫌だな。そう思いながらも部屋の奥に進んだ。

  • 19二次元好きの匿名さん25/04/19(土) 22:50:25

    >>18の続き ※若干グロとも取れる描写注意


     ……なんだろう、妙な音が聞こえる。

     何かを引きちぎるような音。

     すぐに聞こえなくなったけれど、微かにそんな音が聞こえた。

     先に入った誰かは、この先にいる。

     何故か、どうして。俺の足は前に進んでいた。不思議と恐怖心は感じなかった。おかしいよな。


     暗闇に目が慣れてきてしまったから、やっぱりここに来ても意味がなかったなと思った。

     それでも、進んだ。部屋の奥にいる奴の顔を、どうしてか見たくなったから。


     少しずつ、奴の後ろ姿が見えてくる。

     人、だ。

     見える後ろ姿が人間なことに、少しだけ安堵した。こんな暗い部屋で異形のやつを見ようものなら聞くに堪えない悲鳴を上げていそうだったから。

     俺の気配を感じてか、そいつはゆっくりと振り返った。

     そいつの正面の姿を見た俺は、思わず涙を溢してしまった。

     

     「え、あ……り、ん?凛、凛なんだよな!?」

     だって、数日ぶりに見るまともな人間の顔だったから。

     

     部屋の奥にいたそいつは……紛れもなく、視界がおかしくなる前の姿の糸師凛だった。

     

     だから、俺はあの時。異形じゃないきれいな人間の姿を見て感動していたから。

     凛がぼそりと言った言葉を聞き逃してしまったんだと思う。


     「お前……俺が俺だって分かんのか、潔」

  • 20二次元好きの匿名さん25/04/20(日) 03:20:55

    続きが‥続きが気になりすぎる‥

  • 21二次元好きの匿名さん25/04/20(日) 06:31:17

    このレスは削除されています

  • 22二次元好きの匿名さん25/04/20(日) 10:08:01

    不審者もぐもぐしてたってことか

  • 23二次元好きの匿名さん25/04/20(日) 13:33:55

    このレスは削除されています

  • 24二次元好きの匿名さん25/04/20(日) 22:15:30

    潔が凛の顔(久しぶりの人の顔)見て泣いてるのおいたわしい…
    常に異形しか視界にいないのは流石に堪える

  • 25二次元好きの匿名さん25/04/20(日) 22:40:18

    >>19の続き


     灯りのついていない部屋だったから、薄暗い。そんな中でも、見知ったライバルの顔は在りし日のままだと分かる。

     嬉しかった。このまま誰のことも異形に見えてしまうのだと思っていたから。

     初めて人間のままの姿のやつを見つけられて、俺は心底安堵したんだ。今まで生きてきた人間が見えていた世界は、決して俺の作り出した妄想ではないのだと思えたから。

     聞き逃した言葉も、よく聞いた声のままだった。それが、俺の安堵を増長した。

     

     しかし。

     俺は凛が人間のままの姿だということに気を取られて、なぜこいつがここにいたのかという違和感を放置していた。

     この時に何か聞いていれば、何かが変わったのだろうか。

     いや……何も変わらないだろう。凛は俺のライバルで、俺は凛の宿敵。

     それ以上でも、それ以下でもないのだから。


     「てか、凛がこっちの棟来るなんて珍しいじゃん。ちゃんと届出、出してるのか?」

     「どうでもいいだろ。フラフラしてたらこの棟にいただけだ」

     薄暗い中で、凛の顔には影が差していたが……そのターコイズブルーは俺を見定めるように射貫いていた。

     いつもとは違う殺気だ。サッカーしてる時とは異なる、俺自身を見ているような。

     少しだけ、身震いした。変わらないはずなのに、なにか違う目のいろをしている気がする。

     「お前は」

     凛は聞き慣れた声よりワントーン落とした声で俺に問いかける。

     

     「俺が、何に見える」


     いきなり何を言い出すのだろう、と考えたが。

     凛の瞳は真剣に、俺の返答を待っているかのように佇んでいる。

     俺はごくりと唾を飲み込んだ後に、己を突き刺す凛の目を刺し返した。


     「凛は、凛だよ。俺の、良く知ってる……糸師凛。俺の、ライバル」


     俺の返答を聞いた凛は、ほんの少しだけ瞼を動かした後に……いつものいろの目に戻った。

  • 26二次元好きの匿名さん25/04/20(日) 22:40:55

    >>25の続き



     「ハッ……目ん玉までおかしくなったのかよ、お前」

     

     それから、呆れたように鼻で笑った。

     目ん玉。

     凛が笑ったその部位に、俺は一瞬だけ血の気が引いた。

     

     「え、なんで……知ってるん、だ」

     目が覚めてからの視界の変貌を誰にも話したことはない。非現実的な話だし、もしや頭の病気だと思われて更に検査をされてサッカーする時間が減るのが嫌だったから。

     なんとか適応することを頑張っているつもりだったが、何かと鋭い凛にはお見通しだったのかもしれない。

     「あ?そんなもん───」

     凛が理由を話すのに被さってしまいながら、俺は今自分が見えている世界について口走った。

     話したくないと思い込んでいたけれど、やはり誰かに言ってしまいたいことだったんだと分かった。やっと、初めて言えた。

     

     「俺、実は今さ……目に映る全てのものがおかしくなってて。凛、お前以外……みんな化物に見えるんだよ」

  • 27二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 00:46:05

    わくわく

  • 28二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 06:00:26

    元ネタを考えると今潔が出会った凛ちゃんの姿は……
    ゲームだったら潔が凛ちゃんが何に見えるかの選択肢間違えたら、ここで凛ちゃんに喰われるENDありそう

  • 29二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 13:22:32

    紙一重の選択肢でど真ん中の正解をしていく潔世一とか本編でも死ぬほど見た気がする

  • 30二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 20:07:22

    人それぞれのパーフェクトコミュニケーションを叩き出してきた信頼と実績の潔世一
    ただ凛は読めないとこあるからどうなるか

  • 31二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 22:19:41

    >>2

    これにいちゃ偉大すぎる

  • 32二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 22:40:46

    >>26の続き


     凛は、今度こそ面食らったみたいに目を見開いて。

     それから……少し考えこんだ末、「そういうことかよ」と声を漏らした。


     「難儀だな。そりゃあ」

     淡々と俺が悩まされてきたことについて短い感想を述べた凛は、近くのベッドにどさりと座った。

     俺も立っているのが辛くなってきたから、凛が座っている反対側のベッドに座る。

     まあ、俺にはベッドじゃなくて大きな肉片に見えている訳だが。気にしてはいけない。

     「そんなんでサッカーできてんのか?」

     目が合って……そう問いかける凛に、ちくりと胸が痛くなった。耳に痛い言葉だ。

     正直に言うと、できていない。

     否、サッカー自体はできている。こんな視界でもサッカーはしていたい。だから、気持ち悪さを抑えて適応しようとしていたんだ。

     だけれども。突然こんな状態になって限界はある訳で。

     だからこそ、俺は今練習を抜け出して凛に出会っている訳である。


     「サッカー自体はしてる、けど。やっぱ……前とは位置とか人の見分けとか、戸惑うこともある。それに、気分だって悪くなるし……ああ、もう最悪だよ」

     改めて考えると、自分で言った通り最悪だ。

     初日より慣れてきたとはいえ、やっぱり時々戸惑うのにはしんどいものがある。

     でもまあ、変わらないものも見つけたことで一筋の光が見えた気がする。

     「まあ、お前だけはそのままでよかったよ。安心した……ってごめん。こんなこと言われても困るよな」

     「分かってんじゃねぇか。バカ」

  • 33二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 22:42:00

    >>32の続き


     いつもの悪態を吐く凛に、不思議と安心感が沸いた。目の前の生意気毒舌下まつげは、間違いなく俺の知ってる凛だから。こいつと話している時だけは、頭を打つ前の気持ち悪くない日々に戻れるような気がした。

     少しの沈黙が続いた後、先に口を開いたのは俺だった。


     「なぁ、凛……明日も、ここに来ていいか?」

     真剣に頼み込む意を含めて凛の目を見た。

     なんだろう。この場所で見る凛の目は、なんとなく吸い込まれそうだった。

     再度沈黙の間が部屋を流れたが、今度は凛がそれを破った。

     「……お前相当参ってんな。さっき自分で言っただろ。ここに来たのは俺の方だって」

     目を逸らさない俺に嫌気が差したのか、凛は不意に目を逸らした。

     そうだった。ここはドイツ棟で、ここに来ていたのは凛の方だった。

     「あ、うん……そうだな。はは、参ってんのかも。恥ずい」

     変なものを見てばかりいたから脳が疲れてしまったのだろうか。言い返す言葉も見つからない。

     「……はぁ。気が向いたら来てやってもいい」

     「え!?」

     思わず口から出た声に、凛がお前が言ったんだろと言いたげな目線を送ってくる。

     「あ、いやびっくりしただけ!ありがとな、凛」

     苦しいことに周りは異形で埋め尽くされているから、こうして凛に会えれば目の保養になるか、精神の回復に繋がるかと思っていた。それだけだった。

     まさか、あの凛が俺の為に了承してくれるとは思わなかった。明日はサッカーボールでも振るのかもしれないと思いながら、ベッドから立ち上がって部屋を出て行く凛の背中を見ていた。

  • 34二次元好きの匿名さん25/04/21(月) 22:45:18

    >>33の続き


     「チッ、お前がそんな調子なのがキメェだけだ。さっさと元に戻れバカ潔」

     「相変わらずお口が悪いようで……でも、本当にありがとな。お前こういうの嫌がりそうだし」

     「……俺と戦う時もそんなぬりぃザマだったら、今度こそ殺してやる」

     そう背中で語る凛は、本物の殺気を纏っていた。常人が聞いたら震え上がりそうな物騒な発言だが、俺はそれが凛なりの激励なんだろうと思える。

     

     「ああ、肝に銘じておくぜ。お前こそぬるくなってんなよ、凛」

     おかしくなった視界の中で……変わらない姿の奴が凛みたいな図太いやつで、本当に良かった。

  • 35二次元好きの匿名さん25/04/22(火) 06:11:06

    このレスは削除されています

  • 36二次元好きの匿名さん25/04/22(火) 13:44:42

    試合外だし疲れが顔に出てたんだろうな

  • 37二次元好きの匿名さん25/04/22(火) 16:39:52

    お労しや魔王様……

  • 38二次元好きの匿名さん25/04/22(火) 19:55:44

    この凛は他者を改造出来る力はあるのかね?

  • 39二次元好きの匿名さん25/04/22(火) 22:52:15

    >>34の数日後の話)


     次の日も、その次の日も、凛はその部屋にいた。律儀に、来てくれた。

     昼過ぎの練習終わりに寄った時はいなくて、気が向かなかったんだろうと少し残念に思ったけれど。みんなが寝静まった夜にあの部屋に行くと、凛は約束通りそこにいた。

     凛はそういうやつだ。約束してしまえば、それを反故にすることはない。変なところで真面目で、真摯な一面があるやつだった。

     

     「来てたんだな、凛。ありがと」

     「……フン。俺の気が向いただけだ。てめぇの情けねぇ面を拝みに来てやったんだ」


     相変わらず、凛は生意気で口が悪かったけれど。そんな凛と過ごす夜は嫌いではなかった。

     なんというか、口は悪いが穏やかなんだ。夜にこの部屋で会う凛は。

     今日あったことを話す俺の話をつまんなさそうに聞いている。でも、怒ったりすることはない。最初に会った時とは違って、今は俺が出て行くまで部屋にいてくれる。

     異形に見えない凛が話を聞いてくれるのは、凄い心の支えになった。なんというか、視界が元に戻ったらしっかりとお礼をしなければいけない気がした。


     今日も、いつも通り夜にあの部屋に向かっていた。


     あの部屋に向かう廊下は、使用されていない為か灯りがついておらず暗かった。

     ここで他の誰かに会いたくないな。そう思っていた。

     真面目にホラー映画もびっくりの悲鳴を上げそうだから。下手をしたら気絶してまた頭を打ちかねない。

     暗い廊下を進んでいると、暗さに薄くなっていたなにかの影が動いた気がする。

     怖い怖い怖い。誰かいるのか。影を辿ろうにも、俺の目に見えているのは肉の壁でできた廊下だからあまり良く分からなかった。

     ええい、もう慣れてきてるんだ。化物でもなんでも出てきやがれ。

     意を決して思わず振り向くと……そこには。

  • 40二次元好きの匿名さん25/04/22(火) 22:53:36

    >>39の続き


     「ばぁ♡」

     「うわあぁああぁ!?」


     俺の後ろにいたのは、悪魔そのもの。

     士道龍聖だった。


     「イイ声出すじゃん。もしかしてビビり~?」

     「否定はしないけど、あんなのみんな驚くだろ……」

     してやったり、という顔をして士道は俺の前を歩き出した。士道も凛と同じフランス棟所属の筈だ。なんでこんな夜中に、このドイツ棟にいるんだろう。フランス棟ってそういうのゆるいのかな。

     「なんでお前がここにいるんだよ……」

     先程驚き過ぎて若干げっそりした気持ちになった俺は、投げやりに士道に投げかける。

     「いちゃ悪いのかよ?潔ちゃんって委員長でちゅか~?」

     おどけたような口調で、士道は頭だけ振り向いて俺を揶揄う。

     「いや、別に……気になっただけ」

     士道は俺の視界がおかしくなった後も、姿が完全に異形にならなかった人間の一人だ。

     そんな人間が、使用者のいない部屋に繋がる廊下にいる。

     理由を知りたいと思うのは、不思議なことではなかった。


     「フ~ン。ちょっと遊びに来ただけだよん。それだけ」

     ……本当に?

     そう思い浮かんだ言葉は、胸の内にしまっておいた。

     「……そうかよ」

     深追いしない方が良い気がした。なんとなく、そう思った。

     踏み込んでしまえば、もう二度と戻れない気がした。

  • 41二次元好きの匿名さん25/04/22(火) 22:53:59

    >>40の続き


     「潔ちゃんは、そっちの部屋に行くのん?」

     立ち止まった士道を置き去りにして、俺はその先を進む。

     その先にはきっと、凛が今日も待ってる。士道も、それを知っているんだろうか。


     「ああ、会いたいやつがいるから」


     士道は少しの間沈黙した後、悪魔みたいに笑って。俺とは逆の方向に歩いていく。


     「気を付けろよ~、潔ちゃん。オマエはアイツと違って人間なんだから」


     その言葉の意味は、まだ知らなくていい。

  • 42二次元好きの匿名さん25/04/22(火) 23:10:00

    不穏…

  • 43二次元好きの匿名さん25/04/22(火) 23:10:41

    そういえば蜂楽・凪・士道は他の人に比べるとまだ人間の姿に近く見えてるんだっけ
    何か知ってるのかな

  • 44二次元好きの匿名さん25/04/23(水) 07:41:13

    最後まで見届けたい地獄

  • 45二次元好きの匿名さん25/04/23(水) 08:22:38

    士道もアッチ側に片足突っ込んでる人間なのかな?

  • 46二次元好きの匿名さん25/04/23(水) 09:28:34

    何人かいるのか

  • 47二次元好きの匿名さん25/04/23(水) 16:44:20

    おそらく普通の人間が異形に見えているなら
    完全に異形ではないこの三人は微妙に人外なのでは?

  • 48二次元好きの匿名さん25/04/23(水) 16:46:11

    凛ちゃんは完全に人外として蜂楽凪士道はやや人外要素があるって感じなのかな
    ハーフとか?
    でも割と人外として違和感ないメンツ

  • 49二次元好きの匿名さん25/04/23(水) 20:48:08

    先祖返りとかみんな大好きな設定だし一人二人はいそう

  • 50二次元好きの匿名さん25/04/23(水) 22:50:45

     (潔が訪れる数刻前)化物と悪魔の夜会話
     ※グロ表現注意

     「リーンリン♪何食べてんの?夜食にしちゃあ見ないモンじゃん」
     「なぜかここをうろついてやがった、知らないニンゲン……の残り」
     「うわぁ。リンリン丸呑みとかするタイプだと思ってたわ。小分けにして食べてんなよ~、誰かに見つかっても知らないぜ?」
     「うるせぇな。久しぶりに喰うにはニンゲンはデカ過ぎんだよ」
     「てか、その臭いでよくバレねえな?肉にしたの今日じゃないだろ」
     「ここの数部屋はしばらく使われてねぇ。誰も寄り付かねぇから、このままだ」
     「フーン。喰うのにもってこいってか?」
     「なんだよ。テメェも喰いてえのか。魂はまだその辺に残ってるから、それ喰っとけ」
     「いや別に。爆発してねぇニンゲンの肉なんぞゲロマズだし」
     「……兄貴のこと喰ったら死ぬまで殺すからな」
     「凛ちゃんコワ~。冴ちゃん食べちゃったら、冴ちゃんと爆発するサッカーできねぇじゃん。そんなもったいねぇこと、俺がするワケないじゃん」
     「あ、そうだリンリン」

     「最近潔ちゃんとこの部屋で会ってるけど、アイツのこと喰うつもりなん?」
     「……そんな訳ねぇだろ。あのバカが、…………チッ」
     「訳アリなのね。まあいいや。不審者はともかく、流石にブルーロックの奴らまで喰い始めたらアウトだよんって忠告しに来てやったけど。無駄足だったわ。帰る」
     「さっさと帰れ触覚悪魔」
     「はいはい、ドロドロ下まつげくんは今日も元気ねぇ」

  • 51二次元好きの匿名さん25/04/24(木) 06:43:53

    このレスは削除されています

  • 52二次元好きの匿名さん25/04/24(木) 13:15:48

    このレスは削除されています

  • 53二次元好きの匿名さん25/04/24(木) 22:31:11

    潔さんに夜食見つかったりしちゃうのかな…

  • 54二次元好きの匿名さん25/04/24(木) 22:50:15

    (今夜はお休みです。代わりに元ネタトレスイラストになります)


    (全体版※下部分グロ注意)

    ファイルなう - アップロードされたファイル凛の唄.png (1.26 MB)d.kuku.lu
  • 55二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 05:51:17

    モグモグタイム見られたとしてもよくわからん生き物食ってるように見えるのかな

  • 56二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 07:44:26

    このレスは削除されています

  • 57二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 13:23:18

    このレスは削除されています

  • 58二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 15:05:43

    サントラジャケットかな?

  • 59二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 22:45:10

    >>58

    正解です


    >>41の続きです 


     士道と別れて、俺は今晩も凛が待っているだろう奥の部屋に向かった。

     だけど、どうしてかいつもより部屋の雰囲気が違う気がする。

     なんだろう、匂いだろうか?

     部屋に入る前、ほんの少しだけ甘い匂いがした。

     今まで嗅いだことがない、ほんのり甘さを感じる香り。

     それが、どのような種類の甘さなのかが分からない。

     これまで嗅いだことがないということが、俺の脳に疑問を持たせた。

     先程士道に会ったことといい、もしかしたら青い監獄でなにかが起きているのかもしれない。

     あるいは、そうだ。

     考えに辿り着きたくなくて、思考を止めているのは──────俺の方、だったり。


     深みに嵌ろうとしていた俺の思考は、そこで塗り替えられた。

     不思議な甘い匂いが、より強くなったから。


     より強くなったのは、そう。

     部屋の奥に進んで、凛を見つけたから。

  • 60二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 22:46:06

    >>59の続き (今回潔の選択肢あり)


     「……凛?夜食に果物とか、何処で見つけてきたんだよ」


     俺に背を向けて果物らしき何かを食べていた凛は、ばっと振り返って俺を見つけると……目を丸くした。不思議な甘い匂いの正体は、凛が夜食に食べていたんだろう果物だった。

     「……お前にはこれが、果物に見えんのか」

     凛の言葉が意味するところを、この時は分かろうとしなかった。

     ただ、そう。己の目に見えている光景を正直に、言った。

     「……?見えるけど。でも果物とか珍しいよな。リクエストしたのか?」

     「してねぇよ。たまたまあっただけだ」

     そう素っ気なく凛は吐き捨てると、残っていた果物を丸呑みして食べた。凛の両頬がリスみたいに膨らんでいる。仏頂面と合わさってじわじわと面白く見えてきた。


     それから俺は凛が食べ終わるのを待って、いつも通り少し話をして、部屋を後にした。

     黒名や氷織たちが寝ている寝室まで帰る道は、ひとりだったから頭が冷えてくる。

     凛が、珍しく食べていたあの夜食。


     1.「今度俺も食べてみたい、かも」


     2.「あの果物も、今まで見たことない果物だったな」


    >>6

  • 61二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 22:47:06

    >>60

    安価ミスりました >>62

  • 62二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 22:47:40

  • 63二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 22:47:41

    1

  • 64二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 22:52:17

    地雷回避?

  • 65二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 08:00:18

    >>60の続き


    「あの果物も、今まで見たことない果物だったな」


     見たことがない果物って何だろう。仮にあったとしても。そんなものが、青い監獄の食堂で出てくるのだろうか。

     本当は、見たことがないんじゃなくて──────いや、やめておこう。

     ”甘い果物”にしておいた方が、俺の精神衛生上良いと思う。

     本当は何が見えているのかを考えるのは、もう少し後にしよう。

     だって、その思考の先に行きつくのは……


     

  • 66二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 16:51:59

    そういえば元ネタもエンディング3つあったなと……

  • 67二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 18:54:59

    原作のヒロイン(バケモノ)は主人公に友好的で理解者だったけど凛はどう転ぶかわからんな

  • 68二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 18:57:59

    >>67

    どっちかって言うと潔の方が凛に友好的で理解者だからな、属性だけで言えば主人公とヒロインが逆転してる

  • 69二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 20:45:50

    >>65の続き


     部屋に戻ると、灯りが消えて静まり返っている筈の部屋の一角にほんの少しの光があった。

     みんな寝ている筈だと思っていたけど、途中で起きたやつがいるらしい。

     帰ってきた俺の物音で、起きていた誰かが振り向く。

     氷織だった。どうやらスマホゲームをしていたらしい。

     「おかえり、潔くん。どこ行ってたん?」

     氷織はそのまま物音を立てないように俺に近づいて、小声で話しかけてくる。

     「えっと……眠れなくてちょっと散歩してた」

     なんとなく、夜な夜な凛に会いに行っていることを知られてはいけないような気がしたから。はぐらかした。凛に会っている理由から、俺の視界についての話もしなければいけないことになりそうだったから。

     「ふぅん。潔くん、やっぱり本調子じゃないんやね?本当に大丈夫なん、明々後日はイングランドとの試合やろ?」

     「う、うん……体の調子は問題ないから、やっぱ気分の方かなぁ。まあ、試合中なら大丈夫だと思う」

     年棒と、U-20代表が掛かっている試合だ。視界がおかしくなった程度で放り出している場合じゃない。最近はみんなの姿や距離も判別がつくようになってきた。ここは試合に出るしかない。

     「年棒掛かっとるから、もちろんそっちも大事やけど。無理はせんでね」

     「うん。ありがと、氷織」

     明日はトレーニングに集中しよう。適度に疲れて眠れるぐらいトレーニングすれば、近頃悩まされていた寝つきが悪いことも改善されるだろうか。凛に会うようになるまでは不眠症気味だったから、何かしら良くなる可能性はある。

     それに賭けることにした。

  • 70二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 20:46:53

    >>69の続き


     「凛!今日も来てくれたんだ───な?」

     今夜部屋に入って目にしたのは、何かの書類や写真をスマホで見ている凛だった。

     ベッドの上に座ってそれとは別の書類を散らしている凛は、俺が入ってきても気にせずスマホを見ている。

     「どうしたんだよこんな散らかして。これなんだよ?」

     凛はスマホの画像に視線を送ったまま、疑問符が浮かびまくっている俺の質問に答えた。

     

     「お前の脳のMRIと診察記録」


     「は?」

     思わず脳内と同じ声が出た。何を見ているんだこいつは。てか、どこからそんなもの取ってきたのか。なんで凛のスマホに俺の診察記録が入っているんだ。

     全ての意味が分からない。

     「お前の視界の異常とやらを治す手がかりになる」

     スマホを見たままそう淡々と言う凛に、俺は度肝を抜かれた。

     「……分かるのかよ?それ、俺もよく分かんないけどお医者さんが見るやつだろ」

     凛は一旦手を止めて、俺の目を見る。いつもと変わらない凛の目は、俺を射貫いていた。

     「…………ああ。誰にも言うなよ」

     少しの間を置いて、秘密を話すように凛は言った。

     言葉に詰まった。俺が今まで知っていた糸師凛はサッカー一筋で、医療に関わることに詳しいなんて情報は微塵も存在していなかったから。

     ここまで考えて、気が付いた。

     俺は凛の何を知っているんだろう。サッカーが上手くて、努力家で、後輩のくせに口が悪くて態度も悪くて愛想もない。でも相応に年下みたいな一面もあって、酸っぱい物が嫌い。

     じゃあ、それ以外は?

     俺は凛がサッカーを始めた理由すら知らない。まあ、ここはブルーロックだから。プライベートなことを知らない人は凛だけに限らないけれども。

     結論として。俺の知らない凛の一面があっても、なにもおかしくなんてないんだ。ただ、それがあまりにも凛の普段のイメージから離れているということだけで。

     「言わないけど、意外だった」

     ふん、と凛は俺との会話を断ち切ってスマホの資料に集中し始めた。

     少しの間だけお互い黙って、それから凛がひとりごとのようなものを溢す。

     

     「……これは検査に引っかからねぇ訳だ。でも、確実に変化してやがる」

  • 71二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 20:48:29

    >>70の続き


     凛の言葉が気になった。本当に、凛はこの資料が理解できるんだろう。俺は最初に目が覚めた時におかしくなった視界に錯乱して暴れて、それから脳の精密検査をした。でも、特に異常は見つからなかった。サッカーを続けたかったから、やっぱりなんともなかったということで俺はブルーロックに戻った。凛の言葉を聞いて……俺の精神がおかしくなったんじゃなくて、本当に脳の一部がおかしくなっていることに気が付き、少し安堵した。頭がおかしくなったんじゃなくて、検査には表れないが脳の部位に異常があることに確信を持てたから。

     お医者さんではなく医師免許を持っている訳でもない凛の不確定な言葉を、何故か俺は信用していた。

     「治り、そうかな」

     おそらく凛から見たら……縋るような、希望を捨てられないような情けないであろう顔で俺は凛を見る。

     少し考え込んだ後、凛は告げた。


     「現代の医者じゃ、治せねぇな。だが」

     「俺なら治せる。恐らく」


     そう、あっけらかんと凛は言った。

     「……お医者さんでも治せねえのに、どうやって治すんだよ」

     凛の言葉には根拠がなかった。でも、不思議と治せるような気がした。ただ、気持ちだけではどうしても納得できない自分もいたから、聞いてみる。

     「お前の脳を弄る。俺には、それができる」

     脳を、弄る?

     傍から見たら凛の方がおかしくなってしまったかのような回答だった。凛はいつだって理解不能な発言・行動をすることがあるが、この部屋で会う凛はそれが顕著だった。穏やかな代わりに、倫理観を飛ばしてしまったのだろうか。凛は。

     「……そんな映画みたいなこと、できるのかよ」

     信じてやりたいが、信じきれない。

     そんな複雑な気持ちを言葉に乗せると、凛は真っ直ぐな目で俺を見通した。

  • 72二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 20:50:44

    >>71の続き (潔の選択肢あり)


     「できる。……お前も本当は分かってんだろ。バケモンまみれになった視界で、俺を初めて見た時に自分が言ったことを思い出せ。潔」 


     『凛は、凛だよ。俺の、良く知ってる……糸師凛。俺の、ライバル』

     脳裏に蘇ったのは、そんな言葉。そう、みんな化物に見えても凛は凛だった。

     

     でも。

     おかしくなった視界で、凛がおかしくない姿だということは。

     おかしくなる前の視界には、今この部屋にいる凛はどのように見えているのだろう。

     本当は、この部屋で会う凛は。


     「…………いつ頃、治せるんだよ」

     これ以上その話題には触れたくなかった。凛の正体に、触れる勇気がまだなかった。

     苦し紛れに、別の話題とすり替えようとした。

     「まだ分からねぇ。俺が完全にお前の脳の異常について理解するまではな。ただ、前に”試した”ことがある。明日は必ずここに来い。一時的にだが、お前に見えているバケモンが元の姿に近いように見えるようにしてやる。2日後は試合だろ、お前」

     「……うん。ありがとう、凛。いや、本当にありがとな。ごめん、お前の時間使わせて」

     あの症状が緩和される。

     本当かどうかは分からないけれど、もしそうなるのであれば凛には感謝しかない。放っておいてもいい筈なのに、俺の症状の回復に手を掛けてくれる。凛の性格から考えると非常に珍しいことのように思えた。


     「ごめん凛、ここまでしてもらって悪いんだけど、一つ聞かせて」

     なんだよ、と言いたげに凛は俺を見る。

     俺は凛に聞いた。それは───


     1.「どうして、凛はここまでしてくれるんだ?」

     

     2.「お前は今でも、俺のこと殺したいって思ってる?」


    >>74

  • 73二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 20:51:15

  • 74二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 20:51:40

    2 

  • 75二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 20:55:57

    あっ魔王様気にするとこそこなんだ

  • 76二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 21:38:45

    凛ちゃんが何故手を貸してくれるかより、凛ちゃんが今自分をどう受け止めているかが知りたいと

  • 77二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 21:39:56

    殺す殺す言ってたヤツがこんなに優しいといろいろ気になるのは分かる

  • 78二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 22:26:52

    ※選んだ選択肢によって各ENDのフラグが溜まります(全END回収予定)

    ※END分岐に差し掛かるとこれまで溜まったフラグが多いENDに行ける選択肢が出現します

    >>72の続き


     「お前は今でも、俺のこと殺したいって思ってる?」

     俺がそう聞くと、凛は一瞬まばたきをして。

     開いた瞼から、当たり前だろと言いたげな鋭い目つきを覗かせた後に答えた。

     「思ってるに決まってんだろ。潔、お前は俺が絶対殺す」

     この部屋で会う凛はいつもより穏やかだったから、久しぶりに向けられた殺気が新鮮に感じた。というか、しっくりくる。

     「おう、やってみろよ。凛」

     やっぱり、俺たちはこうでなきゃな。

  • 79二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 22:35:16

    この状況で宿敵仕草するのギャルゲ主人公ポイント他界な

  • 80二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 22:36:42

    >>79

    高いです、誤字ってごめん

  • 81二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 06:29:33

    その字だと危うく2人が初手心/中してしまうところだったな

  • 82二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 07:06:53

    >>81

    凛ちゃんの願いが叶ってるじゃん...

  • 83二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 12:26:42

    このレスは削除されています

  • 84二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 20:52:34

    >>78の続き


     そうして、翌日の夜も俺はあの部屋に向かった。

     凛の解読は進んでいるのだろうか。

     脳を弄るって、具体的にどんなことするんだろ。少し怖い。

     でも、試合前に少しでも視界が正常な姿に戻るなら……なんということはないことだ。


     「凛、来たぞ」

     未知のことをされる恐怖に、唾をごくりと飲み込んでから部屋に入った。

     凛は昨日と同じくスマホをすらすらと眺めている。

     「なんか、緊張するな。脳弄られるとか初めてだし」

     緊張を解すべく軽口を叩く。どさっとベッドに座って深呼吸をした。

     スマホを置いた凛がこちらに寄ってきた。

     「いいか。あくまで一時的なモンだ。今からなら───明日の夜までは持つ」

     「1日限定なんだな」

     「効果が切れたら元通りだ。突然戻るから、覚悟しとけ」

     「分かった、ありがとう。……その、よろしく頼む」

     やばい。緊張して心臓の音がバクバクしてきた。一応手術?してもらうのって、結構怖いんだな。

     「いいから寝とけ。それから、目が覚めたら何も見ないでさっさとここを出て部屋に帰れ。分かったな?」

     なにか不穏な言葉だと思った。だけど、俺は分かったと返事をする他無い。

     凛の手が俺の頭を掴んだ。それと同時に、強い眠気が俺を襲った。

  • 85二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 22:43:47

    >>84の続き


     次に目を覚まして見たのは、いくらか外見がマシになった天井。

     気配が無い凛は、既に帰ったらしい。

     俺は感動をよそに、凛の警告を守って真っ直ぐに氷織たちがいる部屋に戻った。

     

     イングランド戦では、視界がマシになった結果。前と変わらない動きができるようになった。

     パス回しをミスることもなかったし、選手を間違えることもなかった。

     ただ、あの馬鹿青薔薇皇帝が俺のゴールの邪魔をしてきたから殺したくなったけど。というか殺す。折角以前と同じようにプレーできるようになったのに、邪魔をされては殺意マシマシだ。

     ただ、メタビジョンを使い過ぎたせいで倒れて。

     次にノア様の部屋で目を覚ました時には凛の提示した期限よりも早く、視界が元の化物だらけのものに戻っていた。

     どうやら、凛は本当に俺のおかしくなった世界を治せるらしい。

     今夜会った時は、深く感謝しようと思った。

     

     一つ疑問だったのは、視界が良くなっても尚。

     凪の姿が以前の骸骨仮面と変わらなかったことだった。

  • 86二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 04:17:27

  • 87二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 05:39:57

    凪は死神?

  • 88二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 10:25:22

    死神と最後まで一緒にいるのを誓ってしまった玲王、潔と凛の沙耶の唄表ルートとは別に
    そっちの裏ルートは別ジャンルの物語が展開されてそう

  • 89二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 14:09:35

    全エンド回収までしてくれるんですか!?神スレ

  • 90二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 14:13:35

    弱いところを見せてばっかりだから俺のことまだ殺したいと思ってる?(俺はまだお前のライバル?)って潔が心配してるの凄い分かるな…

  • 91二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 19:29:17

    普通の人は普通に見えても人外はそのままって事なのかね

  • 92二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 22:32:40

    >>85の続き


     目が覚めてから、食堂に行った後だっただろうか。

     自分の班の寝室に戻ろうとすると、反対側から骸骨仮面が歩いてきた。凪だ。

     仮面で表情は見えないけれど、凪は立ち止まって俺の方を見て───いるんだと思う。最近はみんなドイツ棟に遊びに行くのがブームなんだろうか。

     「あ、潔」

     「凪じゃん。なんでこんなところに」

     んー、と少しだけ折り曲げた指の関節を仮面の口元に当てて考えた凪は、いつものような淡々とした口調でこう言った。

     「忠告、かな?潔に忠告しに来た」

     なんだろう。今の凪からは、いつかの夜に出会った士道を思い起こさせた。

     凪は、俺の未来に関わるなにか重要なことを告げようとしている。

     この時だけは、凪の顔が骸骨で見えないのが余計に怖く感じた。

     「忠告って、なんだよ」

     「最近あのモンスター……えっと、凛ともっと仲良しみたいじゃん」

     仲良しって。

     お前にはそう見えてるのかよ。てか、士道もそうだけどなんで凛と会ってること知ってるんだよ。

     他の誰にも言って無い筈だろ。あの凛が言いふらす訳もないし。

     俺は若干引き攣った顔で肩を竦めた。

     「なんで知ってんだよ。まあ、確かに棟違っても会ってるけどさ。それが何か問題なのか?」

     凛は見えてる世界がおかしくなった俺を邪険に扱うことはなく、口と態度が悪いながらもなんだかんだ俺が元に戻るよう手助けをしてくれていた。

     それの、どこが問題なのか。俺は気になったから聞いてみた。

     凪は、またあー。と首を傾げて考える。考えているというよりかは、言葉を選んでいるようにも見えた。

     

     「助けてくれるから、救いがあるからといって。深入りしすぎると……飲み込まれちゃうかもよ。まあ、潔がそれでいいなら。最期まで付き合ってやるっていうなら、別にいいけど」

     

     凪の言葉は、珍しく抽象的だった。何のことを言っているのだろう。恐らく、俺と凛の関係だろうが。そう言うと、凪は用は終わったとばかりに歩き出して俺の横を通り過ぎていく。

     「……まあ、あいつとは最後までの付き合いになるんだろうな。なんとなくだけど、凛は最後まで俺に立ちはだかる気がする」

     凪の忠告に返答するように、俺は言葉を紡いだ。

  • 93二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 22:34:18

    >>92の続き


     「そう。でもね、潔。そうやって最期まで一緒にいてくれるって言われたら……”俺たちみたいなの”は、凄く嬉しいんだよ。何があっても、その約束を守りたくなるぐらいに」

     

     背を向けたまま、凪はおそらく自分の心情の一部を俺に教えてくれた。


     『助けてくれるから、救いがあるからといって。深入りしすぎると……飲み込まれちゃうかもよ』

     数刻前に聞いた凪の言葉が、今あの部屋に向かう途中でも頭の中で再生されていた。

     深入りし過ぎると、飲み込まれる。

     もしかすると、俺は。

     既に、一線を越えていたのかもしれない。

  • 94二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 02:13:12

    凪も何かしらあるのか

  • 95二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 07:22:40

    このレスは削除されています

  • 96二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 12:30:29

    蜂楽もしかしてライバルリーの頃ヤバかった可能性が出てきたな
    依存脱却して正解だったかも

  • 97二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 12:45:12

    凪と潔のいう最期まで/最後までがすれ違ってるよね
    原作通り懸けてやるよ俺の命くらい!を凛ちゃんに言ったらまずい可能性が

  • 98二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 19:11:54

  • 99二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 20:57:09

    蜂楽も潔の状態に気づいてるっぽいからあっち側なんだろうな

  • 100二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 22:09:28

    このレスは削除されています

  • 101二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 23:28:53

    人外に複数侵蝕されてる監獄
    ゾクゾクするな

  • 102二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 07:35:07

    ほしゅ
    続き楽しみだね蜂楽も出るかな?

  • 103二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 09:23:12

    >>93の続き(潔の選択肢あり)


     「ありがとう、凛。今日の試合、視界が良くなってたから前と同じように動けたし。さらに進化したプレーができた」

     昨日とは違って、もうスマホを見ていなかった凛は部屋に入って開口一番そう言った俺を見た。

     「何時頃視界が元に戻った」

     久しぶりに心から笑えたような気がするけれど、さして凛はそれを気にせず聞いてくる。

     「ちょっと試合で無理したから、凛が提示した時間よりも早かったかも。寝てたみたいだし、俺」

     「他に、変なところは」

     「なかった気がする。でも、視界がマシになったら本当に前と同じくらい動けたんだ。だから、進化もできた。ありがとな、凛」

     「……フン」

     俺の言葉に凛は何も返さず、ふと目を逸らしたかと思えば緩やかにベッドに寝転んでしまった。

     「大丈夫か?具合悪いのか?」

     急に寝入ってしまった凛に思わず近づくと、凛の気だるげな瞳と目が合った。

     「……ねみぃ。寝る」

     そう一言言ったきり、凛は瞳を閉じて本格的に寝入ってしまった。

     もしかすると、凛は。

     俺の試合に間に合うよう、無理をして調べてくれていたのではないか?

     もしそうなら、たった今俺の目の前ですやすや眠るライバルは。

     本当に、一生に一度見れるかの珍しく気まぐれなまごころを見せてくれたのかもしれなかった。

     布団もかけずに眠っている凛に、毛布をかけ直してやる。

     ごめんな、ありがとな。

     穏やかな寝息を立て始めた凛を横目に、俺は考える。

     俺は───


     1. この部屋を探索する

     2.何もせず、凛が起きるまでぼーっとする


    >>105

  • 104二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 09:41:57

    1

  • 105二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 10:15:29
  • 106二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 16:10:43

    やっぱ気になっちゃうか…

  • 107二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 19:38:20

    ドキドキ

  • 108二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 21:55:03

    >>103の続き(潔の選択肢あり。元ネタにもあるグロ表現注意)


     俺は、凛が起きるまでこの部屋を探索することにした。

     思えば、凛と話すのに夢中でまじまじとこの部屋を見たことはなかった気がする。

     まあ、どの部屋だろうが肉塊まみれだから……あまり変わらないのだけれども。

     ただ、最近は慣れてきたのか部屋の構造とかは分かるようになった。

     改めて見てみると、この部屋。他の部屋とは雰囲気が違う気がする。

     俺は小一時間程、この暗い部屋を探索した。

     元々もう使われていない部屋だったから、物は少ない。

     「やっぱ、特に何もないか……」

     ただの暇つぶしにかならなかったな、と思った矢先だった。

     最後にベッドの下を見て回っていたら、俺たちがいつも座るのとは遠い位置にあるベッドの下に……何かある。

     「なんだこれ……え、これって」

     

     出てきたのは、もう熟して腐る寸前みたいな状態になった果物だった。

     

     この正体不明の果物、見覚えがある。

     前、夜食に凛が食べてたやつだ。


     以前匂っていた甘い匂いはもうしない。

     でも、なんでだろう。得体の知れないものなのに、すごく。

     おいしそうだ。


     俺はこの果物を───


     1. 食べる 

     2. 食べない

  • 109二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 21:55:36

    安価>>111

  • 110二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 21:57:52

    食べない

  • 111二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 21:58:29
  • 112二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 22:36:25

    >>108の続き


     「いや、得体の知れないもの食べちゃだめだろ……」

     俺はこの果物を食べないことにした。

     理由は分からないけれど、凄くおいしそうに見えた。

     でも、訳の分からないものを食べて腹を壊してはならない。それこそ体調管理ができていない。

     それに、今の俺の視界では美味しそうに見えているだけで。本当は凄くヤバいものなのかもしれない。さっさとしまってしまおう。

     

     「つまみ食いか?元気なこったな」

     

     背後から聞こえてきた聞き覚えのあり過ぎる声に、俺は跳ね上がった。

     驚き過ぎてこけた。もちをついた尻が痛い。

     「凛!?おどかすなよ……」

     凛は俺が落とした果物を拾うと、また口を大きく開けてそれを丸吞みしてしまった。

     「あ、駄目だぞ凛。床に落ちたもの食べるなよ」

     凛は口をもぐもぐさせながら、どうでもいいとばかりにふてぶてしく俺を見ている。

     飲み込み終わると、じとっとした目が俺を突き刺してきた。

     「お前こそ勝手に人のもの食べようとすんな」

     「それはごめん。ちょっと暇つぶしに探索してたら見つけちゃって。てか食べてねえし」

     食べてないことを俺が伝えると、知ってたとばかりに鼻で笑われた。


     「これが最後の残りだから、もうねぇからな。まぁ……お前は食べなくていいモンだが」

     食べなくていいもの?やっぱりヤバいものだったのだろうか。

  • 113二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 22:36:51

    >>112の続き


     「お前は食べていいのかよ。いや、別に欲しくねえけどさ」

     少し不貞腐れたように凛に聞くと、瞬く間だったが凛は静止して真剣な面持ちで考え……そして言った。

     

     「……どうだろうな」

     

     それだけ言って、凛はまた寝入ってしまった。

     なんだよそれ。と言いかけたけど、また凛が眠たそうにしていたので胸の内にしまっておいた。

     それから眠たくなるまで凛の言葉の意味を考えていたけれど。

     部屋に戻って眠ってしまうと、翌日昨日考えていたことを全く覚えていなかった。

  • 114二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 04:52:36

    食べなかったか

  • 115二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 07:54:48

    記憶いじれるのか

  • 116二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 13:34:00

    ていうか考えてたことを忘れたって思考自体が読まれてるな

  • 117二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 18:43:13

    綱渡りでドキドキする

  • 118二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 20:46:21

    >>113の続き 潔のルームメイト達の話


     「潔の様子がおかしい?」

     真剣な表情で氷織くんは言った。この前頭を打って回復してからというものの、潔の様子がおかしいということを。

     確かに、そう言われて俺も心当たりがないわけではなかった。彼は最近、夜な夜な一人で外出している。行く先は知れず。氷織くんが聞いても「寝付けなかった」との一点張り。潔が頭を打つ前に、そんなことをしていた記憶は覚えがない。氷織くんも同じだった。

     「いつもと変わらないように見えるけど、違う。違う。少しだけ、俺たちと距離を置いてる。物理的な」

     またまた黒名くんも真剣な表情で言った。彼はネオエゴイストリーグが始まってからずっと潔についている。頭を打つ前の彼と接していた時間も少し長い筈だ。彼が言うのなら間違いはなかった。

     「物理的……そうやね。心の距離を置いているんじゃなくて、物理的に。最近は僕たちとくっつかないように過ごしてる感じやね」

     「みんなもそう感じてたんだね。やっぱり、最近の潔はおかしいよ」

     改めて俺が出した結論に、二人も頷く。思えば、最近の潔は試合中のボディタッチをしなくなった気がする。ハイタッチをする姿でさえ記憶の彼方だ。

     「あと、目を合わせてくれなくなった」

     「意識が戻ってから暴れた。暴れた。けど帰ってきてからは元通り。でも何か隠してる」


     「もしかすると、潔くん……本当はどこかおかしくしとるんやない?」

  • 119二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 20:47:04

    >>118の続き


     氷織くんは神妙な面持ちでそう言った。

     どこかをおかしくしている。

     明確に心当たりがあった。というよりは、俺も目に病を抱えているから分かるというものだが。

     「確かに、そうかもしれないね。彼は目を合わせなくなったけれど、俺たちが嫌い。というよりは見ているのが辛い、の方が近そうに見えるよ。根拠は俺自身の経験かな」

     もしかすると、彼は。俺と似たように視界をおかしくしているのかもしれない。

     以前、練習の休憩時間に、目を抑えてうずくまっている潔を見たことがある。近寄ると直ぐに何でもないと流されてしまったけれど。思えばアレがサインだったのかもしれない。

     「潔、目。おかしくした?」

     「目というよりは、視界かもね。頭を打ったんだから、そうなってもおかしくはない。でも」

     「それを言ったら、今サッカーが続けられなくなる。潔くんと試合に出て確信が持てたけれど、今の潔くんならそれを理由に隠していてもおかしくはないわ」

     段々と、仮想ではあるが彼がおかしくなった理由が浮かび上がってくる。

     ただの相談、という体で潔くんがいない間に会議を始めた俺たちだったが……その表情は増々険しくなっていった。

     「なんともないって、潔くんは言ってたけど。それが本当かどうかも分からへんしね」

     「……潔、夜にどこか出かけてる。心配、心配」

     ぽつり、と黒名くんが溢した話題に俺たちは無言になる。


     「フランスとの試合はまだ時間がある。今日は俺が追いかけてみるよ。潔が夜にどこへ行ってるのか」


     そう、俺は切り出した。俺たちは遂に動き出すことにした。夜な夜な潔がどこかへ行っている理由を突き止めれば、彼がおかしくなった原因の糸口が掴めるかもしれなかったから。

  • 120二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 20:57:37

    ユッキー…やめとけ…

  • 121二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 21:31:02

    元ネタって友人も結構被害にあってたよね?
    嫌な予感

  • 122二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 22:35:57

    >>119の続き


     もぞもぞと、布が擦れる音がする。

     来た。

     潔は、いつも通りにみんなが寝静まった後に部屋を出て行った。

     少し遅れて、俺も追いかけることにする。


     一体どこへ向かっているのか。

     気づかれないように少し距離を置いて尾行する。今のところ、潔が気付いている様子はない。

     他の誰かの部屋に向かっているのかと思ったが、そうではなかった。他の誰かが使っている部屋を彼は素通りした。

     潔が向かっているのは───


     「……っ」

     彼が曲がり角を通るところで、俺は目を抑えた。

     発作だ。こんな時に、困ったものだ。

     視界がおかしくなっていく。駄目だ、このままでは潔を見逃してしまう。

     氷織くん達に申し訳ない。そう懺悔していた時だった。

     

     壁に寄りかかった俺の背後に、誰かがいる。


     ”彼”からは異様な気配がする。

     まるで、人間なのに人間じゃないような。

     理由は分からないけれど、鳥肌が立って俺は動けなくなった。

     

     「……誰、だい?」

     

     意を決して、話しかけてみる。聞こえてきたのは、聞いたことがある低い声だった。

     「目をやったのか?」

     後ろから聞こえるのは、聞き覚えのある声───糸師凛の声だった。

  • 123二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 22:51:01

    士道止めてくれ

  • 124二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 22:52:57

    見えてない!見えてないからセーフだよね凛ちゃん!

  • 125二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 23:37:02

    かといってユッキーが素直に病気のことを言うとも思えん

  • 126二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 06:43:58

    このレスは削除されています

  • 127二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 10:30:01

    凛は凛で自分の正体を無闇に知られると命の危険があるからな、必要とあらば口封じするかもしれん
    うろ覚えだが原作ゲーで主人公とバケモノヒロインが殺されるEDあったよね?

  • 128二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 13:36:18

    真相を突き止めた友人(とかかりつけ医)によって人外ヒロインが致命傷を負い、全てに絶望した主人公は自害を選ぶENDやね
    世界の平和は守られたけど、医者は死ぬしその友人もSAN値0になるとかいう救われないEND

  • 129二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 13:50:19

    凛ちゃん潔の思考読めてる?みたいだしユッキーのも読めたら見えてない事に気付けてセーフならないかな

  • 130二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 15:48:05

    めっちゃすごい…
    原作ってゲーム?

  • 131二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 18:59:45

    >>130

    ニトロプラスの虚淵玄シナリオ作品「沙耶の唄」

    R18ゲームだよ

    パッケージ版・ダウンロード版・Androidアプリ・ノベライズがあるよ

  • 132二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 22:28:09

    >>122の続き 


     己の背後に立っている人物が知り合いであることに、俺は安堵───できなかった。


     どうしてだろう。見知っている人物の筈なのに、接してはいけない気がする。

     俺の本能が訴えかけている。今俺の背後にいるコイツとは話をしてはならないと。

     それでも、俺は言葉を紡いでしまった。

     「やったというよりかは、発作かな。すまないが、今は目の調子が悪いから放っておいてくれないかい?」

     俺の知っている糸師凛なら、ここで退散してくれる筈だ。彼は然程俺に興味がない。

     だが、聞こえてきたのは何かを考えているのようなフーン、という声。

     「それ、お前は治したいのか」

     「……ああ、まあね」

     しかし、彼は食い下がらない。彼は一拍置いた後に意外な返答を俺に返した。

     

     「治してやろうか」


     「……驚いたな。君に治せるのかい?」


     明らかにサッカー一筋の彼がこういった発言をすることに驚いた。やはり、何かがおかしい。

     おかしいのに、俺は何故かこの場から動くことができない。

     それどころか、気の狂った発言を彼に返してしまった。

  • 133二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 22:30:46

    >>132の続き ホラー注意


     「治せるものなら、是非治してほしいところだね。これには散々苦しめられてきたんだ」


     不意に、本音が出る。医者でもない彼にこれを言うのは、どうもおかしい。

     おかしいと分かっていながら、俺はどうして。

     まあ、発作中だから藁にも縋りたくなる気分にでもなっていたのかもしれないが。


     「ああ。”丁度”試したかった。いいんだな?」

     同意してはいけない。理性からの警告を無視してはいけない。

     そう分かっている筈だ。だが、俺は正常な判断ができなかった。

     「いいよ。君に治せるならね」


     床を這いずり回る”ナニカ”の音がする。

     聞こえてくるのは、俺の背後からだった。


     「安心しろ。ィたクハしネぇよ」

     糸師凛だった声が、何か違うモノに変質していく。


     『隧ヲ縺吶?縺ッ蛻昴a縺ヲ縺?縺九i縲√?縺」螢翫縺九b縺励l繧薙′縺ェ』


     最後に聞いた声は、この世のものとは思えないおぞましいものだった。

  • 134二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 22:35:46

    凛ちゃんはサッカーが絡むと寛容になるね

  • 135二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 22:39:25

    文字化け部分復元してみた↓
    試す??は初めて??から、??っ壊?かもしれんがな

  • 136二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 00:05:55

    自分から治してって言うようにいじったのかな

  • 137二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 00:08:31

    潔の前に実験台にするかみたいな感じか
    ゆっきー何事もなく治っていて欲しいなあ…

  • 138二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 06:26:21

    このレスは削除されています

  • 139二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 14:08:53

    むしろ元ネタゲームのような改造は不審者に対してやっていたのかもしれない

  • 140二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 17:17:56

    気になって元ネタ紹介してるサイト見てきちゃった
    すごいハラハラする

  • 141二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 22:25:35

    >>133の続き


     「雪宮くん!!大丈夫?!」

     必死の形相で俺の肩を掴む氷織くんの顔が見える。

     あれ、ここは。

     俺は、何をしていたんだっけ。

     そうだ。俺は。

     ───あれ?

     俺は、何をしていたんだっけ?



     「心配だからこっそり後からついていったんやけど、僕が見つけた時には雪宮くんが床で寝てたんや」

     俺が心配とのことで、潔の捜索は中断して二人で部屋に戻ることになった。

     隣を歩く氷織くんは、顔色が悪かった。

     無理もないか、木乃伊取りが木乃伊になるみたいに俺もおかしくなったんだから。

     けれど、俺は氷織くんに言われるまで、自分が何をしていたのか思い出せなかった。

     潔を追いかけて行った俺に何が起きたのかは、未だ思い出せないけれど。

     でも、そうだ。

     記憶を失う前と後で、明確に変わったことと言えば。


     なんとなくだけど、目が軽くなった気がする。

     なんだろう、あれだけ苦しめられてきた発作が。

     もう起きないような気がした。

  • 142二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 22:27:35

    >>141の裏側


     「…………」

     「実験成功か」

     ああ。良かった。

     実験に使えそうな不審者なんて、早々ここに現れないからな。


     「り~んちゃん♪喰ったらアウトだって言ったよな?」

     「喰ってねぇし。治してやっただけだ」

     「まあ、いいけどさ。でも失敗してたらワンダーランドにコンニチハなんだろ?」

     「失敗してねぇから問題ねぇ」

     「潔ちゃんは壊れないといいねぇ~。いや。元々コンニチハしてるか、今は。そもそも、戻ろうとすんのか?」

     「……戻ろうとするに決まってんだろ。アイツは」

     「どうだかなァ~。アイツも中々爆発する方が好きジャン?案外本当のリンリンも好きだったりしてな」

     「…………」

     「だんまりかよ、リンリン。まあ、面白れェ爆発が見れそうな展開になったら手伝ってやるよ。じゃあな」


     


     「凛!今日も来てくれたんだな。いないから焦ったぜ~」

     「何してたんだ?」

     「……ちょっとした、ボランティア」

     「…………ぶはっ、何だそれ新手の冗談かよ」

  • 143二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 22:40:53

    うわーよかったー

  • 144二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 01:34:32

    ユッキーが救われてよかったわ
    まあ人外の戯れでしかないと言えばそうなのだが

  • 145二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 09:03:36

    凛ちゃんの手元が狂ってたらユッキーも潔さんと同じ視界になってたかもしれない……?

  • 146二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 11:28:00

    パワプロのダイジョーブ博士みたいだな

  • 147二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 16:16:10

    副作用的なものはないよね…?

  • 148二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 16:54:00

    まあ被検体は貴重だから慎重にやってくれたはず
    ユッキーの未来を信じよう

  • 149二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 22:20:27

    >>141の続き 氷織視点


     「ってことがあって戻ってきたんや。……どう思う」

     「明らかに怪しい、怪しい。そして危険」

     「そういえば、前にブルーロックに不審者が出たとかいう噂あったよね。もしかして、夜はそいつが徘徊していたりするのかも」

     数十分前は倒れていたというのに、すっかり元気になった雪宮くんの話を聞いて思考を巡らせる。

     

     潔くんがおかしくなった原因を探りに、夜な夜などこかへ行ってしまう彼を今夜は雪宮くんが尾行することになっていた。

     しかし、心配になった僕が追いかけて行ってみると……彼は床に倒れていた。

     

     潔くんを追いかけて行った先で、何があったのかは分からない。その場には怪しいものはなかったし、雪宮くん本人も記憶を飛ばしていたからだ。

     でも、確実に何かが起きている。

     今ブルーロック、恐らくドイツ棟で起きている不穏な出来事について……潔くんも関わっている可能性がある。もしかしたら僕たちが知らないだけで、彼は当事者になっているのかもしれない。

     ただ、こうして単体で動くのは危険だと分かった。当てになるかは分からないけれど、僕が過去にクリアした数多のゲーム経験を考えると。もしかしたら僕たちも危険な目に遭うかもしれない。

     「気にしすぎやと思うかもしれんけど、暫くは一人で行動せず、皆で行動した方が良いと思う」

     「分かったよ。何か起きてからでは遅いからね。俺はたまたま意識を失ってただけで、次は何らかの被害に遭う可能性もある」

     「……このこと、潔に聞いてみるか?危険な賭けかもしれないが、もしかしたら何か分かるかもしれない。しれない」

     黒名くんの賭けに出る提案に、僕は一度考える。

     もう本人に直接問い詰めるのもいいのかもしれない。ただ、潔くんがクロだった場合。それはわざとバケモノを呼び出す行為に近いかもしれない。

     ただ、過去に僕は潔くんにはぐらかされている。今回も聞いたところで、また同じ結果の可能性もある。

     どっちつかずと迷っていた時、雪宮くんが新たなる提案をした。

     「じゃあ、俺のことを話して。それで夜な夜な出掛けている潔にも忠告するような形で聞き込みはどうかな?」

     「自然、自然。良いと思う」

     これなら日常の会話として問題がない。

     「ええね。それで行こか。今夜は潔くんが帰って来るまでみんなで待機しとこや」

  • 150二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 22:22:37

    >>149の続き


     今回はみんな寝たふりではなく、雪宮くんのことで話し合って起きていたということにしている。

     顔を合わせながら潔くんの帰りを待っていたが、待ち人は数十分後に音をたてないように部屋に帰ってきた。

     こっそり帰ってきた筈の潔くんは、深夜に会議中に見える僕らを見て目を丸くした。

     「え」

     「あ、潔くん。おかえり」

     「みんな、なんでこんな時間に起きてるんだ?」

     「実は、雪宮が───」



     「……マジか。全然知らなかった。怖いなぁ」

     そう慄く潔くんの様子に不自然さはない。そのことに少し安堵した。少なくとも、潔くんは雪宮くんの件の当事者ではない。

     「潔もたまに出掛けてる。不審者に遭遇したら危険」

     「うん……知ってたんだ。ホントに眠れなくて散歩してるんだけど、危ないよな。気を付ける」

     それを知っても尚、潔は夜に出かけるのを辞める気はない様だった。

     そういえば、潔くんは休日は散歩してるんだったか。

     潔くんの態度は、本当に何も知らないように見えるし、散歩の件については何かを隠しているようにも見えなくもない。

     今回だけの会話では判別がつかない。

     みんなもそう感じたのか、とりあえず明日絵心さんに言って警戒してもらおうということで終わった。

     早くこの不可解な一連の事象が、解決して。みんなぐっすり眠れるといい。

  • 151二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 22:57:51

    原作ゲーの主人公の友人達の顛末を思うと頼むからあんま深入りしないでくれーって思っちゃうな

  • 152二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 02:03:08

    原作の展開を考えるとハラハラドキドキするね
    でも実験台だったんだろうけど雪宮治してくれたし士道がわりかし倫理観あってストッパーになってくれそうなのもあってなんとかなりそう感もある
    ただ残りの人外枠(?)蜂楽と凪はどういうスタンスか不明なのが気がかり

  • 153二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 07:12:20

    このレスは削除されています

  • 154二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 10:05:53

    ひおりんが聡いから心配なんだよな
    ホラーだとこういうタイプから死ぬんだよ

  • 155二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 13:24:53

    このレスは削除されています

  • 156二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 13:30:13

    今どのエンドに向かってるのかな

  • 157二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 14:36:00

    潔はおかしくなった視界を治すのに凛を頼ってるけど原作ほど依存まではしてなさそうだし友達と仲良しのままだから凛がもし仲間に危害を加えたら離別しちゃうかもな

  • 158二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 22:28:09

    >>150の続き


     深夜に出かけた雪宮が襲われたらしい。


     襲われたというのも、いつの間にか意識を飛ばして床に寝ていたらしいが。

     見つけた氷織が介抱したのだとか。

     聞けば、もしかすると不審者がブルーロックを徘徊しているのかもしれないらしい。

     俺も夜な夜な凛に会うために廊下を歩いているが、運がいいのか一度も遭遇したことはない。

     それから夜が明けてみんなで絵心さんの元に報告しに行った。

     確かにカメラに不審な人物が写っていたそうだが、それが発見できたのは数週間も前のことだったらしい。

     不審人物は最近カメラで見ていなかったそうなので、今回の件で監視の目を厳しくするとのことだった。

     とりあえずここ数日はみんなで団体行動を取ることに決まった。

     怪しまれそうだから、この数日間は凛に会いに行かなかった。

     この件は他の棟にも連絡されているそうだから、凛も知っているだろう。

     本職のパトロールの人たちに調べてもらったらしいが、不審者は見つからなかったとのことで。

     今日それは解除された。これで一安心かもしれない。

     もしかしたら、との思いで凛と会っていた部屋に今宵も向かった。

     慣れてきたとはいえ、やっぱり肉塊ばかり見過ぎると精神が消耗するらしく。

     凛に会いたくなった。目の保養というやつかもしれない。


     ここにきて、凛に会うのが楽しみになっている自分に気が付いた。まあいいか。

  • 159二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 01:46:02

    楽しみになってしまっているのが心配になるけど……ドキドキして最高ですね

  • 160二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 09:22:58

    めちゃおもしろい
    元ネタふんわりとしか知らないから続き気になりすぎる

  • 161二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 15:44:30

    イタリア戦は現状怪物候補がいないからまだ大丈夫だとしてフランス戦が本編と同じように進んでしまったらどうなるんすかね…

  • 162二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 19:13:00

    めちゃくちゃ面白い 原作のゲームがニトロで展開に心配しかないけど

  • 163二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 21:30:53

    >>158の続き


     結論を言うと、凛はいた。

     凛もまた、団体行動が解除されたから来てくれたらしい。

     数日ぶりに見る凛の姿に感動した。中々異常な事態である。

     「凛!ありがとな。来てくれて」

     声のトーンが上がる俺を、凛は不思議そうに見ていた。

     「やけに元気じゃねぇか」

     「いやー……数日ぶりにまともな人の顔を見たから」

     正直、今の俺にとって団体行動は苦痛だった。

     同室のみんなのことは嫌いではないが、今の俺には異形の集団に見えているのだ。それが四六時中一緒にいなくてはならなくなると、しんどいものがある。それが数日間だけでも、精神が消耗したのだろう。だから、凛を数日ぶりに見た時に感動したのだ。

     

     「……フン。お前のそれは、まともに見えるモンを見ていないと発狂すんのか?」

     

     どうだろう?ただ、ここ数日間や視界がおかしくなって、初めて凛を見る前の自身の憔悴ぶりを考えると……そうなってもおかしくないのかもしれなかった。

     「考えたくないけど……そうなってもおかしくない状態だったのかも。まあ、目に見える者が化物だらけになってもサッカーは続けるから、発狂まではいかないんじゃね?」

     視界がおかしくなった程度で、俺は止まりたくなかった。折角、世界が夢物語じゃなくて、この目に見えてきたところだったのに。

     視界がおかしくなってもサッカーを続ける。そう宣言した俺に、凛は少し考えた後。

     「お前は……」

     そう言いかけて、やっぱり言葉を引っ込めた。

     「なんだよ?」

     「……なんでもねぇよ。後にする」

     「なんだよ~、気になるじゃん」

     凛にしては歯切れが悪かったそれが、俺は気になったけれど。

     話題をすり替えるように、凛は別の話題を口にした。

  • 164二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 21:32:50

    >>163の続き


     「そういや、お前。アイツには会いに行ったのか」

     「アイツ?」

     「オカッパブンブン丸」

     凛の独特なあだ名から思い浮かんだ顔は、ブルーロックに来てからの相棒だった。

     

     『なんかあったらいつでも言ってね!相棒』


     その以前と変わらない太陽のように明るい声が、脳裏に再生された。

     そういえば、蜂楽と二人きりで話してはいない。

     以前、千切と國神と一緒に練習したきりだった。

     あんなに気さくに言ってくれたのに、未だ俺は視界のことを相棒に相談できずにいる。

     「……会いに行ってないかも。今度、会いに行こう」

     「そうしろ」


     スペイン棟への申請届を出した。

     そんな訳で、俺は相棒───蜂楽に会いに行った。


     「うぇーい。潔じゃん。……すげえもんの残り香憑いてるじゃんか。てけりり的な?」

     途中で会った乙夜に驚かれながらそんなことを言われた。なんだよてけりりって。

     ……やっぱり、凛と夜に会うあの部屋には何かがあるんだろうか。正体不明の果物があったように。

     乙夜如く、ちょうどBLTV放送外のエリアにいるらしい蜂楽の元に向かう。

     これなら俺の症状に関する話もできるだろう。

     今の俺のおかしくなった視界について話すのは、蜂楽で二人目だった。少しだけ、手に汗が滲んできていた。緊張する。

     相棒は、人っ子一人いない明るい部屋にいた。ここも今は使われていない部屋なのだろうか。

     「蜂楽。ここにいたんだな」

     俺に名前を呼ばれた蜂楽は、振り返って。恐らく俺の好きな人懐こい笑顔を浮かべている。


     「潔!久しぶり~!なにか、話したいことがあるんだね」

  • 165二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 21:35:05

    >>164の続き


     流石俺の相棒。読まれていた。やっぱり、蜂楽の声は良く聞こえるなあ。

     でも、そう言ってくれるとこちらとしても話しやすかった。

     「うん。内緒の話なんだけど……」

     使われていないベッドに座っていた蜂楽の隣に腰掛ける。

     うんうん、それで?と言いたげに蜂楽は俺を見ている。


     「実は俺、頭打ってから視界がおかしくなってて。……凛以外、みんな異形に見えるんだ」

     

     蜂楽は俺の突拍子もない話を聞いても尚、少し驚いた顔をした後に悲しそうな顔をした。

     「それは……しんどかったね、潔。今までずっと、それ我慢してたってことっしょ?」

     しんどかった。

     そうだ。考えないようにしていたけれど。しんどかった。我慢してた。

     それこそ、凛がいなければ……な程。

     「うん。はーっ……やっと言えた。実は、このこと言うの蜂楽で二人目なんだ」

     「そうなんだ。一人目は凛ちゃん?」

     そういう鋭いところも、蜂楽は変わっていない。

     「うん。……ごめん、いつでも相談してって、言ってくれたのに」

     「いいよ。俺も記念すべき二着目だし!」

     「治る見込み、厳しくてさ。……一応、なくもないんだけど」

     「分かった。それも凛ちゃん関連でしょ」

     本当にこの相棒は鋭い。これに関しては鋭すぎるけど。

     「……なんで分かったんだ?」

     蜂楽は得意げに笑った。そして、立ち上がって。

     正体を現すみたいな手を広げたポーズをして、言う。


     「俺が、かいぶつだから!」

  • 166二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 21:39:15

    >>165の続き


     「え、俺の中のじゃないの?!」


     思わず俺はツッコミを入れてしまった。

     え?かいぶつ?蜂楽自身が?


     「元々自分の”かいぶつ”が見える家系だったんだけど……二次選考で最後に潔と戦った時。自分自身と向き合って。俺の中のかいぶつは消えて。俺が”かいぶつ”になったんだ」

     「って言っても、いろんなものが見えたり、ゴールへの道筋が明確に分かるようになった程度だけどね。”かいぶつ”は見えなくなったけど。もう、俺。道に迷う気がしないんだ」

     

     明かされる衝撃の事実に、俺は少しだけ思考を止めた。

     奇天烈な話。でも、今の俺にはそれが蜂楽の冗談には見えなかった。

     むしろ、俺が勇気を出して話したことに応えてくれたのかもしれなかった。

     

     「びっくりした?」

     「うん」

     「潔は俺の話、信じるんだ」

     「信じるよ。前の俺だったら驚いて何も言えなかったかもしれないけど、今の俺は信じる」

  • 167二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 21:41:21

    >>166の続き(潔の選択肢あり。END分岐フラグ選択肢はこれにて最終)


     蜂楽だって俺の話を真っ直ぐに聞いてくれたのだ。俺だって、同じように返したい。

     それに、ようやく。

     蜂楽と会って。視界がおかしくなったことをきっかけに、摩訶不思議な世界に足を踏み出しかけていることを認める気になったから。

     「そっか。なんか嬉しいかも……!ありがとう、相棒!」

     「こっちこそ、茶化さずに俺の話を聞いてくれてありがと、相棒!」


     俺たちは顔を見合わせて、それから笑い合う。

     やっぱり、お前に会いに来てよかったよ。蜂楽。


     ……あのさ、蜂楽───

     

     1. 本当の姿を見ないフリをしたままで、本当に良いと思う?

     

     2. ごめん、やっぱなんでもない 


    >>169

  • 168二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 21:43:09

    1

  • 169二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 21:43:29

    乙夜もわかるんだな
    安価なら1

  • 170二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 21:46:37

    乙夜もクトゥルフ系なんかな?

  • 171二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 21:48:56

    乙夜は忍者の家系だからそういうものの存在を幼少期から教えられてるし見えるとかでもあり得そう

  • 172二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 21:56:20

    てけりり……

  • 173二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 22:24:25

    乙夜は家業の関係でCoCの元探索者みたいな経験をしている(+家から危険神話生物・呪文教団を教えられてる)とか?

  • 174二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 03:05:52

    フランス戦後の凛と潔どうなるんだろうね

  • 175二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 06:42:23

    このレスは削除されています

  • 176二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 13:24:44

    このレスは削除されています

  • 177二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 18:00:37

    そうか、世界がアレなEndもあるな

  • 178二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 19:04:34

    世界がアレになったらサッカー出来ないじゃん!

  • 179二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 22:24:56

    >>167の続き


     「本当の姿を見ないフリをしたままで、本当に良いと思う?」


     真剣な目で、蜂楽の目と思しきところを見る。

     ずっと、迷っていた。

     ずっと、見ないフリをしていた。気付かないフリをしていた。

     

     蜂楽は、うーんと考えた後に。恐らくいつもの笑顔から、真剣な表情に変わって答える。


     「それは、潔次第だよ。潔が見たいのなら。本当に理解したいのなら。知らなくてもいいこともあるけど、それは。見てみてからじゃないと分からないじゃん」


     俺次第。

     確かに、そうだ。

     深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを見ている。

     どこかで聞いたことがある言葉が脳裏を過る。

     それを知ることで、今度こそ本当に戻れなくなることもあるし。

     それを知ったことで、一歩踏み出すことができることもあるだろう。


     俺は。


     俺は、どうする?

  • 180二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 22:25:26

    >>179の続き


     「潔は、どうしたい?」

     恐らく、稀に見せる真剣な目をして。蜂楽は問いかけてくる。

     

     「俺は……どうしたいか、まだ決められない」

     

     未だ悩んでいる俺に、蜂楽は真剣な表情からふっ、と変わって笑った。

     「にゃはは。考える人、だね。潔」

     「時間はまだあるだろうから、ゆっくり考えときなよ」

     蜂楽はそう言うと、そのまま部屋の出口に向かっていく。

     「俺、もう行くね。……後悔しない道を選ぶんだぜ!相棒」

     そうして、一度立ち止まって振り返り。

     屈託のない笑顔を、激励するように俺に向けた。


     「……うん。ありがとな、本当に」


     「いいってことよ~!」

     廊下から響く明るい声に、思わず笑みが溢れた。

  • 181二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 22:38:54

    分岐のフラグはもう終わったからこの先向かうENDは決まってるのか
    続き楽しみに待ってる

  • 182二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 02:10:01

    エンド楽しみ

  • 183二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 09:48:40

    END次第じゃ、本当に物理的に命掛けることになりそう

  • 184二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 12:48:07

    このレスは削除されています

  • 185二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 12:55:51

    人外ヒロインが主人公の頭を治してくれたけど自分の本当の姿を見せたくないって言って離別しちゃうヤツ?
    ここの凛ちゃんは人間に擬態出来てそうだからお別れはしなそうだけど

  • 186二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 21:15:08

    蜂楽と士道もいいポジションで好き
    END楽しみ

  • 187二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 22:22:18

    >>180の続き


     「あいつはあいつのままだったよ。姿が変わって見えても、安心しちゃうぐらい」

     「……そうかよ。おめでたいこったな」

     昼間あった話を黙って聞いていた凛は、俺の話が終わった後に端的な感想を述べた。

     ”姿が変わって見えても、安心しちゃうぐらい”

     俺がそう発した時、俺の目を覗き込むかのように見ていた凛の瞳が───揺らいだ気がした。


     「なあ、凛……ごめん、なんでもない」

     俺は未だ、自分がどうしたいか決められなかった。

     それが、凛にもお見通しだったのか。伝わってしまったのか。

     

     「潔」

     

     川を流れる水のように、澄んだ声だった。

     

     「知らなくて幸せなこともある。だけど」

     「お前がそれを知りたいなら、教えてやる」

     それから、一拍置いて。凛は告げる。

     

     「明日、俺もお前に聞くことがある。その後で、教えてやる余地があるなら。だがな」

  • 188二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 03:06:17

    元ネタ主題歌のイントロが聴こえてきたな…

  • 189二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 07:01:46

    凛ちゃんの台詞的に本当のEND分岐は作中の明日だろうな……

  • 190二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 13:44:57

    このレスは削除されています

  • 191二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 13:45:58

    全END回収出来るの本当に助かる

  • 192二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 13:56:08

    そろぼち次スレ立てる?
    スレ主いけそう?

  • 193二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 19:13:22

    このレスは削除されています

  • 194二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:22:44

    >>187の続き

     

     「あ、おかえり潔くん。……もう明後日にはフランスとの試合やで。あんまり夜更かしせんとき」

     「うん。本当に最近、眠れなくてさ」


     今夜はゲームをしていなかった氷織は、心配そうに帰ってきた俺を見上げてきた。

     眠れない。最初はこのおかしくなった視界のせいだったけれど、ここ数日は決めきれない決断のせいだった。

     「……大丈夫?悩みなら聞くで」

     俺の返答を聞いて、更に氷織が心配そうな顔をした。

     ずっと心配してくれていた氷織に、俺は相談してみることにした。

     「ありがとう。実はさ、ずっと迷ってて」

     「うん」

     落ち着いた様子で、安心させるように氷織は相槌を打ってくれる。

     「大事なことを聞けずにいる人がいるんだ。聞いてしまったら最後、今までのその人は壊れてしまうような気がして」

     「……怖いんやね。潔くんは」

     怖い。

     きっと、俺は凛だけじゃなくて……これまでの俺たちのライバル関係が壊れることも恐れている。

     サッカーでは、自分を壊すことを恐れたことはなかったのに。

     なんとなく、感じてしまうからだろうか。

     今選択を間違えたら、アイツは……あの部屋で毎晩会う凛は。

     どこかへ行って、もう二度と会えない気がするから。 


     「僕も経験あるから、分かるで。聞きたくとも聞けないことって……ある。それが、薄氷上の優しさや温かさであっても……きっと、壊れる時は盛大に壊れる。そんな気がしてしまう。それが、とても怖い」

     氷織の言葉は、確かな重みを持っていた。あまりみんなで自分の過去を話したりはしないが、この言葉は自身の過去に基づくものだと思った。

     「……聞いてもいい?」

     「ええで」

     「氷織は。その時、どうした?」

  • 195二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:23:18

    >>194の続き


     「僕は……未だに聞けずにいる。自分が派手に傷つかない選択をした。だから、サッカーを続けてここにいる。まあ、イタリアとの試合の時は辞めようと思ったんやけど」

     「潔くんは、どうしたいんや?」


     それは、蜂楽にも聞かれた言葉だった。

     「とりあえず、関係が壊れるとかの難しい話は置いておいて。まずは潔くん自身がどうしたいかを考えてみたら、ええんやないかな」

     「僕は、その選択ができなかったけれど。自分のしたい通りにしてみて、それから相手との関係を考えてみるのもありなのかもしれへんね。案外、なんとかなる真相かもしれんで?」

  • 196二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:52:13
  • 197二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:53:11

    次スレありがとうスレ主
    うめ

  • 198二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 23:07:22

    セーブ入る仕様なの好き

  • 199二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 08:57:35

    ひおりんの言ってることって両親のことだと思うとしんどいな……
    潔さんはどんな選択をするのか

  • 200二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 09:09:04

    2周目期待

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