- 1怪奇譚シリーズ21/09/15(水) 22:38:40
そろそろ菊花賞が近づいて来る季節。山道はトレーニングコースとして使われる事が良くあるわ。でも山道ってホラ、危ないでしょう。いくら半分都会に近いこのトレセン学園の周辺だって山の方に上れば狸くらいは出てくるし、秋口は蜂の巣とかあったりするし。
そういうのの見回りって事かしら?たづなさん?それホントに秘書のお仕事?
ええ。ご協力ありがとうございます。マルゼンスキーさん。こういう情報は学園とトレーナーさん達で共有しておかないと危ないですから。
まあドライブに付き合ってくれるならなんでもいいけど。あとは何処にいくの?こっちの峠の方も?まだ時間は余裕のよっちゃんよ。
休憩所にたっちゃんを止めてたづなさんに地図を見せてある峠を指を指す。たづなさんは顔を渋くするとそっちはいいですと首を横に振る。
あら、ここら辺を全部調べると思ってたのだけど
そっちは事故も多いですし最初から危険区域です。……出るとも聞きますし。
出るって何が?
私がそう聞くとたづなさんはしまったと目を背けたけど観念したのか話し始めたわ。……まあなんとなく想像はつくわ。車乗りだし、そういう噂は聞いているもの。
内緒でお願いしますよ
モチのロンよ
すごく早く走るおばあちゃんです - 2怪奇譚シリーズ21/09/15(水) 22:39:46
※昨日のは落ちてしまったので再掲です。今日はちゃんと書いてあるのでそんなにかからないです。昨日のに感想をくれた人はすいませんでした。
- 3怪奇譚シリーズ21/09/15(水) 22:40:24
別名をターボババア。ジェットババアという事もあるらしいわ。車を運転していると後ろから迫ってきてとんでもない早さで追い抜いていくお婆ちゃんね。夜の高速道路とか山道で目撃される事もあるわ。そしてそれに遇ってしまった車は事故にあってしまうらしいの。……冗談はヨシ子ちゃんよねぇ。
ああ、あの噂ね。でも内緒って言うのは
マルゼンスキーさんなら心配いらないでしょうが中等部の怖いもの知らずの娘が聞いたら肝試しも兼ねて腕試しに行っちゃうかもしれませんから。特に"速さ"に敏感な娘は多いですからね。
ああなるへそ。確かに昔の私だったら飛びついちゃうかも
そういうわけで生徒には内密にしてくださいね。
アイアイサーよ
そう言ってトレセンに戻ろうと車を戻そうとした時、たづなさんの携帯が鳴ったの。 - 4怪奇譚シリーズ21/09/15(水) 22:41:03
はい、駿川です……わかりました。直ぐに向かいます。……マルゼンさん。件の峠に行きます。
えっ行かないんじゃないの?……今の電話かしら?
ええ、まだ新人のトレーナーさんと担当ウマ娘が向かってしまったみたいで……周知が遅くなった私たちの責任です。
たづなさんは悔やんでるようね。ちょっと顔色が悪いわ。でもだったら今からできる事をしなきゃよね。たづなさん、飛ばすわよ。
道路交通法は守ってくださいね。
モチのロン。あとは一応マンハッタンカフェちゃんに連絡してみて。知恵を貸してくれるかもしれないわ。 - 5怪奇譚シリーズ21/09/15(水) 22:42:01
……トレーナーさんからお電話代わりました、マンハッタンカフェです。
あらあら、少し怒ってるわね。トレーナーさんと一緒にいた所に邪魔しちゃったからかしら。今度バブリーランドのペア券でもあげて埋め合わせしてあげましょう。
すいませんマンハッタンカフェさん。少しT峠に行った娘がいるみたいで迎えに行く必要がありまして。
……T峠ですか。たしかによくないですね。それでこの電話は
はい。もちろん噂の存在と遭遇前に見つけられればいいですが……そうならなかった場合は。
わかりました。峠の手前で車は絶対に降りてください。車だとまずムリです。そして対処法ですが
……逃げきってください。アスファルトで少し私たちに不利ですが……出現からカーブまで。事故を起こさないペースで逃げ勝ってください。
なるへそ、お姉さん好みの展開ね。 - 6怪奇譚シリーズ21/09/15(水) 22:42:48
T峠の入ってすぐでたっちゃんを停車して私とたづなさんは山道を歩いて上がっていく。ここに来ちゃったっていう後輩ちゃんとウマ娘ちゃんを早く見つけられればいいのだけれど。命に別状はなくてもこの時期にケガをしちゃうと秋のレースはかなり難しくなってくるわ。心配ね。
時間もたちだんだん日が沈みだしてはいるけど、峠は町中と比べると暗く少し薄気味悪い。そして見通しも悪い。件のおばあさんは登りより下りの方が出やすいらしいから今はまだ心配いらないのかしらね。逆に後輩ちゃんたちが練習を切り上げて峠を降りてきてしまう方が心配ね。
やっとつながりました。トレーナーさん。今そちらの練習が終わりましたか?山を下ろうとしているところ?はい、少しそちらで待っていていただいてよろしいですか。位置は、20分ほどで向かいますね。
どうやらたづなさんはトレーナーさんと連絡がついたらしい。とりあえず一安心ね。 - 7怪奇譚シリーズ21/09/15(水) 22:43:42
トレーナーさんと後輩ちゃんと無事合流をしてから山を下りることになったわ。二人とも私たちが来たことに驚いていたし私たちの話も不思議そうに聞いてたわ。まあたづなさんが有無を言わせぬ雰囲気で押し切っていたけれど。
そんなわけでトレーナーさんは後輩ちゃんとたづなさんを車に乗せて40キロ程度で下りその後ろを私が追走する形になったわ。
何もなく降りられればいいとそう思っていたけれどどうやらそうは問屋が卸してくれないみたい。後ろから猛烈に追い上げてくる気配を感じたわ。⋯⋯そうね私が逃げてて第三コーナーあたりで後ろからスぺちゃんとかに詰められているような、そんな気分。恐ろしいより高揚感が勝ったわ。
車のバックミラーにぎょっとしたトレーナーさんと後輩ちゃんの顔が映ったわ。 - 8怪奇譚シリーズ21/09/15(水) 22:44:38
私はインから車を追い抜くように速度を上げると手筈どおりトレーナーさんとハイタッチをする。はいこれでバトンタッチ完了。さあ規格外のスピードについてこられるかしら、おばあさん。
アスファルトが硬く走りづらい。けっこう負担が来るわね。そう思いながら一瞬後ろを確認する。トレーナーさんの車は無事に停車でき、おばあさんは私を追っかけてきている。カフェちゃんの読み通りにね。さあ一対一よおばあさん。 - 9怪奇譚シリーズ21/09/15(水) 22:46:26
後ろとの差はおよそ5バシン。さっきバトンタッチした時より少し詰められている。けど加速に乗ってからはそんなに詰められていない。それはそうよね。車だってこのダウンヒルで60キロとか出すのは自殺行為だもの。
緩いカーブを曲がる。この程度なら原則の必要はない。次にきつめのカーブ。対向車線に出て膨らまないように曲がる。少し減速したため詰められる。直線、ここは詰められない。そしてきついカーブ。今度は膨らむように対向車線に出て一気に曲がりきる。
硬い路面と強烈な下り、きついカーブで膝が笑う。お姉さんピンチかも。 - 10怪奇譚シリーズ21/09/15(水) 22:47:35
そう思いながらも踏ん張ろうと足に力を入れた時、背後で何かがつぶれるような音がした。振り返るとカーブミラー越しに壁についた人型の黒いシミとおばあさんの衣服が岩肌にひっかっかているのが見えた。
ああ、私の勝ちなのね。それを理解すると減速しながら緊急避難場所の藁の上に飛び込んだ。 - 11怪奇譚シリーズ21/09/15(水) 23:25:21
あとがたり
ありがとうねーカフェちゃん。これはお姉さんからのお礼ね。
……ありがとうございます。しかしマルゼンスキー先輩は少し脚を傷めてしまったとうかがってます。先輩こそお大事に。
先日のお礼をしにカフェちゃんを訪ねるといつものように彼女はコーヒーを飲んでいたわ。だから私も隣の席に座りご同伴。そしてバブリーランドのペアチケットをカフェちゃんに渡す。そうするとカフェちゃんは私の脚を気遣うようにそう言ってくれる。
これくらい問題ナッシングよ。
ちょっと安静が必要なくらい。だから今日は練習お休みなんだけどね。それにしてもあの後輩ちゃんとトレーナーさんからはなんか少し畏れられちゃってるのよねー。別にそんなに気にしなくていいのに。何かの縁だから少し見てあげようかしら、なんて言ってみたけどすごい勢いで断られちゃったわ。ガビーンって感じね。
……そんなに怖い顔してたかしら私?
……顔と言うより、畏じゃないですかね。走りだけじゃない姿や度胸、精神力。その強さに畏れてしまったのかもしれませんね。
そういうとカフェちゃんはズズズとコーヒーをすすりながらその黄色い瞳を反らした
ep.スーパーカー vs. ターボババア fin - 12怪奇譚シリーズ21/09/15(水) 23:30:59
閲覧ありがとうございました。昨日は保守に失敗して流しちゃいましたがちゃんと終わらせました。はじめて怪異と真正面から戦う話。
そもそもウマ娘世界、高速で動く人のような何かがいるんだからターボババアいるのかな?
参考
ターボばあちゃん - Wikipediaja.m.wikipedia.org - 13怪奇譚シリーズ21/09/15(水) 23:32:45
- 14怪奇譚シリーズ21/09/16(木) 10:36:15