【SS】にせティーパーティーの逆襲

  • 1スレ主25/04/25(金) 19:13:43

    やあ先生、息災だったかな。

    その顔、どうやら状況が飲み込めていないようだね。
    ここは私の夢の中さ。
    この物語を始める前に、どうしても君と話がしたくてね。
    勝手ながら招待させてもらった。

    まあ立ち話も何だからね、そこのソファへ掛けててくれ。
    飲み物を取ってくるよ、何がいい?
    紅茶、フルーツジュース、炭酸飲料、一通り揃っているよ。
    ……バーボン?ふふっ、洒落にならない冗談だね。

    ああ、本題に入ろうか。

    先生に質問だ。
    もし、ある日突然自分と同じ見た目、同じ記憶、同じ性格の偽物が現れたら先生はどうする?
    敵対するか、それとも調和するのか。

    ……困惑するのも無理はない。
    そんな存在に出会ったことがあるという人の方が圧倒的に少数派だろうからね。

    そう、これから始まるのは本物と偽物の物語。
    どちらが優れているか、互いの威信をかけた戦いの物語だ。

    失礼、また回りくどい言い方をしてしまったね。
    最近の流行に沿って表現するなら『ここだけティーパーティーの偽物が現れた世界線に対する先生方の反応集』とでも言うのかな?
    最近は本だけでなく電子の海も泳ぎ回っていてね、少し詳しいんだ。

    そして偽物といえば、キヴォトスに伝わる古則にこんなものがある。
    『名画と同じ画布、同じ絵具で描かれた複製画に価値はあるのか』というものだ。

  • 2二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 19:15:47

    偽物が本物を凌駕するなんて珍しい事でもないからな

  • 3スレ主25/04/25(金) 19:17:29

    つまるところ、完璧に再現された偽物を欲するくらいなら、もう本物を手に入れればいいではないかという話だ。
    どんなに精巧な作りでも、本物を目指した偽物である以上はオリジナルの下位互換でしかなく不必要で無価値なものではないか、と。

    しかし当然この話にも指摘すべき点は多い。
    必要だから、価値があるから増やされて、そして与えられた役目を果たしているのだから無価値だなんてあり得ない。
    考え方は人それぞれとはいえ、あまりにも極端だ。

    思うに、きっとこの言葉を考えた者は偽物を生み出す側だったのだろうね。
    否定して欲しかったのだろう。
    『偽物に価値は無い』という、自身の歪んだ認識を。

    さて、前置きが長くなったね。
    ここまで話していたことはまあ、忘れてくれたまえ。
    ただの世間話に、記憶に刻みつけるほどの価値は無い。

    最後に。これから私は、私たちはたくさんの間違いを重ねるだろう。
    皆がそれぞれの信念のために、また別の誰かを傷つけることになる。

    だから、先生には支えになって欲しいんだ。
    この馬鹿げた争いによって傷ついた者たちの、心の支えに。

    おっと、そろそろ幕が上がる時間だ。
    どうか背を向けず、目を背けず……最後のその時まで、しっかり見ていてほしい。

    私の始めた『物語』を。

  • 4二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 19:21:49

    先生、見守りましょう、観測者として……

    さて皆様、喝采の準備を

  • 5スレ主25/04/25(金) 19:33:06

    トリニティ自治区の古風なデザインの店が立ち並ぶ通りを、一人の生徒が歩いていた。
    百合園セイア、トリニティ総合学園の生徒会「ティーパーティー」のメンバーである。

    彼女は以前から病弱な体質であったが、それも少しずつではあるが改善の兆候がある。
    先のミレニアムEXPOへの参加によって、周囲へもそれが認知されつつあった。

    「次のニュースです。昨日トリニティ自治区周辺にて、トリニティ総合学園の生徒が人型の怪物に襲撃される事件が発生しました。この事件により二人の怪我人が……」

    空を飛ぶ飛行船に取り付けられた大型ディスプレイからは、特に重要度の高い最新のニュースが流れている。

    「ミメシス……」

    足を止めてニュースを見ていたセイアが呟いたのは、生徒を襲った怪物の呼称。
    以前エデン条約調印式が襲撃にあった際、テロリストの兵として召喚されたそれについては連邦生徒会やシャーレ、ゲヘナとも情報が共有され、今はそう呼ばれている。

    それらは人の意思とは関係なく自然に発生するもののため、今回の事件も念入りには調査されず、市民に警戒を呼びかけて終わりだろう。
    しかしセイアの直感はそれだけで終わるとは判断できなかった。

  • 6スレ主25/04/25(金) 19:49:07

    (ミメシスがトリニティ自治区に現れたという事実が気になる。それらは本来ならもっと人の少ない場所でぽつぽつと発生する、言わば幽霊のような存在のはず)

    セイア自身も、彼女と同じ姿をした生徒を見かけたという噂話は聞いたことがあった。
    なんでもカフェやケーキ屋でアルバイトをしていたり、学園の近くに現れて校舎を眺めたり写真を撮っていたりだとか。
    自分にしてはずいぶん体力に余裕があるなとほんの少し羨ましくも思ったが、所詮噂話とそれ以上考えることはなかった。

    (人を襲ったということは、顕現したのはユスティナ聖徒会である可能性が高い。念のため帰ったらナギサやミカに相談しよう)

    セイアは再び歩き始めた。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    「確かここの角を曲がって……ああ、ここだ」

    訪れたのは古書店。
    エデン条約の事件の時に大きく体調を崩して以来、来るのは久しぶりだった。

    「いらっしゃいませ」

    聞き慣れた店員の声に懐かしさを覚える。
    人があまり来ない、静かな雰囲気のこの店が好きだった。
    以前から売れ残っている本、新しく店頭に並んだ本、懐かしさと新発見に心を躍らせながら、セイアは一冊の本を手に取ろうとした。

  • 7スレ主25/04/25(金) 20:01:43

    しかしその時隣の客が同じ本を取ろうとし、軽く手が触れ合う。

    「ああ、これは失礼。先にそちらが取ってく……れ……」

    セイアの方から謝罪をしようと客の方を見た時、その姿に思わず言葉を失う。



    彼女の姿は、百合園セイアと瓜二つの姿だったのだ。

    (間違いない、噂に聞くミメシスだ。こんなところで、よりにもよって私のと出会うとは……!)

    しかし驚いているのは相手も同じで、目を丸く見開き、あんぐりと口を開けてカタカタと震えている。
    恐怖に引きつったその顔は、まるで急降下が目前に迫ったジェットコースターの乗客のようだった。

    「あ、あの君は……」

    『失礼!!』

    声をかけようとした瞬間、模倣セイアが走って店を出ていった。
    まさか本当に自分のミメシスが存在したとは。
    セイアも急いで彼女の後を追った。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    『暗く染まった Deep Ocean♪』

    『何気ない日常が惨劇へと変わり、方舟の乗船権を奪い合う物語。ブルーアークカタストロフ、事前登録受付中』

    『事前登録で今ならシークレットミッションへ参加可能です。お待ちしております、先生』

  • 8スレ主25/04/25(金) 20:04:56

    飛行船のディスプレイが、今度はゲームのCMを流している。

    (ドッペルゲンガー。同じ顔をした人間に会うと死ぬというのが本当なら、まさに乗船権の奪い合いだ)

    セイアは模倣セイアを見失わないよう全力で追いかける。
    幸いセイアのミメシスなので相手も体力が無く、既に息切れし始めていた。
    それに対してセイアはミレニアムEXPOで凄腕のエージェントと共に潜入任務をこなしている。

    「はあ、はあ。体力勝負なら私に分があるようだね……っ!!」

    大通りをまっすぐに逃げる模倣セイアに追いつきそうになった時、道の先で突然爆発が起こった。

    「『な、何だ!?』」

    爆心地では黒煙が上がり、住民や生徒が逃げ惑っている。
    そして目を凝らすと、煙の中からぞろぞろと黒い影が出てくるのが見えた。

    「あれは、ユスティナ聖徒会……!」

    数は十体ほどだろうか。
    青白い肌に修道服を纏った怪物が周囲を攻撃し始めた。
    目の前の偽物を捕らえなければならないが、怪物たちも放ってはおけない。
    セイアが思考を巡らせ始めた瞬間。



    「はーい、それ以上暴れたらダメっすよー!」

    建物の陰や路地から次々と黒いセーラー服の生徒たちが現れ、ミメシスへ銃撃を浴びせる。
    応戦するミメシスだったが、銃を構えた瞬間どこからか狙撃を受け、その場に倒れる。

  • 9スレ主25/04/25(金) 20:22:24

    「イチカ先輩、後方支援部隊位置につきました。いつでも狙撃できます」

    駆けつけたのは正義実現委員会の生徒たちだった。
    そしてその後ろには大人の男性が一人。

    「イチカ、サポートはマシロに任せて、ここにいる人員を一部住民の避難に回そう」

    「了解っす、先生!」

    先生だ。
    かつてトリニティの、ひいてはキヴォトスの危機を何度も救ってきた大人。
    彼がいるならミメシスの対処も模倣セイアの捕獲も達成できる可能性は高い。
    セイアが声をかけようとしたその時。

    『やあ先生、こんなところで会うなんて必然だね』

    模倣セイアが先手を打っていた。

    「セイア!?どうしてここに!!それに必然って……」

    『説明は後にしよう。それよりも今、私の偽物に追われていてね』

    模倣セイアが後ろを向き、先生には見えないようほくそ笑む。
    入れ替わりを企むとは、なかなかに小賢しい戦法を取るものだ。

    「先生、偽物はそいつだ!捕まえるのに協力してほしい!」

    追いついたセイアが割り込む。

    「なるほどね……よし、本物のセイアなら"私の指揮"に従ってくれるよね?正義実現委員会の援護をお願いできるかな」

  • 10スレ主25/04/25(金) 20:37:06

    なるほど、とセイアは感心した。
    ミメシスのセイアはユスティナ聖徒会のミメシスたちと仲間である可能性がある。
    どちらが偽物かを今判断するのではなく、自身に協力させることでその脅威を一時的に封じておく判断をしたのだ。

    「もちろんだよ先生。すぐに終わらせよう」
    『私も従わない理由は無いね』

    二人のセイアは銃を抜き、事態の鎮圧へと向かった。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    「お疲れ様、みんな」

    「『ああ、無事に解決できたね』」

    「被せないでくれたまえ……」

    『被せたのはそっちの方だろう』

    数も多くはなかったため、ミメシスとの戦闘はすぐに終わった。
    倒れたまま消えずに残っているミメシスたちを捉えるべく、正義実現委員会の生徒が取り囲んでいた。

    「ハスミ先輩にも電話しないとっすね」

    そう言ってイチカはミメシスたちの方へ向かっていく。
    事態は収束したものの、先生の中には疑問が残っていた。

    (数も多くなく、場所もトリニティの自治区ど真ん中。なぜこんなところに、しかも人の多い昼の時間に発生した?戦うには分が悪すぎる)

    (ミメシスが自然発生する条件はある程度決まっていて、今ここでそれは整っていない。誰かの悪意が介在している可能性がある。ゲマトリアか、アリウスの残党か、それとも……)

  • 11スレ主25/04/25(金) 21:07:51

    ミメシスの方へ目を視線を移すと、そのうちの一体と目が合う。
    誰が彼女たちを動かしているのか、詳しく調べる必要がありそうだ。



    『今だ』

    信じられないことが起こった。
    こちらを見ていたミメシスが言葉を発したのだ。
    先生の中に、根拠が言語化されるよりも早く恐怖感と危機の予感が湧き上がった。
    このミメシスたちを放置してはいけない。絶対にだめだ。

    「イチカ、今喋っ……」

    一瞬だった。
    囲まれていたミメシスたちが消え、先生の周囲を取り囲むように出現した。

    イチカが先生の方へ視線を戻した時には、すでに多数の銃口が先生へ向けられていた。

    「先生!!!!」

    先生の側を離れ、一人にさせてしまった。
    目を見開いたイチカが叫ぶと同時に、ミメシスたちのマシンガンから無数の弾丸が放たれる。

    「ぐうっ……!」

    シッテムの箱のOS、アロナとプラナの尽力により先生の周囲には不可視のシールドが貼られている。
    しかし銃撃は止まない。
    アロナたちの消耗を少しでも抑えられるようシールドの面積を小さくするため、歯を食いしばり体勢を低くする先生。

  • 12スレ主25/04/25(金) 22:05:27

    「プ、ラ……逃げ…………」
    「せん……ぱ……」

    二人の限界も近い。
    しかしマシロたち後方支援部隊がすぐにミメシスへ狙撃を開始したため、徐々に弾丸の雨は止みつつある。

    「先生!!先輩!!」

    マシロも歯を食いしばり、必死に撃ち続けた。
    そしてミメシスたちが全員消滅すると同時に、先生を囲っていたシールドも消滅した。
    シッテムの箱は完全にシャットダウンしており、画面が消えている。

    「アロナ……プラナ……!」

    先生が再起動を試みていると、突如正面から青白い手が伸びてシッテムの箱を掴んできた。
    顔を上げると、眼前に一人のユスティナ信徒の顔が映る。

    彼女はまた何も無いところから出現し、こちらのシッテムの箱と胸ぐらを掴んでいる。

    「ぐうっ!」

    上着のポケットを弄られ、シッテムの箱と並ぶ先生の武器である大人のカードに手を這わせている。
    彼女の両腕を掴んで抵抗するが引き剥がせない。
    顔を見ると、勝利を確信したのか彼女はゴーグル越しに目を細めているのがわかった。

    (これが最良の選択だ!)

    プライベート用の端末にまで手を伸ばされそうになったその時。

    先生は彼女の頬を舌で舐めた。

  • 13スレ主25/04/25(金) 22:54:49

    『!?!?!?』

    彼女の顔が引きつり、動揺したのがマスク越しにも確かにわかった。
    そして力が緩んだその隙をイチカは見逃さなかった。

    「こん、のぉっ!!」

    思い切りユスティナ信徒の顔を蹴り飛ばし、先生と引き剥がす。

    「先生、大丈夫っすか!」
    「ありがとう、イチカ」

    ユスティナ信徒へ視線を戻すと、その手にはシッテムの箱と大人のカードがあった。
    彼女は恨めしそうにしながらもそれらを大事そうに抱え、まるでPCの電源を切った時のように一瞬で消えていった。
    失ってしまったものは大きいが、しかし得られたものもまた大きい。

    「間違いない」
    「? どうしたんすか?」

    首を傾げるイチカに先生が続ける。

    「ミメシスは通常、与えられた命令かコピー元の行動を機械的になぞるだけなんだ。でもさっきの奴らには意思があった。そういう個体なのか、はたまたリアルタイムで誰かが操縦しているのか」

    「それって……」

    「わからないことが多すぎる。大ピンチだよイチカ。すぐにティーパーティーと話をさせてくれ」

    そして先生はその代表者であるセイアたちの方へ視線を向ける。

    「幸い、メンバーに重要参考人がいることだし、ね」

  • 14スレ主25/04/25(金) 23:04:58
  • 15二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 23:13:37

    さすが先生だ、とっさに思い付くのが頬を舐めるだなんて()
    にしても中々だね

  • 16二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 23:38:09

    プロップハント味を感じる
    擬態と錯綜の展開が面白い

  • 17スレ主25/04/26(土) 07:51:14

    保守コーナー 〜狐の夢のかけら〜

    やあ先生、保守の時間だよ。
    時々こうして何かを呟かないと、この夢の世界は維持できない。

    けど、ただ『保守』と言うだけでは退屈させてしまうからね。
    せっかくだから、この先起こることのほんの一部を私と一緒に視ていかないかい?
    一人でいるのは心細いんだ。
    ほら、例えばこんな風に……

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    先生「おすわり!」
    セイア『わんっ!』

    先生「ちんちーん!」
    セイア『へっへっへっへっ♡』

    セイア『こんな芸を仕込むなんて♡全く、君は頭蓋骨の中に海綿体でも詰まっているのかい♡♡』

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    …………すごい所を引き当てたものだ。
    何があったのか、明確にする必要があるね。

    というわけで今回はここまでだよ。
    先生、次に保守が必要になる時また会おう。

  • 18二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 07:55:42

    本当に何があったんだよ恐らくにセイアちゃん……()

  • 19二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 08:55:35

    いきなりシッテムの箱と大人のカード奪われたんだけど…これ大丈夫?
    茶会3人組だけじゃなく他にも入れ替わってるのいそうな雰囲気

  • 20二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 17:07:20

    どれ程の混乱が生じるのか、見物ですね

  • 21スレ主25/04/26(土) 17:24:22

    ティーパーティー・テラス
    トリニティ総合学園の代表者たちが集い、会議を行う場としても使われる場所である。
    素人が見てもわかるほど上質な素材で作られた椅子に腰掛ける少女は、ティーカップを持ちながら呟く。

    「意思を持ったミメシス、ですか……」

    桐藤ナギサ、トリニティ総合学園の生徒会「ティーパーティー」のメンバーである。

    「私の業務用の端末が彼女らに奪われてしまってね。事件が起こったのはトリニティ自治区だから、相談するならここかなって」

    「事情はわかりました。ですが、まずは皆さんご無事で何よりです」

    ナギサは余裕を崩さず話を続ける。

    「話を聞くに、狙いは最初から先生であった可能性は高そうですが、戦場にトリニティを選んだ理由は気になりますね。何かご存じありませんか、ミメシスのセイアさん?」

    そう言うとナギサはセイアたちが座る方へ顔を向ける。
    しかし当のセイアたちはお互いに視線をぶつけ合っている。

    『ほら、大人しく答えたらどうだい』

    「何を言っている、偽物は君の方だろう」

    「はあ……先生、お願いします」

    ナギサは額に手を当て、ため息をつく。

    「任せて」

    先生はナギサから拘束用の手錠を受け取り、二人のセイアの前に立つ。

  • 22スレ主25/04/26(土) 18:24:04

    「じゃあセイア、この間教えたことは覚えているかな?」
    『ああ、もちろんさ』
    「…………」

    元気よく答えたのは模倣セイアだった。
    それに対して本物のセイアは黙っている。

    「じゃあそっちのセイア、いくよ?お手!」
    『わんっ!』

    模倣セイアは先生の差し出した手に自分の手を重ねる。

    「おすわり!」
    『わんっ!』

    「ちんちーん!」
    『へっへっへっへっ♡』

    模倣セイアは蹲踞の姿勢で両手を犬のように曲げ、舌を出して媚びるような視線を先生に送っている。

    『こんな芸を仕込むなんて♡全く、君は頭蓋骨の中に海綿体でも詰まっているのかい♡♡』

    「よーしよし、いい子だね〜♪」
    『くぅ〜ん♪』
    「はい逮捕」

    わしゃわしゃと模倣セイアの頭を撫でていた先生が突如真顔になり、ガチャンと手錠をかけた。

    「ナギサ、連行」
    「はい」

  • 23スレ主25/04/26(土) 19:14:05

    ナギサが目配せをすると、指示を受けた生徒が合図を出し、部屋の外に待機していた正義実現委員会の生徒たちがぞろぞろ入ってきた。
    彼女たちは模倣セイアの両腕を掴みその場に立たせる。

    『なっ、一体なぜ!?芸は完璧だったじゃないか!』
    「だからだよ。本物のセイアにそんなこと教え込むわけないでしょ」

    『ふっ、アドリブ力が裏目に出たようだね。君たちがそういう仲ではなかったとは……!』
    「当たり前だろう。人を何だと思っているんだ……」

    セイアも少し頬を赤くしながらも苦々しげな表情をする。
    自分の姿で恥ずかしい行為をされたことに相当なダメージを受けているようだ。

    「まあそもそもの話、肌の色からしてミメシスのセイアさんの方が明らかに薄いですし」

    『そんな……わかっていて泳がせたとでも言うのかい!?』
    「下手に暴れられたり逃げられたりしても困りますので」
    『……レズのサディストめ』

    模倣セイアが恨めしそうに呟く。
    そしてそれを聞き逃すナギサではなかった。

    「あ、もしもしサクラコさんですか?すぐにユスティナ式の拷問を始めたいので準備をお願いします」

    『ま、待ちたまえ!!事情を話す!全て話すから!』

    「ふふっ、セイアさんたら。冗談ですよ♪ですが話が早いのは助かりますね」

    『ふーっ、ふーっ!』

  • 24スレ主25/04/26(土) 19:38:40

    模倣セイアの当初の余裕はすっかり崩れ去り、冷や汗を浮かべながら乱れた呼吸を整えようとしていた。

    (いや、ナギサのあの顔は『本気』だった。それなりに長い付き合いだからわかる……)

    一方、セイアもセイアで親友の恐ろしい面を垣間見て、袖に隠れた掌をほんのりと汗で濡らした。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    模倣セイアが落ち着いたところで話を再開することにした。

    『事情を話す前に、私と志を共にする友人を二人呼びたい。いいかな?』

    「ええ、構いませんよ」

    模倣セイアはポケットからスマホを取り出し、メッセージを送り始める。
    すぐに返信は来たようで、ナギサへ向き直り内容を告げる。

    『あと二〇分ほどで着くそうだ。ところでもう一つ聞きたい。ミカはいないのかい?』

    模倣セイアは辺りをきょろきょろと見回す。
    この場にいるのは先生、ナギサ、セイア、模倣セイア、そして護衛役の正義実現委員会の生徒二人だ。

    「ええ、ミカさんには泊まりがけのボランティア合宿に出てもらっていますから。本日は戻りません」

    『そうか。彼女にも会ってみたかったが、仕方ない』

    そう言うと偽セイアはどこか寂しそうな顔をした。
    ナギサにはその顔が嘘ではないことはすぐにわかった。

  • 25二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 19:51:16

    愚かなにセイア……
    あと少し恥ずかしがるなセイア

  • 26スレ主25/04/26(土) 20:14:14

    (ミメシスのセイアさん、一体何を考えているのでしょう?ミメシスと言えば我々と敵対する存在という印象ですが、この方は本当に悪意を持っていないのでしょうか?)

    ひとまずこの場は先生とセイアに任せて、自身は紅茶の準備のために部屋を後にした。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    「「なっ、なななな…………」」

    程なくして模倣セイアの友人二人が到着した。
    セイアの人間関係を知る先生もナギサも、想定こそしていたものの実際にその姿を見て驚愕した。

    その少女はスカートの両端を軽く持ち上げ、片足を後ろに下げて優雅に挨拶をした。

    『ごきげんよう。桐藤ナギサと申します。微力ながらお役に立てるよう、尽力してまいります』

    反対にもう一人の少女は幼さと活発さのある表情で、手を振って挨拶をした。

    『聖園ミカ、ついに登場〜★って感じかな?あっ、私たちの仲だしアイスブレイクとかはいらないよね?』

    『彼女たちが私と共に行動する友人で、私たちも『ティーパーティー』という名で活動している。君たちからすると、にせティーパーティーと言うべきだろうね』

  • 27スレ主25/04/26(土) 21:05:30

    『まずはこちらのセイアさんがご迷惑をおかけし、大変申し訳ございませんでした』

    模倣ナギサが深々と頭を下げる。
    謝罪する時の言い方や動作、ほんのり感じさせる余裕さえもナギサそっくりだった。

    「い、いえ!どうぞおかけください。紅茶とケーキも用意していますので、よろしければお召し上がりください」

    『わーっ!本物のナギちゃんのケーキだぁ!いっただっきまーす!』
    『もう、ミカさんったらはしたないですよ?』

    異様な光景だった。
    同じ顔、同じ声、同じ話し方をした少女同士が向かい合って会話をしている。
    先生は考えていた。

    (彼女たちは何者なんだ?生徒と同じ姿形である以上、シャーレとしてサポートする対象に含まれるのだろうか……?)

    気がつくと模倣ミカがこちらを見ていることに気がつく。
    彼女は目をキラキラさせ、溢れんばかりの笑顔で先生を見つめていた。

    『じーっ』
    「……クリーム、ほっぺについてるよ?」
    『ええっ!?み、見ないで先生!恥ずかしいよぉ……!』

    会話した感じも本物そっくりだ。
    ただ、本物よりもどこか幼い印象を受ける。

    『では早速ですが、私たちの行動する目的を説明させていただきます』

    切り出した模倣ナギサを中心に、彼女たちの目的が語られた。

  • 28二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 21:09:04

    本当に模倣だな…

  • 29スレ主25/04/26(土) 21:52:32

    『目的と言っては大袈裟ですね。私たちはただ、三人で静かに暮らせればそれで良いのです』

    『私たちが生まれたのは少し前、トリニティ自治区の外れにある廃墟地帯で生まれました。世間ではエデン条約調印式の事件があった少し後と言えば伝わりやすいですね』

    『驚きました。気がついたらこの地に立っていて、ミカさん、セイアさんがいて、桐藤ナギサとしてのその時点までの記憶もある。そして何より、自分の意思で行動ができる』

    模倣ナギサは自分の胸に手を当てる。

    『原因としては、エデン条約の事件で発せられた沢山の人々の強い感情が、自然発生するミメシスの仕組みと混ざり合った結果だと推測しています。ですが正直なところ、私たちにとってそこはあまり重要ではありません』

    『何であれ、私たちはこの世界に生まれてきてしまったのですから』

    ナギサは正面の模倣ナギサの目つきから、羨望と僅かな嫉妬の感情が読み取れた。
    自分たちは優雅に暮らし、彼女たちは誰かの模倣の存在である上に廃墟暮らしなのだ。
    無理もない話である。

    『そしてそれから、私たちは慎ましくも穏やかに暮らしていました。しかし、事情があり現在そうはいかなくなってきています』

  • 30スレ主25/04/26(土) 22:44:30

    彼女は少し間を置き、意を決したように続ける。

    『何を隠そう、意思を持つミメシスは私たちだけではなかったのです』

    「ユスティナ聖徒会だね。やはり彼女たちも……」

    先生が会話に加わる。

    『なんか、本物の先生って知的でかっこいい……!』

    模倣ミカが目を輝かせ、片手にフォークを握ったまま固まっている。
    ペースを乱されそうになるが、先生はそのまま続ける。

    「彼女たちが今日午前、トリニティ自治区に現れこちらを攻撃してきた。トリニティを狙っていたのか、初めから今日トリニティに来る予定だった私が狙いだったのかは断定できていない」

    『彼女たちは先生のタブレットとクレジットカードを奪っていったからね。おそらくメインターゲットは先生だろう』

    模倣セイアが付け加える。

    (正直なところ、シッテムの箱と大人のカードが奪われたことは今の段階では黙っていたかったけど、やっぱり難しいかな)

    『なっ、先生が!?くっ、私たちの対応が遅れたばかりに……!』

    模倣ナギサが悔しそうに俯く。
    ここまでの内容からユスティナとティーパーティーが敵対していることはわかるが、これまでどの程度の争いを繰り広げきたのかはまだ明らかになっていない。

  • 31スレ主25/04/27(日) 06:11:02

    保守コーナー 〜狐の夢のかけら〜

    やあ先生、保守の時間だよ。
    今度は一体どんな展開になるのかな。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    正実モブ「ナギサ様、セイア様!お取り込み中失礼します!ブラックマーケットで暴れていた生徒を確保しましたので報告に参りました!」

    ナギサ「このタイミングで!?まさかユスティナのミメシスですか!?」

    正実モブ「いえ、身体的特徴から察するに、普通の生徒かと思われます!」

    ナギサ「わかりました。それで、その生徒の名前はわかりますか?」

    正実モブ「はい!その生徒はファウストと名乗っています!」

    先生「ぶーっ!!」

    ナギサ「せ、先生ッッッ!!大丈夫ですか!?」

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    どうやら先生にとって都合の悪いことが起こっているようだね。
    半端な言い訳をしてナギサを怒らせないよう気をつけたまえ。

    というわけで今回はここまでだよ。
    先生、次に保守が必要になる時また会おう。

  • 32二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 06:36:56

    ヒh…ゴホン、ファウスト様なにしてはるんですか!

  • 33二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 08:47:31

    ついに捕まったのかという気持ちと、ファウストが捕まるハズが無いという気持ちが存在する。
    どっちやろなぁ…本物か複製か
    ユスティナの目的も不明だし……ギャグチックだけど不穏だ

  • 34スレ主25/04/27(日) 15:50:02

    『彼女たちは廃墟での暮らしに満足できなかったのでしょう。ニュースにもなっている通り、時々人里に降りては物資を奪ったり、人を襲ったりしているようです』

    『今はまだ都市伝説程度の規模でしか行動していませんが、いずれはヴァルキューレや連邦生徒会などにも目をつけられるでしょう。ですが、そうなっては善良なミメシスまでもが生きる場所を失ってしまいます!』

    模倣ナギサの声に熱がこもる。
    自分達の暮らしの平和を守りたいという想いがあるのだろう。

    『ですから私たちは、事前にユスティナ側の情報を得て彼女たちを止めるべく戦っているのです。幸いこちらには腕の立つミカさんがいますから』

    模倣ナギサは横目でちらりと模倣ミカを見る。

    『ですが今回のように後手に回ってしまうのもまた事実。不甲斐ない限りです』

    ナギサは顎に手を当て考えていた。
    話を聞く限りはミメシスのティーパーティーに悪意は無さそうだが、協力できるかと言えば難しい。
    トリニティ自治区であればまだしも、ユスティナ側の行動範囲が他の学区にまで広がっている場合は政治的な問題にも発展するため手出しができない。

  • 35スレ主25/04/27(日) 17:08:37

    そんなナギサの様子を見て、模倣ナギサが微笑む。

    『そんなに悩まないでください。これは私たちの問題で、あなた方が頭を悩ませる話ではありません。今日だってセイアさんの『うっかり』が無ければ、ここへ来るつもりはありませんでしたから』

    『ですが、今日この出会いは私たちにとって大きな一歩になりました。こうして自分の元となった人に出会い、記憶の中でしか味わったことのない紅茶、ケーキまでいただけたのですから』

    『突き放すような言い方になってしまいますが、明日から私たちはまた他人同士。もうここへ来るつもりもありません。お互いに、自身のすべきことに力を尽くしましょう』

    「ナギサ……さん……」

    自分のことなのでぎこちない呼び方になってしまった。
    気がつけば、ナギサは彼女たちの力になりたいと考え始めていた。
    自分と同じ顔をした存在が健気に頑張っているのだ。
    親近感が湧くのも普通のことである。

    「ナギサさん、私たちにできることはありませんか?」
    「ナギサ……!」

    セイアも同様の考えだったのか、親友の提案に嬉しさを感じていた。

    『い、いけません!トリニティ自治区ならまだしも、他の学区でユスティナが出現した場合政治的な問題にも発展してしまいます!同じ頭脳を持つあなたであれば既に考え至っているとは思いますが……』

  • 36スレ主25/04/27(日) 19:38:23

    模倣ナギサの主張ももっともだった。
    しかしこのまま放っておくこともできない。
    ナギサが考えを巡らせていると……。

    『じゃあさじゃあさ!その代わりってことで、私今のトリニティを見て回りたい!思い出作りなら迷惑かからないでしょ?』

    「いいんじゃないか、ナギサ?」
    「ええ、ミカさんらしい素晴らしい提案です」
    『たまには良いこと言いますね』

    『たっ、たまにはぁ!?』

    模倣ナギサは模倣ミカの頭を優しく撫でていた。
    その光景に先生も思わず笑みが溢れる。

    「では早速出発しましょうか。トリニティ見学ツアーへ!」

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    こうして六人でトリニティの施設を見学し、各部活とも少し会話をしてテラスへ戻ってきた。

    『あんまり変わってなかったね★』
    『ミカさん!』

    「まあまあ、思い出の場所がそのまま残っているのは良いことではありませんか」
    「そもそも、エデン条約の後に生まれたのならそう長い期間は経っていないだろうしね」

    それぞれが思い思いの感想を述べている。
    そしてやはり先生としては生徒同士の会話に興味があったようだ。

  • 37スレ主25/04/27(日) 19:49:20

    「でも、シスターフッドに顔を出した時のサクラコの驚きっぷりは凄かったな〜」
    『記憶を見た時の印象と結構違いましたね、サクラコさん……』
    「まあ、無理もないと思うよ……」

    模倣ナギサの困惑する様子に同調する先生。
    すると、模倣セイアがさっきから黙ったままであることに気づく。

    「どうしたの、セイア?」

    黙っていた模倣セイアだったが、意を決したように、しかし寂しさも感じさせる表情で口を開く。

    『私……もう少しここに滞在することはできないだろうか?』

    『あら意外ですね。想定していませんでした。ですがセイアさん、先ほども申し上げた通り私たちは互いに干渉してはいけない……』

    「私は今日君たちと話して、もっと交流を続けたいと思ったよ。政治的な課題は一緒に考えていこう。滞在も許可しよう。着替えは私のと同じサイズだから用意は必要ない。君たちもどうかな?」

    模倣ナギサはしばし考え込んでいた。そして……。

    『……せっかくの申し出ですが私は遠慮しておきます。しなくてはならないことも沢山ありますので。ミカさんはどうしますか?』

    『私は……えっと、先生と一緒がいい、かな?』

    何かを期待するように上目遣いで先生を見る模倣ミカ。
    ナギサとセイアは、こんなところまで親友にそっくりなのかと笑いを堪えている。

    「ごめんね、女の子一人をシャーレに連れ込むことはできないかな」
    『ぶーっ!じゃあいい!ナギちゃんと帰る!』

  • 38スレ主25/04/27(日) 20:38:30

    先生の紳士的な対応にお姫様はご立腹だった。

    『ではセイアさん、くれぐれもご迷惑をおかけしないように。明後日の朝ごろお迎えに上がりますね』
    「良かったじゃないか、ナギサママのお許しが出て」
    『誰がママですか』

    セイアの茶化しに模倣ナギサが突っ込む。
    珍しい組み合わせだ。

    『頼んでおいて何だけど、随分すんなり許してくれたね』
    『私だって鬼ではありませんよ。ただし、悪いことをしたらすぐに勘付きますからね?』

    (私って圧をかける時こんな顔をしているんですか……!?)

    ナギサが内心ショックを受けていると、テラスに正義実現委員会の生徒が入ってきた。

    「ナギサ様、セイア様!お取り込み中失礼します!ブラックマーケットで暴れていた生徒を確保しましたので報告に参りました!」

    「このタイミングで!?まさかユスティナのミメシスですか!?」
    「いえ、身体的特徴から察するに、普通の生徒かと思われます!」
    「そ、そうですか……」

    ミメシスではないのは良いことだが、普通の生徒が捕まっているのもそれはそれで問題だ。
    ナギサは紅茶を口にして落ち着きを取り戻し、引き続き彼女から情報を聞く。

    「わかりました。それで、その生徒の名前はわかりますか?」
    「はい!その生徒はファウストと名乗っています!」

  • 39二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 20:43:20

    ここか、ファウスト

  • 40スレ主25/04/27(日) 21:36:40

    「ぶーっ!!」
    「せ、先生ッッッ!!大丈夫ですか!?」

    なぜか先生が紅茶を吹き出していた。
    おそらく知っている生徒が不良になってショックを受けているのだろう。
    と、セイアは考えているが実際には違う。

    ファウスト、その正体である阿慈谷ヒフミは以前からブラックマーケットに出入りしている常連である。
    それだけでも大問題なのだが、以前危険に巻き込まれた際にアビドス高等学校の生徒たちと協力関係を結んでいる。
    そこでファウストの名を得て、成り行きとはいえ犯罪行為にも手を染めている。

    (でもまだファウストの名が割れただけだ。上手く逃げてくれれば、もしくは名前を借りた他人の可能性だってある!そうであってくれ……!)

    「ファウスト……。その生徒の本名は分かりそうですか?」

    「はい!紙袋の覆面を取って顔を確認したところ、その正体がトリニティ生である阿慈谷ヒフミであることが分かりました!」

    「「ぶーっ!!」」
    「せ、先生ッッッ!!ナギサッッッ!!」

    セイアは大慌てで二人のこぼした紅茶を拭いている。
    そして、そこで一つの疑問が湧く。

    「そういえば先生、君はファウストの名前しかわかっていない時にも驚いていたね?もしかしてその正体を知った上で黙っていたのかい?」

    (お、終わった……)

  • 41スレ主25/04/27(日) 21:58:01

    セイアの発言にその場が凍りつく。
    セイアの直感の鋭さか、先生の失態か。
    どうやって切り抜けようか考えていると、別の正義実現委員会生が現れた。

    「阿慈谷ヒフミによると、『ナギサ様なら事情を理解しています!』とのことでした!お連れしてもよろしいでしょうか!?」

    「ごほっごほっ!!」
    「ナギサ、君も共犯者だったというのかい?」
    「す、するはずがないでしょうそんな事を!!ヒフミさんが!私だって!」

    悲しそうな顔をするセイアの指摘に、今度はナギサが窮地に立たされる。
    ナギサはファウストのことを知らないはず。
    濡れ衣を着せられたのではたまったものではない。
    ナギサに同情する先生だが、今はあまり構っていられない。

    (しかしなぜブラックマーケットで暴動なんて起こしたんだろうか。ペロログッズのため?)

    先生が必死に頭を振り絞っていると、件の容疑者がテラスへ現れた。

    『あーっ!ナギサ様!ナギサ様ーっ!』

    手錠で両手を繋がれ、その手には薄汚れたペロロのぬいぐるみを持っていた。
    肌は血色のいい薄橙色、ミメシスの青白さとは似ても似つかない。
    本物のヒフミの人生終了に王手がかかった瞬間である。

    「あ、あああ、ヒフミさん。本当に犯罪者になってしまったのですか……!?」

    ナギサがこんな顔をするのは、エデン条約の事件の際にハナコの策略で精神的にダメージを負った時以来だ。

    (終わった……)

  • 42スレ主25/04/27(日) 22:29:53

    先生も諦めかけていたところで、事態は思わぬ方向へ転がっていく。

    『会いたかったです、ナギサ様!ぎゅーっ♡』

    その『ヒフミ』が抱きついた相手はナギサではなく、模倣ナギサの方だった。

    (一体どういうことだ……?)

    そしてヒフミが不良に堕ちた上、自分と偽物を見間違えられたと判断したナギサは完全に思考停止してしまった。
    セイアはそんなナギサをつついて意識の有無を確かめている。

    (……いや待て!いくら見た目が似てるからって肌の色が違うんだ。本当に間違えるだろうか?そもそも、このヒフミはナギサが二人いる事実に一切驚いていない……!)

    先生は思考を立て直した。
    これならいけるかもしれない。
    次に話す内容を考えついたところで、視界の端に模倣セイアが映ったのだが……。

    『…………』

    彼女は、この世のものとは思えない、信じられないものを見たといった顔をしていた。

    (いくらなんでも驚きすぎじゃないか?いや、驚くというよりも恐れている、という顔か。でもそれを思考に組み込む時間はない!)

    「ええと、ミメシスのナギサ。もしかしてだけどその子って……」
    『ええ、お察しの通りです、先生』


    『この方は、ヒフミさんのミメシスです』

    新たに加わった模倣ヒフミの頭を撫でながら模倣ナギサは答えた。

  • 43スレ主25/04/28(月) 06:45:21

    保守コーナー 〜狐の夢のかけら〜

    やあ先生、保守の時間だよ。
    今度は一体どんな展開になるのかな。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ナギサ『実は我々は、ユスティナ聖徒会が次に出現する場所を既に掴んでいるのです。それは、こことここです』

    ナギサ「どちらも特に何も無い場所のように思えるのですが、トリニティ自治区に近いところにあるのが気になりますね」

    ナギサ『はい、奴らはここに補給地点を設けてそこから兵を送り、トリニティを侵攻する計画を立てているようです』

    ナギサ『そして、その計画の実行日は明後日』

    ナギサ「なっ!?」


    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    驚くのも無理はない。
    自分と瓜二つの存在が現れたと思ったら、もう間もなく敵意を持った集団が攻めてくるだなんて聞かされたのだから。

    というわけで今回はここまでだよ。
    先生、次に保守が必要になる時また会おう。

  • 44二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 09:44:50

    不穏感が一気に膨れ上がった
    ・現トリニティ生のミメシスです
    ・自由意思を持っています
    ・その別グループが他のトリニティ生を襲ってます
    ・シャーレの先生を襲ってシッテムの箱と大人のカードを奪いました
    ・本物と見分けがつかないレベルのミメシスが現れました←New!
    ・ミメシス同士は本物か同類か見分けがつきます←New!

    うーん、もう放置できない、することができない
    成り替わりの危険が現実味を帯びてきた以上、学校を預かる生徒会長としては厳しい対応をせざるを得ない。在校生を守るために
    たとえ個人としては調和したいと思っても
    今のところ、にせ茶会は協調路線だけど模倣ヒフミの登場でどうなるか……タイトルに逆襲ってついてるし





    ただ、確実に言えるのは本物のヒフミのトリニティライフがヤバいということだ

  • 45スレ主25/04/28(月) 17:41:24

    『事態がややこしくなってしまうので黙っていましたが、我々にはもう一人同胞がいました。それがヒフミさんです』

    『驚きますよね。私たちとは違って、普通の生徒と何一つ違わない見た目なのですから』

    それを聞いていたナギサはハッと目を覚ました。

    「ミメシスのヒフミさんでしたか!!でしたら本物のヒフミさんは無罪というわけですね!!」

    語り出したナギサは止まらない。

    「先生はファウストの調査をしていく中でその正体をヒフミさんだと知り、しかし本物のヒフミさんとも交流がある先生は、ヒフミさんが犯罪行為に手を染めるなどあるはずがないとすでに理解していたのです!」

    「そんな状況だからこそ、私たちを混乱させないようにファウストの正体について誰にも話さずお一人で抱え込んでおられたのですね!!」

    ナギサは目に涙を浮かべながら尊敬の視線を先生に向けている。

    「……ああ、流石だよナギサ。理解が早くて助かる」

    ナギサが勘違いしてくれたおかげで「ファウスト=本物のヒフミ」という線は完全に消え、先生の悩みの種が一つ消えた。
    しかし、ナギサの思い込みの激しい性格は何とかしなくてはならないなと再認識したことで先生の悩みの種は一つ増えた。
    結果、プラスマイナスゼロである。

  • 46スレ主25/04/28(月) 18:25:31

    『ところでヒフミさん、一体なぜ暴動など起こしたのですか?』
    『はい!このペロロ様を手に入れるためです!』

    模倣ヒフミは自信満々に手に持っていたぬいぐるみを差し出した。

    『全く、いけませんよヒフミさん。いくら無法地帯とはいえ他人から物を奪い取るなんて。本物のヒフミさんのご迷惑にもなってしまいます』

    『あははっ♪すみません混乱させてしまったみたいで!ってああっ!ケーキ!美味しそう……!ってあれっ、セイア様食べていませんね?食べないのであれば私がいただいてもいいですか?』

    『あ、ああ。好きにするといい……』
    『わーいっ!ありがとうございます!』

    「大丈夫ですよ。セイアさんの分もヒフミさんの分もありますから。今、紅茶をお淹れしますね?」

    『いや、私はいいよ。このケーキはヒフミが食べるといい』
    『あっ、じゃあふたつ食べたいです!』
    『ヒフミさん、はしたないですよ?』
    『えへへっ♪』

    (何だ、この違和感は……?)

    本来微笑ましく感じるはずの目の前の光景が、先生には酷く歪に見えた。
    ミメシスとはその語源の通り複製であるはずで、元になった生徒にある程度性格が似るのが普通というものだ。
    それなのにヒフミのミメシスは行動があまりにヒフミらしくない。

  • 47スレ主25/04/28(月) 19:25:40

    本物の彼女は無闇に暴れたりしないし、まして私利私欲のために他人から物を奪い取るような事をする子ではないと断言できる。
    ミメシスになっただけでこうも変わるだろうか?

    そして、その模倣ヒフミと当然のように仲良くしている模倣ナギサに対する疑念も湧いてくる。
    彼女たちは本当に信用してもいいのか?

    肌の色が普通の生徒と同じなのも気になる。
    それに何より、彼女が現れてか模倣セイアの様子がおかしい。
    明らかに口数が減った。

    一体何が起きているのか、先生は一度深く椅子に腰掛け直す。
    その時、紅茶を淹れに席を立ったナギサと一瞬目が合った。
    推測だが、彼女も何かを感じ取っている。

    見逃してはいけない情報が多すぎる。
    慎重に行動しなくては。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    『では、本題に戻りましょうか』

    模倣ヒフミの頭を撫でていた模倣ナギサが正面に向き直る。
    先ほどまで見せていた慈愛の表情が、仕事をする時の真剣なものに変わる。

    『先ほど戦闘行為における援助をお願いすることは無いと申し上げましたが、その上でこれだけは共有させてください』

    そう言うと模倣ナギサは鞄から地図を取り出し、テーブルへ広げた。
    ところどころ見える欠けや汚れが、彼女たちの過酷な状況を想像させる。

  • 48スレ主25/04/28(月) 20:05:09

    『実は我々は、ユスティナ聖徒会が次に出現する場所を既に掴んでいるのです。それは、こことここです』

    模倣ナギサは付箋を地図の二箇所に貼り付ける。
    一つは坂道が険しい山岳地帯、もう一つは海岸から数km離れた小島だった。

    「どちらも特に何も無い場所のように思えるのですが、トリニティ自治区に近いところにあるのが気になりますね」

    『はい、奴らはここに補給地点を設けてそこから兵を送り、トリニティを侵攻する計画を立てているようです』

    『そして、その計画の実行日は明後日』

    「なっ!?」

    ナギサは驚いた顔をした。
    まさか既にトリニティが狙われていたとは。

    「ずいぶん詳しく掴めているね。どうやってその情報を?」

    セイアの疑問に先生は同意するように頷く。
    ユスティナと偽ティーパーティーが裏で繋がっている可能性だってある。
    彼女たちの身の上話を聞いて協力したいと思ったのも事実だが、模倣ヒフミの存在がその判断に警告を告げているのもまた事実だった。

    『そこはしっかりと説明しなくてはいけませんね。結論から言うと、私たちには協力者がいます』

    模倣ナギサの答えにセイアの耳がピクリと反応する。
    ここでわざわざ宣言すると言うことは、やましいことは無いのだろうが。

  • 49スレ主25/04/28(月) 20:34:59

    『ユスティナ側も一枚岩ではないのでしょうね。数は多くありませんが、好き放題暴れ回るやり方を良く思わない一部の方々がこちら側に力を貸してくださっています』

    「私からもいいかな?ちなみに、その協力者と直接話をすることはできる?カードやタブレットを奪われた件で何か知っていることがないか聞きたいからね」

    『申し訳ありません。スパイであることが発覚しないよう、私たち以外の方とは関係を持たないようにしていますので。連絡は基本的に私たちを通していただく形になります。先ほどの件は、私から尋ねておきますね』

    (やはり直接話をすることはできないか……)

    躱されてしまった。
    模倣ナギサの答えは聞いていて非常に「それっぽい」もので、仮に嘘が混じっていたとしても判別が難しい。

    「ナギサ、どうする?」

    セイアの問いに対し、ナギサは考える仕草をする。

    (実際に今日トリニティ自治区でミメシスが暴れた事実がある以上、トリニティが狙われているという情報を嘘と断じることはできませんね。ひとまず共闘の線で進めましょう)

    そして彼女は答えを出した。

    「まずは敵の進路を予測します。幸い道が限られる地形のため、ある程度正確に絞り込めるはずです。そして、その進路上に正義実現委員会とシスターフッドを派遣しましょう」

    その言葉を聞いた模倣ナギサはほっと胸を撫で下ろした。

  • 50スレ主25/04/28(月) 21:19:34

    『頼ることはできないとは言いましたが、実際のところ戦力に対してとても大きな不安がありました。学園の戦力が加わるのはとても心強いです。形は違えど、ここはお互いにとって大切な場所。共にトリニティを守りましょう!』

    模倣ナギサの差し出した手をナギサが取り、握手を交わす。

    『では、そろそろ私たちはお暇します。セイアさん、何かあったら私かミカさんへ連絡してくださいね』
    『ああ、わかったよ』

    『ええっ!?セイア様もしかしてトリニティにお泊まりするんですか!?羨ましいです!私もご一緒したいです!』

    会話を聞いていた模倣ヒフミが自分も泊まりたいと言い始めた。
    セイアは内心困っていた。

    (参ったな。ナギサたちならまだしも、ヒフミはまだあまり信用できそうにもない。とはいえここで断っては角が立ってしまう。どうするか……)

    そしてセイア同様ナギサも答えに迷っていた。
    そして……。

    「ええ、構いませんよ。私の部屋でしたら着替えもありますし、ベッドも二人は余裕で寝られます」

    『良いのですか?こんな怪しい私たちの話を聞いていただいたばかりか、二人を泊めていただけるだなんて。あなたたちもお忙しいでしょうに』

    申し訳なさそうに尋ねる模倣ナギサに対し、ナギサは揺るぎのない目つきで答える。

    「ご存じとは思いますが、以前の私は少しでも疑わしい人間がいればすぐにでも学園から排除しようとする、そんな人間でした」

    「正直なところ現時点ではわからないことも多く、戸惑いがあるのも事実です。ですが過ちは繰り返してはいけません。そうでなければ、またエデン条約の時のような事件が起こり、歴史が繰り返されるだけです」

  • 51スレ主25/04/28(月) 21:49:11

    「ですから今度は触れ合えないところに閉じ込めるのではなく、お互いのことを知っていくために交流を続けていくべきだと考えています」

    「『もう関わることは無い』などと寂しいことは仰らず、あなたたちのことを、もっと教えてください。今日の『お泊まり会』はその第一歩ということで」

    ナギサの言葉に、成長に、先生は暖かな喜びを感じていた。

    (立派になったね、ナギサ。どうやら頭が固いのは私の方だったかな)

    そしてナギサの言葉を聞いた模倣ヒフミは舞い上がり、ナギサにハグをした。

    『やったあ♪ありがとうございます、ナギサ様!』
    「うふ、うふふふふふふ……!いいんですよヒフミさん」

    さっきまでの立派なナギサ様はどこへやら。
    彼女の邪悪な笑顔を見た先生とセイアは真剣な眼差しでナギサに問いかける。

    「念のため言わせてもらうけどね、ナギサ。そっちのヒフミは私たちのよく知るヒフミの代用にはならないからね?」
    「ナギサ、来客だということを忘れてはいけないよ?」

    「なっ!二人とも私のことを何だと思っているのですか!?熱々の紅茶ぶち込みますよ!?」

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    その後、連絡のためナギサは模倣ナギサと連絡先の交換をした。
    用も済んだので解散することとなり、各々帰る準備を始める。
    先生もシャーレに戻るべく上着を着ていたところ、背後から視線を感じた。

    『じーっ』

    模倣ミカが後ろ手に何かを隠し、上目遣いで先生を見つめている。

  • 52スレ主25/04/28(月) 22:14:48

    「どうしたの、ミカ?」
    『えっと、私先生のことをもっと知りたいなーって思って。だからこれ、書いて?』

    そう言って模倣ミカは一枚の紙を渡してきた。
    アンケートだろうか?

    ただでさえ機密情報を扱うことが多い仕事の上に、まだ彼女たちのことをきちんと知れているわけではない。
    開示する情報の内容には気をつけなくては。
    少し警戒しながらその紙を受け取り、中身を見る。
    そこに書かれていたのは……。



    マイプロフィール
    あなたの名前は?
    どんな性格?
    好きな人は?(いる・いない)
    好きな人のイニシャルは?
    理想のデートは?

    好きなものコーナー
    キャラ、食べ物、お店、色、場所 etc

    心理テスト!
    あなたが廊下を歩いていたら曲がり角から誰かが飛び出してきたよ!それは誰?



    シャーレの機密情報になどこれっぽっちも触れていない、小学生の頃に女子の間で流行っていたようなプロフィールカードだった。

  • 53スレ主25/04/28(月) 22:41:11

    「うわなっっっつかしいなコレ!!え、今もあるんだ!?えーっ!?おお、やっぱり恋愛系の質問ばっかり……!ありがとうミカ!」

    プロフィールカードの質問内容を見て子どもの頃を思い出しているのか、先生は大はしゃぎである。
    そんな先生を見て満面の笑みを浮かべている模倣ミカをよそに、他の生徒はやや引きつった顔をしていた。

    「何だかその、年甲斐もなくはしゃいでいる大人を見ると、どうにもいたたまれない気持ちになりますね」
    「ナギサ、少々辛辣すぎやしないかい……?」

    「うるさいなあ!配る側だった君たちにはわからないだろうさ!横目でチラチラ見ることしかできなかった者の気持ちなんて!くぅ〜青春の物語(Blue Archive)が沁み渡る〜!」

    「ダメだナギサ、私ももう見ていられない……」

    先生の悲痛な叫びにセイアすら目を逸らす。
    先生にだって子ども時代はあったし、人並みに傷ついたりするのだと、彼女たちは改めて認識するのだった。

  • 54二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:42:31

    >>「正直なところ現時点ではわからないことも多く、戸惑いがあるのも事実です。ですが過ちは繰り返してはいけません。そうでなければ、またエデン条約の時のような事件が起こり、歴史が繰り返されるだけです」

    >>「ですから今度は触れ合えないところに閉じ込めるのではなく、お互いのことを知っていくために交流を続けていくべきだと考えています」


    その心構えはいいんだよ。いいんだけど………状況がね

    模倣ミカもこのタイミングでアンケート出してくるし……コレ元にして先生の複製作るとか、いくらでも邪推できちゃう…

    模倣ヒフミもなんなんだ…性格の一部分だけ濃く反映されたのか…?

  • 55二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 07:39:46

    これから物語はどう動くのか
    見物ですね

  • 56スレ主25/04/29(火) 07:42:09

    保守コーナー 〜狐の夢のかけら〜

    やあ先生、保守の時間だよ。
    今度は一体どんな展開になるのかな。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ……ん?ああ、そうか。
    奴め……。
    いや、たまにあるんだよ。もやがかかったように何も映らなくなることが。
    すまないが今回は何も見せてあげられないらしい。

    というわけで今回はここまでだよ。
    先生、次に保守が必要になる時また会おう。

  • 57二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 11:17:20

    これは……どっちだ…!?

  • 58スレ主25/04/29(火) 17:14:49

    それから模倣ナギサと模倣ミカ、そして先生はそれぞれ帰路につき、トリニティには模倣セイアと模倣ヒフミが残った。

    「ひとまず私の部屋に案内するよ。そっちのヒフミはナギサについて行くんだよ」
    『ああ、わかった』
    『はい!よろしくお願いします、ナギサ様!』

    こうしてしばらく歩いたセイアたち二人は部屋に到着した。
    ティーパーティーのホストだけあって部屋は広く、ベッドも大きいため二人で寝ても狭く感じることはない。

    「広いだろう?一人で使うには少々持て余し気味でね。文字通り自分の部屋のようにくつろいでくれ」
    『ありがとう。君の記憶で見たからね、物の場所は把握しているよ』

    模倣セイアはゆったりとソファに腰掛ける。

    「それでだね、明日のことなんだが……」

    セイアが何か言いかけたところで突然部屋のドアが開かれた。

    『セイア様セイア様〜!匿ってください!!』

    現れたのは模倣ヒフミだった。
    ひどく焦燥していた彼女は、部屋に入るなり模倣セイアに抱きついた。

    「落ち着きたまえよ。一体何があったんだい?」

    セイアは模倣ヒフミに声をかけた。
    ナギサとの間に何があったのだろうか。

  • 59スレ主25/04/29(火) 18:10:00

    『えっと、ナギサ様からいろいろ質問されてそれに答えていたんです。普段の生活のこととか、趣味のこととか』
    「うんうん」
    『でもだんだん内容がすごく踏み込んだものになってきて……』
    「うん?」

    『どこのシャンプーを使っているのかとか、柔軟剤の種類とかも聞かれて、しまいには「あなた方のことを知るために、一緒にお風呂に入りましょう」と……』
    「『あの馬鹿……』」

    セイアたちは揃って頭を抱えた。
    疑問が湧くのは当然だが、聞き方というものがあるだろう。
    ヒフミは過去ナギサに疑われ、あまつさえ退学寸前まで追い込まれ、やっと関係性が改善できてきているところなのだ。
    模倣ヒフミにも当然その記憶はあるはずだ。

    それなのにどうしてナギサはそれをぶち壊すかのように、盛りのついた獣のように踏み込んでしまうのか。
    彼女には距離感の掴み方というものを一度しっかり学んでもらわねばならない。

    セイアは怪しみながらも模倣ヒフミに同情していると、時計を見ていた模倣セイアが提案をしてきた。

    『それならば風呂には私たちで連れて行こう。これなら問題ないはずさ』
    「ああ、構わないが……」

    模倣セイアには何か考えがあるようだった。
    セイアは人数分のタオルを用意し、寮の大浴場へと向かった。

  • 60スレ主25/04/29(火) 19:48:19

    脱衣所から浴場への扉を開けると、少女たちの話し声や笑い声が聞こえてきた。
    知り合いがいるのかまではわからなかったが、ひとまず体を洗うことにした。

    『わーい♪』
    「こら、ダメだよヒフミ。まずは体を洗うのが先さ」

    湯船に飛び込もうとする模倣ヒフミの手を引いて、模倣セイアと共に洗い場に連れて行く。
    するとそこには意外な人物がいた。

    「あら?セイアちゃんではありませんか。それにヒフミちゃんも。つい先ほどまで私たちと一緒でしたのに。そしてセイアちゃんがもう一人……どういうことでしょう?」

    補習授業部所属の二年生にして百合園セイアの友人、浦和ハナコである。

    『やあハナコ、こうして会うのは初めてだね。私とこっちのヒフミはミメシスなのさ。よろしくね』

    模倣セイアはさして慌てることもなく自己紹介をする。

    「なるほど、生徒のミメシスの存在について噂話くらいは聞いたことがありましたが、まさか本当にいらっしゃったとは……。こちらこそよろしくお願いしますね、セイアちゃん、ヒフミちゃん」

    ハナコも同様だっだ。
    彼女たちにとってこの程度の事態は想定の範疇らしい。

    『そこでだハナコ、ヒフミがいるということは補習授業部が揃っているのだろう?よかったらこっちのヒフミを紹介してあげてほしい』

    『えっ?』

  • 61スレ主25/04/29(火) 19:50:28

    「はあい♡ではそちらのヒフミちゃんをお借りしますね。さあさあどうぞこちらへ、他の三人にも紹介させてください♡」
    『えっ、ちょっ、ハナコちゃん!?一回離して……って力強いですね!?』

    模倣ヒフミはハナコに連行されていった。
    前門のナギサ、後門のハナコ。
    セイアは思わず模倣ヒフミに同情した。

    『さあ、これで姉妹水入らずだ。背中でも流すよ、姉さん』
    「誰が姉さんだ。まあ、君と二人で話したかったのは事実だね」

    こうして二人は洗い場の椅子に腰を下ろした。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    「みなさ〜ん、ヒフミちゃんがもう一人増えましたよ?ではもう一人のヒフミちゃん、自己紹介をお願いします」
    『え、えっと、阿慈谷ヒフミです……』

    「おお、ヒフミそのものだ」
    「ダメですよタオルで隠しちゃ。きちんと広げて、みんなに見えるようにしてご挨拶するのがトリニティのルールです!」
    『えっ!?』
    「ハ、ハナコちゃん!?」
    「何教えてんのよバカ!」

    ハナコたちの楽しそうな声が聞こえてくる。

    『よかったよ、馴染めそうで』
    「いや、怪物に捕食されているようにしか見えないが……」

    まあ、ハナコたちなら上手くやるだろう。
    セイアはそれ以上追及せず、模倣セイアの背中を流している。

  • 62スレ主25/04/29(火) 19:57:42

    『ありがとう姉さん。私はそろそろ上がるよ』

    模倣セイアは立ち上がると、少し急いだ様子で脱衣所に戻ろうとする。
    丁度次の予定の話をしようとしていたセイアはそんな彼女を引き止める。

    「ああ、待ちたまえ。明日だが、君は何か予定はあるのかい?」
    『………いや、特にはないよ。何か用かい?』

    模倣セイアはセイアに背を向けたまま答える。

    「実は明日友人と遊ぶ予定でね、先生も来るんだ。君もどうだい?」
    『……いいのかい?明後日には戦いが始まるんだろう?』
    「ああ、だから遊ぶのは夕方前まで。忙しいのは承知の上で、ナギサが君を連れ出してやって欲しいと言っていたからね」

    模倣セイアはそのまま黙ってしまった。
    都合が悪かったか、初対面の集団に放り込むのは急すぎたか、セイアは少し心配そうに模倣セイアを見ていた。

    すると突然、模倣セイアは桶いっぱいにお湯を溜め、それを勢いよく頭から被った。

    「な、何をしているんだい?やはり急な誘いだったか……」
    『喜んで誘いを受けるよ。ありがとう、姉さん』

    ずぶ濡れの模倣セイアは振り返り、そう答えた。
    先ほどの行動は昂る気持ちを抑えるためのものだったのだろうか?
    ともあれ、そんな彼女を少し可愛らしいと思ってしまうセイアであった。

  • 63スレ主25/04/29(火) 20:25:13

    『う、ううう……』
    「こんなのあんまりです……」

    脱衣所に戻ったセイアたちが見た光景は、とてもただの風呂上がりとは思えないものだった。
    ヒフミは顔を真っ赤に染め、模倣ヒフミは力無く項垂れていたのだから。

    「ミメシスの調査のためにヒフミちゃんたちの体を隅から隅まで『観察』してみたのですが、本当にそっくりそのままでしたね」
    「九割方あんたの趣味にしか見えなかったわよ!?」

    どうやらハナコがミメシスの真相解明のために一肌脱いでくれたようだった。
    その調査方法に問題があったのか、コハル裁判長はお怒りのようだが。

    「私もお見せしましたので、そこは『おあいこ』とさせてほしいですね♡」
    「そ、そうか。協力感謝するよ」

    「それでですね、セイアちゃん。ヒフミちゃんのことですが、今日は補習授業部でお泊まり会を開催して、こちらで預かろうと思うのですがいかがでしょう?」
    「お泊まり会?ああ、構わないさ。ナギサには私から伝えておくとしよう」

    ハナコは頷き、そのままセイアの耳元へ顔を近づけ周囲に聞こえないよう囁く。

    「それと、私がそう感じたというだけですが、そちらのセイアちゃんはどうやらヒフミちゃんと少し離れたがっているように見えましたので」
    「ああ、君も感じていたか。頼むよ、またモモトークで連絡を取り合おう」

    視線を動かさずセイアは答える。
    セイアとしてもミメシス二人を同時に相手するのは手に余ると感じていたので、ハナコの申し出はありがたかった。

  • 64スレ主25/04/29(火) 21:07:15

    その後セイアたち二人は自室に戻り、就寝の準備を済ませた。

    「明日も早いし、もう消灯しようと思うのだが問題ないかい?」
    『あ、ああ、大丈夫だよ』

    心なしか模倣セイアは緊張している様子だった。

    「……とてもそうは見えないね。明かりを消すのはホットミルクでも飲んでからにしようか」

    セイアは手際良く牛乳を温め、マグカップに注いで模倣セイアに手渡す。

    「ふーっ、ふーっ。寝る前にミルクを飲むと胃もたれの原因になるとは聞いたことがあるが、私はそうなったことがないからわからないね。先生ならわかるのかな?」

    『私は……少しだけわかる気がする。朝起きた時体が重いというか、食欲が無いこともある、あの感じ』

    「それは……」

    ストレスが原因のようにも聞こえる。
    彼女たちはどれだけ過酷な環境で生きているのだろうか。
    とはいえ、叶うのならここにいる間はそれを忘れて過ごして欲しいところだ。

  • 65二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 21:27:02

    ミメシスセイアも幸せになれ

  • 66スレ主25/04/29(火) 21:52:02

    「大丈夫さ。これからは私たちから支援ができるよう、ナギサやみんなにも働きかけてみるよ。一番心配すべきは、このホットミルクのせいで体重が増えてしまわないかさ」

    セイアは安心させるように、優しく微笑みかける。

    「乙女の悩みはかくあるべきだろう?」
    『そうだな、その通りだ。でも私は……』

    模倣セイアの目にはまだ少し心配の色が見えた。
    人の悩みはそんな簡単には消えない。
    どうしたものかと考えているセイアだったが……。



    『正直私は、ホットミルクよりも炭酸水のほうが好きかな』
    「こいつ……!」

    額に青筋を浮かべながら、セイアは憎たらしい自分の分身をベッドに押し込んだ。
    そして模倣セイアはさらっとミルクを飲み干していた。
    しかし悲しいかな、この性格のベースになっているのは自分自身だ。

    「じゃあ明かりを消すよ!おやすみ!」
    『ふふっ、おやすみ姉さん』

    セイアは部屋が真っ暗にならないよう常夜灯のスイッチを入れてからベッドに潜り込んだ。

    『ありがとう、姉さん』
    「ああ」

    模倣セイアの声色は先ほどと比べたら落ち着いている様子だった。
    自分は姉ではないが、今だけは訂正しないでおこうと思うセイアだった。

  • 67スレ主25/04/29(火) 22:22:56

    深夜、セイアはほんの一瞬目を覚ましていた。
    とはいっても意識は朦朧としていて、再び眠りに落ちるのも時間の問題だというのはわかっていたのでさほど気にしなかった。

    しかし、隣の模倣セイアの様子が少しおかしい。
    呼吸は浅く、汗をかいている。
    悪夢にでもうなされているのだろうか。

    『お願いだ……まだ、やり直せる……』

    蕩ける意識の中で、セイアは模倣セイアを後ろから優しく抱きしめる。
    それが功を奏したのか、模倣セイアの呼吸が落ち着いた。

    『それでも愛してる』

    優しい声色だった。
    その言葉を最後に、二人のセイアは再び眠りに落ちた。

  • 68二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 22:25:13

    セイア×ミメシスセイア……?(cp厨脳)

  • 69二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 23:35:30

    まだやり直せる…?何を意味する?

  • 70スレ主25/04/30(水) 07:24:51

    保守コーナー 〜狐の夢のかけら〜

    やあ先生、保守の時間だよ。
    今度は一体どんな展開になるのかな。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ナツ「どうだい先生、女子を侍らせて楽しむカラオケの気分は?」

    カズサ「ちょ、ナツ!!なんかあんた近くない!?」

    セイア『おや、この間私に犬の芸を仕込んだじゃないか。そういう趣味があるのは間違いではないだろう?』

    アイリ「せ、先生そんなことしてたんですか……?」

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ……すごい汗だね、先生。ハンカチ貸そうか?
    まあ年頃の乙女の戯言など本気にしないとは思っているよ。

    というわけで今回はここまでだよ。
    先生、次に保守が必要になる時また会おう。

  • 71二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 09:58:31

    誤解です!!

  • 72二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 16:44:05

    守りましょう

  • 73スレ主25/04/30(水) 17:49:04

    「ふああ、おはよう。もう起きていたんだね」

    翌朝、セイアが目を覚ますとすでに模倣セイアはベッドにおらず、ソファに腰掛けて窓の外を眺めていた。

    『やあ、おはよう姉さん。いい朝だね』
    「そうだね、格好のお出かけ日和だ。ところで昨日、何か怖い夢でも見ていたのかい?うなされているようだったけど」

    『えっ!?ど、どうだろう……覚えていないね。ちなみに、寝言とかは言っていたかい?』
    「ええと確か、『まだやり直せる』とか、『それでも愛してる』とかかな」
    『は、恥ずかしい……』

    模倣セイアは手で顔を覆って俯いている。
    もともとセイアには夢を通して未来を見通す力があったがすでに失われており、ミメシスの生まれた時期的にも模倣セイアもその能力は持っていないはずだ。

    なので悪夢を見たといってもそれが実現することは無いだろうが、セイアは少し心配だった。

    「いや、すまない。踏み込みすぎたね。何も無いならそれでいいんだ」
    『ああ、大丈夫だよ……』
    「ところでなんだが……」



    「君にはいるのかい?その、愛を誓いあったパートナー……つまり、恋人とか……」
    『言った側から踏み込むね君は!いるわけないだろうこの性格で!』

    自虐と反撃を同時に行う模倣セイアに思わず感心してしまった。
    さすがにこれ以上踏み込むのはよそう。
    セイアは二人分の朝食を用意し、友人たちとの待ち合わせに向けて準備を進めた。

  • 74二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 18:03:49

    まじで家族みたいだな

  • 75スレ主25/04/30(水) 18:55:32

    準備を整えた二人はトリニティを出て、待ち合わせ場所であるD.U.中央広場まで向かっていた。

    寮の出口で模倣ヒフミと出会って、自分もついて行くと模倣セイアにしがみついた時にはさすがのセイアも少し焦った。
    しかし幸い、その場にいたハナコが引き離してくれたので事なきを得た。
    どうやら補習授業部も遊ぶ予定があるらしく、模倣ヒフミをその輪に加えてくれた。

    こうしてセイアたちは待ち合わせ場所への歩を進めた。

    「そういえば、噂話で私と同じ姿をした生徒がアルバイトをしていたというのを聞いたことがあるんだが、あれは君かい?」

    『……ああ、見られていたか。君に迷惑がかからないようトリニティ自治区からできるだけ離れたところを選んだつもりだったのだけどね』

    少しばつが悪そうな顔をして模倣セイアは語り始める。

    『私たちは食べなくても生きていけるが、嗜好品を買うにも何をするにも資金は必要だ。そのために働いていたのさ』

    『ケーキ屋やカフェをアルバイト先に選んだのは、賄いで甘いものが食べられるからね』
    「そういうことか……」

    噂話を聞いた直後は自分の顔でいったい何をしてくれているんだとも思ったが、理由を聞いて責めるという考えは消え去った。
    何ならミメシスの方が自分よりも逞しく生きているのかもしれない。

  • 76スレ主25/04/30(水) 19:56:53

    そうこうしているうちに待ち合わせ場所に到着した。
    すでにセイアたち以外のメンバーは揃っており、先生の姿もあった。

    『先生はわかるが他の生徒に見覚えはないな……』
    「後で紹介するよ。おーい先生、ナツ、みんな!」

    セイアが声をかけると一人の少女が振り返った。

    「おや、二人のセイアが来たようだね」

    放課後スイーツ部所属、柚鳥ナツである。

    「あっ、セイア様!こんにちは!」
    「ほ、本当に二人になってる……」
    「一人はセイアさんでしょ?で、もう一人の方を何て呼ぶかだよね」

    アイリ、カズサ、ヨシミも気づいたようだった。

    「紹介するよ。彼女たちが放課後スイーツ部にして私の友人、アイリ、カズサ、ナツ、ヨシミだ」
    『初めまして、でいいのかな?百合園セイアのミメ……分身のようなものさ。よろしくね』
    「まあ、私の妹みたいなものだと思ってくれればいい」

    模倣セイアは驚いていた。
    まさかセイアの方から妹扱いを認めるとは。

    「『……』」

    そしてその直後、ふいに模倣セイアとナツの目が合う。
    しばしの間、互いに無言で見つめ合う時間が続いた。

  • 77スレ主25/04/30(水) 20:32:11

    「ナ、ナツ?セイア?二人ともどうしたの?」
    「いえ、あれは多分……」

    いきなり連れてきて仲良くできるか心配する先生に対し、アイリは冷静だった。
    そして……。

    『なるほど、馴染めるかどうか心配する必要はなかったわけだ』
    「ああ、共に行こうじゃないか。楽園への水先案内人なら任せてくれたまえ」
    『何と!存在の証明すら難しい楽園に既に至っていると?』
    「ロマン。その一言さえあれば私たち華のJKはどこへでも行けてしまうのさ」

    「やっぱりこうなるワケ!?何か変な電波でも出てるんじゃないの!?怖いんだけど!」
    「えっ、アイリもヨシミもこうなることはわかってたの!?」

    突然ナツと模倣セイアが通じ合ったかと思えば、スイーツ部のメンバーはまるでそうなることがわかっているようだった。
    何が起こっているのか理解できていない先生に、カズサがセイアとの出会いについて語る。

    「あー、先生。この間ミレニアムEXPOあったじゃん?あの時たまたまセイアさんとナツが出会っちゃって、んでさっきみたいにソッコー意気投合して、今に至るって感じ」

    「まあ、最初は距離感とかわかんなかったけど、話してみると案外私たちとそんなに変わらなかったりで、今ではスイーツ部みんなとも仲良くなったんだ」

  • 78二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 20:58:03

    共鳴するセイナツ

  • 79スレ主25/04/30(水) 21:03:05

    「ティーパーティーっていう肩書きだけでその人を見ちゃってたら、今みたいにはならなかったんだろうね。ナツは意味わかんないこと言ってること多いけど、こういとこはすごいと思う」

    「なるほど。え〜、知ってる生徒同士が仲良くなるのなんかこっちまで嬉しくなるなぁ」

    先のミレニアムEXPOでは先生はセイアにほとんど構わず、彼女の判断に全てを委ねる形となった。
    重大な事件などの話は聞いていたが、まさかこんなところでも良い結果を生んでいたとは。
    どうやら心配は無用だったようだ。

    「よし、じゃあメンバーも揃ったことだし、そろそろ出発しようか!」

    先生の声かけの後、彼女たちは最初の目的地へと出発した。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    道中、周囲に聞こえない声量でセイアが先生に話しかける。

    「先生、そういえばユスティナに奪われた端末やカードについて進展はありそうかい?」

    「今のところは見込めないね。あっちのナギサからの情報提供を待つしかない状態かな。まあ、こんな時に遊んで過ごすのは少し気が引けるけど、他に今すぐできることはあまり無いからね」

    「そうか……」

    そんな中、模倣セイアが話しかけてきた。

    『そういえば聞いていなかったね。今はどこへ向かっているのかな?』

  • 80スレ主25/04/30(水) 21:32:10

    「ああ、君は行ったことがない場所かもしれないね」

    セイアは少し得意げだった。
    アルバイトなど本物にはない経験をしたみたいだが、こちらだって本ばかり読んでいたわけじゃない。

    「まあ華のJKが遊ぶ場所といえばいろいろあるけれど、やはり最初は……」

    セイアが指差すビルの上には、マイクのマークが配置されたカラフルな看板が掲げられていた。

    「カラオケさ」
    『おお。おお……!』

    模倣セイアは目を輝かせている。
    歌はセイアにとって特別なもので、本当の気持ちを伝えるためのコミュニケーションツールでもある。
    感情表現が苦手な自分の生き写しと親睦を深めるのであれば、これ以上に適した場はない。
    単純に言い換えるなら、友達とカラオケに行って仲良くなるということである。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    「私たち色を描く♪」

    『おお……!』
    「やっぱカズサは歌うまいな〜!」

    トップバッターはカズサだったが、盛り上がる曲調の上に彼女の歌唱力もあって大盛り上がりだった。

    「カ、カズサ。君はずいぶん歌が上手じゃないか……」
    「え、そう?ちょっと照れるかも。ありがと!」

    (食われてしまう!アイデンティティが!予想もしないところで!)

  • 81スレ主25/04/30(水) 22:02:43

    焦るセイアをよそに、ナツが先生の隣に座る。

    「どうだい先生、女子を侍らせて楽しむカラオケの気分は?」
    「いや言い方。まあ、楽しいけどね!」
    「ちょ、ナツ!!なんかあんた近くない!?先生も満更でもなさそうだし!!」

    マイクを手に持ったまま大きな声を出したせいで、部屋中にカズサの怒りの声が響く。

    「ご、誤解だよカズサ。ただの遊びさ」
    「いやあんたの言い方も大概でしょ」

    すると今度は先生の反対隣に模倣セイアがぴったりと座ってきた。

    『おや、この間私に犬の芸を仕込んだじゃないか。そういう趣味があるのは間違いではないだろう?』
    「えっ、このタイミングでその話する?しかもまるで自分が被害者みたいな言い方で」

    「せ、先生そんなことしてたんですか……?」
    「……違うんだアイリ。仕方なかったってやつだよ」
    「やめなさいよカスの押し問答するの」

    これ以上続けるとヨシミの突っ込みが追いつかなくなりそうだったので、先生は次の曲を入力した。

    「カズサ、マイク貸して?」
    「はい、どうぞ。次の当番楽しみにしてるから」
    「……」
    「おお〜キャスパリーグは獲物を逃す気はないみたいだね」

    少し調子に乗りすぎたと先生は反省するのだった。

  • 82スレ主25/04/30(水) 22:15:57

    程なくして先生の入力した曲が流れ始めた。

    「これ以上の地獄は、無いだろうと信じたかった♪」

    「あっ、これ知ってる!アニメ見たわよ!」
    「へえ、結構上手じゃん!選曲に若干悪意を感じる気がするけど」
    「なっ、先生も存外歌が得意な人だったんだね……」

    「セイアほどじゃないさ。次歌うかい?」
    「ああそうさせてもらおう。これ以上黙っていたらみんな私の存在を忘れてしまいそうだからね」

    次に歌うのはセイアのようだ。
    歌唱力が高いのは既にわかっているので、むしろどういう歌をチョイスするかの方が先生は気になっていた。

    「それはかつてこの地に影を落とした悪を、討ち取りし勇者との短い旅の記憶♪」

    「おお、このアニメ私も見てたよ!セイアもアニメとか見るんだ?」
    「まあ、少しだけね」

    少しは威厳を取り戻せたようだ。
    そしてその横では模倣セイアが歌う曲を選んでいる。

    『おっ、この曲なら盛り上がりそうだ』

    (盛り上がる?私の記憶の中にそんな曲あっただろうか……?)

    『姉さん、そんな心配そうな顔をしないでくれ。大丈夫さ、こんなこともあろうかと暇さえあれば電子の海を泳ぎ回って、みんなで楽しめる曲を見つけておいたのだから』

    「要はネットサーフィンじゃない。あんまり誇ることじゃないわよそれ……」

  • 83スレ主25/04/30(水) 22:31:52

    ヨシミの指摘はもっともだ。
    自分のイメージに合わない歌を選ばないか心配するセイア。
    そしてその悪い予感は見事に的中するのであった。

    『世界で一番素敵な笑顔♪』



    『お料理得意なんです!』

    ポップな曲に合わせて、模倣セイアが普段のイメージからは想像もつかないような可愛らしいダンスをふりふりと踊っている。

    「だっはははははは!これティックモモックで流行ってるやつよね!?料理失敗するやつじゃない!」
    「んぐっふふ、ヨシミ笑いすぎ……!」
    「おお〜。ロックな選曲」
    「ふっ、振り付けまで覚えてるの面白すぎる!ひぃ〜!」

    ヨシミたちはまだいい。
    しかし先生までもが爆笑しているのはセイアにとって耐え難い屈辱だった。

    『ふう、次はナツの番だね。どうだい姉さん?心配することなんて何も無かっ』

    悪びれもしない妹に姉からのお仕置きが入るのは避けられなかった。
    しかし、彼女の悲鳴はナツの歌声によってかき消されてしまった。

  • 84二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 22:38:36

    この義姉妹仲良いな、もうずっとそのままでいてくれ

  • 85スレ主25/04/30(水) 23:03:29

    『くそー顔がゲマトリアになるぐらいなぐりやがって……!』
    「だ、大丈夫ですか……?」

    「やはり君に選曲を任せたのは間違いだった。ほら、次はこの曲を一緒に歌うよ」
    「じ、じゃあ私は飲み物とってくるよ。セイア妹は何がいい?」
    『たんさんすい……』

    模倣セイアの顔を拭くアイリに次の曲を選ぶセイア。
    先生は逃げるように部屋を出ていった。

    「まあ、馴染めているのはいいことだよね……ん?」

    ドリンクバーに向かうため部屋を出たところ、扉の前の通路に白い羽根が落ちているのが見えた。
    この店にはトリニティの生徒も来るので別に珍しいことではない。
    しかし、他にゴミが一つも無い通路に一枚だけ落ちているのがどうにも気になった。

    「まあ見つけちゃったし、捨てておこうか」

    先生はドリンクバー横のゴミ箱に羽根を捨て、飲み物を補充して部屋に戻る。

    「テーブルを囲み手を合わすその時さえ、ありのままでは居られないまま♪」
    『隠し事だらけ 継ぎ接ぎだらけのHome,you know?♪』

    先生が戻るとセイアと模倣セイアは仲良くデュエットしていた。
    よかったと安心するとともに、部屋の利用時間が終わりに差し掛かっていることに気づく。

    「そろそろ時間だけど、延長する?」
    「あー、でもこれ以上長居すると次の場所が混雑する時間帯に着く感じになりそう。そろそろ出よう?」

    カズサの意見に反対する者もおらず、一行はカラオケを後にした。

  • 86二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 06:33:41

    ダブルセイアのデュエット聞きたすぎるだろ

  • 87スレ主25/05/01(木) 07:20:28

    保守コーナー 〜狐の夢のかけら〜

    やあ先生、保守の時間だよ。
    今度は一体どんな展開になるのかな。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    セイア「落ち着いたかい?」

    セイア『ああ、ありがとう姉さん。さっきのは、ええと……』

    セイア「体調が優れないなら無理せず帰るのも手だよ?私も付き添うから……」

    セイア『待ってくれ!私は大丈夫だから!だから、まだみんなと一緒にいたい……』

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    心配ないよ先生、大したことはない。
    姉さんに迷惑をかけてしまうのではとは思ったが、そんなものは杞憂だったよ。
    思いやりに溢れる素敵な姉を持てて、私は本当に幸せ者さ。

    というわけで今回はここまでだよ。
    先生、次に保守が必要になる時また会おう。

  • 88二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 07:23:26

    お前のミメシスの方だったんか!
    本物セイアちゃんと仲良くできてる?これからも家族としていっぱい愛し合ってね……

  • 89二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 07:38:29

    保守狐はミメシスの方だったのか

  • 90二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 14:14:51
  • 91スレ主25/05/01(木) 18:34:20

    一行が次に向かったのはスイーツビュッフェだった。
    大きなショッピングモールの中に店舗があるので買い物した後の休憩にも適しており、休日はかなりの人で賑わう。

    「なんとか座れたけど、後ろに結構人が並んでるね。カズサの言った通りだ」
    「ね、早めにカラオケ出て正解だったでしょ?」

    スイーツ一つとっても情報戦が必要なのか。
    先生は彼女たちの熱量に圧倒されていた。
    そして全員席に着いたところで、各々好みのスイーツを取るためにビュッフェ台という戦場へ向かって行った。

    「ん〜おいし〜♡今いちごフェアやってるのね!スイーツ部として全制覇しなきゃ!」

    ヨシミは張り切っている。
    胃もたれや体調を考慮して、何を食べるか計算しなければならない先生としては羨ましい限りだった。

    『そういえば放課後スイーツ部とは一体どんな活動をしているんだい?』

    「ふっふっふ、よく聞いてくれたね。私たちは常にロマンを求めて、ありとあらゆる甘味を探し求める部活だよ。この店もその活動の中で見つけたのさ」

    『ほうほう』

    「まあ、その過程でバンドをやることになったり、正義実現委員会に喧嘩を売る羽目にもなったりしたけどね」

    『な、なるほど?』

    途中までは納得して聞いていた模倣セイアも、途中からは困惑している様子だった。

  • 92スレ主25/05/01(木) 19:14:57

    『なあ姉さん、この部活って結構アブナイ集団なんじゃないのか?』
    「わ、私も今初めて知ったよ……」

    「ねえ、この話セイア様の前でしていい話だったのかな……?」
    「き、今日の私は放課後スイーツ部非常勤部員だから、ティーパーティーは何も見ていないし聞いてもいないよ」

    セイアは諸々の問題の種を飲み込むように紅茶を口にする。

    「あれ、そういえばそっちのセイアさんって所属はどこになるのかな?やっぱりティーパーティー?」
    『ん?ああ、考えてもいなかった……』

    模倣セイアは目を丸くし、物思いに耽るように上を見上げる。

    「もしも望むなら、放課後スイーツ部の新入部員として迎え入れるのも良いかもしれないね」
    「いいじゃない!めっちゃノリいいし、ナツっぽく言うなら『ロック』側の人って感じよね!」

    「ちょ、勝手に話進めちゃセイアさん困っちゃうじゃん」
    「ふふ、内定だけでももらっておいたらどうだい?代わりに、こっちは非常勤ティーパーティーとしてアイリに来てもらおうかな?」

    「わ、私ですか!?」
    「セイアさんが言うと嘘っぽく聞こえないんだけど……」
    『考えておくよ。ちょっと失礼、少しお手洗いに』

    『もしも』の話に花が咲く中、模倣セイアが席を立った。
    その様子を見ていたセイアは、何かが引っ掛かる様子だった。

  • 93スレ主25/05/01(木) 20:06:15

    「セイア、どうかした?」
    「いや、特には何も……」

    (気のせいか?ミメシス特有の青白い肌よりもさらに少し青ざめていたような……。考えすぎだろうか)

    それ以上考えるのをやめて会話の輪に戻ろうと考えたが、やっぱり感じた違和感を放っておくことはできなかった。

    「すまない、私も少し席を外す」

    セイアは模倣セイアの行方を追うことにした。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    セイアが店を出たところ、入り口の前に白い羽根が落ちているのが目に入った。
    清掃の行き届いている建物の中で一つぽつんと落ちているソレはひどく異質なものに見えた。

    (間違いない、トリニティ生のものだ。しかし店内にいるのは黒い羽根の生徒だけ。一体誰が?)

    その羽根の意味について考えながら、セイアは女子トイレへと向かった。

  • 94スレ主25/05/01(木) 20:43:27

    (さっきの店から一番近いのはここだが、扉が閉まっていてはどこにあの子がいるかわからないな)

    仕方がない。声をかけようとセイアが息を吸った瞬間、奥の個室から模倣セイアの声が聞こえた。

    『げほっ、げほっ!はぁ……はぁ…………え゛う゛っ!』

    えずくような声が聞こえたかと思った瞬間、バケツをひっくり返したような水音が聞こえてきた。

    (吐いてる!?何で?体調が悪かったのか?いつから?いや、とにかく水!水を持ってこなくては)

    セイアは急いで外の自動販売機で水を二本買った後、すぐさま模倣セイアの元へと戻る。
    そして彼女が入っているであろう個室を優しくノックし、声をかけた。

    「大丈夫かい?私だ、セイアだ。水を持ってきたから一度口をゆすごう」

    しばしの間があった後ドアロックが外れ、弱々しい力でドアが開かれた。

    『ね、姉さん……!?だ、誰にもっ、誰にも言わないで……!』
    「言わないよ。ほら、口をゆすいで。水、蓋開いてるから気をつけて」

    今にも泣き出しそうな顔をする模倣セイアの背中を、セイアは優しくさすっていた。
    同じ体格なのに、その背中はひどく小さく見えた。

    (一体何が起こっているんだ。わからないことが多すぎて……ん?)

    その時、セイアはさすっている背中に何か違和感を感じ取っていた。

  • 95二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 20:48:26

    もうまじで姉だよセイア

    要介護者

  • 96スレ主25/05/01(木) 21:14:02

    『姉さん、どうしたの?』

    動きの止まったセイアを、不思議そうに模倣セイアが見やる。

    「いや、何でもないよ。綺麗にしたら一回外に出ようか」

    そうして二人は一度建物から出ることにした。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    二人は外の空気を吸うため、ショッピングモールの屋外ベンチに座り水を飲んでいた。

    「落ち着いたかい?」
    『ああ、ありがとう姉さん。さっきのは、ええと……ちょっと慣れない環境ではしゃぎすぎただけというか……』
    「それならいいんだが、体調が優れないなら無理せず帰るのも手だよ?私も付き添うから……」

    セイアの言葉を聞いた瞬間、模倣セイアが必死な顔でセイアに縋り付いてきた。

    『待ってくれ!私は大丈夫だから!だから、まだみんなと一緒にいたい……』

    声は震えていて、今にも泣き出しそうだった。
    事情はわからないが、今は安心させてあげるのが最優先だろう。

    「大丈夫だよ。みんなには言わないでおくし、無理やり帰らせたりもしない。この後はいわゆる映えスポットというところに行く予定だから、気分転換になると思う」

    「でもさっきみたいに気分が悪くなったらすぐに言うんだよ?」
    『ああそうするよ。ありがとう、私のわがままを尊重してくれて』
    「私はお姉さんだからね。じゃあ、みんなのところに戻ろうか」

    そうしてセイアたちは店に戻っていった。

  • 97スレ主25/05/01(木) 21:49:14

    その後スイーツを堪能した一行は、街が一望できる丘のある公園に来ていた。

    『わぁ……!』

    「綺麗だろう?この時間は夕焼けが出るから、茜色に染まった街を一望できるんだ」

    模倣セイアは先程までの不調が嘘のように生き生きしている。

    「おーい!セイアさんたち!写真撮りましょー!」
    「カズサがお呼びだ、行こう」

    二人のセイアは丘の上にある、この公園の象徴であるガラスのピラミッドに向かって走っていく。
    風に当たりながら走る心地よさと、走ったことによる息切れでセイアたちの頭はいっぱいだった。

    その後近くにいた市民に頼んで、写真を撮ってもらえることになった。

    「じゃあいきますよー?はいチーズ!」
    「せーのっ、うわっ!」

    本当は全員で手を繋いでジャンプする予定だったが、二人のセイアでタイミングがズレてしまったせいでポーズはバラバラになってしまった。

    『ふふ、不恰好だなぁ』

    そう言う模倣セイアの表情はとても幸せそうなものだった。

  • 98スレ主25/05/01(木) 22:12:47

    その後放課後スイーツ部と別れ、先生と二人のセイアで寮への道を歩んでいた。
    あたりはすっかり暗くなり、街灯や道沿いの店舗の照明が道を照らしている。

    『先生もこっちなのかい?』
    「ああ。明日のことについてナギサと話をしておこうと思ってね」
    『ああ、そうか……』

    そう、明日はユスティナ聖徒会がトリニティに攻撃を仕掛けてくる日と言われている日である。
    その準備のために先生もトリニティへと向かっていたのだ。

    『トリニティ生の体験も今日でおしまいだね』
    「また落ち着いたら遊びに来るといい。そうしたらまた、今日みたいにどこかへ遊びに行こう?先生の奢りで」
    「えっ?」

    突然の奢り宣告に戸惑う先生。
    おそらく自由に使える金額はセイアの方が優に上回っているはずなのだが、未来の自分は生徒可愛さについ財布の紐が緩むのだろうなと苦笑した。

  • 99スレ主25/05/01(木) 22:32:46

    『今日は楽しかった。普段は歌わない流行りの曲を歌って』

    「うん」

    『姉さんから鉄拳制裁を受けて』

    「いや……」

    『スイーツビュッフェでこれでもかといちごのスイーツを堪能した』

    「……そうだね」

    『優しい姉さんでよかった』

    「そうかい」

    『あの丘は景色が綺麗だったね』

    「後で写真を送っておくよ」

    『あと、スイーツ部のみんなには言いそびれてしまったが、先生、姉さん、本当にありがとう』

    「いいよ」「どういたしまして」

    『明日も明後日もその先も、よい青春を』

    「君のほうこそ」

    『それから、私は未来を視ることができる』

  • 100二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 23:26:48

    あぁ…そうか、エデン条約編中のセイアの複製だもんなぁ…
    というか特殊能力までコピーできるのか

    予告といい羽といい…また不穏になってきたねぇ

  • 101スレ主25/05/02(金) 06:40:14

    保守コーナー 〜狐の夢のかけら〜

    やあ先生、保守の時間だよ。
    今度は一体どんな展開になるのかな。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    セイア『姉さん、私は……』

    セイア「それ以上余計なことを言おうものなら次は当てる」

    先生「セイア!」

    セイア「私だ。すぐに百合園セイアのミメシスを拘束してくれ。場所は私のすぐ側だ」

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    全てわかっていたことだ。
    もうこれ以上目を逸らし続けるわけにはいかない。
    寄り道は終わりだ。

    というわけで今回はここまでだよ。
    先生、次に保守が必要になる時また会おう。

  • 102二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 06:54:56

    重い……

  • 103二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 08:03:23

    やっぱり敵対してしまうのか?
    うわぁ…こういうの好き

  • 104スレ主25/05/02(金) 15:01:08

    一瞬、時が止まったようだった。
    その中で先生はこれまで模倣セイアと交わしてきた言葉を瞬時に思い出していた。

    "やあ先生、こんなところで会うなんて必然だね"

    "なっ、一体なぜ!?芸は完璧だったじゃないか!"

    "事情を話す前に、私と志を共にする友人を二人呼びたい。いいかな?"

    未来が視える、そう感じさせる予兆はあった。
    しかし、どこまで視えている?その精度は?
    模倣ミカや模倣ナギサもその能力を知った上で行動していた?
    なぜ模倣ヒフミが現れた時に驚いた顔をした?

    「先生、下がって!!」

    セイアの声で意識が現実に引き戻される。
    彼女の方を見ると、セイアが模倣セイアを突き飛ばし距離をとっていた。
    そしてセイアは先生を庇うように立ち、先程まで妹のように接していた存在に銃を突きつけている。

    「セイア!まだ彼女がトリニティに敵対する存在だと決まったわけじゃない!判断が早すぎる!」

    「そう言う先生こそ。すぐにその発想が出るということは、可能性の一つとして考慮はしていたのではないかい?」

    「……ああ」

    先生は苦々しい顔で返事をする。
    そんな光景も既に視ていたのか、模倣セイアは悲しそうに微笑んでいる。

  • 105スレ主25/05/02(金) 18:06:23

    『姉さん、私は……』

    瞬間、模倣セイアの顔の横を銃弾が通り過ぎる。
    耳元を銃弾が通過する音を聞いて、彼女はそれ以上声を発することができなかった。

    「それ以上余計なことを言おうものなら次は当てる」
    「セイア!」

    割り切れない先生をよそに、セイアはスマホを取り出しどこかへ電話をかけ始めた。

    「私だ。すぐに百合園セイアのミメシスを拘束してくれ。場所は私のすぐ側だ」

    「それと阿慈谷ヒフミのミメシスもだ。今日は補習授業部で出かけている予定のはずだから、ハナコに協力を仰いでくれ。いざという時は協力するよう話は既に伝えてある」

    最低限の要件だけ伝えるとセイアは電話を切った。
    そしてすぐに正義実現委員会の生徒の運転する車が到着し、模倣セイアを連行していった。
    彼女は一言も発さず、ただ悲しげで安らかな表情をしていた。

    少しの騒動が終わった後、街並みはこれまで通りの光景に戻っていた。
    この程度はキヴォトスでは日常茶飯事であるため、他の市民は誰一人気にしない。

    「驚かせてしまったね、先生。これが私の役割だから、必然的にこういう態度になってしまう。少し歩こう」

    安心させるような、でも心の底に焦りを感じさせる声。
    先生は黙って彼女の隣を歩く。

  • 106スレ主25/05/02(金) 19:03:06

    人通りのあまり無い道を先生とセイアが歩いている。
    街灯で照らされているものの、少し不気味な雰囲気だった。

    「先生、詳しいことはトリニティに帰ってから話そう」
    「ああ」

    小声で話すセイアにつられ、思わず先生も小声になる。

    「このまままっすぐ進めば駅に着く。そこでタクシーを拾おう」
    「それなら正面に見える交差点を右に曲がった方がいい。そっちの方が駅としては小さいけど、利用者が少ない分タクシーは捕まりやすいから」
    「さすが、頼りになるね。じゃあ交差点を曲がって、空車のタクシーが見えたらそこまで全速力だ」

    セイアの発言を聞くに、後ろから誰かに追跡されているのだろうか。
    気づいていると悟られないよう、あまり周囲を見渡さない方が良さそうだ。

    「……了解」

    交差点まで50m、25m、5m。
    なんてことない距離なのに、今だけはとても長く感じる。
    そして交差点を右に曲がり、少し進むとタクシー乗り場が見えた。
    二人に緊張が走る。

  • 107スレ主25/05/02(金) 19:44:30

    満車、予約車、予約車……空車。

    (見えた!)

    最初に発見したのは先生だった。
    そしてすぐさまセイアにだけ聞こえるよう合図を出す。

    「よーい、どん」

    瞬間、二人は全速力で駆け出した。
    そしてその勢いのまま、無事タクシーに乗り込むことができた。

    「トリニティ総合学園の前までお願いします」
    「かしこまりました」
    「はあ、はあ……」

    先生以上にセイアの方が息が上がっていた。
    生まれついての体力のせいか、緊張のせいか。
    そうして二人を乗せたタクシーは学園へ向けて発車した。

    発車直後、タクシーは自分たちの通ってきた道とすれ違うように進んでいた。
    先生は追跡者の確認のため、視線だけを動かしタクシーの窓から外を見る。



    するとそこには、先ほど通ったばかりの道の真ん中に聖園ミカのミメシスが佇んでいるのが見えた。
    顔までは見えなかったが、体の向きを見るに明らかにこの車を見ている。
    タクシーが模倣ミカから離れた後も、ミラー越しに後方を見ても彼女はまだこちらを見ていた。

    「……セイア、いつから?」

  • 108スレ主25/05/02(金) 20:36:21

    疲労のあまり、つい雑な聞き方になってしまう。
    しかしそれでもセイアは質問の意図を汲み取ってくれたようで、すぐに答えてくれた。

    「スイーツビュッフェの時からかな。店の前に白い羽根が落ちていた。実際に彼女だとわかったのは、妹に銃を向けるために後ろを向いた時さ。一瞬だったけど確かに見えた」
    「白い羽根、ね。じゃあ、カラオケの時からかな」
    「そうか……」

    これでほぼ一日中監視されていたことが判明してしまった。
    一体どこまで見られ、聞かれていただろうか。
    基本的に彼女たちの神経を逆撫でするようなことや重要な機密については話していないが、果たしてどうなることやら。

    ひとまず危機は去ったと判断して良さそうだが、それにより疲れがどっと押し寄せてきた。
    そうこうしているうちにタクシーは学園へと到着し、二人は重い足取りで校舎へ入っていった。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    トリニティ総合学園の地下にある取調室。
    ルーツを遡ればユスティナ聖徒会が活動していた頃から存在する部屋であり、現在でこそ非人道的な拷問まがいな行為が行われることは無くなった。
    しかし今でも度が過ぎた問題を起こした生徒は脱出が困難なこの部屋で取調べを受けることもある。

  • 109スレ主25/05/02(金) 21:41:12

    セイアと先生は部屋に入り、模倣セイアと再び顔を合わせる。
    彼女は事前にこの部屋へと連行されていた。
    服は簡素なものに着替えさせられ、両手には手錠が嵌められている。

    『姉さん、先生……』
    「まず、手荒な真似をしてすまなかった」

    開口一番、セイアは己の対応を謝罪した。

    「ショッピングモールで君の背中をさすった時、君の服の襟に盗聴器か発信機、もしくはその両方を併せ持つ機器が取り付けられているのを発見した」

    「それと、これはつい先ほど判明したばかりのことだが、私たちは今日一日中君たちの仲間のミカに後をつけられていた」

    「恐らく君は、仲間であるミメシス側から信用されてない」
    『え……』

    「そんな状況であるにも関わらず私たちに未来予知の話をしようとしたこと、そして今のその反応を見るに君は今の会話を予知で知ることができず、ミカの追跡に気付けなかった」

    話を聞いていた模倣セイアは項垂れてしまった。

    『ああ、そうか……。確かにこの会話は視ていないが、まあ、そんな気はしていたよ。そもそも先に裏切ったのは私の方だけどね』

  • 110スレ主25/05/02(金) 22:31:12

    セイアは冷静に会話を続ける。

    「しかし私たちが盗聴や追跡に勘づいたのを悟られたり、君が重大な秘密をあの場で喋っていた場合、ミカや盗聴者から何をされるかわからなかった」

    「こっちにはミカに対抗する術はなかったからね。だからあの場では君に黙ってもらっていた」

    あくまで事務的に対応するセイアを見て先生は心苦しい気分になったが、それが彼女の仕事である以上余計な口出しはできなかった。

    「それでだ、未来が視えることを打ち明けたのには何の意図がある?それと何故あのタイミングだった?直前に打ち明けることで私たちの混乱を誘う意図があったのか?」

    『違う!私は姉さんたちの味方だ!信じてほしい!』

    何としてでも誤解を避けたかったのだろう。
    口数の少なくなっていた模倣セイアが身を乗り出して訴えてくる。

    『……明日、トリニティ自治区は戦場になる。こちら側のナギサとミカの裏切りによって』

    『その目的は自分たちが新しいティーパーティーになることで、トリニティを完全掌握することだ』

    「完全掌握……だって……?」

    セイアは驚きを隠せない。

    模倣ミカに追跡されていることがわかった時から覚悟はしていたが、やはり彼女たちはトリニティにとっての敵であるようだ。
    先生は昨日までの彼女たち会話を思い出し、その胸中に悲しみが広がる。

  • 111スレ主25/05/02(金) 23:02:42

    『同じ能力、同じ容姿、同じ記憶を持っていながら地下でこそこそ隠れながら過ごす日々を惨めに感じたらしい。その時にも説得はしたが応じてはくれなかった……』

    昨日先生たちが会った彼女たちは至って普通に見えた。
    強いて言うなら模倣ナギサが少し羨ましそうにしていたくらいで、とてもそこまで激しい想いを抱いているような素振りをしていた記憶はない。

    『それと彼女たちが事前に説明していたユスティナ聖徒会の侵攻の話だが、恐らくは戦力を分散させるための嘘だ。ただ、私は何も聞かされていないので嘘と断言することはできない』
    『私はそれを君たちに伝えたかった。本当ならもっと早くに言うべきだったんだ』

    模倣セイアの顔に後悔の色が浮かび始める。

    『でも姉さんに遊びに誘ってもらえて、決意が揺らいでしまった。あそこで侵攻の話をしてしまえば、きっとその対応で遊びどころではなくなってしまう』
    『私は……自分の都合を優先しました。本当に、ごめんなさい……』

    模倣セイアは額を机に擦り付けるように頭を下げ、今にも消え入りそうな声で謝罪した。

  • 112二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 23:23:15

    あの寝言はこういうことだったのか…

  • 113スレ主25/05/03(土) 00:04:19

    「なるほどね。そんな状況で、トリニティの危機と自身の快楽を天秤にかけて出した結論がそれか」

    その直後、セイアは両手を強く机に叩きつけた。

    「自分の学園ではないからといって、戦場になるとわかっていて!どうしてそんな判断ができるんだ!!人の命を何だと思っているんだ!!」

    耳を前方に倒し、目を見開き眉間に皺を寄せ、歯を剥き出しにしながら怒鳴りつけるセイアに先生も思わずたじろぐ。
    今まで見たこともないような一面だった。
    相手が自分自身だからこそ、より苛烈になるのだろうか。

    『ごめんなさい……ごめんなさい……』

    模倣セイアは怯えきっており、目線を下に向けながら何度も謝罪の言葉を繰り返す。
    ここまできてしまうと、先生としてもう口を挟まないわけにはいかなかった。

    「セイア、落ち着いて。怒りをぶつけることが君の仕事じゃないでしょ?」
    「っ!すまない……」

    ハッとしたセイアは一度目を閉じ、呼吸を整えて椅子に座りなおす。

  • 114二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 02:31:03

    いたたまれないよ…

  • 115二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 06:43:50

    Oh…

  • 116スレ主25/05/03(土) 08:02:01

    保守コーナー 〜狐の夢のかけら〜

    やあ先生、保守の時間だよ。
    今度は一体どんな展開になるのかな。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    セイア「駄目だ!そんな未来到底受け入れられるわけがない。他の道を探そう!」

    先生「私としても反対だね。せっかくこれから仲良くやっていけるっていうところなのに」

    セイア『駄目だよ。仲間を裏切り、人を騙した化け狐がけじめをつける時が来たんだ。それに仮にミカとナギサを退けることができても、■■■■■■■■■が黙っていないだろう』

    先生・セイア「「■■■■■■■■■……?」」

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    名前を出すのも駄目か、やはり現実で直接会話しないといけないみたいだね。
    わかるかい?もう私の心配ばかりしている場合ではないんだよ、先生。
    なのに君たちは……ふふ、甘すぎるね。

    というわけで今回はここまでだよ。
    先生、次に保守が必要になる時また会おう。

  • 117二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 08:55:24

    これ予知夢か?もしかして……
    その、無茶しないでねミメシスセイア……
    一人で、それもセイアの身体でできることなんてたかが知れてるんだから……

  • 118二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 16:45:40

    保守

  • 119スレ主25/05/03(土) 17:15:43

    「私からも質問したい。戦場になって、トリニティはどうなるの?ミメシスたちに奪われる?それとも崩壊する?」
    『すまない、そこまではわからないんだ。私はナギサとミカを止めるために戦って、そこで…………その、予知の力を失うらしい』

    いまいち歯切れが悪いが、二人は続きを聞くことにした。

    『明日、私を迎えにきた彼女たちは同席していたナギサに向けて宣戦布告をする。そして私がそこに割って入って二人を説得するんだ』

    『けど私の言葉は彼女たちには届かず、説得に失敗してしまう』

    そこまで話したところで模倣セイアは黙りこんでしまった。
    次の言葉を発するのを躊躇っている様子だ。
    そんな中、沈黙を破るように彼女が口を開いた。

    『そして説得が不可能で、かつ力で敵わないと判断した私は最終手段として『色彩』を呼び寄せ、己自身を反転させその力で彼女たちを手にかけることになる』

    『特にこの辺りは断片的にしか視ることができず、それらをまとめて推測するとこのような形になる。あまり細かい部分まではあてにしないでくれ』

    セイアも先生も言葉を失っていた。
    それに触れるとどうなるかをよく知っている二人は、目の前の少女が告げた未来がどれほど恐ろしいものか瞬時に理解していた。

  • 120二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 17:25:19

    早まるなよ…ミメシスセイア…

  • 121スレ主25/05/03(土) 18:09:15

    『予知の力を失うのが反転による代償なのか戦闘中の負傷によるものなのか、詳しくはわからないが。まあ、ことが済んだら私はどこへなりと消えるさ』

    寂しそうな、しかしどこか諦めたような顔をする模倣セイア。
    そんな彼女を見て、セイアはかつて予知によって悲惨な未来を見せられ厭世的になっていた頃の自分を思い出していた。

    「駄目だ!そんな未来到底受け入れられるわけがない。他の道を探そう!」
    「私としても反対だね。せっかくこれから仲良くやっていけるっていうところなのに」

    セイアと先生は説得を試みる。
    模倣セイアは一瞬だけ希望を見出した表情をしたが、結局首を縦には振らなかった。

    『駄目だよ。仲間を裏切り、人を騙した化け狐がけじめをつける時が来たんだ。それに仮にミカとナギサを退けることができても、メフィストフェレスが黙っていないだろう』

    「「メフィストフェレス……?」」

    突然出てきた名前に二人とも疑問符が浮かぶ。

    「確か、ファウスト博士と契約して望みを叶える代わりに魂をもらったっていう、悪魔のことだっけ?」

    先生の問いに対し模倣セイアが頷く。

    『ああ。だがその名はあくまでニックネームのようなものらしく本当のことはわからない。メフィストとも呼ばれているようで、私と出会った時最初にそう名乗っていた』

  • 122スレ主25/05/03(土) 18:52:47

    『そして奴はキヴォトスの外から来た存在で、生徒のミメシスを作り、その体を弄り回すことで自由自在に改造できる技術を持っている』

    『ただし一方的な干渉はできないようで、改造する側とされる側、それぞれの合意のもとに一対一で価値の等しいものを差し出し合う必要がある』

    『奴はこれを『等価交換』と呼んでいて、私の予知の力も奴との取引で手に入れたものだ』

    「なるほど、私が予知夢を見られなくなった後に生まれた君がその力を持っていたのはそういうことか。ちなみに、君は代償として何を支払ったんだい?」
    『…………』
    「いや、答えたくないのならいいんだ。すまなかったね」

    「話を聞いている限り、ゲマトリアの関係者である可能性は高そうだね」

    キヴォトスの外から来たろくでもない技術を持っている者はだいたい彼らと何かしらの関わりがある。

    『実際にゲマトリアと関わりがあるのかはわからないが、厄介さで言うなら彼らと同程度はあるだろう』

    「それで、そのメフィストの目的って何なの……?」

    『奴もナギサたちと同じでトリニティの征服が目的だと言っていた。だが本当かどうかはわからない。もっと恐ろしいことを考えていてもおかしくないような奴だからね』

  • 123スレ主25/05/03(土) 19:25:08

    模倣セイアは続ける。

    『まず奴の生み出したミメシスと奴自身は、他のミメシスのヘイローを食らうことでその記憶を引き継ぎ、身体能力を向上させ、捕食されたミメシスが私の予知能力のような特別な力を持っていた場合、それを奪うことができる』

    「食らう……?ヘイローをかじって食べるってこと?」

    『ああ、そうだ。そして当然ヘイローを噛み砕かれたミメシスは生命活動を停止し、消滅する』

    模倣セイアが悲しそうな微笑みを浮かべセイアの目を見る。

    『わかるだろう?裏切った以上のこのこ帰れば奴に食われて予知の力が奪われる。そうなったらいよいよお終いだ。だから明日、確実に奴も仕留めないといけないんだ』

    模倣セイアの覚悟は想像以上のものだった。
    まるで長い時間ずっとこの時のために戦い続けてきたような、そんな意志の強さを感じさせた。

    「だったら、トリニティで君に護衛をつけることだってできる。君が反転しないことで未来が変わり、取り逃す可能性が無いとは言えないが、それでもトリニティの情報網と戦力ならいずれは仕留めることができるはずだ!」

    セイアはなおも諦めない。
    しかし模倣セイアが次に提示してきた情報はそれらの難易度を跳ね上げるようなものだった。

    『さっき、ミメシスを捕食する話をしたね。他のミメシスとは異なり、メフィストは食らった者の元になった生徒の見た目を完璧に再現し、いつでも自由に変身することができる。それも私たちとは異なり、肌の色まで君たちと同じようになる』

  • 124スレ主25/05/03(土) 20:14:55

    『それとどういうわけか私の予知で視た光景の中に、奴の姿を捉えられたことはこれまで一度もなかった。まるでその部分がカメラの画角からはみ出しているように、切り取られているように』

    『これは推測だが、体質的に人から注目されにくい生徒を食らったんだと思う。私の観測から逃れるために』

    まさかそんな危険な存在の魔の手がトリニティの喉元まで迫っていたとは。
    危険すぎる。先生はメフィストの正体を掴むため質問を続ける。

    「もし身近な生徒といつの間にか入れ替わっていたとしても気付けるかどうか……。奴は今どこに……っ!」

    そこまで言いかけて気付いたのだろう。
    身を乗り出していた先生は椅子に座り直し、答え合わせを待つように模倣セイアの方を見た。
    セイアも気付いたのだろう、緊張で強張った表情をしている。

    『ああ、察しの通りだよ。メフィストは今……』



    『阿慈谷ヒフミの姿になって、この学園の牢獄に囚われている。姉さんの指示通り捕まえられていればね』

  • 125スレ主25/05/03(土) 20:55:54

    「やはり、既に近づかれていた……!」

    すでに黒幕は捕えられていた。
    しかしなぜ?その気になれば他の生徒と入れ替わって潜入することだってできたはずだ。
    まだ口に出していない先生の疑問に答えるように模倣セイアは続ける。

    『おそらくは私への牽制と監視だろう。私の予知に観測されない体質を利用して、想定外のところで私に接触し、トリニティ側へ情報が流れないよう圧力をかけた』

    『奴はこれまで見てきた大人の中でも桁違いに危険な、悪魔のような存在だ。単純な戦闘能力の高さという話ではなく、謀略を巡らせ人々の善意を踏みにじり、悪意を煽動し、この街一つくらい簡単に地獄に変えるだろう』

    模倣セイアの答えを聞いて納得したのか、先生は答え合わせをするように語りかける。

    「そうか、だからか。君は最初に会った時『必然だね』と言った。『偶然』ではなくだ。その時から君には予知の力があるんじゃないかとほんの少しだけ思っていた」

    「だがヒフミのミメシス……メフィストが現れた時に驚いた顔をしていたよね?それを見た時自分の仮説が間違っていたのかと思ったけど、あれは君がトリニティでナギサたちと話しているシーンに奴が映っていなかったから、というわけだね」

  • 126スレ主25/05/03(土) 21:27:59

    『見られていたんだね。その通り、奴は自分の姿を隠すことよりも私の予知で得た情報が君たちに渡るのを防ぎたかったんだ。だが、奴が拘束されている今なら遠慮なくぶちまけられる』

    模倣セイアの顔は強い憎しみを感じさせるものだった。
    彼女たちに一体何があったのか。

    『だから明日は戦闘が激しくなる自治区中央の広場あたりには人を近づけさせないでくれ。君たちに命令する権限など私に無いのは承知の上だが、反転した私が味方まで見境なく巻き込んでしまうことは避けたい』

    『それと、万が一反転するのが私ではなく姉さんになるようなことがあっては困る。姉さんだけは明日は学園から離れていて欲しい』

    『わがままばかりになってすまない。でも君たちにはこの先も青春を謳歌する権利がある。降りかかった厄災などさっさと退けて、もとの日常を笑って過ごして欲しい……』

    「……わかった、このことはナギサにも伝えておくよ。取り調べは終わりだ。横になって休んでくれ」
    「行こうか、セイア」

    模倣セイアの願いを、思いやりを、彼女の目の前で跳ね除けることはできなかった。
    まだ話したいことはあるが彼女の身体的、精神的負担を考え、二人はその場を後にする。

  • 127スレ主25/05/03(土) 22:10:25

    部屋を出た二人はナギサと話をしに行くため、廊下を歩いていた。
    しばらく無言で歩いていた二人だったが、先に口を開いたのはセイアだった。

    「先生、ヒフミ……メフィストへの取り調べだが……」
    「まあ、今はやめておいた方がいいだろうね。わざわざトリニティに来て、捕まる想定をしていなかったとは思えない。おそらく自分が身動きを取れなくても大丈夫なように、何か手を打っているはずだ」

    先生の意見を聞き、判断に間違いがないと確認できたセイアは頷き、そのまま話を続ける。

    「まあそうだろうね。それと取り調べ中にハナコからメッセージが届いていた。メフィストの拘束には成功したらしい。何でも、抵抗すらしなかったと。それとヒフミ本人の無事も確認できている」

    「そっか、良かった」
    「あと、メフィストの持ち物の中には盗聴器や受信機の類は見つからなかったそうだ」

    「ミメシスセイアに盗聴器を仕掛けたのはメフィストではないってこと?」
    「いや、仕掛けたのはおそらくメフィストだろう。先生たちと待ち合わせする前に、メフィストがもう一人の私に『行かないで』と抱きついているのを見た。ずっと見ていたが、それ以外に怪しい人、タイミングが無い」

  • 128スレ主25/05/03(土) 23:02:19

    「ただ、それよりもむしろ受信機が見つからなかったことの方が気になる。メフィストが仕掛けたものの音声を、別の誰かが聞いていると考えるのが妥当だろうか」
    「外部に協力者がいる、と……」

    想定よりも大事になりそうだ、と先生は指で眉間を押さえる。
    トリニティ外部のことはシャーレとして、自身が主体となって調査する必要がある。
    そしてその方針は二人だけで決めるべきではない。

    「とりあえず、これまでのことをナギサに報告しないとね」
    「まあ、まずはそこからだね。私たちが向かうことは既に伝えてある。ナギサも話したいことがあるそうだ」

    二人はナギサの待つティーパーティーのテラスへと向かった。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    「お待ちしておりました、先生、セイアさん」

    穏やかな声色とは裏腹にその表情は真剣そのものだった。
    おそらく重要な情報を掴んでいるのだろう。

    「まずは私たちの得た情報を共有しようか。実は……」

    それからセイアは今まであったこと、模倣セイアから聞いた話をナギサに伝えた。
    模倣ナギサたちの反乱についてはさして驚く様子はなかったが、メフィストに関する話になると緊張の色が強まっていった。

  • 129二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 23:52:59

    ミメシスを生み出せるだけではなく弄繰り回せるとはね…
    マエストロの知り合いかな?
    そんな奴の手に箱とカードが渡りました。どうにかなるのか…?

  • 130二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 03:30:53

    神秘を食うやばっ……
    模倣セイアもそうだけど守れるのか?

  • 131スレ主25/05/04(日) 07:14:19

    保守コーナー 〜狐の夢のかけら〜

    やあ先生、保守の時間だよ。
    今度は一体どんな展開になるのかな。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ナギサ「先生、明日の戦力の配置ですが、学園の周辺は我々トリニティ総合学園で対応します。ですので、トリニティ自治区の警備とインシデント対応を先生にお願いできないでしょうか」

    ナギサ「それから先生の安全確保のため、明日はボランティア部の方々に同行していただきます。いざという時は彼女たちの指揮をお願いしますね」

    先生「ああ、それは大丈夫だけど……ボランティア部?そんな部活あったっけ?」

    ナギサ「このような事態に備えて新設した部活です。ただし表向きは自警団同様非公認の部活で、ティーパーティーの指示や承認無しに自由に動き回れる言わば特殊部隊のようなものです」

    ナギサ「権限を悪用すれば犯罪行為もできてしまうので、メンバーはもちろん私の信頼する方々で構成されています」

    先生「おお、おお……!なんかスパイみたいでかっこいいね!それで、メンバーは!?」

    ナギサ「部員はシスターフッドからマリーさん、自警団のスズミさんとレイサさん、図書委員のシミコさん、救護騎士団のセリナさんです」

    先生「なるほど、確かに!彼女たちなら安心だね!」

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    子どもみたいにはしゃいでいるね、先生。
    このところ暗い場面ばかりだったけど、少し明るくなりそうかな?

    というわけで今回はここまでだよ。
    先生、次に保守が必要になる時また会おう。

  • 132スレ主25/05/04(日) 14:06:03

    「まさか彼女がそんな恐ろしい存在だったとは……。拘束できているとはいえ、他のミメシスとは違い見た目での判別が不可能なのは厄介ですね」

    「ああ。だがそれよりも私はあの子、もう一人の私を助けたい」
    「一度反転によって姿が変わってしまうともう戻れなくなる。私の生徒でその後も理性を保ち、以前に近い生活を送れている子もいるけど、避けられるならそれに越したことはない」

    二人の真剣な眼差しを見てナギサは頷く。

    「私も協力は惜しみません。私も、もう一人の私からいただいた情報について調査を行いましたので、そちらを共有させてください」

    「まず一つ目。トリニティを襲撃する予定のミメシスたちが拠点とする二箇所、山岳地帯と小島を正義実現委員会の方々に見て来ていただきました」

    「結果、補給地点と思われる施設や設備のようなものは一切見当たりませんでした」

    報告を聞いたセイアが問う。

    「やはりもう一人のナギサは嘘をついていたということだろうか?」

    「その可能性は高いかと。ですが嘘と断定できる情報もまた見つかってはいません。ですので明日はツルギさんに補給地点とトリニティを結ぶ道中、その中間地点にて迎撃できるよう待機をお願いしました」

  • 133スレ主25/05/04(日) 17:44:51

    「二つ目、シスターフッドの皆さんにはトリニティ自治区外れの廃墟地帯の偵察をお願いしました」

    「こちらは以前よりもユスティナ聖徒会のミメシスの個体数が増加しており、明日攻め込んでくるミメシスはおそらくこちらに待機しているのでしょう」

    「先手を打って廃墟地帯へ攻撃を仕掛けたいものですが、学園全体の評判にも関わるので難しいところではありますね」

    「この調査でミメシスの状況はわかったのですが、その数はおおよそ二百体ほどでした」

    「二百……侮れない数ではあるが、トリニティの戦力を集めれば十分対抗できそうではあるね」

    「はい。おそらくそれを避けるために嘘の情報をながし、トリニティの戦力分散を図ったのかと思われます」

    「そして三つ目。トリニティ自警団からの報告で、ヘルメット団やスケバン、アリウス分校の残党がミメシスに襲われているというものがあります」

    「アリウスが!?」
    「世間では悪党とされている集団ばかりだね。誰が何を意図してそんなことを……」

    「わかりません。スズミさんとレイサさんでミメシスを一体捕えることはできたのですが、話を聞こうとした瞬間にまるでスマホの電源を切った時のようにミメシスが突然消えてしまったと」

    「その消え方、私を襲ったミメシスたちと同じだ。おそらくスズミたちが見つけたミメシスも誰かの意思が宿ってるはずだ」

  • 134スレ主25/05/04(日) 18:25:34

    「もう一人の私に仕掛けられた盗聴器といい、外部に協力者がいると見て間違いないね」

    「先生、アリウススクワッドの方々とは連絡を取れそうですか?」
    「一応メッセージは送ったけど、彼女たちは公共の電波を拾えるところでないとメッセージの送受信ができない。夜も遅いし、すぐに返事は返ってこないだろうね……」

    先生の表情は心配そうなものだった。
    彼女たちは実力者だが、得体の知れない相手が敵となるとどんなイレギュラーが起こるかわからない。

    「先生、明日の戦力の配置ですが、学園の周辺は我々トリニティ総合学園で対応します。ですので、トリニティ自治区の警備とインシデント対応を先生にお願いできないでしょうか」

    「そうしてもらえると助かる。アリウスのみんなの様子も気になるし」

    ナギサの提案はまさしく渡りに船だった。

    「それから先生の安全確保のため、明日はボランティア部の方々に同行していただきます。いざという時は彼女たちの指揮をお願いしますね」

    「ああ、それは大丈夫だけど……ボランティア部?そんな部活あったっけ?」

    「このような事態に備えて新設した部活です。ただし表向きは自警団同様非公認の部活で、ティーパーティーの指示や承認無しに自由に動き回れる言わば特殊部隊のようなものです」

    「権限を悪用すれば犯罪行為もできてしまうので、メンバーはもちろん私の信頼する方々で構成されています」

    「おお、おお……!なんかスパイみたいでかっこいいね!それで、メンバーは!?」

  • 135スレ主25/05/04(日) 18:57:09

    子どものように興奮する先生を見てナギサはくすりと笑う。

    「部員はシスターフッドからマリーさん、自警団のスズミさんとレイサさん、図書委員のシミコさん、救護騎士団のセリナさんです」

    「なるほど、確かに!彼女たちなら安心だね!」

    「そして、ボランティア部の部長は……ふふっ」

    喜ぶ先生にもったいつけるようにナギサは間を置いている。
    一体誰なのだろう。
    先生は期待に胸を膨らませている。





    「ボランティア部部長は我らが問題児、聖園ミカさんです♪」

    「ミカ……!」

    よく知る生徒の名を聞き、先生の表情はぱぁっと明るくなる。
    かつてトリニティを危機に陥れた生徒が、今度はトリニティを守るために活躍している。
    こんなに嬉しいことはない。

    「任せてよナギサ、セイア。彼女たちがいるなら百人力だから!」

    作戦は立てた。
    絶対にトリニティを守る。
    ナギサもセイアも先生も想いは同じだ。
    三人は決意を固め、手を取り合った。

  • 136スレ主25/05/04(日) 20:17:33

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    夢を見ていた。
    またこの夢だ。

    『やだ!!セイアちゃんやめて!!痛い!!痛い痛い痛い痛いやだやだやだやだやだやだやだや』

    『いっ、嫌!待ってくださいセイアさん!ごめんなさい!許してください!ごめんなさい!ごめんなさい!!嫌っ!いやああああああああああ!!!!』

    「セイアさん!目を覚ましてください!あなたの悲しみを、怒りを、私に分けてください!」

    「あなたを決して一人になんてさせません!!」

    そして目が覚めた。
    いつもここで終わる。
    今日も変わらず、いつも通り。

    『ふーっ』

    頑張らなくては。
    これ以上大切なものが壊れないように。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • 137二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 20:26:58

    あっ…すごく……凄い……重い

  • 138スレ主25/05/04(日) 21:26:10

    そしてついにやってきた。
    トリニティへミメシスたちが攻め込んで来ると言われている日の、その朝が。

    空は厚い雲で覆われており、今にも降り出しそうなほどだった。
    二人は学園の出口付近にて迎えを待っている。

    『ありがとうナギサ。世話になったね』
    「いえ、また落ち着いたら遊びに来てくださいね」
    『落ち着いたら、ね』

    模倣セイアは俯いたまま、ナギサは正面を見据えたまま互いに目を合わせずに会話している。
    それぞれ思うところはあるが、まずは目前に迫っている危機を退けることが最優先だ。
    表情にこそ出さないが、二人の中にあるのは緊張の二文字。

    「来ましたね」

    そして、遠くに二人の人影が見えた。
    その姿を確認したナギサと模倣セイアも歩き出し、学園前の広場の中央で向かい合った四人は足を止めた。

    『おはようございます、ナギサさん、セイアさん』
    『二人ともおはよ!セイアちゃん、ちゃんといい子にしてた?』

    「ミカさん、ナギサさん、おはようございます」
    『ミカ、ナギサ、おはよう。大丈夫さ、トリニティには迷惑などかけてはいないよ』

    ただ会話をするだけで息が切れそうになる。
    いつどこで戦いが始まるかわからない。
    言葉選びは慎重に。

  • 139スレ主25/05/04(日) 22:45:24

    『ナギサさん、この度は本当にセイアさんがお世話になりました』

    模倣ナギサは深々と頭を下げる。

    『それと早速ではありますがナギサさん、本日のトリニティ側の戦力はどのように配置なさったのですか?』

    「まず、一般生徒の皆さんへは休校指示を出しましたので本日は全員自宅待機となります。そして、正義実現委員会とシスターフッドの皆さんは、先日教えていただいた侵攻ルートの途中に待機していただいています」

    『あれ、そっちのセイアちゃんは?』
    「セイアさんは私たちとは別行動で、先生と一緒にトリニティ自治区のパトロールをお願いしました」
    『そうでしたか。セイアさんがお世話になったお礼をしたかったのですが……残念です』

    模倣ナギサは視線を落とし、少し残念そうな顔をする。
    そして今度は顔を上げ、ナギサの後ろに見えるトリニティ総合学園の、ティーパーティーのテラスをじっと見つめていた。
    そしてナギサもそれに釣られるように振り返り、同じ場所を見つめる。

    『守りたいですね。私も、この学園を愛していますから』
    「……そうですね」

    『そのためでしたら、いかなる尽力も惜しみません』
    「私も同じ考えです」

    『ですのでナギサさん』
    「何でしょうか」



    『トリニティ総合学園ティーパーティーの席を、私たちにお譲りいただくことはできませんか?』

  • 140二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 02:51:20

    まぁそうなるよなぁ…

  • 141スレ主25/05/05(月) 07:45:08

    保守コーナー 〜狐の夢のかけら〜

    やあ先生、保守の時間だよ。
    今度は一体どんな展開になるのかな。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    セイア『もう何を言っても無駄みたいだね、ミカ、ナギサ。やっぱり夢で視た通りになってしまった』

    セイア『これ以上君たちに罪を重ねさせはしない』

    ナギサ『くっ……ミカさん!』

    ミカ『道連れなんてさせるわけないよね、そんなこと!』

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    そうだ、ここで私は二人を手に掛けようとする。
    誰かが人殺しになる物語だなんて、絶対に認めるつもりは無かったのに。
    それなのに私は……。

    というわけで今回はここまでだよ。
    先生、次に保守が必要になる時また会おう。

  • 142二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 08:39:49

    ミメシスセイア…………

  • 143二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 09:21:33

    開戦
    しかし……仮に乗っ取り成功したとして、メフィストに吸収からの入れ替わりされる可能性は考えてないのか?
    いや、そもそもトリニティ乗っ取りは模倣ナギサの考えなのか、それともメフィストの悪巧みなのか?
    それに模倣セイアが見た予知夢の声はいったい…

  • 144スレ主25/05/05(月) 14:15:56

    「……!」

    模倣ナギサはホルスターから銃を取り出し、ナギサの後頭部に突きつける。
    模倣セイアの言った通りだった。
    あらかじめ聞かされていたとはいえ、ナギサに緊張が走る。

    「……お望みであればトリニティへ入学し、一人の生徒として教育を受けられるよう手配することも可能ですが、それではご満足いただけませんか?」

    振り返らないまま、あくまで冷静にナギサは会話を続ける。

    『いいわけがないでしょう。同じ容姿に同じ能力なのに、社会的地位において格差が生まれているのはおかしいと思いませんか?』

    模倣ナギサの語気が強まる。
    言葉遣いこそ丁寧なものの、その節々に怒りと憎しみが感じられる。

    『片やあなたは生徒会長として脚光を浴び、何一つ不自由の無い生活をしていることでしょう。そして私は暗い地下で日の目を見ることなく、紅茶さえも手に入らないような惨めな日々を送り続けてきました』

    『こんな不条理、到底受け入れることなどできません。ですからナギサさん、交代しましょう?もう十分良い青春を味わったではありませんか』

    「私は……」
    『おおっと〜!変なことしちゃダメだよ、本物ナギちゃん?私だっていつでも撃てるんだからね?』

  • 145二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 14:40:31

    どうすることも出来ないのか……
    無いよな、うん……

  • 146スレ主25/05/05(月) 16:29:34

    振り返ろうとするナギサを模倣ミカが牽制する。
    その銃口はしっかりとナギサへ狙いを定めていた。

    『ミカさん?これからは私たちが『本物』になるんですよ?その呼び方は改めないといけません』
    『それもそっか★』

    そしてその様子を見ていた模倣セイアが、模倣ナギサの前に両手を広げて立ち塞がる。

    『セイアさん?どういうおつもりですか?』
    『ナギサ、ミカ、こんなことはもう止めるんだ!君たちのことは全てトリニティに伝えてある!』

    すると模倣ナギサは冷め切った目で模倣セイアを一瞥し、ため息をついた。
    模倣ミカもそれまでの可愛らしい笑顔から一変、模倣セイアを睨みつけている。

    『は?何?セイアちゃん裏切ったの?』
    『セイアさん、なぜ私たちの邪魔をするのです?』

    ミカもナギサも怒り心頭といった様子だ。
    親友の怒りにたじろぐ模倣セイアだが、ここで引き下がるわけにはいかない。

    『道を踏み外した君たちを止めたいからに決まっているだろう。あの日、私が君たちに外の世界を見せたから……』
    『それは違いますよ、セイアさん』

    模倣ナギサが模倣セイアの言葉を遮る。

    『あの日、セイアさんが私たち自身の愚かさに気づかせてくれたからこそ、今があるのです。むしろ感謝しているくらいですよ』

  • 147スレ主25/05/05(月) 18:06:19

    『愚かなものか!裕福な暮らしなんていらない!三人一緒に居られればそれで良かったんだ!なのに私は欲張ってしまった。だから、あの悪魔に付け入る隙を与えてしまった……』

    模倣セイアは距離を詰め、縋るように模倣ナギサと模倣ミカの手を取る。
    その顔は今にも泣き出しそうなほど、悲しみでくしゃくしゃに歪んでいた。

    『私が悪かった!私は本当にわがままばかりの愚か者だ!それでもこれだけは譲れない!一緒に帰ろう!今ならまだ間に合うから!』

    『お願いだ……まだ、やり直せる……!』
    『セイアさん……』

    模倣ナギサはゆっくりと模倣セイアの手をほどき、優しく微笑んだ。

    『ナギサ……』



    直後、あたりに乾いた破裂音が響き渡った。
    それは模倣ナギサが模倣セイアの頬を張った音であった。

    『っ……!』
    「セイアさんっ!」

    ナギサが模倣セイアに駆け寄り、倒れ込む体を支えた。
    頬は赤く腫れ、目尻には涙が浮かんでいる。

    『正直なところ、あなたが私たちを裏切ることはわかっていました。少し前から私たちに隠れて密告の機会を伺っていたのは気付いていましたよ』

  • 148二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 18:08:09

    うぐっ……辛いですね、苦しいですね…

  • 149スレ主25/05/05(月) 18:28:37

    模倣ナギサは心底軽蔑するような目線を向けたまま続ける。

    『やはり外の人間たちに絆されて変わってしまったのですね。以前のセイアさんは違いました。新しいものを次から次へと持ってきて、私たちにそれを分け与えて、希望を見せてくれました』

    『ですが今のあなたは違うみたいですね。二言目には『帰ろう』だの『裕福な生活はいらない』だの、ずいぶんとつまらない腑抜けに堕ちたものですね』

    『もう結構です。百合園セイア、最早あなたは友人などではありません。私たちの理想の邪魔をする敵として、今日ここで旧トリニティと共に消えていただきましょう』

    『……』

    模倣セイアは言葉を発することもなく、ただ茫然とすることしかできなかった。

    「さっきから黙って聞いていれば……!」

    友人同士の喧嘩には口を挟まないつもりであったが、ついにナギサの堪忍袋の緒が切れた。

    「友人に対して何という口の利き方をするのですか!!ここまで親身にあなた方のことを思い遣ってくれる人を張り飛ばすなど、人間の所業ではありません!恥を知りなさい!!」

  • 150スレ主25/05/05(月) 19:25:45

    ナギサは理解できなかった。
    ミメシスたちがエデン条約の事件の後に生まれている存在であるなら、その時自分たちの身に起こったすれ違いや悲劇の記憶もあるはずだ。
    それなのにどうしてここまで利己的な判断しかできないのか。

    『あなたの言葉など何の重みもありませんよ。おろしたてのような良い服を着て、高いところから人々を見下ろし、権威を振りかざして自分が悪党と断じた者に説教を垂れる。ええ、さぞ気持ちがいいでしょうね』

    しかしナギサの怒りも虚しく、模倣ナギサはまるで聞く耳を持たなかった。
    というより、相手を感情のある一人の人間と認識していないような振る舞いだった。

    (ダメです、まるで話が通じません。これが本当に私のミメシスなのですか?まるで認知機能が壊れているような……)

    相手が自分と同じ顔をしているのも相まって、ナギサの頭にも血が上り始める。
    もう黙ってはいられない。
    銃を抜くためにホルスターに手を伸ばしたところ、模倣セイアが覆い被さるようにしてそれを制した。

    『待って、待ってくれナギサ。違うんだ!彼女たちは本当はもっと優しい子たちなんだ!ただ今は事情があって……』

  • 151スレ主25/05/05(月) 20:09:45

    模倣セイアは頬を腫らしたまま、被害者であるにもかかわらず加害者を庇っている。
    しかし模倣ナギサの追い打ちは止まらない。

    『何です?説得しに来たかと思えば今度は庇って。今更私たちに取り入ろうとしてももう遅いですよ?どっちつかずで煮え切らない。甘く、弱い人間を見ていると虫唾が走りますね』

    『今はっきりと自覚しました。私はあなたのような人間が……』

    「やめなさい……!」

    ダメだ。
    それ以上を口にすれば後戻りができなくなる。
    ナギサは制するように手を伸ばすが、その善意は届かなかった。



    『心の底から大嫌いなのだと』

    彼女の言葉を聞いた模倣セイアの体がぴくんと、小さく跳ねた。
    そしてその直後、まるで糸が切れた人形のようにその場にへたり込んでしまった。
    耳は力無く垂れ、魂の抜けたような無表情。
    大きく見開いた目からはとめどなく大粒の涙が流れている。

  • 152二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 20:27:35

    あららぁ……
    ミメシスセイアのSAN値が……

  • 153スレ主25/05/05(月) 20:54:03

    それを見た瞬間、ナギサの心は夜の雪原のように冷え込んでいった。
    目の前の敵のことなど目もくれず、模倣セイアを優しく抱きしめ、その背を、頭を撫でている。

    「大丈夫ですよセイアさん。私はあなたのような人、大好きです」

    ただでさえ小柄な彼女の背中が、ひどく小さく感じられた。
    少しでも傷が深くならないように、壊れてしまわないように、ナギサは優しく声をかける。

    『さてナギサさん、本題に戻りますがいかがいたしましょう?私たちとしては穏便に済ませたいのですが……』

    そう言うと模倣ナギサはスマホを取り出し、誰かにメッセージを送っている。

    『もし抵抗されるというのであれば、少々強引ですがこちらも武力を行使させていただきます』

    模倣ナギサが言い終わると同時に、彼女たちの後ろにいくつもの青黒い光の柱が立ち上がった。
    天を貫くような高さのそれは数秒で消え去り、柱があった場所にはユスティナ聖徒会のミメシスが立っていた。

    青白い肌に修道服、無機質なガスマスク。
    賊の私兵と成り下がった戒律の守護者たちが、静かにナギサを見つめている。
    やはりミメシス同士裏で繋がっていた。
    数は二百ほどだろうか。
    事前にナギサが調査していたミメシスの数と一致する。

  • 154スレ主25/05/05(月) 21:19:56

    自分が有利な立場になったと自覚したのか、模倣ナギサは先ほどまでの怒りの表情とは一転、穏やかな笑みを浮かべていた。

    『さて、こちらの兵力に対しそちらは主要な戦闘要員を学園の外へ送っているはず。曲がりなりにもティーパーティーのホストであるあなたなら、どのような判断が賢明かはお分かりで……』

    「お好きにどうぞ」

    それまでは感情のこもった声色だったのが一変、冷たく分厚い壁のような、相手の一切を拒絶するような意思を感じさせる無機質なものへと変わっていた。

    「ティーパーティーの席が欲しいのですよね?ええ構いませんよ。学園に編入すれば選挙に立候補する資格を得ることができますから。そこで当選すれば晴れてあなたは学園の長となるでしょう」

    「そうすればあなたもおろしたてのような良い服を着て、高いところから人々を見下ろし、権威を振りかざして自分が悪党と断じた者に説教を垂れることだってできますよ。ええ、さぞ気持ちがいいでしょうね」

    これだけの敵を目の前にしようともナギサは決して動揺しなかった。
    彼女は淡々と模倣ナギサの質問に答えている。
    先ほどまでの自分の言い方をそっくり返すようなもの言いに模倣ナギサは不快感を示すも、ナギサの怒気に気圧され口を挟めずにいる。

  • 155スレ主25/05/05(月) 21:53:41

    「ですが、『先代』ティーパーティーとして一つ言わせていただきます。目の前の友人一人大切にできないような者に、生徒たちを纏め上げる事など決してできません」

    それはナギサのかつての経験から来るものだった。
    人を疑い、檻に閉じ込め、虚飾にまみれた城を築いても待っているものは破滅の未来だけである。

    「あなたには精々、周りに誰もいない空っぽの玉座がお似合いですよ」

    ナギサが冷ややかな目で模倣ナギサを睨みつける。

    『ちっ。ねぇナギちゃんほんとコイツうざいんだけど!もう撃っていい?』

    すると先ほどまで静かにしていた模倣ミカがナギサのもとへ歩み寄り、銃を向ける。
    上から目線で言われ続けるのが余程不快だったのだろう。
    怒りに歪んだ表情でナギサに向けられている銃口は、今にも火を吹きそうだった。

    その瞬間、突然模倣セイアが立ち上がり、向けられていた銃に掴み掛かった。

    『ちょっ、やめてよ!』
    「セイアさん!」

    先ほどとは異なり、その目つきはとても力強いものだった。

    『ありがとうナギサ。私に優しい言葉をかけてくれて、私のために怒ってくれて……!』

    そしてそのまま模倣ミカを突き飛ばした。

  • 156スレ主25/05/05(月) 22:54:18

    『はあ、はあ……!』
    『何なの、弱っちいくせにいきなり突っかかってきて。意味わかんないんだけど』

    模倣ミカは苛立ち混じりに吐き捨てる。
    力では負けていないが、今まで見たこともないような気迫に思うように反撃できずにいる。

    『もう何を言っても無駄みたいだね、ミカ、ナギサ。やっぱり夢で視た通りになってしまった』

    『これ以上君たちに罪を重ねさせはしない』

    模倣セイアは覚悟を決めたように言い放つ。

    『後ろのミメシスたちが見えませんか?ミカさんだっているのに、あなた一人で私たちをどうにかするなど……』
    『できるさ』

    模倣セイアは目の前の親友の目を見てはっきりと口にした。
    その言葉には一切の迷いも、恐怖も感じられなかった。

    『"私"は以前予知夢を通してソレにほんの少しだが触れている。その時にできた繋がりが私の中にもあるなら、この場に招き入れることだってできるはずだ!』

    模倣セイアは何かに手を伸ばすように、右手を天へかざした。

    『なになに?仲間でも呼ぶの?』

    模倣ミカは笑っているが、模倣ナギサの方は嫌な予感を感じ取り、一筋の冷や汗を流す。

  • 157二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 23:25:12

    いつかはハッピーエンドになるって信じてるから
    ハッピーエンドになるよね…?
    ハッピーエンドになってくれ(懇願)

  • 158スレ主25/05/05(月) 23:40:23

    (招き入れる?何を?以前接触した……予知夢で……)

    模倣ナギサは必死で『桐藤ナギサ』の記憶を辿る。
    模倣セイアのやっていることはハッタリなどではない。
    確実にこの状況をひっくり返すような何か、そう感じさせるほどの気迫があった。

    そして一つの結論に辿り着く。

    『まさか……色彩!?』

    模倣ナギサがその名を出した途端、模倣ミカの顔色も変わる。
    そして空を見上げると、分厚い雲の向こう側に何かが浮かび上がっているのがうっすらと見える。
    狂気の光がすぐそこまで迫ってきているのがわかった。

    『そんなものを呼んでどうするつもりですか!?百合園セイアはソレに少し接触しただけで昏倒したというのに!』

    『そうだね。今からやろうとしていることを考えたら、この戦いが終わった後私は確実に命を落とすだろう』

    『それでも決めたんだ。ここで君たちを終わらせて、あの悪魔にも引導を渡すと!』

    『くっ……ミカさん!』
    『道連れなんてさせるわけないよね、そんなこと!』

    模倣ミカが銃を構え、色彩との接触を目論む模倣セイアを狙う。
    模倣セイアの反転が先か、模倣ミカの銃撃が先か。



    そして、広場に一発の銃声が響き渡った。

  • 159二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 00:54:00

    まったく同じと言いつつも違うとこがあるねぇ…
    メフィストが弄ったのか、それともはいきょぐらし!で歪んだのか…

  • 160スレ主25/05/06(火) 08:49:34

    保守コーナー 〜狐の夢のかけら〜

    やあ先生、保守の時間だよ。
    今度は一体どんな展開になるのかな。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    ミカ『ナ、ナギちゃ……あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!!』

    ナギサ『あぐっ!うっ、う"う"う"う"う"う"う"う"!!』

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    "ハンカチを差し出す"

    ありがとう先生。
    やっぱりここは……何度見ても辛い。
    少し休憩しようか。

    というわけで今回はここまでだよ。
    先生、次に保守が必要になる時また会おう。

  • 161スレ主25/05/06(火) 14:54:00

    『うっ、ぐうぅ……!』

    模倣セイアは困惑していた。
    自分は何もしていない。
    ただ突然、目の前で模倣ミカの手から銃が弾き飛ばされたのだ。
    彼女はうずくまり手を押さえている。

    『い、痛い……痛い……!』

    一体何が起こったのか。
    疑問に答えるように、後ろにいたナギサが模倣セイアの掲げられた右手に優しく手を添え、そっと下ろさせた。

    「やはりご自分の命を犠牲にしようとしましたね。止める算段を立てておいて正解でした」

    ナギサは左へ顔を向け、遥か遠くの建物へ視線を向ける。
    模倣セイアも模倣ナギサもつられて同じ方向を見る。

    よく見ると建物の上に誰かがいる。
    そこにいたのは黒い制服に黒い羽根、黒い長髪を持つ生徒。



    「ナギサ様、メミシス聖園ミカの無力化に成功しました。ミメシス桐藤ナギサおよびミメシスユスティナ聖徒会拘束の許可を」

    正義実現委員会三年生、羽川ハスミである。
    彼女は耳元の通信機に手を当て、主へ報告を行った。

    「許可します。正義実現委員会、任務を開始してください」

    ナギサの合図と同時に建物の陰や植え込みの後ろなど、様々な場所から次々と正義実現委員会の生徒が飛び出してきた。

  • 162スレ主25/05/06(火) 18:27:23

    『なっ!?』

    模倣ナギサは驚いている間に銃を奪い取られ、地面に押し倒され両手を後ろで拘束されてしまった。

    『ナ、ナギちゃ……あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!!』

    模倣ミカも立ち上がらないうちに複数人からテーザー銃を撃ち込まれ、模倣ナギサ同様に拘束された。
    ユスティナ信徒たちも抵抗を試みるが、戦闘慣れしていない弊害か次々と無力化されていく。

    『こ、これは一体どういう……?広場には人を近づけさせないように姉さんには伝えたはずだ!』

    模倣セイアはナギサの方へ顔を向け、説明を求めた。

    「はい、確かにセイアさんからはそのように伺っていましたよ。そして、こうも仰っていました」

    「きっと私の馬鹿な妹は、自分の命と引き換えに事態を収束させようとするはずだ。それだけは阻止してほしい」
    「それと妹よ、心配をかけないよう『どこへなりと消える』なんて誤魔化した言い方をしても無駄さ。全てお見通しだ。姉を舐めるなよ」

    『姉さん……』

    「ですから私たちは、戦力のほとんどをここトリニティ中央へ集中させました。念のためツルギさんら一部戦力のみ予定通り侵攻ルート上に配置していますが、戻ってきていただいて良さそうですね」

    『ナギサ……。そうか、ありがとう』

  • 163二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 18:37:58

    お姉ちゃん……

  • 164スレ主25/05/06(火) 19:15:16

    話し終わる頃には敵勢力は全て鎮圧されていた。
    自分が視ていた夢とは違う未来へ進み始めたのか。
    安心感からか、模倣セイアは力が抜けたようにその場にへたり込んでしまった。
    遙か上空に感じていた色彩の気配もすでに消えている。

    「ナギサ様、ミメシスたちの拘束が完了しました。次の指示を」

    拘束を完了し、報告のために正義実現委員会生がナギサの元へやってきた。

    「ありがとうございます。これだけ人数が多いと学園に収容するスペースは無いので、ヴァルキューレにも支援を要請してください」
    「了解しました!」

    「それと今回の事件、犯人を捕まえただけでは終われません。これまでのミメシスとは異なり、彼女たちには意思がある」

    「そして、恐らく彼女たちの首領であるメフィストフェレスについても取り調べをしないといけませんね……」

    ナギサは横目で模倣ナギサへ視線を向ける。
    彼女はうつ伏せで地面に押し倒されている。
    その表情は怒りに歪んでおり、血が上っているのか顔が真っ赤になっていた。

    『桐藤ナギサ……!!』

    歯を食いしばり、睨み殺さんばかりの視線をナギサへ向けながら彼女は叫んでいる。

    『私を見下ろすなァ!!何で、どうしてお前が!!私が、私がティーパーティーのホストになるはずだったのに!!』

  • 165スレ主25/05/06(火) 20:00:04

    声は裏返り、顔や服が泥だらけになるのも構わず芋虫のようにもがいている。
    そしてその怒りの矛先は模倣セイアへも向かった。

    『はあ、はあ……セイア!!この裏切り者が!!お前のせいで!!お前のせいで……!!』
    『殺す!!お前だけは絶対に許さない!!この売女め!!』

    「大人しくしなさい!」
    『あぐっ!うっ、う"う"う"う"う"う"う"う"!!』

    正義実現委員会生に頭を押さえつけられ、模倣ナギサは鼻水と涙を流しながら獣のように唸っている。

    しかしナギサはそれを見てもなんの感情も湧かなかった。
    ただ、悪いことをした子どもがみっともなく逆上しているだけ。
    それだけだった。

    「セイアさん、もうじき雨が降りそうです。先に中へ入っていてください」

    ナギサは優しく声をかけ、模倣セイアの背中に手を添える。
    これ以上彼女に親友たちの苦しむ姿を見せたくなかった。

    『ああ、そうするよ。本当にありがとう、ナギサ』

    静かな、力の抜けたような声。
    全て終わったがゆえの疲労感と、仲間に傷つけられた悲しみ、その仲間を地獄に叩き落とした罪悪感で模倣セイアはすでに限界だった。

  • 166二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 20:16:35

    おや、模倣セイアの様子が…?

  • 167二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 20:50:43

    あの、さっきまで色彩呼ぼうとしてた人がそんな状態になっていいんですかね……
    杞憂だったらいいのですがすごく怖いですが……あの

  • 168スレ主25/05/06(火) 20:53:52

    それでも、いつまでもここに座り込んでいるわけにもいかない。
    模倣セイアはよろよろとしながらも立ち上がった。
    そんな彼女の体をナギサは支えている。

    するとそこへ、ミメシスたちと戦闘を行っていた正義実現委員会生の一人、マシロがやってきた。

    「ナギサ様、ご報告があります。今メフィストフェレスの看守を担当している者から連絡があったのですが、ミメシスたちの計画の中にシャーレの先生を誘拐するというものがあるそうです」

    「先生を!?それは一体どういう……」

    「看守曰く、勝手に口を滑らせたとのことです。それと、その内容が嘘である可能性も踏まえた上でナギサ様にお伝えしたいと」

    「わかりました。先生の方にはミカさん方がついているので大丈夫とは思いますが、早めに戻ってきてもらうように連絡しておきましょう」

    用件を伝え終わるとマシロは持ち場に戻って行った。
    ミメシスたちを拘束した後も、しばらくは後処理などで忙しくなりそうだ。
    模倣セイアはそんなナギサを見て申し訳なさを感じていた。

    『すまないナギサ。作戦の立案や指揮がある君の方がよほど疲れているだろうに』

    「いえ、今のあなたは精神的にとても疲弊しているはずです。比べられるものではありません。私たちのことは気にせず、ゆっくり休んでください」

  • 169スレ主25/05/06(火) 22:03:32

    「それに、先生やセイアさんの協力もあって作戦自体は昨日の夜までにスムーズに決まりました。そのおかげで作戦の展開も日を跨ぐ前に完了し、休息を取ることもできています。ですので、私は平気ですよ」

    ナギサは本当に疲労を感じていないかのような声色で答える。
    きっと疲れているのだろうが、今は彼女の言葉に甘えることにした。

    『それは良かった。じゃあ、私は先に戻っているよ』

    模倣セイアはゆっくりと学園の方へ歩きだした。

    これからどうしようか。
    捕まった模倣ミカや模倣ナギサが釈放されるのはいつになるのだろうか。
    彼女たちと面会はできるのだろうか。
    仮に面会できたとして、また以前のような仲に戻れるのか。
    自信がなかった。

    なにせ予知夢では怪物と化して暴れ回った後、その先どうなるかをこれまで視たことがなかったからだ。
    今朝だって同じ夢を視て、同じところで終わった。

    しかし大半の人はこんな能力は持っていない。
    みんな未来が視えない恐怖を乗り越えて日々を過ごし、人間関係を構築しているのだ。
    自分も見習わなくては。





    『……今朝だ』

  • 170スレ主25/05/06(火) 22:51:07

    模倣セイアの足がぴたりと止まる。

    「?セイアさん、何か仰いましたか?」
    『視たんだ、今朝も!あの夢を!!君は日を跨ぐ頃に準備を終えたと言ったな!?私はその後に!今日の朝にトリニティが崩壊する夢を視たんだ!!』

    「何ですって!?」

    模倣セイアは急いで駆け戻り、驚くナギサの二の腕を両側から掴んだ。
    彼女は状況を整理するべく必死に頭を振り絞りながら叫んでいる。

    『まだ脅威は去っていない!!終わっていないんだ!!恐らく奴だ!メフィストフェレスだ!奴が絶対に出て来られないよう監視の強化を……!』

    そこまで言いかけたところで、一人の正義実現委員会生が学園の中から飛び出してきた。
    彼女はナギサの元へ駆け寄り、息を切らしながら報告する。

    『ナギサ様、申し訳ありません!奴が、メフィストフェレスが脱走しました……!!』

    考え得る限りの最悪の知らせが届いてしまった。
    ナギサも模倣セイアも目を見開いたまま、言葉を失う。

  • 171二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 07:06:34

    絶望が過ぎる!

  • 172スレ主25/05/07(水) 07:27:13

    保守コーナー 〜狐の夢のかけら〜

    やあ先生、保守の時間だよ。
    今度は一体どんな展開になるのかな。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    だめだ、また何も見えなくなった。
    おそらくメフィストが何かを企んでいる。
    けどこちらからできることは何も無い……!
    頼む、どうかみんな無事でいてくれ……。

    というわけで今回はここまでだよ。
    先生、次に保守が必要になる時また会おう。

  • 173二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 10:19:01

    模倣ナギサ様が偽ピナに見える……
    これ中身の意思、別だったりする感じ?

    一番動きが読めない奴がフリーになった

  • 174スレ主25/05/07(水) 15:26:07

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    時は遡り、模倣ナギサたちがトリニティへ到着した頃。
    地下の不良生徒の収容施設にヒフミのミメシス、つまりメフィストフェレスが収容されていた。
    物を隠し持てないよう上下ともにスウェットを着用し、両手両足は縛られている。

    『あ、あの、お手洗いに……』
    「さっき行ったばかりでしょう。我慢しなさい」
    『う、ううう……』

    彼女についた看守は一人、先ほど前任者と交代したばかりである。
    二時間ごとに他の生徒と交代し、常に誰かが見ていられるようになっている仕組みだ。
    そして今ついている看守は最後の一人である。

    しかし今のところ、メフィストは目立った行動は起こさず大人しくしている。
    その振る舞いは本物の阿慈谷ヒフミと変わりなく、ナギサを通して模倣セイアから提供された情報とはあまりにもかけ離れていた。

    しかしかえってそれが不気味だった。
    聞くところによると、彼女は謀略を巡らせ人々の善意を踏みにじり、悪意を煽動するような悪魔だと言う。
    それと、看守を引き継ぐ直前に前任者から聞いた言葉がずっと頭の片隅に残り続けている。

    「気をつけて。彼女、夜の間一睡もしてなかったみたい。横になったり寝転んだりはしていたけど、片時も看守から目を離さなかったわ」

    決して油断などできない。

  • 175スレ主25/05/07(水) 18:37:06

    もうすぐ模倣ナギサたちがやってきて、ナギサの作戦通りに進むならミメシスたちを拘束できる手筈だった。
    その後ヴァルキューレに引き渡すその時まで気は抜けない。

    『あ、あの、朝ごはんって出ないんでしょうか……?』
    「はあ、もうすぐあなたの処遇が決まるから、それまで我慢して」

    だと言うのに、当の本人は本当に気の抜けたことを言う。
    万が一冤罪だった場合は釈放、そうでなければヴァルキューレで朝食を取ることになる。
    嘘は言っていない。



    そんな時、看守の中に一つの疑問が湧いた。

    (何故、今『朝』だとわかったの?)

    ここは地下で窓も無く、外の光は入らないうえに時計の類は収容者から見える位置には置いていない。
    時間を把握するのは不可能だ。

    なら看守の誰かが教えたのか?
    それは考えにくい。
    なぜなら余計な情報を与えないよう事前に通達されていたからだ。

    だとしたら考えられる可能性は一つ。
    メフィスト自身が時間を数え続けていたということ。
    そう考えた瞬間、全身に鳥肌が立った。

    しかし確証があるわけでは無い。
    看守は檻の方へ振り返り、メフィストの様子を見る。

  • 176スレ主25/05/07(水) 19:43:56

    『朝はパン、パンパパン……』

    しかしそんな不安をよそに、彼女はベッドに座りとぼけた歌を歌っている。
    そんな時、ふいに彼女と目が合った。
    それに気付いたのか、彼女はニッと笑って声をかけてきた。

    『あ、もしかして看守さんパン派ですか?私はもっぱらご飯派だったんですけど、最近味覚が鋭くなってパンの味の違いがわかるようになったんです。それからパン屋さんを巡るのが楽しくなって……』

    くだらない世間話に付き合うつもりは無かった。
    看守は無視して視線を前に戻す。

    『あ、あれーっ!?もしかしてご飯派でした!?ほら、学園近くのパン屋さん、ちょうど今ぐらいから開店なんですよ!登校前に行けば焼きたてが買えるので最近気に入ってて……って、私学校行ってないんでした……』

    聞いていた話と違う。
    明らかに自分が看守になってから口数が増えた。
    何を狙っている?

    『うーん、どうやらご興味のある話題を提供できていないみたいですね。でしたらこんな話はどうでしょう?』



    『どうして私が時計も見ずに今の時間を把握できているか、とか!』

  • 177スレ主25/05/07(水) 20:11:08

    「!!」

    自分から話を振ってきた。
    揺さぶりをかけているのか。
    看守に緊張が走り始める。

    「どうせ、一睡もせずせこせこ時間を数えていたとかでしょ?くだらない」
    『普通一発で当てますかね!?ドヤ顔で解説しようとしてた私が恥ずかしい人みたいじゃないですか……』
    『はい、看守さんの言う通りです。私が捕まったのが十七時 五十分、そこから移動、収監の間は数えてました』

    『で、ここに来てから看守さんは二時間おきに交代していることがわかったので、それを把握してからはちょっと手を抜きましたね』
    『で、あなたで七人目なので今は八時……十二分とかですかね?』

    看守は自身の腕時計を確認する。

    「……残念、八時 二十分よ」

    『いやもうそこまで当てているなら普通『おお〜』ってなりません!?あれ、ていうかお姉さんも腕時計派なんですね!しかもそれビビアンイーストのやつじゃないですか!わ〜おいいセンス!やっぱりこういう時スマホじゃなくて腕時計出せる女性ってかっこいいですよね〜』

    こちらが一言話す間に十は喋る、というより捲し立ててくる。
    時間や看守の交代間隔を把握しているのも、一方的に話しかけてくる距離感の無さも、呼び方を段々親しげなものに変えてくるのも、いちいち時計のブランドまで見て話を振ってくる様も、全てが気持ち悪かった。

  • 178スレ主25/05/07(水) 20:52:51

    何より一番不快だったのは、そんな相手にほんの一瞬『気が合うかも』と思わされたことだった。
    自分はパン派で学園近くのパン屋でこの時間よく焼きたてを買うし、腕時計もブランドから自分で見繕ったものだった。
    事前にメフィストのことを聞かされていなければ、きっと心を開いてしまっていただろう。

    こいつは相手の懐に入る術に長けている。
    これ以上は喋らせない。

    「あまり余計なことは言わない方が身のためよ。看守を懐柔しようとしても無駄。あなたたちの計画は全て筒抜けなのだから」

    『あうう、まるで悪者みたいな扱いですね……。で、でも、それなら私たちの計画を邪魔して、先生を独占しているあなたたちの方がよっぽど悪い人たちなんじゃないですか?』

    少し反抗的な態度で言い返して来る。
    しかし気になったのはそこではない、先生だ。
    何故今先生の話が出て来る?
    自分たちが聞かされた計画はトリニティを襲撃するというものだった。

    「……どうして今、先生の話が出てくるのかしら?」
    『どうしてって、私たちの計画は…………あっ!』

    そこまで言いかけてメフィストは口をつぐんだ。
    口を滑らせたと確信した看守はすぐさま詰め寄った。

    「答えなさい!!先生を狙って何をするつもり!?」

    壁際に逃げようとするメフィストの胸ぐらを掴み、怒鳴りつけるように問いかける。

  • 179スレ主25/05/07(水) 21:30:06

    『お、教えません!!私たちだって先生に勉強を教えて欲しいんです!!邪魔しないでください!!』

    涙目になりながら抵抗するメフィスト。
    看守は舌打ちし、掴んでいた手を離した。

    『うっ、ううううううわあああああん!助けてペロロさまああああああああ!!』

    我慢の限界だったのか、メフィストはわんわんと泣き出してしまった。
    しかしいちいち構ってなどいられない。
    看守はスマホを取り出し、ナギサへと電話をかけた。
    まだミメシスたちは隠していることがある。
    それを伝えなくては。

    コール音が鳴る。
    一回、二回、三回……。
    しかしナギサは出ない。

    ならば、自分の最も信頼できる友にかける。
    コール音、一回、二回……。

    〈もしもし、どうしました?〉

    その友とは正義実現委員会一年生、静山マシロであった。

    「よかった、出た!ねえマシロ、近くにナギサ様はいる!?」

    〈ええ、いますが……確かあなたは今看守の当番でしたよね。何かあったのですか?〉

    「今メフィストが口を滑らせて、ミメシスの計画でシャーレの先生が狙われている可能性があることがわかったわ。おそらく誘拐でもしようとしているのかも。嘘の可能性もあるけど、それを含めてナギサ様に伝えて欲しいの!」

  • 180スレ主25/05/07(水) 22:02:03

    〈わかりました。確かに〉

    マシロを通してナギサへ計画のことを伝えることはできた。
    あとは自分の役目を全うする。
    絶対にこいつから目を離さない。
    看守は電話を切り、スマホを制服のポケットへ仕舞い込んだ。



    『オッケーグー◯ル!ヘイ◯リ!電話かけて!番号はXXX-XXXX-XXXX!』

    さっきまで寝転んで泣いていたメフィストが突然起き上がり、はっきりとした発音で音声アシスタントの起動ワードと電話番号を口にした。

    「なっ!?」

    看守は急いで仕舞ったばかりのスマホを取り出す。
    すでに電話をかけ始めてしまっていたが、すぐに切った。

    『あああっ!!切られちゃいました……』

    メフィストはがっかりした顔で項垂れている。
    今度こそ容赦はしない。
    看守は再び目の前の罪人へとに詰め寄った。

    「通話の許可などするわけがないでしょう……!!答えなさい!今誰にかけようとしたか!!」
    『ん"っ、ん"ーっ!!』

    メフィストは口を閉じて首を横に振っている。
    もう発砲してもいいだろうか。
    看守の苛立ちは段々と強くなっていく。

  • 181スレ主25/05/07(水) 22:31:35

    (駄目、冷静になって)

    しかし看守は冷静さを決して失わなかった。
    一度深呼吸し、状況を整理する。

    一体どこに、何故電話をかけようと思ったのか。
    救援を呼ぼうにも、自分の状況を一言も話せず切られてしまうという可能性を考慮できなかったのか。
    しかしこれまで話していた様子を見るに、そんな当たり前のリスクを考慮できないほど馬鹿である可能性は皆無に等しい。
    そこまで考えたところで、看守の中に別の可能性が浮上した。

    通話をするのが目的なのではなく、電話をかけることそのものが目的だとしたら?
    それだけでも多くの情報が相手に伝わる。

    例えば、メフィストの現在の看守の電話番号だとか。



    その瞬間、看守のスマホから着信音が鳴った。

  • 182スレ主25/05/08(木) 06:48:22

    保守コーナー 〜狐の夢のかけら〜

    やあ先生、保守の時間だよ。
    今度は一体どんな展開になるのかな。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    まだ見えなくなったままか……。
    私はずっと奴を見てきたが、何を考えているのか、何を望んでいるのか、私にはついぞ奴の心を理解することは叶わなかった。
    飄々とした態度の奥に見えたのはまるで空洞のような、空っぽの心。

    というわけで今回はここまでだよ。
    先生、次に保守が必要になる時また会おう。

  • 183二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 09:07:35

    スマホの電源は切りましょう
    うーん…カスミの上位互換って感じ。何もさせず、喋らせず叩きのめすのが最適解なのがよくわかる

  • 184スレ主25/05/08(木) 14:02:26

    恐る恐る画面を見てみると、そこには『桐藤ナギサ』の名前が表示されている。
    間違いない、登録してあるナギサの番号だ。
    しかしタイミングが悪すぎる。
    看守は警戒を解かずに電話に出る。

    「もしもし……」

    〈もしもし、桐藤ナギサです。当番表を確認しましたが、あなたが現在のメフィストフェレスの看守ということでよろしいですか?〉

    「ええ、そうです」

    〈今しがたミメシスたちの拘束を完了し、ヴァルキューレへ引き渡す手筈を整えています。ですので、メフィストも同様に引き渡すべく、牢屋から出して正門前まで連れてきていただけますか?〉

    間違いない。ナギサの声だ。
    そしてその内容にも今のところ不審な点は見当たらない。

    「……承知いたしました」

    〈ありがとうございます。今そちらへ正義実現委員会の生徒を一人向かわせています。メフィストの拘束は解かなくて大丈夫ですので、その方と二人で連行をお願いしますね〉

    言葉遣いも物腰柔らかで、特に違和感は感じなかった。
    時間的にも計画通り、ヴァルキューレに引き渡す手筈で間違いない。
    ミメシスに成り代わられる可能性も考慮して、その合図もナギサから直接行われることになっていた。
    全てに辻褄が合う。

  • 185スレ主25/05/08(木) 18:35:01

    そしてそれに対し、猛烈に嫌な予感を感じていた。
    先ほどメフィストにかけさせられた電話がどうしても気になる。
    違和感を拭いきれなかった看守は、再度マシロへ連絡することにした。

    〈もしもし?今度は何がありました?〉
    「ごめんマシロ、何回も。でもどうしても確認したいことがあって。ナギサ様のミメシスってもう拘束された?」

    〈はい、五分くらい前に。ミカ様やユスティナ信徒のミメシスも同様です。既に戦闘は終了していますよ〉
    「その間、誰かと電話してる様子はあった?」

    〈いえ、ずっと本物のナギサ様やミメシスのセイア様と話していて、スマホを取り出している様子はなかったですね〉
    「そっか。あともう一個質問」



    「本物のナギサ様って、今まで誰かと電話してた?」
    〈ええと、私が知る限りは一回だけ。自治区の警備をしている先生に早めに戻ってきてもらうために連絡したくらいで、あとはスマホに触れてもいません〉

    答えを聞いた瞬間、看守は血の気が引いていくのを感じた。
    決まりだ。先ほどの電話は敵の策略だ。

    「マシロ!!まだ終わってない!外部に協力者がいる!!誰かがメフィストフェレスを脱獄させようとしてる!今すぐトリニティ校内の警備を……っ!」

    言い終わらないうちに、背後から近づいていた何者かにスマホを取り上げられてしまった。
    通話に夢中で、近づかれていることに気づけなかった。
    その生徒は正義実現委員会の制服を着ていて……。

    『お待たせしました。ナギサ様の指示により伺いました。メフィストフェレスの身柄を移動させましょう』

    その肌は、薄暗い地下でもわかるほど青白かった。

  • 186スレ主25/05/08(木) 19:33:14

    〈もしもし?もしもし!?何かあったんで……〉

    そして通話を切られてしまった。
    看守の腹部には既に銃口が突きつけられている。
    最大限警戒したつもりだった。
    しかしそれでも詰まされた。

    看守が絶望感に包まれている時、後ろの牢屋からはくすくすと笑い声が聞こえて来る。
    恐る恐る振り返ると、そこには阿慈谷ヒフミの顔とは思えないほどの邪悪な笑みを浮かべた、少女のような何かがいた。

    『くっくっくっ、楽しかったですよ〜お姉さんとの心理戦!』

    『いや〜でももっと早くかける予定だったんだけどなぁ、電話。普通時間聞いたらスマホ取り出すと思うじゃん?そこで腕時計見た時は焦ったね』

    『だから、ありもしない先生誘拐計画の話をでっち上げたら確認の電話かけてくれないかなーって賭けたんですよね。そしたら見事、罠に掛かってくれましたね!電話だけに』

    『まあ、こんな問答せずに賭けで音声アシスタント起動させても良かったけど、ワンチャンスマホ持ち込んでなかったら詰んじゃいますからね?』

    「あなた……」
    『ああいや、確認の電話をするのは正解だと思いますよ?私でもそうします』

    『そしてお姉さん!あなたの次のセリフはこう!』

    『あなた、これも計算のうち?』

  • 187スレ主25/05/08(木) 20:14:11

    「けい……さん……」
    『あったりまえよ!このメフィストフェレスは何から何まで計算ずくだぜーっ!』

    メフィストは得意げな態度で拘束された両腕を高く掲げている。

    『いや〜しかし発信番号の偽装とAI使ったボイチェンで完全に騙せると思ったのに、最近の子のネットリテラシーの高いこと高いこと……』

    看守は己の敗北を悟った。
    しかしまだトリニティは負けていない。
    彼女は最後の反撃に出る。

    「そう。この短い間でだけど、私はあなたのことが少し理解できたと思うわ。あなた……」

    『ん〜?言っておきますが時間稼ぎはさせませんよ!対戦相手を称えてお話は聞きますが、一分以内でお願いします!』

    「感謝するわ。あなた……」



    「友達作るの下手なタイプでしょう?一方的に捲し立てたり、会話のテンポと距離感がおかしいもの」

  • 188スレ主25/05/08(木) 20:26:20

    『え?』

    「それと、あなた実年齢相当いってるでしょう。言葉の節々や価値観に古臭さが出ていたもの。対等っぽく話してるくせに微妙に知識マウントを取りたい感が見え隠れしているのが最高に香ばしいわね。若い姿に憧れてヒフミさんの見た目をしているのかもしれないけれど、制服を着てはしゃいでいる痛いおばさんにしか見えないわ。あ、失礼しました。見えない『ですよ』」

    『……』

    「多分あれですよね?子どもの頃上手くいかなかったから若い姿を手に入れてやり直そうとしたけど根本的な人間性に問題がありすぎてまた失敗しそうだったから逆らわないお人形作っておままごとに逃げた結果、何者にもなれなさそうだったから大慌てでトリニティを奪う計画を立てて子どもたちの前に立ちはだかるラスボスごっこに縋り付いてるってオチですよね?蛆みたい」

    「あ、怒りました?怒りましたよね?浮腫みすぎて元気百倍顔パンパンマンですよ。怒りと浮腫みだけが友達だったようですね。これぞ蛆パン本仕込〜♪はい一分ありがとうございました」

    言ってやった。
    この時見たメフィストの怒りに歪んだ顔を、看守の少女は生涯忘れないであろう。



    『……モブちゃんやっちゃって』

    そして数発の銃声の後、看守は意識を手放した。

  • 189二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 20:33:05

    煽り散らかしてやがる…

  • 190スレ主25/05/08(木) 20:41:02

    ここから先は次のスレにさせてもらうよ。
    立ててくるから待っていてくれたまえ。

  • 191スレ主25/05/08(木) 20:45:28
  • 192スレ主25/05/08(木) 21:00:13

    こちらのスレはもう埋めるだけだね。
    まずはここまで読んでくれて本当にありがとう。
    たくさんのハート、コメントも本当に嬉しいし、そのお陰でモチベーションを保ててると言っても過言ではない。

    あと、コメントは全て目を通しているよ。
    うまく誘導に乗ってくれたかと思えば、まだ公開してもないような真実に辿り着かれそうになったり、書き手としてもとても楽しい時間を過ごせている。
    リアルタイムで更新する掲示板ならではの醍醐味だね。

    もう少しで半分行くぐらいの進み具合だから長い物語にはなるけど、頑張っていくよ。

    では、次スレで会おう。

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています