(SS)PointNemo

  • 1◆l7elE92Qk0.U25/04/25(金) 22:29:32

    声が聴こえる。きゅーい、きゅい。きゅーい、きゅい。
    ごぽごぽ、ざーざー。きゅーい、きゅい。ごぽごぽ、ざーざー。きゅーい、きゅい。
    目を開けると海の中。マーちゃんは海の中。でも、息苦しくはありません。

    ここは夢の中。マーちゃんが見ている夢なのです。
    夢の中だから自由自在。体をくねらせすーいすい。
    エスコートはシャチの様なイルカの様なクジラの様な生き物。
    きゅーい、きゅいとマーちゃんを呼ぶのです。

    サンゴの森を越え、昆布の密林かき分けて、目指すは不能極。
    役目を終えたものたちの楽園、墓場。海のみんなと目指すのです。
    海の上は台風の群れ。荒れ狂う龍の棲み処。でも、ご安心。海の中は穏やか。
    先導する生き物に釣られてマーちゃんご一行はどんどん大きくなります。
    これもマーちゃんの人徳がなせる業なのです。どややっ。

    聴こえる音は泡の音、水の音、誰かの声。
    ごぽごぽ、ざーざー。きゅーい、きゅい。ごぽごぽ、ざーざー。きゅーい、きゅい。
    ごぽごぽ、ざーざー。きゅーい、きゅい。ごぽごぽ、ざーざー。きゅーい、きゅい。

    気付けば何もない場所。生き物もマーちゃんご一行だけ。到着なのです。
    さあ、みなさん。底へ参りましょう。暗い暗い海の底へ。何も居ない、宇宙船たちが静かに眠る海の底へ。
    けれども潜れません。マーちゃんだけが潜れません。浮くことも沈むことも出来ません。
    ただ海中で宙吊りになり、みんなが沈んでいく様子を眺めるだけ。

    そうしていると海面から誰かが声をかけてくる。太陽と大きなレンズ。そして大きな手が伸びてくる。
    その手はマーちゃんを海から引き上げるのです。

    いつもここで目が覚めるのです。海の底、子供の時は潜れたのに今は潜れません。
    マーちゃんを引き上げてくれるレンズさん。最近はあなたの手の温もりを感じながら目が覚めるのです。

  • 2◆l7elE92Qk0.U25/04/25(金) 22:29:49

    「マーちゃんクエスチョンです。この生き物は何でしょう?」
    「マーちゃんはこの生き物のお名前が知りたいのです」
    その日は座学をトレーナー室で進めていた。一息付けようかというタイミングで突然そう切り出される。
    彼女の手には、スケッチブック。そこにはイルカの様な生物が描かれていた。

    「なんだろう? シャチ? いやでも模様も無い」
    「そうなのです。でもイルカさんやクジラさんでも無さそうなのです」
    確かにどれにも見えるが、その姿は微妙に違う。イルカにしては口が短いし、クジラにしては小さい。
    だが、何か見覚えがある。頭の引き出しを片っ端から探ると、ある生物が浮かんだ。

    もしかして……。

    記憶を頼りにスマホにワードを打ち込み、画像検索をする……特徴は合致している。さあ、どうだ。
    彼女にスマホの画面を向け、その生物の画像を見せる。

    「マーちゃん、この生き物じゃないかな?」
    「! この生き物なのです。マーちゃんを連れて行ってくれたのはこの子なのです」
    どうやら正解の様だ。そいつの正体は"オキゴンドウ"いわゆるクジラの一種だ。
    それしても、なぜこの生物を知りたがっていたんだ? 疑問が顔に出ていたのか、彼女はそのまま続ける。

    「夢を見るんです。オキゴンドウたちに先導されて、海の中を漂う夢を見るんです」
    「夢?」
    「はい、子供のころから何度も見ている夢なのです」
    一体、その夢には何か意味が有るのだろうか? 彼女はただ俺を見つめて微笑むだけ。

    何か有る。直感がそう訴えかけるが答えは見つからない。

    マーちゃん、俺は君に何が出来る?

  • 3◆l7elE92Qk0.U25/04/25(金) 22:30:02

    夢を見た。

    何もない大海原で漂流する夢を。

    小さな船には俺一人。

    穏やかな海の真ん中、ポツンと一人。

    強い日差しは、不思議と心地よく。

    声が聴こえる。誰かの声。

    辺りを見渡せど何もない。

    やはり聴こえる。誰かの声が。

    そうか、海の中か。

    身を乗り出し、海中へ手を伸ばす。

    誰かの手が触れる。

    "この手を離してはならない"

    直感を頼りに握りしめ、力の限り引き上げる。

    海中からは一人の少女。

    そうか、君は……。

  • 4◆l7elE92Qk0.U25/04/25(金) 22:30:12

    以上
    アストンマーチャンをよろしくお願いします

  • 5◆l7elE92Qk0.U25/04/25(金) 22:30:23
  • 6◆l7elE92Qk0.U25/04/25(金) 22:30:37
  • 7二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 22:41:59

    まさに役目を終えた物たちが最後に行きつく場所、というわけか
    可愛らしい鳴き声や表現で構成されているのに強烈な死の匂いを感じさせる、さすがだぜ兄貴

  • 8二次元好きの匿名さん25/04/25(金) 22:44:43

    ポイントネモっつーとあれだろ
    人に会おうとすると直線距離なら陸地より国際宇宙ステーションの方が近いってやつ

  • 9◆l7elE92Qk0.U25/04/25(金) 23:13:48

    >>7

    オッスオッス!

    感想ありがとナス!

    死は終わりで有り始まりでもある


    >>8

    陸地から行くと荒れる海を限られた補給で渡って行くわけだしな

    地球って不思議

  • 10◆l7elE92Qk0.U25/04/26(土) 00:01:17

    一発上げておこう
    アストンマーチャンをよろしくお願いいたします

  • 11二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:20:26

    脳内マーちゃんボイス余裕だった
    マーちゃんと船に乗って海を流れてくれて手を差し伸ばしてくれる人
    まだマーちゃんが居なくなるその日ではない
    そういうことにしてしまおう

  • 12◆l7elE92Qk0.U25/04/26(土) 00:39:53

    >>11

    ありがとナス!

    専属レンズがいる限り消えないさ

  • 13二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 02:02:02

    オキゴンドウって人魚のモチーフだったりするのかしら
    読んでてマーチャンの儚さが人魚姫のそれっぽく感じたぞ

  • 14二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 02:04:02

    >>5

    犬の鳴き声のようにも聞こえる 

    不思議だ

  • 15二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 02:17:15

    何ができる?と言いつつ自分でも知らぬところでマーチャンが不能極へ導かれるのを防ぐ男マートレ…素敵だ

    子供の頃は行けたってことはいつ消えてもおかしくないし、消えることを受け入れるつもりでいたってことだろうからたぶんこれって時系列的にはマートレのエゴに人生観破壊されて流れに逆らうと決めたあの時以降かな?

  • 16◆l7elE92Qk0.U25/04/26(土) 10:08:24

    >>13

    ありがとナス!

    人魚のモチーフだとジュゴンぐらいしか聞かんなあ

    なお、オキゴンドウは割と人にフレンドリーだし他種のイルカを助けたりする陽キャだが、

    はえ縄漁にかかった魚を頭だけ残して掻っ攫う畜生でもある


    >>14

    クジラともイルカとも違うから面白いよな


    >>15

    専属レンズは人間の鑑

    時系列的にはそのぐらい

  • 17二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 19:33:07

    本当に専属レンズがいてくれてよかった

  • 18◆l7elE92Qk0.U25/04/26(土) 23:27:55

    >>17

    専属レンズは全てを解決する

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