- 1二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:24:18
とある日の放課後、校庭へと続く廊下。学園の地図や小冊子などがまとめられた掲示板から外れた場所にぽつんと1つのポスターが掲示されており、おれの目はそのポスターに釘付けになっていた。
【素直になれない貴女へ! この薬を飲んで気になるあの人へ想いを伝えよう! テスター募集中】
多くの人は一笑に付すであろう怪しげな謳い文句。だが、今のおれにはそれがとても魅力的な誘いに思えた。
「素直になれる薬、かぁ」
誰にでもなくそう呟くと、頭に浮かぶのはトレーナーさんの顔だった。トゥインクルシリーズの道を一緒に歩み、沢山のものを与えてくれた人。トレセン学園に来てからの多くの記憶の中にはいつもトレーナーさんがいて、隣でおれを支えてくれていた。優しくて、かっこよくて、おれのことを信じてくれ続けたトレーナーさん。
――――そんな彼のことが、おれは大好きだった。
それは勿論トレーナーとしてという意味でもあるが、それ以上におれは彼に大きな想いを抱いている。ただそれはあまりにも烏滸がましくて……なにより、彼を縛ってしまうからずっと自分の中に秘めていた想い。
(これを使えば……もしかしたら)
ポスターの左下には【ご連絡はこちらまで】の文字とともに受取先の部屋が書かれていた。壁時計に目をやると、まだまだトレーニング開始までは時間がある。これを取りに行くくらいなら問題なさそうだ。
(こんな薬なんて絶対怪しいよね。でも……この薬があればトレーナーさんに伝えられるのかな。おれの、気持ちを)
頭の中でぐるぐると思考しつつも、おれの足は無意識にポスターに書かれた部屋へ向かってしまっていた。 - 2二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:24:56
─────
(……来ちゃった)
辿り着いた部屋の前で立ち尽くす。
ここまで来てしまったのだから今更引き返すわけにも行かないのだが、どうにも入る決心がつかない。暫く扉の前で立ち往生していると、木製のドアがギィと軋んだ音を立てて中から長髪のウマ娘の姿が見えた。
「おや、あなたは……」
「あっ!……え、えと、ケイエスミラクルです……その、ポスターを見て伺ったんですけど……」
「なるほど……薬のテスターとしていらっしゃった、と」
「は、はい」
「わかりました、どうぞ入ってください」
最低限の挨拶を済ませると、手招され部屋へ通される。入って辺りを見回すとビーカーや瓶に入った様々な薬品らしき物が並べられており、物々しい雰囲気に包まれていた。部屋の何処かから煙が出ていたり、ピカピカと光っていたりして明らかに普通ではない。
(だ、大丈夫なのかな……)
様々な薬品の入り混じったツンとした匂いが鼻を刺す。警戒心を持ちながら彼女のあとについていくと、やがてもう一人のウマ娘が目に入ってきた。
彼女は確か……
「タキオンさん、お客様ですよ。ポスターを見て来たそうです」
「ん? おお、コレはコレは……随分と意外な人のお出ましだねぇ。初めましてかな? ケイエスミラクル君」 - 3二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:25:16
「はい、あの……初めまして……」
ヒラヒラと両腕の裾を揺らしながらこちらへ近づいてくる彼女に緊張と少しの恐怖を感じ、身思わず体が硬直してしまう。
「ククク、そんなに怖がらないでくれたまえ。コレを受け取りに来たんだろう?」
彼女がポケットからカラカラと音を立てながら取り出した瓶の中に紫の錠剤が見える。
「それ……」
「そう、コレが件の薬だ……かみ砕いて言うと、自白剤に近いモノだね」
「その、失礼なんですけどその薬って本当に効果はあるんですか?」
聞くやいなや彼女はより一層笑顔を浮かべて両手を仰ぎ指揮者のようなポーズを取る。
「勿論! 効果は既に実証済みだよ……彼女、カフェに頼んでね」
視線の先に目を移すと、カフェと呼ばれた少女がキッとした目で彼女を睨み返す。
「……仕方なく手伝っただけです」
「彼女は自分のトレーナーに甘えるのが少し苦手でね。せっかくだから私の薬の効能を試してもらったんだ」
「タキオンさん、それ以上は……」
「薬の効果は抜群でね、彼女は1日中トレーナーにべったりと……」
「――タキオン」 - 4二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:25:37
ゾワリ。
そんな擬音が聞こえるほどに冷たい声が発されると同時。
パリンッ!
「うわっ!?」
机の上に置かれていたビーカーが粉々に砕け散った。辺りを見回してみるが、当然の如く3人以外誰の姿も見当たらない。
「ちょ! 落ち着くんだカフェ! 私が悪かった、悪かったから!」
「……はぁ」
彼女は怒気を込めたため息をつくと、ふいと横に顔を逸らしてしまった。
今のは……なんだったんだろう?
「ま、まあとにかく……効果は実証済みだ。安心してくれたまえ!」
と、言葉と共にひょいと瓶を渡され改めてそちらに目を落とす。先ほどは気づかなかったが、中に入っている錠剤は淡く鈍い輝きを放っていた。
「あ、あの……そういえばテスターって具体的に何をすればいいんでしょうか?」
「なに、難しいことはないさ。君は普通にその薬を飲んで対象の相手と話してくれれば良い。暫くしたら私が様子を見に行くからねぇ。薬の詳細についてはこちらを読んでくれ」
「は、はい……あの、ありがとうございます!」
「なに、礼には及ばないさ。いい結果を期待しているよ」 - 5二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:25:59
見送られながら部屋を出る。歩きながら先ほど手渡された資料を見ると薬の成分や効能が記されていた。
どうやらこの薬は服用した人間が好意を抱いている人間を前にしたときに効果を発揮し、その中でも特に愛情に起因した感情を強く反映するらしい。服用後10分で症状が現れて、効果が切れた後は副作用として強い眠気が発現するとのことだ。
詳細を読み進めていくと、ひときわ大きな赤文字で記されている注意書きが目を引いた。
(効果が出た後は、くれぐれも対象の相手の体に触れないこと……?)
後から書き足したものなのか、これだけプリントされた文字ではないようだった。相手の体に触れるとどうなるのかは記載されていないが……
「っとと、そういえば……」
再び時計に目をやると、いつの間にかトレーニング開始まで15分を切っていた。意を決して瓶を開け、中の錠剤を取り出す。
(本当は、こんな薬に頼らないで伝えられたら――)
そんな思考を振り切るように頭を振ってから錠剤を口に放り込んで、少しの苦みを感じるソレをゴクリと飲み込む。
(これで本当に素直になれるのかな?)
正直言ってまだこの薬の効果を信じ切ることはできないが、時間が経てばいずれ分かることだ。早まる鼓動を感じながら足早にトレーナー室へと向かった。 - 6二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:26:32
─────
「ひとまずこれくらいかな……さて、今日のメニューは」
溜まっていた仕事に一区切りつけ、トレーニングメニューを確認する。ミラクルの担当トレーナーになってからはや3年。トレーニング開始前に軽い書類整理やメニューの再確認をするのがすっかり日課になっていた。
「ふあ……」
トレーナーとしての功績を評価され、最近は任される案件や新人へのアドバイスなどの業務も少しずつ増加したため、こういった隙間時間にたまった仕事を消化するのが習慣づいた。まぁその影響で睡眠時間が前より減ってしまったのもあるのだが……
ただ、そんな評価の大半は俺の能力に対するものではなくミラクルの頑張りに起因するものであるとは思う。トレーナーとしてはまだまだ不十分、そんなことは自分が一番よくわかっていた。彼女には本当に感謝してもしきれない。
「っと、もうこんな時間か……」
パソコンを見ると時刻はすでにトレーニング開始の時刻を指していた。
だが、いつもはとうにミラクルが部屋に来ている時間であったが、まだ姿は見えない。
「ミラクルが遅れるなんて珍しいな……まぁ、待つか」
静かな部屋の中、なんとなく部屋の隅へと目を移す。視線の先にはこれまでミラクルと共に獲得してきたトロフィーがこれまでの足跡を示すように光り輝いていた。それを見るとこれまでの記憶が改めて一つ一つ脳裏によみがえり、思わず涙腺が刺激される。
はぁ……大人になると涙脆くなるっていうのは本当なんだな。
「いつか……」
そう。いつか。
いつかは俺とミラクルにもきっと、別れの時がくる。
極力考えないようにはしているが、一人になるとどうしてもそんなことを考えてしまう。 - 7二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:26:51
『トレーナーさん、言ってましたよね』
『……おれが、最初で最後の担当でもいいって』
『じゃあ、おれからのお願い――どうか。最初で最後には、しないでください』
『あなたにとっての終わりも、遠くに、遠くに、置いてください』
以前ミラクルから言われた言葉が頭をよぎる。
彼女は俺にこれからもトレーナーを続けてほしいと、そして……こんな、未熟な俺の事をみんなに語りたいと言っていたのを記憶している。
(……逆なんだよ、ミラクル)
逆なんだ。
俺の方なんだ、君の事をずっと語り続けたいのは。
君がどんなに速くて、努力家で、素敵なウマ娘か……俺は、それをずっと語り続けたい。
――離れ離れじゃなくて、君のそばでずっと語り続けたい。
(俺は……)
心の奥底で、彼女と離れたくないと思い続けている。
それはあまりにも利己的で我儘な感情だと、よくわかっている。
ただ、もし……ミラクルも同じ思いで居てくれたなら……
「はは……自惚れだな。そんなことは」
とりとめもないことを考えて自嘲気味に笑い、窓に目を移す。そこから除く空には一面に雲がかかり、どんよりと重い空気が漂っていた。 - 8二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:27:52
そんな感傷に浸っていると、ガチャリと音をたててドアが開かれる音が聞こえる。振り返るとミラクルが部屋に入ってきたようだった。
「お。ミラクル、お疲れ様」
「……はい。お疲れ様です、トレーナーさん」
「……?」
気のせいだろうか。ミラクルの雰囲気がなんだかいつもと違うような……
「トレーナーさん? どうかしましたか?」
「い、いや……ごめん。なんでもないよ」
「ふふ……そうですか」
なんだろう。
見た目も喋り方もいつもと何も変わらないのに、何かが決定的に違う気がする。
……まぁ、気にしていても埒が明かないか。
「今日のトレーニングは……」
「そうだ、トレーナーさん。その前にちょっと質問があるんです」
「え? あぁ、うん……俺に答えられることならいいけど」
言うや否や、ミラクルはずいっと机に身を乗り出してきた。
そんな彼女らしくない行動に思わず椅子ごと後ずさってしまう。
「ミ、ミラクル……?」 - 9二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:28:15
「トレーナーさんは……」
ミラクルが両目でしっかりと俺を見据え、そこに吸い込まれるような錯覚に陥る。得も言われぬような緊張感。ゴクリと生唾を飲み込み彼女の言葉を待つ。
「子どもは何人欲しいですか?」
「…………えっ?」
「トレーナーさんは、何人くらい子どもが欲しいですかと聞いたんです」
「……え~っと、それは俺の子どもってこと?」
「はい。おれとトレーナーさんの子どもです」
「はっ?」
耳を疑った。
今……なんて言った?
「ミラクル?」
「はい」
「聞き間違いかな? 今、俺とミラクルの子どもって聞こえたんだけど……」
「いえ、聞き間違いじゃないです」
いえじゃない、聞き間違いじゃないと困る。
心の中でツッコみつつコホンと一息ついて呼吸を整える。 - 10二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:28:33
「……まず答えるとね、子どもが何人欲しいかっていうのは考えたことはないかな。それとね、子どもっていうのは結婚した夫婦が授かるものなんだ。分かるよね」
「はい、でもおれはトレーナーさんと結婚する気なので問題ないですよ」
「……」
頭が痛くなってきた。
どうなっているんだ一体。
やはり何かおかしい、いつもの彼女ではない。
「……あのさ、結婚って一般的には好きな相手とするものなんだよ」
「おれ、トレーナーさんのこと大好きですよ。あっ、でもトレーナーさんはどうですか? おれのこと好きですか?」
「ミラクル、ちょっと待ってくれ」
「待ちません。もしかしておれ以外と結婚するつもりですか? 嫌だなぁ、おれ以外の人にトレーナーさんが取られちゃうの……」
「ミラク」
「結婚したトレーナーさんをおれは指を咥えて見てるしかないんだろうなぁ。おれにしか見せたことのない笑顔を婚約者に見せて、幸せそうに笑い合ってるんだ。トレーナーさんの記憶からはおれのことなんて消えて、幸せな家庭を築いて人生を進めていくんだろうなぁ、嫌だなぁ……嫌だなぁ……」
「ミ」
「でも、ふとした時におれの事を思い出して連絡を取ろうとするとおれが病に伏していることを知るんだ。余命いくばくもないおれと再会してトレーナーさんは両手を握ってくるんだ。これまで会えなかったことを後悔しながらだんだんと冷たくなっていくおれの身体を……」
だめだ、止まらない。 - 11二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:28:52
「ミラクル!」
「あっ……」
彼女の傍へと移動し肩に手を置く。
それと同時に、ミラクルは先ほどまでの妄言が嘘のように俯いて黙りこくってしまった。
「どうしたの? いつもの君らしく……」
「ふ、ふふ……」
「ミ、ミラクル……?」
ミラクルが肩を震わせながら笑い出す。
嵐の前の予兆を感じて肩から手を放そうとするがそれはあまりにも遅く、ミラクルに両腕をとられてしまった。
「トレーナーさん……トレーナーさん……」
「あ、あの……ミラクルさん……?」
「トレーナーさんが悪いんだ……」
うわ言のようにそう呟きながらミラクルは両腕を掴んだまま俺を床に押し倒してきた。
「ちょちょちょ……ミラクル! 落ち着くんだ! 冷静になってくれ!」
「おれはいつでも冷静です」 - 12二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:29:11
血走った目で人を床に押し倒すウマ娘のどこが冷静なんだよと思ったが、今はそんなことを言っている余裕はない。
「あぁ、トレーナーさん……トレーナーさん……おれの大好きなトレーナーさん……」
ミラクルは俺の胸に顔を埋めてうっとりとした表情を浮かべており、いつもの彼女からは想像のつかないとろんとした目で俺の姿を捉えている。
「ミラクル……ちょっと落ち着いて話そう」
「落ち着いて……? はは、おれは落ち着いてますよ?」
と、ミラクルの服のポケットから何かの瓶が音を立てて落ちてきた。
「これは……薬か?」
「ああ、これですか? タキオンさんから貰ったんですよ」
もしかして、これを飲んだのか?
だが一体何の……
「『素直になれる薬』だよ。まだ名前は考えていなくてね」
声の聞こえる方に視線を向けるとアグネスタキオンがドアの隙間からこちらを覗いていた。
「ふむ、見たところ彼女は少し暴走しているようだが……君、ミラクル君に触っただろう?」
思案して先ほどのミラクルとの会話を振り返る。
そういえば……
「ああ、落ち着いて貰おうとして肩に手を置いたけど……まさかあれが……?」 - 13二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:29:35
「あっはっは、まさに逆効果だったというわけだね! そう、対象の肉体に触れると気持ちが肥大化して暴走してしまうんだ」
ケタケタと憎たらしい笑顔を向ける彼女だが、俺の身体から離れてくれないミラクルを制止するのに精一杯で悪態をつく暇もない。
「ちなみに、その薬は抑圧している気持ちが大きいほど効果が大きく出る。今のミラクル君の状態を見るに、よほど気持ちを抑えていたようだね」
暴走しているとは言え、さっきのミラクルの言葉は全てが妄言というわけではないのだろうか。
いや……それより今はこの状況をどうにかすることを考えなければ。
「……これはどうやったら止められるんだ?」
「時間経過で効果が切れてくれるのを待つしかないねぇ……さて、良いデータもとれたし私はお暇させてもらうよ」
「あっ! ちょっと待……!」
彼女はタタタと廊下をかけていくと、どこかへ消えてしまった。くそっ、どうすれば……
「そういえば、まだおれ答えを聞いていません」
思案に耽っているとミラクルがこちらに問いを投げかけてきた。
「こ、答え……?」
「はい、トレーナーさんはおれのことを好きですか?」
「それ、は……」 - 14二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:29:54
答えるのが憚られる。
今の状況の彼女に伝えて良いのかというのもあるが、一般論として……教育者としてこの気持ちは伝えるべきではないだろう。
だが……
「トレーナーさん……おれ、トレーナーさんのことが好きです。だから、トレーナーさんにも自分の気持ちを言ってほしいです」
彼女は先ほどまでの態度から一転してしおらしくなり、その瞳を潤ませている。
「俺は……ミラクル、俺は……」
「……あっ」
「ミラ、クル……?」
ミラクルは起こしていた上半身ごと俺に倒れかかり、スースーと寝息を立て始めてしまった。
「効果が切れた……ってことか?」
安堵の息を漏らしつつ、ミラクルを抱え上げソファへ寝かせる。
とりあえず、彼女が起きるまで傍にいよう。 - 15二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:30:10
─────
うぅ~ん……なんだか頭がガンガンする。
さっきまでトレーナーさんと話してたような……
目を開けると見慣れたトレーナー室の天井が視界を覆う。
「ここは……」
「目が覚めた?」
「あ……トレーナーさん」
どうやらソファの上で寝てしまっていたようで、横ではトレーナーさんがなんだか心配そうな顔で笑っていた。
「あの、おれ……さっきまで何を? トレーナーさんと何か話してた気がするんですけど……」
「あー……えっと、それは……」
トレーナーさんはバツが悪そうな顔をして、目を泳がせている。何か話したくないことがあるんだろうか。
「ミラクル……これ、分かる?」
「それ……」
タキオンさんから貰った薬の瓶を手渡される。
確かこれを飲んで…… - 16二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:30:25
……
…………
………………!!
「あ、ああ……あああぁぁ……!?」
「ミラクル……?」
そうだ、全部思い出した。
全部、全部、全部………!
「あの、あのあの……おれ……ししし、失礼します!」
「あっ! ミラクル!」
トレーナーさんの言葉を遮るように急ぎ足で部屋を出る。廊下にはトレーニングに向かう生徒や帰宅する生徒が行き交っており、そんな中を何も考えず全速力で駆けた。廊下を走っていると誰かからの注意が聞こえてきたが……そんなもの、今は関係なかった。 - 17二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:30:52
─────
「……」
屋上まで辿り着きへたりと地面に座り込む。ただでさえ人の少ない場所だが、どんよりと曇った天気のせいもあってか今日は幸いにも無人のようだった。
「どうしよう……どうしよう……!」
おれ、トレーナーさんに……!
だめだ、考えただけで顔が真っ赤になる、頭がおかしくなりそうになる。あんなことをしたんだ、トレーナーさんに嫌われてしまったかもしれない。
「う……おれ……おれ……」
涙を必死に抑えてうずくまり──暫くするとポンと肩に手が置かれる感覚が伝わってきた。
「うぇ……あ……トレーナー、さん……?」
見ると、そこにはトレーナーさんがいた。
いつも通りの笑顔で。
「……ミラクル、探したよ」
「あ……す、すみません……あの、おれ……」
その笑顔を直視できず、俯いてしまう。あんなことがあってまともに顔なんて見られるわけがない。
「あー……ミラクル。気にしないで……って言っても君は気にするだろうから少し話をしようか。まあ、俺の独り言だよ」 - 18二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:31:51
トレーナーさんが横に座り込んで私に語り掛けてくる。
「薬のせいで本心じゃないかもしれないけどさ……ミラクル、君に好きだって言われて……嬉しかったよ」
「……」
「俺はさ……ミラクル。ずっと自分に自信がなかった。いや、今も自信なんてないんだけどさ」
「この3年間君の隣で歩んできて、こんな俺を頼ってくれる……そして常に懸命に生きている君の存在が、俺にとっての希望だった」
「……トレーナーさん、おれ、そんなんじゃ……」
「君には言ってなかったけど……ただの我儘だけどさ、俺は君と離れたくないって。ずっと傍にいたいってそう思ってた」
「……!」
「……俺の気持ちもさ、ミラクルと同じだよ。今はまだ、はっきりと言えないけど……君が卒業したらきちんと言葉で伝えるから……ミラクル、これじゃダメか?」
「とれ……な……さん……おれ、おれ……!」
顔をぐしゃぐしゃに濡らしながらトレーナーさんに抱き着くと、彼は優しくそれを抱擁して、抱きしめ返してくれた。
「大好きです……おれも……トレーナーさんと離れたくない……! 卒業してもずっと一緒に……いたい……!」
「ああ……ミラクル、約束しよう。俺は……君から離れない。ずっと君の隣にいるよ」
「うん……うん……っ!」
涙を拭いて彼の顔を見ると、照れくさそうに笑って俺と同じように目に涙を浮かべている。空を見上げるとすっかりと雲が晴れ、夕日が二人を照らしていた。 - 19二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:32:08
─────
「うーむ、やはりこの薬の効力は絶大のようだね! あとはやはり各成分の分量調整が必要か……」
「タキオンさん……あなたは人の恋路ばかり見ていないでモルモットさんとのことを考えた方が良いですよ。そんなことばかりしていると本当に誰かにとられちゃいますよ」
「う……うるさい! うるさい! 私は奥手なんだ、わかるだろう!?」
「はぁ……」 - 20二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 00:34:26
終わりです。
お読みいただきありがとうございました - 21二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 01:05:46
大変よかったです
- 22二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 02:15:39
- 23二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 02:59:17
この時間に読んだのがいけなかったのか…惚れ薬的話なのかホラーなのか判断がつかなかったぞ
ふう…惚気方面でよかった
もうちょい短くてもよかった気がするがホラー風味を味わえたので損はしてないぜ! - 24二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 05:52:01
途中でNTRものの妄想芽生えてて草なんだ
- 25二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 15:37:28
重い愛だ
だがそれがいいんだ - 26二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 23:36:10
「あにまんケイちゃんの思考を呼び覚ます薬」感強い
ミラクルがこれなら、もしかしてカフェはエッチな言葉に反応しまくってたのかもしれん - 27二次元好きの匿名さん25/04/26(土) 23:47:00
こんなもんシラフじゃ書けんよ
よう書いたな - 28二次元好きの匿名さん25/04/27(日) 02:04:23