- 1二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:54:38
- 2二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:54:51
「……C’est magnifique!」
バスから降りた瞬間、彼女は目を大きく見開いてそう言った。
栗毛の柔らかなそうな髪、凛々しさと愛らしさを感じさせる青い瞳、左耳には赤い耳飾り。
ヴェニュスパークは、尻尾をぱたぱたと振り回しながら駆け足で進んでいく。
俺はそれを見守りながら、彼女が目を奪われているであろう光景に視線を向けた。
流れていく水音、立ち込める硫黄の香り、そしてとめどなく舞い上がる湯煙。
パークは興奮した様子で、近くの柵に手を付けて、食い入るようにそれを見つめる。
「たくさんの煙がモクモク、すごいです! もしかして、今日は特別なfêteだったり!?」
「ううん、これはここの日常風景だよ、これは湯畑って言ってね」
「ユバタケ? ハタケ……champ!? ニホンのオンセンは畑で取れる、ですか!?」
「あはは、違う違う、湯畑っていうのは────」
俺は事前に調べておいた知識を、パークへと説明する。
彼女はそれを、目をきらきらと輝かせながらじっくりと聞いていた。
この日────俺達は温泉旅行へとやって来ていた。
以前、彼女が日本に来た時に何となくで応募した懸賞で、ペアの温泉旅行券が当たっていたためである。
本来であれば保護者的な立ち位置であるモンジューが同伴すべきなのだが、多忙のため来日は不可能。
旅行券の期限も近いということもあり、色々と親しい間柄である俺が同伴することとなった。 - 3二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:55:10
「……浅い、オンセン? あれはなんですか?」
「ん? ああ、あれは足湯だよ、ほら、他の人も靴下を脱いで脚だけ浸かってるでしょ?」
「アシユ! 私も浸かる、したいですっ!」
「旅館に荷物を置いてからの方が…………まあ、これくらいはいいかな」
「やたっ!」
耳をぴょこんと立てて、パークは弾む足取りで足湯へと向かっていった。
そして忙しなく靴と靴下を脱ぐと、浴槽の前でぴたりと停止する。
どうしたのだろうと隣から覗き見ると、彼女は緊張した面持ちで恐る恐る足先を付けようとしていた。
吹き出しそうになりながらも堪えてその様子を眺めていると、やがてちゃぽんという音が響く。
彼女はとろんと心地良さそうな表情を緩ませて、深く息を吐いた。
「ん……あっ……はああぁ…………これは、とってもすばらし、ですね」
「それは良かった、せっかくだから俺もご一緒させてもらおうかな」
「Oui、こちらへドウゾ?」
そう言うと、パークは横へとズレてくれた。
俺は靴と靴下を脱いでから、彼女が開けてくれたスペースへと腰掛けて足を湯につける。
ほどほどの温もりと優しい湯あたり。
なるほど、彼女がああなるのも納得だ、と思ってしまうほどの心地良さだった。
思わず、ほっと一息ついてしまう。
「これは確かに……気持ち良いな」
「アハッ、お顔がとろんとしている、ですよ?」
「……キミもね」
「ふえ!?」
慌てた様子でぺたぺたと自身の顔に触れるパーク。
そんな彼女を見て、俺は結局盛大に吹き出してしまうのであった。 - 4二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:55:24
しばらく足湯を堪能してから、俺達は旅館へと向かった。
この手の街の観光施設やお店は閉まるのが早い、そのため荷物を置いたら早めに出る予定だったのだが。
「……遅いな」
30分ほど経過しても、パークは待ち合わせ場所のロビーに現れなかった。
荷物の整理に時間がかかっているのか、あるいは迷っているのか。
お目付け役として少し不安になってきて、迎えに行こうかと考え始めた、丁度その時であった。
「オマタセ、です」
トントンと肩を叩かれて、どこか控え目なパークの声が聞こえてきた。
安堵に肩を撫で下ろしながら、俺は振り向いて────そのまま、固まってしまう。
待ち合わせ場所にやってきた彼女は、先ほどとは違う服を着ていた。
青と白を基調とした単衣の長着、淡い赤色の帯、鼻緒に華やかな柄の入った草履。
いわゆる、浴衣姿のパークがはにかんだ笑顔で、そこに立っていた。
「せっかくだから着る、しちゃいました…………どう、ですか?」
パークは少しだけぎこちない動きで、くるりと回って見せた。
尻尾がしゅるりとたなびいて、いつもより少しアップにした後ろ髪からはうなじがちらりと覗く。
西洋人形のような美麗な顔立ちと、日本の伝統衣装の組み合わせが妙にマッチしていて、ドキリとするほどだった。
「むう」
その姿にすっかり見惚れていると、不満気な声が聞こえてくる。
ハッと我に返ると、目の前には頬を膨らませて、ジトっとした目つきをしているパークの顔。 - 5二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:55:35
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- 6二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:55:45
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- 7二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:55:57
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- 8二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:56:00
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- 9二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:56:12
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- 10二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:56:48
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- 11二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:57:04
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- 12二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:57:25
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- 13二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:57:35
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- 14二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:57:49
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- 15二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:58:02
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- 16二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:58:13
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- 17二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:58:30
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- 18二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:58:46
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- 19二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:58:46
「……カンソー、ありませんか?」
「えっと、その」
何か言わないと、と思っても上手く言葉が出てこない。
彼女の魅力に対しては、どんな美辞麗句も上滑りしてしまいそうな気がしたから。
しばらくあたふたしながらも脳漿を絞ってはみたが、結局は何も思いつかない。
仕方なく、頭の中にある単純な想いを、正直に伝えることにした。
「……すごく似合ってる、キミの可愛らしさと綺麗さが、さらに引き出されてるというか」
フランス語よりも日本語の勉強に力を入れるべきだったかもしれない、と心底思った。
パークは俺の言葉を聞いて、ピンと耳を立てる。
そして、ぱあっと花が開くように、満面を笑みを浮かべた。
微かに頬を染めて、彼女はそっと呟く。
「えへへ、やたっ、ですね」
「……俺も、着て来れば良かったかな」
「オソロイ、ですか? C'est bien! それなら私も着替え、手伝います!」
「いや、一人で着られるから」
「……バッチリ覚える、しましたよ?」
「…………」
残念そうな表情を浮かべながら、うるうるとした瞳で見つめて来るパーク。
俺はその視線から、逃れることが出来なかった。
…………着替えは、殆ど一人でさせてもらったとだけは言っておく。 - 20二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:58:56
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- 21二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:59:08
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- 22125/04/28(月) 23:59:11
「……そういえば、パークは公衆浴場とかは大丈夫なのか?」
ホテルの近くにある有名な温泉施設へと向かっている最中、俺はふと思い出した。
フランスに入浴する文化はあまり根付いていない。
プロジェクトL'Arcでフランスに滞在していた時も、シャワーだけの日が続いて湯舟が恋しくなったことを覚えている。
温泉もあるにはあるが、水着を着用して楽しむスパ施設の趣が強かった。
だから、日本式の入浴は未体験なのではないか、と思ったのだが。
俺の心配とは裏腹、彼女はドヤ顔を浮かべながら胸を張っていた。
「心配はありません! オンセンを楽しむサホーは“あの子”に教わりましたから!」
「……“あの子”に?」
「voilà! 前回ニホンに来た時に、色んなオンセン、連れて行ってくれました!」
パークが話す“あの子”とは、俺の担当ウマ娘のことである。
凱旋門賞を始め世界のレースで幾度となくぶつかりあった、ライバルにして戦友。
前に来日した時は俺の方が忙しくて、“あの子”が面倒を見てくれていたのだが、まさか温泉巡りをしていたとは。
まあ“あの子”、銭湯とか温泉大好きだからね。
今回も授業とかの都合があってこれなかったけど、ギリギリまで必死に付いて行こうとしていたし。
「だからオンセンやセントー経験もばっちり、しました!」
「うーん、温泉と銭湯はちょっと違うんだけど」
「……? 違う、ですか?」
「説明はしづらいけど、一応、念のため確認をさせてね?」
きょとんと首を傾げるパークに対して、一般的なマナーについての質問を投げかけてみる。
水着などは着用しない、タオルはお湯につけないなど、その他諸々。
そして彼女は、それらの質問に対して淀みなく、正しく答えてみせた。
彼女自身の適応力か、はたまた“あの子”の教育の賜物か。
いずれにせよお土産は奮発しようと、俺は心に決めた。 - 23二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:59:20
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- 24125/04/28(月) 23:59:23
「ところで、“あの子”とはどんな温泉に行ったんだい?」
「山奥にあるフーコーメービな場所です! 動物達もいっぱいいる、してました!」
「へえ、そんな秘湯みたいな場所があるんだな……銭湯の方は?」
「セントーも同じ場所でありましたよ? すごく、大きかったです!」
「……うん?」
「まずはシロート丸出しのテレフォンパンチをダッキングで躱すのがコツ、って教わる、しました!」
「…………うん?」 - 25二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:59:38
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- 26125/04/28(月) 23:59:40
温泉に入って、ご飯を食べて、街を巡って、また温泉に入って。
そんな風にパークと楽しい時を過ごしていたら、あっという間に夜の帳が降りる時間となっていた。
「アワセユ、とびっきり熱い、です……!」
建物から出て来たパークは、顔を火照らせてふらふらとした様子でこちらへ向かって来た。
恐らくは他のお客さんに対抗心を燃やして、熱いお湯に挑戦してしまったのだろう。
そんな彼女に苦笑を浮かべつつも近づいて、手を差し出す。
「ほら、向こうにベンチがあるから少し休もう、飲み物も買ってあるよ」
「……ありがと、です」
パークはちらりとこちらを見てそう言うと差し出した手────ではなく、腕の方に縋りついて来た。
むぎゅっと、柔らかな感触が腕を包み込む。
湯上がりの暖かな体温、とくんとくんと小さく響く心臓の音、しっとりとしている髪。
赤みを帯びた彼女の顔は、妙に艶っぽく感じてしまう。
俺は何とか平静を装いつつ、彼女に抱き着かれたままベンチへと向かう。
「あっ、歩けるよね? それじゃあ、行こうか」
「ハイ……ふふっ」
微笑みを浮かべながら、パークは歩調を合わせてくれた。
ゆっくりとした足取りでベンチへと辿り着き、二人で腰かける。
そこは来たばかりの時に見た、湯畑の前。
ここは夜になるとライトアップされて、どこかロマンチックで幻想的な風景の様変わりする。
良い時間に来た、という反面────この旅行の終わりが近づいていることを、目の当たりにしている気もした。 - 27125/04/28(月) 23:59:53
「……はい、お水どうぞ」
「Merci、んっんっ……ぷはあ! 生き返る、しました!」
「どこで覚えたのそんなの」
渡した水を、豪快に飲み干していくパーク。
多分、これを教えたのはあの子なんだろうなあ。
「…………キレイ、ですね」
水を飲み終えて、パークはぽそりと呟いた。
彼女の視線の先には、様々な色に変わって行く湯煙。
それを楽しそうな、そしてどこか寂しそうな表情で見つめている。
多分、俺と同じことを感じているのだろう。
「今日、楽しかった?」
「モチロン! オンセンマンジュー、オンセンタマゴ、オカキに塩焼き、ウドンも……!」
「……なんか食べ物ばっかりだね」
「なっ!? ちゃんとオンセンやユモミだって覚える、してます! シツレーです!」
「あはは、ごめんごめん、まあ良い旅行になったなら何よりだよ」
「…………貴方は、どうでしたか?」
「すごい良かった、あんまり温泉街で興味なかったんだけど、これは認識を改めないとね」
「ふふ、それならうれし、です」 - 28二次元好きの匿名さん25/04/28(月) 23:59:56
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- 29125/04/29(火) 00:00:05
パークは嬉しそうに微笑みながら、尻尾をゆらゆらと揺らす。
未だに密着しているために、その尻尾は撫でるように、俺の背中へと当たっていた。
「また、行きたい、です」
「そうだね、今度は予定を合わせて“あの子”やモンジューも来られると良いんだけど」
「……………………ソデスネ」
突然、パークの尻尾によってぺしんと背中が叩かれる。
彼女の顔は見るからに不機嫌そうに歪み、ぷいっと顔を逸らしてしまった。
……なんか、不味いことを言ってしまっただろうか。
何にせよ、旅行の締めくくりが嫌な思い出というのは、なんとしても避けたい。
「えっと、その、なんだ、他にしたいこととかはある?」
「……」
「別の温泉、は流石にもう締まるかな、スイーツ、は旅館の晩御飯が入らなくなっちゃうな」
「…………」
「そうだ! 旅館で卓球とか出来るらしいよ! 古いゲームとかもあって、後はカラオケとかもあるとか!」
「………………ぷっ、ふふ、ふふふふ」
「………………パーク」
パークは顔を背けたまま、肩を震わせていた。
どうやら、揶揄われていたようである。
やがて、彼女は悪戯っぽい笑顔を浮かべながら、こちらへと向き直る。 - 30二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 00:00:12
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- 31二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 00:00:27
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- 32125/04/29(火) 00:00:40
「ゴメンナサイ、なんだか貴方が可愛くて、ついつい」
「……楽しんでるようなら何よりですよ、お姫様」
「あはっ、でもシショーや“あの子”と一緒は楽しい、間違いないですね!」
「まあ賑やかにはなるだろうね」
まあ、モンジューが温泉入っている姿はなかなか想像しづらいけれども。
「『見せつける────というのも、一興ですしね』」
「えっ?」
「ナンデモナイ、ですよ?」
突然フランス語で紡がれたパークの言葉は、上手く聞き取れなかった。
そして、彼女はそんな言葉はなかったかのように振舞い、改めて湯煙へと視線を向ける。
その表情には先ほどのような寂しさはなく、更なる楽しさに期待しているようにも見えた。
「卓球、ゲーム、カラオケ、全部やりましょう!」
「あ、ああ、わかった…………時間足りるかな」
「それと、もう一つだけ」
「ん? ああ、言ってみて、出来ることならなんでも付き合うからさ」
「それじゃあ」
そう言って、パークは一際強く抱き着いて、身体をより一層押し付けてくる。
こてんと頭を傾けて、俺の肩の上に乗せると、そのまま静かに目を閉じた。 - 33125/04/29(火) 00:00:54
「もう少しだけ、このままで」
「……俺で良ければ、いくらでも」
「……えへへ」
嬉しそうに表情を緩ませるパーク。
彼女との間にかげがえのない絆を感じるような、そんなひとときだった。 - 34二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 00:01:03
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- 35二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 00:01:16
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- 36125/04/29(火) 00:01:16
お わ り
パークちゃんと温泉に行きたいだけの人生だった - 37二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 00:01:38
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- 38二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 00:02:06
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- 39二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 00:03:04
乙
フランスモンニと温泉に行きたいだけの人生だった
(次回からはトリップ付けたほうが良いかも) - 40二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 00:04:03
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- 41二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 00:19:34
エエヤン
- 42二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 00:39:27
このシリーズ好きだわー
あの子とパークはセントウで何やってんですかね… - 43二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 00:47:55
独占力持ちパークは良いぞ
- 44二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 01:21:29
- 45二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 02:33:34
セントーのアクセント違ってそうだけど、まだ日本語で話すのに慣れてないし仕方ないよね(棒)
- 46二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 09:54:08
- 47二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 16:41:09
ありそう
- 48二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 20:55:05
あの子ちゃん、なんだか菊花賞バっぽい雰囲気ある
- 49125/04/30(水) 00:13:34