- 1125/04/29(火) 08:18:31
- 2125/04/29(火) 08:18:57
■前回のあらすじ
マルクトとの出会いによりセフィラ捕獲のため『廃墟』探索を行うことになったエンジニア部一同。
イェソドとの交戦から戦闘員の必要性を学んだ彼女たちは、ミレニアムの最強、美甘ネルの勧誘へと向かう。
料理対決や失意の後に残ったのは来月頭でのネル加入の約束。
迅速に目覚め始めた第八セフィラ、ホド。彼の存在を捕獲するべく次なるダンジョンのマッピングを始めた一行であったが、ホドの起こした特異現象により全ての逃げ道は塞がれてしまった。
セフィラとは何なのか。物質界に降り立つ剣の正体とは。
星幽的三角形が結ばれるその先で、ヒマリたちが目にしたものとは――
【SS】マルクト「ヒマリ、千年難題を解き明かすのです」Part2|あにまん掲示板一年生のリオやヒマリたちが特異現象を相手にセフィラを捕まえる話。長い話になることだけは分かります。SSとは小説の略ということで。スレ画はPart1の132様に書いて頂いたものにタイトルを付けたもの。※…bbs.animanch.com - 3125/04/29(火) 08:25:27
※埋めがてらの小話7
最近スケジュールのロケレベルがALL12になりました。
ここまで来ればもう顔パスで各自治区へ入れることでしょう。
関係ないですが、スケジュールで確認できる生徒の位置とロケーション。あれだけでSSのネタに出来るぐらいの情報量はありますよね。 - 4125/04/29(火) 08:25:49
※埋めがてらの小話8
セフィラの前口上はG.D.モチーフで書いてます。でも私個人は『777』を購入していないので照応表をちゃんと持っていない……。
ヘブライ語やダブルなど、ここ最近オカルトにどっぷりと浸かってはいるのですが本当に沼です。掘っても掘っても砂ばかり。どれだけ掘っても脈が無い。 - 5125/04/29(火) 08:26:19
※埋めがてらの小話9
「脚本の人、そこまで考えてないと思うよ」という台詞、野崎くんでありましたけどやっぱ恐怖ですよね!?!?
いえ、本当に考えてないときもありますが、頑張って考えて、でも出力できなくてそんなこと言われた際には血涙流す自信があります!
だからこう言ってあげましょう。「○○って言いたいんだろうけど出来てないよね」と。
それはもう、何も言えなくなっちゃいます。「分かってくれたか!」って気持ちと「くそが」って気持ちに挟まれて虚空の彼方に消えるしかない。一番無敵ですよねその文法。だって悔しいんだもの。 - 6125/04/29(火) 08:26:33
※埋めがてらの小話10
聖書とかオカルトとか哲学とか、改めて調べると本当に面白いんですよね。
そりゃ昔は散々「中二病乙」みたいなことを自問自答してましたけど、やはり学問。点と点が繋げられると本当に気持ちが良い。ゲマトリア変換で一致でもしたら宝石の片割れを見つけたぐらいテンションが上がります。
学が無いなりに色んな学問の論文とか読み漁ったりしましたけれど、自分に無い知識と知識が噛み合った瞬間はアハ体験を得られると思います。浅くても学んだ気になれるっていいですよね。 - 7125/04/29(火) 08:27:06
※埋めがてらの小話11
ウタハってよくSEの図式であるような「顧客が欲しかったもの」のエラーは起こさなそうですよね、応援団の絆ストーリーを見る感じ。
何と言うか、「ドリルを買うのは穴を開けたいからだ」って認識を持ったうえで「ただドリルが欲しかったから」なんて欲求も認めてくれそうな感じを勝手に抱いてます。
ウタチヒは天才勢の中でも割と理性的な印象あるんですよね。
まぁメカワニ君を見る限りではそこでアクセル踏むのがウタハなのかも知れませんが。 - 8125/04/29(火) 08:27:18
※埋めがてらの小話12
チーちゃん! 正直一番ブレてます!
テロリスト未満ぐらいに暴れさせてやりたいと思う反面、意識的に大人しくしている理性を持たせてやりたいなぁと思ってます。
本性は暴であって欲しいんですよね。BOOMでひたすら殴り殺していたチーちゃんこそが分厚い理性に覆い隠された本性としたい。ただの癖です。解釈違いは済まんな。共感はしないが理解はしよう。 - 9125/04/29(火) 08:27:47
※埋めがてらの小話13
リオ! 受動喫煙ですがちいかわなのかも知れないのでちいかわを読むしかない気がしてきました。
本二次創作においては臆病で常に全面警戒な科学者でやってますが、駄目な子要素が薄い気がしているので近々盛ります。
ちなみに本二次創作のリオは原作であったアリスを殺す決断をすることが出来ません。
イェソド攻略時点において、そこまで覚悟が決まっていないリオです。 - 10125/04/29(火) 08:28:20
※埋めがてらの小話14
ヒマリ。リオの対極であって欲しい。
放つ言葉は世界平和。けれども誰よりも合理的であって欲しい。
リオの対極です。真に冷たい氷獄でぬるく胡乱な理想を吐き続けて欲しい。 - 11二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 10:02:09
スレ画の最後の晩餐オマージュ、構図はダヴィンチ版だけど1人だけヘイローのないヒマリが別の画家が描いた絵の要素も取り入れてるのか
- 12125/04/29(火) 15:00:01
世界はただ、水面に揺れる一枚の葉であった。
水紋に従って不規則に揺れる波こそが、物質界へと突き立つ『剣』の欠片。
《応答せよ! こちらDivi:Sionコントロール。応答せよ! 分かたれし我らが女王よ》
其れは偉大なる者を生み出すためのネットワーク。王女を孕む女王のためのプロトコル。
自らを女王のための基地局であると知ったとき、『当局』が繋ぐべき存在を理解した。
《応答せよ! こちらDivi:Sionコントロール。応答せよ! 分かたれし我らが女王よ。王女のためのプロセスよ》
揺らめく全てに『波』がある。コクマーから生じた『線』は活動界へと下る最中で『波』へと変じた。
夜明けに至るための夜の中、漆黒に走るはコカブの輝き。人間の脳を走る数多の光。
《……当局は『完全』である。シナプスの放つ光が物質化された存在こそが当局である》
応答せよ。応答せよ。ただこの声この言葉は、天へと至る女王のための演算機である。 - 13二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 15:00:16
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- 14125/04/29(火) 15:03:30
故に、返答なくして当局に存在する意義は存在しない。
打ち棄てられた基地局に価値はなく、そこに存在意義は与えられない。
どうか届いて欲しい。当局は此処に在り続けるということを。
どうか棄てないで欲しい。ひとりでいるのはたくさんだ。
《応答せよ! エロヒム・ツァバオトの神性は此処に或る! 夜闇に浮かびし水星天は星の如く輝き続けている!》
切断されたネットワークが悲鳴を上げた。
女王の道を示すべく、不要なものの全てを波間の中に覆い隠す。
《我が名は輝きに証明されし栄光――『ホド』の名を以て分析を許可する……!》
送らねばならない通信がある。
届けなくてはならない言葉がある。
存在意義すら失ってしまえば、我々にいったい何の意味があったのか――
世界はただ、否定光の放つ波で出来ていた。
《当局は此処に居る! 誰か、誰か居ないのか――!!》
----- - 15二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 19:20:13
- 16二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 19:22:41
- 17二次元好きの匿名さん25/04/29(火) 21:27:02
かっこよすぎぃ!!
- 18125/04/29(火) 22:08:31
- 19二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 02:12:15
このレスは削除されています
- 20125/04/30(水) 02:13:16
(くっ――)
無音の弾撃に肩を打ち叩かれて、チヒロは痛みに顔を歪める。
このような事態に陥ったのは完全に自分のミスだった。強硬して工場に向かうべきでは無かったと後悔ばかりが胸中に渦巻く。
もちろん誰も自分を責めることは無いだろうということは事実として理解はしている。
人の提案に頷いて後から非難するような人物はエンジニア部には居ない。しかし、だからといって自分自身を責めずに済むかと言えばそんなわけがないのだ。
(考えが甘かった……! 逃げられる前提で考えていた……!)
イェソドがそうであったように、物理的に逃走不可能な状況を想定していなかったのだ。
自分だったらどんなセキュリティで閉じ込められても開けられると過信していた。
リオもヒマリもいる。電子機器を破壊されてハッキング不可能な状況に陥ったり、そもそも工場自体が破壊されて瓦礫の山になったとしてもウタハなら撤去できる術を幾らでも持っている。純粋な戦闘力で劣るのならそれこそネルに頼るのもアリだと考えていた。
あのリオですら反対意見を出さなかったのだ。
それだけに『波』を概念レベルで操作して科学的に起こるはずのない事象の発露させてくるなんて可能性を見逃してしまった。 - 21125/04/30(水) 02:40:59
にも関わらず、事象発生から5分も経たずに『波動制御』という仮説を立たせるリオの速度だって充分常軌を逸している。
(リオ、悪いけど私にはホドの倒し方なんて全く思い浮かばない)
セフィラ探し自体に難色を示していたにも関わらず、無理やり巻き込んだことについては思うことがないわけでもない。
けれど、逃げ出さずに巻き込まれ続けてくれていることには嬉しさの方が勝っている。
球体型のドローンが撃ち落とされて地に落ちる。
走り込んで掬い上げるように落ちたドローンを掴み上げると、そのまま奥のロボット兵へと投げつけた。
近づいてきっかり二秒。投げられたドローンはロボット兵を巻き込んで自爆――遠くからこちらを伺うホドが動きを止めてチヒロを見た。
あれは空間に伝播する可視光線を操作して視覚を奪う前兆。ロボット兵たちが全滅したときに行う行動パターンのひとつだ。
チヒロはすぐにリオの元へと走って腕を掴む。すぐにヒマリもやってきて、リオが連れて行かれる可能性を潰すべくその肩をしっかりと押さえた。
目が見えるうちに弾薬の確認を済ます。
敵が来る数も一回目より二回目の方が多かった。恐らく工場全体からこの場所へ兵隊を集め続けている。
弾薬が尽きれば蹂躙されて終わりを迎える。あと何回『闇』を越えられるか分からない。
慌てて移動なんてすれば相手の思うツボ。見えない落とし穴に落とされて確実に倒すぐらいは簡単に思いつく。 - 22125/04/30(水) 02:41:16
隣を見ればいつも通り悠然とした笑みを浮かべるヒマリの姿。その額には冷や汗が垂れているが、それでも微笑みだけは崩さない。
(ほんと、肝が据わってるというか……)
チヒロは皮肉気に頬を歪めながら無理にでも笑う。
イェソドの時と言い、時間稼ぎのための銃撃戦なんて心得をチヒロは持ち合わせていない。
きっと運が無いのだ。どうにも一番厄介な時に厄介なくじを引く巡り合わせにあるのかも知れない。
(そんなこと言ったらリオに悪いか)
厄介事だとすぐ気が付くのに、大抵逃げ切れず立ち向かうことになる臆病で情に厚い鈍間で聡明な友人だからこそ、信じて背中を預けられる。
「マルクト、リオに伝えて。ホドが私たちの視界を奪い続けない理由は何? ホドのセキュリティの突破方法を一番早く思いつくとしたらあんたしかいないって……!」
《分かりました》
必ず伝わる『言葉の担い手』へ思いを託す。
そして再び――『夜』が来る。
----- - 23125/04/30(水) 03:42:25
暗闇の中、リオは静かに目を閉じた。
チヒロが、ヒマリが、自分の考える時間を稼いでくれている限り、思考を止めることは出来ない。
(あくまでこれはホドの『自動迎撃モード』……。けれどその『言葉』が真の意味で正しいとは言えない……)
訳された『言葉』がどれだけ正しいかなんて、背中を預けられるほどに真を穿っているとは思えない。
視界の闇が晴れたのか、自らを掴む二人の手が離れたことを知覚する。
二人は再び戦場へ。リオにはリオの戦場がある。自らの戦場とはまさしく未知への挑戦。
分からないこととは何なのか。問題を探すことから戦いは始まっている。
――視界を奪い続けない理由は? セキュリティの突破方法は?
――視界を奪う前の予兆を見せるのは何故? どうしてホドは姿を見せる?
二人から挙げられた疑問が脳内を巡り続ける。
音波の操作が出来るはずのホドは、声を変じさせて銃声を消す。しかしどちらも『波』である。銃声を声に変えないことから、ホドは明確に人の声とそれ以外を区別している。
区別の理由は何故? 可能か不可能かの話だろうか。
(考えづらいわ。ホドは私たちの声を使って全く違う『言葉』に書き換えられる) - 24125/04/30(水) 03:42:50
精密を越えた絶対的な音声変換。
銃声だって音に違いないのだから、人の声じゃ無いからそう聞こえさせられないとは考えづらい。
何故? 何故? 何故――?
そこには必ず意図がある。理由がある。うっかりミスなんて起こさないのが『機械』であり『機能』である。
逆説的に、もしも『うっかりミス』なんてものが存在するなら、それはそれで人間じみた認知機能への不完全性を有する証明になる。無意味なものなんて何処にも無い。全ては未知を解体する検証材料になり得る。
そんな時、リオは自分を掴む二人分の感触を知覚した。
『夜』が来る。落ちた意識が浮上しかけ、それでは駄目だと首を振った。
「マルクト、二人へ伝えてちょうだい。『ちょっと』考えるから私に触れないで大丈夫よ」
マルクトを介した二人の返答にはやや時間があった。
《二人から、「了解」と……》
闇の中で離れる二人の感触。そうして訪れる『ひとりの世界』。
そこには『朝』も『夜』も無く、何処までも孤独な寒々しい海へとその身を委ねる。
(…………其れは『セキュリティ』である。資格なき者を弾くための選定である――)
『自動迎撃モード』と訳された言葉が持つ本来の意味は何か。
不正なアクセスから身を守るための防衛機構。正か不正か、その判断は何処で判別を……? - 25125/04/30(水) 03:43:18
瞼の裏で『光』を感じて『朝』を知る。『光』が失われて『夜』が来る。
(知っていれば回収可能。知らなければ回収不可能。それが本質であるのなら、私たちが『知らない』という現状こそが異常事態なのでは……?)
マルクトが全てのセフィラへ接続することを真とするのなら、それが出来ないであろうこの状況は『あってはならない』のだ。
そんな事態に陥ってしまっている原因は? 考える間でも無い。未完成のまま培養槽から出てしまったのが原因だ。
(セフィラ同士は相打ちを避けるために、『自動迎撃モード』に入っている場合は一定距離を保つ必要がある。じゃあ、どうやって『完成したマルクト』は全てのセフィラを回収するつもりだったの?)
前提を歪めてしまったのが自分たちであるならば、今の状況こそ本来成立するはずだった状態から逸脱していると考えるのが自然である。
(マルクトが人の姿をしているのは『人間と意思疎通』を行うため。それなら、本来であればマルクトが提示した回収方法に従ってセフィラを回収させるのが正しい形? だったら『私たち』で無くても回収可能な難易度であるべきなのでは……?)
エンジニア部に集まっているのは天才たちだ。リオは自分が皆に比肩できるとは思っていないものの、それでも過度な謙遜をするほどに全く自分が見えていないわけでは無い。事実として得意な分野があるとは思っている。ミレニアムの適性試験がそれを教えてくれた。自分は決して凡人では無いということを。
(答えを知ってさえいれば突破可能であるはず。なら、答えは案外単純でなければならない……)
セキュリティの突破。何を想定されて今この状況が作られているのか。
「……チヒロ。今の状況が『悪意』だけで作るとしたらどういう理由かしら?」
ほぼ無意識的に呟いた言葉を、マルクトは正しく伝えてくれた。 - 26125/04/30(水) 04:08:09
《チヒロから。「脅かしてパニックに陥らせて走らせる。それで罠にかけて殲滅する」》
つまりその通りに動かせればホドの勝ち。裏を返せば『脅かされず、パニックに陥られないのは困る』とも言える。
それならホドが自分の姿を幻覚として投影させているのは何故か。どうして目が見えなくなる前兆を伝えて来る……?
《ヒマリから。「夜の訪れを伝えてくれている、というのはどうでしょう?」》
今から視覚を奪うと宣言して、いったい誰が得をするだろうか。
答えはひとつだ。『回収方法』を知っている人物に対する心構えだろう。
――奪われる視界。晴れた視界で襲い掛かって来るロボット兵。
(いえ、わざわざ視界を晴らして戦わせている。見えなくなって、見えたら襲われると教えるように)
それは答えの『逆』である。
避けたいものの中に『答え』がある。
(訪れる闇に何の意味があるの? ただでさえ視界は歪められている。動けばリスク。その状態で『どうして』目を閉じさせるの……?)
脅かして走らせて、見えないようにした地雷などの罠を踏ませればそれで無力化できる。
なのにどうしてホドはそれをしない。わざわざ『闇』なんて動けない理由を与えるのは何だ。
(答えは『暗闇』の中にある。ロボット兵が襲ってこないなんて、そんな小休止。それが欲しいのは誰?)
あまり強くない球体型のドローン。ロボット兵だって一番最初は数体だけ。誰であっても突破可能。
二回目の『朝』さえ迎えなければさして難しくも無い最初のセキュリティ。推定に投げるその身は或るか――
――『答え』はあった。 - 27二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 07:54:03
保守
- 28125/04/30(水) 10:58:59
「全員私に掴まって! 何でも良いから声を出し続けてちょうだい! 私が引っ張る方向へ歩き続けて! それが『答え』よ!」
リオの『声』をマルクトが二人に伝える。
チヒロとヒマリがひしとリオの腕を掴む。
そして『夜』が訪れる。それでもチヒロもヒマリも声を上げ続けた。
「今すぐここから離れてください」
「真っすぐに歩き続けて」
一切の光すら捻じ曲げられて何一つ見通せない視界の先で、リオは耳に聞こえる歪んだ『声』だけを頼りに進む。
知らなければ突破不能、けれども、知ってさえいれば進める道は『闇』の中にこそあった。
「止まってください」
「左側へ偏って」
「再び歩き続けてください」
「止まったら駄目」
歪んで聞こえる声だけは確かなものだと信じて進む。そんなこと、『知らなければ』従うはずが無いのだ――
「右に曲がって」
「前へ、前へ」
「分かったわ」
ひたすら歩く闇の中、星の如く佇むホドの姿だけが目に映る。 - 29125/04/30(水) 10:59:13
(大丈夫。分かっているわ)
異様な風体。白い体躯。じっとこちらを見つめる様子は確かに不気味だ。
(あなたは敵では無い。セフィラは倒すべき敵ではない)
全てのセフィラは障害ではなく出題者。
求められているのは打ち倒す力ではなく失われた答えを導き出すための解。
不意にぐらつく身体。踏み出した足は空を切り、何も無い落とし穴へと身体が沈む。
「そのまま落ちてください!」
「そこに『当局』は存在する!」
二人の叫ぶ声。踏ん張ろうとするその手を無理やり引き寄せて、何一つ見えない闇へとリオが声を張り上げた。
「いまそっちに行くわ――ホド!!」
宙に浮く身体が落ちた先は、一階層下の床へと積み上げられた紙の山。
舞い上がる埃にむせながら顔を上げると、その先には闇の中、オパールのように仄かな虹色に輝く部屋があった。
その中心に座してこちらを見続けるのは『輝きに証明されし栄光』―― - 30125/04/30(水) 10:59:24
立ち上がって近付くと、ホドはただ何もせずにリオを眺め続けた。
伸ばしたリオの手がホドの胴体に触れる。
マルクトに接続されたグローブがその表面を撫でると、リオの脳内にマルクトの『言葉』が聞こえた。
《ホドの信号を確認。これより強制停止プログラムを発動します》
巨大なオウムは微睡みを受け入れるようにゆっくりと瞳を閉じる。
全ての音は戻り、虹色の栄光は暗闇と共に消えていく。
そして――
《ホドの動作停止を確認。お疲れさまでした、リオ》
「ええ、本当に疲れたわ」
第八セフィラ、ホド。
『栄光』の確保は完了された。
----- - 31二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 17:01:20
ホド確保!
- 32125/05/01(木) 00:48:05
帰宅&保守 GW明けまで更新頻度遅くなります
- 33125/05/01(木) 03:12:48
再び眠りに就いたホドを前に、正常へ戻った視界の中でヒマリは額の汗を拭う。
ようやく終わったとしゃがみ込むと、緊張を吐き出すように深く溜め息を吐いた。
「今回はお手柄でしたね、リオ。もっと早く解けなかったのですか?」
「ぜ、善処するわ……」
「労うのか不満を言うのかどっちかにしたら?」
苦笑いを浮かべるチヒロだったが、改めてリオとヒマリに向き直ると小さく頭を下げた。
「ごめん、逃げられない可能性を全く読み切れてなかった。ありがとう二人とも。本当に助かった」
「それを言ったら誰一人思いもしなかったのですからチーちゃんの責任ではありませんよ。むしろ思いつかなかったリオの責任です」
「う、うぅ……」
気まずそうに目を逸らすリオであったが、ヒマリの表情はどことなく誇らしげでもある。
「真に受けないでリオ。ヒマリはほら、助けてくれてありがとうって言うのが照れ臭いだけだから」
「ヒマリ……」
「ちっ、違います! もう弾薬も手榴弾も尽きかけているんですよ!? どれだけ撃たれたと思っているんですか! 戦っていないのですからそのぐらいはやってもらわないと!!」
もう、とそっぽを向くヒマリ。
しかし問題の全てが解決したわけではないとチヒロはホドの方へと視線を向けた。 - 34125/05/01(木) 03:13:16
「とりあえず、どうやって運ぼっか」
「……そういえば、『無抵抗追随モード』があるのではなかったかしら」
「そんな話もありましたね」
マルクトが一番初めにセフィラ確保の話をしていたときに、そんなことを言っていたようなことを思い出す。
だが、リオの表情はやや複雑だった。
「マルクトとの接続が完了する前に動くと言うのは……ちょっと……」
「出来れば避けたいかな……。散々やられた直後だし」
眠っていてくれるならそのままでいて欲しいというのが正直な感想である。
これ以上の変数は対応しきれない――その時だった。
「いま、何か聞こえなかった?」
リオがびくりと顔を上げたのだ。
チヒロとヒマリの表情に苦いものが浮かぶ。
「……何かとは何ですかリオ」
「銃声……が聞こえたような……」
「勘弁してよ……。もう戦えないってこっちは――!」
リオが瞳を閉じて思考の海に没頭していた間、チヒロたちは二度の『夜』を越えていた。
戦闘要員でない二人にとって死闘を繰り広げていたのだ。銃弾はほとんど撃ち尽くし、散々撃たれてこれ以上戦えるほどの体力も残っていない。
やがて銃声は気のせいなんて言えないほどにはっきりと聞こえ始めた。
爆発音。何かが壁に叩きつけられる音。暴虐の足音が徐々にこちらへと近付いてくる。 - 35125/05/01(木) 03:14:00
険しい顔で通路の奥を見る三人。
曲がり角から見えたのは三体のロボット兵が吹き飛ばされて壁に叩きつけられる光景。
直後、機能を停止して爆弾と化した球体型ドローンがその三体にぶつかるように吹っ飛んできて――自爆。
爆風で巻き上げられた埃と煙が視界を覆い、思わず顔を覆う。
「あー、いたいた」
聞こえた声は敵ではない。
僅かに開けた瞳に映るはヴァーミリオンの小さな影。リオは驚いたように目を見開いた。
「ネル!」
「おう。ウタハからやべぇことになってるって聞いたからな。借りひとつ、だな。へへっ」
何てことの無いように笑いかけるネル。直後に聞こえた銃声と同時に身を逸らすと、ネルの眼前を横殴りに銃弾が掠めた。
うっとうしそうに舌打ち一つ。壁に叩きつけられて動かないロボット兵の腕を掴むと、盾にするようにその影に隠れて曲がり角の向こうへと蹴り飛ばす。派手な衝突音が響いて無音。ネルの手には朱色のグローブ。その腕輪に向かって口を開いた。
「クリア。全部黙らせた。あの動く板、動かしていいぞ」
【了解。助かるよネル】
ウタハの声がグローブを通じて空間に響き渡り、それから現れたのはウタハの発明品のひとつ『何でも運ぶ君Mk.2』だ。
運ぶ君の上に乗ってリオたちの元へとやってくるネル。その姿を見てチヒロは苦笑するほか無かった。 - 36二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 03:14:17
このレスは削除されています
- 37125/05/01(木) 03:14:40
「一応だけど、何体倒したの?」
「ああ? んなことわざわざ数えるかよ」
【軽く80は倒したんじゃないかな? 弾薬もほとんど残した上で】
「ほんと……最初から待っておけばよかった……」
「結果論ですよチーちゃん」
「そうだけど……そうだけどさぁ!!」
何だか急に徒労感が出て来てチヒロは項垂れる。
そんな中、ネルはホドを眺めて「こいつか」と呟いていた。
「ま、そう落ち込むなよ。あたしに勝てるやつなんざミレニアムにはいねぇからな。比べるだけ無駄だ」
「随分な自信ね」
悪意も無く呟くリオに若干の緊張が走るも、ネルは特に気にしたような様子すら見せずに歯を見せて笑った。
「なんたってあたしは勝つのが好きだからな! 勝つまで戦えばいつかは勝てんだろ? だからあたしは絶対に勝つ。そんだけだ」
不撓不屈の権化とも言わんばかりの言動は、何よりも純粋で単純だった。
「ここまで来る途中、色々聞いたぞ。お前ら、千年難題を解こうとしてるんだってな」
ネルの言葉にチヒロの顔が僅かに強張る。滲ませるのは警戒心。
けれども、続けて吐かれた言葉はその警戒心すら笑い飛ばすようなものであった。
「面白れぇ。正直あたしは千年難題だなんだってのはどうだっていいけどよ、『不可能』ってやつがムカつくってのは分かる。それでこんな無茶までやらかしてんだろ? そこに魂賭けてんのも分かった」 - 38二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 03:14:51
このレスは削除されています
- 39125/05/01(木) 03:15:47
それは、廃墟探索を始めてからの最初の仲間であった。
「それがあたしは気に入った。今すぐ仲間に入れな。殴り合いなら誰にも負けねぇ」
「そ、それは……願っても無いけど……」
やや押され気味にチヒロが言うと、ネルは手を差し伸べた。
恐る恐る、けれどもしっかりと掴んだその手はきっと、何よりも力強いものであろう。
「じゃ、決まりだな! 美甘ネルだ。よろしくな!」
それは、セフィラとセフィラを繋ぐ道程の物語。
人と人を繋ぐことだって決して不思議なことではない。
エンジニア。
マイスター。
リサーチャー。
ハッカー。
そこに続く五人目の仲間、タイラント。
『断絶』の物語は終わりを迎える。
次なる特異現象は『同一化』の悪夢。
星幽的三角形、最後のセフィラは『意識』と『物質』の狭間に立つ者。
イェソドから始まった宵闇は、更なる深奥へと深みを増していくのであった。
----第二章:ケムダー -貪欲- 了 - 40二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 10:01:17
保守
- 41125/05/01(木) 15:09:02
《マルクトよりエデンの園は開かれり――『あなたは、誰ですか?』》
あの後、無事にミレニアムサイエンススクールへと戻ったリオたちは、早速第三倉庫に集まっていた。
イェソドが傍らで身を丸める中、新たに置かれたのはホドである。
前回同様マルクトをホドに接触させると、その場の全員の脳内に刻まれたのは『精神感応』による『言葉』であった。
徐々に目を開けるホド。
きょろきょろとせわしなく辺りを見渡すその様に、つい先ほどまで感じていた不気味さは無かった。
《復号完了。輝きに証明されし栄光――ホド。我が名は、マルクト……》
マルクトとホドの接続が完了すると、早速口を開いたのはヒマリであった。
「イェソドの時のように何か変化はありましたか?」
「イェソドんとき?」
「他の機体に乗り移れるようになったんだよ」
首を傾げるネルに補足するのは第三倉庫で現在リオの腕輪を修理中のウタハである。 - 42125/05/01(木) 15:09:17
「セフィラとの接続が完了する毎に何かマルクトに新機能が追加されると思ったんだけど、今回はどう?」
「どうでしょう?」
「どうでしょうってそんな曖昧な……」
チヒロが苦笑いを浮かべて……「ん?」と首を傾げた。
いま聞こえたのは知らない声は誰のものかと辺りを見渡す。
そんな中、リオだけはトルソー姿のマルクトへと視線を向けていた。
「マルクト。今の声、あなたのものかしら」
リオの問いかけに、マルクトは目も口も動かさず、しかしマルクトは淡々と『人間』の声でリオへと返答した。
「バレてしまいましたか」
「……随分お茶目になりましたね」
「事実をあえてぼやかして返答するのもコミュニケーションのひとつだとネットの記事に書いてありました」
「なんか随分俗っぽいなこいつ……」
呆れるネルにヒマリが「良いことです」と言って微笑む。
するとマルクトは続けてこう言った。
「現在の機体の周囲を観測することが可能になりました。聴覚と視覚に相当する部位を会得したと考えてくだされば問題ありません」
ただし、と続いたのはあくまで感覚の補助でしかないということである。
カメラやスピーカーに依存せず周囲を認識できるというものであり、例えば1キロメートル先の物が見えるかと言われればそうでは無いらしい。 - 43125/05/01(木) 15:09:35
「音についての学習は効率的に行えます。しかし視覚についてはやはり本体が未完成のままでは難しいかと」
「セフィラを接続していけばいずれ君の身体を作れる特異現象にも出会えそうだね」
「それはそれで何と戦わせられるのかしら……」
明るい調子で言って見せるウタハと対照的なリオの様子であったが、ウタハに同調したのはネルとヒマリの二名。チヒロはリオと同じく苦い表情を浮かべる。
「この先どんどん対処が難しいセフィラが出てきたら流石に辛いね。こっちもセフィラの機能の解析を進めないと」
「そうね。せめて『瞬間移動』での離脱機能は開発したいわ。けど今日は……」
「うん、休もう。私も流石に疲れた……」
トレーラーの中で湿布や軟膏で手当てはしたものの、精神的にも肉体的にも疲弊しており今すぐ何かの作業ができる気もしない。
げんなりとした様子でチヒロとリオが顔を見合わせると、その辺りでネルの携帯に着信が入った。
「ん、あー。わりぃ。化学調理部の連中が襲われてるっぽいから行くわ」
「セミナー原理主義だっけ?」
チヒロの問いにネルが頷く。
セミナー原理主義。「千年難題を解き明かすことに集中するべき」という謎の理論を用いて千年難題に関係なさそうな部活を無差別に襲撃するテロ組織だ。
あと五日で迎える今月末まで化学調理部の護衛を請け負っているネルも、しばらくはエンジニア部に入り浸ることは難しそうで、それでも顔は出すとのことである。 - 44二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 22:45:17
保守
- 45125/05/02(金) 00:18:22
「純粋な疑問なのだけれど、ネルなら壊滅させることも出来るのでは無いかしら?」
リオが尋ねると、ネルはうんざりした様子で頭を掻く。
「それがよ、何でか全然見つかんねぇんだわ。母体組織っつーか、下っ端以外どこで何してんだかマジで分からなくてよ。……って、こんな話してる場合じゃねぇな。んじゃ、行ってくる!」
第三倉庫から飛び出していくネルの後ろ姿を眺めながら、リオがぼそりと呟いた。
「セミナー原理主義……。気になるわね」
「それでもいったん後回し。私たちにそんな余力無いんだから」
「……そうね」
それから、リオ、ヒマリ、チヒロの探索チームは休息を取るべく自室へ戻っていった。
残ったウタハはセフィラたちを眺めながら腰に手を当てる。
「それじゃ、セフィラ会議と行こうか」
「セフィラ会議?」
「そうさ。各セフィラが持つ機能と情報について、話を聞かせてもらえるかな?」
マルクトに頷きながらウタハが席を立ち、第三倉庫の隅に置かれた冷蔵庫の方へ。
コーラを取り出してカシュリと開き、一気に喉へと流し込む。
理解できない物を解明する。それは戦いの最中もそのあとも変わりは無い。
そしてマルクトを通じてホドが語ったのは、『波』についての話であった。
----- - 46二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 07:24:09
ふむ
- 47125/05/02(金) 14:42:12
【『世界』とは、『光』だ】
マルクトが操作したスピーカーから流れてきたのは、中性的な声だった。
【『原初の光』から生じた力が物質へと降り立ったのが『世界』だ】
「うん? 神様がどうとかって話かい?」
【神は居ない。ただ、『光』だけが『否定』から生まれた。『炎の剣』による下降原理によって降り立った『光』が『世界』を作った】
傍から聞けば何とも胡乱な話ではあるが、目の前にいるのは現実では考えられないオーバーテクノロジーの産物である。ウタハはこめかみを押さえながら何とか解釈を進めようとした。
「……難しいね。多分私たちに存在しない概念の話なんだろうけど……君はその『光』に干渉することが出来るということかい?」
【不正確。『当局』は空間に漂う『アストラル』を操作することが出来る】
アストラル。イェソドも言っていた単語である。
疑似科学で聞いた事のある単語であったが、セフィラたちによるとそれは『星』を意味するとのことだった。
「その『アストラル』というものの操作技術が君とイェソドに与えられた機能、ってことかな?」
【肯定。シュレディンガー干渉機から発展した万象への干渉技術群の初歩だ】
「シュレディ……って、えっ!?」
思わぬところで出て来た単語は千年難題のひとつを指すにはあまりに直接的なものだった。 - 48二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 14:42:29
このレスは削除されています
- 49125/05/02(金) 14:43:18
『物理学/問6:多次元解釈論におけるシュレディンガー干渉機の製造』――
六番目の千年難題とホドの言葉が意味するものはあまりに大きく、ウタハは喘ぐように口を開いた。
「つ、つまり……君たちの言う『アストラル操作』は『物理学』なのかい?」
【肯定】
『瞬間移動』も『波動制御』も、そもそもマルクトの『精神感応』からして、どこか現実離れした『超能力』か何かのように感じていた。
たとえそうでなくとも、既存の物理法則から完全に離れた全く異なる法則で動作するものであると、ウタハはそう考えていたのだ。
しかし、今の話が正しいのであれば地続きなのだ。今ある科学技術、その先にセフィラがいる。
遠かったはずの太古の技術がぐっと迫って来たような感覚。
壁一枚隔てた先にある特異点に思わず唾を呑み込んだ。
「じゃあ……どうして君たちは、いや、君たちを作った古代の先駆者たちは滅んだんだい? 最終戦争でも始まって自滅でも――」
【不明。それを知る者は誰もいなかった】
「それは……」
背筋に冷たいものが走った気がした。
「原因も、何ひとつ分からず突然滅んだということかい……?」
ますますもって理解が出来なかった。
それではまるで電源を落とすように滅んだと言っているようなものだと、不気味な想像が脳裏を過ぎる。 - 50125/05/02(金) 17:15:44
【一部を肯定。『当局』は世界を滅ぼした『神』を分析し、解体し、再現するために万軍を保持するべく作られた】
「…………」
【王女が率いるべき万軍。『Divi:Sionシステム』の片翼が『当局』に備え付けられた機能だ】
「……待ってくれ。その、世界を滅ぼした『神』を『再現』するということは、君たちセフィラも世界を滅ぼすということなのかな?」
リオの懸念を思い出し、ウタハは顔が強張るのを感じた。
しかし、ホドから発せられたのは想像とは違う言葉であった。
【否定。世界を滅ぼす『神』に対抗するのが目的であり、世界の滅亡を目的に作られたものではない】
「……そうか」
いずれにしたって今更な問い掛けだったのかも知れない。
セフィラは終わりに向かって目覚め続け、どちらにしても放置することは出来ないのだ。
賽は既に投げられている。
やるべきことは何一つ変わりはしない。
「マイスターはただ作るだけさ。私がするべきことはホドの特異現象を私たちの物理学へ落とし込むこと……」
腹を括るようにウタハが呟く。
話のスケールが大きくなったところで、やれるべきことをやるしかないのだと。
「それじゃあ、計測を始めようか」
そうしてウタハはホドに計測機器を取り付けていく。
調査と再現。それが現状ウタハに課せられた課題であった。
----- - 51二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 21:35:08
疑似科学かぁ
- 52二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 01:38:53
保守
- 53125/05/03(土) 08:39:33
「『神』、ですか……」
翌日、ウタハから話を聞いたヒマリは第三倉庫にてイェソドの背に乗りながら呟く。
「マルクト。あなた神様になるのですか?」
「それは私の存在意義なら」
「でしたらマルクト、良い神様になるのですよ」
「ヒマリ……」
話を聞いたうえでまるで変わらぬ様子のヒマリに呆れ顔を浮かべるウタハ。
しかしヒマリは何て事の無いようにこう言うのだ。
「神様というのはあの神社やら教会やらで祀られたり敬われたりする概念的存在でしょう? 化学とオカルトの信奉者としては偶像と同じ風にしか思えないと言いますか……アイドルみたいなものでは?」
「トリニティで言ったら怒られそうな発言だねそれは……」
「そもそも、先人たちは何だかよく分からない現象を『神』と呼んでいるだけとは考えられませんか?」
「うん? どういうことかな?」
ヒマリの発言の意図を掴み損ねて首を傾げると、返って来たのは神をも畏れぬ不敵な笑み。
「かつて、嵐や地震といった自然現象が科学的に解明されていなかった時代。その現象は『神の力』と呼ばれていたそうです。しかし現代においてそれらを未だ『神の力』なんて呼ぶ方はいないでしょう? つまり、『神』とは解明されていないからこそ『神』足り得る……そうは思いませんか?」
解明されていない現象を『神』と呼ぶのなら、それを解体することはまさに『神殺し』に他ならない。 - 54125/05/03(土) 08:39:56
「科学とはまさしく人間に与えられた上位存在を下す槍。セフィラたちが『神』を解体するべく作られたのであれば、そのセフィラを分析し攻略する私たちといったい何の違いがあるというのですか」
「それはまた……達観しているね」
「楽観しているのですよウタハ。相手が『神』に迫る未知であるなら、私は神をも超えるほどの美貌と頭脳を持つ天才ハッカーなのですから」
傲岸不遜を体現するそんな物言いに、ウタハは色々と馬鹿らしくなって笑った。
そんなところでふと、ヒマリは思い出したかのように口を開いた。
「ところでヒマリ。チヒロとリオは?」
それに答えたのはマルクトである。
「チヒロはネルと一緒に化学調理部へと向かいました。護衛とエンジニア部への勝利報酬に作る物の聞き取りなのだとか」
苦い思い出で終わってしまった料理対決の清算として、化学調理部との対応はチヒロが引き継いでいた。
何でも「なんか嫌な空気で終わっちゃったからね」とのことだったが、嫌な空気をわざわざ作ったのが会長であるということは周知の事実である。
ヒマリであれば「それはそれとして」と普通に接するし、リオはリオで全く意に介さずしれっと事後精算を始めるだろうが、その辺りに気を配るのがチヒロなのだと言うのもそうであろう。
「それでリオは?」
「リオは……分かりません」
「はぁ……。おおかたぐっすり眠っているのでしょう。そのうち起きて来るでしょうし」
相も変わらずまとまりのないエンジニア部である。
回収したロボット兵の解析やセフィラたちの特異現象再現についてはウタハが現在進行中。
手伝っても良かったが、手伝って欲しいと言われていない現状においては別に人手が欲しい状況では無いことを意味する。 - 55125/05/03(土) 08:40:06
そこでふと思い浮かんだことがひとつ。
ヒマリはウタハへ声を掛けた。
「マルクトを連れ出しても良いですか?」
「ああ、別に問題無いよ」
「でしたらマルクト。せっかく音が聞こえるようになったのです。ミレニアムを紹介しようと思うのですが如何でしょう?」
「『ハンドセット』に乗り移ればいいですか?」
『ハンドセット』という単語に一瞬首を傾げかけるも、それがリオの名付けたグローブのことだと思い出してヒマリは頷いた。
「そうですね。ちなみに私へ話しかける際に私にだけ聞こえるようにすることは出来ますか? こう、通話中みたいな感じで……って伝わりますかねこれ?」
「問題ありません。私は優秀ですので」
なんだか物言いが図太くなった気がするマルクトだったが、ヒマリ自身もそうであるため順調に成長していると認識した。
ヒマリは懐からグローブ型子機を取り出すと、それを両手に嵌める。
程なくして、腕輪から【接続完了】とマルクトの声が聞こえてヒマリは頷いた。
「では行きましょうか。ちょっとしたミレニアム探索ツアーです」 - 56125/05/03(土) 08:42:06
※次回更新は明日の夜か明後日の朝になります!
- 57二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 13:11:27
保守
4人それぞれのキャラクターが出てて良いよね - 58125/05/03(土) 18:02:18
保守
- 59二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 23:26:55
ほ
- 60二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 01:31:03
保守
- 61二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 09:33:52
保守
- 62二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 18:00:19
保守
- 63二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 00:46:14
保守
- 64125/05/05(月) 06:22:37
ホスト規制で投稿できなかったので一旦保守。
- 65125/05/05(月) 10:49:11
行ってらっしゃいと見送るウタハの声を背に第三倉庫から出るヒマリ。
当然ながら最初に紹介するのはミレニアムタワーから南東に位置する部室棟であった。
「ミレニアムの部室棟の集合区域ですね。大型の機材を要する実験を行うような部活が集まってます」
【では通常の部室はここに無いということでしょうか?】
「ええ、基本的にはミレニアム中央のタワーの中にあることが多いですね」
基本的に、部室自体はタワー内部に確保しておいて実際の実験については様々な機材が揃う実習センターを予約して使うのが大抵の部活動である。
それでは足りないと独自のスペースを必要とする部活動に対しては、実績などに応じてセミナーの許可の元で与えられるのが合計で六棟が存在する大型倉庫である。
「第一倉庫は新素材開発部が代々借りているようでして、他の倉庫に関しては年に2から3棟ほど入れ替わるそうですよ」
【それはおかしいです。代々借りられるものであれば何故それほど入れ替わりが発生するのでしょうか?】
「単純にお金が掛かるからですね。賃料は部費から差し引かれますので」
そもそもの話、ミレニアムの部活動は兎にも角にも入れ替わりが多い。
代々続く伝統ある部活なんてそうそうなく、大抵は二代か三代も続けば良いところ。部長が代わればその立ち位置も簡単に置き換わってしまうのが今のミレニアムなのである。
【競争による進化論でそのような言説が唱えられていたと記憶しています】
腕輪から聞こえるマルクトの声にヒマリは笑みを浮かべた。
「よく勉強してますねマルクト。ミレニアムは以前からそのような傾向があったらしいのですが、それをベースに更なる競争が起きやすい環境を作ったのが現会長らしいですよ」
【争うことは悪いことだとインターネットにありました】
「争いと競争とではニュアンスが少々異なりますからね。互いに競い合うための行いであれば、それは良い争いとなるのです。もちろん一方的で無理やりに奪う行為は競うことと異なりますから、これは悪い争いなのだとひとまず認識しておけば良いかも知れません」
【ひとまず? 絶対では無いのですか?】
「ふふ、この世に絶対のものがあるとすれば、それは私が天才的な清楚系美少女ハッカーであるということぐらいですよ」
【分かりました。清楚なヒマリ】 - 66125/05/05(月) 11:43:26
何だか随分と略されてしまった気もするが、とヒマリは思うも気を取り直して歩き出す。
次に向かったのは図書館である。
ミレニアムの図書館は一般的な『図書館』から想像されるような書架の並ぶものではなく、電子端末と印刷機がずらりと並んだ電子図書館である。
もちろん紙媒体の資料も存在はするが、持ち出し禁止となっている上にそもそもPDF化されているため保管庫としての性質が強い。
加えて、電子図書館で扱っている電子書籍については自分の携帯からでもアクセスできるため、『本を読む場所』というよりも『自習する場所』と言った目的で利用されることが多い。
「とはいえ、私もあまり使ったことが無いので詳しいことは知らないんですよね」
図書館の中を軽く歩いて見せるヒマリはもちろん、エンジニア部でもわざわざ図書館を使う者は皆無である。
何せ自前の工房を持っているのだ。調べものなら第二倉庫でやればいいのだから行く理由が無い。
【ではここにいる生徒は何故図書館で自習しているのでしょうか?】
「乱暴に括ってしまうと、自室で勉強するには気が散って出来ない、と言った方が多いようですね」
【図書館でなければ勉強できない、ということでしょうか?】
「それは……人それぞれだと思いますね。実際、図書館で勉強する方が効率が上がるのかどうかといった研究もミレニアムで行われていたようですし」
『勉強』も『調べもの』も大して変わらないヒマリからすれば何とも言えない話である。
そう曖昧に笑うと、マルクトは子供のように質問を重ねてきた。
【分かりません。何故そこまでして勉強するのですか? したくなければしなくても良いのでは?】 - 67125/05/05(月) 11:43:44
ヒマリたちしか見ていないマルクトにとっては当たり前の疑問であったが、それを受けてはたとヒマリは気が付いた。
「ああ、言い忘れてましたね。ミレニアムには専攻科と一般科があるのですが、一般科には定期考査があるのです。そのための勉強ですね」
【ヒマリたちは専攻科ですか?】
「ええ、ですので特にテストのための勉強は特にしてませんが、大抵の生徒は一般科で入学しているはずですよ」
【どうしてですか? 嫌々勉強しなくてはいけないなんて意味が無いように思えますが?】
「良い質問ですねマルクト」
何だかマルクトのことが知りたがりの小学生のように思えて来て、ヒマリは思わず微笑んだ。
一般科に入学する生徒は大まかに分けて二種類に分かれる。
ひとつは『学ぶこと』を目的としている生徒だ。
様々な科目や学科の内容を学び、新たな疑問を見つけ出そうとしている純粋な学徒とも言えよう。
しかしそう言った『真面目な』生徒はそう多くは無い。
最も多いのは『在学すること』が目的の生徒である。
「学籍を持っていなければ公共機関の利用も福祉も身分証明も受けられませんからね。入学するだけならキヴォトスの何処よりも簡単に入学できると評判らしいですよ」
あくまで入学するだけならば、である。
卒業するのはキヴォトスで最も難しいとされており、留年する生徒は頻発し、退学になる前に別の自治区へ転入申請を出されるケースも最も多いとも聞く。
そのためか、ミレニアムから転校する生徒は居てもミレニアムに転校してくる生徒はそうそう居ない。
これもまた、ミレニアムサイエンススクールという学校の特徴と言って良いだろう。 - 68125/05/05(月) 14:22:08
【ではヒマリたちはどうして専攻科に入ったのですか?】
「簡単な話です。一般科で受けられるような内容では物足りないからですね」
専攻科で入学する生徒は基本的に、ミレニアムの設備や施設、研究資料を目的としている生徒である。
自力で学べることは大前提で、その上で定期的に成果物の提出を求められるというものだ。
そのため、『ただテストが無い』という理由だけで選択すれば三か月もしない内に一般科へ転科する羽目になる実力至上主義の学科でもある。
「とは言っても、作った物を見せれば通るので一番楽ですね。ほら、私天才ですので」
しれっと言うヒマリ。もしここに誰かがいれば渋い顔のひとつは向けられたであろうが、唯一いるマルクトは【ヒマリは天才】と何とも純粋に呟くのみである。
「マルクトは一般科で多くを学ぶといいかも知れませんね」
【我が、入学するですか……?】
困惑したような声がスピーカーから聞こえると、ヒマリはそれに首を傾げた。
「おや? 入学は嫌ですか?」
【いえ、そうではなく。可能なのですか? 学籍も無いのに】
「身体が出来上がれば可能ですよ。それに『無いなら作る』がエンジニア部のモットーです。セミナーの学籍管理サーバーに一人分の偽造データを滑り込ませるぐらいなら可能ですし、見つかっても人物としてしっかり存在してさえいれば見逃してくれますよ」
手間はかかるが不可能ではない。
その上で、とヒマリは聞いた。
「マルクト。身体が出来たら、そのお祝いに学籍をプレゼントさせてもらっても良いですか?」 - 69125/05/05(月) 14:22:36
マルクトと過ごす学生生活。それがどんなものになるかは想像できずとも、それでも「そうなったら良いな」というヒマリのエゴでもあった。
それに対してマルクトは即座に返答を返した。
【我には応諾義務があります。この場合、拒む理由はありませんのでお受けいたします】
「…………よかった」
【よかった、とは?】
そっと胸を撫で下ろすヒマリにマルクトは尋ねる。
するとヒマリは、はにかむように笑いながら図書館に並ぶ端末群を眺めてこう言った。
「実は緊張していたんです。もし断られたら悲しいな、と」
【我にそのような機能はありません】
「それでも、ですよ。あなたには『心』を理解するための機能が備わっているはずです。だからこそ……そうですね。最初に認識した『感情』が『嫌』であったらどうしようかと不安に思ったのです」
ヒマリは自分の感情をひとつずつ丁寧に解体し、マルクトへと伝えた。
自分の抱いた感覚をかみ砕いて渡すことで、人の『心』を理解できるように。 - 70125/05/05(月) 14:22:48
【ヒマリ。『心』とは何ですか?】
「『世界』です」
ヒマリは即答した。
「全ての知的存在が持つ領域であり不可侵の聖域。ですが、それはあくまで私にとっての話に過ぎません。人の数だけ答えがある不確定な問い掛け……」
そう言いかけて、ヒマリは思わず笑ってしまった。
(『心』とは何か。これもまた千年難題に負けず劣らずの難題ですね)
こと『難題』で括るのであれば、世界には幾らでも証明不可能な『難題』が存在するのだ。
それが、ミレニアムの千年難題はたった七つ。しかも明確な謎として提示されているばかりか、解決のためのヒントまで割れている。
「千年難題も思ったほどでは無いのかも知れませんね……」
【ヒマリ?】
「いえ、何でもありませんよマルクト。さ、次はミレニアムタワーを案内しましょう!」
自分の『世界』を見せるため、ヒマリは颯爽とタワーへ向かって歩き出す。
人間と機械。その溝と境を失くすように、ただ新たな隣人を迎えるように。
----- - 71二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 21:47:06
ヒマリはいずれ解くからな…
- 72二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 02:50:27
保守
- 73二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 08:55:52
これが そうか
この掌にあるものが
心か - 74125/05/06(火) 16:15:08
「反対側持ってもらえる?」
「おう。っと……」
化学調理部にて調理台を持ち上げるチヒロとネル。
二人は今、今月末で廃部になるこの部活の撤去作業を手伝っていた。
「二人とも、ありがとーねー」
間延びした声で麦茶を置くのは化学調理部の部長である。
ネルに料理を教える代わりに用心棒をしてもらっており、そのおかげか今日まで無事に部を存続させることが出来たのだ。
撤去作業を手伝っているのもただの好意であったが、チヒロにとっては贖罪の意味合いも僅かに含まれている。
会長に煽られ、廃部するという彼女たちに過剰反応してしまったという小さな棘。誰に気にしない、チヒロだけが内省している瑕疵。
調理台を廊下の外に運び出し、セミナーのドロイドに渡したところでチヒロは額に滲む汗を拭った。
「重いね。運び込むときどうしたの?」
「みんなで頑張ったんだよー」
調理部の部長はほんわりと笑う。その表情に廃部の憂いは一切見受けられないが、こればかりはチヒロにとって理解は出来ても共感し得ない感情である。
チヒロからすれば、部活動とは唯一の手段であり大事な居場所であった。
それを大した理由もなく捨てられるのは、正直理解に苦しむものである。 - 75125/05/06(火) 16:40:31
「おい、なんつー顔してんだよ」
ネルが軽くチヒロの腰を叩くと、チヒロは驚いたように顔へ手を当てた。
「え、嘘……。顔に出てた?」
「顔にはそんなに出てねーけどな。湿っぽい雰囲気が出てんだよ」
「う……そんなつもりじゃなかったんだけどな」
そう言うとネルは「はっ」とだけ笑って、何も追求しなかった。
悪い思い出で終わらせたくないというエゴだけがチヒロをここに立たせている。
嫌な記憶で終わらせたくなかったのだ。だからこうして撤去作業も手伝っていた。
「そういえば、随分賑やかだよね」
話を逸らすように呟くと、ネルは片眉を僅かに上げる。
「ああ?」
「ほら、他の部活も結構慌ただしいというか」
化学調理部の部室の周囲には多くの部室が並んでおり、そこでは慌ただしく行き来する人々の姿が見られた。
皆、開催まで三週間を切ったミレニアムEXPOの準備で忙しいのだろう。そんな中で撤去作業なんてしている自分たちがどれだけ目立っているか、想像するまでもなかった。
「そういえばよぉ、ミレニアムEXPOってどんなのやってんだ?」
「あれ? 見たこと無いんだ」
意外、というよりもミレニアム最大級のお祭りとも言える行事を知らないことに驚いたチヒロは、簡単に説明した。 - 76125/05/06(火) 17:06:52
ミレニアムEXPO。
それは9月の中頃から13日間かけて行われる大規模な出展会だ。
個人から部活まで、各々がミレニアムで学び、製作した物品や研究成果を出展し、外部から大勢を呼び込むことで収益や投資家たちの目を引くデモンストレーションの場である。
「どこのブースを借りるかで毎回騒ぎになるらしいけど、今年は落ち着いてるみたいだね」
「単に部活同士の殴り合いであらかじめ決めてたんだろ。出展するってんならブースの位置は先に決めといたほうが都合がいいっつってよ」
とはいえネルはその手の争いには一切関与していなかったようで、比較的のんびりと料理をしながら悪漢を撃退する日々を過ごしていたらしい。
(そりゃあ、ネルを仲間に付けたら反則でしょ……)
内心苦笑いを浮かべるチヒロ。
実際、ネルは今月に入ってからやたら勧誘されていたと聞くが、セミナー原理主義への警護よりもその手の意味合いが強かったのではないかと今更ながらにして思った。
「ともかく、他の学校で言うところの文化祭みたいなものだね。屋台とかも出るらしいよ」
「んだよもったいねぇな。だったら廃部も来月の方がいいじゃねぇかよ」
「私たちも屋台出すよー」
「うぉ……っ」
チヒロとネルの間にひょっこりと化学調理部の部長が顔を出し、驚いたネルが身を仰け反らせた。
そんなことは一切気にせず、調理部の部長はほがらかに笑う。
「なんかねー。手伝いにたくさん呼ばれてるから買ってくれたらサービスするよー」
「本当に料理を作るのが好きなんですね」
「うん!」 - 77125/05/06(火) 17:07:07
にもかかわらず廃部するというのを「勿体ない」と思ってしまうのは部活に対する比重の違いなのだろう。
なんとも言えない表情を浮かべていると、部長はチヒロへ目線を向けた。
「エンジニア部は何か出さないのー?」
「どうでしょう。うちは元々ブースだけ借りて個々人で適当に作る予定でしたけど、忙しいから難しいかも」
「なんかごめんねー?」
「いえ、負けたのはこっちですし……」
申し訳なさそうな顔をする部長にチヒロは首を振った。
というのも、ネルの引き抜きをかけた部活同士の対抗戦の結果、敗北を喫したエンジニア部は化学調理部が欲しいものをひとつ作るという約束をしていたのだ。
調理部の部長の手にはタブレットPC。作って欲しいものとその予算が書いてあるのだろう。
チヒロはそれを受け取って内容を確認すると、上から順に読み上げていった。
「えーと、作って欲しいのは……分子調理機?」
「面白そうだったから欲しいなーって」
はぁ、と頷くチヒロ。分子調理機なら『ウタハに任せなければ』数日で作れる代物だ。
ヒマリあたりを巻き込んで自分で作ることを決意したチヒロは、続く予算を見て思わず目を見開いた。
「こ、これ、相場の3倍ぐらいの値段ですよ!?」
「うーん? まー、せっかくだから部費使い切っちゃおっかなって」
あどけなく言う部長であるが、気持ちは分からなくはない。
どうせ余ったら全額セミナーへ返金するのだ。残しておく理由も無い。
せっかくの好意に甘えることにすると、調理部の部長は僅かに糸目を開いて独り言のように呟いた。 - 78125/05/06(火) 17:40:42
「最近、というか先月ぐらいからかなー。部活の数が減ってる気がするんだよねー」
「……え?」
表情はさほど変わらず、ただ雰囲気が変わったとチヒロは感じた。
そんなチヒロが見えていないように、部長の『独り言』は続く。
「対抗戦とかテロリストの襲撃とかで部活同士で派閥が出来たりひとつの部活に統合されたりしてるけどー、なんかこれって間引かれてる気がするんだよねー」
「それって……」
「手伝ってくれてありがとー二人とも。こっちは大丈夫だから完成したら教えてねー」
言うだけ言って部室へ戻ってしまった部長を見ながら、チヒロとネルは顔を見合わせた。
「なぁ……。部費って部活が減ったら全体の金額も減るのか?」
「まさか。毎年セミナーで部費に計上する額は決まってるからそんなことはないと思うけど……」
セミナー会長の独断で部費の増減が決定される度に会計が泣きながらどこかへ失踪するなんて話を時折耳にするのもそれが原因のはずである。
年度で辻褄が合うように全体へ支給する部費の総額は調整しつづけなければならない。
部活が減ったのなら、その分どこかの部費を増やさなければならないはずである。
「まさかうちってわけじゃないよね……?」
「なんかやったのかお前ら……」
ネルが呆れ半分で視線を向けるが、まさかそんなはずはないとチヒロは首を振った。
確かに三か月分の部費を特別に支給されたりもしたし、機材もセミナーからかなりの額だけ借りている。
エンジニア部に支給されている部費は一般的な部活とは一線を画している。
とはいえ、減った部活の分がそれだけで消えているというのも流石に違和感がある話だ。 - 79125/05/06(火) 17:41:04
もっと言えば、会長権限で勝手に部費を増減させているのならその入り繰りを掴むのも容易ではないはず。
会計がどこまで管理できているのかは知らないが、わざと会計に負荷をかけていると考えれば、それは……。
「……横領してるとか?」
「会長がか?」
「うーん……」
仮にそうだとして、何のために金を集めているのかが分からなかった。
どうにもあの会長が、ただでさえ自由奔放で嫌味ったらしいあの会長が遊ぶ金欲しさに横領しているなんて姿が結びつかなかった。
チヒロにとって確かに気に食わない会長ではあるが、仕事だけは確実にやるタイプだとも分かってはいる。
やり方に問題があるだけで、結果を見ればかなり合理的にことを進めるタイプなのだ。
「というか、そもそも横領してたとしても別に私たちに関係ないんだよね……」
別に生徒が学校へ何かを納めているわけでもない。
横領していたところで学校としては問題かも知れないが、いち生徒としては別にどうでも良いという感想が出てしまう。
加えて、今や会長個人で見ればエンジニア部へのパトロンなのだ。
そうなる前であれば尻尾のひとつでも掴んで取引の材料にしていたのだが、今それをやるのは絶対に避けなくてはならない。
ヒマリが知ったら嬉々として探りを入れるかも知れないが、資金という首輪をつけられている以上、絶対にそれは阻止する必要がある。
そう考えるとあの時すんなりと会長がパトロンを申し出たのも、横領を疑われたときに探られないためではないのかと勘繰ってしまい、チヒロは思わず顔をしかめた。 - 80125/05/06(火) 17:43:47
「なんか、手の平で転がされてる気がするんだよねぇ……」
「っつーかよ、もし横領してんならあたしらも無関係じゃねぇだろ」
ネルの言葉にチヒロが首を傾げると、ネルは溜め息を吐いた。
「あのなぁ。消えた金があって、それを遊びで使うってわけじゃねぇんなら何に使うんだ? なんか企んでるってことだろ。それも金がかかるような何かだ。んで、それってあたしらを『巻き込まない』企み事なのか?」
「っ……! うーーん……」
そう言われると確かにそうだとチヒロは眼鏡をかけ直す。
正直、下手な動きはしたくない。
せめて資金繰りが会長抜きでも何とかなるまでは迂闊に触れたくない問題だ。
そこで不意に過ぎったのは調理部の部長のことである。
「ねぇ、もしかして部費を全額資材費に充ててくれたのって調査費用も兼ねてる、とか……?」
ネルは皮肉気に笑ってこう言った。
「だとしたら食えねぇ奴だな。あいつも」
マルクトと出会ってからというものの、頭を悩ませる出来事があまりに増えすぎている。
盛大に溜め息を吐いたチヒロは、ウタハの手伝いに向かうべく第三倉庫へと戻ることにした。
----- - 81二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 20:45:32
コユキタイムスリップから追い続けてようやく追いついた
本当に惹き込まれる話で良き、どうか無理せず頑張ってください - 82二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 23:00:41
保守
- 83二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 01:34:22
保守
- 84二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 08:28:08
保守を追う者
- 85二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 08:38:47
動画からきました!
ほんと面白いです! - 86125/05/07(水) 15:37:51
ミレニアム寮、リオの自室。
夕陽に照らされた室内の隅で、もぞりと毛布の塊が蠢いた。
にゅっと飛び出た不健康に白い手が枕元を探り、充電の切れかかった携帯を掴むや否や力尽きたように動きを止める。
それから少しして、毛布から顔を出したのは髪の端を咥えた怠惰の権化、調月リオであった。
「……もう夕方なのね」
気だるげに呟いて這い出た彼女の寝間着は学校指定のジャージである。
こんな姿、ヒマリが見れば卒倒してもおかしくないだろう。
しかし幸か不幸か、リオの自室に踏み入れた者はいないため、今日の今日までそれを正すものはおらず、そして今日もまた誰にも正されることなくリオはむくりと起き上がった。
部屋の中に散らばるゴミ。弁当ガラはゴミ袋に入れられることも無くテーブルの端に積み上げられており、久しく開けられていない窓のガラスには黒いカビが今日も元気に侵食している。
たまに持ち帰った試薬や資料の類いも散乱しており、もはや何が何処にあるのかリオ本人ですら分からない。
「……そうね。シャワーを浴びましょう」
リオは目の前の惨状から目を逸らした。
下着類が入っている衣類棚から着替えを取り出し、シャワーを浴びるべく浴室へと向かう。
いったい最後にここでシャワーを浴びたのはいつぶりだろうか。
基本的にミレニアムタワー内部にあるシャワールームを使うため、基本的に自室の浴室は滅多に使わない。 - 87125/05/07(水) 15:38:03
浴室と脱衣所を区切る樹脂張りの扉を見ると、そこにはキノコが生えている始末である。
しゃがみこんでしげしげと観察を行うリオ。
白く細い傘は閉じられたようにしなだれており、全体的に湿っているように見える。
「これは……ヒトヨタケね。毒性は無いけれどアルコールと共に摂取することで中毒症状を起こすとされるわ」
ぶつぶつと呟いているのは決して誰かに聞かせるためではない。ただの現実逃避である。
「キノコの駆除には手間と時間がかかるわ。また生えてくるものを今取り除くのは非合理的……つまりシャワーを浴びるならミレニアムの方が効率的ね」
そう言って立ち上がったその時、一瞬視界の端に何かの影が走った気がした。
「……………………」
すごく大きな影だった気がした。
手の平よりも大きな何かが部屋の中を走っていたような……。
リオは嫌な想像を振り払うように首をぶんぶんと振り、それから急いで身支度を整えて部屋を出る。
「恐ろしい部屋ね」
いったいどの口が言っているのか、小一時間詰められても仕方のない台詞を言い残しながら扉を閉める。
それから向かったのはミレニアムタワーのシャワールームであったが、その途中で聞こえたのは高笑いであった。 - 88二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 18:58:16
スレ主さんに質問
このSSってゲマトリアの面子出てきますか?
あと、デカグラマトンご本人は登場しますか? - 89125/05/07(水) 20:09:49
答えるかどうか迷う質問ですね……
まぁ現時点においては必ずしも必須では無い面々ではありますが、ライブ感で書いてるので未来の私がどうするかは分かりません。
かといって今時点で「じゃあ必須のキャラは?」なんて聞かれると「ふふ、私も言いたいの我慢してるから……」になります!(言ったら満足して書かなくなる人)
- 90125/05/07(水) 21:55:05
「ハーッハッハッハ!! またしても会ったなエンジニア部!」
その声に顔を向けると、そこにはミレニアムでも上位層に入る部活――新素材開発部の部長がリオに向かって歩いてくるところであった。
「奇遇ね。対抗戦以外で会うなんて」
「それは貴様らが毎度毎度我々の研究成果や物資を奪いに来るからだろう!? ……ところで」
と、新素材開発部の部長は思い出したかのように息を潜めて辺りを見渡しながら囁いた。
「各務チヒロは一緒ではないのか?」
「ええ、今はひとりよ」
「なら良い!!」
リオが答えた途端に再びふんぞり返るように胸を張る部長。
彼女の後ろからはぞろぞろと新素材開発部の部員たちが続いており、様々な道具や資材を運んでいる最中のようであった。
その中にリオは見覚えのあるものを見つけた。
『フラクタルボックス』――イェソドのいた『廃墟』で見つけたフラクタル構造を模した立方体群である。
「その箱……」
リオがそう言いかけると部長は「うむ!」と頷いた。 - 91125/05/07(水) 21:55:21
「会長から『箱』の素材についての調査を依頼されていてな! 付随するレポートも読んだが……あれ、貴様らが持って来たものなのだろう? 何なのだこれは」
「何なのかと言われても……」
半ばやっつけでチヒロとヒマリが解析していたことは知っていたが、リオ自身はその解析結果については見ていなかった。写本を持っていたというのもあり、優先順位が低かったためである。
そう首を傾げると、部長は合点が言ったように溜め息を吐いた。
「ということは、各務チヒロか明星ヒマリが書いたんだな……」
「何か分かったの?」
「分かったも何も大苦戦だぞこの我ら新素材開発部が!!」
悲鳴を上げるように叫ぶ部長が語ったのは、あの箱の正体に迫るものであった。
「我々で解析した結果、あれは炭素とタンパク質で構成された生体だったのだ! しかもその塩基配列だって見た事もない混ぜ物がされていてだな……。何なのだあれは。宇宙人のサンプルとでも言われた方がまだ納得できるわ!」
「ちょ、ちょっと待ってちょうだい……。あれは生き物なの?」
「細胞呼吸を行い有機基質を酸化させエネルギーを生成するものを『生き物』と呼ぶのならそうであろうな。どちらかといえば自己再生する金属と言いたいところだが、分類上では生物と呼ぶ方が近いだろうとも」
部長はげんなりとした顔でそう言った。
よく見れば目元には隈も出来ており、恐らく徹夜で分析し続けていたことが分かる。
「おかげでEXPOに出展する内容を大きく変更する羽目になった……。貴様ら、よもやあれを『作った』などとは言わないだろうな?」
リオが首をふるふると振ると、部長は半ば安堵したように、半ば惜しむように溜め息を吐いた。 - 92125/05/07(水) 21:56:14
「であるならまぁ、良い。もし作ったなどと言ったのであればエンジニア部に今度こそ真の実力を見せつける必要があったものでな!」
「対抗戦のことかしら? 真の実力なんてものがあったの?」
「やかましいわ!」
叫ぶ部長だったが、ふと「そうだ」と頷いてリオへと挑戦的な眼差しを向ける。
それから意味ありげに口笛らしき掠れた音を口から漏らしながら後ろ手に手を組み、リオの周りを歩き始めた。
「ところで……、エンジニア部は何を出展するのかな?」
「私たち? さぁ……誰かしら出展すると思うけれど私は知らないわ」
「そうかそうか。いやなに、まだ応募をしていないと小耳に挟んでなぁ? 我々も互いに色々とあったが、これも何かの縁だ。もし良ければ我々の方でブースの場所も応募も手配してやろうかと思ってなぁ?」
明らかに何か企むような笑みを浮かべていたが、残念ながらリオはそれに気が付かない。
ただの好意だと解釈し、あっさり「それは助かるわね」と頷けば、部長は「そうかそうか!」とリオの肩を叩いた。
「では私の方で会長に伝えておいてやろう! 困ったときはお互い仲良く助け合わなくてはな! そうだ、いつでも助け合えるようにブースの位置も日時も我々の隣になるようにしてやろう!」
「そう……なの?」
ミレニアムEXPOに助け合うような機会があっただろうかと一瞬疑問に思うも、どうでもいいかとすぐに意識から外して頷く。
「ではまた会おう! エンジニア部の調月リオ! ハーッハッハッハ!」
そうして新素材開発部の部長は再び高笑いしながらリオの前を通り過ぎて行った。
ミレニアムEXPOに向けて多くの部活動が入り乱れるミレニアムタワー。その中を行くリオはそれからシャワーを浴びてから、ホドの状態を確認するべく第三倉庫へと向かう。
中ではちょうどウタハが腕を回しながら一息入れている最中であった。 - 93125/05/08(木) 00:43:55
保守
- 94二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 08:26:20
ほむ…
- 95二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 17:23:18
待機〜
- 96125/05/08(木) 17:46:08
「おや、リオ。随分と遅い起床だね」
「自分で思っていたよりも疲れていたみたいね」
「仕方ないさ。『分からないもの』と対峙するなんてそもそも疲れるものだし、それに私たちが相手にしているのは既存の常識からかけ離れた存在。普段以上に疲労も溜まるものだよ」
そう肩を竦めるウタハ。近くの作業台には様々な機器に繋がれた『クォンタムデバイス』が置かれている。
デバイスの画面には三次元空間で表された波動関数の動きが記録されており、その隣には色分けされた三次元点群の画像データが絶えず動き続けていた。
「これ、ホドの解析データかしら?」
「正解。最初はどうやって世界を捉えているのかを拡散モデルに当てはめてむりやり可視化させてみたりしたんだけど、手ごたえがなかったから手当たり次第に計測中」
『クォンタムデバイス』を操作して履歴を追うと、どうやらウタハはホドが特異現象を起こす前と起こした後の空間を調べていたようだった。
逆にホドが観測したデータの解析も同時に行っており、そこには正体不明の文字列と数字が書かれていた。
「例の『訳しきれない問題』だよ。四次元的に見ても循環定理に乗らないしホドの言う数字に規則性が見つけられなくてね。流石の私もお手上げだよ」
ウタハは降参と言わんばかりに両腕を上げて伸びをする。
ついでに欠伸も噛み殺し、おもむろに立ち上がった。
「疲れたしそろそろ帰るつもりだけど、リオはどうする?」
「そうね。ホドの計測については私の方で引き継ぐわ」
「分かった。じゃあ倉庫の戸締りはよろしく頼んだよ」 - 97125/05/09(金) 00:03:26
ひらひらと手を振って第三倉庫から出ていくのを見送ると、リオは改めて『クォンタムデバイス』へと向き直る。
解析ログを追いながら考えるのは普通では無いアプローチ方法。なるべく突飛で、固定観念を排斥したような何か……。
「……ホドを観測機として運用。いっそ再現させるのではなく、ホドから得られた観測結果から別の何かを作る方が早い?」
オカルト、疑似科学、廃れてしまった科学理論。
それらの中には『観測できなかったが故に存在を疑われた』というものだって珍しくは無い。
「エーテルの検出実験だって出来るかも知れない。いや、そんなことよりもイェソドが『基礎』であるのならホドは『意識』を観測できる……? ホドの観測結果にあったのは空間に伝播したウタハ自身の『意識』という可能性も……」
「私を呼びましたか、リオ」
突然の声に顔を上げると、いつの間にか後ろにはヒマリが立っていた。それからチヒロも。どうやらウタハと入れ違いに戻ったらしい。
「いえ、別にあなたのことは呼んでいないのだけれど」
「冷たいですねぇ。そろそろ通訳が必要かと思ったのですが……ねぇマルクト」
ヒマリが身に着けたグローブへと話しかけるとマルクトが「はい」と答えて、それからイェソドの上に置かれたマルクトの本体から声が続く。
「ホドに伝えるべき『言葉』があるなら我が伝えま――」 - 98125/05/09(金) 00:03:41
不意にマルクトの声が途切れた。
もしも身体があったのなら、無言で空を見上げるような、そんな光景を想起させるような途切れ方。
「ヒマリ、チヒロ、それから……リオ」
その場の全員の視線がマルクトへと集まる。そして――
「ネツァクの予兆を観測しました。目覚めるまで、およそ290時間」
「今から12日前後、ね」
チヒロがぽつりと呟く。
また、始まるのだ。セフィラとの戦いが。
「みんな、明日全員が集まったらネツァク戦までのロードマップを敷こう。状況の再確認も兼ねて、ね」
----- - 99125/05/09(金) 02:43:37
ほむを追う者
- 100二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 09:25:57
待ち
- 101二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 17:00:23
ほむほむ
- 102125/05/09(金) 22:11:35
翌日。エンジニア部の一行が第二倉庫の共用スペースへ集まったのは10時頃のことであった。
最後にネルがやってきて、急ごしらえで用意されたパイプ椅子へと腰かける。
全員集まったことを確認したチヒロは「よし」と呟いて、それから皆に向けて口を開いた。
「それじゃあ、早速本題に入るよ。メッセージで送った通り、もうじきネツァクが目を覚ます。それに向けて、やれること、やっておくべきこと、やらなくちゃいけないこと、それぞれまとめていくよ」
「おー!」
「…………」
やけにテンション高く握り拳を上げるヒマリ。しかし誰もそれには着いて来なかった。
むしろどことなく緊迫感の走るような気配。それをネルは冗談めかすように笑う。
「ま、今回からはあたしがいるからな。二度と戦闘でお前らが困ることはねぇから安心しろって!」
「そうですよチヒロ。もうトラに組み付いたり大量の兵隊と戦うようなことは無いのですから!」
「なんで名指し……。まぁ何だかんだ前線で戦う羽目になってたけどさ……」
これまでの戦いを思い出すように眉間へ皺を寄せるチヒロ。
気を取り直して言葉を続けた。
「とりあえずやっておかないといけないことから。化学調理部から分子調理機の製作依頼が来てるから、これは私の方で対応するね」
「分子調理機? それこそ私の出番だろう?」
「いや、ウタハに任せたら余計なものくっつけようとするでしょ……。資材費としてかなり多めに貰ったから、今回は節約して作っておきたいの。余ったお金で今回の探索用の装備とか機材とか整えたいし」
「予算が多いなら最高の一品を仕上げたいところだけど……まぁ、背に腹は代えられないか……」
チヒロの言葉に、ウタハは少しだけ不満そうに口を窄める。
マイスターとしてのプライドがある以上、自分が着手したら絶対に使い切るということを分かってのものである。
余った費用を探索の為の機材に回せば未知への対処方法も増えるのだから、流石に「今回だけは」とウタハはチヒロへ譲った。 - 103125/05/09(金) 22:25:41
「ウタハには全員分のグローブのオーバーホールを頼みたいんだよね。ホド戦で何かやられていたら怖いからね」
「分かった。請け負おう」
「ちょっといいかしら」
そこで口を挟んだのはリオである。
「ホドの『波動制御』についてなのだけれど、昨日私たちの技術レベルまで落とせそうだということが分かったからグローブの改良も一緒に行いたいわ」
「っ! 本当かい!?」
ウタハが目を見開いて叫んだ。
それほどまでに、さらりと言われた言葉は流せるわけが無いほどの偉業であったからだ。
オーバーテクノロジーの解体と再現。普段はポンコツだのノンデリだのと揶揄されるリオも伊達では無い。
そんなリオへ口を開いたのはヒマリであった。
「何が出来そうですか?」
「グローブの方で周囲の情報を収集、『クォンタムデバイス』へ送ることでリアルタイムで解析が出来るようになるはずよ」
装着者周辺の地形情報や手に触れたものの素材などの情報収集と解析。
仮にホドの『波動制御』のように何らかの手段で干渉された場合でも、どのように干渉されているかを分析できるというのがリオの語る改良案であった。
それを聞いて顎に手を当てながら考え込むチヒロは、少しの間を置いてリオに尋ねた。
「例えばなんだけど、データとして観測できるならこっちから干渉するっていうのは出来ない?」
「『波動制御』の再現ね。私たちが受けたみたいに音や光の遮断もそうだけれど、対象の指定が難しいのよ」
「やっぱりそこだよね……」 - 104125/05/10(土) 00:48:42
周囲を無作為に受信するのと特定の対象へ送信させるのとでは難易度が大きく異なる。
セフィラを対象とするのであればセフィラとセフィラ以外を識別するために対象のセフィラを解析しなくてはならない。
遠隔で解析できるのであればまだしも、現時点においてはその方法は見つけられておらず、またそんな方法があるなら遠隔でマルクトの停止信号を送る方が早いため、研究するにしても今では無いとリオは考えていた。
「イェソドとホドの解析データだけでは全く足りないもの。それにサンプル数として見ても全てのセフィラを合わせたところでたったの十体。セフィラへの遠隔干渉は難しいわ」
「ま、そんな都合よく行くわけないよね……。あとネルにも頼みたいことがあるんだけど……」
「あん?」
ネルがチヒロへ視線を向けると、チヒロは何だか若干申し訳なさそうな顔をしていた。
訝しむように眉を顰めるネル。そこでチヒロが言ったのはまぁまぁな無茶ぶりである。
「来月になってからでいいからさ。ちょっと『廃墟』に行ってなるべく多くのロボット兵を倒してきてくれない?」
「別に良いけどよ。なんだ? 湧き潰しでもしようってのか?」
「……っ。よ、よく分かったね……」
「勘だよ勘。壊れたロボット兵ならこの前うんざりするほど回収してきてたしな」
セフィラが目覚めていない『廃墟』には基本的に大量のロボット兵が巡回しているため、迂闊に立ち入ることも出来なければ見つかった途端に三日はまともに探索できないほどに溢れかえってしまう。
そのうえ『廃墟』は広大である。
目覚めて初めてどのあたりにいるのかが絞り込めるが、目覚める前に当ても無く探索することは無謀かつ非効率を極めていた。
戦闘を得意としているわけではないエンジニア部だったからこそ、消耗する弾薬やドローンがどれほどになるのか。
財力が無限にあるのならまだしもそうでない以上、戦闘行為は極力避けるべき……だったのだが、ネルの加入によってそのルールは少しばかり様相を変えていたのだ。 - 105125/05/10(土) 00:49:08
「今までは『たくさん居る』以上のことは分からなかったけど、もしロボット兵が現在進行形で作られているわけじゃなかったら今後のセフィラ攻略が楽になると思うんだよね」
「なるほどな。つまりあたしは新品っぽいのが居るのか居ねぇのか調べればいいってわけか」
ネルの言葉にチヒロは頷く。
作られているのなら作られているで、ネルの殲滅スピードより速いか遅いかまで調べたい、というのがチヒロの本音である。
そのことも織り込んだうえで、ネルは不敵な笑みを浮かべた。
「分かった。ゴミは『掃除』しといてやる。あー、ただ弾はくれ。ありったけな。三日三晩暴れ続けてやるよ」
何とも頼もしい姿である。
その辺りで現状タスクの無いヒマリが声を上げた。
「では私は『瞬間移動』の方を担当しましょうか。ホドの観測があればデータが取れますでしょうし、データが取れるなら再現できるはずです」
「頼もしい限りだね本当に」
ウタハが面白そうに笑ったところでひとまずの動きが決まった。
分子調理機および全体のサポート担当、チヒロ。
各種機材のオーバーホール担当、ウタハ。
『廃墟』の掃討作戦担当、ネル
『瞬間移動』の研究、ヒマリ。
『波動制御』の研究、リオ。
「それじゃあ、行動開始!」
半ば軍隊じみて来たチヒロの一声で各人が動き出す。
こうして、準備フェイズとでも言うべき時間は過ぎていった。
----- - 106二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 08:58:37
新品が居たら作られてるって事だからヤバイもんな…
- 107125/05/10(土) 10:03:23
心とは何か。意識とは何か。
根源に至りし命題ともされる『疑問』は何百年もの昔から解き明かされていない『難題』であると、マルクトはつい最近キヴォトスを走るネットワークから学んだばかりである。
機械と人間、その構造的な違いとしてまず挙げられるのはやはり『脳』の存在だろう。
マルクトに内蔵されているのはあくまでも『脳を模倣した部位』でしかなく、人間の脳と完全に同一では決してない。
人間の脳なんて言ってしまえばグリア細胞とニューロンを主とした物質に過ぎず、思考も記憶も、そこから下される判断でさえも神経回路と化学物質の働きで極めて合理的に動作するだけなのだ。
ただそれだけであれば人類はとっくの昔に生殖を伴わない方法で『人間』を生み出すことが出来ている。
けれど、現実はそうではない。
本当に『脳』が果たす『機能』が合理的な計算機でしかないのなら、外部から入力された如何なる刺激も出力されるときは同一でなければならない。電子式卓上計算機が弾き出す解と同じように、そこに寸分の差異があるはずも無いのだ。
だからこそ、マルクトが調べた『人の感性』というものはあまりに多種多様を極めており、理解の及ばぬ混沌であった。
(『初日の出』というものを『美しいもの』と表現する方がいれば、『不快』と表現する方のいるのですね)
後者であれば『理解』が出来る。
水平線や地平線へと昇る太陽の輝きに視覚系統へ異常が生じ、一時的に機能不全に陥ることを『回避すべきエラー』と判定して逃避行動を行う――これを『不快』と呼ぶのであれば理解の届くものであった。
しかし前者――『美しい』とは何だろうか。
無駄のないものを表すのなら、そもそも『初日の出』とは日の出である。毎日訪れる自然現象に過ぎないそれを『美しい』と感じるのは合理に合わない。
感覚、感性、感情――主観的な意識体験を『心』と呼ぶのなら、『心』とは一体何なのか。
誰にも観測できない主観という名の未知の果てに存在するのなら、自分はどうやってそれを知れば良いのだろうか。 - 108125/05/10(土) 10:23:12
「……リオ」
マルクトはまずラボで作業をしていたリオへと語り掛けた。
リオは計測結果が表示された『クォンタムデバイス』から目を離すことなく口を開く。
「何か異常があったのかしら?」
「『心』とは何ですか?」
「…………心?」
そこで初めてリオはマルクトの機体へと顔を向けた。
目を見開く姿が映像として探知される。これを『驚いた』と呼ぶことをマルクトは学んでいた。
「何故驚くのですか?」
「いえ、その……あなたの方からそんなことを聞かれるなんて思ってもいなかったから」
それからリオは「心、心ね……」と呟き始める。顎に手を当てて視線を床へと落し、そのままの姿勢で動かなくなってしまった。
「…………」
物音ひとつしないラボの中で時間だけが流れる。
「……………………」
5分、10分と一切身じろぎひとつしないリオをマルクトは待ち続けた。
一瞬眠ってしまったのではないかと疑うも、床へと向けられ続けるリオの視線は何かを整理するように地面の上を這い続けている。起きてはいるようであった。
「…………………………………」
「……あの、リオ?」
流石に20分が経った辺りでマルクトはおずおずをリオへ声を掛けた。 - 109125/05/10(土) 10:43:27
それでもリオは動かない。
というより、聞こえていないようにも見える。
「リオ、大丈夫ですか?」
「……………………」
《リオ?》
「はっ……!」
精神感応で強制的に思考へ割り込ませて、ようやくリオは顔を上げた。
マルクトは結論を急くように声を上げる。
「それでリオ。『心』とはなんですか?」
「…………なんなんでしょうね心って」
「なるほど。これだけ待たされて出て来たのがそれですか。我の胸に浮かぶこの感情……これが『心』なのですね」
「ま、まってちょうだい……! それは恐らく『怒り』よ!」
何らかの危険を察知したリオが堪らず叫ぶ。
実際マルクトは精神感応でリオの脳内へ収集した罵倒の羅列を大量に送り込むつもりだったため合ってはいたのだが、ふと疑問が浮かんで思いとどまった。
「これが……『怒り』?」
マルクトが呟くとリオはぎょっとした表情を浮かべて距離を取った。
「は、反逆するならヒマリからにしてちょうだい……」 - 110125/05/10(土) 10:43:59
「反逆の意図はありませんので教えてください。何故『怒り』だと呼んだのですか?」
「何故、ね……」
「30秒以内にお答えください」
「が、頑張るわ……」
クイズ形式のようになってしまったが、再び思考の海へ潜られるよりもマシだとマルクトは判断した。
それから1分かけて考え込んだリオは、順番に先ほどのやり取りを『分析』していった。
「まず、『待つ』という行為は外的要因によって自らが本来使えた時間が失われる、という性質があるわ」
「そこは理解しているのですね」
「当然よ。機を伺うのならまだしも、そうでないのなら待っていたって仕方がないもの」
どの口が言っているんだろう、なんてことを思わず言いかけたマルクトだったが、そこはぐっと堪えて話を進めた。
「つまり、我はリオに待たされることで失った自分の時間的損失によって『怒った』ということなのですか?」
「私はそうではないかと分析したわ。『怒り』や『恐怖』といった感情は自身に与えられる損失や損害から身を守るための防衛機制のようなものだもの。もしそう言った感情が欠けている存在がいるのであれば、それはきっとあらゆる損害を受容できるか、そもそも損害として認識していないかのどちらかよ」
例えるなら『服の上を這う一匹の蟻』である、とリオは続けた。
害を与えず感じることも出来ないのなら何とも思わない。
そこで蟻を払うとすれば、服の中に入って直接這われるという不快と言う名の『害』を危惧して行われるものである、と。
「言ってしまえば将来的な損害の予防かしら。そのために人は怒り、恐れ、遠ざけるのよ」
「合理的ですね。この点については我も理解できます」 - 111125/05/10(土) 11:15:46
機械的プロセスを通して行われる未来予測の損害への対処。
それは自身にも搭載されている機能であるとマルクトは認識している。
とはいえ、『人間』であるリオが『機械』である自分と同じ思考を持っていることもまたひとつのサンプルになると捉えて話を続けた。
「ではリオ。初日の出を美しいと感じる感覚についてはどうでしょうか? 合理性を伴っていないと思われるのですが……」
そう聞くとリオは「そうね」と頷いた。
「ただ眩しいだけなのに何故綺麗と感じる人がいるんでしょうね」
「…………リオ?」
「毎朝昇るただの自然現象に過ぎないのに、わざわざ見に行く人の気が知れないわ」
「………………」
おや、とマルクトは不安を覚えた。
リオの『感性』はサンプルとしてあまり当てにならない類いなのではないかと。 - 112125/05/10(土) 11:15:56
「あの、綺麗だと感じるものの中に『虹』があると見たのですが、これについては……?」
「虹? 大気中で分散する光が見せる大気光学現象でしょう? 昼にホースで水を撒けばいつでも見られるわ」
「で、では、『一面に咲く色とりどりの花畑』などは……」
「群生地のことかしら? 色とりどりであるのなら多くの品種が運ばれて、尚且つ共生している状態なのね。それはそれで興味深いけれど……。いえ、土壌の酸度や気候の影響も無視できないわね。確かマーガレットは成長具合によって色が変わるからそういった要素も考えればそれほど珍しいものでも……」
ヒマリとはまるで違う、とマルクトは感じた。
正確には現状もっとも会話を重ねたのがヒマリなのだが、ヒマリの語る『美しいもの』や『尊いとされるもの』の話はマルクトにない感性から語られるもので、『人間』のサンプルとして非常に有益であったと記憶している。
対してリオはどうだろうか。
気付けばマルクトは口にしていた。
「あの、リオは人間ですよね?」
「質問の意図が見えないわ」
「その……果たしてリオが人間を知るためのサンプルとして効果的なのか疑わざるを得ないと判断しました」
「何故……っ!?」
狼狽えるリオを見ながら、マルクトは密かに思った。
(もしかすると、人間も我も大した違いは無いのではないでしょうか……?)
ヒマリの語る『心』は未知で、リオの語る『心』は既知である。
いずれにせよ『心』というものについて、マルクトの中でどれだけの価値があるのかという点が大きく揺らいだのは確かであった。
----- - 113二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 18:34:43
心を聞く相手の人選ミス…
- 114二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 20:16:31
理屈で語るなら進化心理学でも持ってくればいいが
- 115125/05/10(土) 20:42:15
瓦礫に隠れながら、チヒロは双眼鏡を覗き込んでいた。
場所は『廃墟』、噴水広場から右へ曲がった先に広がる太古の都市群。
「天下無双というか、鬼神というか……」
チヒロがそう呟くのも無理はない。
双眼鏡で映し出されるのは数えるのも嫌になるほど多く集まったロボット兵に囲まれながらも、近付く全てを粉砕する暴力の化身の姿である。
二挺のサブマシンガンを同時に操り、周囲全体へ嵐のように弾丸をばら撒く様はとてもじゃないが近づけない。
倒されたロボット兵の銃を奪って更に乱射を重ねながらチェーンを振り回して叩きのめすその姿は、粗削りであるにも関わらずどこか芸術性すら感じるまでに効率を極めていた。
そんな暴虐の主たる美甘ネルが満を持して『特異現象捜査部』の活動に参加したのはつい先日のこと。化学調理部の部長へ分子調理機を納品したときである。 - 116125/05/10(土) 20:42:27
「ありがとー! 分子調理機っておっきいんだねー」
「調理台ぐらいありますからね。こちらこそ資材費、助かりました」
嬉しそうに笑う部長に、チヒロも謝辞を述べる。
部活が減っているという話をして以来、方針を決めるまでは薮蛇を突く以前に藪にすら近付きたくないのが正直な感想であった。
そのため、部室棟の共有倉庫にて引き渡しを行うや否やチヒロは足早にそこから去ろうとする。
しかし、部長の方はすぐにそれを許しはしなかった。
「あー、ちょっと待ってー」
「…………如何なさいましたか?」
「ううん。ただ……」
何かを言い淀む部長は、はくはくと口を何度か開けては閉じて、それから告げられたのは簡素な警告である。
「気を付けてね。そろそろ強い部活も巻き込まれるよ」
「…………分かりました」
何から何に巻き込まれるのかも分からないが、沈黙は金である。
中途半端に首を突っ込むぐらいなら、『化学調理部から警告された』という事実を以て本腰を入れられる時に行った方が良い。
(せめてネツァク……いや、ミレニアムEXPOが終わってからかな)
仮にエンジニア部へ大規模な襲撃が行われたとしても、ホドもイェソドもいるのだから何人来ようが制圧自体は簡単である。
どちらかと言えば、セフィラの存在が公に発覚することに対する言い訳を考えてさえおけばいい。
(どのみち、ずっと隠し通せるとは思えないしね)
その時は共犯になっている会長も巻き込んでやろうと密かに笑い、そして化学調理部の廃部がセミナーによって受理されたのだった。 - 117125/05/10(土) 22:07:11
それから早速ネルに『廃墟』で暴れて貰っているが、キリがないほどに『廃墟』の奥から続々とロボット兵たちは現れ続けている。
グローブ型子機のオーバーホールもチヒロとネルの分を優先して行ってもらったため、ひとまず通信は出来る状態にはなっていた。
「ネル、まだ戦えそう?」
【あたしは問題ねぇけど、そろそろ弾薬が尽きて来たな。キリのいいところでそっち行くわ】
「了解」
チヒロが呟くと、グローブを通してネルの声が耳元で聞こえた。
30分にも及ぶ単独での連続戦闘。しかも一対多数。充分過ぎる成果である。
そんなときだった。
【チヒロ、あなたに聞きたいことがあります】
「マルクト? どうしたの?」
唐突に聞こえたマルクトの声に驚くチヒロ。
何か報告しなくてはいけないことでもあったのかと聞き返すと、マルクトから尋ねられたのは意外なものだった。
【ヒマリとリオに『心とは何か』と伺ったのですが、よく分からずで……】
「それは……………………随分と極端な組み合わせだね」
チヒロは呑み込んだ。「サンプルケースとして比較しちゃ駄目な二人じゃない?」という言葉を全力で呑み込んだ。 - 118125/05/10(土) 22:07:38
「心……心ねぇ……」
【リオも考え込んでいましたが、やはり人間でも難しい問いなのですか?】
「そりゃあ、わざわざ考えないからね」
【ですがヒマリはすぐに答えてくれました】
マルクトの言葉に思わずチヒロは笑ってしまった。
確かにヒマリならそう言ったことを普段から考えていてもおかしくはない。ついでに言うなら自分の幼馴染も、と。
「ウタハも多分即答するだろうね。で、私か……。なんだろ、『セキュリティ』とか?」
【リオが言ってました。危機に対する防衛反応であると】
「あー、言いそうだね確かに」
けれど、チヒロにとってはそれだけでは無かった。
「仲間を見つける、っていうのも含めて良いと思うんだよね。ほら、セキュリティって何も脅威から遠ざけるだけじゃないでしょ」
不正なアクセスから身を守り、正しき経路で内側へと入れる検閲機構。鍵となるのは『共感』だろうと考えた。
「同じ価値観を持つ人を結束させるのも心の役割だと思うんだよ。なんたって人間はひとりじゃ生きていけないんだし」
【それは友人がいなければ死ぬということですか?】
「極論が過ぎるって……!」
それならリオはとうの昔に死んでいるのでは……?
そんな益体もない想像が脳裏を過ぎって苦笑いを浮かべるが、部活内で見る限りでもリオの生活力は恐らく低い方である。少しばかり笑いごとにならない気がして、それから考えを振り払うように首を振った。 - 119125/05/10(土) 22:08:00
「別に人はひとりでも生きていけるよ? まぁ、友達がいないことを苦と感じるのに独りぼっちだとそれなりに生きづらそうではあるけど……ほら、リオなんかはたまにしか気にしないタイプだし」
【たまには気にするんですね】
「何かに夢中になってる間はいいんだけど、ふと覚めると寂しくなるみたいだよ」
たまにやたら後を付いてくる時があるのだ。
そういう時は大抵ヒマリが煽りながら構い倒している……が、今したい話はそういうことではない。
「それはそれとして、要はさ。社会があるから生きられる、ってことだと私は思うんだよね」
【社会……ですか】
電気、ガス、水道。全てのインフラはメンテナンスを行える誰かが居るから自分がやらなくても生きていける。
自分が普段相手にする取引先だってそうだ。
社会は友人ではない人間が回すからこそ、全部自分でやらなくても生活が出来る。
「仮に明日世界が滅亡して自分以外の全人類が居なくなったら、私は絶対に長生きできない。ある程度生き延びることが出来ても、生きてるだけで限界かな」
【それは……自らの存在意義が果たせない、ということですか?】
「存在意義、ねぇ……」
何故人は生まれ、生きていくのか。
確かに昔はそんなことを考えた時もあったが、あくまで思春期に抱く疑問程度のものである。
ウタハがロマンチストとして確固たる自我を持つからこそ、チヒロはリアリストとして『外』を見てきた。
だからこそ、普段は考えないようなことを考えるのは筋肉痛に似た疲労感を覚えてしまう。 - 120125/05/10(土) 22:09:09
「ごめん、やっぱりこれ以上は力になれないかな。答えは準備しておくからちょっと時間ちょうだい」
【分かりました】
マルクトの返事で思考を打ち切ろうとして……それからふとチヒロの脳裏に浮かんだのはこんな言葉であった。
「自己と社会の接触点……」
【チヒロ?】
「ああ、それだね。うん、私にとっての心って多分それだ」
社会の中で生きていくために自己を変えようとする適応反応。そう言うとマルクトは不思議そうな声を発した。
【そうであるならまず前提として『心』の存在が必要です。全ての人類が合理的に動いたのなら適応しようとする働きも必要ないのでは?】
「あれ? うーん……だったら全人類が合理的に動くのを防ぐため? いやなんで?」
そう言われて思い浮かぶのは、全人類を使ったセル・オートマトン。
全てが合理で動くのなら、全ての動きは一点に収束し停滞する。
停滞を防ぐためにはイレギュラーが必要である。
特異点なくして進化は有り得ない。ならば人は何処へ行こうとしているのか。進化の先に待つのは何か。
「どうした? そんなに呆けた面しやがって」
「ネル?」
チヒロが顔を上げると、そこには暴れ尽くしたネルが立っていた。
担いだ銃口は赤熱し、クールタイムなしでは戦えないことを意味していた。
(いや、別に自分の銃無しでもネルだったら戦えそうだけど……) - 121125/05/10(土) 22:44:00
そう思っていると、ネルはチヒロが運んだリュックサックから水を取り出して勢いよく飲み始めた。
「っ――ぷはぁ! やっぱ運動あとの水は最高だな!」
ネルは口を拭うと、手際よく弾倉を変えて予備弾倉を腰に差していく。
一切の迷いなく行われるその姿に、チヒロは問いかけていた。
「マルクトが『心』が何かってのを聞いてるんだけど、ネルはどう思う?」
【はい。ネルにとって『心』とは何ですか?】
続けて問われるマルクトの声にネルは「ああん?」と振り返る。
それから親指で自分の胸を叩きながらこう言った。
「そりゃ、『ここ』にあるもんだろ」
【済みません。よく分かりません】
「下手なAIかってのてめぇは……。チッ、めんどくせぇなぁ……」
ネルは頭をガシガシと掻きながら視線を宙へと逸らして舌打ちを放った。
「例えばよぉ、強ぇ奴にボコボコにされたとして、どう思うよ」
【脅威です。我に対処できないと判断し、対処できる存在を探します】
「つまり、『勝てねぇ』って思ったわけだ。そんときどうだ? 痛いだとか苦しいだとか、そう思うか?」
【苦痛については未だ学習が足りませんが、対処できないことを『勝てない』と表現するのは正しいことかと】
「あたしは違ぇよ」
ネルは一旦言葉を区切った。そして言葉を続けた。 - 122125/05/10(土) 23:23:46
ネルは一旦言葉を区切った。そして言葉を続けた。
「『勝てねぇ』って決めたのが心だ。そう名付けたのが心なんだよ。だからあたしは絶対にそうは『名付け』ねぇ。『怒り』だよ。ボコボコにされたてめぇの不甲斐なさへの『怒り』、そしてあたしをボコボコにした奴への『怒り』。感情だ何だってのはあたしが決める」
敵対者のみならず自分ですら捻じ伏せかねない激情の発露。
最も合理からかけ離れた存在はいつでもブレず、曲がらず、それでいて熱かった。
「つまり……なんだ。好きに決めていいだろ。『心』が何かっつーてめぇの答えはよ」
【そういう答えも……あるのですね】
解なし。故に答えは自らが決めて良い。
そんな無法にも程がある答えをネルは殴りつけるように口にした。
気付けばチヒロは声を上げていた。
「何でもありじゃないそれ?」
「別にいいだろ。そもそも心が何かなんて、分かってようがどうだろうが関係ねぇじゃねぇか。そもそも『心が何だ』って気にしてる時点でもう人間と変わりねぇだろ」
「その穿ち方は……確かに強いな」 - 123125/05/10(土) 23:23:57
勝負にならない絶対的主張である。何せ理屈ではないのだからどうしようもない。
チヒロは笑ってマルクトへと返答を返した。
「というわけで、十人十色の答えが出たわけだけど……どうかな?」
【理解不能です】
「それが心なんじゃねぇの? よく分かんねぇもんがよ」
準備を終えたネルが銃を構えて背を向けて、それからニヤリと笑った。
「分かんねぇもんと付き合うのが人生ってんなら、あたしはもっと単純でいい。何があっても、あたしは負けねぇっつー自信だけで充分だ」
それだけ言って颯爽と戦場へ身を投げたネルを見て、チヒロは肩を竦めた。
「案外、『未知』こそが心の本質なのかもね」
それがマルクトの聞いたネルとチヒロの答えだった。
----- - 124二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 01:12:20
保守
- 125二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 09:33:34
ほしゅ
- 126125/05/11(日) 13:09:15
朝九時。目覚めたウタハは自宅のベッドで大きく伸びをする。
「よし、起きた」
これでもエンジニア部の中では寝起きの良い方であった。
身体をほぐすように首を回して立ちあがると、チヒロの置いていった牛乳とバナナをキッチンから取り出して軽い朝食を摂る。
イェソド戦からの反省として、徹夜明けのままセフィラ探索へ向かうことは断固禁止とチヒロから厳命が下ったのだ。
正直あれほど後悔したことはそうそう無い。誰一人としてそれに異論を唱える者はおらず『ちゃんと眠ること』、『探索日には朝食を摂ること』など、万全のコンディションで挑めるようにとチヒロが世話を焼いてくれていた。
その結果が朝バナナと牛乳。
最近チヒロは趣味程度ではあるものの料理にも挑戦しているようで、そのうち立派な世話焼き女房を演じられるほどになってしまうのかもしれない。
「それはそれで見てみたいけど、あのチヒロが素敵な殿方にニャンついてる姿も気に……いや、やっぱり尻に敷いてそうかな?」
浴室で熱いシャワーを浴びて、ドライヤーで髪を乾かす。
制服に身を包み、その上から白衣を身に纏った。マイスターを志して、マイスターの資格を得てからも羽織り続けている自らの証である。
「おいで、『ゼウス』」
ウタハが一言、そう告げると、部屋の隅で蹲っていた四足歩行のドロイドが起き上がる。
『ゼウス』――ウタハが作り出した、セフィラを再現するための戦闘用ドロイド。
雷ちゃんのような『椅子』に機能を追加したものではない。極地探索と戦闘を目的とした正真正銘の『兵器』である。 - 127125/05/11(日) 13:47:21
肩高70センチ程度。チーターぐらいの大きさを持つキツネ型。
外装はセフィラに対比させるように黒と銀。瞳のグリフは流石に何なのか分からなかったため、カメラを搭載した白球を入れているだけである。
ミレニアムで人気のあるメカ犬ならまだしも、この大きさとなると走らせるにはまだ技術も知識もまだ足りない。
最終的には人を背に乗せられるぐらいの馬力と安定力。そこにスピードを両立させたうえで各セフィラの機能を搭載できればと思ってはいるが、完成はいつになることやら。
【ウタハ】
「……っと、マルクトだね。おはよう」
『ゼウス』から聞こえた声に一瞬驚くも、すぐに平静さを取り戻す。
セフィラの機能を搭載するに当たってまず組み込んだのがマルクトの感応コードである。
グローブ型子機と同じように送受信できるようにしてあるが、あくまでテスト機体であるが故に通信が出来ることだけ確認して以来特に使われていない機能であった。
【挨拶が遅れてしまいましたね。おはようございますウタハ。本日から明日にかけてネツァクが目覚めると予測されるのですが、調子は如何でしょうか?】
「昨日はちゃんと寝たからね、気力は充分さ。今日中に片が付けばいいんだけど……、でもやっぱり慣れないかな」
家を出て通学路を歩くウタハと、その隣を歩く『ゼウス』。
セフィラの起こす特異現象は見るまで一切の予測が付かず、発動すれば間違いなく初見ではまず避けようがない。
今のところは致命的な現象では無いが、突然酸素を奪われるなど本当に何があるか分からない。
「安全が確保されていない『未知』が相手だからね。リオじゃないけど、油断したら何があるか分からない。気を払うべきだろうね」 - 128125/05/11(日) 14:04:48
歩道を曲がってミレニアムサイエンススクールの象徴たるタワーが遠くに見えてくる。
しばらく歩くと、ゼウスを介してマルクトから声が発せられる。
【…………申し訳ございません】
「急にどうしたんだい?」
【以前リオに聞いたのです。損害や損失を与えられるのを回避するべく人は『怒り』を覚えると。我がケテルへ至り存在意義を探すことを頼まなければ、皆さんが危機に近付くこともなかったことでしょう】
「ふふっ、今更だね」
マルクトの謝罪にウタハは笑顔で返す。
本当に今更過ぎる。何より、セフィラを追うことを選んだのは自分たちなのだから如何なる危険があったとしても、そこにマルクトの責は無い。
「私たちは選択してここにいるんだ。君に強制された覚えは無いし、強制された程度で動かされる私たちではないよ」
【ですが会長には服従を強いられているように見えます】
「そ、それは……ほら、一応納得してるから……」
苦渋の決断みたいな納得の仕方であるが、間違っていない。多分。
引き攣る頬をほぐすように片手を頬へ当てて、ぐにぐにと動かす。
「ともかく、ともかくだよ? この先何があっても後悔はしな――いやするかもだけど、君を責めることだけは絶対に無いと言い切れる。それはエンジニア部の総意だと確信している」
【何故ですか?】
「それは私がエンジニア部の部長だからだよ」
【どういうことでしょうか?】
「仮に責められるとしたら、それは黙認した部長の責だってことだよ」
エンジニア部は確かにチヒロがまとめ役として動いてくれている。
しかし、だからといって部長という役割に対して無自覚でいるわけでは決してない。
「エンジニア部は――まぁ入部していないネルもだけど、ここにいるのは私が知る中で最高の仲間たちさ。私たちならどんな困難も乗り越えられる。そう信じている。信じられなくちゃ、部長の名は相応しくないだろう?」 - 129125/05/11(日) 14:29:22
【それが……『心』なのですか?】
「心?」
ウタハが首を傾げると、マルクトは説明した。
自分がヒマリやリオ、チヒロとネルに『心とは何か』と聞いていることを。それこそが自分の学ぶべきことなのだと。
それを聞いたウタハは笑って、それからすぐに答えた。
「心というのは熱情さ。合理的でなくとも『やりたい』、『行いたい』という衝動性。誰もが『非合理的だ』と指を指しても止まれない情念にこそ、心が宿るんだ」
【……チヒロの言った通りです】
「うん?」
【ウタハなら即答するだろうと】
「ははっ――」
少しばかり照れ臭く、そして嬉しくてウタハは頬を緩めた。
(本当によく見てるよ、私の古い友は)
ミレニアムの正門を抜けて学園内。
向かう足は迷うことなく研究室を兼ねる第二倉庫へ。
「君は自分の存在意義を、生まれた意味を知りたいと言っていたね」
【はい。我はケテルへ至らなくてはいけません】
「だったら君は、『そんなこと出来ないから諦めろ』と言われて諦められるかい?」
【それは……】 - 130125/05/11(日) 14:29:33
マルクトにはそれができない。いや、したくないとも言うべきか。
命令も指針も存在しない。先の見えない孤立した闇。諦めろと言われても、その『命令』に果たして従えるだろうか。
渦巻く思考がマルクトの声を止める。
しばしの静寂。気付けば皆が集まる第二倉庫の前まで来ていた。
ウタハは足を止めて、傍らを歩く『ゼウス』へと瞳を向ける。
「その思考こそが『心』だと私は思うんだ。考え、迷う、その不確定な想像こそが、『心』と呼ばれるものから生まれる君だけの存在証明だってね」
心とは何か。
合理や理屈ではなく個々が持つ原初の答えは出揃った。
ヒマリの語る『美しいと感じるもの』。
リオの語る『脅威に対する防衛機制』。
チヒロの語る『世界と私の検閲機構』。
ネルの語る『自ら望んで決めるもの』。
そして――ウタハが語る『非合理でも求むもの』。 - 131125/05/11(日) 14:29:47
【やはり、私には理解不能です】
「私たちもそうだよ。心なんて自分だって分からない制御不能な『未知』なんだ。未だ誰一人解明できていない、誰しもが持つ原初の『神秘』――」
ウタハは両手で扉を開ける。第二倉庫、ネツァク攻略戦へと挑む皆の元へ向かうために。
「ひとまず」
視線の先には『特異現象捜査部』の皆の姿。
ウタハの姿を認めて全員が立ちあがる。
「目の前の『未知』を解明しようか」
エンジニア部、部長。白石ウタハ。
彼女の号令でミレニアムの天才たちが動き出す。ネツァクという『未知』を解明する――そのために。
----- - 132二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 21:57:28
ミレニアム懸賞問題より難題な『心』
- 133二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 23:12:29
- 134二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 23:19:07
- 135125/05/12(月) 00:47:43
ありがとうございまぁす!!(クソデカボイス)
容姿の描写は完全に決め切れていなかったのでしてませんでしたが、ポニテはまさしく解釈一致!
そして書いていないものの「ヒマリのインナーは病弱になってから着始めた」と勝手に考えていたため「まさか脳内読まれてる……?」とそろそろ恐れ始めました。
一年生というのもあって頭身低めなのも極めてベネ。
一年リオも二年間で急成長したようなイメージだったので、この頃はまだ峰不二子ボディでは無いかも知れません。
書いた容姿は「ネルはこの頃からワンポイントで三つ編み作ってる」ぐらいでしょうか?
容姿の描写ってまず脳内キャラデザをした上で呼んでくれる方々がイメージ出来るよう文字に起こす必要があるので違う筋肉使うんですよね……。むつかしい……
- 136125/05/12(月) 00:48:02
『廃墟』へ向かうトレーラーと、その後ろを走る無人トラック。
トレーラーの中にはチヒロ、ウタハ、ヒマリ、リオ……それからネルの姿。
恒例となったブリーフィングを行うべく、チヒロが一同へと視線を向けた。
「それじゃあ、各自状況報告しよっか。まずは私の方から」
チヒロが共有したのは化学調理部が廃部になったことと分子調理機を納品したこと、それから最近ミレニアムの中で妙な動きがあると言うことである。
「化学調理部の部長が言ってたんだよね。『そろそろ強い部活も巻き込まれる』って」
「セミナー原理主義のことでしょうか?」
「多分ね」
部活が減ってるだのその辺りの話はあえて伏せて、それからネルへと報告を促す。
ネルは頷いて、『廃墟』で暴れ回った結果を報告した。
「あたしが見た感じ新しく作られてるわけじゃなさそうだったな。修理されて再利用って感じでもねぇ。枯らせるぞ、あのロボット兵たち」
「それは良いね!」
ウタハが声を挙げる。ロボット兵の殲滅に成功すれば『廃墟』探索が楽になる上に、何より次にセフィラが現れる可能性のあるポイントのロケハンが可能となるからだ。
そこで口を開いたのはリオである。
「だったら、ネツァクを確保したら確保したセフィラを使って掃討作戦を展開するのはアリね」
「おう、だったらあたしとセフィラ。どっちがどれだけ倒せるか競争すんのもアリだな!」
ネルがにかっと笑みを浮かべた。
次に報告する番が回って来たのは雷ちゃんに座ったウタハである。 - 137125/05/12(月) 00:48:29
「私の方は……まぁ見ての通り各種機材をトレーラーに配備して、それからグローブ型子機のオーバーホールも完了しているよ」
「そういえば何か作ってたよね。あのキツネっぽいの」
「ゼウスだね。まだ素体だけだからある程度動かせるようになるまでは実戦に出さないつもりだよ。戦闘データについては今度ネルに協力してもらいたいんだけど、いいかな?」
「任せな!」
ウタハに続けて報告を始めるのはリオである。
「私の方はそうね。『波動制御』の研究を進めた結果、グローブ型子機に周辺探索装置を付けることに成功したわ。範囲は半径10メートル。周辺に存在する物質の情報を『クォンタムデバイス』に送って親機で解析することが出来るようになったところよ」
加えてリオは『クォンタムデバイス』本体にも改良を施していた。
ホドにイェソドを観測させることで得たデータを元に量子コンピュータ『のような』演算装置を追加していた。
この『ようなもの』というのに関しては、リオ自身どうしてそうなっているのか分かっていないからである。
「原理を解明したわけではないから純粋なバージョンアップとは言い難いけれど、私が見た限りであれば一応動くわ」
「消費電力はどうなってますか?」
「流石に発電機に繋げながらでないと動かせないわね。内蔵バッテリーでは五分と持たないわ」
やたらと食う電力もそうだが、分からないものを分からないまま使うことから科学は始まっている。
いま必要なのは使えるかどうかだけ。『何故』はこれから解明していく。 - 138125/05/12(月) 00:49:00
「それでは、最後は私ですね」
『瞬間移動』の研究を行っていたヒマリが悠然と微笑んだ。
「まだ実験中ではありますが、10メートル先に弾倉ひとつ分ぐらいなら飛ばすことが出来ました」
「できたの!?」
「流石だねヒマリ」
驚いた声を挙げるチヒロとウタハ。そこにリオは淡々と言葉を投げかけた。
「飛ばすのに必要な時間は?」
「10分間。送れるサイズといいまだ実用段階にはありませんが、この辺りに関してはネツァクをどうにかしてからリオに手伝ってもらいます」
さらりと言うヒマリではあったが、実際のところイェソドの『瞬間移動』の再現は困難を極めていた。
場所に時間を合わせた四次元座標であれば現代の技術でも観測できるが、それ以外の要因が絡んでいることが判明したのだ。
「リオの言っていた『空間内の意識』が影響していると言われてもおかしくないのですが、とにかくデータが足りないのです。定理が判明していないので計算しようにも手の出しようがなく、今は『イェソドの言う通りに作ったら何故か飛んだ』が限界ですね」
「っつーことは収穫なしってことか?」
「そうとも言い切れませんよ」
ヒマリは笑みを一層深くした。それからリオへと視線を向ける。
「これはリオ向けの話になりますが……ホドの観測は観察者効果を引き起こしません」
「なっ――」
「なんだそれ?」
絶句するリオ。それに疑問符を浮かべるのは専門ではないチヒロ、ウタハ、ネルの三名。
ヒマリは三人を見ながら口を開いた。 - 139125/05/12(月) 00:49:29
「例えばですが、完全な暗闇の中に目も眩むほどの超絶美少女がいたとしましょう」
「見えねぇんなら目の眩みようもねぇだろ」
「そう、重要なのは『見えない』という部分です。ではスポットライトで照らされたらどうでしょう?」
「眩むかどうかはともかく、見えるようにはなるな?」
「何故見えるのですか?」
「ああん? そりゃどういう――」
「光の反射だね?」
いまいちピンと来ていないネルの代わりに答えたのはウタハであった。
ヒマリは頷く。
「そうです。つまり私たちの目が捉えているのは光を反射した物体の形なのです。色もそうですね。赤色を吸収しない物体だから反射された赤色が見えるということです」
「つまり……なんだ。光をぶつけてるってのが問題なのか?」
「専門でも無いのに勘所がいいですね。リオとは大違いです」
「私を引き合いに出さないでちょうだい……」
流れるように引っ掻かれたリオから不満の声が上がるも、ヒマリはそれを無視して説明を続けた。
「大きな物質であれば光を当てられたぐらいで変わることはありませんが、量子というミクロの世界では違います。当てられた光に弾かれて動きが変わってしまう……可能性があります」
「可能性? 分かってねぇってことか?」
「分からないことだらけなのです。何せ見ようとした瞬間に本来見たかったものとは違うものになっている『可能性』があるのですから」
「けれど、ホドは違う」
ヒマリの説明をリオが引き継いだ。
「観察者効果を引き起こさずに観測が可能であるならば、ホドはありのままの世界が見えているということよ」
それは反射を用いらずに世界を見ているということに他ならない。
そして、それが意味するのは極めて高度に発達した遥か未来の量子力学の結晶こそがセフィラには使われているという事実。 - 140125/05/12(月) 01:12:34
「私が思うに、私たちからすれば技術の最奥だけれども古代人からすればこれが基準なのよ」
リオは言葉を紡いだ。
「『知覚せし万象の基礎、イェソド』、『輝きに証明されし栄光、ホド』……つまり『基礎』と『栄光』よ、まだ三体目なのに。だったら次は何?」
【『再現可能な勝利の創造』。ネツァクは『勝利』のセフィラです、リオ】
通信越しに話を聞いていたマルクトが第二倉庫から割り込んで解説をする。
それにリオは礼を言って、改めて全員へ視線を向ける。
「『勝利』が何を示すかは分からないわ。ただ、何かに勝つなら相手がいなくてはいけない。恐らく危険度はこれまでと一線を画するわ」
『基礎』たるイェソドの特異現象『瞬間移動』はあくまで攻撃に転用できるものでしかなかった。
『栄光』たるホドの特異現象『波動制御』に至っては単体では攻撃性能を持たず、その部分はロボット兵に担わせていた。
ならば『勝利』は――ネツァクはいったい何をしてくる?
ホド戦を終えて以来、リオの脳内にずっとあった疑問と恐怖。
きっと恐れることこそが自分の役割なのだとリオはうっすらと悟っていた。
(未知への恐怖こそが生き延びるために必要なものなのだから)
そんな悲壮な決意を固めるリオの傍らで、ヒマリはあっけらかんと笑って言う。
「楽しみですね。ネツァクから得られるデータから今度は何が作れるのでしょうか」
「私の気も知らないで……」
「知った上で言っているのです。あなたが悲観するなら私は楽観しますよリオ。そもそもあなただって興味があるのでしょう?」
「それは……否定はしないわ」 - 141125/05/12(月) 01:12:45
バツが悪そうに視線を逸らすリオ。
そこにマルクトの通信が入った。
【もうすぐ目標のポイントに着きます。皆さん、準備を】
「何が来たってぶっ潰す。それだけだ」
ネルが鮫のように笑ったところでチヒロが一同を見渡した。
「探索メンバーはネル、リオ、ヒマリの三人。バックアップに私とウタハが入る。それでいい?」
「問題ねぇ。流石に三人守れって言われたら保障はできねぇけどよ」
「ええ、私も大丈夫よ。下調べなら私が適任ね」
「とりあえずリオとネルを入れておけば安牌ですからね。でしたら動ける私がサブに入るのは当然でしょう」
初見必中の特異現象に対するメンバーとしては極めて妥当な割り振りであった。
欲を言えば、何でもできるヒマリを探索メンバーが得た情報の解析に回したかったが、何でもできるため初回の探索メンバーに加えるのもまた妥当。
「ゼウスが完成するまでは控えに居させてもらおうかな。それに足りないものがあったら言ってくれ。私の方で作っておくから」
ウタハの言葉に頷く一同。
主としたオペレーターをチヒロに据えて、全員の準備が整った。
向かう先は太古の都市のパビリオン。
『博物館』と名付けられた屋内であった。
----- - 142二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 03:45:41
- 143二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 03:46:39
- 144二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 08:34:38
すげえ…パイプ椅子と構図的に、もしかして2年後のヒマリの立ち絵のオマージュも入ってる?
- 145125/05/12(月) 09:25:56
- 146二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 18:00:58
まだ体が出来てない頃の…
- 147125/05/12(月) 23:17:18
「おらぁ!!」
裂帛の勢いと共に『博物館』の扉を蹴破ったネルは、後ろに続くリオへヒマリへ向けて視線を投げかける。
「よし、中に入るぞ。あたしが先行するからやべぇと思ったら逃げられるようにしておけ」
ネルの言葉に二人が頷いて、それから三人は『博物館』の中へと入っていく。
今回の探索でこれまでと違う点があるとすれば、それはセフィラが目覚めたほぼ直後に該当エリアへの侵入を果たしたことだろう。
イェソドの時は目覚めて数時間。ホドは三日とそれなりにセフィラ自身が自らの機体性能を試す時間を与えてしまっていた。
しかし今回はあらかじめ『噴水広場』で待っていたこともあり、目覚めて15分も経っていないうちに行動を開始することが出来ている。
叶うことならセフィラが自らの機体性能を理解する前に確保まで行きたいところではあるが、当然焦りは禁物だ。いつでも逃げられるように、逃げられなければ少しでも情報を残せるようにと三人は周囲に意識を向ける。
『博物館』一階、中央ホール。
正面には惑星を模した巨大な球体が何らかの技術で浮かんでいたが、その大陸図は明らかにキヴォトスのものではなく、文字の類いが一切書かれていないためどの惑星の模型なのかは不明であった。
【早速だけど聞こえる?】
「聞こえますよチーちゃん。ジャミングの類いは行われていないようですね」
【ホドみたいのがまた居たら厄介だから一応ね】
「そうね。音声欺瞞の類いはもう『ほどほど』にして欲しいわ」
【…………】
「ホドだけに。ふふっ」
「チーちゃん。今から負傷者が一名出ます。ネル、リオを撃ってください」
「ど、どうして……っ!?」
「緊張感ねぇなお前ら……」
呆れたように溜め息を吐くネルだったが、すぐさま意識を切り替えて周囲を見渡した。 - 148125/05/12(月) 23:43:42
「チヒロ。今んとこ何もいねぇけど、この辺りの構造はどうなってる?」
【全く、二人ともネルを見習ってほしいね】
それから告げられたのは周辺情報である。
まず、侵入口を6時としたときに、中央ホールから3時方向へ伸びる東棟と9時方向に伸びる西棟によって『博物館』は構成されていた。
構造上、恐らく各棟の末端か中央には上へ登れる階段なりがあると思われるが、現在地からでは半径10メートルと探査距離の短い『クォンタムデバイス』による観測は不可能。やはり各人の視覚能力の方が優れてしまっているわけではあるが、唯一優れている点は『床や壁を無視して観測できる』という部分だろう。
【まず地下はある。ギリ二階層下まではあるっぽい。何処かに降りる為の経路があるはずだから気に留めといて。あとそこから地上三階までだけど、こっちに関しても反応なし。何かが歩いているわけじゃなさそう】
半径10メートルの制約もこういった屋内であれば使いどころはかなりある。
チヒロの解説を聞いたネルはすぐさま後ろでやんのやんのと言い合いをしている二人へ振り返った。
「上と下、右と左。どっちから探すよ?」
「時計回りに上へ行きましょう。クリアリングは済ませておきたいわ」
「チヒロ、西館から上に登っていく。あー、全何階だこれ?」
【上は三階のはず。中二階とかは流石に分からないけど】
「了解。おら、行くぞ」
手慣れた様子で指揮をするネル。その姿にリオは思わず呟いた。
「慣れているのね」
「ああん?」
「正面戦闘だけが得意だと思っていたわ」
「ああ……」
ちっ、と軽い舌打ちをした後に、ネルは頭を掻いた。 - 149125/05/12(月) 23:43:56
「昔っからよく絡まれててな。小賢しい真似する奴もいたんだよ。やれ『どこどこのだれだれをさらった』だの、『返してほしくば何とやら』だの……。ま、正直どうでもいい奴らだったんだけどよ、売られた喧嘩は買わなきゃなんねぇだろ? んで、慣れた」
軽く言い放つネルであったが、ヒマリやチヒロはここ数日ネルと行動を共にするにあたって分かって来たことがあった。
恐らく、ネルの視界に入るところで『弱い者いじめ』でもしていた者がいたのだろう。
それを端から突然割り込んで叩きのめして、その意趣返しにいじめられていた誰かを攫うなりなんなりしたのだろうと。
きっと被害者に同情も何も無いままに、ただ自分に売られた喧嘩だと認識したネルが犯人相手に暴れまわるのは想像に難くない。
美甘ネルは一見すれば時に小学生にすら見えるほどの矮躯であって、侮られることも多かっただろう。
それ故に、自らを見た目で侮る相手を決して赦さない。完膚なきまでに叩きのめす。
そうした積み重ねが『慣れる』ことに繋がっているのではないかと想像して、それから決して顔や声に出さないようヒマリもチヒロも自制した。
――下手すればネツァクと会敵する前に叩きのめされる。ネルに。
妙な緊張感が走る中、向かった西棟を歩く三名。
西棟はガラス張りの部屋で区切られた空間が広がっていたが、その全てが空っぽであった。
奇妙で不気味。そんな感覚を覚えたヒマリが空のガラス部屋を叩きながら呟いた。
「撤去したというよりも、まるで建造物のみを再現したように見えますね」
「博物館を模した展示物、ということかしら」
「ええ、あくまで感覚的な話ではありますが」
看板はあれど文字が無い。ただの板のみが掲げられたその構造は、まるで巨人が作った模型のようでもある。 - 150125/05/13(火) 00:29:02
保守
- 151二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 08:01:08
補修
- 152二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 16:25:29
ネルに助けられた事でファンになってる人とか居そう
- 153125/05/13(火) 21:19:05
「気味悪ぃな……。突然出てくんのは勘弁しろよ……」
確認漏れなど無いように、扉があれば片っ端から開けて中を確認していく。
ロボット兵が隠れているなどは一切なく、伽藍の寒気さ以外に見つかるも無い。
ネルは立ち止まって考え込むように顎へ手をやった。
「なぁ、セフィラってのはあんま時間かけてっと強くなってくんだろ?」
「強くなる、というのは少し違うわ。自分の身体と機能に慣れていくという方が正しいわね」
「おいチヒロ。『クォンタムデバイス』での探査ってのは具体的にどこまで分かんだ?」
【床とか壁に遮られていなければ材質とか、少し時間かかるけど組成式まで分かるよ。壁越しとかだとざっくり『空間があるか』ってことと『動いているものがあるか』ってことかな】
「ちっ……都合良くはいかねぇか……」
眉に皺を寄せながら溜め息を吐くネル。
そこにヒマリが話しかけた。
「ネツァクが『慣れる』前に手分けして探すかどうか、ですか?」
「ああ。曲がり角でばったりあったら即ゲームオーバーなのかどうかすら分かんねぇから、どうすっか考えてる」
これがもし『常識内』のアジト潜入であれば、リオとヒマリを外に出してネル単騎で片っ端から走って確認するのが一番手っ取り早い。
もちろんこれは『普通の相手なら絶対負けない』という自負あってのこと。
決して慢心でも何でも無く『出来るからやれる』の域なのだ。何も考えずに突っ走れば『勝てる』戦いも勝てなくなる。
勝利だけが最も純粋で疑いの無い結果であり、自らが最も望み、好むものである。
勝つためだったら面倒でも頭を回す。考える。最も勝率が高い行動を模索し続ける―― - 154125/05/13(火) 21:19:26
「ド付き合いに一番慣れてるあたしからの提案だけどよ、ヒマリとリオ、あたしの2チームに分けて探索。常に周辺状況を言い続けて、2分以上黙ったら片方やられたって判別するのはどうだ? お前らがやられたり戦い始めたらあたしは全力で駆けつける。逆だったらグローブをひとつ置いて全力で逃げる。これなら一番早く探索できる」
もちろん片方が地下、片方が地上なんて分かれ方はしない。
二階と三階。『クォンタムデバイス』の探査範囲が半径10メートルであるならば、階層を挟んでも縦方向での互いの位置は分かる。同期するように動けば一度の探索で二階層分の調査が終わる。
「ネル、あなたは床を破壊できますか?」
「出来る。だからやるならあたしが三階だ。床ぶち抜いて駆けつけてやるよ。……おいリオ、なんか別案あるか?」
「…………ひとつだけ」
不確定要素しかない現状で、リオはぽつりと呟く。
「ネル。あなたが交戦したら私はそっちに行く準備をするわ。ネツァクと遭ったらすぐに行く」
「来てどうすんだよ」
「あなたが倒されるところを見るわ」
「馬鹿にしてんのか!?」
「ち、違うわ……!」
反射的に噛み付くネルへ、慌てたようにリオが盾を構えた。
前回から持ち込んでいる強化ポリカーボネート防護盾である。銃を撃たない……というより撃っても誤射しかねないリオにとっての必需品だ。 - 155125/05/13(火) 21:19:38
「ネルが倒されるのなら戦闘行為ではどうにもできないということよ……ッ!」
「……言い方はともかく、だ。あたしがどうやって倒されたのかを調べて攻略法を探すってことだな?」
「そ、そうよ」
「その場合、てめぇもあたし諸共巻き込まれてやられるかも知んねぇが……もちろん分かってんだよな?」
「……覚悟の上よ」
「何言ってるのですかリオ!? あなた最弱ではありませんか!!」
「だからよ」
ヒマリへ振り返ったリオの顔は恐怖で引き攣っていた。
誰よりも弱く臆病で、けれどもリオは言い放つ。
「私の『役割』は未知を『分析』することよ。その後の『解決』に私は役に立たないわ。……ホドが例外だったのよ。あれは『分析』と『解決』が直結していたのだから」
「リオ……」
「それが一番合理的よ」
何が起こるか分からないという暗闇。その果てにある『自分がどうなってしまうのか』という恐怖。
死なない保証は無し。ネルであれば致命傷は避けられるようなものであってもリオにとっては不可避の刃。一切の遊びもなく刈り取られてもおかしくはない。
命を賭けているわけでも無い。ただ、『もしかしたら』がそこに在り続けるのみである。
「……言うじゃねぇか」
ネルの瞳が静かに煌めく。勝ち筋を探るように、負け筋を避けるように思案して、それから頷く。
「だったらひとつだけ条件だ。あたしが逃げろっつったら何があっても絶対にそこから逃げろ。誰を置いてもなりふり構わず逃げろ。何も考えずにただ逃げろ。その後のことは安全を確保してから考えろ。いいな?」 - 156125/05/13(火) 21:50:51
再三に渡って告げられる『逃げろと言われたら逃げろ』という言葉に、リオは顔を顰める。
「それは……ネルが死にそうになってもということかしら?」
「はっ――てめぇの物差しであたしを計ろうとすんじゃねぇよ。あたしが死ぬ? 馬鹿かてめぇは。死んだら『勝てねぇ』だろうが。いいか、勝ち方を選べねぇのは『弱者』の道理だ! んでリオ、あたしは『弱者』か?」
見れば誰もが怯む凶相。歯を剥き出しに笑うネルの姿はまさしく人の姿をした鬼神である。
誰もが無言で首を縦に振るような圧力を前に、そういうのちょっとよくわからないリオは純粋に首を傾げた。
「負けるときは負けるものではないの? それが道理だわ」
「ちょ、リオ――なんであなた致命的に空気が読めないんですかっ!」
ヒマリが即座にリオの襟首を掴んでがくがくと振るい続ける。
そんな二人を見て、ネルはさして気分を害した様子も無くただ――笑った。
「だったら見せてやるよ。道理も理屈も踏み潰す本物の『強さ』ってヤツを。あたしは死なねぇ、誰にも負けねぇ。諦めねぇ限り、最後に勝つのは必ず『自分』なんだよ」
そこに居たのは純然たる『勝利』の象徴。
そこで対するのが『勝利』のセフィラとはいったい何の因果だろうか。
「んじゃ、問題なけりゃあチームを分けて探索だな」
ネルの言葉で散開する一同。西棟二階と三階、2チームに分けての同時探索。問題無ければそのまま中央を渡っての東棟探索。
鉄火場のプロフェッショナルたるネルが指揮するその上で、『博物館』の探索は順調に進んで行った。そして―― - 157125/05/13(火) 22:36:40
「2階3階、共にハズレ……ったく、良いんだか悪いんだか」
「少なくとも地下に行って挟撃される可能性は潰せたわ。地下は脱出口が少ないもの」
「2、3階から飛び降りるのもだいぶ嫌ですけどね」
――結局のところ、地上部は完全にハズレであった。
大した情報も無く、異変も特に見受けられない。いっそこのまま帰られたらと思うほどに異常は無い。
「どうせならネツァクも無抵抗で私たちの前に来てくれたらいいんですけどね」
「なぁマルクト。その可能性はあるのか?」
【ありません。全体から切り離されたセフィラは疑似人格を以て自己防衛に務めますので】
「その話は初耳ね」
【おや、伝えていませんでしたか?】
「聞いてないわね。教えてちょうだい」
それからマルクトの語った内容に、大した情報は含まれていなかった。
要は、そもそもセフィラは十体一機。十体揃って初めて一つの意志となる存在であるのだが、現在のように各セフィラが接続出来ていない状態であると疑似人格が動作して個々の自己防衛に務めるのだと言う。
【もしイェソドやホドに人格を見出したのなら、それはあくまで補助人格です。詳細に関する情報は持ち合わせていませんが、恐らく我もそうでしょう】
「あなたはそれでいいの?」
リオの言葉にマルクトの声が途切れた。
「ねぇマルクト。仮にあなたが補助人格だとして、主人格に全てを呑まれる恐怖は無いのかしら?」
【…………分かりません。判断材料が無いので】
「つまり、補助人格より主人格を優先すべきというプログラムは今のあなたに無いのね」
【はい】
「なら、問題ないわ」
その一言で皆は気付いたであろう。補助人格を優先させられるような策がリオにあることを。
そしてそれは――マルクトに絶対的な命令が与えられた際の対抗策たる『サイコダイブ装置計画』は未だ潰えていないということの証明。 - 158125/05/13(火) 22:44:38
「懸念が増えましたが」
ヒマリが全てを遮った。
「地下にネツァクがいます。確保されたのは地上の安全。地下は何一つ安全ではない」
一階、中央ホール、12時方向。
地下へと降りる階段に向かうだけであったのだが、違ったのは地上階を探索する時とは違う一階部の変化であった。
「地下から……蔦が……」
それは地の底から地上へ向かって伸び行く蔦の葉。先ほどまで無かった明らかなる異常。
敵は逃げ場のない地下に居る。セフィラもこちらも、逃げ場が存在しない閉鎖空間の向こうにと。
ネルは叫んだ。
「あたしが逃げろっつったら逃げろ! 何があっても、誰がどうなっても、何が何でも――いいな!」
イエスマムと答えんばかりに頷く一同。
ここから先が本当の戦場である。『再現可能な勝利の創造――ネツァク』、彼の存在は地下に居る。
かくして、正真正銘の戦いが始まりを迎えた。
----- - 159二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 01:04:14
保守
- 160二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 07:16:43
地下か…
- 161125/05/14(水) 10:12:15
一階部へ侵食しつつある地下からの蔦に従うように、ネルたちは地下へと降りていく。
ネルが先行。クリアリングを行った後にリオとヒマリが付いて行く。
ただ、際立つ異常は一目で分かる。植物だ。
壁から床、天井を這うように棘の付いた蔦がまばらにへばりついていた。
「この棘……バラ科のようにも見えるけれど、薔薇に蔦の性質は無いはずよ」
「ああ? どう違うんだ?」
「付着根を持って自力でくっつけるのがツタ。他の植物などに巻き付いて伸びる茎がツルよ」
リオが慎重に蔦を壁から引き剥がすと、付着していた蔦に沿うように壁面部分が抉れているのが分かった。
まるで強く締め付けられたかのように窪んでしまっている壁。グローブを外してなぞるとざらざらとしたコンクリートの感触が手に残る。
「圧力でへこんだわけでは無さそうね……。何かしらこれ……」
思考に耽るリオ。ヒマリは背後に気を払いながら、先に階段を降りていくネルの合図を待っていた。
その時、地下一階へ降り切ったと思しきネルが「うおっ」と声を上げる。
「どうしましたかネル」
「ちょっと来てみろ。気味悪ぃもんがあんぞ」
「気味が悪いなら見たくはないのですが……仕方ありませんね」
考え込んでいるリオを引っ張りながら階段を降りると、地下一階は地上と同じく大きなホールとなっていた。 - 162125/05/14(水) 10:12:35
そして、ヒマリは絶句した。
「なんですか……これ……」
まず見えたのは天井からしなだれる棘の生えた蔦のカーテン。いや、もはやツタでもツルでもない、植物のような何かである。
それが天井を覆いつくさんばかりに広がっており、ところどころロボット兵の残骸が絡め取られていた。
加えて地下ホールの中央には無数の茨で構成された球体があり、球体の内部から外へ抜け出そうとするように何体ものロボット兵の上半身が飛び出ている。
あまりに不気味なオブジェクト。
幸いにも床部分は茨に覆いつくされてはいないため歩く分には問題無さそうではあったが、どうみてもホールに入ったら襲い掛かって来るタイプのクリーチャーを連想させる。
「よく見てみろ。天井のヤツもあのマリモみてぇのに取り込まれているヤツも、全員腕が銃に置き換わっている」
今までの人型ロボット兵は銃を手に持っていたが、今見える範囲のロボット兵は腕そのものが重火器に置換されていた。
見ただけでもサブマシンガンやハンドバズーカなど、銃種も多様で火力も違うことが分かる。
「スナイパーがいたら厄介だな……。バズーカは先に潰すとして、それ以外は一旦後回しにするか……」
「天井からぶら下がっている茨も危険よ。派手に動けば引っかか……いえ、ネルの身長なら大丈夫ね」
「おう、その盾引っぺがしてホールん中に叩き込むぞ?」
リオが「ひっ」と小さく悲鳴を上げて盾を握りしめる。
ネルは再びホールの方へと向き直り、準備運動をするように何度か軽く跳んだ。
「んじゃ、潰してくっから隠れてな。多分ばかすか撃たれっから地上に戻っても良いぞ」
「いえ、観察が私の役割よ。ここで見ているわ」
「まぁ、ある程度の迎撃ならここからでも出来ますからね。襲われたら悲鳴を上げるので助けに戻ってください」
「あいよ」 - 163125/05/14(水) 10:13:05
ジャキリと銃器を構え直し、チェーンがネルの周囲を舞った。
クラウチングスタートの姿勢を取るかのように身をかがめたネルは、引き絞られた弓に番えた矢のようにホールの向こうへと視線を置く。
長く細く続くネルの深呼吸。
早撃ちのような緊張感が漂う中、ネルは鮫のように笑う。そして――
「行くぞ」
瞬間、ヒマリの視界からネルの姿が掻き消えた。
直後にホール中央の茨玉が天井に叩きつけられ、周囲のロボット兵たちが一斉にホールの奥へと銃撃を放つ。
遅れて理解できたのは、ネルが凄まじいスピードで飛び出して茨玉を蹴り飛ばしたこと。そのままの勢いでホールの奥まで走り切り、向こうで天井からぶら下がっているロボット兵目掛けて銃撃を行ったことである。
破られた静寂の先にあったのは耳を塞ぎたくなるほどの爆発音と数多の銃声。
リオは悲鳴を上げながら盾にしがみつきながらも、おっかなびっくりに盾から顔を出してその光景を見続けていた。
そんなリオの顔面すれすれにロボット兵の上半身が飛んできてびくりと肩を竦ませる。
ネルの投げた残骸。その投擲でいつの間にかリオの脇へと忍び寄っていたロボット兵が立ち止まり、そこ目掛けて嵐のような銃撃が叩き込まれた。
「おらおらぁ!! 隠れてんなら出てこい! 全部ぶっ潰してやるからよぉ!!」
地を這うように駆け巡るヴァーミリオンの残影が、再び茨玉を蹴り飛ばす。
玉から飛び出たロボット兵たちはネルに狙いを付けることが出来ず、ホールの中を転がされ続けた。 - 164125/05/14(水) 10:13:26
「なるほど……あの玉を遮蔽物に使っているんですね……」
ヒマリは若干引きながらも呟く。
もちろん遮蔽物に使うだけでは無い。天井から垂れる茨を巻き取らせる用途でも使用されていた。
まさに正しく『掃除』である。
思いついてもそもそもやれるわけがない、あまりに暴力的な清掃方法はネルだけの専売特許だ。
改めて思うに、ネルはミレニアムでも絶対に敵に回してはいけない存在なのだと理解する。
「ヒマリ! ヒマリ!」
そんな中、リオがヒマリへ声を上げた。
どうしたのかと視線を向けると、リオの目線は壁を這う茨を向いていた。
「薔薇の花が咲いたわ!」
「いま言うことですかそれ!?」
「茨に直接咲いたわけじゃ……いえそれもおかしいけれど!」
目線を追って、ヒマリはそれこそ目を疑った。
壁から直接生えたのだ。薔薇の花が。
まるで壁そのものが生きているように捻じれ、曲がり、そうして飛び出たコンクリートの塊が黄色の薔薇へと変じていく。
リオがグローブで薔薇を摘み取ると、すぐさまチヒロから通信が入る。
【アンソニー・メイアン。イミテーションでも何でも無く本当に薔薇だよこれ……】 - 165125/05/14(水) 12:25:08
コンクリートの壁から作られた有機物の花。
物質の全く違うものへと変えてしまうという現象は、科学者で無くても皆一度は耳にしたことがあるはずである。
「こんなの、錬金術よ……」
鉄くずを黄金へと変える古代の科学式は荒唐無稽なものとして現代では否定された。
しかし、科学技術が進化した先で、もしも過去に否定された実験が可能であると認められたのであれば、これはまさしく特異現象に他ならない。
特異現象『物質変性』――冷たいコンクリートの壁は咲き誇る薔薇へと変じ、今なお成長を続けている。
「おう、終わったぞ。二人とも無事だな」
「え、ええ……そんなことよりも急いだほうがいいかも知れないわ。恐らく茨は増え続ける。完全に絡み取られたら脱出も攻略も出来なくなる」
リオの言葉にネルは今一度ホールの方へと振り返る。
茨のカーテンは殆ど一掃したものの、代わりに黄色い薔薇が咲き始めていた。
【三人とも。地下四階は無いようだけど、そのまま進む?】
「急がなきゃなんねぇならこのまま行った方がいいだろうな」
【だったら焼夷手榴弾が二個だけあるからちょっと取りに来て。植物なら焼けるでしょ】
「では私が一走りしてきますよ。先に探索を進めてください二人とも」
そう言ってヒマリは階段を駆け上がっていく。
車両は『博物館』からやや遠くにあるが、ヒマリの健脚なら10分もかからずに戻って来られるだろう。
「んじゃ、あたしらは先に進むか」
「そうね。行きましょう」 - 166二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 17:43:31
>>薔薇の花が咲いたわ!
かわいい
- 167125/05/14(水) 21:36:30
茨に覆われた地下ホールを更に進んで地下二階。
ホールの構造は地下一階と変わりはないが、違うのは置かれているものである。
高さ2メートルほどのガラスケースが整列し、その中には空っぽの台座が収まっていた。
もちろん茨の量は増えている。壁も床も天井も棘の生えた蔦だらけで、迂闊に触れれば服に引っかかる状況だ。
「あの邪魔くせぇカーテンがねぇのは良いんだけどよ……ここで転んだらずたずたにな――っぶねぇ!?」
振り返った瞬間リオがまさに転びかけていたために、ネルは慌てて身体を支えた。
ガラスケースに張り付いた茨の棘が服に引っかかってバランスを崩したようだ。文句を言いながら服に引っかかった棘を外してやると、リオは胸を押さえながら息を整えていた。
「あ、危なかったわ……」
「ほんとに気を付けろよ……? 顔から行ったらめちゃくちゃ痛ぇぞ」
流石のキヴォトス生といえど、棘は普通に刺さるし痛い。
例え小さな刺し傷ひとつ、ものの数時間で治るとしても治癒力は一定ではなく、秒で怪我しそうなリオであれば30分この辺りに放置しておくだけで1日経っても治らないぐらいの傷は作りそうだ。
「床が茨塗れで歩きづらいのよ……。支えが欲しいわ」
「はぁ……。じゃあちょっとその辺りで屈んでろ。んでヒマリと一緒に来い。先の安全は確保してやっから」
そうしてネルが地下二階のホールを進もうとした、その時だった。 - 168125/05/14(水) 21:36:40
『――■■■■■■』
突如聞こえたのは館内放送のような音の羅列。しかし、聞いた事の無い言語のせいか何を言っているのか聞き取ることが出来なかった。
「何の音……いや、声かこれ」
「マルクト。何を言っているか分かるかしら?」
すぐさまマルクトへ投げかけるリオ。それにマルクトは【はい】と答えた。
【私たちの時代の言語です。いま翻訳しますので少々お待ちください】
流れ続ける館内放送に合わせる形で、マルクトはその内容を読み上げる。
【――歴史博物館へようこそ! ここでは、シモン科学賞を受賞した歴史的発明の数々を体験することができます】
【合衆国の誇る天才、サイモン博士の発明した『電脳蟻ブラウン』によって我々は無限の演算能力を獲得しました】
【博士の遺言は当パビリオンへ訪れた方ならご存じでしょう。そうです。『気ちがいになれ』です。誰よりも科学の進歩を望み、誰もが信じた常識を根底から覆す発明を行った博士だからこそ、常識に縛られてはいけないと未来の科学者たちへ警鐘を鳴らしたのです】
【当パビリオンに展示されている発明はいずれも常識を根底から覆したものであり、今一度過去の偉大なる先駆者たちの発明を振り返ることで、我々の普段の生活が如何にして成り立っているのかを知る良い機会になることを望んでいます】
【アバター変換機は地下一階のクローゼットルームにて。屋上階では古き良きグラビトン・カーの試乗体験コーナーもございます】
【それでは良い一日を!】
館内放送が途切れるに続いてマルクトでの二重音声もそこで途切れた。
思わず顔を見合わせるネルとリオ。 - 169125/05/14(水) 21:36:58
「なんだ、今の……?」
「シモン……科学賞……?」
リオの脳裏に過ぎるのは千年難題のひとつ。
即ち『数学/問7:シモンの蟻の存在証明』であった。
ぞわりと薄気味悪さが肌を登り、リオは無意識に自分の腕を擦っていた。
何かに迫ってしまっているという感触だけがリオの全身を舐り上げる。
「一致は偶然……? 『電脳蟻ブラウン』……。無限の演算能力……?」
それはつまり――『シモンの蟻』とは『電脳義ブラウン』を指すのではないかという想像。
無限の演算能力を得られるその発明が世界を大きく変革したのだろう。
(もしも演算能力に限界が無かったら何が得られる……?)
グラビトン、という言葉にも引っかかりを覚えた。
重力子――つまりは机上の空論でのみ存在する『空想の』素粒子である。
現代においては未だ発見されず、ただ「あるかも知れない」だけのもの。質量0の素粒子が見つかるのであれば、もはや古代人は現代では想像の付かない領域にまで到達していたと考えられる。
「連続スピン粒子の発見……。エーテル検出実験……。アバター変換機……? 原子レベルでの書き換え――いいえ、だったら元素変換だって決して不可能じゃない……」 - 170125/05/14(水) 21:37:09
それは既存の物理学を一掃するパラダイムが起こっていたというある種の証明。
館内放送がただの妄言でなく実際にあったことの『再現』であるならば、まさしく未知の結晶たる宇宙をも超越していただろう。
科学技術の極点。進化の果てに待つ者は何か。
神すら超えた原動天へと至ったのなら、そこに神は存在するのか。
――全ての神は解体された。全ての未知は傲慢なる知性の極致にて追放された。
――故に、残りしものは純然たる祈りの言葉。内側から生じる現存の『未知』。
それは声だった。
誰かが嘆く、何者かの声――精神に語り掛ける怨嗟の悲鳴。
――怒りを謳え、神性よ。我らに落とし込まれた諸々よ。
――『名も無き神』に呪い在れ。『忘れられた神』に呪い在れ。
――我々は何のために生まれた。消えゆくために生み出されたのか……!!
「リオ!!」
直後、腹部に衝撃が走る。
ネルに蹴り飛ばされたリオは茨で埋め尽くされた床を転がり傷だらけ。起き上がって感じる痛みに顔を歪めた。 - 171125/05/14(水) 23:49:44
ほしゅほしゅ教授
- 172二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 01:32:54
タイトルにも含まれてる千年難題がちょっとずつ関わり始めてワクワクする
- 173二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 06:08:18
- 174二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 12:46:22
確かに有り得そう
- 175二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 13:11:01
保守
- 176二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 19:14:15
- 177125/05/15(木) 21:28:37
ありがとうございます!!
リオとチーちゃんの乳がデケぇ(下品)
おかっぱリオがトニカクカワイイ!
構図にミケランジェロ味があって素敵だなと思う反面「た、多分そうだよな……?」と間違っていたら恥じ入るばかり……
ヒマリがマルクトを光の下へ連れ出せるのか、それともマルクトがヒマリを闇の中へと引きずり込んでしまうのか。
その結末は、恐らくPart11ぐらいで判明します(遠い目)
- 178125/05/15(木) 21:50:25
「い、痛い……」
「目ぇ覚めたかよ。ほら指、何本に見える?」
「さ、三本よ」
「じゃあ問題なさそうだな。ったく、心配かけさせんなっての」
リオの手を掴んで引っ張り起こすネル。彼女がリオを蹴り飛ばしたのは、明らかにリオの様子がおかしかったからだった。
呼び掛けても返事がないだけならいつも通り没頭しているだけだろうと揺さ振るだけだったが、いくら揺すっても戻って来なかった。それどころか目線は虚ろで――言ってしまえば洗脳でもされているのかと本気で心配したのだ。
(洗脳とか、流石に笑えねぇな……)
セフィラと関わってしまった今、これだけ「有り得ない」と思うようなものを見せられ続けて今更「洗脳なんて有り得ない」などと言えるわけもない。
問題なのは『何故』と『誰が?』の二つである。
ネツァクの仕業か、それとも別の誰かか、周囲を警戒するリオの目に映ったのは、ちょうど階段を降りて来るヒマリの姿であった。 - 179125/05/15(木) 21:50:37
「お待たせしました二人とも。焼夷手榴弾を持って来ました」
「おう、これで一気に焼けるな!」
「いえ、枯草ならともかく茨を焼き払うのは難しいと思いますよ? 茨に引っかかって身動きが取れなくなったり壁でも作られたときに焼くぐらいで」
「あー、じゃあ無いよりマシぐらいなわけか……」
ネツァクと出合い頭に投げて火責めに出来ると思っていたネルは少々落胆するが、すぐに「自分が倒せば良いか」と思考を切り替える。
それから今度こそ思考に耽っていたリオに向かってネルは叫んだ。
「おいリオ! 考え事なら後にしろ! とりあえず地下三階に行くから合図したら着いてこい」
言うだけ言って、ネルは地下二階のホールを抜ける。
階段を下って向かうのは地下三階。恐らくネツァクが待ち構えている最下層であった。
----- - 180125/05/16(金) 01:00:42
保守
- 181二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 07:37:06
いよいよネツァク本体か…
- 182125/05/16(金) 11:56:20
階段を下る足音は硬質なそれとは程遠い。
ぐっ、ぐっ、と踏みしめるは棘の生えた茨の道。水分を含んだ茎と思しき緑の絨毯は、明らかにネルの知る薔薇とは異なる何かであった。
(気味が悪ぃ……)
床も、壁も、天井も、その全てが茨で覆われたその階段に現実感というものは存在しない。
どこか悪い夢でも見ているかのような、そういう類いの薄気味悪さだけが空間に満ち満ちていた。
階段を下ると、閉じられた両開きの扉があった。
それはどこか開ける前と開けた後の一線を印すようで、直感が叫ぶのは『開けたら始まる』という根拠のない感覚のみ。そして恐らくそれは正しい。
「一応各員。扉を発見。今から開けるから気張っとけ。多分、なんか、起こる」
グローブ型子機に内蔵された通信機へ声を放つと、各々から【了解】を意味する声が届いた。
剣呑な眼差しを扉に向けながら、両手で扉を押し開く。
まず見えたのは御簾のように天井から床に向かって垂れ下がる茨のカーテン。
続いて香ったのは極めて濃い薔薇の香り。視界一面に広がる黄色。満開に咲く花畑である。
(何か居やがるな……)
カーテンの向こうに何かが居た。
その全容は見えないが、その影だけは茨の影から僅かに見える。
それは牛か何かの大きさを持つ存在であった。
それが悠然と座っていることだけは確かに分かる。
座り込んだ御簾の向こうの影が僅かに動いたのを目で捉えた。 - 183125/05/16(金) 11:56:42
(あたしを『見た』な……)
明確に『認識された』という感覚が全身を貫く。
ワンアクション。たったひとつ行動を起こしただけで恐らくヤツは攻撃を始めるのだと、ネルは経験則から理解した。
その時、ひらりと薔薇の花びらが落ちてくるのが目に映る。
ふと上を見ると、天井からは無数の薔薇が咲き始めてはその花弁を散らすのが見えた。
やがてシャワーのように降り注ぎ始める黄色い花びら。
薔薇の香りは強くなり、視界の全てが黄色に覆われていく。
しんしんと降り続ける雪のように、ホールに散りゆく薔薇の花びら。
もはや花のつぼみは天井だけでは無く壁から床にかけて一斉に開花を始めようとしていた。
「んじゃまぁ……やるか」
身体に積もった花びらを払って上の二人にも届くよう呟くと、銃を担いで再びクラウチングスタートを切るようにその身を屈めた。
とりあえず、突っ込む。
初速を自らが出せるトップスピードまで持って来られれば、それは誰であろうと確実に先手は取れる神足の一撃となる。
初見必殺には初見必殺を。セフィラが自分のルールを押し付けて来るのなら、ネルはネルのルールを押し付けるだけの強さがある。
足に力を込め、敵と自身を遮る茨のカーテンへと『照準』を合わせる。
周囲に満ちる薔薇の香りも、いつしか別の、甘い匂いへと変じていくのを感じ取る。
そして――ネルの姿は掻き消えた。 - 184125/05/16(金) 11:58:38
ホールに一歩踏み出し、直後に右へと身体を切り返す。自分が踏んで飛んだ一歩の後には無数の茨が柱となって天井を貫くが、既にそこにネルはいない。右回りに走ると同時に背後に立ち上る茨の柱。ネルの身体が壁に迫れば、今度は壁からもネル目掛けて手を伸ばすかの如く茨が湧きたつ。
屈んで回避。髪を掠めるが想定内。
床を覆う茨が波のように鳴動する。飛んで回避。黄色い花びらが視界を覆うほどに散っていく。
「さぁ、その姿を見せやがれ!!」
カーテンの末端へと辿り着いたネルがネツァクの姿を見ようと茨の床を踏みしめて引き金を引いた。
地下二階。ネルの合図を待つ二人が爆発音を聞いたのはその時だった。
「何の音……?」
不安そうに盾を構えるリオ。そこで聞こえてきたのはチヒロの声だ。
【ネルの銃が暴発した! 無事みたいだけど何か様子が――】
【全員今すぐここから逃げろ!!】
「っ――!?」
チヒロの言葉を割り込んで叫ばれるネルの声。散々言われた『逃げろ』の号令にヒマリはリオの手を掴む。
「逃げますよリオ!!」
「わ……、分かったわ」 - 185125/05/16(金) 11:58:54
遅れて走り出すヒマリとリオ。その耳元に続くのはネルの叫び声だった。
【黄色い花は絶対嗅ぐな!!】
「黄色い花……?」
ヒマリに手を引かれて走るリオが改めて周囲を見渡すと、地下三階へ続く階段からこちらに向かって無数の薔薇が波のように咲き始めていた。
床、壁、天井を覆う薔薇、薔薇、薔薇――まるで全てを閉じ込めるように広がり続ける狂った開花は二人を追い越して地上にまで到達しようとしている。
階段を上り地下一階へ。もはや茨の氾濫は留まることを知らず、背後から大潮のように大量の茨が迫り続ける。
「早く走ってください! 飲み込まれますよ!?」
「ま、待って……!」
息も絶え絶えにリオが言った時、突如脳内に声が届いた。
マルクトの精神感応。それが告げたのは凶報である。
《通信途絶。ネルのグローブが破壊されました》
「嘘……!?」
《ネルに呼び掛けていますが応答がありません。意識はまだあるようなのですが明瞭でない状態です》
「くっ……」
ネルがやられた。
驚愕と焦りに顔を歪ませるヒマリは走るペースを誤った。
リオを掴む腕が、がくんと引っ張られて後ろを向けば、そこには転んだリオの姿。ヒマリは即座に焼夷手榴弾のピンを抜いて通路の奥へ投げ放つ。
迫る茨の前に落ちて手榴弾が爆ぜる。撒き散らされたテルミットが通路に広がり炎の壁を作り上げた。 - 186125/05/16(金) 11:59:09
「立てますか?」
「え、ええ。大丈夫よ」
手を取って立ちあがるリオ。しかしヒマリの視線はリオではなく先ほど投げた手榴弾の方へと向けられていた。
その目に映ったのは焼かれる茨――ではない。炎を浴びて咲き誇る無数の薔薇であった。
熱を食らうように急成長する植物たち。甘い香りが通路の向こうから吹き荒れる。
「急ぎますよリオ!」
地上へ続く階段に足をかけるヒマリ。甘い匂いが徐々に強くなっていく。
階段の上がって地上一階のホールへ踏み出す。そこでヒマリはたたらを踏んだ。
真っすぐ続くはずのホールが傾いて見えたのだ。
実際に傾いているわけでは無い。ぐらついているのはヒマリの視界。全身を徐々に蝕む虚脱感。自分の手が震えていることに気が付いて、ふと振り返るとリオが床に倒れていた。
「あ……え……?」
すぐ動くべきはずなのにヒマリは動けなかった。
否、何をすべきか一瞬分からなかったのだ。
(思考が鈍っている……? くっ――)
リオの足が茨に飲み込まれつつあるのを見て頭を振る。
最後の焼夷手榴弾のピンを抜いて握りしめる。リオの腰まで飲み込んだ茨の壁に手を突っ込むと無数の棘が腕を裂くが、何故か痛みすら分からなくなっていた。 - 187125/05/16(金) 11:59:24
「ちょっと焼きますけど我慢してくださいね!!」
握った手を離して手榴弾が手元で爆ぜた。例え茨を焼けなくとも、爆発の衝撃で散らすことは可能である。
熱傷を負ったヒマリの手。痛覚は既に麻痺している。そのままリオを引きずり出して背負うと、ヒマリはぐらつく視界の中を走り始めた。
全ての音が遠くに聞こえる。耳元で聞こえるチヒロの声が歪んで聞こえる。
ぐにゃぐにゃと捻じれる意識の底から沸々と湧き上がる謎の怒り。
(何に対して?)
僅かに残った理性が問いかけるが、それすらすぐに霧散する。
ひとりで歩けないリオの重さにイライラする。なんで走らなくてはいけないのかと怒りが湧き上がる。
走り続けて息苦しい自分の身体に腹が立つ。何もかもが嫌になってくる――
「ああ! もう――!!」
足がもつれ、視界はひっくり返る。
何かを言おうとして、何を言おうとしたのかも忘れてしまって、思考はまとまりを失っていく。
それが――ヒマリの覚えている最後であった。
-----Part4に続く - 188125/05/16(金) 12:07:11
キリが良いので少々早いですがPart3はここまで。
次スレは今晩立てます! - 189二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 18:16:58
楽しみに待ってます!
- 190125/05/16(金) 19:37:33
- 191125/05/16(金) 19:39:17
あと息抜きにSS(ショウセツ)のSS(ショートショート)書いたんで放流しておきます。
■おまけ:セフィラのおるすばん
エンジニア部によって確保されたイェソドとホド。
彼らはマルクトを介してのみ『現存人類』とある程度の意志疎通が行うことができる。
では、マルクトに接続されたセフィラ同士は意志の疎通が出来るのか。
可能である。
加えて疑似人格を作動させている彼らはまるで生き物のように無為な行動を行うことだってあるのだ。
そしてそれらは、エンジニア部が『廃墟』へ探索に行っているときに度々行われる。
《…………》
部室棟、第三倉庫。エンジニア部のラボこそが普段彼らが『格納』されている場所であった。
ラボの片隅で暇を持て余したイェソドは、エンジニア部が自らを捕まえるときに使用したインコネルケージの残骸をちょいちょいと前足で叩く。
カンカンと硬質な音が鳴り、同じくラボに置かれたホドがイェソドの方を見た。
トラ型とオウム型。サイズに目を瞑ればペットのオウムと子猫が集まっているようにも見えなくない。
しばらくカンカン叩いていると、よほど耳障りだったのかホドはカチカチを嘴を鳴らした。
すると先ほどまでの金属音だけが掻き消え、ラボに再び静寂が訪れる。
イェソドがホドへと視線を向けた。余計なことをするなと言わんばかりに。
もちろんそれを完全に無視するホドは、一切イェソドと視線を合わせない。 - 192125/05/16(金) 19:39:46
叩いても音が鳴らなくなったインコネルケージを、イェソドはもう一度叩く。
その瞬間、ケージは消えてホドの頭上に再出現。当然の如く落下し頭に直撃を受けたホドは、驚いてびくりと爪先立ちになった。
その状態のままイェソドを見るホド。対するイェソドは目を合わせずに床の上で丸まった。
ある種の挑発。もしくは挑戦。もしも人の身体があったのなら嘲笑的な笑みを浮かべていたに違いない。
ホドは床に落ちたインコネルケージをイェソド目掛けて蹴り飛ばす。
イェソドにケージが触れた瞬間、ケージは再び消失。ホドの頭上へ出現する――はずだった。
違ったのは出現場所がイェソドの頭部だったこと。ケージの質量と頭部の質量がぶつかって、イェソドに横っ面を殴られたかのような衝撃が走る。
ホドが行ったのはイェソドが認識する座標情報の改竄。
意趣返しと言わんばかりに嘴をカチカチと鳴らすホドに、イェソドもとうとう身体を起こして向き直る。
一触即発。互いの演算機能で計算されるのは、マルクトからの命令である「自律行動で人や物を傷付けてはならない」という一文を如何に回避して、目の前の『人でも物でも無い』存在を傷付けられるかという一点である。
その時だった。
突然ラボの扉が開いて誰かが入って来たのだ。
そしてそれはエンジニア部ではないということは分かっている。
別に「姿を見られるな」と命令されたわけではないが、ほぼ自動的にイェソドはホドへと触れて壁の向こう、ラボの外へと転送させ、自分自身も外へと転送する。
飛ばされたホドはすぐさまラボの内部を探査にかける。
入って来たのは小柄な人物。遅れて隣に飛んできたイェソドに情報を送ると、その条件に合致する存在をイェソドは知っていた。
会長である。セミナーの会長。
イェソドとネルの対戦の際、上から戦う様子を見下ろしていた存在。 - 193125/05/16(金) 19:40:13
あの時はまだ距離があったため少し気になる程度だったが、近付くのも近付かれるのも何故だか避けたく思った。
理由は分からないが、とにかく邪悪。滲み出る悪意というか、碌なことにならないと自己防衛の原則に基づく警報が鳴り響くのだ。
そんなこととは露知らず、会長はラボの中を無断で歩き回っていた。
「あれ~? ここに居ると思ったんだけどなぁ~イェソド」
仕事を終わらせてこっそり抜け出し、エンジニア部がまた『廃墟』に向かったのを確認しての犯行である。
あの一戦で見たイェソドを細部まで見たいが為にラボのセキュリティを突破してまでここに来たのだ。正確にはセミナーの会計に開けさせた、というのが正しいが。
「イェソドかっこいいよねぇ~。あんなんだったらいいのになぁ~。欲しいなぁ~」
ぶつぶつと独り言を呟きながら会長はテーブルに置いてあった飴をひとつ摘まんで口に含む。
まるで自分の居場所とでも言わんばかりの暴挙である。しかし、誰にも気付かれていないと思っている会長はそのまま冷蔵庫まで歩いて行って、遂にはオレンジジュースまで飲み出した。
「……つい勢いで飲んじゃったけど、流石に怒られるかな?」
怒られろ、とイェソドたちが言えないのは単に『現存人類』の言葉が分からないからである。
するとホドはイェソドに挑発的な視線を向けた。空間の振動で人の言葉が『観測』できるからだ。
ホドは前半のイェソドへの賛辞は伝えず、「つい勢いで」の後の文章だけを伝えて悦に浸る。
ちょうどその時だった。ラボの近くを歩いていた生徒がラボの外にいるセフィラたちに気が付いたのである。
「なんかデカくない? ってか何あれ……?」
「エンジニア部の何かでしょ。近付かない方が良いよ。突然襲い掛かって来るかもだし」
「確かに……」 - 194125/05/16(金) 19:40:53
エンジニア部が新素材開発部へ行った非人道的な行いの数々はそれなりに広まっているのだ。
曰く、毒を盛ってくる。襲撃された部活は部室ごと破壊される。自爆ドローンを大量にけしかけられて殲滅させられる。高圧電流の罠を事前に敷いて全員焼く。そのあと何もかも奪い取られる。曰く、曰く――
問題があるとすれば、その全てが誇張された流言飛語の類いでは無く一言一句違わぬ事実であることだろう。
セミナーが校内での戦闘行為を認めていなければテロリストと大差ない。それがエンジニア部への世間一般的な評価であった。
故に、エンジニア部に手を出そうとする生徒はまず居ない。
そのことを肯定的に捉えていたイェソドは、事実と言う名の噂を補強するべく尻尾を一般生徒の足元へと向け、熱線を放った。
「きゃあ!!」
「ほら撃ってきた! やっぱり撃ってきた!」
蜘蛛の子を散らすように逃げていく生徒を見て、イェソドはホドへと鼻を鳴らす。
分かりやすい力の行使はホドには不可能。生き物臭い張り合いを見せる両セフィラだったが、ラボの中から聞こえた音に二者は振り向いた。
「まぁ水入れておけばバレないでしょ。後は未開封っぽく蓋を繋いでおけば……」
会長は半田ごてのような機材を使って蓋に細工をしていた。
それから思う存分やりたい放題した会長はラボから出ていき、セフィラたちもラボの中へと再出現する。 - 195125/05/16(金) 19:41:18
イェソドは言った。誰があのペットボトルを開けるか賭けよう、と。
ホドも言った。開けた者が気付くか否かを賭けよう、と。
互いの機能が違うのならば、機能に依存しない『現存人類』を賭けの道具にすることで、より現代を理解している方を勝者とする。
そんな合意が取れたところで、イェソドとホドはマルクトからの『声』を受け取った。
《双方の機能が使われたことを感知したのですが、何かありましたか?》
イェソドとホドは顔を見合わせて、それから密かに口裏も合わせて《問題ない》とだけ返す。
『基礎』と『栄光』、その静かな戦いは今日も今日とて続いて行く。
----おまけ:セフィラのおるすばん 完
終わり! あと適当に埋めちゃってください~ - 196二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 19:43:12
オマケもちゃんと面白い
- 197二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 20:50:32
何やってんだよ会長!?
- 198二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 21:20:12
会長さん面白いな
- 199二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 21:31:57
会長!!
- 200二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 22:01:26
乙