(SS注意)ドレッシング

  • 1二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 00:01:52

    「それでは、また試食をお願いしますね」

     生徒達で賑わう、トレセン学園の食堂。
     その喧騒の中、良く通る声とともにトンと音を立ててテーブルに置かれる白っぽい液体の入った小瓶。
     手に取って傾けてみると、粘り気があるという少しトロっとしているのがわかる。
     今回はどんなものなんだろう、と好奇心をそそられながらも目の前の少女へと視線を向けた。
     肩くらいまで伸びている柔らかな黒鹿毛の髪、リボンと絡めた三つ編み、黄色の耳カバー。
     担当ウマ娘のブエナビスタは、紫の瞳をきらきらと輝かせながらじっとこちらを見つめている。

    「今回は、どういうドレッシングなの?」
    「山芋で作ってみました、味付けは控えめでお腹にも優しい感じになるかなと思って」
    「なるほど、それじゃあ有難く使わせてもらうね」
    「はい、ぜひどうぞ!」

     こちらまで口元を緩めてしまいそうな、華やかで爽やかな微笑み。
     そんなブエナが見守る中、俺は小瓶の蓋を開ける。
     匂いはあまり感じられない、これならどんなサラダにも相性は良さそうだ。
     定食に小鉢に入ったサラダにドレッシングをかけると、予想通りトロトロとした液体が流れていく。
     小瓶を置いて、さあ食べようとした矢先、俺はちらりと前を見やる。

    「……」

     緊張した面持ちで、今か今かと待ち構えているブエナの顔。
     ちょっと食べにくいなあ、と苦笑しつつも俺は両手を合わせて、いただきますと一言告げる。
     軽くドレッシングとサラダを絡めて、まずは一口。
     優しい口当たりの中に残る、山芋の味わいと微かな食感。
     それは野菜そのそものシャキシャキ感とほど良く調和し、美味しさを引き立てていく。
     よく噛んで、じっくりと味わって、こくりと飲み込む。
     そして、身を乗り出さんばかりの彼女に、微笑みながら感想を伝えた。

  • 2二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 00:02:03

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  • 3二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 00:02:40

    「美味しいよ、さっぱりとしててお肉なんか良く合いそうで」
    「そうですよね! 冬になったらお鍋のつけダレにも良いかなって思ってたんです!」
    「後、わさびなんかとちょこっと入れてみても良いかも」
    「なるほど、今度試してみますね!」

     嬉しそうに尻尾を揺らしながら、ブエナはメモ帳に感想を書き込んでいった。

     ────彼女の趣味の一つに、自家製のドレッシング作りがある。

     俺と契約する前から日常的に作っていたらしく、最近ではこうしてお昼時に持って来てくれていた。
     その都度感想を伝えて、また改良されたドレッシングを持って来て、というのが俺達のルーティンとなっている。
     
    「今回も貴重なご意見、ありがとうございます!」
    「こちらこそ、美味しいドレッシングをありがとね」
    「それじゃあ私も、いただきます♪」

     ブエナはメモを仕舞うと、両手を合わせてから残っていたドレッシングに手を伸ばす。
     そして、サラダの入っている小鉢に向けて傾けようとして────突然、ぴしりとその動きを止めた。
     ……そういえば、今日のサラダには珍しくアレが入っていたな。

    「……デーツ、こっちで食べようか?」
    「いっ、いえ! ドレッシングもありますし、好き嫌いはいけませんからね!」

     そう言って、残ったドレッシングをかけていく。
     そして、時折渋い表情をしながらも、ブエナはきっちりと完食してみせるのだった。

  • 4二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 00:02:56

    「そういえば、他の子にドレッシングを試してもらったりはしないの?」

     食後のちょっとした空き時間、ふと気になったことをブエナに問いかけてみた。
     彼女の交友関係は広い、試食に付き合ってくれる人ならいくらでもいそうだけれども。

    「…………えっとぉ」

     ブエナはぴくりと耳を反応させて、少し目を逸らしながら思考を巡らせる。
     何かマズいことを聞いてしまっただろうか、一緒に食事を摂る相手がいない、なんてことはないと思うけど。
     やがて、彼女は言葉を吟味するように、ゆっくりと口を開いた。

    「スペさんは美味しそうに食べてくれてとても嬉しいんですけど、感想に関してはその、ですね」
    「あー」

     物凄く言いづらそうに、ブエナは言葉を続ける。
     彼女が尊敬して、憧れ、目指しているウマ娘の一人、スペシャルウィーク。
     学園有数の健啖家である彼女が、美味しそうに食事を摂っている姿は学園の名物と言っても良いだろう。
     ただ、まあなんというか、詳細な感想についてはあまり期待出来なさそうというか。

    「ナカヤマさんは独自の視点で感想を頂けるんですが、お昼時に捕まえるのが難しくて」
    「なるほど」

     今度は残念そうな表情を浮かべながら、ブエナは語った。
     何かと接点のあるナカヤマフェスタは、確かに面白い意見をくれそうなイメージがある。
     が、確かに食堂で見かけることは少ない気もする。頼めば食べてくれそうな気もするけれど。
     他に誰かと考えて、とりあえず一番に上がった人物の名前を出してみる。

  • 5二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 00:03:19

    「ジェンティルドンナはどうなんだ?」
    「ジェンティルさんは、もうちょっと研究を進めて、自信をつけてからにしたいなって」

     気恥ずかしそうに、ブエナは頬を掻いた。
     彼女の同室であるジェンティルドンナは圧倒的な風格とパワーの印象が強いが、かなりのお嬢様。
     食にもそれなりのこだわりがあると聞いたことがあるし、なかなか畏れ多いのは理解出来る。

    「自家製のドレッシングって材料によってはあまり日持ちしないので、なかなか気軽には渡せないんですよね」
    「そっか、そういう点も考慮しないといけないのか」

     それを考える、相手が俺になるのも理解は出来た。
     基本的にはトレーナー室にいて何時でも捕まるし、お昼はほぼ食堂しか使わない。
     ……若干理由としては弱い気もするけど、まあ、納得のいく範疇ではある。

    「…………それだけじゃあ、ないんですけどね」
    「ん?」
    「なんでもありませーん、それよりトレーナーさんにはこちらを」

     その言葉とともに差し出される、先ほどのドレッシングとは違う小瓶。
     今度のものは、さらさらとした黒っぽい液体で満たされている。

    「夜用だね、今度のはどんな感じなのかな?」
    「それは秘密、ということで……大根なんかと良く合うと思います」
    「あはは、それじゃあ楽しみにしておくよ、感想はいつも通りLANEで良いかな」
    「はい、お待ちしています!」

     そう言って俺は、新たなドレッシングをブエナから受け取る。
     毎日ではないものの、日に二回、こうして感想を彼女へと伝えることが日常となっていた。
     色んな味が楽しめて俺としても嬉しいし、彼女の助けになっているのなら言うことはない。

  • 6二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 00:03:35

    「────おっ、感心感心、今日もしっかりと野菜を採っていたみたいね」

     その時、突然背後から声をかけられた。
     反射的に振り向くと、そこには定食を並べたプレートを持った同い年くらいの女性の姿。
     ……というか、トレーナー学校から付き合いのある、同期のトレーナーであった。
     彼はどこかニヤニヤとした表情を浮かべながら、言葉を続ける。

    「貴方、あまり野菜食べないから、ちょっと心配してたんだよね」
    「余計なお世話だよ、食事管理くらいやってるって」
    「そう言って、いつもラーメンとかそういうのばかり食べてたじゃん、家でも外食が殆どって話していたし」
    「……そうだったかな」
    「むしろ、ちゃんと野菜食べている今の方が不思議なくらい────」

     そう言うと、彼女はドレッシングとブエナを見やり、ニヤリと口角を吊り上げる。

    「ああ、そういうこと…………担当の子に感謝しないさいね、それじゃあアタシは連れを待たせてるから」

     彼女は軽く手を振って、あっという間に去って行ってしまった。
     ブエナに同期との会話を見られて少しばかりの気恥ずかしさを覚えながらも、先ほどの会話を思い起こした。
     確かに、トレーナー学校時代やトレセン学園に来たばかりの頃はあまり野菜は摂っていなかった気がする。
     ラーメンだったり、丼物だったり、スーパーやコンビニの弁当ばかりだった。
     そんな食生活から、しっかりと野菜を摂るようになったのはブエナと契約してしばらくしてからで────。

    「あの、ブエナ、もしかして」

     まさかと思い、担当ウマ娘をちらりと見る。

    「……ふふっ♪」

     ブエナは得意気な、悪戯っぽい表情で微笑みを浮かべていた。

  • 7二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 00:04:04

    お わ り
    デーツって食べたことない

  • 8二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 00:07:11

    策士ブエナは健康に良い

  • 9125/04/30(水) 01:55:37

    いいよね……

  • 10二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 05:25:59

    舌からじわじわとブエナに染められていきそう……

  • 11125/04/30(水) 07:24:56

    >>10

    舌を掴まれてるんですなあ

  • 12二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 07:35:43

    わーいいつもの人だ!
    ブエトレはガンに効く

  • 13二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 14:49:39

    策士で可愛い

  • 14二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 19:31:54

    >>8

    尊み的な意味じゃなく本当に健康に良いのは駄目だろ

  • 15125/04/30(水) 22:57:15

    >>12

    実装が待ち遠しいですよね

    >>13

    今回のイベストでも新たな魅力が垣間見えましたね

  • 16二次元好きの匿名さん25/04/30(水) 22:58:06

    ブエナビスタはいずれあらゆる病気に効くようになる

  • 17125/05/01(木) 08:06:32

    >>16

    5大栄養素

  • 18二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 16:35:03

    既に射程内に収められている!

  • 19125/05/02(金) 00:52:30

    >>18

    すでに掴まれているんですね

  • 20二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 06:43:02

    策士ブエナビスタいいぞ

  • 21125/05/02(金) 07:39:40

    >>20

    純真な子だ時折見せる戦略的ムーブは健康に良い

  • 22二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 17:26:35

    シーザリオとは別方向の強さを感じる

  • 23125/05/02(金) 20:13:01

    >>22

    スペちゃん一族は強者の血脈なのか

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