- 1二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 02:50:57
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart21
アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの21スレ目です。
長い夜が明け、黎明の空が美しい色彩を帯びる中、未だにプラントの混迷は続いています。幾度も繰り返されたアコーディオンの調べは更に何を世界に示すのでしょうか。
グラディス提督の一部市域軍政施行宣言、アプリリウスの人々の心も揺り動きます。
最高評議会ビル側と議長双方がぶつけ合った主張と妥協案、結論は出るのでしょうか?虚飾を無理やり剝ぎ取られ、なおも役割を押し付けられたミーア・キャンベル。彼女は己を縛る柵から抜け出ることが出来るのでしょうか?
そして、空を駆け下りるアグネス達の行方は―。
おつきあいをいただければ。 - 2二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 03:00:47
前スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20(再建て)|あにまん掲示板※落ちてしまっていたので建て直しました。書き込んでくださった方、申し訳ありません。もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、…bbs.animanch.com落としてしまったスレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの20スレ目です。一夜の間に繰り広げられるプ…bbs.animanch.com1スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たら|あにまん掲示板アグネスが士官学校卒業ザフトアカデミー、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSを書く予定です。お付き合い頂ければ。bbs.animanch.com2スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart2|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。はたして、アグネスは、ルナマ…bbs.animanch.com - 3二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 03:04:13
3スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart3|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。己を取り巻く不可解な状況に四…bbs.animanch.com4スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart4|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバとアグネスはその進撃…bbs.animanch.com5スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart5|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバの活躍は起こるはずだ…bbs.animanch.com6スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart6|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの6スレ目です。自分の心境の変化や激動する世…bbs.animanch.com - 4二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 03:06:45
※落としてしまった7スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。出世の点数稼ぎの場として『戦…bbs.animanch.com再建てされた7スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7(再立)|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。※不注意から一度スレを落とし…bbs.animanch.com8スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart8|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの8スレ目です。戦いに消耗したアグネスとミネ…bbs.animanch.com9スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart9|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの9スレ目です。C.E.73年- C.E.7…bbs.animanch.com - 5二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 03:09:19
10スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart10|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの10スレ目です。遂に開始される『ロゴスとの…bbs.animanch.com11スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart11|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。『対ロゴス戦』は本編とはや…bbs.animanch.com12スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart12|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。対ロゴス戦争が変え行く世界…bbs.animanch.com13スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart13|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの13スレ目です。本編を上回るほどの規模とな…bbs.animanch.com - 6二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 03:12:14
14スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart14|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの14スレ目です。激しい戦いの後、戦女神と大…bbs.animanch.com15スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart15|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの15スレ目です。アークエンジェル問題を何と…bbs.animanch.com16スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart16|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの16スレ目です。アグネスは目の前で次々と発…bbs.animanch.com17スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart17|あにまん掲示板北限の海で繰り広げられる戦い。この世界のアークエンジェルを巡る戦いは一つの帰結を迎えようとしています。アーモリーワンから戦い抜いて来たミネルバ、世間は『彼女』を武勲艦と持ち上げ、事実そうなのではありま…bbs.animanch.com - 7二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 03:14:15
18スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart18|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの18スレ目です。アグネスはひょんな成り行き…bbs.animanch.com19スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart19|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの19スレ目です。アグネス・ギーベンラートが…bbs.animanch.com - 8二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 04:13:01
サラと言う名の特殊隊員は私の呼びかけを制止と捉えず、宣戦布告と見なしたようだ。
おそらく彼女の指示により、ジェットファンヘリは高度を下げ続ける。もう間もなく最高評議会ビル前の4車線の大通り、上空に差し掛かる。高度は50m!
アグネス「(もしかして着陸するのつもり?)」
確かにスペース的には下りられるとは思うが―。民衆の先頭にミーアを立たせ『殉教』を遂げさせる。彼女の死をもって誰が善で誰が悪か、インパクトを以て世間に刷り込む―
元々、それを懸念していたのは他ならぬ自分自身ではある。でも本当にやるのか!?この策は劇薬なんてものじゃない。
しかし、現に降下ポイントと思しき場所のデモ隊は先導者の指導で立ち退きを始めている。あいつ等はサクラね。若しくはバイトリーダーか。
ルナマリア「ガイア、高度450m」
アグネス「了解」
さて、どうする?
少なくとも『反デュランダル派の仕業に見せかけたヘリ撃墜工作』の抑止には成功した。彼女等にその計画が存在したのかは何とも言えないが…。
仮に有ったとしても、こちらがこれほど呼びかる中、自作自演で撃墜されたり、自爆すれば、世情に疎い人間にさえ疑われると分かるはず。
アスラン「シンとルナマリアは300mをキープ。AWACSディン、300mまで急降下してくれ。デモ隊と周辺の建物に特殊隊員が紛れている可能性がある。監視を頼む。シンは対ビームシールドで万一の際は彼を守れ」
AWACSディンパイロット、シン「了解!」
一方の特殊隊員サラは街頭ビジョンの向こう側でミーアにインカムを外すようにジェスチャーで示している。見えているわよ、貴女。彼女の表情と身振りには拭いきれない焦燥感が透けて見える。
サラ「高度をもっと下げなさい。下の者はスペースを空けさせなさい。ミーア様、さあ、お支度を。皆さんの下に」
ミーア「ええ…、分かったわ」 - 9二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 04:22:31
その声を最後に各ビジョンの映像は途切れる。変わって映し出されたのはライトナー評議員、では無くデスティニーのコックピット内のアスランだ。メイリン、ナイス判断ね。もうここは対面を気にしている場合ではない。
アスラン「聞いてくれミーア!議長は自分の認めた役割を果たす者にしか用はない。俺は彼の言う通りの戦う人形になんかはなれない!君もそうじゃないのか!?幾ら彼の言うことが正しく聞こえても…」
ミーアに呼びかけるアスラン面差しは真剣で真摯だ。彼が操縦するデスティニーは既にジェットファンヘリの直上、片手には対ビールシールド、無論、撃墜する為ではない。
『不慮の事故・事件』からミーアを守るためだ。デスティニーは高度を150、100と下げ、彼は必死に籠の中の小鳥に呼びかけ続ける。
アスラン「だが、君だってずっとそんなことをしていられるわけないだろ!役割が果たせなくなれば、そうなれば何れ君だって殺される!だから一緒に!」
これは…赤点!落第だわ。やっぱり私が行くしかないのか―。最悪、その積もりで来たのだものね。兵士の義務よ。
アグネス「ルナマリア、高度は300ね。跳ぶわ!コックピットを開いて!」
ルナマリア「了解!私達も直ぐ続くわ」
私の声を聞き、ルナマリアは即断してくれる。流石、我が友!さて―昔から空から舞い降りるのは女子の特権と相場は決まっているのだ。剣ばかり降っても困るではないか、花がない。
前傾姿勢ガイアのコックピットハッチは開放される。怖気づいたほうが負ける。操縦席の端を踏切台のようにして、再び私はプラントの『空』に跳び出す。
機外に出て即、パーソナルジェットの操作を開始、落下速度が思っていたより早い。重力の変化がこうも厄介だとは!
この高さ、セルビアの客室乗務員なら助かるかもしれないが、負傷中のこの身では危うい。
アスラン「彼に都合にいいラクス、そして今度は『議長の』ミーア・キャンベル。それが本当に君の望んだことなのか!?ミーア、俺達はこれが罠だということも分かっている。だが、最後のチャンスだ。だから来た!議長の言葉は確かに―」
アスランの説得はまだ続いている。上下平行して飛ぶ両機は議会前大通り、デモ隊は退避しようとする一団と野次馬的に集まってくる者達でごった返している。これでは着陸など不可能だろう。 - 10二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 04:40:46
悪巧みは―いや、そもそも謀と言うものは、思うように行かないのが常だ。
彼等の高さばかり気に掛けても仕方ない。私は私で大変なのだ。ずっと下を飛んでいたはずのデスティニー、今はすっかり大きく見える。デスティニーまで残り20m、いや、15m!
アグネス「(デスティニーの高度は今、80m。危険と言うレベルではない。平時なら軍法会議ものよ)」
そんな中、突如、ジェットファンヘリの扉が開く。まさかね…。まだヘリの高度は45m以上、素人がそんなことが出来る訳が、させられるわけがない!
しかし私の予感は逆のことを告げている。急がないと後悔を残すと。故にパーソナルジェットの出力を限界まで絞り、自由落下スピードに少しでも速度を近づける。今、デスティニーを追い越した!
―そして悪い予感は的中ほどする物と相場は決まっている―
ジェットファンヘリの開かれたドアにはホイストから垂らされたワイヤーが引き込まれる。やがて中からは救助縛帯を身に着けたミーアが現れる。その縛帯とワイヤーは金具で止められている。こいつら―、本当に素人を自力で降ろさせるつもりか!一緒に下りれば守る振りをしないといけないから。振りだと気取られれば策が見破られるから、と。
アスラン「ミーア!」
ミーア「あ…ぁ!」
アスランは思わずデスティニーのマニピュレーターを彼女に差し出そうとする。それを狙っていたかのように、ジェットファンヘリは急旋回し故意に接触を図る。
アスラン「くぅっ…」
間一髪でアスランは回避し、機体をやや上空に引き上げて立て直す。デスティニーの推力の賜物だ。無論、巻き込み事故を防ぎ、相手機の揚力まで読み切った機動はアスラン個人の力量によるものだ。
ミーア「うぅ…」
サラ「(さあ、早くお行きなさい。観衆が待っていますよ。ミーア様)」
ただ、その間に私はヘリまで指呼の間に迫っている。降下を躊躇うミーアを急き立てるように話しかけるあの女の言葉、読唇術の覚えのない私ですら何を言っているのか理解できる。
もう誰も彼も正気ではないのだろう。何が何でもミーアを生贄にしたいサラ達も、それを見上げている下のデモ隊も、ビルに立て籠もり演説が不発に終わってしまった最高評議会議員達も、惨劇を防がんとする私達でさえ―。 - 11二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 07:27:57
間に合うか?!
- 12二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 16:39:39
保守
- 13二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 20:30:19
死神と呼ばれたG「オラオラァ、死神様のお通りだ!!」
- 14二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 20:55:00
レイくん、病室に戻ろう!
- 15二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 21:14:39
さすがのアスランも”ヘリキャッチして確保!”は無理だったか…
- 16二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 23:58:20
アグネス「(さて議長はどうだろう―。彼の胸中を推測するに、この状況、付け入る隙が出来て好都合そんな所かな?政変で劣勢な側にとって状況の混乱と紛糾は逆転のチャンス、彼が何処までこの絵を描いたかは知りようがないけれど…)」
デモ隊「うぉぉォォォォォ!ゲリラライブか?!」、デモ隊「あの高さじゃ危ないわ!」、
デモ隊「訓練済みなんだろ、きっと!」、デモ隊「何言っているんだ!退避と言われたんだぞ!」、デモ隊「しかし軍政側からのアナウンスだから…」
一方、ジェットファンヘリの下の群衆はお気楽なものだ。さっさと散れば良いものを―。本当に危険なんだ!
彼等自らの身だけではない。ミーアにとっても―あれでは飛び降り自決を躊躇う人に野次を飛ばしているのと変わらないではないか。悪意こそないものの―。
ミーア「あぁ…。うぅ…、あぁ…」
ミーアの絶望的な表情、これは残念ながら飛び降り不可避な模様だ。私からの呼びかけも不可能、回転翼が五月蝿すぎる。億が一、説得に成功しても死角からサラに突き落とされるだろう。
しかし、悪い要素ばかりではない。遂に!私の飛行高度がジェットファンヘリに並んだ!
アグネス「(彼我の距離を確認。いっそヘリに飛び移るのは無謀か?どうか?いや、先ず先にすることがある)」
パイロットヘルメットの中のインカムに叫ぶ。
アグネス「AWACSディン、それに各機!スナイパー等確認し次第、報告を!」
AWACSディンパイロット、アスラン、ルナマリア、シン「了解!」
デモ隊は私の姿も視認し、指を差し、目を凝らし、持っている者は双眼鏡やオペラグラスで覗いてくる。
デモ隊「月光のワルキューレだ!」、デモ隊「本当か?」、デモ隊「赤服、女性、FAITH、名誉勲章、宇宙名誉勲章、名誉戦死傷勲章!間違いない」、デモ隊「うそ!?本物!」
良し。無事に身体、特に胸元を確認してくれたか。そうとも!
自分で言うのもなんだけれど、私はこの大戦の英雄だ。彼女等とて流石に、名誉勲章と名誉戦死傷勲章を佩用した人間を公衆の面前で安々とは殺せまい。
アグネス「(ボディアーマーより防御力が高い装備よ。ボディアーマーも着込んでいるけれどね)」 - 17二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 00:13:30
我が身の一応の安全を確信した時、開放されたドア付近で逡巡していたミーアにも動きがある。震え、狼狽え、生にしがみ付こうとしていた彼女が今は変に落ち着いている。
いや、違う!あれは諦念だ!『もう自分に逃げ場はない』、『自分には周囲に求められる【ラクス】あるいは【ミーア】以外に選択肢はない』と。
アグネス「彼女が飛びます!」
一同「…!!」
一声で報告すると共にパーソナルジェットの角度を再調整。何時でも飛び込み、彼女を支えられるように。衆人監視の中、彼女は重い腰を上げ、ハッチの縁を掴む。良し、私はジェットの推力を上昇させ―
アスラン「スナイパー!位置は―」
アグネス「はッ!」
アスランの叫びと共に推力を爆発させる。彼は狙撃手のポイントを告げようとしてくれているが、聞いている間はない。勘頼り、要はミーアを庇えれば良い!
ミーア「え…」
ドアから身を乗り出した彼女の前に飛び込み両手を思いっきり広げながらスライドする。
パン、パン
アグネス「うぅ…。うっ!」
2発の弾丸が着弾、胸部と腹部!
狙撃銃の徹甲弾さえ耐えるボディアーマー、でも弾が通らないだけ。ボクサーのストレートパンチを受けたも同然の衝撃に気が遠くなる。パイロットスーツを二重に着ていなければ、意識も持ってかれたかもしれない。
パシュッ。
私にとっては幸運なことに、次の瞬間に狙撃手は撃ち倒される。味方のカウンタースナイプ!
アグネス「(ここは最高評議会ビル前の大通り。ビルの建屋と敷地内からは補充された陸戦隊狙撃班がじっと待機し命令を待っていた。民間人ではない『敵』に備えて!)」 - 18二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 00:20:57
次は、何処だ?この作戦を取る以上、相手が一人のはずはない。
アスラン「まだ居る!二人、2時、斜め35、もう一人-」
アグネス「はッ!」
見えた!でも、拳銃を抜く余裕なんてない。ただ、パーソナルジェットを弄って下に!
パン、パン、パン
アグネス「がぁ…、あぁ、ぁ…」
下腹部から胸に掛け、連続して3発着弾する。2発目から痛みは感じない―。
パシュッ。
眼下では私を撃った狙撃手が崩れ落ちる。最高評議会ビル陸戦隊狙撃班の反撃!サラ達はまだ、精鋭部隊の存在を把握していなかったのだ。セーフと言うべき。
ミーア「なに…、え…。うぁ―!」
いや!アウトだ。自分が狙撃されたことへの心理的衝撃に彼女が耐えられるはずがない。動転して身体の制御が効かなくなっている。
一瞬持ち直した次の瞬間、ミーアはハッチから転げ落ちる。
プツン!
落下の瞬間、彼女とジェットファンヘリを繋ぐワイヤーが『偶然』引き千切れる。もうここまで明白だといっそ清々しい。
どすっ!
パーソナルジェットの向きを変え、下に回り込み彼女の体を抱きとめる。最後の銃撃が『斜め下』からで、自分の身体をそちらにスライドしていたことが幸いした。 - 19二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 00:36:17
アグネス「う…」
ミーア「あ…、アグネスさ…」
アグネス「墜落不可避。襲撃に備え、舌を噛まずに」
パーソナルジェットの推力は既に限界だ。それでも落下を続けている。『パーソナル』で、しかも重力下、ミーアは勢いよく落ちた。こうなって当然。
アグネス「(推力が足りない!電力は干上がっても良い。機器は焼き切れろ!着地の衝撃を弱めて―。彼女が重傷を避けられれば合格だ)」
足元ではパニックが広がっている。
デモ隊「狙撃兵だ!」、デモ隊「狙撃兵だって!どっちの?」、デモ隊「逃げろ」、デモ隊「うわわぁー」デモ隊「ああっ!二人が落ちる」、デモ隊「マット、マットは無いか!」
蜂の巣を突いた様とはよく言ったものだ。
アグネス「(撃ち漏らした?まだ居る?)
分からないことはそのまま『分からない』としろ!今はミーアを庇いながら上手く墜ちることだけに集中せよ。
ドスッ…。ゴロゴロ…
アグネス「ごぇ―。うぅぅ…。がぁっ…」
ミーア「あァ――。アァ―」
デモ隊「きゃああ!」、デモ隊「うぁぁー」
何か体の中でポキッ、とかメキッとか、ビリッ、ブチンという音がした気もするが、気にしてはいけない。
ともかくゴロゴロ転がりながら少しでも衝撃を逃がす。
転がりながら、見上げた空。
ミーアを厄介払いできたサラ一行はさぞ安堵したことだろう。見上げただけで操縦士の精神の弛緩具合が手に取るように分かる。愚かな、上空の猛禽を半瞬とは言え、忘れるとは―。 - 20二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 00:53:29
彼女達の一瞬の気の緩みを衝きデスティニーは桃色の翼を広げ再び舞い降りる。
先程とは異なり、彼を掣肘するものは何もない。機内に保護すべき文民はいない。だからと言って残忍な扱いをして良い訳では無いが、そのままにすれば自爆や墜落の恐れがある。多少手荒でも彼女等を人混みから遠ざけるべきなのだ。
アスラン「アッシュ隊、催涙弾頭ミサイル発射!」
命令を水底の戦友に下しつつ、彼は両側からジェットファンヘリをむんずと掴む。着の緩んだパイロットには反応の余裕も無かったことだろう。あの動き、多分アスランはゾーンに入っている。
アスランは掴まえたジェットファンヘリを掲げ急上昇、機体のポーズを変えてデスティニーを仰向けに寝かせながら浮かび上がり続ける。何か猟虎が獲物を持ち上げているような観がある。能天気な喩えだが、しかし目的は自爆対策だ。下の人達に破片を降らすわけにはいかない。
ゴロ…
私の身体はまだ回転中。上を向いた時、瞳に空を横切る3つの光が映る。その先はデスティニーが持ち上げているジェットファンヘリだ。アスランはタイミングを合わせジェットファンヘリの窓ガラスをマニピュレーターで慎重に破る。
パァン!パァン!パァン!
ミサイルは着弾寸前で一斉起爆し、中から黄色いガスが噴き出す。ベストのタイミング、アッシュ隊お見事!この攻撃の目的は当然、ヘリ内部の人間の制圧だ。
アスラン「シン、軍医殿と直ぐにこちらに!彼女達を救助せよ。催涙ガスの副作用と、彼女達自身の自決薬の使用に備えよ」
シン「了解!」
指示の前の段階でインパルスはもうスラスターを吹かせデスティニーの下に向かっていた。黄色いガスから抜け、ジェットファンヘリはデスティニーの腹の上にキープされている。辿り着いたインパルスはコックピットを開け、軍医殿をマニピュレーターに乗せて鹵獲されたジェットファンヘリの傍へ。一種の『接舷作戦』、高度な行動だ。
アグネス「(アスランのことだから、内部に抵抗がないのは確認済みね。後は飛び移った軍医殿が馬鹿者共の命を救ってくれるわ)」
そう…、どんな命も生きられるものなら生きたいはず…。
ゴロ…
最後の一回転を終える。腕の中に抱いたミーアは奇妙な程大人しい。危地に突き落とされた人間は得てしてそんなものなのだろう。 - 21二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 01:03:56
デモ隊「大丈夫ですか!?」、デモ隊「お怪我は?!」、デモ隊「酷いことしやがる。やっぱり…」
そんな混乱の渦中でも、他者を思いやり、私達のことも気に掛けて下さる方もいらっしゃる。でも今はそれがかえって危ない。
アグネス「皆さん!まだ狙撃兵がいるかもしれません。全員、地面に伏せ、姿勢を出来るだけ低く!手や手荷物で頭を守りなさい。身を守る姿勢を取ってください!」
力を振り絞って警告を発する。良し、声は出る!
私の警告は防災無線と街頭ビジョンに同時アナウンスされている。メイリンありがとう。インカムもありがとう、壊れないとは君は偉いわ。
デモ隊「伏せろ!」、デモ隊「うわぁぁぁぁぁぁぁ」、デモ隊「落ち着け、訓練通り、訓練通り、しっかり」、デモ隊「うん…」
群衆の反応も悪くはない。やはり戦時下の国民、ちゃんと訓練通りに動けている。
腕の中のミーアは今になって震えだしている。彼女はそれで仕方ない。私は沈着かつ迅速に物事を進める義務を負っている。
アグネス「大丈夫、貴女は助かります」
ミーア「ぅ…、はい…」
まず励ましの言葉を彼女に掛けつつ、自分は少しだけ身を起こす。私自身も頭部は出来るだけ低く、そのまま彼女に覆い被さる。そして腹部のバックから強化ナイフを引き出し、彼女と私に絡まり着いたワイヤーと彼女の救助縛帯を切り裂き、解く―。
パン、パン、パン、パン…パン
アグネス「あァッ…、グゥゥゥ…」
ミーア「あぁ…。ごめんなさい。ごめんなさい…、ごめんなさい!ごめんなさい!!ごめんなさい!!!」
死に損ないの特殊隊員達が発砲、私の背中に5発命中!ミーアは律儀なことに一発に一回ずつ謝罪をしてくれる。
デモ隊「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
アグネス「大丈夫!皆さん、そのまま地面に伏せ、手や手荷物で頭を守って!」 - 22二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 01:18:58
我ながらよく声が出たものだ。脳内麻薬が間欠泉のように噴き出してくれるお陰だろう。
それにしても特殊隊員も諦めが悪い!彼等は意地になっているのか?それとも―『その役割しか求められていないから』、壊れたオルゴールのような振舞いをしているのか?
アグネス「(今はどうでも良い―)」
パシュッ。パシュッ。
特殊隊員「…」パタッ
特殊隊員「うぁッ」バタ…
最高評議会ビル側のカウンタースナイプで特殊隊員が次々と無力化されている。上空からはスラスターの排出音、ガイアが空きスペースに着陸を試みてくれているのだ。もう少しで、この騒動は幕を閉じる。もう少し、もう少しで…。
特殊隊員「…」バッ!-パシュッ―バタッ
うん?なんの気配だ。
AWACSディンパイロット「手榴弾!9時の方向!」
不吉な単語、反射的に身を起こす。痛んだ首では確認できない。身体ごと9時の方向に向き直る。
見えた!空を舞う缶詰め型の手榴弾、こちらに向かって飛んでくる。
思わず腰の拳銃に手を伸ばしそうになる。確かに私の腕なら空中で当てられる。しかし弾き飛ばした先にも文民が居る。空中爆発でも同じこと。下の民間人に死傷者が出る。ルナマリアは―ガイアは―。駄目、位置が悪い。
何時の間にか世界はスローモーションになっている。ここまでもそうなっていたのだろうけれど、なおも緩やかになっている。そのお陰で私には対処の余裕が生まれる。
30㎞ジャンプ時から3重にしているヘルメットの内、外側2つのパイロットヘルメットを脱ぐ。これを手榴弾に被せる!破片が脆い正面部を貫かぬよう互い違いに重ねる。 - 23二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 01:26:58
ミーア「アグネスさん!?」
私が何をするか悟ったミーアが声を上げる。言うことは同じだ。
アグネス「低く!頭を守って」
カン…
やや前方で手榴弾が落下!全身の筋肉を使って飛び掛かる。試しに押すとパーソナルジェットは未だ起動する。感謝します、神様。
路面で跳ね上がる死の缶詰めに、二つのヘルメットを被せ、パーソナルジェットと全身のバネで両足を引き寄せる。
別に私は死にたがりではない。義務の遂行と生きる努力は両方しても良いはず。少しでも生存の可能性を上げる為、ヘルメット上に真直ぐ立ち、同時にジェットの推力を切って全体重を掛ける。
互い違いのヘルメット、ぴったりとは合っていないから、体重のベクトルの方向には注意する。最後に両腕は胸の前でクロスさせ胸部を守る。両拳で首元と顎も守る。
カッ…
足元では手榴弾が最後の小音を立てる。
ミーア「アグネスさん!嫌ぁぁ―」
その次の瞬間に何が起こったのか、私には良く分からない。気が付けば道路に横たわり、傍ではミーアが号泣していた。どうやら『姿勢を低く』と言った私の指示はお気に召さなかったようだ。
デモ隊「誰かこの中に医師と看護師は?」、デモ隊「AED!AED!」、デモ隊「救急車」、デモ隊「俺達で通れない、どうする?」、デモ隊「ドクターヘリを呼べ!」
と言うか結構な人がもう立ち上がってしまっている。落ち着け…、うーん―。
アグネス「(鼓膜は無事のよう。ミーアの顔が視認できる。視覚も無事と。アイ・プロテクションが活きた)」
アグネス「次の…手榴弾に、用心を…」
ミーア「ぅうぅ」
声が出るなら声帯は無事、今わかるのはここまでだ。不思議と身体は痛くはないが…どうなっているかは…確認する勇気がない。 - 24二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 06:01:25
追撃きそうだな
- 25二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 09:30:44
とりあえずミーアは助かりそうだが⋯
- 26二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 12:43:01
大丈夫これ?足あるかアグネス?
- 27二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 15:26:51
もうここまでズタボロになったら最終的にサイボーグになるんじゃないか?アグネス
- 28二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 19:02:27
- 29二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 19:32:06
CE「起きたら仕事ね」
- 30二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 19:45:34
もうMS操縦は(どんだけ軽く見積もっても)しばらく無理だろコレ⋯
- 31二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 01:12:37
保守
- 32二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 01:23:49
デモ隊「私は医師です!」、デモ隊「看護師です」、デモ隊「足を拾った!ビニールに包んでクーラーボックスに!縫合できるか?」
私の顔を覗き込みながら、善意の人達は必死に呼びかけ始める。そのせいで周囲の状況が把握しづらい。テロ攻撃は第二波があるのが基本だ。
アグネス「ど…い…」
デモ隊医師「静かに!大丈夫、貴女は助かります」
デモ隊「ビルの…バリケードの向こうの人!この人が危ない。仲間だろう!中に医者は―」
ミーア「あぁ…」
不味い。このままでは出血で意識が飛ぶ。最悪、ショック症状死ぬ。だから、その前に注意喚起を、どうやる?
手始めに眼球を回転させる。鼻尖が見える、鼻は削げていない!お陰で呼吸は問題ない。視線はそのまま耳の方に向ける。良し、インカムが未だ着いている!音は出るか?!
息を―上手く吸えない―声…。はっぁ。うぁっ、はぁぁっ…。行くぞ!
アグネス「傾聴!全員、地面に伏せ、頭を手や手荷物で守ってください!テロには第二波が付き物です!どうか私のことは構わずに、姿勢を低く、頭を守れ!」
思ったほど声量は確保できない。叫んだつもりが囁き声より少し大きい程度、でも構わない。故障していたらどうしようかと思ったが、きちんと防災無線と街頭ビジョンにアナウンスが木霊している。
しかし、必死の警告を周りの人は聞く気はないようだ。
デモ隊医師「そこも押さえて、輸血を早く」、デモ隊看護師「ビルの内側の人に掛け合います」、デモ隊青年「ガイアは…。皆どけ!ガイアが降りられない。足だけでも、皆どけ―!」
何やら大騒ぎして走り回る人影、私から見て3~5mの位置。彼らの声に応じるようにルナマリアは着地を果たす。ガイアの足元が空いたのはデモ隊の善意半分、残りはモビルスーツ急接近により逃げた人が半分だろう。
特殊隊員「…」バッ!
ルナマリア「手榴弾!ガイアで受けるわ」
戦友の声がインカムから届いた瞬間と、死の缶詰を投擲する愚か者を横目で視認したのはほぼ同時だった。モビルスーツの着地に焦ったのか―。 - 33二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 01:38:22
ミーア「危ない!」
さっきまでメソメソ泣いていたミーアは状況察するや、私とデモ隊有志の盾になろうと両手を広げる。
でもその必要ない。
-パシュッ―
特殊隊員「…」バタッ
彼は即時に陸戦隊狙撃班に撃ち斃されている。
その間、ガイアは群衆の頭上で一瞬、身を屈め、直後に両方のマニピュレーターで手榴弾をキャッチ、包み込むように握って一気に頭上まで持って行く―途中-ドズーン、と言う爆発音が響く。
デモ隊「きゃぁぁぁ!」、デモ隊「落ち着け!ガイアの掌の中だ」、デモ隊「もういい加減にしろ!」
良し、セーフ。見たか!我が精強なるザフト軍の力を!
さはさりながら―
アグネス「こちらに…。大丈夫ですから、ね」
ミーア「はい…」
ともかく彼女は呼び戻す。また、早まって何か起きてはいけない。小走りで傍に戻る彼女の気配を感じ、肩の荷が下りたような気持になる。要救助者の生存を確認、と。
ミーア「あ…アグネスさん、もうこんなに血が…」
アグネス「…」
ぼうっとしていたか?安心感と出血量の増大で視野が狭窄し始めている。でも傍のミーアの声はしっかり聞こえる。何でも人間は視覚が暗転しても聴覚は相当残るらしい。
アグネス「(その先はどうなるだろう…)」 - 34二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 01:47:27
植物状態だけは嫌よ。自分が堪えられない。
その状態の方を侮辱するつもりはない。尊重したい、心から。
戦友の中には戦傷からその状態となり、ご家族とご自身で頑張っている方もいらっしゃる。切り捨てたくない。最後はご本人とご家族でお決めになればいい。
でも私は―、家族は経済的には余裕で看病人を付けられるが、迷惑だろう。両親はその人間が国家と社会全体にとって、そしてギーベンラート家にとって『【プラス】なのか【マイナス】なのか』にとても敏感で冷徹だ。
アグネス「(特に他所の人はともかく、自分たちの娘には―。私が『生産性が無い人間』、『社会に負荷のみを与える存在』となれば、きっと―パパとママは―)」
今更になって漠然とした不安に襲われる。私は高価な墓石も生前の名誉も欲しい。でも、それと同じくらい―同じくらい何だろう?
突然、右手が柔らかく温かいものに包まれる。誰かが―ミーアが握ってくれているのか。
アグネス「ミーア?」
ミーア「ありがとうございます。本当に…、ごめんなさい…」
既に彼女は見えない。私は『耳と触覚だけ』の状態だ。いや…舌は動く。彼女に何か伝えてあげたい。
アグネス「『民衆の歌が聞こえるか?怒れる人の歌声が?』」
ミーア「え…、アグネスさん?」
デモ隊医師「ちょっと!そんな…。歌っている場合じゃ。静かに―」
慌てたような医師の声も当然耳に届く。でも、ごめんなさい。最期に成るかも知れない。我儘を聞いて欲しい。意識がある限りは歌い続けよう。
アグネス「『その旋律は二度と奴隷に戻らぬ人の声』」
ミーア「え…」
アグネス「(私は思えば、『強い人間』、『強い女性』とばかり付き合ってきた。自身がエリート家庭に産まれ、同じような階級階層の特に同性に囲まれて育った。アカデミーに入ってからも。着任後も―)」
だから、この政変においても内心ではデモ隊、民衆の事を鬱陶しい障碍物のように感じていた。『衆愚』と口にこそ出してはいないが…。ミーアのことも解決しなければいけない『問題』と捉えていた面は否めない。彼女の人生は『problem』じゃない。余裕が無かったんだ! - 35二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 01:59:44
でも今なら―。彼女の掌を今出せる全力で握りしめる。
アグネス「『貴女の胸の鼓動が、太鼓の音と共鳴するとき!』」
手、握り返せているかな?
アグネス「『始まる新たな人生がある!その時、明日は来る』」
ミーア「う…うぁ…」
ミーアは嗚咽を漏らす。彼女が流す涙の雫が、顔に滴ってくる。
ミーア「『夜の谷間に迷う人々の歌が聞こえますか?それは光を目指し這い上がろうとする人々の旋律。地の国の惨めな者の為にも、決して絶えざる炎がある。最も暗い夜でさえも終わり、そして日は昇る』」
彼女もそっと私の掌を握り返し、そしてそっと離して立ち上がる。『奴隷には戻らない人』と私は呼び掛けて、彼女は歌い返してくれたのだ。それならこれから先、彼女は誰かが勝手に選んだ舞台や思惑では無く、自分自身の願いの為に、きっと歌い続けてくれるはず。
アグネス「(これであの歌声が悪用されるリスクは潰した。ミーアにも精一杯のエールを送った…。もうこの辺りでいい―)」
そんなほんのりとした満足感と共に、彼女の歌の続きを聞く。今後の戦況についてはグラディス提督が何とかするわ。
ミーア「『彼等彼女等は、再び自由に生きるでしょう。 主の庭で我等は鋤の後ろを歩き、剣をしまう 。さすれば鎖は断ち切られ、全ての人は報いを受けるでしょう!』」
うん?何か私、天国行きを祈られていない?
アグネス「(別の方の歌詞にしてくれても良いのよ?『殉教者の流す血潮が祖国を潤すのだ!』、とか。いや、こちらも今の私には…)」
何とも締まらない思いと共に、底なしの陥穽に意識は呑まれていく。それでも心細く感じないのは、穴の上から皆の声が聞こえるからだろう。
ミーア、ルナマリア、デモ隊「『私達の十字軍に加わって下さい。誰が共に強く共に立ち上がって下さるのでしょうか?バリケードの向こうの世界の何処かに貴方(貴女)の見たい世界はありますか?民衆の歌が聞こえますか? ねえ、遠くの太鼓の音が聞こえたでしょう?あの音は明日を告げる合図、私達がもたらす未来です!』」 - 36二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 02:14:11
脳裏に流れ込むコーラスが、徐々に向きを変えていることが分かる。彼女達の隊列の行く先は、少なくとも最高評議会ビルではない。エレベーター昇降施設でもない…。多分、議長官邸の方向。
議長のめ、ざまあみろ…。藪を突いて蛇が出るとは、まさにこのことだわ!ハハハハハ
よし。最後の心残りもこれで―。
救助隊員「アグネスさん、しっかり!返事は出来ますか?最高評議会ビル陸戦隊軍医です」
アグネス「…ぁ」
声は聞こえた…、でも返事は出来な―
救助隊員「返事があった!トリアージは赤!大丈夫、貴女は助かります。頑張って!」
ま…まだ頑張れと―うーん。仕方ないわね…。
微睡みに似た感覚に包まれながら、乗り物に乗せられる。ドクターヘリかな?もう確認できないが―。
救助隊員「鎮痛剤投与開始」
アグネス「(結局寝るのか!さっきの何だったの?!)」
つい突っ込みを入れてしまった。あれ?私、意外と元気かも。ミーアを含む皆さんのおかげね。
ミーア、デモ隊、最高評議会ビル警備隊
「『私達の十字軍に加わって下さい。誰が強く共に立ち上がって下さるのでしょうか?バリケードの向こうの世界の何処かに貴方(貴女)の見たい世界はありますか?民衆の歌が聞こえますか? ねえ、遠くの太鼓の音が聞こえたでしょう?あの音は明日を告げる合図、私達がもたらす未来です!ああ!明日が来る!』」
街全体に広がっていく彼女達の歌声をお守り歌に今度こそ私は意識を手放す。
何だか本当に安心したわ。
起きられても起きられなくても、そこそこ悔いの残らない人生と言えるんじゃないかな、きっと。 - 37二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 07:09:51
アグネスの脚吹っ飛んでるのに歌って大丈夫なのか…?これマジで死なない?
- 38二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 07:22:21
- 39二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 07:32:24
うわぁマジで脚がついていないようだが案件
しかしそんな状態の人間への追撃連打は完全に悪手だったな議長一派⋯
死にかけのアグネスとミーアを執拗に狙ったせいでまだ残ってた自分の支持層まで丸ごとひっくり返っちゃった - 40二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 07:33:03
ミハイルさん辺りが血相を変えて走り回る案件
- 41二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 08:29:58
バンダ〇「そのくらいならまだまだ戦わせられるね」
- 42二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 14:35:19
今まで骨折出血嘔吐はあったけどここまで酷い怪我は無かった気がする…しばらく操縦は出来ないんじゃ無いだろうか
- 43二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 20:53:50
曇らせってレベルじゃねーぞ!
- 44二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 20:54:41
次は闇に落ちろの人間爆弾軍団かな
- 45二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 20:55:47
ここまでやっても議長はほくそ笑んでるんだろうな
- 46二次元好きの匿名さん25/05/03(土) 21:20:46
議長のことだしまだなんか企んでそう
- 47二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 04:31:55
掌に何か感じる。温かく優しい感触、ミーアがまた私の手を握ってくれたのかな…。
はぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっ
違うみたい。握って貰っていると言うより、私の手が温かく、もふもふした物に乗っている。
セントバーナード犬「はぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっ!」
目を覚ますと、知らないデカワンコ。私の右手は彼(?)の巨大な頭部に乗せられている。私のベッドの右端には専用マットが敷かれ、この犬はそこに重たい顎を乗せている。賢く優しい眼差しは何処か眠たげだ。
私の身体にはもうバイタルチェック用の機材は付けられていない。容体が安定したと見なされたのだろう。ここは一般患者の(高級)個室。集中治療室ではない。
セントバーナード犬「ヒー!ヒー!はぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっ!」
アグネス「よし、よし」
セントバーナード、短毛種、見た感じ体高は71㎝前後、多分、雄。緑色の犬用防護服を着用し、専用の涎掛けを首に巻き(涎が多い犬種の為?)、四肢には黄色いブーツを履いている。しっかりした装備、専門のセラピー犬ね。
セントバーナード犬「ヒー!ヒー!はぁぁっ!はぁぁっ!はぁぁっはぁぁっはぁぁっ!」
『アルプスの聖者の犬』のテンションは爆上がり中だわ。どうやら彼には『自分の患者』の容体回復がこの上なく嬉しいらしい。
この雪深いアルプスを駆けた著名な山岳救助犬種は、時代が移りヘリコプター救助が主流となった為、後進の中小型救助犬にその大役のバトンを渡した。以降、彼らはその温和な気質と大きな体格を活かし、セラピー犬としてのお仕事を担うようになっている、と前に図鑑で読んだ。
アグネス「ありがとうね。ブランデーは要らないけれど、君は誰?」
女性医師「当院のセラピー犬です。良かった。そろそろではないか、とエルスマン博士が…」
逆方向から、突然、超大型犬の身分を告げる声が掛かる。いや、前からいたのだろう。
目の前の働き者(犬)が余りにもインパクトが有り過ぎて、そちら側にまで目が届いていなかった。 - 48二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 04:36:59
アグネス「先生?」
女性医師「はい」
アグネス「この犬は『彼』で正しいですか?体格的に見ると…」
セントバーナード犬「はぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっ!!」
他に聞くことが幾らでも有るけど、どうしても聞きたい。
女性医師「はい。雄です。この子は当院の人気者で他の病院にもよく出張に行きます。『奇跡を起こす犬』とかお世辞交じりで呼ばれたりもしているんですよ」
そんな私の反応を医師は好ましい兆候と捉えたのだろう。わざわざベッドの左側から右側に回り込み、彼女自身もこの犬の背中に右手を置きながら答える。
アグネス「改めて、どうもありがとうね。君のおかげで私は起きられたわ」
セントバーナード犬「ヒー!ヒー!ヒー!クンクン、はぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっ」
右手で温和な巨人の頭をグリングリンと撫でまわす。本当に頭が大きいわね。
そんな私の様子を最初に声を掛けて来た女性医師はじっと見つめている。まだ若く優し気な顔立ち、でも穏やかな視線の奥に隠し切れない理知的な輝きが宿っている。
アグネス「(鋭い意思のある眼差し。ただの『優しいお姉さん』では厳しい医師の世界の中、トップ争えないか。しかし―)」
敵意は感じない。少なくともここは政治犯強制収容所内の医務室ではないだろう。
アグネス「犬ばかりに気を取られ、ご無礼しました。ここは…」
女性医師「いえ。どうかお気になさらず。こちらはアプリリウス市の中央病院、私は当院におけるギーベンラート様の主治医です。なお手術と治療にはフェブラリウス市からお越し頂いたタッド・エルスマン博士が腕を振るっていらっしゃいます」
エルスマン博士が?レイを引捕えに来たついでかな?
アグネス「エルスマン博士は何時から、ああ、いえ…。そもそも、今は?」
恐る恐る目の前の女性医師に質問する。もしや『何年も昏睡状態にあった』とか、そう言う事は―あり得なくはない。 - 49二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 04:50:56
私の質問を受けた医師は一呼吸置き、少し話す内容を整理した後、お返事してくれる。
女性医師「ギーベンラート様が最高評議会ビル前大通りで受傷されてから、今日でちょうど4日目の朝です。エルスマン博士はその直前にアプリリウス宇宙港に到着されたとのこと。私が伺ったお話しでは、政変当初はジュール夫人からの参加要請を謝絶したそうです。しかしバレル氏の脱走や首都の緊迫化による負傷者の発生を受け、後を副院長に任せ、スタッフと物資を積んだ船で駆け付けて下さったそうです。情報の行き違いで臨検に遭って遅れてしまったとのこと」
アグネス「それは…。何れにせよ、感謝の言葉もありません」
ハァー。レイの馬鹿のやらかしが回り回って私を助けるとは、人生塞翁が馬ね。待てよ…!あの馬鹿が大人しくしていればもっと楽だったかも。トータルでマイナスだわ。次会ったらどうしてくれようか!
小憎らしい彼の顔を思い浮かべながら、あれやこれや仕返しを考える。
勿論、これ等の思考は現実逃避だ。私の身体は今、右手以外が白い毛布で覆わせている。まだ体の感覚はぼんやりしていて…。この一枚下の状態を確認するのがとても怖くて―。
だから彼に八つ当たりして気を紛らわせている。もう本当に、泣きそうだわ。
セントバーナード犬「はぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっ!!」
アグネス「心配してくれるの?よく訓練されている…」
女性医師「この子は産まれた時からそうだと聞いています。私が着任する一月前に当院に。だから軍隊で言う所の先任、古参兵ですね」
そう言って彼女は『彼』と一緒に私を見上げる。なるほど、『鋭い』と『優しい』はきちんと両立するのだ。
良し。私にとっての新たな恩人(犬)をもう一撫ですると、視線を主治医の両眼に合わせる。
アグネス「私の身体はどうなっていますか?治療方針などもお聞きしたいです。。あ…そもそも政変はどうなりましたか!?」
やはり、まだ頭が回っていない。少し大きな声で質問する。本調子じゃないんだ。弁えないと。そもそもここが死刑囚専用病棟でないと言う確証だってない。反逆のアグネス、判決はギロチンによる斬首刑かも。
私の剣幕に目の前の主治医は一瞬、猫騙しを喰らった様な表情になる。しかし彼女もプロ、即、立て直すと努めて冷静に私に返事をなさる。 - 50二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 07:46:57
読めなかった!
これまでの死闘をぶった切ってワンコスタートとは、このリハクの目を(以下略 - 51二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 07:57:46
危うく月光のワルキューレから殉教のワルキューレになるとこだったけどわんわんに起こされるとは…
- 52二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 15:19:04
この犬、興奮しすぎじゃね?
- 53二次元好きの匿名さん25/05/04(日) 18:34:16
アグネス死亡からのナレーションで議長失脚の打ち切りエンドじゃなくて良かった…のか?
こんなにもボロボロになったアグネスがまだまだ地獄見そうじゃない?
しかしこの話のアグネス毒親に育てられて価値基準が自分が社会にとって生産性が有るか否かになってる感あるから余計にお辛いんですけど - 54二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 00:36:22
保守
- 55二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 01:14:20
女性医師「あの政変は―一応、ギーベンラート様が受傷なさった日の正午までに終結しました。デュランダル議長は軍政本部及び最高評議会ビルに対して、ルイーズ・ライトナー最高評議会議員を最高評議会議長全権代行に指名した上で、全権限の移譲を宣言し、合わせて国内外に対しても談話を発表しました。民衆の矛先が完全に自分に向き切る前に、との判断でしょう」
良し。勝った…のか?いや、これだけでは何とも言えない!『試合に勝って勝負に負けた』は普通にあり得る。もっと詳しく!
アグネス「宣言と談話の大枠をお話しいただけますか?」
しかし、私の質問を予想していた女性医師は、目線で私に落ち着くよう促す。
-怪我人に無理をさせるわけには行かない。ご自身の身体を先ずは考えなさい―と。
それはその通り。私もアイコンタクトで彼女の訴えを肯定する。その上でもう少しだけ、と視線を投げ掛ける。そもそもこの話題は私の生命・身体の安全とも直結する話題なのだ。
そうすると、彼女は観念して簡単な要約を伝えてくれる。
女性医師「デュランダル議長は、宣言において『この混乱の【道義的責任】は国家元首である自分にある』旨を宣言し、『これ以上の流血と国民的分断を回避するための一時的措置』として、権限移譲を宣言しました。
国内向けの談話においては、国民に国内の分断と対立の危機を乗り越え、新しい最高評議会議長全権代行と共にロゴスとの戦いに打ち勝ち、新しい平和な世界を築く為の努力を惜しまないよう呼びかけました。その上で自分ことギルバート・デュランダルは、それが最高評議会議長としてであれ、一研究者としてであれ、今後も何時如何なる時も、プラントと世界の為、身命を捧げる用意が有ると明言しました。
友好諸国に対しては、これまでの大戦・対ロゴス戦の協力に謝意を表明すると共に、プラントが重要局面で一時的混乱の様相を呈したことを『国家元首としての立場』から謝罪し、今回の一時的な権限移譲に寄って、プラント国家と政権の法的連続性が断絶することは無く、重要な外交・安保・戦争政策が不用意に変更されることにより各国に混乱を波及させることは無いよう期する、と述べました」
アグネス「…」 - 56二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 01:37:53
なるほど…。
やはり『これ以上の流血と国民的分断を回避するための一時的措置』この大義名分を使われたか…。
実際、相手が特殊隊員とは言え、死者を伴う流血は起きていた。それも大衆の目前で。これは大きい。結果として私達は彼に戦術的撤退の大義名分を与えてしまったとも言える。
アグネス「(『己を罪する詔』を出した上で、【上から目線】の政権一時移譲、それが彼の落としどころだった。ある程度読んではいたけれど、避け切ることは出来なかった…)」
とは言え、あの流血は明らかに議長のイメージダウンを招いたはず。デュランダル議長にはダーティーなイメージが残ったはず。彼は関与の証拠は残していないかも知れない。でも、世間は『騙されたい人』ばかりでもない。
無論、世には『ダーティーヒーロー』を好む人もいる。『清廉潔白で無能な政治家より、多少汚れていても有能な政治家』を支持する者もいるだろう。
しかし自分で自分のことを『ダーティーヒーロー』と思っている人間はほぼ間違いなく、ただの薄汚れた卑劣漢であるし、『汚れていても有能な政治家』を自認する人間は『汚れた無能政治屋』と相場は決まっている。
ダークヒーロー、ダーティーヒーロー、シャドー、狂人キャラ、サイコキャラが主役を張れる余地など現実世界にはないし、有ったら叩き潰しておくべきなのだ。当人含め誰のためにもならない。
アグネス「(デュランダル議長はソフトランディングを上手くやり遂げたと思っているかもしれない。でもその結果が判明するのはこれからだ。勿論、その結果に裏切られるのは私達かも知れない)」
それで、我が方はどのように対応したのか?大筋で『呑んだ』のは分かる。ただ、どうか―
アグネス「最高評議会ビル側の反応はいかがでしたか?『議長の指名』について特に」
どうか『議長の指名による全権代行決定』だけは避けて欲しい。どうか…
女性医師「最高評議会ビル側は『議長の指名』では無く『最高評議員内での協議の結果』としてルイーズ・ライトナー女史の最高評議会議長全権代行就任を国内外に宣言しました。デュランダル議長も表向きはそれを快諾。
ルイーズ・ライトナー最高評議会議長全権代行は就任直後、国内外に談話を発表し友好諸国からの祝電も受けたとのこと。グラディス提督の軍政は昨日、夕刻に解除されました。さて、これ以上は、―ご負担が大きいでしょう?」 - 57二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 01:45:14
アグネス「…」
実は『これ以上』が一番知りたい。あの男が素直に『負け』を受け入れたとは思えない…。彼の待遇面での合意内容は、とても気掛かりだ。
アグネス「(でも確かに。彼女の言う通り、私は自分の身体と向き合わないといけない。今は自分が逮捕拘留中の身でない事だけ分かればいい)」
考えを纏めると彼女にお礼を言う。
アグネス「ご丁寧にありがとうございます」
女性医師「いえ、こちらこそ。お怪我に関しては、もう直ぐエルスマン博士がご到着されます。少しお待ちください」
アグネス「はい」
ご説明下さるのはエルスマン博士ご本人、凄く緊張するわ…。正直、目の前の女性医師が話して欲しい。気兼ねしてしまう。
アグネス「(やはり白の巨頭、医師の世界も所詮は人の社会である以上、知識・経験・学歴等に由来する力関係と言うものが厳然と存在するのね)」
セントバーナード犬「わぁぁっはわぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっ!!」
アグネス「…」ナデナデ―
そんな私の冷めた気持ちを否定するように、愛すべき巨人(犬)は頭を擦り付けてくる。ふむ。やはりプロの感覚は侮れないわね。
アグネス「(そんな意地悪な話ではないのかも知れない。単に手術のリーダーがエルスマン博士だった、そもそも、私がいろいろな医療機関のお世話になりすぎていて、誰が主治医か分からなくなっていた、それだけの理由かもしれないわね)」
ともあれ、待ち時間が出来たのは正直嬉しい。それまでこの癒しのプロの巨体を思う存分堪能できるから。大型犬、飼いたいのよね、出来れば、何時かは、叶うなら―
でも、その時間は長くはなかった。すぐに病室の電話が鳴り、エルスマン博士の診察が告げられる。
女性医師は立ち上がり姿勢を正す。
セントバーナード君もお利口そうに伏せの姿勢に、退出はせず、このまま側に居てくれるようだわ。彼の穏やかな視線は、なお私の顔に注がれている。きっと此方の緊張を敏感に感じ取ってくれているのだろう。思えば彼の本業はここからなのだ。 - 58二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 01:52:48
プルルルル、プルルルル、プルルルル
インターホンが控えめかつキッチリと鳴らされる。
アグネス「どうぞ。お願いします」
タッド・エルスマン「どうも。おはよう、失礼する」
女性医師「おはようございます」、セントバーナード犬「ヒーヒー、クンクン」
音もなく開いた扉から、壮年の男性医師が堂々とした佇まいで入室して来る。ディアッカ先輩と違って風貌は白人男性のもの。その眉間に刻み込まれた深い皺と鋭すぎる眼光、白衣を纏い、ブラウンの長髪を靡かせた彼は、どう見ても『優しいお医者さん』という優しいタイプではない。
タッド・エルスマン博士、元ザラ派最高評議会議員(後、穏健派より中立派)にしてディアッカ・エルスマン先輩の父君。
基礎医学、臨床医学、生化学、分子生物学、応用生体工学の専門家にしてコーディネイターという種族の根幹を担う人材。
それとレイの主治医ね。あいつ、ちゃんと謝りなさいよ。
タッド・エルスマン「改めて、おはよう。お久しぶりだね。ギーベンラート嬢。もっと違う再会の仕方が良かったのだが…。息子が世話になっている」
アグネス「いえ!こちらこそ。おはようございます。ジュール隊、殊にエルスマン副隊長には、私ども幾度もお力をお借りしております。ディアッカ先輩にはお世話になってばかりで。その…博士まで面倒事に引き込むような形となり、誠に申し訳ありません」
そのようにお答えすると、彼は眉間に更に皺を寄せる。どうやら私に腹を立てている訳では無いらしい。ただ誰かに何か一言、言いたいことがあるみたい。
でも彼は一角の人物、そんな私的な表情は直ぐに引っ込めて話を先に進めて行く。
タッド・エルスマン「いや…。貴女も面倒事を押し付けられた側だろう?済まないな。私としても、出来る限りのことはしたし、これからもする積もりだ。さて、では今からは『元最高評議会議員と現役軍人』ではなく『医師と患者』として話そう。『君』とこの場では呼んで良いかな」
アグネス「はい」
タッド・エルスマン「よろしい。それで、実はご両親にも先ほど連絡はしたのだが…。少し手が離せないらしい。きちんとお見舞いには来ていたし、術後の経過のことは逐一、お伝えはしているのだが―。トライン副長が代わりにとも申し出てくれている。出直そうか?」 - 59二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 01:58:59
私の尊厳を傷つけず、かつ、配慮を欠くことの無いようエルスマン博士は慎重に言葉を継いでいく。地球の多くの国家での成人年齢は18歳ないし20歳、それに対しプラントは15歳。
私自身は17歳。これをどう捉えるのか?気にして下さっているのね。
しかし―トライン副長を引張りだすのはあまりに申し訳ない。平時ではないのだ。
両親に関しては―パパとママにとって世間体とお仕事、お役目は命より大事、立場的にも社会階級的にも。今日は娘よりも優先する【べき】ことがあったのだろう。お見舞いに来てくれていたなら良しとするべきだ。
アグネス「家族の立会いは要りません。エルスマン博士、お聞かせ願えませんか?」
タッド・エルスマン「…分かった。看護師、それと一緒に入室を!」
看護師「はい」
エルスマン博士の声を受け、廊下から看護師がゴロゴロと大きなクリアボードを押して入室する。これは!?
アグネス「(医療ドラマで天才医師が写真やデータを張り付けたり、いろいろ書きこみながら周囲の医師たちに喝を入れたり演説したりする、あのボードね。ドラマによってはホワイトボード、液晶画面等であることも)」
私が変な感心をしている間に、エルスマン博士は早速、ペンをとってクリアボードに大きな女性の身体を黒線で書く。一見すると、犯罪現場で被害者の輪郭を描いた図、『チョーク・アウトライン』にも似ている。線が黒であるだけの違いだ。
タッド・エルスマン「よし。さて、ギーベンラート嬢、君に施した処置について話そう。専門用語を多用することなく、簡潔に話すよう努める」
アグネス「お願いします」
タッド・エルスマン「ありがとう。頼む」
看護師「はい」
私の返事と共にエルスマン博士は看護師たち合図を送り、彼女から大量のカルテと検査結果が挟まれた分厚いファイルを受け取る。
タッド・エルスマン「勿体ぶるつもりはないが、今からの話の前段階として、君のビル前大通りでの受傷前の状態を整理して示そう。医療データは共有済みだ」
エルスマン博士は説明しながらファイルから最小限の写真、レントゲン、MRI、超音波検査、血液検査、バイタルデータ等を引き出すとテンポよくクリアボードに貼り付ける。
アナログ派?いや、今回は分かり安く、私に合わせてくれているのかも知れない。 - 60二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 02:03:43
タッド・エルスマン「ギーベンラート嬢、君は衛生モビルスーツ小隊として作戦に臨む前に既に5度戦傷を負っている。その都度、手当と対処をして前線に。そうだね」
アグネス「はい」
タッド・エルスマン「身体の上から順に。まず、頭部前部には前頭骨まで届く裂傷あり。額の中央左から始まって、こめかみ付近まで。顔面の皮膚と共に前頭筋(眉毛を動かす筋肉)を断裂。顔面神経の損傷はなし。皮膚、筋肉、血管の縫合処置済み、吸収糸で縫合、皮膚は皮膚縫合接着剤で閉鎖。まだ受傷から間も無く傷は完治していない。包帯で防護して今回の作戦に臨んでいた」
アグネス「はい」
タッド・エルスマン「よろしい」
私の確認が取れると、エルスマン博士はチョーク・アウトラインの額にペンで傷のマークを付ける。同時に貼り付けてあったレントゲン写真を一枚剥がしてファイルに戻す。あの傷についてのものだったのだ。
タッド・エルスマン「次に頚部。首はモビルスーツの戦闘中に外傷性頚部症候群となっていた。中から重度。頚部の筋肉が断裂、靱帯が損傷。ギブスで固定して作戦に臨んでいた」
アグネス「はい」
また同じようにクリアボードの形代の負傷部位にはペンで怪我が書き加えられ、簡単な補足情報も隣に足される。そして張られていた資料の内、該当箇所の物はファイルに戻される。
アグネス「(そう言えば、今、首はどうなっている?怖くて、目覚めてから眼球運動だけで過ごしていた…)」
タッド・エルスマン「左鎖骨と左肋骨6箇所に不全骨折(ヒビ)。全身打撲は大方回復。
左肩に筋肉まで達する刺傷、左脇腹にも筋肉まで達する刺傷、左胸の刺傷は左乳房下部の乳腺と乳管を断裂。血管・筋肉は吸収糸、皮膚は皮膚縫合接着剤で閉鎖。いずれも完治しておらずバンド、コルセット、ギブス、緩衝材、包帯等で固定し、作戦に臨んでいた」
アグネス「はい」
胸に傷が出来たときは心がギュッとして苦しかった。でも忙し過ぎて思い出さずに済んでいた。顔の傷も内心、凹んだものだ。もう今はそれどころでは無いが…。
タッド・エルスマン「消化器系に損傷、これは経過良好。左脾臓は2度目の受傷時に脾臓動脈閉塞手術、そして―手術直後に作戦復帰し、そのままL5宙域で戦闘!-そのままアプリリウスの作戦へ!?…外部から緩衝材と包帯、コルセット等で防護-。これは強いられてのものか?」 - 61二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 02:08:14
思わぬ質問が飛び込んできたわ。それまで淡々とお話しされていたエルスマン博士も脾臓手術の直後の作戦復帰には顔を顰めていらっしゃる。
ある意味では当然の疑問だけに困惑してしまう。私の形代のチョーク・アウトラインはそのまま殺人事件の被害者用に転用できそうになっている。
アグネス「(お答えを。言い方を間違えればグラディス提督やトライン副長にご迷惑が掛かる…)」
故に正しく正確にかつ端的に、嘘は言わず、馬鹿正直にならずお答えしよう。
アグネス「いえ。それが私の義務であり使命ですので。他の戦友達と同じく。負傷を押して任務に戻ったのは私だけではありません」
タッド・エルスマン「手榴弾の上に飛び乗ったことも?一度、精神科に通院してはどうか?」
それは大変困る。キャリアに傷がつく云々では無く、仕事に余裕がない。
実は―私自身も自決願望でもあったのかと心配になることはある。
本当は『意義のある死』を望んでいるのではないか?それを以て、何かを償い、何かから逃げ、そして楽になりたいのではないか―
私は精神の専門家ではない。何れお世話になる時はあるだろう。でも、戦争が終わるまでは待って欲しい。
アグネス「手榴弾に飛び乗ったことも。陣頭に立つのは指揮官の義務であり、他に方法が無ければ、戦友と文民の為に手榴弾に覆い被さるのは兵士の使命です。今回、私は足で抑えました」
タッド・エルスマン「そうか…。ありがとう」
エルスマン博士は、私の態度を勇気と強さの表れと解釈してくれたらしい。セーフかな。まったく、我が国最高の医学者にして、前最高評議会議員によくぞ吠えたものだと、我ながら感心する。
そこから彼は明らかに態度を変えて、丁重な口調と努めて穏やかな物腰で話を続ける。
タッド・エルスマン「では最後に―。左太腿の刺傷と不全骨折。突き刺さった破片が筋肉を断裂、大腿骨骨幹部に食い込み骨にヒビを入れた。血管・筋肉は吸収糸、皮膚は皮膚縫合接着剤で閉鎖、ギブスと緩衝材、包帯で保護と固定。そのまま君は作戦に臨んだ。君は勇敢な人だ」
アグネス「ありがとうございます」
怪我の前の怪我の話で疲れてしまった。ギブアップしたい。付き添いを断ったことを今になって後悔しそう。 - 62二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 02:16:57
弱気に成り掛けた私の右手にどっしりとした重みが急に掛かる。たぷたぷした感触-。
セントバーナード犬「ふっはぁふっはぁふっはぁふっはふっはぁっ」
その正体は、隣でお利口にしていた『彼』の大きな頭だ。セントバーナード君は、私の苦しい内心を案じてくれたらしい。これが『ワンコの顎乗せ』ってやつね。嬉しいけれど、重い。
でも、そのお陰で『一人じゃない』と感じられる。セラピー犬恐るべし。うん。この子を友としてもう少し頑張ろう。
タッド・エルスマン「少し休憩しようか?」
アグネス「いえ。博士がよろしいなら続きをお願いします。途切れ途切れではかえって疲れてしまうかもしれません」
タッド・エルスマン「そうか。君は勇敢な人だな。よろしい。では次に当日の装備等について。受傷の説明に不可欠だ。辛く成ったら何時でも言ってくれ。先程は軽率だった。お詫びしたい。PTSDに苦しむ兵士も多いのに。それは恥ずかしいことじゃない」
そう言って、博士はまた意味深な視線を私に向けてくる。気を抜けば、精神病棟送りになってしまう。別に精神科や心療内科、カウンセリングに偏見はない。でも今は戦時、穴を空けるわけには―。良し。
アグネス「はい。決して無理はしません」
タッド・エルスマン「よろしい。さて―」
エルスマン博士の視線は再び手元のファイルに向く。大きなクリアボードに描かれたチョーク・アウトラインは左太腿まで、私の負傷でびっしり書き込まれている。
私が半ば呆れながら、自らの形代を眺めていると、エルスマン博士はその頭部前部に『包帯』を模したフィルムを張り付ける。
タッド・エルスマン「まず当日、君の前頭部周辺は包帯で防護。眼球保護の為、アイ・プロテクションを装着。高所からの降下作戦に備え、3重のヘルメット。内側から超薄型ヘルメット、高強度・耐衝撃力に優れるが非軍事用。それにインカムを付けて片耳に。その上にパイロット用ヘルメットを大小二重重ねで着用」
アグネス「はい」
彼は話し、私は確認する。その間にクリアボードの『私』はフィルムで作られたアイ・プロテクション、超薄型ヘルメット、インカム、パイロット用ヘルメット大小を身に着ける。 - 63二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 03:36:24
タッド・エルスマン「頚部にはギブスと包帯-両脇から両肩、背骨に掛けて鎖骨骨折用バンド、胸部と腹部には緩衝材と包帯、上から胸部から腰部に掛け大型医療用コルセット、左肩に緩衝材と包帯。左太腿にはギブスと緩衝材、包帯」
頭が終わったら、今度は首と体と太腿、終わる頃には…。もうすっかりミイラ女よ。包帯グルグル。
タッド・エルスマン「それらの上からボディアーマーを着用。範囲は胸部と腹部、上腕部、背部、脇腹、下腹部全体(鼠径部、大動脈、骨盤、下腹部内蔵、生殖器)。強度はライフルの徹甲弾で貫通しない程度。
その上で大小二重にパイロットスーツを着用-。背中のバックパックにはパーソナルジェット、腰には制式拳銃」
アグネス「はい」
クリアボードで半死半生で喘いでいた小娘は、すっかり一人前の戦士に早変わりしている。素晴らしい。昇降施設奪還戦では医療器具の有無と武装の強度を除けば、皆この格好だった。
着替える間もなし。結構な重量だから負傷兵の身では、パーソナルジェットの補助が前提の装束ね。
エルスマン博士は最後のフィルムをお腹の上に重ねる。
タッド・エルスマン「君の場合は軍用大型ウエストポーチを巻いて、業務用デバイスを携帯していた、と。これで全部だね」
アグネス「はい。あぁぁあ!業務用デバイス!無事ですか!?」
タッド・エルスマン「…常識で考えたまえ。無事な訳無いだろう。一応、回収されて破損していないデータは取り出したそうだが…。仕事は後にしなさい」
アグネス「はい…」
一瞬、呆れ顔になった後、エルスマン博士は表情を改める。
タッド・エルスマン「今から本題を。苦しくなったら即時に。私も様子を見ながら話す」
アグネス「お願いします」
タッド・エルスマン「一連の負傷の初めは、大通り上空、45m付近。長距離狙撃銃による攻撃からキャンベル嬢を庇った際のもの。ライフルから飛び出した徹甲弾は君の胸部と腹部に2発着弾。1枚目のパイロットスーツが銃弾の衝撃を多少緩和し、その下のボディアーマーが弾を留めた。その下の2枚目のパイロットスーツが衝撃を緩和。その下のコルセットと緩衝材、包帯がもう一度衝撃を和らげた」
エルスマン博士はマジックペンを徹甲弾に見立ててクリアボード上の『私』の腹部と胸部に押し当てる。 - 64二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 03:49:44
タッド・エルスマン「それにより再度の脾臓出血は何とか免れた。しかし、胸部に関しては不全骨折していた6本の内、2本が完全骨折」
一瞬、胸に痛みが走った気がした。気のせいだ。忘れろ。病は気からだわ。
タッド・エルスマン「次に同じくキャンベル嬢を庇って下腹部、腹部、胸部に徹甲弾3発が着弾。先程、述べたのと同様なことが起きたと思ってくれていい。大腸と小腸から腸管出血、不全骨折中だった肋骨の内、2本が完全骨折に」
さぁっと顔から血が退いて行くのが分かる。拷問を受けているみたい。自分の身体がボロボロなのは分かっている。でも、まざまざと言われると―。
セントバーナード犬「はぁふっ…はぁふっ…はぁふっ…」ゴテッ―
頭がくらくらしそうになった瞬間、またこの子が顎を右手に乗せてくれる。犬にとっては親愛の表現なんだとか、ありがとうね。
ちなみにクリアボードの『アグネス』は順調に(?)傷だらけになっている。何処が駄目になったか一目で分かって何よりだわ。
タッド・エルスマン「その後、キャンベル嬢は、おそらく故意に転落させられる。君はそれを抱きとめるも、パーソナルジェットでは揚力が足りず、およそ43m下のビル前大通り路面上に落下。受け身を取り、転がりながら衝撃を逃がした」
アグネス「はい」
あれから先のことは本当に悪夢だったわ。墜ちた先に何人も善人が居てくれたことだけが救いね。
タッド・エルスマン「ジェットの揚力で落下エネルギーの過半は相殺され、パイロットスーツとコルセット、緩衝材、包帯等が衝撃を緩和させた。でも全てとは言えない。既に不全骨折していた左の肋骨2本は完全骨折。計6本も完全骨折して、これだけのことが起き、肺に刺さらなかったのは奇跡だ。左肩の刺傷は縫合が開いただけでなく下の筋組織まで断裂が拡大。右の肋骨も2箇所が不全骨折」
ふんふんと聞き流す。と言うかまじまじと聞いて居たら気が滅入る。でも、ここまでは想定の範囲内、むしろ軽いくらいだ。
その時、不意に脳裏に恐ろしい表情を浮かべた男性の影が走る。
『足を拾った!』
その声が頭蓋骨の中で反響し始め、今までの精神の均衡を揺さぶり始める。 - 65二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 04:19:51
ああ、不味い。聞きたくない。話が遂に核心に迫って来た―。足は仕方ない、仕方なくはないが、良いとしよう。でも…私の下半身、どうなっている?
アグネス「あの…一つ先にお聞きしても…」
タッド・エルスマン「…どうぞ」
聞きたくない…。でも聞かざるを得ない―。
アグネス「私には…。今、女性としての機能は残っていますか?」
身体の奥から怖気が噴出してきて止まらない。さっき下腹部に当たった銃弾の説明を受けた時も、本当はそれが一番怖かった。腸は長い。駄目になった部分を切り取って残りを繋げる手術もある。でも子宮や卵巣はそうもいかない。
タッド・エルスマン「済まない。実は頃合いを見計らっていた。君の女性としての機能は無事だ。損傷はない。母君もご心配されていたし、グラディス提督も内々に気に掛けていた。だから、しっかり検査した上でのことだ。安心しなさい」
アグネス「はぁ。良かったぁ」
何だか急に力が抜けてしまう。一気に峠を越したような気持だわ。まあ、それさえ分かれば後はどんとこいだ。足が飛んでようが手が飛んでようが、義手や義足で何とでもなるわ!
女性医師「博士!余りにも…」
タッド・エルスマン「いや…。すまない。どう切り出したものかと。自然な流れで―」
女性医師「自然な流れ?」
セントバーナード犬「わぁぁっはわぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっはぁぁっ!!」
さっきまでの深刻な雰囲気は何処にやら。私が余りにもケロッとしてしまったせいで、病室の中の明るさまで変わったかのよう。ふむ、身構えている時には死神は来ない。良し!そして―そこまで精神が上がって来てようやく思い至る。
アグネス「(そうか。博士も苦しんでいたんだわ)」
彼にとって私は身も知らぬ他人ではない。『知り合い』かつ『知り合いの知り合い』『息子の後輩』。私は、エルスマン博士が元最高評議会議員で我が国最高の医学者だから、その立場と実力の持ち主だから、どこか自分と全く異なる超然とした現象のように彼を見なしていた。
でもそんなことは無い。如何に高名な医学博士とて、自分の娘ほどの年齢の、しかも自分とも繋がりのある女性患者を前に無心でいられるはずもない。さっきからの授業でもするかのような口ぶりは、私だけでなく彼自身を落ち着ける為の舞台装置だったのだ。やっとわかった。分かったからにはサッサと話を進めよう。 - 66二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 07:16:21
- 67二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 07:36:09
- 68二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 07:53:41
怪我描写に対して心配するコメントに毎回その手のリプやるのおもんないよ
- 69二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 07:56:00
- 70二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 08:01:50
こうして怪我を整理するととんでもない状態で動いてんな
ガンダムの軍人ってみんなこういうものなのか? - 71二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 09:17:15
- 72二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 09:37:13
- 73二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 11:24:56
今更ながらここまで負傷してきてよくアグネス生きてたな
直近の政変どころかこれまでの戦闘で失血死やらショック死してても不思議じゃないぞ? - 74二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 11:25:44
バルトフェルドさんがあの状態でもムラサメとガイアの操縦はできた
- 75二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 11:33:06
身体が強靭なコーディネイターだから、ナチュラルじゃとっくにアウトライン越えてるような怪我してもギリギリで動けてしまうんだろうね…
- 76二次元好きの匿名さん25/05/05(月) 19:25:01
このレスは削除されています
- 77二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 00:22:43
保守
- 78二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 00:23:07
保守
- 79二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 00:45:15
作者はリコレクションで新たに本編の深掘りがされたことで逆に困ったことあるのかな?
- 80二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 03:07:58
良し!覚悟は固まったわ。
アグネス「ありがとうございます。ずっと怖くて…。でも、もう大丈夫です。続きをお願いします」
タッド・エルスマン「分かった。気を張り過ぎずに。さて、ギーベンラート嬢、君はその後、周囲の民衆に警告を行うと同時にウエストポーチから軍用強化ナイフを取り出した。それでワイヤーとキャンベル嬢の避難の妨げとなる救助縛帯を切断-」
エルスマン博士は話を続けながら、クリアボード上に、手早く『後ろ向きのアグネス』をチョーク・アウトラインとフィルムで再現する。
タッド・エルスマン「その作業中にも彼等の狙撃ライフルを用いた攻撃は続いた。背部には5発の徹甲弾が命中」
アグネス「はい」
博士は先ほどと同じようにマジックペンで背中の各所を5回押して見せる。
タッド・エルスマン「不幸中の幸いと言うべきか、パーソナルジェットとバックパックが着弾時の衝撃を緩和。他はこれまでと同じ。そのお陰で完全骨折していた肋骨が臓器や血管に突き刺さると言う最悪の事態だけは免れた。しかし背部には5カ所の打撲傷。右側の肋骨が1本不全骨折から完全骨折に悪化した」
肋骨がバキバキになっている…。道理で途中から息遣いに苦労したり、声が張れなくなったわけね。痛みの方は脳内麻薬で完全シャットアウト状態だとしても、そっちまでは何ともならないから。
アグネス「(でも本当に不幸中の幸い、と言うべき。肋骨のこともそうだけれど―)」
エルスマン博士は未だ律儀に、私の形代の負傷を更新し続けている。多分この後も解説に使うのだろう。
タッド・エルスマン「その後-苦しくなったら直ぐに言ってくれ」
アグネス「はい」
タッド・エルスマン「その後-苦しくなったら直ぐに言ってくれ」
アグネス「はい」
タッド・エルスマン「よろしい。この後、手榴弾がキャンベル嬢に向かって投擲される。手榴弾は地面に伏せた民衆の上を飛び越え、君とキャンベル嬢のやや前方の路面に落下する」
―AWACSディンパイロット「手榴弾!9時の方向!」 見えた!空を舞う缶詰め型の手榴弾、こちらに向かって飛んでくる― - 81二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 03:27:23
タッド・エルスマン「君は落下直前、咄嗟に『手榴弾にヘルメットを被せ、その上に自分が乗ることで周囲の文民を守る』と言う方法を考案。重ねて被っていた大小のヘルメットを脱ぐ。しかしパイロットヘルメットの顔面部はシールド、割れやすく脆い。故に二つのヘルメットの小さい方を下、大きい方を上に、互い違いに重ね、手榴弾落下に合わせて飛び込んだ」
―アグネス「低く!頭を守って」 カン… 試しに押すとパーソナルジェットは未だ起動する。感謝します、神様-
アグネス「(本当に神様のご加護としか言えない。スナイパーに蜂の巣にされたパーソナルジェットが最後の力を出して動いてくれた―)」
タッド・エルスマン「ヘルメットを手榴弾に被せた後、そこに君は飛び乗り直立。両腕は胸の前でクロスして、両拳で頚部と顎を守った」
アグネス「はい」
―少しでも生存の可能性を上げる為、ヘルメット上に真直ぐ立ち、同時にジェットの推力を切って全体重を掛ける―
タッド・エルスマン「しかし一目して分かるように、モビルスーツ専用ヘルメットは違え違えでは完全にぴったりとは重ねられない。大きさが違う分まだマシではあるが…。小ヘルメットに被せる大ヘルメットは少し斜めに浮いてしまう。
爆圧と破片は小ヘルメットのシールドを破る。そのリスクを下げる為、ギーベンラート嬢、君は大ヘルメットの頭頂部の少し後方に右足を置き、身体を僅かに傾けて立った。左足は小ヘルメットに被さっている大ヘルメットの前頭部に」
説明しながら、博士はクリアボードにもう一つ図を描く。
手榴弾とその上に被さった小ヘルメット、シールドからの破片飛散を避けるべく、逆向きに被さられた大サイズのヘルメット、そしてそれを抑える私の両足。確かに記憶の中の私は、そう考え、実行したように思う。
アグネス「そうだったと思います」
タッド・エルスマン「ショックを受けるかもしれない。無理をしないように」
アグネス「はい」
タッド・エルスマン「手榴弾は君がヘルメットの上に立った直後に炸裂。爆圧と破片が小ヘルメットを満たす。強烈な衝撃が直上を襲った。それにより左足首は外側に捲り上げられる形となり、重度の足首外反捻挫(足首が外側に曲がる捻挫)を起こす。足首の靱帯は断裂し、腓骨が骨折する。脛骨も骨折を免れなかった、皮膚を突き破って脹脛内側に開放骨折-」 - 82二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 03:47:24
クリアボードに開放骨折がマークされる。グロいので流石に画にはしない模様。
タッド・エルスマン「左膝関節も外側に向けた圧を受け、重度の脱臼。膝蓋骨が外れ、半月板は損傷、靭帯は断裂。元々、不全骨折していた左太腿は完全骨折した」
博士はそこまで話したところで一度、言葉を区切る。女性医師が私を気遣い、アイサインを送ってくれたみたいだわ。
タッド・エルスマン「少し休もうか?いや、休憩し…」
アグネス「続けて下さい。それからどのように?」
タッド・エルスマン「しかし―」
クンクンクンクン…。傍に私を励ますセントバーナード君の温かい息遣いを感じる。うん。もう少し、頑張ろう。話を先送りにして解決するなら、幾らでも先送りにする。でも、これは、そういう性質の物じゃない。
タッド・エルスマン「…分かった。爆圧で小ヘルメットの顔面部、シールドは粉砕する。そこから爆圧が大ヘルメットに掛かる。結果、右足でも、靱帯断裂と腓骨骨折を伴う足首外反捻挫が生じる。脛骨も内側に開放骨折した。膝関節も膝蓋骨が外れ、半月板は損傷し、靭帯は断裂する重度の脱臼を起こす。このように左右の足が外側に捲り上がった君は、一瞬とは言え、真下から手榴弾の爆圧と破片に晒される」
やはり二つのヘルメットを使うのは無理があった。でも仕方のないこと。一つでは手榴弾の爆圧は止めきれない。顔面シールドから爆風と破片は飛び出し、周囲に死傷者を発生させただろう。私は生きている。それが全てだ。
タッド・エルスマン「その際、君の身体には大小50以上の破片が衝突した。その内、下腹部全体はボディアーマー、背部はバックパックとパーソナルジェット、身体の前部に流れた破片は腹部に巻いていた特大ウエストポーチがそれぞれ吸収した。だが…」
業務用デバイスはその時壊れたのか。盾になって散ってくれるとは、良い相棒を持ったわ。
タッド・エルスマン「破片は両太腿内側と脹脛内側を中心に24個突き刺さっていた。9個は足を貫通し、7個は骨に接触して、左大腿骨に4カ所、右大腿骨に3カ所、右脛骨に1カ所に不全骨折を生じさせていた。既にダメージを負っていた右膝関節にも大きめの破片が直撃。膝蓋骨を砕き、軟骨、筋肉、靱帯、皮膚を断裂。その結果-」
アグネス「右足の膝下が体から分離した、と」
少し涙声で結論を言う。無礼は承知、でも今ばかりはお許しいただけるだろう。 - 83二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 04:08:11
タッド・エルスマン「…そうだ。直後に君は背中から路面に激突、背中と後頭部を強打した。しかしパーソナルジェットとバックパックが背部を、ヘルメットが頭部を守った。そして君は大量出血を起こし、出血性ショックも間近だった。応急処置に尽力したデモ参加者の医師と看護師が君の命を救ったと言って良い」
アグネス「ええ。感謝に堪えません」
あの場に集っていたのは『敵』では無かったのだと改めて実感する。作戦上は『半敵性勢力』であると共に『人質的存在』。それが間違いだとは今も思わないが…。『敵って誰だよ』と言ったアスランの気持ち、今なら少しは分かる。彼と私では意味合いがまた違うのだろうけれど。
セントバーナード犬「クンクンクンクンはぁっはぁっ」、アグネス「…」ポンポンポン…
良し。これで負傷状態は把握した。想定していたよりは良い―。であるならば、速くリハビリの予定を立てたい。
アグネス「足を見てもよろしいでしょうか?」
タッド・エルスマン「ああ。手を尽くした」
アグネス「?」
女性看護師がベッドのすぐ傍にまで歩み寄っている。静かに立っていたから気が付かなかったわ。
看護師「少し深呼吸をして下さい」
アグネス「はい…」
セントバーナード「…」
私が深呼吸を済ませたのを確認した看護師は毛布をそっと引き上げる。下から現れたのは―。
包帯グルグル巻きの両足。両足だ!右足の指が見えているから!縫合できたのか!
アグネス「嬉しい…。でも―」
タッド・エルスマン「でも?」
自分の足をまじまじと見つめながら思う。これは正解なのか?『繋がっているだけでは意味がない』。
クオリティ・オブ・ライフの為、敢えて下肢の切断と義足による暮らしを選ぶ人もいる。足を負傷した軍人が温存治療より切断を選択し、懸命なリハビリの後、義足で戦地に―戦友の下に―帰った例は西暦の頃から存在する。警察官や消防士にも同様のエピソードは少なくない。
『自分の足を温存したい』そんなセンチメンタルな考えで惰眠を貪るのは、戦友と祖国への裏切り行為ではないのか? - 84二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 08:10:56
プラントの医学薬学はァ、世界一ィィィ!
- 85二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 11:29:39
センチメンタルっておまっ、お前なぁッ(絶句)
本当にいい加減にしろよッ(涙目) - 86二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 13:20:40
いや、そう言う事ばっかり考えてると、こいつに「呼ばれちゃう」から!
つ「ダリル・ローレンツ」 - 87二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 15:02:14
サイコザク「ステンバーイ」
- 88二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 15:33:28
>そんなセンチメンタルな考えで惰眠を貪るのは、戦友と祖国への裏切り行為ではないのか?
これ聞いたアスラン含め仲間たちがそんなことないって否定しそう
と言うかアグネスが体張り過ぎてて死なないかハラハラする
- 89二次元好きの匿名さん25/05/06(火) 20:24:58
もうちょっと自分の身体というか自分の命を大事にしてもろて⋯
命は何にだって一つですよ - 90二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 00:40:27
一回脚が吹き飛んだんだから流石にね…
- 91二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 03:05:25
今の気持ちをどう処理すれば良いのか―。少し擦れた声が、私の口から零れる。
アグネス「いえ…。ただ…。このような時世、仲間のことも気掛かりです…」
しかしそれに答える博士の声は思っていた以上に力強い。
タッド・エルスマン「言いたいことは分かる。大丈夫、動かせるようになる。頑張ろう。辛いかも知れないが―」
アグネス「はい」
エルスマン博士にお応えしながら、右手の病院服の袖で軽く目元を拭-拭えなかったわ!
セントバーナード犬「はぁはぁはぁ…」
プロのセラピー犬でも生理現象はどうにもならない。袖に彼の涎が付いていたわ。
アグネス「(でも本当にありがとうね)」ポンポン、ナデナデ
彼の首周りを撫でた後、もう一度視線をクリアボードに向ける。
タッド・エルスマン「さて、タッド・エルスマン「ギーベンラート嬢、おそらく君も『微弱電流療法』と言う言葉を聞いたことがあると思う。『万能細胞』についても」
アグネス「はい。勿論。両方とも西暦時代から研究、実用化されてきた技術です」
タッド・エルスマン「そうだ」
私と話しながら、博士はボードに写真付き資料を2枚貼り付ける。
『微弱電流療法』。動物は負傷した際、組織を修復するために『損傷電流』という微弱な電流が流れる仕組みがある。この療法は『損傷電流』と似た電流を人工的に流すことで、組織の修復を促進し、痛みを緩和する助けとするもの。
アグネス「(この療法は所謂、『疑似科学』とは異なる)」
西暦末期には『電気絆創膏(電子薬学皮膚パッチ』が開発され、電気の力で感染症を防ぐ試みも始まっていた。『皮膚に電気を流すことで傷の回復速度を3倍にすることができる』との研究結果も発表され、慢性的な創傷に苦しむ糖尿病患者の治療に効果を発揮していた。 - 92二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 03:30:03
タッド・エルスマン「同じく西暦末期には、iPS細胞やES細胞などを人体の損傷部位に植え付け、組織の再生や修復を促す試みも始まっていた。もっともこれらの万能細胞は今日の我々から見れば非常に原始的で免疫拒絶反応や万能細胞の腫瘍化・癌化のリスクがあり、その上、受精卵を使用するES細胞には倫理的問題が付き纏っていた」
アグネス「はい」
だが、プラントにおいて、それは過去のもの。私達はご先祖様の物より遥かに優れた『最新式の万能細胞』を持っている。これには受精卵を使う必要もない。高額な医療費がネックではあるが…。
タッド・エルスマン「今回それは問題にならない。全額、軍が持ってくれたから。あらゆる手が尽くせた―」
このエルスマン博士の発言に、私の傍の女性医師は少したじろいでいる。寝ている間、私には保険診療適応外上等のスーパー高額医療が施されていたらしい。散々ぼろ雑巾のように国家に奉仕して来た甲斐が有ったと言うものだわ。
タッド・エルスマン「難しい解説をしても仕方ない。単純化して話そう。もう一度、身体の上から、前頭部の裂傷について。こちらは今回の戦闘で特に悪化はしていなかった。だが、早く治るに越したことは無い。そうだろう?」
アグネス「はい」
タッド・エルスマン「そのため今回は科的処置を試みた。検査結果に基づき、縫合されていた額の傷を一部再切開。前頭筋と血管の断裂部に『最新版の』万能細胞を『植え付けた』。その上で筋組織の創部の上に直接、超極薄の電気絆創膏を貼付。これは吸収糸と同じく―原理は違うが―最終的に体内で溶ける材質のもの、それまでは超微弱電流を流し続ける。
受傷時と今回の施術で傷ついた。皮下組織にも万能細胞を植え付け縫合、超極薄の電気絆創膏を貼付。その上の真皮にも万能細胞と超極薄の電気絆創膏を。最後に表皮にも万能細胞を植え付け、最新式皮膚縫合接着剤で傷を閉じ、その上から、受創部の回復を促進する特殊ジャルを塗る。最後にやや大型の電気絆創膏を包むように貼り付ける。これで前頭部の処置は終了だ。新しい吸収糸の吸収速度は予想回復速度に合わせて調整済みの物を使用している」
はぁ…なるほど。
アグネス「(女性医師がドン引きする訳だわ…。気合が入っているなんてものじゃないわね)」 - 93二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 04:01:23
アグネス「あの…。額を触ってもよろしいでしょうか?」
タッド・エルスマン「構わないが…。セラピー犬の涎塗れを拭いて、消毒してからにしなさい」
アグネス「はい…」
セントバーナード犬「ふっはぁふっはぁふっはぁふっはふっはぁっ」
この愛すべき犬種の困った所がこれなのだ。まあ、仕方ない、仕方ない。助けてもらっているのだから。
看護師に右手をアルコール洗浄してもらい、額にそっと触れてみる…?!
アグネス「あれ?電気絆創膏がない…。傷跡も」
女性医師「先ほど、ギーベンラート様が目覚める直前、剥がしました。予後も良好です」
アグネス「それは…ありがとうございます」
もう治ったのか。なるほど。これが今回の手術の基本的な手法となるわけね。
タッド・エルスマン「次に頚部の重度の外傷性頚部症候群。この病院の最新式特殊スキャン装置により筋肉の断裂部と靱帯の損傷部を割り出した。外科的措置を検討し実行した。
皮膚を切開し、断裂部と損傷部に直接、万能細胞を植え付けて縫合。そこに超極薄電気絆創膏を直接貼付。切開した皮膚や皮下組織には先ほど話したのと同様の処置を。まだ気を付けなくてはいけないが、首はもう持ち上がるはずだ」
博士に太鼓判を押されたので、物は試しと首を持ち上げて見る。あれ?ギブスしていないわ、私。てっきり…。思い込みとは恐ろしいものだ。
アグネス「(本当に持ち上がる。まだ少し違和感があって動かすと痛みがあるけど)」
タッド・エルスマン「完治まであと数日と言った所だ。次、左鎖骨について。左鎖骨の不全骨折は戦闘時の衝撃で悪化していた。外科手術を選択。不全骨折箇所には万能細胞を注入し、直接、超極薄の電気絆創膏を貼付。切開部の処置は先ほどと同じ」
じゃあ今度は試しに鎖骨を動かし―いや、待て。肋骨が折れているのにそれをしたら悶絶するわ! - 94二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 04:29:24
タッド・エルスマン「次左肋骨6箇所の完全骨折と右肋骨1箇所完全骨折について。これには万能細胞と電気絆創膏に加え、『人工骨』も使う。西暦には既に時間をかけて生体内で骨と置換していく製品が開発していた。我々はその最新改良版を用いる。最新検査機器で欠損した骨の形と質量を計算、骨の再生速度と置換速度がちょうど一致するよう素材をコントロールし、三次元立体製法で人工骨と生体ボルト等を作成する。
胸を切開して、完全骨折した肋骨は人工骨とボルトで固定、万能細胞を創部に注入し直接、超極薄の電気絆創膏を貼り付ける。不全骨折部にも万能細胞を注入し超極薄の電気絆創膏を貼付。切開部をこれまで通りの方法で閉じる。どうだろう?呼吸は苦しくはないかな?少し大きめに息をして―痛みは走らないか、確かめてくれ」
そう言われてみれば…。確かに呼吸は苦しくはない。一度深呼吸してみる。うん。痛くはない。
アグネス「はい。痛みは感じません」
タッド・エルスマン「勿論、これは安静時の状態でのこと、骨の再生にはまだ時間が掛かる。くれぐれも無理をしないように」
その後、博士の説明はその後、左肩、左脇腹、左胸、鎖骨下の裂傷についても進んで行く。概ね前頭部時の説明の繰り返しだわ。
アグネス「(でも左乳房下部の治療に気を使ってくれたのは嬉しい。乳腺と乳管も徐々に再生する、とのこと)」
それにしても―博士の話を聞いていると、何だか自分の身体がロボットになったかのような錯覚に陥り掛ける。彼は写真と検査結果だけでなく人工骨の複製品も見せてくれる。それでも今一現実感がない。人間の想像力など、その程度の物なのかも知れない。
タッド・エルスマン「大腸と小腸の腸管出血は内視鏡手術と開腹手術で対処した。洗浄の上で血管と組織をマイクロサイズの吸収糸で縫合し、万能細胞も挿入。開腹手術も。消化器系の創部は外側から、極極薄電気絆創膏を貼り付け、左脾臓には万能細胞を。その後、開いた傷口を順番に処置をしながら閉じた」
肋骨の手術の為、胸部も開いたから文字通り大手術だ。輸血量は青天井であったらしい。輸血パックはこの病院の物は払底し、他院から融通してもらったと言う。
女性医師「本当に良く頑張りましたね。ギーベンラート様のご本人の生きようと言う意思が、何よりご自身を助けたのだと思いますよ」 - 95二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 11:35:17
☆
- 96二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 17:57:07
まさか、この状態で「出撃!」とか無いよね?無いよね?
- 97二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 18:24:11
いい加減アグネスには休んでもらいたいがまだまだ議長が裏でやらかしそうだからなぁ
- 98二次元好きの匿名さん25/05/07(水) 19:53:08
アグネスが居ないせいで事態が悪化って感じかな
- 99二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 00:22:03
保守
- 100二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 00:34:04
まぁ休養に専念しろって言える状況じゃないのは依然変わらないのでしばらくは頭脳担当専門で頑張ってくれ⋯
というかプラントのゴタゴタ続きですっかり忘れてたけど、まだヘブンズベース戦に相当する戦いが発生してないからジブリール野放しだよね?
AA組もなんとかオーブまで辿り着いたかな?って段階だし - 101二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 01:02:41
女性医師は何やら私を褒めてくれる。何だか少し恥ずかしいかも…。
アグネス「いいえ。私は寝ていただけ、多くの人が―私などには勿体ないほど多くの人のご尽力会ってのことと思います」
女性医師「そんなことは…。本当に頑張りましたね」
そうこう話している内に、遂に説明は足の所まで下がってきている。ここから下も結構大変なのだが―。雰囲気的に何とかなりそうな気がする。
アグネス「(ああ…。私にそう思わせるために博士は敢えて頭の傷から話したのか―)」
クリアボードの前で熱弁を振るっている御仁に改めて感心する。本当に頭の良い人だ、理詰めで情にも厚いみたい。
タッド・エルスマン「両足内腿、両脹脛内側に24個の破片。その内、体内に残った14個の摘出に成功。まず右太腿について。外科的対処以外選択肢はない。
不全骨折3カ所は、万能細胞を植え付け、電気絆創膏を貼付した。太腿四頭筋は9カ所で大断裂、伏在神経も切断。貫通動脈、太腿深動脈、外側伏在静脈、内側伏在静脈が複数個所で破断。縫合と同時に万能細胞を各所に植え付け、筋肉と一定以上の太さの血管には超極薄の電気絆創膏を直接貼付。切開した部位の皮下組織と皮膚の処置はこれまで通り」
セントバーナード犬「はぁはぁはぁ…」、アグネス「…」ナデナデサスリサスリ…
セントバーナード君の癒し力(?)を頼りに説明をお聞きする。段々と『酷い』話になって来た…。
タッド・エルスマン「左太腿は大腿骨骨幹部が開放骨折、同骨は4カ所の不全骨折も。太腿四頭筋は8カ所で大断裂。伏在神経10カ所で断裂。貫通動脈、太腿深動脈、外側伏在静脈、内側伏在静脈が複数個所で破断。外科的処置以外に選択肢はない。
飛び出た骨を筋肉と皮膚から抜き元の位置へ。細かい骨片は除去。その上で損壊した大腿骨の各部に万能細胞を植え付け、分かれた骨の間には人工骨を差し込み、同素材のボルトで固定。他の処置は右の太腿の通り」
クリアボードの『アグネス』は遂に左太腿まで『処置済み』マークが入れられた。マークが付いたからと言って私の身体が治ったわけでもないのだが―。今は受け入れるのみ。
そして―。ここまで熱弁を振るっているエルスマン博士は、次は左右どちらがいいか、一瞬迷ったみたい。でも、一拍後には結論を出し左足を選ばれている。 - 102二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 01:08:04
タッド・エルスマン「左膝関節の重度の脱臼。膝蓋骨が外れ、半月板は損傷し、靭帯は断裂する重度の脱臼。外科手術を選択。
断裂した靱帯と血管、損傷が見られた神経には万能細胞を植え付け縫合、電気絆創膏を貼り付けた。軟骨にも万能細胞注入。半月板は特に念入りに万能細胞を植え付け、電気絆創膏を貼付。そして外れた膝蓋骨を元の位置に戻した」
アグネス「はい」
もう「はい」とだけしか言えない。イメージしたら滅茶苦茶痛そうでゾワゾワする。自分のことではあるけれど、あの時は脳内麻薬で何も感じていなかったわ。
タッド・エルスマン「脛骨開放骨折、飛散した破片により下腿三頭筋と前脛骨筋は断裂、腓骨神経と脛骨神経も切断。表在前脛骨静脈と後弓状静脈、前脛骨動脈と後脛骨動脈は破断。腓骨完全骨折、左足首は重度の外反捻挫、靱帯断裂。外科的で対処した。目標は足の温存と歩行機能の早期回復の両方。
脛骨は骨片を除去した上で元の位置に。万能細胞を植え付け、人工骨を別れた骨に差し込み、同素材のボルトで固定。電気絆創膏を貼り付けた。同様の処置を腓骨にも。損傷した各筋肉と血管、神経、靱帯には万能細胞注入・植え付けの後に縫合。直接、超極薄の電気絆創膏を貼付。切開部の処置はこれまで通り」
エルスマン博士は、私の目をしっかり見つめて一気に説明すると、クリアボードの『アグネス』の左足の状態を『処置済み』に書き直す。そして彼は私に向き直り、もう一度確認を取る。
タッド・エルスマン「さて…。もし必要なら休憩を―」
アグネス「いえ。ここまで来たのですから…。お願いします」
二度に分けて良いことなど何もない、少なくても私には。
タッド・エルスマン「分かった。頑張り屋さんだな。よろしい。右膝関節は外側に向けた圧を受け、重度の脱臼。膝蓋骨粉砕、半月板は損傷、軟骨、筋肉、靭帯、皮膚が断裂。膝蓋腱と前十字靱帯も断裂。こうして右足の関節が言わば『周囲の皮一枚で繋がっている』ような状態になった瞬間に手榴弾の破片が高速で衝突。神経・血管・筋肉、軟骨、半月板を一度に断裂して膝下を吹き飛ばした。なお、その直前に右脛骨は内側に向け開放骨折、他1カ所不全骨折。腓骨は完全骨折、右足首は重度の外販捻挫、靱帯断裂」 - 103二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 01:16:13
博士はクリアボードに模式図を書いて下さる。手術の報告を聞いていると言うより、もう生物の授業だわ。そう思わないと、自分のこととして考えたら…。この中の傷一つで悶絶してしまうじゃない!
一方のエルスマン博士は何やらテンションが上がって来ている。話も少し早口に、これは―。
やはり博士も人の子、難しい仕事で出した成果を発表しているのね。それは気合を入ろうと言うものだろう。悪いことじゃないし、別に良いわよ。
タッド・エルスマン「幸いなことに、いや不幸中の幸いと言うべきか。切断された右膝下はデモ参加者の男性が即時に発見、彼が自主的にデモの『飲み物係』をしていたことも運が良かった。彼は清潔なビニール袋に足を入れて、しっかり冷やされたクーラーボックスに保存。救急隊到着後、直ぐに渡してくれた。病院到着前から温存処置を開始し―」
セントバーナード犬「クンクンクンクンはぁっはぁっ」、アグネス「…」ナデナデ
タッド・エルスマン「傷口の洗浄と破片の除去を手早く済ませ、接合手術を開始。まず、断裂した血管の縫合。万能細胞を植え付けながら行う。損傷が激しい部位には人口生体血管を使用、人工骨と同様に回復スピードに合わせて置換されるものだ。これを本来の血管と血管の間に入れて両側から―」
アグネス「ちょうど長さが足りなくなったホースを繋ぐように?」
ちょっと私も『彼の発表』に参加してみる。自分の身体の事、罰は当たるまい。
タッド・エルスマン「その喩えでよいだろう。繋いだら超極薄の電気絆創膏を直接、貼付。靱帯と神経にも筋肉も万能細胞の植え付け・注入を実施。必要なら、回復と同時に置換される人口生体部品も用いつつ縫合した。半月板は整形しタンパク質の注入と万能細胞の植え付けも。膝蓋骨の損傷は著しく再生は困難と判断。置換されない人工骨で代用した。精密スキャンと詳細データから、ぴったり合う骨を作製し、粉砕された骨片と入れ替えた。皮下組織と皮膚も万能細胞を植え付け、直接、超極薄の電気絆創膏を貼り付けながら、縫合、接合手術を終えた」
今回の手術の山場を話し終え、エルスマン博士がちょっとしたドヤ顔になる。うーん、まあ、良いわ。ありがとうございます。 - 104二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 01:38:52
セントバーナード犬「ふっはぁふっはぁふっはぁふっはふっはぁっ」、アグネス「…」ポンポンポン…
その後、博士は膝下の処置の説明もしてくれる。内容は大体、左足の物と同じ。ただ接合した部位の『先』の傷であり、かつ、開放骨折も伴っている。大変、神経を使う手術であったとの由。
タッド・エルスマン「手術の説明は以上だ。『成功』と言っても過言ではないと私は自負している」
アグネス「本当にありがとうございます」
タッド・エルスマン「いや、ベストを尽くすのは医師の使命だ」
エルスマン博士の心強いお返事に、私も微笑みながら肯き返す。ヒポクラテスの誓いを守らんと志す者は彼に限らず、皆そうしている。受傷直後に動いて下さったデモ参加者の医師と看護師には感謝してもしきれない。
ふーむ、しかし、野暮な話かもしれないけれど、この一連の手術、どれぐらいの金額が動いたのだろう?『普通のザフト軍人』が国から保証してもらえる治療内容からは遥かに足が出ていることは間違いない。当然、一般国民が手が届く額のはずもない。
アグネス「(例えば、シンのご先祖の国には『ブラック・ジャック(著・手塚治虫)』という世界的に見ても著名な医療フィクションの古典作品があり、その最高額は150億円と聞く。もし同レベルなら私の実家でも、多分手が届かない額ね。レート換算の結果までは知らないけれど…)」
もっとも私は両親や親族の資産状況を詳しく知っているわけでは無い。
『知る必要のないこと』だから。
ただ、どうかな?何とも言えない。パパとママは法規に引っかからない範囲で財テクに成功している風だった。インサイダー等の悪事に手を染めたわけでは無い。話は単純で、余程の馬鹿が運用するのでない限り、富は富を生み、有利な情報は有利な情報を(合法に限ったとしても)生んで、それらは特定の階層・階級、集団に集まるものなのだ。
アグネス「(きっと戦間期の『仕込み』も上手くいったはずよ。私には平和が続くような見込みを言いながら、パパも強かな…。ここまで大ごとになるとは思っていなかっただろうけれど、一波乱あるとは絶対に踏んでいたわね)」
私が知る由もない予兆や伏線のようなものもあったのか。いずれにせよ、そのお陰もあって、我が家は現在進行形でブクブク戦争太りしている模様―閑話休題。 - 105二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 01:51:58
アグネス「(無論―身分の上下貴賤に寄って命の重みが変わるのは本来のあるべき形ではない。あるべき形ではないが、皆が王族、国家元首ではない。自ずと『天井』は存在する)」
ところが今回の私の治療に『天井』は設定されていなかったらしい。
かつての約束通り、国防委員会は万難を排した支援を行って下さり、搬送先の首都中央病院も素晴らしい病院だった。その上、運よくエルスマン博士も自院の医療スタッフ、医療物資ごとご到着された。
―元々、シンとハイネ先輩と私はフェブラリウス市の病院で短期集中治療を受ける予定ではあった―
それを差し引いたとしても―これだけの厚遇、他の戦友たちの治療保証の内容や、彼らの後遺障碍を思うと罪悪感に近い感情を覚えずにはいられない。私に後ろ暗いところが無いからこそ―
アグネス「(この好待遇は私のこれまでの働きと能力に応じて頂いたものであり、そして今後の活躍に対する期待の表れでもある。それなら―やはりもう一働きするべきだろう!自分の手柄の為にも、己が罪悪感で潰れぬためにも)」
アグネス「エルスマン博士、本当にありがとうございます。それで今後の治療、リハビリの予定はどのようになりますか?」
博士は短兵急に尋ねる私を彼は強い視線で押し返し、諫める。
タッド・エルスマン「あまり気を張りすぎると後に響く。焦る気持ちは抑えなさい」
そう前置きした上で手短に今後の進め方をご説明下さる。
タッド・エルスマン「まず消化器官の経過は良好だ。ただし後、2日は半流動食で様子を見るように。首は日常生活の範囲で動かしながら過ごすと良い。それがリハビリになる。
左肩は未だ不必要に刺激しない方が良い。左腕は手首や指を積極的に動かすのが良いだろう。両脚に関しては、先ず足の指を動かすところから。立ち上がり、歩行する訓練はその先のことと思っていてくれ」
ふむふむ。両腕が何とかなればモビルスーツの操縦は出来るわね。戦場にまだ行くことは無いけれど、早めにシミュレーターに乗らないと勘を失ってしまう。
あと、強化訓練課程がどうなっているかも気になるわ。私の代わりが任命されたのか、一時休暇扱いなのか。
看護師「ギーベンラート様、ちゃんと先生の言う事は聞きましょう」 - 106二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 02:04:24
女性医師「軍医殿から『くれぐれもよろしく』と言付かっています。あまりに目に余るようなら拘束します」
セントバーナード犬「クンクンクンクンはぁっはぁっ」
やはり私は顔に出易いらしい…。でもおかしい!そもそも、自分から周囲に迷惑を掛けたことは無いつもりよ!
アグネス「はい…。気を付けて過ごし、治療に専念します」
女性医師、看護師「よろしい」、セントバーナード犬「クンクン」
私の反応を見定めていたエルスマン博士も、それを見て少し安堵したように肯く。
タッド・エルスマン「よろしい。落ち着いて時を過ごしなさい。アスラン君とキャンベル嬢、ホーク姉妹が待合で待っている。今を以て面会謝絶を解除しよう。自由に過ごしなさい。それと―出来ればレイにも会ってやって欲しい。この病院に一時入院している」
アグネス「えっ!メイ…アスラン先輩達、来ていたんですか?!あとレイも?」
驚きだわ。いや、職場の先輩と同僚とルームメイトだから、そんなに変なことじゃないか。レイはミネルバから降ろされてそのまま担ぎ込まれたのね。ミーアも面会に―変な気を使っているのかな。彼女の場合、距離感が分からない―
看護師「今日はご遠慮しますか?」
私の戸惑いを感知した看護師が私に問う。しかし答えはNO。今の状況も聞いておきたいし、皆の顔が見たい。
アグネス「いえ。皆とお会いしたいです」
看護師「ではお呼びしましょう。先生、私達は…」
女性医師「ええ。それでは失礼します」、セントバーナード犬「…」ノビー
犬がノビーと体を伸ばすのは『遊ぼうよ』のサインね。セントバーナード君…。ちょっと寂しい。独り占めするわけには行かないから仕方ないけれど―。
アグネス「またね!」ポンポンポン!セントバーナード犬「ふっはぁふっはぁふっはぁふっはふっはぁっ!」
女性医師「ええ。また連れてきます」、タッド・エルスマン「また経過を見に来る」
アグネス「お世話になりました。そして今暫しお世話になります」
肋骨が心配で目礼すると皆それぞれのお返しくださる。うん、良し。次だ次ぎ!まだ一日は始まったばかりだぞ。 - 107二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 06:36:29
すぐ地獄が始まるのか
- 108二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 08:52:12
エルスマンパッパ「かつては傷跡が残り、後遺症が残るのも余儀なくされていた──だが、今は違う!医術の進歩により治療法が確立されたのだ!」(ギュッ)」
- 109二次元好きの匿名さん25/05/08(木) 17:24:30
「えっ!メイ…アスラン先輩達…」
素直にメイリンの名を呼んで、アスランを後回しにしてもええんやで… - 110二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 00:07:50
保守
- 111二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 03:34:35
待つこと暫し、病室のブザーが鳴り、少し緊張した男性の声が私の枕元に届く。
アスラン「アグネス…、おはよう。お見舞いに来た。ミーアも一緒だ」
ミーアと一緒?ではルナマリアとメイリンは待合で待ってもらっているのかな?確かに話して良い内容が、彼女とは大きく異なる。
アグネス「おはようございます、アスラン先輩、ミーアさん。どうぞお入りください」
アスラン「ああ、失礼します」、ミーア「失礼します…」
律儀な挨拶の後、音もなく病室のドアは開く。遠慮がちに入ってくるアスランは、護衛官時代からの黒い私服姿だ。あの格好、気に入っているのかな。
アスラン「敬礼はいい。楽にしてくれ」
アグネス「はい」
アスランに先手を打たれたので目礼を互いに交わし合う。身を小さくさせたミーア―ミーア・キャンベル嬢も入室する。今日の彼女の服装は何時のヒラヒラした衣装では無い。何故かザフトの緑服、下はズボンだ。その色合いにピンク色のミニショルダーバックだけがどこか浮いている。
まあ、あの格好で病院に来るわけには行かなかったのだろう。スカートを選ばなかったのは足を怪我している私に気兼ねしたのか。
アグネス「おはようございます。ミーアさん?」
ミーア「おはようございます。…先日は本当にありがとうございました!ご迷惑をお掛けしました!」
開口一番、ミーアは私にお礼と謝罪を伝えると深く頭を下げてくる。なるほど、今回の訪問の本命がこれだったのか。
アスラン「ミーア…」
ミーア「うっ…」
アスランの気遣うような、元気づけるような声。うん、じゃあお応えしよう。
アグネス「頭を上げてください。私は軍人の義務を果たし、貴女へのこれまでの恩義と友誼に報いたまでの事です」 - 112二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 03:50:29
何時までも彼女に萎縮されても困る。ルナマリアとメイリンも待たせている。早く一区切りを着けておきたい。
ミーア「お身体は…足は…。その…。私を庇って!私のせいで!!」
アスラン「ミーア!そんな…いや…」
まだ、ミーアが言い募るので右手を上げて、まあまあと宥めるジェスチャーをする。うーん、なんかなあ…。でも彼女に『追撃』を掛ける気にはなれないのよね。
アグネス「私は大丈夫です。足の手術も成功しました。他の怪我も。さっさとリハビリを開始し、任務に復帰するつもりです。ですから、どうかお気を病むことなく…」
ミーア「くぅっ…」
私の返事を聞いたミーアは、涙を堪えながら私に歩み寄る。そしてバックから一枚の写真を取りだし、こちらに見せてくる。
ミーア「う…、グスッ…あたし…」
それには黒髪に黒瞳、両頬にそばかすのある女性がアップで映っている。何とも野暮ったい、如何にも田舎娘と言った風貌だ。そばかすはシミと違って遺伝的要素が強い。気の毒に…。
ただ、顔の骨格的には不美人と言う程ではない。彼女の眼の光は優しく、意地悪さとは程遠い気質を外界に示している。
アグネス「(そばかすを化粧で誤魔化していないのは自然派主義なのか。そう言えば何時だったか、この人の髪の色を知りたいと思った。綺麗な黒色じゃない)」
しかしファッションセンスだけはどうにかならないの…。薄い朱色のTシャツ1枚、おばあちゃんか!このチョイスは若さの無駄使いよ! 写真の背景は青い夏空に白い雲、冴えわたる湖、そして緑の丘には風力発電機が4つ、爽やかな光景だけに残念感が半端ないわ。
これ整形前のミーア…。参ったわね。
彼女は己を曝け出して、さっきの謝罪と感謝が『本物』であることを示そうとしている。ここで今思ったことを馬鹿正直に言う訳にも行かない。人格を疑われるわ。
だから、嘘を言わない範囲で、目を赤くしている彼女に私の本心をお伝えしよう。
アグネス「明るい、優しいお顔ですね。これが整形前の貴女ですか?」
ミーア「はい…。もっと…ちゃんと…お会いしたかった。皆ともラクス様とも…」
アスラン「ミーア…」 - 113二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 04:05:12
『皆』か。ここで言うそれは彼女をラクスと信じた人々も含めての意味ね。
私達、ミネルバと月軌道艦隊の人間は早くから『今のラクスの正体』が『ミーア・キャンベル』と知ってはいた。でも、それは『お互いが【バレたこと】を知っている』だけの事、確かに健全な出会いとは言えなかった。増して他の人は、と。
ミーア「う…、グスッ…ヒック…」
アグネス「(さてどうしたものか?ただ、彼女の心理的な負担の半分は取り除ける。ラクスの事はさほど気に掛ける必要はない)」
彼女については半ば自業自得と私は今でも密かに思っている。
それに―あの女は目下の人間や社会的弱者には優しく寛容なタイプ、その典型だろう。『議長のラクス』はともかく、ミーア個人のこと等、一々歯牙に掛けるとも思えない。まして恨みを引きずることも無いだろう。
ラクスから見ればミーアは、各勢力の王侯貴族・超人・天才・エリート同士が各々の看板を背負い手勢を率いて鎬を削るリングに、突如放り込まれたカナリアのようなもの。身の程を弁えさえすれば『歌姫』殿下が相手にする程の存在ではない。
『まあ、困りましたわ。でも、暫く泳がせておきましょうか』きっとラクスの態度は、そんなものだったはず。
-我ながら嫌な喩えだと分かってはいるけれど―。でもそれはそれ、これはこれ。
アグネス「ミーアさん、お写真をお見せ下さりありがとうございます。この時のミーアさんも、その後を生きた今のミーアさんも、『どちらも疎かに為されるべきで無い』。一人の友人としてそう願います」
ミーア「え…。友達-」
うん?『友人』と言う表現は馴れ馴れし過ぎたかな。一応、私の側はそのつもりだったけれど、まあ、社会的慣用句だわ。『友人として言うが―』ってやつね。
アグネス「ラクス様の事は、あまりお気に病まれる事の無きよう。彼女も事情は察していらっしゃるでしょうし、ご本人のご気性からも、ミーアさん自身が、きちんと釈明すれば無下になさることは無いはずです。私が知る限り、ではありますが…」
そこでアスランに視線を投げる。さっきから気不味い顔をして真面に会話に参加して来ない。私より早くミーアに会ったのでしょう!?何か言え!
アスラン「ああ。彼女は君個人を恨んだり憎んだりするような人間じゃない。デュランダル議長には思う所が大いにあるとは思うが…」 - 114二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 04:17:41
アスランはそこで言葉を区切り、少し考えた後、続きを話す。
アスラン「今、彼女がどこにいるか俺は知らない。でも分かったら案内しよう。ラクスは君に会ってくれると思う。その時、君の方から」
ミーア「はい…。その時は必ず自分の言葉で…。ありがとうございます、アグネスさん、アスランさん」グスッ―
そう言ってミーアはハンカチで目元を拭き、やっと私の目を見てくれる。悪くない目だ。
アグネス「それでラクスを辞めた貴女は、ミーア・キャンベルはどの舞台でその歌をご披露されますか?もしお答えが定まっていないなら、その時教えて下さっても構いません」
『その時』とは言ったものの出来れば今話して欲しい。ここで彼女が変な勢力や組織に利用されても困る。良かれ悪しかれ彼女は『元のミーア』には戻れない。ラクス本人の足元にも及ばないとは言え、既に彼女は『世界』と言うチェス盤の駒の一つ程度には存在が大きくなっている。
それに私個人の願いとしてもミーアにはその才を開花させながら、己の人生を謳歌して欲しいと思う。
アスラン「ミーア、君はアグネスに伝えたいと…」
ミーア「はい。アグネスさん、私、ミーア・キャンベルは、ザフト軍中央軍楽隊に志願、入隊試験を合格しました!そしたら、もう研修が大変で…、じゃなくて、頑張っています!アイロン掛けの名人になりそう…。直立不動、敬礼の所作、行進…辛…くありません!」
そのルートに乗ったのか。まあまあ安牌じゃない。所属がしっかりしているのは良いことよ!
アグネス「ほう!良い進路を選択したわね」
中央軍楽隊は音楽学校を出てもなかなか入れるものではない。ちなみに国防委員長直轄。あの政変でも、特別儀仗隊と共に最高評議会ビルの招集に応じてくれた数少ない部隊の一つだ。あれ―ミーアとはもろに敵対していたことに成る…。大丈夫かな?
アグネス「貴女、もしや虐められたりしていませんよね?」
過保護かもしれない。でもどうしても心配になってしまうわ。しかし予想に反し、彼女の表情が途端に輝きだす。
ミーア「いえ!すごく親切にして下さっています。みんな褒めてくれて…。これまでだけじゃなくて、私の歌が政変決着の最後の鍵だったって…。多分、お世辞ですけれど―」
ミーアは私に遠慮してか、せっかくの功績を十分に誇ることが出来ずにいる。それはそれで気の毒なことだ。 - 115二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 04:33:04
アグネス「『貴女も私達の十字軍に加わって下さい。誰が、私と共に力強く立ち上がるのでしょうか?
バリケードの向こう側に貴女の見たい世界は在りますか?ならば一緒に戦いましょう、貴女が自由である権利を得る為に!』」
あの日と同じように、彼女に歌を送る。ミーアは立ち上がって、バリケードを越えたのだ。そのまま軍楽隊で歌声を活かすも良し、資格や職歴を得て再出発するも良し。
『ザフト軍中央音楽隊名誉除隊』なかなか箔が着くと言うものではないか!軍にいる間に資格も取ってしまおう。どんなのが良いかはパッとは出て来ないけれど…。
そんな私を見てアスランは少し戸惑っている。病室内だから当然ね。でも声は小さめにしている。そこはお目溢しして欲しい。
そうして私が歌い掛けると、ミーアはその意を察したのか表情を一変し、続きを歌い返してくれる。
ミーア「『持てる物は全て差し出して下さい。我等の軍旗を前に進める為に!斃れる方もいるでしょう。生き残る方もいるでしょう。貴女は立ち上がって機会を掴めますか?
殉教者の流す血潮が祖国を潤すのです!』あ…アグネスさんは斃れたり怪我しないで下さい!」
アスラン「…」
アスランはこの歌のフレーズに微妙な顔、お気に召さないか。実は私は此方も結構好きなのだ。
アグネス「分かっています。あの後、こっちの歌詞も歌ったのですか?」
あの後とは、私が手榴弾で倒れ、気を失った後、と言う事だ。
ミーア「はい。皆で。デモ隊だった人も最高評議会ビルから討って出てきた人も。議長官邸に向けて行進しながら。フランス語版や広東語版も。分からない人は鼻歌でメロディーを」
アグネス「素晴らしい。議長もさぞ肝を冷やしたことでしょう」
そう言ってミーアに笑い掛けると、彼女もはにかみながら笑い返してくれる。 - 116二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 10:06:30
拗らせてこれ以上の敵対心を持つことが無ければ良いですがラクスに対して
- 117二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 14:43:18
死亡フラグは回避かな…?
- 118二次元好きの匿名さん25/05/09(金) 22:05:29
保守
- 119二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 00:56:27
彼女に元気が戻って良かった。進路が決定したことを素直に祝福したい。軍楽隊の研修頑張って。
アグネス「(ミーアの場合、入隊までの経緯と経験、技能が特殊だから、一般の軍楽隊員ほどの軍事教育訓練は求められないかも知れない。ただ、そうは言っても『女の子』にはちょっとした試練のはず。懲りずに乗り切って欲しい)」
案外、座学が彼女にとって一番の関門に成るかも知れない。この人、申し訳ないけれど、あんまり『お勉強』が得意には見えない。成績不振で除隊処分に成ったらどうしよう…。
アグネス「(その時は軍の文民職員の技官枠を勧めよう…。除隊では無く転任扱いで。今の私なら何とか押し込めるはず。勿論、彼女は自力で困難を克服してくれるに違いない、とは思っておく)」
その後もちょっとした会話を3人で楽しむ。
アグネス「そう言えば…。あの赤いハロはどうしましたか?ヘリ落下時からお伴の任を怠っているようですが…」
主の危機に不忠者め!打ち首じゃ、首ないけれど。
アスラン「ハロにそんな機能は無いから…。赤いハロは鹵獲したジェットファンヘリの中に。こっちで回収して、内部の安全を確かめてからミーアに返した」
ミーア「本当に。アスラン…さん、ありがとう。ああ…えぇーっと、特務隊アスラン・ザラ先輩?」
会話の途中でミーアはちょっと戸惑い出す。そう言えば私達は軍人としては上官で先輩なのよね。アスランと彼女の間はそれでなくてもいろいろあったし。
アグネス「アスラン先輩、憚りながら。『友人』として彼女と会う際には、努めてこれまで通りに致しませんか?」
アスラン「ああ…。そうだな。時と場所を、気を付けてくれるなら」
ミーア「ありがとうございます!」
ちなみにミーアに返却された赤ハロは、彼女の入隊と共にザフト軍中央軍楽隊入り、今もミーアと一緒に兵営や女性寮を転がりまわっているそうだわ。一応、手続き的には軍に『徴用』された形となっているとのこと。
アグネス「(『民間船舶が軍に徴用され、船長もそのまま民間から軍籍に、『艦長』として業務継続』といった例も戦史にはある。『赤ハロとその所有者のミーア』も似たような扱いか)」 - 120二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 01:05:43
ミーア「あと、ディオキアのライブで使った式典用ザクウォーリアは儀仗隊モビルスーツ中隊に編入されたそうです。文字は『ラクス』から『ミーア』に書き換えて…。任務の一環として、また一緒に歌います」
アグネス「あのピンクの?!それは楽しみですね」
戦況的にザクウォーリアを遊ばせておくわけには行かない。せっかくの手の込んだパーソナルカラー、剥がすのはもったいない。国民の慰安と軍の広報の為、大いに活用して欲しい。
アスランはその辺どう思っているのか?視線を向けると、彼も肯き補足情報を加えてくれる。
アスラン「ああ。それと、彼女と一緒に活動していたバンドメンバーと芸能事務所職員のことだが…。各人の政変以前の動向を取り調べ、潔白が証明された者は基本、ザフト軍の宣撫官に採用される運びとなった。ミーアの取り成しや嘆願もあって、上でもいろいろと調整したようだ」
ふむ。素直に『帰順』に応じた者達には、寛容に有らねばならない。歴史の鉄則に沿った対応ね。増して彼らにはその道の高い能力がある。プラント社会では各人は己の役割・義務を全うしなければいけない。戦時下なら猶の事だ。
アグネス「正しいご判断だと思います」、ミーア「本当に…ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げるミーアにアスランは面喰っている。異性の部下や同僚との付き合いが苦手な人だとは思っていたが、それを再確認させられるとは!
その後、頃合いを見計らってミーアはお暇を告げてくる。 待たせているルナマリアとメイリンの為だろう。
ミーア「アスランさん、アグネスさん、今朝はありがとうございました。では本官は任務に復帰します。夕方の勲章授与式でお会いしましょう」
アグネス「ええ。ミーアさん、お互い一層の奮励努力を。ザフトの為に!それにしても―夕方の勲章授与式については初耳です。起きて直ぐなので…」
勲章-頂けるのは嬉しいけれど、今の私には―式典を乗り越えられそうではない。
アスラン「君は医師の指示の下でリモート参加だ。勲章は使節・使者が直接、病室に渡しに来る。フェブラリウス市の病院に居るシンとハイネも同じだ。だから、そこは安心するように、とグラディス提督から言付かって来た」 - 121二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 01:16:05
良かったわ。シンとハイネ先輩は無事に―無事ではないが―予定通りフェブラリウス市で短期集中治療を受けられているのね。一安心一安心と。
アグネス「(でも何時の勲章だろう?クレタ戦の物は頂いたけれど…。うーん、この政変?)」
まあ、式典への直接参加を免除してもらえるなら、何でも良い。
アグネス「ありがとうございます。この身体では車椅子でも正直、堪えられなかったかも。仮病を使う所でした。これまで使ったことはありませんが…」
アスラン「ふっ…」、ミーア「ふふふ…」
どうやら私のつまらない冗談が受けたようだわ。ミーアは一礼して、振り向きドアの前に退いて行く。その間、私はアスランにアイコンタクトをして、私の口元に顔を寄せてもらい、素早く耳打ちする。
アグネス「(アスラン先輩、彼女を送ってください。出来れば軍楽隊の兵営まで。まだ世情は物騒です)」
アスラン「(…分かった。彼女を送ったらすぐに戻る。先にルナマリアとメイリンからも話を聞いておいてくれ)」
アグネス「(分かりました。お願いします)」
ミーアの『研修』『入隊時訓練』が終わり、彼女が『非力な少女』をともあれ卒業すれば、もう少し安心できるようになる。今はその合間の期間で、それ故に危うい。
単独行動、駄目絶対!隊の仲間と合流すれば基本的に集団行動なのだ。ここまで来て馬鹿者共を間隙に衝かれてたまるものか!
ミーア「それでは失礼します」
アグネス「ええ。それではまた夕方に、アスラン先輩?」
今だ!と、彼にアイコンタクト、それに応じたアスランが切り出す。
アスラン「兵営まで送って行こう」
ミーア「えぇ…。良いんですか?でも―」
アスラン「良いから…。事情は途中で話す」
アスランはやはり女性相手だと、何時にも輪を掛けて不器用になる。うーむ、大丈夫か?
一方、ミーアは嬉しさ半分、戸惑い半分の表情を浮かべ、私に会釈をしながら病室を後にする。すっかり元気になってくれたようで本当に良かったわ。 - 122二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 07:12:47
潔白で良かった
- 123二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 16:03:11
やべえ保守!
- 124二次元好きの匿名さん25/05/10(土) 22:00:33
保守
最後まで付き合うぜ - 125二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 00:34:43
二人を見送ったタイミングで、ふと重要な案件を思い出す。
アグネス「(アスランにコンプライアンス研修の受講を勧め忘れてしまったわ…)」
まあ、ミーアの前で話すことでもないか。それではむしろ、私がハラスメントの加害者になってしまう。二人だけになれる機会があれば…。
アグネス「(うーん、でも中々云い辛いことよ。『先輩、先輩!コンプライアンス研修受けて下さいよ』とか後輩に言われたら、私だったら頭が沸騰してしまうかも)」
私の取り越し苦労かな?
今後、指揮官講習(他国の指揮幕僚課程・指揮幕僚大学等)への入学・受講を下命されれば、私達はそこで嫌でも叩き込まれる。グラディス提督はミネルバ艦長職を拝命なさる以前に指揮官講習をご卒業されていらっしゃるわ。
アグネス「(私達の場合は―。戦時だから、どのタイミング、どれくらいの期間になるかは分からないけれど。入学…あれ?)」
アスラン、そもそも入学できる?国籍問題はどうなった?同盟国の高級士官候補生なら将来的に留学もあり得るかもしれないけれど…。
アグネス「(オーブ本国は半自然休戦状態とはいえプラントの交戦国。おまけにアスランは変則的二重国籍者みたいなもので何方の国籍も実は怪しい。『一時的』に無国籍者に近い立場。彼は今回のプラントの政変で『立ち回り切ってしまった』。そのせいで蝙蝠状態が固定化してしまう?)」
いや、それも違う。そもそも彼は蝙蝠ではない。
オーブ連合首長国に亡命以後、アスランは自身が何と名乗っていようとも『カガリ・ユラ・アスハ代表首長の臣民』であることに変わりはない。
『臣民』この表現を、彼はアスハ代表の名誉の為に、嫌うと思う。でも私に他意はない。『首長国の民』ならそうだろう。かつてのグレートブリテン及び北部アイルランド連合王国の民が女王(王)の臣下であったのと同じことだ。
だから順序立てて言えば、彼個人としては、北極海に消えたアークエンジェルを追って、『主君』達に合流するのが筋ではある。筋ではあるが、ザフトとしてはそうは問屋が降ろさない。
アスランはプラントの機密に大いに触れてしまった。本人に責があったかどうかなど、この際、些事だ。この戦争が、ともあれ休戦ないし終戦するまで、彼を野放しには出来ない。 - 126二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 00:43:12
おまけに戦局の推移によっては―そうならない事を私は切に願うが―今後、戦火がオーブ本土に迫れば、アークエンジェルの亡命政府も故国を守るため、ザフトとの戦闘に参戦してくるかもしれない。
そして、そんな事態になれば『合流した場合』、彼が惰眠を貪っているはずがない。
アスラン・ザラは一人で師団に匹敵しかねない存在。私個人の感情を排せば、『これまでありがとうございました。行ってらっしゃい』とは行かないのだ。
アグネス「(アスランの名誉を思えば、いっそ子芝居の一つでも打って、彼を『オーブの戦闘員』として【正式な捕虜】にしてあげるのが優しさかもしれない。ジュネーブ条約等、国際戦争法を厳守した待遇なら…)」
ああ、それも駄目か。アスハ代表の特使として、アスランは外交官的身分も有している。外交官に近い立場の人間を捕虜にするといろいろ問題が生じる。議長が変なことをしなければこんなことには!
はぁ―不味い。アスランの事を考えたら頭がグルグルしてきそうだわ。
アグネス「(私は彼の母親ではない。彼自身にも考えてもらった上で対応を考えよう。一旦この問題は上げて置く)」
私がまだ回らない頭で取り合えずの結論を出した所、折よく病室のブザーが鳴る。
ルナマリア「アグネス…。その…おはよう。今朝はメイリンと来たわ。入って良い?」
メイリン「おはようございます。アグネスさん」
妙に塩らしい親友の声と、少し懐かしいルームメイトの朝の挨拶が扉を隔てて聞こえてくる。もう私は大丈夫!しょんぼりフェーズは終わっているわ。元気良く返事!
アグネス「おはよう、ルナマリア、メイリン!良いわ、入って。来てくれてありがとう」
ルナマリア「!?お邪魔します…」、メイリン「お邪魔します!」
音も無く開いた扉から、ルナマリアとメイリンは姉妹仲良く現れる。メイリンが手に持ったアタッシュケースの中身は何だろう?『お見舞い』にしては『固い』。
それよりも気になることがある。今日の二人は―。
アグネス「改めておはよう。二人とも今日はズボンなのね。似合っているわよ」
ルナマリア「っ…。う…うん」、メイリン「そうなんですよ。これはこれで楽でいいですね」 - 127二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 01:02:25
私が指摘すると、ルナマリアは少し言葉を濁し、メイリンは明るく自分の本心の『半分』を口にする。メイリン、もう半分の乙女心も大切にね。10代の内はお互い楽しまなくちゃ損よ。
アグネス「(なんてね…。姉妹がこの服装を選ばざるを得なかった要因は私が足に大怪我を負ったから。言える筈もない)」
西暦時代からしばしば見られた振舞い。友情や連帯感を示すための証。
白血病のクラスメイトの為、女子中学・女子高校生が髪を剃ったり。あるいは地域の難病の子供を励ますために地元警察隊の男女が同じく頭を剃ったり。そのような美談はC.E.になった今も末永く語り継がれている。
お涙頂戴とそれを小馬鹿にしていたであろう私が、他者から受け取ることになるとは―。人生は本当に分からない。
アグネス「気を使ってくれてありがとう。でも、もう明日からはいいから…」
ルナマリア「あんたが歩けるようになるまではこのままよ!もう決めたの」
ルナマリアは、少し大き目の涙声を発しながら、大股で私の枕元まで歩み寄る。
ルナマリア「もうっ…。死んだかと思ったじゃないの!私の目の前で…」
昂る感情を押し殺しながら、彼女は私の右手を握ってくれる。ひんやりとした触感がとても心地いい。
この人は『昔から湿度が高い感じが苦手』と聞いた気がする。メイリンからだったのか、再会した後、本人から聞いたのか。何処かでさりげなく―。
アグネス「(アカデミーの時は、彼女の繊細さに気付かず無遠慮な振舞いをして。それが彼女との友情なのだと勘違いしていた)」
そのルナマリアがどうした?どうもしないわね…。これも彼女の紛れもない一面なのだろう。自分からも彼女の手をそっと握り返してみる。
アグネス「ありがとう。私のグロ映像を見てPTSDに成ったりしていない?大丈夫?」
ルナマリア「ぐすっ…。今聞くこと?私は医学の学位無いから分かんないわよ!」
ルナマリアは私の問いかけを聞いて少し怒ったような口ぶりになり、右手をえいっと離す。喧嘩になったわけでは無い。気まずい空気を払いのける為の儀式とお互い分かっている。 - 128二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 01:40:19
メイリン「アグネスさん、左手握って良いですか?」
アグネス「ええ。左手首と指は動かした方がリハビリになるって」
メイリン「じゃあ握りますね。痛かったり気持ち悪かったりしたら言って下さい」
アグネス「OK」
ベッドの左に付けていたメイリンはこちらの返事を聞くと毛布の下に左手を入れてくる。
そこから彼女の手は少し躊躇いつつも進み、やがて私の左手を包んでくれる。
女史で左手同士の握手、悪くはないわね。
さて、触覚は良好、握って見る。指は動くか?
アグネス「少し強めに握って良い?」
メイリン「どうぞ」
アグネス「えい!」
ギュゥゥゥと彼女の手に力を込める。結構力が出る。メイリンが痛がる前に止めるわ。
メイリン「わぁ!強いですね」
アグネス「その場の方々とエルスマン博士達のおかげね。ありがとう、メイリン。怖くて左手を動かせずにいたの」
メイリン「いえいえ」
メイリンと握った手は丁寧にそっと離す。
アグネス「その様子だと…。ルナマリア、あんたの方の怪我は大丈夫そうね」
ルナマリア「ええ。シン達より一足早くアプリリウスに戻って来たわ。背中も腰も腕も元通りよ。早くて驚いたわ」
アグネス「当然よ!私の足もくっ付いたわ」
素晴らしい。見たか、これが人類を新たな高みへ導く、明白なる使命を負いし我がプラントの力よ! - 129二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 02:23:36
- 130二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 08:02:27
ほ
- 131二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 13:47:56
ラクス(スタンバってたのに、何故かミーアさんが議長ビルに突撃してますわ…)
- 132二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 17:36:20
ふと、気が付くとルナマリアは軽く引いている。今の私の発言とおそらく浮かべていたであろう得意満面の笑みを目の当たりにして。誤解を解かなくては…。
アグネス「ああ、ごめん。ご回復おめでとう、先ずこれが一番よね。まだお大事に。じゃあ、あんたはもう任務に戻ったの?」
ルナマリア「ええ…。ありがとう。復帰は明日からよ―。違ったわ…。夕方の勲章授与式に参加しないといけないから、公務への復帰は今日の午後からね」
ルナマリアにお祝を言うと同時に軽く話を逸らすと、彼女はげんなりした表情で返してくる。流石、国防委員会直属、戦術統合即応本部。傷病休暇はあって無きが如し。それとも時間休で取得させる気なのか?
メイリン「お姉ちゃん、私はずっとオンだよ」
ルナマリア「はぁー。分かっているわよ」
月軌道艦隊、ミネルバも…。もう考えるのは止めよう。人事、しっかりして―。
病室がどんよりムードに成り掛ける中、毒を食らわば皿まで、と言わんばかりにメイリンが別件を切り出す。
メイリン「それとですね。実はお見舞いに行く時、グラディス提督からお使いを頼まれてしまいまして…」
ルナマリア「本当は普通のお見舞いに来るつもりだったの!」
アグネス「そこは疑っていないわよ…」
ルナマリアが慌てて釈明する中、メイリンの方は病室机にアタッシュケースを乗せて開放する。中からは幾つかの小箱とファイル、それに―。
メイリン「国防委員会からアグネスさんに、新しい業務用デバイスが貸与されました。最新型で処理速度が上がり誤作動やエラーもより少なく、デバイス自体の軽量化と強靭化も図られています。グラディス特務隊長の命令で中の安全は私が確認しました。破損したデバイスから取り出せたデータは移行済みです」
彼女は説明しながら、私の新しい相棒を取り出し、良く見えるよう上げてくれる。なるほど、確かに最新版ね。どんなパフォーマンスを発揮してくれるのか、楽しみだわ。
アグネス「ありがとう。受領証にサインしないとね」
メイリン「はい。お姉ちゃん」、ルナマリア「うん」 - 133二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 18:04:10
ルナマリアはアタッシュケースからファイルを取り出し、中から書類を取り出し、署名欄を上に。ペンを私に差し出しながら―囁くように私にもう一つの爆弾を投げつける!
ルナマリア「それと極秘で取り急ぎ。悪い知らせよ。プラントとザフト軍にとって。政変による混乱下、コンクルーダーズ用ZGMF-X42Sデスティニーが複数機、おそらく4機前後紛失したと。その件についても後で何か話があるかも」
衝撃で仰け反りそう!信じられない。盗まれたのか、管理場所が分からなくなっただけなのか?いずれにしろ―。
アグネス「核動力機を複数機紛失!どういう事よ?!」
ルナマリア「私に言われても…。お陰で大騒ぎよ。極限られた人達の間で、ね」
当然よ。騒いでもらわないと困るわ!!勿論、極秘でね。流石は我がザフト軍、軍事物資の紛失・流失は変わらぬお家芸と見える。
思わずメイリンにも視線を振る。私の視線を受けたメイリンはもう一度、整理して応えてくれる。
メイリン「ZGMF-X42Sデスティニーのシリーズの内、2機。ハイネ先輩とシンが搭乗予定の機体は政変勃発時にはジブラルタル基地に。これは確保済み。同じくジブラルタル基地に在ったZGMF-X666Sレジェンドも押さえました。レイが乗って来たデスティニーはミネルバが鹵獲、此方で作戦に投入し後、保管中。ですので、紛失したのはこの4機以外のデスティニーと言う事に。おそらく3~6機程度と国防委員会は当たりを付けているそうです」
アグネス「当たり、ね…。うん、分かったわ。」
どうする?可能性として一番大きいのは単なるデータミスでどこかの軍保管庫の中にある、と言うもの。整備兵が付いている筈だから、そこから辿れないものか…。逆に最悪なケースは敵対勢力に盗まれ国外に持ち出された場合、いや―
アグネス「(盗まれたなら良い。全く良くはないが『戦時下ではよくあること』。最悪の中の最悪は内通者に寄って国外勢力に引き渡された場合。明白な内通とまでは行かずとも、意図的な怠業で見逃した軍関係者が居たとしたら…。あまり身内を疑いたくはないけれど…)」
私の顔色を察したルナマリアが釘を刺してくる。
ルナマリア「ともかくこの件は内密に。軽挙は慎むようグラディス隊長から言付かって来たわ」
アグネス「分かっているわよ。軽挙なんてしたことないけれど…。起きて早々、頭パンクしそうよ」 - 134二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 18:36:05
え、なに?
まさかどさくさに紛れての紛失という形でファウンデーションに渡ったの?デスティニー複数機が?
これ普通にヤバいんじゃ… - 135二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 18:38:22
ゆかり王国にブラックナイツカラーのデスティニーかぁ
マントで姿隠してるけどルドラはもう使ってて大っぴらに出せないもんなぁ
議長が正式な形式で譲渡しててイングリッドも何食わぬ顔でそちらから政変前に正式な手続きを経て受け取った物だからウチで大っぴらに使うには何の問題もありませんが? (ルージュを見ながら)とか言ってきそう - 136二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 18:47:36
全員が寝ぼけてない分身かな
- 137二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 19:10:37
???「パスコード…っと」
- 138二次元好きの匿名さん25/05/11(日) 21:56:14
あいつらがデスティニーに乗った事がある上で知らないよそんな武器! ってなるなら胸熱だな
- 139二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 01:53:58
ただ、ボヤいてばかりもいられない。
アグネス「他には?質問が漠然とし過ぎか…。デュランダル議長と最高評議会ビル側間の合意事項はどうなったの?彼は無条件降伏するような人間ではないはず」
受け取ったペンで業務用デバイスの受領者類にサインをして返しつつ、二人に質問する。この肝心な点をはっきりさせないと今日を先に進めない。
ルナマリア「待ってよ。もう、一度に言わないで。良し、サインはこれで…。あんたが言うように議長は無条件降伏したわけじゃないわ」
ルナマリアは私から署名済みの業務用デバイス貸与受領書類を受け取り、入れ替えるように別の書類を私に渡して示す。紙の概略資料ね。
ルナマリア「どうぞ。私は書類の最後のチェックを」
アグネス「お願い」
私の返事を聞くとメイリンは気を利かせてベッドの背中を起こしてくれる。よく見れば手元にリモコンは合ったのに…。まだ私はいろいろな所まで目が向いていない。
アグネス「ありがとう。角度調整は自分で出来るから…」
メイリン「アグネスさん、今でなくてもいいんですよ」
アグネス「えっ…」
紙の資料に落ちかけた視線を改めて左側のメイリンに向ける。するとクリクリした賢そうな大きな瞳と私の目がもろにバッティングしてドキリとする。
『ご無理をして大丈夫ですか?』
彼女は、私が心身の累積ダメージを解消しきっていない事を察したのだ。うぅ、涙が出そう。デスティニー紛失事件を知らなければ、私ももっとゆっくり―もう言うまい。
アグネス「ぼちぼちやっていくわ。でも、ありがとうね」
メイリン「いえいえ」
敢えてルナマリアは聞かなかった振りをしている。彼女と私はそれで良い。それぞれだ、為すべきこともまたそれぞれであるように。私は厄介な現実にも目を向けなければ。メイリンの好意を無下にはし辛いけれど、これは『今でなければ』ならない事だ。 - 140二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 02:01:12
アグネス「どれどれ―」
資料の内容は予想通り、ギルバート・デュランダル氏の最高評議会議長全権代行に対する最高評議会議長の全権能委譲後の処遇について。
アグネス「(全権能委譲を議長は吞んだ、先ずは良し。最高評議会議長全権代行はルイーズ・ライトナー最高評議会議員。全権代行選出は最高評議会議員の過半数を以て決した、と)」
そこまでは既に知っていたこと。追加情報としては、全権代行選出にリアルタイムで参加できなかったアダマン最高評議会議員とオーベルク最高評議会議員からも事後に賛同を得られたと言う点。
これで一応、デュランダル議長自身を除く11名(『指名は』拒絶したもののデュランダル議長もライトナ―評議員で良いと言っていたのだから実質12名)の総意が得られたと言う事になる。アダマン評議員とオーベルク評議員は狐につままれた気分だったかもしれないが、止む無し。
問題はこの後だ。この合意の最重要基本事項に目を通す。
『議長権限委譲後も、ギルバート・デュランダル氏は任期終了まで【自身が以後、能動的に国家の明白かつ現在の危険の主要因となるか、若しくは特別に留意された弾劾手続きを経ない限り】、最高評議会議長の職位に在り、閣下の号を合法的に称し得る。彼は議長官邸にそのまま居住し、議長警備隊による警護を受け、給料を全額保証される。
デュランダル議長はその職権に由来した専用の自動車・宇宙船舶・地上船舶・飛行機・シャトルがなおも利用可能であり、最高評議会に対する事前申告と評議会が指定した職員の同伴があれば国外訪問も許可される』
おぉ、少し文言が変わっている?!激甘感が後退したわ。ミーア達が最後に『攻勢』を掛けてくれたからかな。
アグネス「(【自身が以後、能動的に国家の明白かつ現在の危険の主要因となるか、若しくは特別に留意された弾劾手続きを経ない限り】。悪くないわね、この文言)」
要は『二度目は容赦しない』、『弾劾も視野とした調査・操作は粛々と進めますよ』と言う事なのだ。
デュランダル議長を『殉教者、受難者』とせず、飼い殺しにして、もし尻尾を掴めれば監獄送りにする。仮に尻尾を掴めなくても任期終了と共に彼とはおさらば、と。難題だったけれど、皆の粘り勝ちね。
アグネス「(先ずは一勝と言うべきか、気を抜くべきではない)」 - 141二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 02:10:11
さらに文字を追う。議長がごね、最高評議会ビルのメンバーが『これ以上の譲歩はない』とした追加要求はどうなったのか。私も譲歩は駄目と強く進言したけれど、決定権があるでもないし。
アグネス「(個別合意事項…)」
一つ、ギルバート・デュランダル最高評議会議長は以後もその任にある限り、議長官邸内のオフィスに専属職員を採用・配属することが出来る。ただし【人数は60名まで】とし、現在、公職にある者、及び公共性の高い職種にある者の採用と出向は許可しない。退職後を条件とした採用も不可とする。
アグネス「(最終案では【20名】とした。それが【60名】に、早速、譲歩か…)」
ただ、先の部分を呑ませたのならこれくらい…とも思う。議長に蜥蜴の尻尾を補充されてしまう恐れもあるが、そうした人材は表からは補充しないだろう。
アグネス「(この譲歩は一応、議長の側にも花を持たせた程度の物-と今は理解しておく。次だわ!)」
二つ、ギルバート・デュランダル最高評議会議長は以後もその任にある限り、また任期終了後も国民の権利として、国家・国民の安全と公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
【ただし目下の状況を勘案して、国内(プラント本国並びに地球上の実効支配領域も含む)の特定の指定エリアは当然に移動の自由の対象から除外されるものとする。1泊以上の外出は事前に最高評議会に行先と目的を申告すること】
また、ギルバート・デュランダル最高評議会議長は以後もその任にある限り、また任期終了後も国民の権利として集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由を保障され、検閲は禁止され、通信の秘密は不可侵である。
【ただし、『プラント統治機構に対する今回の徹底調査において、議長はその最たる対象者であり、また自ら目下の事変を招いた責任がある以上、国家と国民全体の安全の為、必要最低限かつ最短期間の制約はこれを受忍するべきである』。この見解と認識を公的に共有し、同意すること】
アグネス「(これも当然。彼の行動に自由に最低限の枷も嵌められないなら今回の『戦い』の意味はない)」
三つ、ギルバート・デュランダル最高評議会議長の国家機密情報へのアクセス権は無期限停止とする。職位を全うする為、特に必要ならば最高評議会に要請すること。ただし―」 - 142二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 02:20:15
アグネス「(ただし?)」
大丈夫か?続きを読み進める。
『ただし―同氏は一国民として、なお『知る権利(情報開示請求権)』を有することには留意する。同権利の行使は他の国民と同一の手順を経る限り妨げない』
アグネス「(なるほど、ここは少し表現を変えている。甘甘だけれど、逮捕状が出ている訳でもないから仕方ない、と。まあ良し!)」
まあ、ここまでは大体、想定通り。その先、4つ目が肝だわ。
四つ、免責特権、不逮捕特権について。
『ギルバート・デュランダル最高評議会議長は当事変発生日の前日までに最高評議会内で行った演説・討論・表決について、最高評議会外で責任を問われない。
また、最高評議会議員の一人として任期終了まで、現行犯罪または内乱罪、外患誘致罪を除き、逮捕・拘留されない。
ただし、広義・狭義の戦争犯罪と、一見して明らかでかつ重大な憲法違反、国家・国民の利益に回復不可能なほどの、明白かつ現在の危険を生じさせ、あるいは過去に生じさせた行為でその脅威が現に継続中のものはこれの例外とする。
また、同氏が最高評議会議長在任中に公務として為した行動は免責される。ただし、広義・狭義の戦争犯罪と、一見して明らかでかつ重大な憲法違反、国家・国民の利益に回復不可能なほどの、明白かつ現在の危険を生じさせ、あるいは過去に生じさせた行為でその脅威が現に継続中のものこれの例外とする。
なお、この同意は憲法並びに人類普遍の道義と決して相矛盾するものではないが、『法の不遡及に反する』という法的詭弁を排する為の特別法を事変後、速やかに開かれる最高評議会と60人議会にて可決制定することとする』
さらにその下に視線を遣る。
【付記、両議会で特別法は可決済み】
良し!よしよしよしよし!!!ルナマリア、メイリン、私達頑張ったわ!
アグネス「やったわね。二人とも。個別合意の4番目。あの男が有罪判決を喰らう所が早く見たいわ。どうせ政変を長引かせた時間で証拠隠滅を図っているはずだけれど―」 - 143二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 02:35:57
ルナマリア「ええ。まあ…」、メイリン「上手く証拠が残っていれば―ですね」
歓喜極まる私とは対照的に戦友姉妹はヤレヤレと言った仕草で控えめに同意する。二人の冷めた反応を見るのは少し予想外だった。どうやら二人はあんまり裁判には期待していないみたい。
私と―ギーベンラート家とホーク家では『法』に対する価値観と言うか認識が異なるのだと嫌でも認識してしまう。法律を武器として或いは鎧として、最大限活用することを是として産まれ育ってきた人間と、むしろその濫用や恣意的な運用に振り回されてきた者達の差-なのだとしたら何か心苦しく悲しい。
まあ、私も実際の所、この法廷が開かれるかどうか、開かれたとして『勝てるか』は良くて4:6の見込みだとは思っている。勝つが4ね。
ただ、『責任を問える』こと自体が議長の手足を縛る武器になる。これで議長には枷を嵌められたと思う。彼個人はどうであれ、彼に付いて行こうとする人たちへの強力な牽制になるはず。
アグネス「(『法律なくして刑罰なし』が文明国の原則だから)」
我が国の最高評議会は雰囲気に流されることに定評が(私の中で)ある。
特に法的な根拠も無いのに『我々の責任が裁判で問われる』とパニックになったり、それを知ってか知らずか『全責任は私が取ります。私の命に代えて…』とか大言壮語して、その場を押し切ったりする大馬鹿者が出たりする。
アグネス「(いや…。流石に大馬鹿者は言い過ぎか。一応、今回、『彼女』は戦友…なのかな。エザリアおば様にご判断を仰がないと私では…。ともあれ!)」
政治家である彼女(彼)が、もし『全て自身が背負い、法廷で裁かれることを厭わぬ覚悟』を示し、仮にそれが本人の真心からの言葉だったとしても―辞職すればチャラが原則なのだ。まったく本人達も周囲も心配するポイントがずれている。
違法行為を犯していない限り、政治家が受ける審判とは次の選挙と後世の歴史の評価だ。残念ながら良くも悪くもね。
『彼女』がもし法的責任を問われる可能性があるとすれば、ヤキン・ドゥーエのどさくさで起こしたクーデターの合法性、その場で逮捕した議員と評議会に残した議員間の利益の法的均衡性、国民への事前説明なく行った一方的停戦宣言有効性-くらいか。
あの当時はともかく、今になってこの罪状で裁判をしたら国が吹っ飛ぶ。対立派閥の筈の私でさえ、ドン引きだ。 - 144二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 02:51:42
閑話休題-
何にせよ、残り最後の一項目に目を通す。
五つ、ギルバート・デュランダル最高評議会議長は事変後速やかに開始される調査・捜査の結論が出るまで何らの政治的役割を果たしえないし、影響力を行使してはならない。空席は彼が選出された市から補欠で最高評議会議員代行を選出し、調査期間中ないし任期終了までのその任を果たすものとする。
ふむふむ。これで―終わり?え?
六つ、ギルバート・デュランダル最高評議会議長が当事変発生日の前日までに任命した文官・武官、国家と地方の公務員、並びに栄典・称号等を授与された者はそれがために如何なる不利益処分も受けることは無い。彼・彼女らの雇用期間・任期、年金受給権、並びに人事権に政治的報復感情を持ち込むことは違法であり、そのように類推される振舞いは厳に慎まなくてはならない。
以上の合意を以て、各政変当事者は速やかに事態を収束させるべく誠実な努力を成すものとする。
アグネス「項目が増えた…。これは議長から?」
メイリンに視線を遣りながら問いかける。一見、もっともな内容ではあるが―その実、議長の影響力温存策のようにも取れる。
メイリン「はい…。どうやら、デュランダル議長から『これを断れば、【断った事】を公表する』と圧を掛けられたそうです。そうなれば―」
なるほど、もしそうなれば。
アグネス「今の文武の公職者は形式的にしろ実質的にしろ、その任命責任のピラミッドの頂点はデュランダル議長。彼が『政治的報復感情を持ち込むことは違法にしよう』と言っているのを私達が蹴り飛ばし、かつ、それが公表されてしまえば…。それ即ち此方が『政治的報復をする』と宣言したと全公職者・栄典授受者に受け取られる」
しかも今回の政変の主要プレイヤーは皆、デュランダル政権内で『いい思い』をして来た人間達なのだ。
端から見れば、この政変はデュランダル派の内紛と目されているかもしれない。そう考えれば、中立的な人間は『巻き込まれるのは嫌だ』と今頃、身構えている。あんなまりそっちには考えが及んでいなかったわ…。
それに少し時間が立てば、今回の政変の味方同士が疑心暗鬼に陥ってしまう十分あり得ることなのだ。歴史の先例を鑑みれば。だからこの同意事項は事実上の身分保障、その実、私達にも都合が良い。
だから呑まざるを得なかった、と。 - 145二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 03:23:10
状況は異なるが―。まったく事情も状況も異なるが!
ザラ派がクライン派政権下で何のかんのと命脈を保っていることを私は当事者として知っている。
アグネス「(身内の敵とはこうも厄介なものなのか…。しかも相手も言って同胞、無暗に傷つけるのも違う。こうも面倒なものとは―)」
所謂、政権争いが好きな人達はそう考えると変人みたいなものなのか。私のパパとママは変人-まあ、常人では無いわね。
アグネス「(でも、戦地で分かりやすい敵を打倒している時とは、また違ったねばねばした厭らしさがある。こんな騒動、正直、私はもう関わりたくない―)」
私は何処か『政権争い』を『点取りゲーム』のように考えていた節がある。国内外で勲功を上げて国民-それと自身の所属組織、私ならザフト軍-にアピールして『支持』を集めるのがルール。
勲功ポイントを集め、善行ゲージを満たし、失点は極力抑える。そうして上を目指すものなのだと、無邪気に思っていた。今回の政変も概ね、その意識の延長線上で動いていた。勿論、その認識も全くの間違いとまでは思わない。
けれど…、今思えば何処まで言っても小娘の浅知恵と言うべき部分も多かった。この合意もあれやこれやと文句を付けて来たけれど、多分、私が青や紫の衣をまとって円卓を囲んでいたとしても、多分、シュライバー国防委員長程の働きもできないだろう。
そもそも歳もキャリアも違う層の皆様、単純比較すること自体、烏滸がましいことかも知れない。
アグネス「それでも何とかして欲しかったんだけれど、デュランダル派をパージできないじゃない。誰がそうなのかは知らないけれど…。ああ、これが疑心暗鬼、危ない!」
私の醜態を前にルナマリアは呆れた風に言葉を掛ける。
ルナマリア「速攻で自己完結しているじゃない…。あーあ、何か議長にしてやられちゃったのかな」
アグネス「この一点だけ見ても仕方ない。勝負は総合点、圧倒的勝利だと私は思うけれど、どう?」
そう言って二人に目を配ったと、眼をギューッと瞑ってもう一度開く。見上げた天井はもう知っている天井だ。
ルナマリア「まあ、多分…」、メイリン「そうですよ」
アグネス「OK。はぁー。宿題の目録を一気読みした気分よ」
あくまで目録だ。あーあ、もうたくさん。 - 146二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 09:37:01
一気に見たせいで疲労が
- 147二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 16:13:03
既に次の手を打ち終わっているのかねぇ議長。
- 148二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 16:19:07
そろそろ内側から改革をやるのもこれが限界かな
- 149二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 18:57:54
ここまでやって議長が好き放題やらかしたらアグネスとしてもターミナルみたいな組織要るわ…ってスタンスを変えざるを得なくなりそう
- 150二次元好きの匿名さん25/05/12(月) 23:34:21
保守
- 151二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 04:08:21
ルナマリア「それはそうと。あんた、大丈夫?顔色が…」
アグネス「え…」
ルナマリアが私の顔を心配そうに覗き込んで来る。言われてみれば、何だか、頭がくらくらするかも…。情報収集に熱を入れ過ぎて、自分の身体の管理に失敗した?
メイリンも私の疲労を察して、ちょこんと頭を下げるように謝ってくる。
メイリン「昏睡状態から目覚めたばかりで…。ごめんなさい。気が回らなくて」
二人とも、止めてよ。逆に私が謝りたくなるじゃない!
アグネス「私から聞いたことよ。勝手に飛ばし過ぎたの。でも、そろそろ切り上げ時かな。メイリン、驚くようなことはこれで最後?」
切り上げ時と口にしながら、まだ質問するのは如何なものかと我ながら思うが、時代の奔流は止まってはくれない。だから、もう少し、もう少しだけ頑張る。
メイリン「ええ…と。驚くようなことかはわかりませんが…。デュランダル議長の『評議員としての空席』を埋める為の選挙が投開票され、ワルター・ド・ラメント氏が『最高評議会議員全権代行』として選出されました」
ワルター・ド・ラメント氏か。市民の目も存外、侮れない。
アグネス「ラメント氏と言えば、その優れた知性と温厚篤実な人柄で名の通った名士ね。政治的指向は中立派。なるほど、彼が評議員代行に選ばれた…。未だしも幸運と言うべきかな?」
私の言葉にメイリンとルナマリアは肯く。でもルナマリアから少し眉を顰めるような情報も伝えられる。
ルナマリア「諸外国から、『プラントは戦時に国家元首も代行、12人の最高評議会議員の内1人も代行。次は代行の代行か?』って軽く馬鹿にされているみたい。一部の声だけれど…」
アグネス「まあ、それは…仕方ないと言うか―。でも心外ね」
何を、歴史上良くあることではないか。心当たりのある国も多いはずよ。馬鹿にするのは、代行の代行の代行の更に次が出てからにして欲しいものだわ。 - 152二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 04:15:39
アグネス「まあ、ラメント評議員代行は順当に行けば、いずれ評議員に選ばれただあろうお人。少し早く表舞台にお立になられただけよ」
ルナマリア「それは同感」、メイリン「そうですね」
ただ戦時の指導者の一人としての適性は未知数な所がある。デュランダル議長の抑えの役割の方を期待するべきか。
メイリン「それとラメント氏にも間接的に関わることかも知れませんが―。月軌道艦隊に編入された鹵獲艦ガーティ・ルーの艦長にアレクセイ・コノエ氏が正式に任命されました。艦の修理も修了し、新しいクルーも配属。グラディス提督のご命令で完熟訓練の為、アーモリー・ワンを出港したとのこと」
アグネス「前に出た話が進んでいたのね。ラメント氏のご友人で艦の生存戦法に長けた方、良い人選だと思うわ」
ただ、どちらかと言えば撤退戦で名を上げた人物。どちらかと言えば攻勢主義者の私とは肌が合わないかも知れない。
アグネス「(食わず嫌いも良くないか…。同じ艦隊の戦友として力を合わせないと、努力!)」
艦が違うとはいえ、私は戦況次第では特務隊として彼に指示・要請を出し得る立場だ。グラディス提督がいらっしゃるから余程、特別な状況でないと起こりえない事ではあるけれど…。
アグネス「(折を見て交流を深めないと…。白服指揮官と赤服FAITHだと距離感が掴み辛いから注意を―)」
私が考えを巡らす間にメイリンはアタッシュケースから小箱を4つ丁寧に取り出し、机に並べている。あれは勲章が入ったケースか?でもどうして―。
ルナマリアはメイリンが机に小箱を並べ終わるのを確認し、一つ肯くと姿勢を正し私に正対する。傍らのメイリンもビシッと気を付け。
彼女達のその態度を目にして私もベッドの中で出来得る限り姿勢を正す。
それから、ルナマリアとメイリンが私に敬礼、私も二人に返礼する。
ルナマリア「お疲れでしょうが、特務隊アグネス・ギーベンラート女史。プラント国防委員会の命を受け、特務隊ルナマリア・ホークがお伝えします。
ザフト軍は貴女に、先の作戦で損壊した普段佩用の為のミニチュアメダル及び勲章レプリカをその献身を称えて公費で修繕し、お返しすると。
どうか今はご自身の治療に専念し、鋭気を養い、心身の健康をご回復された後は、また大いにご活躍を為されますように、ご祈念申し上げます」 - 153二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 04:23:52
ルナマリアが口上を述べると、メイリンが一つ一つの勲章レプリカを私の枕元まで運び見せてくれる。爆風と破片で傷ついたのだろうけれど、その痕跡は綺麗に修復され跡が残っていない。国がレプリカの為、お金まで出してくれるとは名誉なことだ。
アグネス「ありがとうございます。祖国プラントと国民、ザフトの為に。ご期待にお応えするべく最善を尽くします」
最後の一つを私が確認した後、彼女達は姿勢を正し敬礼してくれる。私も返礼。
なるほど、これを以て彼女達の『お見舞い付随任務』は完了ね。
そう思った所でルナマリアが新しい知らせを伝達する。口調はまだフォーマルより。
ルナマリア「昼頃、グラディス提督が名誉戦死傷章の授与の為、来院予定よ。それまで、もうちょっと休みなさい」
アグネス「早速、公務か…。『心身の健康を云々』はどうしたのよ…」
ルナマリア「負担にならないようにするって仰っていたわ。提督も会議の合間を縫って、だからそれまで、ね?」
普段の話し方に戻ったルナマリアに諫められてしまう。確かに、もう私の疲労は臨界点に近いだろう。
アグネス「うん…。ありがとう。少し休むわ」
ルナマリア「そうしなさい」、メイリン「アグネスさんのお着替えは看護師さんにお渡ししました。お見舞いは係りの方に」
アグネス「ありがとう。そう言えばルナマリア、あんたに快気祝いを…。ああ、アスランの低体温症からの復帰祝いも。頭から抜けていたわ…」
緊張感が抜けた瞬間、頭の回転が一気に鈍り出す。もう何を言っているのやら。ベッドの角度が戻っていくのはメイリンが調整してくれているのか。
メイリン「勲章レプリカはミネルバの自室で保管しておきましょうか?」
アグネス「お願い…、ああ、制服と略綬、フーラジェール(飾緒状の部隊勲章)がないと夕方の―」
ルナマリア「お昼に持ってくるわ」
ありがとう。はぁー、名誉戦死傷章も6回目。もう最後にしたい。自分の意志でどうにかなるものではないけれど―。
メイリン「おやすみなさい、アグネスさん」
アグネス「うん。おやすみ、メイリン。悪いけれど二度寝するわ」 - 154二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 09:53:15
流石に暫くは変な事件が起きなければいいな...
(デスティニー消失バグ()とファウンデーションで何かする気満々の議長から目を背けながら) - 155二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 18:31:26
- 156二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 20:00:50
後メサイア
- 157二次元好きの匿名さん25/05/13(火) 20:29:12
じゃあメサイヤ落としてもう一回仕切り直しかな
- 158二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 02:27:39
保守
- 159二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 04:10:02
「おやすみ」の挨拶が終わると同時に瞼が落ち、そこで意識が途切れる。二人を見送る余力もない。ただ漠然と『このまま目が覚めないのでは?』と言う思いが脳裏に走ったことだけは感じ取れた。
看護師「ギーベンラートさん、おやつの時間ですよー。起きて下さい。10時のおやつですよー」
アグネス「うぅ…。うぅ…、はぁ!」
完落ちしていた意識は、傍の誰かが発した思いもよらぬ単語で覚醒する。女性の声だ。しかし、おやつ?!
アグネス「おやつ…。え…ここは何処?私、アカデミー入学前に死に戻ったの?」
看護師「縁起でもない!エルスマン先生と主治医のご指導で、当分、ギーベンラートさんには10時と15時におやつを食べてもらいます」
確かに、ほのかに甘い香りがする。
アグネス「(こんなの一体、何時以来だろう―。最近、忙し過ぎて)」
重たい瞼を開けると親しみやすい顔の女性看護師の顔が視界に飛び込んでくる。
看護師「おはようございます。頑張りましたね。じゃあ今からおやつを食べましょう」
アグネス「はぁ。じゃなくて、はい!」
看護師「いいお返事ですね。ではベッド起こしますよ」
ゆるゆると丁寧に起こされるベッド、角度が定まるとお腹の位置に小テーブルが広げられる。
彼女はその上に瀟洒なお皿に乗せたチョコレートストロベリーケーキ―に見える何か―を置く。それとフォーク。
看護師「どうぞ!このケーキにはエネルギー、タンパク質、食物繊維、亜鉛、カルシウム、鉄分を含む33種類の栄養素が含まれています。特にエネルギーとタンパク質がいっぱいです」
私が寝ぼけ眼をしっかり開けたのを見計らい、看護師は言い添えてくれる。
アグネス「ああ、なるほど。食事療法も併用するのですね。それでは…早速、いただきます」 - 160二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 04:18:30
無論、最初に食べるのはイチゴだ。どんなものだろう?見た目だけの合成なのかな。
アグネス「美味しい。このイチゴに限っては本物の果物…ですよね?」
看護師「ふふふ。秘密です」
アグネス「気になりますが…。ともかく新鮮な味です」
単なる『栄養』を投与するのみならず、患者に『楽しみ』も与え、心と体の健康を同時に回復させる。良い狙いだわ。これが本物の果物では無く、そっくりな味と食感に仕上げた人工栄養補給食でも構わない。少し行儀が悪いけれど、大きく口を開けてケーキ本体もガツガツ口に入れる。
アグネス「(あれ?消化器官がビックリしてしまう?!)」
もう口に入れてしまった。吐き出すか?いや、口の中でとろける!
ものすごく甘いけれど、本当に美味しい。『美味しい』ばかり、入院中に語彙まで欠落してしまったのかな…。
私の健啖ぶりを満足そうに眺めていた女子看護師が、ここで一つ、説明を加えて下さる。
看護師「では、ご説明を。エルスマン博士からお聞きと思いますが、アグネスさんの体内では現在進行形で、万能細胞が―勿論、ご自身の元々の細胞も―必死に細胞分裂して、傷ついたお身体の修復に取り掛かっています。
そして傷口に何枚も何枚も貼られた電気絆創膏は雑菌、ウィルスの感染を防ぐとともに、損傷電流を流し、細胞に『もっと頑張れ、もっと頑張れ』と掛け声を上げている…。そこまでは?」
アグネス「博士からご説明頂きました。なるほど、今、私の身体はエネルギーを欲して、止まないのですね」
首肯して、彼女は答えてくれる。
看護師「はい。今朝までは輸血や特殊な点滴で、24時間補っていました。でもせっかく起きられたのですから。ご自身のお口で食べた方が、きっと楽しいでしょう?」
『楽しい』か。そう言えば、ここの所、楽しいと思えた事など無かった。戦って戦って、その繰り返し。
他ならぬ自分自身が『たとえ絶望的な戦況の渦中でさえ、塹壕内の兵士はクリスマスや誕生日を祝い合い、軍船は艱難辛苦の中、なお、赤道を越える際にはお祭りを開く』と口にしていたのに。
アニメや漫画、ドラマ、映画では『緊張感が台無し』、『脈絡がない』、『この状況でそんなことをする筈が無い』等と勝手に言われかねない、掛け替えのない私達の日常-。 - 161二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 04:34:56
それを大事にしながら、この動乱の時代を乗り越えて行こう。そう決めていたのに…。このざまとは!
思い出した…。それなら元気良くお答えしよう。
アグネス「はい!楽しいです」
看護師「でしょう?暫くお楽しみいただけます。傷が治ってからも食べ続けたら激太りしてしまいますけれど、『エネルギー満点』なので」
アグネス「ふふふ…、分かりました」
何処か悪戯っぽい看護師の言葉が何だか今は心強く思える。
ふと耳の奥にアスランの声が響く。
『俺は彼の言う通りの戦う人形になんかはなれない!いくら彼の言うことが正しく聞こえても!(君だってそうだろう!)』
今になって彼の言葉の真意が少し理解できたわ。少なくとも私は、何かが出来るからと言って、しなければならないからと言って。それのみを黙々とこなし、擦り減ったら捨てられる歯車になれる人間ではない。
アグネス「(私は聖人君子ではないから。『聖人君子・正義の人の友』ではありたいけれど。実の所、本当の私はもっと俗っぽい。生前の名誉も高価な墓石も見目好い夫も―。充実した人生も欲しい。この時代、全部が無理なら、せめて納得のいく死に場所も―欲しい)」
ただ、真意は理解できたとてあの説得はないわ。お互いが切羽詰まっている中、相手が肯けるはずもない。圧倒的に言葉が足りていなかったと思うわ。でも―、何とかなったのだから良し!!
さて、細やかな幸せを噛み締めた所で傍の彼女に問う。
アグネス「看護師さん―。テレビを点けても良いでしょうか?」
看護師「ええ、どうぞどうそ。ああ、でもあんまり…。戦争や政争のニュースを見ることはお勧めできません。治療優先で」
アグネス「はい。映りそうになったら切り替えます」
私の約束を耳にして、彼女は一つ肯くとリモコンのスイッチをオンにする。
ニュースキャスター「ルイーズ・ライトナー最高行議会議長全権代行は先ほど、プラント首都アプリリウスを訪問中のファウンデーション王国国務秘書官、勲章使節団長、イングリット・トラドール氏との会談を終えました。
会談後、ライトナー議長全権代表は、アウラ女帝の代理たるトラドール勲章使節団長より『勲一等ファウンデーション王国帝冠騎士団勲章勲』を贈られたとの発表が―」 - 162二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 04:49:29
ファウンデーション王国は勲章使節をわざわざアプリリウスまで派遣してきたのか。
ニュースキャスター「トラドール勲章使節団長はアウラ女帝の『ルイーズ・ライトナー最高評議会議員の最高評議会議長全権代行就任をお祝いすると共に、ファウンデーション王国独立と建国に際し、プラントが果たした偉大な役割と、ライトナー最高評議会議長全権代行が最高評議会議員の頃より一貫してプラント-ファウンデーション王国間友好に貢献して来られたことに最大限の深い感謝の意を表する。両国の同盟・友好関係がますます深化していくことをファウンデーション王国は確信する』との言葉を贈られたとのことです」
看護師「へぇー。ライトナー議長代行は親ファウンデーション派だったんですか?勲一等って凄いものなんですよね?」
ニュースを目にした看護師は、私に視線を戻すと興味深そうに質問して来る。答えは半分YES、半分NOだ。
アグネス「ライトナ―評議員は、デュランダル議長の親ファウンデーション王国政策に特段の異を唱えませんでした。それを以て友好に貢献、と言えばそうなりますが…。政治的・外交的修飾かと。あの勲章はどう考えても外交勲章。
国家・王侯は相互に―国家元首・皇族・王族・外交官・閣僚級の政治家、高級軍人や高級官僚-で勲章を授与し合う。これは慣例と言って過言ではありません。云わばプレゼント交換のようなものです。その一環かと」
そう解説すると彼女は少し意外な表情を浮かべる。
看護師「そうなんですか。私はてっきり勲章って、偉い人から下の者にあげる物と思っていました」
アグネス「概ね、その理解で良いかと。ただ、ある国の大統領が他の国の大統領に勲章を授与することもありますし、逆もまたしかり。ある国王が別の侯国の元首(侯爵)に勲章を贈り、侯爵がお礼に国王に勲章を、と言う事も普通にあることです」
看護師「偉い人は普通にしているだけでたくさん栄典が貰えて良いですね。『その分、普段から苦労している』と言われれば、そうなんでしょうけれど」
アグネス「ははは…」
これまた半分同意、半分は耳が痛い。私の両親は―パパやママは―何方と言えば『普通にしているだけで貰える』側の人間だから、ね。 - 163二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 04:59:21
アグネス「(ファウンデーション王国はコネクションのあったデュランダル議長の失脚を受け、プラントの支援の繋ぎとめに必死になっている―と理解するのが妥当か)」
よもや新議長(代行)に直接賄賂を渡して買収など出来る訳もない。それなら勲章でも称号でも何でも、ばら撒ける物はばら撒き、歓心を引こう。軍事援助・経済援助を中止して貰ったら困る、と。
アグネス「(その認識で間違ってはいないはず…。なのに―)」
どこかスッキリしない。胸の奥がざわつく。これは本能的な危機感か?
看護師「でも困るなぁ。プラントの懐事情も良くは無いのに…。贅沢品だけじゃなく、食品や医薬品の値段もどんどん上がっていて。皆、戦争中だから我慢しているんですよ!なのに政治家は他所の国ばっかりお金をばら撒いて!」
アグネス「それは、いや…」
テレビのニュースは流れ続けている。でも看護師さんがエキサイトし出し、それどころじゃなくなったわ。
看護師「昨日買い物をしたら、小麦の値段がまた上がっていたんですよ!政変が終わって少し下がったと思ったのに。もう!配給制が始まるとか、ちょっと噂になっているんですよ。自分の国の軍人さんに使う分なら我慢できます。けれど―」
アグネス「まあまあ…。同盟国や友好国も大切ですし、戦争中なら猶更。配給制導入までは―。まだ余裕があるか、と」
まったく、とんだ茶話会だ。テレビを点けた意味が無くなってしまった。
アグネス「(しかし、思えば私達は開戦後、内地の人としっかりお話しする機会が無かったわ。お国の為に戦っているはずなのに、気が付けば遠距離恋愛、擦れ違い寸前)」
軍隊は基本、閉鎖空間だ。アカデミー入学以来、私達は『世間知らず』になっている。その上、戦時、おまけに私は軍艦のパイロットだから二重三重に世間から隔離されている。
アグネス「(だからこれは良い機会、そう思うことにしよう)」
さはさりながら、この人もFAITH相手に随分と大胆ね。私達が『悪い意味での政治将校』の顔ををしてこなかった成果、そう思うことにしよう。 - 164二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 05:09:33
多分アグネスが抱いた危機感は的中するんだろうなぁ…
- 165二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 13:22:32
☆
- 166二次元好きの匿名さん25/05/14(水) 20:55:00
保守
- 167二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 01:12:00
その後も暫く、看護師さんとの会話は続いた。長引く戦争は銃後の国民生活にも暗い影を落としている。先の大戦の時より遥かにマシとは言え―。
個々の戦いに勝っても終局が見通せない戦火は、まるで出口のないトンネルのよう。だからと言ってロゴスやブルーコスモスとの『和平』などあり得ない。彼らはそもそも国家でも軍隊でもない。だからこそ、遣る方無い憤懣が徐々に高まっている。
彼女から聞く話は入院前に知っていた情報と概ね一致している。ただ、直接、聞くとやはり胸に迫るものがある。
看護師「何より悲しいのは…。ああ、私が、と言う意味です」
アグネス「分かっています。どのようなことが一番と」
彼女が入れてくれた温い紅茶を口に含みながら、先を促す。この温度は私の消化器の具合を考慮してのものらしい。
看護師「人々が『悲劇』に慣れてしまう事です。そして、特に子供たちへの影響が心配です。まだ先の大戦から2年!私達には『戦後』すら訪れていなかったのに…」
看護師、医療従事者として、命と向き合う職業に就いている彼女の本音はそこにあるのか。
アグネス「子供達への影響ですか?」
看護師「はい…。表から見えないからこそ。自分が直接殺されかけたと言う現実、家族や親族との永遠の別れ、繰り返し流れる戦場の映像に衝撃を受け、先の見えない未来に怯え…。愛国心と喪失感と―そして憎悪に心を揺さぶられ。この深刻な心の傷とそれがもたらす影響は、彼らが高齢者となっても消えることは無いでしょう」
それを聞いて、ふと思い出すことがある。確か『あの頃』、私達は―。
アグネス「軍に志願する子供たちは?」
気が付けば藪から棒に彼女に尋ねていた。
看護師「います。親や先生はせめて15歳になってから、成人してからと、懸命に引き留めています。先の大戦ほどには多くないのが僅かな救い…、ごめんなさい。軍人さんに言う事ではありませんよね」
こちらの顔色を窺うように彼女は謝罪の弁を口にする。私は彼女に、どんな表情を見せてしまったのだろう? - 168二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 01:24:30
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- 169二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 01:27:27
傷付いた人達を慮る彼女に、苛立ちを覚えた自分が心の中に確かに存在する。
アグネス「…前大戦時、私の1つ上の先輩達は勇んで軍に志願していらっしゃいました。私は『まだ成人年齢では無いから』、と両親に引き留められてしましたが…」
看護師「はい…」
先ほどの和やかな空気が一変して、陰鬱で冷たい空気が病室内に漂い始める。
アグネス「それでも―。私と同い年のニコル・アマルフィ先輩はC.E.70年2月21日、ザフトアカデミーの門を潜られました。『血のバレンタイン』から一週間後の事、彼は成人前どころか13歳。そして翌C.E.71年4月15日に散華、まだ15歳と1か月でした。彼と同じ境遇の方は少なからず―」
止せ、止めろ。何を怒っているんだ。そんなことを今更、彼女に言ってどうする?
第一、私はその頃、物事を深く考えたりしていなかったはずよ。『上物の男』を落とすのに必死だったわ。そんな神妙な人間では無かった。それなのに―何で?
まるで熱に浮かされたように舌は止まってくれない。
アグネス「私がパパとママの許しを得て、ようやくザフトアカデミーに入学したのは6月、オーブの陥落後のこと。
私だけでなく、同期のルナマリアにメイリン、レイ、そしてオーブの避難民であるシン達はこの時期に入学しました。彼を思いやることが出来なかったことを今になって悔いています。本人にはまだ言えていません。増してメイリンは、まだ14歳だったのに…」
思えば、シンに対する罪悪感を口に出せたのは今日が初めてかも知れない。
アグネス「(『あいつが悪い』『私は悪くない、だって!』、これまでずっとそればかりだった。あの日、『周囲に悪者にされている』とバツの悪い思いをした段階で、深層心理ではどちらが悪いか理解していたはずなのに―)」
私のそんな有様を看護師さんは黙って受け止め続けている。お仕事モードか、止めて欲しい。私は何ともない。
看護師「ご一緒に勲章を授与されている所をニュースで見ました。アグネスさんの大切な人達なのですね」
アグネス「はい…。それを認めるのが怖かったのかもしれません。特にシンとレイとはいろいろあって…」
幸運なことにレイはこの病院に入院している。エルスマン博士にも頼まれたことだし、今日中にあいつの部屋に殴り込みを掛てやる! - 170二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 01:33:41
アグネス「当時はザフトアカデミーの校内からもビルのビジョンから、ザラ前議長とラクス様の演説の応酬を見ることが出来ました。何とも、もどかしい。いえ、人格を疑われることを承知で言います。あの時はラクス・クラインの事を心底憎悪していました。祖国の裏切者、連合を利することばかりする逆族だと!」
看護師「口外したりしませんよ。同じことを思っていた人もたくさんいました。両者の間で揺れている人も―それが大多数だったでしょう」
アグネス「はい―」
ぶるぶる震えながらコップに手を伸ばすが…、もう空だ。それに気が付いた看護師さんはポットからお代わりをなみなみまで入れてくれる。
アグネス「私達は緑服のメイリンも含め、通常2年かかるアカデミーを飛び級により1年で卒業しました。流石に7か月でご卒業された先輩諸兄には敵いません。それでも必死でした。まあ、必死の中でも、いろいろ『お痛』はしたものですが…」
看護師「飛び級で?!普通の半分の期間でご卒業されたのですか?」
ちょっと驚かれてしまう。まあ、民間の人はザフトアカデミーの詳細は知らないか。
アグネス「はい。私は―私達は―これからが戦争の正念場、最悪、L5宙域で本土決戦もあり得る。そう心得ていましたので―」
でも間に合わなかった。祖国存亡をかけた第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦は、C.E.71年9月26~27日に勃発、卒業が間に合う訳もない。
そして戦闘終結間際のどさくさにカナーバらがクーデターを決行、一方的に休戦を申し込みやがったわ。
アグネス「その後もカーペンタリア方面では終戦まで戦闘いていましたが…。ご存知のように翌C.E.72年3月10日、ユニウス条約締結。戦争は正式に終わりました。私達が新しい制服に袖を通したのは3か月以上後の事、戦争終結後のアカデミー生活は緩やかなものでした。皮肉としか言えません」
こうして、私にとっての前大戦は何とも不完全燃焼のまま終わった。
状況は大きく異なるが、シンのご先祖の国に無理やり喩えるのなら―。
『予科練で訓練している間に戦争が終わった』みたいなもの。ザフトがカミカゼアタックを作戦に取り入れることは無かったけれど。
感情の昂りと慄きを抑えられなくない、一体どうした?怪我の後遺症か何かか?
痙攣したように震えながら、ともかく紅茶に口を着ける。何だ?これは。話が脱線し過ぎているぞ…。 - 171二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 02:14:08
そんな私の様子を看護師さんは静かに見つめ、じっとタイミングを見計らって話しかけてくれる。
看護師「アグネスさん…。本当に良く頑張りましたね。その時も今日も。貴女は最善を尽くして来られた、もっとご自分を許してあげてもいいんですよ」
アグネス「へぇ…」
思わず変な声が出てしまう。慰めるような、励ますような声に何と応えたものか。違う!私はそんな人間じゃない!
そもそも前大戦に関しては、彼女の方が私よりずっと大変だったはず。仕事柄、従軍看護師として前線に赴いたことさえあったかもしれない。
アグネス「最善など…。軽挙ばかり、今していないのも単に忙しくて暇がないからです。誤解しないで下さい」
看護師「分かりました。でも人間には『フィクションのキャラクター設定』みたいには済まない多面的な心が存在します。どうかそのことを忘れず、自分自身を敢えて傷つけるべきではありません」
その声に肯き、しゃくりあげる喉に時間をかけて紅茶を流し込む。負傷で心が弱っているのかな。
アグネス「(戦地帰りの軍人が内地の民間人に八つ当たり、みっともない。どうかしていたわ…)」
私のカップが空になったタイミングで、看護師さんは静かに、私の眼の奥を見通しながら言葉を紡ぐ。
看護師「アグネスさん、一つだけ。貴女が自分で思っていらっしゃる以上に貴女を大事に思っている人は多い。例えばご両親。お二人は前大戦期も今も『ただ今日こうして娘が生きている』事実そのものを、何にも代えがたいほど嬉しく喜ばしく思っていらっしゃるはず、どうかそのことを忘れずに」
世間一般の親ならそうだと思う。でもあの二人はどうだろう?
アグネス「本当にそう思っているなら嬉しい…でもどうかな。パパとママは…」
看護師「不安なら、会って聞いてみては?言葉にしないと伝えられない事もありますから。今のアグネスさんのように痛手を受けて立ち直ろうとする人には、何よりご家族のご理解とお力が必要です」
そうね。久しぶりに会ってみようかな。何とか時間を作って。
アグネス「はい」、看護師「うん、良い返事ですね。では失礼します。また来ます」
彼女は話を切り上げると、お皿やフォーク、カップ等を片付け、部屋を後にする。音もなく締まるドアの音を聞き、はたと察する。彼女は看護師資格以外にメンタルヘルス系の資格も持っているのかも。人間、侮れないわ。 - 172二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 09:27:36
保守
- 173二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 18:19:14
流石にアグネスのご両親もそこまで冷たい人間ではない、よね?
- 174二次元好きの匿名さん25/05/15(木) 21:46:20
落ち着け!
アグネスの親が本当に血も涙もない毒親なら、短期間に修羅場を潜ったというだけでは、こんなに立派な人間性を確立できるハズはない!
ちゃんと両親の愛情と教育が下地にあってこそだ!
…ですよね?
- 175二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 01:25:53
保守
- 176二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 04:35:38
看護師さんを見送った後、私の病室は静寂に包まれる。先程、点けたテレビは話の邪魔にならないよう、彼女がそっと消していた模様。
アグネス「(それにしても―困ったわね。足の負傷のせいでベッドから離れられないじゃない…)」
ナースコールを押して、貸出可能な電動車椅子が無いか聞いてみようかしら?
アグネス「(そんなことをすれば、身体拘束一直線ね…)」
思った端から答えが出てしまう。私は本来、おそらくこのC.E.においてさえ『大腿部から両足切断』を選択せざるを得ないほどの重症を負った。今、両足が付いているのは、本当に幾つもの幸運が重なった結果だ。
何より今朝、昏睡状態から目が覚めたばかり。足だけでなく、ボキボキに折れた肋骨もくっ付いていない。
アグネス「(博士が私に『レイと会ってくれ』と言ったのも、あくまで入院中と言う意味、ここで駄々をこねて『起きたい、動きたい』等言ったら周囲に迷惑が掛かるわ)」
じゃあ、そんな状態で式典や公務を入れるな、とは行かない。
そもそも栄典の授与対象者は私以外にも大勢いらっしゃるはず。それに叙勲は単なるご褒美では無い。国内外に向けた重要なアピールであり、れっきとした政治行為だ。無論、国家に貢献した者には相応しい栄典が授与されるべきなのは前提条件としてね。
アグネス「(ファウンデーション王国がライトナー議長代行に高位の外交勲章を贈っていたことも好例だわ。私一人が怪我をしていようが、プラントは構っている余裕などない。軍人を含む公職者にとって受勲を受ける事も云わば任務の一環…)」
だから、頑張る!そして、グラディス提督がお昼に名誉戦死傷章を持ってきて下さるまでの時間を無駄にするべきでもない。
アグネス「(ニュースの視聴は控えた方が良いわね。治療優先と釘を刺されたばかり-)」
それなら足の指を動かしてみるか?博士もお勧めくださっていたし。そうと決めたら善は急よ。
さて―その為には足指が動いたか確認しないといけない。故にリモコンでベッドの角度を上げる。もっと起こさないと…。
アグネス「つっ…!」 - 177二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 04:42:04
途端に目の奥に星が弾ける。脳幹に雷が直撃したかのよう。両足から神経を焼き切り、体内をズタズタに切り裂き脳天に達した―ような錯覚を覚える。
アグネス「はぁ…、う…」
痛いじゃない。衝撃、その後、熱いという感覚。今は真っ赤に熱した鉄の棒を両方の足先から太腿、更には背骨を抉って頭蓋骨の中に押し込まれているような感覚だ。
アグネス「(これは錯覚、錯覚、気にしては駄目だ。身体の角度が一定に達して、両足に負荷が掛った。それだけのことだわ)」
これまで、ルナマリアや看護師さんがベッドを起こす際、さりげなく、その実、慎重にも慎重を期してくれていたのが分かった。今更になって厚意に感謝する。
今の私は足の指を動かすどころでは無い。一定以上の角度の『壁』で身体を支えること自体が冒険なんだ。
アグネス「(泣き言を言っていても始まらない。じっと耐えるしかないなら、堪えれば良い。それだけだわ)」
元々、長座体前屈は得意なのだ。怖じては負け、リモコンを弄ってベッドの角度をもう少し直角に近づける。
アグネス「ハァァ…。うぅ…、ぐぅ!うぅ…」
黒雲から海面へ、無数の稲妻が降り注ぐがごとく、電撃が脳の奥に突き刺さる。
雷は最初、脳幹を強打するだけだった。しかし直ぐに小脳、後頭葉、側頭葉、頭頂葉、最後には前頭葉を焼き尽くし、頭蓋骨を満たして滞留する。雷が駆け抜けた後は灼熱の鉄棒がザクザク押し込まれる。
人類史の汚点、近世ヨーロッパの魔女狩りでは、疑いを掛けられた女性に無理やり真っ赤に燃えた鉄の靴を履かされた。感覚としてはそれに近い。外部から焼かれるのか内部からかの違いはあるが…。
アグネス「(ぁぁ…。落ち着け…。だめ…。しっかりしろ。その拷問は自白しなかった場合、金槌で足を叩き潰されるまでがセットだ。はぁ…、う…、う…。比べ物にならないわ!)」
でも既に身体は汗でベトベト。両眼からは知らない内に涙が滝のように流れている。まだ口はしっかり閉じられていて唾液は垂れ流しになっていないだけ、マシなのか。
視界は覚束無いほど、でもここまで来たのだ。絶対に足指を動かして見せる!熱さも痛みもともかく我慢して、身体に掛けられた毛布をそろりそろりと引いて行く。 - 178二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 04:53:17
アグネス「(なにこれ…。気持ち悪い―)」
これが20センチほど胸元に毛布を引き上げ、久しぶりに見た自分の足の正直な感想だ。
踝から先、足の甲そして指の血色はお世辞にも良いとは言えない。筋肉も落ちてまるで鶏の足の指のようだ。当然、一度千切れた右足の方が酷い。今のままでは本当に『付いているだけ』。
アグネス「(凍傷に掛った人が切断寸前の自分の足を見る気持ち、少しわかったわ)」
でも彼らと私との間には決定的な違いがある。私には希望がある。これから良くなっていくという希望、いや確信が。何せ国一番の医学の権威が太鼓判を押しているのだから。
アグネス「(とは言え、理解したわ、今、指を動かすことは無謀。不可能に近い)」
それでは爪先を小刻みに動かすことから始めてはどうか。まだマシそうな左足から―いや、逃げるな。両足とも行く!
アグネス「がぁぁぁっ…。う…ふぅっ、ふぅっ、うう…。おぇ…」
脊髄を焼いた電撃が脳をぐちゃぐちゃにして視神経をズタズタに、眼球から放電して外界に駆けて行った、ように感じた。それと同時に鳩尾と胃袋にも強烈な痛み―打撃を感じる。
もう涙と鼻水だけではない。嘔吐いて、口の中の物が噴出してしまったわ。胃からせり上がって来たものは何とか、喉で止めた。
そこまでしても肝心の足は、当然思った通りには動かない。
イメージとしては小刻みに震えさせようとしたのだ。左足の成功率は60%程度。
そして右足は―最悪!足先を動かそうとして何故か膝関節に力が逃げ、そちらも壊れているから、生じた違和感が全身の骨を軋ませやがった!
一瞬、気が遠く成り掛ける。でも!ここは我慢。3日坊主どころじゃない。30分と経っていないのだから。所詮、これで死ぬことは無いのだ。きっとやっている内に脳内麻薬が出てくるだろう!
アグネス「ぁぁぁ…。ぁ…、ぁ」
涙も鼻水も唾液も汗も、そのまま流しながら両足の足先を『揺する』。小刻みに動かす事はまだ難しい。それなら、このまま、これを続けて―。 - 179二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 05:01:43
アグネス「妥協してどうなる!これまでひたすら攻めて来て、今更、守りに入るな!」
声に出して自分を鼓舞する。そうだ。もう一回チャレンジ!小刻みに―そう小刻みに―動かす。交互にやってみよう。左足-。右足-。左足-。右…。
ルナマリア「アグネス、ルナマリアよ。戻ったわ。暫くしたらグラディス提督がこっちに…。だからドアを開けて」
看護師「アグネスさん、お気分が悪いのですか。部屋に入りますね」
アグネス「へぇっ?」
気が付けばインターホンからルナマリアと看護師さんの声、ブザーは―鳴っていたか?
ルナマリア「ちょっと!?あんた…。何やっているの!」
アグネス「何って。うーん、足の先を小刻みに…」
あれ?途中からの記憶が無いわ。脳内麻薬が遂に出たか。ベッドを、痛みを感じる角度に起こしたままなのに…痛くないわ。
看護師「無理しないで良いんですよ、リハビリは!起きたばっかりなのに!ちょっと身体拭きますね。ああ、お顔が先か。シーツと毛布も枕も代えないと」
飛び着くように近づいた看護師は有無を言わさず、ベッドの角度を下げる。
ルナマリア「手伝います!あんた、もう、こんことを!拘束されるわよ」
アグネス「うーーーーーん。それは人権侵害では…。せっかく脳内麻薬が出ているのに」
メイリン「これは酷い。私も手伝います」、アスラン「俺は…。外で待っていた方が良いのか…、いや!」
トロンとした目で声のした方を見ると、ルナマリアの隣にメイリンとアスランを発見する。3人は勲章授与の立会いに来たのね。
看護師「ご心配なく。付き添いの方はどうか待合に。追加の看護師を呼びますので」
看護師さんは動揺した3人声を掛け、やんわりと外に出す。 - 180二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 05:06:06
ルナマリア「分かりました。彼女をお願いします」
看護師「はい。お任せください」
そして彼女は病室の洗面所でタオルをお湯で濡らし、適度に絞って私の顔を拭き始める。
看護師「頑張りましたね。お顔を拭きますよ」
アグネス「…すみません」
看護師「いえ、大丈夫。アグネスさんのような軍人さんを私達は何人も診てきました。本当に皆さん勇敢で責任感がお強いんです。それで目が覚めると直ぐ―、頑張りすぎてしまうんですね」
彼女はそう応じながら、私の顔を何度かに分けて、優しく包むように拭いてくれる。どうやら、こうした事態に慣れっこらしい。タオルの次に持ってきたのは水-白い粉(おそらく塩)を入れていた―が並々に入ったコップだ。
看護師「ゆっくり飲んでください。少しでも気持ち悪くなったら、止めて下さい」
アグネス「はい」
お水を一口飲むたびに視界が鮮明になり、熱を帯びていた頭がクリアになる。コップの中身を飲み干す頃には『正気』が戻ってくる。
さっきまでの私は何をしていたのか―正常な判断ではない。脳内麻薬が出た云々じゃなく、最初から少しおかしかった。公務の予定が間断なく入ってくることに内心では焦っていたのか…。
だからと言って、私が周囲のお手間を取らせていい理由にはならない。
アグネス「重ね重ね、ご迷惑をお掛けしました」
看護師「いえいえ。アグネスさん、変に自分を責めずに。そう言うモチベーション、すごく大事ですよ。怪我するといろんなことを考えてしまいますよね。でも、もっとゆっくりでも良いです。私達を信じて下さい」
気が付けば、優し気な彼女の眼差しが私の双眼を捉えている。
アグネス「はい。信頼しています…疑ってなどいません」
看護師「そう言って下さって私はとても嬉しいです。きっとこの場に居ない医師や看護師も嬉しいって言うと思いますよ」
アグネス「はい」
ルナマリア達3人の退出と入れ違いに2人の看護師も到着する。
そこからは―差し詰めマジックに掛ったよう―15分と立たずに彼女らは、汗だくになった私の身体を清め、ベッドメイキングを済ませ、包帯やギブスを清潔な物に代えてしまう。 - 181二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 05:16:17
これがプロか。
アグネス「(ミネルバの医療班より凄いかも。軍の医療班と民間病院の医療スタッフは目指す所と得意分野が少し違うんだけれどね)」
ちょこんとベッドに横たわると、今度は強い倦怠感が全身を覆い掛ける。
看護師「アグネスさん、お水。もう一杯飲みましょう。塩分マシマシ、先生には内緒ですよ」
アグネス「ありがとうございます」
私がゴクゴク飲もうとすると、看護師達は『ゆっくりゆっくり』のジェスチャーをして見せる。『慌てて』私はペースをゆっくり目に変える。うーん、どうも上手くいかないものだ。
頃合いを見計らって看護師一人がルナマリア達3人を呼びに行き、入れ違いにこの病院における主治医の女性医師がツカツカと入室する。
医師「ギーベンラート様、いえ、アグネスさんとお呼びしてもよろしいですか?」
アグネス「はい…」
そう言えば、周りの看護師たちも気が付けば『アグネスさん』呼びになっていたわ。患者の年齢や傷の具合、メンタルの状態を考慮しながら距離感を調整してくれていたのね。
医師「焦らず、着実にやっていきましょう。ちょうど今、グラディス提督が来院なされました。しかし、貴女のご負担になるならお帰りいただきます」
アグネス「はいっ!?」
何と強気な!ヒポクラテスの愛弟子はこうでなくては、しかし―。
アグネス「大丈夫です。本当に。私は戦女神の胎内で過ごして久しいのです。攻め時と引き時は弁えています。さっきの事はそれはそれとして…」
私の抗弁を聞き流しながら、彼女は私の脈を取り、顔色を確認し、暫く考えた末、結論を出す。
医師「分かりました。確かに仰る通りですね。では私も立ち会います」
そう応え、彼女は怖い表情を和らげる。お小言は回避できた模様。そして…、お立合いありがとうございます。 - 182二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 11:39:13
☆
- 183二次元好きの匿名さん25/05/16(金) 18:57:03
保守
- 184二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 00:40:43
保守
- 185二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 03:28:08
医師の確認が済んだタイミングで、看護師と一緒にルナマリアとメイリン、アスランが戻ってくる。
まったく!私は何をやっているんだ。見っともない。昼、公務があると分かっていたのだから、まずそれを第一に念頭に置いて行動するべきだったのに!
アグネス「アスラン先輩、ルナマリア、メイリン。先程はお見苦しい所をお見せしました。公務に対する真摯さが足りなかったと強く自省しています」
本来、頭を下げるべき所。今は不可能なので目礼で意思を伝える。
アスラン「いや…。此方こそ焦らせて済まない。こんな日程は良くないと分かっていたんだ」ルナマリア「でもびっくりさせないでよ!」、メイリン「ゆっくり、ですよ」
私の返事を聞くと3人は安堵の表情と共に許しの言葉をかけてくれる。此方がともあれ体調を回復した事を喜んでくれているみたい。あと、アスランは変に気を使いすぎなくても良い。勝手に私が自爆しただけ。
アグネス「ありがとうございます。以後、気を付けます」
アスラン「ああ…」、ルナマリア「良いわ」、メイリン「良かったです」
しかし困ったわ。結構、ゆったりした個室とは言え、医師1名、看護師2名、ミネルバ組3名、計6名でちょっと人口密度が上昇してしまった。グラディス提督のお伴は何人だろう。
そんなことを考えている間に来客を示すブザーが鳴る。まあ、2、3人なら問題ないか…。
タリア「特務隊アグネス・ギーベンラート。おはよう。月軌道艦隊司令長官、特務隊長、タリア・グラディスよ。入っても良いかしら?」
インターホン画面から見えたグラディス提督のお伴は5名、多いわ…。顔触れはミネルバブリッジ火器管制官チェン・ジェン・イーさん、彼はアタッシュケースを下げている。それにミネルバの保安員1名。緑服ザフト兵3名は軍広報部の撮影班-カメラマンと記者、アシスタント。大きなビデオカメラを持っている。保安員は廊下で警護だから、何とかなるか
アグネス「おはようございます。特務隊アグネス・ギーベンラートです。わざわざのご足労、感謝いたします。どうぞお入りください」
タリア「では失礼するわ」
自動ドアが開き、提督は先頭に立って入室する。 - 186二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 03:42:33
アスラン「気を付け!敬礼」 ザッ!
ルナマリア、メイリン「はい!」 ザッ!
アスランの号令の下、中の者はグラディス提督に敬礼する。彼の掛け声の下と言うのはレアかも知れない。提督は室内に入るや姿勢を正し、私に対して敬礼する。後ろに続くチェンさん達も一斉に敬礼。私のも彼女達に敬礼を返す。
手礼を終え、提督も手を下げると、アスランがまた号令をかける。
アスラン「直れ!」 ザッ!
ルナマリア、メイリン「はい!」 ザッ!
一連の挨拶を終えると、グラディス提督は私の枕元に歩みを進める。後ろからはチェンさんと広報部撮影班が続く。既にカメラは回っていた模様。生放送ではないようだけれど、びっくりする。
タリア「アグネス、改めておはよう。意識が戻って本当に良かったわ。先日の働き、誠にご苦労だったわね。最高評議会及び国防委員会、ザフト軍本部も貴女の献身を高く評価している」
グラディス提督の目を見るに、今のお言葉は『カメラの前の建前』ではないらしい。頑張った甲斐が有ったと言うものね。それでは私も本心を真直ぐ、とは言え建前でコーティングした上で、彼女にお伝えしよう。
アグネス「おはようございます。グラディス提督。そして、ありがとうございます。しかし私単身では何も為しえませんでした。ただ己が本分を尽くしたまでです」
撮影班ザフト兵が向けるカメラが少し鬱陶しい。何時もはもっと距離が有るから。でも彼らも自分の仕事をしているだけの事、自然体に振舞おう。
タリア「うん。よろしい」
グラディス提督は私の返事に一度微笑んだ後、表情を改める。先の会話の間にチェンさんは病室机にアタッシュケースを乗せ、勲章ケース、そして証明書が入っている封筒を取り出し待機している。
彼女は封筒を選び、証明書を取り出す。そして真直ぐ私に向け口上を述べる。
タリア「月軌道艦隊、旗艦ミネルバパイロット隊員にして、特務隊アグネス・ギーベンラート。プラント国防委員会は貴官が最高評議会ビル前大通りにて、ザフト軍とプラントの敵対者間の戦闘時、名誉の戦傷を負ったことを認定し、ここに名誉戦死傷を授与します。
我等は貴女が示した祖国への自己犠牲に最大限の敬意を表し、負傷のご回復を心底より祈念するものです」 - 187二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 04:15:07
今回、授与される物は、証明書、勲章と略綬のリボンにそれぞれ着用する星-6度目、金の星5個目となるので銀星1個と交換-。銀の小星はケースごと贈呈するみたいだわ。
それはともかく、困った。提督は証明書を両手で丁寧に差し出して下さっているのに…。左肩の負傷…頑張れば両手で受け取れるか?
タリア「無理しなくて良い。片手で構わないわ」
撮影班「放映するときは注意テロップ入れます」
私の戸惑いを察したグラディス提督はフォローを入れてくれる。撮影班も気を回して下さる。せっかくのご厚意。放映時に誤解される恐れも無いならと、片手で受け取る。
アグネス「はい。治療・リハビリに務め、一刻も早く任務に本格復帰します」
タリア「ありがとう。その決意に改めて敬意を表します」
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
人口密度が跳ね上がった病室内で、控えめながらも心のこもった拍手を受ける。ふむ。金の星を5個集めて銀の星1個に交換、良いじゃない。死んだら負けだが生きているのだ。得をしたと思っておこう。
勲章の授与が終わると当然のことながら、撮影班は感想を求めてくる。ここは当たり障りの何事を言っておく場だ。
『早く体を治して任務に本格復帰したいと思います』。
『戦傷を負ったことは残念です。しかしザフト軍人なら、あの場に居れば、誰もが同じことをしたと思います。それが偶々私だったと言うだけの事。あの攻撃で負傷者が私以外に出なかった事そのものが私の勲章でした。だから今日、二重受章してしまいましたね』等。
まだ『他にも何か?』と求めてくるのを見て、医師がずいっと出てブロックする。
医師「専門家の見地として、皆さん、そろそろお時間です」
女性医師のありがたいご指摘をグラディス提督も見逃さない。負担を掛けないと言うお知らせを彼女はしっかり覚えていてくれたのだ。
タリア「アスラン、皆さんを病院で入口までお送りしなさい」
アスラン「はい」
チェン「全員、気を付け!敬礼! - 188二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 04:18:20
チェンさんの号令の下、皆の姿勢が一瞬で直り、同時に手礼をしている。
こうして見ると撮影班も軍人と言う立場だと良く分かる。『広報』と『マスメディア』は重なっている部分は在れども、その使命は全く別物なのだ。
チェン「直れ!」、アスラン「それでは私に続いて順に退出を…」
退出する広報部撮影班の後ろ姿を見送っていると、不意に明るい髪色の若い女性の姿が浮かぶ。
アグネス「(ミリアリアさん、お元気かな?)」
この宙域の先、地球のどこかにいる知人。たった1度、お会いしただけだけれど、彼女の聡明さと人柄の良さは十分すぎるほど伝わって来た。
アグネス「(アークエンジェルのクルーに復帰したと言う事は…。もう彼女は『フリー』の立場ではない。戦局の成り行き次第では干戈を交えることもあり得る…)」
仕方ないことだ。中立的立場とは難しい。世界で何事かを為そうとすれば、どうしても力が必要な時もある。
アスハ代表を推して何とか休戦に持って行けたら…、それが両国の国益にかなうと私は確信している。ただ、戦火の燃え広がる方向とスピードは先は時に想像を超えてしまう。
タリア「申し訳ありません。アグネスと二人で話をさせて下さい。彼女に負担はかけないようにしますので」
私が回想モードに入っている間、自然な流れで部屋に残ったグラディス提督が医療スタッフにお願いをしている。
アグネス「(『部下と話を』ではなく『アグネスと話を』とか。同格に近い表現をお使いになっている。と言う事は『特務隊案件』か、あるいは彼女個人としての用事か―)」
医師「お待ちを」
グラディス提督にお願いされた女性医師は即答を避け、毛布から出たままの私の右手首を掴んで指で脈を取り始める。
医師「アグネスさん、どうですか?頑張れますか」 - 189二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 04:28:29
なるほど、彼女の指が簡易的な噓発見器と言う訳ね。
アグネス「平気です」
医師「分かりました。ただし10分以内に、グラディス提督もよろしいですね?」
タリア「はい」
あまり無理し合い様に、女性医師は目線で私に念を押すと看護師を引き連れ扉の前に。
医師「それでは10分後に。一旦、失礼します」、看護師「失礼します」
彼女らの退出で、病室内はグラディス提督と私の二人になる。おそらく、彼女は勲章授与時に打ち合わせを持つと初めから決めていたのだろう。
付添い人用の椅子に腰かけ、グラディス提督はお話しを始められる。
タリア「悪いわね。調子はどう?」
アグネス「良いとも悪いとも…どうかお気になさらず、本題を」
何にせよ、10分しかない。遅れれば主治医の頭から角が生えるわ!
グラディス提督もそのことは承知しており、端的に要件を切り出す。
タリア「アークエンジェルの行方を貴女はどう見ている?スカンジナビア半島近海のマーゲロイ島沖以降の彼らの足取りをザフトはつかめていない。外交と国防の最重要事項の一つよ」
その件か。確かに外交的にも軍事的にもセンシティブな問題、余人の前でおいそれとは口に出来ないわね。
そして、この件に関しては一応、これには私なりの答えがある。
アグネス「『行方』を航海の『目的地』の意味と捉えるなら、候補は3つ。第一候補はオーブ連合首長国内のアスハ家所領、就中はアカツキ島。第二候補はノルウェーフィヨルドに存在すると(私が)推測する極秘潜水艦基地、大穴で南大西洋亜南極のブーべ島かと」
タリア「つまり本命は―アカツキ島、ないしはアスハ家所領と言う事ね」
アグネス「はい」 - 190二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 10:00:59
保守
- 191二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 17:03:05
ほ
- 192二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 21:49:03
『アークエンジェルの行方』は、実は外交と国防のみならずプラントの内政問題ともリンクする。『ラクスの行方』とも密接な関係にあるからだ。彼女がまだ乗船中かは推し量りようが無いが…。
タリア「続けて」
アグネス「はい」
今、特務隊長から問われているのは、あくまで彼の艦の行方。派生する話題は後でお話ししよう。
アグネス「まず、アスハ家所領を挙げた理由としては、単なる消去法です。アークエンジェルは、船体と武装に深刻なダメージを受け中破、一刻も早く拠点に戻り修復する必要があります。しかし彼女達にはもう『オーブ国外』に居場所が無い。世界は色の濃淡は有れども『連合(≒ロゴス擁護派?)』と『ザフトと友邦諸国(≒対ロゴス同盟)』に二分されました。アスハ代表一行に好意的だったスカンジナビア王国も、大西洋連邦の旧ノルウェー進駐により外交政策を連合寄りにせざるを得なくなりました。」
グラディス提督は一つ肯き、この前提を支持する。
タリア「国外に居場所がなくなったからホームに戻る、と。単純ではあるけれど、理に適っているわね。亡命直後と今では国内と領土周辺の情勢は激変している。でも―今のオーブ政府はウナト・エマ・セイラン宰相の後を引き受けたマシマ宰相代行政権よ。果たしてどうかしら?」
グラディス提督のゆっくり確認するように問いかけは私と言うより、ご自身の内心に向かっているかのようだ。察するに、この協議は私の見識を頼っての物ではない。
彼女は有能な白服指揮官だ。FAITHとは言え、まだ17歳の駆け出しに考え付くこと等、多少タイミングがずれることがあろうとも、直ぐご自身でもお気づきになるはず。
アグネス「(これはグラディス提督の頭の整理作業、良くある『脳内会議』の延長戦だ。彼女自身の脳裏を過ぎり、深層心理では気付いている事を、私に言語化して欲しい、と。目前のグラディス提督は云わば『司会タリア』、私は会議の発言者『タリアA』の役周りね)」
それならそれで、大任をしっかり果たさなくては!ゴホン。
アグネス「確かにマシマ宰相代行、そして逼塞しているとは言え一応はまだ宰相のセイラン氏の意向は、彼女達も注視せざるを得ないでしょう。しかし、オーブは『連合首長国』。彼の国の体制は、私には摩訶不思議なものではありますが―」 - 193二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 22:05:24
ただ、オーブの国体はやや特殊では有れども、『歴史上類を見ない』と言う程でもない。
アグネス「思うに西暦時代のドイツ帝国、あるいはアラブ首長国連邦に近いと考えています。首長位の継承方法は古代ローマ帝国のネルウァ=アントニヌス朝(五賢帝時代)の故事を踏まえているかと…」
勿論、これはバイアスがかかった一外国人の理解、細かい所はいろいろ違うのかもしれない。が、何も私達は『オーブ連合首長国政治論』の講義をしているわけでは無いではない。ざっくり行こう。
タリア「その喩えで言えば―。アスハ家の所領は、細かい制度上の建付けはともかく、ドイツ帝国内のプロイセン王国、アラブ首長国連邦のアブダビ首長国のようなもの、と貴女は言いたい訳ね。
そして、その論で行くのなら、『アスハ家領土』の管理責任者(知事等?)や領邦政府は―なにより地元の『国民』は―、オーブ中央政府が何か言ってきても簡単に『俺が殿様』の首を差し出すはずがない。
アスハ代表がご乗船するアークエンジェルが、彼女の所領に寄港しても、表向き秘密裏のものなら彼らは総出で彼女達を匿い、それどころか積極的に協力することもあり得る。アスハ代表ないしラミアス艦長はそのように考え行動する可能性がある、と?」
アグネス「はい。そのように考えました」
短くお答えする。最初の時点で彼女も凡その意を察していたみたいね。その上で、提督は追加の質問を投げる。
タリア「アスハ家所領内でも特にアカツキ島を挙げた理由は?」
アグネス「アカツキ島に関しては、公開情報と事実上の公開情報、伝聞情報、アスラン先輩のお話から、オーブ内でも特殊な地位にある島であることが確認されています。あの島全体がアスハ家の所有物にしてマルキオ導師の教会が存在する宗教施設でもある、それと前大戦時、イージスとストライクが合い討った地でもあります」
その教会兼孤児院に、キラ・ヤマトとその家族、ラミアス艦長達、そしてラクスも暮らしていたらしい。後にブレイク・ザ・ワールドの津波被害を受け、施設そのものは全壊したと聞くが…。
アグネス「つまりアカツキ島は、喩えるなら、西暦時代の『グレートブリテン及び北アイルランド連合王国』に対する『英国王室属領(マン島、チャンネル諸島など)』と、『ギリシャ共和国』内の『アトス自治修道士共和国』、両者を合わせたような存在と言えようかと」 - 194二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 22:37:54
アスハ代表は、祖国の為にも戦友の為にも、虚しく海の藻屑になる道などお選びにならないだろう。しかし、オーブを内乱の危機に陥れ、国外勢力の再攻撃を誘発する事態も避けたいとお考えになるはず。
それなら、一般人の想像力を働かせれば、アカツキ島行き一択と言えるのではないか。
アグネス「【ホームに帰って艦の修復を図る】、【オーブ中央政府の干渉をある程度受けずに済む。逆を言えば、政府に迷惑を掛けずに済む】の2点を満たせるのはここしかありません」
ただ、この説には弱点もある。あまりにも分かりやす過ぎる。バレバレでは無いか、と。他にも―。
タリア「『オーブ中央政府』対『アスハ家、アスハ派』ではそうかもしれない。でも、視落としていない?オーブとプラントは現在も戦争中よ。確かに戦時国際法上、宗教施設への攻撃は禁止されているわ。でも施設が軍事利用されていた場合、戦争法の保護は無くなるのよ?」
そう。そこがこの説の最大の弱点だ。幾ら『他の場所よりマシ』とは言え、『自分たちの寄港が、かえってオーブに戦雲をもたらしてしまう』、アスハ代表達がそうご判断されれば、やはりこの選択肢は放棄せざるを得ない。
アスランから話を聞き、自分自身もお会いしたアスハ代表の印象として、そのようにお考えになる可能性は十分にある。ただオーブはとっくに開戦して『戦雲』は国全体を覆っているとも言える。
それなら『この機会に寄港し、オーブを戦争から離脱させるべくアクションを起こそう』、彼女達がそのような決断をすることも大いにあり得ることなのだ。
アグネス「ですので、現状では第一候補とのみ、それ以上はまだ現段階で…」
タリア「そうね。頭に留めて置くわ。第二候補は、貴女の意見だと、ノルウェーフィヨルドの何処かの極秘潜水艦基地。でもそこに居られないから彼女達は北極海に向かったのではなかったかしら?」
第二候補に話が及ぶやグラディス提督の目に鋭い光が宿る。私には疑問を投げ掛けながら、その実、提督は此方を『本命』とお考えか。
アグネス「『当時と今では状況が異なる』、それは此方も同じです。マーゲロイ島沖海戦でザフト軍はムルマンスクを拠点とするユーラシア連邦北方艦隊を駆逐しました。その当然の帰結として、王国が大西洋側から受ける軍事的圧力は半減、とはまでは行かずとも大きく減退したはず」 - 195二次元好きの匿名さん25/05/17(土) 23:47:49
そして―。
米ソ冷戦期の故事を思えば、今日、スカンジナビア王国が旧ノルウェー海岸に潜水艦用極秘軍事基地を有している可能性は十分ある。いや、断言しよう、基地自体は絶対にあるはず。
そして彼の国の海岸線は長大かつ複雑であり、余所者の大西洋連邦軍が3都市に駐留したとて、全域に目を光らすこと等、不可能。王国政府と国民が一丸となれば、潜水艦(と化したアークエンジェル)1隻を庇いきることは無理とは言えない。
アグネス「アークエンジェルは沖合に逃げたと見せかけて。実は密かに反転、戦域の混乱の隙を衝き、潜水艦基地に入港する。その後はスカンジナビア王国の明白な、あるいは暗黙の協力の下、艦を修理し再起を期す。これもまた十分考え得る選択肢かと思案します」
グラディス提督はじっと試すような目で私の瞳を覗いてくる。オーブの時とは違い、積極的に話に応じてはくださらない。アカツキ島の話を聞いてくれていた時は、何処か面白がる様な風さえあったのに。
その気配から彼女が、私に問いを発しながらも『ノルウェーフィヨルド潜水艦基地説』に傾いていることが分かる。
アグネス「(当然かもしれない。マーゲロイ島沖から北極海、ベーリング海峡を経由してソロモン諸島の距離は総計して13470㎞に達する。中破した艦で潜航し、厳冬期に氷結した海と海峡を潜り抜け―自殺行為とに等しい)」
北極圏は全方位が敵対勢力だ。大西洋連邦の部隊は無傷、ユーラシア連邦も出港済みの潜水艦も在るだろう。厳重に監視され、封鎖されているはずのベーリング海峡を、傷ついた艦でどう抜けるか想像もつかない。
ベーリング海は大西洋連邦の湖同然、アリューシャン列島を抜けるまで心を休める暇などない。その先も安寧の地など有るわけも無く、北太平洋の制海権は未だに大西洋連邦と東アジア共和国、つまり連合軍が掌握している。
浮上航行すれば危険度は一気に跳ね上がる。飛行などもっての外だろう(損傷で無理かも)。故に深く、静かに潜航しながらの旅路となる。累積した乗組員のストレスは極限に達する。それ即ち、艦内事故ひいては遭難リスクの急上昇を意味する。
なるほど、こんな航海、私ならギブアップしたい。グラディス提督も艦長職経験者として、アークエンジェルのオーブ直行をイメージできないのだ。 - 196二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 00:18:25
でもなーんかオーブに居そうなんだよなあ、アークエンジェル
- 197二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 08:38:59
☆
- 198二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 09:11:08
目的地がハッキリしていれば、少人数だからこそ内部分裂せずにたどり着きやすいとも考えられるしね。
- 199二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 12:27:57
次スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart22|あにまん掲示板もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart22アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、と…bbs.animanch.com身体は今一だし、多難な時だけど、負けないように頑張るわ!この先の活躍にも期待してね!
- 200二次元好きの匿名さん25/05/18(日) 12:36:05
無印時点でいつ終わるかわからない戦争を止めるために出航した奴らだ
面構えが違う