(SS注意)朝ご飯

  • 1二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 16:10:25

     カーテンの隙間から漏れる暖かな日差し。
     そして外から聞こえてくる鳥達の囀りによって、俺の意識は覚醒していく。
     水底から浮かび上がるようにゆっくり目を開けると、布団の上には長い青毛の髪が一本。
     次いで、ふわりと甘く爽やかな香りが鼻腔をくすぐった。

    「ああ……今日も来てくれたんだな」

     微かに乱れている布団からも、その気配を察することが出来る。
     負担をかけてしまっているなと思いつつも、心の底ではそれを楽しみにしている自分がいた。
     俺は自嘲するように苦笑いを浮かべながら布団から出て、リビングへと向かう。
     近づくに連れて聞こえてくる、トントンと小気味良い包丁の音と味噌の匂い。
     扉を開けてリビングを覗き込むと、奥のキッチンに一人のウマ娘が立っていた。
     鼻歌を奏でつつ、尻尾を楽しげに揺らしながら、手際よく料理を進めている。
     声をかけようと一歩踏み入れた瞬間、彼女の両耳がピンと立ち上がった。

    「あら、まだ寝ていても良かったのに……おはようございます、トレーナーさん」

     青毛の長く美しい髪、前髪には少し垂れた菱形の流星、右目には小さな泣きボクロ。
     華やかな私服の上にシンプルなデザインのエプロンを纏った彼女は、振り向いて柔らかな微笑みを浮かべた。
     俺はそれに釣られて笑顔になりながら、担当ウマ娘に朝の挨拶を告げる。

    「おはよう、ヴィルシーナ」
    「……ふふ、髪の毛、すごいことになってるわよ?」
    「えっ、ホント?」

     ヴィルシーナの指摘に慌てて手を頭に伸ばすと、確かに髪が跳ねてしまっていた。
     起きた途端、吸い込まれるようにここへと来てしまった弊害といえるだろう。
     彼女はくすくすと肩を震わせ、まるで子に言い聞かせるような母親のような顔で、言葉を紡ぐ。

  • 2二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 16:10:39

    「もう、朝御飯の支度はもう少しかかるから、まずは顔を洗ってくること」
    「………………はい」

     何だか妙に気恥ずかしくなって、俺は短い返事をすることしか出来なかった。
     ヴィルシーナはその様子を楽しそうに見てから、再び調理へと戻っていく。
     とりあえず俺は洗面所へと向かって、熱くなった頬を冷ますことから始めることにした。

  • 3二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 16:10:50

    『…………トレーナーさん、これは一体何かしら?』

     事の発端は、一カ月ほど前のトレーナー室での話。
     ミーティングの時間に遅れてしまった俺を待ち受けていたのは、怒りの感情を隠そうともしないヴィルシーナだった。
     最初は遅刻を怒っているのか思っていたのだが、彼女の手の中にあるもの見て、それが間違いだと気づく。

     彼女の手の中にあったのは────以前行われた、健康診断の結果。

     宜しくない結果だったので、デスクの引き出しの奥へと隠していたのだが見つかってしまったのである。
     
    『私は、貴方が心配なの! いつも無理ばっかりして! 倒れたりしたら、どうしようかって!』

     時折、涙を流しながら続けられるヴィルシーナの説教。
     正直に言うと、すごい心に来た。
     彼女には体調管理だのなんだの言いながら、自分がこの様では返す言葉もない。
     しばらく平謝りをしながら、その言葉をしっかり受け取って、少し彼女がトーンダウンしてきた後。

    『……まず、普段からどういう食生活を送っているのか、出来るだけ詳細に教えなさい』

     そんなわけで、俺の私生活は赤裸々に明かされることとなった。
     話をするごとにヴィルシーナは怒りを露にして、やがて青ざめて、そして呆れ顔となる。
     そして俺の話を聞き終えたヴィルシーナは、深く大きなため息をついて、ジトっとした目で見つめて来た。

    『トレーナーさん────しばらくの間、貴方の食事の管理は私がやります、いいですよね?』

     凄まじい圧を感じるその言葉に、俺はこくりと頷く他なかった。

  • 4二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 16:11:05

     いただきます、とテーブルを囲みながら二人で手と声を揃える。
     目の前にはご飯、具沢山の味噌汁、焼き魚にお浸し、そして香の物が添えられていた。
     一汁三菜、まさしくお手本通りの見事な和食の献立。
     見ただけでぐうと腹の虫が鳴いてしまいそうな中、まずは味噌汁を一口啜った。
     薄めだけれど出汁がしっかりと効いている、どこか安心するような優しい味付け。
     俺はほっと息を吐くと────箸も取らずにじっとこちらを見ているヴィルシーナの視線に気づく。

    「今日も美味しいよ、でもいつもよりコクがあるというかなんというか」
    「……わかるかしら? この間、実家に帰った時にママから少し教わってね」
    「なるほど、これがキミの家族の味ってことだね……うん、俺もこの味は好きだよ、毎日飲みたいくらい」
    「……ッ、そっ、そう、それは良かったわ、ええ」

     ヴィルシーナは少しばかり挙動不審になりながら、箸を持ち、食事を始める。
     少し頬が赤くなっているように見えるのは、先ほどまで調理をしていたからだろうか。
     その後は、たわいもない話をしながらゆっくりと食べ進めて行く。

     こうして休みの日になると、彼女が食事を作りに来てくれるようになってから、もう一カ月。
     
     食費などは勿論出しているが、それ以上はヴィルシーナ本人が受け取ってくれない。
     だからこそ、何らかの形でお礼をしたいところなのだけれど。

    「ヴィルシーナ、この後の予定は何かある?」
    「今日は午後からヴィブロスとショッピングデートなの、帰ったらすぐに準備しなきゃ」
    「そっか、楽しんできてね」

     楽しげに目を細めるヴィルシーナの表情は、まさしく姉の顔をしていた。
     流石に姉妹団欒の時間を邪魔する不届き者にはなれない、また別の機会に考えることとしよう。
     こうして食事を終えて、食後のお茶を飲んでいる最中、ふと彼女が問いかけて来た。

  • 5二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 16:11:28

    「それで、一カ月食生活を変えてみたけれど、何か変化はあったのかしら?」
    「んー、少しだけど体重が落ちたかな、仕事の効率もちょっと上がったような」

     色々と、自分の身体の変化についてヴィルシーナへと話していく。
     彼女の尽力があるとはいえまだ一カ月、実際のところ気のせいである部分も多いだろう。
     だけど、その言葉を嬉しそうに聞いてくれる彼女を見てしまうと、とてもそんなことは思えなかった。
     
    「後は目覚めも良くなった気がする…………ああ、そうだ」

     やがて目覚めについての話になり、ふと今日の朝のことを思い出す。
     せっかくヴィルシーナが起こしてくれたというのに、俺は起きることが出来なかったのだ。
     何が目覚めが良くなっただ、と心の中で苦笑をしながら、俺は謝罪を告げる。

    「今日、朝起こしてくれたのに起きれなくてごめん、朝食の準備とかも手伝うべきだったのに」

     その言葉を聞いたヴィルシーナは────きょとんとした表情を浮かべた。

    「……私、起こしてなんかいないわよ?」
    「えっ?」
    「ぐっすりと気持ち良さそうな顔で寝ていたから、そのままにしておこうと思って」

     不思議そうに首を傾げるヴィルシーナ。
     そういえば、最初に顔を合わせた時に彼女はまだ寝てても良かったのに、と話していた。
     仮に起こそうとしていたのならば、そんな言葉は出ないはずである。
     とすれば、布団の中にあった青い髪や残り香は一体何だったのだろうか。
     そう思った矢先、突然、ぽんと手を合わせる音が聞こえた。
     見れば、納得いったと言わんばかりの笑顔を浮かべた彼女が、言葉を続けようとしている。

  • 6二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 16:11:43

    「ああ、起こしてはいないけれど、布団の中に────」

     そして、ヴィルシーナは笑顔のままぴしりと凍り付いた。
     身動き一つ取らないまま、みるみるうちに顔が紅潮していき、気が付けば真っ赤に染まっている。
     布団の中に、何なのだろうか。
     それを問いかけようとした瞬間、ヴィルシーナは勢い良く立ち上がった。

    「しっ、してませんっ!」
    「……はい?」
    「寝顔を間近で眺めたりも、布団の中に潜り込んだりも、胸元に顔を寄せて匂いを嗅いだりもしてませんからっ!」
    「えっ、あっ、そうなんだ」
    「そっ、それじゃあ私ももう帰ります! 後片付けはトレーナーさんにお任せしますからっ!」
    「あっ、ああ、それくらいは任せてよ」
    「洗剤とかの補充は済んでいます! トイレットペーパも買い足しておきました!」
    「うっ、うん、そこまでしてくれたんだ?」
    「それじゃあ、ごきげんようっ!?」

     ヴィルシーナはわたわたと嵐のような勢いで捲し立てると、逃げるように部屋から飛び出して行った。
     残されたのはテーブルの上の食器の数々と、寂しさすら感じるほどの静寂だけ。
     まあ、後片付けは俺の仕事だし、全く持って構わないのだけれども。
     彼女の豹変を疑問を抱きつつも、食器を流しに運んでいて、ふと背中へと向けられる視線に気づく。
     くるりと振り向けば、そこには恥ずかしげな表情でドアの影から顔を出すヴィルシーナの姿があった。

  • 7二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 16:12:00

    「えっと、どうかしたの?」
    「………………冷蔵庫にお惣菜の作り置きがあるから、夜はそれを食べること」
    「……うん、本当にありがとう、最近は食事がいつも楽しみなんだ」
    「そう、それは良かったわ」

     じゃあまた学園で、ヴィルシーナは年頃の少女のように顔を綻ばせながら、そう告げて去って行った。
     ご機嫌そうな軽快な足音が遠ざかっていき、パタンと玄関の扉が閉まる音が聞こえる。
     そして、俺は後片付けを済ませて、クローゼットからジャージを取り出す。
     
    「少し休んだら、ちょっと走りに行って来よう」

     彼女の気遣いに応えて、頑張らないと。
     俺は、そう心を新たにするのであった。

  • 8二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 16:13:23

    お わ り

    下記のスレの19のネタで書いたのですがちょっとズレたのでスレ立て


    ようこそ 料亭|あにまん掲示板「椎名」へ...bbs.animanch.com
  • 9二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 16:14:35
  • 10二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 16:28:33

    姉さんはむっつり

  • 11二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 16:39:08

    >>9

    なんで着替えを担当トレーナーの家に置くんですかね…

  • 12元スレ1925/05/01(木) 16:40:24

    >>8

    「そこに無いならないですね」的な返答かと思ったらマジで出てくるとは思わなんだ

  • 13二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 16:54:16

    >>11

    そりゃ大人の男の匂いをつけたまま街中通って寮のシャワー室に行くのは変な噂が立つかもしれないだろ。


    なお

    そもそも布団に潜り込むな

    とか

    トレーナーの部屋でシャワー浴びるの良いのか

    とかの意見は聞かないものとする。


    ……どうでもいいけどふと気になってトレーナーが使ってるシャンプーとか使って同じ匂いになってるシーナもいる気がする。

    もしくは、あまりに安物使ってるので色々贈って自分好みの香りに近づけるシーナ。

  • 14二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 17:37:28

    来月ってそうか今日か……ww
    ありがてぇ、ありがてぇ

  • 15二次元好きの匿名さん25/05/01(木) 20:42:04

    ところで着替えを置いておくってことは下着類も置いとくはず。

    妹の手でちょっと大人っぽい奴にすり替えられていたことに気付かず持ってきて、シャワーを浴びた後に気付いたヴィルシーナもいると思うんだけど、そっちはどうお思う?

  • 16125/05/02(金) 04:36:50

    >>10

    これはむしろオープンでは?

    >>11

    匂いに気づかれるならトレーナーの家でシャワーを浴びて着替えれば良いという冷静で的確な判断力

    なお

    >>12

    アイディアをありがとうございます

    ……まああのスレの途中で反応を返しているのは別の人なんですが

    >>13

    いいですね……

    >>14

    明日って今さ

    返信した人は別なのできっと違うシーナSSが書かれることでしょう

    >>15

    ええやん

    ええやん

  • 17二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 04:47:08

    シーナの甘い声で起こされたいだけの人生だった…どれだけ徳を積めばいいのか

  • 18二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 04:49:30

    姉さんは本当に自爆が似合っててかわいいね……

  • 19二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 07:29:37

    >>17

    まず大魔神の全力の球を打ちます

  • 20125/05/02(金) 13:37:49

    >>17

    ヴィルシーナの目覚ましボイスを待ちましょう

    >>18

    なぜこんなに似合うんでしょうか

  • 21二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 19:28:39

    >>18

    なんかわきが甘いイメージがある

  • 22二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 19:33:43

    >>21

    年不相応にしっかりしてる面と年相応に甘い面がある感じ

  • 23二次元好きの匿名さん25/05/02(金) 19:43:54

    >>21

    たしかに脇は甘いな

    いつまでもペロペロできる

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